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(著者抄録)
韓国の退職金制度は、法律で使用者が退職する労働者に支払うべき退職金の最低基準を設け、またその支給を強制するという「法定退職金制度」を採用している。すなわち、使用者は、継続労働年数1年について30日分以上の平均賃金を退職する労働者に支払う制度を設けなければならない。また、使用者は労働者の退職の事由を問わずに退職金全額を自己負担で、その支給事由が発生した日から原則的に14日以内に通貨で労働者に直接支払わなければならない。そして、退職金受給権は勤労基準法上の優先弁済権制度および賃金債権保障法によって保護されている。このような独特な退職金制度は、退職金受給権の確実な保護を通して、労働者保護に手厚い反面、運営上の問題点も出てきている。

(論文目次)
I はじめに
II 退職金制度の歴史的沿革
III 退職金の法的性格についての議論
   1 功労報償説
   2 生活保障説
   3 賃金後払説
   4 考察
IV 勤労基準法上の退職金制度
   1 退職金制度の特徴
   2 退職金の支給対象者および支給義務者
   3 退職金の算定
   4 退職金の支給および退職金債権の保護
V 退職金制度の現状および問題点
   1 制度の現状
   2 問題点
VI 現行制度の見直しの動き
VII 結びに代えて

I は じ め に

 1960年代から高度経済成長を遂げてきた韓国では90年代半ばから始まった景気の低迷と97年の通貨・金融危機が,韓国経済・社会全般にわたって構造調整や変革を余儀なくしている。とりわけ,雇用面では,雇用・就業形態の多様化をもたらし,労働法上これに対応せざるをえない状況にある。
 このような労働環境の変化に対応して,韓国は,1997年いわゆる「整理解雇の法制化,弾力的・選択的労働時間制の導入」などを骨子とした「勤労基準法(日本の労働基準法に当たる)(注1)」の改正をはじめ,労働法制の大幅な整備(注2)に踏み切った。特に,その中で,定年制とともに終身雇用制と年功賃金制を基礎とする年功的労使関係の中核的制度として定着してきた「退職金制度」の見直しの動きが始まった(注3)ことが注目される。とりわけ,最近の動きとしては,97年の勤労基準法の改正過程で法定退職金制度の任意化問題が取り上げられたが,現行の退職金制度をそのまま存置し,修正が加えられた。これにより,労働者が退職する前でも労働者の要求がある場合それまでの勤続期間に対する退職金の支給を可能とする「退職金中間精算制」の導入や,使用者が労働者を被保険者とし,退職保険に加入した場合,法律上の退職金制度を設定したものとされ労働者が退職金を年金の形態で支給されることになった。
 韓国の退職金制度は,労使間の任意制度としている日本とは異なり,「勤労基準法」に一定期間以上勤続後に退職する労働者に対して一定額以上の退職金支給を使用者に義務づける「法定退職金制度」として法定されている。
 このような退職金に関する特殊な立法政策は,経済開発初期に社会保障制度が不備であった時期から,勤続期間中の低い賃金に対する事後報償機能や定年・解雇等の理由で退職した労働者に対する生活保障という重要な役割を果たしてきているといえる。
 本稿は,以上のように独特な立法政策の下で施行されている韓国の退職金制度を判例,行政解釈を中心に施行上の問題点や最近の見直しの動きなどを含めて紹介するものである。



II 退職金制度の歴史的沿革

 まず,退職金制度の歴史的沿革について簡単に述べておくことにしたい。退職金制度をさかのぼると,封建的労使関係であった徒弟制度から行われてきた恩恵的,功労報償的な思想にさかのぼることができる。これが1890年代の初期資本主義時代における労働者移動の阻止を目的とする強制貯蓄制度を経て,1900年代に入っては使用者の一方的な拠出による恩恵的な福利厚生策に変貌していった(注4)。その後,1920年代後半の世界大恐慌による労働者の大量解雇に直面して退職金制度(注5)も従来の慣行的,自由裁量的な制度から徐々にその内容が具体化される方向で発展し,失業手当制度の性格を呈することになった。それが,第2次世界大戦後は労働運動の活発な展開と労働組合の交渉力が強まったことにより退職金制度は,恩恵的な性格から労働者の権利として認められることになったと分析されている(注6)。
 このような歴史的発展過程を経て,退職金制度が韓国で法的規制の対象とされたのは,1953年5月10日に制定された「勤労基準法」第28条に,退職者に対する所得保障の目的で使用者が解雇対象労働者に解雇手当ないし退職手当としての性格の一定の金額(注7)を就業規則などで定めて任意に支払うように規定したときからである。しかし,1953年の規制は任意的規制であり,今日のように強行的規制になったのは61年12月4日の「勤労基準法」改正によってである。この改正法では,退職金の最低限度の基準が設けられ,使用者に法律で退職金の支給を強制する立法例を採用したのである。
 ちなみに退職金制度が法定制度に変わった立法背景について見てみると,当時,1961年5月から始まった軍事政権の下では労働運動が抑圧されており,労働争議の禁止と労働団体再建組織前後の空白をきっかけに労使間の力の不均衡がもたらされ,違法・不当な条件で労働者を処遇する傾向が強まった。これに危機感を感じた韓国労働組合総連盟は,1961年11月20日軍事政府の最高会議(当時の最高会議は事実上,立法・行政・司法権を掌握していた)に国営企業を中心に労働協約などで保障されてきた退職金を既得権として認めてくれるよう建議書を提出した。軍事政府はこれを受け入れ,同年12月4日に勤労基準法を改正して法定退職金制度を採用し,その結果,同制度が一般に急速に普及することになったのである。
 その後,1980年および97年にも勤労基準法の改正が行われ,同一事業所内での「退職金差等制度」(後述IV15)参照)設定を禁止する規定や退職金中間精算制および退職年金保険制が設けられた。
 退職金制度は,原則的に労働協約あるいは就業規則でその支給条件,計算方法,支給手続きなどを定めて実施されるものであるから,退職金制度を法制化している韓国においても,その実施のための具体的な事項は労働協約あるいは就業規則によって決められることが予定されている。
 ただ,退職後の労働者の生活保障あるいは権利保障を労働協約や就業規則にだけ依存するのは,使用者による不履行問題などその受給権保護との関連で限界があり,勤労基準法の規定は退職金制度を法的制度の一つとして確立し,その支給を法律上使用者に強制しているのである。



III 退職金の法的性格についての議論

 退職金の法的性格をどのように把握するかの問題は,退職金請求権の権利性いかんに直接的に結びついているため重要な意味を持っている。
 韓国における退職金制度の法的性格に関する議論は,ほぼ日本と同様(注8),大きく(1)功労報償説,(2)賃金後払説,(3)生活保障説という三つの説に分けられている。
 日本と異なり,懲戒解雇の場合にも減額できない法定退職金制度を採用している韓国で,このように退職金の法的性格について学説が三つに分立している理由としては,次の二点が考えられる(注9)。
 第1には,韓国における最初の労働立法は,そのほとんどが日本の労働法制を踏まえたことから退職金の性格に関する議論や学説も日本の影響を強く受けたという点がある。現に,韓国の学者である金亨培(現・高麗大学教授),金致善(前・ソウル大学教授),朴相弼(前・釜山大学教授)らの教科書がいずれも日本の特定の文献に依拠して展開されており,その後の韓国学説は上記の3人の学者の説に依拠している。
 第2に,退職金制度の形態も勤労基準法による法定のものと,経済成長の成果を労働者に配分するなど功労報償的性格を持つ任意累進制のものとが並存し,両者を区別せずに退職金一般の性格を議論してきたことが考えられる。
 退職金の性格に関する韓国の学説の議論にはこのような留意すべき点があることを踏まえて,以下,各説について若干の考察を行ってみたい。

 1 功労報償説

 退職金は,ある職場での長期勤続に対する功労報償であるとし,使用者が支給する恩恵的給与として解する見解である。すなわち,この説は退職金を使用者の任意による温情的給付の一種として把握する考え方であり,主に使用者側から主張されてきた。
 しかし,この説の問題は,退職金が労働条件の一つとして「労働者の権利化」されている現行法制下では,説明ができないという点にある(注10)。さらに,労働者が使用者に多大な損害を与えるなどの理由により懲戒解雇された場合にも勤労基準法に定められた最低限の退職金を支給すべきだとされており,この説からは懲戒解雇に相当する事由があれば使用者との関係で功労を失うものであることから,同説からの説明が困難である。

 2 生活保障説

 退職金は,労働者の退職後の生活保障としての機能を営むという見解(注11)である。すなわち,労働者の老後や失業後の生活保障のために,それに相応する賃金を退職時に一時金で支払うのが退職金であると解する考え方である。この説によると,公的年金,企業年金などの社会保障制度が完備されていない現状に照らして労働者の退職後の生計維持が不安であるという点にかんがみ,企業の社会性という観点から退職する労働者の生活保障を企業が補充的に負担するようにというものである。
 しかし,この説のように退職金の生活保障的な性格を貫徹しようとすれば,退職金の算定にあたって労働者の年齢,家族状況,健康,退職後の生計のための対策などの要素が基準になるべきであるが,実際にはこれらは基準とされておらず勤続年数がその基準になっていることを説明できないという弱点がある。

 3 賃金後払説

 労働者の在職期間中の賃金が本来支払われるべき額より低いことから退職金は賃金の後払いであるとする考え方である。この説によると,労働者は当然に退職金を受け取る権利があり,使用者は,労働者の退職の事由いかんにかかわらず支払うべきであるということになる。
 この説には,技巧的な擬制という批判がありうるが,退職金請求権の権利性の説明が可能であり,また現実的にも退職金が労働者の勤続年数と個別的な賃金を基準にして算定され,退職するすべての労働者に支払われている点などを容易に説明することができる。
 また,この説は,日本でも従来からの多数説であり,その後労働基準法の改正(昭和62年)により第89条3号の2がはいり,退職手当について就業規則に相対的記載事項として明記することを使用者に義務づけたことからもこの説が支持されている。また,最近松下電器をはじめとするいくつかの有力企業では,退職金の後払いをやめ,これに相当する額を前払いする制度も選択できることとなった点もこの説との関連で注目されよう。

 4 考 察

 退職金の法的性格に関しては以上の三つの学説が唱えられたが,一般には韓国における退職金は,現実的に賃金の後払い的性格を有するとともに功労報償的な面があるとされている。
 まず,賃金性について見てみると,勤労基準法第18条には,「この法律で賃金とは,使用者が労働の対償として労働者に賃金,俸給その他名称のいかんを問わず支払う金品のすべてをいう」と定められている。この賃金の定義に,退職金が該当するかどうかについては,退職金の支給を法律で強制している現行法制下では,退職金が「労働の対償」であることには異論がない。大法院(日本の最高裁判所に当たる)の判例(注12)でも,「労働者に対する退職金には,社会保障的な性格と功労報償的な性格が含まれているものの,勤労基準法上の雇主と被用者との関係においては労働の対償である賃金的な性質を有する」とされており,学説でも賃金後払説が通説(注13)となっている。
 勤労基準法が退職金支給を強行法規によって強制している点にかんがみれば,退職金は労働力の提供と対価的な関係にあるのは明白であろう。ただし,筆者は上記の大法院判例にも示されたように労働協約等に累進率で割り増ししている部分については,功労報償的性格をも帯びていることを認めざるをえないと考える(注14)。したがって,退職金は,未払い賃金の後払的性格と功労報償的性格の複合的性格を持つといわれるが,正確には賃金後払い的性格の法定退職金と功労報償的性格を持つ累進割増退職金の両面から構成されていると理解すべきであろう。
 なお,退職金は勤労基準法上の賃金に該当するが,(1)勤続期間に対する賃金後払い的な性格を持つ,(2)退職することは,将来的には確実であるが,その時期が特定されておらず,退職金支給時期が不確定である,(3)退職金債権は,労働関係存続中すでに発生し,その履行期が退職という不確定時点であるという点で普通の賃金と異なる性格を持つ(注15)。



IV 勤労基準法上の退職金制度

 1 退職金制度の特徴

 1)制度の設定を義務化
 勤労基準法第34条1項に,「使用者は,継続労働年数1年について30日分以上の平均賃金を退職金として退職する労働者に支払う制度を設けなければならない。ただし,労働年数が1年未満である場合はそのかぎりではない」と規定し,これに違反した場合は,2年以下の懲役または1000万ウォン以下の罰金に処せられる(法第113条)こととされており,退職金制度の設定を法律で強制している。
 このような退職金制度の設定は,日本と異なり,勤労基準法第96条で列挙している就業規則の絶対的必要記載事項であるから,その支給条件,支給時期,支給額の計算方法などを明確に記載しなければならない。
 この場合,退職金支給制度の設定のいかんによらず退職する労働者は,使用者に対して退職金の請求権を行使できるかが問題となる。まず,退職金の支給条件が就業規則または労働協約に明確に定められている場合は,当然にその請求権を持つことについては疑問の余地がない。
 就業規則,労働協約に規定のない場合にも退職金請求権が認められるか。これについては,勤労基準法上の退職金規定は,強行的直律的規定と解されることから,退職する労働者は,同法に定められた基準による退職金請求権を取得することになると解されている(注16)。

 2)一定規模以上の事業または事業所に適用
 勤労基準法上の退職金制度は,常時雇用労働者数が5人以上の事業または事業所に適用される(注17)。ただし,同居の親族のみを使用する事業所または家事使用人のように勤労基準法が適用されない場合(法第10条)は,法定退職金制度が適用されない。
 ただ,法律上退職金支給が強制されていない常時雇用労働者数5人未満の事業所においても,労働協約などで任意に退職金制度を設けることができる。常時5人未満の事業所で任意退職金制度を設けている場合,法定退職金制度が適用されないことを理由にその効力を失うものではない(注18)。

 3)退職の事由を問わぬ強行的支払義務
 日本では退職金の性格に賃金の後払いと功労報償的性格の双方を認めるため,懲戒解雇の場合,退職金の不支給を適法としている。
 しかし,韓国では,解雇・任意退職・定年などの退職事由を問わず労働者との労働契約が終了すると継続勤続年数を判断し,法定退職金を支払わなければならない。たとえば,労働者が就業規則違反行為などで懲戒解雇された場合でも勤労基準法に定められた最低基準の退職金は支払われねばならない(注19)。
 したがって,就業規則などの退職金条項に労働者の就業規則違反行為,刑事処分,重大な過失行為などの理由で退職金を支払わないという規定を設けても,その効力は認められないことはもちろん,当該労働者は法定退職金を請求することができる(注20)。ただ,退職金累進制などの法定退職金以上を支払う制度を導入しながら懲戒解雇など解雇事由によってより低い累進率の適用を連動させる場合,その支給下限額が法定以上であれば法違反ではない(注21)。

 4)退職金財源への労働者の負担禁止
 勤労基準法は,使用者に退職金制度の設定を義務づけて,その支給事由が発生した場合,使用者の負担で支払うようにするものであり,充当金,積立金などいかなる名目でも労働者の賃金などから退職金財源を負担させることはできない(注22)。この点は,退職金の後払い賃金としての性格から当然導かれる帰結である。

 5)差別的退職金制度の禁止
 勤労基準法では,「退職金制度を設定するにあたって一つの事業内に差等制度を置いてはならない」と規定し(法34条2項),退職金の差別的制度の設定を禁じている。ここでいう「一つの事業」とは,経営上の一体を成す企業体として,たとえば,個々の法人あるいは個人事業をいう。すなわち,経営上の一体を成し,組織上有機的に運営する支店,出張所,工場などはすべて一つの事業に総括して把握すべきである。
 同条項は,従来,一つの事業内に生産職と事務職などの職種別,または上位職と下位職などの職位別,業種別に退職金の支給率が異なる(たとえば,事務職には累進率,生産職には法定額等)などの差等制度(制度上の差をつけることを「差等制度」という)を設定する弊害があり,これを禁止するために1980年12月31日の法改正で新設したものである。
 このような差別禁止は,累進退職金制度を採用して退職金が法定退職金額を上回っている場合,割増率において職種別に差をつけることもその対象になる。たとえば,ブルーカラーよりもホワイトカラーの割増率を高くするといったことも禁止されている。
 ただし,労働組合が組織されている企業で労働協約の締結による組合員と非組合員の差別(注23),また,労働者集団の同意を得て就業規則を不利益に変更(たとえば,累進率から法定額へ)した場合,変更以前の期間に対しては既得権を認め,既存の退職金制度をそのまま適用することおよび,労働者集団の同意なく就業規則の不利益な変更を行った場合に,既存労働者には変更前の退職金制度を適用し,新規労働者に変更された就業規則を適用することは,差別的退職金制度の禁止原則に違反するものではないと解されている(注24)。

 2 退職金の支給対象者および支給義務者

 1)支給対象者
 (1) 勤労基準法上の労働者  法定退職金制度の適用対象は,勤労基準法第14条の「職業の種類を問わず,事業又は事業場に賃金を目的として労働を提供する者」として,1年以上継続的に勤務した者である。
 したがって,上記の法定要件を充足すれば,臨時職や日雇いなどの雇用形態を問わず退職金支給の対象となる。ただし,会社の代表取締役や法人の役員などは,商法により民法上の委任に関する規定の適用を受ける者として,商法に定めるところにより定款または株主総会の決議でその報酬が決められるので勤労基準法上の退職金支給対象とはならない。
 なお,所定労働時間が著しく短い「短時間労働者」の場合,4週間を平均して1週間の所定労働時間が15時間以上である場合に限り,退職金支給対象となる(同法施行令第9条2項)。
 (2) 有効な労働契約  法律上の退職金を請求することができる労働者は,使用者との間に適法・有効な労働関係が成立しており,勤務した後に退職した労働者でなければならない。
 たとえば,当然無効である任用欠格者に対する任用行為によって公務員の身分を取得しても,労働関係は有効に成立しえないように,労使間の労働契約が無効であるか〓(遡(ソ))及的に取消された場合については,事実上労働を提供したとしても勤労基準法上の退職金を請求することはできない(注25)。
 ただし,労使が明示的に労働契約を結ばなかったとしても事実上労働関係に編入され,労働関係が存在した場合には,黙示的に労働契約関係が成立したとみなされ退職金請求権が認められる。

 2)支給義務者
 法定退職金を支払う義務者は,勤労基準法第15条に定められた使用者(注26)である。事業経営担当者(理事)などの場合は,事業主から事業経営の全部または一部について包括的に委任を受けて対外的に事業を代表あるいは代理するときには退職金の支給義務がある(注27)。
 また,整理会社の管理人および企業の合併後の事業主や企業譲渡により企業を譲り受けた事業主も退職金の支給義務者になる。なお,企業が倒産あるいは破産した場合は,その当時の使用者が退職金支給について法的責任を負う。問題は,争議行為類型の一つである「生産管理」の場合であるが,労働者が事業場を占拠し,使用者を完全に排除して組合の管理の下に企業運営を長期間行った場合は,労働組合がその期間中の退職金支給の法的責任を持つ。

 3 退職金の算定

 勤労基準法第34条1項により,退職金は「継続労働年数1年を標準期間にして,これに対する30日分以上の平均賃金」を基準とする。以下,各要件について敷衍する。

 1)継続労働年数1年
 継続労働年数とは,労働者がその雇用形態を問わず退職金制度の適用事業または事業所に従業員として任命され,採用された日から勤務の中断なしに退職あるいは解雇されるまでの間,勤務した年数,すなわち在職期間をいう。この継続労働年数が満1年以上になれば勤労基準法上の退職金受給権が与えられる。
 法34条に定められた「継続労働年数」は,「初日不算入原則」を明示している民法上の規定(第157条)にもかかわらず,入社日,労働契約締結日など出勤義務がある日が含まれる(注28)。また退職日も労働関係の消滅日として継続労働期間に包含される。
 それ以外に,産前産後や業務上の疾病,負傷による休業期間および労働者個人のやむをえない事情による休業・休職期間も継続労働年数に含まれると解される。
 これに関連して使用者が退職金支給を回避するために,継続労働年数1年になる前に労働契約関係を終了させ,一定期間後また再雇用するなどの脱法行為が行われる場合があるが,この場合,労働者の真意による労働契約関係の断絶がなければ継続的な労働関係を認め,退職金支給対象になると解されている(注29)。

 2)30日分以上の平均賃金
 退職金は,継続労働1年に対し,勤労基準法上に定めた「平均賃金」の30日分以上を支払わなければならない。ここでいう「平均賃金」とは,「これを算定すべき事由の発生した日以前3カ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を,その期間の総日数で除した金額をいう(法第19条)」。すなわち,退職金の場合は,これを算定すべき事由は退職であるから退職以前3カ月に支払われた賃金(注30)の総額が平均賃金の基準となるわけである。
 ただし,これによって算出された「平均賃金」が当該労働者の「通常賃金(注31)」より低額である場合は,その通常賃金を平均賃金とする(法第19条2項)。
 なお,退職金計算基礎である平均賃金の算定に関連して「賞与金」問題がある。韓国は,急速な経済成長過程で,大多数の企業が労働者の低賃金に対する生計費補〓(填(テン))の手段として各種の賞与金制度を設け,定期的に(通常,年に4回)支払ってきている。このような賞与金は,労働者の月賃金総額のなかで平均20%を占めており,年間平均支給率は月賃金総額の540%(5.4カ月分)にのぼっている(注32)。
 こうした賞与金が平均賃金計算の算定基礎に含まれるか否かについて議論があるが,判例・行政解釈では,賞与金が労働協約,就業規則,その他労働契約によってその支給条件が明確になっているか,また労働慣行によって継続的に支払われてきた事実が認められる場合,平均賃金計算の算定基礎に含まれると解している(注33)。この場合,平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前1年間に支払われた賞与金総額の12分の3に該当する金額が平均賃金計算の基礎に含まれるとされる。これは,前述したように退職金算定基礎賃金である平均賃金の計算の際に3カ月間の賃金の総額をその基礎としていることと,賞与金が一般に1年を基準にして総支給率が決められ,定期的に支給されるので平均賃金を計算する際に3カ月に相当する賞与金を含むようにすべきことが考慮されたものである。

 3)法定基準以外の方法で算定した退職金の効力
 勤労基準法上の退職金条項は,使用者から労働者に支払われるべき退職金の最低限度を規定したものである。したがって,たとえば平均賃金に含まれる賃金の範囲などを縮小した就業規則により算定した退職金額が法定基準を下回る場合,その効力は認められない。
 ただし,この場合も退職金累進制を導入することによって法定退職金を上回る場合は法違反の問題は生じないと解される(注34)。たとえば,退職金累進率を採用している企業において労使間の合意で退職金の計算の際に平均賃金の算定基礎賃金である一部の手当(生産奨励手当など)を除外したとしても,このような方法で算定した退職金が法定退職金を上回る場合は法律に違反するものではない。

 4 退職金の支給および退職金債権の保護

 勤労基準法に定められた退職金が労働者の手に確実に渡るようにするためには,一定の法的保護が必要となるのは言うまでもない。これについては,退職金の法的性格を前述したとおりに後払い賃金として理解している以上,退職金の支払いについては原則的に勤労基準法上の賃金の支払いに関する諸般の規定が適用または準用され,その受給権の保護が図られる。

 1)支払いの時期および消滅時効
 退職金は,原則的に使用者が退職した労働者(労働者が死亡した場合は,その法定相続人)に,その支給事由が発生した日(退職日(注35))から14日以内に支払わなければならない。ただし,特別な事情がある場合は,当事者間の合意により期日を延長することができる(法第36条)(注36)。
 ただし,例外的に労働者の要求がある場合は,退職する前に当該労働者が継続勤務した期間に対する退職金をあらかじめ精算して支払うことができる。この場合,あらかじめ精算して支払った後の退職金算定のための継続労働年数は清算時点から新たに起算することになる(法第34条3項)。
 また,退職金債権は,賃金と同じく3年間行使しなければ時効により消滅する(法第48条)。

 2)支払いの方法
 退職金にも賃金の支払方法に関する法規制が適用され,通貨で,直接労働者にその全額を支払わなければならない(法42条)。したがって,労働者の不法行為により使用者に生じた債権をもって労働者の退職金債権と相殺することはできない(注37)。ただし,全額払原則については,退職金の支給条件を定めた就業規則や労働協約などで法令の範囲内で分割払いで支給するという規定が設けられた場合,また労働者の同意を得た場合には,その例外規定の効力が認められる。
 なお,退職金の性格上,毎月1回以上定期払原則,賠償(違約金)予定の禁止(法27条)等の条項は適用されない。

 3)退職金請求権の保護
 退職金は,一般に「賃金の後払い」と性格づけられており,賃金に関する勤労基準法上の各種の保護条項が適用される。その一つは,使用者は,前借金あるいはその他の労働することを条件とする前貸債権と,退職金を相殺できないということである(法28条)。
 もう一つは,退職金は労働者の退職後の生活維持のため賃金の後払いとして支払われるものであり,民事訴訟法第579条4項の差押え禁止債権,すなわち,「労務の提供により受ける報酬」に含まれるので,同条項によってその支払時に支給されるべき金額の2分の1を超える額については差押えが禁じられている(注38)。
 最後に,企業が倒産し,その財産が債権者に差押えられることになって,賃金の支払いが不可能になった場合,賃金債権の弁済を確保し,その実効性を担保するために勤労基準法に特別規定が設けられている。すなわち,「賃金,退職金,災害報償金その他労働関係による債権は,使用者の総財産に対し,質権または抵当権により担保された債権を除き,租税・公課金及び他の債権に優先して弁済されなければならない。但し,質権又は抵当権に優先する租税・公課金に対してはそうではない(法37条1項)」と定められており,賃金債権の優先弁済権が認められている。
 しかも,「最終3カ月分の賃金や最終3年間の法定退職金及び災害報償金については使用者の総財産に対して質権又は抵当権により担保された債権,租税・公課金及び他の債権に優先して弁済されなければならない(法37条2項)」と規定し,最終3年間の法定退職金債権については最優先弁済権が認められている。この点,賃金,退職金債権は,抵当権,質権の後順位になり,優先弁済が受けられないとしている日本と異なる。
 これに加えて,企業の倒産などで事業主が法院(日本の裁判所に当たる)から破産宣告され,弁済能力がない場合にも労働者の賃金債権が確保されるよう「賃金債権保障法」が制定され,98年12月20日から施行されている。この法律により,一定の要件を満たした退職労働者の最終3年間の退職金については,国家が賃金債権保障基金から立て替え払いすることにより,年齢別に定められた一定の退職金債権が保障されている。



V 退職金制度の現状および問題点

 1 制度の現状

 韓国の退職金制度は,以上で検討したような「法定退職金制度」と「任意累進退職金制度」の二つが併存している。前者は,社会保障機能(退職後の所得保障と失業保険機能など)を果たすよう設けられた強制化された制度の性格を持っており,後者は,労使合意による労働協約や就業規則などで企業の経営能力や経営目的によって任意に採用することができる制度である。
 したがって,勤労基準法が適用される常時労働者5人以上のすべての事業または事業所に雇われる労働者には,法律に定められた最低基準の退職金(勤続期間1年に平均賃金の30日分)の受給権が保障される。また,この法定退職金以外にも,企業別に労働協約や就業規則に退職金累進制を採用した場合,その累進率により算定された退職金が支払われる。
 韓国労働研究院が1996年から97年にかけて実施した「退職金制度運営実態調査」結果によると,96年現在,30人以上の私企業における退職金制度の実施率は,98.0%に至っている(表1参照)。また,退職金の支給根拠としては,調査対象の17.4%は勤労基準法によっている一方,14.0%は労働協約の定めにより,残り68.6%は,別の退職金規定や就業規則を定め,運営していることが明らかにされた(注39)。すなわち,調査対象の82.6%が勤労基準法以外の企業内の労働協約や就業規則で退職金制度を設定して運営しているが,残りの17.4%は,別段の根拠を設けていない。

表1 退職金制度の実施現況

 また,退職金制度を実施している企業の約75%が法定率を適用しており,残り25%は法定率以外に,企業の任意で勤続年数別累進制を採用している。この累進制の採用は,労組の有無別に著しく差があり,労組が結成されている企業の約48%が累進率を適用している一方,労組がない企業は約12%しか累進率を適用していない(注40)。累進制を採用した場合,勤続年数が長ければ長いほど退職金が高くなっており,法定率を適用している企業との退職金格差は,表2に見られるように勤続年数によって大きくなる。

表2 累進率適用企業の勤続年数別の平均退職金支払月数

 退職金は,労働者の退職時に備えて,企業が労働者に毎月支払う賃金の8.3%(法定率)(注41)+(累進率)を積立し続けるべきであるから累積退職金は,現在勤務している労働者が一時に退職する場合支払うべき退職金債務の総額といえる。このような累積退職金の規模は,1997年基準で,企業当たり平均約55億ウォン(1ウォンは約0.1円),労働者1人当たり約1300万ウォンであり,累積退職充当金の資本金に対する比率は平均34%に至っている(注42)。

 2 問題点

 韓国の退職金制度は,国家による労働力統制の必要性が高かった開発経済期に集団的労使関係を抑圧する代わりに,企業レベルでの個別的労使関係においては規制が緩やかだった労働統制政策の産物として,企業の費用負担による公共福祉の一つの柱を担ってきた制度である(注43)。こうした制度が今日的に抱えている問題点として,大きく次の三つの点が指摘されている(注44)。
 第1に,退職金の制度的性格の変化である。1980年代後半以降の持続的な賃金上昇と88年の国民年金法の施行,95年の雇用保険法の施行などの社会保険制度の拡充で従来の退職金制度の機能が弱まってきている。特に,現行の退職金制度が年金ではなく一時金形態となっていることから,公的年金との組み合わせによって老後の所得保障のための「二重体系」としての機能を果たすことが事実上難しいという問題点がある。
 また,制度の実施自体が法的に強制されており,企業の経営事情に適した柔軟な運営が難しくなり,人事管理的機能が脆弱である。
 第2に,制度の現状で明らかにしたように,過大な退職金累進率の適用による企業の財政負担の問題である。
 一部の大企業や公企業の過大な累進率体系は,硬直した年功賃金体系とともに企業の経営上の圧迫要因として作用し,労働者の早期退職や名誉退職制度(注45)などの形で雇用安定を脅かしていることである。
 第3に,法定退職金制度の硬直性のため雇用形態の柔軟化のための効果的な対応が難しいという問題である。
 最近,経済の構造調整が進むなか,非正規職の増加,たとえば,契約職,臨時職,短時間労働者の増加は,従来長期勤続者に有利に作用してきた退職金制度がこれ以上老後の所得保障機能の役割を果たしえないことを示している。また,企業側としても,硬直化した退職金制度がポータビリティがなく,雇用の流動化や雇用形態の多様化に効果的に対応する際の障害となっている。



VI 現行制度の見直しの動き

 韓国の退職金制度は,法律に使用者が退職する労働者に支払うべき退職金の下限線を規定し,またその支払を強制するという特殊な法制を持っているのはすでに述べたとおりである。
 このような制度は,各種社会保障制度が不備であった経済開発初期から今日まで退職金の受給を法律により担保することによって労働者の退職後の生活保障機能を果たしてきた。
 ところが,前述したように1988年の国民年金制度の導入に続いて,95年の雇用保険制度の施行で退職金の社会保障的性格は薄くなりつつある。しかも企業側の累積退職金に対する負担の増加や最近の雇用形態の多様化傾向への効果的な対応が難しくなるという指摘などがあり,現行の退職金制度のあり方が問われている。
 韓国は,このような経済・社会状況の変化に対応し,1997年には勤労基準法の改正に踏み切って,退職金制度においても退職金中間精算制や退職年金保険制を導入することによって労働者の欲求と企業の実情に応じて制度の弾力的な運営を図っている。
 退職金中間精算制は,退職する前にも,勤務期間中に積み立てられた退職金を支給することによって労働者が退職金を必要に応じて活用することができるし,労働者が同時期に大量に退職する場合の使用者の財政的分散のメリットがある。また,退職年金保険制の導入で,企業が倒産しても退職金全額が支給されなくなるリスクを回避できるし,退職金を年金の形でも支給できることになり,労働者の退職後の生活安定を図ることができるようになったのである(注46)。
 これとともに1999年からは過大な累進制を採用している公企業(公共部門)の退職金支給水準を法定基準または社会通念と経営合理化に相応する,適正な水準へ引き下げるようにする方針であるが,今後とも韓国における望ましい退職金制度のあり方については,議論が続けられる見通しである。



VII 結びに代えて

 最後に日本の退職金制度との相違点についてまとめることで結びに代えたい。
 退職金制度の生成背景や制度が変化していく過程は,国の経済・社会的状況によって特色があるが,日韓両国の制度における一番大きな相違点としては,上述したように韓国が退職金制度の設定を法律で使用者に義務づける「法定退職金制度」を採用している一方,日本は,基本的に労使間の任意制度にゆだねている(注47)ことである。それゆえ,両国における退職金制度の性格や特徴,機能上に大きな差が見られる。
 まず,今日のような退職金制度が定着してきた両国の社会・経済的背景の違いが指摘できる。韓国では朝鮮戦争が終わって以降,国家の社会保障制度が未整備な経済復興政策の推進過程で,労働運動が抑圧されていた労働者たちの退職後の生活保障という課題に直面し,国家が企業に社会保障機能を肩代わりさせる方策として,法律に退職金の最低基準を設け,使用者にその支給を強制するようになった。これが,今のような法定退職金制度を採用した背景である。
 一方,日本の場合は,明治期における労働者移動の阻止を目的とする強制貯蓄制度や労使拠出による共済組合による退職給付などを経て,第1次世界大戦後の経済不況による雇用調整問題を解決する手立てとして大企業から退職金制度が拡大・普及するようになったものである。
 また,退職金制度の成立後においては,両国における退職金制度の性格や社会的機能上の相違点も顕著である。韓国の場合,勤労基準法が改正された1961年から制度の実施そのものが法的に強制されており,後払い賃金として性格づけられ,労働者が懲戒解雇された場合でも法定基準の退職金請求が可能としている。このことは,退職金受給権の確実な保障を通して,労働者保護には手厚い反面,企業の経営事情に適した柔軟な運営が難しいことや人事管理的機能が脆弱であるとの評価につながる。
 一方,日本の場合,1936年「退職積立金及び退職手当法」(注48)が制定され,一時は退職金が法的規制の領域に編入されたことがあるが,現在,基本的に労使間の任意制度として定着しており,企業の規模によって退職金制度の普及率,支給額等にかなりの格差が存在し,また受給権保障上の問題点があるという指摘がある(注49)。その一方,懲戒解雇の場合に退職金支給を制限(注50)することで従業員の規律維持の効果を持ち,また若年時における自己都合退職を抑制し,定年までの勤続を促す効果を有するものとして,現在,同制度は企業において人事雇用システムの一環として大きな機能を果たしている点で,両国の制度上に異なる特徴が見られる。
 しかし,今日両国とも従来の労使関係が経済・社会的環境の動きによって変化しつつあり,退職金,企業年金に与える影響も大きいと考えられ,今後の動向に注目したい。

*投稿論文審査の過程で,数次にわたって有益なコメントをいただいた匿名レフェリーに対して紙面を借りて謝意を表したい。


(注1)本稿での法律用語の中で韓国での,「勤労」「勤労者」については,日本法での,「労働」「労働者」に相当する。

(注2)1997年3月13日,韓国では,弾力的労働時間制,整理解雇の法制化などの労働市場の規制緩和と柔軟性を高めることおよび複数労組の設立許容などを骨子とする勤労基準法,労働組合法(現行の労働組合及び労働関係調整法)などの労働関係法の大幅な改正が行われた。とりわけ整理解雇の法制化は,今まで企業側の事情による解雇の場合,判例で定立した整理解雇の4要件(緊迫した経営上の必要,解雇回避努力義務,合理的かつ公正な解雇基準による対象者選定,労働者側との誠実な協議)に照らしてその正当性を判断したが,この整理解雇の4要件を法文化し,雇用調整をより円滑にするためのものである。

(注3)房河男「韓国企業の退職金制度研究」韓国労働研究院,1998年,10頁以下参照。

(注4)李〓源「退職金制度に関する研究」佳山金致善博士華甲記念『労働法の諸問題』博英社,1983年,238頁以下(なお,佳山は号。華甲は日本でいう還暦にあたる)。なお,以下の記述は,この文献による。

(注5)韓国で1920年代は「日本植民地時代」であり,その当時の退職金制度は,東洋拓殖会社,興南肥料工場,金融組合など一部企業の雇用慣行として存在していた。

(注6)李太云「退職金制度」法院行政処,1989年,473頁参照。

(注7)当時の法律第28条には「使用者が労働者を解雇しようとする場合は,30日分以上の平均賃金を労働者に支払うべきであるが,2年以上継続労働した労働者については継続労働の場合1年に対し,30日分を,継続労働年数10年以上であれば10年を超える1年に対して60日分を前項日数に加算しなければならない」と定められていた。

(注8)日本の場合,退職金の法的性格については,学説上(1)功労報償説,(2)賃金後払説,(3)生活保障説という三説に分類されている(菅野和夫『労働法(第5版)』弘文堂,1999年,212頁)。

(注9)このような分析は,匿名レフェリーの指摘に負っている。記して謝意を表したい。

(注10)金亨培『勤労基準法』博英社,1993年,293頁。

(注11)金致善『労働法講義』博英社,1994年,270頁。

(注12)大法院1969.12.30宣告69タ1977判決および大法院1995.10.12宣告94タ36186判決。これに関しては日本の最高裁も同じ立場である(三晃社事件・最二小判昭52.8.9労働経済判例速報958号25頁)。なお,韓国では裁判所に提起された事件についてすべてアラビア数字とハングルで事件番号がつけられる。タはハングルを音だけカナに転写したもの。

(注13)多くの学者が賃金後払説を支持している。たとえば,金亨培「前掲注10)書」p. 294,朴相弼『韓国労働法』1993年,242頁,韓容植『改正勤労基準法』1985年,158頁など多数。

(注14)なお,一部の学者は,退職金の賃金後払的性格を認めながらも,この説が,現行の退職金制度が継続労働年数1年未満の労働者を退職金支給対象から除外している理由を説明できないという点で,功労報償的性格をも持っているという見解を示している(李相潤『労働法(第3版)』2000年,471頁)。

(注15)金亨培「前掲注10)書」294頁参照。退職金債権の法的性質については,この「不確定期限説」以外に,退職金債権は退職という条件が満たされたときに初めて債権として発生するという「停止条件説」がある。

(注16)これに関する同旨の判例は,大法院1991.11.8宣告91タ27730判決,同1987.2.24宣告86タカ1355判決,同1979.10.30宣告79タ1561判決,同1978.6.27宣告78タ425判決などがある。

(注17)勤労基準法施行令第1条の2。法定退職金制度は,企業の規模によって段階的にその適用が拡大されてきた。たとえば,1962年3月4日からは常時労働者数30人以上の事業または事業所,75年4月28日からは16人以上,87年12月31日からは10人以上,また89年3月29日からは現行の5人以上の事業または事業場に適用されるようになった。

(注18)大法院1972.8.22宣告72タ1075判決。

(注19)労働部行政解釈 法務81110-418(1981.4.2)。

(注20)労働部行政解釈 勤基1451-22692(1984.11.4)および同勤基1451-2926(1984.2.1)など。

(注21)河甲来『勤労基準法』中央経済社,1994年,529頁。

(注22)労働部行政解釈 賃金32240-5377(1990.4.16)。

(注23)差別的退職金制度の禁止条項は,労働協約の適用を受けない非組合員がその適用を受ける組合員より差別を受けることまで禁止する規定ではない(大法院1987.4.28宣告86タカ2507判決)。

(注24)労働者集団の同意なく就業規則の不利益な変更をする場合,その有効性について議論があるが,大法院は既存労働者の既得権を奪うものでなければ有効と判断している(大法院1990.12.22宣告91タ45165判決)。

(注25)これに関する大法院の判例として「公務員年金法もしくは勤労基準法による退職金は,適法な公務員としての身分の取得又は労働関係が成立し,勤続後退職する場合に支給するものであり,当然無効である任用欠格者に対する任用行為によって公務員の身分を取得しても,労働関係は成立しえない。したがって,任用欠格者が公務員に任用され,事実上労働を提供したとしてもこのような被任用者は上記法律所定の退職金を請求することはできない」という判決(大法院1987.4.14宣告86ヌ459判決)がある。

(注26)勤労基準法第15条に使用者の定義について,「事業主又は事業経営担当者その他労働者に関する事項に対し,事業主のために行為する者」と定められている。

(注27)大法院1983.10.11宣告83ト2272判決および同1988.11.12宣告88ト1161判決。

(注28)労働部行政解釈 勤基01254-2433(1991.2.21)。

(注29)大法院1988.4.25宣告86タカ1124判決,この判決で大法院は「会社が経営方針で労働者を一定期間雇用後退職処理し,数日後また再雇用する形を取った場合,退職処理の際に労働者の真意による実質的な労働関係の断絶がなかったら退職の法的効力は生じない」としている。

(注30)ここで賃金とは,勤労基準法第18条規定によって労働契約で発生した労働者の請求権の中で「労働の対償」として認められるもののみである。したがって,労働者に支払われる一体の金品のなかで儀礼的,好意的な意味で支払われるいわば結婚祝い金などは含まれない(大法院1976.1.27宣告74タ1580判決)。

(注31)通常賃金とは,「労働者に定期的,一律に所定勤労又は総勤労に対して支払われるように定められた時間給金額,日給金額,週給金額又は請負金額」をいう(勤労基準法施行令第6条)。

(注32)韓国労働組合総連盟『労働環境の変化と賃金・雇用』1993年,19頁。

(注33)大法院1979.7.10宣告79タ919判決および労働部行政解釈賃金68207-484(94.8.1)。

(注34)大法院1992.6.9宣告92タ6716判決等および労働部行政解釈 賃金32240-6512(1991.5.8)。

(注35)退職日(退職の効力発生時期)については,(1)期間の定めある労働契約の場合はその期間満了日,(2)期間の定めがない労働契約の場合,労働者が使用者に退職の意思表示をした場合使用者がこれを承認した日である。ただし,使用者がこれを承認しなかった場合,労働協約や就業規則等で別段の規定がなければ,民法の規定により1カ月が経過した日,または賃金を一定の期間に対する給与かつ定期日に支払われている場合は労働者の退職の意思表示の通告を受けた当期後の支給期を経過した日が退職日となる(労働部例規第37号,1981.6.5)。

(注36)法第36条但し書きの当事者間合意による期日延長の場合も最長3カ月を超えることはできないように同法施行令13条に定められていたが,1999年3月3日の施行令改正でこれが削除され,当事者間の合意があれば相当期間でも支給期日延長が可能となった。

(注37)これについて大法院は「退職金も賃金の性質を有するものであり,その支給については勤労基準法上の賃金の直接・全額払い原則が適用され,労働者の退職金債権は,使用者が労働者の不法行為により生じた債権と相殺できない」としている(大法院1976.9.28宣告75タ1768判決)。

(注38)大法院1975.7.22宣告74タ1840判決。

(注39)房河男「前掲注3)書」30頁参照。

(注40)上掲書32頁以下。

(注41)勤労基準法上の退職金は,勤続毎1年に対し,約1カ月分の賃金を支払うべきであるから,12カ月の勤続に対して1カ月分の賃金に該当し,法定支給率は1/12,約8.3%になる。

(注42)韓国労働研究院「公企業及び公共部門の退職給与制度改善方案」1998年,5頁参照。

(注43)朴敬淑・朴能厚「企業年金の発展要因と韓国での導入方向」韓国保健研究院,1991年,房河男「前掲注3)書」55頁。

(注44)韓国労働研究院「前掲注43)書」6-7頁参照。

(注45)「名誉退職制度」とは,長期勤続労働者が定年に達する前希望により退職する場合,定年までの残り期間に対する一定の金額を特別退職金として割り増しして支払う制度であり,日本の「希望退職」と同様の制度である。

(注46)たとえば日本の場合,退職一時金の企業年金化の基本的な要因は,賃金水準の引き上げにともなう退職金の高額化と,定年到達者の増大によって企業の総人件費に占める退職金支払総額の割合が著しく高くなったためその対策の一つとして,退職一時金の分割払いの方法として年金方式が採用された。

(注47)日本では,労働基準法に退職金制度を採用している企業では就業規則上それを記載すべきこと(相対的記載事項)としている(法第89条)が,韓国の場合は,退職金に関する事項を必須的記載事項として定めている(法第96条)。

(注48)この法律は,常時50人以上の工場および鉱業法の適用事業所に対し,労働者負担の退職積立金以外に企業負担の退職手当を義務づけた。

(注49)荒木誠之「退職金・企業年金をめぐる立法論的考察」日本労働協会雑誌322号,1989年,24頁以下および棚田洋一「退職金と賞与」ジュリスト『労働法の争点(新版)』1990年,216頁参照。

(注50)日本では,退職金規定によって労働者が懲戒解雇された場合,不支給ないし減額する場合,労働基準法の諸規定やその精神に反せず,社会通念の許容する範囲でのみ是認できるという「限定的合法説」が通説となっている(有泉亨『労働基準法』有斐閣,1977年,232-233頁,菅野和夫「前掲注8)書」395頁)。

〈2000年1月5日投稿受付,2000年7月7日採択決定〉


 きむ・よんき 1959年生まれ。千葉大学大学院社会文化科学研究科博士課程在学中。日本研究(国際比較講座)専攻。