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(著者抄録)
本稿は、ファミリーフレンドリー(ファミフレ)施策と男女均等施策の関係を理論モデルで予測し、実証する。まず、ファミフレ施策は女性の離職率を抑え、男女均等施策は女性の生産性を上昇させるという仮定の下に理論モデルを作成した。それによれば、ファミフレ施策と男女均等施策は互いに補完的である。しかし、これらが女性の雇用に与える効果は理論的に確定できない。次に、企業へのアンケート調査を用いて回帰分析を行った。その結果、均等化への取り組みとファミフレ施策への取り組みは、互いを推進し合う効果を持っていることがわかった。また、企業における女性比率に対しては、いずれの施策も有意な効果が見られなかった。
(論文目次)
I はじめに
II 理論モデル
III 実証モデル
IV データ
V 結果
   1 相関関係
   2 因子分析
   3 回帰分析
VI まとめ

 I はじめに

 「平成12年賃金構造基本統計調査」によると,女性一般労働者の時間あたり「きまって支給する現金給与額」は,男性一般労働者の66%に過ぎない。パートタイム労働者を含めると,この差はさらに拡大する。日本で女性の賃金が低い原因の一つは,結婚や出産による退職が多いことである。結婚・出産退職が依然として多いことは,「第11回出生動向基本調査」「1995年SSM(社会階層と社会移動)調査」「消費生活に関するパネル調査」「女子(女性)雇用管理基本調査」等で確認できる(注1)。また,川口(2001)によると,既婚女性は,未婚女性と比べて,職種,規模,就業形態の面でより低賃金部門へ移動する傾向が強い。さらに,出産も女性の賃金を有意に低下させる。このように,結婚・出産により,女性が家庭責任を負うことによって,賃金が低下する。
 女性の賃金が低いもう一つの原因は,企業が女性の能力を男性と同等に活用しないためである。これは,結婚・出産退職者が多いことの原因であり結果でもある。女性の平均的勤続年数が短いため,企業は女性に対し,訓練投資を控えようとする。その結果,女性の能力は十分に活用されず,女性は会社での自分の将来に希望が持てなくなり,結婚・出産を機に退職してゆく。会社に残った女性も,男性より低い賃金に甘んじなければならない。
 しかし,近年,仕事と家庭の両立を支援する施策(ファミリー・フレンドリー施策:以下,「ファミフレ施策」と略す)が徐々に浸透しつつある。育児・介護休業制度や育児・介護のための労働時間短縮制度などがその代表である(注2)。1991年の「育児休業法」および1995年の「育児・介護休業法」の制定がそのような動きを後押ししている。また,1999年の「改正男女雇用機会均等法」では,ポジティブ・アクションが企業の努力義務となり,性差別の解消という受け身の施策から,女性の能力促進というより積極的な施策へ転換する企業が見られる。さらに,コース別人事制度を発展的に解消する企業も少なくない(注3)。
 ファミフレ施策と男女均等施策の関係については,脇坂(1999,2001)の先駆的研究が注目される。脇坂氏は,企業は両施策を同時に進めるのか,それとも二者択一して一方のみを進めるのか,という問題を提起した。そして,両者を同時に推進するのは企業にとってコストがかかるため,いずれか一方を先に進め,それがある程度完成した時点で,他方にとりかかるという仮説を提起している。その仮説を明確に支持する実証分析はないが,大企業では均等化が進み,ファミフレ施策がやや遅れている産業が多いことを発見している。アメリカでは,Schwartz(1994)が,ファミフレ施策がいわゆる「ガラスの天井」に与える効果を分析している。すなわち,ファミフレ制度を利用した女性は,仕事に対する意欲に欠けるものとみなされ,昇進コースから外されるのではないかという仮説を検証している。その結果,ファミフレ制度の利用者が,その後のキャリア形成において不利となるような証拠は見つからなかったとしている。
 本研究は,脇坂氏の問題提起に触発されたものである。ファミフレ施策に力を入れる企業は,男女均等施策にも熱心なのであろうか,それともいずれか一つを選択的に推進するのだろうか。言いかえると,両施策は補完的なのか,代替的なのか。両施策が代替的であるなら,一般に,女性が能力を発揮できる企業では家庭との両立が困難であり,女性が働きやすい企業では十分能力を発揮できないということになる。逆に,両施策が補完的であれば,女性が能力を発揮しやすい企業ほど,仕事と家庭の両立支援にも熱心であることになる。
 また,両施策が補完的であるか代替的であるかは,政策当局にも戦略的な違いをもたらす。両施策が補完的であれば,いずれを推進するかという問題はそれほど重要でない。いずれを推進しても,結果的に両施策によい効果をもたらすからである。しかし,両施策が代替的であれば,育児・介護休業制度などの積極的推進策は,企業の男女均等施策を阻害し,均等法の強化は,企業のファミフレ施策の推進を阻害することになる。したがって政府は,一方が突出し他方を阻害することがないよう,バランスに配慮した政策を推進しなければならなくなる。
 ファミフレ施策が女性の雇用に与える影響も重要な課題である。現状では,ファミフレ制度を利用するのは主に女性であるから,施策は女性の労働費用を高めるであろう。これは,女性の雇用に負の効果を持つ。他方,ファミフレ施策が女性の離職率を低下させるなら,企業は女性の人材育成に力を入れ,女性の雇用が増加する可能性もある。前者の効果が大きいならば,ファミフレ施策の推進は,女性の雇用に悪い影響をもたらし,後者の効果が大きければ,女性の雇用によい影響をもたらす。
 本稿では,以上のような問題を議論するため,まず,簡単な理論モデルを作成し,それに基づき,ファミフレ施策,男女均等施策,女性の雇用の三つが相互に及ぼす効果を議論する。次に,理論モデルから導いた実証モデルを二段階最小二乗法(2SLS)で推定する。さらに,仕事と家庭の両立や女性の活用に対する経営者の認識がこれらの施策や女性の雇用にどのような影響を与えるかを分析する。



 II 理論モデル

 本節では,ファミフレ施策と男女均等施策は互いに代替的か,それとも補完的か,また女性の雇用への効果は正か負かを,簡単なモデルに基づき推論する。
 モデルは,企業1社とそこに応募してくる多数の労働者からなる。労働者iの能力を実数xiで表す。企業に応募してくる男女の能力分布は所与であり,密度関数



で表される(注4)(以下,添字のmは男性を,fは女性を意味する)。能力は共通情報である。モデルは2期間からなる。第1期に,企業は労働者を雇い,訓練を行い,賃金を支払う。企業は男女の採用基準



を決め,それより能力の高いすべての労働者を採用する。したがって,最も優秀な労働者の能力をxとすると,採用者数



は以下の式で表すことができる。



企業は男女に異なった訓練を行うことができる(注5)。ただし,同じ性別の労働者には同じ訓練を行う。男性1人あたりの訓練支出をtm,女性1人あたりの訓練支出をtfとする。男女均等施策の程度はこのtfによってとらえられるものとする。労働者iの当該企業における第1期の生産量は0,第2期の生産量は



である。ただしh>0,h"<0,sは定数とする。訓練は企業特殊的であるため,他の企業では役に立たない。労働者は外部労働市場では,能力に関係なく,1期あたりsだけ生産することができる。企業は,第1期に第2期の賃金までコミットすることはできない。そこで,企業は,第1期,第2期とも外部労働市場での生産性sに等しい賃金を支払う。
 また,企業は第1期に女性1人あたりzの額だけファミフレ施策として支出する。第1期から第2期にかけての女性の残存率はzの関数



である(注6)(注7)。ただし,男性の残存確率pmは所与とする。離職の理由は,結婚,出産,病気などであり,賃金を上げてこれらの労働者の離職を思いとどまらせることはできないか,できても採算に合わないとする。
 これらの仮定の下では,企業の第1期と第2期の利潤は,以下の式で与えられる。



企業は両期の合計利潤π=π1+π2 が最大となるよう,



を決める。このモデルでは,男性がもたらす利潤と女性がもたらす利潤が分離しているので,tm, x*mとz, tf, x*fは別々に解くことができる。z, tf, x*fに着目すると,利潤最大化の1階の条件は



2階の条件は満たされるものとする。1階の条件は以下のように書きかえられる。



は採用された女性の平均能力である。
 それぞれの変数の相互効果は表1にまとめてある。(4)式より,女性への訓練支出(tf)はファミフレ施策への支出(z)に正の効果がある。これは,女性の生産性が高くなるほど,その女性が残存したときの利益が大きいため,ファミフレ施策へのインセンティブが大きくなるためである。また,女性の採用基準(x*f)は,ファミフレ施策への支出(z)に正の効果がある。言いかえると,女性の採用数(nf)は女性の採用基準(x*f)の負の関数なので,女性の採用数が増えると,ファミフレ施策への女性1人あたり支出は減ることになる。これは,応募者が所与という仮定の下では,女性を多く採用すると,女性の能力の平均値が低下するため,企業にとってはファミフレ施策に支出するインセンティブが低下するからである。

表1 理論モデルによる変数間の相互効果

 次に,(5)式より,ファミフレ施策への支出(z)は女性の訓練への支出(tf)に正の効果がある。これは,ファミフレ施策に支出するほど女性の残存率が高まり,訓練投資からの収益が増加するからである。また,女性の採用基準(x*f)は女性の訓練への支出(tf)に正の効果がある。言いかえると,女性の採用数(nf)が多くなるほど,企業は,女性1人あたりの訓練費用(tf)を小さくする。これは,女性を多く採用するほど,能力の平均値が下がるためである。
 最後に,(6)式より,女性労働者への訓練支出(tf)とファミフレ施策への支出(z)が女性の採用基準(x*f)に与える効果の方向はわからない。というのは,訓練の増加は,一方で,第2期の生産性を上昇させ,収益を増加させる。これは(6)式の右辺の分母を大きくする。しかし,他方で,訓練への支出増は第1期の女性1人あたり費用を増加させる。これは(6)式の分子を大きくする。したがって,訓練支出の増加が女性の採用に及ぼす効果はわからない。ファミフレ施策の支出の増加についてもまったく同じことが言える。一方で,女性の離職率を下げ,収益を増加させるが,同時に第1期の女性1人あたり費用を増加させる。よって,女性の採用が増えるか否かはわからない。
 このように,単純な2期間モデルから,(1)ファミフレ施策と男女均等施策は補完的である,(2)女性労働者が多いと企業はこれらの施策を控えようとする,(3)これらの施策が女性の雇用に与える効果は確定できない,という結論が導かれる。
 モデルは,いくつかの強い仮定の下になりたっている。これらのうち,最も重要なものについて簡単に触れておく。それは,すべての労働が完全に代替的であるという仮定である。仮に,女性は男性の補助をする場合,男女の労働は補完的となる。このとき,女性の労働は単純労働であるため,訓練による生産性の上昇は期待できないかもしれない。また,ファミフレ施策は,女性の残存率を高め,女性を過剰にする結果,企業は女性の採用を控える可能性がある(注8)。
 また,現実には,女性の中に,基幹的労働者と補助的労働者が混在していることが多い。後者の多くはパートタイム労働者である。このとき,企業は基幹的労働者により多くの訓練投資をしたり,正社員にのみファミフレ施策を施すのが一般的である。したがって,女性正社員が多い企業では,ファミフレ施策を導入すると利用者が多くなり,費用がかさむが,パートタイム労働者が多い企業では,ファミフレ施策を実施しても利用できる者が少ないため,あまり費用はかからない。このように,女性労働者に複数のタイプがある場合も,理論モデルとは違った結果が出る可能性がある(注9)。



 III 実証モデル

 理論モデルの1階の条件をテーラー展開し,線形化する。ただし,女性の採用基準x*fは,従業員に占める女性比率rに置き換える。女性の採用基準x*fが高くなると,女性の採用は減り,従業員に占める女性比率rも下がると推測できる。



X,Y,Zは外生変数である。理論から導かれる係数の符号は



である。その他の符号は確定できない。
 ファミフレ施策の程度を表す数値として2種類の変数を用いる。一つは,それぞれの企業が制定している育児および介護の際に利用可能な制度の数,もう一つは仕事と家庭の両立のために企業が取り組んでいる項目の数である。それぞれ,「ファミフレ制度得点」および「ファミフレ取り組み得点」と呼ぶ。これらの項目およびそれぞれの統計量は表2にまとめてある。

表2 記述統計量

表2 記述統計量(つづき)

 表2によると,ファミフレ制度で,最も普及しているのが,育児休業制度と介護休業制度である。次いで,短時間勤務制度をはじめとする労働時間の柔軟化施策が普及している。他方,仕事と家庭の両立への取り組みは,制度の普及と比べて劣っている。それでも,ファミフレ制度の利用者が不利にならないような取り組みや,ファミフレ制度に関する従業員からの意見聴取は,それぞれ2割ほどの企業が実施している。
 男女均等施策の程度を表す数値も2種類の変数を用いる。一つは女性管理職の割合,もう一つは均等化のための取り組み項目の数である。前者は,女性係長がいれば1点,女性係長比率が40%以上であれば1点,女性課長がいれば1点,女性部長がいれば1点,合計0点から4点の間の整数をとる変数である。後者の具体的質問内容は表2にある。前者を「女性管理職得点」,後者を「均等化取り組み得点」と呼ぶ。
 表2によると,均等化への取り組みでは,「g.人事効果基準の明確化」が最も多く,43%の企業で実施されている。次いで,「d.女性の少ない部門への積極的登用」が30%,「f.管理職への啓蒙」が21%となっている。
 三つの式を識別するためには,それぞれの式に固有の外生変数が必要である。外生変数には,企業規模ダミー,産業ダミーと並んで,アンケートの中で尋ねている企業の経営姿勢を数値化したものを用いる。すなわち,(7)式の外生変数として,企業規模ダミーと仕事と家庭の両立に対する経営者の認識を,(8)式の外生変数として,企業規模ダミーと女性活用上の問題に対する経営者の認識を,そして(9)式の外生変数としては,企業規模ダミー,産業ダミー,および,女性活用上の問題に対する経営者の認識を用いる(注10)。



 IV データ

 実証分析に用いたデータは,少子高齢化社会の制度改革研究会(主査:橘木俊詔氏)による「企業の福利厚生制度に関するアンケート調査」(2000年8月)である。調査の対象は,大阪商工会議所および関西経済連合会加盟企業である。これらの企業より3000社を無作為抽出し,郵送法によりアンケート用紙を配布・回収した。回答企業数は899,回収率30%である。研究では,従業員30人以上の企業に対象を絞った。記述統計量は表2にある。



 V 結果

 1 相関関係

 実証モデルの推定に移る前に,ファミフレ制度得点,ファミフレ取り組み得点,女性管理職得点,均等化取り組み得点,女性比率の相関関係を見ておく。表3-1は,これらの変数の相関係数を,表3-2はこれらの変数を企業規模ダミーと産業ダミーで回帰した残差の相関係数を掲載している。まず,表3-1を見る。ファミフレ制度得点,ファミフレ取り組み得点,女性管理職得点,均等化取り組み得点の四つの変数は互いに正の相関がある。なかでも,ファミフレ取り組み得点と均等化取り組み得点の相関係数は0.491と大きい。これは,両者が補完的であるという理論モデルの予測を支持する。女性比率は女性管理職得点と正の相関があるが,それ以外の変数とは明確な相関はない。表3-2を見ると,女性比率と女性管理職得点を除いて,相関係数の絶対値は小さくなっている。しかし,全般的傾向に大きな変化はない。

表3-1 主要変数の相関係数/表3-2 主要変数の相関係数(企業規模と産業を調整)

 ファミフレな制度と取り組みは正の相関関係があるが,それほど大きいものではない。このことは,ファミフレ制度が充実している企業が,必ずしもファミフレ施策に熱心に取り組んでいるわけではない可能性を示唆している。

 2 因子分析

 IIIで説明したすべての外生変数を説明変数に加えると,多重共線性が生じて有意な結果が得られない恐れがある。そこで,変数の数を減らすために,因子分析を行った。因子得点は,元の変数の線形結合であり,平均が0,分散が1となるよう標準化してある。
 因子分析は,変数の背後に潜む共通要因を取り出す方法である。したがって,これによって,仕事と家庭の両立や女性活用上の問題について,経営者の認識の構造を分析することができる。また,それぞれの因子がファミフレ施策や男女均等施策に与える効果も分析できる(注11)。
 表4は,仕事と家庭の両立に関する質問への回答の因子分析の結果である。ただし,表2に挙げた項目のうち,「b.企業の目標は利潤追求」は仕事と家庭の両立問題との関連性が小さいので,また,「c.家庭に心配ごとがあると能率低下」と「e.女性従業員は重要な戦力」は,ほとんどの経営者が「そう思う」と答えており,ばらつきが小さいので除いた。さらに,「f.ファミフレ制度導入の要求あり」と「j.ファミフレ制度より賃上げ・雇用」は,従業員の女性比率に依存すると思われ,外生変数とは言いにくいので除いた。その結果,八つの変数を因子分析に用いた。

表4 バリマックス回転後の因子パターン(仕事と家庭の両立に関する質問)

 因子の数は,固有値1以上を基準に決定した。因子負荷量の絶対値0.50以上を示した項目の内容を参考に各因子を解釈した。因子Iに対しては項目「d.ファミフレ施策は不平等」「g.家庭のことは自己責任で」「i.ファミフレ施策は企業の負担大」「l.両立できない人は辞めてもいい」「m.ファミフレ施策は政府の役割」がやや大きな正の負荷を示していた。これらは,仕事と家庭の両立を可能にするような措置を企業にとっての役割と考えず,その実施を負担と考える態度であるので「企業の役割外」因子と名づける。
 因子IIに対しては,「a.ファミフレ施策は企業の社会的責任」「h.ファミフレ施策は企業イメージアップ」「k.ファミフレ施策は人材確保のために必要」がやや大きな正の負荷を示した。これらは,ファミフレ施策の有用性の認識を意味しているので,「ファミフレ施策有用」因子と名づける。
 表5は,女性活用上の問題点についての企業の認識を因子分析した結果である。表2の質問項目のうち,「a.勤続年数短い」と「c.職業意識低い」は,採用した女性の質に影響を受ける可能性が強く,外生変数とは言いにくいので除いた。その結果,六つの変数が因子分析に用いられた。因子の数は,固有値1以上を基準に選んだ。因子負荷量の絶対値0.60以上を示した項目の内容を参考に各因子を解釈した。

表5 バリマックス回転後の因子パターン(女性活用上の問題に関する質問)

 因子Iに対しては,「f.残業・深夜業させにくい」「g.環境整備に費用」「h.法的制約」が正の負荷を示している。これらは,女性の活用には様々な制約が存在するという認識なので「活用上の制約」因子と名づける。因子IIに対しては,「d.社会の理解不足」と「e.上司・同僚の理解不足」が正の負荷を示している。そこでこれを「周囲の理解不足」因子と名づける。因子IIIに対しては「家庭責任考慮の必要」が正の負荷を示している。そこでこれを「家庭責任」因子と名づける。

 3 回帰分析

 表6はファミフレ制度得点とファミフレ取り組み得点の推定結果である。推定には,二段階最小二乗法を用いた。第1段階ですべての外生変数を用い,内生変数を推定し,その予測値を操作変数として用いた。また,第2段階では,多重共線性を避けるため,仕事と家庭の両立についての企業の姿勢や,女性活用上の問題点の回答をそのまま用いるのではなく,因子得点を用いた。

表6 二段階最小二乗法によるファミフレ得点の推定

 まず,女性比率の係数はすべて負であるが,5%水準で有意なものはない。理論的には負の係数が予測された。符号は理論通りとはいえ,明確な支持が得られたとは言いがたい。
 次に,女性管理職得点は,いずれも正の効果を持っているが,5%水準で有意ではない。均等化取り組み得点は正の効果を持っている。モデル(2)では10%水準で有意,モデル(4)では1%水準で有意である。これは,理論と整合的である。
 労働組合はファミフレ制度に対し,正の効果を持っているが,取り組みにはほとんど効果がない。このことは,労働組合は形式的な制度の整備に対しては影響力があるが,より実質的な取り組みには影響力が小さいことを示している(注12)。これが,組合の無関心によるのか,力の限界によるのかは定かではない。
 ファミフレ施策に対する「企業の役割外」因子は強い負の効果を持っている。これに対し,「ファミフレ施策有用」因子は正の効果を持っているが,効果は弱く,5%水準で有意なものはない。
 企業規模に関しては,大企業ほど制度の充実が観察されるのに対し,取り組みと企業規模の相関は明確でない。大企業で制度が充実している理由としては,中小企業では制度変更にかかる費用が無視できないこと,大企業は体面上制度を整える必要があることなどが考えられる。
 表7は,男女均等得点の推定結果である。まず,女性比率は,女性管理職得点にも均等化取り組み得点にも正の効果を持っているが,5%水準で有意なものはない。理論的には負の効果が予測されたが,明確に支持も否定もされなかった。ファミフレ施策は正の効果を持っている。女性管理職得点に対してはそれほど強い効果ではないが,均等化取り組み得点に対してはモデル(3),(4)とも1%水準で有意である。これは理論と整合的である。労働組合ダミーはほとんど効果を持っていない。これは,多くの労働組合は,女性活用については重要な課題と位置づけていないか,または人事政策上の問題には組合の影響力が小さいためと推測できる(注13)。

表7 二段階最小二乗法による男女均等得点の推定

 「周囲の理解不足」因子は強い正の効果を持っている。これは,周囲の理解がない企業ほど女性の能力活用が進んでいるということではなく,むしろ,女性が十分活用されない理由を,周囲の理解不足と考える経営者は,女性の潜在的能力を高く評価していると考えるべきだろう。あるいは,男女均等施策を進めるなかで,周囲の理解不足がネックとなっているのかもしれない。「家庭責任」因子は正の効果を持っており,モデル(3)では5%水準で有意である。これは,仕事と家庭との両立問題に敏感な経営者ほど,均等化に熱心であることを意味する。
 表8は女性比率の推定結果である。ファミフレ施策,男女均等施策は,ほとんど影響を持っていない。労働組合は負の効果がある。これは,組合のある企業のほうが男女間賃金格差が小さい一方(注14),女性の雇用拡大には熱心でないかまたは影響力がないため,組合の存在がかえって女性の雇用拡大を阻害していることを意味する(注15)。

表8 二段階最小二乗法による女性比率の推定

 また,女性活用上の問題として,法的規制などを重視する「活用上の制約」因子は負の効果を持っている。そのうち,モデル(1)と(4)では5%の水準で有意である。「活用上の制約」因子が強いのは,深夜業や危険有害業務が多い業種と推測できる。あるいは,女性の雇用に無関心な企業では,労基法改正以前の「女性=法的制約の多い存在」という観念が残っているためかもしれない。



 VI まとめ

 ファミフレ施策と男女均等施策が補完的か代替的かを,理論,実証の両面から検討した。そして,理論的にも,実証的にも,両施策が補完的であることが示された。このことは,男女の均等化を促進すると,ファミフレ施策の必要性が高まり,またファミフレ施策の推進がさらなる均等化を可能にするという相乗効果が生まれる可能性を示唆している。
 ファミフレ制度の導入については,中小企業の遅れが目立つ。中小企業では相対的に女性労働者が多く,ファミフレ施策のニーズは大きいはずである。それにもかかわらず,中小企業で導入が遅れている理由のひとつに,この施策が規模の経済性を持っていることがある。ファミフレ施策を少子・高齢化社会における福祉政策の一環としてとらえ,負担感の強い中小企業には,政府が支援を行うことが望まれる。
 両施策が女性の雇用に与える効果は,理論的に確定できなかったし,回帰分析でも明白な結果が出なかった。また,理論的モデルからは,女性従業員が多いと能力の劣る労働者まで採用されるため,企業はファミフレ施策や女性の訓練に消極的になると予測されたが,それは実証されなかった。これは,女性労働者といっても,総合職,一般職,パートタイム労働者など,複数のタイプがあるにもかかわらず,本研究ではそれらを区別しなかったことが原因かもしれない。
 また,ファミフレ施策や男女均等施策が女性の雇用を阻害するという実証結果は出なかった。しかし,そのような施策を実施している企業が,女性正社員を減らし,パートタイム労働者に代替している可能性までは否定できない。企業は一方で少数精鋭の女性労働者を男性同様に処遇しながら,他方で多くのパートタイム労働者を雇って,経費を節減しているかもしれない。基幹労働者と補助的労働者を区別したモデルとデータの収集は今後の課題である。
 仕事と家庭の両立や女性活用上の問題点に関する経営者の認識が,ファミフレ施策や男女均等施策に有意な影響を及ぼしているのも注目すべき点である。ファミフレ施策に関して,これを企業の役割を超えているとする「企業の役割外」因子は負の効果を持っていたが,施策の有用性を認める「ファミフレ施策有用」因子は有意に正の効果を確認できなかった。これは,経営者がイメージアップや人材確保上の有用性など施策の利点を認識していても,施策に対する負担感を持ち,施策を企業の役割であると認識していない企業では,実施には結びつかないことを意味している。男女均等施策に関しては,女性活用上の問題として「周囲の理解不足」を挙げる企業は,均等化に熱心であることがわかった。「周囲の理解不足」を主要な問題とするということは,むしろ女性の潜在能力を評価し,上司・同僚の啓蒙など男女均等施策の必要性を認識していることの現れと解釈できる。


*本稿は,ミレニアム・プロジェクト国際フォーラム(於ホテルオークラ),社会保障研究会(於京都大学経済研究所),関西労働研究会(於関西経済研究センター)で報告したものに加筆修正したものである。John Piggot,Nicholas Vanston,東正訓,橘木俊詔,西村周三の各氏からはていねいなコメントを,また,2名の匿名レフェリーからは,たいへん貴重なご意見をいただいた。ファミフレ制度について,脇坂明氏より貴重な資料をいただいた。本稿で使用した「企業の福利厚生制度に関するアンケート調査」は橘木俊詔氏と共同で作成した。質問用紙作成の過程で,岩本康志,大日康史,大竹文雄,八木匡の各氏から多数のコメントをいただいた。これらの方々に対し,ここに感謝の意を表したい。


注 1)「第11回出生動向基本調査」を使った研究では,新谷(1998),永瀬(1999)が,「1995年SSM調査」を使った研究では,真鍋(1998),田中(2000)が,「消費生活に関するパネル調査」を使った研究では,大沢・鈴木(2000),川口(2001)が,「女子雇用管理基本調査」を使った研究では脇坂(1998)が,結婚・出産退職の多さを指摘している。ほとんどの研究に共通しているのは,出産後1年で就業している女性は,育児休暇中を含めても,25%前後であるということである。

注 2)ファミフレ施策は,アメリカをはじめ,先進各国で普及している。アメリカのファミリー・フレンドリー施策についての紹介は,藤本(1998),中村(1999)が詳しい。また,労働省女性局編(1999)が,「ファミリー・フレンドリー」の概念やアメリカにおけるファミフレ企業を紹介している。

注 3)事例研究として,日本労働研究機構(2000)がある。

注 4)実際には,ファミフレ企業や女性の能力促進に熱心な企業には,より多くの女性が応募するだろうが,ここでは単純化のため,応募者は外生的に与えられているとする。

注 5)この仮定は,後で出てくる男女の異なった採用基準とともに,明らかに男女雇用機会均等法違反であるが,現実には広く行われている。コース別人事制度により男女を事実上分離する企業もあれば,女性には重要な仕事を与えないことにより,女性からOJTの機会を奪う企業もある。

注 6)ファミフレ施策が女性の離職率を下げることは,Bond(1992),樋口・阿部・Waldfogel(1997),滋野・大日(1998),冨田(2001)などが実証している。

注 7)ファミフレ施策は生産性には影響を与えないものと仮定する。この仮定を支持する研究として,Staines and Galinsky(1992)がアメリカの管理職を対象に行った調査がある。それによると,77%の管理職は,育児休業を利用した労働者の生産性は,制度利用の前後で「変化がない」と答えている。また,利用後,「上昇した」と答えた者は16%,「低下した」と答えた者は7%である。

注 8)冨田(2001)によると,女性管理職が少ない企業では,女性の残存率が高いと女性の採用数が少なくなる。

注 9)本稿の理論モデルで,基幹的女性労働者と補助的女性労働者を区別していないのは,実証分析に用いるデータが,正社員と非正社員を区別していないことによる。

注10)厳密に言えば,ほとんどの外生変数は三つの内生変数すべてに何らかの効果を持つだろうが,それらすべてを推定式に含めることはできない。それぞれの式の外生変数に違いがなければ,式の識別に失敗するからである。識別問題については,Maddala(1992)第8章参照。

注11)因子分析の手法は,山際・田中(1997),田中(1996)を参考にした。

注12)この推論を支持するような推定結果が脇坂(2001)にもある。それによれば,労働組合は育児休業制度の導入には1%水準で有意な正の効果を持っているが,育児休業利用率には有意な効果を持たない。企業規模別に見ても,労働組合が育児休業利用率に対し5%水準で有意な効果を持つのは,500人以上の企業だけである。

注13)企業の女性活用と労働組合の関係を間接的に示す興味深い発見に野田(1997)がある。野田氏によると,労働組合の存在は男性の賃金をより年功的にするが,女性の賃金についてはそのような効果がない。これは,労働組合のある企業では,男性に対して長期勤続のインセンティブを与えるような賃金構造になっているが,女性に対してはそうではないことを意味する。

注14)労働組合は,男性の賃金水準には影響を与えないが,女性の賃金水準には正の効果があることを中田(1997),野田(1997)が実証している。

注15)労働組合が企業の女性比率を低下させるという推定結果は脇坂(1999,2001)にも見られる。


参考文献
 大沢真知子・鈴木春子(2000)「女性の結婚・出産および人的資本の形成に関するパネルデータ分析」『季刊家計経済研究』第48号,pp.45-53。
 川口章(2001)「女性のマリッジ・プレミアム――結婚・出産が就業・賃金に与える影響」『季刊家計経済研究』第51号,pp.63-71。
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〈2001年6月6日投稿受付,2001年9月26日採択決定〉


 かわぐち・あきら 追手門学院大学経済学部教授。主な論文に「女性のマリッジ・プレミアム――結婚・出産が就業・賃金に与える影響」『季刊家計経済研究』第51号(2001年夏)など。労働経済学専攻。