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詳細情報 F2001100035
論文題名 増加する若年非正規雇用者の実態とその問題点
−カナ題名 ゾウカ スル ジャクネン ヒセイキ コヨウシャ ノ ジッタイ ト ソノ モンダイテン
分類 雇用問題一般
著者氏名 小杉 礼子
−カナ著者氏名 コスギ レイコ
掲載誌名 日本労働研究雑誌
−巻号 490号
−発行年月 2001年5月
−発行元 日本労働研究機構
登録年月 2001年10月現在
内容抄録 (著者抄録)
「フリーター」を雇用・労働の面からとらえると、日本型雇用慣行に対応した新規学卒就職・定着型のキャリアモデルの対極にある若年期のあり方だといえる。ここでは非正規雇用者として「フリーター」をとらえることにし、まず、その属性と趨勢を整理し、実態調査から、高校卒業段階での非正規雇用選択のメカニズムの解明を試みた。また、別の調査から大学卒業時に就職しなかった者のその後の正社員への移行を検討した。これらの検討から、若年非正規雇用者の増加は、日本の非正規雇用が低賃金・低技能労働に集中するため能力開発やキャリア探索への障害になる、非正規雇用選択の背景に社会的な不公平が考えられる、非正規雇用後のキャリア形成の道筋がないなどの問題をはらんでいると考える。
(論文目次)
I はじめに
II 若年非正規雇用者の実態
III 学校卒業時の進路決定と非正規就業
  1 求人減と旧来の就職プロセスからくる要因
  2 高校生の意識・行動とフリーター選択
IV 大学卒業後の非正規雇用とキャリア形成
V わが国における若年非正規雇用増加の問題点
参考文献
全文情報

I は じ め に

 「フリーター」の増加が注目を浴びている。2000年の『労働白書』では,「フリーター」を学生でも主婦でもなくて,アルバイトやパートタイムで就労しているか,そうした就労を希望している15〜34歳の者とし(注1),その数を151万人と推計している。さらに,その近年の増加は著しく,1992年から97年の5年間で1.5倍になったとも指摘している。
 また,「フリーター」を学校卒業後,就職も進学もしない者とする考え方もあるが(注2),こうした若者の増加も著しい。2000年3月学校卒業者では,高卒者で13万人,短大卒4万人,大卒12万人にのぼり,92年と比較すれば,それぞれ1.6倍,2.5倍,4.8倍になっている(文部省,各年)。
 「フリーター」という言葉は,1980年代後半にアルバイト情報誌によって造られ,当初は,学校を卒業してもあえて定職に就かずアルバイトで働く若者たちを意味した(注3)。しかし,現在ではより広範に使われ,人により指すものが異なることもある。おおかたの共通した認識といえるのは,若者であること,そして,学校卒業と同時に正社員として就職し,定着している者でないことではないだろうか。日本型の長期雇用慣行と結びついた,新規学卒で採用され,同一企業内でキャリアを展開するというモデルとは明らかに異なるのが「フリーター」である。
 「フリーター」をめぐっては,雇用・労働の問題としてばかりでなく,教育や家庭,若者文化など様々な側面から議論がされているし,様々な要因が絡んでの現在の増加であると私も考えている。ただ,雇用・労働の面からとらえるとき,重要なのは,日本型雇用慣行が変質するなかで増加してきた,これまでのキャリアモデルの対極に位置する若年期のあり方だということではないだろうか。
 こうした問題意識から,本稿では正社員以外での雇用者,すなわち非正規雇用者という面から「フリーター」をとらえることにし,どういう若者がなぜ非正規雇用者になるのか,および,若年非正規雇用者の増加にはどういう問題点があるのかを検討したい。なお,女性では「主婦パート」の問題と切り離して議論する必要から,結婚していないことをここで取り上げる若年非正規雇用者の条件とする。
 本稿の構成は以下のとおり。II 若年非正規雇用者の実態と趨勢を政府統計から整理し,性・年齢・学歴・地域等の諸属性を記述する。III なぜ非正規雇用者になるのかを,学校卒業時の進路決定プロセスの分析から検討する。IV 卒業時に正社員就職しなかった場合,その後正社員として雇用されているのかを検討する。V 若年者が非正規雇用者となることの問題点を整理する。



II 若年非正規雇用者の実態

 まず,若年のパート・アルバイト雇用者およびそれ以外の非正規就業者が現在どのくらいいるのかを検討する。2000 年の『労働白書』の推計の原資料は1997年「就業行動基本調査」(総務庁)であるが,より最近の資料としては「労働力調査特別調査」(総務庁)が使える。その2000年8月調査から,パートあるいはアルバイトの名称で雇用される者,および,派遣社員や嘱託などその他の非正規雇用者の数と比率を表1に示した(在学中の者を除き,女性については無配偶の者を取り出している)。

表1 性・年齢別パート・アルバイト比率,非正規雇用比率(在学者を除く)

 『労働白書』に合わせて15〜34歳のパート・アルバイト就業者数を求めると,男性が83万人,女性が110万人で,合計すれば193万人となる。『白書』と定義がずれるところはあるが,97年以降もさらに増加しているのだろう。また『白書』と同様女性が6割を占めている。
 ここでは,同年齢層雇用者に占める比率に注目したい。24歳以下の非正規雇用比率は男性が20%,女性で26%となっている。これは高い比率なのだろうか。男性の場合,パート・アルバイト比率も非正規雇用比率も35〜54歳層では非常に低く,この年齢層の雇用者であればほとんどが正社員であることを示している。これを標準に考えれば20%は非常に高い。一方女性は,無配偶のみでも,25〜34歳の25%が最も低く以降はもっと高い。結婚していれば,年齢にかかわらず半数かそれ以上が非正規雇用である。無配偶の24歳以下の女性の非正規雇用比率はむしろ低い。30代以降の就業状況は性により大幅に異なり,このことを考えれば,若年期の非正規雇用の持つ意味は性によって大きく異なるといえる。
 問題にされているのは「フリーター」の増加である。変化という視点から見てみよう。表2に示すとおり,この10年間で,15〜24歳のパート・アルバイト比率は男女とも10%以上も上昇した(総務庁,各年)。さらに,25〜34歳層でも90年代後半にはパート・アルバイトおよびその他の非正規雇用の増加が見られる。男女ともに,24歳以下の特に若い層でパート・アルバイト比率が急激に高まり,次第に20歳代後半にもおよびつつあると理解できるだろう。24歳以下の特に若い層で正規雇用比率がここまで下がっているのは,なぜか。90年代を通じて起こったこの変化の背景には,まず,氷河期とまでいわれる新規学卒市場の冷え込みがあると思う。新規学卒時には一般市場より良好な正規雇用の機会があり,これが日本型長期雇用の入り口であると考えられてきたが,90年代はじめから一貫して市場は冷え込み,厳選採用が続いている。これが,24歳以下の最も若い年齢層の雇用に及ぼした影響は大きいだろう。学校卒業時点での職業への移行に注目する必要があろう。

表2 若年層のパート・アルバイト比率およびその他非正規雇用比率の推移

 パート・アルバイトやその他の非正規雇用者について,学歴と地域別の特徴を見ておく。
 非正規雇用者の学歴は,表3のとおり,男女とも高校卒業の者が多い。特に,パート・アルバイト雇用者に限れば過半数になる。派遣等の他の雇用形態はむしろ高等教育卒業者に多い。なお,この調査では専門学校は大学・高専に含まれ,高校中退者は中卒に,大学や専門学校中退者は高卒にそれぞれ含まれる。
 また,同年齢・学歴の雇用者中の比率で見ると,学歴が低いほど非正規雇用比率は高い。この調査の規模から考えて,中学卒の年齢階層別雇用者数では誤差も小さくはないが,それを考慮しても中卒者の非正規雇用比率は高い。一方,大卒者については,90年代半ば以降,学校卒業直後の無業率(卒業後,就職も進学もしない者の比率)が急上昇して最近では20%を超えて注目を集めている(文部省,各年)。正社員就職していないのであるから,非正規雇用者になる確率が高いと思われるが,表3に見るように,ストックとしての非正規雇用者の中ではその割合はけっして大きくない。特に,25〜34歳層で見れば,男女ともその比率は他の学歴より一段と低い。さらに,同様に失業率を採ってみたが(表4),年齢・学歴別の傾向は非正規雇用率とほぼ同じである。大卒者の場合は,大学卒業時に非正規雇用や失業状況であったとしても,20代後半以降までには正規雇用される場合が多いのではないかと思われる。

表3 性・年齢・学歴別パート・アルバイト比率,非正規雇用比率(在学者を除く)

表4 性・年齢・学歴・性別失業率(在学中を除く)

 また,非正規雇用者は全国に均一に存在しているのではない。97年の「就業構造基本調査」から,15〜24歳層について,都道府県別のパート・アルバイト比率(同年齢の在学者および役員を除く雇用者数を100としたときのパート・アルバイト雇用者の比率,女性については無配偶の者のみ)を計算すると,沖縄県の29.6%から秋田県の4.2%まで,大きな散らばりのある数字になった(図1)。10位までの最も若年パート・アルバイト率の高い都道府県は,沖縄を除けば,東京,神奈川,埼玉,千葉の首都圏と,和歌山,京都,奈良,大阪,兵庫の関西圏が占めた。フリーターは明らかに都市集中型である。

図1 パート・アルバイト比率・15〜24歳・男女(在学中を除く)

 以上,統計から把握できる若年非正規雇用者の属性をまとめると,(1)女性のほうが多い,(2)20代前半までが多いが,次第に20代後半以降の者が増えている,(3)学歴は高卒の者が過半数である,(4)首都圏,関西圏に集中している。



III 学校卒業時の進路決定と非正規就業

 1 求人減と旧来の就職プロセスからくる要因

 20代前半までの若い層の非正規雇用比率,特にパート・アルバイト比率が急激に高まっていることを見たが,その大きな要因は,学校卒業時に正規雇用者になる者が減りパート・アルバイトに就く者が増加していることであろう。この節では,学校卒業時点に注目して,どういう背景のもとにパート・アルバイト雇用者になっていくのかを検討するが,ここでは,首都圏の高校生に焦点を置く。マクロデータで見たとおり,若年非正規雇用者の中核をなす部分が彼らであるからである。
 用いるデータは,日本労働研究機構が2000年1月に首都圏の高校3年生を対象に行ったアンケート調査の結果である(注4)。
 まず,調査対象の高校生では,卒業後に「フリーター」(注5)になることを予定している者が12%を占めた。就職希望だが内定をもらえていない者や進路未定の者からフリーターになる者が今後さらに出ると思われるので,卒業時点では2割前後がフリーターになるのではないかと予測される。
 彼らのフリーター選択の背景にあるものとして,まず第1に挙げられるのは,就職の難しさである。
 労働省資料によると,近年の就職を希望する高校生の内定率は3月末時点で90%台前半と厳しい状況になっている(労働省職業安定局,2000a)。しかし,高校生が就職からフリーターへ進路変更するのは,そのほとんどがもっと早い時期である。すなわち,本調査回答者では,全体の52%が,高校在学中のいずれかの時期に就職を希望していた。しかし,調査時点までに就職内定をもらっていたのは27%で,残りの25%は,就職活動までに希望を取り下げていたり(11%),就職活動を始めたものの途中で止めていたり(8%)して,1月の調査時点まで未内定で就職希望を持ち続けていたのは6%である。さらに,就職活動をせずに希望を取り下げたり,就職活動をとりやめた者では,約4割がフリーターになる予定に変わっている。逆に見れば,1月時点のフリーター予定者の約半数がこうした就職を途中であきらめての変更組である。高校生の就職は長期間にわたるプロセスであり,就職の難しさの影響は様々な段階に現れている(日本労働研究機構,2000b)。
 就職がなぜ難しくなったか。なんといっても,高校生への求人が激減しているからである。新規高卒者への求人数は,92年3月卒業者に対しては168万人であったのに対して,2000年3月卒業者では27万人と,6分の1にまで激減している(労働省職業安定局,2000b)。高校生への求人をとりやめた理由を企業調査から探ると,まず,経営環境の悪化を挙げる企業が多いが,次いで,大卒や専門学校卒等への代替や業務の高度化,あるいは,業務を非正規社員へ移行したことなどが挙げられている(日経連・東京経営者協会,2000)。後半に挙げられた理由は,労働力需要がすでに高卒者以外に振り向けられていることを示し,こうした理由で減った求人は景気が回復しても増加は難しいだろう。
 また,求人の内容の変化も大きい。すなわち,大規模企業からの求人が減り,職種では事務や販売の仕事が減り,また,地域を超えた求人も減っている。もともと高卒就職においては,各学校に直接来る求人申し込みと自校の就職希望者のマッチングを原則としてきた。それがここにきて多くの地域から多人数を採用する大規模事業所の採用が極端に少なくなり地元企業中心の求人に変化したため,地域間の格差が大きくなっている。また,企業が求人数を減らすに当たって,求人を申し込む学校数を絞った結果,新しい学校や普通科高校など特定の高校への求人が際だって減り,学校間格差がこれまで以上に広がっている。高校生の側からすれば,(特に特定の学校においては)これまで先輩が就職してきたような求人がなくなり,応募したい求人が減っている(日本労働研究機構,1998)。
 さらに,高校生の就職は学校による強いコントロール下におかれてきた。求人情報は基本的に学校経由で伝えられ,学校は,一斉に始まる採用試験時に,一人一社ずつ応募するように調整する。最初の受験に失敗した生徒のみ,別の企業への応募機会がある。これが「一人一社制」と呼ばれる慣行である。また,多くの学校では,翌年以降の求人を確保するために,一定水準以下の生徒は他に応募者がいなくても推薦しない内規を持ち,また,企業はこれにこたえてそうした学校が推薦する応募者をおおむね受け入れる姿勢をとってきた。これがこれまでの高校生の就職慣行であった(天野郁夫ほか,1988;日本労働研究機構,1990)。
 高校生が就職希望からフリーターに進路変更する行動は,こうした慣行と労働市場の変化を背景におこっている。再び高校生調査に立ち返って,就職をあきらめたり,内定が得られないでいるのはどんな生徒かを検討してみよう。
 当初就職希望だが内定獲得にいたらなかった生徒は,まず,性別には女子が多く,学科別には普通科が多い。普通科では内定獲得者は就職希望者の半数以下である。また,学校による求人格差が広がっていることを指摘したが,実績のある企業からの求人が少ない学校では内定獲得率が低かった。さらに,本人の成績の自己評価が低い者,また,欠席日数が多い者ほど内定を得られない場合が多い。特に,普通科で,欠席日数が多い生徒や成績の自己評価の低い生徒では内定獲得率が低く,こうした生徒では,早くから就職をあきらめて希望を変えているケースが多い。高校では一般に出席日数や成績が学校推薦の基準になっているため,そうした点で自信のない生徒が早くから自分の就職可能性を低く見積もって方向転換していることが考えられる(日本労働研究機構,2000b)。
 実質的な求人の学校間格差がひろがるなかで,成績と出席による配分のルールが各学校の中で貫かれており,その結果,特定の学校では数多くの生徒が就職希望をあきらめ,進路希望を変えている。
 変更先は約4割がフリーターであることはすでに見たが,この比率は性別で異なる。すなわち女子では5割と多く,男子では3割と少ない。男子では専門学校や大学への進学に変える比率が高い。高校卒業時点での進路変更にはジェンダーバイアスがある。先に見た30歳代以降に大きく広がる性別の雇用実態への認識からといえようが,特に保護者の性役割分業観が影響を与えていることは,女子ではフリーターになる理由に進学費用の高さを挙げることが男子より多いことからも推測できる。

 2 高校生の意識・行動とフリーター選択

 一方,フリーター予定者の半分は就職希望を持ったことがない生徒であった。彼らの進路希望の特徴は,進路について考えてこなかったり,迷っていたとする者が多いことである。労働市場の厳しさとは別の,進路自体を決められないという,むしろ高校生の側の問題がある。
 卒業後に予定している進路別に,就業意識にかかわる質問に対する回答傾向を見ると(表5),フリーターになる予定の生徒には一定の特徴があることが指摘できる。すなわち,「一つの仕事にとどまらずいろいろ経験したい」とか,「自分に合わない仕事ならしたくない」「有名になりたい」という気持ちが特に強いこと,一方,「安定した職業生活」や「人より高い収入」は望んでいないことである。

表5 首都圏高校生の進路予定別の就業意識・進路意識

 自分に合わない仕事はいやだというのは,個性発揮を重視する今の学校教育の中での価値観に沿うものだし,大人の世代と共有できる意識といえるだろう。安定性や高い収入を重視する比率が低いのは,親の経済力が高まり,18歳の彼らが卒業後即収入を得る仕事に就かなければ生活できない状況ではないからかもしれない。いろいろ経験したいのは,個性発揮を最も重要な条件だと考えながら,何が個性かわからず,何をしたらいいのかがわからないからだろう。それが見つかるまではという先延ばしがフリーター選択の理由として挙げられる理由の代表的なものである。また,個性発揮できる方向をバンドやダンスなど,就職以外の他のことに見いだし,そのために,というのもまたもう一つの代表的な理由である。
 高校生活の諸側面についてフリーター予定者の特徴を見ると,欠席が多く,成績は悪い者が多いこと,さらに,部活に参加しない者が多く,週平均20時間近くアルバイトをしている者が多いことが挙げられる(表6)。アルバイトは,夏休み期間等ではなく,平常に授業がある期間に,週4〜5日,一日4〜5時間働いている。欠席や遅刻が多いのもそういう生活実態からは当然かもしれない。見方を変えれば,彼らはすでに高校在学中からパートタイムの労働者なのである。卒業後にフリーターを選ぶのは,これまでの生活の延長でもある。そして,高校生とはいえ,彼らの収入は労働時間に応じて5万円前後にはなっているだろう。少なくない可処分所得を持ち,街の若者文化を担っている若者たちである。若者文化の中に,将来の自分の方向を重ねる志向を持つ者が出てくるのも当然といえるだろう。

表6 首都圏高校生・フリーター予定者の高校生活の特徴

 さて,アルバイト経験によってどんなことを感じたかを別の質問で尋ねている。全体としては,「職場の雰囲気を知った」「社会人としての常識が身についた」などの職業意識啓発の面からはプラス効果といえる感想が多いが,フリーターを選ぶ生徒では,「アルバイトで生活する自信がついた」という感想を持った者も多い。高校時代のアルバイト経験はフリーターへの選択を促進する要因にもなっている。
 こうしたアルバイト経験の広がりは,この調査の対象者特有のものという側面はある。この調査は首都圏の普通科進路多様校を中心に行ったが,都市部以外では高校生のアルバイトはそれほど一般的ではないだろうし,また,首都圏でもアルバイトをする生徒がほとんどいない学校もある。人口が集積した都市部の高校の階層化が進んだ地域で,一定層の学校に集中的に起こっている事態だといえる。
 そして,卒業時にフリーターになる生徒の比率も,学校により大きく異なる。首都圏の普通科進路多様校は,比較的そうした生徒の多いタイプの学校であり,調査自体がそれをねらって設計されている。そうした学校では同時に在学中のアルバイト経験率も高い。首都圏のフリーターになる高校生たちには,高校在学中から実態としてパートタイムの労働者といえる側面を持った者が少なくなく,高校生としての学校へのコミットは比較的小さい。彼らのうち一定層は,「就職」か「進学」かというこれまでの枠組みの中での進路決定をせず,意識の上では,個性発揮を重視する価値観のもとにその発揮の方向を定められないために選択を先延ばしし,あるいは,就職ではない他のこと(特に若者文化の発信者として)に発揮の場を求めて,フリーターになっている。
 高等教育卒業者では高卒者とは異なる新規学卒市場が形成され,就職プロセスも異なる。別の議論が必要であり,ここでは立ち入る余裕はないが,新規学卒求人の減少という事態や個性発揮重視の価値観は共通することと考えられる。就職プロセスでは,個人が活動の主体になる「自由応募」が中心で,昨今は「就職活動をしない学生」が増え,大学関係者を悩ませているという。労働市場の要因と学生の意識・行動の変化の要因の2面があることは高卒者の場合と同じだろう。



IV 大学卒業後の非正規雇用とキャリア形成

 次に,卒業時点で正社員として就職しなかった場合のその後のキャリアについて検討する。高校卒業時無業あるいはパート・アルバイト雇用者の卒業後については,1988年3月高卒者のパネル調査から卒業3年目で約3割が正社員に移行していることが指摘され(労働省,2000),また,1997年3月高卒者については卒業3年後に約4割が定職に就いているという指摘がある(文部省,2000)。前者については,無業卒業者のサンプルが少なく,また後者についてはデータが得られないので,これをさらに細かく検討することはできない。
 ここでは,主にデータの制約から,大卒者に注目して卒業後の就業状況の変化を追ってみよう。用いるデータは,日本労働研究機構が1998年12月から1999年2月にかけて行った,1995年3月大学卒業者に対するアンケート調査である(注6)。
 調査対象者の卒業直後の就業状況を見ると(表7),「正社員」(期限に定めのないフルタイムの雇用者)の比率は60%であり,「無業」は9%,「非正規社員」(アルバイト,パートタイマー,契約社員など有期限の雇用またはパートタイムの雇用者,以下「非正規」とする)は12%となっている。性別では,女性のほうが非正規や無業が多い。

表7 大学卒業直後の就業状況(国内・性別)

 卒業直後に無業や非正規になる者の比率は,卒業した学部系統によって異なり,男女とも「芸術系」「教育系」「人文科学系」で多く,また,男性の「保健医療系」や女性の「その他の社会科学」で多い。少ないのは「工学系」(男女),「経済商学系」(男)である。
 また,大学の所在地や大学の設置者あるいは入学難易度による違いがあった。大卒の場合は,地域の事業所レベルでの採用でなく本社の一括採用が中心だといわれるが,地域の労働市場の状況の影響は大きく,「無業+非正規」の比率は,北海道・東北地方の大学出身者で高く,関東地方で低かった。高卒者の場合は,首都圏での無業やフリーター率が高いが,大卒の場合は異なる。一方,大学の設置者と入学難易度により六つに分類して「無業+非正規」の比率を見ると,私立の入学難易度が低い大学で比較的高かった(日本労働研究機構,2001)。
 卒業後4年近くを経た調査時点では,正社員比率は男性で81%,女性で63%と高くなり,非正規や無業は減っている。卒業時点に非正規や無業であった場合に限ると,男性ではそれぞれ65%,64%が,女性ではそれぞれ48%,50%が正社員になっている。当初から正社員であった場合は,男性の91%,女性の74%が正社員であり,この差は小さくない(表8)。

表8 大卒者の卒業時の就業状況別卒業4年目の就業状況

 出身学部別に見ると,当初から非正規や無業が多かった,「芸術系」「保健医療系」(男),「教育系」(女),および「人文科学系」では,正社員になるまでに時間がかかる者も少なくない。時間がかかる意味は,その専攻が専門職とどう接続しているかで異なる。すなわち,「保健医療系」や「芸術系」「教育系」学部出身者では「在学中に修得した知識・技能を現在の仕事に使って」仕事をしている比率が高く,特定の専門職についての需給関係の問題や制度的要因(=研修医制度や教員での臨時採用の一般化など)から,時間がかかっているといえる。これに対して,人文科学系は移行に時間がかかるとともに,就業職種と大学教育との接続性も薄い。また,設置者・入学難易度別には,卒業直後と同様私立の入学難易度の低い大学卒業者で,非正規や無業の比率が高い傾向があった(日本労働研究機構,2001)。
 以上の検討から,大卒者では正社員就職しなかった者でも卒業4年程度のうちに男性で7割,女性で5割が正社員に移行していること,ただし,相対的に正規雇用への移行が進まない層があって,性別では女性,大学属性では人文科学系の学部,入学難易度の比較的低い私立の出身者であることが指摘できる。高卒者では卒業3年程度で3〜4割が正規雇用に移行していることを示すデータがあることはすでに指摘した。マクロデータで見たとおり,低学歴の者ほど,25歳以上でも非正規就業率や失業率が高く,学歴により正規雇用への移行状況に差があることが考えられる。



V わが国における若年非正規雇用増加の問題点

 では,若年非正規雇用者の増加は憂慮すべき問題なのか。
 先に引用した大卒者調査は実は欧州11カ国と共同で行っている国際比較調査である。この調査から,欧州対象国での卒業者に占める正規雇用(期限に定めのないフルタイム雇用)比率を見ると,わが国に比べて格段に低く,11カ国合計で卒業直後では9%,卒業約4年後の調査時点でも55%にすぎない。若年者の大半が学校卒業と同時に正規雇用されてきたのは,わが国に特徴的な雇用慣行によるもので,国際的には,若年期に有期限パートタイムで雇用されるのはむしろ一般的な傾向でさえあるといえよう。では,「フリーター」などと名づけて特別な注目を注ぐことがおかしなことなのか。
 私は重要な議論だと思う。「新規学卒で就職し企業内で長期にわたるキャリアを展開する」という,これまでのわが国の雇用慣行下のキャリアモデルの対極の存在だからである。国際的に見れば珍しくもない若年期のパートタイム就労だが,わが国の歴史的,社会的文脈の中では「新しい」。若年期にパートタイム就労することが織り込まれた社会では,たとえばパートタイム就労と並行してパートタイムの教育を受けたり,あるいは,高等教育入学前に一定期間パートタイム就労する者が多かったりと,教育と就業の間を行き来しながらキャリア形成を図る道筋がある。あるいはパートタイム雇用の質の問題もある。パートタイム労働がフルタイム労働と同等の法的の位置づけを持ち「正規」の仕事と考えられているオランダでパートタイム就労するのと,日本でパートタイム就労するのとでは,キャリア形成上の意味も違うし,実際の仕事内容や獲得できる職業能力も大きく違うだろう。日本の文脈の中で,急激に拡大しているからこそ,問題として受け止め対応を図らなければならないのだと思う。
 では,何が問題か。一つは,現在のわが国で若年者が就いている非正規雇用が低賃金の低技能労働に集中していることである。「フリーター」への個別のヒアリング調査では経験職種はコンビニやスーパーの販売,ファストフードやファミリーレストランでの接客等の特定の仕事に集中していた(日本労働研究機構,2000a)。また,表9には就業構造基本調査から年齢層別(在学中を除く)の雇用形態による年間所得の違いを見たが,同年齢の正規雇用者に対してパート・アルバイト雇用者では低所得者が多く,また,年齢層が高くなってもあまり上昇が見られない。これに対して,正社員の場合には年齢階層ごとに所得の上昇が見られ,より高い職業能力の発揮を求められる仕事に就いていることがうかがわれる。非正規雇用に長くとどまれば,若年期の重要な課題である職業能力開発が遅滞する可能性である。また,職種が実際には限られていることから,彼らが求めている個性発揮できる職種はなかなか見えてこないという問題もある。「フリーター」になる大きな理由の一つは,個性が発揮できる仕事を求めていろいろな体験をしたいというものだったが,実際にはアルバイトで多様な仕事を経験することは難しい。現状では,若年期の非正規雇用は一定範囲の仕事に集中しており,雇用を通じての職業能力開発の機会やキャリア探索の機会とならない可能性が大きい。ただし,この点は非正規雇用の質が変化すれば変わる可能性がある。

表9 雇用形態別年間所得の分布

 第2には誰が非正規雇用者となっているかの背景に社会的な不公正さが潜んでいないかということである。非正規雇用者は女性に多く,低学歴の者で長期にわたる可能性がある。また,高校では求人減少が著しい学校で正社員就職が難しくなっているし,さらに,進学費用の高さからフリーターを選ぶ層も出てきている。正規雇用の機会は公正に若者たちに開かれているのか。就業に直接かかわる要件以外の制限が背後にないか。特に性の問題については,もともと「新規学卒就職・企業内長期キャリア」というモデルで説明しうるのは男性だけであり,女性は若年期に正規雇用の機会があっても実質的には短期雇用であることが多く,また,中高年では多くが非正規雇用であった。若年期に非正規雇用が広がったところで女性にとっては大きな違いはなく,むしろ女性に特化していた非正規市場に若年男性が加わったという理解もできる。
 第3は非正規雇用からのキャリアがどう形成できるかという問題である。若年期の非正規雇用を経ながらキャリア形成していく道筋がわが国にはあるのか。新規学卒就職を当然視していた社会だけに,それ以外の道筋はほとんどなかったのではないか。図2には,中学卒業コーホートごとに,新規学卒就職しなかった者,すなわち,中退や無業のままの卒業で学校を離れていった者の比率を示した。1985年度中学卒業世代以前も2割前後はそうした若者がいたのだが,彼らは社会からは看過されていた。それが現在3割を超えるまでになった。学校から職業への移行を新規学卒就職以外の形で行う道筋を設計する必要が出てきているのではないか。欧州の例で示したような,パートタイムの労働と教育を結合させながら,時間をかけてフルタイムの就業者へ移行する道筋である。在学中のインターンシップなどもその一環といえる。そう考えると現在の都市の高校生が一面パートタイム労働者であることを別の見方から評価してもいいのではないか。アルバイトをそのままインターンシップに読み替えることは反対だが,在学中のアルバイトもまた職業への移行プロセスの経験の一つとして評価していくべきだと思う。

図2 コーホート別新規学卒就職の枠外者比率


*本稿は小杉(2001)をもとに,大幅に加筆・修正を行ったものである。


(注 1)労働省『平成12年版労働白書』では,次のような定義で,総務庁『就業構造基本調査』(1997)の特別集計によりその数を推計している。すなわち,(1)現在就業している者については,アルバイトまたはパートで雇用され,男性については就業継続年数が1〜5年未満の者,女性については未婚で仕事を主にしている者,(2)現在無業の者については,家事も通学もしておらず「アルバイト・パート」での就業を希望する者。

(注 2)高校教員の間ではこうしたとらえ方をする人が多い。たとえば,埼玉県の高校教諭三村隆男氏は座談会で「就職しなかった者が12万8000人,就職した者が27万6000人ということで,就職した者の半数に近い生徒がいわゆるフリーターとして卒業していく」(『進路指導』第72巻第11号(1999),p.18)と発言している。

(注 3)リクルートフロムエー『若者しごとデータマガジン』(1987)では,〈フリーアルバイター=学校を卒業した後も,自分の生活を楽しむために定職に就かず,アルバイト生活を送る若者達〉,また,同『フリーアルバイター白書』(1988)では,〈フリーアルバイター=学校を卒業後,定職を持たずにアルバイトをしている若者のうち「現在正社員になることを希望しない」者〉,同『フリーター白書』(1990)では,〈フリーター=学生でも正社員でも主婦でもなく,「アルバイト」「契約・派遣社員」として働いている若者のうち,「現在,正社員になることを希望しない者」〉としている。

(注 4)「高校生の進路決定調査」。2000年1月実施,対象は首都圏の高校52校(普通科進路多様校36校,商業科8校,工業科8校)の卒業予定者,有効回収票6855票。併せて「高校進路指導調査」を行い52校から回収。結果は,日本労働研究機構『進路決定をめぐる高校生の意識と行動――高卒「フリーター」増加の実態と背景――』(研究報告書No. 138,2000)として公表している。

(注 5)ここではフリーターを「進学でも就職でもなく,アルバイトやパートなどで生活すること」とした。

(注 6)「高等教育と職業に関する日欧比較調査」。全国の4年制国公私立大学(一部大学院)45校・106学部の1995年卒業者1万1945名を対象に1998年12月〜1999年2月に行った郵送アンケート調査。有効回収票3421票。なお,本調査は,ドイツ・カッセル大学ウルリッヒ・タイヒラー(Ulrich Teichler)教授をプロジェクトコーディネーターとする研究者チームにより,EUの先端的社会経済研究(Targeted Socio-Economic Research)として実施されたヨーロッパの高等教育卒業者調査と,調査時期および調査対象者をそろえ,同一の調査票で行ったものである。ヨーロッパ調査は,オーストリア,チェコ,フィンランド,フランス,ドイツ,イタリア,ノルウェー,スペイン,スウェーデン,オランダ,イギリスの11カ国で実施され,合計約3万票を回収している。



参考文献
天野郁夫ほか(1988)『高等学校の進路分化機能に関する調査』トヨタ財団助成研究報告書。
小杉礼子(2001)「フリーターの現状と課題」『労働時報』2001年3月号。
文部省(各年)『学校基本調査』。
―――(2000)『高校生の就職問題に関する検討会議中間まとめ』。
日本労働研究機構(1990)『高卒者の進路選択と職業志向――初期職業経歴に関する追跡調査より――』(研究報告書No. 4)。
―――(1998)『新規高卒労働市場の変化と職業への移行の支援』(研究報告書No. 114)。
―――(2000a)『フリーターの意識と実態――97人へのヒアリング結果より――』(研究報告書No. 136)。
―――(2000b)『進路決定をめぐる高校生の意識と行動――高卒「フリーター」増の実態と背景――』(研究報告書No.138)。
―――(2000c)「高校生の中に広がるフリーター予備軍――高校3年生の進路決定に関する調査より」(新聞発表資料)。
―――(2001)『高等教育と職業に関する日欧の大学と就業――12ヶ国比較調査より』。
日経連・東京経営者協会(2000)「高校新卒者の採用に関するアンケート」。
労働省(2000)『労働白書』。
労働省職業安定局(2000a)「平成12年3月高校・中学新卒者の就職内定状況等(平成12年3月末現在)について」。
―――(2000b)「平成12年3月新規学卒者(高校・中学)の職業紹介状況」。
総務庁(各年)『労働力調査』。
―――(1997)『就業行動基本調査』。
―――(2000)『労働力調査特別調査』。


 こすぎ・れいこ 日本労働研究機構主任研究員。主な論文に「就職とフリーター――なぜ未内定フリーターになるのか」『進路決定をめぐる高校生の意識と行動――高卒「フリーター」増加の実態と背景』(日本労働研究機構,2000年)など。教育社会学・進路指導論専攻。

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