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(著者抄録)
倒産により職を失った者は、選別されることなく無差別に市場に放出される点で他の転職者とは異なる。見方を変えれば、倒産による失職者の再就職状況を観察することで、通常の転職者が“レモン”であるかどうかを検証することが可能となる。そこで、本稿ではある大手証券会社の従業員データをもとに倒産後の経過をたどった。特に近年、倒産が大型化している点にも注目し大企業の倒産を取り上げた。分析の結果、再就職において50歳以上は他の年齢層に比べて不利であるが、40歳代は必ずしも不利ではないことがわかった。また、部署および職種間でも再就職の傾向が大きく異なっていることも明らかになった。かれらの再就職には、市場で必要とされる技能を持っているかどうかが重要であって年齢が大きな壁になったわけではないことが明らかになった。
(論文目次)
I 序論
II 先行研究と本稿の課題
III データと基本的分析
IV 分析結果
  1 本社部門
  2 営業支店
V 結語

 I 序論

 本稿では,ある大手証券会社の従業員データを使用し,倒産後の再就職状況に関する分析を行う。倒産や廃業は重要な経済現象の一つであるにもかかわらず,データが未整備であったこともあり,分析があまりなされてこなかった。特に,倒産後の従業員の再就職を扱った研究は少ない。
 失敗を未来に生かすためには,経験を整理し学び取るべきことを抽出しておく必要がある。特に,本稿の事例は戦後日本の倒産のなかでも注目を浴びたものであり,分析がなされておくべき事例である。倒産により突然市場に投げ出された従業員やその家族が背負った苦労を無駄にしないためにも必要な作業と思われる。
 倒産・廃業は必ずしも常に否定的にとらえるべきものではなく,産業の新陳代謝のためには必要であるとの意見もある。労働者にとってみれば,倒産・廃業により負うことになる経済的負担の大きさにより判断が分かれよう。次の仕事への円滑な移行が可能であるかどうかが重要で,これまでよりも好条件でかつより適性の生かせる職への速やかな転身が可能であれば必ずしも全面的に否定されるものでないかもしれない(注1)。しかし,それにともなう困難が多大であれば,個人も社会も大きな負担を抱えることになる。この点からも,倒産後の再就職過程をみておく必要があり,本研究もそこに焦点を当て分析をすすめる。
 それは単に失敗の研究が必要であるというだけにとどまらない。市場を観察するとき,当然目にとまるのは存続している企業ばかりである。市場から撤退してしまった企業は視界に入らないために,それらが抱えた困難や問題など負の部分を意識できないことになる。結果,人々は開業や企業成長に関して上方にバイアスされた期待を抱くことになる。この期待の補正を行うには,倒産や廃業により市場から消え去る確率とそれにより生じる負担の大きさを把握しておく必要がある。
 さらに,倒産による失職者の分析は再雇用の側面においても統計的に特別な意味を持つ。これまで倒産と雇用調整・解雇等を統計的に区別せず会社都合による離職として同一のカテゴリーで扱い分析されてきた。しかし,市場に放出される労働者の質に関して両者には大きな違いがある可能性がある。Gibbons and Katz(1991)が指摘するように,解雇は会社側の都合を何らかの形で反映し選別された人材が市場に放出されるが,倒産は経営に深くかかわっていない従業員に関する限り,良い人材も悪い人材も一挙に労働市場に投げ出される。前者の場合,中途採用をおこなおうとする企業側からみて,市場で新たな仕事を探している者は彼の前職での仕事内容や勤務態度等の詳細な情報が入手できない限り,能力や質が普通よりも劣る者たち,すなわち“レモン”である可能性を否定できない(注2)。当然,企業はこのことを考慮して採用を決定するであろうから,再雇用の結果も選別を受けたという事実を反映したものになる。ある属性を持った労働者,たとえば中高年者の再就職が難しいという場合,中高年であるために再就職しにくいのか,それとも中高年で離職する者は適性や能力が低い傾向にありその結果再就職が難しいのか判別できない。
 しかし,会社が倒産した場合は能力に関係なく失職する。かれらを雇用しようとする企業は個別の労働者に対する詳細な情報がなくても倒産した企業が雇用していた従業員の平均的な質を期待できる。したがって,倒産企業で雇用されていた中高年の能力が平均して高ければ,かれらが次の職を探すうえで他の年齢の者に比べて苦労するということはないはずである。すなわち,倒産による労働者の市場への無差別な放出は,どのような者であれば企業が再吸収する可能性が高いかを探る社会的な実験でもある。
 本稿では大企業の倒産事例を取り上げる。最近の倒産の特徴は,大型化にある。今回の長引く不況のもと倒産や廃業がこれまで以上に注目を浴びているが,実は廃業率や倒産件数が増えているわけではない。図1が示すように,廃業率は多少の上下があるものの長期的な視点から見ると大きな変動はない。図2は倒産件数と負債総額の変化をおったものである。倒産件数はバブル期と比べて決して多いわけではない。しかし,負債額をみると過去数年間際立って大きくなっていることがわかる。同様のことは,従業員規模別倒産件数の変化を表した図3からもわかる。規模別に1995年倒産件数を100としその後の変化をおった場合,規模の大きなところほど数が増えていることがわかる。5人未満では6年間で1.12倍,50-299人で1.92倍,300人以上では7.5倍に増えている。

図1 開廃業率の推移

図2 倒産件数および負債総額の推移

図3 従業員規模別倒産件数の変化

 倒産や廃業の件数は小規模ほど多く,2001年時点で5人未満が全件数の50%,10人未満では74.4%を占める。300人以上の倒産は,そもそも件数が少なく45件,全体の0.2%しか占めない。しかし,件数が少なくても大規模倒産が労働市場に与える衝撃は大きい。300人以上のカテゴリーの企業が1件倒産すると,5人未満のカテゴリーの企業が1件倒産する場合の最低60倍の失業者を出すことになる。
 また,大規模企業の倒産は,比較的良好な職場を提供してきた企業の撤退が進んでいること,そしてそこで雇用をされていた者の失職を意味している点でも新しい問題である。かれら質の高い労働力がどのように再雇用され,新たに手に入れた職場でどのように能力を生かしているのかを調べておく必要がある。
 これらの点を考慮しつつ以下分析を進める。つづくIIは,先行研究を簡単に展望し,本研究の位置付けをおこなうとともに研究課題をより明確に説明する。IIIでは,使用するデータを説明する。IVでは,基本的分析により再就職の傾向を観察し,その後より精度の高い分析をおこなうことでそれを確認する。Vはまとめである。



 II 先行研究と本稿の課題

 ここ数年経済状況を反映して転職に関する研究が数多く公表されるようになった(注3)。最近の研究の特徴は,転職における技能の継続性の役割に焦点を当てていることにある。一般に転職した場合よりよい雇用を見つけるのは困難であるといわれているが,勇上(2002)は,中高年における転職による賃金減少を確認する一方で,中途採用者と生え抜きを比較した場合,前者の賃金が高いことを示した。特に,前職と同職種についた中途採用者の場合その傾向が強く,中高年であっても前職で蓄積された技能が生かせれば転職による経済的損失をある程度抑えられる可能性を示した(注4)。また,大橋・中村(2002)は,前向きな離職においてはベネフィットが大きいこと,技術・開発と営業は職種特殊熟練が相対的に大きく同一職種内の転職が有利であることを示している。
 一方,倒産によって引き起こされた転職を経済学的に扱った実証分析は極めて限られている。これまでおこなわれた研究は,廃業による雇用の喪失およびその傾向を把握しようとしたものが主である。Davis and Haltiwanger(1992)によって開拓された雇用の創出・喪失分析はGenda(1998)によって日本に応用された。その後,照山・玄田(2002)は雇用の全創出・喪失を存続事業所による部分と開廃による部分にわけ分析をおこなっている。ただし,廃業による喪失だけを取り出した議論はおこなわれていない。
 太田・玄田(1999)は,『求職状況実態調査』において「事業所の閉鎖や会社倒産,自営業の廃業」が失職理由として特定されている点に注目し,この理由によるものが全体の失業者のほぼ1割をしめており,35-54歳層では,離職失業者50万人のうち10万人,さらにそのうち被雇用者であった者が8割以上をしめることを示し問題の大きさを示した。しかし,これらは創出・喪失の傾向を示したものの,利用可能なデータが従業員の属性などの情報を十分に含んでいないためにそれを生み出す要因の分析が課題として残された。
 松繁(2002a)は企業存廃を決定する要因と廃業による喪失を分析している。主眼は企業および社長の属性と企業存廃の関係を見ることにおかれているが,どのような企業が倒産しやすく,それによりどのような就業者が失職する傾向にあるかを性別・就業形態別に創出・喪失を観察することで明らかにしている。さらに,松繁(2002b)では女性起業家を対象に,開業理由が「倒産による失職」であった場合,企業業績や雇用に差があることを調べている。しかし,「倒産による失職」者が開業する場合を取り扱っているにすぎず,雇用者として再就職する過程は分析されていない。また,これら二つの研究は極めて小規模な企業を対象としたアンケートを利用しており,大規模倒産によって起きる再就職の問題は未着手のままである。
 先述の転職に関する研究が示しているように転職理由が結果に影響するとすれば,倒産の場合は他と異なる再就職傾向を示す可能性がある。様々な質の従業員が同時かつ無差別に市場に放出された場合,企業に再吸収される可能性の高いのはどのようなグループであろうか。特に,再就職が困難であるといわれる中高年層で違った現象が観察されるのか。また,大橋・中村(2002)が明らかにした職種が再就職の結果に大きく影響をおよぼす事実が倒産の場合も確認されるであろうか。本稿では,これらの点を考慮して分析を進める。
 くわえて,これまで金融業を取り扱った研究は少ない。本稿でおこなう証券会社の分析は,これまでにない情報を提供するという意味でもいくばくかの貢献ができるのではないかと思われる。



 III データと基本的分析

 使用するデータは,1997年に倒産(自主廃業)(注5)した証券会社の元社員の再就職先リストである。この会社は創業100年の歴史を持っており従業員約8000人,本社支店数100以上という業界はもとより日本を代表する企業であった。再就職先リストは,倒産後1年半近く経過した時期のものであり,倒産当初の再就職行動の結果をある程度反映していると思われる(注6)。
 このデータの特徴は,特定の倒産した証券会社の元従業員のみを対象としているがゆえに労働市場への放出元が一定,すなわち企業属性がコントロールされている点にある。このため,従業員属性の差のみによって再就職状況や再就職先の差を測ることができる。
 再就職先の業種は17区分(米国大手外資系証券A社,国内証券,外資系証券,都市銀行,地方銀行,信託銀行,その他銀行,生保,損保,投資顧問,ノンバンク,情報・ソフト,サービス業,製造業,その他の就業,不明,未就職)されているが,そのままでは細かすぎ就職先の傾向を統計的に把握しがたいので,米国大手外資系証券A社(以下,米系証券A社),国内外証券,その他金融,サービス・製造業,不明,未就職の6分類にわける。
 年齢に関しては,データの性格上,個人の特定化が可能になる危険性を極力避けるという理由で,20歳代,30歳代,40歳代,50歳代,60歳代の区分でしか入手できなかった。このうち60歳代は全体の数%しかしめず,独立したカテゴリー変数として統計分析にかけることができない場合には50歳代と60歳代をまとめ50歳以上とした。従業員構成は,表1に示されるように,20歳代と30歳代が多い。

表1 従業員構成

 データは本社部門と営業支店の二つから構成され,従業員構成比は32.4%と67.6%となっている。本社従業員に関しては倒産時存在した76部署のいずれに配属されていたかがわかる。しかし,121存在した支店は一括して営業支店として区分されており,仕事の詳細な内容はわからない。ただし,それぞれの名称から所在都道府県を把握することは可能である。このようなデータの違いを考慮し,以下,本社と営業支店を別々に分析する。
 この企業は倒産後すぐに米系証券A社に一部を買い取られ,支店の多くはそのまま引き継がれた。A社は,これにより一挙に日本国内の営業網を獲得することを狙った。しかし,本社機能に代わるものは日本ですでに存在しており,倒産会社の本社を引き継ぐということはしなかった。したがって,本社に勤めていたものと営業支店で働いていた者とは再就職過程が大きく異なる。
 また,本社は東京を中心に大阪と名古屋に一部機能を分散しているだけなので,地域特性を大都市圏にコントロールすることが可能であり,部門・職種など従業員属性の差の効果に焦点をあてることができる。一方,営業支店にいたにもかかわらずA社に引き取られなかった者の就業機会は,本社から送られた者等を除くと,地域の特性に大きく左右されると思われる。しかし,業務の内容に関してはある程度同一であった可能性があり,地域差をコントロールできれば,職務内容を特定したうえで年齢が生み出す影響のみを取り出して測定できる。ただし,性別に関する情報が欠けているという欠陥がある。



 IV 分析結果

 この節では,具体的に再就職状況を把握する。前半は,本社部門を対象に基本的傾向を観察し,その後より精緻な解析をおこなう。後半は,営業支店を対象に同様の作業をすすめる。

 1 本社部門

 まず,本社部門の再就職状況を分析してみよう。年齢別に就職先の違いをみてみよう。結果は図4に示している。まず,1年半経過した時点で,全体で76.7%(不明を除くと87.6%)の者が再就職を果たしていることがわかる。50歳以上では60.2%(不明を除くと77.0%)と低いが,20歳代,30歳代,40歳代の再就職率はそれぞれ,73.5%,82.4%,87.4%(不明を除くと87.7%,90.4%,94.9%)と年齢とともに上昇する。ただし,不明者のうちにはすでに就職している者や非労働力化している者がいると考えられる。また,未就職のなかにも非労働力化している者がいる可能性があることを考えると,再就職を希望しているがそれが果たせていない者の割合はさらに小さくなる。

図4 本社,年齢別就職先分布

 また,金融業への転職が多いこともわかる。米系証券A社に引き取られた者も勘定すると,不明・未就職を含めた全体のなかで44.7%,年齢別にみると,20歳代,30歳代,40歳代,50歳以上それぞれの42.4%,56.2%,46.6%,25.5%の者が金融業に再就職している。年齢とともに金融産業で生かしやすい技能が蓄積されている可能性がある。また,40歳代までは国内外証券への転職が多いこともわかる。
 次に,本社部署別に再就職状況をみてみたい。職種間で差が見られるかどうかが,ここでの関心事である。従業員数の少ない部署があること,また部署名は異なるが職務が似ている部署があること等を考え,76部署をいくつかのカテゴリーに分類し,かつ職務の特徴をつかみやすいカテゴリーを選ぶと,企業開発部(40名),債券部(150名),エクイティ部(198名),資本市場部(201名),事業法人部(177名),企業部(126名),投資部(85名),金融法人部(58名),企画部(85名),総務部(100名),国際部(279名)となる(注7)。
 まず,これらの部の特徴をみておこう。企業開発部はM&Aを担当し特殊な知識を必要とする部門である。産業構造の変化が起き,M&Aが活発になっている状況では,ノウハウを習得した人材の需要は大きいと思われる。
 債券部,エクイティ部,投資部は金融専門家集団である。債券部は円貨債券ならびに内外の債券にかかわる先物およびオプションの取引に関する業務を所管する部署である。エクイティ部は,株式および株式にかかわる先物,オプションの取引に関する業務を所管する部署である。投資部はファンドマネージメントをおこなう部署であり,所属する者はファンドマネージャーとしての具体的な金融専門能力が必要とされる。
 事業法人部,企業部は,上場事業法人に対する代表窓口業務で,資金調達や運用のアドバイス,および財務戦略に関する提案をおこなう部署である。資本市場部も同様に,国内企業の内外でのファイナンスおよび海外で発行される公共債に関する引受業務をおこなう部門である。これらは他の企業との接点が多い。
 その他,金融法人部は,都市銀行をはじめ金融機関の資金運用の業務をおこなっている部署で取り扱う総資産額も多い。当然,国内金融機関との接触も多い。企画部は,証券界に限らず企業の中枢的な部署であり,場合によっては企業機密を握っており企業特殊的な要因が強い。総務部は,他の企業と大きく変わらない。したがって,金融に関する高度な専門的知識が必要とされる部門ではない。国際部は,海外事業を担当する部署であり,当然金融専門能力以外に語学力が必要となる。
 図5から,明らかなように部門間で再就職比率,再就職先の両方に関して大きな違いが観察される。M&Aを担当する企業開発部は全員が再就職しており,かつ,ほとんどが国内外の証券会社に就職している。また,金融専門的知識を必要とする部門である債券部,エクイティ部,投資部は金融機関に多く移っている。一方,企業との取引が多い事業法人部,企業部,資本市場部は金融機関以外へ再就職した者の比率が他の部署に比べて高い。ただし,企業部は不明・未就職が多く,資本市場部は国内外証券への就職が比較的多い。金融法人部は,事業法人部,企業部,資本市場部にくらべ証券以外の金融機関へ再就職する傾向がみられる。一方,企画部と総務部は間接部門として事業を引き継いだ米国外資系証券にかなりの者が引き取られたことがわかる。全体的傾向として,M&Aの特別な知識を身につけた企業開発部,金融知識を身につけた債券部,エクイティ部,投資部,語学力を生かせる国際部など専門的知識を身につけた部門の再就職率が高いことがわかる。

図5 本社部署別再就職先構成比

 以上の基本的な分析は就職状況を年齢のみ,または部署(職種)のみで説明したものであり,多変量解析をおこなっても同様のことが言えるかどうかを確認しておく必要がある。
 推定の手順は図6に示している。先にも述べたように,自主廃業が決定した後に米系証券A社が地方営業支店を引き継ぐことになった。このため,まず従業員は引受けの対象となった支店や部署でそのまま新たな会社で働くことになった者とそうでない者に2分割される。この段階での採用・不採用には,米系証券A社側の戦略が色濃く反映されるために,通常労働市場で再就職する場合と条件が大きく異なる。また,他の就職先を探した者はともかくこの第1段階で選別されなかった者であることから,その後の分析はこの第1段階での選別を受けたことを考慮しておこなわなければならない。

図6 再就職の構造

 次の問題は,再就職が可能であったかどうかである。この段階で,対象を就職,未就職,不明に3分類することが可能であるが,残念ながら不明は,再就職している者,未就職の者,非労働力化した者すべてを含む可能性がありその内訳がわからない。そこで,以後,不明を除いて分析をおこなうことにする(注8)。
 表2は,ここまでの過程を分析した結果である。下段は,「米系証券A社に移らなかった」1と「移った」0とのどちらになったかを決定した要因を示しており,上段は,「移らなかった」者だけを対象に「再就職可能であった場合」を1,「未就職の場合」を0とおいた変数を非説明変数とし,下段の選別を考慮したうえでProbit分析をおこなった結果を示している。

表2 本社従業員,再就職・未就職を決定する要因

 まず,下段の結果から見てみよう。米系証券A社により多く移ったグループは,負で有意の係数を持つものである。まず,女性は男性に比べて採用されたことがわかる。さらに,20歳代を基準にとって年齢ダミーを入れた結果を見ると,30歳,40歳代は負となり20歳代よりも採用された確率が高いことがわかる。60歳代も有意に負の係数を持っている(注9)。また,部署に関しては債券部や資本市場部が正で有意となっている。一方,企画部や総務部などが負で有意となっており,A社はこれらの間接業務を引き継いだことがわかる。これは,引き継いだ支店の従業員管理等のために必要であったと思われる。
 次に,再就職の決定要因を見てみよう。ここでは,再就職した者を1としているので,正で有意な係数を持つ変数が,再就職を促す要因であることになる。結果は,下段とは大きく異なる。まず,女性は負の結果を持つ。未就職は,仕事を探しているが見つからない者と非労働力化した者の両方を含む。米系証券に引き継がれなかった女性の多くは非労働力化した可能性があるが,残念ながらここではそれを確かめることはできない。年齢は,30歳代と50歳代以上の係数が負で有意である。40歳代は負ではあるものの有意ではない。必ずしも年齢を重ねるほど再就職に不利になるわけではない。部署に関しては,下段とは逆の傾向が見える。企業開発部,債券部,エクイティ部,投資部,事業法人部,資本市場部など対企業業務部門が再就職に有利であったことがわかる。また,国際部も有利であった。
 次に,再就職先産業に影響を与える要因を分析しよう。証券業,またそれに近い業界に再就職した場合のほうがこれまで養った技能を活用できると思われる。入手したデータは,再就職先を,先の米系証券A社以外の国内外証券,その他金融業,金融業以外の産業に分類してあるので,この順に仕事の同質性が高いと判断し,Ordered Probit分析をおこなう(注10)。ただし,米系証券A社に就職した者,また,A社には就職せずかつ未就職の者が存在するために,再就職者だけを分析すればサンプル・セレクション・バイアスの問題が生じる。これに対処するために,表2の分析結果をもとに逆ミル比を計算しそれを変数として用いることで補正をおこなう(注11)。
 推定結果は,表3に示している。(I)は,これまでと同様に作成したすべての部門変数を使用した分析結果であり,(II)はAkaike情報基準をもとに変数を絞った結果である。(II)の結果を中心に見てみよう。まず,女性は同業種への就職に有利であったことがわかる。年齢は,30歳代が正で有意であることから同業種に就職する可能性が高いことがわかる。40歳代の係数は負ではあるが有意ではなく,就職先に関する限り20歳代と差があるとは統計的には断定できない。一方,50歳以上が正で有意になる。したがって,より技能が生かせる仕事に再就職するために,年齢が大きな問題となっているとはいえない。

表3 本社従業員,同業種への再就職

 部署に関しては,企業開発部,債券部と企画部が正で有意である。企業開発のようにM&Aという特別な技能・知識をもった者,また債券部のように対企業業務を行い他社との関係があった者が同業種に再就職していった可能性が高い。

 2 営業支店

 本社でおこなったと同様の分析を,営業支店のデータに関してもおこなってみよう。ただし,先述のように,性別ダミーが取れない点と部署が一括して営業支店として区分されているがゆえに,仕事の中身に関する情報がない。
 図7は,年齢階層別に再就職先の割合を示したものである。明らかなように,20歳代に比べて30歳代,40歳代が再就職,特に証券や金融部門への再就職に不利であったとはいえない。一方,50歳以上は明らかに未就職率が高く,同業種への再就職率も低くなっている。

図7 営業支店,年齢別再就職先構成比

 このことをより精緻な分析によって確認しよう。表4は,先の本社の場合と同様に,米系証券A社に引き取られなかったという条件のもとで再就職が可能であったかどうかを分析した結果を示している。下段の結果から,20歳代よりも30歳代と40歳代が相対的にA社に引き取られた確率が高い。ただし,50歳代は不利であったことがわかる。再就職に関しては,20歳代を基準にとると,30歳代が不利であるが40歳代はそうではない。また,50歳以上の係数は負であるが有意ではない。したがって,一概に年齢が高いほど再就職が難しかったと結論づけることはできない。ただし,性が区別されていないことから,もし20歳代の女性が多く存在したとすれば,彼女らが非労働力化したことによって20歳代の再就職確率をさげた可能性がある。

表4 営業支店従業員の再就職・未就職を決定する要因

 また,表5は,同業種への再就職傾向をOrdered Probit分析を応用して測った結果である(注12)。一目して明らかなように,同業種への就職可能性は20歳代が最も低い。また,30歳代の係数より40歳代の係数が大きく,後者のほうがこれまでの経験を生かせるような業種に再就職をしている可能性が高い。50歳以上の係数は40歳代の係数より小さくなるが,30歳代のそれよりも依然大きい。

表5 営業支店従業員の同業種への再就職

 これは,中高年の再就職が厳しいと一般に言われてきたことと異なる。過去の研究において転職の分析は,倒産による離職者とそれ以外のものを区別せずに行われた。そのために,雇用削減などで離職した中高年は,すでに離職段階で何らかの選別を受けており再雇用しにくい何らかの属性を持っている,または会社都合で離職したという情報そのものが不利に作用しているかもしれず,結果はそれを強く反映していた可能性がある。



 V 結語

 本稿では,倒産により失職した者たちの再就職を観察した。かれらは,本来ならば会社で働きつづけることが可能であり,転職意志がなかったにもかかわらず職を失った。この点において,他の転職者とは再就職の結果が異なる可能性がある点に注目した。特に近年,規模の大きな倒産が増加していることや金融の抱える問題が現在の不況の一因となっていることを考え,戦後の代表的な大手証券会社の倒産の事例を取り上げた。
 分析は,倒産後の経緯を考慮し本社と営業支店に分けておこなわれた。それにより,まず,40歳代までに関しては,再就職における年齢の影響が強く確認されなかった。逆に40歳代のほうが他よりも再就職の可能性が高い場合も観察された。次に,部署および職種間でも再就職の傾向が大きく異なっていることが明らかになった。対企業業務をおこなっている部署や専門性を必要とする部署に勤めていた者は同業種への再就職が比較的容易であった。以上の結果は,再就職には年齢よりもむしろ市場で必要とされる技能を持っているかどうかが重要であることを示唆する。特に,年齢が再就職の壁にならない点はこれまでの転職の分析とは異なっており,労働市場の吸収力を考える場合に重要な意味を持つと思われる。
 ただし,本稿の分析にはいくつかの限界がある。まず,分析の対象が1企業に限られている。ここでの結果は,当該企業や産業および当時の経済環境においてのみ観察される事象かもしれず,他の場合にも研究が広げられる必要がある。ただし,冒頭にも述べたように,そもそも倒産や廃業を正確に観察できる良質のデータを入手することが困難である。また,一部の例外を除いて,雇用や就業に関する統計においては倒産および廃業による離職を他の種類の離職から独立に取り出すことができない。統計の整備が急がれる分野である。
 さらに,先行研究や本稿の分析結果は,職種やそこで身に付けた技能によって再就職の可能性が大きく異なることを示唆している。今後,より詳細に前職での仕事内容を把握し,再就職や転職の分析がなされる必要がある。
 今回使用されたデータそのものにも,情報の欠落がある。たとえば,賃金等の重要な情報がない。大きな賃金の減少を受け入れた結果,再就職が可能であったのかもしれない。出費がかさむ年齢層では,家計上の問題から不満足であっても仕方なく新しい仕事につくことを余儀なくされた可能性もある。これらの問題を明らかにするには,倒産前の賃金や昇進に関する情報と再就職後のそれらの情報と家計の状態に関する情報を入手することが必要となる。この点も,今後の課題である。
 くわえて,本稿の結果は聞き取り調査によって再確認される必要がある。統計分析は一般的な傾向を把握しているにすぎない。再就職において実際に参考になるような事実を発掘するには,いっそう精緻な情報を入手することが求められる。そのためには,個々人のそれまでのキャリアと再就職後の経過を聞き取るなどの作業が不可欠であり,今後おこなわれなければならない研究課題として残されている。

* 本稿を作成するにあたり,対象企業の人事部を始め多くの関係者から多大な協力を得ることができた。論文には書き尽くせなかったが,元従業員とその家族や自主廃業後の処理を引き受けた方々から貴重なお話をうかがう機会があった。それらの経験を記録し,将来に生かしていく作業が今後とも必要である。本研究が社会に何らかの貢献をなしえ,皆様の苦労と努力に報いることができればと願う。


注 1)中村(2002)は転職理由を詳細に区別し分析をおこない,転職により「仕事内容・職種」や「給与・賞与」等の不満が解消されることがあることを議論している。

注 2)この問題はAkerlof(1970)により指摘された。

注 3)転職による満足や賃金の変化を取り扱った代表的なものとしてAkerlof, Rose and Yellen(1988)の研究がある。また,日本では黒澤(2002)が同様の視点で分析をおこなっている。

注 4)産業や職種に関する技能の特殊性に関しては久本(1999)において議論されている。

注 5)厳密には倒産と自主廃業は異なるが,本稿の課題はそれらによる失業後の再就職に関する全体的傾向を探ることにあり,両者の差異は大きな問題ではないと思われる。以下では,倒産という言葉を使用する。

注 6)直接または間接的に入手した情報によると,その後かなりの者が再転職をしているが,残念ながらこのデータはそれらの情報は含んでいない。

注 7)分析対象となっている証券会社に長年勤務していた者によって分類がおこなわれた。

注 8)彼らを含んだ分析をおこなっても,本稿での主な論点に関する結果は大きく変わらない。

注 9)他の分析では,60歳代は数が極めて少ないために50歳代以上にまとめている。唯一ここだけで独立した変数として扱うことが可能である。

注10)未就職を含めたmulti-nominal logit分析もおこなった。係数の示すところはほとんど同じであるが,independence of irrelevant alternatives(IIA)の特性を満たさない。

注11)サンプル・セレクションを考えることにより,推定式の撹乱項はheteroscedasticityの問題を持つことになる。これを考慮し,Huber/White/sandwich分散推定量を使用した推定をおこなった(White(1980))。本来であれば最大推定法をもちいるべきであるが,ここでは,試みていない。

注12)multi-nominal logit分析に関しては,先の本社の場合と同じである。また,Huber/White/sandwich分散推定量を使用した点も同様である。


参考文献

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 まつしげ・ひさかず 大阪大学大学院国際公共政策研究科助教授。主な著書に,『マイクロビジネスの経済分析』(共著)東大出版会(2002年)など。労働経済学専攻。