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(著者抄録)
本稿では,世代という属性が賃金構造に及ぼす効果(世代効果)のうち,コーホート・サイズ効果(コーホート・サイズの拡大による賃金押し下げ効果)に注目し,Welch(1979)のキャリア段階モデルに基づいてコーホート・サイズ効果の定量的な分析を試みた。その結果,大卒男子において有意なコーホート・サイズ効果が観察されたものの,キャリア段階モデルの予想に反して,コーホート・サイズ効果は職場経験を積み重ねても解消されないことが明らかになった。また女子についても同様の分析を行ったところ,大卒女子において有意なコーホート・サイズ効果が得られた。しかしながら大卒男子の場合と異なり,大卒女子のケースではコーホート・サイズ効果は職場経験を通じて解消されることが明らかとなった。


(論文目次)
I 序
II キャリア段階モデル
III 実証分析
IV むすび

 I 序

 近年,年齢構成の変化が賃金構造に及ぼす影響への関心が高まっており,特に人口高齢化が所得および資産分配に及ぼす影響について様々な角度からの研究がなされている(注1)。大竹・猪木(1997)は,世代の違いが生涯賃金に及ぼす効果を世代効果と呼び,世代効果を引き起こす要因として,(1)世代ごとの労働力としての質の違い,(2)各世代に属する就業者数のサイズ,(3)学卒で就職した時点の採用動向,の3点を挙げている。第1の点は各世代が直面する技術革新や教育・訓練機会の違いにより発生する世代間格差である。また第2点は同じ属性の労働者数が増加することによって,競争的な労働市場の下,賃金が抑えられるという効果と,内部労働市場における昇進確率が低下するという二つに分けることができる。第3点は新卒時の採用動向が雇用機会と労働者との良好なマッチングをもたらすかどうかという点に集約されよう(注2)。
 大竹・猪木(1997)は賃金,勤続年数,企業規模の平均および分散を世代固有の効果,年齢効果,年効果に分解し,世代固有の効果を規定する要因について実証分析を行っている。彼らの分析の特徴は,各要因が直行する形で推定が行われている点であり,分析の結果,観測時点の景気状況,世代サイズおよび就職時の採用動向が,労働者の賃金や勤続年数等に対して長期的な影響を及ぼすことが確認された。彼らの分析結果を就業者数のサイズおよび就職時点の採用動向という2点に即してまとめると,好況時に就職した世代において生涯賃金が高まる一方,就職時の新規学卒者数の増大は生涯賃金を低下させ,特に後者の効果は高卒者より大卒者でより大きくなる。
 特定のモデルに即して世代効果を分析した論文としては,玄田(1994)を挙げることができよう。玄田(1994)は,Katz and Murphy(1992)の安定需要仮説を用いて労働者の中高齢化が労働者間の相対賃金に及ぼす影響を実証的に検証している。その結果,中長期的にみると労働者の中高年齢化および高学歴化が,特に勤続給の変化を通じて学歴間,年齢間,企業規模間格差の縮小をうながすという影響が確認された。ただその一方で,労働者構成の変化が勤続給を平準化する具体的なメカニズムについては明らかにされていない。
 また,大竹・猪木(1997)の分析上の問題点は,各世代の賃金プロファイルが同じという仮定をおいている点であり,したがってそこでは賃金構造の変化が生涯賃金に及ぼす影響をとらえることができなかった。玄田(1997)はこの点を補う貴重な分析といえよう。玄田(1997)は,世代の違いが勤続―賃金プロファイルに与える影響を疑似コーホート・データを用いて分析しており,その結果,勤続―賃金プロファイルの傾きは後の世代ほどフラット化する傾向にある点を明らかにした。分析によれば,特に1965-67年,1969-71年に就職活動を行った世代についてフラット化の傾向が強く,その理由として,(I)不況期により,年功的な賃金機会と遭遇する機会が低下したこと,および(II)同期入社が多いことによる昇進確率の低下,の2点が挙げられている。しかしながら,上記の要因のいずれがより強く働いているのか,という点については明らかにされていない。
 一方,学卒就職時の採用動向に焦点をあてて世代効果を分析した研究として太田(1999)を挙げることができる。太田(1999)は,サーチ・モデルを用いて学卒就職時の景気動向が将来の転職率に及ぼす影響の実証分析を行っており,その結果,学卒就職時の有効求人倍率が小さいほど将来の転職率がより高まるという結果を得た。
 本稿の目的は,世代効果のうち特に“各世代に属する就業者数のサイズ”によってもたらされる効果に注目し,各世代の就業者数のサイズが賃金構造に及ぼす影響を明示的なモデルに従って検証することにある。本稿で採用するモデルはキャリア段階モデル(career phase model)と呼ばれるものであり,ここではWelch(1979)の定式化に負っている。キャリア段階モデルの特徴は職場訓練を通じた技能形成のプロセスを明示的にモデルに組み入れている点であり,このモデルでは訓練密度の差による労働者間の代替性の違いが,コーホート・サイズ効果を規定する要因として重要な役割を果たしている(注3)。このモデルではコーホート(経験年数)・グループごとに競争的な労働市場が成り立っていると仮定しており,各コーホート・グループにおける就業者数の増大は競争メカニズムを通じて当該グループの賃金率を押し下げるように作用する(以下,このような効果をコーホート・サイズ効果と呼ぶ)。仮に労働者間の代替性が高ければ,特定グループにおける労働者数の増大は別のグループに一部吸収されることから,当該グループにおけるコーホート・サイズ効果は一部緩和されることになる。
 先に述べた一連の研究によって,日本の労働市場におけるコーホート・サイズ効果の存在自体は確認されてきたものの,その具体的なメカニズムについては,いまだ説得的な説明が与えられていない。そこでキャリア段階モデルを明示的に用いることで,コーホート・サイズ効果が生ずるメカニズムの一端を明らかにすることができよう。
 さらに,本稿の特徴として挙げられるのは,同じ分析枠組みの下で,女子におけるコーホート・サイズ効果を検証している点である。これまで,女子におけるコーホート・サイズ効果を厳密に検証した分析はほとんどなかったことを考えると,本稿の分析は男女間での賃金格差を世代効果の観点から再考察するうえで重要な示唆をもたらすものと考えられる。
 IIでは,まずキャリア段階モデルを説明し,さらにIIIで,日本のデータに基づいたコーホート・サイズ効果の実証分析を学歴,男女別に行う。最後に,結論および今後の展望を整理してむすびとする。




 II キャリア段階モデル

 本節では,まず分析枠組みとなるキャリア段階モデルをWelch(1979)に沿って説明し,さらに実証分析に向けた展望を試みる。
 まず以下のような生産関数を考える。



N:労働投入(productive effort)量
Z:他の生産要素投入量
ただし,N,Zは弱分離可能でN,Zそれぞれについての偏微係数fN, fZはそれぞれ正の値をとる。
 また労働者が企業内で行う活動は,技能の修得活動(learning activity)および生産活動(working activity)に分けられ,そこで労働投入量Nは以下のように定義される。



ここでN1は技能の修得に従事している未熟練労働者(learner)の数であり,同様にN2は生産活動に従事している熟練労働者(worker)の数である。また,N1, N2についての偏微分係数g1, g2はそれぞれ正の値をとる。
 企業内のキャリア段階は,未熟練段階(learner phase)と熟練段階(worker phase)に分けられる。まず入職して最初のxl年は,働きながら技能を修得していく未熟練段階から技能を修得しおわった熟練期への移行期であり,経験年数がxlを越えると完全に熟練段階へと移行する。
 この点を数式で表すと以下のようになる。まずn(x)を経験年数がx年である労働者の総計とすると,N1,N2は以下のように表される。



 ここでp(x)は技能の修得に投入する時間の割合であり,p(x)<0かつp(xl)=0が成り立ち,xr年の経験を経た後,労働者は退職することになる。
 つまり,入職してまもない労働者は労働時間のすべてを技能の修得に費やし(p(0)=1),経験を積んでいく過程で,労働者が技能の修得に費やす時間の割合は減少する一方,生産活動に従事する時間の割合は増加していく。そこで技能の修得に費やす時間がゼロとなった時点(p(xl)=0)で未熟練段階は終了し,それ以降は専ら生産活動に従事する熟練段階へと突入することになる。
 また賃金率w(x)は限界生産物価値に等しくなるよう決定され,数式では以下のように表される。



ただし,g1,g2はそれぞれg(N1, N2)のN1,N2に関する偏微係数を表す。ここでf1の項を無視すると,コーホート・サイズ効果は以下のように書くことができる。



ただし,



であり,ここでgijは,g(N1, N2)のNi,Njに関する2階偏微分係数を表す(ただしi=jのときにgijは負の値をとり,i≠jのときにgijは正の値をとる)。
 そこでg(N1, N2)について次のような代替弾力性一定型の関数(注4),



を想定すると(ただし,0<δ1<1;0<δ2<1;β>-1),(6)式のコーホート・サイズ効果は最終的に以下のように書ける。



ここでσ=1/(1+β)はN1とN2に関する代替弾力性であり,θ=g1 g2/Nである。
 (9)式からもわかるように,このモデルの特徴は未熟練期(p(x)>0)におけるコーホート・サイズ効果が経験年数xの関数となっている点である。経験年数を技能水準を表す指標とみなせば,このことは入職時のコーホート・サイズ効果が技能形成とともに変化していくプロセスを表している。(9)式において,当該コーホートにおける未熟練労働者と熟練労働者との比(p(x)/(1-p(x)))がキャリア・グループ全体における未熟練労働者と熟練労働者との比N1/N2を下回る領域(注5)では,経験年数xの増大(p(x)の減少)とともにコーホート・サイズ効果は減少していく。最終的にコーホート内のすべての労働者が熟練期に達すると(p(x)=0),(9)式のコーホート・サイズ効果は-θN1/σN2となり,それ以降は変化しない。
 つまり未熟練期の中でも特に訓練を要する期間では,経験を積み重ねていく過程で,次第に熟練労働者との代替性が高まっていくことから,自分が属するコーホートの就業者数の増大分はより上位のキャリア段階へと吸収されやすくなる。したがって,もしキャリア段階モデルが成り立っているとすれば,入職時に大きなコーホート・サイズ効果に直面したとしても,その効果は経験年数に応じて次第に縮小していくことになる。
 またコーホート・サイズ効果の大きさはθに含まれる分配パラメータδ2/δ1,未熟練労働者数と熟練労働者数の比N1/N2,および未熟練労働者と熟練労働者に関する代替弾力性σによって決定される。なかでも職場訓練との関連が深いのはN2/N1およびσであり,前者が年齢構成および職場訓練の期間を反映したパラメータであるのに対して(注6),後者は職場訓練の量を反映したパラメータと考えられる。特にσは,キャリアの全期間を通じてコーホート・サイズの賃金押し下げ効果と反比例の関係にあり,このことは労働者間の代替性が小さければ,賃金押し下げ効果は弱まることを表している。では,ここで労働者の代替性を規定する要因とはいったい何であろうか。
 ここで掲げる仮説は,各キャリア段階で施される職場訓練の性質が労働者間の代替性を規定するというものである。ここでは小池(1999)の知的熟練論に従い,職場で経験する仕事の幅,深さを職場訓練の性質とみなす。つまり,ここで述べる職場訓練の性質は,関連性の度合いが異なる仕事経験の幅によって規定されることになる。そこで各キャリア段階で経験する仕事の幅,深さ(以下,このような職場訓練の性質を職場訓練の密度と呼ぶ)が狭い範囲にとどまる場合には,各キャリア段階の労働者は,より低位の段階に属する労働者に容易に代替される。そこで,異なるキャリア段階に属する労働者間の代替性はより高まると考えられよう。その結果,特定コーホートにおける就業者数の増大は容易に他のキャリア段階へ吸収され,当該コーホートに属する労働者群の賃金低下は緩和されることになる(注7)。逆に各キャリア段階において,関連性の低い仕事を含む,より幅広い仕事を経験する場合には,各キャリア段階の労働者は,より低位の段階に属する労働者に容易に代替されず,そこで異なるキャリア段階に属する労働者間の代替性はより小さくなると考えられよう。その結果,特定コーホートにおける就業者数の増大は容易に他のキャリア段階へ吸収されないことから,代替性が高いケースに比べてコーホート・サイズ効果はより顕著に生じることになる。
 仮に教育水準の高い労働者ほどより高い密度の職場訓練を長期にわたって受けるとしよう。つまり教育水準の高い労働者ほど,各キャリア段階でより幅広く,内容の深い職場訓練を施されるとすると,異なるキャリア段階に属する労働者間での技能水準の差は教育水準が高まるほどより顕著に生じることになり,そこで異なるキャリア段階に属する労働者間の代替性の程度はより小さくなると考えられる。その結果,コーホート・サイズ効果は教育水準の低い労働者に比べてより大きくなることが予想されよう。一方,逆に教育水準が高い労働者ほど,すでに高い技能を身につけているとすれば,そのような労働者が新たに企業内訓練を行う必要性は小さくなることが予想される。したがって,この場合には,企業内で施される訓練密度は教育水準が低いほどより高くなり,先ほどのケースとは逆にコーホート・サイズ効果は教育水準が低いほど大きくなることが予想されよう。両者のいずれの推論が正しいかは実証的な問題であることから,以下では学歴別にコーホート・サイズの検証を行うことで両仮説の検証を試みる。
 以上の推論を踏まえて,次節では特に教育水準の違いによる差に注目しながら,コーホート・サイズ効果についての実証分析を試みる。まず1でデータおよび分析方法を提示し,続く2,3で男子におけるコーホート・サイズ効果について実証分析を行う。最後4では,女子についてコーホート・サイズ効果の検証を試みる。




 III 実 証 分 析

 1 データおよび分析方法

 コーホート・サイズ効果を検証するに当たって,ここでは労働省『賃金構造基本統計調査』(1988-95年)における標準労働者の年齢別データ(産業計,企業規模計)を用いた。『賃金構造基本統計調査』によれば,標準労働者は「学校卒業後直ちに企業に入り,その後引き続き勤務して調査時点で在籍している者」と定義され(注8),ここでは標準労働者を含むすべての労働者を一般労働者(注9)と呼んで区別している。標準労働者のデータを用いた理由には二つあり,まず(1)賃金に関して1歳刻みのデータが得られる点,さらに(2)勤続年数と経験年数が同じであるという点が挙げられる。特に後者の点は重要であることから詳述すると,通常,コーホート・サイズの大きさは賃金だけでなく勤続年数に対してもマイナスの効果をもたらす。したがって,推定上,経験年数とは別に勤続年数を説明変数として用いると,勤続年数とコーホート・サイズとの間に多重共線性の問題が生じ,不安定な推定量しか得られなくなる。そこで本稿では各コーホートを代表する労働者として標準労働者を取り上げることによって,上記の問題を回避した。分析対象が標準労働者である場合,コーホート・グループ間の代替性を規定する技能水準の違いは,どの企業にも通用する一般熟練(general skill)ではなく,特定の企業にしか通用しない企業特殊熟練(firm-specific skill)に関する修得度の違いを反映したものとなる。この点は本稿の分析にどの程度影響するのだろうか。
 小野(1997)は,学校卒業後同一企業に就業し続けるいわゆる“生え抜き”という属性が賃金決定に及ぼす影響を定量的に分析している。その結果によれば,“生え抜き”であることによる賃金上昇の効果はいくつか観察されるものの,その効果はたとえば教育水準といった指標と比べても非常に小さいことがわかる。つまり小野(1997)の実証結果に基づく限りでは,標準労働者を分析対象として採用する際の推計上のバイアスは,存在するにしても軽微なものにとどまると考えられよう。したがって以下では,各コーホートを代表する労働者として標準労働者を取り上げて,コーホート・サイズ効果についての実証分析を試みる。
 また先にも述べたように,教育水準と企業内訓練の密度が比例するとすれば,教育水準の高い労働者ほどより密度の高い訓練を受けることになり,その結果,教育水準の高い労働者ほど,熟練期の労働者と未熟練期の労働者との代替弾力性σがより小さいキャリアに直面すると考えられよう。逆に両者が反比例するとすれば,全く逆の結果が得られることになる。そこで,ここではまず労働者数において大きな比重を占めている高卒男子,大卒男子を分析対象とし,それぞれ独立のキャリアに直面すると想定して別個に推計を試みる。その後,項を改めて大卒女子,高卒女子について同様の分析を試みる。ここで男女別々に分析を行ったのには,理由がある。つまり先ほどの小野(1997)の分析は男子に限られており,女子については標準労働者を一般労働者の代表値として扱う正当性について十分な根拠が得られないからである。したがって以下で男女間でのコーホート・サイズ効果の違いを評価する際には,この点に注意する必要がある。

 男子におけるコーホート・サイズ効果を推定するうえでまず問題となるのは,年齢別のコーホート・サイズの算出である。つまり各学歴層について年齢別に得られるデータは標準労働者についての賃金および労働者数のみであり,そこで転職者を含む年齢別一般労働者数を別途計算する必要がある。年齢別一般労働者数は,一般労働者のうち標準労働者のまま働き続けている割合(ここではこの値を“残存率”と呼ぶ)を別途に計算し,その値の逆数を標準労働者数に掛け合わせることで得られる。ただそのためには,年齢ごとに残存率を計算する必要があり,それはデータ上の制約から不可能である。というのも,標準労働者と異なり,一般労働者については5歳刻みのデータしか得られないからである。実際,5歳刻みの年齢階級別データについて残存率の計算は可能であるものの,その場合には各年齢階級内において残存率が一定という制約をおかざるをえない(注10)。
 そこで上記の制約をクリアするために,ここでは以下のようなステップを試みた。まず各年齢層において,一般労働者数に占める標準労働者数が一定であるかどうかのテストを行った。というのも,もし年齢階級ごとの残存率が各年で変化しないとすれば,コーホート・サイズの変数として一般労働者数の代わりに標準労働者数を用いても結果に違いは生じないからである。具体的には,全体のコーホート・サイズが標準労働者の賃金に及ぼす効果は,



と書ける。上式の第一項は標準労働者数の年齢間分布の変化による賃金構造の変化を表している。もし一般労働者数の年齢間分布も同様に変化するとすれば,上式の第二項は調査年を通じて一定となることから,分析上,第二項は無視してよいことになる。
 そこでここではまず,以下の式を学歴ごとに推計し,係数α1およびα2が調査年に依存するかどうかをダミー変数を用いて検定した。



NORMALjk:調査年,年齢階層別標準労働者数
TOTALjk:調査年,年齢階層別一般労働者数
AGEjk:各年齢階層の中央値
ujk:攪乱項
(ただし,jは年齢階層グループ,kは調査年を表す)
 その結果(表1,表2),大卒男子,高卒男子については,1988年から95年の間で有意(1%水準)なパラメータの変化はみられないという結果を得たことから,ここでは各コーホートの標準労働者数をコーホート・サイズ変数を表す変数として分析を行う(注11)(注12)。

表1 標準労働者比率の安全性の検証(OLS推定法)

表2 標準労働者比率の安全性の検証(OLS推定法)

 推定で用いるコーホート・サイズを表す変数としては,年齢別標準労働者数(COHORTS)を,それぞれ各年の労働者総数(NUMBER)でデフレートし,対数化したものを用いた。数式で表すと以下の通りである。



ここでも先のケースと同様,jはコーホート・グループ,kは調査年を表し,またiは高卒男子,大卒男子のいずれかを表す。
 被説明変数は,所定内給与額を消費者物価指数で割って対数をとったものを用い,説明変数として経験年数およびその2乗,さらに賃金構造における景気変動および趨勢的なトレンドの効果をコントロールするために,男子の失業率およびタイム・トレンドを用いた。
 次の2では,まずWelch(1979)の定式化に従ってコーホート・サイズ効果を検証する。また3ではWelch(1979)の定式化の妥当性を統計的に検証し,新たにBerger(1985)の定式化に基づいてコーホート・サイズ効果の検証を試みる。


 2 男子におけるコーホート・サイズ効果――Welch(1979)モデルによる分析――

 理論的考察で明らかにしたように,キャリア段階モデルの特徴は熟練労働者と未熟練労働者が不完全代替である点に注目し,それがコーホート・サイズの賃金押し下げ効果に影響を及ぼすというメカニズムを明示的にモデル化した点にある。理論モデルに従えば,入職時の労働者は熟練労働者との代替性が最も小さいことからコーホート・サイズの賃金押し下げ効果が最も大きくなるが,経験年数に沿った技能の修得を通じて熟練労働者との代替性が次第に高まる結果,コーホート・サイズ効果も次第に小さくなっていく。コーホート・サイズ効果の実証分析を行う際にはこの点を明示的に考慮する必要があり,Welch(1979)は以下のようなスプライン関数を用いて推計を行っている。



ただし,EXPERは経験年数を指し,LEARNERは熟練労働者になるための必要経験年数を表す。またDはダミー変数で経験年数EXPERが必要経験年数LEARNERを下回るときに1の値をとり,それ以外は0となる。
 ここでは先に導出したコーホート・サイズにSPLINE項を掛けたものを説明変数に加えて賃金関数を推定した(注13)。推定式は以下の通りである(以下,この定式化をWelch(1979)モデルと呼ぶ)。



EARN:実質所定内給与
EXPER:経験年数(年齢-学校教育年数-6)
COHORT:コーホート・サイズ
UNEMP:失業率
TIME:タイムトレンド(1988-1995年)
 u:攪乱項

 推定を行うためには,まず熟練労働者になるための必要経験年数LEARNERを決める必要がある。そこで本稿では,必要経験年数の値として5~20の値を設定し,それぞれのケースについて(14)式をOLSによって推定して,決定係数および対数尤度が(局所的かつ大域的に)最も高いケースを採用した。その結果,高卒男子については11,大卒男子については13という数値が得られ,それぞれの値について(14)式を推計した結果が表3に記されている(注14)。

表3 Welch(1979)モデルによる男子のコーホート・サイズ効果の検証(ロバスト推定法)

 結果を見ると,高卒男子,大卒男子双方でCOHORT*SPLINEが有意でマイナスの値をとっており,未熟練期におけるコーホート・サイズ効果を確認することができる。両者の違いは大卒男子においてCOHORT項が有意に効いているのに対し,高卒男子では有意でないという点で,特に大卒の場合,コーホート効果は熟練期でも有意に生じている(注15)。いずれにせよ,未熟練期,熟練期を通じてコーホート・サイズ効果は大卒男子が高卒男子を上回っていることから,特に大卒男子においてより高い密度の訓練が施され,結果,未熟練労働者と熟練労働者との代替性が小さくなっていることがここから読みとれよう。


 3 男子におけるコーホート・サイズ効果――Berger(1985)モデルによる分析――

 前の2では,Welch(1979)モデルに従ってコーホート・サイズ効果の検証を行い,その結果,教育水準が高いほどより大きな賃金押し下げ効果に直面することが確認された。しかしながら,Berger(1985)においてWelchの方法の問題点が指摘されており,それによれば(14)式はパラメータに関して複数の制約が課されている点で制約の強い(restrictive)モデルであり,まずそれらの制約が妥当かどうか検証する必要がある。そこでBerger(1985)に従って,制約を緩めた(unrestrictive)推定式を以下のように設定する。



この式は,定数項,EXPER,EXPER2,COHORT,COHORT*EXPER,UNEMPおよびTIMEそれぞれの説明変数に,先に定義したDを掛けたものをそれぞれ加えたものである。先にも述べたように,(14)式は(15)式のパラメータのうち複数のパラメータに線形制約を課した形になっている。具体的には,β1=β3=β5=β8=β11=β13=0,β7=-LEARNER*β9という制約が課せられていることから,F検定によって制約の妥当性を検定したところ,高卒男子,大卒男子いずれのケースでも制約の妥当性は有意(1%水準)に棄却された。つまりここでWelch(1979)モデルが統計的に支持されないことが確認されたことから,以下,制約を緩めた定式化に従ってコーホート・サイズ効果の検証を試みる。
 推定の前に,ここでも熟練労働者になるための必要経験年数LEARNERの値が問題となることから,先の推定と同様,必要経験年数の値として5~20の値を設定し,各ケースについて(15)式を推定した。そこで決定係数および対数尤度が最も高いケースを採用したところ,高卒男子についてはLEARNER=13,大卒男子についてはLEARNER=12という結果が得られた(注16)。そこでここでは,サンプルを未熟練労働者



に限定して以下の推定を行った(以下,この定式化をBerger(1985)モデルと呼ぶ)。



この定式化は,(15)式と同様の推定を,ダミー変数を用いずに未熟練期の労働者,熟練期の労働者それぞれ別個に行うことを意味する。ここで推定を未熟練期の労働者に限定した理由は,昇進格差等の影響を排除して特に仕事経験の幅を通じた技能水準の違いに焦点を当てるためである(注17)。
 実証結果は表4の通りで,ここでもWelch(1979)モデルと同様,ロバスト推定法によって推計を行った。表4から明らかなように,大卒男子について有意なコーホート・サイズ効果が生じているのに対して,高卒男子ではマイナスの効果が生じるものの,その効果は有意ではない。つまり別の定式化によっても,教育水準が高いほど,関連性の低い仕事を含むより幅広い仕事経験が施され,結果として労働者間の代替性を低下させるという傾向が確認されたことになる(注18)。

表4 Berger(1985)モデルによる男子のコーホート・サイズ効果の検証(ロバスト推定法)

 ただコーホート・サイズ効果が有意にマイナスになっている大卒において,コーホート・サイズと経験年数との交差項が,有意にプラスとならない点に注意する必要がある。繰り返しになるが,キャリア段階モデルによれば,入職時のコーホート・サイズ効果は職場経験を通じた技能形成を通じて消滅していく。すなわち,もしキャリア段階モデルが当てはまっているとすれば,コーホート・サイズと経験年数との交差項は有意なプラスの値をとるはずである。しかしながらBerger(1985)モデルに従って推計を行ったところ,係数はプラスの値をとらず,コーホート・サイズ効果は経験を通じても解消されないことがわかった。このような結果については以下のような解釈が可能であろう。まずWelch(1979)のキャリア段階モデルでは,未熟練労働者に対する職場訓練の量は経験年数を通じて小さくなり,それに応じて(労働者間の代替性が高まる結果),コーホート・サイズ効果が小さくなっていくと想定されていた。しかしながら上記の実証結果に従う限り,職場訓練は熟練,未熟練を問わず,キャリア全体を通じて継続的に施されることがわかる。キャリア段階モデルの枠組みに即していえば,企業内のキャリア段階は未熟練段階,熟練段階という2段階ではなく,多段階にわたる技能修得プロセスとしてとらえる必要があろう。

 ここで参考のため,上記の結果を米国に関するBerger(1985)の分析結果と比較してみよう。すると日米間のコーホート・サイズ効果の違いとして以下のような点が浮かび上がる。まずコーホート・サイズ効果そのものの値は日本より米国のほうが大きい。Berger(1985)の実証結果によれば,サンプル期間,被説明変数となる賃金の種類によって値が異なるものの(注19),大卒男子のコーホート・サイズ効果の値はおおむね-0.1を超えており,日本の大卒男子の-0.026を大きく上回っている。また経験年数との交差項についても,日本の大卒男子の値が-0.003でかつ統計的に有意でないのに対し,米国ではほとんどのケースで-0.2~-0.5という大きな値をとり,しかも統計的に有意な値となっている。
 この点はどのように解釈すればよいのだろうか。上記の点を訓練量の違いから解釈すれば,日本に比べて米国のほうがより多い訓練を受けており,その結果労働者間の代替性が小さくなることからより大きなコーホート・サイズ効果に直面していると考えることもできよう。しかしながら上記の結果を訓練システムにおける違いから解釈した場合には別の推論が可能となる。もし日本企業においてより内部労働市場が発達しており,同じ技能形成でも技能形成の過程でより関連性の深い仕事を経験する傾向にあるならば,日本においてより労働者間の代替性が高くなり,コーホート・サイズ効果は抑制されると考えられよう(注20)。
 厳密にはサンプルや分析期間が日米間で異なることから,上記のような比較は注意を要する。しかしながら,コーホート・サイズ効果における日米間の違いは,両国の間での訓練システムの違いについて一つのヒントを提供するものといえよう。


 4 女子におけるコーホート・サイズ効果

 これまで男子についてコーホート・サイズ効果の検証を行ってきた。4では,特に女子についてのコーホート・サイズ効果についての検証を試み,男子における効果との比較を試みる。このような比較を行うことは男女間賃金格差を考察するうえでも重要であろう。というのも,もし女子に比べて男子のほうがキャリアを通じてより高い密度の職場訓練を受けており,未熟練期における労働者間の代替性が男子でより低いとすれば,コーホート・サイズ効果は女子よりも男子においてより顕著に生じると予想されるからである。
 女子についても,学歴間でのコーホート・サイズ効果の違いをみるために,特に高卒女子,大卒女子の標準労働者について分析を試みる(注21)。先にも述べたように,ここで注意すべき点は生え抜きに関する小野(1997)の分析が男子に限られている点であり,女子の分析に際して標準労働者を用いるのが妥当かどうかという点はここでは明らかでない。したがって,以下の実証分析の結果の解釈は注意を要する。
 ここでも男子ケースと同様,被説明変数として実質所定内給与を用いており,説明変数も失業率以外はすべて同じ変数を用いている(注22)。分析に先だって,男子のケースと同様,ここでも残存率が一定かどうかのテストを行った。その結果,高卒女子,大卒女子について,それぞれ年齢層を39歳以下,49歳以下に限れば1989~95年の期間で残存率に有意な変化はないことがわかった。したがって,以下では高卒女子,大卒女子それぞれサンプルを39歳以下,49歳以下に限って分析を行っている。
 男子のケースと同様,まずWelch(1979)モデルに従って推計を行った。結果は表5の通りである。ちなみに男子のケースと同様の方法で必要経験年数LEARNERの値を求めたところ,高卒女子,大卒女子いずれもLEARNER=9という結果を得た。そこで実証結果をみると,高卒女子,大卒女子いずれにおいてもコーホート・サイズ効果は未熟練期の労働者にのみ有意に生じており,その大きさは双方でほとんど変わらないことがわかる。ただし先の男子の場合と同様,Welch(1979)モデルの妥当性をF検定を用いて検証したところ,高卒女子については制約の妥当性は有意に棄却されるものの,大卒女子の場合,制約は有意に棄却されなかった(1%水準)。つまり男子の場合と異なり,特に大卒女子についてはWelchの定式化が有意に棄却されず,そこでは入職時に被るコーホート・サイズ効果は勤続を通じて次第に消えていくことになる。ちなみに高卒女子においてWelch(1979)モデルの妥当性が棄却されたことから,新たにBerger(1985)モデルを推計したところ(表6),高卒女子において有意なコーホート・サイズ効果はみられなかった(注23)。

表5 Welch(1979)モデルによる女子のコーホート・サイズ効果の検証(ロバスト推定法)

表6 Berger(1985)モデルによる女子のコーホート・サイズ効果の検証(ロバスト推定法)

 特に大卒男子と大卒女子との比較で興味深いのは,入職時のコーホート・サイズ効果が両者で殆ど変わらない点である。大卒男子(Berger(1985)モデル)において,入職時のコーホート・サイズ効果は-0.026である一方,大卒女子(Welch(1979)モデル)では,その値はほぼ-0.024となっており,両者に大きな違いはみられない。両者の違いは,女子において入職時のコーホート・サイズ効果が経験とともに減少し,最終的に消滅するのに対して,男子のほうは勤続を通じても解消されない点である。この点は男女間での訓練機会の違いを示唆していると考えられる。つまり大卒女子の場合には,入職時においてコーホート・サイズ効果が生じるものの,職場訓練の過程で技能水準が熟練労働者に追いついていく結果,コーホート・サイズ効果は解消されることになる。それに対し,大卒男子においてはキャリア全体を通じて継続的に訓練が施される結果,コーホート・サイズ効果は解消されないことになる。




 IV むすび

 本稿では,世代効果のうちのコーホート・サイズ効果に注目し,キャリア段階モデルに基づいてコーホート・サイズ効果の定量的な分析を試みた。分析アプローチとしてはWelch(1979),Berger(1985)双方のアプローチに言及し,両者の定式化に従って実証分析を行っている。まずWelch(1979)モデルに基づく分析では,大卒男子,高卒男子双方についてコーホート・サイズ効果の存在が観察された。さらに,より制約の緩いBerger(1985)モデルに従って分析を行ったところ,大卒男子のみに有意なコーホート・サイズ効果が観察され,しかもその効果は技能形成プロセスを通じても解消されないことが示された。
 大卒男子のみにコーホート・サイズ効果が観察されるという上記の実証結果は,教育水準が高いほどより訓練密度が高くなる結果,労働者間の代替性が低下し,コーホート・サイズの賃金押し下げ効果が高まるというメカニズムを実証的に支持するものである。同様の実証結果は大竹・猪木(1997)でも得られており,本稿の結果は彼らの分析結果を補完するものといえよう(注24)。
 他方,大卒男子におけるコーホート・サイズ効果が技能形成を通じて解消されないという実証結果は,今後の日本の賃金・雇用システムのあり方を考えるうえで重要な示唆を含んでいる。玄田(1997)が述べているように,内部昇進制度が支配的で,その結果,転職の機会が限られてくるような労働市場の場合,学卒採用時において雇用(訓練)機会とのマッチングに失敗した労働者が被る世代固有の効果は永続的に残ると考えられよう。もしコーホート・サイズが大きい世代で雇用機会とのマッチングがうまくいかないとすれば,その効果は恒久的な生涯賃金の低下をもたらすことになる。
 仮にWelch(1979)のキャリア段階モデルが当てはまっているならば,コーホート・サイズの大きさは学卒採用時の賃金を押し下げるものの,その効果は職業経験を通じて解消されていく。したがってその場合には,雇用機会とのマッチングを通じて被る生涯賃金の低下をある程度カバーすることができよう。しかしながら本稿の実証結果によれば,学卒採用時のコーホート・サイズ効果は職場経験を積んでも解消されず,そのまま残り続けることになる。

 分析結果の解釈には注意を要するものの,最後に女子におけるコーホート・サイズ効果について述べておく。コーホート・サイズ効果における学歴間の違いは男女間で共通しており,教育水準が高いほど異なるキャリア段階に属する労働者間の代替性は小さく,その結果より大きなコーホート・サイズ効果が生じることがわかる。ただし,男女間で比較するとモデルの当てはまりにおいて大きな違いがみられ,大卒男子におけるコーホート・サイズ効果がキャリア段階モデルの枠組みで説明できなかったのに対し,大卒女子におけるコーホート・サイズ効果はキャリア段階モデルの枠組みで説明できることがわかった。この結果を言い換えると,勤続を通じてコーホート・サイズ効果が拡大していく大卒男子のケースと異なり,大卒女子におけるコーホート・サイズ効果は勤続を通じて解消されることになる。このことは男女間での訓練密度の差を表していると考えられよう。つまり女子の場合ある程度まで経験を積むと訓練量が減少するのに対し,男子の場合,経験年数を通じて持続的に訓練を受けていることが考えられる。
 同じ分析枠組みにおける今後の課題としては以下の3点が挙げられる。まず理論モデルにおいてコーホート・サイズ効果は分配パラメータδ2/δ1に依存し,また先に言及したように,産業の違いがキャリアの組み方に影響を及ぼしている可能性がある。そのような点を考慮するために,特に産業別データ,または企業規模別のデータを用いて上記の結果を補完する必要がある。さらに,訓練の期間がコーホート・サイズの大きさの影響を受けるという点を明示的に考慮したケースの分析も必要であろう。最後に昇進を明示的に導入した分析が求められる。
 また岡村(1999)によれば,長期的には日本企業における技能修得競争は学歴間競争よりも個人間競争の影響が大きく,訓練密度における学歴間格差は勤続年数とともに減少していく。もしこのことが事実ならば,学歴ごとに独立のキャリアが設計されているとする本稿の分析枠組みは適当なものとはいえない。したがって,この点を考慮した新たな分析枠組みを提示する試みも必要であろう。



*本稿の作成にあたり,小川一夫教授(大阪大学社会経済研究所),猪木武徳教授(大阪大学経済学部),大竹文雄助教授(大阪大学社会経済研究所)ならびに本誌匿名レフェリーより大変貴重なコメントをいただいた。ここに記して感謝の意を表したい。なお当然のことながら,本稿における誤りその他は筆者の責任である。


(注1)包括的なサーベイとしては,大竹(1994)が挙げられる。

(注2)より詳しい説明は,大竹・猪木(1997)を参照のこと。

(注3)世代効果としてコーホート・サイズ効果を用いることにより,“経験年数”,“調査年”および“入職した年”の間で生ずる線形従属関係を回避している点もこのモデルの大きな特徴である。

(注4)ちなみに,ここで代替弾力性一定は,“技能の修得”“生産活動”という二つのアクティビィティの間について想定しており,未熟練労働者と熟練労働者との間の代替弾力性について想定しているのではない。

(注5)定義からわかるように,上記の領域は未熟練期の中でもより多くの訓練を要する期間であると考えられる。

(注6)N1/N2は特に労働力における年齢構成および訓練期間の影響を受ける。しかも両者の影響は独立ではなく,年齢構成の変化が訓練期間の長さに影響を及ぼす可能性は十分考えられよう。この点を考慮した分析は今後の課題としたい。

(注7)もし,各キャリア段階の労働者がすべて完全代替可能であれば,コーホート・サイズの変化は賃金構造に何ら影響を及ぼさない。その場合,増大した労働者は異なるキャリア段階へとすべて吸収されることになる。

(注8)厳密には,定義上,浪人・留年経験者も標準労働者の定義から除外される。

(注9)ここでいう一般労働者とは『賃金構造基本統計調査』の定義に従っており,“一般的な所定労働時間が適用されている労働者”のことを指す。したがって,パートタイム労働者は含まれない。

(注10)ちなみに,5歳刻みの年齢階級内で残存率が一定であるとしてコーホート・サイズを計算した場合でも,以下の結論はほとんど変わらなかった点を付記しておく。

(注11)1988-96年にわたってプールしたデータを用いて(11)式を推定したところ,大卒男子において96年について残存率の変化が示唆されたことから,ここでは96年のデータを除外して分析を行った。

(注12)同様の分析を行っている研究として,たとえば中馬(1997)を挙げることができる。中馬(1997)は,疑似コーホート・データを用いて,労働者(大卒男子および高卒男子)に占める“終身雇用者”の比率を計算し,経年比較を行っている。そこで特に企業規模計の結果をみると,85年以降,おおむね安定的な推移が確認できる一方,50-54歳層においてやや上昇傾向がみられる。ただし中馬(1997)の分析は,通常労働者についての疑似コーホート・データを用いている点で本稿と異なり,さらに終身雇用者比率の違いが統計的に有意であるかどうかは明らかにされていない。

(注13)Welch(1979)は,未熟練期における賃金関数の過小推定の可能性を考慮してSPLINE項を独立に説明変数として用いている。本稿でも同様の推定を行ったが,有意でないかまた逆に過大推定の可能性が示唆されたことから,本稿では説明変数から取り除いて推定を行った。

(注14)OLS推定を行う際,誤差項の分散均一性および正規性のテストとしてWhiteテスト,(年齢,タイム・トレンドについての)Breusch and Paganテスト,およびJarque and Beraテストを行った。その結果,正規性は棄却されなかったものの分散均一性は有意に棄却されたことから,表にはWhite(1980)のロバスト推定法による結果を載せている。上記のテストの詳細については,White(1980),Breusch and Pagan(1979),Jarque and Bera(1987)やDavidson and Mackinnon(1993)を参照のこと。

(注15)熟練期におけるコーホート・サイズ効果の違いは,昇進確率の違いを通じて生じている可能性が大きい。この点についてはさらなる実証分析が求められる。

(注16)教育水準が高いほどより長期にわたって職場訓練が施されるという通常の理解からすると,この結果は多少奇異に映るかもしれない。しかしながら,このような結果は,早いうちから昇進などに差をつけず広く長期の技能形成をうながすという,日本特有のキャリア管理を反映しているといえよう,つまりこの結果に従えば,教育水準の異なる労働者でも30代半ばくらいまでは平等に職場訓練が施されることになる。

(注17)小池(1999)は,企業内における労働者の選抜のパターンとしてまず入社して4~5年で“第一次選抜”が行われ,入社15年前後に決定的な選抜が行われるというタイプのパターンを挙げている。もしこのパターンが一般的であれば,先に得られた必要経験年数LEARNERの数値は小池の分析結果と整合的であるといえよう。この場合,ここで定義した未熟練期においては,昇進確率を通じたコーホート・サイズ効果の影響が顕著に生じることはないと期待される。

(注18)本稿の分析が産業計のデータを用いて行われている点に注意する必要がある。というのも産業ごとに職場の技術的な構造が異っており,その結果,職場におけるキャリアの組み方が異なってくれば産業ごとにコーホート・サイズ効果は異なってくると考えられるからである。その場合,学歴間でのコーホート・サイズ効果の違いは,各学歴層が直面する,キャリアの組み方の異なる訓練機会の分布の違いとして解釈することができよう。詳しくは岡村(1999)を参照のこと。

(注19)Berger(1985)は,1967-75,1967-79の期間を分析対象とし,被説明変数として年間賃金,週当たり賃金を用いている。

(注20)異なるキャリア段階における仕事間の代替性の違いに注目したモデル分析として,Ariga, Brunello, and Ohkusa(1997)を挙げることができる。

(注21)ここでは,高専・短大卒女子を分析対象から取り除いている。その理由は,以下で求める熟練労働者になるための必要経験年数LEARNERについて,最適な値(局所的かつ大域的に決定係数および対数尤度が最大となるような値)が得られなかったためである。ちなみに局所的に最大となるケースで推計を行った結果,いずれのケースでも,有意にマイナスとなるようなコーホート・サイズ効果は観察できなかった。

(注22)ちなみに所定内給与にボーナスを加えた分析も行ったが,男子の場合と同様,最適な必要経験年数の値が得られないか,また得られても有意なコーホート・サイズ効果は得られなかった。

(注23)ちなみに,上記のBerger(1985)モデルの推計における必要経験年数LEARNERは高卒女子,大卒女子それぞれについて7,16となっており,特に大卒女子でやや非現実的な値となっていることが分かる。表4からわかるようにBerger(1985)モデルでは,大卒女子に関しても有意なコーホート・サイズ効果が得られていないが,ここではWelch(1979)モデルが有意に棄却されず,また必要経験年数の値がやや現実とかけ離れていることもあり,Welch(1979)の定式化に基づいて解釈を行う。

(注24)ただし大竹・猪木(1997)は,被説明変数として所定内給与でなく現金給与総額プラス前年ボーナスの12分の1を用いている。本稿でも同様にボーナスを加えた分析を行ったが,最適な必要経験年数の値を得ることができず,またコーホート・サイズ効果が有意にプラスになるようなケースが生じた。したがって分析結果から判断する限り,ボーナスの決定は技能水準の違いとは別の要因によって決定されると考えられる。



参考文献

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おかむら・かずあき 1971年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士課程後期単位取得退学。高知大学人文学部講師。主な論文に「教育・雇用・取得分配」『日本労働研究雑誌』No. 471など。労働経済学・応用計量経済学専攻。