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(著者抄録)
企画業務型裁量労働の導入要件として設置されることになった労使委員会制度は,法定の労使協議機関として,その展開いかんでは労基法を超え労使関係全体に影響を与えるインパクトをもつ制度である。本稿は,企業別労働組合が裁量労働制を離れて労使委員会制度を活用しうることを明確にするとともに,労働組合法制との適正な調整をはかる労使委員会制度の法的位置づけを試みた。そのうえで,企業別組合が,労使委員会の従業員代表機能を活用することで,労働問題の現在的課題に応える新たな企業内労使関係システムの構築に取り組む必要性とその際の留意点を指摘した。
(論文目次)
I はじめに
II 労使委員会制度登場の背景と意義
   1 過半数労働者代表制による規制緩和の限界
   2 労使委員会制度の意義と特徴
III 労使委員会制度活用をめぐる法的問題点
   1 労使委員会の性格
   2 労使委員会の権限の拡大と制限
   3 労使委員会の一般的導入
   4 労使委員会の類型と決議の効力
IV 労使委員会制度を通しての企業内労使関係の再構築
   1 法定労使協議機関としての労使委員会の利点
   2 労使委員会の諸形態
   3 労使委員会制度の改善を含めた今後の課題
V おわりに

I は じ め に

 労働法の改編はこれまでもっぱら労基法や均等法のような個別的労使関係を中心的な対象としてきた。そのなかで,いわゆる企画型裁量労働制の導入を契機に,従来の過半数労働者代表制とは別に労使委員会制度という新たなコンセプトが労基法の世界に登場した。労使委員会制度は,基本的には,過半数労働者代表制度と同様に,労働保護法の弾力的規制の一手段に過ぎないが,その委員について改めて従業員の投票による信任手続を求めたこと,その権限に労働条件に関する「調査審議」を認めた常設的な労使協議機関として設計したことにおいて,過半数労働者代表制よりも一歩従業員代表制へと歩を進めたものとなった。従業員代表制度は,単に,労働組合の組織率の低下に伴う未組織事業所を念頭に置いた制度であるにとどまらず,労働組合が組織している事業所における労使関係の整序のあり方に関する制度でもある(注1)。本稿は,経済のグローバル化に伴うドラスティックな環境の変化のなかで企業別組合はその出口を探しあぐねているが,従業員組織である企業別組合が新たな可能性を切り開くためには,逆説的ではあるが,労使委員会制度を通してその従業員代表機能を回復することもまた必要ではないかとの認識のもとに,労使委員会制度を従業員代表制度として利用する際の法的問題点を検討し,その具体的方法を提起することを目的とするものである。



II 労使委員会制度登場の背景と意義

 1 過半数労働者代表制による規制緩和の限界

 労基法労働時間法制の改革議論の焦点であった裁量労働制の処理は,規制の緩和を求める経営側の要求と,裁量労働制を現実には長時間労働の合法化手段とみる労働側の強い反発のなかで,労使委員会という新たな労使自治=コミュニケーション組織を設けることで,両者の利害を調整することになった。従来,労働基準法の弾力的規制の方法としては,過半数労働者代表制が用いられてきたが,これを用いずに,新たな制度を用意した背景には,立法者が過半数労働者代表の労働者代表性に信頼を置くことができないことを認めざるをえなかったということでもある。
  (過半数労働者代表制度の役割と問題点)
 過半数労働者代表制度は,労基法の制定とともに労基法の弾力的適用のためのいわば便法として登場した(注2)。労働保護法としての法の定める最低基準の適用を,従業員の同意を要件として外すためである。労働組合の同意を要件にして外すだけでは,労働組合のない事業場では,弾力的な適用ができないために,従業員の過半数が賛成すること(=その意思の体現者ないし伝達者としての過半数労働者代表の同意)を要件として例外的に適用の除外を認めることになった。
 しかし,この過半数労働者代表制度は,当初から多くの問題点を抱えていた。過半数組合が従業員代表として活動する場合についていえば,過半数組合か否かを判定する手続が明確に定められていないこと(労働者の範囲,過半数認定の時期,認定に関して不服あるときの手続の欠如等),労働組合が組合として活動する場合と従業員代表として活動する場合について手続的に明確に区別されていないこと(たとえば,過半数組合は,時間外労働協定を締結するときに,組合員以外の意思をどう問う必要があるか否か,組合が時間外労働協約として締結した場合には,自動的に協定を締結しうるか等)などである。また,過半数代表者が従業員代表として活動する場合については,代表者が1人であることから,意思の単なる伝達者であるか,一定の意思決定者であるか明確でないこと(過半数代表者が従業員集団の意思を正確に反映して時間外労働協定を締結しなかったときの時間外労働協定の効力),選出過程に公正さを担保する規定がないこと(選出が不明朗であったときの協定の効力が不明確)などである。
  (過半数労働者制度の多用と矛盾の拡大)
 このような過半数労働者代表制度は,労基法および労働法関連法規の改正のなかで極めて多様に利用されてきた。現在その利用は,協定締結,意見聴取,委員の推薦等,60にも及ぶといわれる(注3)。このように,過半数労働者代表制が多用されるにいたった背景には,労働時間法制を中心に労働法的整備の必要性が拡大した反面で,法的規制の弾力性を確保する必要性もまた拡大したことによる。
 しかし,過半数労働者代表制を用いた弾力的規制の確保は,大きな問題を残している。一つには,右の弾力的規制とは,換言すれば,過半数労働者代表の意思によって強行法的な国家法的規制を破るのであるから,過半数労働者代表が労働者の意思を十分に反映し,その利益を公正に代表する必要があるが,これを担保する手立てに関していえばみるべき改善がなされてこなかった(注4)ことであり,もう一つには,過半数代表の労使協定の効力が,労働基準法の公法的私法的な強行性の解除にとどまらず,法形式論理上はともかく,事実上,労働契約の内容を規律する機能をもつ労使協定(注5)が増えたことである。

 2 労使委員会制度の意義と特徴

  (労働者公正代表性の改善)
 労使委員会制度は,このような過半数労働者代表制度と比較した場合に,法定の組織であることは同じであるが,(1)任期制の委員で構成される常設機関であること,(2)組合指名の委員を含めて従業員の直接信任手続が求められていること,(3)従業員から相対的に独立して意思形成をなしうる機関であることにおいて大きく異なる。とくに,直接の投票による信任(注6)を求めていることは,公正な労働者代表性の確保にとって大きな前進ということができる。過半数労働者代表は,過半数組合であれば自動的に,過半数代表者であれば,投票や挙手等によって選出されることになっている。過半数組合の場合はともかく,未組織事業所にあっては,その代表者の選出手続の不透明さからかねてからその代表性に疑問が寄せられていた(注7)。ところが,労使委員会の労働者委員に関しては,過半数代表者から指名された候補のみならず,過半数組合が指名した候補についてまで直接の投票が求められている。果たして,過半数組合が指名した場合にまで投票を求める必要があったかどうか(注8)は別として,選出手続により厳格さを求めていることは評価に値するであろう。
  (従業員代表機関への接近と限界)
 労使委員会が決議という意思決定をなしうる常設機関であることは,法的に常設性と機関性を与えられていない過半数労働者代表制とは決定的に異なり,わが国においてはじめて従業員代表制度が認知されたことを意味する。何をもって従業員代表制度とみるかは論者によって異なるが,筆者は,代表民主主義の原理に基づく労働者利益代表制度と理解する立場から,(1)代表者が企業ないし事業場における従業員によって選出されるものであること,(2)代表者が単なる従業員意思の伝達者ではなく,独自の意思形成をなしうる機関であること,そして,(3)労働条件の形成に直接間接に発言・関与する権限をもつことの三つは必要的要件であると理解している(注9)。労使委員会は不十分とはいえこの三つの要件を一応満たしている。
 とはいえ,従業員代表制度としてみた場合には,極めて特異な形態であることは否定できない。まず第1に,従業員代表の人数も任期も法定されず,労使にゆだねられていることである。通常,従業員代表制度は,代表制民主主義の原則からして,企業・事業場の規模に応じて代表する人数を定めておくのが一般である。しかし,労使委員会の場合,その構成員数は,過半数労働者代表との合意にゆだねられている。過半数組合との交渉によって労使委員会を設置する場合に限定すれば,企業内労使自治を代表制民主主義の原則よりも優先させたものとの説明も可能であるが,過半数代表者との交渉によって設置する場合を考えれば,不自然さが残る。第2に,労使構成の委員会のみが予定され,従業員代表それ自体の機関は予定されていないことである。一般に,従業員代表制の場合は,従業員の利益代表機関が設置され,それが機関として固有の意思形成と業務遂行を行い,労使協議なり協定の締結はその業務の一環として行われるが,ここでは,労働者代表委員が独自の機関を形成し,それが使用者と協議や決議を行う建前にはなっていない。第3に,労使委員会の決議は,従業員代表機関における意思決定のように過半数や3分の2といった形ではなく,常に全員一致によることである。これは労使委員会が従業員代表機関ではなく労使協議機関であることに起因すると思われる。すなわち,労使委員会は,一方で従業員代表機関の性格をもつことを考えれば,労働者代表内部では民主的な意思形成が求められ,他方で労使協議機関であることからすれば,労使間の意思形成において対等決定性が求められるが,この民主的意思形成と対等決定の両者を同時に充足させるには,全員一致によるしかないからである(注10)。第4に,裁量労働の導入要件にかかわり設置が予定された経緯から,とくに,使用者が望まない(必要としないかぎり)労使委員会は設置されることはないということである。従業員代表制度は,本来,企業や事業場における民主主義の理念に基づく労働者の利益代表システムであることから,法的に設置が強制されるなり,労働者が望めば設置できるのを原則としているが,労使委員会制度は,この原則と大きくかけ離れている。最後に,労使委員会(労働者委員)の権限は,過半数労働者代表と同様に,法的には基本的に拒否権しか与えられていないことである。労働者のほうから,事実上労働条件の形成を働きかけることはできても,合意形成を強制する力はもたない。
  (労使委員会の協議機関としての特徴)
 このように,労使委員会は,従業員代表制に接近したとはいえ,従業員代表機関としては極めて特異であり,その権限も少ない。むしろその性格は,過半数組合または過半数代表者が使用者と合意のうえで設置する労使協議機関である。では,労使委員会は従来から日本では企業内で設置されてきた労使協議機関とどこが異なるのか。法的地位の側面からみると,労働組合との間で設置された労使協議機関は,労働協約や労使間合意に根拠をおくものであるから,協議権の行使は団体交渉権の延長上に,そして,労使協議によって合意された事項は協約としてあるいは就業規則として,組合員や非組合員の労働条件に影響を及ぼすものである。また,社員会等の従業員組織との労使協議についていえば,多くは,使用者の権能の自己制約として理解されることになるのであろう。そこでの合意は,主に就業規則を通して労働条件形成に影響を与える。これに対して,労使委員会は,過半数労働者代表との合意に基づき,従業員の直接の信任を経て設置される労使協議機関であることで,そこでの合意=決議は,組合員と非組合員とを問わず,従業員全員を対象とした「法的効力」を予定するところに特徴がある。ただし,その「法的効力」がなにを意味するかは,後述のごとく,当該労使委員会の性格によって異なる。



III 労使委員会制度活用をめぐる法的問題点

 労使委員会制度が企画業務型裁量労働制の導入要件として労基法に入ったことは,労使委員会制度にとって幸運なことではなかった。過半数労働者代表制のしっぽを引きずり,従業員代表制度としての位置づけが明確になされていないからである。しかし,労使委員会制度を従業員代表制度の一つとして位置づけ,その積極的な活用を図ることはできないであろうか。あるいは,積極的に活用することを考えた場合にはどのような問題が発生することになるのであろうか。

 1 労使委員会の性格

 労使委員会には,「賃金,労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し,事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会」(第38条の4第1項)と,「調査審議機関」と意見具申の「諮問機関」という性格を与えられ,企画業務型裁量労働の導入の可否を判断する決議を行う以上の任務を与えている(注11)。実際,その決議の対象は,労使協定に代替して労基法の強行性を解除する決議をなしうる対象は,1カ月変形,1年変形,1週間変形,フレックスタイム,一斉休憩の例外,時間外・休日労働,事業場外労働,命令所定裁量労働,計画年休等,労働時間関係一般に及んでいる(第38条の4第5項)。したがって,少なくとも労働時間に関してはほぼ包括的な労使協議の展開を予定しているといってよい。しかも,時間外労働・休日労働に関する決議を除き届出が求められていないことは,労使委員会の自律性に信頼を与えている。その意味で,労使委員会は,労使関係における重要な位置を占める機関となりうる性格をもつ。
 では,労使委員会が,企画業務型裁量労働および特定条項(第38条の4第5項)以外に関しても「決議」による労働条件の決定を行うことは認められるか。また,その「決議」にはどのような効力が認められるか。労使委員会が,「事業主に対して意見を述べることを目的とする委員会」という法律上の表現からすると,これは事業主の「諮問機関」であり,労働条件に関して法的に意味のある意思決定をなしうるのは事業主であって委員会ではないといえなくもない。しかし,労使委員会の「決議」に労基法の強行性を解除する効力を付与しているほか,裁量労働の対象業務,対象労働者,みなし労働時間数等の運用条件についても共同決定権を付与していることは,労使委員会を,諮問機関の性格を超えた労使協議を含む意思決定機関と理解すべきことになろう(注12)。また,労使委員会の労働者委員が従業員の信任を得ていることからすれば,使用者・従業員の間に有意味な合意をなしうると理解することも自然なことである。残る問題は,したがって,労働者の団結権保障秩序との整合的な理解である。

 2 労使委員会の権限の拡大と制限

 労働組合が労使委員会制度を活用する際に,法が予定する労使委員会の任務に加えて,その機能を拡充することが認められるか。たとえば,労使委員会の設置に際して,使用者との協議や労働協約によって法定事項以外についても決議できる権限を付与することである。前段で論じた問題は,企画業務型裁量労働の導入のために設置された労使委員会が,協約等の明示の授権なく,勝手に,あるいは自前の運営規程(注13)によって,法定外事項について決議を行った場合であったが,ここでの問題は,労働組合が法定要件を満たす労使委員会に法定外事項に関する労働条件決定権を付与することである。たとえば,裁量労働者の賃金制度や人事制度に関する決定権を労使委員会にゆだねるような例である。
 一般に,労働組合が使用者と交渉して設置する労使協議機関にどのような権限を与えるかは労使自治の問題である。ただ,それは組合員との関係においてのみ妥当する。当該労使協議機関の意思決定が規範的効力をもつとすれば協約に基づくものであるから組合員との関係に限定される。非組合員との関係においては,それがいわゆる制度的部分なり使用者権限の自己制約とみられる場合を除き,当該労働者の明示黙示の合意を経ることなく法的拘束力を導くことは困難となる。これに対して,過半数組合が法定手続に従い労使委員会を設置した場合,一般の労使協議機関と異なり,従業員全体の信任手続により公正保障が与えられている。とすれば,従業員全体の信任手続を経ない従来の労使協議機関の決定以上に労使委員会の決議は非組合員従業員に何らかの法的意味をもつと考えてよいことになる。その場合,過半数組合が設置した労使委員会は,過半数代表者が設置した労使委員会に比べて,公正保障において相対的な優位性をもつこと,団結権侵害の危険性が相対的に少ないことから,その決議は非組合員従業員に対しても規範的効力をもつと考えてよいかが問題となる。この点は,後述のように,さらに,単に,労働協約において労使委員会の決議にゆだねるだけではなく,設置の際に明示的な労働条件規制権限を付与しているかどうかを加味して判断すべきことになる。
 労使委員会の権限の拡大とは逆に,その活動を制限することができるか。労使委員会が従業員代表機能を果たすことは望ましいものであっても,半面,それが労働組合機能を奪う可能性もあることからすれば,過半数労働組合が設置主体となる場合に,労使委員会の権限を企画業務型裁量労働制に限定し,特定条項の決議は認めないこと,また,特定条項のうち一定の条項についての決議を対象外とすることも,さらに,法定任務以外の労働条件の形成を一般的に排除することも可能であろう(注14)。これに対し,労働組合が過半数代表となりえない事業所において少数組合が,労使委員会の設置を排除することは,現行法のもとではできない。ただし,労使委員会の決議が法定外事項である場合に,少数組合の労働協約に抵触しえないし,しても法的意味を与えることはできない。

 3 労使委員会の一般的導入

 以上は,企画業務型裁量労働制の導入に伴ない設置された労使委員会を活用する場合の問題である。労使委員会をより一般的に活用するためには,企画業務型裁量労働制の導入とは関係なく,また,本社・本店等の事業場に限定されることなく,一般の事業場にも設置できることが必要となる。
 まず,本社・本店等事業場において,企画業務型裁量労働制を導入しないときに,労使委員会を設置できるか。この点,労使委員会制度を企画業務型裁量労働制度の導入要件としてのみ設置が認められたものという理解にたてば,かかる可能性は否定されることになる。しかし,企画業務型裁量労働を導入した労使委員会のみが,裁量労働以外の労使協定事項についても決議をなしうると限定的に解するとすれば,企画業務型裁量労働制の導入に法がインセンティブを与えることになりかねない(注15)。また,そのように限定的に解した場合には,企画業務型裁量労働制を廃止した場合,労使委員会が不適格となり,当該労使委員会が行った企画業務型裁量労働以外の特定条項に関する決議もまた不適法な決議となりかねず,法的安定性を損なうことにもなる。もっとも,その場合は例外的に任期満了までその効力を認めるという解釈で対応することも可能である。しかし,法定労使委員会が過半数労働組合との協約によって設置され,それが付与された任務を遂行しているときに,企画業務型裁量の利用を中止したからといって,労使委員会の存続を否定的に解する積極的理由はないであろう。その意味で,企画業務型裁量労働制の導入とは別に労使委員会は設置・存続できると解すべきであろう(注16)。
 つぎは,本社・本店等の事業場に限定されることなく,一般の事業場にも労使委員会は設置できるかの問題である。労使委員会制度の発展にとってはもっとも重要な論点である。この点,従来の過半数代表の任務を代替させるために,過半数代表以上に公正代表性の担保を求めている労使委員会を設置することを否定する積極的理由はない。逆に,企画業務型裁量労働の導入要件である本社・本店機能をもつ事業場という事業場要件を,労使委員会の適合性要件と連動させることは,組織変更や人事異動によって事業場要件が不備となり企画業務型裁量労働制が不適法とされた場合には,労使委員会も不適合となり,当該労使委員会が行った企画業務型裁量労働以外の特定条項に関する決議もまた不適法な決議となり,法的安定性を損なうことにもなる。したがって,労使委員会の設置は,本社・本店機能をもつ事業場に限定されることなく設置できると解すべきであろう(注17)。換言すれば,労使委員会は,裁量労働制とは切り離して存在できるということである。
 もっとも,現在では,本社・本店機能をもつ事業場以外に労使委員会が設置されても実務上届出の余地はないようである(注18)。したがって,設置届出された労使委員会のみが特定条項に関して労使協定にかわる決議をなしうると解した場合には,結果的には,企画業務型裁量労働制を導入した労使委員会にのみこれが認められ,本社・本店機能をもつ事業場以外に設置された労使委員会はかかる決議をなしえないことになってしまう。これまた,不当に企画業務型裁量労働制導入へのインセンティブを与えることであり,また,過半数労働者代表の場合,その選出が届出されていなくとも,フレックスタイム,計画年休協定等の届出義務のない労使協定を締結できることを考えると,公正代表性のより強い労使委員会がかかる決議もできないと解するのは権衡を失する。労使委員会がその選任手続および意思決定手続において従来の過半数労働者代表の労使協定締結手続に比べてより厳格であることは,過半数労働者代表よりも労使委員会のほうが労働者の公正代表性において高いことを意味するのであるから,従来の過半数労働者代表に与えられていた任務を担う能力は認められてよいはずである。少なくとも過半数労働者代表が届出義務なく締結できる労使協定事項については,本社・本店機能をもつ事業場に設置されたものでないために現時点では届出余地のない労使委員会も,協定にかわる決議をなしうると解してよいであろう。

 4 労使委員会の類型と決議の効力

  (労使委員会の適格性,適合性,適法性)
 上記のことを整理していえば,本社・本店機能をもつ事業場という事業場要件は,本来,労使委員会の適格性要件ではなく,企画業務型裁量労働の適法性要件にすぎないということである。また,届出要件についても限定的に理解する必要があるということである。労基法は,労使委員会の「適合」性に関して,(1)委員が労使同数であること(法38条の4第2項第1号),(2)委員の任期が定められていること(同),(3)労働者代表委員の選任手続が遵守されていること(同),(4)設置が行政官庁に届出されていること(同第2号)(5)議事録が作成・保存され周知されていること(同第3号),(6)招集・定足数・議事等の運営規程が作成されていること(同第4号,労基則第24条の2の4第6項)を掲げている。労使委員会が労使協議機関であるという性格からすれば,労使委員会の実質的要件は,(1),(2),(3)の基本的要件に,公正な内部運営を確保する観点から付加的要件(5)と(6)を加えたものをもって理解すればよいであろう。設置の届出は,行政的監督によって労使委員会の活動の適正さを確保するためのものであろう。とはいえ,現行法が現にその届出を予定している以上,届出要件を充足したものをもって適合労使委員会と理解するほかない。しかし,先の他の要件を満たすかぎり,労使委員会が従業員の代表として適正に活動していることを推認できるものであるから,届出がない(一般事業場では現在のところ届出余地がない)ことをもって,それを法的に否定する必要はない。適法な労使委員会として,届出不要の労使協定に代替する決議等一定の範囲で法的な役割を果たすことを認められるというべきである。
 結局,労使委員会を,その実質的要件,届出要件,事業場要件との関係で概念的に整理すると,実質的要件を満たしているものが適法労使委員会,届出要件をも満たしているものが適合労使委員会,さらに本社・本店等事業場という要件を満たしているのが,企画業務型裁量労働導入適格労使委員会ということになる(図1参照)。もっとも,現在のところ,届出は本社・本店等の事業場に設置された労使委員会にしか認められていないから,適格労使委員会と適合労使委員会は同一である。ただし,労使委員会の設置が届出られていた事業場が,組織改編や人事異動により事業場要件を欠くに至り,当該労使委員会が企画業務型裁量労働についての適格性を喪失したとしても,その他の決議についてはなお適合労使委員会の決議として効力が維持されるという解釈が明確になる意味で,現行法のもとでも両者をわけて概念する実益はある。

図1 労使委員会の類型

  (決議の法定効力)
 「適格労使委員会」「適合労使委員会」の決議は,法定決議事項(企画業務型裁量労働制と特定条項)については法定効力をもつことになる。法定効力は,基本的に労基法の強行性解除効力である(注19)。ただし,特定条項であっても過半数組合や過半数労働者との協議によりその権限が限定され運営規程に明記されている場合には,権限を超えた決議となり,法定効力も否定される。貯蓄金の委託(第18条第2項),賃金の控除(第24条第1項但書),育児介護休業権の制限(育児介護休業法第6条第1項但書,第12条第2項)等の特定条項以外の労使協定事項については,労使委員会設置の際に過半数組合や過半数代表者によってその任務を与えることが明確にされかつ運営規程に定めてあれば,決議が法定効力をもってなしうる。ただし,貯蓄金の委託のように届出が求められている労使協定については,行政が決議では届出を受理しない場合には,その決議を過半数労働者代表に戻して労使協定を締結して届出するほかない。
 一般事業場における「適法労使委員会」の場合には,設置届出と決議届出の余地がないため,届出を必要とする労使協定事項については,決議をすべて過半数労働者代表に〓(戻(モド))して労使協定として届出しなければならないことになろう。届出が効力要件と解される場合には,決議そのものでは法定効力をもたない。届出を要しない労使協定事項についても決議が可能であるが,法定効力をもつためには,労使委員会設置の際にその権限が付与されていることが必要となる(表1)。

表1 労使委員会類型と決議の法定効力

  (決議の法定外効力)
 法定事項に関する決議は労使協定と同様,労基法の強行性を解除する効力しか与えられていないために,労働者に対する法的拘束力の私法的根拠が別個に必要とされている。しかし,実際には,裁量労働や計画年休に関する決議のように,決議の内容に従って労働時間の算定が行われ,年休日が特定する実質的規範効をもつものがある(これと異なる内容をもつ見なし時間や年休日を約定する個別契約が認められない)。また,特定条項に関する決議でも,それが内容からみて強行性の解除および強行性解除効の限度という性格を超えて契約内容の形成を意図したものと理解すべきものが多くなるであろう。その場合,労使委員会が従業員の直接的信任を得ていることからすれば,規範的効力を認めることができないかが問題となる。過半数組合が労使委員会を設置する際に明確に法定決議事項に該当する労働条件に関して労使委員会による労働条件形成を認め,かつ,委員の選出過程でそれを明確にしている場合には,今日,規範的効力を承認してもよいのではなかろうか(注20)。しかし,過半数代表者が使用者と協議のうえ労使委員会の設置に際してそのような権限を付与しても,規範的効力をもつ決議はなしえないというべきである(表2参照)。過半数代表者にそのような合意権限はないし,従業員の信任手続の介在をもって団結権保障秩序を無視することはできないからである。なお,過半数組合の設置にかかる労使委員会決議に規範的効力を認めても,組合が別途協約を締結しているとすれば,当該決議の規範的効力は協約に劣後すると解すべきであろう。

表2 労使委員会決議の法定効力外効力

 法定外事項に関しては,すでに検討したように過半数組合は労使委員会の権限を拡大することができるが,労使委員会決議に規範的効力を認めることは一般的にできない(注21)。労基法上の労使協定事項以外の労働条件に関する決議については,過半数組合が設置した委員会である場合であっても,また,設置の際に付与された権限内事項であっても,少数組合を含む労働組合の団結権を侵害する可能性が高いからである。ただし,過半数組合の設置にかかる労使委員会の権限内決議には,契約解釈等を経て決議内容に沿って契約内容が形成される余地(契約内容形成可能力)はある(注22)。つまり,決議の内容が明示黙示の合意を通して労働契約内容となるとの解釈は排除されない。これは,団結権保障秩序に抵触する可能性が高いため,規範的効力を与える積極的な法的支援はなしえないものの,労働者の公正代表性が担保されている以上,この決議を法的に無価値なものにする必要はないからである。これに対して,明示的な権限の付与がない労使委員会,また,権限が付与されたとしても,過半数代表者の設置にかかる労使委員会には,かかる効力も認められない(表2参照)。組合の設置によらない労使委員会が労働条件規制権をもつとすれば,従業員の信任手続を経た場合であれ,労働組合の活動基盤を侵害する可能性をもつことになるからである。また,そもそも,過半数代表者が使用者との合意により法定労使委員会の権限を拡大する権限をもつものではないし,設置された法定労使委員会も自らの手でその任務を拡大する権限をもたないからである。したがって,仮に,かかる労使委員会が法定外事項の労働条件に関する決議を行ったとしても,それに規範的効力はもとより明示黙示の合意を通して契約内容となりうる補充的効力を与えることはできない。もっとも,法的支援がまったく絶たれた労使委員会であれ,労使関係のなかではそれなりに機能することにも留意しておく必要がある。決議という労使間合意が任意的に形成されるかぎり,労使双方が事実上それを遵守するのが一般だからである。



IV 労使委員会制度を通しての企業内労使関係の再構築

 1 法定労使協議機関としての労使委員会の利点

 すでに多くの企業には労使協議機関が設置されている(注23)。労使協議機関が設置されている事業場において労使委員会を設置する意味は,それこそ,企画業務型裁量労働制を導入すること以外には一般には考えられないであろう。しかし,すでに労使協議機関が設置されているところであっても労使委員会を設置する意味はあるのである。それは,同じく労使協議機関であれ,労使委員会は法定の手続に基づく労使協議機関であり,公的に従業員代表機能を与えられている点にある。いうまでもなく,労働組合は,団体交渉や労使協議を通して,労働条件の規制を行い,企業経営に発言することができるが,それはあくまで労働組合として行っている。労働組合は,労働組合として活動するかぎりにおいては,法的には組合員以外の従業員の利益を代表する形で発言することはできない。もちろん,これまでも労使協議制を通して労働組合はひとり組合員の利益のみならず非組合員を含めた従業員の利益を代表する形で発言してきた(注24)。しかし,今日,企業のなかに,契約社員,パートタイム労働者,派遣労働者等の非正規従業員が拡大する一方,正社員のなかでも管理職等,利害を異にする労働者がそれぞれ多様な問題を抱えているときに,労働組合がこれらの労働者を組織化することでその利益をも代表することは望ましいことではあっても,現実にはそれほど容易なことではない。また,組織化した場合でも,これらの労働者の多様な利害を公正に調整していくことには多くの困難が伴う。その際,企業別組合が,法定協議機関としての労使委員会を通して彼らの利益を代表することは,企業別組合に新たな対応方法を与えることになる。法定外の協議制のもとで非組合員従業員や組合員非正規従業員の利益を代表する場合と異なり,労使委員会制度を通してこれらの従業員の利益を代表する場合は,これらのものが直接に発言できる機会を与えるだけに,非組合員従業員にとっての納得度は大きく高まることになる。

 2 労使委員会の諸形態

 労使委員会制度の設置は,繰り返し述べたように,労基法上は,新裁量労働の導入をする場合に必要とされるものであるが,それ以外の場合に設置されることが禁止されるものではなく,むしろ,実質的要件を満たす場合には,法定協議機関としての役割を果たすことができる。では,労使委員会が裁量労働の導入を超えて従業員代表機能を果たすにはどのようなことに留意すべきであろうか。以下の検討は,実際上も最もありうる形態である,企業内労働組合,なかんずく過半数組合が労使委員会を設置する場合を念頭に置いて行うことにする。
  (設置が予定されている労使委員会像)
 企画業務型裁量労働制の導入が議論されていた昨年1999年春段階での組合調査(注25)によれば,労使委員会の任務を,「裁量労働制の事項に限定」して導入を予定しているものと,「労働者問題全体」を予定しているものとが相拮抗している(ともに29.6%,8組合)。任務を裁量労働よりも広くとっているものが比較的多くみられるのは注目される。また,規模をみると,労働者代表委員の人数を「5人から9人」とするものが最も多く(33.3%,9組合),次いで「10人から19人」(22.2%,6組合)となっている。また,委員のクラスは,「執行委員が兼務する」ものが半数(55.6%,15組合)を占め,選出時期も執行委員の選出時としている。任期も2年程度を予定しているものが多い(40.7%,11組合)。労使委員会が裁量労働というきわめて重要な問題であることを考えれば,労使委員会の委員が労働組合の重要な役職者を中心に設置されることは,ある意味で当然であろう。ただ,労使委員会がもつ従業員代表機関として性格を活かす場合には,今後,より柔軟な構成と形式を工夫することも必要となろう。単独の委員会にするだけでなく,専門委員会型を併用する(注26)ことで任務を限定するとともに,その委員を広く求めていくことである(注27)。
  (専門委員会制度の利用と問題点)
 専門委員会の設置に関しては,それが,本社等の事業場で設置され届出られた労使委員会のなかで,すでに信任を得ている委員のなかから労使同数の委員をもって設置されるものであればとくに問題がないであろう。ただし,運営規程等で専門委員会の設置に関しても定めておくべきである。これに対して,設置が届出られた労使委員会とは別個に専門労使委員会を設置する場合には,改めて指名と信任の手続が必要となる。同時に,労使委員会の届出受理が1事業所1委員会しか認められないとすれば,その委員会の設置は受理されないことになり,適合委員会ではなく適法委員会として活動するほかなく(本社等以外の一般の事業場では,いずれにしても適法労使委員会にとどまることは前述の通りである),また,本委員会と専門委員会の権限の調整に問題が発生しかねないため,前者の方法が望ましいであろう。同一委員会の内部で設置されるかぎり,本委員会と専門委員会との権限の調整は,労使委員会の内部問題として基本的には運営規程で整理すればよい。
 専門委員会方式を活用するために労使委員会の委員数を多くした場合,労使委員会の全員一致の決議方式との関係で本委員会の合意形成が困難になることが考えられる。その場合,一部委員の決議参加権に制限を置くことが認められるか。労使委員会の委員として選出された以上議決権に格差を設けることはできないであろう。しかし,本委員会のなかにたとえば高度の経営問題を審議する経営委員会という専門委員会を設置した場合に,他の専門委員会委員や本委員会の委員が参加できないことに関しては,管轄問題であり,それが運営規程上明確であるかぎり許容されることであろう。また,選出(指名・信任)手続に際して,専門委員会の委員であることが明記されて選出された場合も,当該委員の権限が当該専門委員会の管轄する問題に限定されることに問題はないであろう。なお,決議が,労働条件に関するものでありかつ当該事業場の従業員全体に関するものであるときには,労使委員会委員全員による合意が必要となる。したがって,専門委員会での決議を経て本委員会で決議を行う手続をとる二重の手続をとることも考えられる。これも,運営規程を明確にすることで許されよう。
  (裁量労働以外の専門労使委員会の具体的形態)
 労使委員会の従業員代表機能のひとつは,事業場内における多様な労働者の意見を反映させ,その利害を適正に調整することにあるが,ここでは,裁量労働制以外に専門委員会を用いることでこれらの多様な労働者利害を調整する例をいくつか考えてみよう。
 パートタイム労働専門委員会  パートタイム労働者は,次に検討する管理職と異なり,法的には労働組合が組織化することについてなんらの障害もない。正社員組合がパートタイム労働者を組織化するなり,また,別組合の組織化を支援してパートタイム労働者組合と正社員組合が連合体や協議体を形成することで,団体交渉や労使協議で対応することは可能であるし,また,望ましいとはいえる。しかしながら,正規従業員を主たる構成員とする企業別労働組合がパートタイム労働者を直ちに組織化するには実際上困難が伴う場合には,パートタイム労働者をも構成員に含めて労使委員会を設置して対応することは,それなりに有効であろう。正社員組合も,労使委員会を通してパートタイム労働者問題に対応することができるし,とくに,パートタイム労働者の労働条件について正社員との「均衡を考慮した処遇」の実現が求められている(注28)現在,企業内において両者を含めた共通の交渉・協議の場を設定できることは有益である。労働組合は,組合員たる正社員との利害の調整を図りながら,パートタイム労働者の労働条件の改善に取り組むことができる。管理職代表を労使委員会の委員に選出するのと異なり,法的障害はなく,過半数組合がパートタイム労働者の代表を含めて委員の指名を行えば足りる。
 管理職問題専門委員会  管理職を対象にした労使委員会は,労働組合が管理職を同一組織内に組織化することによって管理職のかかえる問題に対応することは事実上も法律上も困難があることにかんがみて,設置することの意味は少なくないと思われる。また,同一組合に組織化している場合であっても,管理職層の利害は一般の従業員と異なるため,労働組合が管理職問題の労使委員会を設置することで,管理職の利益を代表する役割を果たすとともに,一般労働者との利害の調整を図ることは有用なことと思われる。たとえば,管理職年俸制や役職退職制の制度設計について労使委員会における労使協議を経て決定することは,管理職の代表を交えて議論することができるだけに,労働組合と会社との労使協議で行うよりも管理職にとっての納得度は高いものになろう。したがって,労使委員会を構成するときに管理職たる従業員をその委員に選任していくことが重要である。ただ,問題は,労使委員会の労働者代表委員(過半数代表指名・信任委員)については,管理監督者は除外されている(労基則第24条の2の4第1項)ため,過半数代表が指名し,信任手続をとることができないことである。したがって,使用者指名委員(届出上は「その他の委員」)のなかから,専門委員会のメンバーを選ぶことになる。しかし,使用者の指名による委員であっては,事実上,管理職の利益を代表して自由な発言をすることはできないであろう。それゆえ,管理職問題を議論する労使委員会にするには,労働組合は会社側との交渉のうえ,使用者側委員の少なくとも1名は,管理職の仲間で選ばれた委員をもって構成すること,その委員は独自の判断で決議に対応できることを協約や運営規程等で確認していくことが必要であろう(注29)。
 計画年休策定労使委員会  労働組合が,組合員の利益代表として活動するのではなく,従業員の利益代表として活動することが直接必要となるものの例として,計画年休問題がある。計画年休協定を結ぶ際には,労働組合は,組合員であるか非組合員であるかどうかとは関係なく,個々の労働者の希望をとりながら年休取得時期の調整をする必要がある。したがって,計画年休労使委員会を設置して,各部門の代表委員を組合員の帰属とは関係なく指名・選出して,従業員の信任を得ておくことは,従業員の計画年休に関する納得度を高めるに有用であろう。計画年休協定は,他の労使協定と異なり,事柄の性格上,労基法の免罰的効力や強行性解除効力にとどまらない,実質的な規範効をもつものだからである。
  (労使委員会による組合利害調整可能性)
 今回の労使委員会が,過半数組合指名の委員にまで従業員全体の信任手続を求めたことは,補完的従業員代表制度でありながらも併存型従業員代表制度の性格もあわせもっている。併存型従業員代表制度には,複数の労働組合が企業内に存在するときに,複数組合の利害を調整する役割もある。したがって,労使委員会の設置をするときに,多数組合や過半数代表者がイニシアティブをとるなり労働組合どうしでの話し合いで双方の代表を委員に指名して従業員の信任を受けることで,複数の組合と使用者に共通の土俵を設定することは可能である。裁量労働はもとより,計画年休や時間外労働等,共通して規制することに合意がみられた事項については,労使委員会での決議をもとに,あるいはそれをもとに労働協約を締結することで,事業場内での統一的な労働条件規制を追求することを試みるべきであろう。

  3 労使委員会制度の改善を含めた今後の課題

 以上,労働組合が,現行の労使委員会制度を活用することによっても,企業内労使関係の再編を図ることが可能であることを指摘してきた。ここでの立論は,しかしながら,企画業務型裁量労働制を導入する場合に限定されることなく,労使委員会を設置できること,また,設置届出を除く法定要件を満たすかぎりにおいて,適法な労使委員会活動をなしうるという理解を前提としている。もちろん,かかる解釈の正当性を主張するものであり,学説も同旨の見解をもつ者が少なくはないと思われるが,行政等においてそれが疑問なく受けいれられる保障はない。とすれば,ここでの議論は,企画業務型裁量労働の導入を予定する労使委員会に限定されてしまう。その場合には,パートタイム労働者を含めた労使委員会の設置を求めるリアリティはやや少なくなるであろう(注30)。それゆえ,ここでの議論を活かすためにも,労使委員会制度について一定の補正が必要となろう。
 現行の法定労使協議機関という形式を前提にした場合に改善すべき点は,まず,企画業務型裁量労働制度の導入要件との切断を法形式上も明確にすることである。それは,第38条の4第1項の柱書き「事業運営上の必要な決定が行われる事業場において」を「当該事業場において」と変更し,それを同項1号に移すだけで,事業場要件が裁量労働に関するものであることが明確になろう。より本格的には,総則のなかに労使委員会の規定をおき,過半数労働者代表の任務ないし過半数代表者の任務をすべて労使委員会に移行することも考えられよう。その際には,協議対象も労働時間のほか人事条項等,従来の労使協議機関が中心的に取り扱ってきた事項にも拡大するとともに,労使委員会がなしうる決議が法定決議(強行性解除要件決議)であれ法定外決議(実質的規範効をもつ任意的労使間合意)であれ,労働組合の労働条件規制機能と抵触するだけに,調整原理を明確にしていくことが必要となる。
 中長期的には現行の労使協議機関形式から離れ,従業員代表機関と労使協議機関を分離することで,より従業員代表に近い形を追求すべきであろう。それには過半数労働者代表が過半数代表者の場合には,代表者を現行の1人から事業所の規模に応じて複数にしていくことも考えられるが,むしろ労使委員会の労働者代表委員の合議体を過半数代表者に置き換えていくことのほうが簡明かもしれない。もちろん,その際でも,労働者代表委員の人数にしても事業場の規模に応じて一定の目安を設定すること,また,女性や労働者の属性(パートタイム労働者,派遣労働者等の非正規従業員や管理職)について比例的配慮を求める(注31)こと等も検討課題となる。その際,上記の管理職の問題を考えれば,労働者の「過半数」を算定する基礎となる労働者についてもより明確な整理が必要となる(注32)。



V お わ り に

 日本の企業別組合は,企業内にあって,労働者の雇用保障を実現し,職・工の統一的な賃金制度をいちはやく実現するなど企業内の民主化に大きく寄与してきた。また,労使協議制を発達させ,人事や企業経営に関してまで深くかつ広く発言をしてきた。それは,企業別組合の社会的機能の欠落を補うだけに値する正の財産でもあった。しかし,この正の遺産も形骸化しつつある。雇用形態の多様化と雇用管理の個別化に伴い,企業内に多様な利害と関心をもつ労働者を生み出し,正社員を中心にした企業別組合の活動基盤を掘り崩すとともに,労働者相互の利害の調整をますます困難なものにしているからである。裁量労働制の議論を通して労基法に入り込んだ労使委員会制度は,その導入の経緯や方法の問題点を別とすれば,従業員代表制度の一形態としてそれなりに可能性をもっている。それは未組織労働者に発言のルートを与えるというより,労働組合が組織外労働者の発言を正当に代表する手立てをもちうるということだからである。それゆえ,ここでは,労使委員会制度を利用することで,従来の企業別労働組合が,組織化とは別なチャンネルを通して企業内における多様な労働者の発言ニーズにこたえることを追求することの可能性とその法的問題を中心に検討した。あるいは,勝手な思い入れや思いこみかもしれないが,企業内社会的機能の拡充こそ,企業内組合の活路の一つであると考えるからである。
 なお,未組織事業場においても使用者は労使委員会を利用することで労使協議制を再編することができるため,その展開いかんでは労働組合組織にきわめて重大な影響を与える。本稿でも過半数代表者の設置にかかる労使委員会の権限を検討するなかで常に考慮にいれてはきたが,正面から議論することはできなかった。その検討はまたの機会に譲ることにしたい。


(注1)従業員代表制度――ただし,併存的従業員代表ではなく補完的従業員代表制度――の提言は,(1)労基法における過半数代表制度の任務拡大に伴う法的整備の必要性や(2)未組織事業所の拡大に伴う労働者利益代表の必要性のほかに,(3)協議ルールの普遍化の必要性,(4)組合機能と従業員代表機能の分離の必要性,(5)労働者利害の多様化に対する代表民主性原理による調整の必要性を認識することに基づく(毛塚勝利「組合機能と従業員代表制度」連合総研『参加・発言型産業社会の実現に向けて』(1997)105頁以下参照)。本稿は,労使委員会制度がもちうるこれら従業員代表制度機能のうち主に最後の点に着目することで,企業別労働組合による企業内労使関係再構築への努力を期待するものである。

(注2)野田進「労働時間規制立法の誕生」学会誌労働法95号(2000)99頁は,過半数労働者代表制の立法過程を検討し,それが「企業内民主主義の理念に依拠するような確たる発想」に基づくものではなく「労働者側の当事者意思を形式上表現するために,便宜的に設定された法的な道具立て」であったとしている。

(注3)小嶌典明「従業員代表制度」21世紀の労働法第8巻『利益代表システムと団結権』(2000)58頁以下の一覧表参照。

(注4)1998年の労基法改正の際に,選出手続に関する従来の行政解釈と過半数代表者の不利益取扱禁止が明文化されたにとどまる(労基則第6条の2)。

(注5)労使協定の機能を整理したものとしては,川口美貴「過半数代表制の性格・機能」学会誌労働法79号(1992)60頁以下参照。

(注6)「投票,挙手等の方法」という信任手続は,「当分の間」は「投票」に限定されている(労基則附則第66条の2)。

(注7)労働省「労使協定における過半数代表者に関する調査研究会報告」(1989)参照。

(注8)この点については,毛塚勝利「職場の労働者代表と労使委員会」ジュリスト1153号(1999)57頁以下参照。過半数組合指名委員まで信任を求めたことは,結果的には,労使委員会の従業員代表機能を強化した。組合規制との調整に失敗しない限りにおいては,本稿で議論する,労働者利害と組合利害の調整機能を拡大することにはなる。

(注9)毛塚勝利「わが国における従業員代表法制の課題」学会誌労働法79号(1992)135頁参照。

(注10)指針(平11.12.27労働省告示149号)によれば,全員一致とは,出席者の全員一致でよいとするが,全員一致の原則は,労働者代表内部での民主的意思形成を担保する代替手段とすれば,問題なしとしない。運営規程において公正代表性と民主的意思形成を確保する配慮が必要となる。

(注11)新谷眞人「労働者代表制と労使委員会」季刊労働法189号(1999)29頁。

(注12)同旨,大沼邦博「改正労基法の政策と法理(中)」労働法律旬報1463号(1999)43頁,青野覚「労使委員会」労働法律旬報1488号(2000)29頁。

(注13)運営規程は,使用者が労使委員会の同意で作成・変更する(労基則第24条の2の4第6項)が,その同意は全員の合意が必要でないとの行政解釈が示されている(平12.1.1基発1号)。

(注14)指針は,特定条項のうち労使委員会決議で代替させるものを運営規程で定めるとするが,使用者や労使委員会は自らその権限の範囲を確定できないから,設置に関する過半数組合の労働協約に反する運営規程は無効というべきである。

(注15)過半数代表者は労使協定の締結が必要となるたびに選出する必要があるが,任期をもって選出された委員からなる労使委員会の場合,その必要がないぶん,企業にとっては煩瑣でなくなる。

(注16)同旨,青野・前掲論文28頁,吉田美喜夫「裁量労働制」21世紀の労働法第5巻『賃金と労働時間』(2000)275頁。

(注17)同旨,大沼・前掲論文42頁。浜村彰「労使委員会における労使協定に代わる決議」労働法律旬報1488号(2000)39頁。新谷・前掲論文28頁は,肯定するが協定代替決議の効力を否定。反対,吉田・前掲論文275頁。

(注18)労使委員会設置届出(様式第13号の3)は,「事業場の種類」が本社か「その他」か否か,「その他」の場合には,「常駐する役員の有無」と「事業場が行う事業運営上の重要な決定の内容」を記載する欄を設けており,明らかに企画業務型裁量労働制を前提にした労使委員会を予定している。したがって,行政実務的には,右以外の事業場において労使委員会が設置されたとしても,受理されることはないのであろう。

(注19)浜村・前掲論文40頁は法定事項に関する決議や労使協定が,労基法の強行性解除効力以外に,「労基法と同様な法的効力=最低基準的効力を持つ」とするが,決議や労使協定の定めに反する労働契約や就業規則,労働協約が無効となりうるとすれば,決議や労使協定の要件を満たさないことで,強行性解除効力が働かないからであろう。決議や労使協定それ自体に労基法と同様の効力を与えることは,それらに公権的性格を付与することにもなりかねない。

(注20)過半数組合が権限を付与し,従業員の信任を得た労働者代表委員が関与した決議の規範的効力を否定し,使用者の一方的決定にかかる就業規則に私法的根拠を求める形式論理を今後とも維持しなければならないか疑問だからである。

(注21)大沼・前掲論文45頁は,法定外事項の決議に規範的効力を否定しつつ,労使委員会の決議に労基法93条を援用し最低基準的効力=強行的効力を与えるとともに,協約優位原則のもとで直律的効力を認めようとする。労働組合の労働条件規制権能との調整から,設立時に明確な授権があった場合も含めて法定外事項の決議に強行的直律性=規範的効力を認めることには賛成しがたい。

(注22)労使間合意に規範的効力が認められない場合でも,それが明示黙示の合意を通して契約内容となる法的意味が認められる場合とそうでない場合があることについては,毛塚勝利「労働協約における労働者義務条項の法的意味」一橋論叢99巻3号(1988)338頁(353頁)以下,および前掲注 9)論文148頁参照。

(注23)1999年労使コミュニケーション調査(労働省『平成12年版日本の労使コミュニケーションの現状』2000年)によれば,労使協議機関(同調査の定義に従えば,「経営,生産,労働条件,福利厚生等の事項を労使間で協議するための常設的機関」)の設置率は,調査事業所(従業員30人以上)の41.8%である。ただし,300人以上の規模になると設置率は6割を超えるし,組合組織事業所では84.8%で設置されている。なお,前回調査(1994)に比べると,設置率は,組合組織事業所では4.1ポイント増えているものの,未組織事業所では31.6%から17.1%と大幅に減少しているため,全体として13.9ポイントも減少している(前回55.7%)。なお,社会経済生産性本部の調査(1998,対象事業所500人以上。社会経済生産性本部労使関係常任委員会編『職場と企業の労使関係の再構築――個と集団のコラボレーションにむけて――』社会経済生産性本部生産性労働情報センター,1999年)によれば,設置率は94.4%で,85年調査に比して0.7%増と横ばいであるが,効果面での評価ポイントがやや低下していることが指摘されている。

(注24)人事協議条項等は従来からも組合員以外にも,労働協約の制度的効力論,権利濫用論を通して,直接・間接に適用が肯定されてきた。

(注25)連合『裁量労働制の現状と課題~裁量労働制に関する特別調査報告』(2000)101頁以下。新裁量労働制に関しては導入を予定している27組合(組合員数約22万人)が調査対象となっている。

(注26)現在の労使協議機関でも,専門委員会等複数の労使協議機関が併存するものが,前掲99年労使コミュニケーション調査で4割,社会経済生産性本部の98年調査で57.7%となっている。また,「労使関係法制の現状と課題研究会」(保原喜志夫ほか)調査(1992年,対象事業所1000人以上。日本労働研究機構『労使協議制の研究』1994年,124頁以下)によれば,組合調査で77.4%,企業調査で62.8%の事業所に専門委員会が存在する。

(注27)労使協議機関において組合員と非組合員双方を構成員にする例は少ないが従来からもみられる。前注『労使協議制の研究』123頁。

(注28)労働省「パートタイム労働に係る雇用管理研究会報告」(2000年4月)参照。

(注29)法は労使委員会の「委員の半数」につき過半数代表の指名と当該事業場の労働者の過半数の信任を求めているだけで,「その他の委員」(届出様式)についての選出にとくに要件を定めていない。したがって,「その他の委員」について,労使間で特段のルールを設定したとしても労使委員会としての適合性を否定されるものでない。

(注30)もっとも,企画業務型裁量労働を導入する労使委員会が30人未満の事業場に適用される1週間非定型変形制の労使協定にかわる決議をなしうるとする労基法の規定も,リアリティを欠いている。盛誠吾『分かりやすい労働基準法』(有斐閣,1999)92頁。

(注31)現行労使委員会についても,労働者委員数を,過半数代表者と区別する関係で,2人以上とすること(平12.1.1基発1号)こと,調査審議の対象労働者とその上司を構成員とすることを求める(指針第四の二)等,不十分とはいえ一定の配慮をみることができる。

(注32)行政解釈は,従来から,「当該事業場の労働者の過半数」を認定する基礎となる「労働者」に法41条第2号の管理監督者および病欠,出張,休職期間中等の者を含めている(平11.3.31基発168号ほか)。過半数代表や労使委員会がもつ従業員代表の性格からみて問題なしとしない。

 けづか・かつとし 1945年生まれ。一橋大学大学院法学研究科博士課程修了。専修大学法学部教授。主な著作に「賃金・労働時間法の法理」講座21世紀の労働法第5巻(有斐閣,2000年)など。労働法専攻。