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詳細情報 F2001050044
論文題名 新卒労働市場におけるOB効果と大学教育
−副題名 5大学サンプルに基づく実証分析
−カナ題名 シンソツ ロウドウ シジョウ ニ オケル OB コウカ ト ダイガク キョウイク
−カナ副題名 5ダイガク サンプル ニ モトヅク ジッショウ ブンセキ
分類 労働市場
著者氏名 浦坂 純子
−カナ著者氏名 ウラサカ ジュンコ
掲載誌名 日本労働研究雑誌
−巻号 471巻
−発行年月 1999年9月
−発行元 日本労働研究機構
登録年月 2001年5月現在
内容抄録 (著者抄録)
本稿は,属性の異なる5大学を例にとり,通時的な入学時偏差値の変動が就業市場に直接反映されないのは,大学教育の効果なのか,それともOBの効果なのかを検証した。その結果,大学教育とOBの個別の効果が確認され,それらが企業側の変化による就職への影響を相殺する効果を持つことは見いだしたが,入学時偏差値に対しては限定的な効果しか見いだせなかった。また,OBの有効性は,大学の教育面における変化による就職への影響を相殺するまでには至らなかった。一方,各大学別のダミー変数は就職に対して有意な結果を得ており,入学時偏差値を含む大学教育の質を示す変数の大学間格差と,それらで拾い上げられなかった就職に対する各大学固有の効果の存在が大きく作用していることが明らかになった。

(論文目次)
I はじめに
II 間題意識
III 各大学の概要
IV モデル
V データ
VI 推定結果
VII 入学時偏差値の効果に関する若干の議論
VIII 結論
全文情報

I はじめに

 1953年の大学,業界団体,閥係官庁で構成された就職問題懇談会による申し合わせによって事実上スタートし,40年余りにわたって形を変えつつも遵守され続けてきた就職協定が,1996年度を最後に廃止された。その背景には,就職協定が就職の機会均等を達成することを目的としていたにもかかわらず,OBによる水面下でのリクルートを蔓延させ,大学間格差や男女格差を助長し,その意図に全く反する結果を生んできたという事実があることはすでに指摘されている(注1)。特に,OBによるリクルートは,就職協定下におかれてきた新卒労働市場を考えるうえで欠くことのできない要因であるが,それらを明示的に取り上げ,経済学的に分析した研究として,Hosotani and Urasaka[1997],浦坂[1997]が挙げられる。Hosotani and Urasaka[1997]は,私立R大学を取り上げ,各企業別のパネルデータを用いて,OBの存在が就職に及ぼす効果を測定している。その結果,各企業におけるOB数,および全従業員数に対するOB数の占める割合は,その出身大学からの就職者数,および大卒就職者数に対するその出身大学からの就職者数の占める割合に正の効果を与えていることが明らかにされている。さらに,OBの存在は,景気変動やそれに伴う企業業績の変化が及ぼす影響を相殺する効果を持ち,その出身大学からの就職者数は,どのような状況下でもある程度安定的に推移することが可能となる一方で,女子の就職に関しては,OBの効果以上にそれらの変化が厳しく作用していることを見いだしている。一方,浦坂[1997]では,R大学に加えて全く属性の異なる私立M大学を取り上げ,同様の分析を行った締果,Hosotani and Urasaka[1997]で確認されたOBの効果に明確な大学間格差があることが明らかにされている。
 これらの先行研究では,OBが就職に与える効果として,主に情報伝達効果,シグナリング効果,就職協定破りの隠れみのとしての効果の三つに注目している。就職協定下での各企業におけるOB数やOB占有率でその効果を測定した場合,これらの効果の就職者数に対する寄与度を識別することはできないが,本稿では,分析対象として異なる属性を持つ私立A・B・C大学(注2),公立D大学,さらに国立E大学の5大学を取り上げ,総合的にとらえたOB効果の大学間格差と,新たに大学教育の経済的効果を視野に入れた実証分析を行う(注3)。構成は次の通りである。最初に,大学教育の経済的効果に関する詳細な分析を行っている安部[1997]を取り上げ,その内容との対比により本稿の問題意識を明らかにする。次に,使用したデータならびにモデルについて脱明する。本稿では,各企業別のパネルデータを用いたTobitモデルを採用しているが,これは各企業が持つ固有の要素による影響を排除し,就職者数ゼロという情報を適切に分析に生かすためである。なお,分析対象期間は1990〜95年の6カ年であり,バブル崩壊後,急速に景気後退が進んだ時期が中心となっている。推定モデルは,Hosotani and Urasaka[1997]におけるR大学のモデルを基本とし,A〜Eの5大学をリンクさせた分析を行う。その際,各大学の入学時偏差値を含め,大学教育の質を示す指標となるいくつかの変数を新たに導入する。最後に,今後の課題について触れる。



II 問題意識

 まずここで,本稿の問題意識にかかわる興味深い内容を含んでいる安部[1997]の研究を群しく取り上げたい。
 安部[1997〕は,大学教育の経済的効果として,人的資本論に基づく議論である労働者個人の生産性を向上させるという側面と,労働者を選り分ける。すなわち,教育に労働者の先天的能力(注4)に関するシグナルとしての価値を見いだす側面を対比させ,採用に際して企業が学歴を重視するという前堤の下に,その理由が,名門大学で生産的な教育がなされていると考えているからなのか,あるいはたとえ名門大学において生産的な教育がなされていないとしても,その卒業生は,その大学の入学試験に合格できたという意味で能力が高いと考えられるからなのかを識別することを目的としている。そのため,大学を人的資本の生産関数と考え,その生産関数へのインプットとしての学生の偏差値の変動が,人気企業への就職結果をどのように変えるかを分析している。つまり,もし名門大学が様々な能力の学生を多様に教育し,入学時偏差にかかわらず労働生産性を高める教育を与えているという前者の側面が強ければ,偏差値の上下が就職結果に与える影響は小さいと想定されるが,逆に教育による労働生産性上昇効果が偏差値の影響に比べて著しく小さいという後者の側面が強ければ,入学時までの人的資本がそのまま就職市場に反映されることになるため,特定の大学の卒業生の就職市場におけるパフォーマンスは偏差値に大きく影響されると考えるわけである。
 安部[1997]は,1980〜89年に社会科学系の学部に入学したコーホートを対象に,その4年後の就職市場でのパフォーマンスについて,パネルデータを用いた次のようなモデルを構築している。



 サブスクリブトiは各大学各学部,tは卒業年(コーホート),Xuは学部一時間にかかわる変数(大学の地域ダミー,コーホートダミー,学部の女子比率など),HENSATIuはi大学一学部のt-4年における偏差値(t年の卒業生の入学時偏差値),εuは誤差項をそれぞれ表している。また,Yuには就職市場でのパフォーマンスの指標として,
 (1) 人気ベスト100の企業に就職する確率
 (2) 人気ランキングを点数化したスコア
の二つを用いている。さらに,大学教育の質や大学の持つOBネットワーク(注5)などは時間を通じて固定的であると仮定し,これを固定効果αiとしてモデルに組み込む場合と組み込まない場合を比較することによって,先に触れた問題意識を明らかにすることを試みている。推定方法としては,(1)については最尤法ロジット,(2)については加重最小二乗法が用いられている。
 その結果,大学入学時の偏差値は,人気企業就職確率と正の相関を持ち,大学−学部間に存在する偏差値の変動(固定効果を入れないモデル)と,大学−学部内の時間を通じた偏差値の変動(固定効果モデル)とでは,前者のほうがかなり大きな影響を持つことが明らかにされている。これは,卒業生の就職状況に関して,時間を通じた偏差値の変動よりも,大学が入学時の偏差値とは別に付け加える固有の属性(観察不能なものも含む)のほうが重要であることを示唆し,名門大学の就職市場での優位性は,大学固有の教育やOBネットワークによる部分が,偏差値の変動よりもかなり重要な意味を持っていることを意味するとしている。
 安部[1997]の最大の貢献は,自身が述べているように,樋口[1992]による大企業の就職確率と入学時偏差値のクロスセクションによる回帰分析を発展させ,マイクロレベルのパネルデータを用いることによって時間を通じた偏差値の変動をとらえ,すでに確認されている名門大学の優位性が,その教育の質の高さに起困するのか,あるいはその偏差値の高さに起困するのかを分析した点にあると言える。その結果,後者ではなく前者を支持する根拠を得ているわけだが,大学−学部内の時間を通じた偏産値の変動はごくわずかなものにすぎないというのが実情であり,5年以上偏差値の変動がない大学−学部もまれではない。反面,安部[1997]が標本として取り上げている大学−学部は多岐にわたっているため,大学−学部間に存在する偏差値の変動のほうが就職状況に大きな影響を持つのは,ある意味で当然のことと言えよう。また,名門大学の就職市場における優位性を決定する要因として,入学時偏差値に代えて大学教育の質とOBネットワークが強調されているものの,それ以上の論議は展開されていない。つまり,時間を通じた偏差値の変動が就職市場に直接反映されないのは,教育効果によるものなのか,それとも入学試験に合格できさえすれば,その一員としての恩恵にあずかることができるOBネットワークの効果によるものなのかという点である。安部[1997]は,この二つの効果を大学の生産性向上効果として一くくりにとらえているが,大学教育の経済的効果,さらには教育政策を考えるという意味では,やはり切り離してとらえるべきであろう。
 OBの効果は,その性質上,入学時偏差値と同じく労働者を能力に応じて選り分けるという測面が強い。企業が採用にあたって入学時偏差値の変化をこと細かに検討するとは考えにくいが,すでに入社しているOB社員の実績で評価するということは十分にありうることなので,その大学の卒業生の能力は,それが大学に入学するまでの能力であれ大学教育の結果であれ,OB社員のシグナリングによって判断される部分が非常に大きい。その反面,伝統的に培われたOBネットワークの存在は,その構成員を自社に取り込むことによって,得難いコネクションとして威力を発揮するという効果も見込めるため,OB社員の多少の質の変化も含めて,すでに実証されている企業業績の変化や入学時偏差値の変化による採用への影響を相殺する効果を持つと考えられる。
 以上の先行研究の流れを大まかにまとめると,学生個人の能力以外に就職に影響を及ぼす要因として「入学時偏差値」「大学教育」「OB」「企業側の要因(業績)」の四つが想定されうる。安部[1997]は,前三つの要因を取り上げ,同一大学で時間を通じて変化する偏差値の影響よりは大学教育やOBによって主に就職状況が決定されてきたことを見いだし,Hosotani and Urasaka[1997],浦坂[1997]は,OBと企業側の要因(業績)だけを取り上げ,OBの効果とそれが企業業績の変化による影響を相殺する効果をも含むことを明らかにした。これらの結果を受けて,本稿ではOBを中心にすべての要因を取り上げ,入学時偏差値や大学教育の質を示す変数をコントロールしてもなおOBは就職に対して効果を持ちうるかどうか,またそれが大学側の変化による就職への影響を相殺する効果を持ちうるかどうかを検証する。もし,これらの変数をコントロールすることによってOBが就職に有意な影響を与えなくなるのであれば,就職はむしろ様々な能力を持つ学生の労働生産性が,いかに大学教育によって高められるのかに依存することになる。逆に,これらの変数をコントロールしてもなおOBが就職に有意な影響を与えるのであれば,入学してくる学生のそれまでに培った能力のばらつきや,企業業績の変化による就職への影響を相殺するのに,OBが一役買っていることがさらに強固に実証されるだろう。安部[1997]の結果に即して,言い換えれば,時間を通じた偏差値の変動が就職市場に直接反映されないのは,教育効果によるものなのか,それともOB効果によるものなのかという点を確認することが本稿の主要な目的であり,OB効果を中心に据えた企業ベ一スのモデル設定である点が安部[1997]とは大きく異なるものの,その分析をより包括的に発展させる内容を持つと言える。



III 各大学の概要

 ここで,分析対象となる5大学の概要について,河合塾・東洋経済[1996]に依拠して簡単に触れておきたい。
 A大学の概要 A大学は,自由と清新の建学の精神を掲げる関西屈指の名門私立大学であり,文系理系あわせて8学部,2キャンパス,2万7000人以上の学生を有する総合大学である,そのうち女子は8000人近くを占め,自由で開放的な学生が多い。就職に関しては,3年次より就職ガイダンス,業界別セミナーが実施されており,春休みから4年次にかけて,個別面接,女子学生「合宿」,春季就職講座,TOEIC,公務員・教員模擬テスト,就職模擬試験など実践的な指導が行われている。就職状況を見ると,文学部では,サービス(30%),商事(22%)が多く,教員の比率が高い。産業社会学部では,商事(25%),サービス(23%)が多く,商事が増加傾向にある。国際関係学部では,商事(25%),金融(21%)が多く,語学力を生かした就職が特徴的である。法学部では,金融(24%),メーカー(19%)が多く,金融が増加傾向ある。経済学部では,金融(29%),商事(24%)が多く,経営学部では,メーカー(27%),商事(27%)が多い。理工学部では,メーカー(53%)が圧倒的に多く,約半数が大学院に進学する。また,1995年度の国家試験実績は,国家公務員I種が15人,国家公務員II種が144人,外務省専門職員が5人,司法試験がl1人であった。
 B大学の概要 B大学は,高商以来の伝統を受け継ぐ四国地元の私立大学であり,文系のみ4学部,7000人近い学生を有している。そのうち女子は2500人余りを占め,自由でのびのびとした学生生活を送っている。就職に関しては,3年次11月に第1回就職ガイダンスが実施きれ,その後,ゼミ単位・希望地域別ガイダンス,就職問題講座,個人就職相談窓口の常時開放などきめ細かな指導が行われている。就職状況を見ると,人文学部では,卸小売業(31%),製造業(17%)が多く,就職率は95%である。法学部では,金融保険業(21%),公務員(21%)が多く,就職率は94%である。経済学部,経営学部では,就職率がともに96%で,卸小売業への就職が30%内外と最も多かった。
 C大学の概要 C大学は,伝統と現代感覚を兼ね備えた関西私立大学の雄とも呼ばれており,文系理系あわせて6学部,2キャンパス,2万1000人以上の学生を有する総合大学である。そのうち女子は6000人近くを占めており,これまでにも各界で活躍する多数の人材が輩出している。就職に関しては,3年次11月の就職ガイダンスを皮切りに,業界研究,プレイスメントセミナーなどを実施している。就職状況を見ると,文学部では,メーカー(27%),流通,公共事業(20%),神学部では,マスコミ・サービス,流通,金融(22%),法学部,経済学部では,金融(32%),メーカー(27%),商学部では,金融(30%),メーカー(29%),工学部では,メーカー(73%),マスコミ・サービス(10%)への就職が多い。また,1995年度の国家試験業績は,国家公務員II種が114人,司法試験が22人,公認会計士第2次試験が26人であった。
 D大学の概要 D大学は,本稿では唯一の公立大学であり,文系理系あわせて8学部,2キャンパス,約7000人の学生を有する「実学」を伝統とした庶民的な都市型総合大学である。そのうち女子は約2000人を占め,飾らない自由な雰囲気に満ちている。就職指導は,基本的に各学部,講座ごとに行われており,就職状況を見ると,文学部では,報道・出版・広告業(35%),製造業(23%),法学部では,金融・保険業(25%),公務員(23%),経済学部では,製造業(31%),金融・保険業(30%),商学部では,製造業(28%),金融・保険業(27%),生活科学部では,報道・出版・広告業(31%),建設業(26%)への就職が多い。一方,理学部,工学部では,進学がそれぞれ59%,37%と最も多くなっているが,報道・出版・広告業,製造業などに就職している。また,1995年度の国家試験実績は,国家公務員II種が53人,司法試験が8人,医師国家試験が85人(合格率94.4%)であった。
 E大学の概要 E大学は,明治8年に設立された商法講習所を起源とする,本稿では唯一の国立大学であり,文系のみ4学部,約5000人の学生を有する社会科学系の総合大学である。そのうち女子は約900人を占め,常に学界をリードし続けてきた伝統を持つ。就職状況を見ると,法学部では,金融・保険・証券業(26%),製造業(13%),経済学部では,金融・保険・証券業(52%),製造業(17%),商学部では,金融・保険・証券業(44%),製造業(14%),社会学部では,金融・保険・証券業(21%),製造業(19%)への就職が多く,主な就職先として,東京海上火災保険(21人),東海銀行(19人),富士銀行(18人),三和銀行(16人),日本生命保険(16人)などの一流企業名が拳げられている。また,1995年度の国家試験実績は,国家公務員I種が23人,司法試験が21人であった。



IV モデル

 本稿では,推定モデルとしてパネルデータを用いたTobitモデルを採用している。これは先に触れたように,各企業が行った新卒を採用するか否かの意思決定をまず情報として取り入れ,次に実際採用を行った企業について,その採用者数の変化を分析するためである。なお,推定結果はすべてマージナル効果(McDona1d and Moffit[1980])で評価する。
 被説明変数を5大学の男女別就職者数(N)とし,説明変数として,5大学のOB数(OB),従業員1人当たり経常利益(経常黒字:P,経常赤字:L),入学時偏差値(Hens),常勤教員1人当たり学生数(Stud),学生1人当たり校舎延べ面積(Area),学生1人当たり図書館蔵書数(Book),初年度納入金(Expe),常勤教員1人当たり文部省科学研究費補助金配分額(科研費:Gran),B〜E大学のダミー変数(Bd,Cd,Dd,Ed),各企業別のダミー変数(Fd),各年別のダミー変数(Yd)を採用する(注6)。また,OB数と経常利益の交差項,偏差値とOB数,経常利益,OB数と経常利益の交差頂との交差項も説明変数として加え,弾力性分析を行うために,ダミー変数以外はそれぞれ対数をとっている(注7)。経常利益については,黒字の場合はそのまま対数をとり,赤字の場合はその値に−1をかけてから対数をとり,さらに−1をかけている。これは,経常利益の黒字・赤字に関して非対称的な扱いが可能な定式化である。なお,就職者数は,1期前のOB数,経常利益で説明されている(注8)。
 入学時偏差値については,異なる年でも比較可能にするために,1986年入学コーホートを基準として,その他の年については安部[1997]と同様の調整を行っている。ただし,安部[1997]は,大学を受験する年齢の人口全体における能力分布がコーホートを越えて同一であるとし,それが大学進学率に対応する点で先端を切られていると仮定しているのに対して,本稿では,大学入学志願率(新規高卒者に対する大学ヘ願書を提出した者の実人数)に対応する点で先端を切られていると仮定している。安部[1997]も指摘しているように,厳密には大学受験率の変化に対して調整されるべきであるが,進学率より入学志願率のほうが概念的には受験率に近いと言えよう(注9)。本稿では,安部[1997]の「名門大学の就職市場での優位性は,大学教育やOBネットワークによる部分が,偏差値の変動に比べて大きい」という結論を前提としているため,時間を通じた偏差値の変動による就職ヘの影響を分析することは推定の直接の目的ではないが,少なくとも安部[1997]の結論や一般的な認識がそうであるように,偏差値が高ければ就職に有利であると想定される。反面,大学教育やOBの効果が十分に大きけれぱ,時間を通じた偏差値の変動は就職に影響を与ええないという可能性も否定できない。
 一方,大学教育の質を的確に数量化することは,ほとんど不可能に近い試みであると思われるが,ここではあえて次の五つの変数を設定している。まず常勤教員1人当たり学生数は,教育効果という意味で最も直接的な指標であり,この数字が高いほど教員との密着度が低く,学生はきめ細かい指導を受けることができないと考える。その結果,学生の労働生産性の上昇が阻害され,その大学からの就職に負の影響を与えると想定される。学生1人当たり校舎延べ面積,図書館蔵書数は,教育環境を示す指標であり,この数字が高いほど学生は恵まれた環境で教育を受けることができると考える。したがって,これらの変数の増加は学生の労働生産性を上昇させ,その大学からの就職に正の影響を与えると想定される。初年度納人金については,学生が支払った入学金や授業料が基本的には教育面や環境面で学生に対して還元されていると考えれば,同様に就職に対して正の影響を与えると想定されるが,特に私立大学では,財政状況の逼迫や営利目的による納人金の増額などの可能性も否定できないため,それらの要因が強ければ,逆に負の影響を与えることも考えられる。常任教員1人当たり科研費は,教員の研究状況を示す指標であり,この数字が高いほど社会的要請の高い研究を積極的に行っていると考える。大学教員にとって研究と教育は車の両輪であり,良い研究がひいては良い教育につながるとすると,この変数の増加もやはり学生の労働生産性を上昇させ,その大学からの就職に正の影響を与えると想定される。反面,研究に時間と労力を費やすことで教育が疎かになるのであれば,逆に負の影響を与えることも考えられる。





V データ

 IVのモデルで提示したように,推定には金融・保険業を除く各上場企業別の5大学OB数,5大学男女別就職者数,経常利益のデータ,さらに5大学別の入学時偏差値,常勤教員数,在籍学生数,図書館蔵書数,校舎延べ面積,初年度納入金,科研費のデータを用いる。具体的なデータに関する情報は,以下の通りである(注10)。
 まず,各企業別のOB数ならびに男女別就職者数は,A大学については就職部による「PLACEMENT BOOK」各年版,B大学については就職部による『PLACEMENT MANUAL(就職の手引き)」各年版,C〜E大学についてはそれぞれの同窓会名簿に記載されているデータを利用する。したがって,A・B大学はOB数ならびに就職者数の調査が毎年なされ,データも更新されているが,C〜E大学は最新の各企業別のOB名簿に記載されている卒業年次などをもとにデータを構築しており,その違いには注意が必要である(注11)。なお,経常利益は,各企業の『有価証券報告書』から得る。
 5大学の入学時偏差値は,河合塾/全国進学情報センターの実施した全国模試受験者の入試結果追跡調査をもとに設定した1986〜91年度(1990〜95年に就職した学生の大学年度)の入試難易実態おけるボーダーライン(合格可能性50%ライン)を示しており,公立D大学,国立E大学のみ2次試験のボーダーラインを示している。複数の選定方式・日程がある場合は,基本的に試験科目の多い選抜方式・日程のボーダーラインを採用し,文系各学部(複数の学科がある場合は主要な1学科のみを対象)のボーダーラインを,その年の入学者数あるいは1回生の人数で加重平均した値を,各年度における各大学の入学時偏差値としている。常勤教員数は,理系学部と助手を除く教授,助教授,講師の合計人数,在籍学生数は,理系学部と2部を除く合計人数を採用する。図書館蔵書数は,日本図書館協会『日本の図書館』各年版に記載されているデータを利用する。校舎延べ面積は,文系理系にかかわらずすべての校舎の延べ面積で,付属学校と共同使用で区別ができない場合は合計面積,初年度納入金は,入学初年度に納入する入学金,授業料,諸会費などの合計金額で,学部・学科間で異なる場合は社会科学系学部の最低金額,科研費は,理系学部を除く合計受領金額をそれぞれ採用する。以上のデータから,常勤教員1人当たり学生数,学生1人当たり校舎延ベ面積,学生1人当たり図書館蔵書数の各データを作成する。ただし,校舎延べ面積,図書館蔵書数については,理系学部を含む全在籍学生1人当たりの値を算出している。なお,入学時偏差値,図書館蔵書数以外のデータについては,各大学事務局より直接提供していただいた。



VI 推定結果

 表1には各変数の記述統計量,表2および表3には偏差値の交差項を設定しない場合とした場合の推定結果がそれぞれまとめられいる(注12)。

表1 記述統計量

表2 男女別就職者(対数値に関する推移結果(交差項なし)

表3 男女別就職者(対数値に関する推移結果(交差項あり)

 まずOB数は,交差項を設定した場合の男子就職者数と女子就職者数に対して以外は,すべて有意な正の結果を得ている。経常利益あるいは偏差値との交差項でいくつかの有意な結果を得ているため,それらの平均値で評価すると,OB数が1%増加した場合,就職者数は0.06〜0.14%増加することになる。したがってOBの効果は,これらの推定からも確認されたと言えるが,交差項を設定しない場合の女子の弾力性について,経常赤字の平均値で評価したところ0.15と大きな値が得られる点に注意したい(注13)。
 一方,経常利益は,交差項を設定しない場合の男子就職者数と女子就職者数を除いて有意な結果が得られなかった。有意な結果を得た女子については,経常利益の黒字・赤字を問わず正の値を得ている。したがって,企業業績の変化に男子あるいは全体の就職者数は大きく左右されないが,やはり女子はその影響を免れていないことがわかる(注14)。
 入学時偏差値は,交差頂の有無にかかわらず女子就職者数を除いて有意な負の結果を得ている。偏差値の1%の上昇に対して,就職者数は3.02〜3.70%減少しているが,この点については,改めて若干の議論を行う(注15)。
 大学教育の質を示す変数のうち,初年度納入金と科研費は,交差項の有無にかかわらず女子就職者数を除いていずれの推定でも同じ有意な結果を得ており,就職者数に対して初年度納入金は正の,科研費は負の効果を与えている。初年度納入金の1%の増加に対して,就職者数は1.46〜1.64%増加し,科研費の1%の増加に対して,就職者数は0.13〜0.16%減少する。初年度納入金が就職に正の効果を及ぼすという結果は当初の想定通りであるが,科研費の負の効果については,教員にとって社会的要請の高い研究を積極的に行うことが良い教育につながるというよりも,むしろ研究と教育の両立が困難であることを示唆する結果となっている。学生数は,交差項の有無にかかわらず総就職者数と男子就職者数に対しては有意な正の効果を持ち,学生数の1%の増加に対して,就職者数は1.24〜1.28%増加する。それ以外は,図書館蔵書数,校舎延べ面積を含めて有意な結果が得られなかった(注16)。
 これらの結果を総合すると,次のように考えることができる。先に触れたように,OBの効果,さらに企業側の変化,すなわち企業業績が就職に大きな影響を与えていないことが確認されたことから,各企業におけるOBの存在がその出身大学の学生の就職に正の効果を及ぼし,企業業績の変化による影響を相殺しているという仮説は支持される。しかしながら,程度の差はあれ大学側の変化もまた就職に何らかの影響を与えていることから,OBが大学側の変化による影響を相殺する効果を持つ,あるいはOBだけが企業業績の変化による影響を相殺する効果を持つとは言い切れない。むしろ,時間を通じた偏差値や企業業績の変動が就職市場に直接反映されないのは,大学教育の効果によるものとOBの効果によるものの両者が考えられるということになる。ただし,ここでは大学教育とOBの個別の効果を確認し,それらが企業側の要因を相殺する効果を持つことは見いだしたものの,入学時偏差値に対しては限定的な効果しか見いだせなかった。また,OBの有効性は,大学教育の効果を相殺するまでには至っていないとも言える。
 名門と呼ばれる大学の学生が就職に有利なのは事実である。これは大学間の入学時偏差値の差に起因する部分も大きい。このような大学の場合,偏差値が若干上下したとしても,入学できさえすれば伝統あるOBの一員として組み込まれるわけであり,教育を受けて多少なりとも生産性を高めれば,企業側によほどのことがない限り就職の安定性は保証されている。しかし入学者のそれまでに培った能力(偏差値)の低下や大学教育の荒廃が長期にわたって持続すれば,OBの質の低下によってその大学の評価は下がり,もはや「名門」ではなく「かつての名門」に凋落してしまうだろう。逆に言えば,OBというものは一朝一夕に築けるものではなく,その意味で名門大学のOBであることの優位性を揺るがすことは非常に困難であるが,本稿の結果は,生産的な教育を充実させることによって就職市場での優位性を確保することは可能であるし,そこから企業における評価を高め,OBを充実させていくことも可能であることを示唆している。
 なお,B〜E大学のダミー変数は,B大学ダミーが有意な負の結果,C大学ダミーが交差頂の有無にかかわらず女子就職者数について有意な負の結果,D大学ダミー,E大学ダミーが交差項の有無にかかわらず総就職者数と男子就職者数について有意な正の結果を得ている。これらの各大学別ダミー変数は,入学時偏差値や学生数を始めとする五つの変数の大学間格差と,それらで拾い上げられなかった就職に対する各大学固有の効果を示しており,A大学がその基準となっている。したがって,A大学と比較して,D大学,E大学は就職に対して正の効果を,B大学.C大学は負の効果を持つことがわかる。



VII 入学時偏差値の効果に関する若干の議論

 VIの推定では,安部[1997]の結論や一般的な認識に反して,偏差値が高ければ就職に有利であるという結果は得られなかった。その意味で,大卒者の採用に際して重要視されているのは,大学入学試験での選別機能である,すなわち偏差値の高さであるという仮説に対しては,安部[1997]と同様なの疑問を投げかけることは可能である。有意な結果を得られなかった推定については,大学教育やOBの効果によって偏差値の変動による影響が相殺されることに起因すると考えられるが,逆に偏差値が就職に対して有意な負の効果を持つという結果が一部の推定で得られている点については,分析対象期間の時期的な影響を含めて,ここで若干吟味する必要があるだろう。
 このような結果をもたらした理由としては,次のように考えられる。図1は,分析対象5大学の入学時偏差値の推移を示したものである。これを見ると,私立A〜C大学の偏差値が1992年あるいは1993年より相対的に大きく上昇しているのに対して,公立D大学,国立E大学の偏差値は安定的か,むしろ低下している。この時期に卒業し,就職した学生が入学した1980年代末は,共通一次試験から大学入試センター試験への移行や受験機会の複数化などに代表されるように,入試制度が猫の目のように変更された時期に相当する。その結果,国公立大学の入試対策が困難になり,いきおい私立大学の人気,難易度の上昇につながったと考えられる。しかしバブル崩壊後の不況で,卒業時にあたる4年後の就職状況は非術に厳しく,私立大学の学生は国公立大学の学生と比較して苦戦を強いられた。

図1 入学時偏差値の推移

 不況になれば国公立大学の学生のほうが就職に有利であることは,各種の新聞報道からもうかがえる。たとえば1993年6月17日付の日本経済新聞では,5月中旬に名古屋で行われた中部・関西地区の文系私立大学と企業との情報交換会を取り上げ,大手企業の採用手控えの影響が最も深刻なのが,就職実績をテコに受験生の人気を集め急成長してきた中堅私立大学であり,特にメーカーが集中している中部地区では「文系学生を採る余裕はない」と採用の重点を理工系学生に絞る企業が多く,地元の文系私立大学の打撃は大きいとの指摘がなされている。また,1995年7月18日付の同紙では,国公私立大学や高等専門学校の関係者らでつくる「就職問題懇談会」において,首都圏の私立大学の出席者より,求人数が昨年同時期より2割近く減少しているという訴えがあったことを報じている。逆に国立大学については,1995年11月16日付の同紙において,就職難の長期化,深刻化に伴って,九州大学が文系の3年生を対象に就職ガイダンスを開くことを報じているが,名門九州大学の場合,バブル崩壊後も企業からの求人が多く,現在でも就職希望者のほぼ100%が就職できる状況にあるため,この時期になってようやく対策に乗り出したという背景が指摘されている。また,入学時偏差値や大学教育の質を示す変数を入れないA・B大学のみを対象とした浦坂[1997]では,A大学については確認されていたOBの就職に対する効果がB大学では限定的であり.むしろ企業業績に影響されるという結果を得ている。OBの効果(あるいは大学教育の効果)には明確な大学間格差が存在し,その結果,景気変動とそれに伴う企業業績の変化が就職に及ぼす影響に,大学間格差あるいは国公立大学と私立大学の格差が生じることは十分に考えられる(注17)。
 このような現状から判断すれば,本稿の推定の場合,入試制度の変更などにより偏差値が上昇した私立A〜C大学の学生の4年後の就職が厳しく,むしろ偏差値が低下した公立D大学や安定的な国立E大学の学生の4年後の就職が堅実であったことによって,偏差値が就職に対して有意な負の効果を持つという,通説に反する結果が得られたと考えられる。したがって,ここでの結果は,あくまでも5大学に限定されたものであり,今後分析対象を拡張することによって,より一般的な結論を導き出す必要があるだろう。



VIII 結論

 本禍では,安部[1997],Hosotani and Urasaka[1997],浦坂[1997]の分析結果を前提に,時間を通じた入学時偏差値の変動が就職市場に直接反映されないのは,大学教育の効果によるものなのか,それともOBの効果によるものなのか,すなわち入学時偏差値や大学教育の質を示す変数をコントロールしてもなおOBは就職に対して効果を持ちうるかどうか,またそれが大学側の変化による就職への影響を相殺する効果を持ちうるかどうかを検証した。その結果,大学教育とOBの個別の効果が確認され,それらが企業側の変化による就職への影響を相殺する効果を持つことは見いだしたが,入学時偏差値に対しては限定的な効果しか見いだせなかった。また,OBの有効性は,大学の教育面における変化による就職への影響を相殺するまでには至らなかった。一方,各大学別のダミー変数は有意な結果を得ており.入学時偏差値を含む大学教育の質を示す変数の大学間格差と,それらで拾い上げられなかった就職に対する各大学固有の効果の存在が大きく作用していることが明らかになった。
 最後に今後の課題について触れておきたい。第1に,女子大学などさらに異なる属性を持つ大学を分析に取り入れることによって,5大学という限定された分析対象によるサンプルセレクションバイアスを緩和し,より精緻な議論を展開することが考えられる。その際,大学によっては未上場企業が主な就職先となっていることも十分に考えられるため,分析対象を上場企業以外に拡張することも吟味しなければならない。また,経常利益を用いるために分析対象から外している金融・保険業については,大手都銀や生保,損保,証券会社などの動きが新卒採用を大きく左右している現状を重視して,経常利益に代わる企業業績の指標の導入とともに,その取り扱いを考える必要があるだろう(注18)。
 第2に,OBの効果の識別が挙げられる。就職協定の廃止に伴い,就職協定破りの隠れみのとしての効果は,従来との比較で識別可能となるだろうし,大学名不問の採用や指定校制度の廃止によるオープンエントリー制度の導入は,シグナリング効果を無効にすると考えられるので,今後そのような企業が増加することによって,この効果の識別も十分可能である。また,勤続年数の短いOBだけを取り上げ,OBリクルーターに限定した効果を分析する方向も残されている。就職協定廃止を契機として,三井物産,安田火災海上保険,JTBなどの大学生就職人気ランキングにおいて常に上位に位置する大手企業によるリクルーター制の廃止と完全公募制の導入が話題となった一方で,一橋大学では,学生への情報提供を目的に開設した就職情報室の専任職員に民間企業に勤めていたOBを採用するなどの動きを見せている。このような状況を背景としたOBの役割の変質は,特に興味深い分析対象となりうるだろう。
 第3に,大学教育の質を示す変数のさらなる吟味が挙げられる。本稿では五つの変数を取り上げたが,これらが大学教育の質を正確に反映しているかどうかという点に議論の余地が残されていることは否めない。また,教育の効果は単年度で評価するのではなく,在学の4年間を通じて評価すべきであるとも考えられるし,一方では,大学教育を受けることによって学生が実際に形成した能力こそを評価すべきであるとも考えられる(注19)。変数の取捨選択を含めて,これらの吟味は重要な課題として残されている。


*本稿は,平成9年度財団法人日本証券奨学財団研究調査助成金による成果の一部である。作成にあたり,理論・計量経済学会1997年度大会(早稲田大学)では,名古屋市立大学経済学部安部由起子助教授(当時)を始めとする参加者の方々より,それぞれ貴重なご意見をいただいた。また,分析の対象とさせていただいた各大学事務局ならびに河合塾には,データに関して多大なご協力をいただいた。記して感謝の意を表したい。もちろんありうべき誤謬は,すべて著者の責任によるものである。

(注1) OBが新卒労働市場にいかに関与しているかについては,就職協定とのかかわりも含めて苅谷ほか[1993],苅谷編[1995],苅谷[1996]が社会学的な立場から詳細に分析している。
(注2) A大学,B大学は,それぞれHosotani and Urasaka[1997],浦坂[1997]におけるR大学,M大学に該当する。
(注3) 前出の苅谷らの一連の研究では,OBの諸機能についてより具体的な例(たとえば苅谷ほか[1993],pp. 97-98)が挙げられており,それらの整理は別途必要であろう。しかしながら本縞では,それらを総合した形の「OB効果」を想定し,その指標として各企業におけるOB数やOB占有率を採用している。これは,苅谷の言葉を借りれば,毎年卒業生が踏み固めていく大学と企業間の可視性の高い経路(path)の完成度を端的にかつ量的に示す指標であると表現できる。苅谷らの研究は,基本的には単年度の分析であり,継続して採用がある企業への時系列的な就業率や集中度などのフロー変数は取り上げられているが,その蓄積の結果であるストック変数(すなわちOB数)には関心が払われていない。ストック変数を用いた場合,本稿のような扱いをすれば,OBと学生がどのようにかかわっているか(OBの諸機能)は不問に付され,OBは社長であっても平社員であっても全く同じとなる。その一方で,企業側や大学側の時系列的な状況の変化に対して,経路の完成度の高さがどの程度有効なバッファーとなりうるのを分析するのには効力を発揮する。本稿の最大の関心がこの点にあるのは言うまでもない。
(注4) 誤解を招く恐れのある表現であると思われるが,安部[1997]の表現をそのまま引用している。
(注5) 安部[1997]では「OBネットワーク」という用語を使用しているため,サーベイ部分についてはそれをそのまま引用している。
(注6) 本稿では,OBについて基本的に出身学部および文系理系の区別ができないというデータ上の制約から,大学単位のモデルを構築している。これは言うまでもなく様々な問題点を内包しているが,次のような肯定されるべき面,あるいは議論に重大な影響を及ぼす可能性が低いと判断される点を持つとも考えられる。第1に,OBとの直接的な接触を想定しても,学生が自分の出身学部のOBだけにこだわって接触するとは考えにくい。これは分析対象となった大学の就職部の談話からも裏付けられており,学部よりも「大学のOB」というとらえ方のほうが現実的である。第2に,文系の,特に社会科学系学部であれば,日本企業は大学に専門的な教育は期待していないという通説が示すように(たとえば日本労働研究機構[1998]),就業に際して極端な学部間格差があるとは考えにくい。第3に,理系学部出身者でも文系学部出身者と同様の就職活動を行う例が少なからず存在するということが指摘されており,片や大学院への進学も理系学部のほうが圧倒的に多い。第4に,分析対象となった5大学のうち2大学が文系学部のみの大学であり,残りの3大学についても理系学部の学生が占める割合は2割にとどまる。また,分析対象期間中,いずれの大学も学部構成の変化はほとんどなく安定している。改善にあたっては,以上の点を考慮したうえで方向性を探る必要があるだろう。なお,経常利益は卸売物価指数で,初年度納入金と科研費は諸費者物価指数でそれぞれ実質化している。
(注7) 対数をとる際,就業者数,OB数,科研費は,ゼロを標本から落とさないようにするため,すべてについて1を加えてから操作を施している。
(注8) このほかに,企業規模あるいは採用規模の違いによって異なるOBの効果をより正確に把握するために,被説明変数を大卒男女別就職者数に対する5大学の男女別就職者数の占める割合(男女別就職者占有率)とし,説明変数のうち,5大学のOB数に代えて全従業員数に対する5大学のOB数の占める割合(OB占有率)を採用した推定も行った。
(注9) 具体的な調整方法は次の通りである。大学を受験する年齢の人口全体における能力分布が,平均μ,分散σ2(σの2乗)の正規分布に従い,それはコーホートを越えて安定していると仮定する。人口のうちで能力分布の上位部分の個人が大学入学を志願すると考えると,人口の能力分布は,大学入学志願率に対応する点で先端を切られることになる。基準となる1986年の入学志願率は32%なので1−Φ(α)=0.32,α=0.47となる。逆ミルズ比λ(α)=Φ(α)/[1−Φ(α)]とすると,切断された正規分布の平均と分散は,それぞれμ+σλ(α),σ2(σの2乗){1−λ(α)[λ(α)一α]}となり,平均が50,分散が100に対応するので,この連立方程式を解くことによって,μ,σ2(σの2乗)が求められる。1987〜91年の偏差値は,このμ,σ2(σの2乗)および各年の大学入学志願率を用いて,1986年入学コーホートのそれと対応する形に調整される。分析ではこの調整済みの偏差値を用いる。
(注10) 占有率に関する推定では,さらに各企業別の大卒男女別就職者数および全従業員数のデータを必要とする。前者は,東洋経済新報社『会社四季報 学生就職版』各年版に記載されている「採用(各年4月入社の採用実績。年によっては制作時点での内定ないし見込み数。大卒には修士を含む)」のデータを利用しており,東洋経済新聞社が実施したアンケート調査に回答がなく,この資料に記載されていない上場企業や,記載されていても採用の分類が不完全な企業は,ともに分析対象外としている。また後者は,各企業の『有価証券報告書』から得ている。
(注11) 現時点では,大学側が改めて調査しない限り,卒業生の進路に関する情報は同窓会名簿を通じてしか入手できない。同窓会名簿をデータソースとして用いるる場合,最大の問題は同窓会に加入していない卒業生が標本から落ちてしまうという点である。また,就職後の異動が把握されているか否かという点についても,正確さに欠けるきらいがある。近年,同窓会の加入率は下落傾向にあるという事務局側の談話もあり,新たな調査の可能性も含めて何らかの対応が迫られている。
(注12) 各表における標本数には,対象期間中すべての対象大学について採用実績がない企業のデータも含まれているが,その場合固定効果は不定となるため,推定からは省かれている。したがって,推定には何ら影響を与えない。
(注13) 占有率に関する推定でも,OB占有率は,交差項を設定した場合の女子就職者占有率を除いて有意な正の結果を得ており,同様にOB占有率が1%上昇した場合,就職者占有率は0.94〜1.11%上昇する。なお,交差項を設定しないり場合の女子の弾力性については,同様に3.28という大きな値が得られている。
(注14) 占有率に関する推定でも,経常利益は,交差項を設定しない場合の女子就職者占有率を除いて有意な結果が得られなかった。有意な結果を得た女子については,やはり経常利益の黒字・赤字を問わず正の値を得ている。
(注15) 占有率に関する推定でも,入学時偏差値は,交差項を設定しない場合の総就職者占有率と男子就職者占有率に対してのみ有意な負の結果を得ており,偏差値の1%の上昇に対して,就職者占有率は0.06〜0.07%低下する。
(注16) 占有率に関する推定でも,就職者占有率に対して初年度納入金は正の,科研費は負の効果を与えており,同様に初年度納入金の1%の増加に対して,就職者占有率は0.07〜0.09%上昇し,科研費の1%の増加に対して,就職者占有率は0.004〜0.005%低下する。また,校舎延べ面積は,交差項の有無にかかわらず総就業者占有率についてのみ有意な負の結果を得ており,校舎延べ面積の1%の増加に対して,総就職者占有率は0.01%減少する。さらに学生数は,交差項を設定した場合の総就職者占有率に対しては有意な負の効果を持ち,学生数1%の増加に対して,就職者占有率は0.05%低下する。
(注17) この点を確認するために,B〜E大学のダミー変数と経常利益の交差項を新たに導入して推定を行ったところ,特に占有率に関する推定において,公立D大学の就職者占有率が私立A大学より経常利益に対して非弾力的であるという結果が得られている。
(注18) 本稿のモデルになじまない就職先としての金融・保険業および公務員については,そのウェイトと関心の大きさに反して,現時点では全く考慮できていない。5大学の社会科学系学部卒業生の就職先で,金融・保険業および公務員の占める割合は約3割制から4割強に達しており,B大学が最も低く,C〜E大学が高めといった格差も見受けられる。しかしいずれの大学も,少なくとも分析対象期間中における時系列的な変化は小さい。このような傾向が安定していると仮定すれば,本稿の議論に重大な影響を及ぼす可能性は低いと予想される。もとよりこの点の改善が急務であることは自明である。
(注19) 本稿のモデルでは不可能であるが,この点について苅谷編[1995]所収の平沢和司「就職内定企業規模の規定メカニズム−大学偏差値とOB訪問を中心に−」では,大学成績(優の占める割合)が説明変数として導入されており,かつ就職に対して有効でないという結果が得られている点が非常に興味深い。

参考文献
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安部由起子(1997)「就職市場における大学の銘柄効果」中馬宏之・駿河輝和編『雇用環境の変化と女性労働』東京大学出版会,pp. 151-170。
浦坂純子・大日康史(1996)「新卒労働需要の弾力性分析−3時点間のパネル推定−」『日本経済研究』32,pp. 93-110。
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小野瀬健人(1989)「ルポ リクルーターの素顔 ふくろう部隊」『朝日ジャーナル』31(19), pp. 44-48。
苅谷剛彦・沖津由紀・吉原惠子・近藤尚・中村高康[1993]「先輩後輩関係に“埋め込まれた”大卒就職」『東京大学教育学部紀要』32,pp. 89-118。
苅谷剛彦(1995)「大学から職業へ−大学生の就職活動と格差形成に関する調査研究−」広島大学大学教育研究センター。
苅谷剛彦(1996)「就職協定改廃論に足りないもの」『朝日新聞』12月26日。
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データ出典
東洋経済新報社『会社四季報 学生就職版』各年版。
朝日新聞社『大学ランキング』各年版。
河合塾・東洋経済『日本の大学』各年版。
日本図書館協会『日本の図書館』各年版。


うらさか・じゅんこ 1969年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科後期博士課程修了。同志社大学文学部社会学科産業関係学専攻専任講師。主な論文にUrasaka, J. (1998), “Why is Job-Hunting by Female University Students So Difficult?”, Osaka City University Economic Review, Vol. 33, No. 2, pp. 1-16. など。労働経済学専攻。

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