論文データベース

[検索に戻る]

詳細情報 F1996010004
論文題名 ホテル,旅館の労働事情
−カナ題名 ホテル,リョカン ノ ロウドウ ジジョウ
分類 労働問題一般
著者氏名 神谷 隆之
−カナ著者氏名 カンタニ タカユキ
掲載誌名 日本労働研究雑誌
−巻号 425号
−発行年月 1995年8月
−発行元 日本労働研究機構
登録年月 1996年1月現在
内容抄録 (著者抄録)
ホテル,旅館の労働実態は営業形態別に違いが大きく,それは立地特性や機能(サービス提供の範囲,仕方)などによって生じている。都市型ホテルは自社外の労働力への依存傾向が大きく,職種別には料飲部門の比率が高い。旅館・地方型ホテルは家族従業員への依存度が相対的に大きく,また客室部門の比率が高い。人事労務の課題としては,中小規模の旅館・地方型ホテルを中心に従業員の確保難と高齢化の問題がリンクしている。一方,大規模の都市型ホテルやリゾートホテルは,従業員の確保には比較的問題が少ない代わりに採用後の定着が問題となっている。営業形態,規模のほか,料金水準の違いも労働力構成や労務管理姿勢などに影響を与えているとみられる。

(論文目次)
I はじめに
II 営業形態と労働力構成
   1 営業形態の区分
   2 労働力の特性
   3 労働力の部門別構成
III 労務管理の実態と課題
   1 労務管理姿勢
   2 人事労務に関する課題
IV まとめ
全文情報

I はじめに

 ホテル,旅館は90万人近い(平成3年)労働者を抱える,サービス業のなかにあっては雇用吸収力の大きい産業である。今後も余暇・レジャー関連需要に対応して労働力需要の増加が見込まれているが(注1),中小企業が多いことやサービス業の特性としての長時間営業などを背景に,労働条件の改善の遅れや労働力の確保難などの問題も指摘されている(注2)。
 本稿の目的は,中小規模事業所における状況を中心にホテル,旅館の労働実態と課題を明らかにすることにある。その際,当該産業の経営・労働両面にわたる多様な実態にアプローチするため,営業形態,部門(職種)および料金水準(客単価)という三つの視点も加味しつつ検討を行う。
 なお分析にあたっては,筆者も参加した日本労働研究機構のホテル・旅館労働事情研究会(主査:川喜多喬法政大学経営学部教授)が平成5年2月に実施した「ホテル・旅館の人材に関する調査」(注3)(以下,「JlL調査」という)のデータを使用した。



II 営業形態と労働力構成

1 営業形態の区分

 宿泊産業は,営業形態の観点から一般的には大きく「ホテル」と「旅館」(注4)に分類できるが(注5),JIL調査では事前に行った聴き取り調査などにより,この2形態のみの比較では労働実態へのアプローチには不十分と考えて,新しい分類を設定している。「都市ホテル」「ビジネスホテル」「リゾートホテル」「観光地ホテル」「観光地旅館」「温泉地旅館」「都市旅館」および「その他」の八つの類型である(注6)。
 また,これらの分類を集約した大ぐくりな営業形態についても,本稿においては「ホテル」「旅館」とは異なった分類を設定した。
 そのためにまずホテルを二つのタイプに分けて考えている。都市に立地し宿泊客あるいは非宿泊客に対して基本的に宿泊と飲食を独立的に提供するタイプ(以下「都市型ホテル」と呼ぶ)と,主に非都市に立地し料金形態としては一泊二食が主流で(注7)宿泊客に対して宿泊と飲食をセットで提供するタイプ(以下「地方型ホテル」と呼ぶ)である。後者のタイプは,ホテルとは名乗っているものの,立地やサービスの提供の仕方の両面で観光地旅館,温泉地旅館との共通性が大きいといえる。先に示した八つの類型のうち都市ホテルとビジネスホテルは「都市型ホテル」に該当する。一方,リゾートホテルと観光地ホテルは「地方型ホテル」に該当し,これに旅館(観光地旅館,温泉地旅館および都市旅館(注8))を合わせて「旅館・地方型ホテル」と呼ぶことにする。
 以下では,営業形態別(都市型ホテル対旅館・地方型ホテルおよび必要に応じ8類型)の視点に,常用従業員50人未満事業所を「中小規模」,同50人以上を「大規模」としてとらえた規模別の視点をクロスし,検討を進めていく。なお,営業形態別,規模別に回答事業所サンプルの分布状況を表1に示している。

表1 回答事業所サンプルの営業形態・規模別分布

2 労働力の特性

 外注業者の労働者や,食堂や売店など館内に出店しているテナントの社員も含めたホテル,旅館の総労働力は調査計で平均95.1人であるが,営業形態によって違いが大きい。都市ホテル(205.7人)とリゾートホテル(171.2人)は比較的規模が大きいが,以下観光地ホテル(102.5人),温泉地旅館(83.0人),観光地旅館(64.5人)の順で平均規模が小さくなり,都市旅館(49.6人)とビジネスホテル(48.8人)は特に小規模性が強い。
 平均総労働力95.1人の雇用・就業形態別構成をみると正社員(57,2人)は60.1%にとどまり,パート,アルバイトなどの非正社員が24.7人(26.0%),また家族従業員が1.9人(2.0%),さらに直接の雇用関係にはない外注,派遣が8.3人(8.7%),テナント社員が3.0人(3.2%)と,きわめて多様なものとなっている。
 雇用・就業形態別構成も営業形態別,さらに規模別に違いが大きい。(表2)。まず都市型ホテルと旅館・地方型ホテルを規模計で比較すると,前者では外注,派遣とテナント社員の比率が高い。このように都市型ホテルは全般的に自社外の労働力への依存傾向が大きい状況にある。そのうちテナント社員の比率は特にビジネスホテルで高い。ビジネスホテルではさらに非正社員の比率も高いため,正社員比率は5割を下回っている。

表2 規模別にみた総労働力の雇用・就業形態別構成

 そのビジネスホテルも規模別にみると,テナント社員の比率は中小規模で高い一方,大規模ではテナント社員の比率は低い代わりに非正社員の比率が高い。ビジネスホテルにおける自社外の労働力への依存傾向は中小規模で特に大きい。
 次に旅館・地方型ホテルでは,リゾートホテルを除き中小規模で家族従業員の比率が高い傾向にある。特に都市旅館では10%を上回っており家族労働力への依存度が大きい。対照的に大規模の旅館・地方型ホテルでは正社員の比率が高い。ただ非正社員の比率は,規模による違いはあまりみられない。
 しかし,非正社員の比率は料金水準との関係がみられる。料金形態として一泊二食型をとっている50人未満の旅館・地方型ホテルの平均客単価の分布をみると,1万〜1万4999円が55.5%,1万5000〜1万9999円が23.7%と1万円台が中心であるが,1万円未満も11.9%,また2万円以上も8.9%と中小規模のなかにも低料金の宿あるいは高級旅館と呼ばれるものが少なからず存在している。50人未満について平均客単価(一泊二食の場合)別の労働力構成をみてみると(表3),非正社員の比率は単価が1万円未満の場合は約3割に対して2万円以上の場合は約2割と,低料金と高料金とでは違いが大きい。また2万円以上では家族従業員の比率が10%を上回っている。同じ中小規模であっても低料金の宿はパートタイマー等の非正社員,高料金の宿は家族従業員への依存度が大きい状況にある。

表3 平均客単価別にみた総労働力の雇用・就業形態別構成(旅館・地方型ホテル,50人未満,一泊二食型)

3 労働力の部門別構成

 ホテル,旅館には業界に特徴的な,しかも性格の大きく異なった仕事が多数存在し,その労働力は多くの部門と職種に分かれている。JIL調査では次の五つの主要部門を設定し,部門別の労働実態も調べている。



 そこでテナント社員を除く労働力の部門別構成をみると,調査計でフロント部門13.2%,客室部門19.1%,料飲部門19.5%,調理部門18.1%,間接作業部門20.7%と各部門に分散している。そしてこれも営業形態別,規模別に違いが大きい(表4)。都市型ホテルとリゾートホテル,特に都市ホテルは料飲部門の比率が高いのに対して,旅館(観光地,温泉地,都市の3類型)は客室部門の比率が高い。また観光地ホテルでも客室部門の比率が料飲部門を上回っている。全体として都市型ホテルでは宿泊客でも館内で営業しているレストランや料理店で飲食を行い(リゾートホテルは一泊二食型をとっていてもこの傾向が強い),また,非宿泊客を対象とした飲食や各種宴会サービスが多いこと,一方,旅館等は食事も含め客室内での応対がサービス提供の基本となっていること,などを反映している。なお,いわゆる割烹旅館と呼ばれるものも少なからず含んでいると考えられる都市旅館は,旅館の中では料飲部門の比率が相対的に高い。また調理部門の比率は8分類中都市旅館で最も高い。

表4 規模別にみた労働力(テナント社員除く)の部門別構成

 規模別には,中小規模のビジネスホテルは5部門のなかでフロント部門の比率が最も高く,それに客室部門を加えると47.6%と5割に近い。先にみたテナント社員の比率の高さと併せ考えると(部門別の労働力にはテナント社員は含んでいない),中小規模のビジネスホテルでは,レストラン,宴会等の料飲サービスをカットし(あるいは提供する場合でもテナント方式をとり),機能的に宿泊サービスに特化している傾向がみてとれる。逆にいえば,宿泊サービスを主力にした営業により省力化が図られている。
 しかし,同じビジネスホテルでも50人以上になると状況は異なり,料飲部門の比率がかなり高い。ビジネスホテルも大規模化に伴いレストラン等の機能を充実させる傾向がみてとれる。ただ都市ホテルに比べると,料飲部門の従業員には非正社員が多く,また宴会機能は小さい(注9)。
 次に旅館・地方型ホテルを規模別にみると,まずリゾートホテルにおける料飲部門の比率は50人以上で高い。この面での都市型ホテルとの類似性は大規模のリゾートホテルに特徴的である。また,旅館と観光地ホテルでサービス提供の中心となっているといえる客室部門の比率は,規模間でほとんど違いはない。しかし雇用・就業形態別構成に関してと同様,料金水準による違いがみられる。
 50人未満の旅館・地方型ホテルについて,客室部門の労働力の状況を平均客単価別にみたものが表5である。全部門に占める労働力構成比そのものには規模間と同じく違いはみられないものの,客室1室当たりの労働者数は単価が1万円未満の場合の0.19人に対して2万円以上の場合は0.38人と倍であり,単価が高いほど多い。

表5 平均客単価別にみた客室部門の状況(旅館・地方型ホテル,50人未満,一泊二食型)

 この労働力投入の違いは,一泊二食形式での宿泊の際,食事サービスがどのように提供されるかと関連している。単価が2万円以上の場合は「2食とも部屋食」が3分の2を占めているが,1万円未満の場合は「夕食が別会場」あるいは「夕・朝食とも別会場」がほとんどである。客室担当従業員が各部屋に食事を運ぶ代わりに,お客に大広間や食堂等へ足を運んでもらった方が労働力が節約でき,それが低料金につながるわけである。また労働力の内容も,先に全部門でみた程度以上に2万円未満と2万円以上で差があって,2万円未満で非正社員比率が高くなっており,一部高級旅館を除くと客室関連業務のうち客室清掃や布団の敷き上げあるいはベッドメイクといった仕事は,かなりの割合でパート化されている。



III 労務管理の実態と課題

 本章では,前章で概観した営業形態と労働力構成の状況を踏まえ,ホテル,旅館の労務管理の実態と課題について検討を行う。営業形態別の視点は都市型ホテルと旅館・地方型ホテルを基本とするが,それらのなかで一面異なった特徴を有する中小規模のビジネスホテルと大規模のリゾートホテルについても併せ検討を加える。

1 労務管理姿勢

 JIL調査では,従業員の雇用について基本的にどのような考え方を持っているかを複数回答で聴いている(表6)。五つの選択肢のうち,全体としては「経営者従業員一体となった家族的な経営を目指す」と「地域でトップクラスの待遇を目指し,いい人を集めたい」とする指摘が多く,ともに5割を超えている。

表6 従業員雇用の基本的考え方(M.A.)

 しかし規模別には,都市型ホテル,旅館・地方型ホテルとも50人以上では後者の指摘が前者を上回っているが,50人未満ではその逆となっている。中小規模では全体として家族従業員などを中心とした家業的な性格が強い側面がうかがえる。
 都市型ホテルのなかでも中小規模のビジネスホテルでは「家族的な経営を目指す」の指摘が特に多い点が注目される。この背景としては,50人未満のビジネスホテルでは家族従業員の比率が小さくなく(前掲表2),また経営形態(複数回答)面でも「異業種企業グループの一員」(38.3%)や「複数館と同一資本系列下」(16.1%),「他館と業務提携,FCチェーンに加盟」(8.7%)の割合はさほど多くはなく,「単独経営」(52.3%)が最も多く過半数を占めていることがある。中小規模のビジネスホテルのなかには,家族的な経営の傾向の強い従来の都市旅館,特に駅前や繁華街に立地していた旅館が転換したものも少なくないとみられる。
 ただ,中小規模の旅館・地方型ホテルでは「地域トップの待遇を目指す」割合が同じく中小規模の都市型ホテルと比べて相対的に多い。温泉地旅館や観光地旅館・ホテルなどは多数の同業者が集積立地している傾向が強いため,労働力確保のための企業間競争が激しい側面が背景にあると考えられる。また,都市部に比べ雇用機会の少ない地域での立地が多いため「地域に雇用の場を提供」しているとの自負も出てきているものとみられる。しかしそれと同時に「従業員管理に頭を悩ませており,経営の足を引っぱっている」との指摘も4〜5社に1社と,中小規模の旅館・地方型ホテルに多い。家族的な経営が主流のなかで,労務問題に前向きに取り組んでいる姿勢のところと有効な手だてがとれず経営のネックになっていると考えているところとが並存している状況にある。
 こうした「地域トップの待遇」と「管理に悩む」の指摘は料金水準との関係がみられ,前者は平均客単価が高いほど多く,後者は逆に低いほど多い傾向にある(表7)。付加価値の高低の違いが労務管理に対する意識にも影響を与えている可能性がうかがえる。

表7 平均客単価別の従業員雇用の基本的考え方(旅館・地方型ホテル,50人未満,一泊二食型)

 一方,中小規模の都市型ホテル,特にビジネスホテルでは「管理に悩む」との指摘は中小規模の旅館・地方型ホテルの半分にとどまっている。また65.1%がセールスポイントとして「低料金」を挙げており,そのための低コスト指向を反映し「ビジネスライクに割り切り,できるだけ安いコストで使いたい」との指摘も少なくない。

2 人事労務に関する課題

 人事労務に関する課題(複数回答)としては,全体として「労働時間の短縮」と「高齢化」が過半数で指摘されている(表8)。営業形態別にはそのほかに,都市型ホテルでは「労務コストの高騰」など,旅館・地方型ホテルでは「(従業員が)確保できないこと」などの指摘が上位にある。以下,課題別に問題の状況を検討する。

表8 人事労務に関する課題(M.A.)

 1 労働時間の短縮
 時短問題は,都市型ホテル,旅館・地方型ホテルとも大規模でさらに指摘が多いものの中小規模でも過半数で指摘されている(前掲表8)。
 ホテル,旅館の労働時間短縮を難しくしているのは,従業員確保が難しい要因として「労働時間が不規則」が最も多く指摘されているように(表9),第1に早朝から深夜までの長時間営業やお客の行動パターンに合わせた対応のための変則勤務の不可欠性にある。

表9 従業員確保が難しい条件(M.A.)

 都市型ホテルの場合,フロント部門では24時間営業に対応するため泊まり勤務や深夜勤務などの変則勤務が特に多い。例えば,正社員の泊まり勤務は50人未満,50人以上とも月平均7.0回と,約4日に1回の割合で行われている。この結果,フロント部門の従業員に関しては「夜勤など変則勤務の負担が大きい」(50人未満:58.6%,50人以上:75.9%)との指摘が多い。なおリゾートホテル(50人以上)でも,フロント部門の正社員の泊まり勤務が月平均4.8回,「変則勤務の負担」の指摘が51.1%と,都市型ホテルに似た状況にある。
 一方,旅館・地方型ホテルでは,朝に前日からのお客が出発し夕方に次のお客が到着するという一泊二食型の観光・レジャー客の行動バターンに対応するため,昼間に長い休憩時間を伴う“中抜き勤務”が一般的であり,その公正社員の1日の拘束時間(始業時刻から終業時刻までの時間数。勤務時間+休憩時間)が長くなる傾向にある。この特徴は食事サービスを担当する部門にみられ,50人未満で客室部門の平均の拘束時間は9時間25分,うち休憩時間は1時間58分となっている。また,調理部門では同じく9時間28分,2時間2分である。
 なお,この傾向は料金水準の高い宿ほど特に顕著である。一泊二食型で平均客単価が2万円以上では拘束時間は客室部門で10時間26分,調理部門は10時間4分,うち休憩時間は各々2時間35分,2時間51分とさらに長い。高料金の宿では先にみたように業務のパート化はあまり行われておらず,(家族従業員を含む)正社員中心に朝早くから夜遅くまで手厚いサービスを提供するため,正社員の拘束時間がより長くなっていると考えられる(ただし,正味の勤務時間はあまり違わない)。
 時間短縮の第2の問題点は,これもサービス業,そして中小企業に特徴的な従業員の休日(公休日)の少なさである。年間の平均公休日数は都市型ホテルでは50人未満で76.8日,50人以上で87.2日,旅館・地方型ホテルでは同じく67.0日および73.8日と,大規模でも多くないなかで中小規模,特に旅館・地方型ホテルで少ない。このことを反映し従業員確保が難しい要因として「公休日が少ない」の指摘が先にみた「労働時間が不規則」に次いでいる(前掲表9)。
 ただ,近年一定の改善はみられており,50人未満で過去5年間に実施した従業員確保・不足対策のうち,時短関連では「1日の労働時間短縮」(都市型ホテル:18.5%,旅館・地方型ホテル:22.7%)よりも「公休日の増加」(同48.9%,35.7%)の方が多い。
 特に,旅館・地方型ホテルではオフシーズンなどに営業を休む休館日を設けて,公休日の増加に取り組む動きもみられる。休館日のある割合は50人未満50.9%,50人以上42.0%とやや中小規模の方が多い。従業員数が少ないと交代勤務の余地が小さくなるため,中小規模ほど休館日の効果は大きいものと考えられる。ただ,年間の休館日数別に公休日数をみると(50人未満),10日未満では64.9日,10〜19日では70.0日,20日以上では70.5日となっており,休館日は年間10日程度(月1日程度)以上ではじめて公休日増につながる傾向がうかがえる。

 2 従業員の確保,定着
 従業員が「確保できないこと」の指摘は,都市型ホテルよりも旅館・地方型ホテルで,また中小規模で多い(前掲表8)。ただ,旅館・地方型ホテルのうち大規模のリゾートホテルでは確保難の指摘はあまり多くない。従業員確保が難しい要因として都市型ホテルに比べ旅館・地方型ホテルで指摘が多いものとしては「業界のイメージが悪い」と「立地が悪い」,大規模に比べ中小規模で指摘が多いものとしては「中小企業である」が挙げられる(前掲表9)。この点についても大規模のリゾートホテルでは「業界のイメージが悪い」の指摘はさほど多くない。旅館という業界イメージ,また非都市での立地,さらに中小規模性といった要因が従業員の確保に大きくマイナスに作用しているとみられる。
 50人未満の旅館・地方型ホテルで正社員の確保状況について「大きく不足」しているとする割合は,部門別にはフロント部門10.9%,客室部門26.8%,料飲部門15.2%,調理部門10.8%,そして間接作業部門で7.8%となっており,客室部門従業員の確保に特に苦労している状況にある。同じく50人未満の旅館・地方型ホテルで客室部門従業員の勤務については「食事の部屋出しは重労働である」や「布団の敷き上げは負担が大きい」,また「お客様の都合に合わせて出勤時間の変更がある」や「早朝出発のお客様への対応が大変である」などの指摘が,正社員が不足しているとする事業所ほど多い傾向にあり(表10),肉体的負担の大きい仕事であることや勤務時間の問題が従業員確保のネックとなっていると考えられる。

表10 客室部門の確保状況別にみた従業員の課題:50人未満,旅館・地方型ホテル(M.A.指摘率が上位の選択肢)

 また,調理部門(調理人)に関しては,規模,営業形態を問わず「優秀な人材の確保が難しい」(約50〜60%)との指摘が多い。50人以上では「新卒者を採用し社内で育成」(都市型ホテル57.2%,旅館・地方型ホテル36.6%)するところも多いが,50人未満(同12.9%,14.1%)ではなかなかそうもいかない。
 一方,定着の悪さは中小規模より大規模の方が指摘が多い傾向にある(前掲表8)。特に,大規模の都市型ホテルで「定着が悪い」の指摘が「確保難」を上回っている。また,旅館・地方型ホテルのなかでも大規模のリゾートホテルをみると同じ状況にある。50人以上の都市型ホテルでは従業員確保がしやすい条件(複数回答)として「立地が良い」(57.6%)に続いて「知名度が高い」(52.5%)と「業界イメージが良い」(33.8%)が上位にある。また,リゾートホテル(50人以上)でも「業界イメージ」(43.8%)と「知名度」(41.7%)とが上位にある。
 大規模の都市ホテル,ビジネスホテルやリゾートホテルは業界名や企業名あるいは都市やリゾート地への立地ということなどから受ける好イメージにより若年層の採用は比較的難しくはないが,先にみたように変則勤務の負担が大きいことや希望職種とのずれ(例えば,フロントの仕事だけが希望だがレストランに配置された)などから勤務が長続きしない傾向が強い状況にあるとみられる。定着が「悪い」とする指摘は,部門別には,先にみた従業員構成から営業の主力といえる料飲部門で,都市型ホテル(50人以上)は女子32.6%,男子21.6%,リゾートホテル(50人以上)も女子36.2%,男子25.5%と多いからである。また,調理部門の男子(50人以上の都市型ホテル21.7%,同リゾートホテル22.9%)も定着が「悪い」の指摘が少なくない。

 3 高齢化
 高齢化の指摘は,都市型ホテルと大規模のリゾートホテルではさほど多くはないが,旅館・地方型ホテルでは顕著である(前掲表8)。特に50人未満では時短問題の指摘を上回っている。
 50人未満の旅館・地方型ホテルで正社員の平均年齢が「50歳台以上」とする割合は,部門別には間接作業部門の男子(70.8%),同じく女子(64.2%),また客室部門の女子(63.3%)などで高くなっている。
 中小規模の旅館・地方型ホテルでの高齢化問題の背景としては,一つには先にみた若年層を中心とした従業員の確保難があるといえる。しかし,旅館・地方型ホテルにおける高齢化問題の実態はより複雑である。すなわち50人未満でみて,約7割で高齢化が課題として指摘されている一方,30.6%では過去5年間に実施した従業員の確保・不足対策の一つとして「高年齢者の雇用」を挙げている。また高年齢者の採用,活用については「多くの職種で」(43.0%)「正社員として」(53.3%)採用されており,「同じ仕事を継続」(54.6%)しつつ「定年後も出来る限り」(65.3%)働いてもらうとされている。

 4 能力開発,就業意欲の向上
 営業形態,規模を問わず3割前後で「能力開発の遅れ」や「就業意欲の向上」が課題として指摘されている(前掲表8)。
 部門別には,都市型ホテルのフロント部門で「語学力など新しい人材育成が重要」(50人未満43.1%,50人以上55.5%),旅館・地方型ホテルの客室部門で「礼儀,作法のレベルが低下している」(同40.0%,40.8%)といった課題の指摘が多い。また都市型ホテルの料飲部門では特に「能力開発に苦労している」(同23.5%,40.6%)とともに「就業意欲に欠ける者が少なくない」(同16.3%,22.5%)との指摘もある。両者の指摘は50人以上のリゾートホテル(34.8%,19.6%)でも少なくない。
 こうしたなか能力開発の全体的実施状況については,特に50人未満において対応が不十分であり,取り組んでいても「必要に応じてときどき実施」(40%程度)が中心で,約4分の1では「全く実施しない」としている。

 5 管理職
 従業員のうち特に正社員の人事労務については,管理職に関する課題の指摘が多い(表11)。そのなかでも「昇進ポストの不足」問題は相対的にに指摘の多い都市型ホテルや大規模のリゾートホテルでも2割未満にとどまっているが,全般的に「管理職予備軍の不足」や「管理者の力不足」といった課題の指摘が多くなっている。大規模と比較すると若干低いものの中小規模でも50%近くの水準にある。

表11 正社員の人事労務の課題(M.A.管理職に関するものを抜粋)

 部門別には,都市型ホテルの料飲部門で「現場の管理者人材が不足」(50人未満43.1%,50人以上42.0%)の指摘が多く,50人以上のリゾートホテル(32.6%)でも少なくない。一方,旅館・地方型ホテルでは調理部門で「優秀な板長の確保が難しい」(同29.8%,19.9%)といった状況にある。また直接的に管理者に関することではないが,フロント部門に関しては営業形態,規模を問わず「緊急時の対応のためにベテラン職員が必要」(約30〜40%)の指摘も多い。
 例えば,新設の都市型ホテルで現場経験が十分とはいえない管理者の能力アップや,管理者が高齢化している旅館等で後任の育成などが求められているといえる。

 6 労務コストの高騰とその削減策
 労務コスト高騰の指摘は全般的に多いなかで都市型ホテルと大規模のリゾートホテルで特に多い傾向にある(前掲表8)。この背景には経営動向があると考えられ,調査時点(平成5年2月)でその悪化(「悪い」+「やや悪い」)を指摘しているのは,規模計の旅館・地方型ホテルの41.4%に対して,都市型ホテルの中小規模は56.2%,大規模は60.4%,また大規模のリゾートホテルは64.6%となっている。平成不況は一般の観光・レジャー客以上に,都市部でのビジネス客や各種宴会需要の減退,またリゾートブームの退潮をもたらした状況がうかがえる。
 次に,今後(調査時点以降)の労務コスト削減策の実施予定をみると(表12),全体として「残業代の抑制」とともに「パート・アルバイト化」の指摘が多い。また「賃金の抑制」とともに「外注化」も少なくない。不況の継続やコスト面での制約が雇用の非正社員化や業務の外注化を進める可能性がみてとれる。

表12 今後実施予定の労務コスト削減策(M.A.)

 規模別には,中小規模では各項目とも指摘率が低い傾向にあり,また「考えていない」とする割合が高い。経営状況が悪化している比率が相対的に低いことも背景にあろうが,悪化している事業所に限ってみても「考えていない」割合は2割を超える。
 なお,経営悪化傾向の強い大規模の都市型ホテルやリゾートホテルでは,「新卒採用を抑える」や「アルバイトの削減」などの雇用調整策の指摘も少なくない。



IV まとめ

 II,IIIでの検討の結果を整理すると,以下のようになる。
 第1は,ホテル・旅館業界の労働実態は営業形態によって違いが大きいことである。その違いは,単にホテルあるいは旅館といった名称だけではなく,立地特性や機能(サービスの提供の範囲,仕方)などによって生じている。本稿ではそうした観点から,大きくは「都市型ホテル」と「旅館・地方型ホテル」という2分類を設定した。
 第2は,営業形態によってまず労働力の特性に違いがみられることである。都市型ホテルは外注,派遣やテナント社員といった自社外の労働力への依存傾向が大きい。職種別には料飲部門の比率が高い。一方,旅館・地方型ホテルは家族従業員の比率が相対的に高い。職種別には客室部門の比率が高い。
 また細かな営業形態の区分の意味も大きく,都市型ホテルのなかには料飲部門の比率の低い中小規模のビジネスホテル,また地方型ホテルのなかには料飲部門の比率が高い大規模のリゾートホテルという一面の異質性を有した業態も存在している。
 第3は,営業形態や従業員規模のほかに料金水準(=付加価値)の違いという事業所属性が,労働実態に影響を与えていると考えられることである。平均客単価の高低によって,1室当たりの労働力,また非正社員比率や業務のパート化率,さらに労務管理姿勢に違いがみられる。
 第4は,人事労務の課題として,中小規模の旅館・地方型ホテルを中心に,従業員の確保難と高齢化の問題がリンクしていることである。従業員が不足していながら若年層を中心に採用がままならず,そのためもあり高齢者を活用しているが,同時に高齢化が問題になっているという皮肉な状況にある。確保難の理由は,労働時間の不規則性や休日の少なさ,また肉体的負担(客室部門)などの厳しい労働条件に加え,非都市への立地や産業(特に旅館)に対するマイナスのイメージなどの要因が絡み合っている。
 そして第5は,第4の状況とは逆に大規模の都市型ホテルやリゾートホテルでは,従業員の確保に比較的問題が少ない代わりに採用後の定着が問題となっていることである。従業員の採用は業界イメージや知名度に依存している反面,特に主力部門である料飲部門については能力開発や就業意欲の向上に難点が指摘され,定着状況も悪い傾向が強い。それと同時に全般的な管理職予備軍の不足や管理者の力不足とともに,特に料飲部門では現場の管理者人材の不足の指摘も多い。


 *本稿の発想は,日本労働研究機構のホテル・旅館労働事情研究会での各委員との議論およびその報告書の内容から得られた。また作成にあたっては座長の川喜多喬法政大学経営学部教授から有益なコメントをいただいた。諸先生方に謝意を表する。いうまでもなく,本稿に含まれているかもしれない誤りの責任はすべて筆者にある。


(注1) 労働省職業安定局『ホテル・旅館業労働力確保問題懇談会報告』(1993)では,「例えば,今後,我が国のGNPが年平均3.0%で伸び続け,全産業平均の年間総実労働時間がこれまでと同しペースで短縮すると仮定した場合,西暦2000年には,ホテル・旅館業の需要は現在の1.3倍にあたる年間延べ約5億3千万泊の需要が見込まれ,これに伴い,ホテル・旅館業の労働時間短縮も従来と同じスピードで進む場合,労働力需要も,現在(平成3年,約87万人)より約6万人増の約93万人の労働力が必要となると予想される」とされている。

(注2) 労働省職業安定局『ホテル・旅館業労働力確保問題懇談会報告』(1993)。

(注3) 調査は,当該業界の従業員10人以上の事業所5114社を対象に郵送で行われ,有効回答事業所数は940社,有効回答率は18.4%であった。なお,調査結果の詳細については『ホテル・旅館業界の労働事情』(日本労働研究機構,調査研究報告書No.53 1994)を参照されたい。

(注4) 旅館業法においては,ホテル営業とは「洋式の構造及び設備を主とする施設を設け(以下略)」,旅館営業とは「和式の構造及び設備を主とする施設を設け(以下略)」と定義されている。

(注5) 日本標準産業分類においては,ホテル,旅館は中分類73「旅館,その他の宿泊所」のなかの小分類731「旅館」に該当する。ただ,この小分類731「旅館」には旅館,ホテルのほか,民宿,国民宿舎なども含まれる。中分類73「旅館,その他の宿泊所」のなかには,ホテル,旅館等以外の宿泊業として小分類732「簡易宿所」(多人数で共用する構造・設備,山小屋など),同733「下宿業」,同734「その他の宿泊所」(会社,団体の宿泊所・寮など)がある。

(注6) 前記の旅館業法におけるホテルと旅館についての定義は,営業許可に関するもので,名称への使用についての制限はない(例えば,旅館営業の許可であっても「○○観光ホテル」と名乗っているようなケースもある)。また,より細かい営業形態についての公式な定義は存在しない。このためJIL調査では,事例調査等を踏まえて設定した区分についてあえて各々の定義は示さず,各回答事業所が自らの営業形態をどのように考えているかの判断を求めている。

(注7) 宿泊の料金形態として一泊二食型をとっている事業所の比率(有効回答平均)は,温泉地旅館(98.8%),観光地旅館(98.0%),都市旅館(91.2%)だけでなく,観光地ホテル(85.7%)とリゾートホテル(82.7%)でも高い。

(注8) 都市旅館は,立地は都市である反面,サービスの提供は宿泊と飲食がセットの傾向が強い。ここでの分類にあたっては,労働面への影響が大きいと考えられるサービス提供の仕方を重視している。

(注9) 料飲部門の従業員構成は,50人以上規模で都市ホテルは正社員が58.9%,非正社員が28.6%に対して,ビジネスホテルは正社員が38.9%,非正社員が49.9%となっている。また,営業内容としての「宴会」の指摘は,同じく50人以上の都市ホテルの93.7%に対し,ビジネスホテルは61.4%にとどまっている。


かんたに・たかゆき 1956年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。80年労働省入省,92年から日本労働研究機構研究員。主な論文に「女子時間給パートタイマーの年間賃金−勤続年数別変化とその要因」(『日本労働研究雑誌』第415号)など。

[先頭に戻る]