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(著者抄録)
中間管理職が必要としているものは、リスクをとりチャンスを活かすことのできる環境の整備であり、時間規制をはじめとする法的保護ではない。この意味で、結果責任を厳しく問うためにも、仕事や部下を選択する自由については、これを幅広く中間管理職に認める必要がある。また、苦情処理制度については労使協議機関から独立したものとするなど、大胆な制度改革を必要とするが、一方では、苦情処理の監視機関に中間管理職の代表者を加えるといった工夫も求められる。さらに、単なる苦情処理にとどまらず、リスクをとりチャンスをものにした中間管理職は思い切って抜擢するなど、前向きの提案機能も併せ持つことが新しい苦情処理システムには期待される。

(論文目次)
I はじめに
II 中間管理職と時間規制
  1 寂しい大学の現状
  2 ドライなアメリカ
  3 規制に代わる選択の自由
III 中間管理職と代表法制
  1 良い上司悪い上司
  2 管理職組合の限界
  3 苦情処理システムの改革

I はじめに

 難解にして要を得ず。とかく法令の内容は部外者にはわかりにくい。労働関係法令もその例外ではなく,次にみる労働基準法(労基法)施工規則の定めもそうした意味のつかみにくい規定の一つといえる。
第6条の2 法第18条第2項,法第24条第1項ただし書,法第32条の2第1項,法第32条の3,法第32条の4第1項及び第2項,法第32条の5第1項,法第34条第2項ただし書,法第36条第1項,第3項及び第4項,法第38条の2第2項,法第38条の3第1項,法第39条第5項及び第6項ただし書並びに法第90条第1項に規定する労働者の過半数を代表する者(以下この条において「過半数代表者」という。)は,次の各号のいずれにも該当する者とする。
 1 法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
 2 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票,挙手等の方法による手続により選出された者であること。
(2) 前項第1号に該当する者がいない事業場にあっては,法第18条第2項,第24条第1項ただし書,法第39条第5項及び第6項ただし書並びに法第90条第1項に規定する労働者の過半数を代表する者は,前項第2号に該当する者とする。
(3) 使用者は,労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取り扱いをしないようにしなければならない。
 これを読んで,その意味を直ちに理解できるのはかなりの法律オタクに限られる。1項は3年も労働法の教師を続ければ読解力が自然と身につくが,2項になるとそう簡単ではない。凡庸な筆者の場合,それが労基法41条2号に定める管理監督者のみで構成される事業場を念頭に置いた規定であるとわかるのに,1分余の時間を必要とした。課長や部長しかいない事業場という状況設定が,そもそも筆者の想像力をはるかに超えていたからである。
 1項1号に定めるように,管理監督者が過半数代表者になることを認めない(筆者は後に述べるように,この考え方には反対である)とすると,管理監督者しかいない事業場では賃金控除協定や計画年休協定が締結できず,生命保険料の控除や年次有給休暇の計画的取得ができなくなる。そこでこのような場合にかぎり,管理監督者が過半数代表者になる事を例外的に認めることとした。2項の趣旨を要約して述べると,およそこのようになる。また,管理監督者の場合,年次有給休暇に関する規定を除き,「労働時間,休憩及び休日に関する規定」はその適用を除外される(労基法41条柱書)ため,管理監督者のみからなる事業場においては変形労働時間制や裁量労働制等について労使協定を締結する必要がそもそもない。2項による条文の引用が1項と比較して少ないのは,ここにもっぱらその理由がある。
 しかし,課長や部長しかいない事業場が実際にあるのかどうかは別として,部課長までが労基法の保護をなお必要とするというのはいかにも情けない。部課長といえば,未来の経営幹部候補生。そんなミドルマネジメントの訳語ともいえる中間管理職が,個人的にもわずかなリスクをとれないで(いつまでも法の保護に頼って),将来,会社経営の一翼を担う立場におかれたとき,ちゃんとリスクをとれるのか。経営とは日ごろ縁遠い場所にいる大学の教師でも,いささか心配になる。
 お上の保護にすがるばかりで,経営幹部がリスクもとらず,チャンスもものにできないとすれば,結局泣きをみるのは,労基法の保護を本来必要とする平社員である。そんな逆説が現実とならないようにするためには,どうすればよいか。本稿では,それを法律学の視点から考えてみたい。


II 中間管理職と時間規制

1 寂しい大学の現状

 大学の教師といえば,世の中では自由気ままな人種と思われているフシがある。昼は寝て,夜に仕事をするフクロウ族もめずらしくはない。早朝出勤と深夜の帰宅を繰り返す(駐車場を確保し,交通渋滞に巻き込まれないようにするため)筆者などはさしずめ例外中の例外といえる。
 それゆえ,大方の大学教師は授業や会議のある時間は知っているが,正規の勤務時間がどうなっているのかといった問題についてはまったく関心を示さない。また,勤務時間が俸給や諸手当とどのようにリンクしているのかといったより高度の問題については,知識の片鱗も持たないのが偽らざる現状となっている。
 正規の勤務時間(月曜から金曜の午前8時30分から午後5時まで,30分の休憩時間およびその前後各15分の休息時間を含む)に大学にいなくても給与を減らされることのない代わりに,土日に出勤して原稿を書いたり,教授会が長引いて正規の勤務時間を超えたとしても,超過勤務手当が支給されることはない。ルーズといえばたしかにルーズであるが,そんな現実を前にすれば,誰しも勤務時間などに関心を持つはずがない。
 こうした状況は,国立と私立の別を問わずごく普通にみられるものであるが,私立大学にも労働基準法(昭和22年法律第49号)が適用されるのと同様,国立大学にも「一般職の職員の勤務時間,休暇等に関する法律」(平成6年法律第33号,勤務時間法)や「一般職の職員の給与に関する法律」(昭和25年法律第95号,給与法)は当然に適用がある。
 しかし,国立大学についていうと,民間企業における労基法41条2号に該当する管理監督者は,驚くほど少数しかいない。つまり,給与法19条の10によって,超過勤務手当の支給について定めた同法16条の適用を除外される者は,同法6条1項9号に定める指定職俸給表(別表第9)の適用を受ける職員(その範囲は人事院規則9-2第15条に規定され,国立大学の場合,学長がこれに該当する(注1))を除けば,同法10条の2に定める俸給の特別調整額(第1種から第5種)の適用を受ける特定管理職員(人事院規則9-17の別表に定める者をいい,国立大学の場合には副学長,研究科長や学部長のほか,評議員の一部が含まれる(注2))に限られるのである。
 このように,特定管理職員等が超過勤務手当の支給対象から除外されている理由は,超勤手当が「勤務の実績及び勤務時間数に応じて支給される給与であるところから」,これらの者については「勤務の実績を時間計測によって給与上評価することがなじまない」とされている(注3)ためであるが,国立大学の場合,その割合が全教員の1割にも到底満たないというのは何とも寂しい(注4)。
 ただ,原稿を書くための土日出勤も,教授会の時間延長も,本人の好きでやっている(職員が任意に正規の勤務時間を超えて勤務している)ことであって,超過勤務手当など支給すべきいわれはない。そんな理屈が,50歳を過ぎても,あるいは定年間際になっても超勤手当をもらわなければいけない「悲喜劇」から大学の教師を救ってきたのである。
 なお,同じ国公立学校の教員であっても,小中学校の教師については,「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(昭和46年法律第77号)により,すでに立法的な解決が図られている。つまり,「とりわけ超過勤務手当制度は教育職員にはなじまない」等との判断から、「教育職員には,俸給月額の100分の4に相当する額の教職調整額を支給することとし,反面,超過勤務手当及び休日給手当制度を適用せず,特殊勤務手当制度において措置を講ずることとした」(注5)というのがそれである。
 小中学校の教師にとって超過勤務手当がなじまないのであれば,大学教師にとって「勤務の実績を時間計測によって給与上評価する」ことはなおさらフィットしないはずである。ただ,大学教師の場合,これまでは勤務実績を給与上時間というレベルにおいてすら評価してこなかったといったほうが現実には近く,こうしたぬるま湯に浸ったままでは,リスクをとり,チャンスを活かす中間管理職を育てようとしても難しい。独立行政法人化という大きな流れのなかで,このような寂しい現状をどう変えていくのか(注6)。それが今,大学には問われているのである。

2 ドライなアメリカ

 労働基準法の成立に大きな影響を与えた外国法の一つに,アメリカの構成労働基準法(Fair Labor Standards Act of 1938)がある。
 同法は,最低賃金(時間当たり5.15ドル)および最長労働時間(週40時間を超える労働に対する50%の割増賃金の支払義務)についてそれぞれ規定する6条および7条を主な柱とする法律であるが,その13条(a)(1)は管理職,裁量職または専門職の地位にある労働者(executive, administrative or professional employees)のほか,外勤セールスに従事する者(outside salesmen)について,これらの規定(ただし,6条(d)に定める男女同一賃金に関する規定を除く)の適用除外を認めるものとなっている。
 このことを一般に「ホワイトカラーの適用除外」(White-collar exemptions)というが,表1にみるようにその要件は比較的緩やかであり,こうして認められる適用除外の範囲はかなり広い(注7)。

表1 ホワイトカラーの適用除外とその要件(アメリカ)

 このうち特に問題になるものがあるとすれば,それは報酬を俸給ベース(salary basis)で支払わなければならないという,管理職等について課せられた要件にある(週155ドル以上という報酬額とかかわる要件は最低賃金のレベル[週40時間で206ドル]を下回るのでまったく問題とならず,週250ドル以上という基準も最賃レベルを約20%上回るものでしかない)(注8)。
 俸給ベースの意味は,実際に働いた労働日数や労働時間数とは無関係に,あらかじめ決められた額を使用者が報酬として支払わなければならないという点にあるが,病気または事故以外の個人的な理由によって1日以上欠勤した場合には減額も可能とされている。また,病気や事故による欠勤の場合も,疾病手当等による補償がある場合には同様に減額が認められている(陪審への出席等による欠勤の場合,減額はできないが,陪審手当等との相殺は可能とされる)(注9)。
 たしかに,欠務時間について賃金が減額されているような場合には,いかに給料が高くても適用除外の対象にはならないなど,俸給ベースを完全に守ることは困難ともいえる(注10)が,欠勤しても給料が減らない代わりに,残業しても給料が増えないという仕組みは、ある意味でシンプルでわかりやすい。
 アメリカの場合,こうした時間規制(overtime)の適用を受けない労働者は,労働省の推計によると,1996年現在,4831万5000人。このうち「ホワイトカラーの適用除外」の対象者は外勤セールスに従事する者を除き,3172万9000人と,雇用労働者総数1億2235万9000人の25.9%を占めるものとなっている。(表2を参照)(注11)。

表2 時間規制の適用除外の現状(アメリカ,1996年)

 他方,わが国の場合,その数を正確につかむことは難しいが,筆者が労働省「賃金構造統計基本調査」(1996年,企業規模100人以上)のデータをもとに試算したところによると、時間規制の適用を受けない(超過労働時間がカウントされない)労働者の割合は,男子に対象を限定したとしても一般労働者総数の15%にも満たない低いレベルにとどまっている(表3を参照)

表3 時間規制の適用除外の現状(日本,1996年/企業規模100人以上・男子)

 なお,「ホワイトカラーの適用除外」以外にもアメリカの公正労働基準法には数多くの適用除外規定がおかれており,時間規制の適用を受けない者は,実際には雇用者全体の約4割(39.5%)にまで増えることになる。(表2を参照)。
 規制改革の象徴的存在ともいえる小倉昌男氏(ヤマト福祉財団理事長)が語るように,労働基準法の欠陥が,労働時間の長さのみを問題にして,労働の質や密度を問題にしないところにあるとすれば(注12),そうした欠陥の及ぶ範囲はできるかぎり狭いほうがよい。思うに,物事をこのようにドライに割り切れるかどうかが,彼我の差を決定づけたといえよう。

3 規制に代わる選択の自由

 部下が能力を発揮できるかどうかは上司の出来いかんによる。しかし,その逆に,上司が業績を上げることができるかどうかも部下の働きいかんといった面がある。
 アメリカの場合,管理職には通常,部下の採用や解雇を行う権限が与えられており,このことは同国の労使関係法(National Labor Relations Act of 1935)2条(11)に定める管理監督者(supervisor)の定義規定にもよく表れている。つまり,これを「使用者の利益のために,他の労働者の採用,異動,休職,レイオフ,リコール,昇進,解雇,配置,表彰または制裁を行う権限」等を有する者とする定めがそれである。
 第2次大戦後,連合軍の占領下に制定されたわが国の労働組合法(昭和24年法律第174号,労組法)もその2条但書1号で,使用者の利益代表者を「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者」を含むものとして規定するにいたったが,これが合衆国の労使関係法をモデルとしていたことは疑いを入れない。
 しかし,アメリカとは違って,この規定に該当する者は,わが国の場合,人事課長等の役職者に限られる。アメリカの管理職であれば当然持っているはずの「部下を選ぶ自由」が,日本の管理職にはないのである。
 中間管理職が本当に必要としているのは,残業や深夜勤務に対して割増賃金の支払いを受けることではない(注13)。仕事の質や成果で報酬を決めるというのであれば,割増賃金の算定など時間のムダ以外の何ものでもないからである。一方,仕事や部下を選ぶ自由もなくて,結果だけを問われるのであれば,それもおかしい。仕事や部下の選択を管理職の手にゆだねるとともに,結果については厳しい評価の対象とする。こうした姿勢の転換が企業には求められているといえよう。
 なお,このような選択の自由は,裁量労働制のもとで時間規制が実質的に除外される管理職以外の労働者にとっても同様に必要となる。ここでもまた仕事や上司を選ぶ自由がなければ,成果主義は絵に描いた餅に終わるからである。
 たしかに,仕事や部下/上司を選択する自由はリスクを伴うが,リスクを避けていてはチャンスも訪れない。上司が部下を選び,部下が上司を選ぶ時代。近年広がりをみせつつある社内公募制がこうした時代の変化を先取りしたものとなるのかどうか。その行方に注目したい。


III 中間管理職と代表法制

1 良い上司悪い上司

 冒頭に紹介した労基法施行規則6条の2第1項は,(1)労基法41条2号に定める管理監督者が労使協定の締結等にあたる過半数代表者として適任ではないこと,および(2)過半数代表者を選出するにあたっては,投票,挙手等の方法による手続により,これを選出すべきことを規定する。しかし,筆者はそのいずれにも同意できない。
 誰がどのようにして過半数代表者に選出され,どのような労使協定を締結したのか(就業規則についてどのような意見を述べたのか)。従業員に対してそうした情報がきちっと開示されているかぎり,過半数代表者に誰がどのような形で選出されるかは従業員自身の判断にゆだねればよく,法はむやみにこれに介入すべきではない。筆写は現在もこう考えている(注14)。
 なるほど,時間管理を行う者が労働時間制度に関する労使協定の締結当事者となることには問題がある,との指摘には一理ある。しかし,使用者の労働時間算定(時間管理)義務の根拠は労基法108条に定める賃金台帳の調製義務に求めるほかなく,かくいう賃金台帳も,その目的は働いた時間に対応した賃金がきちんと支払われているかどうかを確認することにあり,それ以上のものではない。まして,労使協定のなかには賃金控除協定等,時間管理とは無関係なものもあり,時間規制の適用を除外されるというだけで,管理監督者に過半数代表者となる資格を認めないことには現行法上こうすることが最もたやすいとはいっても,相当無理がある。
 また,労働省「労使コミュニケーション調査」によれば,1984年の調査以降,不平不満を「直接上司へ」述べた者は一貫して70%を超えており,98年に社会経済生産性本部が実施した「職場生活と仕事に関するアンケート調査」では,我慢できないほどの不満を抱えた場合,それを解決するための行動として「上司に相談する」とした者が6割近く(57.7%)を占め,他の解決行動(「自社の労働組合等に相談する」14.9%など)を大きく引き離している(注15)。
 ただ,上司に対する評価が変われば,こうした上司の調整能力も当然に変化する(表4を参照)。それゆえ,良い上司であれば過半数代表者に選出されることもあろうが,悪い上司にはその可能性はない。いずれにせよ,誰を過半数代表者に選ぶかといった問題は,従業員自身の判断に任せればよいのである。

表4 我慢できないほどの不満を抱えた場合,「上司に相談する」とした者の割合

 なお,前出の小倉氏は,自らの体験を踏まえ,次のように説かれる。「要するに管理職は,現場をあまり見ていないし,また都合の良い報告はするけれど悪い報告は社長に一切しないのである。よく言われる通り,社長は孤独である。その孤独とそこから派生する弊害を補ってくれるのが,労働組合なのである。だから極論すれば,労働組合がなければ責任をもった経営はできない。私はそう思う」(注16)。労働組合の役割を見事に表現したものといえるが,世の中には組合のない会社も多い。そうした会社では,労使間におけるコミュニケーションのパイプ役をやはり中間管理職に期待するしかない。こうもいうことができよう。

2 管理職組合の限界

 再び冒頭の省令に戻ると,労基法施行規則6条の2第2項以下の規定からは,次のような労働省(労働大臣)の考え方を読みとることができる。つまり,管理職だけの集団においても代表制度は機能し,かつそれは法的にも保護するに値するという考え方である。
 たしかに,公務員法にはこのような発想がみられるし,そこでは「管理職員等」だけで職員団体を組織することが認められるとともに,その正当な行為に対する不利益取扱いも併せて禁止されている(国家公務員法108条の2第3項および108条の7を参照)(注17)。しかし,労組法にはそうした発想はなく,管理職(使用者の利益代表者)の参加を許すものは同法にいう労働組合ではないとされており(労組法2条但書1号参照),労基法施行規則の立場はむしろ公務員法のそれに近い。
 ただ,労組法のレベルで考えると本来は「労働組合」の行為として保護されないような官理職の行為がなぜ労基法のレベルでは保護されるのか。条文自体は「不利益な取扱いをしないようにしなければならない」(労基法施行規則6条の2第3項)となかば訓辞規定のような定めになっているものの,釈然としないものがある(注18)。
 また,公務員の場合,管理職員等だけによって職員団体が組織されたケースがこれまでのところごく少数の例外にとどまっていることからも明らかなように,管理職組合の結成が法律上認められたからといって,それが直ちに管理職の発言機会(ボイス機能)の拡大に結びつくわけではない。つまり,当の管理職にとって,管理職組合の結成は労働組合への加入(再加入)ほどの抵抗はないとはいえ,これを要望する者は依然として少数にとどまるのである。(ただし,管理職組合の結成を要望する者が年齢ときれいに相関する形で増える傾向にあうことは注目される。表5を参照)。

表5 ボイス機能とかかわる要望の有無(年齢別)

 このように,中間管理職について一般の従業員を対象とした代表法制をそのまま適用することには労組法のタテマエと抵触するという点で問題があり,仮に公務員法的な整理がなされたとしてもそれが管理職自身の要望とは必ずしも合致しないため,形だけの規定に終わる可能性が高い。
 とはいえ,中間管理職にも自身の抱える不平・不満や苦情はあり,文字どおり上下にはさまれたポジションにいることから,苦情内容はより深刻なものとなりやすい。では,そうした中間管理職にふさわしい苦情処理システム(発言機会の場)としては一体どのようなものがあるのか。以下では,それを最後に考えてみたい。

3 苦情処理システムの改革

 会社が組合員である従業員を解雇しようとする場合,できれば労働組合の同意を得ようとする。後でトラブルになるのを防ぐためである。だが,労働組合がいったん解雇に同意すると,後にこれを覆すことは難しい。労使間で一度は合意をみた事項をもう一度蒸し返すことになるからである。
 これまでわが国において苦情処理制度がろくに機能してこなかった理由は,こうした事前協議と事後処理との関係にある。事前に労使間でコトを決めてしまうために,事後にクレームを出されてももはや解決のしようがない。筆者は従来およそこのようにして,苦情処理制度には現在も未来もないものと考えてきた(注19)。
 しかし,先に引用した社会経済生産性本部の調査(職場生活と仕事に関するアンケート調査)は,
 (1) 我慢できない不満を抱えた場合にとる行動として「社内の苦情処理制度を利用する」と回答した者が1.2%と極端に少ないことを確認する一方で,
 (2) 職場の苦情や不満を解決するための効果的手段として「苦情や不満を申し立てる制度を設ける,もしくは利用しやすくする」を挙げた者(38.7%)が、「職場の管理職が苦情や不平の相談にもっと応じるようにする」と答えた者(53.3%)に次いで多いという,一見矛盾するともいえる従業員の意識状況をも明らかにする。
 現行の苦情処理制度は利用しないが,苦情処理制度そのものはあったほうがよい。それが多数の従業員の考え方であるともいえるが,現行制度を利用した経験のある者についても,我慢できない苦情を抱えた場合に「社内の苦情処理制度を利用する」と答えた者が5%程度(5.1%)にしかならないことが示しているように,苦情処理制度のちょっとした手直しでは,その利用は一向に進みそうもない。
 ただ,調査結果(表6および表7)によれば,現在は会社の人事労務部門や労働組合の本部・支部が苦情の主な受付窓口となっているが,従業員自身は,こうした人事労務部門や組合役員が相談に応じることを望んでいないことがわかる。つまり,現実に労働条件の決定や執行とかかわる者が同時に苦情処理にも関与すること,いいかえればプレイヤーがジャッジを兼ねることに,従業員は抵抗しているのである(注20)。

表6 苦情の受付窓口(M.A.)

表7 職場の苦情や不満を解決するための効果的手段(M.A.)

 したがって,このプレイヤーとジャッジの関係にメスを入れれば,事態は改善の方向にむかうに違いない。こう考えた結果,考案されたものが,上に図示する「公正処遇委員会」と柱とした,新しい苦情処理システムのモデルにほかならないのである。

図 新たな苦情処理システムのモデル

 公正処遇委員会の作成した「苦情処理に関するガイドライン」をもとに,相談窓口が関係部署に個別の苦情処理策を提言し,その処理結果の報告を受けるとともに,これをさらに公正処遇委員会に報告する。公正処遇委員会の機能はその内容をチェックし,それに基づいて関係部署を指導することにあり,公正処遇委員会それ自体が苦情処理を行うことは考えていない。
 本モデルの特徴は,公正処遇委員会や相談窓口(ジャッジ)を労働条件の決定や執行とかかわる労使協議機関や人事労務部門(プレイヤー)から切り離して,これに独立性を持たせた点にある。それゆえ,公正処遇委員会の委員には,委員会が労使を中心としたものになるとはいえ,労使協議機関の構成メンバーとは異なる,監査役や非常勤役員(経営側),特別役員や産業別労組の役員(労働組合側)といった者が選任されることが望ましい。また,相談窓口の担当者についても,的確で公正な対応が期待できるという点で,企業の内部や人事諸制度等の事情に精通した企業OBやすでに雇用関係がなくなっている組合OBにこれを委嘱することが考えられる。
 なお,本システムは,中間管理職を含む企業内のすべての構成員がその利用者となることを想定しているが,なかでも中間管理職については人数が多数にのぼることから,その代表者を労使委員とは別に,公正処遇委員会の委員に加える必要がある。また,公正処遇委員会が労働組合やこれが参加する労使協議機関から一定の距離をおいた存在であることは,その多くが非組合員である中間管理職にとって,特にふさわしい発言機会の場を提供することにもなる。筆者らはこう考えるのである(注21)。
 ともあれ,ミドルがしっかりしないと,会社も官庁も,そして大学さえもこれを維持できない。リスクをとり,チャンスをものにした中間管理職は思い切って抜擢する(厚遇する)。新しい苦情処理システムには単なる苦情処理にとどまらず,そうした前向きの提案機能も併せ持つことを期待したい。


(注1) 国立大学の場合,実際の運用は人事院規則9-42(指定職俸給表の適用を受ける職員の俸給月額)に基づいて行われており,通常,研究科長(学部長)はこれに含まれる。

(注2) 実際の運用においては,人事院規則9-17(俸給の特別調整額)別表の適用を受ける者以外も,その対象とされる。たとえば,大阪大学の場合,全評議員がこれに含まれる。

(注3) 給与制度研究会編『諸手当質疑応答集[第10次全訂板]』(1999年,学陽書房)320頁

(注4) 大阪大学の場合,評議員(部局長を含む)の数は現在,60名弱となっており,全教員に占めるその割合は約2.5%となる。

(注5) 人事院勤務時間制度研究会編著『公務員の勤務時間・休暇法詳解[第1次改訂版]』(1998年,学陽書房)179頁。

(注6) なお,独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)59条は,給与法および勤務時間法を独立行政法人の職員には適用しないと定めている。

(注7) 表1は,日本生産性本部労使協議制常任委員会編『1993年版労使関係白書』113頁の表(筆者作表)をベースとして使用した。なお,裁量職に関する適用除外要件の詳細については,拙稿「裁量労働と成果主義」『季刊労働法』185号(1998年5月)26頁以下,35頁を参照。

(注8) なお,1999年第3四半期における管理職等(executive, administrative, and managerial)の週給の中央値は,男女計で796ドルとなっている。See BLS, Usual Weekly Earnings of Wage and salary Workers: Third Quarter 1999.

(注9) 以上,29CFR541. 118-Salary basis(管理職)による。

(注10) 現行規制の問題点は,1999年9月に合衆国下院教育労働委員会・労働保護小委員会に提出された以下の報告書に詳しい。See GAO/HEHS-99-164, Fair Labor Standards Act: White-Collar Exemptions in the Modern Work Place.

(注11) なお,上記GAO報告書は「ホワイトカラーの適用除外」の範囲を最大で一般労働者(フルタイム)の27%,最小で20%と推計する。

(注12) 小倉昌男『経営学』(1999年,日経BP社)175頁を参照。

(注13) なお,管理監督者の深夜業規制(割増賃金)の問題点については,前掲拙稿「裁量労働と成果主義」33-34頁を参照。

(注14) 詳しくは,拙稿「三六協定に関する覚書」『阪大法学』45巻3・4号(1995年10月)79頁以下,94頁を参照。

(注15) 以上,詳しくは,社会経済生産性本部労使関係常任委員会報告書『職場と企業の労使関係の再構築(1999年)69頁以下所収の拙稿「調査結果からみた個別労使紛争の解決のあり方」,特にその71-73頁を参照。

(注16) 小倉・前掲書注12)198頁。

(注17) なお,地方公務員法52条3項および56条にも同様の規定がある。

(注18) 「訓示規定」とされた理由が管理監督者への配慮にあるとすれば,一般の労働者がいわば側杖を食らったことになり,なおさら問題である。

(注19) 詳しくは,拙稿「企業内における紛争解決」『日本労働法学会誌』80号(1992年)27頁以下を参照。

(注20) 以上,詳しくは,前掲拙稿「調査結果からみた個別労使紛争の解決のあり方」80-84頁を参照。

(注21) 以上,詳しくは,社会経済生産性本部労使関係常任委員会・前掲報告書19頁以下所収の「『公正処遇委員会』設計モデル案」を参照。


こじま・のりあき 1952年生まれ。神戸大学大学院博士課程退学。大阪大学法学部教授。主な論文に「民営職業紹介事業と規制のあり方」(『日本労働研究雑誌』No. 437, 1996年)など。労働法専攻。