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詳細情報 F2001050121
論文題名 労働市場の変化と職業威信スコア
−カナ題名 ロウドウ シジョウ ノ ヘンカ ト ショクギョウ イシン スコア
分類 職業一般
著者氏名 原 純輔
−カナ著者氏名 ハラ ジュンスケ
掲載誌名 日本労働研究雑誌
−巻号 472巻
−発行年月 1999年10月
−発行元 日本労働研究機構
登録年月 2001年5月現在
内容抄録 (著者抄録)
戦後日本社会の急速な産業化の結果,産業構造,就業構造,職業構造が大きく変化したにもかかわらず,人びとの職業評価意識の指標である職業威信スコアには,対応した変化はみられない。人びとの職業的地位の評価には,好ましさ,人気などの要素も含まれており,労働市場に対応した変化が予想される。しかし,1955年から1995年の40年間の職業威信スコアに発生した唯一の変化は,平等主義的イデオロギーの浸透の結果と考えられる全体的水準の上昇である。職業威信スコアは職業の学歴水準および所得水準と高い相関を示し,学歴および所得に関する職業の序列がほとんど変化しなかったことが,安定性の一つの理由と考えられる。職業威信スコアに示される職業評価意識が変化せず,それが学歴水準の格差と結びついているとすれば,いわゆる「学歴社会」状況が弱まることはないであろう。

(論文目次)
I 産業化と職業構造
II 職業威信スコア
III 職業威信スコアの性質
IV 職業威信スコアの安定性
V 職業威信スコアとは何か
VI 変わらない職業順列
全文情報

I 産業化と職業構造

 敗戦の廃墟の中から出発した戦後日本社会は,極端にいえばそのすべての力を経済の発展と復興に傾けることによって,急速な産業化を推し進めた。その過程で,戦後復興期から高度経済成長期における重化学工業から,その後のサービス産業や情報産業へと産業の主力は移っていく。他方,著しく比重を下げたのは農林水産業である。国内総生産(GDP)に占める農林水産業の比率は,1955年の約20%から,40後の1995年には約2%に低下している。
 これに伴って人びとの就業構造,産業構造も変化した。図1は,職業別従業者比率の変化を戦前も含めて示したものである。戦前の1930年当時,就業者の約半数が農林水産作業者であったが,その後,急速に比率が低下する。1947年の臨時国勢調査で55%にまで回復したのは,都市住居者および外地からの引揚者の一時的な帰農によるものである。しかし,その後はさらに急速に比率が低下しただけでなく,1970年以降は実数でも減少に転じている。いわゆる「雇用者化」もこの変化に対応したものであろう。全就業者中に占める雇用者の比率は,1955年には46%であったが,1995年には75%に上昇した(農林水産業者を除く74%→79%)。

図1 職業別従業者数と比率の推移

 ブルーカラー(運輸・通信・採掘・製造・建設・労務作業者)の比率は,戦前も増加傾向にあったが,敗戦でいったん低下した後,1950年代から60年代にかけて大きく上昇している。これは,先に述べた重化学工業化のピークの時期である。しかし,1980年以降はほとんど上昇せず,32〜33%のレベルで停滞している。第三次産業従事者が多くを占めるホワイトカラー(専門・技術・管理・事務的職業従事者)およびグレーカラー(販売・サービス・保守的職業従事者)の比率も,とくに戦後は第三次産業の伸びに対応して上昇を続けてきた。ただし,両者の動きはやや異なっている。伸びが大きいのはホワイトカラーであり,1995年にはブルカラーの比率を超えて最大の職業群となった。これに対してグレーカラーは,1930年にはホワイトカラーの約3倍の比率を占めていたが,1960年代にはホワイトカラーに完全に追い抜かれ,その後の伸び率も小さい。なお,1947年の臨時国勢調査においてグレーカラーの比率が飛び抜けて低下したのは,これらの人びとの多くが所属する小規模な商店が,敗戦による打撃を最も大きく被ったことを示しているのであろう。
 就業構造,職業構造の変化は,さらに人びとの職業意識や職業観の変化を伴っていよう。たとえば図2は,1975年の「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」と1993年に行われた「国民性調査」の結果から,企業間移動について肯定的な態度をもつ者と否定的な態度をもつ者の比を,年齢層別に示したものである(注1)。二つの調査では選択肢が異なっているため,単純な比較はできない。しかし,変化は明らかである。1975年当時は,肯定的な態度の人は,否定的な人の二分の一(0.48)にすぎず,どの年齢層でも否定的な態度のほうが優勢である。これに対して1993年の結果では,全体としてやはり否定的態度の人のほうが優勢であるけれども,両者は接近している(0.92)。とくに,20歳代と30歳代では,肯定的態度のほうが圧倒的に多くなっている。

図2 年齢層別転職観の変化

 このような転職観の変化は,1980年代からいっそう盛んになってきた若い世代を中心とする流動化傾向や,さらには高度経済成長に成立した大企業の「終身雇用」慣行その後の弱体化とも関連していると考えられ,常識的にも納得できるものである。しかし,あらゆる職業意識や職業間がそうだというわけではない。以下で論じようとする「職業威信スコア」と,その背後に存在すると考えられる「職業評価意識」も,そうした意識の一つである。



II 職業威信スコア

 職業威信スコア(occupational prestige score)とは,人びとのさまざまな職業に対する総合的な格付けの程度をスコア化したもので,職業的地位の量的指標として多くの分析に用いられている。わが国では,1975年のSSM調査の際に,この格付けを調べるための調査(職業威信調査)が本調査とは別に実施され,その結果にもとづいて作成された(SSM職業威信スコア)。
 調査では,288の職業小分類のうちから代表的な職業82を選んで,「最も高い」「やや高い」「ふつう」「やや低い」「最も低い」のいずれかに分類してもらった。正確な質問は以下のとおりである。
  “ここにいろいろの職業名を書いたカードがあります。世間では一般に,これらの職業を高いか低いというふうに区別するようですが,いまかりにこれらの職業を高いものから低いもの順に5段階に分けるとしたら,これらの職業はどのように分類されるでしょうか。1枚ずつごらんになって,あてはまるところへカードを置いて下さい。”
 しばしば指摘される点であるが,この質問文の作りかたは教科書どおりではなく,あいまいな形での問いかけが行われている。第1に,どのような基準で分類するのかが指示されておらず,回答者にまかされている。第2に,世間の評価についての回答者の「認知」をたずねているのか,回答者自身の各職業についての「評価」をたずねているのか,明確でない。これらの点については,後でも触れる。
 次に,それぞれの分類に100点,75点,50点,25点,0点を与えて,全回答者の評価の平均を求めた(表1)。ある職業についてすべての回答者が「最も高い」という評価を与えていればスコアは100点,「最も低い」という評価を与えていれば0点となる。さらに,このスコアを残りの類似の職業にも拡張して,すべての職業にスコアを与えたものが「SSM職業威信スコア」である。個々の職業と威信スコアとの関係は表1からではわかりにくいけれども,専門・管理・事務・販売(サービスを含む)・熟練・半熟練・非熟練・農林という大分類を行って平均を求めてみると,管理のスコアが最も高く専門がそれに次いでいる。また,単純作業が中心の非熟練が最も低い。それらの中間に事務・販売・熟練・半熟練・農林が位置づけられるが,これらのうちでは事務がやや高く,農林がやや低い。販売・熟練・半熟練の間には(平均値としては)ほとんど差がない。熟練と半熟練の間に差がないのは奇異な感じもするが,熟練に分類されるのは職人的な仕事が多く,半熟練に分類される職業には近代的工場労働が多いという違いがあり,「熟練」の程度の差というよりは質の違いにもとづいた分類だからであろう(尾高編1958)(注2)。

表1 職業威信スコア(1975年)

 なお,予備調査の段階では288の職業すべてについて回答してもらったが,回答分布のクラスター分析の結果等にもとづいて,類似の評価パターンをもつ職業同士をグループにまとめ,それぞれから代表的な職業を選びだした。さらに,調査者からみて重要だと思われる職業や,スコアの妥当性を検討するために企業規模を特定した職業名(例えば「中小企業の……」というように)などもつけ加えられた。



III 職業威信スコアの性質

 こうして作成された威信スコアの性質については,直井優(1979)が詳しい検討を行って内的一貫性を備えた尺度であること,つまり同一の何ものかを測定していることを明らかにしている。ただし,測定されているものがそれぞれの職業の「威信」であるかどうかについては,議論のあるところである。最も厳密に定義すれば「威信」とは「尊重される資格(deference-entitlement)のことである(Shils 1968)。高い威信をもつ職業とは,人びとから敬意をもたれ,そのことによって社会的影響力を行使できる職業である。
 上の質問文では,単に「高い」とか「低い」と表現しているだけで,「尊重」とか「敬意」とは明示されていないから,厳密な意味で「威信」の程度を測定しているとはいえない。他方,直井によれば,官庁統計等によりデータが得られる職業に関しては,職業威信スコアと学歴水準および所得水準とが高い相関を示す。また,たとえば小中学校の校長と小学校の教諭のように権限が比較可能な職業では,威信スコアと権限のハイアラーキーの順序が一致する。これらの事実を考慮すると,職業威信スコアが示しているのは,人びとのさまざまな職業に対する総合的な格付けの程度というのが適切と思われる。しかし,収入額であるとか権力の大きさそのものではなく,人びとによる職業の「格付け」を(もう少し広い意味での)威信と考えるならば,「職業威信スコア」という名称も誤りとはいえないだろう。
 ところで,この職業威信スコアについては,基本的な二つの特徴が広く認められている。
 第1の特徴は「頑健性」ということである。SSM職業威信スコアの場合,「最も高い」から「最も低い」までの回答に,100点から0点までの等間隔のスコアを与え,全回答者に関して平均したものであった。しかし,回答を要約して量的なスコアに変換する方法は,他にもいろいろありうる。特定の回答(カテゴリー)の比率を用いるというのは有力な方法である。たとえば,アメリカで用いられているSES(社会経済的地位)のもとになっているのは,「最も高い」(excellent standing)と「やや高い」(good standing)という回答の比率である(Duncan 1961)。SSM調査における82の職業について同様に比率を求めてみると,威信スコアとの相関係数は0.84と極めて高い(直井 1979)。また,単純に平均値を求めるのではなく,主成分分析を行う方法,カテゴリカルデータのまま数量化III類を適用する方法等もある。しかし,いずれの方法でも,第1主成分得点あるいは第1軸スコアとして抽出された数値と職業威信スコアとの相関は極めて高い。
 この頑健性という特徴と関連して,評定の信頼性の高さも指摘できる。つまり,回答者を社会的属性によるサブグループに分けて,サブグループ別に威信スコアを求めてみても,相互の相関は極めて高い(表2)。また,この職業威信調査では,82の職業について評定してもらった後で,どのような基準を重視したかをたずねている。各評定基準を重視したか否かでサブグループを作り威信スコアを比較しても,同様に相関は極めて高い(直井 1979)。評定の信頼性は,1975年調査だけでの偶然的特徴ではない。1995年のSSM調査でも職業威信調査があわせて行われているが,太郎丸博(1998)の分析によってまったく同様の結果が得られている。

表2 サブグループ別職業威信スコア間の相関係数

 いうまでもなく,職業威信スコアは個々人の評価を平均したものである。もちろん評価のバラツキは存在するけれども,標準偏差が回答カテゴリー間に設定した25点をこえる職業は一つもない(表1)。上に紹介した頑健性と信頼性という職業威信スコアの性質は,社会全体に共通した,いわば社会意識としての職業の格付け意識がその背後に存在することを示していよう。



IV 職業威信スコアの安定性

 職業威信スコアの第2の特徴は,社会間,時点間にみられる評価の安定性である。つまり,社会間,時点間の差異が少ない。
 よく知られているように,トライマン(Treiman 1977)は60の社会から85の職業威信調査データを収集し,相互に比較した。60の社会は地域的に全世界に散らばっており,産業化や国民総生産(GNP)の水準もさまざまである。もちろん,調査の標本は必ずしも全国規模の無作為標本とはかぎらず,地方模索のものや,教室で学生を対象に行った結果も含まれている。また,質問の方法や選択肢(たとえばカテゴリー数)もさまざまである。それにもかかわらず,職業威信の序列には「全世界を通じて,高いレベルの一致」が存在するとトライマンは結論している。
 トライマンの研究から,職業間の威信スコアの序列には,多くの社会において共通性がみられるだけでなく,極めて変化しにくいということが予想できる。この点については,SSM調査データによって確かめることができる。SSM調査をはじめとする階層や職業に関する研究において用いられるのは,1975年の職業威信調査にもとづいて作成された職業威信スコアであるが,その後の変化をさぐるために,1995年のSSMの調査の際にも職業威信調査が実施された(ただし,職業数は56)。また,職業威信スコアを作成するという目的ではなかったけれども,1955年のSSM調査の中でも,31の職業について,1975年とまったく同じ形式で格付けの質問を行っている。つまり,高度経済成長が開始されようという時期(1955年),高度経済成長が終了した時期(1975年),そして低成長(安定成長)とバブル経済を経験した後の時期(1995年)という,ちょうど20年間隔の3種類のデータの比較が可能である(注3)。
 これら3回の調査では職業の入れ替わりがある。1955年と75年,1975年と95年で共通に含まれている職業について,威信スコアの変化を示したのが図3である。図中に示されているように,20年を経ても威信スコアの相関は極めて高い。40年を隔てた1955年と95年でさえ,相関係数は0.932である。

図3 職業威信スコアの変化

 もちろん,職業威信スコアに何も変化がなかったというわけではない。しかし,相関係数が1に極めて近いということは,同じく図中に示した回帰直線によって変化の大半が説明できるということを意味している。回帰方程式の定数項の大きさからわかるように,威信スコアは1955年から75年では約6点,1975年から95年では約14点,平均して上昇した。回帰係数はともに約0.8であり,平行移動に近いけれども,傾きが1未満であるから,しいていえば威信スコアの低い職業のほうが高い職業よりも上昇が大きいといえる。
 威信スコア上昇の原因は明かである。それは,回答者が「低い」という評価を回避する傾向を強めたためである。1975年と95年で共通の25の職業について,評価(回答)数の分布をみてみると,次のように変化している。「最も高い」(5.8%→6.6%),「高い」(19.6%→19.0%),「ふつう」(47.5%→59.9%),「やや低い」(19.8%→12.2%),「最も低い」(7.3%→2.3%)。「最も高い」と「高い」の比率はほとんど変化していないのに対して,「最も低い」と「低い」はそれぞれ5%以上減少し,代わって「ふつう」が大きく増大した。当然のことながら,「低い」という評価は威信スコアの低い職業に多い。それらの職業で「最も低い」および「低い」の比率が大きく減少した。それが回帰係数0.8(1未満))となった原因である。
 それでは,なぜ「低い」という評価が回避されるようになったのか。基本的に二つの理由が考えらえる。第1に,高度経済成長を経て人びとの所得水準や学歴水準が上昇したことにより,かつては明白であった職業と社会経済的生活条件との結びつきが薄れた。「低い」という評価は,しばしば「貧しい」と同義である。職業間の格差が消滅したというわけではないが,明らかに「貧しい」職業は見当たらなくなった。それゆえに,「低い」という評価が減少したのである。
 第2に,「職業に貴賎なし」という主の平等主義的イデオロギーが浸透した。これは,一方で「反差別」の運動・宣伝活動・学校教育・法制度等の社会的な動きと,他方で第1の理由として述べた社会経済的生活条件の向上との相互作用によって達成されたものであろう。この立場を徹底させるならば,評定そのものを拒否するか,すべての職業に同じ評価を与えるということが予測される。おのおのの比率は1975年で1.7%と0.7%,95年で2.0%と3.5%と,増加傾向にあるけれども決して大きくはない。しかし,それほど徹底したものではないとしても,同じ平等主義的な感情が「低い」という評価を回避させているのではないだろうか。
 現実には,これらの理由がともに働いているのであろうが,高度経済成長をはさんで生活水準の向上が著しかった20年間よりもその後の20年間のほうが威信スコアの上昇が大きいことから,少なくとも1975年から95年の間の変化には,第2の理由の影響が大きいと考えらえる。



V 職業威信スコアとは何か

 1955年から95年までの40年間にみられた職業威信スコアの変化は,全体としての評価の底上げであり,職業間の評価の序列にはほとんど変化がなかったといってよい。もちろん,細かく検討すれば変化がなかったわけではないが(都築編1998),基本的には「変化がなかった」と述べることは誤りではないだろう。
 これは驚くべき事実である。最初にも述べたように,SSM調査データがカバーする40年間に日本社会は就業構造や職業構造の大きな変動を経験した。そのことが人びとの職業評価に影響しないのだろうか。チューミン(Tumin 1964)は人びとが職業的地位を評価する場合の次元として,(狭義の)威信,好ましさ,人気の三つをあげている。それぞれの次元で高く評価される職業を形容詞で表現するならば,威信は「立派な」,好ましさは「就きたい」あるいは「なりたい」,人気は「カッコいい」ということになるだろうか。これらのうちで,少なくとも好ましさや人気は時代的な変化を予想させる次元である。たとえば,労働市場の状況(従業者数やその変化など)は,好ましさや人気に影響を与えないのだろうか。
 表3は,これらの点を検討するために行った職業威信スコアの重回帰分析の結果である。ここで固体はそれぞれの職業である。職業威信スコアが単に個人意識の総計ではなく,その背後に社会意識が存在すると考えている。独立変数としては,学歴水準(平均就学年数),所得水準(平均個人年収),労働市場占有率(従業者数比率),従業者数の伸び率,雇用者率を用いた(注4)。学歴水準と所得水準は職業的地位を,従業者比率および従業者数伸び率は労働市場状況を示す変数である。雇用者率を加えたのは,人びとの自営業に対する志向との関連を検討するためである。なお,固体数が少ないこともあって平均就学年数と平均年収との相関が極めて高いため,最終的には平均年収は独立変数から除外した。また,職業のうちで農業は従業者数を大きく減少させたとはいうものの,単独のカテゴリーとしては飛び抜けて従業者比率が大きいので,外れ値として分析から除外した。

表3 職業威信スコアの重回帰分析

 3時点の分析結果はほとんど一致しており,就学年数以外の独立変数はどれも有意な効果をもたない。しかも決定計数は極めて大きい。ここでは独立変数としてわずか4変数しか用いていないけれども,かりに別の変数を加えたとしても結果は変わらないだろう。つまり,職業威信スコアの違いはそれぞれの職業の学歴水準(平均就学年数)によってほとんど説明することができ,労働市場の状況など,他の要因の影響は受けないといえる。
 チューミンがあげた職業的地位評価の3次元のうちで,学歴水準と最も関係が深いと思われるのは「威信」の次元である。質問文では評価の次元は指定していないけれども,「高い」とか「低い」という表現は,結局,「威信」の違いを測定している可能性が高い。ただし,かりに職業の好ましさや人気を測定するための質問を用意したとしても,その結果が職業威信スコアと異なり,労働市場の影響を受けて変化するかどうかは疑わしい。たとえば,1975年のSSM調査では,20の職業名をあげて,「こどもに就かせたいかどうか」をたずねている。職業数が極めて少ないことにもよるが,職業威信の場合と同じ方法によってスコア化したものと,職業威信スコアとそのものとの順位相関は0.88と高い(岡本・原 1979)。就職情報誌等でしばしば「就職希望企業」や「人気企業」の調査が行われ,ランキングの変化が話題になるけれども,あれはあくまでも企業ないし産業の好ましさないし人気であって,職業に対する評価とは別物である。職業の「好ましさ」や「人気」は,「威信」に比べれば変化しやすいかもしれないけれども,企業ないし産業の「好ましさ」や「人気」に比較すれば,安定していて変わりにくいもののように思われる。



VI 変わらない職業順列

 それでは,威信スコアに見られる職業間の序列はなぜ変化しないのだろうか。もう一つ,なぜ社会をこえて共通なのかという問いがあるけれども,トライマンの収集したデータには産業化や国民総生産(GNP)のさまざまな水準の社会が含まれているので,なぜ変化しないのかという問いに答えられれば,こちらの問いにもある程度は答えることになるだろう。
 先にも述べたように,直井(1979)は職業威信スコアと学歴水準および所得水準との相関が高いことが明らかにしたが,表4は平均就学年数の推移,表5は平均個人年収の推移を,職業大分類別に示したものである。平均就学年数に関しては,ホワイトカラー的な職業が長くブルーカラー的な職業が短いのは当然であるが,ホワイトカラーの中では専門,管理,事務,販売という序列が一貫して続いている。ブルーカラー的な職業間には明瞭な差異はないが,熟練よりも半熟練のほうがわずかながら長くなっているのは,先にも述べたように,熟練には職人的な職業が多く,半熟練には近代的工場労働に従事する職業が多いからである。なお,若い世代だけをとりだして学歴水準を比較すると,1975年までは高校卒,大学卒の比率に職業間で差異がみられたのに対して,それ以降は高校卒に関しては差異がほとんどなくなり,大学卒に関してのみ差異がみられる。

表4 職業別平均就学年数

表5 職業別平均個人年収

 平均個人年収に関しては,管理,専門,事務・販売,半熟練,熟練,農林,非熟練というおおよその序列が存在するけれども,就学年数ほどには一貫していない。たとえば1955年には専門は販売よりも低くなっている。また,農林は1985年には非熟練よりも低く,1995年には半熟練よりも高くなっている。このように一貫しない面はあるけれども,逆に決定的な変化が起こったかといえば,それもまたないのである。
 戦後日本社会は,職業分布が大きく変化し,学歴水準と所得水準も大きく向上した。しかしながら,職業と学歴および所得の結びつきかた,つまり学歴水準および所得水準に関する職業間の序列は,ほぼ変化していないといってよい。これが職業の総合的格付けである職業威信スコアの序列が変化しない理由ではないだろうか。トライマンは,職業の「高い」とか「低い」という格付けは,それぞれの職業がもつ(広義の)能力(power)とその結果としての特権(privilege)によって決まってくるとしているが,データ分析においては学歴水準を能力の,所得水準を特権の指標として扱っている。職業の能力とは,その活動に付随したり必要とされる知識や技能,経済資源,権威や権限という,希少な社会的資源に関する統制力(control)であり,これが基本的に変化しないのである。
 もちろん,技術革新によって新しい職業が出現することはある。しかし,それらの多くは別の職業が果たしていた機能を代替する形で出現するので,もとの職業と同程度のレベルに格付けされる。また,類似の知識や技能を伴う職業と同程度のレベルに格付けされることもある(たとえば,新しいタイプの技師は,従来から存在する他の技師と同程度に格付けされる)。いずれにしても,職業の格付けには大きな変動を引き起こさない。
 さらにトライマンは,職業威信スコアが社会間でも時点間でも安定しているのは,社会が存立するために要請され,職業という形で専門分化して担われる機能が,多少とも複雑な社会であれば共通でしかも変化しないからであり,したがって基本的に産業社会であるか否かを問わないと主張しているけれども,この点についてはさらに検討が必要であろう(Treiman 1977)。
 最後に,職業威信スコアの安定性がもっている意味について,1点だけ指摘しておこう。フェザーマンら(Featherman, Jones and Hauser 1975)は,親子間の総職業移動量のうちで,産業構造の変動(たとえば労働力の需給関係の変化)によって引き起こされざるをえなかった移動量(構造移動量)を除いた移動量,つまり人びとの意欲と社会制度との相互作用によって決まってくる社会の開放性の程度を示す移動量(循環移動量)は,産業化論の主張とは異なって,変化せず一定であると主張した(FJH命題)。このFJH命題が戦後日本社会さらには昭和初期にまでさかのぼってほぼ成立することが,多くの分析によって確かめられているが(今田 1989;原 1998),その理由の一つは,少なくとも近代産業社会における職業の格付け序列が変化しないことにあるだろう。格付けの序列に変化がないとすれば,人びとの職業に対する志向にも決定的な変化はないと考えられるからである(原・盛山 1999)。
 また,その職業威信スコアは学歴水準と高い相関がある。職業威信スコアが安定しているということは,いわゆる「地位の高い」職業に到達するためには学歴が決定的に重要であり続けるということである。その意味では,「受験地獄」や「進学過熱」がすでに明治時代からいわれていたのも当然であるし,今日の「学歴社会」状況が強まりこそすれ弱まるということはないであろう。
 このように,職業威信スコアの安定性が示す「変わらない職業序列」は,他のさまざまな現象とは無関係で独立した現象では決してないのである。


(注1) 本稿の議論で主に用いられるデータは,1955年以降,10年間隔で実施されてきている「社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)」データである。SSM調査データの使用については1995年SSM研究会の許可を得た。ただし,女性が調査対象となったのは1985年の調査以降であるため,女性を含めた時系列分析には限界がある。以下で示すデータもすべて男性のみのものである。なお,SSM調査については原・盛山(1999)を参照。

(注2) 職業大分類間の序列は,後でふれる1955年調査では専門と管理の間には差がない。これは意識の変化というよりは,全体の職業数が少ない(したがって各カテゴリーに含まれる職業数も少ない)ことの影響と考えられる。

(注3) それぞれの調査の標本数は,2014(55年),1296(75年威信),1214(95年威信)である。ただし,1955年調査の職業の格付けに関しては,個人データを得ることができない。保存されている調査票でも,格付けの回答部分だけが切り離されて紛失してしまっている。幸い,職業威信スコアは報告書(日本社会学会調査委員会編 1958)に記載されている。

(注4) 職業としては,3時点でほぼ対応づけが可能な(必ずしも同一の名称ではない以下の29職種を用いた。医師,印刷工,会計事務員,機械工業技術者,行商人,漁業者,警察官,小売店主,採炭夫,指物師,自作農,自動車修理工,市役所課長,住職,小学校教諭,商店員,炭焼夫,施盤工,大会社課長,大学教授,大工,中小企業課長,鉄道駅員,道路工夫,土木建築技師,パン製造工,紡績工,保険誘導員,理髪師。
   独立変数のうち,就学年数と個人収入についてはSSM調査データを集計して求めた。労働市場占有率,就業者数伸び率,雇用者率は国勢調査から得た。


参考文献
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原純輔・盛山和夫(1999)『社会階層−豊かさの中の不平等』 東京大学出版会。
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直井優(1979)「職業的地位尺度の構成」。富永健一編『日本の階層構造』東京大学出版会:434-472。
日本社会学会調査委員会編(1958)『日本社会の階層的構造』有斐閣。
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Tumin, Melvin M., (1964), Social Stratification, Prentice-Hall(岡本英雄訳『社会的成層』至誠堂,1969).
都築一治編(1998)『職業評価の構造と職業威信スコア』1995年SSM調査研究会。


はら・じゅんすけ 1945年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程中退。東北大学文学部教授。主な著書に『社会階層−豊かさの中の不平等』(共著,東京大学出版会,1999)など。社会学専攻。

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