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(著者抄録)
長期にわたる経済の低迷に伴う倒産の増加に加えて、市場経済のグローバル化に対応すべく進められてきた倒産法制の整備、とりわけ、民事再生法や会社更生法等の再建型手続の整備は、会社法制の整備とあいまって、企業の倒産もまたM&Aの一環として例外的現象から日常的現象になりつつある。倒産は、労働者の雇用と労働条件に大きな影響を与えるだけに、労働者保護の必要性が高いが、倒産過程では、倒産管財人や債務者会社のほか、債権者、株主等の利害関係人も登場するだけに、かかる当事者の権限や利害を適正に配慮した倒産労働法の整備が必要とされる。現在の倒産法は、労働者を単に労働債権者とみるだけで、倒産手続における労働者や労働組合等の関与に関して十分な配慮をしているとは言い難い。もちろん、倒産管財人を使用者とみて不当労働行為の救済をするなど、倒産過程でも労働組合の関与を認めてきた。しかし、迅速な処理を必要とする倒産手続にあっては、法的に関与の範囲と程度を定型化しておく必要がある。また、今日の倒産手続で重要な位置を占める営業譲渡については、一般労働法における法的整備を欠いているために倒産手続における法的整備もまた遅れている。倒産労働法の充実をはかるためには、一般労働法の整備も不可欠である。
(論文目次)
I はじめに
II 倒産法制の動向と問題の所在
  1 倒産法制の見直し作業動向
  2 倒産類型とその特色
  3 問題の所在と限定
III 倒産手続における労働組合・労働者の関与
  1 現行倒産法における労働組合等の位置
  2 労働組合等の関与の実際とその必要性
IV 倒産処理と雇用
  1 解雇
    (a) 倒産管財人の解除権と解雇制限法理
    (b) 整理解雇
  2 営業譲渡
    (a) 倒産処理における営業譲渡の重要性の増大
    (b) 営業譲渡と労働契約承継問題
V 倒産処理と労働条件
  1 労働条件の破棄・変更・放棄
  2 営業譲渡による労働条件の不利益変更
VI 倒産と集団的労働法理
  1 倒産と不当労働行為
    (a) 倒産手続における使用者と団体交渉義務
    (b) 解散・倒産と不当労働行為の成否
    (c) 親会社・関連会社の責任
  2 倒産と労働協約
VII 倒産労働法の整備のために

 I はじめに

 企業の倒産は,雇用を失い,退職金や賃金の不払いをもたらす危険をはらむだけに労働者にとっても,もっとも重大な関心を持つ出来事であろう。バブル経済崩壊後混迷を抜け出ない経済状況のなかで,大型倒産を含む多数の倒産によって,多くの労働者がその職場を失ってきた。他方,市場経済のグローバル化に対応する形で,会社分割や営業譲渡等と企業組織再編のツールは多様化し,倒産法制の整備もはかられている。とりわけ,民事再生法を中心にした再建型処理手続の整備によって,労働者や労働組合は,今後ますます倒産手続に直面することになろう。いわば倒産の日常化である。これまで,労働法学上,倒産が例外的な現象であったこともあって法的問題の検討が十分に行われてきたとは言い難い。本稿では,これまで倒産過程で発生してきた問題を拾いだすとともに,倒産法制の整備に伴い新たに生じるであろう労働問題を見据えながら,倒産をめぐる労働法の整備課題を探ることにしたい。



 II 倒産法制の動向と問題の所在

 1 倒産法制の見直し作業動向

 法制審議会倒産法部会は,平成8年以降,倒産法制の抜本的改革に取り組んできた。わが国の倒産法制は,大正11年に制定された破産法と和議法,昭和13年の商法改正の際に定められた会社整理と特別清算,そして,昭和27年に制定された会社更生の五つの手続が存在するが,バブル経済崩壊後,戦後最大といわれる不況の下での倒産事件が急増するなかで,まず,平成11年には,再建型手続の整備として,従来の和議法に代えて,民事再生法を制定,翌12年より施行した。民事再生法は,和議法の欠陥を踏まえ,(1)手続申立原因は破産原因が生ずるおそれでよく,(2)債権者集会における再建計画の決議要件も債権総額の2分の1の債権を有する債権者の同意でよいと要件を緩和したこと,(3)債務者主導の再建を認めつつも,必要があるときは裁判所は監督委員を選任し,債権者の信頼も得られるよう選択肢を広くとることにしたこと,(4)担保権行使に制限を設ける等,再建型手続としてより使い勝手のよいものにしたものである。その後は,破産法と会社更生法の改正作業が精力的に進められ,2002年3月には会社更生法改正要綱試案が発表され,10月に改正法が今国会に上程されている。会社更生法の改正では,更生計画によらない裁判所の許可による営業譲渡の導入,清算を内容とする計画案の許可要件の緩和,大規模裁判所による競合的裁判管轄の導入,更生債権者や担保権者による強制執行等に対する包括的禁止命令の導入,更生計画案の提出時期の1年以内への短縮,旧経営陣のなかの適格者の管財人選任可能性の承認等によって,更生手続の迅速化・簡易化を目的としている(注1)。
 破産法の改正作業では,大規模な破産での手続の迅速化のための対策,個人破産,国際倒産事件に対処するための新たな立法作業が進められている。労働法との関係では労働者への未払賃金や退職金の優先的確保に関する議論が進められ,2003年中の成立を予定している。

 2 倒産類型とその特色

 i〉倒産処理には,大きく分けて,私的整理と法的整理があるが,まず法的整理をみると,清算型と再建型がある。清算型は,経済的破綻に陥った企業(債務者)の債務の清算を目的とした倒産処理手続で,それには破産と特別清算がある。破産は,清算型の代表的手続である。債務者が経済的に破綻したときに,裁判所が破産宣告をすることで債務者から財産処分権を奪い,債務者の法律関係を整理するとともに,破産管財人を選任して財産の処分権を付与し,各債権者の債権額に応じて公平に配当し,清算させる制度である。特別清算は,商法が株式会社に認めているもので,会社がすでに解散して清算に入った場合において,「清算の遂行に著しく支障をきたすべき事情」があるときや,「会社に債務超過の疑い」がでてきたときに,裁判所の厳格な監督のもとに清算を進めるものである(商法431条)。通常,会社を解散する場合には合併の場合を除き会社財産の清算を行う必要がある(商法417条以下)が,通常清算は会社財産が健全であることを前提にしているため,裁判所の監督は緩やかであるが,債務超過の疑いがでた場合には,債権者や株主の保護の観点から厳格な手続を求めたものである。

 ii〉再建型は,債務の弁済をはかりながら事業の継続をはかるものであり,これには,民事再生や会社更生,会社整理といった手続がある。民事再生は,破産原因の生ずるおそれや資金繰りが逼迫して経済的に苦境に陥った債務者が,債権者の協力と裁判所の認可を受けて再生計画を定め,債務の弁済と事業の継続をはかる手続である。その大きな特徴は,手続開始後も再生債務者が引き続き業務の執行と財産の管理・処分を行うことができる(いわゆるDIP型手続)点にある。再生手続は,債務者または債権者による申立がなされると同時に,通常,債務の弁済や財産処分等を禁止する保全処分がなされ,また,監督委員が選任される。裁判所や監督委員の監督の下,再生債務者が主体となって,債権調査,財産評定,再生計画の作成等を進めることになる。
 会社更生手続は,株式会社の再建手続である。申立と同時に保全管理人による管理を命ずる保全管理命令が発令され,開始決定がなされると,更生管財人が会社の事業経営および財産の管理処分権を掌握し,スポンサー交渉・債権調査・財産評定・更生計画の策定等を進める。更生計画は,関係人集会における法定多数決により可決され,裁判所の認可を経て効力を生じ,その遂行の終了まで裁判所が監督する。更生手続では,担保権の実行を阻止でき,租税債権の優越的地位も減殺されている。民事再生手続が主に中小企業や個人事業主を対象とするのに対して,更生手続は大企業を対象とする倒産手続といえる。しかし,更生手続では事業経営を行う権限は更生管財人に移ることから,大企業でも,自ら再建手続に関与することを望む場合は,再生手続を選択することになる。
 会社整理は,株式会社について認められているもので,支払不能や債務超過に陥るおそれのある会社について,裁判所の援助・監督のもとで,債権と債務を整理して,会社の再建をはかるものである(商法381条以下)。申立は,取締役,監査役,株主,債権者が行いうる。整理案の作成は当事者の自治に委ねられ,一人でも反対があると成立しない。民事再生法の成立によってほぼその役割を終えたといわれる。

 iii〉私的整理(任意整理)は,債務者・債権者間および債権者相互間の合意の上で行われる裁判所外の私的な倒産処理である。実務では,もっとも日常的にみられる手続である(注2)。法的手続をとった場合には,著しい信用毀損や人材の流失が生じかねないし,法的整理は時間と費用が割高だからである。他面,債務者による財産隠匿や債権者の不正行為および整理屋等の介入等といった不公正,不透明な事態を招きやすい。そのため,2001年9月,全国銀行協会や産業界が主体となって「私的整理に関するガイドライン」をまとめている。さらに,2002年11月には,私的整理ガイドラインの利用を促進する立場から,(1)会社更生手続または民事再生手続が開始された場合と同様に,税務上も会計上も資産評価損を損金に算入することを可能とすること,(2)債務免除益と期限切れ繰越欠損金とを損益通算するにあたり,会社更生手続が開始されたと同様に,期限切れ繰越欠損金から優先的に使用することを可能とするよう関係法令を改正することを求めている。

 3 問題の所在と限定

 倒産をめぐる労働問題は,何よりも雇用と労働条件の確保をどのようにはかるかである。ここでも,清算型と再建型では問題の所在は異なる(注3)。破産手続にあっては,債務者の資産と負債を確定し,財産を第三者に譲渡しながら,その清算価値を債権者に公平に配分することが目的であるから,労働法的には労働債権の確保が中心的課題である。これに対して,再建型にあっては,債務者会社または第三者による事業の継続を追求しながら,関係者の利害を公平に調整することが目的となるから,労働法的には,労働債権の確保よりは,事業の再構築のなかで発生する人員整理の公正な遂行,円滑・迅速な企業再建にむけて労働組合や労働者が実効性をもって関与できるかが重要な課題となる。以下,労働法上議論すべき課題を順にみていくことにしたい(注4)。
 なお,倒産処理における労働法上の重要な論点のひとつは,いうまでもなく労働債権の確保問題(注5)である。現行法制における労働債権の保護が不十分であり,諸外国と比べても見劣りする(注6)ものであることがかねてから指摘されてきた。現在,法制審議会を舞台に,一般実体法および倒産実体法において労働債権の保護の強化をはかる検討が行われているが,この点は,別稿が用意されているので,ここでは扱わない。また,倒産時における争議行為をめぐる問題については紙幅の都合により割愛した。



 III 倒産手続における労働組合・労働者の関与

 1 現行倒産法における労働組合等の位置

 企業の倒産は,労働者の雇用や労働債権の行方に直接影響を与えるだけに,倒産処理手続において労働組合や労働者に十分な情報が与えられ,かつ,倒産処理の公平性や迅速性を損なわないかたちで,倒産手続に直接間接に関与できることが必要であろう。
 倒産法制はこの点に関する配慮は全く欠けていたが,戦後生まれの会社更生法が,唯一,更生計画案について労働組合等の意見を聴くことを義務づけた(会社更生法195条)。これに比べると,民事再生法には一定の前進がみられる。裁判所は,営業譲渡許可,再生計画の認可・不認可決定に際して労働組合等(過半数組合または過半数代表者である過半数労働者代表を民事再生法は労働組合等としている。本稿も以下同じ)の意見を聴取すること(民再法42条3項,174条),債権者集会の期日を労働組合に通知すること(同115条3項),財産状況報告集会において労働組合が意見を述べることができること(同126条3項),再生計画案について労働組合等の意見を求めること(同168条),再生計画の認可・不認可の決定結果を通知すること(同174条),簡易再生申立の際に,債務者等は労働組合の意見を求めること(同211条2項)等である。会社更正法改正では民事再生法と同様の関与を認められる予定である(注7)。
 再生計画や更生計画の作成に際して裁判所が労働組合等の意見を聴取しない場合には,再生計画不認可事由となりうる(民再法174条2項1項)と解されている(注8)。しかし,営業譲渡に関する意見聴取義務に関しては,後でもみるように,違反しても不服申立は用意されていない。
 労働者が未払賃金や退職金等の労働債権を有する場合に,債権者として倒産手続に関与できる。破産手続では,労働債権は優先的破産債権であるから,破産の申立ができるし,債権者集会にて意見を述べることができる。他方,再生手続における労働債権は,一般優先債権(民再法122条1項)として再生手続によらずに随時弁済を受けられる(同2項)から,労働者が再生債権者となって債権者集会の申立(114条)や再生計画案の提出(163条2項)など再生手続に関与することは予定されていない。ただし,再生開始手続に関しては,申立資格が「債権者」とされ「再生債権者」に限定されていない(21条2項)ことから,労働債権者も申立資格があることになる(注9)。会社更生手続では資本の10分の1を超えれば債権者も開始申立をすることができる(会社更生法30条2項)から,労働者の労働債権がこれに該当すれば申立資格を有することになる。

 2 労働組合等の関与の実際とその必要性

 裁判例のなかにも,労働組合が会社再建に取り組んだ事件(注10)をみることができる。この事件は,会社の代表取締役が倒産後企業売却を意図するなかで,従業員の所属する労働組合の上部団体(連合および生コン産業労働組合)が,自主再建を志向するなかで,組合員たる従業員を申立人として,法的手続として更生手続開始申立を行ったところ,神戸地裁が,「更生の見込みない」として申立を却下した事案について,大阪高裁は,「従業員が生コンの製造を再開」し,「材料の仕入れ,製品の販売については,それぞれ数社が抗告人らの業務に協力することを表明していること,従業員の確保にさしたる支障はないと見込まれること」「会社の運転資金については,連合交通労組関西総支部生コン産業労働組合が抗告人ら従業員の生活の確保及び工場の運転再開のための必要な限りの融資を行う旨を表明していること」「会社の従前の債務の返済方法については,公認会計士作成の一応の利益計画案が作成されている」等の事情をみれば,「抗告人が相手方の工場等を占有,使用することは,現在の状況のもとでは法的根拠に乏しいが,金融機関等の担保権者や債権者の対応次第によっては,適当な人材を得て相手方会社を再建させる可能性が全くないとはいえない」として,原決定を取り消し原審に差し戻した。
 この事件は,かつての自主管理闘争に代わり,法的整理を一つの手段として労働組合が会社再建に取り組むことが可能であることを示している。その意味でも,労働組合に対する情報や関与機会の提供は重要である。申立資格を有する労働債権者の委任を受けることで直裁に労働組合等にも再生手続や更生手続の申立資格を与えることが検討されてもよいであろう。
 倒産手続法における労働組合等の関与もさることながら,一般労働法のなかで,労働組合等の関与を確立しておくことが考えられるべきであろう。倒産時に労働者の信頼を得て労働組合等が機動的に対応するには,通常において労働者の利害調整に十分な役割を果たしていることが前提となるからである(注11)。



 IV 倒産処理と雇用

 1 解雇

 (a)破産管財人の解除権と解雇制限法理
 私的整理や再建型手続の場合はもちろん,清算型の法的整理の場合であっても,労働契約関係は倒産手続の開始によって当然に終了することはない。ただし,破産法は,破産宣告後,破産者と相手方の双方が,その債務の全部または一部の履行を完了していないときは,破産管財人は,契約を解除するか,破産財団として債務の履行を求めて相手方の履行を求めるかいずれかの選択をすることができるとしている(破産法59条1項)。履行を選択した場合には,相手方の権利は財団債権として扱われ(同47条7項),解除を選択した場合には,契約関係は消滅し,解除によって被った損害賠償の請求権は破産債権として扱われる(同60条1項)。破産管財人に,契約の解除と履行請求の選択を認めた趣旨についての学説上の理解は多岐にわたる(注12)が,「破産手続の清算目的との関係で統一的かつ速やかに法律関係を処理するため」(注13)と理解することが可能であろう。ただ,破産管財人にのみ契約解除と履行請求の選択権を与えた破産法の一般原則の特則として,民法は,労働契約に関しては,使用者が破産宣告を受けた場合には,有期契約についても「労務者又ハ破産管財人ハ第六百二十七条ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得」と,破産管財人と労働者の双方に解約権を認めている(民法631条)(注14)。
 問題は,破産管財人が,契約の解除を選択して,労働者を解雇することについては,破産宣告前と異なる法理が妥当し,解雇制限法理の適用はないかである。まず,労基法の予告期間の規定(労基法20条)が適用されるかである。この点,民法631条に基づく破産管財人の解雇は使用者の民法627条に基づく解雇と異なる(注15)ものであるか,あるいは,使用者の解雇権を「代位」しているとみる(注16)かには関係なく,適用があるものというべきである(注17)。民法628条に基づく解雇にも労基法20条は適用されることからみても,民法631条の解雇に適用を排除する積極的理由はない。また,破産は即時解雇を正当化するほどの「天災事変その他やむを得ない事由」(同条但書)といえないであろう(注18)。なお,予告期間を遵守しない場合,予告手当を支払うべきことになるが,破産財団が不足するために予告手当も事実上支払われないこともありうる。その場合は,労働債権の確保ができない結果に終わったにすぎないから,解雇の効力には影響がないであろう。
 解雇理由に関しても,経済的理由に基づく解雇,すなわち,整理解雇以外の解雇に関して,通常時と倒産時において異なる取扱をしなければならない理由はなく,労基法,均等法等の解雇制限規定が適用になる。破産管財人は理由のいかんを問わず自由に解雇できるとすれば,破産手続期間の雇用関係において性や国籍,信条,組合帰属等を理由にする社会的差別を是認することになろう。ただ,解雇が無効とされた場合であっても,整理解雇の可能性が排除されないために雇用確保を求める実質的利益が少ないだけにすぎない。なお,労働協約に定めた解雇制限条項の効力については後述する。

 (b)整理解雇
 整理解雇に関して,「法人の破産においては従業員との雇用関係を含め,その全財産を清算することが予定されているのであるから,企業が存続することを前提とする整理解雇の法理は適用されない」(注19)とする裁判例がある。たしかに,破産のような清算型倒産の場合には通常全員の解雇を予定していることからすれば,いわゆる整理解雇4要件のうち,解雇回避義務や解雇対象者選定の合理性は問題とならないといえる。しかし,清算型の場合でも,整理解雇の必要性については議論の余地はある。自己破産の申立がなされた場合,本当に破産原因たる支払不能や債務超過たる事実があるかどうか,あるいは,他に事業を移転し事業の継続をはかる意思(偽装解散)があるかどうかを検討し,必要性を欠くときには整理解雇の効力を否定することはありうると思われるからである。また,解雇の効力ということを離れてみれば,清算手続においても営業譲渡によって雇用の確保をはかる可能性はあるから,解雇回避の努力をしなかったことが役員等の責任(商法266条3項)を発生させる可能性も否定できないであろう(注20)。
 再建型手続にあっても,多くの場合,雇用調整は免れないが,事業の継続が予定されるだけに清算型手続に比してより強く整理解雇法理が適用されることになる。ここでは,人員削減の方法,解雇対象者の選定が大きな問題となる。通常の整理解雇の場合には,解雇対象者の選択については,解雇によって被る労働者およびその家族の不利益を配慮する,いわゆる社会的観点が重視されるが,再建型手続にあっては,仮に社会的観点からすれば保護の程度が低い労働者(家計的にも恵まれ,扶養・介護対象者をもたない労働者)であっても,企業再建に不可欠な場合には当該労働者を解雇対象者から除くことに合理性が認められてしかるべきことになる。同時に,立法政策的には,ここでも,労働組合等(過半数労働者代表を含む)との協議によって対象の選定を行うこと,そして労働組合等との合意に選定の合理性を推定させる効力を与えたほうが,迅速な処理をはかることができると思われる。

 2 営業譲渡

 (a)倒産処理における営業譲渡の重要性の増大
 営業は,営業を構成する個々の財産よりも大きな価値を有するのが通例であるから,倒産処理手続における営業の譲渡は,債権者にとってはより多くの弁済可能性をもたらし,他方,債務者会社や従業員にとっても,譲渡先で事業を継続することは,雇用の確保をはかるメリットがある。それゆえ,倒産処理手続のなかでは,事業の価値が下がらないよう営業譲渡は迅速に進めることが必要である。反面,往々にして,譲受会社の希望に応じる形で承継労働者の絞り込みが行われたり,債務者会社の意図のもとで新設会社に限定的に承継させることも行われる。その意味で,営業譲渡の法的規整は,倒産労働法のもっとも重要な課題の一つということができる。
 現行倒産法における営業譲渡の手続規制をみると,破産手続では,破産管財人が営業譲渡を行うには,監査委員の同意または債権者集会の同意が必要となる(破産法197条3号4号)。破産管財人の重要な管理行為や換価行為には破産債権者を関与させる趣旨である。これに対して,再生手続では,手続開始後,再生債務者は,再生計画をまつまでもなく,裁判所の許可によって営業の譲渡を行うことができる(民再法42条)(注21)。また,株式会社にあっては営業譲渡に株主総会の特別決議が必要である(商法245条)が,再生手続開始後は,債務者会社等の申立に基づき裁判所の許可(代替許可)でこれに代えることができる(民再法43条)。再生手続の申立や開始決定があった場合,一般には債務者の事実上の倒産とみられ,営業価値が急速に劣化しかねないため,債権者に対する手続保障よりも迅速な処理を優先することをねらったものである。
 他方,営業譲渡が労働者に与える影響の大きさを考えれば,労働組合等の関与が認められてしかるべきであるが,これに関する配慮はきわめて限定的である。破産手続では規定もないし,再生手続では,裁判所が許可に際して,債権者委員会等の意見とともに,過半数組合や過半数代表者の意見を聴くにとどまる(42条2項,3項)。意見聴取であるから,同意を必要としないのはもちろん,裁判所が意見聴取の機会を設けず営業譲渡の許可をだした場合でも,不服を申立てる途は用意されていない(法9条,42条)。実体法および手続法においてより実質的な関与を認めることが検討されるべきであろう。

 (b)営業譲渡と労働契約承継問題
 i〉(通常時営業譲渡)倒産手続における営業譲渡問題を考えるには,営業譲渡一般の法的性格と労働法上の問題点を確認しておく必要がある(注22)。
 営業譲渡を労働者からみた場合,譲渡先に移転するのがいいか,譲渡会社に残留するのがいいかは一概にはいえない。全部譲渡であれば,承継の対象から外された労働者は解雇されるほかなくなるので,一般には承継されることを望むといえるが,一部譲渡の場合には,存続する譲渡会社に残留を望む場合もあれば,譲渡部門の性格によっては,譲渡先に移転することを望む場合もあろう。したがって,営業譲渡をめぐる労働法上の問題の中心は,労働者がその意に反して承継の対象から外された場合に承継を求めることができるか,あるいはその意に反して承継の対象になった場合に,承継を拒否することができるかという点にある。
 後者の意に反する承継問題については,民法625条1項が,労働契約上の「権利の譲渡」に「労務者ノ承諾」を求めていることから,今日,一部譲渡であれ,全部譲渡であれ,労働者の同意なくして承継されることがないと理解されており特に問題がない。会社分割の場合には,「承継される営業に主として従事する労働者」は自動的承継として,承継拒否権がないとされているのと大きく異なることになる。
 これに対して,労働者の意に反して労働契約承継から排除される承継排除問題に関しては,営業譲渡は譲渡人と譲受人の契約による承継であり,特定承継であるとの原則的処理だけに依存するのであれば,労働者の保護はきわめて困難である(注23)。両者において自由にその対象者を選択できることになるからである(注24)。
 この点,EU指令のもと,ヨーロッパ諸国では,営業譲渡に関しては,譲渡による解雇を禁止する方法で移転原則を確立している(注25)。日本でも,営業譲渡に関して,営業の譲渡が譲渡会社と譲受会社との間の契約による財産の譲渡としても,単なる財産の譲渡ではなく有機的一体性をもった財産の譲渡であり,譲受人はそれをもって事業を営む意思があるのであるから,経営主体の変更としての性格を帯有するのであり,営業を構成する労働者の承継を原則とする立法的規整が必要であろう。この点,営業譲渡は契約による承継であり特定承継であるとの考えから,法的規整は不要とする考えは理解し難い(注26)。労働契約承継の原則と労働者の承継拒否権を確認しておくこと,そして,労働組合等との協議を求めておくことは不可欠と思われる。

 ii〉(倒産時営業譲渡)倒産時における営業譲渡は,通常時における営業譲渡と異なり,単に経営主体の変更にとどまることはできず,倒産にいたる経緯からして,人員の調整を伴うことが一般的であるといえる。また,事業価値が少なくならないうちに譲渡するためには,迅速に対応する必要性も高いといえる。したがって,倒産時には,通常時との承継原則を一定程度修正することは十分に考えられる(注27)。すなわち,営業を構成する労働者全員の原則的承継を維持しつつも,人員の調整を伴う営業譲渡を認めること,同時に,重要なことは譲受人の希望に従い労働者を選別するのではなく,譲渡会社と労働組合等の合意を通して人員の調整を行うことである。同時に,法的整理にあっては,裁判所許可による営業譲渡が行われる場合も,少なくとも一定期間は労働組合との同意や協議を前提とすべきであろう(注28)。

 iii〉(再雇用型営業譲渡)企業経営が破綻したときの営業譲渡には,破綻会社が新しい会社を設立して,新会社に営業譲渡を行い,清算手続を行うことがある。労働者はいったん全員解雇され,後に新会社が希望の数の労働者を採用することになる。その場合,新会社に雇用責任を求めることができるかが問題となる。

 裁判例のなかでは,旧会社(従業員129名)を閉鎖し,新会社(61名)を設立する再建策により,採用枠に入らなかった労働者が新会社に従業員たる地位の保全を求めた事案につき,「新会社の設立は,旧会社の従業員の雇用の確保を目的として進められたものであり,労使交渉においても,旧会社の役員が新会社の雇用条件等についても実質的決定権をもって臨んでいたもの」と認められるとして,「旧会社の労働関係は新会社に承継される」(注29)としたものや,土木建設機械器具の製造販売加工会社が株主総会の決議をもって解散し,解雇された労働者が,代表取締役を同じくする販売会社を相手に地位保全等の仮処分をもとめた事案につき,実質的には「その営業は継承されるものと認められるのであって,その企業廃止という前提は廃止を擬装したものである」として,解雇を無効とするとともに,旧会社の営業は「実質的一体性を有する債務者会社に承継される」から,「労働関係として承継される」(注30)としている。
 このように裁判所は,当事者の意思や実質的一体性論,偽装廃止論等の法理をもって対応している。しかし,譲渡会社と譲受会社の資本関係が希薄であるときは対応することは困難である。このような法理を踏まえて,再雇用型の営業譲渡に対しても,営業譲渡の法的規整が及ぶことを明確にしておくべきであろう。



 V 倒産処理と労働条件

 1 労働条件の破棄・変更・放棄

 経営危機に陥ったことは当然に従来の労働契約や労働協約,就業規則を破棄する理由とはならない。従来の労働条件を維持するのが困難であるとすれば,それぞれの変更手続に従う必要がある。就業規則であれば就業規則の変更問題であり,労働協約であれば,協約の変更ないし解約問題となる。労働契約上の労働条件については,やや問題であるが,変更請求権や変更解約告知の問題である。かかる手続をとらない,あるいはとれない限り,所定の労働条件を遵守する必要がある。判例上,会社と組合の間で平成11年4月に賃金増額及び一時金協定が成立し,年末一時金は1.5カ月分で12月3日支給とされたが,会社は,同年11月,経営悪化を理由に年末一時金の半額の支給延期を組合に申し入れたが拒否されたため,半額は翌年6月20日までに支払うことを伝え,支給日に半額のみ支払った事案について,裁判所は,「債権者に対して支払期日の延期を求めることができるとしても,これに応じるかどうかは,債権者の意思次第」であり,「倒産法制における法的手続がとられていない以上,債権者はこれに応じる義務がないことは明らか」で,特に「取引先については支払の延期を求めていないのであり,一般債権者よりも法律上厚い保護が講じられている年末一時金について,事情変更の原則が適用され,支払期日が延期されるものということはできない」(注31)とした。倒産手続のなかで債権と債務を調整するものでないかぎり,事情変更の原則をもって契約や協約の拘束を免れることはできないことを明らかにしたものといえる。
 では,「経済的に窮境」に陥り再生手続を申立て,手続が開始したことは,労働条件変更を行う合理的な理由になるか。この点,更生計画遂行中の造船会社が,就業規則を改定し退職金を減額し,15年間の分割払としたことにつき,右会社はいわゆる造船不況が継続するなかで近い将来再び倒産することが高度の蓋然性をもって予測される状況にあるなど,右就業規則を変更する必要性が認められること,その内容も,右減額率が最高でも15.6%で,労働者の退職金を受ける権利を著しく損なうものとまでいうことはできず,右会社の経営状態に照らし必要やむをえない相当な範囲内のものであること,一定の条件を満たす従業員に対しては退職時の基準内賃金の1カ月分相当額を功労金として加給するなどの配慮をしていること,労働組合の賛同も得ていること等の事情を勘案すると,右就業規則の変更には高度の合理性があるとした例(注32)がある。
 私的整理や民事再生手続によって再建を進める過程では,労働債権は共益債権として随時弁済を受けることができるものの,労働組合が積極的に会社再建に協力し,組合員に退職金債権等を一部放棄することを求めることが考えられる。その際,労働組合が労働協約によって退職金規程を改定し,退職金を切り下げることで対応することは可能であろうか。協約による労働条件の切り下げは,労働者が旧基準での退職金の支給を受ける機会を奪うような,遡及的実施は認められない(香港上海銀行事件・最判平成元年9月7日労判546号6頁)から,将来の退職金債権について変更を加えることができるにとどまる。労働組合が再建のために退職金債権の一部放棄を求めるには個別労働者の承諾が必要となる。まして,就業規則であれ協約であれ,退職者の退職年金等の権利を切り下げることは認められない(注33)。

 2 営業譲渡による労働条件の不利益変更

 倒産手続における労働条件の不利益変更は営業譲渡を契機にも行われることがある(注34)。営業譲渡による労働契約の承継は権利義務総体の承継であるから,営業譲渡それ自体によって労働条件を引き下げることはできないが,実際には,倒産処理手続のなかで営業譲渡がなされる際に,変更への同意を求められたときに,個別労働者が労働条件の引き下げを拒否することは容易ではない。また,営業譲渡時には変更されなくとも,その後,譲受会社が労働条件の引き下げを行うことはありうる。裁判例では,自ら設立した新会社に営業を譲渡した後平均4割も減額となる賃金体系を変更した事案につき,格差が大きいこと,変更が譲渡後1カ月後であったこと等を理由に,旧賃金による請求を認めた例がある(注35)が,一般的には合理性を否定することは困難であろう。営業譲渡の立法的規制として,一般的には一定期間従来の労働条件を保障する経過的規定あるいは,倒産手続にあっては,労働組合等との同意を条件にその例外を認めるといった対応が必要であろう(注36)。



 VI 倒産と集団的労働法理

 1 倒産と不当労働行為

 (a)倒産手続における使用者と団体交渉義務
 会社が倒産した場合でも,裁判外の私的整理であるときには,会社の取締役はその地位を失うことはない。また,法的整理のなかでも,再建型の再生手続の場合には,再生手続が開始されても,再生債務者が業務執行権と財産管理処分権を保持する(民再法38条1項)。したがって,従来の債務者会社が使用者としての責任を引き受けることになるから,再生会社の代表者が労働組合との団体交渉に応じる義務を負うことになる。これに対して,破産手続をとった場合,破産宣告を受けるとともに,会社の有する財産は破産財団となり,その管理処分権は破産管財人の手に移る(破産法7条)ことから,労働法上,破産会社の使用者責任を誰が引き受けるかが問題となる。会社更生手続の場合も,再建型手続ではありながら,業務執行権と財産管理処分権は管財人の専属となること(会社更生法53条)から,同じ問題が生じる。
 この点,破産管財人の職務が「破産者の財産の清算であって,事業経営ではない」(注37)ことから,あるいは,破産管財人は破産財団の代表機関であり,破産によって労働契約や労働協約の当事者は変更しない(注38)ことをもって,労働法上の使用者性を否定し,したがって,破産管財人に不当労働行為は発生しないとする見解もある(注39)。しかし,破産管財人は,労働契約を解約しないかぎり,「雇用契約について管理処分権を行使する立場にあるから,破産者に代わって使用者としての地位を認められる」と解されている(注40),あるいは,「雇用関係の解消に伴う一切の責任を負うのであって,他人間の雇用関係につき解約権のみ与えられている関係ではない」(注41)と,破産法学でも破産管財人が使用者であることは一般に認められている(注42)。とりわけ不当労働行為手続における使用者は,労使関係において支配力や影響力をもつ者と広く解されているから,破産管財人の使用者性を承認することに特段の困難はない。
 労働委員会での不当労働行為救済手続でも,「破産管財人は,破産会社において労働組合や労働者が存在する場合には労使関係の問題を処理しなければ本来の職務である財産管理をもできないという側面を有している」から「破産管財人はその限度において,労働者の労働関係上の諸利益に対して実質的な影響力ないし支配力を及ぼしうる地位にある」として破産管財人に団体交渉義務を課している(注43)。しかし,破産管財人に使用者性が認められることで,破産者の団交応諾義務が当然に消滅することにはならない。破産管財人の権限は破産財団に関するものであるから,「自由財産の管理・処分及び破産者自身がなすべきものと定められている事項に関するものは破産者に残され,たとえば,破産会社についての設立無効の訴え,会社不成立確認,破産財団に影響を及ぼさない株主総会決議取消しの訴えなどの法人格の存否や会社組織に関する訴訟においては,被告になりうるものは破産会社であり,これを代表するのは依然代表取締役ないし清算人」であるから,「破産財団に関する事柄以外については,依然破産会社の代表者として,団体交渉に応じる義務がある」(注44)。したがって,団交事項によって使用者が異なることになるが,「賃金の支払,破産会社の倒産に至る疑惑の解明,従業員の雇用確保,会社倒産及び争議の責任,原告(代表取締役)の謝罪」は「いずれも破産財団に関する事柄」(注45)とみられている。
 なお,救済命令名宛人も破産手続開始以降は破産管財人となる。破産者は管理処分権がない以上,「労働委員会は,使用者(破産者)に対して,その財産の管理処分権の行使を履行内容として求める救済命令」を発することができない(注46)。

 (b)解散・倒産と不当労働行為の成否
 破産申立が労働組合を壊滅させることを目的としている場合,不当労働行為になるか。解散決議については,「企業主には職業選択の自由(憲法22条)の一環としてその企業を廃止する自由」があり,真実解散である限り,その自由は「労働組合壊滅を目的とするものであっても」制約されず,「不当労働行為意思でなされた解散決議でも,その決議は有効であり,これを理由とする解雇も有効」とする裁判例(注47)が見られる一方,「企業廃止と解雇は一応別個のこと」として,閉鎖が偽装とは認められないが解雇は不当労働行為とする例がある(注48)。しかし,真実解散であっても,団結権侵害行為がある以上,不当労働行為救済の方法の限定性(注49)は別として,不当労働行為の成立を否定する理由はないと思われる(注50)。破産申立についても,破産原因があれば破産申立はできる以上団結権侵害行為が不当労働行為や不法行為を成立させる余地はない(注51)とはいえない。むしろ,団結権侵害行為がある場合は,破産申立の効力を否定しえなくても(注52),破産申立や破産を理由にする解雇につき不当労働行為や不法行為の成立する余地を認めるべきであろう。もちろん,親会社の支配による解散や非組合員を利用した別企業による営業の継続をはかる偽装解散であるならば,解散決議や破産申立自体の効力を否定することがあってもよい。しかし,商法や倒産法と不当労働行為救済の目的とは異なるのであるから,解散決議や破産申立の効力と破産申立や破産を理由にする解雇についての不当労働行為や不法行為の成否を不可分のものとして理解する必要はないと思われる。

 (c)親会社・関連会社の責任
 会社の解散決議や倒産処理が親会社の支配のもと不当労働行為意思をもって行われた場合には,親会社に対しても団体交渉を求めうるのはもちろん,解散決議や破産申立の効力も労働者との関係では否定される(注53)し,法人格が形骸化している場合(注54)や法人格の濫用と認められる場合(注55)には,解雇された労働者は,親会社に雇用関係の存在が認められる。倒産処理手続で営業譲渡が行われ,譲渡当事者間で労働組合員を承継対象から排除することがあった場合には,譲受会社に対しても不当労働行為救済を申立てることができるし,その際,救済命令として譲受会社に対して承継を命じる救済を行うことは可能である。ただし,営業譲渡に関して前記のような立法措置がとられないとすれば,裁判所が承継を命じることはきわめて困難となろう。

 2 倒産と労働協約

 倒産は労働協約の効力に影響を与えることはない。再建型手続はもちろん,清算型手続であっても労働組合は直ちに解散するとは限らない。組合が存続する以上,労働協約もその効力が倒産手続の開始によって失効することはない。問題は,先にみたように,破産管財人には,未履行の双務契約を解除するか履行を求めるかの選択権が与えられている(破産法59条1項)が,この規定が労働協約に適用されるかである。労働協約も規範契約の性格をもつとはいえ双務契約であること,また,再建型手続では後述のように明文で排除されていることからすれば,肯定せざるをえない(注56)。ただ,これは,破産管財人が,管財人として企業の解体清算の事務を進めるうえで必要な限りで解約をなしうるということであって,破産宣告を受けた以上,当然にすべての協約を解約できるというわけではないであろう。協約に期間の定めのある場合であれ,定めがなく解約には90日の予告期間をおかねばならない場合であれ,相当な期間内に貸与組合事務所の返還を求める等,債務的条項の解約は認められても,労働条件を定めた規範的部分は解約できない,あるいは,解約してもその規範的効力から免れることはできない(余後効)というべきである。
 これに関して,解雇協議条項や事業組織変更(合併,分割,譲渡,休廃業)に関する事前協議条項が破産管財人を拘束するかの問題がある。倒産時でない場合,解雇協議約款については,債務的部分であるとしてこれを否定する見解もあるが,一般には解雇基準は規範的効力を持つ(注57)として,また,規範的効力を否定する見解も協議条項違反は重要な手続を遵守しなかったもので権利濫用になる(注58)として解雇の効力を否定してきた。事業組織変更に関する協議約款についても,協議を経ないことは,協約違反であると同時に,誠実交渉義務違反として不当労働行為を構成することになるから,当該事業組織変更がもたらす労働者の労働契約への影響(解雇や移籍,配置換え等の効力)に関してはその効力が否定されることになろう。これに対して,倒産時については,破産管理人は協約を解除できるとして,あるいは,「破産申立をした場合,当該会社は営業活動を停止し,従業員は全員解雇されることが予定されている」から「従業員の解雇に先立って事前協議の手続を踏まなければならない理由はない」として,「不当労働行為を構成しない」(注59)という考えもありうる。たしかに,破産原因があり全員解雇がやむをえないとされる実質的理由がある以上,協議義務違反によって解雇を無効とすることはできないが,破産管財人は使用者としての地位を承継する限りにおいて交渉義務を免れることはできないのであるから,一切協議に応じないことが不当労働行為を構成することがあるというべきである。
 再生手続や更生手続では,使用者も組合も存続するのが一般であるから,労働協約の締結当事者が消滅することで失効することはないし,債務者や管財人が労働協約を解約することは,明文で否定されている(民再法49条3項,会更法103条4項)。しかし,再建型倒産とはいえ,営業の全部譲渡によって経営主体が変更してしまう場合は,労働協約の存続の保障がない。営業譲渡法制にかかわる立法政策上の課題となる。
 なお,経営破綻の兆しが見えたときに労働組合が労働債権を確保するために労働協約を締結し,会社の重要資産の処分に関して労働組合の同意を得るものとした場合は,使用者がこれを無視して処分すれば法的責任を負うことになるが,破産管財人が処分することを否定することはできない。しかし,倒産時に解雇補償金を労働協約で締結した場合,一般に退職金も会社都合の場合の高率に設定されるが一般であるから,それが社会的常識に反するものでない限り,否認権行使(破産法72条)の対象になるとはいえないであろう(注60)。



 VII 倒産労働法の整備のために

 以上,倒産過程における労働法上の問題点を概観してきたが,最後に,倒産労働法についての今後の検討課題を再確認することで結びにかえたい。
 第1に,倒産法の整備にともない,再建型倒産が大きな比重をもってきた今日,倒産もまた企業組織再編の一手段として常態化しつつある。したがって,倒産をめぐる労働問題もまた,労働債権の確保という「後始末」の問題に限定されない広がりをもっているといえる。倒産処理過程には債務者会社のほか管財人や他の債権者,そして裁判所も登場するだけに,そこで発生する労働問題の解決には一般労働法とは異なる原理の働く倒産労働法の法的整備が求められている。
 一般論としていえば,清算型にあっては,基本的に労働債権の確保,したがって,他の債権者との金銭的な利害調整の問題が中心である。その際,他の債権者には中小零細企業や個人事業主も含まれていること,また,雇用形態の多様化によって,請負契約や委任契約で就労する契約労働者も増大していることを考えれば,労働債権保護の視野の拡大が求められることになる。他方,再建型にあっては,労働者保護は労働債権の保護よりも,実質的な雇用確保により重点が移る。企業の再建や営業譲渡を通して雇用の確保をはかるためには,迅速な処理,そして,ときには労働者側の一定の譲歩,つまり,通常時における労働者保護の「低下」が不可避にもなる。その限りで,労働者保護には多面的な配慮が必要となってくる。
 第2に,従来の倒産法制には,倒産手続における労働組合や従業員代表が十分に位置づけられていない。今回の倒産法制の見直し作業において労働組合等の一定の関与が認められつつあることは評価すべきであろうが,なお十分と言い難い。倒産手続においては,労働者に一定の不利益の甘受を求めることが不可避であるとすれば,労働組合等の協力が不可欠であり,倒産時の労使自治を高めることはむしろ迅速な処理の要請を満たすことでもある。ただし,その担保を従来のように一般団体交渉制度と不当労働行為制度に委ねるだけとすれば,普遍性や安定性を欠く。迅速な処理が肝要な倒産手続にあっては,集団的関与の方式を類型化しておくほうが望ましいであろう。
 第3に,倒産労働法の整備には,それが通常時の労働法理の「変形」である以上,通常時の法理が明確になっている必要がある。人員整理基準(対象者選定方法),営業譲渡(労働契約承継)の法理が明確でない限り,倒産労働法におけるそれらの法理の修正点も明確にならない。日本における倒産労働法の未発達は一般労働法の不備にも一因がある。その意味では一般労働法の整備もまた重要な課題である。


注 1)会社更生法改正要綱案に対して,日本労働弁護団は,営業譲渡に関して労働契約承継の規定を設けること,大規模裁判所の競合管轄規定の削除を求めている(2002年9月18日同要綱案意見書)。他方,経済団体連合会は,要綱試案の段階で,労働組合と使用者の関与には賛成しつつも,注記にあった関与の強化の検討には反対意見を述べている(2002年3月29日要綱試案コメント)。なお,同法は2002年12月6日に成立した。

注 2)1998年の倒産件数1万9171件のうち私的整理は1万6061件で85.8%を占める(帝国データバンク調べ,出所:通産省産政局「倒産法制研究会報告」(1999)資料)。上野久徳「私的整理の実情と問題点」新・実務民事訴訟講座13(1981)331頁以下は,昭和50年代前半の数字として法的整理が15%,残り85%のうち,責任者所在不明,資産なしで放置されている倒産企業を除くとその半数ないし3分の2が私的整理であるとする(333頁)。

注 3)ただし,破産手続でも営業継続の余地(破産法192条)はあり,再建型でも事業の継続を内容とする計画案が作成できなければ破産手続に移行することがあるし,特に,営業譲渡からみれば,営業の全部譲渡(民再法42条)によって抜け殻となった申立法人は清算手続をとることになるので,その区別は相対的である。

注 4)近時における文献としては,塚原英治「企業倒産と労働法」学会誌労働法98号(2001)123頁以下,同「企業倒産と労働者の権利」講座21世紀の労働法第4巻(2000)295頁以下,古川景一「企業再編法の全面的展開とその背景」季刊労働者の権利239号(2001)21頁以下。

注 5)労働債権の確保に関しては小西康之「企業倒産と労働債権の確保」法律論叢(明治大学)73巻4・5号299頁以下,森井利和「企業倒産と労働債権」労働判例768号(1999)7頁以下等参照。

注 6)英米独仏の労働債権の保護に関しては,有田謙司「倒産時における労働債権の保護(上)(中)(下)」世界の労働51巻(2001)3号34頁,6号52頁,11号12頁以下を参照。

注 7)法制審議会倒産法部会担当者素案によれば,「民事再生法と同様に,手続の各段階において関与することができる旨の規定を設けるものとする」としている。

注 8)高木新二郎・伊藤眞編『民事再生法実務』127頁。

注 9)高木・伊藤編・前掲書128頁。

注10)大景生コン事件・大阪高決平成7年7月7日判例タイムズ902号208頁。

注11)ドイツ経営組織法は,事業所の休廃止,移転,合併・分割等,事業組織改編に際しては,従業員代表機関に適時かつ包括的に情報を与えること,300人以上の事業所では従業員代表機関が助言者を招くことができる(111条)は,利益調整と社会計画を共同決定事項とする(112条2項)。

注12)伊藤眞『破産法(全訂第3版補訂版)』(2002)225頁以下参照。

注13)加藤哲夫『破産法(第3版)』171頁。

注14)本条により,たとえば専門的労働者(労基法14条)が3年の有期契約で働いているときでも,破産宣告を受けた場合は,解除(退職)することができることになる。

注15)小西國友「企業倒産時における労働組合等の活動」新・実務民事訴訟講座13(1981)287頁以下(299頁)。

注16)谷口安平「破産管財人と団体交渉」法学論叢124巻5・6号(1989)40頁以下は,「実質的労使関係は民法上も単に破産管財人との関係に切り替わったものと素直にとらえるのが最も事の本質に即した理解」とする(48頁)。

注17)労基法の解雇予告期間に関する定めが適用されることに関しては,破産法学を含めて争いがない。谷口安平『倒産処理法』(1976)193頁,霧島甲一『倒産法体系』(1990)405頁等。

注18)解約告知期間が勤続年数に応じて長くなるドイツ法のもとでは,倒産処理を迅速に進める観点から,倒産管財人による解雇について解約告知期間を3カ月に縮減する規定をおいている(独倒産法113条)。日本の予告期間が一律30日であることを考えれば排除すべき理由はないであろう。

注19)浅井運送事件・大阪地判平成11年11月17日労働判例786号56頁。

注20)前掲・浅井運送事件は,自己破産をして全員解雇した会社の役員を相手に損害賠償請求した事案である(否定)。

注21)民事再生手続に基づく営業譲渡の実情については,園尾隆司「民事再生手続と再生計画の実情と課題」NBL736号(2002)8頁以下,同「民事再生手続について」日弁連研究叢書『現代法律実務の諸問題平成12年版』(2001)371頁以下参照。平成12年以降の営業譲渡許可申請が22件(許可20件),計画案提出7件(認可5)で,裁判所許可による営業譲渡が圧倒的に多い。また,許可申立から許可までに要する日数は15日から20日である。

注22)営業譲渡に関しては,連合総研「企業組織等の再編に伴う労働者保護法制に関する調査研究報告書」(2000),中内哲「企業結合と労働契約関係」講座21世紀の労働法第4巻(2000)272頁以下,萬井隆令「企業再編リストラと法的諸問題」労働法律旬報1514号(2001)4頁等を参照。

注23)もちろん,労働組合員である等を理由に承継対象から除外されることがあるとすれば,不当労働行為として救済可能である。マルコ事件・奈良地裁葛城支決平成6年10月18日判例タイムズ881号151頁ほか参照。

注24)タジマヤ事件・大阪地判平成11年12月8日労働判例777号25頁は,譲渡会社の解雇を無効とした後,譲渡契約に従業員全員の承継意思を「推認」することで排除労働者を救済しているが,明示的排除があったときに対応することは困難であろう。

注25)EU事業移転指令については,前掲連合総研報告書本久論文,荒木尚志「ECにおける企業の合併・譲渡と労働法上の問題点」北村編『現代ヨーロッパ法の展望』(1998)所収等を参照。

注26)労働省「企業組織変更に係る労働関係法制等研究会報告」(2000年2月)および厚生労働省「企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会報告」(2002年8月)は,ともに立法措置を不要としている。

注27)EU法も1998年の改正において,倒産時には,労働契約の自動的承継を定めた第3条と,営業譲渡における解雇禁止を定めて第4条を適用しないことにした(第4条a1項)。

注28)ドイツ法では,管財人が労働裁判所の同意を得ることで営業譲渡を実施できるのは,交渉開始後3週間経っても管財人と従業員代表が合意できないときである(独倒産法122条)。労使間の合意形成と迅速性の確保との均衡のはかり方として参考に値しよう。

注29)宝塚映像事件・神戸地裁伊丹支決昭和59年10月3日労働判例441号27頁。

注30)日進工機事件・奈良地決平成11年1月11日労経速1698号26頁。

注31)池貝事件・横浜地判平成12年12月14日労判802号27頁。

注32)日魯造船事件・仙台地判平成2年10月15日労民集41巻5号846頁。

注33)幸福銀行事件・大阪地判平成10年4月13日労働判例744号54頁以下は,1998年成立の金融再生法のもとで破綻処理を進めていた銀行が,元従業員に月額1.5万円から4万円の退職年金の支給を打ち切った事案において,金融再生法による費用最小化の要請は,「公的資金投入を最小限に抑えるために,不必要な資金流出を抑制するという破綻処理の一般原則を述べたものにすぎず,すでに具体的に発生し,破綻した金融機関が現に支払義務を負うに至っている預金債権以外の負債について,当該金融機関において一方的にその負担を免れる権限を認めたものではない」から,当該債務を免れるには,「実体的要件及び手続的要件を満たす必要」があるとして否定した。

注34)尾林芳匡「労働条件引き下げのための子会社への営業譲渡」季刊労働者の権利238号(2001)14頁以下参照。

注35)広島第1交通事件・広島地決平成10年5月22日労働判例751号79頁。

注36)EU事業移転指令も,移転元で倒産手続が開始された場合には,雇用機会を確保するために,例外的に労働条件の変更を行う合意を可能にしている(第4条a2項)。

注37)霧島甲一・前掲書400頁。上野久徳『倒産処理と労働問題』(1977)28頁。

注38)宮本光男「取引先の倒産と労働問題(1)」NBL280号(1988)10頁以下。

注39)渡辺徹「破産と雇用契約」金融・商事判例別冊2号(1980)147頁。

注40)伊藤眞・前掲書259頁。

注41)谷口安平・前掲論文48頁。

注42)不当労働行為における使用者概念を広く理解する労働法学では異論のないところであろう。古西信夫「倒産会社における不当労働行為の諸問題」中央労働時報709号2頁,713号2頁(1984)以下,宮島尚史「倒産における労働基本権の各論的課題について」学習院大学法学年報23号(1988)185頁以下。

注43)田中機械事件・大阪地労委昭和59年9月14日労働判例439号91頁。

注44)池田電機事件・徳島地判平成元年3月22日労働判例546号56頁。同旨,中央洋書事件・東京地判平成12年5月12日労働判例792号129頁。

注45)前掲・中央洋書事件東京地判。

注46)誠光社事件・大阪地判平成9年10月29日労働判例727号18頁。

注47)布施自動車教習所・長尾商店事件・大阪高判昭和59年3月30日労働判例438号53頁。

注48)平和台病院事件・神戸地判昭和49年4月22日労働判例201号68頁。

注49)事業の再開命令はなしえず,清算手続中の原職復帰と賃金命令を命じうるにとどまる。菅野和夫『労働法第5版』(1999)678頁。

注50)盛岡市農協事件・盛岡地判昭和60年7月26日労働判例461号50頁以下は,企業存続中は無効とされながら,「全労働者を対象とする企業解散の場合は一転して適法・有効となるのは極めて倒錯した理論」という。

注51)前掲・誠光社事件大阪地判は,不当労働行為は,「企業の存続を当然の前提」にするから「その前提が消滅する会社破産の場合まで労働組合の団結権を保護する理由はな」く,破産申立は「原則として労組法7条の不当労働行為」にならないとしつつも,「労働組合の壊滅を唯一の目的としてなされた場合」には不当労働行為が成立する余地を認める。同旨,大阪地判平成10年4月20日労働判例741号44頁。

注52)江原鍍金事件・東京高判昭和57年11月30日判例時報1063号184頁は,破産申立に事前協議約定があったときにこれに反することは債務不履行となることは格別,破産申立を違法無効とはいえないとする。

注53)解散決議を無効としたものに盛岡市農協事件・盛岡地判昭和60年7月26日労働判例461号50頁。

注54)前掲・盛岡市農協事件・盛岡地判。

注55)船井電機事件・徳島地判昭和50年7月23日労働判例232号24頁,中本商事事件・神戸地判昭和54年9月21日労働判例328号47頁。

注56)伊藤眞・前掲書262頁,霧島・前掲書404頁。谷口・前掲書194頁。

注57)西谷敏『労働組合法』339頁ほか。

注58)菅野和夫・前掲書553頁ほか。

注59)前掲・誠光社事件・大阪地判。倒産時には協約に解雇制限条項があっても管財人は拘束されず解雇できるとするものとして加藤・前掲書177頁。

注60)この点については,宮本・前掲論文(4)NBL283号37頁以下等も参照。


 けづか・かつとし 専修大学法学部教授。主な著書に『個別労働紛争処理システムの国際比較』(共著,日本労働研究機構,2002年)など。労働法専攻。