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詳細情報 F1998010011
論文題名 産業構造の変化と多様化する雇用形態
−カナ題名 サンギョウ コウゾウ ノ ヘンカ ト タヨウカ スル コヨウ ケイタイ
分類 労働経済
著者氏名 古郡 鞆子
−カナ著者氏名 フルゴオリ トモコ
掲載誌名 日本労働研究雑誌
−巻号 447号
−発行年月 1997年8月
−発行元 日本労働研究機構
登録年月 1998年1月現在
内容抄録 (著者抄録)
わが国の雇用形態は急速に変化している。それは非正規労働者の増加に顕著である。非正規労働者の増加には,産業構造や人口構造の変化,技術革新などの影響がある。しかし,ここには世界的な競争社会に対応するための企業戦略もあるだろう。世界的な競争に打ち勝つため,企業には多くの固定的な労働力を抱えていく余裕も,産業構造の変化に対応するために時間をかけて現有の労働力を再教育していくような余裕もなくなってきた。企業が必要としているものは企業運営に携わる少数の従来型の正社員と,必要なときに必要な労働力を調達できるシステムではないだろうか。雇用形態の変化は,企業組織を変容させ,労働者と企業の関係に大きな変化を与えるものとなっていくだろう。

(論文目次)
I はじめに
II 産業構造の変化と雇用
   1 就業構造の変化
   2 非正規労働者の増加
III 雇用形態の多様化の要因
   1 マクロとミクロの分析
   2 需要側と供給側の要因
IV 雇用形態多様化の様相
   時間の弾力化
   場所の弾力化
   時間と場所の弾力化
V 今後の動向と展望
   企業と労働力
   仮想企業と労働者
全文情報

I はじめに

 産業構造が変化し雇用形態も変化してきた。かつてわが国の基幹産業は,紡績,鉄鋼,造船,石油化学などであったが,それらが自動車や家電などに移っていった。今日の産業では情報通信関係の伸びに顕著なものがある。
 産業構造の変化は,雇用形態,労働者からみれば就業形態に幾多の変化をもたらした。ものの生産を主体とした産業では,労働者が一斉に日中のある一定時間を働くのが生産効率の上で望ましいことであったが,これは,たとえば,現在隆盛を極めている外食のようなサービス産業には当てはまらないものである。この種の産業では時間により仕事量が変化するので,仕事の繁閑の時間帯に即応した労働力を正規労働者ではなく時間単位で働くパートタイマーや学生アルバイトなどの非正規労働者に依存している。
 雇用(就業)形態の変化は,産業構造の変化とともに労働者の勤労観・人生観の変化も反映している。社会は生きていくこと自体が大きな課題だった時代から,「よく生きる」ことが希求される時代に移った。一方では,わが国は教育水準の最も高い国となり,労働者は生きがい,社会参加,自己啓発,余暇,自由時間などとの関係で労働を考え,職種内容,労働時間,労働時間帯などに関し主体的な労働力の提供をはかる傾向も出ている。
 雇用形態の変化には社会のあり方の影響もある。情報通信産業が進んだ今日では,「出勤」が唯一の労働提供の手段ではなくなってきた。通信網が確立していれば在宅,遠隔地での労働も可能である。実際,効率のよい仕事をしてもらいさえすれば労働時間や就労場所は問わないという企業や職種もある。
 こうしたことが一体となって雇用(就業)形態は多様化し,いわゆる正規社員とは別にパートタイマー,嘱託,派遣社員,契約や登録社員,臨時,日雇いなどの労働者の増加現象を生んでいる。これらの労働者は産業構造,企業戦略,労働者の主体性などを考えたとき,今日および将来の雇用(就業)形態に新しい労働問題を提起しつつ,さらに重要な地位を占めていくだろう。
 本稿では産業構造の変化や労働提供者の勤労観・人生観の変化に加え,企業戦略上からも多様化する雇用(就業)形態を実態に即して考察し,今後の労働市場を展望してみることにする。



II 産業構造の変化と雇用

 産業構造の変化とともに第3次産業あるいはサービス関連職業で働く者が増えてきたことは周知の事実である。このことを最近の20年間のデータをもとに,具体的にどんな産業や職業の就業者が増加したか,就業者全体の8割以上を占める雇用者にどのような雇用形態のものが増えているかによってみてみよう。

1 就業構造の変化

 産業別の就業者   第3次産業の就業者数の割合は1975年の52%から95年には62%となった(『国勢調査』)。第3次産業ではサービス業で就業者が692万人増え,この産業がこの間の就業者の増加の6割以上を吸収している。1995年には第3次産業のなかでサービス産業の就業者の割合が約40%と最も高くなり,卸売・小売業・飲食店の37%がそれに続いている。
 表1は,サービス業の中で就業者の増加率が高かった業種を上から10位まであげたものである。これをみると,増加率が最も高い産業は情報サービス・調査・広告業である。95年にはこの産業の75%はソフトウェア業・情報処理・提供サービス業となっている。それ以外では,建物サービス業や他に分類されない事業サービス業,法務や公認会計士事務所・税理士事務所やその他の専門サービス業での伸びも著しく就業者数も多くなっている。社会保険や社会福祉,医療業,洗濯・理容・浴場業などの個人サービス業の就業者の増加も注目に値する。

表1 産業別就業者

 第3次産業の就業者の増加には幾つかの要因がある。飲食店の発達には,たとえば生活の質の工場や女性の労働力化の進展によって家事労働が外部化されてきたことの影響がある。物品賃貸業や事業サービス業の拡大には企業ニーズが変わり,リース志向が高まったことや今まで企業内で行われていた仕事が外部化されてきたことなどがあげられよう。医療,社会保険・社会福祉などの専門サービス業の拡大は高齢化に伴う医療需要の増加や社会制度上の変化などを反映したものである。

 職業別の就業者   就業者を産業別にではなく,働く人々の仕事の内容に焦点を当て,職業別に分類してみると,直接生産にかかわる者が減って,専門的・技術的職業・管理的職業,事務,販売,サービス職業,運輸・通信の従事者がこの20年間に1176万人多くなっている(表2参照)。サービス的職業に従事する者は同期間の就業者総数の伸びを上まわり,就業者全体に占める割合は約5割から約6割に上昇した。従来の職業分類では把握しきれない新しい仕事も増え,1975年と95年の調査で就業者の増加率が最も高かったのは「分類不能」の職業である。

表2 職業別就業者

 サービス関連の仕事に従事する労働者は第3次産業だけに限らない。製造業でも知識,情報,技術,デザイン,調査・研究,企画・開発などのサービス関連の仕事が増える一方,工場労働者も自動化やロボットの導入によっていままでとは性格を異にするものとなってきている。
 国勢調査によれば,1995年の第3次産業就業者は3953万人である。が,サービス的職業従事者は約4019万人となっている。この二つの数字の間にある66万人の差は第3次産業以外の産業でサービス的職業に従事している者のいることを示しているものと思われる。これはまた就業構造のサービス化が産業の枠を超えて進展していることをうかがわせるものでもある。


2 非正規労働者の増加

 サービス産業では需要の時間帯にあわせて無形のサービスを提供することがその仕事の大部分を占めている。サービスは在庫や輸送が不可能なため,生産(供給)と消費(需要)が同時に行われる。このようなサービスの特殊性から,サービス産業では業務量の変動に対応するため,弾力的,変則的な勤務形態がとられ,従来の雇用形態から外れた労働者,非正規労働者あるいはコンティンジェント(contingent)労働者を生み出した。
 アメリカ労働統計局(BLS)は,非正規あるいはコンティンジェントな労働を,「明示的にも暗黙的にも長期雇用の契約がなく,労働時間が予期せぬ形でランダムに変わる労働」と定義している。この定義を広く適用すれば,コンティンジェント労働者には短期雇用契約を結んでいる者,パートタイマー,臨時雇い,日雇い,登録型の派遣社員,独立の請負業者,自営業主,季節労働者,契約社員などが含まれる(注1)。
 表3は,製造業,卸売・小売業,飲食店,サービス業における就業形態別労働者の割合をみたものである。これをみると,製造業より卸売・小売業,飲食店,サービス業で非正社員の割合が高くなっていることがわかる。非正社員の中で最も多いのはパートタイマーである。卸売・小売業,飲食店ではパートタイマーの割合は1994年で3割近くに達した。サービス業では約10人に1人はパートとは別の非正規労働者である臨時・日雇い,契約・登録社員である。チェーンスーパーでは非正規社員の割合が8割に及ぶところもある(『労務事情』,No.881,1996)。

表3 就業形態別労働者の割合

 派遣社員の増加も著しい。派遣社員数は1993年の56万人から96年には約71万人に増えたという調査(日本人材派遣協会の調査,1997)がある。一般労働者派遣事業の登録者数は約44万人にもぼっている(労働省調査)。



III 雇用形態の多様化の要因

 雇用形態はどうして多様化してきたか。パートを中心とする非正規労働の増加についてはマクロな視点とミクロな視点の分析がある。多様化には需要側と供給側の要因があげられる。

1 マクロとミクロの分析

 マクロな分析では,パートタイマーの増加は産業間の雇用シフトの動向,失業率,人口統計などと関連づけて把握されてきた。Ehrenberg et al(1998),Tilly(1991),Larson and Ong(1994),Sparrow and Hiltrop(1994)は産業構造の変化が企業のフルタイマーからパートタイマーへの転換を促進させ,非正規労働者を増加させているとみている。Rubery and Tarling(1988)は産業ごとに女性パートの増加率を分析し,パートの増加がサービス産業の拡大と密接に結びついていることを明らかにしている。Bednarzik(1975)は非自発的パートが景気変動の影響を受け,景気後退期に増加し,回復期に減少することを明らかにしている。Tilly(1991)も非自発的なパートが失業率の高いときに上昇すると述べているが,長期的なパート雇用の拡大は失業率の上昇の結果ではないことを強調する。Ichniowski and Preston(1985)はアメリカのパート比率の上昇の90%が失業率の変化をコントロールした後でも残るとしている。Leppel and Clain(1988)によれば,非自発的パートの増加は景気の後退とサービス部門の拡大の結果である。一方,OECD(1983)は先進諸国におけるパート雇用の増加と女性労働力率の上昇との間に密接な関係があることを報告している。
 これらの研究は,いずれもパートの増加がマクロ的にはサービス部門の拡大,失業率,女性労働力率の上昇などに関係したものであることを示したものである。
 非正規労働の増加には,個々の企業や労働者の立場からのミクロの分析もある。非正規労働に対するニーズは企業によって異なり,また,多様で弾力的な労働に対する個人の選好も人によって異なる可能性がある。しかし,集計データはそれぞれの経済主体の行動を合成したものとなっているため,需要側と供給側の多様な要因が織りなす非正規労働への影響を把握しきれていない面もある。
 ミクロ的な分析には計量分析に加えて,事例研究や調査もある。わが国ではどちらかというとミクロ的なアプローチからの研究が多い。永瀬(1994)はわが国の長時間パートには企業側からの選別によって正社員になれない非自発的なパートが多いことを計量的に分析している。八代・大石(1995)は,経済や企業の期待成長率の低下が企業特殊的人的資本の需要を抑制し,企業一般的な訓練をもつ流動的な非正規雇用者を増やす方向への雇用ポートフォリオの組み替えが生じるとしている。
 事例研究では,佐野(1987)がビルメンテナンス業,八代(1987)が女性人材派遣業の労働実態を調べている。これらの研究によると,企業が実務を外部委託したり人材派遣を活用するのはその方が労働力を内部育成するより経済的であるからである。井原(1979)によれば,企業がサービスを外部から購入するのは製造と販売の分離が進んだため,稼働率によるコスト差が生じるため,サービス需要が不連続に発生するため,サービスの需要規模と供給規模が異なるためなどである。結局,こうした理由から企業のサービスの外部化の傾向がはじまり,それが企業内労働市場の外部化を引き起こし,多様な雇用形態を生んできたといえよう。
 イギリスの事例では,Walsh(1990)が小売業やホテル・宴会業者で働くパートやその他の非正規雇用について分析し,需要の繁閑に応じるためにパート労働が使われていることを明らかにしている。O'Doherty(1993)は企業が事務職のリストラでパートを増やしていることを銀行の例によって示した。O'Reilly(1994)は銀行がパートを使う理由として次の3点をあげている。その第1は仕事の繁閑に対処するためである。第2は従業員の労働時間短縮要求に従うためである。第3は新規採用の困難を避けるため,あるいはフルタイムを減らすためである。Robinson and Wallace(1984)は,パート雇用によって,企業は福利厚生を免れたり,フルタイムに残業をさせて割増賃金を払う必要から逃れることのできることを強調している(注2)。
 わが国ではパートやその他の非正社員を使う理由や非正社員で働く理由を諸々の企業調査と個人調査によって調べたものがある。非正社員の雇用が増えている理由は労働の需要両面で多岐にわたっている(図1)。しかし,企業が非正社員を雇用するのは欧米と同様におもに人件費の節約と仕事の繁閑に対応するためであろう。一方,非正社員の多くには,『パートタイム労働者総合実態調査』(労働省,1995)でも明らかなように,家計の補助や自分の都合のよい時間に働きたいという希望もある。

図1 非正社員を雇用する理由/図2 現在の就業形態についた理由


2 需要側と供給側の要因

 非正規の就業形態が働く側の合理的な選択の結果に大きく依存したものであれば,労働の非正規化は新しい就労形態として労働者にとって有利なものである。しかし,それが企業主導で行われ労働者が不本意な選択を強いられた結果であれば労働者にとっては不利な面が出てこよう。
 非正規労働の増加には,需要側からすると,賃金が安く,福利厚生の便益を与える必要もないことから労務費の節約ができるため(Tilly,1991;Carre,1992),特殊訓練の重要性が低下し,企業内労働市場の構造がかわったため(Appelbaum,1987;Osterman,1987,1988),労働組合の交渉力が低下したため(Golden and Appelbaum,1990),企業の労働力の弾力性に対する要求が強くなったため(Beechey and Perkins,1987)などの理由がある。
 供給主導の理論では非正規労働者の増加の要因には,女性や若年の労働力が増えたこと,価値観や就業意識が変化したこと,などがあげられる。ただし,これまでの研究で供給主導を支持するものは少ない。Lapidus(1989)やGolden and Appelbaum(1990)は,供給主導の立場に立っての分析を試みたが,結局,前者は女性の派遣労働者と女性の一般労働者を比べたとき,結婚の状態や子供の数とその年齢,教育水準や平均的な時間給に大きな差はないこと,後者は女性が派遣に集中しているのは派遣の仕事が増えているからであって,派遣労働が既婚女性の弾力的な就業に対するニーズを満たすという理由からではないことを導きだしている。これらは,結果的に非正規労働が供給主導ではなく需要主導であることを示すものである。わずかに供給主導の立場をとるものにSundstrom(1987)の研究がある。これによると,スウェーデンのパートタイマーの増加は主として労働供給側の要因によるものであり,企業が次第に労働力の女性化に応じるようになった,ということである。
 非正規労働者の増加,その結果としての雇用形態の多様化は,労働供給者より,産業構造の変化と企業行動をより強く反映したものとみることができよう。労働力の非正規化は,その点で雇用が財生産部門からサービス部門にシフトしてきていること,企業が需要の時間帯に即応した労働力の調節を必要とするようになったこと,労務費を削減する必要性が国際競争の激化とともに強まってきたこと,などによってもたらされたといえよう。



IV 雇用形態多様化の様相

 雇用形態が多様化するにつれ,就業形態も幾つかの点で変化してきた。そのことを労働時間(帯),就労場所,その両者の変化によって考えてみよう。

 時間の弾力化   労働時間にいわゆる9〜5時の枠を外し,変形的な労働時間制を採用する企業が増えている。変形労働時間制を採用する企業は1988年から95年の間に7%から30%に上昇した。その内訳をみると,フレックスタイム制や3ヵ月あるいは1年単位の変形労働時間制をとる企業よりも月単位での変形労働時間制を採用する企業が圧倒的に多く,1995年では18%の企業が月単位での変形労働時間を採用している。フレックスタイムをとる企業は大企業や金融・保険業・不動産業などのサービス産業を中心に増えている。ただし,みなし労働時間制を採用している企業は95年におよそ5%とまだ少ない。その適用を受けている労働者は事業場外労働で4%強,裁量労働で約1%である(『賃金労働時間制度等総合調査』)。中堅以上の企業では,繁閑などに応じて職務が変わるフレックスジョブ制などの新しい勤務制度を導入しているところもある。
 欧米ではジョブシェアリングやワークシェアリングが一般化してきている。前者は2人でフルタイム1人分の仕事をこなし,責任,賃金やベネフィットをシェアする恒常的な措置であるのに対して,後者は当初は不況期のレイオフに代わるものとして,フルタイマーの労働時間を一時的に短縮する措置として考え出されたものである(注3)。
 このような状況では労働時間の多少,雇用契約期間の有無,労働時間帯の違い,従業上の地位,核か周辺かの違いなどによってフルタイマーとパートタイマーという区分をすること自体が難しくなってくる。フルタイマーでも不規則に働く者やパートタイマーでも継続的・規則的に働く者,まったく臨時的に限られた期間だけ働く者などが出てくると,労働時間の影響を受けて労働形態も多様化する。

 場所の弾力化   労働時間の弾力化は働く場所の弾力化,フレックスプレイス(在宅・ワークセンター・サテライトオフィス勤務)にも通じるものである。情報通信産業の発達で在宅勤務も身近なものになりつつある。本社とオンラインで結んだコンピューターの端末を使って自宅でできる職住一致の生活は通勤時間をなくし,労働の拘束時間を短くする。在宅勤務は,コンピューター技術者の人材不足を解消するために既婚女性を即戦力として活用しようとする試みやフルタイムで働く在宅プログラマーの出現となって現実のものとなってきている(注4)。
 在宅勤務者はアメリカで1980年代に入って増えた(注5)。アメリカの汚染のひどい都市では従業員の通勤を25%減らすことを企業に求める法律があるために,在宅勤務に対する企業の支援は増えると予想される(注6)。
 在宅勤務は通信とコンピューターの技術革新に負うところが大きいが,家事や育児,介護や看護のため私生活と仕事を両立させたいと思っている者,通勤に困難を感じる高齢者や身体障害者などの就業を可能にする。
 一方,出社勤務と在宅勤務の中間にワークセンターやサテライトオフィスの勤務がある。これらの就業形態のメリットには住宅地の近くで仕事ができ,通勤が楽になり,在宅勤務にはない交友関係をもてるなどの長所がある。サテライトオフィスは,1980年代中ごろから実験的に導入する企業が増え,技術革新の成果をゆとりある労働とどう結びつけていけるかに注目が集まった。富士ゼロックスやNECでは,電子メールによる‘会話’を利用して,サテライトオフィスを推進している。郵政省は1997年度から「テレワーク制度」を導入してパソコンや通信機器により自宅やサテライトオフィスで仕事をする試みを始め,NECの営業部門では携帯端末を使って週1度くらいの出社をするだけでよい勤務体制をつくるということである(注7)。

 時間と場所の弾力化   電子機器による情報伝達手段を使えば働く時間と場所をともにフレックスにした‘電子’勤務(テレワーク)も可能となる。電子勤務では仕事を休まなくても簡単な所用を済ませたり,軽い病気なら出社勤務はきつくても自宅やワークセンターでフレックスに時間を調整しながら仕事をすることができる。時間や場所が融通自在になれば時差のある遠隔地での勤務もできるようになろう。
 図3は雇用形態がどのように変化するかを時間と場所,労働のあり方などの点から,労働者の一例をとって,分類してみたものである。これまでの正社員を中心とする9時〜5時型労働を時間も場所も非弾力的な一方の極とすれば,電子勤務は時間も場所も弾力的な労働として他方の極にいちづけられる。産業革命によって労働者の働く場所は家から工場に移ったが,現在進行中の技術革新は市場の労働を再び家に引き戻す機会を提供している。通信とコンピューターの技術進歩によって,将来的には工場やオフィスに出かける代わりに在宅のまま勤務する者がめずらしい存在ではなくなることも考えられよう(注8)。

図3 場所と時間の弾力化がもたらす雇用形態の多様化

 労働の軽量化,ブルーカラー的な労働からホワイトカラー的な労働へのシフト,工場からオフィスへの労働のシフトによって仕事の内容はかわりつつある。電子通信に強く依存する電子勤務は,まだまだ実験段階的なものだが,インターネットの普及とともに経済発展の戦略の一部として世界の注目を集めている。



V 今後の動向と展望

 産業構造の変化を考え,それとともに変化する就業形態の多様化の様相をみてきたが,雇用形態は,今後,どう変化していくだろうか。そのことを企業と労働者の関係でみておこう。

 企業と労働力   わが国の雇用形態の根幹には,一般に毎日9時から5時まで働く正(規)社員,就業期間でみれば,有期ではなく無期限の終身雇用的な慣行がある。入職時の辞令に雇用期間の明示がないのはその慣行を端的に示すものである。しかし,定年まで雇用するという雇用慣行は非現実的なものとなってきている。それは企業のリストラの一環である転職援助,早期退職優遇制度の設置,ときには任意の,あるいは半強制的な退職の推進策の事例をみても明らかである。
 今日,企業は環境の変化に適応力を失った労働者を温存しておく余裕を失っている。反面,時代に即応した労働力の調達をする必要に迫られている。産業構造,金融事情,国際経済,技術や情報革命など,どれ一つとっても明日も予想できないほど,めまぐるしく変化するなかで,企業がこれから必要とする労働力も変化してきている。
 企業運営に必要な労働力は現状では正規社員全体が担っている。しかし,将来,企業は人事や企画,戦略を考え財務を担当するというような直接に企業の方向づけをする正規社員は必要としても,単に帳簿をつけるとか,工場や施設の管理をするといった労働者は機械や人材派遣などによって置き換えていく傾向をとるだろう。
 企業は,価格競争や環境の変化に対応するためにますます多くの流動的に管理でき,できれば低賃金で雇える労働力に依存していくものと思われる。この10年間で1.5倍にもふくれ上がったパートタイマー,フリーター,アルバイトのような非正規労働者の増加はそのことを証明するものであろう。非正規労働者は今や企業の短期的なニーズを満たすというより企業運営からすれば形態としては「正規化」したものである。日経連の雇用特別委員会報告(1996)も,企業が環境変化に柔軟に対応できる雇用体制の構築に向けて,非定常的,非定型的に働く人材を活用していくことを指摘している。
 企業は特殊な技術をもった労働者より環境や技術の変化に即応できる人材を求めている。わが国はこれまで企業内での教育訓練によって企業が必要とする労働力の変化に対応してきた。しかし,産業構造や技術変化が急激で,かつ,熾烈な国際競争下にある社会では,企業はもはやその余裕もなくしてしまっている。1年もかけて新入社員を新しい職務に移行させるようなことは現下の企業環境では不得策である。企業は,業務の変化により,あるときは単純労働力を,あるときは専門家や技術者を外部労働市場に求めていくだろう(注9)。ここでは,部品ではなく,労働力を一定期間だけ需要するジャスト・イン・タイム・システムも必要である。
 企業には,適材を必要に応じたときに調達できるような総合的な人事対策が望まれる。派遣労働などの外部労働力の活用はその一つである。派遣社員は新卒の労働市場にも波及し,これまでの一般職を新卒派遣社員に切り替えていく企業も出てきている。

 仮想企業と労働者   企業と労働者は,今後,たがいに独立的な性格を強めていくものと思われる。産業社会は,個々の思惑とは別に一生一つの会社で過ごすことは企業側も労働者側も期待しない,あるいは望めない時代に入っている。
 企業は,その中身を多角化というより質的に変化させながら生命を保っていくと思われる。そのような形態をとる企業では,固定的な労働力は企業のダイナミズムを崩しコスト高を招く。そこで,企業は少数の核になる労働者を除いて,必要に応じて専門的能力を有する人材を集め,プロジェクトを達成すればチームを解散し,また新たなチームを形成するというようなポートフォリオ管理会社化し,労働も,機械・設備・建物も,その他の経営資源も必要に応じレンタルしたり,業務を外部委託したりしていくこととなろう。その点で企業はいわば「仮想化」の様相を強め,労働者はその中で,個の価値を商品にした労働をもって生産へのかかわりをしていくことになっていくのではないかと思われる。


(注1) 古都(1997)を参照。

(注2) イギリスのパート労働についてはTam(1997)を参照。

(注3) ワークシェアリングは旧西独が1972年に導入したことに始まるが,これには非自発的パートタイマーを生じやすい点もある。しかし,1970年代に普及し始めたジョブシェアリングは主に働く側の要求によって出てきたものであり,こちらは自発的,恒常的なパートタイマーの就業形態といえよう。Monty(1992)を参照。
 イギリスにはフルタイムの臨時労働者(臨時フルタイム)という雇用形態がある。イギリスの1993年の就業者には,伝統的な労働力(62%)と弾力的な労働力(38%)があって,前者にはフルタイムの“恒常”労働者(恒常フルタイム),後者には臨時フルタイム,恒常パートタイム,臨時パートタイム,自営業主フルタイム,自営業主パートタイムなど多様な就業形態をとる労働者が含まれている。ここでは恒常フルタイムが企業の“核”となる労働者であり,その他の範疇に属する者はすべてその“周辺”に位置する労働者(弾力的な労働者)としてとらえられている。働く女性の半数以上は弾力的な労働力となっているがその7割は恒常的なパートである。
 一方,アメリカの連邦職員には従業上の地位と勤務スケジュールの組み合わせにより幾つかのタイプがある。従業上の地位では雇用契約に期限のない常用の職員と,1年以下の限られた期間だけ働く臨時契約の職員がある。一方,勤務スケジュールでは週40時間労働のフルタイマー,規則的に,しかしフルタイマーより少なく働くパートタイマー,不規則に時々働く非常勤職員の3タイプがある。1978年に連邦政府職員パートタイムキャリア法案(Federal Employees Part-Time(Career Act)が制定されて,恒常的あるいは雇用契約に期限のないパートタイマーも誕生した。

(注4) 日本サテライトオフィス協会『日本のテレワーク人口調査』(1995)によると,情報通信ネットワークを利用して在宅勤務している正社員は全体の4.6%である。頻度は月に1〜3回という者が全体の56.5%を占め,週に1回以上行う者は22.6%である。また,日本労働研究機構『「通信情報機器の活用等による在宅勤務の展開」に関する研究』(1994)によると,30人以上規模事業所での在宅勤務の普及率は0.9%である。

(注5) 家で仕事をする者の中には教員のように本業の仕事を家に持ち帰り,そのことに対してとくに給料の支払を受けない者もいる。これらの者を除き,家をベースにして仕事をしながら給料を得ているいわゆる‘在宅勤務者’はアメリカで1991年に152万人いると推定される(CPIによる)。その週平均労働時間は35.8時間である。こうした在宅勤務者の8割近くが女性である。在宅勤務者の7割以上がサービス産業で働いている。

(注6) Edward and Field-hendrey(1996)を参照。

(注7) 在宅勤務には話し相手がいなくて孤独感に陥ったり,電話や突然の来客,子供などに仕事を中断されたり,仕事と雑事の間の気分転換が難しいなどの短所がある。サテライトオフィスで働く人は大半がオフィスの近くに住み,通勤ラッシュから解放されるが,職住接近に伴い,家族との団らんが増え,仕事の能率も向上するというメリットを享受している反面,会社との公式,非公式なコミュニケーションの量が減って情報が少なくなったり,疎外感に襲われるというデメリットも経験している。チームワークや密な人間関係を重視する日本の企業では,サテライトオフィスは浸透しにくい面もあり,NTTでは船橋,鎌倉,上尾の3ヵ所に設置したサテライトオフィスを閉鎖し,大日本印刷では1992年に浦和に実験的に設けたサテライトオフィスの本格導入を見送っている。

(注8) 新しい労働の形態として注目されるのがワーカーズ・コレクティブである。これは共同出資し,共同経営する,自主的な事業体であり,自発的に仕事を行う労働者共同組合である。ワーカーズ・コレクティブ労働は,その担い手である主婦が生活感覚や感性,家事労働の経験などを生かし共同で家事・看護サービス,在宅福祉サービス,育児・介護・接客相談所,託児所,仕出し弁当業をはじめるなど,地域に根づいた事業活動,職住接近の働き方として注目される。こうした共同組合方式は雇用の機会が限られている中高年の女性に新しい就業の場を与えるものである。仕事は必ずしもフルタイムということではなく,自分の都合に合わせてローテーションのスケジュールを組むなどの工夫もなされている(桑原,1987)。しかし,ワーカーズ・コレクティブ労働はパート労働と同じで,それに携わる者の7割以上が夫の扶養家族の枠内で働いているのが現状である。
 ボランタリー労働は地域の住民が協同して労働を供給する有償ボランティア活動にみられる。たとえば,主婦を中心とする会員同士が相互扶助を行い,条件の許す範囲でたがいに家事・福祉サービスの活動を行っている。

(注9) 小野(1997)もこの点の指摘をしている。


参考文献
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ふるごおり・ともこ ニューヨーク州立大学(バッファロー校)にて経済学博士号取得(Ph.D)。中央大学経済学部教授。主な著書に『非正規労働の経済分析』(東洋経済新報社)など。労働経済学専攻。

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