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(論文目次)
I はじめに
II 先行研究と分析の枠組み
III 利益目標の設定と要員数の決定
   1 利益目標の設定
   2 要員数の決定
IV 部門の要因管理と業務管理
   1 要因管理の指標
   2 進捗管理と人件費コントロールのタイミング
   3 売場の効率化
V 業績評価と賃金制度
   1 正規社員の業績評価と賃金制度
   2 パートタイマーの賃金制度
VI 結論

 I はじめに

 日本の大型小売業は1990年代以降,過激な市場競争に追い込まれている。その大きな原因として,長引く国内の不況と,法規制の廃止と緩和が挙げられよう。大規模小売店舗法(大店法)は1990年代に段階的に運用基準が緩和され,最終的に1998年に大規模小売店舗立地法(大店立地法)の成立によって廃止が決定された。特に1994年に施行された大店法の規制緩和は雇用に大きなインパクトを与えた。営業日数が年間20日自由化されたこと,閉店時間が7時から8時に延長可能になったこと,同じ商圏内に大型店が出店可能になったこと,出店や増床の際の審査期間が短縮されたことなどが,市場競争を激化させた。大型小売店は,「スクラップ・アンド・ビルド」の経営方針の下,短期間で出店と不振店舗やテナントの閉店を繰り返す。当然,雇用もそれに対応せねばならなくなる。このような状況下で雇用の主役となるのは,パートタイマーと呼ばれる非正規労働者である。
 大型小売業におけるパートタイマー比率の増加は国際的な現象であり,企業がパートタイマーを雇用する最も大きな理由は,コストカッティングを図り企業利益を押し上げるためである。しかし,パートタイマーの生産性が低ければ売場の生産性は下がり,企業全体の利益は減少することになる。そうなれば,ただパートタイマー比率を高めればよいという図式にはならない。企業内部では業績目標を管理しつつ,効率的な要員管理を行っているはずである。
 そこで本稿では,日本の大型小売業2社の聞きとり調査から部門の業績管理と正規社員とパートタイマーの要員管理がどのように行われているのかを明らかにする。店舗・売場においていかに正規社員数を減らしてパートタイマーに代替し人員配置の効率化を図っているのか,同時に店舗や売場内でいかに効率的にパートタイマーを活用しているのか,という要員管理の視点からパートタイマー比率上昇のメカニズムを解くことを試みる。また,部門業績目標を管理,評価することで,経営の最終ラインである店舗・売場で働く正規社員にコスト削減の意識を持たせ,そのことがパートタイマー比率上昇に影響を与えている可能性についても考察する。構成は以下の通りである。まず,事例研究を進めるうえでの分析的枠組みと調査の重点を説明する。次に,部門の利益目標の設定と要員数の設定方法について述べる。さらに,それらを達成するメカニズム,すなわち人事・賃金制度と業績管理と要員管理の接点について論及する。最後に,これまでの観察された現象から,部門の業績管理とパートタイマー比率上昇の関係について再度考察を加える。



 II 先行研究と分析の枠組み

 パートタイマー比率の上昇という現象が,企業の利潤最大化に対して大きな影響を及ぼしていることは明白であり,パートタイム労働を論じるとき,企業の利益と切り離して論じることは危険である。つまり,生産性や効率性を企業が追求しているなかでコストカッティング的要素としてパートタイマーが存在するのであれば,(1)パートタイマー自身の技能や制度についての直接的な観察を行うと同時に,(2)正規社員が部門の業績管理の中で何を目標としているのか,その中で要員管理のメカニズムはどのようになっているのか,という間接的な観察の2面からアプローチする必要があり,むしろ重点は後者の部門の業績管理に絞られる。
 前者の先行研究の特徴は,パートタイマー自身の仕事や働き方,処遇制度などを観察することに主眼を置いている。小売業のパートタイム労働者についての研究で先鞭をつけたのが脇坂[1986]であった。脇坂は,仕事の内容を観察し,女性社員やパートタイマーの熟練形成について述べ,どのような売場において戦力化可能かについて展望している。本田[1993][1998]もパートタイマーの仕事そのものを検証し,基幹労働力化の現状を観察した後,賃金管理がどのように行われているのかということに注目した。また,本田[1996]は大型小売業の企業内部の設備,制度,仕入商品などのハードとソフト面の店舗展開が標準化されるに伴い,パートタイマーの職務も標準化可能となってきていると述べている。これらの研究は,基幹労働力化したパートタイマーの存在を明らかにするという重要な業績であるが,パートタイマーが基幹労働力化される要因やメカニズムについて多くは語られていない。一方,労働需要側に注目した先行研究(注1)では,Tilly[1991]が,パートタイム労働市場は本来労働需要側の要因によって先導されており,先導する側の要因やメカニズムを紐解かないと,正規労働者と非正規労働者の賃金格差を説明することは難しいと指摘している。しかし,事例調査では店舗や売場など部門の利益と労働の関係にまでは踏み込んでおらず,要員数の決定については曖昧である。
 後者の部門業績管理についての先行研究は,特に石田[1996]がスーパー,百貨店,商社,鉄鋼の部門の業績管理を中心に,職場での人と仕事の編成に注目しており(注2),後に「仕事論」(注3)という新たな分析の枠組みを提示している。この研究は本稿の調査を行ううえでの主要な理論的下敷きとなっている。石田は,「職場での人と仕事の柔軟な編成の前提には,職場全体の仕事の量と質が設定されていなくてはならない」「職場の管理・監督者は設定された仕事総量を職場構成員の能力に応じて個々人にそれこそ柔軟に配分している。この配分が円満になされるためには構成員はそれなりにこの配分に納得するという関係が必要である。これを保証しているのが報酬の体系である」(注4)と仕事の管理(=部門の業績管理)をまず明確にすることが,労働と企業全体の業績の関係を語るうえで重要な事柄であると指摘している。今野[1995]も,日本の人事管理はこれまであまりにも「供給重視」の思想,つまり教育訓練や職能など能力の開発,に偏りすぎており,換言すれば能力が開発され,それに見合った処遇がなされれば予定調和的に生産性があがり利益が確保されるといった風潮に対して疑問を投げかけている。たしかに,これまでの労働研究は,全般的に「労働の質」に重きを置きすぎてきた感がある。教育訓練によって「労働の質」が高められたとしても,それだけで生産性に直結するわけではない。日々の業務目標を達成させる管理のメカニズムがあってこそ「労働の質」が生産性に還元されるのである。
 そこで,本稿では後者の分析方法を小売業のパートタイマーを分析する枠組みとした。第1に,部門における業務目標がどのように決定されるのかということを明確にする。第2に,部門における労働のインプットがどのように決定されるのかということに注目する。つまり,業務目標(=仕事の質と量)によって,仕事を遂行していくための労働インプット(=労働の質と量)が決定されると考えるからである。また,部門の業績が個人の賃金や昇進にリンクして評価されるのであれば,「納得」と「合意」の下で目標値の設定が行われることが重要となってくるため,目標を振り分ける側と職務を遂行する側の交渉の中で,どのような軋轢が生まれ,どのように合意に至るのかに注目する。そして,何を根拠に正規社員とパートタイマーの数を設定するのかを観察する。第3に,業務目標達成のための進捗管理に注目する。部門の業務目標が設定され,労働インプットも決定されて新年度が始まると,実際に目標値を達成させるために,日,週,月,四半期,半期,年期といったスパンで目標に対する進捗状況をチェックする場が設けられる。具体的には,各レベルの部門長が主催して行う進捗会議であり,その場でどのような指標を使って何に焦点を当てて進捗管理を行うのかに注目する(注5)。そして第4に,日々の「がんばり」を裏付け,納得させる制度として報酬管理を観察する。達成すべき業務目標が数値として明確であればあるほど,業績評価も明確になり連動する賃金の比率も高まる。そこで,どのレベルの社員の利益予算の数値目標が業績評価と賃金に反映されているのかを調べることによって,要員管理と業務管理の歯車がどこにあるのかが明確になる。
 これらの分析の枠組みは一見パートタイム労働の増加となんら関係のないことのように思える。しかし,パートタイマー比率の上昇を語るには,正規社員をパートタイマーに代替していく推進力の所在と,それを方向づけるしくみを解明する必要がある。



 III 利益目標の設定と要員数の決定

 1 利益目標の設定

 A社では,新年度が始まる3カ月前に予算の大枠がその年度の経営方針に基づいて決定されていた。経営方針は,商品や販促や人事などの部門計画として細分化された後,全社の予算数値は,全社→支社→事業部→店舗→売場という流れで各部門の達成すべき数字として具体化される(注6)。全社から割り振られた営業利益以外の項目(注7)の設定は「8割ぐらい」は各支社の裁量に任せられている。予算目標値の決定で交渉がもっとも難航するのは事業部―店舗間である。店長は前年度の実績を基に,新年度の店舗状況を予測して売上や経費などの店舗予算を独自に作成する。交渉のポイントは,店舗が自ら算出した予算とブレイクダウンされてきた予算とのギャップをいかに埋めるかである。ギャップが埋まらない場合は,他店へと予算が付け替えられるために,またそこでも交渉が難航する(注8)。A社の店舗では独立採算制をとっており営業利益を目標値としているが,売場での目標値は基本的に売上利益(注9)なので,人件費などの経費を自らコントロールする意識は薄い。売場は店舗が出してくる予算を確認するのみで,修正があっても店舗内で吸収できる程度の微調整にとどまる。
 一方,B社においては売場に至るまで部門ごとに独立採算制の意識を持たせる経営方針を打ち出しているため,トップダウンの予算編成と並行してボトムアップの予算編成の方法も重要視されていた。売場長が新年度の予算を店長に提出し,それに基づいて店舗予算は作成される。予算目標である経常利益は,店舗では「店管理経常利益」(注10),売場では「店管理可能利益」(注11)というように,各部門でコントロール可能な会計項目を使った数値で作成されていた。一方で,全社予算もトップダウンで落とされてくるので,合わない部分は各レベルとの摺り合わせのうえで他部門へ付け替えるなど,A社と同じような交渉事が発生する。後で説明するがB社では,目標値に対する達成率が賃金に反映される割合が大きいため,目標値の設定はよりシビアであり,部門長の「納得」と「同意」のもと作成されることが必要となってくる。
 A社もB社も基本的には前年度の実績を基に予算は作成される。売上の方針を対前年比103%でいくのか97%でいくのかによって人件費も変動する。当然103%でいくなら経費も多くなるし,97%でいくならそれなりに経費は抑えねばならない。

 2 要員数の決定

 要員数の決定についての大まかな流れは図1のようになる。A社の場合,営業利益予算が決定すると,店舗と支社の予算編成グループとの話し合いの中で,売上や人件費など経費の詳細項目の数値が決定されていく。人件費には二つの項目が存在する。一つは正規社員の人件費,もう一つは非正規社員の人件費である。正規社員の賃金は,基本的に右肩上がりの給与体系であり等級や役職によって大きく変化する。すなわち,異動によって店舗や売場における人件費が変動するため,人件費予算が決定する前に人事部は人事異動の大枠を決定する。人事異動の計画段階では,予算の付け替えと同じような店舗と支社との交渉が行われる。人件費の高い正規社員が前年よりも多いと営業利益を圧迫するため,特に賃金は高いがパートタイマーと差異のない仕事を行っているような正規社員の配属については交渉が難航する。基本的に店舗は,前年度以下の予算内で人員数をそろえたいために,上記のような正規社員を他店舗へ異動させて非正規社員に置き換えたいという姿勢を持つ(注12)。したがって人事部は,毎年の人事異動に相当な時間を費やし,店舗との交渉,全体への配分の平等化を心がけるが,たえず店舗からはコスト高の社員についての人事異動要求が出されるために正規社員数を減少させていく方向にベクトルは動いていく。

図1 部門の要員数と予算決定の流れ

 非正規社員の総労働時間は全人件費から正規社員の人件費が引かれて算出され(注13),非正規社員の要員数が決定される。この要員数は前年度の実績を基に,正規社員の人件費の増減と新年度の売上状況を予測して各店舗で決定される(注14)。この動きと並行して本社人事部では,衣料や食料品など部門横断的に非正規社員の適正要員数をはじき出した資料に基づいて,店舗に対し指導を行う(注15)。たとえば,同じ坪当たり売上高のQ店とP店を比較したときに非正規社員数が大きく乖離している場合,要員配置が効率的でない店舗と売場に対して要員数の見直しを要求する。ただ,ここで提示される適正要員数は,売場面積や売上に対する絶対数ではなく,部門間の相対数なので,効率の良い売場が現れると,半永久的に手本となる売場を目指して要員の効率化が推進される。売場におけるパートタイマー数の削減については,基本的には自然減で対応される。また,フロアのレイアウトの拡大縮小に伴って,店舗内でパートタイマーの異動が行われることもある(注16)。
 B社の店舗や売場における正規社員数の決定の手順は,ほぼA社と同様である。非正規社員の要員数についても,基本的に前年度の実績と売場が作成する新年度の予算に従って決定される。B社では売場に至るまで独立採算制で管理しているため,特に利益が上がっている場合には要員数に関する指導は行われることはないが,あえて売場が要員補充の希望を提出した場合,地区をまとめる人事担当者が承諾したうえで最終的に店長が決定する(注17)。
 A社,B社ともに,本社や支社の人事部が正規社員を異動させるときにA社では店舗,B社では売場との交渉が過熱する。売場や店舗の利益を,教育訓練や労働力調整目的で配属された正規社員の人件費が圧迫する。独立採算制の最終ラインから,人事部は常に突き上げを受けることになる。



 IV 部門の要員管理と業績管理

 1 要員管理の指標

 前述したように人事部が正規社員の異動を決定することによって,部門の人件費を大きく左右させることになる。売場や店舗は,自らの売上や利益の予算に応じた人件費にとどめたいと思うが,自ら正規社員の異動をコントロールすることは不可能である。つまり,売場が要員管理を行う前に,人事部は正規社員をあらかじめ異動によって部門間で平準化させる要員配置を行う使命を担っている。そのために労働分配率が,指標として使われる。労働分配率(Ls)の計算式は,

で表される。労働分配率(Ls)は,人件費(Pe)を粗利高(I)で割った値であり,値が小さいほど効率がよいということになる。つまり,労働分配率を下げるためには粗利を確保したうえで人件費を抑えることが必要となってくる。
 また,分子の人件費(Pe)は正規社員の人件費(Pe1)と非正規社員の人件費(Pe2)の合算であり,さらに式を展開すると分子は,正規社員の平均賃金(W1)と総労働時間(H1),非正規社員の平均賃金(W2)と総労働時間(H2)になる。つまり,この六つの要素を変動させることにより,労働分配率を変動させることが可能になる。
 次に,売場では人件費から置き換えた総労働時間で要員管理を行うことになる。特にA社においては「人時生産性」を指標としていた。ただ「人時生産性」は人件費が反映されていないため,時間当たり2000円の正規社員でも,時間当たり800円のパートタイマーでも同じ1時間として換算される。このような指標が全社的に売場要員の管理指標として使用されるには,あらかじめ正規社員の総労働時間(H1)と人件費(Pe1)が,人事異動である程度平準化している必要がある。
 人時生産性(Ph)の計算式は,

で表される。人時生産性(Ph)は,粗利高(I)を総労働時間(H)で割ったもので,1時間あたりの粗利高を知ることができる。1時間あたりの粗利高が高いほど効率がよいということになる。粗利高(I)は売上(R)から仕入原価(C)を引いたもの,総労働時間(H)は正規社員の総労働時間(H1)と非正規社員の総労働時間(H2)と書き換えることが可能なので人時生産性(Ph)は,この四つの要素の組み合わせによって変動することが理解できる。つまり,この数値を上げるには,粗利を確保したうえで総労働時間を下げることが必要となってくる。正規社員の総労働時間(H1)は,配属されている人数によって固定されるので,売場における要員管理のメインワークは非正規社員の総労働時間(H2)の効率化となってくる。
 B社でも基本的には労働生産性が指標で,売場では総労働時間換算したパートタイマーの要員管理を行う。1人あたり売上高(注18)や売場の坪あたり・時間帯あたりの労働生産性は,逐次データとして本部に吸い上げられ,他部門と乖離しすぎた場合に地区の人事担当者から指導が入るようになっている。B社では,売場の正規社員数は売場長1人,もしくは研修中の新人を入れて2人というケースが多く,削減するH1がない,という状況になってきており,ポイントは,よりいっそう効率的な要員管理を目指して売場や仕事の改善を行ったり,1人のパートタイマーができる職域を拡大したりするといったパートタイマーの戦力化の方向に展開している。将来的にはパートタイマーの売場長や,1人の正規社員が二つの売場を兼任して管理するという現象が起こってくる可能性も大きい。

 2 進捗管理と人件費コントロールのタイミング

 A社では,売場や店舗の業績達成の状況は日々ネットワークコンピュータで送信され,支社や本社で管理されている。あらかじめ日割りされて入力されている月次の目標に対し,毎日どの程度達成していっているのかということは,一目瞭然となっている。店舗内では,売上利益が達成されていない売場に対し,たえず店長や販売課長,総務課長から個別に商品のラインアップや経費の削減についての指導が入る。また店舗は事業部ごとに月次で行われる店長会議で,各売場の利益予算と実績の差異理由についての説明が求められ,四半期で目標達成できていない店舗に対しては理由書の提出が求められる。
 B社の売場は独立採算制のため,基本的には利益を確保している限り,経費などの詳細項目について追及されない。しかし,A社と同じく利益目標を達成できていない状況は,逐次データで把握できるようになっており,店長と地区の店舗をまとめる販売マネージャーが売上指導を行う。B社での聞きとり調査では,売場長や店長に対する進捗管理について明確に把握することができなかった。
 利益目標を達成するために人件費を圧縮する場合,短期的と中・長期的では,コントロールする部門と,コントロールする対象が異なってくる。たとえば,ある店舗で月次の営業利益目標が月半ばで達成するのが難しいと判明したとする。店舗では,ディスプレイを変えたり,重点商品のラインアップを工夫したりして売上を上げる努力をさらに行う。しかし,緊急手段として総労働時間を2~5%カットという通達が下りることがある(注19)。このときに削減の対象となるのは非正規社員の総労働時間(H2)である。しかし,売場長は総労働時間をカットすると,「売場が荒れ」「やる気を削ぎ」,結果的に売上低下につながると言い,恒常的にパートタイマーを削減することを嫌う。人件費が利益を圧迫していることが明白であれば,売場や店舗は人事部に次の異動で正規社員の総労働時間(H1)をカットすることを求める。さらに,抜本的に正規社員の総労働時間(H1)を見直す必要が出てくると,人事部主導の下でグループ企業内への出向や転籍,また転職支援制度による正規社員の削減が行われることになる。
 長期的な傾向で見ると,売場のパートタイマー数は増加傾向にあり,正規社員数は減少傾向にある(図2)。複数年で人事部が正規社員の効率化をする役目を担う一方で,単年度の中では,部門が独自にパートタイマーの要員管理を効率化させていく(注20)。売場において正規社員が効率化しきったときに,売場での要員管理は,単純に非正規社員の総労働時間(H2)の削減問題となってくるのである。

図2 A,B社売場面積と非正規従業員比率の推移

 3 売場の効率化

 A社B社ともに売場や店舗においてパートタイマーを活用し,部門業績につなげる管理を行っている(注21)。売場や店舗における要員管理は,パートタイマー中心に行われていて,正規社員の要員管理に関しては異動の希望を提出し,人事部でコントロールされる。ここでは主にパートタイマーを活用して売場の効率化を図っている事例に焦点を当てる。
 A社,B社ともに食料品関連売場と衣料品関連売場の2種類に分けて聞きとり調査を行った。どの職場においても,パートタイマー比率は約70~90%で,大体10人で回している職場であれば,正規社員は売場長のみ,もしくは研修中の新人か若年社員の2人構成となっている。どの売場においても,もっとも重要な仕事は発注作業である。正規社員は主に流行,季節や行事にあわせて売れ筋商品を選定し発注する役目を担う。パートタイマーはその発注された商品を陳列したり,欠品しないように追加発注をかけたりして補充を行う。ただし,この二つの職場は扱う商品の種類が異なることから,パートタイマーに求められる働き方も技能も異なってきている。この分類については脇坂[1986]と同じ見解である。
 まず食料品関連部門(注22)では数多くの商品を補充陳列することが中心的な仕事である。商品点数が多いことから,在庫・仕入管理と発注作業がもっとも重要で手間のかかる作業であったが,POSシステムを導入することで,レジから自動的に売上状況や在庫状況が吸い上げられるようになり,基本的な発注業務も自動化された。「昔に比べて作業が単純化し,標準化して分業が可能になってきている」とA社の加工食品の売場長が語っていた。分業化が進むと,長時間1人の社員に頼る体制から,短時間で人員数をそろえていく体制へと変化していく。人数が増えても総労働時間が変化しない限り,人時生産性には影響は及ばない。
 B社の同じ売場ではパートタイマーを売場で直接雇用する方法から,同じグループ企業内の子会社から品出し専門のパートタイマーの派遣を受ける方法に転じていた。以前は売場長が20人にも上るパートの人事に時間を費やしていたが,派遣を導入することで多少費用が固定的になったとしても,売場長が売上戦略などの「前向きな仕事」に多くの時間を費やすことが可能になったことが最大のメリットであると売場長自身がコメントをしていた。
 衣料品関連売場(注23)は食料品関連の売場に比べると,比較的長時間で働くパートタイマーが少数で固定していた。もっとも大きな違いは接客があることで,また商品単価が食料品と比較して高いことが挙げられる。A社B社ともに食料品と同じくPOSの普及によって発注と在庫確認が簡易になったが,完全な自動発注までには至っていなかった。A社,B社どちらの衣料品関連売場でも,パートタイマーの技能を向上させて戦力化につなげることに非常に熱心であった。「やる気があるし,時間的融通もきく」という理由でA社の婦人衣料売場の売場長は,勤続3年目のパートタイマー(Gさん)を売場長の下で,売場と他のパートタイマーを取りまとめる担当者レベルにまで育成しようとしていた。B社の服飾品売場でも,売場長以外は全員パートタイマーで,売場長がいない時間帯や出張などで売場を離れても,ほとんど問題なく仕事はこなせるレベルに達している。売場長は売場の戦略情報はほとんどすべてパートタイマーと共有し,常に売場の状況を把握しているパートタイマーから助言を受けながら売上計画を立てるまでに至っている。
 このように,パートタイマーがどのように働いて,戦力化されているのかということは,売場で取り扱う商品によって異なるといってよい。食料品売場のほうは,仕事を単純化し分業化することによって「量的」戦略でパートタイマーを活用する。衣料品売場のほうは「質的」戦略を重要視し,パートタイマーに売場をある程度任せられるように教育訓練することで,正規社員数を減らし利益を伸ばすことを考える。



 V 業績評価と賃金制度

 1 正規社員の業績評価と賃金制度

 パートタイマー比率上昇のメカニズムを考察するにあたり,正規社員の業績評価や賃金制度を論じることは,懸け離れていて関係のないことのように思われるかもしれない。しかし,パートタイマーを売場で管理し,労働時間や賃金を決定するのは正規社員である部門長である。たとえば,部門の業績評価が利益目標に対して行われ,その達成割合によって正規社員の賃金が連動するのであれば,パートタイマーの要員管理を行い,効率的にパートタイマーを活用することが部門の業績目標を達成するために必要な活動となってくるであろう。また,業績達成割合がどのくらい連動するのかによって,コストである人件費を削減するインセンティブや,パートタイマーを教育訓練するインセンティブも変化するであろうと考えられる。
 結論から述べると,B社の売場長レベルの業績に連動する賃金の割合は,A社の同等レベルの社員よりも高い。B社の売場長は,自ら売場の予算を組み,利益予算を達成するための売上や人件費などの経費の細かな割り振りをするといったように,自己裁量に任せられている部分が大きいが,利益予算の達成に対しての自己責任も大きいといえる。
 B社の賃金は月例給与,賞与,成果配分給,業績連動賞与の4本立てになっており,基本的に属人的要素となる評価(年齢,勤続)は賃金制度の中に組み込まれておらず,すべて職務と業績・成果の評価に連動して支給されている。月例給与は,売場長より下のレベルの社員には,《地域給+職能給+諸手当》で,主に職能について評価される。売場長から店課長レベルになると,月例給与体系ががらりと変わり,《職務給+諸手当》となる。賃金決定の際の評価比率は「業績達成度」が60%となっている。店長クラスやその上の経営職になると,月例給与の70~80%が「業績達成度」の評価によって左右されることになる。賞与は年2回の目標管理シートを使った人事考課により,業績や能力などが評価されたうえで賞与額表の該当する欄に記入されている定額の金額が支払われる。成果配分給は,年間2回,半期の業績結果に合わせて支給される。これは完璧な数値目標に対するもので,本人の所属する部門が予算達成したかどうか,また全社的に予算達成したかどうかで定額が支払われる。業績連動型賞与は,年1回支給される。これは事業本部の年度予算の達成率に応じて等級と上下考課の組み合わせによって支給される。
 A社の賃金体系はB社に比べ業績に連動している割合は少ない。しかし,月例給与体系に業績給は存在し,その中の「営業数値の達成度」の評価は,売場長レベルの社員以上に対して適用されている。評価のウェイトは,B社と同じように上のレベルに昇進すればするほど高まっていくというシステムとなっている。前述のように,売場長は売上利益,店長以上は営業利益が一番大きな業績目標となる。売場長以上のレベルの社員は目標設定値に向かって職務を遂行していくように賃金が設定されている。

 2 パートタイマーの賃金制度

 本田[1998]は,1980年代後半~90年代前半にパートタイマーの基幹労働力化を促進した個別的賃金管理が,1990年代後半に入ってから人件費を圧迫してきたため「新たな集団的賃金管理」が導入されてきていると分析している。事例では「能力の伸長に個人差があるけれども,その伸長はほぼ3年で止まると想定している(注24)」とし,賃金体系は年齢・勤続や資格・等級で決定される部分を廃止し,職種別の基本時間給と部門業績連動型の賞与となっている例を挙げている。
 本稿の聞きとり調査においても,A社,B社ともに職種別(注25)に採用され,職務ランクによって賃金が決定されていた。職務ランクは習熟度によって決定し,その評価は評価表に基づいて売場長によって行われる。賃金は評価によって賃金テーブルと連動しているが,評価は正規社員のように複雑ではない。A社のほうが細かな職務規定やランク付けがあるが,それでも職務ランク上昇は4回であり,それに伴う昇給の幅は時給換算で10~50円である。また,勤務態度に対する評価給が別に支給されるが,それも時給で0~30円の幅である。一方,B社では属人的要素が賃金決定には一切反映されない。また,A社に比べると部門業績に連動する部分が大きく,職務の区切りや職務ランクは少ない。B社では職務に関するくくりが少ないことが,かえってフレキシブルな雇用を生み出し,売場長の裁量でやる気と能力のあるパートタイマーに自由に仕事を割り振ることが可能となり,要員管理を容易にしている。
 パートタイマーの制度を充実させてゆく背景にはたしかにパートタイマーの基幹労働力化を促進させる意図があるのだが,技能や能力を評価する「供給重視」の正規社員の人事制度に比べると雲泥の差がある。全社統一的なパートタイマーの人事・賃金制度を導入した最大の理由は店舗間でばらばらだった賃金格差を是正することにあり,これによって先に述べたような要員管理の指標を確立し,集中的に管理,指導することが可能となった。大型小売業にとって,最大の要員管理の対象はパートタイマーであり,パートタイマーの人事・賃金制度の構築は人件費管理としての人事戦略が垣間見えることは否めない。



 VI 結論

 本稿では,日本の大型小売業2社に対する聞きとり調査から,パートタイマーの要員管理が部門の業績管理とどのように結びついているのかということについて論じた。表1に主な要点についてまとめている。

表1 聞きとり調査のまとめ

 A,B社ともに,全社的な経営目標からブレイクダウンされた部門の業務目標は,それぞれコントロールしやすい会計目標や指標に変化され,その達成度が報酬と結びつく形をとっている。経費がかかわってくる利益予算が部門の目標値となった場合,当然人件費を管理することも重要な業績管理の一つである。部門業績や要員についての進捗管理は日,週,月,四半期,半期というように密に行われる。一方,賃金は年2回の目標管理シートを使った評価により決定される。これらは日々目標に向かって駆り立てるものと,その働きを裏付けるものとに位置づけられる(注26)。双方とも,人件費と深くかかわる利益目標の達成が評価対象となっており,結果的にパートタイマー比率上昇の原動力となっている。
 A社の場合,売場の業績は売上利益(売上から売上原価を引いたもの)について評価されるので,売場長は人件費の管理よりも売上を上げることのみに集中し,人件費を考慮せずに増員の要望を頻繁に店舗の人事管理者に上げることになる。むしろ要員管理の歯車は売場よりも営業利益を管理している店舗と,指標を駆使して指導する人事部からの圧力にある。B社では売場の1人1人が経営者としての能力を求められており,売場でコントロールする項目が増えるぶん,売場の権限も強くなる。売場の業績目標を達成するために,最少の人件費で最大の売上を上げることを常に意識するようになる。個人の業績連動給の割合は大きく,達成率が賃金に反映されるが,そのぶんリスクは大きく責任も重い。
 日本の大型小売業では,1990年代の大店法の規制緩和と廃止によってパートタイマー数が急増した。パートタイマー比率の上昇は,全社的な経営方針として売場や店舗に対して要請されると同時に,売場や店舗も独自にコストカッティングの意識を持つため,現象に拍車がかかる。今後もさらにパートタイマー比率は上昇していくものと考えられ,大型小売業の要員管理の主たる業務はパートタイマーの管理となることは明白である。少数になった現場の正規社員には,ただ「売る」という能力だけでなく,マーケティングや総合的に売場を管理する技能が,さらに強く求められるようになるであろう。また,パートタイマーと正規社員の仕事の差異が明確になり,パートタイマーの中には,より広範な売場の状況に対応できる能力が求められる層と,より短時間で定型的単純業務に従事する層とに二極化していくことが予想できる。


注 1)調査報告書では,日本労働研究機構[1998]の「小売業・飲食店における経営と雇用」は,労働需要側がどのように非正規労働者を戦力化しようとしているかという着眼点を持ってはいるものの,パートタイム労働者の雇用数の増減予定や活用方針,不足している能力や能力開発の程度を聞くにとどまっている。

注 2)しかし,石田[1996]は,売場の要員の大半を占めるパートタイマーの要員管理については多くを語ってはいない。

注 3)石田[1998][1999]において分析の枠組みとしての「仕事論」の展開について説明している。

注 4)石田[1996]p. 13より引用。

注 5)進捗管理は石田[1998]の論ずるところの「サンクション」の発動であり,報酬管理はインセンティブのコントロールである。

注 6)A社はカンパニー制をとっており本社から支社へは経常利益で数値は落とされる。支社は店舗がコントロールしやすい営業利益に目標数値を変えて落としていく。

注 7)たとえば,攻めの戦略のときは,売上予算を多めに設定し,同時に販促費,人件費などの経費も多めに設定する。守りの戦略のときは,売上予算は少なめにし経費も縮小する。

注 8)結局,店長は「今年は予算達成出来ないことを覚悟でがんばる」ことになり,支社は「来年度は異動で人材を回すなり,売場増床するなり,必ず目標達成できるような手立てを考える」という合意形成が行われる。

注 9)店舗は売場に対し売上利益(売上-売上原価)に変えて目標値を設定する。

注10)店舗売上高から売上原価と管理費と資本費を差し引いたもの。店舗に所属する管理職や経営職の社員についてはこの数値が業績評価の対象となる。

注11)売場の売上高から売上原価と管理費を差し引いたもの。

注12)「来年は異動させるから」(A社Z支社人事部長)というような内約束で合意させるという。

注13)大型小売業では,人件費を総労働時間に置き換えて管理している。パートタイマーの総人件費を平均時給で割るとパートタイマーの総労働時間を得ることができる。また,有価証券報告書などの人数は,月間160時間を1人と計算している場合がほとんどであり,実際の人員数はもっと多くなる。

注14)「今年ここは社員が1人増えているから,パートさんは(全体で)200時間減らすとかね」(A社Z支社人事部長)。

注15)ただし人事異動は人件費をコントロールするためだけに行われるのではないことは,次のコメントからも察することができる。「人事部の機能っていうのは労働力の需給調整と人材育成なんですよ」(A社Z支社人事部長)。

注16)ただし,食料品から衣料品に移るというような極端な異動はない。あくまでも,靴売場から鞄売場とか,酒・飲料売場から加工食品という程度が多い。

注17)売場が要員を補充する際には,売場長が「要員補充依頼書」という用紙に必要事項を記入し,地区の複数店舗を取りまとめている人事管理者に要員の補充を依頼することになる。用紙には,数値指標として,前月の人件費実績と要員実績のほか,人件費比率(対売上)と,労働分配率,今月の人件費予算と人件費比率予算,労働分配率(予算),売上高予算,売上高達成見込率,前年対比を記入し,具体的な従業員区分から該当するものを選択し勤務時間数と具体的作業内容を明記する。この依頼書に従い売場状況を把握した人事管理者は,依頼書を店長に提出する。

注18)


注19)基本的にトップダウンで支社長レベルから下ろされる場合が多い。カンパニー内で成績不振の店舗を,カバーできる店舗がないような場合,パートタイマーは基本的には全員が○時間ずつカットということになる。主にH2を下げる作業になるので,一時的にパートタイマー比率が下がることになる。

注20)削減といっても急進的には行われない。あくまで自然減で対応されるが,パートタイマーの離職率は高いので補充しない限り短期間で減少していく。

注21)詳細については,小野[1999][2000]参照。

注22)聞きとり調査では,「グロッサリー」や「加工食品」部門を対象とした。扱っている商品はインスタント食品,調味料,お菓子類,米,小麦粉,飲料品など。

注23)A社では婦人衣料売場,B社では婦人服飾品売場で聞きとり調査を行った。

注24)本田[1998]p. 66。

注25)たとえば,食料品の販売職,衣料品の販売職,チェッカー,サービスカウンター,店事務職などである。

注26)前者が「サンクション」であり後者が「インセンティブ」である。


参考文献
Tilly, C.[1991] “Reason for the Continuing Growth of Part-Time Employment”, Monthly Labor Review, March 1991.
石田光男[1996]「部門業績管理と要員管理」,雇用促進事業団・社団法人日本産業訓練協会(関西支部)編『企業における能力主義管理の現状と今後の方向に関する調査研究』第2章。
石田光男[1998]「総合政策科学と人的資源管理論」,大谷實・太田真一・真山達志編著『総合政策科学入門』成文堂。
石田光男[1999]「賃金制度改革の仕事論的アプローチ」『国際労働研究』No. 886。
今野浩一郎[1995]「新しい人事管理の潮流」『日本労働研究雑誌』No. 426。
小野晶子[1999]「非正規労働者増加のメカニズム――大型小売業の事例から」『同志社政策科学研究』創刊号。
――――[2000]「日本の大型小売業における業績管理と要員管理――事例研究:パートタイマー比率増加のメカニズム」『同志社政策科学研究』第2巻,第1号。
日本労働研究機構[1998]『小売業・飲食店における経営と雇用』調査研究報告書No. 115。
本田一成[1993]「パートタイム労働者の基幹労働力化と処遇制度」『日本労働研究機構研究紀要』No. 6。
――――[1996]「スーパーマーケットの標準化戦略とキャリア管理」『日本労働研究雑誌』No. 433。
――――[1998]「パートタイマーの個別的賃金管理の変容」『日本労働研究雑誌』No. 460。
脇坂明[1986]「スーパーにおける女子労働力」『岡山大学経済学会雑誌』第17巻,第3・4号。
―――[1995]「パートタイマーの類型化」『岡山大学経済学会雑誌』第27巻,第2号。


 おの・あきこ 同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程(後期)在学中。主な論文として「日本の大型小売業における業績管理と要員管理――事例研究:パートタイマー比率増加のメカニズム」『同志社政策科学研究』第2巻第1号(2000)など。