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(著者抄録)
NHK放送文化研究所「国民生活時間調査」の「家庭婦人」の家事の時間量分布のデータをもとに、家事専従者の労働供給の可能性を時間タームで推計する。手続きは、適当な基準時間を設定して、家事労働時間がその基準時間を下回る場合にその分だけ労働供給を引き出せる、とするものである。結果からえた知見は、家事専従者の労働供給の可能性は存在するけれども、その時間量は、将来予測される生産年齢人口比率の低下による労働供給不足を補うほどの水準には達しないということである。
(論文目次)
I 問題の所在と本稿の課題
   1 生産年齢人口比率の低下と労働供給不足
   2 時間タームでみた労働供給不足問題
   3 家事専従者への期待
   4 本稿の課題
II NHK「国民生活時間調査」
   1 調査の概要
   2 「家事」
   3 「家庭婦人」
III 「家庭婦人」の労働供給の可能性
   1 平日・土曜・日曜の家事の時間量分布:1973-1985
   2 週X時間基準
   3 1973-1985年
   4 1990年以降
IV 結論と展望
   1 分析結果のまとめ
   2 将来展望
文献

I 問題の所在と本稿の課題

 1 生産年齢人口比率の低下と労働供給不足

 人口学の伝統にしたがって,人口を0-14歳,15-64歳,65歳以上の三つに区分しよう。これらをそれぞれ「年少人口」「生産年齢人口」「老年人口」と呼ぶ。国立社会保障・人口問題研究所の推計[1997:63]によると,2000年には生産年齢人口は日本の人口全体の7割を占めているが,この比率はしだいに低下し,2050年には5割強にまで下がると予測されている(注1)。
 この生産年齢人口比率の低下によっておこる経済上の問題のひとつが労働供給不足である。14歳以下の者を雇用することは少数の例外を除いては禁止されている(労働基準法56条)ため,年少人口の労働供給はほとんどゼロである。老年人口の労働供給はゼロではないけれども,生産年齢人口にくらべるとすくない。このような年齢別労働供給構造のままで生産年齢人口比率が下がると,それにしたがって全体としての労働供給が低下し,人口全体の生活を支えられなくなるおそれがある[阿藤2000:132-138]。

 2 時間タームでみた労働供給不足問題

 こうした議論には,働いている/働いていないの別で人口を2分割する発想のものが多い。この発想では,働いてさえいれば,週に1時間しか働かない人も60時間働く人もおなじだとみなすことになる。
 この発想の奇妙さはあきらかだろう。労働供給不足問題を論じるなら,働く人の数だけでなく,その人たちがどれだけ働くかを考えないといけない。水野+吉田[1995:36-40]はこのような発想にもとづいて「時間タームでの労働供給」を測定する方法を提案した。労働力率に平均労働時間を掛けあわせることで,人口ひとりあたりの労働供給量を近似的に測定しようとしたものである。
 水野+吉田[1995]にならって,労働供給不足問題を「時間ターム」でとらえなおしてみよう(表1)。

表1 時間タームの労働供給予測

 2000年「労働力調査」によれば,15-64歳人口の労働力率は72.5%,65歳以上人口の労働力率は22.6%。労働力人口のなかには失業または休業していて実際には働いていない者がいるので,その分をとりのぞいて従業者の比率を求めると(注2)それぞれ68%,21.3%となる。従業者についての週間の労働時間の平均は,15-64歳では43.36時間,65歳以上では34.9時間。従業者比率と従業者平均労働時間を掛けあわせてひとりあたり労働供給量を求めると,15-64歳では週29.47時間,65歳以上では週7.43時間となる。
 2000年の年齢区分別の人口構成は総務省「国勢調査」抽出速報集計からわかる。将来の人口構成については国立社会保障・人口問題研究所が1997年におこなった推計値(注1参照)を使うことにしよう。これらのデータによると,15-64歳人口は2000年には日本の全人口の67.9%を占めていたが,この比率は2025年には59.5%,2050年には54.6%まで下落する。一方,65歳以上人口は2000年の17.6%から2025年には27.4%,2050年には32.3%に達するという。
 各年齢区分のひとりあたり週間労働供給量に人口比率を掛けた値の総和を求めると,全人口のひとりあたり週間労働供給量がわかる。2000年に関しては29.47×0.679+7.43×0.176=21.31(時間),2025年には29.47×0.595+7.43×0.274=19.58(時間),2050年には29.47×0.546+7.43×0.323=18.5(時間)となる。2000年の労働供給の水準にくらべて,2025年にはひとり1週間あたり1.73時間,2050年には2.82時間すくなくなる計算になる。

 3 家事専従者への期待

 労働供給不足を解消するために,家事専従者を労働市場に引き出せばいいという意見がある(注3)。家事専従者とは,報酬をえられるような労働をおこなわず,もっぱら家事に従事している人のことをいう。
 総務省「労働力調査」[2001:126]によると,もっぱら家事に従事している非労働力人口は2000年には15歳以上人口の16.4%を占めていた。2000年には15歳以上人口は全人口の85.4%(表1)だったとすると,家事専従者は全人口の14%を占めていた計算になる。この家事専従者だけで,表1でみた労働供給の減少分を補おうとすると,2025年までにひとりあたり週12.13時間,2050年までに19.72時間の労働を引き出さないといけない。
 家事専従者にはそんな余裕があるのだろうか?

 4 本稿の課題

 本稿の課題は,家事専従者にどの程度の労働供給が期待できるかを推計することである。具体的には,一定の基準時間を設けて,家事時間がその基準を下回っている人々が家事専従者のうちの何%いるのか,それらの人々に何時間程度の労働供給が期待できるかを計算する。基になるデータは,生活時間調査の時間量分布表である。



II NHK「国民生活時間調査」

 本稿で使うデータは,NHK(日本放送協会)放送文化研究所「国民生活時間調査」の集計表である。本稿の目的には家事時間の分布のデータが必要だが,全国規模の調査でそのようなデータが公表されている例はほかにない。この調査は1960年以来5年ごと(1973年調査は例外)におこなわれてきたが,1965年以前は調査方法がちがうので,それ以降と単純な比較はできない。本稿では1970年以降のデータだけを使うことにした。
 1970-2000年の計8回の調査のうち,本稿で主に利用する時間量分布が報告書に載っているのは,1973-1985年の4回の調査だけである。ただし1970,1990-2000年調査についても行為者率や時間量の平均・標準偏差という基本的な数字は公表されているので,それらを補助的に利用する。

 1 調査の概要

 調査は各年とも10月におこなわれた。生活時間は,時間割記入用紙に対象者自身が回答する方法で記録されている。1970-1990年の調査は,対象者自身が自由に記入した用紙をもとに,あとで専門の担当者がコーディングをおこなう「アフターコード」方式による。1995年調査では1970-1990年の調査とおなじ方式による「アフターコード調査」と,前もって用意したコード表にしたがって記入してもらう「プリコード調査」の2種類が同時におこなわれた[三矢+吉田1997]。2000年調査はプリコード方式による調査だけである。アフターコード,プリコードのいずれの場合も,時間割記入用紙には15分単位の目盛りが振ってあり,集計も15分単位でおこなわれる。また複数の行動を同時におこなっていた場合はそのまま記録されるので,ひとり1日あたりの行動の合計が24時間をこえることがある。
 母集団は10歳以上で日本在住の日本国民である。調査対象者の抽出は層別2段無作為抽出法による。第1段階で地点を抽出し,第2段階で住民基本台帳から10歳以上の者を抽出する。いずれの年も,第2段階で各地点から抽出する人数は一定である。第1段階の抽出においては,1970,1980,1990,2000の各年では,各都道府県に同数の地点が割り当てられている(注4)。その他の年については抽出確率は公表されていない。
 抽出した対象者について,10月中の1日または2日間を割り当てて,その日の0時から24時までの行動を時間割記入用紙に書きこんでもらう。1985年までは,平日(注5)はひとりの対象者に1日を割り当て,土曜・日曜はひとりの対象者に連続する2日間を割り当てていた。1990年以降は,全対象者について,曜日にかかわらず連続する2日間を割り当てるようになっている。

 2 「家事」

 行動は「大分類」「中分類」「小分類」の三つのレベルで分類されている。「中分類」には15-16個のカテゴリーがあるが,本稿で着目するのはこれらのうち「家事」という行動である。このカテゴリーには,炊事,そうじ,洗たく,縫い物・編み物,買い物,子供の世話,病人や老人の世話,家庭雑事などがふくまれる[NHK1990:14][NHK2000:19]。

 3 「家庭婦人」

 本稿の分析では「家庭婦人」という属性の対象者だけの集計を利用する。これは時間割用紙とは別に職業に関する質問項目があって,それへの回答によっているものである。具体的な回答選択肢は「職業を持っていない人」のうちで「主として家事に従事している女性」となっている。有効標本中の「家庭婦人」の比率を表2に示す。

表2 有効回収数と「家庭婦人」比率

 「家庭婦人」は先に述べた「家事専従者」にほぼ重なる概念である。しかしつぎの2点に関しては「家事専従者」との間にずれがある。

 (1)男性をふくまない
 (2)報酬をえる仕事をしている人をふくむ

 家事専従者に占める男性の比率は低い(注3参照)ので,(1)による問題は小さい。
 問題は(2)である。「家庭婦人」のなかには,仕事をしている人がかなりの比率でふくまれている。1970-1985年の報告書をみると,「家庭婦人」で仕事をすこしでもおこなった人は,平日・土曜で20%以上,日曜で15%以上いる。この人たちについての平均仕事時間は,4時間弱から5時間までの間である。農商工業や自由業,パートタイム雇用者のかなりの部分が「家庭婦人」の選択肢を選んでいるのではないかと推測できる[多田1975:203]。つまりこの調査の「家庭婦人」とは,本来家事専従者とはいえない層を1割以上ふくんでいることになる。
 本稿でこれからおこなうのは,「家庭婦人」の家事時間のデータをもとにして家事専従者の労働供給可能性を推計する作業である。仕事をしている人の家事時間は短くなる傾向があるとすれば,「家庭婦人」の家事時間は家事専従者の家事時間よりも短くなっていることが推測できる。すると,それをもとに推計される家事専従者の労働供給可能性は,高めに出てしまうことになる。本稿の推計はそのようなバイアスをふくむものであることに留意しておいていただきたい。
 なお,1990年からは,パートタイムも「職業」とみなす旨の注意書きが調査票に追加された。1990年以降の報告書をみると,「家庭婦人」の仕事の行為者率が減少し,平均時間も短くなったことがわかる。またそもそも「家庭婦人」の比率が1985年以前よりも減っている(表2)が,これも調査票のこの変更によるものという疑いがある。このように,1990年以降の調査における「家庭婦人」はそれ以前の調査とは内実が変わっていて,より家事専従者に近い人々だけに純化したカテゴリーになっている。



III 「家庭婦人」の労働供給の可能性

 1 平日・土曜・日曜の家事の時間量分布:1973-1985

 「家庭婦人」の家事にしぼって,時間量の分布をくわしくみておこう。NHK「国民生活時間調査」では,行動は1/4時間を1単位として記録されている。何単位分の家事が1日の時間割に記録されているかを数えあげたものが家事の時間量になる。
 1973年から1985年までの4回の調査の報告書には,2単位または4単位ごとに階級わけした度数分布表が載っている。この4年分についての家事時間のグラフを図1に示す。グラフを描くには,各階級を代表する「階級値」をあたえておく必要がある。階級がl単位からh単位までをひとくくりにしたものである場合,「階級値」は



とすることにした。ただし49単位以上はひとつの階級にまとめられていて上限がない。この階級の階級値は便宜的に(49+52)/8時間とした。

図1 家庭婦人の平日・土曜・日曜の家事の時間量分布:1973-1985

 どの年のデータについても,分布のかたちはよく似ている。まず,家事をしていない家庭婦人はせいぜい1%であり,ほとんどすべての家庭婦人が毎日なんらかの家事をしている。時間量分布のピークは,すべての年の平日・土曜・日曜について,8.625時間のところにある。このピークの左側は急激に落ち込み,そのあとさらに左側に向かってなだらかに裾野をひろげている状態である。
 平日と土曜では,家事時間量の分布にはあまりちがいがない。日曜では,4-7時間のあたりが盛り上がって高原状になっている。
 図1から1973-1985年の間の推移を読むと,平日・土曜・日曜ともピークより右側のラインがしだいに下に移動し,かわって4-8時間のあたりが盛り上がる傾向にあることがわかる。長時間の家事労働をする家庭婦人が減り,逆に家事時間が比較的短い家庭婦人が増えているといえる。ただしこの変動はそれほど大きなものではない。またこの12年間を通じてピークの位置は不変であり,長時間の家事をこなす層が主力であることに変わりはない。

 2 週X時間基準

 いよいよ,家庭婦人からどの程度の労働供給を引き出せるかを考えよう。週間労働時間に関して一定の基準(X時間とする)を決め,週間家事時間(注6)がこの基準時間を下回っている場合には,X時間に達するまで追加的な労働をおこなうことができるものと考える。この追加的な労働の時間量が,その人から引き出せると期待できる労働供給の量になる。
 この推計は1週間合計の時間量を基準とする。ところがNHK「国民生活時間調査」では,同一個人について1週間合計の時間量を把握できない。そこで本稿では,平日・土曜・日曜のデータを別々に使って,1日あたりX/7時間までの労働ができるものとして推計をおこなうことにする。
 1日あたりの労働供給の可能性の推計はつぎのようにしておこなう。階級kの構成比をpk,階級値(式1)をckとすると,労働供給可能な人の割合は



である。階級kのひとりあたり労働供給可能時間はX/7-ckなので,これをすべての階級について構成比で重みづけて合計した値



が家庭婦人全体としてのひとりあたり労働供給可能時間になる。
 このようにして平日・土曜・日曜について1日あたり労働供給可能時間を求めたうえで,これらを平日:土曜:日曜=5:1:1で重みづけて足し合わせた値を計算する。この値を週合計の労働供給可能時間の推計値としよう。
 ただしこれは,すべての家庭婦人について平日・土曜・日曜の家事時間がまったく等しいという条件のもとでのみ,正確な推計値になるものである。この条件が満たされない場合,推計値は過大なものになる。たとえば平日に集中して家事をこなして週末は休んでいるとか,逆に平日の家事を減らして週末にまとめてかたづけるとかの時間配分の人がいれば,その分だけ推計値が水増しされてしまう。
 個人についての週合計の家事時間データがえられない以上は,曜日別のデータを合成して週合計の時間を推計するしかない。この現状では,推計値がかたよるのはどうしようもない。過大な推計であっても,「多めに見積もっても労働供給の可能性はこれくらいである」ということはわかる。それだけでも大きな前進である。

 3 1973-1985年

 表3に1973-1985年の家庭婦人の労働供給可能性の推計値を示す。基準時間Xは週20時間から60時間の間で変化させて計算した。週休2日を前提として考えると,週20時間とは1日4時間,週60時間とは1日12時間の労働にあたる。ちなみに労働基準法32条が定める週間労働時間の上限は週40時間である。

表3 家庭婦人の労働供給可能性:1973-1985

 週40時間を基準にとってみると,家庭婦人のうちで労働供給可能な者は平日・土曜では20-30%,日曜では40%前後である。これらの数字は1973-1985年の間で増加しているが,増加の幅は3-6ポイント程度であり,それほど大きくはない。労働供給可能な時間量は平日・土曜は0.4-0.5時間程度,日曜は0.8時間程度となっている。これらの1日あたり時間量に関しては,1973-1985年の間でほとんど変化がない。週合計の労働供給可能時間についても,1973年に3.37時間だったのに対して1985年には3.60時間であり,やはりほとんど変化はない。
 一方,基準時間を高めて週60時間労働を基準に考えると,状況がちがってくる。60時間基準では,労働供給可能者は平日・土曜で50-60%,日曜では70-80%にのぼる。1日あたり労働供給可能時間は平日・土曜は1.5-2.0時間,日曜は2.3-2.7時間程度である。週合計の労働供給可能時間を求めると,ほぼ12時間かこれをこえる水準であり,しかも1973-1985年の間で約1.4時間増えていることがわかる。
 図1に戻って,時間量分布と労働供給可能性との関連を確認しておこう。式(2)からわかるように,労働供給可能者の割合は,図1の折れ線と横軸との間にできる面積のうち,X/7点から左の部分にあたる。基準時間Xが上がれば,この部分の面積が増えて労働供給可能者が増えると同時に,すでに労働供給可能になっている人の供給時間が増える。この場合にどれくらい労働供給可能時間が増えるかは,基本的には労働供給可能者の割合に比例して決まる。労働供給可能者の割合は,Xの増加にしたがって単調に増加する。したがって,Xのある一定量の増加に対応する労働供給可能時間の増分は,Xが大きいほど大きい。表3の「週合計」の時間でいうと,Xが10時間増えれば労働供給可能時間はおよそ2倍になる,というのが非常に大雑把な目安である。
 このような事情のため,基準時間が週あたり50-60時間の水準まで上昇してはじめて,労働供給可能時間の変動が目にみえるかたちになってあらわれてくる。一定の基準時間Xのもとで時間量分布が左右にシフトした場合についても同様であり,その効果があらわれるには,Xがかなり高く設定されている必要がある。

 4 1990年以降

 1990年以降はどうなっているだろうか? 残念ながら1990年以降の調査の報告書には時間量分布の集計が載っていないので,上記の方法による推計はできない。ただし行為者率・平均時間・標準偏差という基本的な統計量はわかるので,それらを使って概観しておこう。
 表4に平日・土曜・日曜の行為者率と平均時間,変動係数(注7)を載せた。行為者率(u)は,何%の人がその行動をおこなっていたかを示す。平均時間(m)と変動係数(C.V.)は,その行動をおこなっていた人だけに限定して計算した統計量である。報告書には行動をおこなわなかった人もふくめた全標本についての平均時間(t)と標準偏差(s)が載っているので,これらをもとにつぎの式で計算した。



表4 家庭婦人の家事の行為者率・行為者平均時間・変動係数:1970-2000

 図1でみたのと同様に,行為者率はやはり100%に近い。家事をまったくおこなわなかった人の割合は最大でも2.3%である。
 変動係数は,平日・土曜よりも日曜のほうが若干大きい傾向にある。1970-1985年の間では,平日・土曜は0.35-0.38時間,日曜は0.42-0.45時間であり,ほとんど変化がない。この期間は家庭婦人のなかでの家事時間のばらつきはほぼ一定だった。これは図1の時間量分布グラフからも確認できたことである。これに対して1990年代に入ると,変動係数がすこし拡大している。最近になって,家庭婦人のなかでも家事時間の長い層と短い層への分化が進んでいるということかもしれない。ただしこの間には「家庭婦人」かどうかを判別する質問文が変更になったり,アフターコード方式からプリコード方式へという調査方法の変更があったりした(II参照)ので,単にそのせいかもしれない。
 家事の平均時間は,平日・土曜・日曜の順に短くなる。年によっては平日と土曜の差はほとんどないが,平日と日曜の間には常に1時間以上の差がある。家庭婦人は曜日にかかわらず毎日家事をおこなっているが,その時間量は日曜にはすこし小さくなるのだ。これも図1の時間量分布グラフから確認できる。
 図1では,1973-1985年の間に家庭婦人の家事時間の分布は左方向へすこしシフトしていた。これは,表4では平均時間の減少としてあらわれている。家事の平均時間は,平日・土曜・日曜のいずれも,1973-1985年の間に0.3-0.4時間程度減少している。だがすでに表3で検討したように,基準時間を相当高く設定しないと,家事時間のこの減少は労働供給可能性の増加にはむすびつかない。
 1985-1995年(アフターコード調査)の家事時間の平均の変化をみると,平日で0.4時間,土曜で0.8時間,日曜で0.3時間程度減少している。1973-1985年間よりも減少幅が大きめである。この変動が労働供給可能性をどの程度増大させたかについては,時間量分布がわからないので,確定的なことはいえない。表4から推測できるかぎりでは,平均時間が低下して変動係数が上昇しているので,分布の基本的な形状(ピークの位置など)が保存されたままで,相対的に家事時間が短い階級の構成比があがったという可能性がある。たとえば,平日の時間量分布が図1の(a)のような形状から(c)のような形状に変化し,土曜や日曜の時間量分布は左側の高原状の部分が(c)よりもさらに盛り上がった形状になった,というようなケースである。そうとすれば,表3で計算した労働供給可能時間は,1995年までにはさらに大きくなっていた可能性がある。
 1995年以降は,調査方法の変更のため,解釈がむずかしい。平日・土曜・日曜のいずれについても,1995年プリコード調査は1995年アフターコード調査よりも平均時間が長く,2000年調査(プリコード方式による)はそれらの中間にある。家事時間はプリコード方式の調査で長めに測定されやすい傾向があるのだとすると,1995年までの家事時間短縮の傾向が現在までそのまま継続しているものと推測できる。



IV 結論と展望

 1 分析結果のまとめ

 表3から,家事専従者の労働供給可能性はある程度存在するものと推定できる。今後,この層からの労働供給が増大していく可能性はたしかにありそうである。
 しかし時間量という観点から評価するなら,家事専従者の労働供給可能性はそれほど大きいものではない。週40時間労働を基準に考えれば,ひとり1週間あたりに期待できる労働供給の増加は4時間弱である(表3)。Iで計算しておいたように,生産年齢人口比率の低下による労働供給不足を補うのに必要な時間量は,家事専従者ひとりあたり週12.13時間(2025年まで),あるいは週19.72時間(2050年まで)であった。家事専従者に期待できる現実的な労働供給増加量は,この必要時間量の1/3以下にすぎない。さらに,そもそもこの数値をはじき出した本稿の推計方法には,(1)「家事専従者」「家庭婦人」カテゴリー間のずれ,(2)曜日別の家事時間量のかたよりの無視,という2点において,労働供給可能性を過大に見積もってしまうバイアスがかかっている。家事専従者の労働供給可能性は現実にはもっと低いと考えておいたほうがいいだろう。
 ただしこれは1985年までのデータに基づく議論である。その後さらに家事時間が縮小している(表4)ことを考えれば,現在ではもうすこし労働供給可能性は増えていると期待していいかもしれない。しかし,この間の変化は,家事時間量の分布の形状自体が根本的に変わったというようなドラスティックな変化ではなさそうだ(前節参照)。労働供給可能性はいちおう上昇してきてはいるのだろうが,その時間量にはそれほど大きな変化はないのではないかと思う。

 2 将来展望

 今後の社会変動によって,家事専従者の労働供給可能性が大きく増える見込みはあるだろうか?
 ひとつの可能性は,基準労働時間が上昇することである。スタンダードとして要求される労働時間が今よりも長くなり,また長時間労働を家事専従者自身が許容するようになれば,労働供給可能性は著しく増える。表3でみたように,週60時間を基準と考えれば,1985年の推計値で,家事専従者ひとりあたりから週13時間の労働供給が引き出せる。これは2025年までの労働供給不足分を補うのにじゅうぶんな量である。
 だが今後の日本社会がそのような方向へ進む見込みはほとんどないと思う。現在の風潮はむしろ逆であり,労働時間を短縮してゆとりを創り出すことが政府の政策課題になっている。政策目標としてよく言及される「年間総労働時間1800時間」は,週あたりではほぼ40時間労働に等しい[経済企画庁1989:68]。この労働時間短縮の風潮に逆らって基準労働時間が上昇するということは,近い将来にはちょっと期待しにくいであろう。
 もうひとつの可能性は,家事時間が大幅に短縮されることである(注8)。式(3)で,階級値をckのかわりにαckでおきかえて計算すると,家事時間がα倍になったときの労働供給可能時間が求められる。表3とおなじデータを使って,基準時間をX=40に固定し,係数αを変化させて計算してみると,およそα=0.55のときに労働供給可能時間が週12時間程度になることがわかる(計算結果の表は省略)。現状では家事専従者の家事時間量の分布のピークは1日8時間をこえる水準だが,家事時間が0.55倍になれば1日5時間弱のところまでピークが移動する。家事時間がそこまで短くなれば,週40時間程度の基準でも表3の週60時間(1日およそ8.6時間)基準と同程度の労働供給を引き出せる。
 だが家事時間を55%にまで減らすというのは,相当に過酷な要求である。家事は機械化したり外部化したりすればどんどん減らせるではないか,という人もいるかもしれないが,実際には,機械化や外部化で余裕ができてもそれがそのまま家事時間の減少にむすびつくわけではない。新たにできた時間的余裕をどういう活動に振り向けるかは,その人が自由に決めていいことである。そして,戦後日本社会においては,そうしてできた時間的余裕をさらに高度な家事に振り向けて,より高い水準の生活環境を求めるのがふつうだった[瀬地山1996:188-189]。家事労働は,人々のこのような行動様式に守られて一定の水準を維持してきた。家事時間の分布のおどろくほど安定した形状(図1)がこのことを象徴している。
 以上のように考えれば,大幅な追加的労働供給が家事専従者から引き出される見込みは薄い。潜在的な労働供給源として彼らに大きな期待をかけるのは非現実的である。


(注1)1995年の総務庁「国勢調査」の年齢別人口を基準として,出生率・死亡率などの条件を設定することで2100年までの人口構造が推計された。この推計では条件設定を変えて3種類の推計値をはじき出している。ここで使う推計値は,1935-1965年生まれの女性にみられた晩婚化傾向が1980年生まれの女性まで継続して進行し,そこでストップすると仮定して出生率を設定したもので,「中位推計」と呼ばれている[国立社会保障・人口問題研究所1997:8-26]

(注2)水野+吉田[1995:40]では労働力率にそのまま平均労働時間を掛けていた。この方法では労働供給を過大に見積もることになる。「労働力調査」の平均労働時間は実際に働いている者(従業者)だけについての数値だからである。式(4)も参照のこと。

(注3)潜在的な労働供給源として「女性」に注目する議論がよくあるが,そこでいう「女性」とは,たいていは家事専従者のことである[八代1999:34-48]。家事専従者のうち男性はわずか2%[総務省統計局2001:126-128]なので,実用上は,家事専従者とは女性のことであるとしてデータを集めざるをえないのはよくわかるし,本稿もそうした手段をとる。だがそれはあくまでもデータ収集の際の技術的な問題にすぎないのであり,理論的・概念的なレベルでは両者は区別しておくべきだと私は考える。

(注4)都道府県の人口規模を考慮せずに一律の人数を抽出するので,日本社会全体の等確率標本ではなく,人口のすくない都道府県を過剰に代表した標本をえることになる。ただし1980年調査に関しては,平均値の算出にあたって都道府県別人口による重みづけをおこなった旨の記述がある[NHK1980:48]。ほかの年の報告書で同様の処理がおこなわれたかどうかはわからない。

(注5)「平日」とは,月曜から金曜まで,という意味である。なお,調査日に祝日はふくんでいない。

(注6)すでに書いたように,「家庭婦人」のなかには仕事を持っている人がかなりの比率でふくまれる。しかしここでは仕事時間は考慮しない。本来の目的は仕事を持たない家事専従者について労働供給可能性を推計することなのであって,「家庭婦人」について知りたいわけではないからである。

(注7)図1でみたように,家事時間の分布は左に長く裾を引く。このような分布が全体的に左右にシフトした場合,左裾が引き伸ばされたり押し縮められたりして,それだけでばらつきが変化してしまう。このような効果をのぞくためには,標準偏差よりも,それを平均値で割った変動係数のほうが適当である。

(注8)生産年齢人口比率の減少が問題なのは,本来は家事労働をふくめてあらゆる種類の労働についての話である[森岡1990:54]。市場労働への供給が増えても,かわりに家事時間が減って日常生活の水準が低下するのであれば,問題はむしろ深刻化するおそれがある。ここでの議論は,市場労働への供給不足だけを問題にする限定的なものであることを了解いただきたい。


文献(出版年の順)
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阿藤誠(2000)『現代人口学』日本評論社。
総務省統計局(2001)『労働力調査年報2000』日本統計協会。
総務省統計局(n.d.)「第1表 年齢(各歳),男女別人口(総数及び日本人)」『平成12年国勢調査抽出速報集計統計表』(WWW文書)URL http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2000/sokuhou/zuhyou/a001-1.xls ,2001.6.30閲覧。

「国民生活時間調査」報告書([ ]は調査年。編集は日本放送協会またはNHK放送文化研究所,出版は日本放送出版協会)
[1970]1971『昭和45年度 国民生活時間調査』。
[1973]1974『昭和48年度 国民生活時間調査』。
[1975]1976『昭和50年度 国民生活時間調査』。
[1980]1981『昭和55年度 国民生活時間調査 全国編』。
[1985]1986『昭和60年度 国民生活時間調査』。
[1990]1991『1990年度 国民生活時間調査 全国編(時間量)』。
[1995a]〔時系列比較用「アフターコード調査」集計表〕(NHK放送文化研究所への直接照会による)。
[1995b]1996『データブック国民生活時間調査1995』。
[2000]2001『データブック国民生活時間調査2000《全国》』。


 たなか・しげと 東北大学大学院文学研究科専任講師。主な著書に『性別分業の分析』(関西学院大学出版会学位論文データベース)。社会統計学・ジェンダー論専攻。
E-mail tsigeto@nik.sal.tohoku.ac.jp
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