調査研究成果データベース

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第1章 研究の目的と背景
 第1節 家庭介護の困難性と在宅サービスの拡充
 第2節 デイケアの定義と位置づけ
 第3節 デイケアの歴史
  1.外国の場合
  2.日本の場合

第2章 調査の概要
 第1節 調査の枠組
 第2節 調査の方法と対象
  1.調査対象者
  2.調査方法
  3.調査期間
  4.分析対象
 第3節 調査対象者の基本属性
  1.デイケア利用老人の基本属性
  2.介護者の基本属性
  3.デイケアの利用状況

第3章 デイケア利用老人の心身の状態
 第1節 ADL・IADL各項目別自立率
 第2節 ADL・IADLの総合得点
 第3節 ADL・IADLの関連要因
  1.年齢
  2.疾患
  3.居住形態
  4.性格
  5.介護者の介護方針
  6.介護期間
 第4節 要約と考察

第4章 介護者の疲労と介護意識
 第1節 介護者の疲労
  1.疲労について
  2.身体的疲労
  3.精神的疲労
  4.疲労度
 第2節 介護者の介護意識
  1.性別介護続柄別介護の「支え」
  2.配偶者の有無別介護の「支え」
  3.介護期間別介護の「支え」
  4.同居年数別介護の「支え」
 第3節 在宅介護の方針
 第4節 介護継続意志
  1.性別続柄別介護継続意志
  2.介護期間別介護継続意志
  3.同居年数別介護継続意志
  4.老人の性格からみた介護継続意志


第5章 介護者の就業状況
 第1節 現在の就業状況
  1.就業の有無の状況
  2.有職者について
  3.無職者について
 第2節 介護以前等の就業状況
  1.介護以前の就業の有無の状況
  2.勤務先や労働条件の変化
  3.退職あるいは転職の有無の状況
 第3節 要約

第6章 老人介護と職業との両立
 第1節 地域のサービスに対するニーズ
  1.介護者の属性別にみたニーズ
  2.デイケア利用老人のADL、IADL別にみたニーズ
  3.デイケア利用状況別にみたニーズ
  4.就業状況別にみたニーズ
 第2節 職場のサービス、制度に対するニーズ
  1.介護者の属性別にみたニーズ
  2.デイケア利用老人のADL、IADL別にみたニーズ
  3.デイケア利用状況別にみたニーズ
  4.就業状況別にみたニーズ
 第3節 要約

第7章 デイケアの現状と将来
 第1節 デイケアの利用状況
  1.利用期間
  2.利用回数
  3.利用時間
  4.利用サービス
 第2節 利用理由とデイケアの効果
  1.老人の利用理由
  2.介護者のあげる利用理由
  3.デイケアの効果
 第3節 介護者の求める在宅サービス
  1.デイケアに対するニーズ
  2.デイケア・センターへの要望
 第4節 デイケアのかかえる問題点と将来
  1.訪問か通所か
  2.利用期間
  3.利用回数
  4.利用時間
  5.サービス内容
  6.特養併設デイケア・センターの長所と短所
  7.機能分化の必要性
  8.費用負担

要約
  1.デイケア利用老人の属性
  2.介護者の属性
  3.介護者の就業状況
  4.デイケアの利用状況
  5.介護者の意識
  6.老人介護と職業の両立

付録 調査票

第1章 研究の目的と背景


第1節 家庭介護の困難性と在宅サービスの拡充

 本研究の目的は,老人を対象としたデイケアが,家庭介護を続けていくうえでどのような効果を持ちうるかをさぐることにある。わが国で老人のデイケアが始められてまだ歴史が浅いために,デイケアに関する調査研究はきわめて少ない。その多くは,施設を対象としてサービス内容や職員配置を尋ねるもの(注1)か,特定の施設における実践記録(注2)である。また,デイケアが利用者に与える効果に関する研究もいくつかあるが,対象はある特定の施設の利用者に限られる(3)。
 お茶の水女子大学袖井研究室では,1988年に東京都内および近郊における11のデイケア・センターにおいて,主として老人のADL(日常生活動作能力)とIADL(手段的日常生活動作能力)を中心に調査を実施した(4)。調査票は,各施設の担当職員が記入したが,介護者に関する質問には不明・無回答が多く,デイケアが介護者に与える効果をとらえることはできなかった。そこで今回(1989年)は,デイケア利用者の家族の(介護者)を対象に調査を実施し,介護と家庭生活・職業生活の両立を可能ならしめる要件をさぐることにした。
 これまでわが国では,心身機能の低下した老人の世話は,家庭で主婦が行うものとされてきた。家制度的な規範が存在した時代には,舅姑を看取り,夫を看取り,やがて息子の嫁に看取られて生涯を終えるのが典型的な女性のライフサイクルであった。しかし,今日ではこうした看取りのサイクルの円滑な循環がむずかしくなってきている。その理由の第1にあげられるのは長寿化である。「昭和63年簡易生命表」によると,平均寿命は男75.54歳,女81.30歳と世界一である。
 長寿化の進行は,必然的に介護者の高齢化をもたらす。「昭和59年厚生行政基礎調査」によると,要介護老人が男性の場合,介護者は圧倒的に妻が多く,その平均年齢は69歳である。要介護老人が女性の場合,介護者は嫁が多く,ついで娘の順になっており,その平均年齢は嫁が58.4歳,娘が53.6歳である。高齢の介護者の場合,介護負担から身体的な不調を訴える者が少なくない。そして時には,介護者自信が,老人より先に亡くなるというケースもある。
 家庭介護を困難にする第2の理由は,出生児数の減少である。一夫婦あたり平均5人の子どもがいた時代には,親と同居をして老後の面倒を見る子を見つけることがそれ程むずかしくはなかった。また,家を継ぐという観念が強かった時代には,息子がいなければ養子を迎えることによって家の存続がはかられたものだ。しかし,平均出生児数が2人を割るようになった今日では,同居をして老後の面倒を見る子を見つけることは容易ではない。たとえ子どもがいたとしても,同居を望まないこともあれば,仕事の都合で遠方に住まねばならないこともありうるだろう。
 第3にあげられるのは,老人と子との同居率の低下である。1960年以前には,65歳以上の人口の9割近くが子や孫と同居をしていたが,以後10年でほぼ1割ずつ減少し,最近では3分の2にまで低下している。厚生省人口問題研究所によると,この比率は2000年には5割程度になるものと推計されている。三世代や四世代の世帯であれば,家庭内に介護者を確保することが可能だ。しかし老夫婦のみの世帯や老人ひとり暮し世帯の増加は,家庭内に介護者がいないか,いたとしても高齢のため病気がちということになりやすい。
 第4は,家族意識の変化である。夫婦家族制イデオロギーの浸透は,老人と子との同居率を低下させ,形態としての核家族化を進行させたばかりでなく,舅姑を看取るのは嫁の務めという家制度的な意識をも弱体化させた。老人福祉開発センター「在宅要介護老人世帯の介護と家計に関する実証的研究報告書」(1987年)によると,たとえ三世代世帯であっても,老人に配偶者がいる場合には,配偶者が主たる介護者であることが指摘されている。
 第5は,女性の変化である。これまで家庭介護の中心は,中高年主婦であった。しかし,近年主婦の職場進出は著しく,総務庁「労働力調査」によると,15歳以上の女子人口に占める雇用者と家事専業者の比率が等しくなったのが1984年。それ以降は,雇用者が家事専業者を上回るようになっている。これまで働く女性の多くは,親や夫を介護するために,退職したり,休職したり,介護可能な勤めに変わるのが普通だった。前述の老人福祉開発センター報告書によると,働いていた介護者の7割近くが何らかの職業生活上の変化を経験しており,介護しながら仕事を続けた人は少数派であった。
 低賃金のパート労働に従事するのであればそれほど未練もなく退職することもできるだろう。しかし,高学歴化が進行し,専門職や管理職に従事する女性が増加すれば,老人介護のためにキャリアを諦めるのがむずかしくなるだろう。パートの単純労働であれば,退職したとしても再び同じような職に就くことができる。しかし,専門職や管理職の場合,いったん退職をすると元の仕事に戻ることはきわめて困難だ。女性の職場進出は,必然的に老人の家庭介護を困難にする。
 以上述べたように,老人の家庭介護はしだいにその困難性を増してきてはいるが,施設入所を望む者は今のところごく少数である。東京都立労働研究所「中高年女性の労働と生活に関する調査」(1987年)によると,親の介護について,「自分や家族で介護する」が28.0%,「有料のサービスを利用して世話をする」が26.9%,「病院や老人ホームにまかせたい」が10.1%であった。有料と無料を合わせると,半数以上の女性が,家庭外からのサービスを利用しながら,家庭で介護したいと考えていることは注目してよいだろう。
 1986年6月6日閣議決定された「長寿社会対策大綱」及びそれに基づいて,1988年10月25日に厚生省と労働省が発表した「長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え方と目標」には,在宅サービスの拡充が明記され,2000年までに,ホームヘルパー5万人,デイ・サービスセンター1万か所(中学校区に1つ),ショートスティ5万床という達成目標が示されている。
 「在宅福祉元年」といわれる平成元年度の予算では,在宅福祉サービス関係予算が前年度にくらべ約2倍の増となっている。そしてホームヘルパーについては,4,300人の増加が,デイ・サービス事業にについては1,900床の増加が見込まれている。
 さらに1989年12月21日に厚生省から発表された「高齢者健康福祉推進10か年戦略」では,平成11(1999)年度までにホームヘルパー10万人,ショートスティ5万床,デイ・サービスセンター1万か所の実現をはかることが目標としてかかげられている。
 本研究においては,在宅福祉サービスの3本柱の一つであるデイ・サービスをとりあげ,老人介護と家庭生活・職業生活の両立をはかるうえで,それが果たす役割と可能性をさぐることにしたい。


第2節 デイケアの定義と位置づけ

 デイケアとは,幼児,心身障害児(者),精神疾患者,退院患者,老人など自立困難な者が通所をして,さまざまなサービスを受けるプログラムを総称するものであり,幼児を対象とした保育所,心身障害児(者)の通所施設,退院患者を対象としたデイ・ホスピタル,虚弱老人や社会的に孤立しがちなひとり暮らし老人を対象としたデイ・ホームなどがふくまれる。
 老人を対象としたデイケアは,施設ケアと在宅ケアの中間に位置づけられ,住みなれた家庭や地域社会において,老人ができるだけ自立した暮らしが営めるよう援助するものである。その目的は以下のようにまとめられる(注5)。

(1)老人が在宅のままで心身機能の維持回復をはかり,自立への活力をとり戻すとともに,社会的な孤立化を避けることにある。

(2)介護者を昼間の介護から解放することによって,心身の疲労回復と生活の安定化をはかる一方で,ケアセンターにおける介護指導を通して介護技術を向上させ,介護意欲を高める。

(3)施設の機能を地域社会に開放することによって,施設に対する地域住民の理解を深めるとともに,デイケア利用者と介護者が施設入所者や職員と交流の機会を持つことが,施設の閉鎖性を打破し,サービスの向上につながる。
 デイケアの対象となるのは,脳卒中の後遺症や関節症などのため身体的障害のある老人,うつ状態や痴呆のため精神的障害のある老人,ひとり暮らしで社会的に孤立しがちな老人や昼間介護者が不在になる要介護老人など社会的障害のある老人である。なお,P.M.ホールは<1>個人にとって身体的あるいは精神的な改善が期待できる場合,<2>在宅の介護態勢を支援できるという場合にのみ,デイケアが必要とされる,と述べている(注6)。
 デイケアのサービス内容は,老人の心身状態によって異なっている。心身に障害のある老人に対しては,医師の診断,リハビリテーション,入浴サービス,昼食,レクリエーション等が提供される。それに対して,ひとり暮らし老人の場合には,レクリエーション,昼食,交流の機会等が提供される。
 老人を対象としたデイケアについて,国はデイ・サービス事業という名称を用い,東京都は,1987年に,それまでのケアセンター,デイ・サービス,デイ・ホーム事業を統合し,高齢者在宅サービスとして再編している。本報告書では,それらを総称する一般名詞として「デイケア」を用いることにする。


第3節 デイケアの歴史

1.外国の場合
 成人を対象としたデイケアがもっとも早くから手がけられたのは,精神科の領域であった。その第一号は,1942年にソ連で始められ,以後イギリス,カナダ,アメリカへとひろがっていった。
 老人医療の領域で最初に行われたデイケアは,1958年ロンドンのユナイテッド・オックスフォード病院におけるものであり,退院患者の家庭復帰をスムーズに行わせるために,医師による診断・治療に加え,家事サービス,PT(科学療法士),OT(作業療法士),ST(言語療法士)による機能回復訓練などのサービスが提供された(7)。
 青木信雄によると,イギリスのデイケアは老人の心身状態によって,つぎの三種に分けられる。第1はデイホスピタルであり,病院外来の延長として治療・処置とリハビリテーションを積極的・集中的に行うものである。医師,看護婦,PT,OT,ST,ソーシャルワーカー等のスタッフをそろえ,設備も整えている。第2はデイセンターであり,機能維持や人との交流を主眼として,いろいろなサークル活動や会食をする。自治体や民間のボランティア団体が運営にあたり,看護婦,ソーシャルワーカー,家事サービス係などのスタッフはいるが,医師,PT,OT,STなどの専門職スタッフは配置されていない。第3はデイクラブであり,地域社会からの孤立を防ぎ,自立意識の強化をねらいとし,自主的な活動や相互援助的な活動,会食および交際に力点を置く。専門的なスタッフはおらず,もっぱらボランティアがその運営にあたっている(8)。
 アメリカにおける老人のデイケアは,1958年にニューヨークでデイホスピタルとして実験的に始められて以来,年々その数を増し,1960年代には12か所であったものが,80年代には1,200か所以上にも拡大した。L.A.TateとC.M.Brennanは,老人のデイケアをつぎの3つのモデルに大別している。第1は機能回復モデルであり,重度障害者や退院患者・ナーシングホーム退所者に対する集中的な医療治療に加え,PT,OT,STによる機能回復訓練が行われる。家族に対しては,夜間や休日に備えて介護指導が行われる。第2は機能維持モデルであり,そのままにしておけば施設入所になりかねない老人の機能低下を防ぐ一方で,家族の介護負担の軽減をはかることをねらいとしている。家族には,デイケア・プログラムに参加していない時間,老人の健康管理に配慮することが期待される。第3は心理社会的モデルであり,社会的に孤立しがちな虚弱老人や軽度障害老人を対象とする。サービスのねらいは,交際,心身機能の低下防止,健康増進にあり,レクリエーション,体操,会食などが行われる。必要があれば,家族が家庭における健康管理をする(9)。
2.日本の場合(10)
 わが国のデイケアも,諸外国と同様,精神科領域から始まっている。1953年に浅香山病院が,1958年に国立精神衛生研究所が実験的に開始して以来,都道府県の精神衛生センターを中心に各地にひろまった。さらに1974年に,精神科デイケアが保険診療の対象となったために,デイケアを実施する精神病院が増加することになった。
 老人を対象としたデイケアは,1965年に吉田寿三郎を中心に,大阪市立弘済病院において実験的に行ったデイホスピタルがその第一号とされる。1975年には,特別養護老人ホーム「緑寿園」が4市(武蔵野市,小金井市,保谷市,田無市)の委託を受けて地域老人を対象とした在宅ケアを開始し,ショートステイや入浴サービスとともに,デイ・ホームサービスを開始した。
 1979年には,国庫補助事業として,特別養護老人ホーム等に併設というかたちでデイ・サービス事業が始められた。当初は老人ホームの地域開放という色彩が強かったが,1981年からは訪問サービスがスタートしている。デイ・サービス事業は,基本事業(生活指導,日常動作訓練,養護,家族介護者教室,健康チェック,送迎)を必須事業として行い,地域の事情に応じて通所事業(入浴,食事)および訪問事業(入浴,食事,洗濯)のなかから選択して実施することができる。
 東京都は,1980年にケアセンターA型とB型を,1984年からデイ・ホーム事業を開始した。ケアセンターは,重度障害者にも対応できるよう医師,看護婦,PT,OT,栄養士などを配置し,デイ・ホームは,ひとり暮らし老人等を対象に心身機能の維持や低下防止および社会的孤立の防止をねらいとした通所施設であった。1987年からは,これらを統合し,国のデイ・サービス事業の内容に相談と健康増進事業を加え,さらにショートステイと老人保健法に基づく通所機能訓練を取り入れ,障害の重い老人や痴呆性老人も利用できるようにし,在宅援助サービスの拠点化をはかっている。
 医療機関による老人のデイケアとしては,東京都の老人医療センターが,1972年の開設以来,デイホスピタルを実施している。国の政策としては,1983年に老人保健法に基づく「老人デイケア」が制度化されたが,当初は痴呆等精神障害を持つ老人に限定されていた。しかし,1986年に基準が緩和され,脳卒中後遺症などの身体障害者が対象に加えられるようになった10)。
 表1-1は,現在わが国において実施されているデイケアの一覧である。本研究においてわれわれの調査対象になったのはいずれも東京都の特別養護老人ホームに併設されたものであり,国のデイサービス事業に上乗せしてPT,OTによる機能回復訓練を実施している。

表1-1 デイケアの種別

(注1)大阪府老人施設部会・デイサービス研究会「大阪府下におけるデイサービスの実態」1984年,同「デイサービス事業-全国実態調査報告書-」1985年。

(注2)全国社会福祉協議会老人福祉施設協議会編『老人のデイケア』全国社会福祉協議会,1986年,村田正子『在宅サービスマニュアル』中央法規出版,1986年,小林正知(東京弘済園)「在宅痴呆老人の地域ケアに関する研究と実践」日本生命財団・老人福祉助成レポートNo.4,1989年。

(注3)矢内伸夫「痴呆老人のデイケア」『総合リハビリテーション』第13巻第4号,1985年,277~282ページ,矢内伸夫「老年期精神障害のリハビリテーション」『精神医学』第29巻第1号,1987年,81~88ページ,副田あけみ「ケアセンターにおける入浴サービス」『社会福祉学』第28-2号,1987年27~53ページ。

(注4)小澤千穂子「デイケア利用者のADL,IADL」『老年社会科学』Vol.11,1989年,84-97ページ。

(注5)P.M.ホール「デイケアの理念と位置づけ」青木信雄編・監訳『デイケアの理念と実際』全国社会福祉協議会,1989年,27~35ページ,小林正知,前掲書,89ページ。

(注6)P.M.ホール,前掲論文。

(注7)L.A.Tate and C.M.Brennan,Adult Day Care;A Practical Guidebook and Manual,The Haworth Press,1988,p.8.

(注8)青木信雄編・監訳,前掲書,8~9ページ。

(注9)L.A.Tate and C.M. Brennan,op.cit.,pp.9-11.

(注10)青木信雄編・監訳,前掲書,14~23ページ。古瀬徹「デイ・サービスとショート・ステイの現状」『社会事業研究年報』No.22,1986年,201-212ページ,東京都「高齢者在宅サービスセンター事業実施要綱」1987年。


第2章 調査の概要


第1節 調査の枠組

 本調査の枠組みは,図2-1に示す通りである。デイケアの主な目的は,老人の心身機能の維持回復,家族の介護負担の軽減,施設の社会化である。介護者を対象とした本調査では,介護と家庭生活・職業生活の両立をはかるうえで,デイケアの利用がどのように役立ちうるかをさぐることをねらいとする。

図2-1 調査の枠組

 言うまでもなく,介護の在り方は,老人の属性,介護者の属性,介護者をふくむ家族の状況によってさまざまに異なる。老人の心身機能の低下が著しく,しかも依存的な性格であれば介護者にかかる負担は重くなる。さらに介護者自身が健康に恵まれない場合,家庭の内外に介護協力者がいない場合,家庭内に老人以外の手のかかる病弱者や障害者をかかえる場合には,負担が一層増すことになる。
 また,介護者が職業を持つ場合には,地域社会において提供される在宅サービスに加えて,企業側の配慮も欠かせない。これまで老人の在宅ケアといえば,もっぱら地域社会において提供される医療福祉サービスがとりあげられてきた。しかし,定年の延長や働く女性の増加は,必然的に老親の介護に直面する労働者の数を増加させる。ここでは,現在働きながら老人の介護にあたっている人が,企業に対して求めるサービスをも明らかにしたい。
 さらに,デイケアに対する利用者家族の評価や要望を手がかりに,現在のデイケアがかかえる問題点を明らかにし,その将来をうらなうことにしたい。


第2節 調査の方法と対象

1.調査対象者
 本研究における調査対象者は,デイケア利用老人の家庭における主な介護者である(以下,単に「介護者」と呼ぶ)。1989年7月の時点において東京都の委託によりデイケア(デイサービス事業)を実施していた6施設に協力を依頼した。施設の所在地は江戸川・品川・世田谷の3区および保谷・立川の2市にわたる。これらの施設で,通所によりデイケアサービスを受けている利用老人の,家庭における介護者476名を調査の対象とした。
2.調査方法
 上記6施設の職員を通じて,デイケア利用老人に調査票を渡した。利用老人が家庭に持ち帰り,介護者が記入した後,封筒に入れて施設に提出したものを回収した。
 なお,調査票の配布は,各施設のデイケア利用登録者のうち,一人暮らしで日常的な介護者のいない人,および利用老人本人の状況や家庭事情から調査票の持ち帰りが困難であると職員に判断された人を除外して実施された。
 このようなサンプルの選定法ゆえに,その代表性にいささかの問題があることを断っておきたい。
3.調査期間
 1989年8月2日~9月18日
4.分析対象
 配票された476票のうち,433票が回収された(回収率91.0%)。このうち,ほとんどの問いに無回答のもの15票,回答から介護者ではなく明らかに利用老人本人が記入したと思われるもの23票,1人の介護者が2人の利用老人をみているもの4票(1人の介護者が2人の利用老人をみているケースが4ケースあったので,それぞれ身体の自立状況の悪い方についての票を有効票として残した)の合計42票を無効とした。従って,本研究の分析対象は391票であり,有効回収率は82.1%であった。


第3節 調査対象者の基本属性

1.デイケア利用老人の基本属性

 a.性別

 分析対象となったデイケア利用老人(以下,「老人」ともいう)391名のうち,男性は178名(全体の45.5%),女性は213名(全体の54.5%)であった。

 b.年齢

 年齢は,最も若い人が48歳,最高齢は96歳であり,表2-1に示したように分布している。本来,デイケアサービスの利用対象は原則として65歳以上の高齢者であるが,在宅の虚弱老人,ねたきり老人等要介護老人のうち,区市町村が必要と認めたものが対象となるので,59歳以下の比較的若い層も2.6%含まれている。しかし利用老人の半数近くは70歳代であり,75~79歳がモードで,24.6%である。男女別にみると,女性の方により高齢者の利用老人が多いことが明らかである。平均年齢は,全体が75.95歳で,男性が73.65歳,女性が77.87歳であった。

表2-1 老人の性別年齢

 c.疾患の状況

 老人の主な疾患の状況を聞いたところ,1人当たり平均1.81個の疾患名があげられた。疾患名が全くあげられなかったのは3.8%(15名),最も疾患の保有数の多い人で6個(0.5%,2名)があげられた。
 表2-2のように,圧倒的に多いのが脳血管障害で全体の約半数を占めている。次に高血圧が25.1%,老人性痴呆19.7%,腰痛17.4%,聴覚障害11.0%の順になっている。男女別にみると,男性では脳血管障害の率が非常に高いことがわかる(65.2%)。それに対して,女性では脳血管障害は36.6%であり,男性に比べれば非常に低いが,やはり女性の保有する疾患のなかで最も高率となっている。男性に比べ,女性で特徴的なのは,腰痛,老人性痴呆の率が高いことであり(ともに23.9%),骨折(7.0%),骨粗鬆症(10.8%)なども多い。

表2-2 老人の性別年齢別疾患名(M.A.)

 年齢別にみると,脳血管障害が,男性では,70歳代以下の若年層に多く,70%を超えている。80歳以上の高齢老人では,80歳代が45.5%と低くなっている。女性では,男性と同様に70歳代以下のの脳血管障害の率が80歳以上に比べて高い。高血圧も,若年層の方にに多い傾向がある。その他,腰痛,視覚障害,老人性痴呆症,聴覚障害は,高齢になるにしたがって多くなる。

 d.居住形態,配偶関係

 居住形態を男女別年齢別に表2-3に示した。これによると,老人のひとり暮らしが2.3%,夫婦のみの世帯が21.0%である。既婚子との同居は全体の56.8%(他出前の未婚子がいる場合を含む),未婚子との同居は15.9%である。

表2-3 老人の性別年齢別居住形態

 男女別にみると,男性では,「夫婦のみ」が33.1%で最も多く,次いで「夫婦と子夫婦と孫」が24.2%,「夫婦と未婚の子」19.7%となっている。女性では,「老人ひとり(デイケア利用者)と子夫婦と孫」が39.0%で最も多く,次いで「老人ひとりと子夫婦」が14.6%となっている。年齢による差は,男女ともに,年齢が高くなるほど,既婚子との同居が多くなっている。特に女性では,老人ひとりになった場合にその傾向が顕著である。
 老人の有配偶率は54.0%,無配偶率は41.9%,配偶関係不明および無回答が4.1%であった。男女別の有配偶率は,男性が83.2%,女性29.6%であった。

2.介護者の基本属性

 a.性別

 介護者の性別は,女性が圧倒的に多く81.8%(320名),男性が15.3%(60名)であった。なお,性別が無回答の人が2.8%(11名)あった。

 b.老人との続柄

 介護者からみた老人の続柄は,表2-4に示したように,配偶者40.4%,介護者本人の親31.7%,配偶者の親25.5%である。

表2-4 介護者の性別介護者からみた老人の続柄

 男女別にみると,男性では,夫が妻を介護しているケースが最も多く58.3%(35名),息子が本人の母をみているケース33.3%(20名),息子が本人の父5.0%(3名)の順であった。夫が妻の親を介護しているケースもわずかではあるが存在した(妻の父母それぞれ1名)。
 女性では,妻が夫を介護している場合が38.1%(122名),娘が本人の母をみているのが23.8%(76名),夫の母をみているのが22.5%(72名),夫の父7.5%(24名),本人の父5.6%(18名)の順であった。その他には,きょうだい同士,姪が叔母をみているケース,老母が娘をみているケースなどが含まれ,親族以外の介護者は含まれていない。

 c.年齢

 年齢は,表2-5に示した。最低年齢は22歳,最高は84歳であった。平均年齢は全体が56.26歳,男性が63.33歳,女性が54.92歳であった。男性の平均年齢が高いのは,男性の約6割が妻を介護している夫により占められているからである。

表2-5 介護者の性別年齢

 表2-6は続柄別介護者の平均年齢である。介護者が夫である場合の平均年齢は73.21歳,妻である場合は66.56歳である。親を介護している場合の平均年齢はすべて40歳代後半であった。

表2-6 続柄別介護者の平均年齢

 d.健康状態

 介護者の健康状態は,「健康」と答えた人が77.5%,「病弱,要介護」が13.8%(うち要介護は0.3%)であった。表2-7には,男女別に年齢別の回答結果を示した。男性の場合は,年齢階級別に見るにはあまりに実数が不足し偏っているが,高齢でも8割以上が健康である。一方女性は,50歳代までは,9割以上が健康であるが,その後は健康な率が著しく低下し,60歳代では30.7%,70歳以上では36.8%が病弱である。

表2-7 介護者の性別年齢別健康状態

 e.老人との居住形態

 介護者と老人の居住形態はどのようであろうか。表2-8に示したように,ほとんどが同居しており,全体の95.4%にのぼる。そのほとんどが「台所も一緒の同居」であり(全体の90.3%),「台所が別々の同居」は5.1%にすぎない。別居の場合は,位置関係別に聞いたところ,「歩いて10分以内の別居」が1.8%(7名),「車・自転車等で10分以内の別居」が1.0%(4名),これら2項目以外の「遠くに別居」は1.0%(4名)であった。

表2-8 介護者の続柄別老人との居住形態

 続柄別には,男女ともに,配偶者を介護している場合には,ほとんどが「台所も一緒の同居」である。しかし,男性の介護者が自分の親をみている場合の台所も一緒の同居率は他に比べ低くなっている(78.3%)。
 同居していると答えた373ケースについて同居年数をみると,「1年未満」2.4%,「1~3年未満」6.4%,「3~5年未満」7.0%,「5~10年未満」11.0%,「10~15年未満」7.5%,「15~20年未満」6.7%,「20~30年未満」13.7%,「30年以上」41.3%となっている(不明,無回答は4.0%)。
 また,表2-9のように同居の理由は4項目にわたって聞いた。一位が「結婚後ずっと同居している」52.7%,二位「お年寄りの介護のために途中から同居した」17.9%,三位「介護以外の理由で途中から同居した」11.8%,四位「生まれた時からずっと同居している」10.2%であり,「結婚後ずっと同居している」が圧倒的多数を占めている。このことは,配偶者間介護の多さに加えて,嫁が配偶者の親を介護している場合が24.6%を占めることによるものである。

表2-9 老人との同居理由

 f.介護期間

 介護期間を,表2-10のように,老人の男女別年齢別と,表2-11の介護者と老人の続柄別の2表によってみていくことにする。まず,介護期間の全体の分布は,6ヶ月未満が3.6%,6ヶ月~1年未満が4.9%,1~3年未満が24.8%,3~5年未満が21.0%,5~10年未満23.5%,10年以上が16.4%であり,5年以上の長期にわたる介護が,約4割にのぼっている。老人の男女別には,男性では,1~3年未満が30.3%と最も多いのに対し,女性では,5~10年未満23.5%,10年以上21.6%と長期の場合が多くなっていることがわかる。年齢別にみると,男性では,どの年代をみても,1~3年未満が多い。特に60歳代では,1~3年未満が39.5%にものぼる。男性に比べ,女性ではやはりどの年代においても介護期間はやや長期化する傾向にある。60歳代でも介護期間5~10年が25.9%になっている。また70歳代では10年以上が16.7%,80歳代が28.0%と,当然のことながら,高齢になればなるほど,介護期間は長くなっている。

表2-10 老人の性別年齢別介護期間

 次に,表2-11の,介護者と老人の続柄別に介護期間を,特に5年以上の長期の介護期間を中心にみてみたい。それによると,夫が妻をみている場合よりも,妻が夫をみている場合の方が,長期にわたる率が高くなっており(夫→妻22.9%,妻→夫31.1%),息子が本人の親をみている場合よりも,娘が本人の親あるいは嫁が配偶者の親をみている場合の方が長期にわたる率が高くなっていることがわかる(息子→本人の親34.8%,娘→本人の親46.8%,嫁→配偶者の親46.9%)。介護者は圧倒的に女性が多いのであるが,男性と比べた場合,女性の方がより長期の介護を実施していることになる。また,前表の老人の性別との関連も合わせて述べると,「女性が女性を介護する場合の期間はより長期化する。」ということもいえる。

表2-11 介護者と老人の続柄別介護期間

 g.家族の状況(配偶関係・末子年齢・他の家族員の健康状態)

 介護者のほとんどは有配偶である(86.4%)。無配偶は9.2%にすぎないが,このうち2.3%は,子どもと同居している。無配偶で親と同居しているのは,8.7%である。
 老人のほかに手のかかる同居家族がいるのかどうかということで,介護者の末子年齢をみると,学齢前の0~6歳の乳幼児をもつ人が4.6%,7~12歳が7.9%,13~18歳が10.5%であった。全体の20%強が,子育て完了前のライフステージにあることがわかる。
 また,デイケア利用老人以外に,病弱であったり,介護の必要がある同居家族員がいるかどうかを調べたところ,全体の21.0%が該当した。

 h.同居の介護協力者

 同居の介護協力者数をみると,「なし(0人)」が70.6%,「1人」(12.5%),「2人」(2.3%),「3人」(1.8%),「4人」(0.8%)となっている(不明,無回答は12.0%)。
 表2-12は,同居の介護協力者があるケース(68名)について,その続柄を示したものである。これによると,男性介護者の場合9名にすぎないが,介護協力者は妻が最も多く5名(55.6%)である。女性では,夫28.8%,娘22.0%,息子16.9%,嫁15.3%などの結果となった。

表2-12 介護者の性別同居の介護協力者の続柄

 i.別居の介護協力者

 表2-13に示したように,介護者の約半数には別居の介護協力者がいる。回答は,該当する協力者の介護者との続柄に○をする複数回答によるものである。娘,息子などは,必ずしも1人だけを指すものではない。結果は,最も多いのが,その他の15.6%であり,これには介護者の兄弟姉妹やその配偶者,配偶者の兄弟姉妹が多く含まれる。次に娘の14.3%,息子の10.5%などが多くなっている。親族以外の介護者では,ヘルパー(公的サービスによるもの)が9.2%,家政婦が5.4%,近隣・友人が同じく5.4%となっている。

表2-13 別居の介護協力者(M.A.)

 j.職業

 介護者の40.2%は,何らかの職に就いている。表2-14は,男女別年齢別の就業状況を示したものである。男女別には,男性は56.7%,女性は36.6%が有職である。年齢別には,男性は50歳代までは例外なく職業に就いているのがわかる。女性もやはり若年になるほど有職率が高く,50歳代で43.9%,40歳代で51.9%,39歳以下では,58.6%となっている。

表2-14 介護者の性別年齢別職の有無

 表2-15は,男女別に就業形態を示したものである。男性では,「経営・管理・常用雇用者」の占める割合が,有職者の中で最も高い。女性では,自営・家族従業10.6%が最も多く,自由業3.8%,内職1.6%と合わせて自宅で仕事をしている場合の多い形態の比率が高くなっている。また,臨時雇い・パートの率も高い(10.3%)。

表2-15 介護者の性別就業形態

 k.生計中心者

 介護者の家庭の生計中心者は,介護者の夫である場合が最も多く41.2%であり,次に本人である場合が37.3%(男性13.3%,女性23.5%)であった。そのほかは,息子が6.4%であった。

3.デイケアの利用状況

 a.デイケアの利用期間

 本調査の対象となった老人がデイケアを利用し始めてから調査時点までの期間は,表2-16のとおりである。最も多いのが1~3年未満で41.2%と集中しており,次に3~5年未満が21.5%と多い。施設によっては,定員の関係で1人の利用期間を6ヶ月に区切って利用者の入れ替えが行われるが,期間は一応あっても,可能な限り継続した利用を受け入れている場合が多い。

表2-16 デイケアの利用期間

 b.週当りの利用回数

 施設におけるサービスは,平日は毎日実施している所が多いが,1人当りが利用できる回数は限られているのが普通である。それは,施設の収容人数の問題のほかに,利用者の多くが,送迎サービスを利用するため,マイクロバスなど移動用の車輌の運行の事情も関係する。
 表2-17に示したように,週当りの利用回数は,2回が61.6%であり,これが多くの施設における原則的な利用回数である。しかし,リハビリなど,受けるサービスの内容によって,回数は変化する。

表2-17 デイケアの週当り利用回数

 施設によっては,送迎サービスを利用しないのであれば,週何度でも(日曜日を除く)利用可能であるという所もある。

 c.1日当りの利用時間

 次に,1日当りの利用時間であるが,表2-18のように,5~6時間未満35.0%,6~7時間未満25.8%が多い。普通は朝10時頃に来所し,午後3時頃に施設を後にするパターンである。この回答結果には,利用時間の中に,送迎サービスを含めた場合と含めない場合の両方が入れられている。利用時間の短い人は,入浴サービスのみ,リハビリのみの利用者が考えられる。

表2-18 デイケアの1日当りの利用時間

 d.利用しているサービス内容

 調査時に,老人が,施設においてどのようなサービスを受けていたかを聞いたのが,表2-19である。表は複数回答結果で,最も多く利用されているのが,食事サービス(施設で出される昼食)で74.4%,次にレクリエーション67.5%,送迎サービス64.5%,リハビリ61.1%となっておりこれら4種の利用者が,圧倒的に多い。入浴では,介助の必要な人のための介助浴が11.5%,より重度な障害老人のための特浴が3.8%利用されている。また,老人に対するサービスではないが,介護者教育が8.2%利用されている。その他の内容は,施設によって異なるが,ショートステイや,陶芸教室などが挙げられていた。なお,本調査の対象者の中には,ショートステイのみの利用者は含まれていない。

表2-19 デイケアで利用しているサービス(M.A.)


第3章 デイケア利用老人の心身の状態

 老人の心身の状態を把握する指標としては,ADL(Activities of Daily Living 日常生活動作能力)がある。これは,基本的な身体の自立度をみるために,多くの研究で用いられてきた。しかし,これまで施設に入所している障害をもつ老人の残存能力を把握するために用いられてきたADLは,家庭に暮らし,地域の中で自立していく能力の把握には不十分である。Lawton(1969)が体系化した人間の活動能力の諸段階において,ADLでとらえた「身体的自立」の水準の活動能力の上位に位置するのが「手段的自立」の水準の活動能力である(図3-1)。地域老人が社会生活を営んでいく上で必要不可欠な活動能力を測定するには,この水準での活動能力に焦点をあてる必要があり,その指標にはIADL(Instrumental Activities of Daily Living 手段的日常生活動作能力)がある。日本では,これまでADLに比べIADLによる老人の心身状態の把握はあまりされてこなかった。しかしデイケアが,老人の地域における自立的生活の継続を助長する目的を掲げている以上,「手段的自立」の把握が重要な意味をもつことは明白である。

図3-1 能力の諸段階(Lawton、1972)

 そこで,本章ではデイケア利用老人のADLおよびIADLについて述べ,その関連要因についても,若干の考察を加えることにしたい。
 なお本研究で用いたADL・IADLの尺度は,藤田・籏野(1989)(注1)が,OARS(Older Americans Resources and Services)のMFAQ(Multidimensional Functional Assessment Questionnaire)に準拠して作成したものである。今回,この尺度を採用したのは,<1>地域老人向きであること,<2>質問項目が日本人の生活にあっていること(小切手・請求書等日本人の生活に合わないものを含まない),<3>介護者が記入し得る客観的内容であること,<4>多くが中年以上の介護者に対する配票による調査であることから,質問内容が簡潔であることなどの条件を考慮した結果である。回答には,「はい」「いいえ」の2つの選択肢を設けた。


第1節 ADL・IADL各項目別自立率

 ADL・IADL各項目別自立率は,表3-1に示した。ADLの自立率は,食事が最も高く94.6%,次いで床の出入り(79.8%),歩行(72.4%),着替え(71.9%),トイレの失敗(63.9%),身繕い(62.9%),入浴(52.2%)の順に低くなっている。藤田・籏野の地域老人に対する調査結果(注2)で,日本の老人の人口構成にあわせて標準化した障害の頻度はトイレの失敗の5.1%を除いてすべて5%以下であった。また同調査において,自立している割合は,食事→床の出入り→着替え→身繕い→入浴→歩行→トイレの失敗の順に低下した。これらから,本調査の対象となった,デイケア利用老人のADLは,一般の地域老人に比べるとかなり低いことが明らかである。障害をもつ順序の相違については,単純な比較はできない。しかしデイケア利用老人は,施設において介助浴・特浴・リハビリ等のサービスをうける必要のある障害をもっていることから入浴の自立率が最も低くなったと考えられる。

表3-1 ADL,IADL各項目自立率(性別)

 また,IADLの7項目について,自立している率が高い順に述べると,服薬(57.5%),電話(48.8%),預貯金の管理(33.5%),買い物(30.2%),遠方への外出(24.3%),食事の用意(22.8%),家事(20.2%)であり,ADLに比べると,著しく低下している。これも,ADL同様に一般の地域老人と比較してみると,地域老人の障害の頻度は4~16%にすぎず,デイケア利用老人の障害の大きさが明らかである。そして地域老人においては自立している割合は,服薬→預貯金の管理→電話→買い物→家事→食事の用意→遠方への外出の順に低下していた。家事・食事の用意の2項目が下位にあるのは,デイケア利用老人と共通しており,これらの行為の困難性が高いことを示している。遠方への外出の順位の相違については,地域老人の調査が地方在住者を対象に含んでいるのに対して,本調査の対象が,東京都内の交通手段が豊富に発達した地域であることが影響していると思われる(注3)。
 各項目の自立率の男女差をみると,ADL・IADLのどの項目をみても例外なく女性の自立率の方が男性を上回っている。藤田・籏野の地域老人に対する調査結果では,本調査とは逆に,女性老人の障害の率の方が高かった。しかし,特別養護老人ホーム入所者に対する調査結果では,本調査と同様に女性老人ADLの方が良好であった(西下・坂田1986)(注4)。IADLについては,性役割の影響が大きいと考えられる。


第2節 ADL・IADLの総合得点

 ADL・IADLのそれぞれについて,総合的に自立度を把握するため,各項目の回答に「はい」に2点「いいえ」に1点を与えて合計点を求めたのが,表3-2である。ADL・IADLともに満点が14点(すべて「はい」),最低が7点(すべて「いいえ」)である。

表3-2 ADL,IADL総合得点

 これによると,ADLでは,すべて自立している14点が,39.4%と他の得点に比べ圧倒的に多い。すべてに障害のある7点は2.6%と少なく,得点が高くなるほど多く分布している。IADLでは,逆に最低点の7点が33.8%で最も多く,低得点に多く分布する傾向を示している。
 以下の分析の中では,ADL・IADLの各項目のほかに,上記の総合得点による分析結果についても述べていきたい。そのため,総合得点の最低の2グループに分けたが,ADLは高(13~14点),低(7~12点)に,IADLは高(9~14点),低(7~8点)とした。


第3節 ADL・IADLの関連要因

1.年齢

 ADL・IADLの各項目の自立率が年齢とともにどのように変化するかを,男女別に図3-2~15に示した。なお,59歳以下の階級については,実数が男性7名,女性3名とわずかであり,グラフの中に入れるのは躊躇されたが,参考までに加えることにした。(以下の年齢別分析の文中で,特に断らない限り,59歳以下の年齢階級には触れていない。)

性別年齢別ADL・IADL各項目自立率(図3-2~7)
性別年齢別ADL・IADL各項目自立率(図3-8~13)
性別年齢別ADL・IADL各項目自立率(図3-14~15)

 すべての図を概観していえることは,年齢との間に,ある一定方向の直線的な関係は見出せないということである。男性では,ADLの7項目中4項目,同じくIADLの7項目中5項目で60歳代の比較的若年層の利用者の自立率が最も低くなっている。次いで70歳代が低く,80歳以上になるとむしろ自立率は高くなる。一方女性では,ADLの食事・着替え・身繕い・トイレの失敗は加齢とともに自立率が低下する様子が伺えるが,歩行・入浴の2項目では反対に高齢になるほど上昇する。IADLは,電話・遠くへの外出・買い物・預貯金の管理は80歳以上の高齢老人の方が,むしろ自立率は高くなっている。
 図3-16は,男女別年齢別ADL・IADLの総合得点の高低の比率を示したものである。項目別にみた場合と同様に,ADLでは高齢になるほど,自立度が上がる傾向がみられ。特に男性に顕著である。IADLでは,男性ではやはり70代,80代と高齢になるにつれて自立度が高くなる。女性では,70代がやや低いが,全体に年齢差は少ない。

図3-16(a) 性別年齢別ADL
図3-16(b) 性別年齢別ADL

 一般にADL・IADLは加齢とともに低下し,特に女性では年齢の影響が著しいことが知られている。しかし,本調査ではそのような傾向が認められなかった。ここに,デイケア利用老人の一つの特性があるともいえようが,その理由については,疾患がもたらす障害の影響に注目しなければならない。

2.疾患

 図3-17~27は,男女別疾患名別ADL・IADL各項目の自立率である。デイケア利用老人の主な疾患のうち,ADL・IADLの自立率に特に関連がみられるものについて述べていくことにする。

図3-17 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(脳血管障害)
図3-18 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(高血圧)
図3-19 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(心疾患)
図3-20 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(糖尿病)
図3-21 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(パーキンソン病)
図3-22 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(腰痛)
図3-23 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(視覚障害)
図3-24 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(老人性痴呆)
図3-25 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(聴覚障害)
図3-26 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(骨折)
図3-27 疾患名別ADL・IADL各項目自立率(骨粗鬆症)

 図3-17で,脳血管障害をもつ利用老人の自立率は対象者全体に比べかなり低いことが明らかである。特に,歩行・入浴・遠くへの外出・買い物・食事の用意・家事のように,身体の移動を伴う行為の自立率は低い。
 図3-19の心疾患については,男性では該当者が11名と少ないが,これらの人のIADLの自立率は特に低くなっている。女性では,疾病が自立率に悪影響を及ぼしていることはなく,全体に良好である。
 パーキンソン病の患者では(図3-21),男女ともに,自立率は著しく悪化する(ただし,実数は少なく男性18名,女性11名)。特にIADLの遠くへの外出・買い物・食事の用意・家事は低く,女性ではすべて自立率0%である。
 図3-24の老人性痴呆は,男女ともにほとんどの項目で自立率を低下させる。食事・歩行の2項目のみが,利用老人全体の自立率に近いだけで,残りの項目は非常に悪い状況にあるのが明らかである。電話・服薬・預貯金の管理のような,精神的自立を必要とする行為への影響の大きいことも認められる。
 総合得点で全体的な自立度への影響をみると,男性では,ADLが最も低下するのは,パーキンソン病,次いで老人性痴呆,脳血管障害,IADLが最も低下するのは,老人性痴呆,次いで脳血管障害,心疾患であった。女性では,ADLでは自立度の低い順に,老人性痴呆,脳血管障害,パーキンソン病であり,IADLでは老人性痴呆,パーキンソン病,脳血管障害の順であった(図3-28)。

図3-28(a) 疾患名別ADL、図3-28(b) 疾患名別IADL

 地域老人にたいする調査の結果では,脳血管障害が,ADL・IADLの障害の最大の原因であると指摘されている。今回対象となったデイケア利用老人の約半数は脳血管障害の患者であり,2章の表2-2で示したとおり,70歳代までの男性では脳血管障害は70%以上の高率である。そして,この率は80歳代になると40%強に,90歳以上では20.0%に下がる。女性も,70歳代までの脳血管障害は40%以上で,80歳代になると20%半ばに低下する(90歳以上では36.4%)。
 したがって,(1)の年齢との関連で,80歳以上の高齢老人のADL・IADLの状態の方が良好であったのは,これらの年齢層に脳血管障害をもつ人が比較的少なかったからであると説明できよう。

3.居住形態

 表3-3はデイケア利用老人の男女別に居住形態別ADL・IADL各項目の自立率を示したものである。男性での「ひとり暮らし」および「老人(デイケア利用老人)ひとりと未婚子」は各1名しかいないので数値は割愛した。男性では,「老人夫婦と既婚子(+孫)」の同居で自立率が全体に低い。特に,ADLの入浴33.3%,IADLの遠くへの外出14.8%,食事の用意5.6%は,他の居住形態に比べ最も低い。また,妻のいない「老人と既婚子(+孫)」の同居の自立率が比較的高く,IADLの買い物31.8%,食事の用意18.2%,家事36.4%,預貯金の管理36.4%は男性の中で特に高くなっている。

表3-3 デイケア利用老人の性別居住形態別ADL・IADL

 女性では「ひとり暮らし」が最も自立率が高い。低いのは「老人夫婦のみ」で,ADLの状態も悪く,身繕い43.5%,歩行52.2%,床の出入り65.2%,入浴34.8%,IADLでは家事の8.7%などが目立っている。
 ADL・IADLの総合得点でみても(図3-29),IADLについて,男性では「老人ひとりと既婚子(+孫)」54.5%,女性では「ひとり暮らし」87.5%,「老人夫婦と既婚子(+孫)」68.8%,「老人ひとりと未婚子」66.7%が自立度の高い居住形態となっている。地域老人の調査では,ひとり暮らしの自立度がやはり高い。本調査では介護者にたいする調査という性質上,ひとり暮らしの人は少ない。また,居住形態は,年齢が高くなるにつれて既婚子同居が増加しているが(表2-3),本調査の対象者においては,前述したとおり,高齢になるほうが,むしろ自立度は高まる傾向があるので,既婚子同居の老人の自立度が,「夫婦のみ」「夫婦と未婚子」を上回ったと考えられる。

図3-29(a) デイケア利用老人の性別居住形態別ADL
図3-29(b) デイケア利用老人の性別居住形態別IADL

4.性格

 デイケア利用老人の性格について,「お年寄りは人に頼ろうとする性格ですか。」「お年寄りは人の話をよく聞く方ですか。」「お年寄りはぐちの多い方ですか。」の3項目の質問をした。回答は,「はい」「いいえ」のいずれかを選択するようにした。
 その結果,「人に頼ろうとする性格ですか。」については「はい」48.1%,「いいえ」43.5%,無回答8.5%。「人の話をよく聞く方ですか。」については,「はい」60.6%,「いいえ」33.8%,無回答5.6%。「ぐちの多い方ですか。」については「はい」25.8%,「いいえ」62.4%,無回答11.8%となった。図3-30には,この回答結果別にADL・IADLの総合得点が示されている。

図3-30(a) デイケア利用老人の性格別ADL
図3-30(b) デイケア利用老人の性格別IADL

 まず,デイケア利用老人が「人に頼ろうとする」性格である場合,ADLの高得点(13~14点)グループは32.4%であり,「頼らない」場合の61.8%に比べて非常に低くなる。次に,「人の話をよく聞く」場合は,高得点が55.3%であるのに対して,「聞かない」場合は37.1%とやや低くなる。また,「ぐちが多い」場合の高得点は39.6%,「ぐちが多くない」場合は51.6%であり,多くないほうが自立度は高い。IADLについてもこれに類似した結果がでているが,「人の話をよく聞くか」については,高得点が「聞く」61.6%,「聞かない」28.0%で差が大きくなっている。
 これらの質問で老人の性格全体を正確に知ることはできないが,この結果から,老人が依存的傾向が強かったり,他人との協調性がなかったり,物事にたいし消極的な性格である場合には,ADL・IADLが低下することが示唆されるであろう。

5.介護者の介護方針

 それでは,介護者の介護方針との関連はどうであろうか。デイケア利用老人の介護のしかたについて,「できるだけお年寄り自身が自分で身の回りの事をするようにすすめている」か,「お年寄りに無理がないよう,先まわりして世話をしている」のうち,近いほうを選択することとした。
 その結果,図3-31のように,介護者が「先回りをして世話をしている」場合には,ADLの高得点が31.6%,IADLが21.1%と非常に自立度が低くなっている。そもそも「できるだけお年寄り自身にさせている」との回答が介護者のほとんど(84.7%)で,実際どの程度積極的に介護者が老人を促しているかの差は大きいものと思われる。また,「先まわりをして世話をしている」と答えた介護者は,9.7%と少ない。この場合,介護されている老人は全体に比べ障害の程度が重い人達であるから介護者はそのような方針をとっていると考えるのが妥当であろう。しかし,介護のしかたが老人の動作能力の自立を低下させる可能性も考えられる。

図3-31(a) 介護方針別ADL
図3-31(b) 介護方針別IADL

6.介護期間

 デイケア利用老人が介護を受けるようになってからの期間と,ADL・IADLの関連について,クロスしてみたところ,図3-32のような結果を得た。ADLは介護期間の最も長い10年以上が最も自立度が高く(高64.1%),次に最も短い1年未満が高い(57.6%)。そして中間の期間が低くなっている。IADLにも,同様の傾向がみられるが,介護期間10年以上の自立度は特に高く70.3%にのぼる。長期ににわたり介護されている老人の中には,当然,対象者の中でも高齢層の老人が多く含まれている(表2-10参照)。したがって,年齢とADL・IADLとの関連で述べたように,高齢老人の方がむしろ活動能力は高く,それが介護期間との関係に反映しているものと思われる。また,介護期間が長期に及ぶうちに,老人の症状が安定してくることも,示唆される結果とも言えるだろう。

図3-32(a) 介護期間別ADL
図3-32(b) 介護期間別IADL


第4節 要約と考察

これまで,デイケア利用老人のADL(日常生活動作能力)およびIADL(手段的日常生活動作能力)と,その関連要因について述べてきたが,おもな知見は以下のとおりである。
(1)ADLの自立率は,食事が最も高く94.6%,次いで床の出入り(79.8%),歩行(72.4%),着替え(71.9%),トイレの失敗(63.9%),身繕い(62.9%),入浴(52.2%)の順であった。デイケア利用者のADLは,一般の地域老人に比べるとかなり障害の率が高いことが明らかになった。
(2)IADLについては,自立している率が高い順に,服薬(57.5%),電話(48.8%),預貯金の管理(33.5%),買い物(30.2%),遠方への外出(24.3%),食事の用意(22.8%),家事(20.2%)であり,ADLに比べ自立度の低下が著しい。
(3)男女別には,ADL・IADLの双方において女性の動作能力のほうが高い。これは,一般の地域老人においては男性の動作能力の方が高いのとは逆の結果であり,施設入所の障害老人と同様の傾向である。IADLの性差については,性役割の影響も考慮せねばならない。
(4)加齢に伴うADL・IADLの低下は男女ともに認められず,80歳以上の高齢老人の自立率のほうがむしろ高かった。その原因としては,脳血管障害との関連が明らかになった。脳血管障害は,ADL・IADLを低下させるが,今回のサンプルの中には80歳未満の年齢層に,脳血管障害をもつ者の率が男性では70%以上,女性では40%以上と高い。
(5)老人の性格との関連では,依存的であり,協調性がなく,ものごとに対し消極的である(=ぐちっぽい)傾向をもつ場合は,ADL・IADLが低くなる。
(6)介護者の介護方針が,「老人に無理をさせないよう先まわりして世話をしている」場合のADL・IADLの自立度は非常に低かった。これは,老人の障害の重さが介護方針を規定していると考えられるが,介護方針が,老人の自立を低下させる可能性を無視し得ない。

 デイケア利用老人のADL・IADLを測定することにより,2つの課題の解明にアプローチすることが意図された。1つは,デイケア利用老人の心身の状態を,特養などの施設入所老人と一般の地域老人などの間で,どう位置付けるか,ということであり,もう1つは,これら地域の中で暮らす虚弱老人の日常生活の自立に関連する要因を明らかにすることであった。
 しかし,今回のように限られた施設を対象とした調査で,デイケア利用老人のADL・IADLについての一般化は避けなければならないであろう。特に,今回対象となった施設は,特養と併設されているものばかりで,リハビリのサービスを充実させている所が多く,結果的にサンプルの中に脳血管障害をもつものが半数近くになった。また,老人性痴呆専用のデイケアを実施している施設も含まれるなど,施設ごとに受け入れている老人の症状の偏りもある。ADL・IADLの評価の方法についても,誰が回答するか(老人本人か介護者あるいは施設の職員か)によって,得られる結果は異なるし,何よりも尺度そのものについての検討が必要であろう。介護者の回答の中には,「食事の用意」「家事」などの項目について選択肢を選ばず,「やらない」「やろうとしない」などと書かれているものがあった。
 心身の状態に,最も多く影響を与えるのは疾病やその他の症候であることは明らかである。しかし,本研究で老人の性格や,介護者の態度との関連もみることができた。少数ではあるが,介護者がADL・IADLの選択肢を単に「できる」「できない」で選べなかったことなども考えると,老人が自立して生活を営む上での,老人の心理的要因や社会的・文化的要因について,より綿密に調べることが必要であろう。

(注1)藤田俊治・籏野脩一「地域老人の日常生活動作の障害とその関連要因」『日本公衆衛生雑誌』,36(2),1989年,76~87ページ。

(注2)前掲1)に同じ。

(注3)本調査以前に,お茶の水女子大学袖井研究室では,1987年に都内および近郊のデイケア施設で調査を実施し,ADL・IADLの成績を得ている。尺度が今回と異なるので,項目が同じものについてのみ結果を示すと,ADLの自立率は食事81.5%,着替え62.4%,歩行71.0%,入浴55.2%。IADLは電話57.5%,買い物43.9%,食事の用意38.5%,家事44.2%であった。1987年の調査は,今回対象となったのと同じ施設も含まれているが,特養の併設ではない小規模な施設も含まれていた。また,今回の調査票への回答は介護者に依頼したが,前回は施設の職員が記入した。このような方法上の相違から,今回の結果との比較は難しく,本報告書の中での比較による考察は割愛する。なお,前回調査の結果は次の論文に詳しい。小澤千穂子「デイケア利用者のADL,IADL-東京都内および近郊における調査結果-」,『老年社会科学』,11,1988年,84~88ページ。

(注4)西下彰俊・坂田周一「特別養護老人ホーム入所1年後のADLおよびモラールの変化」『社会老年学』,24,1986年,12-27ページ。


第4章 介護者の疲労と介護意識


第1節 介護者の疲労

1.疲労について

 老人の在宅介護は,いわば閉鎖された空間における一対一の作業であり,身体的にも精神的にも多大な負担をこうむることになる。本調査では,介護者の疲労について次の10項目をあげて質問した。「頭がおもい」「全身がだるい」「ねむい」「目がつかれる」「考えがまとまらない」「いらいらする」「気がちる」「根気がなくなる」「肩がこる」「腰がいたい」である。
 複数回答の結果,第一位が「いらいらする」(47.3%),二位「腰がいたい」(38.9%),三位「肩がこる」(37.9%),以下「ねむい」(28.1%),「全身がだるい」(24.8%),「目がつかれる」(22.0%),「根気がなくなる」(21.2%),「頭がおもい」(20.7%),「考えがまとまらない」(17.6%),「気がちる」(12.8%)であった(表4-1)。

表4-1 介護者の性別年齢別介護者の疲労(M.A.)

 ここでは,便宜的に身体的疲労(頭がおもい,全身がだるい,ねむい,目がつかれる,肩がこる,腰がいたい)と,精神的疲労(考えがまとまらない,いらいらする,気がちる,根気がなくなる)とに分けてみていきたい。

2.身体的疲労

 まず,表4-1によって,介護者の性別・年齢別に身体的疲労をみてみよう。「頭がおもい」をあげる男性はほとんどいないが,女性では年齢が上るほどその比率が増し,39歳以下では10人に1人だが,70歳以上では3人に1人になる。「全身がだるい」は男性の場合60~69歳の30.0%が最も多く,次いで70~84歳の20.0%,40代の7.7%となっている。女性では70~84歳に52.6%と他に比較して高率だが,その他の世代は20%台にとどまっている。「ねむい」は男女とも70~84歳に高く4割近くを占める。女性の場合50代の34.1%も次いで高い。
 「目がつかれる」は男性の40代の23.1%,女性の50代の30.5%が目立つ。22~39歳は男女共に最も少なく,男性は0%,女性は6.9%である。40代50代は仕事,家事に加え老眼の時期とも重なることが高い比率を示す一因でもあろう。次に「肩がこる」を見ると,男性よりも女性の訴えが多く,男性ではもっとも訴えの多い60代でも30%だが,女性では50代,60代で5割近くを占める。
 「腰がいたい」の訴えは,男性では70歳以上,女性では50歳を過ぎると,それより若い年齢層に比べてその比率が急増する。総じて身体的疲労は年齢とともに増す傾向にあり,男性に比べて女性にその比率が高い。
 次に表4-2によって,介護者の続柄別に身体的疲労に差異があるかどうかを見た。「頭がおもい」は,男性の介護者にはほとんどみられないが,女性では夫介護の妻に27.9%,次いで夫の親を介護している嫁に26%みられた。ちなみに,自分の親を介護している娘の場合は19.1%である。「全身がだるい」は男性の場合,妻介護の夫の25.7%が多くあとはほとんどみられない。女性は,夫介護の妻に32.0%と他にくらべて多くみられる。「ねむい」は男性では妻介護の夫に31.4%,親介護の息子に17.4%みられる。女性は,実数の少ないその他の介護を別にして,どの介護関係にも3割前後みられる。「目がつかれる」をあげる男性は少なく,親介護の息子の17.4%,妻介護の夫の11.4%のみである。女性では,その他の介護を別にすると,夫介護の妻の27.9%が最も多く,夫の親介護の嫁と自分の親介護の娘にも2割ほどみられる。「肩がこる」をあげる者は配偶者介護に多く,妻介護の夫では28.6%,夫介護の妻に46.7%みられる。女性では親介護の娘にも41.5%とその比率が高い。「腰がいたい」は,妻介護の夫に37.1%,夫介護の妻に56.6%みられる。概して身体的疲労の訴えは高齢者同士の配偶者介護にとくに目立っている。

表4-2 介護者の性別続柄別介護者の疲労(M.A.)

 では,介護期間と身体的疲労にはどのような関連が見られるのだろうか。表4-3によって項目別に見ていこう。「頭がおもい」はどの介護期間にもほぼ2割前後みられる。「全身がだるい」は,介護期間3~5年が最も多く32.9%である。次いで,介護期間5~10年の28.1%,1~3年の27.8%が続く。しかし,全期間でみると,介護期間3~5年に向かって増加し,再び減少に転じ10年以上の介護期間で最低を示している。「ねむい」は,介護期間1~3年に36.1%で最も多くみられ,1年未満が21.2%で最も少ない。「目がつかれる」は,どの介護期間にも2割前半みられる。

表4-3 介護期間別介護者の疲労(M.A.)

「肩がこる」は介護期間3~5年に52.4%ともっとも高い比率であり,最も少ないのが介護期間1年未満の24.2%である。全介護期間を通してみると,介護期間3~5年に向け増加を辿りその後,再び減少に転じていることがわかる。「腰がいたい」は介護期間3~5年に50.0%と最も多くみられ,最も少ないのが介護期間10年以上の31.3%である。この場合も,介護期間3~5年を頂点に減少に転じているといえる。
 身体的疲労については,介護期間別の訴え率から,「頭がおもい」「ねむい」「目がつかれる」のグループと「全身がだるい」「肩がこる」「腰がいたい」のグループに分けることができる。すなわち,前者は全介護期間にほぼ分散して現われているが,後者は3~5年未満がピークであり,この期間を越えると,再びその比率が減少に向かう。言いかえれば,この辺りが在宅介護の胸つき八丁というところだろう。この期間を過ぎると,症状の重い老人は死亡するか,施設に入所するか,あるいは介護者が介護なれしてくるために,身体的疲労の訴えが減るものと思われる。

3.精神的疲労

 介護者の疲労を尋ねる全10項目のうちで,最も多かったのが「いらいらする」の47.3%(185名)であった。二位の「肩がこる」は37.9%(148名)であり,その差は10%近くもある。精神的疲労を聞く項目は他に「考えがまとまらない」「気がちる」「根気がない」の三つである。在宅で老人の介護にあたる介護者にとっては,顕在化しやすい身体的疲労に比べ,他者に理解してもらいにくい精神的疲労の持つ意味は非常に大きい。それは後述する介護の方針や介護意識,今後の介護継続意志にも深く関わるものと思われる。ここでは精神的疲労について,前掲の表4-1~3も立ち返って少し詳しくみていきたい。
 表4-1は「介護者の性別年齢別にみた疲労」である。「考えがまとまらない」は男性では70~84歳に24.0%で,女性は22~39歳に24.1%と他の年齢に比べやや多くなっている。「いらいらする」は男性の40~49歳に53.8%,女性の22~39歳に69.0%とその比率が高くなっている。この年齢は働き盛りであり,また子育て期間中とも考えられるから,仕事や家事・育児の負担に加えて老人介護の重さが推察される。
 表4-2「介護者の性別続柄別にみた疲労」を示している。配偶者を介護している男性では「いらいらする」と「根気がなくなる」が22.9%と同率である。親を介護している男性は「いらいらする」が52.2%と高率である。一方,配偶者を介護している女性は「いらいらする」が49.2%,配偶者の親を介護している場合はさらに高く54.2%にのぼる。女性は,「根気がなくなる」が配偶者介護に最も高く出ている他は,すべて配偶者の親介護に高い。前者の場合,「根気がなくなる」のは高齢の夫を高齢の妻が介護する負担の大きさを示すものであり,男性も同様である。後者には,嫁姑関係の困難さが介護問題にもつながることがうかがえる。
 では,介護期間の長さは介護者の精神的疲労とどのように関係するのだろうか。表4-3にみられるように,「考えがまとまらない」は10年未満ではどの介護期間ともほぼ2割前後みられる。そして10年以上の介護期間になるとむしろ減少し1割強となる。「いらいらする」については,3~5年未満の介護期間が57.3%で一位,次が5~10年未満の介護期間の49.4%である。身体的疲労と同様,精神的疲労についても,介護期間が一つの山場になっているようだ。「気がちる」については3~5年未満に向けてわずかずつ増加し,その後は減少している。「根気がなくなる」については,10年未満まではほぼ同じような比率だが,10年を越すとむしろ比率が低下する。
 表4-4は「老人の性格別介護者の精神的疲労」である。「老人が人に頼ろうとする性格」の場合と「老人が人の話を聞かない」場合のいずれも介護者の精神的疲労は4項目のすべてにわたって高くなっている。老人の性格が介護者の精神的疲労を増すことがうかがわれる。老人の性格に対する否定的な評価は,老人と介護者との関係の悪さの反映であり,老人と介護者との相性の良さもより良い在宅介護に欠かせないことを示している。

表4-4 デイケア利用老人の性格別介護者の精神疲労(M.A.)

 表4-5は「同居理由別介護者の精神的疲労」をみたものである。どのような同居理由であろうと,「いらいらする」をあげる者が多いが,とりわけ介護のための途中同居にその比率が高い。「
考えがまとまらない」と「根気がなくなる」は「結婚後ずっと同居」に多くみられる。近年,配偶者と死別した後や身体が弱くなってから子どもと同居したという条件付き同居派が増えているが,「介護のための途中同居」が精神的疲労を増すことは注目してよいだろう。

表4-5 同居理由別介護者の精神的疲労(M.A.)

4.疲労度

 介護者の疲労に関する質問10項目を,疲労あり(1点),なし(0点)として得点を与え,合計したものが表4-6である。これを介護者の「疲労度」と名づけ,低(0~1点),中(2~3点),高(4~10点)に3分する。その比率は,低29.3%,中43.2%,高27.6%である。

表4-6 介護者の疲労度得点

 表4-7は「同居の介護協力者の有無別疲労度」をみたものであるが,同居の介護協力者「なし」の者に疲労度の低い者が多く,逆に「あり」の者に疲労度の高い者が多くみられる。言いかえれば,介護協力者のいない場合は,一人でも介護できるほど老人の症状が軽いということも考えられる。

表4-7 同居の介護協力者の有無別介護者の疲労度

 表4-8は,「介護者の職の有無別疲労度」を示したものである。これによると,疲労度の高い者が,有職者では17.8%,無職者34.5%で,職業と介護を両立させている有職者の疲労度の方がむしろ低いという結果になった。これは,職を持たない介護者には高齢者や介護者自身「病弱である」と答える者の比率が高いことによるものであろう。

表4-8 介護者の職の有無別介護者の疲労度

 また表4-9は,介護者の就業形態別に疲労度をみたものであるが,「自営等」や「臨時雇い・パート」に比べ,「経営管理・常用雇用者」の疲労度は低くなっているのが明らかである(低50.0%)。フルタイムの仕事に就きながら老人介護をしている人達は,その他の人達よりも困難な状況に置かれていると考えるのが普通である。しかし,本調査において,疲労度の面でこのような結果となったのは,「経営管理・常用雇用者」に,比較的若年層が多く,健康な人が多いことと,老人の状態が介護者が日中「家を空けている」ことを可能にする程度であることが背景にあると言える。さらに,先の表4-8に示されたように,無職者より有職者の方が疲労度が低いことと,有職者の中でも職業生活への関与の度合の高い「経営管理・常用雇用者」の疲労度が低いことと考えあわせると,断定はできないが,家庭外の就労が介護による精神的なストレスの解消につながるとみてもよいであろう。

表4-9 介護者の就業形態別介護者の疲労度

 表4-10によって「介護期間別疲労度」をみると,疲労度の高い物は,介護期間1~5年未満の者に多くみられ,それを過ぎると疲労度は低下する傾向にある。介護期間が10年を過ぎると,疲労度の低い者が4割強を占め,もっともその比率の低い3~5年の2倍以上にのぼる。言いかえれば,先述のように,3~5年が在宅介護の山場ないし,中だるみということであろう。

表4-10 介護期間別介護者の疲労度


第2節 介護者の介護意識

 ここでは介護者の介護意識,すなわち,在宅介護を続けていくうえでの「支え」となっているものは何かをさぐる。困難の多い在宅介護を続けさせている「支え」を知ることによって在宅介護の将来を予測することも可能であろう。こうした質問項目に関する先行研究は見当らないので,考えられうる回答をできるだけ多数列挙することにした。項目は20に及び,その中から「これがあるから私は介護できる」というものを3つまで選んでもらった。その結果,表4-11にみられるように,第一位は「デイケアやホームヘルパー等の公的サービスを利用できるから」49.4%であった。第二位が「義務感である」の29.2%。三位が「家族が協力してくれるから」27.9%。四位「配偶者の理解があるから」20.7%。五位「打ち込める趣味があり,気分転換できるから」19.9%。六位「お年寄りへの愛情があるから」18.2%となっている。以下,七位からは10%以下に激減する。
 本調査ではデイケア利用老人の介護者を対象としたものであるが,それにしても「公的サービス」をあげるものが群を抜いて多い。次が家族の協力の大切さであった。健康,経済,仕事,趣味といった自分自身の持つ資源よりも,公的・私的な支えが大きな意味を持っているようだ。
 以下において,これら介護の「支え」を性別・介護続柄別,「有配偶・無配偶」との関連,介護期間との関係,「同居年数」との関連からみていきたい。

1.性別続柄別介護の「支え」

 表4-11によって続柄別に介護の「支え」をみると,夫が妻を介護している場合の介護の「支え」は,一位「公的サービス利用」57.1%,二位「義務感」34.3%,三位「愛情」31.4%である。それでは妻が夫を介護している場合はどうか。一位に「公的サービス利用」50.0%があがっているのは同じであるが,二位に「家族の協力」32.0%,三位に「義務感」31.1%となっている。「家族の協力」が上位に出ていることに注目されると同時に,夫の場合「愛情」が31.1%で三位であるが,妻ではわずか15.6%に止まっている。夫は妻の介護に「愛情」を支えに頑張るが,妻は夫の介護にクールに対処しているようだ。

表4-11 介護者の性別続柄別にみた介護の「支え」(M.A.)

 次に息子が自分の親を介護している場合をみると,一位「公的サービス利用」47.8%,二位「義務感」30.4%,三位はぐっと下がって「家族の協力」と「親族の協力」が17.4%で並ぶ。一方,娘が自分の親を介護している場合は,一位は同じく「公的サービス利用」43.6%だが,二位は「配偶者の理解」33.0%,三位に「愛情」30.9%があげられている。
 さらに,配偶者の親を介護している女性の場合,一位は「公的サービス利用」53.1%,二位「配偶者の理解」34.4%,そして三位に「趣味」31.3%となっている。女性は,自分の親の介護の場合にも,配偶者の親の介護の場合にも,夫の理解があることが大きな「支え」になっている。孤独な作業である在宅介護にとって,配偶者の理解がいかに大切であるかを,この結果は示している。在宅介護については,もっぱら外部からどのようなサービスを提供すべきかが論じられるが,サービスの受け皿である家庭における家族関係の在り方の方が,介護の継続に大きな影響をもつことは確かである。

2.配偶者の有無別介護の「支え」

 在宅で老人介護をする場合,介護者が有配偶か無配偶かによって介護意識には大きな相違が生ずると考える。本調査の対象者は,有配偶が86.4%と圧倒的多数であり,無配偶は9.2%にすぎない。このような場合,両者の比較にはやや無理があろうが,傾向をさぐるためにあえて比較を試みる。
 まず,有配偶者の場合の介護の「支え」をみると,一位が「公的サービス利用」50%,二位「家族の協力」30.2%,三位「義務感」28.4%,四位「配偶者の理解」24%となっている。
 無配偶者の場合は,一位「公的サービス利用」47.2%,二位「義務感」38.9%,三位「愛情」33.3%,四位「趣味」22.2%であった。
 どちらも「公的サービス利用」を高い比率であげていることに変わりない。しかし,有配偶者が当然のこととして,家族の協力や配偶者の理解をあげているのに対し,子が親を介護している場合が多い無配偶者は,「義務感」と「愛情」が同程度の重みをもって介護の支えになっていることが明らかである。

3.介護期間別介護の「支え」

 では,介護期間によって介護の「支え」は変化するのであろうか。
 介護期間1年未満では,一位「公的サービス利用」54.5%,二位「家族の協力」33.3%,三位「義務感」27.3%である。1~3年未満の介護期間では,一位「公的サービス利用」56.7%,二位「義務感」29.9%,三位「家族の協力」28.9%。3~5年未満の介護期間についてみると,一位「公的サービス利用」53.7%,二位に「家族の協力」と「義務感」が36.6%の同じ比率で出てくる。そして三位に「趣味」が20.7%と差をあけている。5~10年未満の介護期間では,一位「公的サービス利用」50.6%,二位「義務感」28.1%,三位「配偶者の理解」27.0%。10年以上の介護期間になるとどうか。一位「公的サービス利用」42.2%,二位「配偶者の理解」,三位に「家族の協力」と「義務感」が同じ25.0%の比率で出ている。
 このように見てくると,どの介護期間においても「公的サービスの利用」と「義務感」そして「家族の協力」が介護者にとって在宅介護の三大「支え」になっていることがわかる。介護期間の長短を問わずこの三つの「支え」は共通であるようだ。

4.同居年数別介護の「支え」

 前項で介護期間にかかわらず介護の「支え」は共通していることをみた。では,「同居年数」の違いは介護者の在宅介護の「支え」に変化をもたらすものなのだろうか。本項では,同居年数を5年未満,5~10年未満,10~20年未満,20~30年未満,そして30年以上の5つに区分し在宅介護の「支え」との関連をみた。
 同居年数5年未満では,一位「公的サービス利用」52.5%,二位「配偶者の理解」33.9%,三位「家族の協力」28.8%である。同居年数5~10年未満では,一位「公的サービス利用」56.1%,二位に「家族の協力」と「配偶者の理解」が29.3%の同じ比率で出ている。三位に「義務感」と「老人の性格」が22.0%とやはり同じ比率でみられた。「老人の性格」とは老人の性格が良いこと,すなわち優しい,おとなしい,とか介護者に対して「ありがとう」の感謝の気持ちを示す等の意味で用いた。「老人の性格」が三位までのランクに登場したのは初めてである。同居年数が5~10年になるとお互いに相手が見えてくる時期なのかもしれない。次に,10~20年の同居年数をみると,一位「公的サービス利用」50.9%,二位「家族の協力」34.0%,三位「配偶者の理解」28.3%。20~30年の同居年数になると,一位「公的サービス利用」41.2%,二位「家族の協力」39.2%,三位「義務感」31.4%である。同居30年以上の長い場合はどうであろうか。一位「公的サービス利用」50.6%,二位「義務感」35.7%,三位に「愛情」が26.0%であげられている。同居期間30年以上は長年つれそった夫婦であり,それだけ相手に対する愛情も深いのであろう。
 このように,同居年数を5区分して介護の「支え」をみてきたが,5~10年の同居年数に「老人の性格」があげられていたこと,30年以上の同居に老人への「愛情」が示されたことは注目される。そして,全体的には,前項同様,同居年数にかかわりなく,「公的サービス利用」「家族の協力」「配偶者の理解」「義務感」が在宅介護の強い「支え」となっていることが明らかである。
 本節では,介護者の介護意識(在宅介護の「支え」は何か)をさぐってきた。その結果,在宅介護を支える柱として「公的サービス」の」充実が大きいことがわかった。次にあげられるのは強い「義務感」であり,同時に「家族内の協力」(配偶者の理解は重要)が大きいウエイトを占めていることを知った。言いかえれば,家族外からの公的サービスと家族内の協力が在宅介護の「やる気」を生み出していることが明らかである。


第3節 在宅介護の方針

 介護者は老人の介護をどのような方針でやっているのかを知るために,次の質問をし,いずれか一方を選んでもらった。
a.できるだけお年寄り自身が自分の身の回りのことをするように,すすめている。
b.お年寄りに無理がないよう,先まわりして世話をしている。
 回答結果は,圧倒的に前者の自律型で84.7%にのぼる。後者の先まわり型は9.7%しかない。表4-12は「介護者の性別続柄別介護の方針」を示したものである。男性は自律型88.3%,先まわり型は5.0%であり,しかも後者は,配偶者介護にしか表われていない。老いた妻をいたわる老いた夫の姿が浮かぶ。女性では自律型77.0%,先まわり型15.6%である。男性より,先まわり型が多い。それは配偶者介護と親介護にみられ,配偶者の親介護には全くみられない。配偶者の親を介護する嫁は,96名いるが,全員が自律型と答えている点は興味深い。

表4-12 介護者の性別続柄別介護の方針

 一般に日本人は,子育てにおいても老人介護においてもすべて先まわりしてやってあげることが愛情であると考えがちである。いわゆる「過保護」「過干渉」が子供に種々の問題行動を発生させるように,老人にとっては「自立」(身体の自立・精神の自立)を奪う恐れがある。「手出し」と「見守り」のバランスは常に難しい問題であり,介護の専門機関においても重要な課題である。すべてを介護者の考えや都合で切り回してしまった方が簡単に片付く場合が多い。それだけに介護されている本人の遅々として進まぬが自分でやろうとする意欲を汲んで,しかも,そっと見守ることは大へん努力を要する。本調査において85%近くの介護者が老人の自律を援助する方向で介護にあたっていることは注目してよいであろう。ただし,こうした質問に対しては,とかくタテマエ的な回答(世間的に受け入れられやすい態度)が選択される傾向にあることにも留意しなければならない。


第4節 介護継続意志

 現在の在宅介護の実態については,さまざまな角度からみてきた。ところで,今後も続くであろう在宅介護について,介護者はどのような考えを持っているのだろうか。これからの介護継続意志を4項目に分けて質問した結果は表4-12に示す通りである。一位が「世話は大変だが,続けるしかない」というもので48.3%を占める。二位が「世話をしたいので,続けるつもりである」で32.5%,三位が「世話をしたいが,現実的に続けるのは難しいと思う」10.0%,四位は「世話がたいへんなので,どうしようかと迷っている」1.5%である。
 一位の「続けるしかない」は消極的介護継続意志であり,介護者のあきらめの気持ちや義務感がうかがわれる。二位の「世話したいので続ける」には,老人に対する強い愛情が感じられ,これまでの人間関係の良さが推察される。両者合わせて,とにかく今後も介護を継続する意志を示したものは80.8%にのぼった。しかし,三位の「現実に続けるのは難しいと思う」には不安が,四位には迷いがみられ,無回答の中にも介護継続に消極的な者が少なくないであろう。

1.性別続柄別介護継続意志

 表4-13は介護者の性別続柄別に介護継続意志をみたものである。夫が妻を介護している場合には「世話をしたいので,続けるつもりである」が45.7%で一番多い。妻を介護している夫が高齢(平均73.2歳)であること,介護の支えに「愛情」をあげていたことと考えあわせると,長い結婚生活が介護への積極的な態度を生み出していることは明らかである。一方,妻が夫を介護している場合をみると「世話は大変だが,続けるしかない」が50.8%で一位を占め,夫の場合とは対照的である。二位は「世話をしたいので,続けるつもりである」の34.4%である。

表4-13 介護者の性別続柄別介護継続意志

 親を介護している場合は,男女ともに「続けるしかない」が最も多い。特に,配偶者の親を介護している嫁の場合には6割近くがこの回答をよせており,積極的介護継続意志を持つ者が少ないことが注目される。

2.介護期間別介護継続意志

 表4-14は,介護期間を前節同様に5区分して介護継続意志をみたものである。どの期間でみても「大変だが続けるしかない」が一位であり,「世話したいので続けるつもりである」が二位になっている。項目別にみると「大変だが続けるしかない」介護期間1年未満が57.6%と最も多く,5~10年で一時的に多くなるものの介護期間が長くなるほど減少の傾向がみられる。それとは対照的に,「世話をしたいので続けるつもりである」は,一年未満が最も低く,以後,介護期間が長くなるにつれて増加の傾向を示している。ただし,5~10年にやや減少の傾向がみられる。「大変だが続けるしかない」と介護者は自分自身に言いきかせていたが,だんだんに「世話をしたいので続けるつもり」と落ち着いていくのだろうか。「現実的に続けるのは難しいと思う」と「どうしようか迷っている」を合せると,介護期間1~3年で15.5%と最も多く,3~5年が12.2%でそれに次ぐ。この期間は疲労度の高い者が多く,在宅介護にとってひとつの危機的な時期と考えることもできる。

表4-14 介護期間別介護継続意志

3.同居年数別介護継続意志

 表4-15で,同居年数によって介護継続意志に違いがあるかどうかをみた。しかし,同居年数の長短にかかわらず,「大変だが続けるしかない」が一位を占め,「世話をしたいので続けるつもりである」が二位であった。なお,「現実的に続けるのは難しいと思う」と「どうしようか迷っている」を合わせると,同居年数20~30年に19.6%と他に比べて多くなっている。しかし,30年を過ぎると大幅に低下する。すなわち,長年同居してきた嫁や娘の場合には介護の重荷から逃れようという気持ちがうかがわれるが,配偶者の介護には積極的にせよ消極的にせよ,介護継続意志があるとみてよいだろう。

表4-15 同居年数別介護継続意志

4.老人の性格からみた介護継続意志

 では,老人の性格は介護者の介護継続意志に影響を及ぼすであろうか。表4-16はそれを示したものである。老人が人に頼らない性格の場合,介護者は「大変だが続けるしかない」40.6%というものと,「世話をしたいので続けるつもりである」38.8%ものとで余り差がない。しかし,老人が頼る性格であるとその差は倍以上になっている。

表4-16 デイケア利用老人の性格別介護継続意志

 老人が人の話を聞く場合にも,「大変だが続けるしかない」41.8%と「世話をしたいので続けるつもりである」40.5%で,ほとんど同じ比率である。ところが,人の話を聞かない老人の介護となると,「大変だが続けるしかない」57.6%であり,「世話したいので続けるつもりである」は21.2%しかなく,その差が開く。やはり老人の介護者にとって「世話しやすいこと」は,今後の介護継続意志に関わってくるものと思われる。
 介護者の介護継続意志を知るために他にも介護者の職の有無別,健康状態別,配偶者の有無別,同居ないし別居の介護協力者の有無別にみたが明確な差異が認められなかった。


第5章 介護者の就業状況

 老人介護をどこでどのように行うのかにより,介護者の就業は大きな影響を受ける。特に,介護者の大半を占める女子の就業が増えている現在,このことは,深刻な問題といえる。厚生省では,要介護老人対策の方向として,在宅サービスの充実をかかげている。その在宅福祉サービスとしては,老人家庭奉仕員派遣事業,デイ・サービス事業,ショートステイ事業,日常生活用具給付等事業がある。老人を在宅介護する場合,老人あるいは介護者の自宅から通える所にあり,日中,比較的日常的に受けることのできるデイケア・サービスは,職業と介護との両立をはかるうえできわめて有効性が高いと考えられる。
 そこで,本章では,デイケアを実際に利用している介護者の現在の就業状況,および介護以前等の就業状況を明らかにしていく。


第1節 現在の就業状況

1.就業の有無

 第2章に述べられているように,本調査対象者である介護者のうち,有職者は40.2%,無職者は59.3%である(残り0.5%は不明,無回答)。ここでは,この現在の就業の有無の状況が,a)介護者の属性,b)デイケア利用老人のADL,IADL,によってどのように異なっているのかをみていく。

a.介護者の属性別にみた就業の有無

<1>性別,年齢,健康
 まず,就業の有無の状況を性別にみると,第2章に述べられているように,男性は56.7%が有職,43.3%が無職であるが,女性は36.6%が有職,63.1%が無職であり,男性の方が有職者の割合は高い。
 これを年齢別にみると,男性については,59歳以下では全員が有職であるが,年齢が高くなるにつれ無職者の割合は高くなり,60歳代では約4割,70歳以上では約8割が無職である。女性については,39歳以下では約6割が有職であり,やはり,男性と同様,年齢が高くなるにつれ無職者の割合は高くなり,40歳代では約5割,50歳代では約6割,60歳以上では約9割が無職である。
 介護者本人の健康状態別に就業の有無の状況をみると,表5-1のように,健康である者については有職と無職の割合が約半々であるが,病弱である者については約9割が無職である。

表5-1 介護者の健康状態別就業の有無

<2>老人との続柄
誰が誰を介護しているかということで介護者の就業の有無の状況をみると,表5-2のように,「妻が夫」を,あるいは「夫が妻」をというように配偶者間で介護している場合は,無職がそれぞれ約8割,約7割と多い。配偶者を介護しているということは,介護者本人もある程度,高齢であると考えられ,前述の年齢との関係と通じるものがある。また,「嫁が配偶者の親」を介護している場合は,無職が約6割を占めている。それに対し,「息子が本人の親」を介護している場合は,100%有職である。このように,誰が誰を介護しているかにより,介護者の就業の有無の状況はかなり違うといえる。

表5-2 介護者と老人との続柄別就業の有無

<3>老人との居住形態,同居年数,同居理由
 まず,デイケア利用老人との居住形態別に就業の有無の状況をみると,本調査対象者のほとんど(95.4%)は同居であり,同居の約4割が有職である。一方,別居は3.8%(15ケース)しかないが,そのうち6割が有職である。
 次に,同居しているケースについて,同居年数別に就業の有無の状況をみていく。息子あるいは娘が本人の親を介護している場合は,同居年数が長いほど有職者の割合は高い傾向がうかがえ,同居年数が「5年未満」であるもののうち,有職者の割合は約5割であるのに比べ「5~10年未満」ではその割合は約6割,「10~20年未満」では約7割,「20年以上」でも,その割合は約7割となっている。また,婿あるいは嫁が配偶者の親を介護している場合は,同居年数が「5年未満」であるもののうち,有職者の割合は約6割であるが,「5~10年未満」ではその割合は約3割と低く,10年以上については,「10~20年未満」が約4割,「20年以上」が約5割と,同居年数が長いほど有職者の割合は高い傾向がうかがえる。
 同居理由別に就業の有無の状況をみると,息子あるいは娘が本人の親を介護している場合は,表5-3のように,同居理由が「生まれた時からずっと」「結婚後ずっと」「介護以外の理由で途中から」である場合に比べ,「老人介護のために途中から」である場合の方が無職の割合が高くなっている。婿あるいは嫁が配偶者の親を介護している場合は,明確な差はみられない。

表5-3 同居理由別就業の有無(子が本人の親を介護している場合)

<4>介護期間,介護協力者の有無
 介護者がデイケア利用老人を介護するようになってからの期間別に介護者の就業の有無の状況をみると,介護期間が「3年未満」「3~10年未満」「10年以上」と長くなるほど,有職の割合はそれぞれ約3割,約4割,約5割と高くなる傾向がうかがえる。
 同居の介護協力者がいるかいないかということで就業の有無をみると,特に差はみられず,また,別居の介護協力者の有無による差もみられない。

<5>配偶関係
 介護者が有配偶か無配偶かということで就業の有無の状況をみると,表5-4のように,無配偶である場合の方が,有職者の割合は高くなっている。

表5-4 介護者の配偶関係別就業の有無

b.デイケア利用老人のADL,IADL別にみた就業の有無

 まず,ADLの高低別に就業の有無の状況をみると,表5-5のように,ADLの高い場合に比べ,低い場合の方が無職者の占める割合が高くなっている。次に,IADLについてみると,表5-6のように,ADLと同様,IADLの高い場合に比べ,低い場合の方が無職者の占める割合が高くなっている。つまり,老人の日常生活動作能力が低いということが,介護者の就業を妨げていると考えられる。また,第3章にあるように,介護期間が長い場合,ADL,IADLが高いことから,先の介護期間と就業の有無との関係については,介護期間が長期に及ぶうち,老人の症状は安定し,むしろ就業がしやすくなっているとも考えられる。

表5-5 デイケア利用老人のADLの高低別就業の有無
表5-6 デイケア利用老人のIADLの高低別就業の有無

2.有職者について

 有職者157名について,a)就業形態,b)仕事の具体的内容(職種),c)就業時間,d)休みの状況,e)老人介護に関する職場の制度・配慮,f)就業理由,g)今後の就業希望,をみていく。

a.就業形態

 就業形態は,表5-7のように,一番多いのは「常用雇用者」で25.5%,次に「臨時雇い,パート」22.9%というように勤めが多く,「自営業主」は19.1%,「内職」は3.8%しかない。これらの形態を大きく「自営業主,家族従業,自由業,内職」(第5章,第6章では,略して「自営」とする),「経営管理職,常用雇用者」(第5章,第6章では,略して「常雇」とする),「臨時雇い,パート」(第5章,第6章では,略して「パート」とする)に分け,就業の有無の状況と同様,これが,<1>介護者の属性,<2>デイケア利用老人のADL,IADLによってどのように異なっているのかをみていく。

表5-7 就業形態

<1>介護者の属性別にみた就業形態
イ)性別,年齢,健康
 まず,就業形態を性別にみると,表5-8のように,男性の有職者は34名しかいないが,「常雇」が58.8%と一番多く,次に「自営」29.4%,「パート」8.8%となっている。それに対し,女性は「自営」が43.6%と一番多く,次に「パート」28.2%,「常雇」25.6%となっている。

表5-8 介護者の性別年齢別就業形態

 これを年齢別にみると,女性については,49歳以下では,「自営」「常雇」「パート」の割合がそれぞれ約3割でほぼ同じだが,50歳代,60歳代では「自営」がそれぞれ約6割となり,70歳以上では全員が「自営」というように,年齢が高くなるにつれ「自営」の割合が高くなる。
 健康状態別に就業形態をみると,病弱,要介護の健康状態で就業している人は7名しかいないが
,その場合,「自営」か「パート」のどちらかの形態をとっている。
ロ)老人との続柄
 介護者と老人との続柄別に就業形態をみると,表5-9のように,「妻が夫」を,「嫁が配偶者の親」を介護している場合は,他に比べて「自営」の割合が高くなっている。また,「息子が本人の親」を介護している場合は,「常雇」の割合が約7割と特に高く,「パート」は一人もいない。

表5-9 介護者と老人との続柄別就業形態

ハ)老人との居住形態,同居年数,同居理由
 老人との居住形態と就業形態との関係であるが,別居が9ケースしかないので,ここでは言及しない(不明,無回答は2ケース)。同居のケース146ケースについて,息子あるいは娘が本人の親を介護している場合と婿あるいは嫁が配偶者の親を介護している場合それぞれ,同居年数別に就業形態をみると,各ケース数が少ないこともあって,明確な差はみられない。また,同居理由別にみても,就業形態に明確な差はみられない。

ニ)介護期間,介護協力者の有無
 介護期間別に就業形態をみると,明確な違いはみられない。同居家族のなかに介護協力者がいるかどうかということで就業形態をみると,協力者がいない場合は,「自営」36.3%,「常雇」32.7%,「パート」28.3%であり,協力者がいる場合は「自営」51.9%,「常雇」37.0%,「パート」11.1%となっており,介護協力者が「あり」の方が「自営」がやや多くなっている。これは,逆に,「自営」であるから同居協力者を得やすいとも考えられる。
 別居介護協力者の有無別に就業形態をみると,差はみられない。

ホ)配偶関係
 介護者が有配偶か無配偶かということで就業形態をみると,表5-10のように,有配偶である場合は「自営」が47.9%と一番多く,無配偶である場合は「常雇」が55.2%と一番多くなっている。

表5-10 介護者の配偶関係別就業形態

<2>デイケア利用老人のADL,IADL別にみた就業形態
 ADLについてもIADLについても,その高低と就業形態との間には関係はみられない。

b.仕事の具体的内容(職種)

 仕事の具体的内容(職種)は,表5-11のようになる。「事務的職業」が24.8%で一番多く,次に「販売の職業」が20.4%となっており,「専門的技術的職業」18.5%,「技能工,製造等の職業および労務の職業」12.7%と続いている。

表5-11 職種

 これを「専門的技術的,管理的職業」「事務的職業」「販売,サービスの職業」「農業,運輸,労務等の職業」に分け,就業形態別にみると,表5-12のように,「自営」は「販売,サービスの職業」が33.3%,「専門的技術的,管理的職業」が28.6%(けいこごと教師,建築士など)となっている。そして,「常雇」は「事務的職業」が51.9%と多く,「パート」は「販売,サービスの職業」が38.9%と多くなっている。

表5-12 就業形態別職種

c.就業時間

 まず,仕事にかかわっているということで,通勤時間や残業を含め,普通何時から何時まで働いているのかということについてみると,就業開始は午前3時台(新聞配達のケース)から午後8時台までとなっており,一番多いのは午前9時台で31.8%,ついで午前8時台で29.9%となっている(表5-13)。就業終了は午前7時台から夜中の午前3時台までとなっており,一番多いのは午後5時台で27.4%,次いで午後6時台で16.0%,午後7時台14.0%となっている(表5-14)。次に,通勤時間や残業を含め,就業開始から就業終了までを就業時間としてみると,1時間から18時間弱(自営のケース)まで幅が広く,「6時間未満」が14.0%,「6~8時間未満」が8.9%,「8~10時間未満」が38.9%,「10時間以上」が27.4%であり,平均は8時間35分となる(表5-15)。

表5-13 就業開始時間
表5-14 就業終了時間
表5-15 就業時間

 次に,就業開始時間を就業形態別にみると,表5-16のように,「常雇」は他に比べ午前8時台以前が多く,「パート」は他に比べ午前9時台が多くなっている。また,就業終了時間を就業形態別にみると,表5-17のように,「パート」は午後5時台以前が多く,「常雇」は午後5時台から7時台が多く,「自営」は午後6時以降が多くなっている。就業時間を就業形態別にみると,表5-18のように,「自営」は「10時間以上」が33.3%と一番多く,次いで「8~10時間未満」が27.0%となっており,「常雇」は「8~10時間未満」が55.8%と一番多く,次いで「10時間以上」が36.5%となっている。それに対し,「パート」は「8~10時間未満」が38.9%と一番多いが,一方,「6時間未満」も30.6%と多くなっている。

表5-16 就業形態別就業開始時間
表5-17 就業形態別就業終了時間
表5-18 就業形態別就業時間

 また,デイケア利用終了時間と就業終了時間との関係をみると,デイケア利用終了時間はほとんど(約9割)が午後5時よりも前であるが,就業終了は約7割が午後5時以降であり,大部分は,デイケア終了までに間に合わないことになる。

d.休みの状況

 介護のために,この1年間に合計どのくらい仕事を休んだかということについてみると,表5-19のように,「休んだことはない」が51.0%と一番多く,次いで「1週間未満」が16.6%,「1週間以上2週間未満」が9.6%を占めている程度であり,あまり休んでいないことがわかる。

表5-19 休みの状況

 休みについて,「休んだことはない」と「休んだことがある」とに分けて就業形態別にみると,表5-20のように,「休んだことはない」の割合は,仕事上,比較的融通性の高い「自営」では58.7%となっており,「常雇」の場合が46.2%,「パート」の場合が41.7%であるのに比べ高くなっている。

表5-20 就業形態別休みの状況

e.老人介護に関する職場の制度,配慮

 職場に老人介護に関連してどのような制度あるいは配慮があるのか,またそれらを実際に利用したことがあるのかということについてみると,表5-21のように,制度あるいは配慮があるという割合は,それぞれ非常に低いが,そのなかで一番多いのは,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」で24.8%を占め,次は「同一企業での短時間勤務への移行」で9.6%となっている。ただし,今回の調査では,制度化されたものと配慮にとどまるものとの区別がなされていないことを断っておく。

表5-21 老人介護に関する職場の制度、配慮

 制度あるいは配慮があるもののうち,実際に利用したことがあるという割合をみると,一番多いのは「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」「同一企業での短時間勤務への移行」であるがどちらも8.3%を占める程度となっている。
 なお,制度あるいは配慮の有無について就業形態別にみると,あまり差はみられず,「同一企業内での短時間勤務への移行」が「あり」とする割合が,「パート」では約2割であり,他の形態の「あり」とする割合が1割弱であるのに比べ,やや高くなっている程度である。

f.就業理由

 有職者の就業理由は,表5-22のとおりである。一番多いのは「生計を維持するため」であり32.5%を占める。次いで「家計費の足しにするため」と「家業であるから」がそれぞれ10.2%,「自分の能力,技術,資格を生かすため」が8.9%となっており,経済的理由が多くを占めていることがわかる。

表5-22 就業形態別就業理由

 これを就業形態別にみると,「自営」は「家業であるから」が23.8%と多いが,やはり「生計を維持するため」が25.4%と一番多い。「常雇」は「生計を維持するため」が48.1%と特に多い。「パート」は「家計費の足しにするため」が25.0%と一番多く,次いで「生計を維持するため」が22.2%となっている。

g.今後の就業希望

 有職者の今後の就業希望は,表5-23のように「このまま同じ勤務先(職場)で仕事を続けたい(自営業も含む)」が73.2%と大半を占めており,「やめたい」はわずか2.5%しかいない。

表5-23 就業形態別今後の就業希望

 これを就業形態別にみると,「自営」「常雇」は「このまま同じ勤務先(職場)で仕事を続けたい(自営業を含む)」の割合がそれぞれ約8割を占めるが,「パート」はその割合が約6割とやや低い。そして,「パート」は「同じ勤務先(職場)で時間短縮で続けたい」の割合が他の形態に比べやや高くなっている。

3.無職者について

 無職者232名について,a)今後の就業希望,b)就業理由,をみていく。

a.今後の就業希望

 無職者の今後の就業希望は,表5-24のように「仕事はしたくない」が58.2%で一番多く,次いで「パートで勤めたい」が15.5%,「自分(または家)で仕事をしたい」が13.8%となっている。

表5-24 無職者の今後の就業希望

 「フルタイムで勤めたい」と「パートで勤めたい」をあわせて「勤めたい」とし,「自分(または家)で仕事をしたい」「勤めたい」「仕事はしたくない」という今後の就業希望が,<1>介護者の属性,<2>デイケア利用老人のADL,IADL,<3>デイケア利用状況,によってどのように異なっているのかをみていく。

<1>介護者の属性別にみた今後の就業希望

イ)性別,年齢,健康
 まず,無職者の今後の就業希望を性別でみると,表5-25のように,男性の無職者は26名しかいないが,そのうち84.6%は「仕事はしたくない」としており,一方,女性は「仕事はしたくない」の割合は55.4%と男性に比べ低くなっている。その代わり「勤めたい」と「自分(または家)で仕事をしたい」の割合が男性に比べ高くなっている。

表5-25 介護者の性別年齢別今後の就業希望(無職者)

 これを年齢別にみると,女性では,年齢が高くなるほど「自分(または家)で仕事をしたい」「勤めたい」の割合は減り,「仕事はしたくない」の割合が増えている。
 また,介護者の健康状態別に今後の就業希望をみると,差はみられない。

ロ)老人との続柄
 介護者と老人との続柄別に無職者の今後の就業希望をみると,表5-26のように,「仕事はしたくない」の占める割合が,「妻が夫」「夫が妻」を介護している場合は他の続柄に比べ高くなっている。配偶者間というのは,お互いに年齢が高く,そのためと考えられる。また,「嫁が配偶者の親」を介護している場合は,「娘が本人の親」を介護している場合に比べ,「仕事はしたくない」の割合が低く,「勤めたい」の割合が高いという違いがみられる。

表5-26 介護者と老人との続柄別今後の就業希望(無職者)

ハ)老人との居住形態,同居年数,同居理由
 まず,老人との居住形態と無職者の今後の就業希望との関係であるが,無職者で老人と別居しているのは6ケースしかないのでここでは言及しない。同居しているケースについて,娘が本人の親を介護している場合と婿あるいは嫁が配偶者の親を介護している場合,それぞれ同居年数別に無職者の今後の就業希望をみると,各ケース数が小さいため,明確な差はみられない。
 同居理由別に無職者の今後の就業希望をみると,娘が本人の親を介護している場合では,表5-27のように,「老人介護のために途中から」の場合は,「仕事はしたくない」の割合が約7割と高くなっている。前述の「老人介護のために途中から」同居の場合は,他の理由に比べ無職が多いということと考え合わせると,本人の親を介護するために途中同居した場合は,介護者が就業しない傾向にあるようである。また,婿あるいは嫁が配偶者の親を介護している場合は,同居理由別にみると明確な差はみられない。

表5-27 同居理由別今後の就業希望(子が本人の親を介護している場合・無職者)

ニ)介護期間,介護協力者の有無,配偶関係
 介護期間別に無職者の今後の就業希望をみると,「仕事はしたくない」の割合が,「3~10年未満」「10年以上」ではそれぞれ約5割であるのに比べ,「3年未満」と介護期間が短い場合では約6割とやや高い。また,反対に,「自分(または家)で仕事をしたい」の割合が,「3年未満」「3~10年未満」ではそれぞれ約1割であるのに対し,「10年以上」と長い場合では約2割とやや高くなっている。
 同居の介護協力者がいるかどうかということで無職者の今後の就業希望をみると,差はみられず,別居の介護協力者についても同様に差はみられない。
 介護者が有配偶か無配偶かということと今後の就業希望との関係については,無配偶者が6名しかいないのでここでは言及しない。
<2>デイケア利用老人のADL,IADL別にみた無職者の今後の就業希望
 ADL,IADLそれぞれの高低別に無職者の今後の就業希望をみたが,特に差はみられない。
<3>デイケア利用状況(利用理由,利用期間,利用回数,利用時間)別にみた無職者の今後の就業希望
 まず,デイケア利用理由についてであるが,全体の単純集計をみると,介護者の目からみた老人の利用理由は,「リハビリのため」54.0%,「友人・仲間を得るため」25.1%,「気晴らしのため」15.9%,「食事サービスがあるから」1.0%,「その他」2.0%(計391名)であり,介護者が挙げる理由は,「気分転換のため」29.9%,「仕事のため」14.8%,「休養のため」12.5%,「家事をするため」7.4%,「その他」14.6%(計391名)である。これらデイケア利用理由別に,無職者の「仕事はしたくない」とする割合をみると,デイケア利用老人側についても介護者本人側についても明確な差はみられない。
 次に,デイケア利用期間別,利用回数別にそれぞれ無職者の今後の就業希望をみると,期間の長短,回数の多少との明確な関係はみられない。また,利用時間別にみても,明確な差はみられない。

b.就業理由

 無職者で今後,就業を希望している者72名について就業希望をみると,一番多いのは「家計費の足しにするため」で20.8%を占める。次に,「将来に備えて貯蓄するため」が18.1%であり,経済的理由が多くを占めている。その他は,「自分の能力,技能,資格を生かすため」「視野を広めたり,友人を得るため」(それぞれ15.3%),「気分転換のため」(13.9%)と続いている(表5-28)。

表5-28 今後の就業希望別就業理由(無職者で今後,就業を希望している者)

 今後の希望する就業形態が「自分(または家)で仕事をしたい」か「勤めたい」かで,これらの就業理由に差があるかどうかをみるとケース数が少ないため明確な傾向とはいえないが,「勤めたい」とする場合の方が,「家計費の足しにするため」「将来に備えて貯蓄するため」「視野を広めたり,友人を得るため」の割合が高い。一方,「自分(または家)で仕事をしたい」の場合の方が「自分の能力,技能,資格を生かすため」の割合がやや高くなっている。


第2節 介護以前等の就業状況

 以上,今後の就業希望を含めた現在の就業状況をみてきたが,これらは,介護者の属性,老人のADL,IADL等によって,さまざまに違うことが明らかにされた。
 ここでは,介護以前の就業状況,および介護するようになってからの労働条件等の変化についてみていく。

1.介護以前の就業の有無の状況

 デイケア利用老人を介護するようになる前に,本調査対象者である介護者本人が仕事をしていたかどうかということをみると,表5-29のように,仕事をしていた人は59.1%,仕事をしていなかった人は37.1%となっている。これを性別でみると,男性は78.3%が有職であるが,女性の有職者の割合は55.0%と,男性より低くなっている。

表5-29 介護者の性別介護以前の就業の有無

2.勤務先や労働条件の変化

 介護以前に仕事をしていた者231名に対し,老人を介護するようになってから,勤務先や労働条件などについて変化があったかどうかを質問した。その結果が表5-30である。一番多いのは,「仕事をやめた」の33.8%である。次に多いのは「休暇をとった(休職した)」の24.7%であるが,老人介護のために休業制度が整っている職場は現在,まだ少ないと考えられ,このほとんどは長期間休職したというよりは,短い単位で休暇をとったと考えられる。その他,「労働時間の短縮」9.1%,「仕事(勤務先)を変えた」8.7%と続いている。なお,「労働時間の短縮」についての回答には,身分の移行を伴うものと伴わないものの両方が含まれていると考えられる。そして,なんらかの変化があったという人は64.9%と半数を超えており,本章の冒頭で述べたように,老人介護は就業に大きく影響していることがわかる。

表5-30 勤務先や労働条件の変化

 また,「仕事をやめた」と「仕事(勤務先)を変えた」の少なくともどちらかに回答した人は41.6%(96名)いる。彼らは退職あるいは転職以前の就業形態についてみると,表5-31のように「臨時雇い,パート」が35.4%で一番多く,次いで「常用雇用者」33.3%となっており,外に勤めに出る場合が多くを占めている。

表5-31 退職転職前の就業形態

3.退職あるいは転職の有無の状況

 介護以前に仕事をしていた者231名について,退職あるいは転職の有無の状況が以下のことによって,どのように異なっているのかをみていく。

a.介護者の性別にみた退職あるいは転職の有無

 介護者が男性か女性かで退職あるいは転職の有無の状況をみると,差は見られない

b.老人との続柄別にみた退職あるいは転職の有無

 誰が誰を介護しているかということで退職あるいは転職の有無の状況をみると,表5-32のようになる。「妻が夫」「夫が妻」を介護している場合,つまり,配偶者介護の場合は,「退職あるいは転職あり」の割合が約5~6割と高いのに比べ,子が老親を介護している場合は,その割合が低くなっている。配偶者介護の場合というのは,介護者が比較的高齢であると考えられ,よってこのような結果がでたといえよう。

表5-32 介護者と老人との続柄別退職あるいは転職の有無

 老親子間についてさらにみると,「嫁が配偶者の親」を介護している場合は「退職あるいは転職あり」の割合が5割弱であるが,「娘が本人の親」を介護している場合は約3割となっており,本人の親を介護する場合よりも,配偶者の親を介護する場合の方が,退職あるいは転職するケースが多いのかもしれない。また,「息子が本人の親」を介護している場合は,一家の生計中心者としての役割が大きいためか,「退職あるいは転職あり」の割合は1割強しかない。

c.デイケア利用理由別にみた退職あるいは転職の有無

 デイケア利用に至った理由のうち,老人側の理由別に退職あるいは転職の有無をみると,表5-33のように,「友人,仲間を得るため」と答えた人のうち「退職あるいは転職あり」の割合は約2割であるのに対し,「リハビリのため」と「気晴らしのため」と答えた人のうち「退職あるいは転職あり」の割合はそれぞれ約5割と高くなっている。「リハビリのため」というのは老人の身体状況が比較的おもわしくないと考えられ,たとえば,そのために仕事をやめたり変えたりし,回復のためにデイケアを利用したということが考えられよう。

表5-33 デイケア利用老人側の利用理由別退職あるいは転職の有無

 介護者側の理由別に退職あるいは転職の有無をみると,表5-34のように,「仕事のため」と答えた人のうち「退職あるいは転職あり」の割合は約2割であり,他の理由の場合に比べ低くなっている。これは,「仕事のため」にデイケアを利用した人の多くは,退職あるいは転職せずに現に仕事を継続しているということを示しているといえよう。

表5-34 介護者側の利用理由別退職あるいは転職の有無


第3節 要約

(1)本調査対象者である介護者のうち,有職は約4割,無職は約6割である。まず,有職者の特徴をみると,男性の方が有職者の割合は高く,「息子が本人の親」を介護している場合,全員が有職である。また,無配偶者の方が有職者の割合は高い。
 無職者の特徴をみると,女性の方が無職者の割合は高く,また,年齢が高くなるにつれ,その割合は高くなっており,そして,介護者本人が病弱である場合は,ほとんどが無職である。介護者と老人との続柄では,「夫が妻」「妻が夫」を介護している場合,他の続柄に比べて無職の割合が高い。子が本人の親を介護しているケースで同居理由が「老人介護のために途中から」である場合は,他の同居理由に比べ無職の割合が高い。また,ADL,IADLが低い場合の方が,無職者の割合は高い。
(2)有職者157名のうち,就業形態は,「自営」が4割,「常雇」が3割,「パート」が約2割である。まず,「自営」の特徴をみると,女性の方が「自営」の割合が高く,また,女性の年齢が高い方がその割合は高い。介護者と老人との続柄では,「妻が夫」「嫁が配偶者の親」を介護している場合,他の続柄に比べて「自営」の割合が高くなっている。また,職種についてみると,「自営」には「販売,サービスの職業」「専門的技術的,管理的職業」が多く,就業終了時間は午後6時以降が多い。また,「常雇」や「パート」に比べ,介護のために仕事を休んだことは少ない。
 「常雇」の特徴をみると,男性の方が「常雇」の割合は高く,介護者と老人との続柄では,「息子が本人の親」を介護している場合,「常雇」が特に多い。また,無配偶者の方が「常雇」の割合は高い。職種についてみると,「事務的職業」が多く,就業開始時間は午前8時台以前が多く,終了時間は午後5時台から7時台が多い。
 「パート」の特徴をみると,女性の方が「パート」の割合は高く,介護者と老人との続柄では,「息子が本人の親」を介護している場合,「パート」は一人もいない。また,職種についてみると,「販売,サービスの職業」が多く,就業開始時間は午前9時台が,終了時間は午後5時台以前が多い。また,就業時間は「8~10時間未満」が約4割であるが「6時間未満」も約3割を占めている。
(3)無職者232名について,今後の就業希望をみると,「自分(または家)で仕事をしたい」が1割強,「パートで勤めたい」が2割弱,「仕事はしたくない」が約6割である。「仕事はしたくない」ケースの特徴をみると,男性の方が「仕事はしたくない」の割合が高く,また,女性で年齢が高くなるほどその割合は高くなっている。介護者と老人との続柄では「妻が夫」「夫が妻」を介護している場合,特に「仕事はしたくない」の割合が高く,また,「嫁が配偶者の親」を介護している場合に比べ「娘が本人の親」を介護している場合の方が,「仕事はしたくない」の割合が高い。また,娘が本人の親を介護しているケースで同居理由が「老人介護のために途中から」の場合は,他の同居理由に比べて「仕事はしたくない」の割合が高くなっている。
(4)デイケア利用老人を介護するようになる前に就業していた人は約6割であり,男性の方がその割合は高い。また,就業をしていた人のうち,老人介護をするようになってから「仕事をやめた」「仕事(勤務先)を変えた」の少なくともどちらかを経験したひとは約4割である。この「退職,転職あり」のケースの特徴をみると,退職,転職する以前の就業形態では「臨時雇い,パート」「常用雇用者」が多い。介護者と老人との続柄では「妻が夫」「夫が妻」というような配偶者介護の場合は,他の続柄に比べ「退職,転職あり」の割合が高く,子が老親を介護している場合,その割合は低くなっている。また,同じ老親子間でも,娘が本人の親を介護する場合よりも嫁が配偶者の親を介護する場合の方が,「退職,転職あり」の割合が高くなっている。デイケア利用に至った理由では,老人側の理由が「リハビリのため」「気晴らしのため」の場合,他の利用理由に比べ「退職,転職あり」の割合が高い。また,デイケア利用に至った理由で,介護者側の理由が
「仕事のため」である場合は,他の利用理由に比べ「退職,転職あり」の割合が低い。

〔付記〕職業に関する調査項目については,雇用職業総合研究所「老人介護と家族の就労に関する調査」(1989年)を参照した。


第6章 老人介護と職業との両立

 前章で,介護者の現在の就業状況,および介護する以前等の就業状況をみてきた。それによると,現在,就業している者の約9割は今後も就業継続を希望しており,現在,就業していない者の約3割が今後就業を希望していた。また,老人を介護するようになってから,それまで就業していた者のうち約4割が仕事をやめたり,変えたりしていた。このような状況のなかで,老人介護が有職者の就業継続の妨げとならぬよう,また,無職者の就業希望を妨げないようにするためには何が必要であるのかということを検討していかなくてはならないであろう。
 そこで,本章では,実際にデイケアを利用しながら老人を介護している者が,老人介護と職業との両立のためには,何が必要であると考えているのかを明らかにしていく。介護と職業との両立に必要と考えられるものを(1)地域のサービス,(2)職場のサービス・制度,に分けて,以下,みていく。


第1節 地域のサービスに対するニーズ

 老人介護と職業との両立のための地域のサービスとして,「往診してくれる医者」「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」「デイケア・センター」「訪問看護,訪問看護指導」「入浴サービス」「ショートステイ」「家族に対する介護教室,研修」「地域の人からの援助」「介護についての相談サービス」を挙げ,そのうち,老人介護をしながら仕事を続けていくために必要と思われるものを3つまで選んでもらった。その結果は図6-1である。一番多いのは,現在利用している「デイケア・センター」であり,全体の59.3%の人が必要と考えている。次に多いのは「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」で48.6%,そして「往診してくれる医者」41.9%,「ショートステイ」36.6%と続いている。上位2位までをみると,職業との両立には,日中,自宅外で老人をみてもらうサービスを必要とするか,あるいは自宅に来てもらって老人をみてもらうサービスを必要とするか,というように大きく分けられるが,この他,この2つが補完的に必要とされるということも考えられよう。

図6-1 地域サービスに対するニーズ(M.A.)

 では,このニーズが,(1)介護者の属性,(2)デイケア利用老人のADL,IADL,(3)デイケア利用状況,(4)介護者の就業状況,によってどのように異なっているのかをみていく。

1.介護者の属性別にみたニーズ

a 性別,年齢,健康

 まず,ニーズを性別にみると,表6-1のように「ショートステイ」に対するニーズが,男性は23.3%であるのに対し,女性は39.7%と高くなっている。次に,これを年齢別にみると,男性も女性もそれぞれ年齢の高低と各ニーズとの明確な関係はみられない。

表6-1 介護者の性別地域のサービスに対するニーズ(M.A.)

介護者の健康状態別にニーズをみると,表6-2のように,「往診してくれる医者」に対するニーズが,病弱,要介護である場合51.9%であり,健康である場合が39.9%であるのに比べ,高くなっている。

表6-2 介護者の健康状態別地域のサービスに対するニーズ(M.A.)

b 老人との続柄

 介護者と老人との続柄別にニーズをみると,表6-3のように,「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」に対するニーズの割合が「妻が夫」を介護している場合約4割であり,他の続柄がそれぞれ約5~6割であるのに対し低くなっている。これは,妻が介護しているということで特に必要ないという考えをあらわしているのかもしれない。また,「夫が妻」「嫁が配偶者の親」を介護している場合は「デイケア・センター」に対するニーズの割合が約7割であり,他の続柄のその割合がそれぞれ約6割であるのに対し,やや高くなっている。さらに,「ショートステイ」に対するニーズの割合が,「娘が本人の親」を介護している場合は約4割,「嫁が配偶者の親」を介護している場合は約6割であり,他の続柄がそれぞれ約2~3割であるのに対し,高くなっている。配偶者間で介護している場合よりも,老親を介護している場合,特に女性が老親を介護している場合の方が,介護老人と一時的にでも離れたいということであろうか。

表6-3 介護者と老人との続柄別地域のサービスに対するニーズ(M.A.)

c 老人との居住形態,同居年数,同居理由

 まず,デイケア利用老人と同居しているかどうかということでニーズをみたうち目立ったものをみると,別居のケースは15ケースと少ないが,表6-4のように「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」について,同居の場合はニーズが47.7%であるのに対し,別居の場合はニーズが73.3%と高くなっている。

表6-4 老人との居住形態別地域のサービスに対するニーズ(M.A.)

 次に,同居しているケースについて,同居年数別にニーズをみていく。本人の親を介護している場合は,「往診してくれる医者」に対するニーズの割合が,同居年数「5年未満」では約3割だが「5~10年未満」では約8割と高くなり,それ以上年数が長くなると,今度は割合が低くなり,「20年以上」では約4割となっている。一方,配偶者の親を介護している場合は,表6-5のように,同居年数が短い方が「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」に対するニーズの割合が高く,また,「ショートステイ」に対するニーズの割合も「5年以上」では約5割であるが「5年未満」では約8割と高くなっている。

表6-5 同居年数別地域のサービスに対するニーズ〔子が配偶者の親を介護している場合〕(M.A.)

 さらに同居しているケースについて,同居理由別にニーズをみると,本人の親を介護している場合は,表6-6のように,「往診してくれる医者」に対するニーズの割合が,同じ途中同居でも,介護以外のために途中同居した方が,介護のために途中同居した場合に比べ高くなっている。「デイケア・センター」に対するニーズの割合は,「介護以外の理由で途中から」に比べ,「介護のために途中から」の方が高い。同様に「ショートステイ」に対するニーズの割合も「介護以外の理由で途中から」に比べ,「介護のために途中から」の方が高くなっている。一方,配偶者の親を介護している場合は,表6-7のように,「介護以外の理由で途中から」同居の方が「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」に対するニーズの割合が,他の理由である場合に比べやや高い。また,「介護のために途中から」同居の方が「ショートステイ」に対するニーズの割合は,他の理由である場合に比べ高くなっている。

表6-6 同居理由別地域のサービスに対するニーズ〔子が本人の親を介護している場合〕(M.A.)
表6-7 同居理由別地域のサービスに対するニーズ〔子が配偶者の親を介護している場合〕(M.A.)

d 介護期間,介護協力者の有無

 介護期間別にニーズをみると,表6-8のように,介護期間が長い方が「往診してくれる医者」に対するニーズの割合は高い。また,「入浴サービス」についても介護期間が長い方がニーズが高い。その反対に,「デイケア・センター」については,介護期間が短い方がそのニーズが高い。

表6-8 介護期間別地域のサービスに対するニーズ(M.A.)

e 配偶関係

 介護者本人が有配偶かどうかということでニーズをみると,「デイケア・センター」に対するニーズの割合が無配偶は約5割であるのに比べ,有配偶の方は約6割とやや高くなっている程度である。
2.デイケア利用老人のADL,IADL別にみたニーズ
 まず,ADLの高低別にニーズをみると,表6-9のように,「往診してくれる医者」に対するニーズの割合はADLが高い方が低い方に比べ高くなっている。また,「デイケア・センター」に対するニーズの割合はADLが低い方が高い方に比べ高くなっている。同様に「入浴サービス」についてもADLが低い方が高い方に比べニーズが高くなっている。

表6-9 デイケア利用老人のADLの高低別地域のサービスに対するニーズ(M.A.)

 次に,IADLについてみると,表6-10のように,ADLとほぼ同様であり,「往診してくれる医者」に対するニーズの割合は,IADLが高い方が低い方に比べ高くなってる。そして,「入浴サービス」に対するニーズの割合は,IADLが低い方が高い方に比べ高くなっている。

表6-10 デイケア利用老人のIADLの高低別地域のサービスに対するニーズ(M.A.)

3.デイケア利用状況(利用期間,利用回数,利用時間)別にみたニーズ

 まず,利用期間別にニーズをみると,期間が短いほど「介護についての相談サービス」に対するニーズの割合はやや高く,「1年未満」では約2割,「3年以上」では約1割となっている。
 次に,利用回数別にニーズをみると,回数が週に4~6回と多い場合,「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」に対するニーズの場合が約4割であるのに比べ,それ以下の回数の場合のニーズの割合は約5割でやや高くなっている。回数が少ない方については,デイケアを補う意味でニーズが高くでているのかもしれない。
 利用時間別にニーズをみると,表6-11のように,「往診してくれる医者」に対するニーズの割合は,時間が長いほど,ニーズは高くなっている。また,「ショートステイ」についても同様,「4時間未満」では約2割であるが,「4時間以上」になると約4割とニーズは高くなっている。

表6-11 デイケア利用期間別地域のサービスに対するニーズ(M.A.)

4.就業状況(就業の有無,就業形態,今後の就業希望,退職・転職の有無)別にみたニーズ

 まず,就業の有無別に各ニーズをみると,違いはみられない。
 次に有職者について,就業形態別にニーズをみると,表6-12のようになる。「パート」は他の形態に比べ「往診してくれる医者」に対するニーズの割合が低くなっており,「常雇」は他の形態に比べ「ショートステイ」に対するニーズの割合が低くなっている。そして,「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」に対するニーズの割合は,「自営」「パート」「常雇」の順に高くなっており,これは,自宅外に勤めにでて,そして,時間的拘束が大きいほど,家で自分の代わりをしてくれるものへのニーズが高いことを示していると考えられる。

表6-12 就業形態別地域のサービスに対するニーズ(M.A.)

 また,有職者で今後,就業希望のある人について,希望が「現状のままで」と「それ以外」とでニーズに差があるかどうかをみると,各ニーズともあまり大きな差はみられない。
 無職者について,今後の就業希望別にニーズをみると,表6-13のように,「勤めたい」とする場合は,「自分(または家)で仕事をしたい」「仕事はしたくない」に比べ,「デイケア・センター」と「ショートステイ」に対するニーズの割合がそれぞれ高くなっている。この結果から,自宅外に勤めに出るためには,老人を自宅外に預けることが必要であるという考えがうかがえる。

表6-13 今後の就業希望別地域のサービスに対するニーズ〔無職者〕(M.A.)

 また,介護以前に就業していた者のうち,介護するようになってから退職あるいは転職したことがあるかどうかということでニーズをみると,違いはみられない。


第2節 職場のサービス,制度に対するニーズ

 老人介護と職業との両立のための職場のサービス,制度として,「特別の休み」「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」「自宅で勤め先の仕事ができる」「残業時間や深夜労働の規制」「同一企業内での短時間勤務への移行」「転勤上の配慮」「仕事の内容の変更」「退職した企業に再就職できる」「介護手当の支給あるいは貸付」「相談窓口,情報提供」を挙げ,そのうち,老人介護をしながら仕事を続けていくために必要と思われるものを3つまで選んでもらった。その結果は図6-2である。一番多いのは,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」であり,全体の53.2%の人が必要と考えている。次に多いのは,「特別の休み」で37.9%,次いで「自宅で勤め先の仕事ができる」28.4%,「介護手当の支給あるいは貸付」19.7%となっている。自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べるならば,デイケア・センターの利用やホームヘルパー,家政婦などの利用がより可能に,そしてより容易になろう。また,老人の様態が変化したときに対処できるようにするためには休暇の確保は必須であることから,「特別の休み」へのニーズが高くなっていると考えられる。

図6-2 職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

 では,このニーズが,(1)介護者の属性,(2)デイケア利用老人のADL,IADL,(3)デイケア利用状況,(4)介護者の就業状況,によってどのように異なっているのかをみていく。

1.介護者の属性別にみたニーズ

a 性別,年齢,健康

 まず,ニーズを性別にみると,表6-14のように,「転勤上の配慮」に対するニーズの割合は,女性よりも男性のほうが高くなっている。また,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合は,男性に比べ,女性の方が高くなっている。

表6-14 介護者の性別職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

 次に,これを年齢別にみると,女性については,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合が,50歳台で62.2%と一番高くなっており,それ以上年齢が高くなるにつれてニーズはやや低くなり,70歳以上では47.4%となっている。また,「特別の休み」に対するニーズの割合が,69歳以下では約4割を占めているのに対し,70歳以上では約2割であり,高齢になり,職業から引退するにつれてニーズは低くなっていることがうかがえる。また,介護者の健康状態別にニーズをみると,差はみられない。

b 老人との続柄

 介護者と老人との続柄別にニーズをみると,表6-15のように,「夫が妻」を介護している場合は,他の続柄に比べ「特別の休み」に対するニーズの割合が低くなっている。また,「息子が本人の親」を介護している場合は,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合が,他の続柄に比べ低くなっており,一方,「介護手当の支給あるいは貸付」に対するニーズの割合は高くなっている。「娘が本人の親」を介護している場合は,「退職した企業に再就職できる」に対するニーズの割合が他の続柄に比べ,高くなっている。

表6-15 介護者と老人との続柄別職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

c 老人との居住形態,同居年数,同居理由

 まず,デイケア利用老人と同居しているかどうかということでニーズをみると,「介護手当の支給あるいは貸付」に対するニーズが,同居の場合は19.0%であるのに対し,別居の場合はケース数にすると6ケースであるが40.0%と高い。
 次に,同居しているケースについて,同居年数別にニーズをみていく。本人の親を介護している場合は,同居年数の長短との明確な関係はみられない。配偶者の親を介護している場合は,表6-16のように,「特別の休み」に対するニーズの割合が,「5年未満」では約6割,それ以上の年数ではそれぞれ約4割以下であり,同居年数が短い方がニーズは高くなっている。また,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合が,同居年数「10~20年未満」の場合約7割であるが,それより長い年数と短い年数では,それぞれ約5割となっている。

表6-16 同居年数別職場のサービス,制度に対するニーズ〔子が配偶者の親を介護している場合〕(M.A.)

 さらに同居しているケースについて,同居理由別にニーズをみると,本人の親を介護している場合は,表6-17のようになる。同じ途中同居でも,介護以外のために途中同居した場合に比べ,介護のために途中同居した方が「特別の休み」に対するニーズの割合は高くなっている。また,配偶者の親を介護している場合では,表6-18のようになる。「特別の休み」に対するニーズの割合は,「介護以外の理由で途中から」同居の場合,他の理由に比べ,高くなっている。そして,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合については,途中同居の場合に比べ,結婚後ずっと同居の方が高くなっている。

表6-17 同居理由別職場のサービス,制度に対するニーズ〔子が本人の親を介護している場合〕(M.A.)
表6-18 同居理由別職場のサービス,制度に対するニーズ〔子が配偶者の親を介護している場合〕(M.A.)

d 介護期間,介護協力者の有無

 介護期間別にニーズをみると,表6-19のように,介護期間が「10年未満」と短い場合,「特別の休み」に対するニーズの割合は約4割であり,「10年以上」の場合が約3割であるのに比べ,高くなっている。

表6-19 介護期間別職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

 同居家族のなかで介護協力者がいるかどうかということでニーズをみると,表6-20のように,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合が,いない場合に比べ,いる場合の方が高くなっており,同様に「同一企業内での短時間勤務への移行」に対するニーズの割合も,いない場合に比べ,いる場合の方が高くなっている。協力者がいない方が一般にニーズは高いと考えられるが,ここでは逆の結果がでている。また,別居の介護協力者がいるかどうかということでみると,ニーズに差はみられない。

表6-20 同居介護協力者の有無別職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

e 配偶関係

 介護者本人が有配偶かどうかということでニーズをみると,表6-21のように,「自宅で勤め先の仕事ができる」といういわゆる在宅勤務のような形態に対するニーズの割合が,無配偶は1割弱であるのに比べ,有配偶の方は約3割と高くなっている。

表6-21 介護者の配偶関係別職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

2.デイケア利用老人のADL,IADL別にみたニーズ

 ADLについても,IADLについても,その高低別にニーズをみると,差はみられない。

3.デイケア利用状況(利用期間,利用回数,利用時間)別にみたニーズ

 まず,利用期間別にニーズをみると,「自宅で勤め先の仕事ができる」に対するニーズの割合が,「1年未満」では29.7%,「1~3年未満」では21.7%であるのに対し,「3年以上」では36.0%とやや高くなっている程度である。
 次に,利用回数別にニーズをみると,表6-22のように,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合は,回数が週に4~6回の場合,約3割であるのに対し,それ以下の回数の場合では約5~6割と高くなっている。同様に,「自宅で勤め先の仕事ができる」に対するニーズの割合も,回数が4~6回の場合約2割であるのに対し,それ以下の回数の場合では約3~4割と高くなっている。また,「相談窓口,情報提供」に対するニーズの割合は,回数が多い場合は約1割であるのに対し,回数が1回と少ない場合,約2割となっている。このように,デイケア利用回数が少ない方が多い方に比べ,ニーズは高くなっている。

表6-22 デイケア利用回数別職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

 利用時間別にニーズをみると,表6-23のように,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合が,「4~6時間未満」という中間の長さの場合では約6割であり,「4時間未満」が約4割,「6時間以上」が5割弱であるのに比べ高くなっている。また,その反対に,「相談窓口,情報提供」に対するニーズの割合は,「4~6時間未満」では約1割であり,「4時間未満」「6時間以上」ではそれぞれ約2割であるのに比べ低くなっている。また,「退職した企業に再就職できる」に対するニーズの割合は,利用時間が長い人ほど高くなっており,「4時間未満」では3.8%,「6時間以上」では19.7%となっている。

表6-23 デイケア利用時間別職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

4.就業状況(就業の有無,就業形態,今後の就業希望,退職・転職の有無)別にみたニーズ

 まず,就業の有無別にニーズをみると,表6-24のように,「自宅で勤め先の仕事ができる」に対するニーズの割合が,有職に比べ,無職は高くなっている。また,同様に「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合が,有職に比べ,無職は高くなっており,現在,就業しているかどうかでニーズの違いがうかがえる。

表6-24 介護者の就業の有無別職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

 次に有識者について,就業形態別にニーズをみると,表6-25のようになる。「常雇」と「パート」という勤めの形態をとる人は「自営」に比べ「特別の休み」に対するニーズの割合が高くなっている。また,「常雇」は「残業時間や深夜労働の規制」と「勤務上の配慮」に対するニーズの割合が,他の形態に比べて高くなっている。そして,「パート」は「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合が,他の形態に比べ高くなっている。

表6-25 就業形態別職場のサービス,制度に対するニーズ(M.A.)

 また,有識者で今後,就業希望のある人について,希望が「現状のままで」と「それ以外」とでニーズに差があるかどうかみると,差はみられない。
 無識者について,今後の就業希望別にニーズをみると,表6-26のように「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」に対するニーズの割合が,「仕事をしたい」とは,希望している場合は,「仕事はしたくない」と希望している場合に比べ高くなっており,介護との両立を可能とするために就業上,融通性の高い形態を希望していることがわかる。また,「介護手当の支給あるいは貸付」に対するニーズの割合も同様に高くなっている。そして,「勤めたい」という場合は,「自分(または家)で仕事がしたい」「仕事はしたくない」という場合に比べ「残業時間や深夜労働の規制」と「同一企業内での短時間勤務への移行」に対するニーズの割合が高くなっている。

表6-26 今後の就業希望別職場のサービス,制度に対するニーズ(無職者)(M.A.)

 また,介護以前に就業していた者のうち,介護するようになってから退職あるいは転職したことがあるかどうかということでニーズをみると,表6-27のように,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」と「自宅で勤め先の仕事ができる」に対するニーズの割合が,退職あるいは転職したことがある場合の方が,ない場合に比べ高くなっている。

表6-27 退職あるいは転職の有無別職場のサービス、制度に対するニーズ〔介護以前に就業していた者〕(M.A.)


第3節 要約

(1)老人介護と職業との両立のための地域のサービスに対するニーズで一番多いのは,「デイケア・センター」で約6割,次に多いのは「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」で約5割である。これらのニーズの特徴を各サービスごとにまとめると以下のようになる。
 まず,「デイケア・センター」についてみると,本人の親を介護しているケースで同居理由が「介護のために途中同居」の方が「介護以外のために途中同居」よりもニーズが高くなっている。介護期間については短い方がニーズは高く,ADLについては,ADLが低い方がニーズは高い。また,就業に関してみると,無職者のうち,今後の就業希望が「勤めたい」である場合,「自分(または家)で仕事をしたい」「仕事はしたくない」という場合に比べ,ニーズが高くなっている。
 「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」についてみると,介護者と老人との続柄では,「妻が夫」を介護している場合は,他の続柄に比べニーズは低くなっている。また,介護老人と別居している方がニーズは高く,配偶者の親を介護しているケースでは同居年数が短い方がニーズは高くなっている。デイケア利用回数では,回数が少ない方がニーズは高い。また,就業に関してみると,「自営」「パート」「常雇」の順にニーズが高くなっている。
 「往診してくれる医者」については,介護者本人が病弱,要介護である場合の方がニーズは高く,本人の親を介護しているケースでは同居理由が「介護以外のために途中同居」の方が「介護のために途中同居」よりもニーズが高くなっている。また,介護期間が長い方がニーズは高い。ADL,IADLについては,これらが高い方がニーズは高く,医者の往診希望が多いのは,老人が聴覚障害・視覚障害・心疾患のような比較的ADL,IADLの高い場合の介護者であるといえる。デイケア利用時間では,時間が長いほど,ニーズは高くなっている。また,就業に関してみると,「パート」は「自営」や「常雇」に比べて「往診してくれる医者」のニーズは低い。
 「ショートステイ」についてみると,女性の方がニーズが高く,介護者と老人との続柄では,「娘が本人の親」「嫁が配偶者の親」を介護している場合,他の続柄に比べニーズが高い。また,配偶者の親を介護しているケースでは同居年数が短い方がニーズが高くなっている。そして,子が親を介護しているケースでは同居理由が「介護のために途中から」の方が「介護以外のために途中から」よりもニーズは高い。また,デイケア利用時間では時間が長いほど,ニーズは高い。就業に関してみると,「常雇」は「ショートステイ」に対するニーズが他の形態に比べ低い。また,無職者のうち,今後の就業希望が「勤めたい」である場合,「自分(または家)で仕事をしたい」「仕事はしたくない」という場合に比べ,ニーズは高くなっている。
 「入浴サービス」については,介護期間が長い方がニーズは高く,ADL,IADLが低い方がニーズは高い。

(2)老人介護と職業との両立のための職場のサービス,制度に対するニーズで一番多いのは,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」で約5割,次に多いのは「特別の休み」で約4割である。これらのニーズの特徴を各サービスごとにみていく。
 まず,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」については,女性の方がニーズは高く,介護者と老人との続柄では,「息子が本人の親」を介護している場合は,他の続柄よりもニーズは低くなっている。また,配偶者の親を介護しているケースで同居理由が「結婚後ずっと」の場合は,途中同居に比べニーズは高い。そして,デイケア利用回数が少ない方がニーズは高くなっている。就業に関してみると,現在,無職である方がニーズは高い。また,有職者のなかでは「パート」は「自営」や「常雇」に比べニーズが高く,無職者のうちでは,今後,「仕事をしたい」と希望している人は「仕事はしたくない」人に比べニーズが高くでている。また,介護以前,就業していた者のうち,介護するようになってから退職,転職したことがある人は,ない人に比べニーズは高くなっている。
 「特別の休み」については,年齢が高くなるにつれニーズは低くなる。介護者と老人との続柄では,「夫が妻」を介護している場合は,他の続柄に比べ,ニーズは低い。また,配偶者の親を介護しているケースで同居年数が短い方がニーズは高い。そして,本人の親を介護しているケースで同居理由が「介護のために途中同居」の方が「介護以外のために途中同居」よりもニーズが高く,反対に,配偶者の親を介護しているケースでは「介護以外のために途中同居」の方がその他の理由の場合よりもニーズが高くなっている。介護期間は短い人ほど,ニーズは高く,就業に関してみると,「常雇」「パート」という勤めの形態をとる人の方が「自営」に比べニーズは高くなっている。
 「自宅で勤め先の仕事ができる」については,有配偶の方がニーズは高く,デイケア利用回数が少ない方がニーズは高い。就業に関しては,現在,無職である方がニーズは高く,また,介護以前に就業していた者のうち,介護するようになってから退職,転職したことがある人は,ない人に比べニーズは高くなっている。
 「介護手当の支給あるいは貸付」については,介護者と老人との続柄で「息子が本人の親」を介護している場合,他の続柄に比べニーズは高く,また,無職者のうち,今後,「仕事をしたい」と希望している人は「仕事はしたくない」という人に比べニーズが高くでている。
 「残業時間や深夜労働の規制」についてみると,「常雇」は「自営」「パート」に比べニーズが高く,また,無職者のうち,今後「勤めたい」とする場合は,「自分(または家)で仕事がしたい」「仕事はしたくない」とする場合に比べ,ニーズは高くでている。「相談窓口,情報提供」については,デイケア利用回数が少ない方がニーズは高くなっている。「転勤上の配慮」については,男性の方がニーズが高く,また,「常雇」は他の形態に比べニーズが高くなっている。「同一企業内での短時間勤務への移行」については,無職者のうち,今後「勤めたい」とする場合,「自分(または家)で仕事をしたい」「仕事はしたくない」とする場合に比べ,ニーズが高くでている。「退職した企業に再就職できる」については,「娘が本人の親」を介護している場合,他の続柄に比べニーズは高く,デイケア利用時間が長くなるほどニーズは高くなっている。
 以上のように,地域のサービスに対するニーズも職場のサービス・制度に対するニーズも,介護者の属性や老人の生活状況,また,デイケア利用状況や介護者の就業状況によって,さまざまに違うことが明らかにされた。介護者が就職をしたいと希望するならば,その希望が介護のために妨げられることがあってはならない。本章で扱ったサービスや制度は,現状ではまだ完全に整っているとはいえない。よって,これら明らかにされたさまざまなニーズに対応できるようサービス,制度のシステムを検討していかなくてはならないであろう。


第7章 デイケアの現状と将来

 本章ではデイケアの利用状況を明らかにするとともに,地域サービスに対する介護者のニーズやデイケアに対する要望を手がかりに,在宅介護においてデイケアが今後どのような位置を占めるか,よりよいデイケアのためには,どのような改善が求められるかを考察したい。


第1節 デイケアの利用状況

1.利用期間

 デイケアの利用期間は原則として6ヶ月であるが,そのまま期間延長をしている施設が少なくない。表7-1にみられるように,女性にくらべ男性の利用期間がやや長く,3年以上では男性37.1%に対して,女性27.7%になっている。年齢についてみると,男性の60代に3年以上の者が多く,逆に女性の60代では3年未満が多い。

表7-1 デイケア利用老人の性別年齢別利用期間

 介護者と老人の続柄を見ると,表7-2にみられるように,妻が夫を介護している場合に3年以上の長期にわたる者が多く,夫が妻を介護している場合と,息子が親を介護している場合に1年未満の短い者が多い。利用期間の相違は,老人の症状の相違によるところもあるだろうが,介護者が男性である場合に利用期間の短い者が多いのは,地域社会とのつながりの薄い彼らが,在宅サービスの所在に気づくのが遅れがちになるということも考えられる。

表7-2 介護者と老人の続柄別利用期間

2.利用回数

 利用回数は,原則として週1,2回で送迎つきだが,自分ひとりまたは家族の援助を得て通所できる人は毎日来てもかまわないという施設もある。表7-3にみられるように,週2回に集中しているが,週1回は男性11.2%に対して女性27.2%と女性の方が2倍以上も多くなっている。年齢による差は認められない。

表7-3 デイケア利用老人の性別年齢別利用回数

 介護者と老人との続柄別にみると,表7-4にみられるように,週1回は娘が親を介護している場合29.8%,息子が親を介護している場合56.5%と他にくらべて多くなっている。ケアセンターまでの送迎は,痴呆の場合には直接老人の家までバスが出かけて行くが,それ以外は決められた場所まで出むかなければならない。仕事を持つ娘や息子の場合には,送迎バスの来るところまで老人を送っていくこともそれ程容易ではないだろう。介護者の職の有無別にみると,週1回は,男性の場合,有職47.1%に対して無職11.5%,女性の場合,有職24.8%に対して無職12.9%と,有職者の方が利用回数が少ない。

表7-4 介護者と老人の続柄別利用回数

3.利用時間

 利用時間は,どの施設もほぼ午前10時頃から午後3時頃までである。都会におけるデイケアの悩みは送迎であり,交通ラッシュに巻き込まれることを避けようとすれば,このような時間帯にならざるをえないのかもしれない。表7-5に示されるように,4~6時間未満が多いが,男女とも年齢の若い層に利用時間の短い者がやや多くみられる。

表7-5 デイケア利用老人の性別年齢別利用時間

 介護者と老人との続柄をみると,表7-6にみられるように,夫婦間で介護している者に4時間未満がやや多く,親子あるいは義理の親子間で介護している場合に6時間以上が4割前後を占める。利用回数と利用時間との関連をみると,回数が少ないほど利用時間が長くなる傾向がうかがわれる。4時間未満は週3回52.9%,4~6回は32.3%に対して,6時間以上は週1回に39.7%,2回に31.1%である。言いかえれば,夫婦間で介護している場合には,頻繁に短時間デイケアセンターを利用するのに対し,娘・嫁・息子が介護する場合には回数は少ないが長時間利用する傾向がみられる。

表7-6 介護者と老人の続柄別利用時間

4.利用サービス

 老人が利用しているサービスは,食事74.4%,レクリエーション67.5%,送迎64.5%,リハビリ61.1%,介助浴11.5%,介護者教育8.2%,特浴3.8%の順である。その他の4.1%には作業療法である陶芸・絵・習字・組ひも・籐細工・ワープロ,教養講座,利用者の健康チェック等がふくまれる。
 表7-7は,老人の性・年齢別に利用サービスをみたものである。男女とも身体機能の低下に対処するサービスである介助浴やリハビリは,79歳以下の層にみられるのに対して,食事やレクリエーションのような交流をねらいとしたサービスは80歳以上の層に多くみられる。同じく送迎サービスも80歳以上の高齢者に多いが,これは痴呆の者が多いためかと思われる。

表7-7 デイケア利用老人の性別年齢別利用サービスの内容(M.A.)

 利用回数との関連をみると,表7-8に示されるように,週1~2回に多くみられるのは介助浴,食事,レクリエーション,送迎であり,週2~3回に多くみられるのは特浴,リハビリである。それに対して週3回以上には介護者教育への参加率が高い。言いかえれば,利用回数の少ない老人は,比較的症状が重く送迎を必要とし,入浴やリハビリ等のサービスを受けるのに対し,利用回数の多い老人は,比較的症状が安定し,自分または介護者の援助を得て通所できる者が多く,老人に付添ってくる機会が多いため介護者教育への参加率も高まるのであろう。

表7-8 デイケア利用回数別利用サービスの内容(M.A.)


第2節 利用理由とデイケアの効果

1.老人の利用理由

 介護者の目からみた老人のデイケア利用理由は,リハビリのため54.0%,友人・仲間を得るため25.1%,気晴しのため15.9%,食事サービスがあるから1.0%となっている。その他の2%としてあげられたのは,「家に居ると寝てばかりいるので」「安心して行ける場所が他にないため」「入浴のため」「陶芸を習うため」等である。
 男性の比較的若い年齢層では「リハビリのため」が多く,女性の高齢層では「気晴しのため」が多くなっている。これは,主として老人の心身状態によるところが大きいものと思われる。第2章で見たように,脳血管障害・高血圧・パーキンソン病は,比較的年齢の低い男性に多く,老人性痴呆・骨折・骨粗鬆症は高齢の女性に多くなっている。
 そこで老人の病名別に利用理由をみると,表7-9にみられるように,「リハビリのため」をあげる者が多いのは,脳血管障害78.4%,パーキンソン病75.9%,骨折62.5%であった。つまり身体的な機能の維持回復が可能と思われる症状についてはリハビリがデイケアの目的とされるのである。それに対して,今のところ治療方法の見つかっていない老人性痴呆症の場合には,「気晴しのため」が31.2%で平均値のほぼ2倍を占める。「友人・仲間を得るため」は,腰痛,聴覚障害,心疾患に多くみられる。

表7-9 デイケア利用老人の病名別デイケアの利用理由(病名はM.A.)

2.介護者のあげる利用理由

 介護者があげるデイケア利用理由は,「気分転換のため」29.9%,「仕事のため」14.8%,「休養のため」12.5%,「家事のため」7.4%である。その他の14.6%には,「家庭での介護には限界があるから」「介護者なしでは行動できないから」「一人では老人の相手を務めきれないから」「他に手のかかる老人や子どもがいるから」などである。
 表7-10にみられるように,「仕事のため」はさすがに有職者に集中しているが,他はいずれも無職者に多くなっている。第5章でみたように,無職の介護者には高齢の者が多く,休養や気分転換の必要度もより高いものと思われる。「家事をするため」は,無職の男性に多いが,これは夫が妻を介護しているケースであり,性別分業社会の規範を身につけた高齢男性が慣れない介護と家事に苦闘している様子がうかがわれる。

表7-10 介護者の職の有無別介護者側のデイケア利用理由

 老人の病名別にみると,「仕事のため」が多いのは,老人性痴呆27.3%,心疾患21.6%であり,「家事をするため」は視覚障害17.1%,高血圧13.3%,「休養のため」は老人性痴呆23.4%,視覚障害19.5%,「気分転換のため」は心疾患37.8%,腰痛36.8%,聴覚障害34.9%である。言いかえれば,老人性痴呆,視覚障害,聴覚障害などコミュニケーションをとることのむずかしい症状をもつ老人ほど介護者の負担が大きいことが明らかである。それに対して,もっとも数の多い脳血管障害の老人は,第3章で見たようにADLやIADLはかなり低いにもかかわらず,いずれの理由についても,ほぼ平均的な値にとどまっている。

3.デイケアの効果

 デイケアが老人に与える効果を,介護者は次のように評価している。もっとも多くあげられたのが「明るくなった」の51.2%であり,ついで「友人ができた」44.2%,「リハビリの効果があがった」39.6%,「意欲的になった」27.9%,「自立度が向上した」18.2%の順であり,「変わりない」は11.5%であった。
 表7-11にみられるように,男性老人についてはリハビリの効果と自立度の向上のような機能回復をあげる者が多く,女性老人については「明るくなった」「友人ができた」のような心理的効果をあげる者が多い。男性老人には脳血管障害やパーキンソン病など身体的機能回復訓練を要する病気の持主が多いのに対して,女性老人には老人性痴呆や骨粗鬆症のようなリハビリの効果がただちに期待できないような病気の持主が多いことがこうした回答に反映しているのであろう。機能回復的な効果は老人の年齢が低いほど多くあげられるが,心理社会的な効果については,年齢による差異は認められない。

表7-11 デイケア利用老人の性別年齢別デイケアの効果(M.A.)

 老人と介護者との続柄別にみると,表7-12にみられるように,妻が夫を介護している場合には「リハビリの効果」(51.6%)と「自立度の向上」(24.6%)があげられるのに対して,夫が妻を介護している場合には,「リハビリの効果」(51.4%),「意欲的」(31.4%),「明るくなった」(62.9%),「友人」(51.4%)と,デイケアの効果をたくさんあげている。親子または義理の親子間の介護では,「友人」と「明るくなった」をあげる者が多い。娘の47.9%,息子の69.1%,嫁の46.9%が「友人」をあげ,娘の55.3%,嫁の52.1%が「明るくなった」をあげている。異世代間の介護では,共通の話題の乏しいことや,老人の言動が理解し難いことが介護者の悩みである。デイケアを通じて老人に友人ができることが,介護者の心理的負担を軽減することにつながるのであろう。

表7-12 介護者と老人の続柄別デイケアの効果(M.A.)

 介護者のあげるデイケアの効果には,老人の年齢や症状が関連するのみならず,介護者と老人との続柄や人間関係も大きくかかわり合っているようだ。


第3節 介護者の求める在宅サービス

1.デイケアに対するニーズ

 本調査の対象者がデイケア利用老人の介護者であるためか,デイケアに対する評価や期待はきわめて高い。老人介護をしながら仕事を続けていくために必要なものを3つまで選んでもらったところ,デイケアが59.3%でトップであった。ついでヘルパー・家政婦48.6%,医者の往診41.9%,ショートステイ36.6%,入浴サービス20.2%,訪問看護14.6%,相談サービス13.0%,地域援助9.0%,介護教育5.6%の順になっている。その他の4.3%には,「身内で時々みてくれる人」「家族の協力・理解・手助け」「介護手当」「送迎つきの託老所」などがふくまれる。なお第4章にみたように,介護の支えとして「デイケアやホームヘルパー等の公的サービスを利用できるから」をあげる者が49.4%でもっとも多かった。
 老人および介護者の性・年齢による差はほとんどみられない。そこで老人の病名別にみると,表7-13に示されるように,デイケアやショートステイのような施設利用をあげる者は,老人性痴呆と骨折に多く,医者の往診,ヘルパー・家政婦,訪問看護のような訪問サービスをあげる者は腰痛,聴覚障害,視覚障害,骨粗鬆症などに目立つ。糖尿病と心疾患の老人を介護する者には,施設利用と訪問サービスの両者へのニーズが高い。もっとも数の多い脳血管障害は,ほぼ全体の平均に近い。第3章でみたように,ADLとIADLの低いのは,老人性痴呆,脳血管障害,パーキンソン病である。しかし,老人が自分で身の回りのことが出来ないことが直ちに家庭外サービスに対する需要を生み出すわけではない。前節で述べたように,老人の症状がコミュニケーションをとることが困難であるほど外部サービスへのニーズが高くなる。とりわけ老人性痴呆の場合には,訪問サービスよりも施設利用サービスに対する需要が高い。それに対して,同じくコミュニケーションをとることのむずかしい聴覚障害や視覚障害の場合には,訪問サービスへのニーズが高い。言いかえれば,了解困難な言動をとりがちな痴呆性老人をかかえる場合には,訪問サービスでは介護者の負担軽減につながらないということであろう。

表7-13 デイケア利用老人の病名別地域サービスへのニーズ(病名、ニーズともM.A.)

2.デイケア・センターへの要望

 デイケア・センターに対する要望を複数回答によってとらえたところ,毎日の利用36.6%,時間の延長28.9%,期間制限の廃止26.9%,家までの送迎26.1%,近所への設置21.2%,手続きの簡略化17.4%,プログラムの充実4.9%,費用を安く1.8%の順であった。その他の5.6%には,「利用回数の増加(ただし毎日ではない)」「送迎の増加」など利用条件に関するもの,医学的サービス,リハビリの充実,言語治療,痴呆性老人や盲老人向けのプログラム,年齢に合ったプログラムなどのサービス内容に関するもの,職員の増員や(職員不足にならないための)職員の待遇改善など職員に関するもの,「センターでの様子を知らせてほしい」「情報連絡カードによる家庭介護に関する指示」などセンターと家庭との連携に関するものなどがふくまれる。
 老人の性・年齢による差異は少ない。病名別にみると,表7-14にみられるように,時間の延長は,老人性痴呆(45.4%)と聴覚障害(46.5%)に多く,毎日の利用は糖尿病(46.2%),腰痛(42.6%),視覚障害(41.5%)に目立つ。近所への設置は骨粗鬆症(29.2%)に,プログラムの充実は骨折(18.8%)に,家までの送迎はパーキンソン病(41.4%)に,費用を安くはパーキンソン病(6.9%)と骨折(6.3%)に,期間制限の廃止は糖尿病(35.9%)に,手続きの簡略化は骨折(31.3%)に,他にくらべて多くみられる。現在のところ,老人のデイケアは,脳血管障害と老人性痴呆を主な対象としている。それ以外の病気を持つ老人のニーズに充分応じられないことが,こうした結果に反映しているのではないだろうか。

表7-14 デイケア利用老人の病名別デイケア・センターへの要望(病名、要望ともM.A.)

 介護者の性による差はみられないが,年齢によって幾分違った傾向がうかがわれる。表7-15にみられるように,介護と職業生活や家庭生活の両立を望む若い年齢層には,毎日の利用と近所への設置をあげる者が多い。それに対して,体力の落ちている,そして書類を書くことに不慣れな高齢の介護者には,家までの送迎や手続きの簡略化を望む者が多い。

表7-15 介護者の年齢別デイケア・センターへの要望(M.A.)

 デイケアに対しては,国と地方自治体とで1/2ずつ助成金が出ており,本人の負担は昼食代の500円程度である。こうした低額の負担であるにもかかわらず,少数ではあるが「費用を安く」という者が若い介護者にみられることは注目してよい。現在のところ,デイケアは普及の段階にあり,ほとんどが本人や家族の負担なしに実施されているが,今後利用者が増加すれば費用徴収の問題も生じてくるであろう。


第4節 デイケアのかかえる問題点と将来

 ここでは調査結果の分析から得られた知見を手がかりに,いくつかの問題点を指摘し,その将来をうらないたい。

1.訪問か通所か

 在宅ケアの3本柱は,老人家庭奉仕員派遣事業(ホームヘルパー),在宅老人短期保護事業(ショートステイ),在宅老人デイ・サービスである。その他在宅の要援護老人を対象とした国の施策には,老人日常生活用具給付等事業があるが,前3者にくらべれば,予算規模ははるかに小さい。デイ・サービスには,入浴,食事,洗濯など訪問サービスも選択的にとり入れることもできる。
 老人と介護者にとって,訪問と通所のいずれが望ましいかは,老人の条件,介護者の条件および老人と介護者の関係によって異なる。デイケアは老人の心身機能の維持回復に効果があるばかりでなく,心理社会的効果もかなり大きい。老人自身の心身の健康にとって,他の老人との交流はきわめて大きな意味を持つ。他方,介護者にとっては,一時的に老人と離れることが疲労の回復や自分自身の生活目標の追求を可能にする。とりわけ老人との間にコミュニケーションを成立させることのむずかしい老人性痴呆の場合には,デイケアやショートステイのような施設利用が,介護者の休養にはきわめて有効である。
 訪問サービスであれば,介護者はやはり手を出さざるを得ない。一方,通所の場合には,施設にまかせきりになるおそれがある。通所しつつ,介護教室で介護技術や老人の心身状態について学ぶことが望ましいが,今のところ出席者はきわめて少ない。今後とも,女性の雇用者比率は上昇するものと思われるので,通所サービスはもっと拡大すべきだろう。しかし,その際には,施設まかせにならないよう施設と家庭との連携を密にする方策が講じられなければならない。

2.利用期間

 利用期間は一応6ヶ月だが,そのまま継続する場合と,いったん切る場合とがある。デイケア・センターがきわめて少ない現状では,症状の軽い者や効果があまり期待できない者は断らざるをえないだろう。現在のところ,種々の症状を持つ老人が通所しているが,障害の程度によって機能分化をしたほうが,より効率的ではないだろうか。

3.利用回数

 デイケアへの要望として,毎日の利用をあげる介護者がもっとも多い。職業生活との両立をはかるには,保育所のように毎日通える託老所が望ましいだろう。しかし,老人にとって毎日が適当かどうかは,その症状による。毎日の通所が老人自身にとって負担になる場合もありうるだろう。介護者のなかには,毎日ではなくてよいから,もう少し回数をふやしてほしいという要望があった。「毎日施設まかせはいやだ。自分である程度は介護したい」という介護者がいることもたしかである。
 毎日通所を始めた施設では,施設利用の味をしめた家族が,入所希望に転ずるというケースもあるという。介護と職業生活・家庭生活の両立をはかるはずのデイケアが,施設入所の準備段階になるというのは皮肉である。しかし,入所の場合にもデイケアを経験した老人は入所後の適応が良いといわれる(注1)ので,デイケア経由の入所というコースもこれからは考えられるだろう。

4.利用時間

 利用時間は4~6時間に集中している。時間の延長を望む介護者も多いが,送迎時間を考えると,この程度になってしまい,フルタイムの職を持つ介護者にはふさわしくない時間帯をとることになる。デイケア・センターが中学校区に一つ設置されるようになれば,利用時間の延長も可能であろうが,今のところ時間延長はむずかしい。
 送迎については,センターの車を使っているが,欧米で行われているようなボランティアによる送迎サービスが取り入れられればいくらか問題解決に役立つだろう。しかし,車を用いたボランティアは,事故の際の責任問題がからむため,その実現はむずかしい。無償のボランティアが育ちにくいわが国では,このところ「買う福祉」への移行が認められる。事実,過疎に悩む農村地域では,金を払って医療機関への送迎を頼む老人もいるという。デイケア・センターの送迎も外部委託に頼るという日が遠からずおとずれるのではなかろうか。

5.サービス内容

 デイケアを利用する老人は,年齢も異なれば,その症状もさまざまだ。幼児については1歳ごとに違ったプログラムを準備するが,老人については一括プログラムというのは,考えてみればおかしなことである。職員の数からみて,これ以上プログラムの拡充を望むことはむずかしいだろうが,老人の特性にあったプログラムの実現を望む介護者の声にも耳をかたむけるべきだろう。
 言語の不自由な老人への言語治療を望む介護者がいるが,今のところST(言語治療士)を置いているデイケア・センターは皆無といってよいだろう。PT,OTでさえ充分に確保できないのに,STまではとうてい手がまわらないだろうが,今後はSTの配置も考えられてよい。もちろんその前にSTの養成に手をつけなければならないが。

6.特養併設デイケア・センターの長所と短所

 デイケア・センターが特別養護老人ホームに設置されるようになったのは,専門的な知識と経験を生かして,施設の社会化をはかるというねらいがあった。たしかに特養併設のセンターは,単独のセンターにくらべ設備もスタッフもととのっている。しかし,センターを併設することが職員の労働過重につながる恐れがある。国の基準では,基本事業の一日当りの利用人員はおおむね15人程度で,職員配置は生活指導員1人,寮母2人,運転手1人,看護婦1人となっている。しかし,重度の痴呆老人の場合には,これだけの職員数でとうてい対処しきれるものではない。いきおい,他の部門から移す必要が出てくる。デイケア併設による職員の労働過重が,入所老人へのサービス低下につながることもありうるだろう。
 また,前述のように特養併設であるために,デイケア利用から老人ホーム入所へという移行も起こりうる。老人ホームに対する偏見がとり除かれるのはプラスの効果かもしれないが,介護継続意志を失わせるのはマイナスの効果といってよいだろう。

7.機能分化の必要性

 第1章で述べたように欧米では,老人の障害の程度によってデイケアを分けているようだ。すなわち,障害の重い老人を対象とするセンターには,医師,看護婦,PT,OT,STなどを配置するが,昼食や交流のような心理社会的効果をねらいとし,ひとり暮らし老人や障害の軽い老人を対象とするセンターには,専門職員はごく少数で,もっぱらボランティアが活躍している。
 実際に,中学校区に一つのデイケア・センターをつくるとしたら,とうてい夫々に医師,看護婦,PT,OTなどを配置することは不可能である。低賃金のパート労働者,シルバー人材センター,ボランティア等に頼らざるをえない。障害の重い老人は,特別養護老人ホーム,病院,老人保健施設によるデイケアを利用し,障害の軽い老人は単独のデイケア・センターを利用するという機能分化を考えてもよいだろう。本調査において脳血管障害と老人性痴呆以外の老人をかかえる介護者にデイケア・センターのプログラムに対する要望が高いところをみると,それら老人のニーズに応じられない面があるように思われる。おそらくその中には,福祉施設よりも医療施設におけるサービスを必要としている者もいるだろう。医療施設におけるデイケアの少ない現状では無理もないことだろうが,医療施設がデイケアの分野に進出をすれば,今日福祉施設のデイケアが直面する問題や過重な負担がかなり解消されるのではなかろうか。

8.費用負担

 今のところデイケアは普及の段階にあるため,利用者の負担分はきわめて少ない。国や地方自治体の助成はあるが,多くの施設の持ち出しという状況にある。医療施設におけるデイケアに対しては,医療保険でカバーされる面もあるが,福祉施設におけるデイケアに保険は適用されない。同じようなサービスを受けながら,老人保険法と老人福祉法という異なる法律の適用を受けるために生ずる矛盾を解決する必要があるだろう。中学校区に一つのデイケア・センター,毎日の通所の実現,送迎の外部委託ということになれば,利用者の費用負担の問題が出てくるだろう。アメリカのデイケア・センターの運営には民間の寄附がかなりの比重を占める(注2)といわれる。交際費には税金をかけないが,寄附には課税するというわが国の奇妙な税法の改正がないかぎり,やがては利用者の財布が当てにされることになる。費用負担については,利用者の負担能力ばかりでなく,利用意欲を妨げたり,家族の人間関係を悪化させないための配慮が欠かせないことは言うまでもない。

(注1)小林正知「在宅痴呆老人の地域ケアに関する研究と実践」日本生命財団・老人福祉助成レポートNo.41989年。

(注2)第21回比較家族研究会(1989年12月20日)におけるルース・キャンベル(ミシガン大学附属ターナー老年医学診療所M.S.W)の報告。


要約

 ここでは,第2章で示した調査の枠組にそって,調査結果の要約を試みる。したがって,必ずしも各章ごとのまとめではないことをあらかじめ断っておきたい。

1.デイケア利用老人の属性

(1)分析対象となった老人391名中,男性は45.5%,女性は54.5%であった。平均年齢は男性73.65歳,女性77.87歳。有配偶率は男性83.2%,女性29.6%。居住形態は,ひとり暮らし2.3%,夫婦のみ21.0%,既婚子との同居56.8%,未婚子との同居15.9%である。
(2)平均疾患数は1.81個。男性の約2/3が脳血管障害だが,女性では約1/3である。男性にくらべ女性には,腰痛,老人性痴呆,骨折,骨粗鬆症の比率が高い。
(3)ADL(日常生活動作能力)の自立率は,食事94.6%,床の出入り79.8%,歩行72.4%,着替え71.9%,トイレの失敗63.9%,身繕い62.9%,入浴52.2%の順になっている。IADL(手段的日常生活動作能力)の自立率は,服薬57.5%,電話48.8%,預貯金の管理33.5%,買い物30.2%,遠方への外出24.3%,食事の用意22.8%,家事20.2%の順である。
(4)ADL,IADLとも女性のほうが動作能力が高い。脳血管障害,老人性痴呆,パーキンソン病の者のADL,IADLは低い。加齢に伴う能力の低下は男女ともに認められなかった。若い年齢層に脳血管障害の多いことが,年齢と動作能力との関連を相殺していることが明らかである。老人の性格が依存的消極的であり協調性に欠ける場合,そして介護者の介護方針が「先まわり」型である場合には,ADL,IADLの自立度が低下する傾向が認められた。

2.介護者の属性

(1)介護者は男性15.3%,女性81.8%で圧倒的に女性が多い。老人との続柄をみると,男性介護者では,「夫が妻」58.3%,「息子が母」33.3%,「息子が父」5.0%である。女性介護者では,「妻が夫」38.1%,「娘が母」23.8%,「嫁が夫の母」22.5%,「嫁が夫の父」7.5%,「娘が父」5.6%である。その他,きょうだい同士,「嫁が祖母」「母が娘」という組み合わせもあった。
(2)介護者の平均年齢は,男性63.33歳,女性54.92歳。妻を介護している夫の平均年齢は73.21歳,夫を介護している妻は66.56歳,親を介護している娘は48.10歳,親を介護している息子は49.23歳,夫の親を介護している嫁は46.94歳である。
(3)介護者の77.5%は「健康」で,「病弱」は13.8%だが,女性では高齢の者ほど病弱の比率が高まり,70歳以上では1/3強にのぼる。
(4)介護者の95.4%が老人と同居しており,90.3%が「台所も一緒の同居」である。同居期間は1年未満2.3%,1~3年6.1%,3~5年6.6%,5~10年10.5%,10~15年7.2%,15~20年6.4%,20~30年13.0%,30年以上39.4%である。同居理由は,「結婚後ずっと同居」52.7%,「介護のため途中同居」17.9%,「介護以外の理由で途中同居」11.8%,「生まれた時からずっと同居」10.2%である。
(5)介護期間は6ヵ月未満3.6%,6ヵ月~1年未満4.9%,1~3年未満24.8%,3~5年未満21.0%,5~10年未満22.8%,10年以上16.4%である。男性老人にくらべて,女性老人の介護期間が長い。とくに女性が女性を介護している場合に長期化する傾向がみとめられる。同居の介護協力者は,「あり」が17.1%,その内訳は,無回答が4割を占めるが,男性介護者では妻41.7%がもっとも多く,女性介護者では夫17.5%娘13.4%,息子10.3%,嫁9.3%となっている。別居の介護協力者は「あり」が47.1%(複数回答)で,別居の娘14.3%,別居の息子10.5%,別居の嫁5.9%別居の孫0.5%,近隣・友人5.4%,ヘルパー9.2%,家政婦5.4%,その他15.6%である。その他の大部分は別居の兄弟姉妹(義理もふくむ)だが,甥,姪,叔母もわずかながらみられる。
(6)介護者の86.4%は有配偶である。6歳以下の子どもを持つ者は4.6%。デイケア利用老人以外に家族内に病弱者や要介護者のいる者は5人に1人である。そのうち2/3が介護者本人であり,介護者自身が健康上のトラブルをかかえていることを物語る。

3.介護者の就業状況

(1)男性介護者の56.7%,女性介護者の36.6%が有職である。男性では雇用者の比率が高いが,女性では自宅で仕事をしている者の比率が高い。有職者157人(40.2%)の就業形態は,自営業者19.1%,家族従業者9.6%,自由業7.6%,内職3.8%,経営・管理職7.6%,常用雇用者25.5%,臨時・パート22.9%である。
(2)「自営」(家族従業,自由業,内職を含む)の比率は,比較的年齢の高い有配偶女性に高く,「妻が夫」「嫁が配偶者の親」を介護している場合に高い。「自営」の1/3は10時間以上働いている。
(3)「常雇」(経営,管理職を含む)の比率は,無配偶の男性に高く,とりわけ「息子が本人の親」を介護している場合に高い。就業時間は8~10時間が半数余りを占めるが,10時間以上も1/3強にのぼる。
(4)「パート」の比率は,配偶関係にかかわりなく女性に高い。就業時間は8~10時間が4割近くを占めるが,3割は6時間未満である。
(5)男性の43.3%,女性の63.1%が無職であり,男女とも年齢が高まるにつれて無職者が増す。無職者の比率は,配偶者介護と嫁介護に高い。無職者232人(59.3%)のうち,「仕事はしたくない」は58.2%,「パートで勤めたい」15.5%,「自分(または家)で仕事をしたい」13.8%となっている。「仕事はしたくない」の比率は女性よりも男性に高く,女性では高齢者に多い。
(6)無職者で就業を希望している者の就業理由は,「家計の足しにするため」20.8%,「将来に備えて貯蓄するため」18.1%,「自分の能力,技能,資格を生かすため」15.3%,「視野を広めたり,友人を得るため」15.3%,「気分転換のため」13.9%である。
(7)老人を介護するようになる前に就業していた人は59.1%,していなかった人は37.1%。男性では78.3%が,女性では55.0%が就業していた。
(8)就業していた者のうち,老人を介護するようになってから,「仕事をやめた」は33.8%,「休暇をとった(休職した)」は24.7%,「労働時間の短縮」は9.1%,「仕事(勤務先)を変えた」は8.7%,「労働時間帯の変更」は6.5%,「仕事内容の変更」は4.3%,「転勤上の配慮」は0.9%である。「仕事をやめた」と「仕事を変えた」は「臨時雇い・パート」35.4%,「常用雇用者」33.3%で,勤めに出ている者が多くを占める。退職・転職の比率は配偶者介護に高く,親介護に低いが,配偶者の親を介護する場合には高くなっている。

4.デイケアの利用状況

(1)利用時間は1~3年が41.2%でトップを占め,ついで3~5年が21.5%となっている。利用回数は週2回が61.6%でもっとも多く,ついで1回が19.9%,3回が8.7%,4回が1.8%,5回が5.4%,6回が1.3%となっている。利用時間は5~6時間が35.0%でもっとも多く,6~7時間の25.8%がそれについでいる。
(2)利用しているサービスは食事の74.4%が第1位であり,ついでレクリエーション67.5%,送迎サービス64.5%,リハビリ61.1%,介助浴11.5%,介護者教育8.2%,特浴3.8%の順になっている。
(3)介護者の側からみた老人のデイケア利用理由は,「リハビリのため」54.0%,「友人・仲間を得るため」25.1%,「気晴しのため」15.9%,「食事サービスがあるから」1.0%である。脳血管障害の多い比較的若い年齢層では「リハビリのため」が多くあげられるのに対して,老人性痴呆,腰痛,骨折,骨粗鬆症の多い高齢女性では「気晴しのため」や「友人・仲間を得るため」があげられている。
(4)介護者のあげるデイケア利用理由は,「気分転換のため」29.9%,「仕事のため」14.8%,「休養のため」12.5%,「家事のため」7.4%である。老人性痴呆,視覚障害,聴覚障害などコミュニケーションを成立させることの難しい老人をかかえる者ほどその比率が高い。言いかえれば,こうした老人をかかえる介護者の負担が大きく,休養や気分転換を必要としていることになる。
(5)デイケアが老人に与える効果は,「明るくなった」51.2%,「友人ができた」44.2%,「リハビリの効果があがった」39.6%,「意欲的になった」27.9%,「自立度が向上した」18.2%であり,「変わらない」は11.5%であった。夫が妻を介護している場合には,デイケアの効果が多数あげられる。また親子や義理の親子といった異世代間介護では,「友人」「明るくなった」のような心理的社会的効果があげられる傾向にある。
(6)デイケア・センターに対する希望は,毎日の利用36.6%,時間の延長28.9%,期間制限の廃止26.9%,家までの送迎26.1%,近所への設置21.2%,手続きの簡略化17.4%,プログラムの充実4.9%,費用を安く1.8%の順であった。その他の5.6%には,老人の年齢や症状にあったプログラムを望む者が目立つ。若い介護者には毎日の利用と近所への設置を望む者が多く,高齢の介護者には家までの送迎と手続きの簡略化を望む者が多い。

5.介護者の意識

(1)心身の疲労について尋ねたところ,「いらいらする」47.3%,「腰がいたい」38.9%,「肩がこる」37.9%,「ねむい」28.1%,「全身がだるい」24.8%,「目がつかれる」21.2%,「頭がおもい」20.7%,「考えがまとまらない」17.6%,「気がちる」12.8%の順であった。
(2)身体的疲労(頭がおもい,全身がだるい,ねむい,目がつかれる,肩がこる,腰がいたい)は高齢の介護者が多い配偶者介護に,精神的疲労(いらいらする,考えがまとまらない,気がちる,根気がなくなる)は異世代間介護-とりわけ嫁が夫の親を介護する場合-に多くみられる。また,「介護のために同居」の者に精神的疲労が目立つ。介護期間別にみると,身体的疲労,精神的疲労とも3~5年がピークであり,この期間を過ぎると症状の重い者は死亡するか,施設入所するのか,あるいは介護者が介護慣れするためか疲労の訴えが減少する。
(3)疲労を尋ねる10項目のうち,0~1項目をあげた場合を「疲労度」低,2~3項目を中,4~10項目を高とした。その比率は低29.2%,中43.2%,高27.6%である。同居の介護協力者無しよりも有りの者に,介護期間10年以上に比べ5年未満に,有職よりも無職の者に疲労度の高い者が多い。老人の症状,介護者の年齢,介護に対する慣れなどがこうした結果を生み出しているようだ。有職者の中では,「自営」「パート」にくらべ,「常雇」に疲労度の低い者が多い。これには「常雇」に比較的年齢が若く健康な者が多いことが関連しているが,他方,家庭外でフルタイムの職を持つことが,介護による精神的ストレスの解消につながるとみることもできよう。
(4)介護を続けていくうえでの「支え」となるものは,「公的サービスの利用」49.4%,「義務感」29.2%,「家族の協力」27.9%,「配偶者の理解」20.7%,「打ちこめる趣味」19.9%,「愛情」18.2%の順であった。介護者である夫は,公的サービス,義務感に続いて愛情をあげているが,妻は公的サービス,家族の協力,義務感であり,愛情をあげる者の比率は夫の半分である。息子では公的サービス,義務感,家族の協力の順だが,娘では公的サービス,配偶者の理解,愛情の順である。それに対して嫁では,公的サービス,配偶者の理解,趣味の順になっている。自分の親を介護するにせよ,夫の親を介護するにせよ,女性にとっては配偶者の理解が欠かせないようだ。
(5)介護の方針として「できるだけ老人自身にさせる」が84.7%に対して,「先まわりして世話をする」は9.7%である。後者は配偶者介護と親介護にみられるが,配偶者の親を介護する場合には皆無である。
(6)介護継続意志についてみると,「世話はたいへんだが続けるしかない」の消極型が48.3%,「世話をしたいので続ける」の積極型が32.5%,「世話をしたいが難しい」10.0%,「世話がたいへんなので迷っている」1.5%の順になっている。介護者である夫では積極型がトップだが,介護者である妻では消極型がもっとも多い。息子,娘,嫁のいずれもが消極型だが,とりわけ嫁にこの比率が高い。
 介護期間別にみると,どの期間でも消極型がもっとも多いが,短い者に「難しい」「迷っている」が目立つ。また,介護期間が長くなるほど積極型が増す傾向にある。老人の性格が依存的で協調性に欠ける場合には積極型がより少なくなる。

6.老人介護と職業の両立

(1)就業終了時間は,午後5時台27.4%,午後6時台16.0%,午後7時台14.0%だが,午後8時以降が16.6%を占める。したがって大部分は,デイケア終了までに間に合わないことになる。しかし,デイケア利用理由として,男性有職者の26.5%,女性有職者の34.2%が「仕事のため」をあげているところをみると,就業の継続にデイケアが役立っていることはたしかである。
(2)過去1年間に介護のためにとった休みは「なし」が51.0%,1週間未満が16.6%,1~2週間が9.6%である。「なし」は「自営」58.7%,「常雇」46.2%,「パート」41.7%である。
(3)老人介護に関する職場の制度・配慮のあるものについてみると,「自分の都合のよい時間帯に勤務時間を選べる」24.8%,「同一企業内での短時間勤務への移行」9.6%,「特別の休み」6.4%,「自宅で勤め先の仕事ができる」5.7%,「仕事内容の変更」3.8%,「相談窓口,情報提供」3.2%,「介護手当の支給あるいは貸付」2.5%,「残業や深夜労働の規制」1.9%となっている。このうち利用経験の比較的多いものは,「勤務時間の選択」と「短時間勤務への移行」だが,いずれも8.3%にすぎない。
(4)老人介護と職業を両立させるために必要な職場のサービス・制度としてもっとも多くあげられたのは,「勤務時間の選択」の53.2%であり,ついで,「特別の休み」37.9%,「自宅での仕事」28.4%,「介護手当」19.7%,「残業の規制」16.6%,「相談窓口」12.5%,「勤務上の配慮」12.3%,「短時間勤務への移行」12.0%,「再雇用」11.8%,「仕事内容の変更」6.9%の順になっている。
(5)老人介護と職業との両立のために必要な地域サービスは,「デイケア・センター」が59.3%でもっとも多く,ついで「希望する時間に来てくれるホームヘルパー,家政婦」48.6%,「往診してくれる医者」41.9%,「ショートステイ」36.6%,「入浴サービス」20.2%,「訪問看護,訪問看護指導」14.6%,「介護についての相談サービス」13.0%,「地域の人からの援助」9.0%,「家族に対する介護教室,研修」5.6%の順になっている。
(6)デイケア・センターに対するニーズが高いのは,老人のADLが低い場合,老人性痴呆・骨折の場合である。また,現在無職で「勤めたい」を希望している者にニーズが高い。
(7)「ヘルパー」へのニーズは別居者に高いが,配偶者の親を介護している場合には同居期間の短い者に高くなっている。ニーズが高いのは「常雇」であり,「パート」「自営」がそれに続く。
「妻が夫」を介護している場合に,ヘルパーへのニーズは低い。
(8)「往診してくれる医者」へのニーズは,聴覚障害,視覚障害,心疾患のような比較的ADL・IADLの高い老人をかかえる介護者に高い。また,介護者本人が病弱・要介護の場合に,医者へのニーズが高い。
(9)「ショートステイ」に対するニーズは,「娘が親」,「嫁が配偶者の親」を介護している場合,および「介護のための途中同居」に高い。痴呆性老人をかかえる者,現在無職で「勤めたい」を要望している者に「ショートステイ」へのニーズが高い。
(10)入浴サービスに対するニーズは,ADL・IADLの低い者,介護期間の長い者に高くなっている。

 以上みてきたように,デイケア利用者家族のデイケアに対する評価と期待はかなり高い。今後,女性の雇用者化の進行はいっそう進むであろうし,就業年数も長期化するであろう。したがって,働きながら老親の介護をする者あるいはそうしたいと望む者は,さらに増加するものと思われる。老人介護と職業生活との両立を可能にするためには,地域社会におけるサービスを充実させる一方,職場における制度を確立しなければならない。女性の職場進出に伴って,保育所の増設や育児休業・再雇用制度がとり入れられたように,デイケア・センターの増設や介護休暇・フレックスタイム制度がとり入れられることを期待したい。


付録,調査票

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