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(著者抄録)
平成12年5月24日に成立した労働契約承継法は、新設された会社分割制度に伴い想定される不利益から労働者を保護する立法である。その骨子は、雇用を保障するとともに、排除・移転強制の不利益に対し労働者に異議を申し立てる権利を認めた点であるが、同法は類似の企業再編手段である合併と営業譲渡には適用されない。包括承継である合併に関して生じうる問題については従来の整理解雇法理および労働条件変更法理で対処しうると思われるが、特定承継である営業譲渡に関しては、雇用の喪失、営業譲渡を契機とした労働条件の引き下げなどの問題が生じることが考えられる。そこで、本稿では、これまでの営業譲渡をめぐる裁判例を整理・分析することによって、現在の実務上の処理とその問題点を明らかにし、そこから得られる示唆を提示したい。
(論文目次)
I はじめに-会社分割と営業譲渡
   1 労働契約承継法の成立
   2 本稿の課題と検討の対象とする裁判例
II 雇用関係の承継の有無が争われた裁判例
   1 裁判所の判断枠組
   2 「実質的同一性」のメルクマール
   3 譲渡企業が存続する場合
III その他の営業譲渡をめぐる裁判例
   1 退職事由-自己都合か会社都合か
   2 労働協約の適用
IV おわりに-労使交渉の重要性

I はじめに―会社分割と営業譲渡

 1 労働契約承継法の成立

 平成12年5月24日に成立した「会社の分割に伴う労働契約の承継に関する法律」(以下「労働契約承継法」)(注1)は,同時に可決された改正商法によって創設された会社分割制度の利用によって生じうる労働者の地位,労働条件の変動に対して一定の保護を定めた法律である。その骨子を簡単に述べると,以下のとおりである。(1)部分的包括承継である会社分割には,民法625条1項は適用されず,労働者の同意の有無にかかわらず,分割計画書等に記載された労働者(注2)の雇用関係は設立会社または承継会社に当然に移転する。(2)このように分割契約書等に分割の対象として記載された場合,労働者は承継を拒否することはできないため,移転・承継強制の不利益が生じうる。(3)他方,承継対象とするかどうかは分割契約書等に記載するかどうかで決まり,その結果,会社は自由に承継対象者を選別することができることになるので,移転・承継排除の不利益が生じうる。
 (2),(3)の不利益から労働者を保護するために,労働契約承継法は,「承継する営業に主として従事するもの」(承継法2条1項1号)が承継から除外された場合には,本人が一定期間内に異議を申し立てれば,労働契約が承継されることとし(承継法3条4項),また,「承継する営業に主として従事するもの」以外の労働者,すなわち,承継営業に従として従事する労働者(注3)が,承継の対象とされた場合,一定期間内に本人が異議を申し立てれば,労働契約は設立会社等に承継されないこととなった(承継法5条3項)。
 さらに,労働契約承継法では,労働協約による権利・義務の承継についての規定も設けられ,「労働条件その他の労働者の待遇に関する基準」(労組法16条)に関する部分について,労働組合の組合員が設立会社等へ承継された場合には,当該設立会社等と当該労働組合との間で,分割会社との間に締結されていた労働協約と同一内容の協約が締結されたものとみなされることになった(承継法6条3項)。これに対して,組合事務所の提供等,債務的部分については,その一部のみの承継を分割計画書等で規定できる(承継法6条2項)。
 なお,会社分割の手続に関する規定として,関係する労働者および労働組合への通知(承継法2条1項,同条2項),そして,国会での修正を受けて労働者との協議(商法改正附則5条),労働者の理解と協力を得る努力義務(承継法7条)が定められた。

 2 本稿の課題と検討の対象とする裁判例

 労働契約承継法は,企業組織再編のための既存の手段である合併・営業譲渡には適用されない。そのため,合併・営業譲渡に伴う労働者の保護に関する諸問題は,今後の検討にゆだねられることになった。
 合併に関しては包括承継が原則と解されているので,雇用も当然に承継され,合併に伴う人員整理は判例によって確立された整理解雇法理(注4)によって妥当性が審査される。労働条件についても,合併後に労働協約・就業規則を変更することによって行われてきた(注5)。これに対し,特定承継とされる営業譲渡の場合には,雇用が当然に承継されるとは言えず,一般には,譲渡企業を退職させて譲受企業に採用するという雇用承継の手続がとられる。この場合,特定労働者を承継しなかったことの是非が実務上しばしば争われてきた。
 学説では,「現代の企業においては,一定の物的施設とそこに配置される労務とは相結合して一の有機的組織体を構成」しており,「企業の譲渡は,原則として,その企業内にある労務者に対する使用者の権利を包括的に譲渡する内容を含むのが常態となっている」から,(1)企業の譲渡の合意は,原則として,それに伴う労働契約関係を包括的に譲渡する合意を含む,(2)ただし,明瞭な反対の特約があるときは,承継しないことができる(この場合には譲渡人との間の解約の問題になる),(3)右の契約が効力を生ずるためには,労働者の同意を必要としない。ただし,労働者は譲受人に対して即時解約ができる(民法625条1項の修正的解釈),という我妻説(注6)と「営業に関する債権債務などを一個の債権契約を以て譲渡するということ以上に営業の有機体性を認めていない商法のもとにおいて,企業代理人としての商業使用人のみならず,企業に使用される労働者たちをも企業の有機体的一体性のもとに総合して,これらの者の意思をも問題とするまでもなく,これらの労働者たちを営業の,いわば付属物的地位において把握することが可能であり,妥当であるかは,すこぶる疑問の余地が多いところであるといわねばならぬ」という石井説(注7)の対立が見られたが,一定の労働者の雇用関係を承継しないことが認められないわけではないという点では,両説はそれほど異ならない。しかし,石井説は雇用関係の移転には労働者の同意が必要であり,移転を拒否した労働者がその後配置転換が可能でないことを理由に解雇されることから守ることは現行法の解釈からは無理である,と述べている(注8)。労働者の拒否をどう法律構成するかという点で我妻説とは異なるわけであるが,我妻説では,労働者側からの譲渡企業あるいは譲受企業との雇用契約の解約と構成することは退職金の支給事由等労働者にとってはかえって不利益になるとも考えられよう。
 本稿では,営業譲渡に関する裁判例の整理・分析を通じて,営業譲渡の際の労働者の地位および労働条件の保護について現在の実務の到達点とその理論上の課題を提示することを目的としたい(注9)。具体的には,雇用関係の承継の有無,移転を拒否した労働者の請求できる権利,労働協約の承継について争われた裁判例を検討したうえで,一般化は困難であるし,危険でもあるが,裁判例の一定の傾向を示したい。
 本稿で検討する裁判例は,商法上の特別決議を必要とする「狭義の営業譲渡」(注10)(商法24条以下,商法245条1項1号)だけではなく,単なる経営主体の変更と解される事案(注11)や事業解散後再び同一の事業を行う会社が設立された事案(注12)も含む。これらの場合,裁判所はほぼ同じ判断枠組で問題の解決を試みているからである。



II 雇用関係の承継の有無が争われた裁判例

 1 裁判所の判断枠組

 裁判例で争われるのは,譲受企業が特定労働者の雇用関係を承継しなかった場合に,当該労働者が譲受企業との雇用関係の存在を争うという事案が多い。
 裁判例の中には,有機的一体をなす営業が譲渡された場合には,労働者と企業そのものとの一体性にかんがみ,雇用関係も当然に譲受企業に承継されると判旨したものもある(全労済生活協同組合事件・横浜地判昭和56・2・24労民集32巻1号91頁,よみうり事件・名古屋地判平成4・9・9労判614号21頁)が,多くは,(イ)「企業の経営組織の変更を伴わないところの企業主体の交替を意味するがごとき営業譲渡の場合においては」,雇用関係は承継されるという判断枠組(済生会事件・東京地決昭和25・7・6労民集1巻4号646頁,福岡国際観光ホテル事件・福岡地判昭和27・5・2労民集3巻2号125頁,播磨鉄鋼事件・大阪高判昭和38・3・26判時341号37頁,日伸運輸〔一審〕事件・神戸地裁姫路支判昭和38・11・21労民集14巻6号1434頁,日伸運輸〔控訴審〕事件・大阪高判昭和40・2・12判時404号53頁,九州電力事件・福岡地判昭和48・1・31労判172号72頁),あるいは,(ロ)雇用関係を包括的に承継する旨の合意が存在する場合に承継されるという判断枠組(両備バス事件・広島高判昭和30・6・20労民集6巻3号359頁(注13),友愛会病院事件・大阪地判昭和39・9・25労民集15巻5号937頁,松山市民病院〔一審〕事件・松山地判昭和40・5・26労民集16巻3号394頁,松山市民病院〔控訴審〕事件・高松高判昭和42・9・6労民集18巻5号890頁,茨木消費者クラブ事件・大阪地決平成5・3・22労判628号12頁(注14))を用いている。もっとも,(ロ)においても,明示の協定等が存在しない場合には,包括承継の合意の存在の認定は,譲渡企業と譲受企業との「実質的同一性」の有無にかからしめられているので,(イ)と(ロ)の判断枠組による差異はあまりない。
 さらに,最近では,(ハ)譲受企業への雇用承継が認められる前提として,譲渡企業による整理解雇の有効性が争われる裁判例が目立つ(宝塚映像事件・神戸地裁伊丹支決昭和59・10・3労判441号27頁,新関西通信システムズ事件・大阪地決平成6・8・5労判668号48頁,タジマヤ〔解雇〕事件・大阪地判平成11・12・8労判777号25頁)。もっとも,この場合,譲受企業を相手方として譲受企業への雇用関係の承継を主張するためには,譲渡企業と譲受企業との実質的同一性が認められなければならない(宝塚映像事件,新関西通信システムズ事件,日進工機事件)。あるいは,改めて(ロ)の枠組に戻り,包括承継の合意が存在したかが検討されている(タジマヤ〔解雇〕事件(注15))。
 このように,(イ)(ロ)(ハ)のいずれの枠組においても,譲受企業との雇用関係の存在が認められるためには,譲渡企業と譲受企業との実質的同一性の存在が決め手となっている。

 2 「実質的同一性」のメルクマール

 裁判所は,譲渡企業と譲受企業の事業内容,資本関係,役員構成,設備や営業所の継続,排除された労働者以外の者をすべて採用しているか,譲渡企業から退職金の支払いがなされているか等から譲渡企業と譲受企業の実質的同一性の有無を判断しているが,明確な「実質的同一性」の判断基準が認められるとは言い難い(注16)。
 「実質的同一性」が認められる場合とは,結局のところ,法人格否認の法理における法人格の濫用の場合を意味するものと解してよさそうである(注17)。この点を比較的明確に述べる判決として,新関西通信システムズ事件は,「Xらの組合活動を……いかに嫌っているかは本件審尋の結果から明らかである。これらを併せ考えれば……Xらのような者を排除できるとの理屈もありうるのであり,Yは右の意図も併せもって,右解散,設立の機会を利用したものと推認せざるを得ない。……A(譲渡企業)とYに高度の実質的同一性が認められるのであり,YがAとの法人格の別異性,事業廃止の自由,新規契約締結の自由を全面的に主張して,まったく自由な契約交渉の結果としての不採用であるという観点からYとの雇用関係を否定することは,労働契約の関係においては,実質的には解雇法理の適用を回避するための法人格の濫用であると評価せざるをえない」と述べている。
 Xただ1名にのみ営業譲渡に伴う退職届の提出などの手続が通知されなかったため,営業譲渡後に職場がなくなったとして譲渡企業から解雇された日伸運輸事件は,特定の労働者だけを排除した極端な例としてあげられよう。
 なお,営業譲渡それ自体が不当労働行為であるから,譲渡企業と譲受企業との間の営業譲渡契約がXらの法律関係については有効のものとして取り扱うことができない,と述べて,譲渡企業との間の雇用関係の存在を認めた裁判例に,マルコ事件(奈良地裁葛城支決平成6・10・18判タ881号151頁)がある。
 これに対して,否定例である東北造船事件(仙台地決昭和63・7・1労判526号38頁)は,解散後採算の取れる修繕船,陸上鉄鋼の部門のみ新会社(Z社)を設立し,416名の従業員を全員退職させた後で,退職者から118名を選考したという事案であるが(退職条件に最後まで同意しなかったため解雇された原告Xらは,Y社はZ社として実質的に存続しているとして,Y社との間の雇用関係の存続確認を求めた),裁判所は,Z社は譲渡企業(Y社)が雇用先確保等のため親会社や取引先等に働きかけ設立された会社であり,株主構成もY社のそれとは著しく異なり,Z社の3名の役員のうち技術担当の平取締役だけがY社の役員を兼務していただけであること,Y社とZ社の本店所在地がY社と同一で営業目的もほぼ同一であり,その従業員がY社の従業員であった者により占められている点も,Z社がY社従業員の雇用確保を主要な目的とし,Y社から土地,設備,営業権の譲渡を受けて設立された企業であることの当然の結果にすぎない,と述べて,Y社とZ社の実質的同一性を否定した。
 なお,本件では,Y社の事業廃止・解散は真実解散であるので,この場合に解雇権の濫用を認めると企業を消滅させる自由が実質的に否定されることになるという理由で,整理解雇法理は通用されない旨判示されている(しかし,後述するとおり,経営改善の努力,再就職の斡旋,団体交渉の経緯について詳細な認定がなされ,「本件解雇は……解雇権を濫用するものとは認め難い」と結論づけている)。
 また,タジマヤ〔解雇〕事件も,東北造船事件と同様に,経営再建のために人員整理も行ったが(注18),解散を決議し,採算可能な事業のみ親会社であるY社(代表取締役は同一人物で,その保有分を合わせると譲受企業が譲渡企業の全株式の8割5分を保有)に譲渡したという事案で,譲渡企業(Z社)は譲受企業(Y社)とは別個に本支店等の事業所を有し,役員会や株主総会の開催,財務会計も譲受企業とは別個に行い,就業規則も別で,従業員間の人事交流も頻繁には行われていなかった,として,Z社の法人格の形骸化を否定した。しかし,Y社は解散時Z社に在籍していた従業員全員を雇用していることから,本件では,「譲渡の対象となる営業には,これら従業員との雇用契約をも含むものとして営業譲渡がなされたことを推認することができる」と述べ,雇用関係の承継を認めた。
 日進工機事件(奈良地決平成11・1・11労判753号15頁)では,経営危機については資料が提出されておらず,不明であるという認定がなされ,偽装解散である旨判断されている。
 イー・ディーメディアファクトリー事件(東京地判平成11・3・15労判766号64頁)は,Xらが労働契約を締結していた会社(A社)が3社(A社は3社の総務部,経理部の業務を行い,A社が行っていた企画開発事業部の業務はB社が,企画編集事業部の業務はY社)に分社し,従事していた業務に応じて従業員は機械的に振り分けられ,XらはB社に出向となった。ところで,A社は分社前から経営が悪化しており,社会保険脱退を従業員に通知するなどしていたため,XらはZ組合を結成し,若干の労使対立が見られていた。その後,A社およびB社が破産したため,XらはY社に対する雇用関係の存在確認を求めたという事案である。判旨は,3社は法律上別個の法人格を有しており,「3社は,A社の分社後,それぞれ実質的に業務を行い,営業収入を得ていた事実が認められるから,A社,B社及びY社の法人格が形骸にすぎないということはでき」ず,また,従業員の振り分けは,分社前の所属により機械的に決定され,組合を嫌悪して恣意的に行われたとは認められず,3社の経営状況は現実に悪化していたことが認められるので,「A社及びB社の破産は仮装のものとは認められず,……破産の目的がもっぱらZ組合をつぶすことを目的とするものとは認められず,法人格濫用の場合にあたるということはできない」と述べて,Xらの訴えを退けた。
 以上の限られた裁判例の分析から,一般的な結論を導くことはできないが,営業譲渡が譲渡企業の経営再建のための最終的な選択であると認められる場合には,譲渡企業と譲受企業の実質的同一性は否定される傾向にあるといえ,譲受企業による雇用関係の承継拒否は,譲渡企業による整理解雇の問題として処理されると言えよう(注19)。そして,ここでは営業譲渡が行われることそれ自体が人員整理を正当化しうる経営上の必要性に該当するとは認められておらず,その他の整理解雇の要件も満たすことが要求されている(ホテルの一つが営業譲渡されたことを理由とする整理解雇が無効とされた事件として,シンコーエンジニアリング事件・大阪地決平成6・3・30労判668号54頁)。

 3 譲渡企業が存続する場合

 これまでの検討は,企業全体の譲渡か企業の一部の譲渡かを区別せず,原則として,労働者が譲受企業を相手方として雇用関係の存在を主張した例について行ってきた。企業の一部門ないし一営業所の譲渡でも,譲渡企業が整理,解散を余儀なくされる場合には,全部譲渡や解散の場合と問題状況が異ならず,また,裁判例も,企業全部の譲渡であるか一部の譲渡であるのかを考慮した判断をとくに行っていないからである(注20)。しかし,譲渡企業の一部について譲渡がなされ,譲渡企業の残部が存続する場合,民法625条の適用が正面から問題となり,特定承継である営業譲渡においては,労働者には譲受企業への雇用の承継を拒否し,譲渡企業にとどまる権利が認められるが(ただし,前掲全労済生活協同組合事件は,労働者が譲受先への雇用関係の移転を拒否し,譲渡元との雇用関係の存続確認を求めたのに対して,かかる訴えが否定された事案であるが,これは例外的なケースであるといえる),譲渡企業に当該労働者を配置する職場がない場合には,結局,解雇されてしまうことになりかねない。裁判例では,これは転籍拒否を理由とする解雇の有効性という形で問題となっている。
 三和機材事件(東京地決平成4・1・31判時1416号130頁)は,転籍が民法625条1項にいう使用者による権利の第三者に対する譲渡に該当するかどうかはともかくとしても,新たに作成された就業規則の転籍条項では労働者の包括的同意を認めることはできないとして,転籍拒否を理由とする解雇を無効とした(注21)。
 これに対して,沖縄事業所を廃止し,他社に譲渡したというアメリカン・エキスプレス・インターナショナル事件(那覇地判昭和60・3・20労判455号71頁)では,転籍拒否を理由とする解雇に整理解雇法理が適用され(注22),沖縄営業所の廃止は不当とはいえないが,譲渡企業(Y社)は他の事業所への配転可能性等何ら解雇回避の措置を取っておらず,また,当該営業所の従業員のみを整理解雇の対象とすべきではなく,団体交渉も不十分であったことを理由に,解雇は無効とされた。原告XらにはY社との雇用関係の継続が認められたが,Xらの主張した沖縄営業所におけるY社の出向社員としての地位は否定された(注23)。
 アメリカン・エキスプレス・インターナショナル事件でも問題となったように,転籍拒否を理由とする解雇に整理解雇法理を適用する場合,転籍を拒否した者を整理解雇の対象としてよいのか,という論点が生じるが,裁判所はこの点を消極的に解している(注24)。



III その他の営業譲渡をめぐる裁判例

 1 退職事由――自己都合か会社都合か――

 営業譲渡がなされる場合,いったん全従業員を退職させ,譲受企業で採用されるという手続が行われることが多い。この場合,承継を望まない労働者が退職金を請求した場合,支給事由は自己都合となるのか,会社都合となるのか,さらに,雇用保険の失業給付の支給事由も会社都合になるのかが問題になりうる(注25)。合意退職ではなく,譲渡企業による解雇と構成する場合には,解雇予告(労基法20条)の適用も問題となる。
 十倉紙製品事件(大阪地判昭和34・7・22労民集10巻6号999頁)は,譲受企業に承継された従業員ら63名が解雇予告手当と退職金の支払いを譲渡企業(Y社)に求めた事件である(注26)。裁判所は,まず,Y1社は従業員Xらを一方的に解雇したのではなく,合意解約の申込をXらが暗黙のうちに承諾したものと認めるのが相当であるから,解雇予告手当支給の問題を生ずる余地はない,と述べ,解雇予告手当の請求は退けたが,退職金の請求については,「そもそも営業の譲渡がなされた場合においても,譲受人において譲渡人が従前雇傭していた労働者の引き継ぎを強制されるべきものではなく,また労働者も新しい企業者との間にまで労働関係を持続すべく義務づけられるものではないから,営業譲渡当事者がその合意により労働者の引き継ぎを具体的に協定し他方労働者もこれに同意するならば格別,従前の労働関係が当然に譲受人に移転するとはいいえないものと解すべきところ,本件においては,……新会社は従前の雇傭関係の承継を拒否し,ためにXらは一旦Y社から解職せられた上新会社に新規採用されたものであるのみならず,退職金の計算については勤続年数が関係すること大であるから,Xらが失業状態になつたことがなかつたからといつてY社に退職金支払いの義務がないとはいえない」と述べて,Y社の退職金支払義務を認め,「……右退職は一応双方の合意に基づくとはいうもののその当時Y社としては予め従業員の意思を問う余地もなく,かかる処置にでることを余儀なくされてなしたものであつて,Xらはやむなくこれに応ずるの外なかつたものなることが明らかであるから右は……『自己都合により退職したる時』に当らないことは勿論であり,……『会社の都合により解雇したる時』に準じ同号により処理するのが相当と認められる」と判旨した。
 この判決は,譲渡企業から譲受企業への承継を「合意解雇の申込の黙示の承諾」と構成し,労基法20条の適用を否定しながら,他方,退職金の支払いについては,会社都合の支給事由を認めるという点で,理論的に一貫しているとは言い難い。しかし,譲受企業が譲渡企業の下での勤続年数をそのまま引き継がない場合(この点は本件では不明であるが),労働者にとっての不利益は大きいので,結果は妥当と言えよう。
 同様に,退職金算定の基礎となる勤続年数が争われた事例として,本位田建築事務所事件(東京地判平成9・1・31労判712号17頁)は,営業譲渡にあたって譲渡企業の従業員は全員譲受企業に引き受けられたものの,勤続年数の起算点が不利益に変更されることになった事案(注27)であるが,裁判所は,このような不利益変更には企業間の営業譲渡契約書における合意だけでは足りず,労働者の個別の合意が必要であると述べ(注28),原告Xらのかかる合意の存在しない本件では,営業譲渡時に合意退職がなされた(注29),と判旨した。もっとも,本件では,「営業譲渡契約締結の事実につき,従業員を集団的に集めた状態で,事後的に,包括的・抽象的な説明を行ったのみであり,しかも,Z社(譲受企業)がY社(譲渡企業)から承継した従業員の勤続年数は大きく制限されていたにもかかわらず,それについての明確な説明がなされた事実はうかがえない」という認定がなされており,従業員に明確に説明していたのであれば,必ずしも個別の合意までは必要とはしなかったと解する余地もあるが,やはり勤続年数の算定という重大な労働条件については,恣意的な引き下げは許されない,と考えるべきであろう。また,同意しなかったXらは営業譲渡時に譲渡企業を退職したという判断を裁判所は行っているが,会社都合の退職(解雇)と構成する余地はなかったのかが問題となる(注30)。

 2 労働協約の適用

 営業譲渡後の新使用者が,新賃金体系(平均4割減額)の下で運転手を再雇用する旨伝えたところ,これに同意した労働組合もあったが,拒否した労働組合の組合員が旧賃金体系に基づく賃金を請求した広島第一交通事件(広島地決平成10・5・22労判751号79頁)において,裁判所は,原告Xらの主張を認め,譲渡企業との労働協約に規定された旧賃金体系に基づく賃金の支払いを命じた。判旨は,人件費が経営を圧迫する要因ではあったものの,譲渡企業およびY社(譲受企業)の全体としての経営努力の内容,程度等は明らかではなく,新賃金体系と旧賃金体系とは平均約4割の大きな格差があること,営業譲渡後,新賃金体系の導入まで約1カ月あまりしか経っていないこと,から,Xらが旧賃金体系に基づく賃金を請求することが信義則に反するとは言い難い,と述べている。
 本件では,なぜ旧使用者との労働協約に新使用者が拘束されるのかという理論上の問題に裁判所は何ら触れておらず(賃金に関する規定は規範的効力によって労働契約の内容になるので,本件営業譲渡によって契約内容がそのまま新使用者に引き継がれた,と解しているのであろうか),就業規則の賃金規定との関係も不明確であり(「就業規則,労働協約等に定められた賃金体系の不利益変更であり……」という記述から,就業規則が存在していたことはうかがえる),理論的には不可解な点が残るが,営業譲渡を契機として,大幅に労働条件を引き下げることは許容されない,という判断を裁判所が示したことには意義が認められる。もっとも,営業譲渡前から譲渡企業と組合は新賃金体系の導入について交渉を続けていたこと,別組合は新賃金体系の導入を容認し,8割を超える運転手が新賃金体系による就労に同意しており,本件組合員の中にも退職者や新方針に同意した者がいたにもかかわらず,組合は営業譲渡後も譲渡企業との団体交渉に固執していたこと,の事実をいかに評価するのか若干の留保を付すことも可能であろう。
 これに対して,旧会社の労働協約の適用を否定した裁判例として,インチケープマーケティングジャパン事件(大阪地判平成10・8・31労判751号23頁)は,旧会社(A社)の事業再編のために一部門を分離して既存のY社に営業譲渡がなされた事例であるが,Y社はA社と別個の組織をもち,物的施設も同様であって,A社とは別個の法人であること,Y社はA社からY社に移った従業員との間で個別に新たな労働契約を締結していること,また,就業規則も新たに制定していること,Y社には別個の労働組合も結成されており,A社の労働協約の承継をY社は拒否していること,から,A社の労働協約「解雇及び配置転換に関する協定書」(注31)が当然に承継されたとはいえない,と判示している。



IV おわりに―労使交渉の重要性

 本稿では,営業譲渡に関する裁判例を整理・分析し,裁判例の傾向を明らかにすることに努めた。その結果を簡単にまとめると,営業譲渡に関する紛争は,雇用関係の承継から排除された労働者が譲受企業に対して雇用関係の存在を主張するというケースがほとんどである。そして,労働者の訴えが認められるためには,譲渡企業と譲受企業の実質的同一性が必要とされ,譲渡企業の解散が当該労働者を排除することを目的とした偽装的なものと認められるなど例外的な場合にしか,同一性は肯定されない。とくに,譲渡企業の再建のために営業譲渡が行われる場合には,譲渡企業と譲受企業が資本・役員関係において関連が認められる場合であっても,同一性は否定される傾向にある。この場合,営業譲渡後も譲渡企業が存続する場合には,解雇は譲渡企業による整理解雇の問題となり,その妥当性が否定されれば,譲渡企業との間に雇用関係が継続することになる。このような転籍拒否を理由とする解雇は,整理解雇の4要件の中でもとくに人選の妥当性の問題とされ,転籍には労働者の同意が必要とされる以上(民法625条1項),単に転籍を拒否したことを理由として整理解雇の対象とすることは許容されない傾向にあるといえる。
 労働条件の不利益変更については,裁判例で争われた類型として,退職金の算定基礎となる勤続年数の引き下げ(本位田建築事務所事件)と賃金体系の変更(広島第一交通事件)があるが,営業譲渡を契機としてドラスティックに変更することは否定的に解されている。この点について,労働契約承継法の起草にあたった「企業組織変更に係る労働関係法制等研究会報告」は,特定の労働契約を譲渡する以上,契約内容(労働条件を含む)もそのまま承継されると解するのが妥当であるという提言を行っている(注32)。
 平成12年4月の民事再生法の施行に伴い,再建を目指す企業が営業譲渡をより迅速に行うことが可能になった(注33)。ここでは,特定労働者の承継排除よりも,譲受企業による移籍労働者の選別が問題となろう。特定承継である営業譲渡において,これを否定する論理は困難であるし,立法論としても全従業員の雇用承継を義務づけることが妥当であるかには慎重な検討を必要とする(注34)。東北造船事件は,このような事例のリーディングケースになると思われるが,この事案では,営業譲渡前からの組合との交渉経過が詳細に認定され,有利な退職条件の提示,新会社(A社)への雇用の斡旋や手順,採用人員枠,採用基準((1)身体健全な者,(2)A社の事業に必要な技術,技能,経験を有する者,(3)Y社〔譲渡企業〕における勤務成績良好な者)も組合との協定書等で合意ないし確認されていた。他方で,経営危機を察知し,組合を結成して使用者と交渉しようとした労働者に対し,事業を解散し,当該労働者の雇用を承継しないという使用者の行動については,譲渡企業による(整理)解雇を不当とし,譲渡企業と譲受企業の実質的同一性を肯定して,裁判所は雇用の承継を認める傾向にある(新関西通信システムズ事件,日進工機事件)。
 厳しい経済情勢が続き,産業再編とそれに伴う雇用の流動化,ミスマッチの解消が重要な政策課題となっているが(注35),個人は急激な変化にはなかなか対応できない。納得を得るための努力を労使双方が尽くすことが何よりも必要とされよう。


(注1)法律の内容についての詳細は,本号柳屋論文および荒木尚志「合併・営業譲渡・会社分割と労働関係――労働契約承継法の成立経緯と内容――」ジュリスト1182号16頁。

(注2)設立会社または承継会社が分割会社から承継する権利義務に関する事項を記載する分割計画書または分割契約書(商法374条2項5号,374条ノ17第2項5号)には,承継される労働契約に係る労働者の氏名まで記載する必要はなく,たとえば,「A工場に勤務する者」というような記載でも足りる,とされる(原田晃治「会社分割法制の創設について――平成12年改正商法の解説――(中)」商事法務1565号7頁)。

(注3)承継営業にまったく従事しない労働者は,会社分割制度は「営業の全部又は一部」の承継のための制度なので,そもそも会社分割の対象とはできない。

(注4)東洋酸素事件・東京高判昭和54・10・29労民集30巻5号1002頁。整理解雇が有効と認められるためには,(1)人員削減の必要性,(2)解雇回避のための努力を尽くしたか(配転,出向,一時帰休,希望退職の募集などの他のとりうる手段をとったかどうか),(3)被解雇者選定の妥当性,(4)手続の妥当性(労働組合または労働者との協議)の4要件を満たすことが必要とされる。実際にどの程度の事情があればこれらの要件を満たすのかの判断は事案ごとによってさまざまであり,また,最終的には整理解雇の有効性はこれらの要件(要素)の総合判断(とくに(1)と(2)~(4)の比較衡量判断)となっている。近年のリストラで雇用不安が高まるなかで,労働弁護団は4月18日東京地裁労働部に対して,整理解雇の判断が緩和されている旨(平成11年秋以降労働者敗訴が7件)批判する申入書を提出した(週刊労働ニュース平成12年5月22日,http://www.jil.go.jp/mm/cl/20000524/20000524b.html)。

(注5)就業規則法理について,秋北バス事件・最大判昭和43・12・25民集22巻13号3459頁,大曲市農協事件・最三小判昭和63・2・16民集42巻2号60頁。不利益に変更された労働協約の非組合員に対する適用の可否について,朝日火災海上保険事件・最三小判平成8・3・26民集50巻4号1008頁。

(注6)我妻栄『債権各論中巻二』岩波書店,1962年,568頁。我妻説を支持する見解として,有泉亨『労働基準法』有斐閣,1963年,127頁。ただし,労働者が猶予期間なしに職を失うことになるのは不都合であるので,労働者が異議を述べた場合には譲受人において解雇の手続をとらなければならない,という。

(注7)石井照久「営業の譲渡と労働契約」(『労働法の研究II経営と労働』)有信堂,1967年,186頁。

(注8)石井・前掲(注7)193頁。

(注9)営業譲渡に関する裁判例の整理・分析に関する文献には以下のものがある。萩澤清彦「合併・営業譲渡の場合における従業員の引継ぎ」ジュリスト別冊『商法の争点(第2版)』1983年,(194頁),清正寛「企業合併・営業譲渡と労働契約」ジュリスト別冊『労働法の争点』(新版)1990年,(206頁),野田進「合併,営業譲渡と解雇」季刊労働法165号17頁,(1992年),馬渡淳一郎「親子会社・持株会社と労働法」ジュリスト1104号101頁,(1997年),和田肇「企業の組織変動と労働関係」ジュリスト1104号112頁,(1997年),武井寛「営業譲渡と労働関係――労働法の視角から――」労働法学会誌94号111頁,(1999年)。

(注10)この用語法は,石田眞・和田肇「営業譲渡と労働関係――趣旨説明と総括――」労働法学会誌94号78頁,(1999年)にならった。

(注11)済生会事件・東京地決昭25・7・6労民集1巻4号646頁,松山市民病院〔一審〕事件・松山地判昭40・5・26労民集16巻3号394頁,松山市民病院〔控訴審〕事件・高松高判昭42・9・6労民集18巻5号890頁。同様の病院経営者の変更という事件であるが,結論は反対である日本大学(医学部)事件・東京地判平成9・2・19労判712号6頁。

(注12)福岡国際観光ホテル事件・福岡地判昭和27・5・2労民集3巻2号125頁,日進工機事件・奈良地決平成11・1・11労判753号15頁(判批,土田道夫・ジュリスト1186号111頁)。

(注13)本件は,雇用関係の承継をめぐる紛争を解決するため,譲渡企業,譲受企業および譲受企業の労働組合との間で締結された和解協定に基づく,一部従業員の排除を有効と認めた。

(注14)譲渡元(Y)によるXらの解雇を不当労働行為により無効と判断し,Yの営業譲渡による事業閉鎖の主張を,Yを解散してその営業を他に譲渡しなければならない事情は,本件の労使紛争を除いては見当たらない,と述べ,営業譲渡の存在そのものを否定し,Yとの間の雇用関係の存在を認めた事案。

(注15)本件は,譲渡企業と譲受企業との実質的同一性を否定しながら,原告Xを除く譲渡企業の解散時に在籍していた全従業員が承継されていたこと等から包括承継の合意を認めた事案である(後述)。これまでの裁判例において実質的な判断要素に明確な差異が認められない点にかんがみると,疑問が残らないわけではないが,(ロ)の当事者の合意の枠組のほうが法人格否認の法理よりも広くなりうることを示すとも解される。

(注16)同旨,和田・前掲(注9)114頁,武井・前掲(注9)115頁。

(注17)江頭憲治郎「法人格否認の法理」(ジュリスト別冊『商法の争点(第2版)』1983年,33頁)は,一般条項である法人格否認の法理が必要であり,かつ法政策的にみても妥当である数少ない類型として,組合活動家だけを追放するためのいわゆる偽装解散において,新会社との間に雇用関係の存在を認める場合を指摘する。さらに,このほかの雇用差別(労基法3条,均等法5条,8条1項)に抵触する類型も問題となろう。ただし,偽装解散の問題は,より厳密に言えば,法人格の否認そのものではなく「実質的行為主体の認定の問題,言いかえると行為の効果の帰属する主体を把握する問題」と言えよう(西原寛一「会社の解散と不当労働行為」『労働法体系4』1963年,88頁)。

(注18)原告Xは,解雇(第1解雇)を不服として争っている間に解散,営業譲渡が行われ,仮処分で勝訴後,改めて譲渡企業から解散を理由に解雇された(第2解雇)。裁判所は,第1解雇,第2解雇とも整理解雇の4要件すべてに照らして不当であると判断した。

(注19)しかし,宝塚映像事件は,経営再建のために事業閉鎖と新会社(Y社)の設立を行い,旧会社の100名中55名を新たに採用した事案であるが,最後まで旧会社の退職に合意しなかったXら6名について,整理解雇における協議義務を尽くしたとは言えない(人員整理の必要性,解雇回避の努力を尽くしたこと,合理的な基準に基づく被解雇者の選定という他の要件を満たしていることは認めている),として,旧会社による解雇を無効とし,資本,役員関係および本店所在地が同一であること,新会社の従業員61名中55名が旧会社の従業員であることを理由に,Y社は旧会社と「法人格の異なることを主張し得ないものといわざるをえない」と判断した。本件では,経営再建のために早くから組合と協議・交渉が積み重ねられており,退職に応じないXら6名にも再就職の斡旋を行うなど説得がなされていたという認定事実はとくに評価されていない。

(注20)企業の一部門が他の企業に譲渡された場合,譲渡企業と譲受企業の実質的同一性は肯定されにくいように思われるが,資本・役員関係の密接な親子会社に営業譲渡がなされる場合には,実質的同一性が問題になる(タジマヤ〔解雇〕事件を参照)。

(注21)同様の判断を示した裁判例として,ミロク製作所事件(高知地判昭和53・4・20労判306号48頁)がある。

(注22)アメリカン・エキスプレス・インターナショナル事件と同様に,転籍拒否を理由とする解雇を整理解雇法理によって判断した例は少なくない。この場合にも,解雇回避の努力を尽くしたか否かの判断において当該転籍措置の合理性が検討されている(日新工機事件・神戸地裁姫路支判平成2・6・25労判565号35頁,千代田化工建設(本訴)事件・東京高判平成5・3・31労判629号19頁〔いずれも解雇無効〕)。これに対して,解雇を有効とした裁判例として,日本鋼管事件(横浜地裁川崎支判昭和57・7・19労民集33巻4号695頁)は,清掃,衛生等の業務を一括して請け負わせるために新設された子会社への移籍を拒否した事例であるが(X以外の女子全員が退職勧告に応じて退職届を提出した〔ただし,どの程度新会社で採用されたのかは不明である〕),当該解雇は,移籍拒否を理由とする解雇ではなく,労働協約所定の「業務縮小のため減員の必要性が生じたとき」という解雇事由に該当するとされた。

(注23)沖縄営業所における譲渡企業の出向社員としての地位の確認,というXらの請求から,Xらが現在の職場で譲渡企業の従業員として勤務し続けたいと希望していたことがうかがえるが,本判決の結論は,移籍を拒否すれば,解雇は免れても勤務地の変更を伴う配転は甘受しなければならないことを示唆しているといえ,いずれにしても労働者には厳しい選択であると言わざるをえない。

(注24)日新工機事件および千代田化工建設(本訴)事件は,移籍拒否者を整理解雇の対象者とすることは移籍か解雇かの二者択一を迫るものであり,合理的な基準とはいえないと述べる。さらに,千代田化工建設(本訴)事件は,移籍拒否者の数が多数で,移籍だけでは当初の人員削減の計画を達成できない場合には,さらに広範囲の従業員を対象とした希望退職者の募集や,配置転換,出向などの措置を講じ,それでもなお人員減が必要な場合にはじめて一定の合理的な整理基準を定めた整理解雇の問題となり,「その場合には,年齢,家族構成,勤続年数,本人の能力などを総合的に勘案して出来るかぎり解雇による犠牲の少ない者から解雇がなされるような合理的な選定基準がさだめられるべきであ」る,と述べる。

(注25)雇用保険法が改正され,2001年4月から解雇・倒産等による非自発的失業と自発的失業とで給付に格差が設けられることになった。

(注26)Y社の前身Y1社の代表者が,Y1社の実権が資金援助を求めた別会社(A社)に奪われたため,Y1社を解散し,新会社を設立したが,再び新会社の実権もA社に掌握されたため,Y1社の商号を変更してY社として事業を再開したという事情がある。Y1社の従業員ら63名は全員,新会社に採用されたが,その後組合を結成し,Y社に対して,解雇予告手当と退職金の支払いを請求した。判旨は,Y1社とY社が同一であることを前提としている。

(注27)営業譲渡契約第6条は次のように規定されていた。「譲渡日現在における甲(譲渡企業)の従業員を乙(譲受企業)は引き継ぐものとする。但し,勤続年数については,昭和60年7月25日以降の期間を引き継ぐものとする」。

(注28)判旨は次のような一般論を展開している。「企業間において営業譲渡契約がなされるに当たり,譲渡する側の会社の従業員の雇用関係を,譲渡される側の会社がそのままあるいは範囲を限定して承継するためには,譲渡・譲受会社におけるその旨の合意の成立に加え,従業員における同意ないし承諾を要すると解される」。

(注29)Xらは,Y社による整理解雇を主張していたが,認められなかった。

(注30)本件では,Xらは営業譲渡後3カ月間Z社で勤務した後,自己都合でZ社を退職している。

(注31)本件では解雇事前協議条項の適用が争われた。

(注32)労働省2000年2月10日(労働法律旬報1476号42頁)。

(注33)再生計画前に裁判所の許可を得れば営業譲渡を行うことができる(民事再生法42条,なお,裁判所が許可を行うにあたっては,多数労働組合等の意見を聴取しなければならない〔同条3項〕)。また,平成12年5月の商法改正によって,平成11年の産業活力再生特別措置法によって主務大臣の認定等を要件としてすでに導入されていた,営業全部の譲受であっても,その対価が譲受人の貸借対照表の純資産額の20分の1をこえない場合には,株主総会の特別決議を要しないという簡易の営業譲渡制度が一般に認められた(商法245条ノ5)。
 上場企業で初めて民事再生法が適用された電炉小棒メーカーの東洋製鋼(本社・茨城県石岡市)が埼玉県の朝日工業に営業譲渡されたが,組合(従業員102人中86人を組織)は,会社が民事再生法手続を申請することも,営業譲渡の計画があることも知らなかったという(4月14日民事再生法の手続開始の申請後,同日組合に説明し,翌日全従業員に解雇予告)。しかし,会社の経営状態に悲観的な見方をしていた組合は,会社への全面抗議をせず,賃金・退職金確保,上積みに力点をおいた活動を行い,5月14日に解散した。朝日工業へは15名の従業員が承継された(週刊労働ニュース2000年6月12日,www.jil.go.jp/mm/cl/20000614/20000614a.html,日本経済新聞2000年7月18日13面)。

(注34)荒木尚志・前掲(注1)19頁。ヨーロッパでは,営業譲渡に際して労働者の承継がEU指令によって強制されているが,倒産状態の企業の清算目的のための営業譲渡については,EU指令が適用されないことが欧州司法裁判所によって明らかにされている(荒木尚志「EUにおける企業の合併・譲渡と労働法上の諸問題」,北村一郎編『現代ヨーロッパ法の展望』東京大学出版会,1998年,98頁)。

(注35)労働省の雇用対策として,雇用助成金の見直し(朝日新聞2000年8月3日1面,日本経済新聞2000年8月25日5面),就職浪人を採用した企業への研修費助成(日本経済新聞2000年5月23日5面),若者のIT職業訓練の拡充(日本経済新聞2000年8月24日5面)があげられる。


 はしもと・ようこ 1970年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科修士課程修了。学習院大学助教授。主な論文に「ドイツにおける労働者概念の意義と機能」本郷法政紀要6号(1997年)など。労働法専攻。