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詳細情報 F2001050122
論文題名 女性のキャリア構造の特性と動向
−カナ題名 ジョセイ ノ キャリア コウゾウ ノ トクセイ ト ドウコウ
分類 職業一般
著者氏名 盛山 和夫
−カナ著者氏名 セイヤマ カズオ
掲載誌名 日本労働研究雑誌
−巻号 472巻
−発行年月 1999年10月
−発行元 日本労働研究機構
登録年月 2001年5月現在
内容抄録 (著者抄録)
未婚・晩婚化,少子化,高学歴化など,近年の女性と家族の巨大な変動を示す諸統計は,女性の就業構造自体も同様に大きな変動にみまわれていることを推測させる。しかし,ミクロ・レベルのキャリア移動のデータからは,女性のキャリア構造が変化したことの実証はえられていない。本稿は1995年SSMの職歴データを用いて,30代〜50代に関して,男女比較,世代間比較,学歴間比較を行い,以下のような知見をえた。(1)女性は男性と比べて「転職(企業間移動)ハザード」ではなく,「初職からの非定動化ハザード」が高く,それがもっとも高いのは就職後3〜5年目,また男女差がもっとも激しいのは6〜9年目の時期である。(2)この基本構造は,コーホートと学歴によって,大きくは変わらない。(3)ただし,30代の大学卒女性には,他の女性と比較して相対的に,やや「定動」タイプが拡大しつつある兆候がみられる。

(論文目次)
I はじめに
II 女性の就業等の基本トレンド
III キャリア構造における男女の違い
IV 非定勤ハザードと転職ハザード
V 時代変化と高学歴女性の動向
全文情報

I はじめに

 現代日本社会において女性のキャリア構造の歴史的な大変動が進行中だという認識は多くの人々の共有するところであろう。高学歴化,未婚化・晩婚化,少子化など,それを推測させるマクロな統計データには事欠かない。しかし,では就業行動にどのような変化が生じつつあるかについては,案外に正確な知識はえられていない。鳴り物入りの男女雇用機会均等法にしても,それによって何か明確な効果があったという報告は少ない。実証研究の多くは,どちらかといえば就業行動やキャリア構造の変わらなさのほうを強調している(平田1995:49-50;今田1996;田中1996,1997)。むろんここにはさまざまな問題や要因がある。一つには,1990年代に入ってから長く続いている経済不況が女性にとっても雇用環境を厳しくしていることは否めない。さらに,高学歴化が進んだといっても女性の大多数は依然として高校卒以下である。そして,2割強を占める短期大学卒は不況とオフィスの合理化の影響を直に受けている。
 もう一つ注意する必要があるのは,データのタイムラグの問題である。高学歴化と少子化とはほとんどリアルタイムで観測される。大学へ進学した女性の多さはまずキャンパスで実感され,ついで,文部省の学校基本調査で統計的に確認される。出生の少なさは出生数や合計特殊出生率で翌年には発表され,6年後には小学校で実感となって現れる。それに対して,たとえば未婚化・晩婚化はコーホートが一定の年齢を経過しないと判明しない。かつて合計特殊出生率が低下し始めたころに,それが「子供を産まない夫婦,とくにDINKSの増大」のせいだと誤って解釈されたのにも,そうした背景がある。
 キャリア構造もそうした性質を持つ。20代女性のキャリア構造は,彼女たちが20代の間は観測できない。たとえば,1985年の4月に高校3年生だったコーホートは,四年制大学を卒業するのは1990年であり,1995年にはまだ27歳である。逆にみれば,1990年現在で40歳に達していてそのキャリア構造がほぼ確定して見えるのは,1985年の4月に26歳かそれ以上の人々であって,初職就業段階では雇用均等法が存在していなかったコーホートなのである。
 本稿が依拠するのは1995年SSM調査データであるが,これはキャリア・データとしては今日の最新のもののうちにはいる。しかし,このデータでキャリア構造の分析のために使えるのはせいぜい30歳以上のサンプルである。それは,今日20代後半から30代前半の女性たちにおいてリアルタイムで起こりつつある事態からすれば,ほぼ10年古いコーホートだといわざるをえない。
 こうした制約にもかかわらず,本稿は女性のキャリア構造の特性を記述しその動向を考察することを目的とする。実は,キャリア構造を分析する方法はまだ十分に発達しているとはいいがたい。キャリアに関するデータ自体が多くはなく,それにアクセスできる研究者も限られている。イヴェント・ヒストリー分析(生存時間分析)は一つの新しい有効な技術であるが,それを機械的に適用しても実際に何が起こっているのかをみるのは難しい。ここでは,今日的な問題関心からすればデータはやや古いけれども,女性のキャリア構造を分析する一つの概念枠組みを構成し,それによって現象を的確に記述することをめざす。ただし,ケース数が限られていて,複数の要因を識別することが難しいため,必ずしも要因について深くは分析しない。



II 女性の就業等の基本トレンド

 データ分析にはいる前に女性の就業等にかかわる1995年までの基本的なトレンドを確認しておこう(詳しくはSeiyama 1998)。
 (1) 高学歴化。図1に男女の進学率の推移を示した。女性の大学進学率の変化カーブには,1960年,1975年,および1986年の3時点に変曲点が存在することがわかる。この図から1995年の年齢コーホートごとの進学率を推定すると,女性の大学進学率は,20代で14%程度,30代で11%程度,40代ではせいぜい7%程度しかなかったことがわかる。1995年では−むろん今日でも−大学卒は女性の中の少数派なのである。他方,データでは示していないが,30代以下はほとんどが高校に進学しているため,中卒者が例外的存在になってしまっている。巨大な変化が起こったわけだが,その分,高年齢コーホートには大卒者が,若年コーホートには中卒者がほとんどいない。これは,同一フォーマットで学歴要因の効果を分析することを困難にしている。

図1 進学率の推移

 (2) 大卒者の進路の変化。女子の四年制大学卒業者の進路がやはり1970年代に大きく変化した。「学校基本調査」のデータから集計すると,1960年代には教員と無職とで卒業者の過半数を占めていた。それらはともに1970年代以降減少していって,事務職と専門技術職の割合が拡大し,1990年には後者のほうが過半数になった。
 (3) 未婚化・晩婚化・少子化。これは周知のことであるが,合計特殊出生率の動きをみると二つの局面に分けられる。それは1974年から低下し始めたものの1984年までは1.8の水準を保っていた。その後再び低下局面に入って,今日まで下げ止まっていない。第1の局面はおそらく団塊の世代とその次の数歳のコーホート,すなわち1995年の年齢で,大体40代に当たるコーホートによって生じており,第2の局面はそれ以降のコーホートによって担われていると考えられる。
 (4) 若年層の労働力率の増加。「労働力調査」によると,25-29歳の女性の労働力率は1975年まで一貫して低下してきたが,その後急速に上昇に転じ,75年に約43%であったものが95年には67%にも達している。30-34歳層も増加傾向を示しているが変化幅は小さく,45%が55%に上昇した。1980年の30-34歳層は,団塊の世代を含む1946-50年出生コーホートに当たる。
 以上の諸変化を総合的に考えると,近年の女性キャリア構造の変化は,まず団塊の世代の女性たちによって方向転換され,その後の世代によって加速されていったものと推察される。



III キャリア構造における男女の違い

 ここからの分析は,主として1995年SSM調査データのA票を用いる。これは,個人の職業経歴データとして管見の限りもっとも新しいものの一つである。ただし,サンプル数が少ないという制約がある。20〜69歳という幅広い年齢を含みながら,男性1248,女性1405のサンプルしかない。一見すると多そうだが,コーホートに分けて諸要因を識別しようとするととたんに困難に直面する。また,職歴データは回顧データであるため,各回答者の報告を100%真に受けることはできない。一般的に,各人にとっての古い時代の出来事ほど概略的に報告されている傾向があると予想しておいたほうがいい。
 次に,すでに述べたように若い人にとってはキャリアが確定していないと考えられるため,そして60歳以上は時代がかなり古いものになっているため,以下の分析では考察を30〜59歳のサンプルに限定することにした。
 なお,年齢を30歳以上に限定したのでサンプルのほとんどが既婚(30代で92%)であり,結婚・育児イヴェントの分析はここでは行わない。
 このようにして,以下の分析で扱うデータは,次のようなコーホート構成になっている(表1)。

表1 サンプルの構成

 キャリア構造が男女で異なることは当たり前すぎて,今さら分析しようという気にはならないテーマではあるだろう。しかし,実際にどの点でどのように異なるかを実証した研究はほとんどない。多くのジェンダー格差研究は,せいぜい被雇用者の賃金(給与)を対象にしているにすぎない。女性に無職が多いこと,中途退職が多いことは自明のこととして知られているが,他方,たとえば中途退職は男性と比べてどの程度多いのかは明確にはなっていない。
 次に示すのは,1995年SSM調査における職歴データの基本変数の男女別およびコーホート別のメディアンである(表2)。「職歴段数」というのは,初職から現在職までのあいだで,従業上の地位,勤務先企業,職種,もしくは役職に関するいずれかで異なる就業状態を経験した数を表しており,ずっと無職の場合が「0」である。また「企業数」というのは,就業経歴において経験した異なる企業の数である。

表2 職歴段数と企業数の性別・コーホート別メディアン

 男性と女性とでいくつかの違いが検出される。第1に,50代を除けば,女性のほうが職歴段数も企業数も多い。第2に,男性のほうは年齢が上がるにしたがって職歴段数も企業数も順当に増加しているのに対して,女性のほうは50代で逆に減少する。
 表3は,学卒後初職の分布を男女別に示したものである。職業カテゴリーは,女性を主対象とするため,パートや無職をカテゴリーとして独立させ,有職者のカテゴリーを粗いものにした。これをみて驚かされるのは,どのコーホートをとっても一般的に女性のほうが男性よりも「高い」職業に初職としてつく傾向があることである。初職に関する限り,男女格差はむしろ女性にとって有利に働いている。その大きな違いは,常雇ホワイトカラーと常雇ブルーカラーの分布にある。女性は男性と比べると,常雇ブルーカラーではなく,常雇ホワイトカラーに就職する傾向が高いのである。50代層は結婚前無職がかなり多いけれども,全体的な女性上位に変わりはない。

表3 男女別初職分布

 これは,二つの点で奇妙な感じを与える。第1に,学歴に関しては女性のほうが平均的に低いにもかかわらず,初職の職業カテゴリーは上位にあるという点である。第2に,労働市場の一般的構造だけを考えれば,表2でみた女性の転職頻度の高さと矛盾する。なぜなら,ホワイトカラーはそれ自体としては企業間移動がより少ないセクターだからである(盛山ほか1990)。これらのことはむろん,たんに労働市場が実はジェンダーによっても分断されていることを意味していると考えれば納得がいく。いいかえれば,当然のことではあるが,ジェンダー要因は学歴や初職とは独立してキャリア構造を規定しているということである。
 次の表4は,初職企業から退職(退社)した時期の分布である。どのコーホートをみても,女性のほうが早期に初職企業を退職していることがわかる。約4分の1が2年以内に,そして約6割が5年以内に退職している。しかも,女性のそうした傾向はコーホートによって変化しておらず,男性のパターンに近づいている兆候はまったくみられない(30代で「退職せず」が多いのは,初職開始からの期間が短いためである)。

表4 初職企業から退職した時期の分布

 初職のカテゴリー別にみると,もっと興味深いことがわかる。表5がそれを示しているが,ここでは男性において初職カテゴリーによって退職時期の分布にかなり大きな違いがみられるのに対して,女性のあいだでの差は小さい。しかも,男性でもっとも早期退職の傾向の強い常雇ブルーカラーにしても,女性でもっとも長期勤続の傾向の強い専門よりもより長く勤続する傾向がある。

表5 初職カテゴリー別にみた初職企業からの退職時期の分布

 ここでも再び男性と女性とでは基本的にまったく異なるキャリア構造が存在していることを確認させられる。女性の場合,専門やホワイトカラーだからといって,より長期に同一企業に勤務する傾向が生じることは少ない(注1)。それらにしても,6割ないしそれ以上が5年以内には退職していくのである。男性のホワイトカラーの場合,それは3割から3.5割にとどまっている。逆に20年以上もしくは現在までの「終身雇用」型の人々は,40代のホワイトカラーで52.3%,50代のホワイトカラーでも38.7%も存在する。これは,大企業だけでなく中小企業も含めた数値であることを考えれば,やはりこれまでの日本の男性にとって,長期雇用は一つの現実的なモデルであったということができるだろう。
 以上の分析をまとめたものとして,図2のような表し方ができる。時間幅が一定ではないが,初職企業から退職していく様子を30代と40代について,男女別に示した。40代で説明すれば,男性は最初の2年間で17%が退職し,83%が残る。女性は25.3%が退職するが,この期間ではやや多いという程度にすぎない。しかし,次の3年間で大きく異なる。男性は残りのうち23.6%が退職するのに対して,女性は倍以上の55.9%が退職する。さらにその次の4年間の格差はもっと大きい。男性は12.9%しか退職しないのに,女性は47.3%で格差は4倍に達する。このように,初職企業からの「退職ハザード」の男女格差は,勤続後6〜9年目あたりでピークに達するとみられる。こうした傾向は30代でも同様である。

図2 初職企業に残る割合と退職する割合の推移

 この点を明確にするために,40代に関して図2の数値から年平均退職率(%)を求めてみると,男性では四つの期間について,8.9,8.6,3.4,3.0と推移しているのに対して,女性では13.6,23.9,14.8,4.6と推移している(注2)。つまり,男性では1〜2年目をピークにして徐々に低下していっているのに対して,女性では3〜5年目がピークであり,その前後もかなり高い。しかし女性も10年目以降は退職率は低い。これは,結婚・出産を背景とする退職が9年目までに集中し,その間を勤続したケースについては,男性とあまり変わらない退職ハザードを持つのだといえよう(注3)。



IV 非定勤ハザードと転職ハザード

 初職企業を退職していく女性たちはどこへ行くのだろうか。同一職種の別の企業に就職していくのか,それとも労働市場から撤退して無職になっていくのか。実はこの点でも,男女の間に大きな違いが存在する。詳細データは略すが,男性の場合,初職企業を退職しても,ほぼ5割から6割の人が別の企業で同一区分職(いまの場合は,専門,ホワイトカラー,ブルーカラーの3区分でみたもの)につく。無職化するものは3%,パート化を含めても8%程度にすぎない。それに対して,女性の場合,同一区分職で別の企業に移動するものは2〜3割にとどまっており,約5割が無職化し,パート化する人も1割くらいいる。これも,コーホート間で大きな違いはみられない。しかも,いったん無職やパートに移った人では常雇という就労形態に戻ることは少ない。大多数は無職のままか,パートを続けるか,あるいは無職とパートとの間の移動を繰り返すかなのである。
 このようなキャリア・パターンは女性に特有のものである。これを「非定勤就労」と呼ぶことにしよう。「非定勤就労」というのは造語である。一般には「非正規労働」の語で「正社員」でない臨時雇用労働者が意味されており,佐藤(1998)は「非典型的労働」の語で,派遣社員や短時間勤務をそれに加えている。これらは,企業の側からみた区分である。それに対して,ここで「非定勤就労」と呼ぶのは,個人の側が無職も選択肢の一つとして労働市場に柔軟に出入りしたり勤務先を比較的自由に変えたりするような就労のしかたをさしている。これは,「キャリア」の一つのタイプを表現する概念である。本稿では操作的にパート就労と無職とを合わせて「非定勤」とした。本来ならば,二度と労働市場に戻ってこない確定無職を区別すべきだろうが,30歳代や40歳代前半の場合,それまで無職を続けていてもパートに移る可能性は少なくない。このため,とりあえず本稿では両者を含んだ概念として用いる。
 男性に比して,女性の「非定勤就労」タイプが非常に多くなる契機には,理論的にはまず次の二つが区別できる。すなわち,第1は初職の常勤企業を退職するハザードの高さであり,第2は初職企業を退職する際に,他の常勤企業にではなく,無職もしくはパート(非定勤)へ移動するハザードの高さである。
 しかし,初職企業を退職するハザードの中には,一般に常勤企業から無職もしくはパートへ移動するというハザードが含まれている。したがって,むしろ初職企業から退職するハザードを次のように分けて考えたほうがいいだろう。
 初職企業から退職するハザード=
  無職もしくはパートへ移動するハザード+他の常勤企業へ移動するハザード
 これらをそれぞれ「退職ハザード」「非定勤化ハザード」および「転職ハザード」と呼ぶことにしよう。女性において,退職ハザードと非定勤化ハザードが高いことはわかっている。それでは転職ハザードはどうだろうか。この点をみるために,非定勤化を起こさない女性サンプルだけに限定して,初職企業を退職する時期の分布を求めてみた。表6がそれである。

表6 非定勤化を起こさない場合の初職企業からの退職時期の分布(女性のみ)

 この表は,表4の男性表と比較可能である。なぜなら,男性の約90%は非定勤化を起こさないからである。両者を比べると,次のことがわかる。
 (1) 30歳代では,明らかに女性のほうが継続勤務する傾向が高い。2年以内に退職する割合は男性の半分であり,逆に退職せずは男性の2倍に達している。
 (2) 40歳代と50歳代では,やや微妙である。退職せずは女性のほうが多いけれども,20年以上を合わせると男性のほうが多い。これはつまり,20年以上勤務する場合,女性はさらに定年近くまで勤務する確立が高いけれども,男性はなおも途中退職の可能性を残しているということである。
 いずれにしても,非定勤化しないという前提のもとでは,「転職ハザード」が女性においてとくに高いという傾向は存在しない。むしろ,男性よりも低い場合さえある。つまり,女性の「退職ハザード」が高いのは,ひとえに「非定勤化ハザード」が高いためである。このことは,図2でみた女性の10年目以降の退職率の低さとも整合している。非定勤化ハザードは,結婚や出産・育児が集中する時期に高いのである。
 いったん非定勤化した女性が再び定勤化することは少ないと述べた。実際は表7のようになっている。30代の無職が多いけれども,これから先に定勤化したりパート化したりする可能性が残されていることを考えれば,コーホートの差はほとんどないといっていいだろう。40代でみると,専門や常雇のホワイトカラーあるいはブルーカラーを経験するものは25.6%,逆に非定勤セクターにとどまっているものが67.1%で3分の2にのぼる。いったん非定勤化すると,そこから抜け出るのは3分の1なのである。

表7 いちど非定勤になった人で,常雇もしくは自営に移ったことのある割合(女性のみ)

 では,どのような人が再定勤化しやすいのか。一つの重要なファクターはやはり夫の断層である。表7b.には,夫の学歴別に分布が示されているが,30代と40代では夫が高卒のほうが夫が大卒よりも再定勤化する傾向がある。夫の学歴階層性が明確に影響しているのは,とくに「パート」就労選択に関してであり,学歴が高いほどパート就労を避ける傾向がどのコーホートにもみられる。表としては示さないが,夫の職業階層に関しても階層性がみられる。30代と40代で,夫が専門職である場合に無職にとどまる傾向が大きく,またすべてのコーホートで夫が小企業のブルーカラーの場合にパート就労の傾向が大きい。



V 時代変化と高学歴女性の動向

 これまでみてきた女性の非定勤化傾向および再定勤化の少なさは,表4や表7で明らかなように,コーホートによってほとんど変化していない。これはIIでみたマクロ的な大変化と比べるときわめて意外なことであろう。この変わらなさははたして学歴別でもそうなのだろうか。結論的にいえば,基本的には女性の学歴によってそう大きくは違わない。しかしまったく違いがないかといえば,必ずしもそうでもない。
 まず,学歴別の現職分布をみてみよう。表8では50代は大卒が少ないので除いてある。40代の大卒の無職率は他と変わらないが,パートが少なく,専門+常雇ホワイトの割合は高卒以下を上回っている。30代では無職も他より少なく,専門+常雇ホワイトの割合は短大以下よりも多い。40代と比べると,短大以下に比して「定勤」型の多さがより顕著になりつつあるといえるかもしれない。それに対して,短大卒以下では定勤型はやや低下気味の可能性がある。

表8 現在職の学歴別分布(女性のみ)

 次に,初職からパート・無職の非定勤型に移動する割合,および,いったん非定勤化したあと,再び定勤型に戻る割合を学歴別に示すと,表9のようになっている。ケース数が少ないので断定しにくいが,30代・40代とも,大学卒は短大卒以下よりも非定勤化しにくいといえるだろう。

表9 学歴別の非定勤化と再定勤化の傾向(女性のみ)

 再定勤化する傾向については40代の大卒は他とあまり変わらないが,30代の大卒はその傾向がやや強い,といえるかもしれない。
 全体として,何が変化したといえるだろうか。大学卒の30代と40代の女性についてキャリア構造の全体像を図3に示してみた。30代の非定勤セクターの人はまだこれから定勤セクターに移動する可能性が残されているが,定勤への傾向があるといえるのは,唯一結婚前無職の割合が減少している点だけである。したがって,表8の現在職で大卒にやや定勤セクターの拡大傾向がみられるのは,30代で結婚前無職が減少したためだということができる。

図3 大卒女性のキャリア構造(上段30代,下段40代)

 他の学歴でも,結婚前無職の人の数は,短大卒の30代で3名,40代で3名,高卒の30代で2名,40代で11名であり,これらの数値と表9とを用いて同様の図を描くことができる。それは省略するが,次の傾向が見て取れる。短大卒は結婚前無職率は7.7%から5.2%へとほんの少し減少しているが,非定勤化は66.7%から72.7%へと拡大しており,再定勤化はまったく拡大していない。高卒も結婚前無職率が4.5%から1.2%へと減少しているが,非定勤化は74.0%から78.7%へ拡大し,再定勤化の拡大はやはりみられない。
 このように,短大卒以下はどちらかといえば非定勤化への傾向が強まっている。それに対して,大学卒ではもともと非定勤化がやや弱いことに加えて,初職無職が減少して,わずかながら定勤化への傾向がみられる。ただし,30代のサンプルは,定勤型の人をやや過少代表している危険があることと,現在非定勤セクターにいる人が将来定勤セクターに移る可能性が残されていることから,多少割り引いて考えなければならない。それらを考慮したうえで,なおいえるのは次の点であろう。
 (1) 全体として,30代女性が40代よりも定勤化している傾向はみられない。
 (2) ただし,学歴別にみれば,大学卒女性は他の学歴の女性よりは,定勤化の傾向が相対的にやや強くなっている可能性がある。
 (3) また,大学卒女性は30代,40代とも,非定勤化しない傾向がある(注4)
 冒頭に述べたこの20年くらいの結婚や学歴における女性の変化と比べると,以上の分析結果はきわめて意外な感を与えるだろう。これにはむろん,研究のタイムラグなどデータ上の問題が多少は関係しているだろう。しかし,次のような構造的要因の可能性も否定できない。
 (1) 四年制大学卒の女性が必ず職業キャリア志向だとは限らない。(a)一般的に知られているように,女性の就業を促す最大の要因は家計上の問題であり(注5)(ダグラス=有沢の法則),高学歴女性は高い階層の男性と結婚する可能性が高い分だけ,就業意欲を減じられる。(b)さらに,高学歴であるほど「学歴に見合う職業」への選好が強く,ある範囲内の職業かさもなくば無職かという選択性が高いだろう。(c)高学歴を達成するための経済コストからすれば無職の機会コストが高くなるが,日本の現状ではこのコストは親が負担しているのであって,本人には関係がない。
 (2) 短大卒以下の女性にとっては,特定の専門職を除けば,「職業キャリア」が意味を持つ度合いはそう高くないと思われる。
 (3) 就業率が高くなることと定勤型就労が増大することとは必ずしも結びつかない。
 これまでのデータが示しているのは結局パート型あるいは非定勤型の就労が拡大してきている可能性である。予測を交えていえば,これは未婚や晩婚の増大にもかかわらず進行していく可能性がある。企業の雇用制度自体がマクロ的に男女を問わずその方向に動きつつあるし,柔軟な就労形態を選好する女性はこれからむしろ多くなる可能性もある。
 いずれにしても,いま現在何が起こっているかが正確にわかるのは数年先になる。そのとき,キャリア構造の新しいトレンドが見いだされるかどうかは,将来の研究に託したい。


(注1) 平田(1998)は同じデータを用いて,勤務先を辞めるハザードがむしろ事務職で高いことを示している。


(注3) 篠塚(1996:表7−1,p.128)は「賃金構造基本統計調査」から1994年の学歴別・性別の定着率を年齢層別に計算している。この手のデータとしては貴重なものだが,各年齢層の定着率は「当該年齢の初職からの勤続者数+当該年齢の労働者数」で求められた近似的なものであり,むしろ「勤続者率」というほうが正しい。実際,篠塚のデータでは高卒男性と大卒女性の定着率がほとんど変わらないが,これはわれわれのデータと異なる。こうなった理由は明らかに,大卒女性はいったん退職したら再びこの調査の対象となっている一般企業・事業所セクターに戻ってくることが少なく,分母が小さくなるのに対して,高卒男性は再び別の企業に雇用されることが多いからである。

(注4) 赤地(1998:22)は,現在の就業率は,夫学歴が高いほど低く,本人学歴が高いほど高いことを示している。

(注5) 大沢(1998)は,ダグラス=有沢の法則からすれば,社会が豊かになるほど女性の就業率が低下しなければならないとするが,「家計上の必要」は一つの社会の中で文化的に規定されるのであって,継時的ではなくクロス・セクショナルな傾向性を意味していると考えるべきだろう。


参考文献
赤地麻由子(1998)「既婚女性の地位達成過程における世代的変化−ライフコースの視点から−」盛山和夫・今田幸子編『女性のキャリア構造とその変化』(1995年SSM調査シリーズ12)1995年SSM調査研究会:17−32。
平田周一(1995)「女性の職業経歴:ライフコースの変化」日本労働研究機構編『職業と家庭生活に関する全国調査報告書』:38−59。
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今田幸子(1996)「女子労働と就業継続」『日本労働研究雑誌』No. 433:37−48。
大沢真知子(1998)『新しい家族のための経済学−変わりゆく企業社会の中の女性』中央公論社。
佐藤博樹(1998)「非典型的労働の実態−柔軟な働き方の提供か?−」『日本労働研究雑誌』No.462:2−14。
Seiyama, Kazuo(1998) “Trends of Educational Attainment and Labor Force Participation among Japanese Women” 盛山和夫・今田幸子編『女性のキャリア構造とその変化』(1995年SSM調査シリーズ12)1995年SSM調査研究会:109−125。
盛山和夫・都築一治・佐藤嘉倫・中村隆(1990)「職歴移動の構造」直井優・盛山和夫編『現代日本の階層構造 1 社会階層の構造と過程』東京大学出版会,5章:83−108。
篠塚英子(1996)「高学歴女性は男性を労働市場から締め出したか」利谷信義・滝沢雍彦・袖井孝子・篠塚英子編『高学歴時代の女性』有斐閣:119−138。
田中重人(1997)「高学歴化と性別分業−女性のフルタイム継続就業に対する学校教育の効果−」『社会学評論』第48巻2号:130−142。
──(1996)「職業構造と女性の労働市場定着性−結婚・出産退職傾向のコーホート分析−」『ソシオロジ』第41巻1号:69−85。

せいやま・かずお 1948年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。東京大学大学院人文社会系研究科教授。主な著書に『制度論の構図』(創文社,1995年)など。社会学専攻。

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