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(著者抄録)
本論は不確実性への対処が、仕事の成果に影響を及ぼす程度が極めて高いホワイトカラー職種の技能形成方式を、キャリアの聞き取りにもとづいて解明する。そこで、ごく少人数で巨額の保険、年金の資金を運用する大手生保2社の株式運用のファンドマネジャーを対象として、必要となる技能がいかなるものかを業務の過程を観察することにより明らかにし、それが入社からのキャリアを通じてどのように形成されるのかを、各社の人事部、そして運用のベテランである課長への聞き取り調査、および30数名の入社からの個別キャリアをもとに明らかにした。その結果、各社共通して次の結果が見いだされた。まず勤続年数に占める資産運用職能での経験年数が長いこと。その資産運用職能での経験は、運用業務に関連性が深い融資、調査等を経験していること。さらに運用を行う課内では投資種類、運用額、運用方法で、損失の可能性の低い運用から始まり、徐々に高いものを組み入れていく経験のさせ方があり、企業内で長期で技能を形成していく仕組みがとられていることが明らかとなった。

(論文目次)
I はじめに
II 必要となる技能
III 技能形成
IV むすび

I はじめに

 1 問題意識

 本論は不確実性への対処が,仕事の成果に影響を及ぼす程度が極めて高いホワイトカラー職種の技能形成方式を,キャリアの聞き取りにもとづいて解明する。ホワイトカラー職種の中でも,不確実性あるいは失敗や損失の可能性が常につきまとうなか,業務をこなしている代表として,金融業のディーラー,ファンドマネジャーが挙げられる。しかしながら,一般にこうした業務に必要な技能は,企業間で通用するものとされ,企業間移動が多い仕事とされている。それではこうした損失の可能性が高い業務に必要な技能というのは,他のホワイトカラーとは異なり,企業において長期で形成する必要がない性質のものであるのかという疑問がある。また現在の金融機関を取り巻く環境は,業態,国を超えて競争が激化している状況であり,企業の存亡は資産運用の巧拙にかかっているとされる。今後運用力で海外金融機関と競争がさらに激化することが予想されるなか,海外との差異を明らかにする比較を行うためにも,まず日本企業における資産運用の技能形成・人材形成方式を明らかにする必要があると考えられる。
 こうした問題を明らかにするため,資産運用業務に着目する。具体的には,生命保険会社の運用業務を例にとり,失敗したときに損失額が高くなるという状況で,ごく少人数で巨額の保険,年金の資金を運用するファンドマネジャー,つまり国内,海外の株式,債券などの資産を運用する者に焦点をあて,大手2社(A社,B社)の資産運用部門に聞き取り調査を行う(注1)。そして資産運用の領域の中でも,損失の可能性が高いとされる株式の運用を行うファンドマネジャーについて,各社のキャリアの幅(入社からの異動,課内の異動)を考察することにより,いかに技能が形成されるのかを分析する。

 2 先行研究

 企業内でキャリアを通じて,技能がどのように形成されるのか,というホワイトカラーの技能形成の研究,また企業内で,ある専門職能の中でどのような仕事を経験しているか,またどのような他の職能を経験しているのかという,キャリアの幅に関する研究は近年蓄積されつつある。しかしながらキャリアの幅を調べ,企業内で技能の形成がどのように行われるのかを分析したものはごくわずかに限られる。小池編(1991)は,様々なタイプの産業を詳しく分析し,日本の大企業ホワイトカラーのキャリア形成の特徴が,ある特定の職能(主専門領域)および関連した職能間で異動がなされ,「はば広い専門性」があることを明らかにした。しかしながら,入社からの個人のキャリアの実態については述べられていない。
 そして日本労働研究機構(1997)は,日米英独の大企業数十社の人事,営業,経理の3職能を対象に,雇用管理(昇進・昇格,選抜,Off-JT,報酬制度),そして技能がいかに形成されるのかを幅広く,しかも綿密に聞き取り調査を行っている。その調査結果の一つに,不確実性をこなすノウハウ,技量の形成の核心である仕事経験の幅は,各国とも「幅広い1職能型」が優位であること。そして,Off-JTが欠かせないとはいえ,技量の形成の中心を担ってはいないことを見いだしている(注2)。
 そしてこれまでの生命保険業における人材形成に関する研究は,女性の労働という側面から,外務員について研究がいくつかなされてきた(注3)。しかしながら本論で扱おうとしている運用業務における技能形成,キャリア形成の面からの研究はなされていない(注4)。

 3 解明すべき事柄

 まず資産運用に必要となる技能を,業務の過程を詳しく考察することにより明らかにする(注5)。次にこうした技能が入社からどのように形成されるのかを考察する。つまり,入社からの個別キャリアを分析し,経験された仕事に関し,それがファンドマネジャーの技能にどのように役立っているのかを明らかにする。本論では仕事経験,異動の分析を行うために,次のような方法をとる。まず第1に職能間の異動について見る。ここでいう職能とは,図1のように,一つは「保険・年金」という商品に関する販売・事務業務とし,もう一つはそれらの資産を様々な方法で運用するという「資産運用」の業務として,仕事経験が一つの職能か,あるいはどちらの職能も経験しているのかを見る。第2に資産運用の職能内の異動について見る。資産運用の職能は,運用対象別に「融資」「証券」「不動産」という三つの領域に,分けられるが,職能内でどのような領域間の異動が行われているのかを明らかにする。第3に証券の領域内においても異動が行われていることが考えられる。証券は株式・債券に分かれ,その下に証券の受け渡し,および経理業務を行う「証券総務」,産業・企業,株価の現状,およびそれらの将来の動向分析を行う「調査」,そして実際に運用を行う「運用」の三つの小領域がある。そこで領域内での異動についても分析を行う。これらに加え,ファンドマネジャーの技能形成にOff-JTがどのような役割を担っているのかを見る。以上を分析するため,人事部,および資産運用のベテランである課長クラスに聞き取りを行う。

図1 異動分析の枠組み



II 必要となる技能

 1 必要となる技能

 一般的に株式,債券等の証券運用に関する技量・技能は,カン,相場観であるとされ,極めて抽象的な言葉により説明される場合が多い。しかしながら単なるカンでは,毎年損失の可能性の高い市場において,収益を得ることは不可能であることは言うまでもない。株式の運用を行う際,失敗したときの損失の可能性が高くなるのは,各社での聞き取りを統合すると,次の六つがある。(1)投資企業の財務内容の悪化,(2)株価の下落,(3)様々な投資種類から投資銘柄を選択したとき,(4)莫大な投資額が投資されているとき,(5)投資期間が短期であるとき,(6)損失の推測方法が高度,困難な場合である。カンではこれらの損失の可能性を少なくする対処は当然できまい。そこでこれらをこなすには,どのような技能が必要であるのかが重要となる。結論を先取りするならば,資産運用の業務の過程を観察することにより次の五つの技能が明らかとなった。それは,(1)マクロ経済(国内外経済,金利・為替),産業,個別企業に対する現状の把握,(2)証券市場における様々な指標,たとえば経済,産業などの状況を示す指標のうち,どれが株価に影響を与えるかの見極め,(3)重要な指標からの株価の予測,(4)市場変動への対処,(5)運用方法(デリバティブ)に関する知識である。

 2 運用業務の過程

 (1) 資産配分(アセット・アロケーション)
 こうした技能がなぜ必要なのか,資産運用の業務の過程について以下見ることにする。まず運用業務に入る前の過程を少し説明する。まず年度前に,経理・財務部から年間の資産運用の総額が提示される。次に図2の運用企画部では,それを運用するため資産配分(アセット・アロケーション)を行う。たとえばA社の運用企画部では,「収支予測」と「計画」に業務が分かれており,まず「収支予測」が国内および海外の経済・市場状況から年間の各運用の予測値を算出し,それをもとに「計画」が1年間の資産の運用配分を,たとえば国内株式20%,国内債券10%,外国株式10%,外国債券10%,融資40%,不動産10%というように決定する。次にそれを四半期ごとに分け,さらには1カ月単位に分ける。こうした配分をもとにして,一定額の資金を,株式,債券のファンドマネジャーが担当し,その範囲内に限り,自らの判断で投資を行うことになる。

図2 資産運用部門の組織

 以下運用業務の過程を見るが,まず各社の投資課の組織の違いを示すことにする。A社は,B社と異なり,投資調査部(アナリスト)は組織上分かれている(図3)。B社の株式投資課は,国内の上場・未上場会社の株式投資の分析を行うアナリストと,その運用を行うファンドマネジャーが同じ課に在籍する(図4)。またA社では,国内の上場・未上場会社の株式運用を行う課もあるが,話を聞くことができたのは国内・国外両方の株式運用を行っている課である。

図3 A社の組織

図4 B社の組織

 (2) 運用方針の選択
 株式投資課の株式担当ファンドマネジャーの業務は,まず運用企画部から配分された資産をもとに,具体的にどのような銘柄に投資し,どのような方針で運用を行うか判断を行うことにある。たとえば,運用資金が委託者から運用に関する指示がある特定金銭信託の場合,特に高い収益が追求される場合が多く,そのためには損失の可能性が高い局面で運用を行うことが必要となる。この場合ファンドマネジャーは,短期的に株価上昇が予想される個別の銘柄を選び出し,それに投資する。また株価が全体で上昇すると判断した場合,株価全体の動きを示すものであるインデックス(市場指標)により運用を行うことを決定する(注6)。これらとは逆に,運用資金が年金のように長期の場合もある。たとえば10年間で収益が得られることが望まれる場合,短期的に株価が上昇するよりも,長期で着実に株価が上昇していきそうな銘柄を選び出すことが必要となる。さらにこうした運用方針の選択だけではなく,近年デリバティブ運用,つまり価格変動に対して損失の可能性を分散する運用方法を選択することも必要となっている。

 (3) ポートフォリオの作成
 運用方針を決定すると,次に株式のポートフォリオ(証券の組み合わせ)を作成することが必要となる。なぜポートフォリオを作成するかというと,ある一つの銘柄のみに投資を行うことは,極めて損失の可能性が高く,逆に分散投資を行うことにより,その低減効果を得ることを期待するからである。以下では,先に述べたインデックス運用ではなく,ファンドマネジャー間で運用の差が出る個別銘柄での運用を例にとり,投資までの過程をみることにする。
 まずポートフォリオの作成には以下の作業が必要となる。第1に,運用のシナリオを様々な要因をもとにして考えることである。つまり,マクロの経済状況,金利・為替状況から,株価全体が今後どのような動きになるかを考えること。第2に,どのような業種をポートフォリオに組み入れ,ポートフォリオの中でどの業種の比重を高めるかを決定する。そのためには業種別のタイプ分けを行い,どの業種が現在割安であるのか,また今後収益性が高くなるのかを分析し,ポートフォリオにおいてどの業種を重点にして投資し,どの業種の割合を少なくして運用を行うのかの判断が必要となる。

 (4) 個別銘柄の決定
 次にそれぞれの業種の中から,個別銘柄を選択する作業に入る。しかしながら数千とある個別銘柄の中から,どのように銘柄の選択を行っているのであろうか。それには,まず投資調査部のアナリストが作成した個別銘柄の分析,評価が参考とされる。たとえばA社の投資調査部では,およそ20名のアナリストが年間約1000社を訪問し,企業のレポートを作成している。そのレポートが投資調査部と株式投資課で検討され,さらには証券会社の調査レポートも参考にされ,中長期,中短期別に5段階の評価が行われている。またB社では,株式投資課全体で,上場,未上場会社あわせて,約3000社の企業別の評価を行っている。この企業評価は,収益性,安定性,さらには5年後の収益を予想し,それをA,B,C,D,Eの5段階で評価づけをしている。評価がA,もしくはBの場合,株価成長率が高い企業と評価され,またE評価の場合,今後倒産が予想される企業として投資不適当と評価される。この評価は,まずアナリストの分析をもとにして,アナリストとファンドマネジャーが一緒に仮ランクを作成し,その後,3大証券会社のアナリストにそれに対する意見を聞く。そして必要な場合は,修正を行い,最終的に企業別の評価表が作成される。
 以上のような個別銘柄の評価をもとにするだけでなく,ファンドマネジャー個人による個別銘柄の分析も必要になる。A社の課長の言明によると,そこに個人差が出るという。たとえば初任ファンドマネジャーの場合では,本人がアナリストを経験した際,株価の収益性が高いと判断を行った企業を集積することによりポートフォリオを形成している場合が多くなることがある。それに対し中堅,ベテランのファンドマネジャーになるにしたがい,株価の収益性が高いと本人が判断した個別企業の集積だけではなく,今後の経済状況,各業種の動向等,マクロ経済に関する判断を組み入れ,個別銘柄を選択しているという。このような個人差の出る個別銘柄の選択は人事考課にも反映される。たとえば,A社課長によると,これまでの評価はどれくらいの収益を上げたのかという運用実績のみで行ってきたが,1998年からは単に運用実績だけでなく,個別銘柄の選択が的確であったのか,また安定運用・損失を回避した運用を行ったか,など詳細な評価基準を設け,それを処遇に反映させているということである。

 (5) 銘柄組み替え
 個別銘柄が選択されると,実際に運用が行われるが,市場の変動により予期しない変化が起きることもある。変化により予測から運用が乖離した場合には,運用企画部,投資調査部と一緒にその原因を分析し,資産運用配分の修正,たとえば産業の投資比率の変更等を行う。さらに株式の急落が起きた際には,即座に対応策を講じないと多大な損失を被ることになる。そこで対処の判断がうまく行われると,急落が起きた際でも損失額を最小限に抑えることができる。各社投資課長の言明によれば,その判断に差が出るという。A社の課長によると,常に経済状況,各業種等のマクロ的動向を考えて投資を行っていれば,こうした状況に対処しやすくなるとしている。こうした市場の変動に対する判断を行うには,次のことが必要となる。株価の動きには傾向があり,長期的に見れば同じ動きをする場合が多い。その分析を行っていると,株価の下落が起きた際,それ以降どのような株価の動きになるのかがある程度予想でき,即座に対応を打つことができるという。こうした対処の仕方も,先の個別銘柄の選択と同様,評価の項目の一つとなっており,いかに損失を回避した運用ができたかが問われ,処遇に反映される仕組みとなっている。



III 技能形成

 1 入社からのキャリア

 以上の業務の過程から明らかとなった必要な技能はどのように形成されるのであろうか。それには入社からのキャリアの幅に着目する必要がある。まず人事部と課長の言明から見ることにしたい。各社とも,採用は人員数が大半を占める保険商品の販売,およびその事務的業務と,資産運用業務とは別になっていない。入社後の新入社員研修を経ると,支社への配属がほとんどである。A社の場合,入社後必ず支社業務を経験させるという方針はなく,資産運用職能に初任配属となる者がいる。その場合,証券投資部での証券総務,融資審査部,投資調査部に配属となっており,実際に運用を行う者は少ない。そしてB社では,資産運用職能へ直接配属となる者は,ごく少数である。それは理系出身者で,コンピューターで運用モデルを構築し,運用を行う運用開発部門への配属となっている。それ以外は全員,生命保険会社の主たる業務の一つである保険・年金の現場を一度でも経験させるため,入社後1年間,保険・年金に関する研修が行われ,その後支社で保険等に関する業務を2,3年経験させる方針がある(注7)。そこでは保険の営業ではなく,保険に関する事務を経験している場合が多いという。証券投資部に異動した後には,人事部の方針ではなく部内の異動の方針があり,初任には証券運用の基礎を覚えさせるため証券総務を経験させている。その後アナリストを最低でも2,3年経験させてから,ファンドマネジャーを経験させるようにしているという。以上のことから,各社とも入社後にいきなり資産運用部門へ配属となる者はごく少数で,配属となった場合でも,実際に運用の業務は行わず,証券総務の経験を行っている。
 また各社の課長に対して,望ましいファンドマネジャーの育成方式について聞いたが,共通して融資審査と投資調査の経験が必要であるとしており,それぞれで個別企業の分析を行うことを強調している。なぜ二つのタイプの個別企業分析が必要なのであろうか。これにはファンドマネジャーの業務に深く関連している。つまりファンドマネジャーが個別銘柄を選択する際,次の二つの作業が必要となるからである。まず第1に企業の「信用リスク」の分析が重要となる。信用リスクとは融資先あるいは投資先の経営悪化により融資,投資が回収できなくなることであるが,その損失の可能性を考えなければ投資の対象とすることはできない。第2は「株価の収益予測」の分析である。信用リスクがたとえ低くても,株価の収益が低いと予想される銘柄には当然投資することはできない。そこで株価の収益性の高い銘柄を選ぶことが必要になる。「信用リスク」は融資審査で,「株価収益予測」は投資調査で経験することができるという。

 2 個別キャリア

 (1) 個別キャリア
 以上のことを個別のキャリアとつきあわせることにより異動,技能形成の実態を明らかにしたい。A社では株式運用担当者だけでなく債券運用担当者と,運用企画部の計画担当をあわせて19名のキャリアを,B社では株式投資課全員の14名の個別キャリアを入手することができた(表1,表2)。まず表の見方であるが,左から課員の現在の担当業務,勤続年数が記してある。勤続年数のカッコ内の数値は,資産運用職能での経験年数を表している。さらにその右では他職能経験の有無を見ている。保険・年金の販売等の経験がある場合には,カッコに経験年数が記してある。そして経験した部署が支社ではなく,本社で経験した場合のみ本社と記してある。他職能を経験している場合,各社とも資産運用職能を経験する前に経験しており,資産運用の経験をしてからの他職能への異動は行われていない。次が資産運用職能内の経験である。経験の順に配置してあり,融資領域から証券領域の経験,そして証券領域では証券総務,調査,運用の小領域経験と経験年数を記している。さらにはA社のみ資産運用企画担当者のキャリアも入手することができたので,企画の経験を記してある。

表1 A社(運用企画部,証券投資部)キャリア

表2 B社(株式投資課)キャリア

 まず表1でA社の入社からのキャリアについて見ることにしよう(注8)。経験年数をみると資産運用部門内での経験が長いことがわかる。そして資産運用職能のみの経験者は19名中10名となっている。その中の1名の運用開発担当は,先の人事部課長の言明と一致して支社等の他の職能の経験がない。資産運用職能のみ経験の者が半数を占めていることになる。そして他職能を経験している者9名を見ると,まず「保険業務(支社,本社)のみを経験した者」が7名いる。支社での業務は,保険や年金の営業を行ったり,営業職員の支援,教育,個人融資など様々である。本社では,支社のサポート,保険の保全等を行っている。そして生命保険業のもう一つの主要な業務である「年金業務のみ経験した者」は1名で,「保険・年金業務両方を経験した者」は1名である。しかしながら,このように他職能を経験している者の経験年数をみると,およそ2,3年と短く,しかもその経験は先に述べたように入社直後であり,その後は資産運用部門での経験が長いと言える。
 次に15名の運用担当者(株式,債券)が,資産運用の職能内でどのような経験があるのかについて分析する。まず「証券の領域の経験のみの者」と,「資産運用職能の他の領域である融資,不動産,企画を経験している者」とに分けると,「証券領域の経験のみの者」が10名,「他の融資,不動産等の領域も経験している者」は5名である。しかし他の領域の経験は融資,企画の領域であり,不動産の領域を経験している者はいない。
 そして証券領域の中で運用の前に証券の領域内でどのような経験をしているのかをみることにする。領域内の経験を明らかにするため,「証券総務のみを経験している者」「調査のみを経験している者」「証券総務・調査両方を経験している者」に分けることにする。その結果「証券総務のみを経験している者」が6名,「調査のみを経験している者」が4名,「証券総務・調査両方を経験している者」が2名,そして「経験していない者」が3名であった。証券総務・調査を経験している場合のほとんどが,株式担当であれば株式の総務,調査(企業調査)を,債券担当であれば債券の総務,調査(経済調査)を経験している。このことから,運用の前に領域内の経験をしない者よりも,運用に関連のある証券総務,調査の経験をしている者が多いと言うことができる。
 さらに株式の運用担当者5名(F,G,K,L,Q氏)にしぼり,資産運用職能内でどのような経験を行っているかを見ると,調査(アナリスト)を経験した者が3名,融資を経験している者が3名である。運用企画課長(A氏)も株式の運用を経験しており,その者のキャリアも含めると,6名のうち,調査を経験した者が4名,融資を経験している者が4名となる。これは先に述べた人事部,課長の言明とほぼ一致しているが,全員が企業調査,融資を経験しているわけではない。また運用にいきなり配属となっている者が1名(S氏)いる。その者はどのように運用を行っているのか,という疑問が生じる。しかしながらA社の課長によると,運用する額が少なく,業務の中心は運用の補助的業務,たとえば株価の現状,見通しの資料作成等を行っており,証券総務,アナリスト的な業務を行っているということである。
 次に表2のB社では,資産運用の経験のみの者は14名中2名しかいない。理系出身の運用開発担当と一般職の者を除き,その他の12名は,支社での保険業務を多数が2,3年行っている。資産運用職能での経験をみると,証券領域の経験のみの者が13名いる。他の領域では融資を経験した者が2名おり,A社と同様に不動産を経験している者はいない。
 次に株式運用担当6名が,証券の領域内でどのような経験を行っているかを見ると,「調査のみを経験している者」が2名,「証券総務・調査両方を経験している者」が2名,「運用以外の経験をしていない者」が2名であった。しかしA社と同様に,B社の課長によると運用のみの経験でも運用に配属されて1年間は,担当する資産がごくわずかで業務の中心は運用の補助的業務,つまり証券総務,アナリスト的な業務を行っているということであった。
 以上の各社の個別キャリアの分析から次のような差異,共通点が見いだされる。まず異なるのは,A社では資産運用職能のみの経験者がおよそ半数いるのに対し,B社では資産運用職能のみの経験者はほとんどいないことである。そして共通しているのは,まず他の職能を経験している場合でもその経験年数が短いこと。そして資産運用の領域をいくつも経験しているのではなく,経験している場合,融資の経験で,不動産の経験はない。そして重要なのは,証券領域ではいきなり運用を行っている者は少なく,証券総務,調査を経験しており,その経験がない者が運用の配属となっても,業務の中心は証券総務,調査であることである。以上の人事部,課長の言明,および個別キャリアから見いだされた経験について,なぜその経験が必要であるのかを分析することにしたい。

 (2) 支社業務
 まず支社の経験について見ると,A社で支社を経験している者は8名,B社では12名であった。B社では理系出身の運用開発担当と一般職の者を除き,入社後の研修の1年間を終えて,支社での事務を2,3年経験している。支社では,実際に保険や年金の営業を行ったり,営業職員の支援,教育など様々であるが,支社の経験は,資産運用職能の業務にどのような得失があるのであろうか。各社課長によると,支社での保険に関する業務は,資産運用の業務とほとんど関連性がなく,その経験は資産運用業務には役に立っていないという。生命保険会社の主たる事業である保険・年金の現場を経験することは必要であると考えられるが,各社とも今後は,人事部の方針で資産運用職能内で人材育成を行い,より専門的な運用を行うこととしている。また,運用の競合が生保間だけでなく,他の業態間ともあることからしても,運用業務に関連のない経験を2,3年行うことは,その分時間的な損失につながるため,より職能内で専門的な異動を行うことが重要と考えられる。

 (3) 融資審査の経験
 各社とも他領域では不動産を経験している者は1名もおらず,融資を経験している者が数名存在した。また各社の課長は,ともに融資審査の経験があり,運用に際しその経験が役立つことを強調していた。そこで融資審査の業務がなぜファンドマネジャーの業務に役立つのか注目する必要がある。融資の審査で最も重要とされるのが企業の信用リスクである。信用リスクとは先に述べたように,融資先が経営悪化により融資,投資が回収できなくなる可能性であるが,それを分析しなければ融資の対象とすることはできない。それには企業の財務状況,事業計画,担保物件,販売状況等を,損益計算書や貸借対照表で,あるいは企業訪問を行い審査することが必要となる。たとえばA社の場合,審査のための書式というものはなく,1人で細部まで調べレポートを作成し,何度も上司にチェックしてもらい,足りないところがあればその都度調査を行い,融資の決定を行う。融資を行った後も,その融資が回収できるのか,また自分の分析が正しかったのかをみるためにも財務諸表を調べたり,企業訪問を続ける。融資業務は各社とも規模,業種間の異動がある。融資に配属されたばかりの者が大企業を担当する場合もある。中小企業の審査は,一つの企業を細部にわたり調べることができ,大企業では企業を幅広くみることができる。およそ2,3年で担当業種,規模が変わることにより,大規模,中小規模,いくつかの業種を経験する。こうした経験はA社課長によると,ファンドマネジャーの業務に深く関連しているという。融資審査部では,一つの業種,特定の規模の審査を行うよりも,いくつかの業種を担当し,規模も中小規模と大規模の融資審査を行うほうが,ポートフォリオを作成する際,様々な業種に関する信用リスクの分析ができるので,その判断が行いやすいというメリットがあるという。つまり融資審査を行うことは,ファンドマネジャーが企業,産業を選ぶ際の,信用リスクを分析する基礎になっていると言うことができる。

 (4) 証券総務
 各社とも証券総務の経験を持つ者が多いことが見いだされた。またA社でも証券総務を経験していない初任ファンドマネジャーも,証券総務的な業務を行いながら運用業務を行っていた。それでは証券総務とはどのような業務を行うのであろうか。そこでは運用に関する基礎的業務を行う。大まかには,証券の受け渡し業務,税金等の経理業務,運用がうまく行われているのかをチェックするリスク管理業務を行う。しかしながらこの場合のリスク管理とは,運用予測と実際のズレをみるだけで,その原因の推理は行っていない。

 (5) 調査(アナリスト)の業務
 アナリストは,業種ごとに担当が決まっており,その業種の企業の分析を行うこと,そして株価の収益予測を行うことが業務の中心である。それにはまず様々なマクロ的指標を分析し,それが株価にはどのような影響を与えるのかを考えることが必要となる。次に株価にはおおよその傾向があり,時系列データの分析を行うことにより,株価の予測を行うことができるようになる。A社課長の言明によると,アナリストは2,3年でおよそ一つの業種を担当するが,一つの業種のみの経験では,ファンドマネジャーに異動した際,マクロの判断がしづらいという問題がある。つまり一つの業種の経験では,ポートフォリオの作成,個別銘柄を選択する際,どうしても,自分が担当した,株価収益性が高かったり,成長性のある銘柄を中心にして銘柄を選択してしまう傾向がある。しかしながら,もしその業種の収益性が低い場合,他の業種を選択し,さらには個別銘柄を選択することは困難になるという問題がある。そのためいくつかの業種を経験することにより,幅広い判断ができるという。各社課長によると,アナリストとして一つの業種を担当するよりも,いくつかの業種を広く経験したほうが,ファンドマネジャーに異動した際,様々な業種の判断が行いやすいというメリットがあるという。以上のことから,アナリストの業務は,企業分析とマクロ経済(国内外経済,金利・為替),産業,個別企業に対する現状の把握,さらにそれらの様々な指標から株価予測を行うが,ファンドマネジャーの業務の一つである業種の分析,個別銘柄の選択に大きく関連している。先の融資審査の経験はファンドマネジャーが,個別銘柄を選定する際の信用リスクと共通するものであるが,アナリストの経験はファンドマネジャーが個別銘柄を選定する際の株価収益性の分析に大きく関連している。

 (6) 株式運用課内での異動
 ファンドマネジャーには運用歴が短い者から長い者までいる。そこでそれらの間には運用のさせ方に違いがあるのか。つまり損失の可能性が低い運用から,損失の可能性の高い運用へと異動,業務の分担が行われているのかということを明らかにする。それをみるために,ここでは運用を,(1)投資種類,(2)投資額,(3)運用期間,(4)運用方法に分け,違いを分析する。
 まず投資種類である。投資種類は株式は国内株式,外国株式に分けられる。そこで個別銘柄を選択する際,国内外の株式を選択することは銘柄数も多く,それぞれの国の株式市場,為替の動向もそれぞれ異なるため難しく,国内株式,外国株式のどちらかの株式を選択するほうが容易であるように思われる。A社の個別キャリアから,そのような異動,業務の分担が行われているのかを見ると,5名中2名は,まずどちらかの運用を行い,その経験を2,3年経た後,国内・外国株式の運用を行っている(図5)。その他の3名は運用に異動してすぐに国内・外国株式の運用を行っている。しかしながら課長の言明によると,外国株式を兼務する場合でも,運用歴が短い者と長い者ではその割合が異なっているという。つまり運用歴が短い者が外国株式を運用する場合にはその割合を低くさせているのである。そして徐々に外国株式の割合が高くなっていくようにしている。

図5 A社株式運用担当者の運用試験

 次に投資額について見る。一般的に投資額が多くなるほど,損失した際の額が大きくなる。そこで投資額についてはどのような経験のさせ方が行われているのかを見る。まず各社とも部長と課長が,各ファンドマネジャーが運用する額を配分するが,運用歴の短い者には運用額を少なく配分し,中堅,ベテランになるにしたがい徐々に運用額を増やしていく。扱う資産の格差はA社ではおよそ10倍であるという。
 そして運用期間については,次のことが想定できる。運用歴が浅い場合では比較的長期で収益を上げる運用から始め,逆に運用歴が長いベテランになると,短期で収益を上げる運用が行われることが推定される。しかしながら聞き取りの結果,運用期間については,そのような結果は見いだされなかった。というのは投資期間が長い場合でも年1回運用の評価が行われており,長期の運用といえども毎年決められた収益を上げなければならず,はじめに想定したような経験のさせ方は行われていないということであり,評価においても期間で差はつけていないということであった。
 運用方法の違いは,デリバティブを使用する運用と,デリバティブを使用しない現物での運用に分ける。デリバティブは,損失の可能性を低減させる目的の運用方法で,様々な運用方法がある。しかしながらそれらの取引の仕組みは複雑で,また損失に際する推計方法を理解していないと,逆に多大な損失を被ることになる。そこでどのような運用方法がとられているかを見ると,各社とも運用初任の者は,現物での運用を行い,中堅,ベテランになるにしたがい,デリバティブを使って,運用を行っていることが明らかとなった。
 以上のことから,表3のように株式運用課内においても,損失の可能性を低く運用させるために初任者は投資種類が一つで,投資額が少なく,損失の推計が困難でない運用方法を用いて運用が行われ,ベテランになるにしたがい,投資の種類,額が増え,様々な運用方法を用いるように異動が行われていることが明らかとなった。

表3 株式投資課の業務の分担・異動

 (7) Off-JT
 それではこうした技能を形成するために何か有効なOff-JT,資格があるのであろうか。そこで各社株式運用課で,どのようなOff-JT,資格の取得が行われているのかを見る必要がある。まずA社では,人事部,証券投資部が主催する業務に関連したOff-JTはないが,資格ではアナリスト,ファンドマネジャーに対し,財務諸表を見るために日商簿記2級,企業分析を行うために「証券アナリスト」の資格取得が要件となっている(注9)。また課内でマクロ経済に関するディスカッションが行われる。そのほかにはA社課長の経験では,ファンドマネジャー初任の際,大手証券会社の2週間の講習に参加し,証券投資の基礎知識を学んだことがあり,運用を行う基礎的業務の習得に効果があったという。
 B社は人事部から,総合職の教育体系を入手することができた。そこでは入社後5年の間に総合職のすべての者が,「生保大学(10科目)」「生保講座(6科目)」のうち,最低13科目の試験に合格することが義務づけられている。その中には,資産運用に関する科目があるが,その内容は,基礎的な部分にすぎない。そして株式投資課内では,まずアナリストの間に,「日商簿記3級,2級」,および「証券アナリスト」の資格を全員に取得させることが行われている。そして,B社では,分析に関するインフォーマルなOff-JTがいくつか行われている。まず一つは,課内全体でマクロ経済分析,株式市場分析,個別企業分析にそれぞれ分担が決まっており,1年間自分の担当について週1回報告することが行われている。これは次年度には担当が変わり,3年ですべての分析を経験することになる。個人では,とうてい行うことができないマクロ経済分析,株式市場分析,個別企業に関する分析を課内で分担し,分析を行っている。もう一つは先に述べた投資課内での投資する企業の評価である。これは必要な技能であるマクロ経済(国内外経済,金利・為替),産業,個別企業に対する現状の把握と証券市場における様々な指標,たとえば経済,産業等の状況を示す指標などのうち,どれが重要であるかをみきわめる技能を形成するうえで,重要なOff-JTとなっている。
 以上のように,各社とも証券投資の基礎的業務の習得や,課内でマクロ経済,産業,個別企業の分析に関するインフォーマルなOff-JTが行われており,ファンドマネジャーに必要なマクロ経済,そして個別企業等の分析面については行われている。しかしながら他に必要な技能である,「市場変動への対処」「運用方法」についてのOff-JTは行われていない。それらは先に述べた運用課内において,徐々に損失の可能性のある運用を経験することにより,そのノウハウが身につけられていると言える。

 (8) その後の異動について
 資産運用業務の中でも株式運用ファンドマネジャーについて見てきたが,それでは株式運用ファンドマネジャーを経験した後,債券運用ファンドマネジャーに異動が行われているのか,それとも他の業務に異動するのかについて見ることにしたい。まずA社では,課長によると債券運用への異動は行われていないという。このことは表1の個別キャリアからも株式,債券の両方の運用を経験した者が入社20年までを見ても1名しか存在しないということからも明らかである。しかしながら課長によると株式,債券両方の運用を経験したほうが望ましいとしている。その理由としては,債券の運用はマクロ経済の分析が中心であり,株式の運用でその分析ができれば債券の運用は行われやすいからであるという。逆に異動が多いのは運用配分(アセット・アロケーション)を行う運用企画部門である。その理由としては,運用企画部では融資,株式,債券,不動産等の全体的な運用配分を決定しており,たとえば株式の運用経験がないと,株価の全体的な動向がわからず運用配分の計画が決定できないからである。B社でも株式,債券間の異動はほとんどないが,異動させることが望ましいとしている。その理由としては,課長によるとA社と同様,株式・債券はマクロ分析が共通しており,異動してからもその経験が活かされるということである。実際に異動先として多いのは,運用企画部門で運用配分や,子会社の投資信託・顧問会社での株式運用などであるということである。



IV むすび

 本論では,リスク,不確実性が多分に存在する領域に関し,それに対処する技能形成の方法がいかなるものであるのかを,生命保険会社の株式運用ファンドマネジャーを例にとり,明らかにしてきた。結果としては,失敗や損失の可能性が高く存在する運用業務においても,企業内で長期で技能を形成するという仕組みがとられていることが明らかとなった。つまりファンドマネジャーの技能形成には,各社共通して損失の可能性を低減するキャリアの組み方があり,まず(1)投資企業の財務内容の悪化,(2)株価の下落という損失の可能性に対しては,前者は融資を,後者は調査を経験して低減する技能の形成方式が見いだされたことである。さらには株式投資課内においても,損失の可能性を低減する異動,業務の分担方式が存在した。つまり運用を行っていくうえで(3)投資種類,(4)運用額,(5)運用方法について,それぞれ損失の可能性の低いものから始まり,徐々に高いものを組み入れていくという方式であった。
 そしてこれまでの蓄積されてきた技能形成,キャリア形成研究との差異を見ると,第1に職能間異動が多いこと,第2に職能における様々な領域を幅広く経験しているのではなく,関連のある領域,小領域を経験しており,完全なる「幅広い一職能型」ではないことが特徴として挙げられる。しかしながら前者については,今後は一職能内での異動が多くなることが考えられる。というのは,現在,資産運用に関する規制が大幅になくなり,日本のみならず海外の機関投資家との競合が激化している状況であり,そうした競争に勝ち抜くため,今後はハイリターンを追求し,ますます株式運用の割合が増加すると想定される。そうした場合,より専門性を発揮するため,他職能(支社における保険・年金業務)との異動をなくし,資産運用職能内で育成を行うことが重要となるからである。そしてヒアリングを行った各社でも,今後は職能間の異動を少なくするという方針からもそのようなことが考えられる。最後に,こうした育成方式は,今後,より専門的に運用を行う投資信託・顧問会社,さらには海外機関投資家等と比較し,共通点,差異について分析する必要性が大きいと思われる。


*本論作成にあたり,小池和男教授,ならびにお二人の本誌匿名レフェリーの方々から大変貴重なコメントをいただき,深く感謝いたします。


(注1)従業員数は,A社はおよそ1万名,B社はおよそ8000名である。
   そのうち男子大卒は各社ともおよそ5000名。資産運用部門の人員数は各社ともおよそ500名である。
   聞き取りは以下の方々に1回につきに約1時間から1時間半行われた。
    A社人事部課長        1996年10月。
    A社運用企画部運用企画課課長 1996年7月,97年3月,98年4月,5月。
    B社人事部教育室室長     1996年7月。
    B社資産運用部株式投資課課長 1996年7月,98年3月,99年9月。

(注2)このほかに,技能形成の研究としてはMorrison and Hock(1986) が,異動については中村(1992)(1995),日本労働研究機構(1993)(1998)などがある。

(注3)生命保険会社における女性外務員の働き方の研究として,冨田(1992),松山(1990)がある。

(注4)金融業の運用業務以外については,いくつかの研究がなされている。Scott et al.(1996)はアメリカの生命保険会社11社の管理職業務の変化について研究を,八代(1998)は投資信託銀行,投資銀行の雇用管理の日英比較を行っている。また飛田(1997)は日本の証券会社4社の営業職の技能形成について研究を行っている。

(注5)資産運用業務については,川北(1991),小藤(1987),堺(1994),花輪(1987),平野(1991)などを参照した。

(注6)インデックスとは,株式や債券など,市場の動向を判断するために用いられる指標を指数化して表された市場の指数をいう。日本では日経平均,東証株価指数(TOPIX)等がある。

(注7)B社の総合職の研修制度は,1年間かけて行われる。まず最初の1カ月半は,保険商品,会社の仕組み,保険業法が教えられる。その後はインストラクターがつき,個人向けの商品の販売実習が2カ月半行われる。次に1カ月,営業所実習が行われる。そこでは,営業所の業務の内容,営業職員の活動状況を見て学ぶ。その後9月末には,全国の支社に仮配属となり,事務の実習が行われる。そして,翌年の4月には,本配属となり,本社,支社の事務,営業に異動が行われる。

(注8)A社運用企画部の計画担当の業務の分担は以下の通りである。課長が国内・外国の運用計画を統括し,課長補佐が国内(貸付・株式・債券・不動産)を担当し,1人の副長が外国(主に株式・債券)を担当する。もう1人の副長は課長補佐(国内)のアシスタントを行っている。

(注9)証券アナリストとは,企業の業績,財務内容等を調査,分析し,その投資価値を情報提供する者である。1979年に日本証券アナリスト協会が証券アナリスト試験制度を導入し,合格者を「日本証券アナリスト協会検定会員」として認定している。試験には,証券投資理論,マクロ経済学,財務分析の1次試験と,これに職業倫理を加えた2次試験に合格し,3年以上の実務経験が必要となる。しかしながらこの資格は,国家資格ではなく,会員にならなくてもアナリストの業務は行うことができる。


参考文献
川北英隆(1991)「生命保険会社におけるポートフォリオの考え方」『保険学雑誌』535号。
小池和男編(1991)『大卒ホワイトカラーの人材開発』東洋経済新報社。
小藤康夫(1987)「生保資産運用パターンの実証的検討」『専修商学論集』第44号。
堺雄一(1994)「生保会社と科学的資産運用――現代運用テクノロジーの解説」『生保経営』626号。
飛田正之(1997)「証券業の技能形成――営業職の技能形成」『法政大学大学院紀要』第38号。
冨田安信(1992)「女性営業職の育成と動機づけ」『経済研究』第36巻4号。
中村恵(1992)「ホワイトカラーの労務管理と職種概念」橘木俊詔編『査定・昇進・賃金決定』有斐閣,所収。
中村恵(1995)「ホワイトカラーの異動」猪木武徳・樋口美雄編『日本の雇用システムと労働市場』日本経済新聞社,所収。
日本労働研究機構(1993)『大企業ホワイトカラーの異動と昇進――「ホワイトカラーの企業内配置・昇進に関する実態調査」結果報告』日本労働研究機構。
日本労働研究機構(1997)「国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム――日・英・米・独の大企業(1)事例調査編」。
日本労働研究機構(1998)「国際比較:大卒ホワイトカラーの人材開発・雇用システム――日・米・独の大企業(2)アンケート調査編」。
花輪俊哉(1987)「機関投資家としての生命保険会社」『文研論集』80号。
平野薫(1991)「生保のアセットアロケーションについて1」『生保経営』594号。
平野薫(1991)「生保のアセットアロケーションについて2」『生保経営』595号。
松山美保子(1990)「生命保険業界の外務員の加齢と職業能力」『加齢と職業能力に関する研究報告書』機械振興協会,所収。
八代充史(1998)「金融機関における大卒ホワイトカラーの雇用管理の国際比較」『三田商学』第41巻3号。
Morrison, Robert F., Hock, Roger R.(1986)Career Building: Learning from Cumulative Work Experience, in Hall, Douglas T. ed, Early Career Development in Organizations. Jossey-Bass.
Scott, Elizabeth D., O'Shaughnessy, K. C. and Cappelli, Peter(1996)Management Jobs in the Insurance Industry: Organizational Deskilling and Rising Pay Inequity Edited by Paul Osterman, Broken Ladders: Managerial Career in the New Economy. Oxford Unversity Press.


〈1999年10月28日投稿受付,2000年2月4日採択決定〉


とびた・まさゆき 1968年生まれ。法政大学大学院社会科学研究科経営学専攻博士課程単位取得退学。福井県立大学経済学部専任講師。主な論文に「証券業の技能形成」『法政大学大学院紀要』第38号(1997)など。人的資源管理論専攻。