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詳細情報 F2003040031
論文題名 失業手当の受給実態
−カナ題名 シツギョウ テアテ ノ ジュキュウ ジッタイ
分類 雇用問題一般
著者氏名 小原 美紀
−カナ著者氏名 コハラ ミキ
掲載誌名 日本労働研究雑誌
−巻号 510号 特別号
−発行年月 2002年12月
−発行元 日本労働研究機構
登録年月 2003年4月現在
内容抄録 (論文目次)
I はじめに
II 離職に関するマクロデータとミクロデータ
III 離職から再就職まで
  1 離職者の実態
  2 失業給付の受給申請
  3 なぜ申請・受給しないのか?
IV 離職者、失業者、失業給付受給者
V 失業給付と失業期間
  1 失業給付の満期受給率
  2 駆け込み就職の存在
VI ディスカッション−2001年度改訂の影響
VII おわりに
全文情報

 I はじめに

 失業の深刻化に対し有効で効率性を損なわない政策が模索されている。雇用保険,なかでも失業(基本手当)給付の改革は,最も注目される政策の一つである。失業給付は,実際に失業した者の生活を支えるだけでなく,現在失業していない者に対しても失業不安を減少させる役割を持つ。同時に,失業給付の存在は失業決定(失業プールに入る確率)や再就職行動(失業プールから出る確率)にも影響する。望ましい政策を考えるためには,失業給付の生活保障機能に加えて失業決定や再就職行動への影響を考慮しなければならない。
 失業給付と再就職行動に関しては緻密な研究が行われてきた。ますます高度な分析がされる一方で,分析に先立つ基礎的な情報はいまだ十分に整理されていない。たとえば,離職者のどれぐらいが失業を経ていて,失業者のどれぐらいが失業給付を受給しているのか,受給者に特徴はあるかなど解明されていない点は多い。
 本論文では,離職者が離職してから再就職するまでの基礎的な統計を整理することを第一の目的とする。統計の整理にあたり,離職者が離職後にたどる経緯によってグループ分けを行い,その割合や属性を明らかにする。離職から失業,再就職(もしくは非労働力化)までの全体像をつかみ,失業した者については失業給付の受給状況をまとめる。これにより失業給付の生活保障機能について検討する。
 第二の目的は,失業給付の状況が失業期間に与える影響についてまとめることである。失業給付の満期受給率と所定給付日数の関係を検証し,これまでに行われてきたミクロデータによる分析結果をサーベイする。第一,第二の結果をもとに,2001年度の制度変更が与えた影響を検討し,失業給付制度の設計について考えることを第三の目的とする。
 失業に関する統計で最も頻繁に用いられるのは失業率だろう。図1に雇用保険加入者と非加入者別に失業率を示す。これは,Burtless(1985),大竹(1987)の議論を,性別・年齢別に分け,近年の動きまで拡張したものである。計算には『雇用保険事業年報』(厚生労働省)を使用した(具体的な計算方法および使用データは補節Aを参照)。年齢の区切りは,失業給付の所定給付日数を定める分類に対応する。

図1-a 雇用保険加入vs.非加入失業率―男性―

図1-b 雇用保険加入vs.非加入失業率―女性―

 図1によれば,男女ともに高齢層の加入失業率と若年層の非加入失業率が高い。男性では,高齢層を除き加入者よりも非加入者で失業率が高い。伸びに注目すると,1997年以降の(とくに若年男性での)非加入失業率の急増が顕著である。ただし,加入者でも45-59歳では増加幅が大きい。急増する若年の非加入失業者の問題は一般に指摘されているとおりであるが,45歳以上の加入者失業率の高まりも重要である。45歳以上の雇用保険加入失業者は失業給付額の最も高い層に対応し,失業給付や雇用保険財政に直接関係する。
 このように,失業率は重要な指標であるが,失業給付との関係を見る場合には失業期間にも注目する必要がある。たとえば,図1によれば,男性ではどの年齢層でも非加入失業者が増加しているが,このことから「現在の失業率の高さには失業給付制度は影響していない」とはいえない。非加入失業者の失業率は高いが失業期間は短い。いったん失業した加入失業者が失業プールに長くとどまるならば,失業給付が失業率に影響している可能性は高い。本論文は失業期間に注目しながら分析を行う。
 次節では,本論文の分析に使用するデータについて述べる。IIIでは,離職から再就職までの経緯について全体像を示し,IVにおいて,離職者,失業者,転職者,失業給付受給者の属性を明らかにする。Vでは失業給付が失業期間に与える影響をまとめる。III,IV,Vの結果をもとに,VIで2001年度の制度変更の影響を検討し,有効な制度設計について議論する。VIIで全体をまとめる。



 II 離職に関するマクロデータとミクロデータ

 さまざまな調査報告が離職者に関する統計を示している。『就業構造基本調査』(総務省)は,離職者(1年前には仕事に就いていたが,その仕事をやめて,現在はまったく仕事に就いていない者)や,転職者(1年前の勤め先(企業)と現在の勤め先が異なる者)の統計を報告する。『労働力調査特別調査』(総務省)は,過去1年以内の離職について,失業者(現在失業状態にある者),転職者(昨年1年間で転職をし現在就業している者),非労働力化した者の人数を示す。
 雇用保険および失業給付に関する情報は,『雇用保険事業年報/月報』(厚生労働省)に詳しい。ただし,これは雇用保険加入者に関する統計であり,離職者全体の状況はとらえられない。
 これらのマクロデータからわかる情報は,属性グループ別の人数や平均値に限られる。属性の詳細がわからないことや平均的な特徴しかとらえられないことは,政策効果を分析する際には問題となる。失業給付制度の失業期間への影響を分析しても平均化されて効果が見えない可能性が高い。
 ミクロ(個票)データを用いればこの問題は小さくなる。離職に関するミクロデータとして,本論文では,1999年に大阪府が行った『「成長が期待される産業分野における人材の確保・育成」に関するアンケート調査』の従業員調査(以下,『大阪府調査』と記す)を使用する。これは,離職者個人について離職前の就業状況,失業中の状況,再就職後の状況を調査している。大阪府下のあらゆる規模や産業の事業所に調査票を送付し,各事業所に勤務する転職経験を持つ者に配布され,回答は事業所を通さず従業員から直接返信された。回答数は725(回収率15%)である。
 『大阪府調査』は失業状況の詳細を記すが,離職を経験後現在就業している者,つまり転職成功者に調査対象が絞られるという欠点を持つ。サンプル数やサンプル対象が限られるという問題は,『大阪府調査』に限らず近年盛んに行われているサンプル調査(ミクロデータ)を使用する分析にしばしば生じる。数の限られた特定のサンプルを対象とすることでサンプルの分布が偏るという問題である。解析結果が分布の偏りに依存していれば結果にバイアスが生じる。『大阪府調査』のサンプルは,学歴が非常に高い,若年層が多い,男性が多いという特徴を持っていた。これにより失業期間を短く見せかけてしまうバイアスが存在した。
 そこで,本論文では,マクロデータの示す離職者の分布に近似させるように『大阪府調査』のサンプルにウェイトを付けて解析する(これは小原(2002)と同様の修正方法である。詳細は補節Bを参照されたい)。これにより分布の偏りは部分的に解消されるが完全ではない。そこで,マクロデータによる全体像の把握が重要になる。以下の分析では,必要に応じて前述のマクロデータと『大阪府調査』のミクロデータを使い分け,離職者の全体像や属性を明らかにする。



 III 離職から再就職まで

 1 離職者の実態

 離職者はさまざまな経緯で再就職に至る(図2)。離職後,〈1〉失業を経ずに再就職する,〈2〉→〈2'〉失業を経て再就職する,〈3〉→〈3'〉(失業を経て,もしくは経ずに)非労働力化し,その後再就職するなどがある。また,失業状態を経る場合には,〈2A〉失業給付を受給しない場合と,〈2B〉失業給付を受給する場合がある。

図2 離職から再就職まで

 再就職すれば「転職者」となるが,〈2〉を経てそのまま失業し続ける者や,〈3〉を経てそのまま非労働力化する者もいる。離職後,〈2〉→〈2'〉や〈3〉→〈3'〉を経由して再就職するまでかなりの時間を要することもあるので,離職から経過したある時点で見れば,「転職者」「失業者」「非労働力化した者」が存在することになる。
 『労働力調査特別調査』は,1年以内に離職した者について,それぞれの人数を示している。2000年8月の統計を表1にまとめる。離職者の合計は15歳以上全人口の約7%存在する。そのうち,転職者は44%,失業プールに残っている者は22%,非労働力化した者は約34%である。非労働力化する者の多さは女性で顕著であるが,男性でも高齢層・若年層には多い。

表1 失業者の属性――『労働力調査特別調査』(2000.8)より

 44%の転職者が,〈1〉,〈2〉→〈2'〉,〈3〉→〈3'〉のどれを経由したかはマクロデータからはわからない。そこで『大阪府調査』により補完する。ただし,『大阪府調査』は転職者が対象であり,すべての者が〈1〉,〈2〉→〈2'〉,〈3〉→〈3'〉のいずれかを経て再就職している。失業プールにとどまり続ける者や最終的に非労働力化した者は調査されていない。
 『大阪府調査』では,離職から再就職までの期間が1カ月以上ある者について月数がわかる。そこで,0または1カ月未満の者を〈1〉の「失業を経ずに再就職した者」とし,再就職までの期間が1カ月以上ある者を〈2〉→〈2'〉もしくは〈3〉→〈3'〉の「失業を経て再就職した者」とする。さらに,失業を経た場合,〈2A〉失業給付を受給しなかった者と,〈2B〉受給した者がわかる。個人に失業給付の受給資格があったかどうか(雇用保険適用事業所に勤めていたかどうか,6カ月以上の被保険期間があるかどうか)はわからないが,前職での勤続期間が6カ月未満の者は,法律上失業給付受給資格のない者なので〈2A〉に入れる。
 年齢階層別に計算した結果を表2(a)列に示す。男女計で約47%が失業を経ずに再就職,残りの53%は失業を経ている。失業を経た者のうち,実際に失業給付を受給する者は21%強である(性別,年齢別などの特徴については後述する。ここでは全体像をとらえられたい)。

表2 受給者の属性――『大阪府調査』(1999)より

 前職を離職してから現職へ再就職するまでに非労働力化したかどうかはわからないので,〈2〉→〈2'〉と〈3〉→〈3'〉のパスを識別することはできない。ただし,表1で,男性の中年層で非労働力化する者は非常に少ないことがわかった。そこで,男性中年層だけに注目すると,失業者のうち給付を受給した割合は少なくなり(約20%),失業を経ずに就職した割合が多くなる(約55%)。
 以上,マクロデータとミクロデータより明らかになった値をまとめると表3のようになる(〈 〉内は図2の記号)。

表3 離職者の全体像

 2 失業給付の受給申請

 失業を経た転職者のうち,失業給付を受給する割合が40%というのは決して高い数字ではない。そもそも,どれぐらいの者が失業給付の受給を申請しているのだろうか。『大阪府調査』では受給資格(雇用保険被保険者であったかどうか)がわからないので,この問いに答えられない。そこで,加入離職者の受給状況について詳しい情報を持つ『雇用保険事業年報』を用いて受給申請の状況を明らかにする。
 『雇用保険事業年報』の情報を利用するには,受給申請の過程を知る必要がある。図3に離職後の流れをまとめる。雇用保険加入者が離職すると,事業主は「被保険者資格喪失届」および「離職証明書」を管轄の公共職業安定所に提出する。公共職業安定所は事実を確認し,「被保険者資格喪失確認通知書」と「被保険者離職票」を交付する。

図3 離職後の流れ

 離職者は公共職業安定所に行き,「離職票を提出」する。その後は最初に出頭した日から28日ごとに行き,28日間分さかのぼって適用分を受給する(雇用保険法第15条)。最初の出頭は離職後1週間経過している必要があり,また,離職後1年以上経過すると保障されない(同第21条)。離職票には,「会社都合」による離職か「自己都合」による離職かが事業主により記入されている。自己都合退職者は3カ月間の「給付制限」を受ける(同第33条)。
 『雇用保険事業年報』は,図3の(a)離職票交付枚数,(b)離職票提出件数,(c)初回受給者数,(d)受給制限数を報告している。(a)は離職者に相当し,(b)は実際に申請した者だから,

  雇用保険加入離職者に対する受給申請割合
  =(b)/(a)          (1)

となる。また,

  申請者に対する受給開始割合
  =(c)/(b)          (2)

が求められる。『雇用保険事業年報』は「基本初回受給率」を報告しているが,これは被保険者数に対する受給開始者数であり,(1)や(2)で求めたい「被保険者であった者が離職した場合の申請率」とは異なる。さらに,報告書によれば,申請において受給を制限される者の99%は自己都合退職だから,

  自己都合待機割合=(d)/(b)   (3)

を計算できる。
 離職票交付枚数(a)は男女別にわからない。代わりに,「適用資格喪失者数」(この一部が離職者)は男女別に報告されている。そこで,男女計において「離職票交付枚数」の「適用資格喪失者数」に対する割合を求め,この割合が男女ともに当てはまるとして,男女別「適用資格喪失者数」に掛けて,男女別「(a)離職票交付枚数」を求める。
 図4は1991年度から2000年度について計算した結果である。加入離職者のうち実際に受給申請を行うのは約65%である。申請した者の80%が受給している。よって,加入離職者のうち実際に受給するのは50%強となる。この値は加入離職者に対する受給率であり,当然のことながら表2(a)で『大阪府調査』により推計された全離職者に対する受給率(20%強)よりも高い。自己都合退職のため待機する者は若干減少傾向にあり,申請者の約半分となっている。男女別に比較すると,申請割合,申請者の受給割合,自己都合待機率のすべてが女性で高い。

図4-a 離職者の受給状況

図4-b 離職者の受給状況(男性)

図4-c 離職者の受給状況(女性)

 3 なぜ申請・受給しないのか?

 こうして求めた値は,ミクロデータによる特定のサンプルの値や,マクロデータによる仮定を置いたうえでの推定値である。また,マクロデータは過去1年の総数をとるのに対し,ミクロデータは過去に離職し再就職した経験のある者が対象という時点の差もあり,互いを完全に補完するものではない。ミクロデータでは,失業した時点で受給資格を持つ者の数がわからないという問題もある。よって,ここで受給(申請)率の高低について議論するのは必ずしも適切ではない。
 しかしながら,加入離職者のうち受給申請する者が約65%であることや,失業を経る者のうち失業給付を受給した割合が約40%にとどまっていることは,失業給付の受給者は多くないという印象を与える。
 アメリカでは,失業者のうち失業給付の給付申請を行った割合は34%,受給した割合は24%となっている(Wandner and Stettner(2000))。「受給権利があると思わなかった」「申請しても認定されないと思った」「すぐに再就職先が見つかると思った」などが申請率を低めている主な理由とされている。
 日本でも,受給資格がありながら申請しない者が存在する可能性は高い(注1)。残念ながら日本では申請を行わない理由は調査されていない。代わりに次節では,どのような者が失業給付を受給しているのかを追跡する。



 IV 離職者,失業者,失業給付受給者

 表2(b)(c)列に,『大阪府調査』を用いて,〈1〉離職後失業を経ずに就職した者,〈2A〉失業を経て失業給付を受給しなかった者,〈2B〉失業を経て失業給付を受給した者の属性をまとめる。
 まず,失業を経ない者と失業を経る者を比較しよう。失業を経ない割合は年齢とともに高まり,男性,世帯主など家計を支えていると予想される層に多い。所得と学歴は年齢が45歳以上か未満かで異なる。45歳以上では失業を経た者で高く,45歳未満では失業を経た者で低い。所得や学歴の高い者に能力の高い者が多ければ再就職しやすい可能性があるが,前職での所得の高さは,失業時の生活保障や再就職先での期待賃金が高く再就職しにくい可能性もある。所得の明確な影響は記述統計からはわからない。
 次に,失業を経る場合に失業給付を受給するかどうかを比較する。女性や学歴の低い者が受給しているとともに,前職で正社員だった者や所得が高かった者が受給している傾向がある。これは45歳以上の層でも確認できる。正社員だった者は受給資格を持つ可能性が高く,所得が高かった者は受給額が多いので,受給確率も受給のインセンティブも高いだろう。
 このように,30歳以上の男性世帯主に代表される家計を支える者は,(受給資格を持つ可能性は高いと予想されるが)失業給付の受給よりも失業を経ずに再就職を選択する傾向が強い。その意味で失業給付は女性や若年層,学歴の低い者の失業を支えているといえる。一方で,失業する場合には,女性や若年層,学歴の低い者に加えて,所得が高く正社員であった受給資格のある者や給付内容がよい者が多く受給している。
 なお,家計を支える者が失業給付を受給しているかを厳密に議論するためには,前職の所得だけではなく,貯蓄額や資産状況,他の世帯員の所得状況など離職者/失業者の生活を支える経済状況を考慮しなくてはならない。失業者がどのように生活費を捻出し,労働供給行動や消費行動はどう変化するのか。残念ながらこの点を厳密に分析できる公表データは存在しない。今後の分析課題としたい。



 V 失業給付と失業期間

 1 失業給付の満期受給率

 給付内容のよい者や受給可能な者が受給するのは当然であり,それにより失業給付制度が批判されることはない。しかしながら,失業給付を受給できることが失業者の再就職のインセンティブを抑制し,失業を長期化させるのであれば望ましくない。失業給付がなければ(短ければ)もっと早く再就職したにもかかわらず,給付の存在が職探しの強度を弱め,失業を長期化させることは政策的に支持されないだろう。
 失業給付は再就職のインセンティブを抑制し失業を長期化させるだろうか。橘木(1984)は,満期受給者が多ければ,給付期間を延長することで失業期間が長期化する可能性を指摘する。そこで,まず日本の満期受給率についてまとめよう。図5に,『雇用保険事業月報』(厚生労働省)を用いて,男女別,所定給付日数別に満期受給率を計算した結果を示す(計算の詳細は補節Cを参照)。好況期に満期受給率は低下するという傾向があるが,これは年齢・所定給付日数グループ間で変わらない。一方,男女の差は歴然としていて女性で非常に高い。また,若年,被保険期間が1年未満,60歳以上(1994年以前は55歳以上)に多い。高齢層での満期受給率の高さはモラルハザードの問題として,八代・二上(1998),八代(2001)で指摘されているとおりである。

図5-a 満期受給率1985-2000(男性)

図5-b 満期受給率1985-2000(女性)

 図は,高齢層に限らず,失業給付の存在が(満期まで)失業長期化を促している可能性を指摘する。再就職行動が所定給付日数に依存せず,失業者は失業期間を経るに従って徐々に再就職してゆくならば,所定給付日数が90日,180日……と長く(よって失業期間が長く)なるに従い,満期まで受給する割合は減少するはずである。逆に,所定給付日数が長くなるほど給付いっぱいまで受給し再就職を遅らせるならば,所定給付日数が長くなっても満期受給率は下がらない。極端な場合には上昇する。
 ほとんどの年齢層で,所定給付日数が増すにつれて満期受給率は下がる。とくに男性の29歳以下および30-44歳の層では減少幅が大きい。これらの層では,多くの失業者が,所定給付日数にかかわらず失業プールから退出するといえる。
 一方,1995年以降の45-59歳の層では,所定給付日数が240日から300日にかけて満期受給率は低下しない。男性ではむしろ上昇する。もちろん,年齢によって直面する再就職の可能性が異なるなどにより,所定給付日数に関係なく,年齢が高いほど失業プールに残る確率が高くなる可能性はある。この場合,所定給付日数が長くなると満期受給率が減少する度合いは,高齢層で低下するだろう。しかしながら,同じ年齢層において,所定給付日数の長い層で満期受給率が上昇することは特異である。この年齢層で所定給付日数を長くすれば,給付いっぱいまで再就職を延期するといえる。
 同様のことが,1995年施行の制度変更の影響としても指摘される。表4に示すとおり,1995年に,45歳以上で前職の勤続年数が20年以上の層について,所定給付日数が240日から300日に延長された。

表4 基本手当の所定給付日数(日)――一般被保険者(短時間労働被保険者を除く)について

 図5によれば,1994年で45-54歳,240日の層の満期受給率は,1995年に所定給付日数が300日になると大きく上昇する。この上昇の要因の一つは,1995年の改正で,年齢カテゴリーの幅自体が45-54歳から45-59歳に変更され,より年齢の高い層が含まれたことにある。年齢が高い層で満期受給率は高いため,所定給付日数が変更されなくても,高齢層を含むようになったことにより満期受給率は単純に増加する。実際,所定給付日数は変わらず年齢カテゴリーの幅だけ変化した,1994年の45-54歳の180日や210日の層でも,1995年に満期受給率が高くなっている。特記すべき点は,これら180日,210日の層での上昇と比較して,240日から300日になった層での上昇幅が非常に大きいことである。1995年の改正により,45-59歳の層で所定給付日数を増加させたことが満期受給率を上昇させ,受給者の失業期間を長期化させたといえる。

 2 駆け込み就職の存在

 満期受給率の高さは,再就職のインセンティブが抑制されたかどうか(その結果,失業期間をむやみに長期化させているかどうか)を測る完全な指標ではない。より直接的な指標として,失業給付が切れる間際(切れた直後)に再就職する「駆け込み就職」の存在が注目される。さまざまな国でミクロデータを用いた多くの実証分析が行われ,失業給付は再就職を抑制することや,失業給付の切れる時点で一気に再就職率が高まることが示されてきた。
 日本についても同様の結果が示されている。小原(2000)は,前述の『大阪府調査』を用いて失業給付が再就職を抑制することを示した。ただし,この論文では,影響は3カ月までの限定的なものであると指摘していた。すでにIIで指摘したとおり,『大阪府調査』の分布には失業期間を短く見せかける偏りがあるので,そのまま使えば結果にバイアスが生じる。また,小原(2000)の分析は受給者と非受給者の再就職率を比較しただけであり,失業給付が切れる直前での駆け込み就職の存在を無視していた。
 これらの問題を修正した小原(2002)では,失業給付が切れる最後の1カ月で,受給者の再就職率のみが約58%も高まることがわかった。この影響は失業期間が長くなっても続き,失業8カ月以上で最も大きくなる。分析対象は59歳以下であり,調査年時点で失業期間が8カ月以上ある者に含まれるのは,所定給付日数の約240日の層(45-59歳で被保険期間が10年以上19年以下の者)や300日の層(同20年以上の者)である。日本の失業給付も再就職のインセンティブを抑制し失業期間を長期化させている。この影響は失業期間が長くなっても存在し続け,45-59歳の240日以上の層で大きいといえる(注2)。



 VI ディスカッション――2001年度改訂の影響

 表4に示すとおり2001年4月より所定給付日数が変更された。倒産・解雇による離職とその他の離職に分け,倒産・解雇以外による離職者に対しては所定給付期間が短縮された。また,45-59歳の層(の被保険期間が5年以上)では延長され,60歳以上では短縮された。
 Vで見た日本の満期受給率の実態やミクロデータによる分析結果は,中高年層でも受給者が受給終了まで再就職率を抑制する可能性が高いことを示していた。この結果によれば,45-59歳の層で給付日数が長くなったことは受給者の再就職率を下げ,失業を長期化させ,逆に60歳以上で短縮されたことはこの層の失業を短期化させたと予想される。
 倒産・解雇による離職からその他の離職を分けて給付期間を短くした影響は,自己都合退職が女性に多く,女性で失業プールを経る確率,失業した際に失業給付を受給する確率,満期まで受給する確率が高いことを考えると,失業期間を短くさせたと予想できる。
 失業給付の存在により失業期間が長期化したとしても,その結果よりよい職を探すことができるのであれば失業の長期化の問題は小さいという意見もあるだろう。しかしながら,失業給付受給可能日数(所定給付日数)いっぱいまで受給しその直後に再就職することは,「失業者の求職活動を容易にし就職を促進する」という雇用保険法の本来の目的に適わない。長期化した結果,よりよい職を探すことができるという見解には批判的な分析結果も出ている(大日(2000,2001))。
 III,IVが示す「失業給付を受給する者は少ない」という結果から,失業給付が失業を長期化させる影響は小さいと考えられるかもしれない。III,IVはまた,30歳以上では失業給付の受給よりも失業せずに再就職を選択する傾向が強いことを示していた。Vの満期受給率で見れば,男性中年層(30-44歳,45-54歳,45-59歳)では不況になっても7割程度にとどまる。これらの結果から,中年層で給付期間を長くしても悪影響は小さいという意見もある。さらに,失業給付により失業の生活不安を取り除くことができるならば,たとえ失業給付を長くするとしても望ましいという意見もある。とくに中高年層で失業中の消費不安が深刻であることを挙げて,この層に対する失業給付の充実を支持する意見もある。
 たしかに,他の属性グループと比べて,家計を支える男性中年層では再就職のインセンティブが抑制される可能性は低い。しかしながら,このことから,中年層のみ失業給付を延長しても問題ないという結論にはならない。III,IVで見たとおり,女性では中年層でも他の層と再就職行動に差がない。男女間で制度に差をつけることはできないし,そもそも「家計を支えていて失業の困難に直面する人」を属性と失業という状況だけから識別して給付することは難しい。III,IVの結果は「失業給付の受給者は失業が深刻な者である」という具合にひとくくりにできないことを示していた。家計を支える者の中には失業を経ずに再就職する者も多く,他方で,失業を経て受給(申請)する割合は,女性・若年・学歴の低い者と同時に,前職で所得が高く正社員だった者で高い。必要上失業を経ずに再就職する者が存在するからこそ,失業を経て失業給付を受給した者のみが再就職のインセンティブを低下させ,制度がなければ達成された最適な再就職時期を遅らせるという負の影響を深刻にとらえなくてはならない。受給する者が「失業できる者」であり受給しない者が「失業できない者」であるならば,この負の影響はさらに大きくなる。
 また,たとえ失業が深刻な者を選び給付することができるとしても,失業者の消費不安を取り除くためならば,失業長期化をもたらしうる失業給付の充実ではなく,必要な消費に対する補助や免除でよいはずである。失業長期化という負の影響をもたらす失業給付の充実を消費不安を取り除く策とする必要はない。
 III,IVで示したもう一つの重要な結果を付け加えれば,失業給付を受給する割合の高い女性や若年層は,受給後に非労働力化する可能性も高い。この中には,もともと非労働力化する予定でありながら受給できる限り受給する者もいる。労働力市場から退出しても生活できる者ともいえる。失業給付を充実させれば,これらの層が増える可能性も高まる。
 もちろん,たとえ駆け込み就職が存在し,また,失業給付を受給する者のなかに本来制度が支えようとした者ではない層が入っていようとも,失業というリスクに対する保険や失業不安の緩和としてある程度の給付は必要である。本論文はこれを否定していないし,給付をできるだけ少なくすべきだと主張するものではない。雇用保険財政の悪化がいわれるなか,現行の所定給付日数の延長に対しては慎重になるべきだと考える。



 VII おわりに

 本論文では,離職者が離職してから再就職するまでの基礎的な統計をまとめた。1年以内の離職者に対して,転職した者が44%,失業者が22%,非労働力化した者が34%いる。最終的に転職した者で見ると,失業状態を経て再就職する者は50%であり,そのうち60%が失業給付を受給していない。また,雇用保険加入離職者のうち約65%が受給申請を行い,約50%が実際に受給している。失業を経ずに再就職する者は家計を支えていると予想される層に多い。失業する場合に失業給付を受給する割合は,女性や若年層,学歴の低い者と同時に,離職前の所得の高かった者に多い。失業給付受給者は,かならずしも失業中の生活が最も困難な者とはいえない。
 論文の後半では,所定給付日数が長くなると満期受給率が高まること,ミクロデータによるこれまでの分析結果から,失業給付受給者は給付が切れる直前まで再就職を延期する可能性が高いことを示した。所定給付日数を増加させれば,失業給付の存在は再就職のインセンティブを抑制し失業期間を長期化させるといえる。このことは中高年層にも当てはまる。2001年4月からの制度変更は,(一般離職者の)45-59歳の層の失業を長期化,60歳以上の失業を短期化させたと予想される。
 論文の前半で見たように,失業給付を受給する者が少ないならば,失業給付が再就職率を低下させ失業を長期化させる影響は小さいと見えるかもしれない。また,たとえ失業給付が失業を長期化させるとしても,給付の充実により失業者の消費不安を取り除くことができるならば好ましいという意見もある。失業中の消費不安に関しては,中高年失業者の深刻さを取り上げて,この層での失業給付の充実を支持する声も大きい。
 しかしながら,本論文の前半で見たように,失業給付を受給する者がかならずしも失業のダメージが深刻な者だとは限らない。家計を支える者ほど失業を経ずに再就職する可能性も高い。このようななかで,失業給付の充実によって失業者の生活を支えることが効率的かどうかは疑問である。そもそも失業が深刻な者を識別して給付を手厚くすることは極めて難しい。失業者の生活保障は,失業長期化をもたらしうる失業給付の充実ではなく,必要な消費に対する補助や免除でよい。
 本論文で残された課題は多い。現在入手できるデータでは,失業給付の受給資格の有無についてはわからない。受給資格があって受給していないのか,そうであれば受給しない理由は何かについて分析する必要がある。失業者の貯蓄額や収入状況など家計を支える経済状況についても明らかではない。さらに,日本の失業給付が再就職のインセンティブを抑制させる影響についてはいまだ分析が少ない。ミクロデータを用いた分析に加え,2001年度の制度変更がどのような影響を与えたのか,今後の研究結果が待たれる。

 補節A 雇用保険加入失業者と非加入失業者

 大竹(1987)は,完全失業率(TUR: Total Unemployment Rate)を,雇用保険加入者の失業率(以下IUR: Insured Unemployment Rate)と,雇用保険非加入失業者(以下UUR: Uninsured Unemployment Rate)に分けて定義している(注3)。ある時点での就業者をL,失業者をU,雇用保険被保険者をCE,雇用保険受給者をBUとすると,IUR, UUR, TURは,



と書ける。この定義により,雇用保険受給資格を持ちながら受給していない失業者は,雇用保険加入失業率から落とされる。
 本論文では,統計を近年まで延ばすとともに,性別,年齢別に計算した。就業者と失業者数には『労働力調査年報』の値を使用した。雇用保険被保険者数と受給者数には,『雇用保険事業年報』から,一般被保険者の月末被保険者数(年度平均)と,基本手当基本分受給者実人数を使用した。被保険者数には「全被保険者」ではなく「一般被保険者」を用いて,雇用保険受給者数が「一般被保険者の基本手当基本分の受給者」であることに合わせた。基本手当の合計ではなく,基本分を用いたのは,性別,年齢別などが詳細にわかるからである。
 ただし,実際には現在の離職受給者は現在の被保険者ではない。また,自己都合で離職し3カ月間の受給制限に遭っている人はその時期には非加入者と定義されてしまう。上記の推計で使用できるのは,各時点におけるマクロデータであり完全な指標ではない。

 補節B 『大阪府調査』の偏りの修正

 マクロデータの示す分布と比較して,『大阪府調査』は,(1)中高年が少ない(44歳以下に対する45歳以上の割合が低い),(2)とくに若年層で男女とも学歴が非常に高い,(3)非労働力化するサンプルがとらえられていない。これらの問題により,『大阪府調査』をそのまま用いれば失業期間や受給状況を過小評価してしまう(ただし,転職時期は1982年から1999年までと長く,離職時期が早い長期失業者はとらえられる)。
 (1)および(2)の問題を解決するためにマクロデータから,一定期間の日本全体の失業者(離職者と転職者)の分布を求め,その分布に近似するようにミクロデータにウェイトを付けることで分布の修正を行う(小原(2002)と同様の修正)。マクロの分布を表すものとして,『就業構造基本調査』(1997年)から,16歳以上人口全体に占める離職者・転職者の男女別,年齢階層別,および学歴別分布を用いた。『就業構造基本調査』を用いたのは,『大阪府調査』の偏りが大きいと思われる学歴や年齢別に分布がわかるからである。
 このような分布修正を行っても,(3)の非労働力化するサンプルの問題は解決できない。そもそも『大阪府調査』に存在しないためである。ただし,本文で述べたとおり,『労働力調査特別調査』(2000年8月)によれば,離職後非労働力化する割合は,54歳以下の男性には非常に少ない。『大阪府調査』を使用する場合には59歳以下に限定しているので,問題はある程度小さくなっている。

 補節C 失業給付の満期受給率

 『雇用保険事業月報』(厚生労働省)は,所定給付日数別に各月の新規受給者数と満期終了者数を示している。これにより,所定給付日数受給できる者(予定者)に占める,結果的に最後まで受給した割合を推計できる。
 各年のi月の新規受給者をi,満期終了者をiとすれば,所定給付日数90,180,210(昭和59年度以降),240,300日について,i月に受給を開始した満期受給者の割合Biを,



と定義できる。所定給付日数と月次データの誤差(90日は正確には3カ月ではない)は小さいと仮定する。
 雇用保険の受給を開始する者の数は月により大きく異なることが知られている。1999年度のすべての月について各月を開始点として満期受給率を求めたところ,どの所定給付日数についても,4月データを基準にして計算した満期受給率が年間の平均に近かった。そこで,i月を4月として各年度について満期受給率を求めた。


*本論文は,2002年労使関係研究会議(2002年5月)報告論文を修正したものです。修正にあたり,村松久良光氏(南山大学),中馬宏之氏(一橋大学),有利隆一氏(岡山商科大学),塚崎裕子氏(政策研究大学院大学),上記研究会参加者より貴重なコメントをいただきました。また,厚生労働省の岸本武史氏,田村和美氏には,『雇用保険事業年報』の詳細について教えていただきました。ここに記して感謝申し上げます。


注 1)もちろん,加入離職者の中には失業を経ずに再就職する者や,初めから離職後非労働力化する予定の者がいる。彼らは申請の必要がない。また,申請をしても初回の給付までに再就職先が見つかれば受給の必要はない。


注 2)記述統計ではあるが,厚生労働省も「駆け込み再就職」の存在を指摘している。第1回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会議事録(http://www.mhlw.go.jpに公開)によれば,2000年度に再就職した人のうち,給付期間終了後1カ月以内に再就職した人は29.4%と,その他の再就職時期を大きく上回ることを指摘している。

注 3)これ以前にBurtless(1985)がIURという言葉を使い,t月の雇用保険受給者数の,雇用保険被保険者数のt−7月からさかのぼった1年間の月平均に占める割合と定義している。失業保険受給資格(州によって異なり,給付条件は過去の被保険(就業)状況を含むことが多い)を考慮したものと思われる。しかしながら,現在の受給者がどの月の被保険者であったかはマクロデータではわからない。マクロデータにより概観を眺めるためならば,大竹(1987)の定義が適切だと考える。


参考文献

大日康史[2000]「失業給付のモラルハザードに関する実証分析」三谷直紀編『21世紀への労働市場と雇用システムの構図(II)』雇用促進事業団・(財)関西経済研究センター,pp.84-94。
大日康史[2001]「失業給付が再就職先の労働条件に与える影響――Average Treatment Effectによるプログラム評価」『日本労働研究雑誌』,No.497,pp.22-32。
大竹文雄[1987]「失業と雇用保険制度」Economic Studies Quarterly, Vol. 38, No.3,pp.245-257。
小原美紀[2000]「失業給付は失業を長期化させるか?」『季刊社会保障研究』第36巻第3号,pp.365-377。
小原美紀[2002]「失業給付が失業期間に与える影響」未公刊論文。
橘木俊詔[1984]「失業期間の計測と国際比較」小池和男編『現代の失業』同文舘,pp.89-115。
八代尚宏[2001]「雇用保険制度の再検討」猪木武徳・大竹文雄編『雇用政策の経済分析』東京大学出版会,pp.225-258。
八代尚宏・二上香織[1998]「雇用保険制度改革と高齢者就業」八田達夫・八代尚宏編『社会保険改革』日本経済新聞社,pp.127-154。
Burtless, Gary(1983)“Why Is Insured Unemployment So Low?” Brookings Papers on Economic Activity, No.1.
Wandner, S. and Stettner, A.(2000)“Why Are Many Jobless Workers Not Applying for Benefits?” Monthly Labor Review, Vol. 123, No.6, pp.21-32.


 こはら・みき 政策研究大学院大学助教授。主な論文に“Consumption Insurance between Japanese Households,” 2001, Applied Economics, Vol. 33, No.6, pp.791-800。労働経済学専攻。

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