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(著者抄録)
均等法施行後の女性雇用の変化をみると,長期勤続をし,相対的な賃金の上昇をしている女性労働者が確かに一部で増加しており,役職につく女性も増えている。その中身をみると,25~34歳層は中堅・大企業でしかも大卒者を中心に増加しているのに対して,40歳台では中小企業で高卒者で増加する傾向がみられる。大卒の場合賃金格差が縮小していることをみても,これら一部の者に対する雇用管理面での男女間格差の縮小をうかがわせるが,高卒の場合,賃金面の改善がそれほどみられず,また,最近の不況期で役職者の女子比率がやや後退している。新規学卒の採用の動向をみると,高卒者を中心に長期的に男子に比べ女子の方が大企業への就職が少なくなっており,女性の採用をめぐる構造的な変化が生じていることをうかがわせる。

(論文目次)
   I はじめに
  II 均等法の女性雇用への影響
    1 統計的差別理論
    2 実証分析の結果
 III 均等法施行後の女性雇用
    1 労働力率の変化
    2 勤続年数の変化
    3 賃金面での変化
    4 昇進面での変化
    5 新規学卒採用の変化
  IV まとめ

I はじめに

 本稿の目的は男女雇用機会均等法(以下,均等法と呼ぶ)が施行された1986年以降の女性雇用の変化を計量的に分析することである。均等法の効果についてはさまざまな議論がある。また,均等法の見直しについても作業が進められている。しかし,均等法の影響を測定することはきわめて難しい。女性の雇用や企業の雇用管理には,均等法以外の景気変動や産業構造の変化など種々の要因が働いており,それらを均等法の影響と分離することは限られた資料ではきわめて困難であるからである。
 ここでは均等法施行後10年間で生じた女性雇用の変化を調べる。そして,均等法が浸透し,企業の雇用管理面での男女間格差が縮小した場合に予想される方向にこれらの指標が動いているかどうかを確認することにしたい。その際,ひとつにはできるだけマクロのデータを用い,日本全体で女性雇用にどのような変化が生じているかをみてみたい。また,意識面や制度面での変化よりは,賃金などの実体面での変化をみてみたい。そこで,この論文では主に労働省『賃金構造基本統計調査』を用いる。サンプル数が多く,勤続年数や賃金に関する詳細なデータが得られるからである。パートタイム労働者は分析対象から除いた。
 しかしながら本稿の分析にはおのずと限界がある。ひとつは,ここでの分析が均等法の影響のうち経済的な側面のみにスポットを当てて分析していることである。その外の側面(たとえば,経営者の女性労働者に対する意識の変化など)は分析していない。また,均等法が男女間の機会の平等を保障しようとする法律であるのに対して,本稿で用いたデータには各主体が行動した後の結果しか現れないことである。したがって,結果の数字に男女間格差の縮小がなかったからといって,均等法の効果がなかったとはいえないことである。むしろ,ここでは,一定の能力の分布が与えられたと仮定して,女性雇用の一部に均等法の影響とみられるものが見いだせるかどうかをみてみたい。また,指標の変化の大きさよりもむしろ方向性をみることにしたい。
 結論を先取りすれば,女性雇用の一部に確かに女性の雇用管理の改善がなされた場合に予想される変化が認められる。しかし,その中にはバブル期の人手不足への対応ではないかと思われる部分もあると推測される。また,一方で女性の採用をめぐる構造的な変化と思われる兆候も認められる。
 次節では,均等法が浸透し,雇用管理面での男女差別がなくなればどのような影響が女性の雇用に起こりうるかを統計的差別理論とこれまでの実証分析の結果から論じる。そして,その次に実際に女性雇用の労働力率,勤続年数,賃金,昇進,採用などの面についてどのような変化が生じたかを調べ,これが前節での予想と方向が一致しているかどうかを検証する。最後に観察された事実をまとめる。



II 均等法の女性雇用への影響

1 統計的差別理論

 この節では,雇用管理上の男女差別を説明する理論として統計的差別理論をとりあげ,均等法の女性雇用への影響を理論的に考察する。この理論では企業が女性に対して差別意識を持っていなくても経済合理的に行動するだけで雇用管理上の男女差別が存在することが示される。
 この理論では,(1)企業は経済合理的な行動をとること,すなわち利潤を最大にするように行動すること,(2)企業は個々の労働者の能力や意欲,企業への定着度を知ることができないか,知るには多大な費用がかかること,(3)統計的にみて,平均的に男子に比較して女子の方がかなり離職率が高く,企業への定着率は低いこと,を仮定する。労働者はOJTを中心とする企業内訓練によって技能を形成し,労働生産性を向上させる。企業内訓練には企業側も費用を負担するため,仮定の(1)から企業は訓練への投資が訓練後の収益によって十分回収できる定着率の高い労働者により多くの訓練を行う。しかし,仮定の(2)により,企業には個々の労働者の能力や定着率はわからないし,それを知るためには多くの費用がかかる。一方,仮定の(3)から統計的にみて平均的に男子よりも女子の離職率がかなり高い。そこで,企業は個々の労働者の定着度を調べるかわりに,平均的に定着率の高い男子により多くの企業内訓練を行い,平均的に定着率の低い女子に対してはあまり行わないという行動をとり,配置転換や教育・訓練において男女格差が生じる。また,この結果,女子労働者の生産性が男子より低くなり,昇進や賃金面でも格差が生じる。さらに,採用面でも企業は訓練費用ができるだけ少なくてすむ,訓練効率の高い労働者から採用する。この場合も個々の労働者の訓練効率はわからないから,平均的に定着度が高く,訓練費用が少なくてすむと予想される男子を優先的に採用するという行動をとる。こうした企業の採用行動や雇用管理は働く意欲と能力があり,企業への定着度の高い女性にとっては差別となる。均等法は,企業が募集・採用やその他の雇用管理を行う際に,性という属性ではなく,個々の労働者の能力や意欲,定着度などで判断することを求めたものである。
 このように統計的差別理論からは企業が経済合理的に行動するだけで雇用管理上の男女差別が発生することが示される。この理論の最も重要な仮定は,企業が個々の労働者の能力や定着度を知ることが難しいという点である。均等法は性という属性でこのことを判断しないように要請している。そこで,企業としては別の方法で個々の労働者の能力や定着度を知る必要が生じる。コース別雇用管理は,均等法が施行されてから企業が行った対応のひとつである。性という属性以外の情報で労働者の能力や定着度を知る必要から,総合職と一般職に分けて採用し,総合職で採用された者を基幹的な労働力として集中的に企業内訓練を行い,訓練や処遇などの人事労務管理面での効率性を高めようとする制度である。しかし,この制度では労働者の定着度・能力・意欲を採用時の情報のみで判断しようとしている。労働者はその後の経験や環境の変化で仕事に対する意識が変化するし,企業側もその後の観察で労働者の能力等についての判断を変えざるをえない場合もある。したがって,採用時だけの情報で長期にわたる雇用管理を行うことは無理がある。転換制度の導入など種々の努力はなされているが,まだ,女性の能力を活用する十分な制度とはいえない(注1)。
 つぎに,この理論を踏まえて雇用管理上の男女差別の有無が女性雇用に与える影響を考えてみよう。まず,第1に雇用管理上の男女差別がなくなることは,勤続年数の賃金への評価の男女間格差の縮小をもたらすと考えられる。雇用管理上の男女差別を行わず,個々の労働者の能力と意欲に基づいて,OJTを中心とした企業内訓練が行われるとする。勤続年数が長くなるにしたがって職業能力が向上し,賃金もそれに見合って上昇する。また,企業は能力のある労働者の定着率を高めるとともに労働に対するインセンティブを与える必要がある。昇進も行われる。こうした面からも勤続年数が長くなるにしたがって賃金が上昇するような賃金構造となる。しかし,その上昇度は性という属性ではなく,個々の労働者の能力と意欲に基づいて決まるはずである。したがって,女性の中に能力と意欲が男性と同様に高い者がいる限り,雇用管理上の男女差別がない企業の方が,男女間の勤続年数の賃金面での評価の格差はより小さくなるはずである。
 第2に,雇用管理上の男女の取り扱いが均等になれば,女子の勤続年数も男子に比して相対的に長くなることが予想される。企業特殊訓練には企業と労働者の間での共同投資という側面があるため,企業特殊訓練を積極的に女子に対して行っている企業では投資を行った企業と労働者のどちらも投資分を回収するまでは雇用契約を維持しようとする。このため,女子の勤続年数は相対的に長くなるであろう。また,能力のある者の労働意欲を高めるために,後払いの賃金制度,退職金・企業年金制度や昇進・昇格制度など,長期雇用を促し,長期雇用を前提とした人事管理・賃金管理が行われることが考えられる。これらの人事労務管理が男女の別なく行われていれば,女子の勤続年数はこの面からも相対的に長くなることが考えられる。

2 実証分析の結果

 女子の雇用管理が賃金構造に与える影響についてはクロスセクションデータを用いて分析した研究がある。冨田(1988)は,産業別データを用いて標準労働者の男女間の賃金プロファイルの傾きの格差と雇用管理の男女差別の有無との関係を分析し,採用,事業所間配置転換については男女差別をしていない産業ほど男女間の賃金プロファイルの傾きの格差は縮小するが,配置や昇進については予想に反して逆の関係を見いだしている。また,樋口(1991)は,冨田と同じデータを用いて賃金関数を推計する方法により,雇用管理上の男女差別の有無が賃金プロファイルに与える影響を分析している。そして,教育・訓練や女子の活用の仕方において男女にかかわりなく同等に取り扱っている企業の多い産業ほど,男女間の賃金-勤続年数プロファイルの傾きが小さくなることを見いだしている。これらの研究では産業別の集合データを用いており,さらに事業所ごとの詳しいデータで分析することが望ましい。三谷(1995)は,事業所ごとに女子の雇用管理に関する情報とその事業所の個々の労働者の賃金に関する情報を同時に与える大阪府の賃金構造データの個票を用い,産業や規模を調整した上で,雇用管理上の男女差別がなくなることは,男女間の賃金における勤続年数の評価の格差を小さくすること,勤続年数の男女間格差を縮小させること,しかも,こうした傾向は,教育・訓練,昇進,配置転換などの労働者の人的資本を高めることに深く関連する雇用管理面でより顕著であることを見いだした。
 勤続年数の男女間格差を縮小させる効果があるということは,女子に対する企業の訓練投資の収益率の期待値を高め,雇用管理上の男女間格差を一層縮小させることになる。こうした状況は,技能形成や,賃金,昇進・配置面での,男女間の格差が縮小し,就業意欲と能力のある女子労働者が持てる能力を十分に発揮できる環境が整っていくということを意味している。男女雇用機会均等法の浸透は,このような影響をもたらすものと考えられる。
 そこで,均等法施行後に女性雇用がどのような変化を示しているかをみてみよう。



III 均等法施行後の女性雇用

 この節では,つぎのような点について均等法施行後の女性雇用の動向をみてみたい。まず,女性労働者の勤続年数が以前と比較して長くなったかどうかの検証である。そして,つぎには,果たして勤続年数の賃金面での評価が相対的に大きくなったかどうかである。さらに,女性の昇進が男性に比べて相対的に増えているかどうかである。最後に新規学卒の採用面での変化をみてみたい。
 しかし,ここで留意しなければならないのは,先述のように統計データに現れるのは均等法の影響だけではなく,景気変動や種々の経済的社会的あるいは人口動態的な要因の影響もあるということである。景気変動に関してみれば,均等法施行後の時期は景気の拡大期と不況期のふたつの時期が含まれる。均等法が施行された1986年は円高不況期であり,労働力需給が大きく緩和した年である。87年以降次第に景気が回復に向かい,その後90年代初めにかけていわゆるバブル景気によって労働力需給は逼迫した。しかし,92年ごろをピークに長期の不況に見舞われる。95年末ごろからようやく景気回復の動きがみられるが,失業率が高水準で推移するなど,雇用情勢の回復は遅れている。一般に景気の拡大期には労働力不足の中で労働力を確保する必要性から企業は労働条件を上げ,賃金格差などは縮小する傾向にある。したがって,80年代の後半から90年代前半にかけては景気拡大の影響によって女性の相対的な賃金や雇用が改善している部分があることが十分予想される。ここではなるべく,不況期同士の86年と94年とを比較してみているが,不況期のパターンが86年には輸出関連の製造業中心の不況であったのに対して,平成不況の場合は比較的女性就業者の多い第3次産業も含んだ広範囲の産業での不況であったことにも留意する必要がある。
 また,統計データそのものにも限界がある。均等法は同じ能力を持った労働者を性別にかかわりなく均等に取り扱うことを求めている。しかし,労働者の能力や期待勤続年数などは調査がきわめて困難であり,十分に信頼のおけるデータを得ることは事実上不可能である。したがって,前節で述べたような均等法が浸透したときに期待される現象がみられないからといって均等法が女性の雇用機会の確保に効果を上げていないとは必ずしもいえないことである。
 こうした制限に留意した上で,どのような変化がみられるのか,分析を試みてみたい。

1 労働力率の変化

 女性労働者の労働力率は,1970年代半ば以降趨勢的な上昇傾向にあった。均等法施行後の顕著な変化は20歳台後半の女子労働者の労働力率が急速に上昇したことである。実際,年齢計の女子の労働力率は86年の48.6%から95年の50.0%へと1.4%ポイント上昇した。しかし,景気拡大期には上昇を続け1992年には50.7%にまで上昇したが,93年以降景気の後退を反映して減少に転じている。これに対して,20歳台後半層の労働力率は86年から95年まで54.5%から66.4%に実に10%ポイントを超える大幅な上昇を示している。しかも,93年以降の不況期にも上昇を続けている。しかし,この年齢層の労働力率の急速な上昇傾向は70年代から続いているもので必ずしも均等法施行による影響とは断言できない。実際,76年から86年までの10年間で約10%ポイントの上昇を示している。この現象は女性の晩婚化と密接な関係があると考えられる。いまひとつ40歳台後半から50歳台にかけての年齢層でも86年以降上昇傾向がみられる。この年齢層の労働力率は70年代半ばから80年代前半でそれほど上昇していなかったが86年以降かなりの上昇を示している(図1)。

図1 年齢別女子労働力率

 このように,均等法施行後の女子労働力率の動きをみると,平成不況期に若干後退したものの上昇傾向が続いたといえる。とりわけ,20歳台後半層と40歳台以上層での上昇が著しい。このような動きは均等法施行以前からの傾向が継続している面が大きいように思われる。

2 勤続年数の変化

 つぎに,均等法施行後に女性労働者の勤続年数は長期化したか,あるいは企業への定着率は上昇したかを調べてみたい。前節で述べた実証分析の結果から雇用管理において男女差別が少なくなれば,女性労働者の勤続年数は相対的に長くなることが期待される。また,女性の定着率が上昇することは企業にとっては女性労働者の訓練費用が相対的に安くなることになり,女性の活用を促すことになると考えられる。
 労働省『賃金構造基本統計調査』によれば女性労働者の勤続年数は年齢計で1986年7.0年から94年7.6年へと0.6年上昇している。これを年齢別にみると若年層ではほとんど変化がないのに対して40歳台を中心とした中年層での長期化が著しい(図2)。ある年齢層の平均的な勤続年数の長期化はそれだけでは必ずしも労働者が長期に勤続するようになったことを示すものではない。たとえばその年齢層で短期勤続の労働者が労働市場から退出すればそれだけで勤続年数は見かけ上長くなるからである。また,労働市場への参入が増えればその年齢階級の平均勤続年数は減少する。しかし,先にみたように,各年齢階級の労働力率はこの期間をならしてみれば上昇しており,労働市場からの退出よりは参入が上回っていると考えられる。したがって,40歳台の中年層では,実際に女子労働者が長く勤めるようになったと考えられる。また,労働市場からの退出が急減している20歳台後半を中心とする若年層で勤続年数に変化がみられないということはこの層の転職率が高くなっていることが想像できる。

図2 年齢別女子勤続年数

 女子の離職率を労働省『雇用動向調査』でみると,最近の不況期に若干低下しているもののそれほど大きな変化はみられない。1980年20.7%,86年20.5%,90年20.6%と景気拡大期にもそれほど変化がみられず,20%前後の水準で推移していたが,ここにきて93年18.1%,94年17.6%と若干の低下がみられる。企業規模別にみても若干上下の変動が大きくなるが同様である。年齢別にはこの統計の年齢区分が90年に変更されているため,86年以降の動きを厳密に時系列で比較することはできない。しかし,若干上下運動がみられるものの,総じて年齢計規模計でみた傾向とおおむね同じである。したがって,どの年齢層でも均等法施行後に離職率はほぼ同水準で推移し,最近の不況下でやや低下がみられる。このことは,均等法が女性の定着率を高める効果がなかったとする証拠にはならない。バブル景気のころにもし均等法がなかった場合にもっと上昇したであろう離職率を押し下げる効果があったとする見方も可能であるからである。
 女子の定着率が実際にどのように変化したかをみるためには,年齢別に女子の勤続年数別分布をより詳細に分析する必要がある。しかも,男子と比較してその相対的な変化が重要である。そこで,労働省『賃金構造基本統計調査』を用いて年齢別勤続年数別に労働者数の女子比率を求め,それが1986年と94年の間でどのように変化したか,その差をとってみる。すると,女子比率がこの期間に上昇しているグループは大きく三つある。25~34歳層の勤続年数の短い層と勤続年数の長い層および40歳台を中心とする中年層の勤続年数の長い層である(表1)。すなわち,25~34歳層では男子と比較して相対的に転職する女子が増加したものの,定着率が高く勤続年数の長い女子の数も増加した。また,中年層でも勤続年数の長い層が増加した。このように,パートタイム労働者を除いた一般労働者だけをみても,転職をして勤続年数の短い層とひとつの企業に長く定着する層のふたつに二極化する傾向がみてとれる。

表1 年齢別勤続年数別女子比率の変化

 これをさらに学歴別にみるとつぎのようなことがわかる。勤続年数の長い層で女子比率が上昇している層を学歴別にみると若年層と中年層で大きく異なっている。25~34歳層では大学卒が多いのに対して,中年層では高卒・短大卒が多い。また,若年層で勤続年数の短い層では大学卒で女子比率が上昇している(表2)。

表2 学歴別年齢別勤続年数別女子比率の変化

 企業規模別にみても,25~34歳層と中年層ではやや異なっている。中年層では比較的規模の小さい企業で勤続が長期化している層が男子に比べ相対的に増大しているが,25~34歳層では中堅・大企業で勤続が長期化する層が増加している(表3)。

表3 企業規模別年齢別勤続年数別女子比率の変化

 以上のように,均等法施行後の女性労働者の勤続年数別分布の相対的な変化をみると,若年層を中心に勤続の短い層が増加しているが,一方で勤続の長期化する層が存在することが確認された。そして,勤続の長期化している層は25~34歳層と40歳台を中心とする中年層にみられ,25~34歳層では大卒で中堅・大企業で増大しており,中年層では高卒・短大卒を中心として主に中小企業で増大している。このような女性の勤続年数の相対的な長期化が賃金面にどのように反映しているのであろうか。つぎに賃金面での変化をみてみたい。

3 賃金面での変化

 先にみたように,雇用管理面で男女が能力に応じた均等な取り扱いを受けることは,もし,男女間に能力や意欲に差がないと仮定すれば,企業内訓練を通じた職業能力の向上が同じようにみられ,賃金面でも勤続年数1年当たりの賃金の上昇幅の男女間格差が縮小することを意味する。
 賃金関数を推計し,勤続年数の賃金評価の男女間格差が1986年と93年でどう変化したかをみてみよう。ここで使用したデータは労働省『賃金構造基本統計調査』の個票をランダムに抽出し,データ数を元の10分の1にしたデータである。このデータで賃金関数を推計し,その係数を比較する。性ダミーと勤続年数の交差項の係数の値が勤続年数が1年長くなったときの男女間賃金格差の増分を示す。マイナスの値を取っているのは性ダミーを女性の場合に1,男性の場合に0とするように定義しているためである。したがって,勤続年数の賃金評価の男女間格差が縮小しているとすればこの係数のマイナス幅が縮小しているはずである。表4がその結果である。これをみると,1986年に比べて93年はこの値はむしろ若干マイナス幅が大きくなっている。一方,性ダミーをみるとマイナス幅が大きく縮小している。すなわち,勤続年数の短い層で男女間の賃金格差が縮小し,勤続年数の長い層でやや広がっていることをうかがわせる。しかし,企業規模別にみると,やや異なったパターンがみられる。企業規模1000人以上の大企業では,性ダミーの係数と性ダミーと勤続年数の交差項の係数のマイナス幅がいずれもやや拡大している。一方,100~999人規模の中規模企業では,性ダミーの係数のマイナス幅は,あまり変化していないが,性ダミーと勤続年数の交差項の係数のマイナス幅は縮小している。10~99人規模の小規模企業では性ダミーの係数のマイナス幅はやや縮小しているが,勤続年数と性ダミーの交差項の係数にはあまり変化がみられない。すなわち,大企業では勤続年数の賃金評価の男女間格差はやや拡大しているのに対して,中規模企業で勤続年数の賃金評価の男女間格差が縮小している(表5)。

表4 賃金関数の推計結果

表5 企業規模別賃金関数の推計結果

 このことは先にみた年齢別の勤続年数の長期化のパターンとどのように関係しているのであろうか。さらに詳細に分析するために,年齢別勤続年数別に男女間の定期給与格差を自然対数値の差で表現し,さらに,それの1986年と94年の間の差をとる。これをみやすいように100倍したものを表6に示している。この表の値はほぼ各年齢・勤続年数の層における女子の男子に対する相対賃金比率の変化に等しい。たとえば,年齢計・規模計の値は全体として女子の賃金を男子の賃金に対する比率でみたときの値がこの期間にほぼ3.8%ポイント縮小していることを示している。この表をみると,年齢別には30歳台と40歳台で男女間賃金格差の縮小が著しい。25~34歳の比較的若い層では勤続年数の短い層で賃金格差が大きく縮小している。これに対して40歳台を中心とした中年層では勤続の長い層で賃金格差の縮小がみられる。

表6 年齢別勤続年数別男女間賃金格差の変化

 これを長期勤続者についてさらに詳しく企業規模別学歴別にみたものが表7である。これによると,25~34歳層では大企業の大卒で長期勤務者の男女間格差の縮小が若干みられるほかはあまり縮小傾向はみられない。35~44歳層では大卒で長期勤続者の格差縮小の傾向がみられる。この年齢層の高卒者では中規模・大規模企業で若干縮小傾向がみられるがそれほど大きくない。45~49歳層ではあまり縮小傾向はみられない。

表7 企業規模別学歴別年齢別勤続年数別男女間賃金格差の変化

 賃金面での変化をまとめると,25~34歳の比較的若い層では短期勤続者で男女間の賃金格差が縮小している。長期勤続者では,大企業の大卒者で格差縮小の傾向がみられる。とりわけ,35~44歳層の大卒で大きく縮小している。また,高卒の35~44歳層でも中規模・大規模企業で縮小傾向がみられる。ただし,縮小幅は小さい。こうした賃金面での変化は昇進面での変化をある程度反映していると考えられる。

4 昇進面での変化

 均等法施行後に女性の昇進はどのように変わったのであろうか。ここでは労働省『賃金構造基本統計調査』の職階別の統計表を用いて分析してみよう。

 図3~図5は役職者の女子比率を規模別に時系列でみたものである。水準自体は非常に低いものの趨勢的に上昇傾向がみられる。1980年,86年および92年の女子比率を比較すると80年から86年にかけての上昇幅よりは86年から92年にかけての上昇幅の方が明らかに大きい。職階別には職位の低い職階ほど,また,規模別には企業規模の小さい企業ほど伸びが大きい。しかし,92年から94年にかけての不況期に若干の後退がみられる。低下幅は各職階とも同程度であるが,規模別には100~499人規模企業でのみ低下しており,500~999人および1000人以上の中堅・大企業では1000人以上規模の課長を除いて上昇が続いている。特に500~999人規模で伸びが大きい。このように,最近の不況の中で比較的規模の小さい企業で若干の後退はみられるものの,総じて役職者に占める女性の割合は上昇している。中でも,係長に占める女性の割合の上昇が大きい。

図3 企業規模別役職者の女子比率(部長)

図4 企業規模別役職者の女子比率(課長)

図5 企業規模別役職者の女子比率(係長)

 そこで,1986年から94年にかけての係長の女子比率の変化を年齢別学歴別にさらに詳しくみてみよう。表8はこの期間の企業規模別の係長の女子比率の変化に対する各年齢階級の寄与度をみたものである。100人以上計でみると,40歳台の寄与度がもっとも大きくなっている。ついで30~34歳層および35~39歳層である。これを企業規模別にみると,比較的規模の大きな企業では30歳台の寄与度が大きいのに対して,中小・中堅企業では40歳台の寄与度が比較的大きくなっている。学歴別にみてみると,高卒と大卒の寄与度が大きい(表9)。これを企業規模別にみると,高卒の寄与度は企業規模が比較的小さい企業ほど大きくなっているのに対して,大卒の寄与度は大企業ほど大きくなっている。すなわち,係長に昇進する女性はこの期間に増えたが,中堅・大企業では大卒が比較的多く,30歳台を中心に増加したのに対し,中小企業では40歳台で高卒を中心とした増加であったといえる。

表8 企業規模別役職者の女子比率の変化に対する各年齢階級の寄与度

表9 企業規模別役職者の女子比率の変化に対する各学歴層の寄与度

 中村(1994)は,このように増大している中小・中堅企業の高卒女子係長について,大卒女子係長が企業規模を問わず男子並みの賃金を享受しているのに対し,男子との間に定期給与に差があり,男子並みの処遇を得ていないことを指摘している。その背景として,「総合職」が大卒女子に当てはまる概念であり,高卒の場合女子を有効活用する人事労務管理の態勢が整っていないことを論じている。そして,具体的な事例から入職後数年間男子と同様に管理職要素を持った職務を経験させることを提案している。大手スーパーの聞き取り調査でチーフという「やや重要な仕事」を任されたことで,入社時には結婚・出産退職を考えていた女性たちが管理職昇進挑戦へと目を向けるようになった事例を紹介している。また,冨田(1993)も銀行でのヒアリングから現状では女性のキャリアが短期勤続を前提にしたもので長期勤続化した今賃金に見合った能力の向上がない点に銀行側が苦慮していることを指摘しているが,同時に店舗内ローン業務を任せたころから女子の管理職が増え始めたことを見いだしており,今後能力のある女性を活用するキャリアを作っていく可能性についても示唆している。

5 新規学卒採用の変化

 女子の新規学卒者の就職は長期にわたる不況の中で大変厳しい状況にある。たとえば上場企業を対象にした労働省「新規学卒採用内定等調査結果」(平成7年10月実施)によれば,平成8年度の採用(内定)者総数は前年度比15,8%減で,男性12.2%減に対し,女性20.9%減となっている。しかし,新規学卒者の労働力需給の状況を男女別に全国規模で把握した良質の統計調査はない。そこで,この節では労働省『賃金構造基本統計調査』の新規学卒就職者に関する統計を用いて,労働条件の比較的よいと考えられる大企業への女性の就職割合の動向をみることによって,女子新規学卒者に対する採用状況の変化を探ることにしよう。
 女子の新規学卒就職者の規模別割合の推移をみると,景気変動の影響を強く受けることがわかる。たとえば,1000人以上規模の大企業への就職者の割合をみると,1986年の29.9%から円高不況期にやや低下したものの88年以降景気の拡大局面で上昇に転じ92年の34.6%まで上昇を続けた。しかし,バブル崩壊後の92年以降の不況期に再び低下傾向を示し,93年32.0%,94年27.6%となっている。
 これを男子との比較でみるために,各性別の1000人以上規模の大企業に就職した者の割合を計算し,その男子に対する女子の比率の推移をみてみよう。すると,1980年代のはじめから長期的な低下傾向がみられる。88年ごろまではこの比率は1を上回っており,男子よりは女子の方が大企業に就職する者の割合が高かったが,89年以降1を下回り,低下傾向を続けている。これを学歴別にみると,大卒ではそれほど顕著な低下傾向がみられないが,高卒では大卒に比べてかなり大きな低下傾向がみられる(図6)。長期的に新規学卒者の就職は男子に比べて女子の方が中小企業へシフトしており,大企業への就職は相対的に厳しくなっていることを示唆しているといえよう。しかもその傾向は大卒に比べて高卒の方がより強く現れている。

図6 学歴別新規学卒就職者の大企業就職者割合の男女比率

 男女間の大企業への就職割合が変化している背景には進学率の変化や規模別の職業構造の変化など種々の要因があり,しかも採用された人数という採用行動の結果の数字でしかなく,そのまま男女の就職機会の均等度を示しているとは必ずしもいえない。しかし,1980年代からみられる大企業就職者割合の男女比率の長期的な低下傾向は女性の就職をめぐる構造的な問題の存在を示唆しているように思われる。すなわち,女性が多く就業している補助的・定型的な業務はOA等の技術革新の影響で次第に縮小傾向にあり,特に大企業においてその傾向が大きいことが推測される。こうした傾向はいわゆる「女子のみ採用」の問題との関連からも詳しく分析される必要がある(注2)。「女子のみ採用」が女性の採用を補助的・定型的業務に集中させ,こうした業務が次第に縮小されることによって,女性の労働条件や雇用面での処遇を悪化させる可能性が否定できないと考えられるからである。



IV まとめ

 この論文では均等法が女性の雇用に与える影響についての理論および実証的な研究について述べた上で,均等法施行後の女性の労働力率,勤続年数,賃金,昇進および新規学卒就職者の動向について分析した。
 雇用管理上の男女差別がなくなることは,理論やクロスセクションデータを用いた実証研究から,女性の勤続年数が相対的に長くなり,勤続年数の賃金面での評価の男女間格差が縮小することが示されている。均等法施行後の女性雇用の変化をみると,まず,勤続年数については25~34歳層および40歳層で長期勤続者に占める女性の割合が増加していることが確認された。中身をみると,25~34歳層は大企業でしかも大卒者で増加しているのに対して,40歳台では中小企業で高卒者で増加する傾向がみられる。つぎに,賃金については,勤続年数の賃金面での評価の男女間格差が縮小しているのは,企業規模100~999人の中規模企業だけである。しかし,詳細にみると,25~34歳層の勤続の短い層で男女間の賃金格差が縮小しているが,長期勤続者でも大企業の大卒,とりわけ,35~44歳層で大きな格差縮小がみられる。また,高卒でもこの年齢層の長期勤続者の賃金格差が縮小しているが,縮小幅は小さい。したがって,大企業大卒者を中心にして勤続年数の賃金面での男女間格差が縮小したことがうかがえる。このように,おおむね,予想通りの変化を示しているグループが存在していることが確認された。一方,昇進面では,役職者の女子比率はその水準はかなり低いものの均等法施行後に大きく上昇した。企業規模が小さいほど,また,職位が低いほど,上昇幅が大きい。係長についてみると,企業規模の大きな企業では30歳台で大卒が増えているが,中小企業では40歳台で高卒を中心とした増加である。しかし,最近の不況期に中小・中堅企業で役職者に占める女性の割合がやや低下している。しかも大卒では係長の賃金に男女間格差がほとんどないのに対し,高卒の場合格差がかなりある。最後に,新規学卒の採用の動向をみた。長期的に男子に比べ女子の方が大企業への就職が少なくなっており,しかも高卒者でその傾向が著しい。女性の採用をめぐる構造的な変化が生じていることをうかがわせる。
 以上の結果から,均等法施行後に長期勤続をし,相対的に賃金が上昇している女性が確かに一部で増加しており,役職につく女性も増えている。しかし,その内容は企業規模や学歴によってやや異なっているようである。中堅・大企業では20歳台後半から30歳台前半の比較的若い層で,しかも大卒が多い。一方,中小企業を中心に40歳台の中年層でも長期勤続者や役職者が増えているが,高卒者が多い。大卒の場合賃金格差が縮小していることをみても,これら一部の者に対する雇用管理面での男女間格差の縮小をうかがわせるが,高卒の場合,賃金面の改善がそれほどみられず,最近の不況期で役職者の女子比率が後退していることを考え合わせると,一部に景気拡大期の人手不足への対応という側面もあったのではないかと考えられる。
 今後,女性の雇用機会を拡大し,能力と意欲のある女性の活躍の場を広げるためには,高卒女性も含め,性に関係なく個々の労働者の意欲・能力を判別する方法の工夫と,十分な能力のある女性に対して職業能力と意欲を高めるようなキャリアルートを作っていくことが重要である。また,女性の採用が補助的・定型的な業務のみに集中する危険を避けるためにも女性の採用をめぐる構造的な変化について今後十分な研究を行う必要がある。


*本論文の中に労働問題リサーチセンター委託研究『所得配分の実態と国際比較に関する研究』の研究成果の一部を用いた。また,計算作業の一部で神戸大学大学院生Graeme Knowd君に協力をしていただいた。心から感謝の意を表する。


(注1) コース別雇用管理制度については本特集号の脇坂論文を参照されたい。
(注2) 「女子のみ採用」をめぐる諸問題については,労働省(1995)を参照されたい。


参考文献
冨田安信(1988),「女子の雇用管理と男女間賃金格差」,小池和男・冨田安信編『職場のキャリアウーマン』東洋経済新報社。
――――(1993),「女性の仕事意識と人材形成」,『日本労働研究雑誌』,No.401,6月,pp.12-19。
中村恵(1994),「女子管理職の育成と「総合職」」,『日本労働研究雑誌』,No.415,9月号。
樋口美雄(1991),『日本経済と就業行動』東洋経済新報社。
三谷直紀(1995),「女性雇用と男女雇用機会均等法」,猪木武徳・樋口美雄編『日本の雇用システムと労働市場』日本経済新聞社,第8章,pp.201-227。
労働省(1995),『男女雇用機会均等法の課題と諸外国の法制度-男女雇用機会均等問題研究会報告-』新日本法規。


The number of female workers with relatively longer tenure and relatively higher salaries has increased in part as well as the number of female managers after the enforcement of the Equal Employment Opportunity Law. This may reflect in some sense the improvement of the employment situation for young female workers with high education attainment, whereas the employment situation for those middle-aged with low education attainment may not have necessarily improved so lower managers and the recent deterioration in the proportion of female managers for this category of female workers.


みたに・なおき 1949年生まれ。東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。神戸大学経済学部助教授。主な論文に「内部労働市場と賃金構造-日仏比較-」(『国民経済雑誌』,第171巻、第5号,1995年)など。労働経済学専攻。