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(著者抄録)
企業組織再編のための法制度の整備の総仕上げとして、会社分割制度が商法等の改正によって創設された。会社分割をはじめ、合併、営業譲渡等の企業組織の再編は、再編にかかわる企業における労働関係に大きな影響を与えると考えられる。企業分割における労働契約、労働協約の承継の問題については、今回の商法等の改正に合わせて検討がなされ、いわゆる労働契約承継法の制定によって対応がなされた。本稿は、こうした状況を踏まえて、会社分割により生じる労働法上の諸問題についての立法的対応のあり方や解釈論上の問題について検討している。併せて、わが国に先立って類似の会社分割法制を整備したドイツにおいて、会社分割によって生じる労働法上の諸問題についてどのような対応がなされているかにも概略言及している。
(論文目次)
I はじめに
II 分割法制の整備と労働関係の法的規整
   1 分割法制の整備
   2 会社分割をめぐる労働関係上の問題と立法的対応
III 会社分割と労働法上の諸問題
   1 労働契約、労働協約の承継をめぐる問題
   2 労働法上のその他の問題
IV ドイツにおける分割法制と労働法上の諸問題
   1 ドイツにおける分割制度の概略
   2 労働法上の問題と立法的対応
V むすびに代えて

I はじめに

 産業構造の変化や国際競争の激化等に伴って,わが国の企業はこれまで以上の頻度と速度での組織再編を迫られている。これに伴い,再編を円滑化し,効率化する法制度の整備が喫緊の課題とされてきた。この課題に対応するために,平成9年には,既存の合併法制を合理化するための商法改正が行われた。また,平成11年には純粋持株会社の創設を容易化するための株式交換・株式移転の制度等を導入する商法改正,さらにはベンチャー企業等を念頭に分社化等の手続の簡素化を行った産業活力再生法の制定等がなされた。そして,総仕上げとして,今年5月には,会社分割についての包括的な法制度を創設するために,商法および有限会社法の一部改正が行われ,会社分割にかかわる法規定が組み込まれた。本稿は,新しい会社分割制度の下で生じる労働法上の諸問題について,今回の商法等の改正に合わせて制定されたいわゆる労働契約承継法も含めて検討することを目的としている。



II 分割法制の整備と労働関係の法的規整

 1 分割法制の整備

 (1)会社分割制度の整備
 会社分割とは,広義には,いわゆる営業譲渡も含めて会社の営業の全部または一部を会社から切り離し,他に移転するすべての場合をいう(注1)。今回の商法等の改正により整備された会社分割制度は,広義の会社分割のうち,営業上の権利義務をそれぞれの法定または約定の手続に従いつつ,個別に承継(特定承継)させる一種の取引行為である営業譲渡ではなく,合併と同様に,分割対象とされた営業上の権利義務を包括的に当然に承継(包括承継)させる,組織法上の行為としての会社分割を予定している(注2)。(ただし,会社分割は,承継させる権利義務を分割当事会社の意思で分割対象となる営業に属するものの中から選べる点で「部分的」包括承継とされる)。しかも,新制度は,現状において利用が考えられる分割形態に限定して規整している(注3)。
 (a)新制度は,まず,分割制度を利用できる会社の種類を,物的会社である株式会社と有限会社に限定する。そして,有限会社が営業を分割する会社となって株式会社を設立する場合を除き,株式会社と有限会社の異種間での分割も認めた。人的会社については具体的な必要性が認められないということで分割を認めていない。
 (b)また,営業の分割先となる会社の態様に違いを設け,分割先となる会社が,新たに設立される会社(設立会社)である新設分割と,既存の他の会社(承継会社)である吸収分割の制度を創設した(以下,分割する会社を分割会社,分割先の会社を設立会社等という)。このうち,吸収分割は,新設分割と吸収合併の複合形態といってよい。
 (c)さらに,分割の程度にも違いを設け,従前の制度の下でも可能であった,財産のみの分割にとどまる分社型分割(物的分割)の他に,社員関係も含めて新設会社等に移転する分割型分割(人的分割)を新たに認めた。株式会社の分割でいえば,設立会社等の設立に際して発行される株式の割当先が分割会社である場合が分社型分割であり,割当先が分割会社の株主である場合が分割型分割である。両者の混合型も考えられる。
 (d)そして,分割会社が営業全部を承継させたうえ,清算手続を経ないで消滅する消滅分割は,現実にその利用がないとして,分割会社が存続する存続分割のみ制度化した。

 (2)分割手続の容易化,効率化
 新制度の下において会社を分割するための基本的な手続の流れは,(1)分割計画書ないし分割契約書(以下,分割計画書等という)の作成→(2)労働者との事前協議→(3)分割計画書等の開示→(4)総会(株主総会または社員総会)の特別決議による分割計画書等の承認→(5)債権者保護手続(注4)(債権者への異議申出の公告,催告)→(6)分割の登記であり,(6)によって分割の効力が発生するとされている(注5)。
 新しい分割制度に含められることとなった分社型分割(物的分割)は,従前において営業の譲渡(財産引受,事後設立)や営業の現物出資の方法によって行われてきた(注6)。従前の方法においては,裁判所が選任する検査役による調査手続が必要とされ,時間的,財政的負担が大きかったが,新制度の下では,こうした手続は不要とされた。また,財産等の部分的包括承継という考え方が導入されて,移転対象となる財産ごとに必要とされる煩雑な個別の移転手続(たとえば,債務の移転では債権者個々の同意の取得)を経ることなく,分割計画書等に承継される旨記載されれば当然に承継できることとなった。
 ただし,新制度では,会社分割による労働契約の承継に関して分割計画書等に記載すること(改正商法374条2項5号,374条の17第2項5号),分割会社が本店に分割計画書等を備えおくべき日までに労働者と協議することが,分割会社に新たに義務づけられた(手続(2),改正商法附則5条1項)。
 会社分割制度の以上のような整備によって,事業の立ち上げ,再編,処分等の各局面に合わせて分割制度を効果的に活用することが可能となった(注7)。

 2 会社分割をめぐる労働関係上の問題と立法的対応

 (1)立法的対応のあり方
 以上の新しい会社分割制度も含め,近時における一連の企業再編法制の整備によって,今後,企業組織の変更が多様化し,変更の頻度も高まることが予想される。それに伴って,企業組織の変更に関係のある労働者,労働組合と使用者との関係(労働関係)に少なからず影響と混乱が生まれることが考えられる。企業再編法制の整備の実質を損ねずに,企業組織の変更に伴い生じる労働関係上の問題について,裁判例による処理の現状に照らしつつ,どこまで立法上の対応が必要かを検討すべき時期に来ている。
 本年2月に発表された「企業組織変更に係わる労働関係法制等研究会報告」(注8)(以下,「報告」という)は,こうした認識の下で,まだ法案段階にあった新しい会社分割法制の下での会社分割のほか,企業組織変更の主要な手法である合併および営業譲渡において生じる,労働契約,労働協約の承継の問題を中心に立法的対応のあり方を提言した。
 「報告」は,結論的には,会社分割についてのみ労働契約および労働協約の承継にかかわるルールの明確化と労働者保護のために立法的措置を講ずる必要があるとした。すなわち,「報告」によれば,会社分割による労働契約や労働協約の承継についても,他の権利義務と同様に部分的包括承継の考え方が適用となることを明確化する必要があるが,それらが包括承継の対象とされたりされなかったりすることで,労働者に不利益が生じる場合があり,労働者の利益に配慮した立法的対応が必要である。これに対して,合併においては,労働契約,労働協約にも包括承継の考え方の適用があり,すべて当然に承継されることが明確なルールとなっており,しかもすべて当然に承継されることによって労働者に生じる不利益はほとんど想定されず,立法的対応を要しない。そして,営業譲渡では,労働契約や労働協約の承継にも特定承継の考え方の適用があり,承継には,譲渡当事者間の合意だけでなく,労働者や労働組合の同意を要すると解すべきであり,問題は生じない。ただし,譲渡当事者間にそれらの承継につき合意がない場合には,承継されないことによる不利益が労働者に生じる場合がある。これに対して,譲渡当事者間に承継の合意がなくとも当然に承継させる等の立法的対応(包括承継の承認,承継拒否権の付与)を行うことは,他の権利義務との均衡を失するうえ,営業譲渡契約の成立や営業譲渡後の企業活動に重大な制約となる等,検討の時点においては疑問とした。
 以上の点も含めて「報告」の提言にほぼ従って,会社分割に限定した立法的措置を内容とする「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律」(以下,労働契約承継法という)が,新しい会社分割法制を創設する商法等の改正法とともに成立した(注9)。

 (2)労働契約承継法の制定
 労働契約承継法は,「労働者の保護を図ることを目的」として(同法1条),会社分割における労働契約,労働協約の承継のルールを次の諸点について明確化した。
 (a) 労働者,労働組合への書面による通知義務  同法は,まず,会社分割において,分割対象となる営業(以下,承継営業という)に従事する労働者のうち,(1)承継営業に主として従事するものとして労働省令で定める労働者,(2)それ以外の労働者(「報告」にいう承継営業に従として従事する労働者)で,分割計画書等において承継対象とされる労働者,(3)労働協約を締結している労働組合に対して,株主総会等の会日の2週間前までに(簡易な分割手続が行われる場合には,分割計画書等の作成日から2週間以内に),所定の事項を書面により通知する義務を分割会社に負わせた(同法2条1項~3項)。これは,労働者や労働組合の利害にかかわる重要な情報を提供させるというだけでなく,異議申立の機会を与えられた労働者による異議申立の前提として,分割会社に分割にかかわる情報の提供を義務づける趣旨である。
 (b) 労働契約の部分的包括承継  (a)の(1)に該当する労働者が分割会社との間で締結している労働契約につき,分割計画書等に設立会社等が承継する旨の記載がある場合には,分割の効力が生じたときに承継されるものとした(同法3条)。会社分割においては,労働契約(法文上は(a)(1)の労働者の労働契約に限定されているが,実質的には承継営業に従事する労働者の労働契約)の承継にも,他の権利義務の承継と同様に,部分的包括承継の考え方が適用になることを明示することで,使用者の変更には労働者の同意を要する旨定めた民法625条1項の適用(ないし類推適用)を否定する趣旨である。
 (c) 労働者による異議の申出  (イ)(a)の(1)に属する労働者で,その労働契約が承継の対象外とされた者,および(ロ)(2)に属する労働者で,逆にその労働契約が承継の対象とされた者は,(a)の通知がなされた日から少なくとも13日が経過した日で,分割会社が定める期限日(株主総会等の会日の2週間前の日から当該会日の前日までの日。簡易な分割手続の場合は分割を行うべき日の前日)までに,分割会社に対して書面により異議を申し出ることができるとされた(同法4条1項~3項,5条1項,2項)。そして,異議の申出があれば,(イ)の場合,当該労働者の労働契約は設立会社等に承継され,(ロ)の場合,当該労働者の労働契約は設立会社等に承継されない(同法4条4項,5条3項)。分割前にそれぞれが主として従事していた職務からその意思に反して切り離される等会社分割によって労働者に生じ得る不利益に配慮した規定である。
 (d) 労働協約の承継  他方,労働協約については,組合員のままで労働契約を承継される労働者がいる場合には,労働協約が分割会社と設立会社等の双方に適用になることが労働者の利益に沿うと考えられる。もし,労働協約の承継を認めると,労働協約は設立会社等に承継され,分割会社には存在しなくなる不都合が生じるので,分割計画書等の記載にかかわりなく,会社分割によって,分割会社におけると同一内容の労働協約が設立会社等でも締結されることにした(同法6条3項)。しかし,労組法16条の「基準」以外の部分(いわゆる債務的部分)についてもそうした取扱をすると,分割会社と設立会社等とに無用の義務を負わせることがあり得る。そこで,双方の会社にとって意味のある部分のみ適用されるように,分割計画書等で労働協約の一部を承継する旨の記載を可能にし(同法6条1項),労働組合の同意があれば,その部分のみ承継できることとした(同法6条2項)。
 労働契約承継法は,このほかに,分割手続の過程で分割会社が負う労働者との事前協議義務(分割手続(2))とは別に,分割にあたり,労働大臣の定めるところにより,その雇用する労働者の理解と協力を得る努力義務を負わせている(注10)(同法7条)。そして,労働契約,労働協約の承継に関し分割会社および設立会社等が講ずべき措置に関する指針を労働大臣が策定できることにした(同法8条)。



III 会社分割と労働法上の諸問題

 以上の立法上の動きを踏まえて,会社分割をめぐり生じる労働法上の諸問題とその処理のあり方について検討してみよう。

 1 労働契約,労働協約の承継をめぐる問題

 (1)「報告」の考え方と労働契約承継法による立法的対応について
 「報告」は,企業組織の変更の主要形態である会社分割,合併,営業譲渡における労働関係法上の問題を労働契約,労働協約の承継の問題に絞った。その他の問題については立法上の対応の必要性を否定する趣旨とも考えられるが,承継の問題は従来の学説,判例において見解の対立がみられ,立法的解決の要否も含めた検討が求められてきた最重要の問題である。
 このうち,労働契約の承継については,(1)使用者の変更を伴い,かつ元の会社への復帰が予定されていない点で,いわゆる転籍の一態様であり,労働契約の承継が有効であるためには,民法625条1項の適用(ないし類推適用)によって,労働者の同意を要すると解すべきか(労働契約承継の問題),(2)会社分割等の当事会社の意思(ないし合意)によって,特定の労働契約の承継を排除できるか(労働契約不承継の問題),がこれまで主たる問題とされてきた(注11)。
 (1)の問題について「報告」は,既述のとおり,会社分割,合併については包括承継の考え方に基づき承継営業にかかわる労働契約について否定し,営業譲渡については,特定承継の考え方により肯定した。いずれの場合も承継の対象となる他の権利義務と異なる取扱の必要性を否定した。会社分割,合併におけるそうした取扱については,一身専属的性格を有する労働契約の特殊性を無視しているとの批判がありうる(注12)。他の権利義務の承継にはみられない主観的,客観的不利益が生じうるとみるのである。しかし,他方で,労働契約(労働者)は,会社や営業を構成する重要な要素と解されており(注13),会社や営業に関係のある他の権利義務関係におけると同様に,債権者(労働者)の同意がなくとも承継の対象にできること(包括承継)への要請が強い。この要請に従って労働契約の包括承継を認めると,労働者の利益が害される場合があることは否定できない。逆に労働者の同意をそのまま要件とした場合には労働者の同意拒否に常に合理的・説得的理由が伴うともいえない。こう考えると,労働契約の包括承継の要請にこたえて労働者の同意の要件をひとまず外すが,これに代えて,労働契約の承継により労働者に生じる不利益に配慮できる相応の措置を用意する手法をとることは,立法上の調整手法としては可能ではないか(もちろん,このことは,使用者による労働者の同意獲得の努力の必要性を否定するものではない)。「報告」が承継に伴い生じる不利益につき検討しているのは,このような考え方によったからかは明らかではないが,客観的不利益として「主として従事していた職務と切り離される」不利益,承継先での雇用や労働条件が維持される利益の喪失をあげ,さらに労働者の意に反する労働契約の承継より生じる主観的不利益として「承継される不利益」をあげている。また,労働者の同意に代えて立法上の措置により対処すべき不利益とは,いわば労働者が承継に同意していたら受忍すべき範囲の不利益というべきであり,労働契約の承継から直接発生する蓋然性が高く,承継対象の労働者に共通性の高い不利益ということになるのではないか。その意味で,「報告」のあげる不利益の内容は妥当といえよう。したがって,承継時に発生する抽象的不利益(たとえば,分割を理由とする設立会社等による整理解雇や労働条件の不利益変更等の可能性)は,主観的な「承継される不利益」として一応評価されるにとどまるといえ,分割後に具体化すれば,既存の労働法上の法理に従って処理されるか,別の立法的対応を検討すべきことになろう(II2参照)。そして,「報告」の結論からすると,「承継される不利益」だけでは足りず,「主として従事していた職務と切り離される」という・客・観・的・な不利益が加わるケースでのみ,立法上の措置が必要と解されているとみられる。こうしたケースにのみ包括承継を制約できる合理的・説得的理由が存在しているとみることは,商法上だけでなく労働契約関係法上の処理方法としても許容できると解される。合併では,こうした不利益が実質的にないと判断され,会社分割では,「承継営業に従として従事する労働者」にこうした不利益があるとして,他の債権者と同様とはいえ,労働者の意思を労働契約の承継の有無に反映できる異議申立権が付与されている。この異議申立権は相応の措置として十分評価できよう。
 (2)の問題については,合併においては,労働契約は包括承継によりすべて承継され,承継対象を限定する当事会社の意思(合意)は無効である。会社分割では,合併とは異なり,当事会社の意思(合意)により承継営業にかかわる労働契約でも一部の承継を排除できる(注14)。これに対しては,(1)の問題における民法625条1項のような明確な制約根拠は存在しない。しかし,「報告」は,同じ包括承継の考え方に基づく合併には「承継されない不利益」が生じないこと等とのバランスを考慮して,結果的に(1)の問題と同様に,「承継されない不利益」に加えて「主として従事していた職務と切り離される」不利益が生じることを理由に,「承継営業に主として従事する労働者」に妥当にも異議申立権を認めた。
 「報告」によると,営業譲渡においても同様の不利益が生じ得る。会社分割の場合には「承継される不利益」ないし「承継されない不利益」に加えて「主として従事していた職務と切り離される」不利益が生じる状況に,包括承継の効果や当事会社の意思を制約する意義が与えられている。営業譲渡の場合も,全部譲渡のような包括承継的実態が明確な類型(態様)を抽出できるのであれば,労働契約の不承継による同様の不利益の発生を理由に,譲渡当事者の意思を制約して承継の対象とさせる立法的対応をとることは,いまだ選択肢のひとつとして残されているといえよう(ドイツでの取扱につきIV2(1)参照)。
 他方,会社分割における労働協約の承継に関しては,部分的包括承継の考え方が修正され,基本的には,分割会社における労働契約と同一内容の労働協約を設立会社等が締結したとみなされる。設立会社等の使用者は,その意に反していても労働協約の一方当事者とされる,との法律構成がとられた。これに対して,部分的包括承継の考え方を維持しつつ,協約の承継が合意されなかった場合には,いわゆる規範的部分が,承継される労働契約の内容となり,協約の有効期間中は変更できないとして労働契約レベルで処理する選択肢もありえた(ドイツでの取扱につきIV2(2)参照)。組合員労働者の利益保護やルールの簡明性の点では,労働契約承継法上の処理のほうがより徹底しているといえよう。

 (2)労働契約承継法について生じる解釈論上の問題について
 「承継営業に主として従事する労働者」とそれ以外の労働者との区別の基準(複数の営業に同時に従事する労働者等についての判断),労働契約の承継にかかわる労働者に対する分割会社による通知義務違反の効果(期限日以降の異議申立の可否等),異議申立権と労働契約の承継に対する労働者の事前同意との関係,設立会社等で締結したとみなされる労働協約の非要式行為性,承継労働者の承継前後の勤務(期間)の継続性,通算可能性等が省令や指針の内容ともかかわって問題となってこよう。

 2 労働法上のその他の問題

 会社分割においては,労働契約承継法により立法的対応がなされた点以外にも,分割を契機として,その前後に,労働法上の問題が発生する。本稿では,それらの問題のうち,主要と思われるものについて検討を試みる。

 (1)整理解雇の効力
 まず,会社分割にかかわって,分割前後に,余剰人員に対する人員削減のための措置がとられることが考えられる。会社分割を契機として行われる解雇は会社分割を理由とするものも含めて自由になし得るわけではなく,整理解雇法理の適用下に置かれる。この法理が,分割という企業活動との関係でどの程度有効に適用されるかが,立法的対応の要否とかかわって問題となろう(ドイツでの取扱につきIV2(4)参照)。
 分割を契機になされる整理解雇の場面としては主として,(a)承継営業に従事する労働者に対して分割前に分割会社によりなされる整理解雇,(b)設立会社等に移った労働者に対して分割後に設立会社等によりなされる整理解雇,(c)分割会社にとどまった労働者に対して分割後に分割会社によりなされる整理解雇が考えられる。
 周知のとおり,整理解雇の有効性は,四つの要件((1)人員削減の必要性,(2)解雇回避の努力の有無,(3)解雇対象者の選定の妥当性,(4)労働組合,労働者との誠実な協議)を充足するかで判断されることが確立された判例法理となっている(注15)。会社分割を契機として各要件の吟味にあたり問題となる以下のような事情が発生すると考えられる。
 (a)の整理解雇の場合,(イ)新設分割により設立される設立会社の人的キャパシティの縮小の必要性や,(ロ)吸収分割において承継会社と合意した承継労働者数を超える人員の削減の必要性に基づいて行われることが考えられる。いずれも会社分割を理由とする人員削減のケースといえる。先の4要件のうち(1)について,削減の必要性がどう判断されるかである。これまでの判例では人員削減の必要性に関する使用者の経営判断は尊重される傾向にあるが(注16),いずれのケースも承継営業での人員受入規模に見合った削減数が予定されているか等が客観的に判断されることになろう。また,(3)につき解雇対象者を「承継営業に主として従事する労働者」に絞ることは許されよう。さらに,(4)につき分割手続の一つとされた労働者との協議義務や労働契約承継法上の努力義務との関係が問題となろう。
 (b)の整理解雇では,たとえば,(ハ)会社分割において,承継営業に主として従事する労働者の異議申立により承継実数が予定数を超えた場合や,(ニ)そうした事情はなかったが,設立会社等でいっそうの人員削減が必要になった場合のように,分割発効後の比較的早期に人員の削減が行われることが考えられる。(ハ)も分割を理由とする解雇の例であるといえよう。こうした場合,先の4要件との関係で,(1)の人員削減の必要性については,やはり承継営業の規模等との関係で客観的に判断されることになろう。(2)については,設立会社等による解雇回避の努力との関係で,たとえば,すでに分割会社において分割前に希望退職の募集等がなされていた事情は考慮されないが,設立会社等による分割会社への労働者の復帰の努力等は考慮されよう。また,(3)については,(ハ)につき分割前の異議申立により労働契約が承継された労働者を優先的に整理解雇の対象にしたり,(ニ)につき吸収分割において承継営業に従事していた労働者を承継会社側の労働者に優先して整理解雇の対象にすることは合理的な理由のない限り許されないであろう。
 (c)の整理解雇については,(ホ)分割時に承継について異議を述べずに分割会社に残された承継営業に主として従事する労働者や,逆に(ヘ)異議を述べて分割会社に残ったそれ以外の労働者に対して整理解雇がなされることが考えられる。いずれの場合も,(2)や(3)の要件との関係で,たとえば(ホ)につき労働者が異議申立をしなかった理由が,分割会社内の他の部署への配置転換による対処を約束されていたとの事情や,(ヘ)につき,たとえば異議申立に合理的な理由が存在しなかったとの事情は,考慮される必要があろう。
 (イ)~(ハ)のケースのような会社分割を理由とする解雇は,労働契約の承継にかかわる異議申立の制度を無力化する面のあることは否定できないが,判例においては解雇の必要性につき客観的な判断がなされる等解雇の相当性のチェックがなされると解され,新たな立法的措置は要しないと解される(ドイツにおける取扱につきIV2(4)参照)。

 (2)労働条件の不利益変更の効力
 また,新しい分割制度の下で行われる会社分割の効果は,労働契約をそのままの内容で承継することであるから,分割により労働条件等を変更するには,分割時に労働者との特段の合意(ないしその旨の労働協約の締結)がない限り許されないと解される。そのため,分割後の比較的早期に,吸収分割によって併存することとなった労働条件の異なる二つの労働者グループに対して労働条件統一のために,あるいは新設分割により新設会社に移った労働者に対して,労働条件の不利益変更が行われることがあり得る。とりわけ,これが就業規則の制定,改訂により行われる場合が問題となろう。
 就業規則の不利益変更の効力については,周知のとおり,判例上,合理性基準によることが確立されている。合理性の具体的判断として,就業規則の変更による不利益の程度・内容と変更の必要性の程度・内容の比較衡量を中心にして,同業他社の労働者の労働条件の状況等との比較による社会的相当性,労働組合との交渉の経緯やその他の従業員の態度等を総合的に考慮して結論が導かれている(注17)。現時点においては,判例上は,設立会社等での就業規則の不利益変更の効力の判断においても同様の手法が用いられることになろう。ただし,会社分割の場合,労働契約が当然に承継される「承継営業に主として従事する労働者」については,分割時に発生する「承継される不利益」が労働条件の不利益変更という形で具体化すると解される。しかし,こうした労働者の労働条件の不利益変更についても,具体化した不利益の程度によって変更の合理性を判断すればよく,他の労働者と区別して厳格な合理性判断をする等の必要はないものと考えられる。

 (3)労働契約にかかわる権利義務関係
 そして,会社分割にあたり分割計画書等に承継の旨記載された労働契約は,労働契約上の地位も含めて全体として承継される。ただし,社宅の貸与関係,住宅ローンの貸付関係,ストック・オプション等のように,労働契約関係がその成立ないし存続の要件とされるが,労働契約以外の法的根拠に基づいて生じる権利義務については,労働契約の承継に合わせて承継される旨の記載が,分割計画書等においてなされることが必要か明確にしておく必要があろう。また,既往の労働に対する賃金債権や退職金(一時金,年金)債権,社内預金債権等分割前に具体的な請求権として発生した部分について,その履行期が分割の効力発生前か後のいずれに到来するかにかかわりなく,重畳的債務引受か免責的債務引受かの別も含めて,労働契約の承継とは別に承継の旨の記載を要するかも明確にする必要がある(注18)。これらの債権の承継には債権者保護手続が用意されている(注19)(ドイツでの取扱につきIV2(3)参照)。

 (4)分割会社と設立会社等との関係より生じる労働法上の問題
 さらに,会社分割の態様によっては,分割会社と設立会社等の間に労働法上考慮すべき関係が生まれうる。たとえば,(完全)親子会社関係,関連会社関係,純粋持株会社関係,兄弟会社関係(同一株主により株式を所有されている関係)等である。これらの関係が新しい会社分割制度の整備によって多重的に生じる状況も考えられ,出向・復帰命令の効力や労組法上の「使用者」概念の判断等につきルールの明確化のための立法的対応が要請される事態の発生も考えられる。



IV ドイツにおける分割法制と労働法上の諸問題

 ところで,ドイツにおいては,1994年に新しい組織変更法が制定され,企業組織の再編に関して分散していた法規定を改正のうえ統合し,整備した(注20)。企業組織再編の円滑化,効率化を図るための整備という点はわが国と同様であり,この法分野におけるEUレベルでの整備・統合の動きを受けたものである(注21)。ドイツにおいては,この新しい組織変更法(以下,新法という)の中に包括的な分割制度が創設された。この制度の下では労働法上どのような点が問題とされ,どういう対応がなされているかを概略のみであるがみてみよう。その対応は,あくまでドイツの既存の労働法の制度的枠組みを前提としているといえるが,「ドイツモデル」として参考になろう。

 1 ドイツにおける分割制度の概略

 ドイツにおける企業組織の変更の態様は,わが国でいういわゆる営業譲渡にあたる個別(的権利)承継(Einzelrechtsnachfolge)と,合併等の包括(的権利)承継(Gesamtrechtsnachfolge)とに大別される。そして,会社分割は,わが国におけると同様に,部分的包括承継によるとされ,包括承継型の組織変更に含められている。新法における会社分割制度では,存続分割のほかに消滅分割も認められ,また,物的会社だけでなく人的会社,協同組合その他の分割も認められ,わが国より多様な分割の形態が予定されている。分割手続については,分割検査役の関与が存置されている点等いくつかの点を除けば,わが国の手続に類似している。

 2 労働法上の問題と立法的対応(注22)

 ドイツにおいては,わが国とは異なり,個別承継型の営業譲渡(以下,特記しない限り単に営業譲渡という)に伴い生じる労働法上の主要な問題について立法上の対応がなされている。新法は,会社分割に伴い生じる労働法上の問題についても,営業譲渡に適用される規定(民法典613条a)を部分的に準用しつつ(注23),新法独自の規整も行っている。新法の制定時に想定され,同法にそれへの対応が盛り込まれたものとして概略次のものが挙げられる。(1)労働関係の承継,(2)労働協約,事業所協定の承継,(3)債権者としての労働者の保護,(4)分割を理由とする解雇,(5)分割手続等である。

 (1)労働関係の承継
 (イ)営業譲渡については,営業の全部または一部が,法律行為に基づき譲渡される場合,営業譲渡時に存在する労働関係から生じる権利義務関係に譲受人が入る旨が明文で定められている(民法典613条a1項1文)。営業譲渡の当事者の意思にかかわりなく,譲渡先への労働関係の承継を確保する趣旨と解される。したがって,一部の労働関係を譲渡対象から外す譲渡当事者の合意は無効となる(注24)。ただし,譲渡先への承継が保障される労働関係は,譲渡予定の事業所(ないしその一部)に活動の重点のある労働関係に限られると解されている(注25)。さらに,こうした労働関係の承継について労働者が異議を申し立てた場合には,解釈論上,譲渡の効果が発生しないことが判例上確定している(注26)。異議申立は,通例,譲渡前に譲渡人になされなければならないが,営業譲渡についての適切な情報提供がなされない場合等には,譲渡後に譲受人に行うことも許されると解されている。
 (ロ)新法は,会社分割をはじめ使用者の変更を伴う企業組織変動について民法典613条a1項の準用を定めており(新法324条1項),会社分割等での労働関係の承継については,(イ)と同様の取扱がなされると解されている(注27)。その限りで分割契約書等による労働関係の配置は制約を受けることとなっている。

 (2)労働協約,事業所協定の承継
 (イ)まず,会社分割における労働協約の承継についてみると,ドイツの労働協約の主流である企業横断的な団体協約では,設立会社等の使用者が,分割会社の使用者と同じ使用者団体のメンバーであるか,分割後,そのメンバーとなって,同一の労働協約の適用下に置かれる場合や,設立会社等が分割会社に適用のある労働協約の拡張適用を受ける場合には,分割により設立会社等に移る労働者には,従前の労働協約が継続して適用になる(注28)。
 (ロ)他方,事業所内の労働者代表により構成される事業所従業員会と当該事業所の使用者とが締結する事業所協定については,会社分割によって承継される事業所が事業所としての同一性を失わない限り,分割会社で適用となっていた事業所協定は,そのまま設立会社等に承継されて適用となると解されている(注29)。この場合,分割される事業所の事業所従業員会もそのまま存続するとされる。同一性が認められない場合には,設立会社等に事業所従業員会がなく,かつ事業所従業員会の設立が許される最低労働者数を下回っていない場合には,分割会社にある事業所従業員会が,新事業所従業員会の設立まで,最大6カ月間,設立会社等へ移行した労働者のために業務を肩代わりし,新事業所従業員会の設立のための選挙管理委員会を選出することとされている(新法321条1項)。
 (ハ)以上の場合とは異なり,労働協約や事業所協定による分割後における集団的規整の存続を根拠づけることができない場合には,営業譲渡に伴う労働協約,事業所協定の承継について個別労働関係上の処理を定めた民法典の規定が準用される(注30)(新法324条2項)。すなわち,労働協約の規範的部分および事業所協定は,会社分割の発効のときから,労働関係の内容となり,設立会社等の使用者は1年間はこれを労働者に不利益に変更することはできない(民法典613条a1項2文)。ただし,設立会社等に別の労働協約が適用になっていて,移転した労働者がこの協約の締結当事者である別の労働組合に加入することでその適用を受けるに至ったとき以降や,別の事業所協定の適用を受ける場合には,分割会社に適用のある労働協約の規範的部分や事業所協定は,労働関係の内容とはならない(同項3文)。また,労働協約の規範的部分や事業所協定が労働関係の内容となる場合でも,労働協約や事業所協定が営業譲渡時までか,営業譲渡後1年以内に強行的効力を失い,その余後効のみ適用になっている場合や,設立会社等が他の労働協約の適用領域にあって,設立会社等の使用者と労働者との間でこの労働協約の適用を合意した場合には,分割発効後1年経過前であっても,労働関係の内容となった権利義務を変更できるとされている(同項4文)。

 (3)債権者としての労働者の保護
 (イ)営業譲渡については,譲渡人に,営業譲渡前に労働関係から債務が発生し,この債務が営業譲渡前か営業譲渡後1年以内に履行期に達する場合には,譲受人とともに連帯責任を負うとされている(民法典613条a2項1文)。ただし,そうした債務のうち営業譲渡前か譲渡後1年以内に履行期となる場合で,期間に対応して給付内容(額)が算定されるものについては,譲渡人は,算定対象となる期間のうち,譲渡時までの期間に対応する範囲でのみ責任を負うと規定されている(同項2文)。債務の内容として,たとえば,未払賃金,企業年金,年次特別賃金やクリスマス手当等の支払債務が考えられている(注31)。これらの規定は,譲渡前に発生し,本来であれば譲渡人が履行すべき債務につき,限定的ながら,譲渡人にも譲受人とともに履行の責任を負わせることで,譲受人の負担能力をカバーする趣旨である。ただし,これらの取扱は,譲渡人が組織変動により消滅する場合はいうまでもなく適用がない(同条3項)。
 (ロ)新法は,会社分割について,これらの規定を明文では準用しておらず(新法324条1項参照),その準用については学説上議論がある(注32)。これは,新法自体が債権者としての労働者を保護するための規定を置いていることによる。この規定によれば,分割前に設定された分割会社の債務や一定の義務については,これを承継した設立会社等は,分割会社とともに連帯責任を負う(新法133条1項,2項)。これを承継しなかった設立会社等も,裁判上の請求(ないし当該設立会社等による債務の承認)があれば,最長で5年責任を負う(同条3項~5項)。さらに,設立会社等が所有会社(投資会社)となり,分割会社が事業会社となる会社分割が行われる場合には,所有会社は,事業会社の労働者に分割後5年以内に生じる,事業会社に対する請求権(事業所組織法111条~113条に基づき生じる請求権)に対して連帯責任を負うこと等を定めている(新法134条)。

 (4)分割を理由とする解雇
 (イ)営業譲渡を理由とする解雇については,譲渡人,譲受人のいずれによる場合も無効となる(注33)(民法典613条a4項1文)。労働関係の承継の脱法的な回避を防止する趣旨とされる。ただし,営業譲渡時に行われる解雇でも,営業譲渡自体を理由とする解雇でない限り問題のないことが明示されている(注34)(同項2文)。
 (ロ)新法は,営業譲渡における解雇規制を会社分割についてもそのまま準用する(新法324条2項)。加えて,分割前に分割会社の使用者と労働関係にあった労働者は,分割により事業所の労働者数が解雇制限法の適用要件である最少労働者数を下回る等の変動があっても,分割発効後2年間は,分割会社,設立会社等での解雇制限法制上の地位を,分割を理由に弱められることはないと定める(同法323条1項)。

 (5)分割手続
 労働関係とのかかわりで,いくつかの分割手続が定められている。労働者およびその代表(労働組合,事業所従業員会等)に対する会社分割の影響やその措置につき分割契約等に記載すべき義務(新法126条1項11号),事業所従業員会への会社分割についての情報提供義務,これとの協議義務(新法126条3項,事業所組織法111条以下)等である。



V むすびに代えて

 労働契約承継法の国会審議の過程で附帯決議がなされ,合併・営業譲渡をはじめ企業組織の再編に伴う労働者の保護に関する諸問題につき立法上の措置を含めさらに検討を続けることとされた。新しい会社分割制度の整備によって企業組織変更の実情に新たな展開が生まれることになれば,同法や労働大臣の定める指針等に追加的な対応を盛る必要性が生まれることも否定できないであろう。


(注1)前田重行「会社分割に関する立法上の問題点」『商法の争点(1)』(有斐閣,1993)212頁。

(注2)長谷川雄一「合併・営業譲渡の性質」『商法の争点(1)』(有斐閣,1993)204頁以下,原田晃治「会社分割法制の創設について(中)」,商事法務1563号13頁。

(注3)新しい会社分割制度については,前田庸「商法の一部を改正する法律案要綱の解説(上)(中)(下)」商事法務1553号~1555号(各号,2000),各号4頁以下,原田晃治「会社分割法制の創設について(上)(中)(下)」商事法務1563号,1565号,1566号(各号,2000)各号4頁以下,前田雅弘「会社分割に係る商法等の一部改正について」ジュリスト1182号2頁以下参照。

(注4)会社分割によって分割会社の財産に変動が生じ,分割会社の債務が設立会社に免責的に承継される場合が生じるために,債権者は不測の損害を受ける可能性があり,債権者保護手続が定められている。(4)の手続の日から2週間以内に,官報での公告により,さらに会社に判明している債権者には個別に催告により,分割に対する異議申出を促し,申出があれば,当該債権者に弁済,相当な担保の提供等の措置をとらなければならない。ただし,分社型分割では,設立会社等に割当てられる株式と交換で営業が承継されるので,分割会社の財産には変動がないとみなされ,債権者保護手続は不要とされている。個別催告を受けなかった債権者には,その債務を負担しないとされていた分割当事会社も不真性連帯債務の責任を負う。債権者保護手続については,原田・前掲(注3)解説,商事法務1565号14頁以下参照。

(注5)分割される営業の規模が小さい場合には,(4)の手続を省略した簡易な分割手続が定められている。また,会社分割は,分割当事会社が負担する債務について,弁済期に弁済の見込みがないと判断される場合には許されない。原田・前掲(注3)解説,商事法務1565号11頁以下参照。したがって,会社の不採算部門を分割により切り離し,清算する目的で行われる分割は,将来的に債務の履行が危ぶまれるとして許されない場合が多いと解される。

(注6)営業譲渡,合併の手続については,たとえば,河本一郎『現代会社法(新訂八版)』(商事法務研究会,1999)535頁以下,龍田節『会社法(第七版)』(有斐閣,2000)359頁以下,399頁以下参照。

(注7)分割制度の利用態様の予測として,たとえば,あさひ法律事務所・アーサーアンダーセン編『会社分割のすべて』(中央経済社,2000)182頁以下参照。

(注8)商事法務1552号36頁以下。

(注9)平成12年5月31日公布で,公布の日から1年以内の施行が定められている。また,同法の制定は,商法改正法付則5条2項による。「報告」内容および労働契約承継法の制定経過等については,荒木尚志「企業組織変更に伴う労働契約関係の焦点」労働法学研究会報(2000)1頁以下,同「合併・営業譲渡・会社分割と労働関係労働契約承継法の成立経緯と内容」ジュリスト1182号(2000)16頁以下参照。企業組織の変動をめぐる労働法上の問題に関しては,民主党による「企業組織の再編を行う事業主に雇用される労働者の保護に関する法律案」等も国会に提案された。民主党案は,合併,会社分割,営業または事業の譲渡・譲受を企業組織の再編としてあげ,これを理由とする解雇の禁止,承継労働者の労働条件の不利益変更の禁止,労働組合等との事前協議義務を定める。また,労働契約の承継については,承継営業に主として従事する労働者について,会社分割,営業譲渡とも包括承継を基本としつつ,これらにおいて営業の一部承継の場合には労働者の不同意通知のないことが承継の要件とされ,営業の全部の承継の場合には,合併の場合とともに,承継後,労働契約を解除できることが定められている。労働協約の承継については,労働契約承継法と同様の処理を予定していた。

(注10)いずれの義務も国会の審議の過程で追加されたものであるが,政府側の説明では,事前協議の対象となる「労働者」とは,承継営業に従事する労働者に限定される。これらの労働者の委任を受けた労働組合と協議を行ってもよいと解されている。他方,労働者の理解と協力という場合の「労働者」には,事業場の過半数代表や労働組合が想定されている。原田・前掲(注3)解説,商事法務1565号9頁以下。

(注11)営業譲渡,合併における労働法上の問題については,清正寛「企業合併・営業譲渡と労働契約」『労働法の争点』(有斐閣,1990)206頁以下,野田進「合併・営業譲渡と解雇」季刊労働法165号(1990)17頁。萩澤清彦「合併・営業譲渡の場合における従業員の引継ぎ」『商法の争点(1)』(有斐閣,1993)212頁以下,洲崎博史「営業譲渡と労働契約関係」『商法判例百選』(有斐閣,1994)190頁以下ほか参照。

(注12)「報告」および「労働契約承継法」法案を批判的に検討している論考として,萬井隆令「企業組織の再編と労働契約の承継」労働法律旬報1478号(2000)7頁以下,本久洋一「会社分割と労働関係」労働法律旬報1478号(2000)13頁以下がある。

(注13)前田・前掲(注3)論文,商事法務1553号8頁以下。

(注14)承継営業にかかわる労働契約全部を承継を対象からはずす場合には,分割としての効力が否定されるとする見解がある。前田・前掲(注3)論文,商事法務1553号13頁。

(注15)下井隆史『労働基準法(第2版)』(有斐閣,1996)115頁以下。

(注16)菅野和夫『労働法(第5版)』(弘文堂,1999)450頁以下参照。

(注17)合併・営業譲渡による労働条件の統一のための就業規則の変更の効力が問題となった事例として,大曲農業協同組合事件・最三小判昭63・2・16民集42巻2号60頁,朝日火災海上保険事件・最三小判平8・3・26民集50巻4号1008頁等がある。

(注18)分割計画書等にいずれであるかの記載がない場合には,当事会社の意思解釈によると解する見解がある。原田・前掲(注3)解説,商事法務1563号7頁。

(注19)前田・前掲(注1)論文,商事法務1554号8頁参照。債権者保護手続の概略については,(注4)参照。

(注20)新しい組織変更法(UmwandIungsgesetz)に関する邦文文献として,金子寛人「ドイツの新しい事業再編法」商事法務1395号(1995)2頁以下,早川勝「ドイツにおける会社分割規制」同志社法学48巻5号(1997)94頁以下,同「ドイツ組織法」同志社法学49巻4号(1998)235頁以下参照のこと。

(注21)EUレベルでの動向については,たとえば,荒木尚志「EUにおける企業の合併・譲渡と労働法上の諸問題」北村一郎編『現代ヨーロッパ法の展望』(東京大学出版会,1998)81頁以下参照。

(注22)本文の記述については,次の文献を参照した(以下での引用は各文献の頭書の番号による)。(1)W. Boecken, Unternehmensumwandlungen und Arbeitsrecht, 1996, (2)M. Bachner u. a., Arbeitsrecht bei Unternehmensumwandlung, 1996, (3)U. Preis u. H. J. Willemsen (Hrsg.), Umstrukturierung von Betrieb und Unternehmen im Arbeitsrecht, 1999,
(4)U. Preis, Arbeitsrecht, 1999, S. 809ff., 835ff., (5)C. W. Hergenroder, Rechtsgeschaftlicher Betriebsinhaberwechsel I, in Arbeitsrecht-Blattei (500.1), 1999, (6)R. Richardi, G. Annus, §613a, in Staudinger-Kommentar zum BGB, Buch 2, 13 Aufl., 1999, (7)G. Schaub, Arbeitsrechts-Handbuch, 2000, 9 Aufl., S. 1173ff.

(注23)新法制定前の学説の支配的見解は,合併や会社分割のような包括承継型の企業組織の再編には,営業譲渡に関する民法典613条aの適用はないものと解していた。vgl. (4), S. 838.

(注24)(3), S. 94, (5), S. 31 RdNr. 79.

(注25)Z. B. BAG v. 20.7.1982, AP Nr. 31 zu§613a BGB; v. 25.6.1985, AP Nr. 23 zu§7 BetrAVG. 重点の有無の判断をどのように行うかについては,判例上まだ十分明確化されておらず,同時に複数の事業所で就業する労働者等判断の難しいケースについてどう処理するかにつき学説の見解に対立がある。vgl. (6), S. 720, RdNr. 112ff., G. Annus, Der Betriebsubergang nach Ayse Suzen, NZA 1998, S. 76.

(注26)1974年判決(BAG v. 2.10.1974, AP Nr.8 zu §613a BGB)以来の連邦労働裁判所の一貫した考え方であり,その理由には,債権者の意に反する債務者の交替はないこと,意に反する労働者の「売買」は許されないこと,職業選択の自由の侵害,労働の人格的性格等が挙げられてきた。異議申立権の有無については,1977年のEC指令(77/187)との関係も含めて学説上激しい議論がなされ,近時においても批判する学説がある。vgl. (4), S. 821f., (5), S. 31 RdNr. 80.

(注27)(5), S. 73 RdNr. 207. 合併についてはこれを否定するのが多数学説である。(7), S. 1178 RdNr. 11.

(注28)企業協約の場合,協約当事者としての地位が,分割契約書等への記載によって承継できるとされる。(7), S. 1180, RdNr. 24. また,協約当事者としての地位の承継後も分割会社に対する協約拘束力は失われないと説明する見解がある。(1), S. 141 RdNr. 206ff., (2), S. 115ff.

(注29)(2), S. 158, (4), S. 829.

(注30)集団的労働法上ではなく個別労働法上の処理がなされた理由として,立法者が,譲受人の意思に反して労働協約の適用下に置かれ,当該使用者団体のメンバーにされることを防止しようとしたことが指摘されている。(4), S. 825f.

(注31)(2), S. 158, (4), S. 829.

(注32)(2), S. 158

(注33)連邦労働裁判所(BAG)は,この規定が独自の無効原因を定めたものと解している。vgl. BAG v. 31.1.1985, AP Nr. 40 zu§613a BGB.学説上は,この規定が社会的正当性を欠く解雇(解雇制限法1条参照)の一類型を定めたにすぎないとする見解も主張されている。BAGの見解では,使用者は,労働関係の存続に代えて,保証金(Abfindung)の支払により労働関係の終了を求めることができないことになる(解雇制限法9条,10条参照)。vgl. (6), S. 760f, RdNr. 244f., (7), S. 1226, RdNr. 80.

(注34)営業譲渡を理由とする解雇かをどう判断するかについては議論が多い。事業所の「買手」を得やすくするための解雇は,これにあたらないとする学説,判例がある。vgl. (6), S. 762, RdNr. 250,(7), S. 1228 RdNr. 89. また,労働契約の承継に異議申立をした労働者の解雇は,営業譲渡を理由とする解雇ではなく,異議申立を理由とするとの見解がある。(4), S. 823, (5), S. 99f, RdNr 312. さらに,異議申立をした労働者をポストがないことを理由に解雇することが,相当性のある人選かについて,異議申立理由の相当性も考慮されるとの判例等がある。BAG v. 18.3.1999, BB 1994,1940. vgl. (7), S. 1222 RdNr. 62.


 やなぎや・たかやす 1956年生まれ。神戸大学大学院法学研究科博士課程中退。関西学院大学法学部教授。主な論文に「自営業と労働者性をめぐる問題」日本労働研究雑誌452号など。労働法専攻。