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(著者抄録)
コース別人事制度の導入理由は均等法対応のケースと大卒女性や在籍女性従業員の活用のケースとに分かれる。後者のケースでは,かなり広範囲な部門で活用されている。しかし,新卒大卒女性活用のケースでは,勤めだしてからライフコースに対する考え方を変えるという欠点があり,コース転換制度による活用のケースでは,一般職の仕事と総合職の仕事のつながりの面で弱点をもつ。こういった欠点を克服するには,コース別人事制度を発展的に解消し1本の職能資格制度に戻すのがよい。そのためには,OAの推進だけでなく,一般職の代替としてのパートタイマーを本格的に活用すべきである。

(論文目次)
   I はじめに
  II コース別人事管理の定義と普及状況
 III コース別人事管理の意義
    1 コース別人事制度の導入理由
    2 女性総合職の採用
    3 総合職の仕事
    4 コース転換制度
  IV コース別人事管理の限界
    1 新卒女性の活用
    2 コース転換制度の機能
   V 職場タイプ・女性活用段階からの位置づけと展望
    1 コース別人事管理の発展的解消
    2 パートタイマーによる一般職の代替

I はじめに

 均等法施行後,10年の時がすぎ,機会均等調停委員会による調停案の提示などを契機として,コース別人事管理が,ふたたび注目を浴びている。一方では,平成不況を背景に大卒女性の就職難がいわれ,その原因としてもコース別人事制度が論じられている。また,大手商社による事務職(いわゆる一般職)の採用廃止といった展開もあり,今後,コース別人事管理が,どのような展開をしていくかについて,女性だけでなく企業の実務担当者も,おおいなる関心をもっている。
 本論文は,コース別人事制度に関する既存の調査や筆者の調査などを用い,コース別人事管理の意義と問題点を明らかにし,今後の展望を筆者なりに位置づけるものである。



II コース別人事管理の定義と普及状況

 コース別人事制度とは,性別をこえて「社員の意思と能力に対応した処遇」をすることを目的とするもので,たとえば,「企画的業務や定型的業務などの業務内容や,転居を伴う転勤の有無等によってコースを設定し,コースごとに異なる雇用管理を行うシステム」といった定義がなされている。この論文で論じるのは,転勤の有無をのぞいた「業務コース制」としてのコース別人事管理についてである(注1)。
 労働省「女子雇用管理基本調査」により,コース別人事制度の導入割合をみると,1992年で企業全体では,5%にも満たない普及状況である。しかし,5000人以上の企業では半分ほどの企業が,金融保険業が2割以上導入している。大企業に多く,そこを中心とした議論が多いのは当然としても,5000人以上の企業でも半分がコース別人事制度を導入していないことにも注意すべきである。また,どの調査をみても,1986年の均等法施行以後,導入した企業が多い。
 なお上場企業を調査した労働省「主要企業における募集・採用(内定)状況調査」(1995)によると,回答のあった1122社のうちコース別人事制度のある企業は34.0%と3分の1である。コース別人事制度のある企業では,平成7年度,8年度ともに,総合職はほとんど採用(内定)しているが,一般職を採用しているのは平成7年度59.5%,平成8年度57.6%と相対的に少なく,かつ減少していることがわかる。のちに見るように,女性総合職の採用(内定)は増加しているが,一般職が減少しているため,女性全体の採用が減少しているのであろう。



III コース別人事管理の意義

1 コース別人事制度の導入理由

 「業務コース制」としてのコース別人事制度については,大きく分けて二つの見方がある。女性排除の合法的差別の装置という見方(見解A)と,女性活用を本格的におこなうための制度とみる見方(見解B)である。数多くの論者が,見解Aをとるが,効率の側面を強調する見解Bについてみよう。
 見解Bの論理は,技能形成・人材形成の観点からのもので,企業組織の効率からすると,長期的な雇用が要請される(注2)。しかし,女性の場合,何人かの女性は長く勤めつづけるかもしれないが,多くの女性は結婚・出産で退職するので,企業は採用をひかえるか,採用しても,技能の伸びない仕事を予定した処遇を行う。統計的差別の世界がここにあるが,コース別人事制度は,この統計的差別を超えようとする試みであると評価される。つまり,採用時点で女性本人に総合職か一般職かを選択させ,長く勤める意思のある女性を男性と同等の総合職として採用する。
 この二つの見方のどちらが真実に近いかをみるには,もっとも原始的な方法だが,コース別人事制度を導入している企業に,直接,導入の理由を尋ねればよい。コース別人事制度の導入理由を調べている調査が,五つほどある(注3)。
 五つの調査は,調査対象や設問が異なるが,導入理由の結果は,おおむね同じである。どの調査も「均等法対応」が3~5割で,残り半分以上が「それ以外の理由」である。「それ以外の理由」は調査によって違うが,「意識多様化への対応」や「女性活用」などがある。おおざっぱにいえば,「均等法対応」に回答した企業は見解Aに近く,均等法対応に回答せず「それ以外の理由」に回答した企業が,見解Bに該当する企業だといえる。
 以下では,主として見解Bで導入されたコース別人事制度について論ずる。見解Bについても,詳しくみれば,異なる二つの意図がある。まず,新卒者の活用(B1)で,とくに大卒女性を念頭においている。もう一つは,在籍女性の活用(B2)を狙ったコース別人事制度である。これは,一般職女性,あるいはコース別人事制度はなくとも男女分業型職場(注4)で働いてきた女性を念頭においた活用である。彼女たちの,これまでの経験を生かすために,一般職から総合職へ転換して活用しよううというものである。

2 女性総合職の採用

 では,じっさいに,どの程度の総合職が採用されているのであろうか。
 IIで紹介した上場企業調査の労働省「主要企業における募集・採用(内定)状況調査」では,平成8年度内定者数は,男性1万4214人にたいし女性1295人で,総合職採用(内定)に占める女性の割合は8.3%である。前年度と比べると,女性が11.2%増で,男性が8.3%減であるため,女性割合は,前年度の7.0%よりも,むしろ増加している。準総合職も含めた総合職では,平成7年度9.7%,平成8年度10.0%になる,総合職の約1割が女性ということになるが,調査対象が上場企業のみであることと,平成8年度で3373人(前年度より15.8%減)採用内定の一般職のうち,どれだけが大卒女性であるかがわからないことが問題として残る。
 B1の観点(新卒者の活用)からすれば,われわれが知りたい数値は,大卒女性のなかでの総合職と一般職の割合になる。これがわかるものに二つの調査がある。一つは,日本労働研究機構の「大卒就職研究会」が1992-93年におこなった全国35大学の卒業生への郵送調査である(日本労働研究機構(1994)(1995))。もう一つは,東京近郊の六つの大学の女性卒業生を対象とした1993年の東京都立労働研究所の調査である(東京都立労働研究所(1994);以下,都労研調査と略称)。後者の都労研調査では,会社の制度のうえで区別がなくても,実質的に総合職と一般職の区別があるケースも総合職・一般職と回答するよう求めている。
 「大卒就職研究会」の調査から民間企業就職者だけをとると(図1),コース制のないところが半分強を占め,総合職と一般職の割合はほぼ同じで,準総合職も加えると総合職のほうがやや多い。特徴的なのは,業種による差が大きいことで,とくに金融保険業では一般職が総合職の2倍以上である。規模による差は,コース制の有無で大きいが,総合職と一般職の割合はほぼ同じになっている(注5)。

図1 コース別制度の有無および総合職・一般職の割合(I)

 一方,都労研調査の結果によると(図2),総合職が38.3%,一般職が40.5%とほぼ同じで,「実質的にも区別がない」とする者が21.2%である。ここでも総合職と一般職がほぼ同じ割合になっていることが注目される。大卒女性の労働市場では,総合職と一般職の人数はほぼ同じというのが実態と考えてよい。

図2 コース別制度の有無および総合職・一般職の割合(II)

 また都労研調査において,コース別制度もなく「実質的にも区別のない」男女同等型企業で勤める者も2割強いることが強調されてよい。とくに小売業では実質的にも男女差のない「区別なし」が47.9%もある。多くの百貨店・スーパーが,「業務コース制」の意味でのコース別人事制度を実質的にも敷いていないことがわかる(注6)。

3 総合職の仕事

 さて,実際に総合職はどのような職場で働いているのであろうか。21世紀職業財団が1993年におこない総合職女性744名の回答を得た調査がある。ここでの総合職の定義は,基幹的業務を担う者である(注7)。この調査では,一般職からの転換組が28.4%おり,B1だけでなく,B2として活用されている女性も少なからずいることを,まず確認しておきたい。
 総合職女性の職務内容を女性一般と比較してみよう(表1)。調査年次の近い1991年調査の「平成2年度女子雇用管理基本調査-女子労働者労働実態調査」(以下,「女子労働者調査」と略す)を利用して,女性全体と比較する。総合職調査が大企業中心であるため,女子労働者調査の最も大きい区分の事業所規模500人以上と比べる。総合職の職務は全体として散らばっているが,一般女性全体と比較すると,総務・経理と生産が少なく,営業,企画・調査,研究・開発が多い。とくに総合職の5人に1人が営業であることは注目されてよい。都労研調査でも総合職の約2割が営業である。全体として男性職場への進出がうかがえる。

表1 女子全体と女子総合職の職務の分布

 たんなる体裁だけの総合職でなく,多くの職場で本格的に総合職が活用されていることがわかる。

4 コース転換制度

 さきのB2の観点からすると,一般職から総合職への転換制度が機能するかどうかがポイントとなる。東京都の調査でも,コース別人事制度を導入している企業の65.0%にコース転換制度がある。コース転換制度のもとでキャリア形成がなされると,転換型キャリアが実際にうまくいくかどうかが鍵となる。
 この転換型キャリア(注8)は,現在の日本の職場に多くみられるものである。職場における女性の人材育成のされ方を尋ねた関西生産性本部の個人調査によると(表2),女性で34.4%,男性で37.5%が,この転換型キャリア・タイプに回答している。これは女性が補助業務のままの男女分業型の割合に匹敵するか上回る数値である(注9)。

表2 職場類型の割合



IV コース別人事管理の限界

1 新卒女性の活用

 新卒採用の女性を活用するためのコース別人事制度(見解B1)のポイントは,採用時点で女性本人に総合職か一般職かを選択させるところにある。ゆえに女性の採用時点におけるライフコースに対する考え方がかなり確固としたものであることが必要とされる。だから女性が採用時点でもっていたライフコース観が,どのていど変化するかが,コース別人事制度の将来を占うであろう。
 筆者は,「女子労働者調査」を用いて,女性のライフコース観がよく変わることを示したことがある(脇坂(1993))。この調査は,働いている女性に対して,入社時あるいは初職時と現在のライフコース観を尋ねているので,それを利用したものである。しかし,就業者のみのサンプルであるため,セレクション・バイアスの可能性がある。それを緩和する試みも行ったが(脇坂(1994)),完全には除去されておらず,「女性自身のライフコース観がよく変わる」という筆者の結論は完全に証明されていなかった。
 ところが,「都労研調査」や「大卒就職研究会」調査は,卒業生をサンプルとしているため,このバイアスが解消されている。「大卒就職研究会」調査の分析では,卒業時におけるライフコース観と実際の就業行動が異なることを示唆している。卒業時に就業継続意識をもっていても専業主婦となったり,その逆のケースが少なからずみられる。
 都労研調査の結果を要約すると,総合職に,長期勤続希望で現在もそう思っている「キャリア一貫型」が多く,一般職に,短期勤続希望で現在,就業していない「夢実現型」や現在も短期勤続希望の「腰掛け型」が多いが,注目すべきは,それらの割合が圧倒的に高いわけではないことである。
 初職企業の定着率は,総合職が他のタイプよりもいちおう高い。しかし,企業の本来の意図として採用した「キャリア一貫型」は4割で,これも他のタイプよりも多いが,コース別人事制度が機能することを保証するほど多い割合とはいえない。また年齢・勤続が増えるにつれ,ライフコース観が変わっている。セレクション・バイアスのないデータにおいても,かなりの女性がライフコース観を変えることがわかった。これらの事実から判断すると,実際のコース別人事制度がうまく機能しているとは思えない(注10)。

2 コース転換制度の機能

 一般職から総合職への転換制度は,次のような機能を持つ。女性総合職をできるだけ少なく採用し,一般職女性を多く採用し,一般職のうち有能な女性を見極めたのち総合職へ転換して活用すれば,女性総合職の離職による損失を最小限にすることができる。この転換型キャリアが実際に機能しているのであろうか。
 コース別人事制度の導入の多い総合商社における具体的な事例をみてみよう。コース転換をおこない,転換型キャリアを歩んでいる総合商社3社の女性5名に対して,1992年に面接を行った。面接した5名のうち,必ずしも転換がうまくいっていないCについて詳しくみよう(注11)。

(1) ある女性の事例

 Cは私立大学教育学部を卒業,1983年入社である。海外駐在までは考えていなかったが,商社なら海外の空気に触れられるのではという気持ちで商社を選んだ。
 配属は経理部で,海外の現地法人や支店との連結決算を行う部署である。総合職は,営業部門への確認や判断業務を必要とする伝票を扱うが,Cは一般職として判断業務を伴わない一般経費等の伝票のチェックを主たる仕事としていた。
 均等法が施行されたころから総合職への転換を意識した。転換試験制度が同時期に発足し,同期入社者の中にも合格者がいたためである。2度目の受験で合格する。試験は論文,面接,筆記によって行われた。職掌が変われば何がしたいかといった将来展望についての論文と,筆記試験は国語,数学,一般常識,業務知識,英語が行われた。業務知識の試験は,総合職と一般職で研修制度の内容が異なるため,総合職と一般職のギャッブを埋める努力をしているかどうかが試される内容である。
 転換後,プロジェクト金融部に配属される。プロジェクト金融部は,営業部門のファイナンス面でのサポートを行うところである。他商社との競争上優位に立つには,制度金融だけでなく独自のファイナンスが必要であるため,3年前に設置されたものである。Cのいる第二室は米州,欧州,アフリカ,中近東を担当する。第二室の人員構成は,総合職6名,一般職1名である。1名の一般職は女性で,ワープロ,コピー,お茶くみ,銀行等への書類提出など総合職のアンスタント業務を行う。
 Cは転換後1年間は総合職のアシスタントとして,事務職の仕事をしながら,仕事の範囲を徐々に広げ,業務知識を増やしていった。一般職の職務は,経理部では総合職の職務と峻別されていたが,第二室では総合職のアシストで職務範囲が不明瞭なため,職務を徐々に広げることが可能であった。転換後2年目から,地域を担当し,中近東を半年間,その後北米,現在は中南米をメインに担当している。
 現在の仕事の流れは,営業から案件が持ち込まれ,現金決済ができない場合には,制度金融で対応できるものはその長期資金で,制度金融を利用できない案件は金融面での工夫をする。Cは,現在20~30件の案件を抱えている。

(2) コース転換のポイント

 このCのケースは,一般職時代に男性の仕事を取り込むような経験をしていない。経理部での仕事は海外拠点の一般経費などのチェックだけで,プロジェクト金融につながるようなものではない。だからCの場合は,転換後1年間は,総合職のアシスタントという一般職の仕事をしながら,総合職の仕事を覚えた。このようなことが可能であったのは,転換後のプロジェクト金融部では,総合職と一般職の職務範囲が不明瞭であったためである。一般職時代の経理部では,はっきり分かれていたため,経理の総合職の仕事に転換した場合は,もっと困難が予想されたであろう。
 コース別人事制度のもとでの,転換型キャリアの可能性,具体的にはスムーズな職掌転換のポイントは,「当該部署において,有能な一般職に総合職の仕事の一部を任せているかどうか」にある。任せていないケースは,非常に困難な転換といえる。任せているケースでも,もともと一般職と総合職の仕事分担が明瞭でない場合では,一般職時代の有能な女性の不満が大きいから,早い時期の転換が必要とされる。仕事分担が明瞭でかつ任せている場合は,スムーズに転換できるが,これは,もともとコース別人事制度の狙いとするものではない。見解Bの本来の狙いから大きくそれており,労働市場における需要側優位の状態に立脚するもので,供給制約時代には機能しないであろう。



V 職場タイプ・女性活用段階からの位置づけと展望

1 コース別人事管理の発展的解消

 一般に,職場あるいは企業における女性の活用段階をみるとつぎのようになる。まず男性しかいない段階から,女性が主に男性の補助業務をする段階をへて,そしてすべての職務に女性を配置する段階になると,女性のなかを二つに分けたいというコース別人事制度への要求が出てくると考えられる。もちろん業種・規模によっては,それぞれの段階を飛び越える企業も存在する。
 補助業務が中心の男女分業型の職場で,いきなりコース別人事制度を導入したところが,IIIでみた見解Aの「均等法対応」の企業であろう。その次の段階でコース別人事制度を導入した企業は,見解BのB2タイプ,すなわち在籍女性のコース転換により活用をはかろうとしている。そして,すべての職務に女性を配置した段階でコース別人事制度を導入した企業は,見解B,すなわち本格的な女性活用で,B2だけでなく,定着リスクをかえりみず積極的に新卒女性を総合職で採用するB1タイプである。
 IVでも触れたように,大卒女性の個人調査では,かなりの女性が,仕事をはじめてからライフコース観を変えることがわかった。実際のコース別人事制度がうまく機能しない原因はここにあり,コース別人事制度が永続的に機能しないと考える最大の理由である。ゆえに見解Bの意味でのコース別人事制度も,早晩,解消されると思われる。では,コース別人事制度のつぎにくるのは,何であろうか。いうまでもなく,男女まったく同じの男女同等型の企業で,処遇制度も1本になる。
 コース別人事制度を採用していない企業すべてが,この最終段階に到達しているのではないことに注意しておきたい。コース制をとらず,たんに1本の制度で,女性を補助業務に閉じこめている企業は多い。そのことは,IIIでみたふたつの個人調査の結果の違い(図1と図2)をみれば,よくわかる。ほぼ同じような調査対象だが,「大卒就職研究会」調査のように,たんにコース別人事制度の有無を尋ねると,ないところが57%になるが,実質的にコース制か否かを尋ねた「都労研調査」では,ないところが21%と極端に少なくなる。このことは,コース別人事制度を敷いてはいないが,男女分業型職場である企業が少なからずあることを示唆している。

図1 コース別制度の有無および総合職・一般職の割合(I)

図2 コース別制度の有無および総合職・一般職の割合(II)

 以上が,筆者の展望だが,こういった段階を順にふまずに,とびこえて先の段階,たとえば男女同等型になる企業も存在するが,その最大の要因は,労働力不足にあると思われる(注12)。スーパーの職場において,早くから男女同等型職場になったこと,労働力不足にたえず直面していたこと,そして後述の議論と関係するが,パートタイマーが多いことなど,がこの展望にもっとも合う事実である(注13)。

2 パートタイマーによる一般職の代替

 IIやIIIの2で紹介した上場企業調査の労働省「主要企業における募集・採用(内定)状況調査」によると,コース別人事制度のある上場企業では,平成8年度で一般職の採用を4割以上の企業が行わず,採用内定者数が前年より15.8%も減少している。コース別人事制度のある企業にかぎらないが,大卒女性の採用減少割合が男性の減少割合より大きい企業の理由をみると,事務系でもっとも多い回答は,31.9%の「女性の定着率が高まったので,退職補充すべき人数が減った」である。女性のみを採用している企業で,採用内定者が減少した理由においても,事務系でもっとも多い回答は同じ項目で,52.4%である。これらは,景気循環の一局面の現象ではなく構造的な現象で,オフィス・オートメーション(OA)の進展により,機械が一般職女性の仕事を肩代わりしている影響であろう。ほんとうに一般職の仕事が企業にとって欠かせなければ,新人を配置せず勤続の長い女性のみに任せることはしないであろう。
 男女分業型職場において一般職女性がおこなっている仕事,すなわち,わりと簡単な仕事は,OAなどでかなり減少するであろう。しかし,どんなにOAが進んでも総合職の補助を行う仕事は必ず残る。それを行うのは「パートタイマー」だと思われる。
 一般職の仕事の代替の候補者が,派遣社員でない理由のポイントは,仕事の引き継ぎにある。今後の人材派遣法の改正いかんにもよるが,派遣期間が6ヵ月とか1年という制約,せいぜい3年の継続のもとでは,新しい派遣社員に対して,そのたびに仕事のポイントを教える必要がある。また派遣社員のコストは高くならざるをえず,一般職の仕事の代替には向いていない。ゆえに派遣社員がおこなう仕事は,ごく短期の仕事に限られてこよう。企業として派遣社員が有用なのは,コストが少ないからでなく,短期で雇い止めができる点にある。

(1) 基幹型パートの育成

 一般職代替の候補者は,量的な面から考えてもパートタイマーであろう。パートタイマーの議論をする場合は,仕事内容から分けた概念が必要である。この点において先駆的な業績は中村恵氏の研究で,彼は,パートタイマーの仕事内容,とくに正社員との分業関係に着目した調査から「補完型パート」と「基幹型パート」に分けた(注14)。一般職の仕事をこなす候補者は,量的な側面から考えて,この「補完型パート」を中心とするパートタイマーだと思われる。
 しかし,いくら主婦の補完型パートでも,いつまでも補助的な仕事だけでは面白くないであろう。スキルが向上すれば,より高度な仕事をやってみたい。時間的な制約から仕事をしたくない者の処遇が大切になってこよう。それを,現在の状況でいう「補完型パート」から「基幹型パート」に移れる(昇格)ようにする。現在の基幹型パートも,最初は正社員や勤続の長い基幹型パートの補助の仕事をする補完型パートであった。それから仕事を覚えて,基幹型パートになっていく。このパートタイマーのキャリア形成を大切にすれば,じゅうぶんパートタイマーが一般職の代替になりうるだろう。
 以上は,筆者のビジョンを含んだ展望である。基幹型パートが現在,パートタイマーのなかで,どのくらい存在するのであろうか。量的推計は困難であるが,ひじょうにラフな推計では,現在どんなに控えめにみてもパートタイマーの2割は基幹型パートである(注15)。

(2) 大企業における今後の処遇

 筆者のビジョンをもう少し展開すると,より基幹型パートを活用するには,「基幹型パート」になったときに,まったくフルタイムと同一の処遇体系にするとよい。「パートタイマー」という言葉から,正社員と異なるというニュアンスが抜けなければ,中村圭介氏の提言するように「ショートタイマー」と呼んでもよい(注16)。「基幹型パート」としての「ショートタイマー」は,フルタイマーの低いレベルの仕事を十分こなす。「ショートタイマー」は人件費削減のためのものでなく,あくまで時間の融通性をめざすものである。そのため,1日の労働時間の短さでも様々な勤務形態のメニューを用意すべきであるし,1週,1ヵ月,1年の労働日数においても様々なメニューを用意すれば,本格的なパート活用ができよう。
 基幹型パート=「ショートタイマー」が時間の融通性の側面がポイントであるのに対して,補完型パートである「パートタイマー」(後述の図3のP1,P2)は,人件費削減の側面が大きく,単純で補助的な仕事を行うものである。
 いうまでもなく,現在の日本のパートタイマーは,「補完型パート」であれ「基幹型パート」であれ,正社員とは異なる賃金体系のもとで処遇されている。これから,「基幹型パート」(ショートタイマー)の処遇を,フルタイム総合職と同一体系にしていけば,補完型パートそのものの仕事意欲もあがっていこう。全体としてパートタイマーのスキルは向上し,現在の一般職の仕事をおこなう代替となろう。
 コース別人事制度が解消され,フルタイムとパートタイムの処遇体系が1本になったときのイメージは図3のようになる。職能資格のもっとも低いところに補完型パートがおり,やや低いところに基幹型パートが多く,高いところではフルタイム総合職が多い。しかし,S1以上のいずれの等級にも,フルタイム総合職も基幹型パートも存在する。また,基幹型パートがフルタイムヘの転換を希望すれば,同一資格等級のフルタイムに変われる。また,ここでは「正社員」という言葉も消える。

図3 これからの女性活用体系の概念図

 筆者のビジョンを,女性の一生のライフコースという側面から,まとめてみよう。図3の大企業ホワイトカラーの処遇体系図を利用する。
 女性は,全員総合職で入社する。入社時にどのようなライフコース観をもっていようと,仕事が面白くなって出産後も就業継続しようというものは昇格していき,途中で,結婚・出産後は辞めたい,と思った女性は退職する。
 退職して子育てが終わったころに,再就職しようとする女性も多いであろう。その際,もと働いた企業に再雇用する制度をもうけても,技能の陳腐化が激しいと思われ,とりたててメリットはないから,他の企業に再就職しよう。彼女たちの多くが最初はパートタイム勤務をめざそう。最初は「補完型パート」(P1)として入社し,技能が向上してくれば「基幹型パート」(S1)になり,時間の制約もなくなれば,フルタイム(F1)に移っていく。こういったシステムになれば,女性がどういったライフコースをたどろうと女性の活用ができる。


(注1) 筆者は「限定勤務地制度」と「業務コース制」は異なることを強調している。脇坂(1993)55-59頁。ただ,この二つが分離されていない定義の調査がほとんどであるため,とくに注意をする場合を除き,調査結果は未分離であるが,コース別人事管理について論じるときは「業務コース制」を意識していることに注意されたい。
(注2) たとえば,中馬(1995)第5章。
(注3) 東京都労働経済局(1994)のほかに,コース別雇用管理に関する研究会(1990),これからの賃金制度のあり方に関する研究会(1991),冨金原(1992),東京工芸大学女子短期大学部女性のキャリア開発実態調査委員会(1995)などがある。これらについて,詳しく論じているのは,脇坂(1997)。
(注4) 男女分業型職場をはじめ,職場類型については,脇坂(1993)。
(注5) 日本労働研究機構(1995)114頁。
(注6) 東京都立労働研究所(1994)63頁。
(注7) 21世紀職業財団(1993)。総合職調査については,中村恵(1994)が紹介している。
(注8) 筆者の職場類型でいうB1タイプの職場類型に対応する(脇坂〔1993〕)。
(注9) 福岡県の調査でも「一転キャリア型」として分析している(福岡県労働部〔1995〕85-86頁,111-13頁)。
(注10) これらの結果については,脇坂(1997)。
(注11) うまく転換できた事例の一つは,脇坂(1997)。以下,商社については,すべて1992年現在についてのものである。また,総合商社では,いわゆる総合職のことを「一般職」,いわゆる一般職のことを「事務職」などと呼ぶ企業がほとんどである。しかし,この論文では,いわゆる総合職と一般職に用語を統一する。
(注12) 脇坂(1993)21-24頁。
(注13) スーパーの調査については,脇坂(1986)。
(注14) 大阪婦人少年室(1989),中村恵(1990)。
(注15) これについては,脇坂(1995)。
(注16) 中村圭介(1990)。


参考文献
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脇坂明(1995)「パートタイマーの類型化(II)」『岡山大学経済学雑誌』27巻3号。
脇坂明(1997)「コース別人事制度と女性労働」中馬宏之・駿河輝和編『雇用環境の変化と労働市場(仮題)』東京大学出版会。


Large Corporations have introduced DMP (Double-track Personnel Management) system for two reasons. The first type of firms take DMP as measures to cope with the Equal Employment Opportunitites Law. The other type take DPM as measures to utilise college-educated women by distinguish a career-oriented woman (Sogo-shoku) from a woman who regards work as a temporary job until marriage (Ippan-shoku) and to revitalise female employees. Irrespective of both cases, I doubt the DPM system will operate well, because DPM has weakpoints against difficulties of division of tasks between Sogo-shoku and Ippan-shoku. I have a view that DMP will be abolished and Ippan-shoku will be substituted by part-time workers.


わきさか・あきら 1953年生まれ。京都大学経済学部卒業。岡山大学経済学部教授。主な著書に『職場類型と女性のキャリア形成』(御茶の水書房,1993年)など。労働経済学・経済政策專攻。