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(著者抄録)
この小論は、雇用不安のもとで個人はどのように職業能力を育成すればいいのかを検討することを目的としている。バブル崩壊後の長期不況の中で、期間の定めのない雇用機会が減少し、雇用の安定性が失われてきた。雇用が安定していた時代は、企業側の要請に合わせて社内異動を重ねていくことで一定の能力を獲得し、その企業の中で自らの能力を活かせる場をみつけることができた。しかし、個人が一つの会社に長く勤めることを希望しても、会社側の事情でそれがかなわなくなる場合が増えてきた。そのような状況下では、複数の企業で働きながら自らの能力を高めていく必要がある。この小論では、分析の枠組みとして、能力開発の基本であるOJTとOff-JTの性質を考察し、両者が効果を発揮するにはどういった点に留意する必要があるのかを整理した。そして、その枠組みにしたがって既存の質問票調査の結果を分析し、現在の日本企業において企業側と従業員側が職業能力の育成についてどのような考え方を持ち、どのようなことが実践されているのかをまとめた。その上で、中途採用の面接で使われる質問項目の分析を通して他社でも通用する能力の内実を整理し、効果的な能力育成のためには現在担当している仕事をしっかりやることが最も重要であることを述べた。また、能力開発の自己管理にとって必要なのは、OJTとOff-JTそれぞれに対して主体性を持って取り組むことである点も指摘した。
(論文目次)
I はじめに-この小論の目的
II 分析の枠組み-実務経験、座学、エンプロイアビリティ
  1 実務経験と座学の組合わせ方
  2 OJTの分析視点:同一企業内か複数企業でのキャリア形成か
  3 Off-JTの分析視点:場所、内容、目的意識、期間
  4 他社に移っても通用する能力(エンプロイアビリティ)
III 職業能力育成に関する企業と個人の考え方
  1 二つの調査
  2 能力開発に対する考え方
    (1) 能力開発の主体
    (2) 選抜教育と底上げ教育
  3 OJTの効果的な進め方
    (1) 他社経験の有効性
    (2) 上長の指導と能力育成
    (3) 従業員の主体性
  4 Off-JTの効果的な進め方
    (1) 社内研修と社外機関による研修の優劣
    (2) 教育訓練内容
    (3) 目的意識
    (4) 研修の時間的長さ
IV 他社でも通用する能力の育成に向けて
  (1) 中途採用の面接で聞かれること
  (2) 現在の仕事の価値を高める
  (3) 能力育成の自己管理
参考文献

I はじめに――この小論の目的

 この小論の目的は,雇用不安のもとで個人はどのように職業能力を育成すればいいのかを検討することである。この点に注目する理由は二つある。一つは,65歳まで第一線で働き続けられる能力を維持する必要性が高まっているからであり,他の一つは,能力育成の自己管理の重要性が強く意識されるようになってきたからである。
 人口構成高齢化の進展とともに,2001年から公的年金の支給開始年齢が65歳に向けて上昇を始めた。多くの会社では60歳定年が一般的だが,企業側は定年以降の継続雇用制度を用意し,公的年金の支給開始年齢に対応しようとしている。しかし,2001年の『雇用管理調査』によると,65歳まで希望者全員を何らかの形で雇用する企業は全体の28.0%にとどまっており,その他の企業は会社が必要と認めた人だけを継続雇用したり,継続雇用制度そのものがなかったりする。定年年齢以降も賃金を得られる仕事に就くには,「会社が必要と認める」ような能力を保持しておくか,他社で買ってもらえるような能力を身につけておく必要がある。また,たとえ希望者全員を継続雇用する企業で働いていたとしても,その企業にとって有用な能力を持っていなければ雇用の場が確保され続けるとは限らない。65歳まで賃金を稼げる能力を持ち続けるには,どのような方法で能力を高めていくのが適切なのかが明らかにされなければならない。
 もう一つの理由である能力の自己管理の重要性は,バブル崩壊後の長期不況の中で,雇用の安定性が失われてきたことと関係している(注1)。雇用労働者に占める正社員の割合は年々低下し,1997年2月の76.8%から2002年10-12月には69.5%になった(注2)。正社員とは,期間の定めのない雇用関係にある従業員であり,わが国の労働法制のもとでは解雇される危険性が低く,その意味で雇用は安定している。他方,期限の定めのある雇用関係を結んでいる従業員は,契約期間が満了すると雇用関係が終わる可能性が高いため,当然のことながら雇用は不安定である。事実,『雇用動向調査』によると,離職理由の10.2%(2001年)が契約期間満了になっている。
 雇用が比較的安定している場合,働く人々は,その会社の中での能力開発を中心に考えておけば十分であった。日本のほとんどの企業では,どの仕事をどのタイミングで担当するかを決めるのは企業側であり,従業員は会社の辞令にしたがって社内を異動していけば,一定の能力を身につけることができた。また,企業の都合に合わせて異動すれば,定年までの雇用の場は確保されたのである。大企業の場合,60歳定年を迎える前に子会社や関連会社に出向したり,転籍になったりすることはあったが,企業グループを単位として見ると定年までの雇用保障はほぼ実現されていた。
 しかし,ここ10年間の日本経済の低迷は,企業の雇用保障機能を大きく弱体化させた。1997年の北海道拓殖銀行倒産や山一証券自主廃業,あるいは食中毒事件と補助金詐取による雪印の事実上の解体など,大企業といえどもいつ倒れるかわからないという不安が広がっている。いま勤めている企業が傾くと,他社に雇用の場を求めなければならない。この会社の中で自分のキャリアを伸ばしていこうと考えていたのに,突然,その計画が実現不可能になるのである。他社に移ってほしいと言われたときにあわてないためには,日頃から自分自身の能力育成に注意を払っておく必要がある。では,何にどう注意すれば他社に移っても通用する能力を身につけることができるのだろうか。この問いに対する答えをみつけることが,この小論の目的である。



II 分析の枠組み――実務経験,座学,エンプロイアビリティ

 1 実務経験と座学の組合わせ方

 職業能力の形成は,家庭教育から始まる。家庭という小さな社会の中で,守るべきルールを身につける。次に来るのが,学校教育である。科学技術や社会の仕組み,歴史や文化などについての知識を習得し,思考能力,コミュニケーション能力,集団の中での個人のあり方などを学ぶ。そして,会社に入ることになるが,会社に入ってからは仕事をすることが訓練になる。いわゆるOJT(on-the-job training)である。能力育成の方式としてOJTが優れていることは,論を待たない。日々起こる変化や異常に対処していくことで,職業能力は高まっていく(注3)。
 職業能力の育成にとってOJTだけで十分かというと,決してそうではない。これまで経験したことをまとめるときや新しい分野の仕事に挑戦するときなどは,日々の仕事から少し離れて,Off-JT(off-the-job training:座学)を受けたほうが効率的である。目的によって座学の期間は異なるが,実務経験を整理するためであれば,数日から長くても1週間あれば十分だろう(注4)。逆に,新しい分野の知識習得が目的であれば,大学院などに通うことも含めて少し長期間の座学のほうが効果が高いと考えられる。問題は,OJTとOff-JTをうまく組み合わせることができるか否かである。
 OJTを考える視点として,(1)同一企業内か複数企業か,(2)計画的な指導(能力育成に何らかの計画があるか,上司の関与の程度など),(3)本人の意志(自らのキャリア形成を主体的にとらえているか)の3点が挙げられる。他方,Off-JTを分析する視点としては,(1)場所(自社内か社外か),(2)内容,(3)目的意識,(4)期間の4点が考えられる。

 2 OJTの分析視点:同一企業内か複数企業でのキャリア形成か

 ある会社に就職し,その会社に定年まで勤め続ける人がいる。ある会社に入ったけれど,別の会社に移っていく人がいる。一つの会社に定年まで勤める場合と複数の会社を経験して65歳を迎える場合で,能力育成上,どちらが優れているかを一義的に判断することは難しい。同一企業内であれば,キャリアの連続性が確保されやすいと考えられるが,企業の都合による人事異動や大きな技術革新などによって,それまで培ってきた知識・技能がほとんど役に立たなくなることがあるためである。部門を越えた異動は,前の部門で積み上げられてきた特有の知識・経験をほとんど役に立たなくさせる。たとえば,経理部門から総務部門に異動になることがこれに当たる。また,レコードがコンパクト・ディスク(CD)に置き換わったときや電話の技術がアナログからデジタルに変わったとき,旧来の技術体系のもとで能力育成をしてきた人たちは大きな方向転換を迫られた。技術革新は,しばしば能力の陳腐化を起こす。
 他方,転職を経験して複数の会社に勤める場合でも,仕事内容を主体的に選んでいけば,ある分野の職業能力育成に効果的である。たとえば,ある外資系の中堅製造企業Z社に勤めているAさんは,これまで2度の転職を経験しながら,人事分野の能力を伸ばしてきた。彼が大学卒業後に入った会社は,大手の製造企業X社だった。営業を5年間経験した後,なぜか人事部に配属になった。当初は人事の仕事に興味を持てなかったが,徐々に人事という仕事のおもしろさを見いだし,この分野で職業能力を深めていこうと考えるようになった。しかし,人事部配属から10年経ったとき,営業に配転になる内示が出た。このまま会社の異動を受け入れると,自分の描いた人事マンとしてのキャリアが中断してしまうことになる。思い悩んだ末,Aさんは自分の職業能力分野を守るためにX社を辞め,外資系の製造企業Y社に転職した。Y社は従業員数5000人を超える大企業であり,Aさんは人事企画の仕事を担当することができた。Y社に3年勤めたころ,500人規模のZ社から人事全体の仕事を見てほしいという話が舞い込んだ。Aさんは,人事マンとしての能力を高めていくには比較的規模の小さいZ社に移ったほうが得策だと考え,2度目の転職をした。Aさんの事例は,自らのキャリアを主体的に作っていこうとするとき,企業を変わったほうがいい場合があることを示している。
 以上のことから,OJTを考える場合,自社内か他社かという「場所」の視点もさることながら,自分がどのような能力をどのような方法で身につけようとしているのかという点も大切であることがわかる。また,会社の育成計画や上司・先輩の指導も重要な役割を果たす。場所,計画的な指導,主体性の3点を同時に考えなければならない。

 3 Off-JTの分析視点:場所,内容,目的意識,期間

 仕事を離れての訓練であるOff-JTも,職業能力の育成にとって有効である。Off-JTは,自社内で行われるものと社外で行われるものに大別される。大企業で,まとまった数の従業員を教育するとき,自社内で作られたプログラムにしたがって実施されることが多い。他方,対象となる従業員数が少ない場合や自社で提供できないような教育内容の場合,社外の機関が使われることになる。他の会社が主催する教育プログラムに参加することもある。どこでOff-JTを受けるかは,多分に教育内容と結びついている。
 Off-JTを受けるとき,教育訓練の目的と期待される効果を理解していることは重要である。何のために受講するのかわからないまま出席した場合,十分な効果が上がるとは考えにくい。会社や上司からの命令で訓練に出席するとき,「ただ何となく受講する」のではあまり意味がない。逆に,自ら手を挙げて訓練を受けるときは,訓練への目的意識が明確なために,一定の効果を期待しやすい。もちろん,会社や上司の命令で受講する場合でも,事前にOff-JTの目的について説明を受け,本人が十分理解して臨めば問題はない。他方,本人の意志によったとしても,自らの能力向上につながらないプログラムを受講したのでは効果が薄い。どのような能力をどこまで高めたいのかという目的意識と訓練内容が合致していることが,Off-JTが効果を持つ大前提となる。
 Off-JTの期間は,目的によって異なる。日々の仕事から得た経験を整理する目的であれば,短期間で十分である。1日から数日が一般的であり,1週間以上かけることはまずない。他方,仕事経験からは得にくい知識や技術の習得のためには,少し長期の教育が必要になる。新しい技術分野に挑戦するために大学院に行って学んだり,大学の研究室に戻って研究したりすることがこれにあたる。目的に応じて長期の訓練を受けられる体制が整っているか否かも重要になる。
 Off-JTは,仕事を離れて行われるがゆえにコストが高い訓練方法である。場所,内容,目的意識,期間の4要素が身につけたい能力と合っているかどうかを慎重に見極める必要がある。また,OJTとの組合せを十分に考慮することによって,より高い効果が期待できる点も忘れてはならない。

 4 他社に移っても通用する能力(エンプロイアビリティ)

 この小論の目的は,雇用不安のもとでの能力育成のあり方を明らかにすることであるが,この点を考えるには,他社に移っても通用する能力について整理しておかなければならない。雇用不安の状態とは,いまの会社に勤め続けられる可能性が低いために,雇用の場を他社でみつけざるをえないことを意味するからである。
 他社に移っても通用する能力は,最近,エンプロイアビリティと呼ばれるようになっている。エンプロイアビリティの意味するところは,それを使う人によって少しずつ異なる。エンプロイアビリティをその人の保有技術・技能に依存すると考える人たちは,公的資格の取得や職業教育が重要だと説く。他方,エンプロイアビリティとは「労働移動を可能にする能力」と「当該企業の中で発揮され,継続的に雇用されることを可能にする能力」の両者を含むとする日経連教育特別委員会の見方(注5)もある。ただ,どの説にも共通するのは,人材としての価値を上げることがエンプロイアビリティの向上につながるとしている点である。
 エンプロイアビリティ・チェックリストの構築を試みている松本他[2001]は,エンプロイアビリティの内容として八つの領域を設定し,それぞれに9~10項目を示して自己診断できるようにした。(1)コミュニケーション,(2)対人関係,(3)組織化と組織運営,(4)認知的能力/概念形成能力,(5)自己学習能力,(6)メンタル面の強さ,(7)変化への対応,(8)自律性とセルフ・ディベロップメントの領域ごとに質問が用意され,5段階尺度で答えると,自分自身のエンプロイアビリティが表示される。エンプロイアビリティの内容を確定するうえで,このような試みも重要であるが,領域相互の関係や領域内の質問項目の妥当性など議論すべき課題は多い。
 この小論では,他社に移っても通用する能力(エンプロイアビリティ)の概念を正面から論じることは避け,その内実を実態面からとらえることにしたい。具体的には,どのような能力を持っている人が中途採用に成功しているかという視点からエンプロイアビリティを整理することである。中途採用の面接において何を質問されるかを調べれば,他社に移っても通用する能力の判定基準が得られるはずである。これが明らかになれば,そのような能力を形成できるようなOJTとOff-JTの組み合わせを提示できると考えられる。
 以下,次節でOJTとOff-JTの実態をまとめたうえで,第IV節で他社に移っても通用する能力を高める方法を考察しよう。



III 職業能力育成に関する企業と個人の考え方

 1 二つの調査

 OJTとOff-JTの実態について,企業と個人はどのような考え方をとっているだろうか。ここで主として使用するのは,日本労働研究機構が厚生労働省の委託を受けて2001年11~12月に実施した『能力開発基礎調査』(以下,「能力開発調査」と略称)と,富士総合研究所が労働省の委託を受けて2000年3月に実施した『能力開発等の活動に取り組むための長期休暇制度の導入促進に向けた調査研究』(以下,「富士総研調査」と略称)の二つである。両調査ともに企業調査と従業員調査で構成されている。前者は従業員規模30人以上の1万社を対象として行われ,回答企業数2176社(有効回答率21.8%),回答従業員数5658人(同18.9%)であった。他方,後者は,従業員規模100人以上の5500社を対象として行われ,回答企業数1099社(有効回答率20.0%),回答従業員数3103人(同20.7%)であった。
 これら二つの調査は,対象企業の規模が違うために,結果も微妙に異なる。能力開発調査の回答企業の89.6%は300人未満の中小企業であるのに対して,富士総研調査に回答したのは,規模の比較的大きな企業が中心で,29.7%が1000人以上の大企業である。規模の小さな企業の実態を知るには能力開発調査が,規模の大きな企業の実態は富士総研調査が,それぞれ適していると言える。

 2 能力開発に対する考え方

 (1)能力開発の主体
 まず,企業における能力開発について,能力開発の主体は誰だと考えているのだろうか。この点を調査した富士総研調査を見ると(図1),これまでは,企業の7割近くが企業側にあったと考えていたが,今後は,従業員が能力開発の主体になるとする企業の割合が半数を超えている。この傾向は,企業規模が大きくなるほど顕著である。正規従業員2000人以上の企業(回答企業数133社)では,78.2%がこれまでは企業が主体となってきたと回答したが,今後も企業が主体だとする企業は30.8%にとどまった。それに対して,300人未満の企業(同242社)では,企業が主体とする回答が65.3%から56.2%へわずかな低下しか見せていない。同様の傾向は,能力開発調査からも読み取ることができる。大企業ほど能力開発主体についての考え方に大きな転換が起こっている。

図1 能力開発の主体(富士総研調査)

 では,従業員個人はどうだろうか。図1にあるように,企業以上に能力開発の主体は従業員であると考えている割合が高くなっている。従業員の約3分の2は,自分自身の能力開発に対して主体性を持とうとしているのである。しかも,この結果は年齢による差がほとんど見られない。ただ,従業員が自らの能力開発に主体的に取り組もうとする姿勢は重要であるが,それにふさわしい行動をとっているかどうかは別問題である。能力開発への具体的取り組みについては,後に検討する。

 (2)選抜教育と底上げ教育
 ここでもう一つ検討しておきたいのは,従業員教育の方針である。図2は,特定の従業員層を対象とした選抜教育と従業員全体の底上げを図るような教育のどちらを重視するかについての考え方を示したものである。この点については,従業員と企業の間に差があることがわかる。企業の過半数は,これまでは全体的な底上げ教育を重視してきたが,これからは,選抜教育に重点を移そうとしている(注6)。それに対して,従業員は,3分の2が底上げ教育重視を選択した。

図2 従業員教育の方針(富士総研調査)

 能力開発の主体についての答えと教育方針に関する答えを比較すると,従業員の考え方に矛盾が見られる。これからの能力開発の主体は従業員個人であると考えていながら,企業に求める教育方針は,全体の底上げをねらったものだからである。ただ,見方を変えれば,企業には職業人としての基本的な能力を身につけられるような教育を望み,プラスアルファの部分については,自分たちで決めるという考え方をとっているのかもしれない。この疑問に答えてくれるデータは,残念ながらこれら二つの調査には含まれていない。

 3 OJTの効果的な進め方

 前節で,OJTを分析する視点として,同一企業内か複数企業にまたがるのかという場所の問題,計画的な指導,本人のキャリア形成への主体性の三つが重要であることを指摘した。OJTの実際についてはすでに数多くの研究があり,筆者自身もいくつかの聞き取り調査を重ねてきた。それらの調査から,効果的なOJTのためには計画的な指導が大切であることはすでに議論されているが,より広く観察した資料に基づいたものは十分とは言い難い。そこで,先に挙げた二つの調査と連合総研が1999年に実施した調査(以下,「連合総研調査」と略称)(注7)を使って,実務を通じた職業能力の形成方法を検討したい。

 (1)他社経験の有効性
 まず,職業能力を身につけるうえで他社経験はどれほど有効であろうか。連合総研調査は,現在の仕事に役立っている実務経験に関する質問の中で,他社経験の有効性をたずねている。それによると,他の会社での実務経験ありと答えた3194人のうち,他の会社での経験が現在の仕事に「とても役立っている」としたのが13.5%,「ある程度役立っている」が36.0%,「役立っていない」が23.7%となった。現在の会社での部門内移動を経験している人(4230人)は,とても役立っている(14.1%),ある程度役立っている(52.4%),役立っていない(19.0%),現在の会社での部門間移動を経験している人(3860人)は,それぞれ11.2%,48.8%,21.8%と回答した。部門内移動の経験が現在の仕事に役立つ割合が最も高いのは当然のこととしても,他社での経験は部門間移動に比較的近い評価を得ている点は興味深い。ただ,これはあくまでも回答者の印象であって,どの経験がどれくらい役に立っているのかを知るには,個別の事例調査が欠かせないことは言うまでもない。

 (2)上長の指導と能力育成
 OJTの計画的指導については,富士総研調査が間接的な情報を提供している。この調査では,企業に対して「貴社の従業員が自分自身のキャリア形成の今後のあり方について考えようとするとき,直属の上長は,相談者としての役割を果たしていると思いますか」という質問を用意し,「果たしている」から「果たしていない」までの4段階尺度で答えてもらっている。「果たしている」とする企業は6.8%,「どちらかというと果たしている」は37.8%,合計で44.6%の企業が上長がキャリア相談機能を果たしていると回答した。この割合は,2000人以上で51.1%であるのに対して300人未満では41.8%と,規模が大きくなるほど高くなる傾向がある。ただ,半数弱の職場上長しか相談機能を果たしていないという現実は,OJTが必ずしもうまく機能していないのではないかという疑問を起こさせる。
 富士総研調査は,上長の指導内容まで掘り下げていないが,能力開発調査は,個人調査の中で,上長から受けたことのある指導・指示と,その中のどの指導・指示が最も役に立ったかをたずねている。図3にあるように,最も多い指導・指示は「特定の仕事について責任を与える」(44.1%)であり,「業務改善案を考えさせる」(36.0%)がそれに続いている。年齢別に見ると,24歳以下では「仕事についてのアドバイス」と「生活や仕事態度についてのアドバイス」(ともに38.3%)が多く,30歳代後半以降は「業務改善案を考えさせる」が多くなっている。

図3 上司から受けたことのある指導・指示(複数回答:能力開発調査)

 これらの中で,能力育成上もっとも役に立ったのは何かを質問したところ,「特定の仕事について責任を与える」(20.0%)が第1位,「仕事についてのアドバイス」(16.7%),「よりレベルの高い仕事にチャレンジさせる」(14.5%)が第2位,第3位となった。上長が2番目に多く実施している「業務改善案を考えさせる」は8.5%にとどまっており,第5位である。業務改善を考えることは仕事能力を高めるうえで有効な方法だと予想されるが,実施にあたって目的や効果などを十分に説明しないと,「仕事量が増えて忙しい」という感覚が先に立ってしまい,本来の効果が薄れてしまうかもしれない。部下に対する仕事の与え方についての工夫が必要となるだろう。

 (3)従業員の主体性
 富士総研調査は,企業調査の中でキャリア形成を主体的に考えている従業員の割合を尋ね,従業員に対しては,今後の職業生活についてどの程度具体的に考えているかをきいている。企業調査の結果を示した図4を見ると,8割以上の従業員がキャリア形成を主体的に考えていると回答した企業がわずか8.5%(「ほぼ全員」と「8割程度」を合計した数字)にとどまっており,逆に,そういう従業員はほとんどいないとした企業が15.8%になったことがわかる。回答企業の73.2%は,キャリア形成を主体的に考えている従業員が半分から4分の1程度だと答えた。企業の側からは,従業員が主体的にキャリア形成をしているとは見えていないことを示唆する結果になっている。

図4 キャリア形成を主体的に考えている従業員の割合(富士総研調査企業調査)

 では,従業員は,自分自身の職業生活をどの程度真剣に考えているだろうか。図5を見ると,「○年後にこれをする」という形で具体的に考えている従業員は8.7%しかいない。他方,職業生活の将来について考えていない従業員は,40.9%に達している。評価が難しいのは,「何年後とは決めていないが漠然と考えている」従業員である。この選択肢を選んだ従業員は全体の半数近い49.2%だった。「漠然と考えている」というのは,何も考えていないことと同義である場合が多い。仮にそのように考えると,自分自身の職業生活を具体的に設計しているのは,わずか1割弱になってしまう。

図5 今後の職業生活について考えている程度(富士総研調査従業員調査)

 先に指摘したように,従業員の66.5%はこれからの能力開発の主体は従業員だと考えている,にもかかわらず,具体的にどのように能力開発するかを考えている従業員は,ごく少数にとどまっているのである。「主体的な能力開発」がかけ声に終わっている可能性が高い。

 4 Off-JTの効果的な進め方

 Off-JTを効果的に進めるにあたって重要な点は,場所,内容,目的意識,期間の四つであり,これらの4項目は相互に密接に関連していることはすでに述べた。本来であれば,4項目全体を俯瞰できるようなデータを使って議論すべきであるが,残念ながらそのような資料をみつけることができなかった。そこで,これらの項目を個別に検討することで実態に迫ってみたい。まず,研修の場所に関する企業と従業員の意識から見ていこう。
 (1)社内研修と社外機関による研修の優劣
 富士総研調査では,企業と個人の双方に対して,研修を受ける場所として適当なところはどこかをたずねた。その結果を示したのが図6である。これを見てわかるとおり,企業が行う研修の実施場所について,企業と従業員の間にはっきりとした意識の差が出ている。企業の6割は,これまで自社内で行う研修を重視してきたが,これからは,外部の教育訓練機関ももっと利用していこうと考えている。しかし,自社内の研修を大幅にとりやめて,外部機関で代替することは考えていない。他方,従業員個人は,6割が外部機関による教育を重視してほしいと回答した。

図6 研修の実施場所(富士総研調査)

 従業員が外部の教育訓練機関の利用を希望しているのは,「社会的な通用性を持った研修」を意識しているからではないかと推測される。ある企業の内部で受けた研修は,他社に移るときに経歴にならないが,外部機関で受けた研修は,一般的な通用性を持つという考えである。この推測が当たっているか否かをこの調査で確かめることはできないが,雇用の不安定さが従業員の回答に影響を与えたのは間違いないだろう。
 連合総研調査は,仕事に役立った研修の方法について調べている。全回答者のうち,役立つ研修を受けたことがあると答えた4581人に対して,その研修はどのような方法で行われたかを質問した。その結果,最も多かったのが,社外に派遣されての研修(37.5%)であり,次いで社内の研修(23.3%),職場の勉強会(7.2%)の順番になった。企業規模別に見ると,小さい企業のほうが「社外に派遣されての研修が役に立った」とする割合が高く,5000人以上の大企業になると,逆に「社内の研修」をあげる人が47.6%に達している。5000人以上の規模になると独立した教育部門や独自の研修施設を持っている場合が多いので,社内の研修に参加すれば十分だという事情があると考えられる。役に立つか否かは,研修の内容と本人の能力水準のマッチングで決まることを示唆している。

 (2)教育訓練内容
 どのような訓練内容が役に立つかは,人によってさまざまである。それゆえ,細かい訓練内容をあげて,役に立ったか否かを論じてもあまり意味がない。そこで,ここでは,連合総研調査が個人調査の中で調べた「最も役に立っている研修内容」を紹介するにとどめておこう。
 この質問に回答したのは,仕事に役立つ研修を受けたことがある4581名である。「その他」を含めて五つの選択肢が用意された。最も回答が多かったのは「仕事に関連した基礎知識を身につける研修」(30.6%)であり,次いで「仕事に関連した専門知識を深める研修」(23.8%),「リーダー研修など一般的な知識を身につける研修」(18.1%),「仕事に関連した資格の取得につながる研修」(9.8%)となった。特定の能力を身につけることを目的とした研修よりも,職業人としての基礎的能力を高めるような研修のほうが評価されている点は注目に値する。

 (3)目的意識
 従業員がどのような目的意識を持ってOff-JT一般を受けているかを知る情報は手元にない。しかし,能力開発調査は,従業員調査の中で,自己啓発の目的について調べている。自己啓発はOff-JTの一形態であり,受講料への金銭的援助や就業時間への配慮といった支援を行う企業は多い。事実,能力開発調査に回答した企業の81.1%は,何らかの支援を行っていた。
 自己啓発の目的として最も多いのは,現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため(79.5%)であり,将来の仕事やキャリアアップに備えて(38.8%),資格取得のため(34.1%)と続いている。企業規模別に見ると,300人以上の企業で「将来の仕事やキャリアアップ」の割合が51.2%と際立って高い。自己啓発に取り組む目的はとても具体的であり,それだけ効果は大きいと考えられる。ただ,問題がないわけではない。能力開発調査によると,自己啓発にあたっての問題点として最も大きいのは,忙しくて自己啓発の余裕がないこと(43.0%)であり,費用がかかりすぎること(25.9%),休暇取得・早退などが会社の都合でできないこと(18.3%),セミナー等の情報が得にくいこと(15.3%),自己啓発の結果が社内で評価されないこと(15.2%)が挙げられている。時間的余裕のなさと費用がかかる点が自己啓発を進めていくうえでの障害になっていることがわかる(注8)。

 (4)研修の時間的長さ
 経験を整理するためのOff-JTは短期で十分だが,仕事経験からは得にくい知識や技術を学ぶときには,少しまとまった期間をとったほうが効果が高いことはすでに述べた。富士総研調査は,能力開発のために休暇をとることについて企業と個人はどう考えているのかを調査している。能力開発のために長期休暇を取ることを従業員が希望した場合,企業はどのように対応しているだろうか。半数強の企業が「特に何もしていない」と回答し,約3分の1の企業が「既存の休暇を利用するように指導している」と答えた。能力開発のための特別な休暇を用意している企業は3.1%,休職扱いにする企業は6.0%だった。この結果は,従業員が能力開発のために長期の休暇を取ることに対して,何らかの対応をしている企業は1割に満たないことを示している。従業員が長期に会社を休んで能力開発に取り組むことに対して,大半の企業は消極的である。
 最近,ボランティア活動に対する支援を制度化する企業が増えている。従業員がボランティア活動に参加する場合,通常の有給休暇とは別にボランティア休暇を付与している。一般的には年に数日であるが,青年海外協力隊に参加する場合,最長で2年半の休職を認めている。企業がこのような長期休職を認めるのは,企業の社会的責任を果たすとともに,従業員の多様な要求に応える制度を持っておいたほうが,優秀な人材を集めるうえで有利だと判断しているからである。自分自身の能力開発のために一定期間休職することと長期のボランティア休暇とを同列に論じることはできないかもしれないが,従業員の多様な要求に応えるという側面に注目すれば,両者の差はほとんどない。富士総研調査は,従業員の約4割が長期間休職して勉強したいと考えていることを明らかにしている。企業としても,従業員の長期学習活動に対して何らかの制度的な支援を準備する時期に来ていると考えられる(注9)。

 以上,この節では,三つの調査結果を使って,日本企業の中で行われているOJTとOff-JTの現状と問題点を考察した。その結果,以下の9点が明らかになった。
 (ア)能力開発の主体は従業員であるという考え方が,企業側にも従業員側にも強くなっていること,
 (イ)企業は選抜教育を重視する傾向にあるが,従業員は底上げ教育をより望んでいること,
 (ウ)他社での経験が現在の仕事に役立つと考えている人が半数近くいること,
 (エ)キャリア相談機能を果たしている職場上長は半数程度にとどまっていること,
 (オ)キャリア開発について具体的に考えている従業員は少数であり,このことは能力開発の主体は従業員であるという考え方と矛盾すること,
 (カ)研修場所として,従業員は,外部の教育訓練機関を好む傾向が強いこと,
 (キ)職業人としての基礎的能力を身につける研修の方が専門的知識を勉強する研修よりも役に立っていると考えられていること,
 (ク)自己啓発は具体的な目標を持って取り組んでいるが,時間と費用負担の面で制約があり,十分にはできていないこと,
 (ケ)長期休暇制度を利用した能力開発に対して従業員は積極的であるが,企業はそうした取り組みには消極的であること。
 次節では,この小論のまとめとして,他社で通用する能力を育成するために,OJTとOff-JTをどのように組み合わせる必要があるかを考える。



IV 他社でも通用する能力の育成に向けて

 (1)中途採用の面接で聞かれること
 他社に移っても通用する能力とは何かを知るには,中途採用の面接の際に企業側が何に注目しているかを検討することが近道である。中途採用に応募してきた人に面接するとき,企業の人事担当者は次のような質問をする。
 (1)これまでにどのような会社で働いてきたか,
 (2)それぞれの会社で具体的にどのような仕事をしてきたか,
 (3)最近携わったプロジェクトでどのような役割を果たしていたか,
 (4)そのプロジェクトはどういう点で成功し,どういう点では成功しなかったか,
 (5)そのプロジェクトを担当することによって,自分自身の職業能力形成にどのような効果があったか。
 面接時間のほとんどは,これまで経験してきた仕事に関する質問に向けられる。担当したプロジェクトのことを質問するのは,具体的な事例の中でしか応募者の能力水準を知ることができないからである。
 中途採用の場合,採用選考,能力判定,採用可否の決定には,配属予定部門が関わるのが普通である。同じ分野で働いていれば,初めて会った人でも,だいたいどの程度仕事ができるのかはわかるという。中途採用の面接では,自分のこれまでの実務経験を客観的に語れることが重要なのである。

 (2)現在の仕事の価値を高める
 中途採用の面接で聞かれることを見ていると,他社でも通用する能力を高めるためには,いま取り組んでいる仕事をしっかりやればいいことになる。仕事は,企業特殊的な側面を多く含んでいる。取り扱う製品や企業組織の構成人員,顧客などは,会社ごとに異なる。社内の根回しとか得意先回りは,その企業に特殊なことであり,他企業に移るとまったくと言っていいほど役に立たないと考えられている。しかし,企業ごとに異なるように見える仕事でも,よく観察すると,多くの共通性があることに気づく。たとえば,何かの案件を決定するとき,通常のルートで処理していけばいい組織もあれば,キーマンを通さないと決められない組織もある。後者の方式で経験を積んだ人が他社に移ると,たしかに,それまでの会社で培った人脈は無駄になる。ただ,組織運営や根回しのノウハウは,他社でも十分活用可能である。新しい会社に移った当初は,キーマンが誰だかわからないためにとまどうことになるが,組織内の動きに対する感性が磨かれているので,数カ月間で誰に話を通せばいいかがわかってくるはずである。
 その企業でしか通用しない企業特殊的な仕事に取り組んでいたのでは,他社に移って通用する能力の形成には役立たないと思われがちである。しかし,実態は逆である。企業特殊的な仕事をやり遂げることこそが,能力の通用性を高める近道なのである。
 では,どうすれば仕事の価値が高まるのだろうか。会社側の役割は,職場上長が部下の育成機能を果たせるように条件を整えることである。仕事の価値を高める第一歩は,個々の従業員が自分の担当している仕事を全体の流れの中で位置づけられるようになることである。全体の中で自分が果たすべき役割を理解すれば,仕事に適切な工夫をこらすことがより的確にできるようになる。上長による計画性を持った指導がなければ,OJTに大きな効果を期待することはできない。

 (3)能力育成の自己管理
 仕事の価値を上げていくために従業員が取り組まなければならないことは,能力育成の自己管理である。自分自身の強みを知って,伸ばすべき能力を決め,能力形成に役立つような仕事の仕方を工夫することである。
 これまで,従業員は,能力育成の主導権を会社側に預けてきた。能力は,日々の仕事を通して形成されるが,どの仕事をどのタイミングで担当するかを決めてきたのは会社であった。従業員は,会社側が提示する人事異動をおおむね受け入れてきた。彼らは,他の職場への異動が自分の能力形成にプラスになることを知っていたし,若いときに会社側のムリをきいておけば,将来悪いことはないだろうと考えていたからである。広範囲な人事異動は,企業と従業員の暗黙の信頼関係の上に成り立ってきた。
 しかし,いま,その信頼関係が崩れようとしている。20年以上にわたって企業側の言いなりに動いてきたにもかかわらず,「君の能力は当社ではもう役に立たないから出ていって欲しい」と言われたとき,従業員としては納得できないだろう。以前のように何らかの形で再就職先を世話してくれるのならまだしも,ただ外に放り出されたのではたまったものではない。中高年社員が「理不尽な」扱いを受けているのを,若手社員はしっかり見ている。「将来,自分もああなるのか」と思うようになると,仕事に向かう力がそがれてしまうことになりかねない。
 これまで,企業は,能力育成の主導権を握るかわりに,雇用を保障してきた。しかし,これだけ不確実性が増大してくると,企業側としても最後まで責任を負えなくなっている。最近,多くの企業で,「自己選択・自己責任の原則」を前面に出すところが出ている。これは,従業員の人材育成の主導権を放棄しようとしていることの現れである。従業員は,これまでも,仕事への取り組み姿勢や新しいことに挑戦する意欲を管理する責務を負っていた。これからは,それだけでなく,日々の仕事についても,自分の責任で選び取っていくことが求められるようになる。
 選択するには,十分な情報と判断力が必要である。日々のOJTに計画性を持たせ,Off-JTを適宜組み込むことによって,自分自身の情報収集能力と情報分析力を高め,より価値の高い仕事ができるようになれば,他社でも通用する人材になることは確実である。もしそうなれば,現在の企業においてより重要な仕事を任されるようになり,雇用はかえって安定するだろう。エンプロイアビリティに関して日経連教育特別委員会が描いた「労働移動を可能にする能力」と「当該企業の中で発揮され,継続的に雇用されることを可能にする能力」は,実は別々のものではなく,大きく重なっていると考えるべきである。


注 1)リクルートワークス研究所[2003]によると,2002年8~10月に13085人から回答を得て実施された調査の結果,自分の雇用に不安を持っている人の割合が男女計で56.5%,正社員だけに限っても男性で55.4%,女性で46.8%に達した。

注 2)1997年の数字は『労働力調査特別調査』(同年2月実施),2002年10-12月の数字は『労働力調査』によっている。

注 3)詳しくは,小池[1999]pp.25-29を参照されたい。

注 4)OJTに短期のOff-JTを組み合わせることの有効性は,小池[1999]pp.43-46に述べられている。

注 5)日本経営者団体連盟[1999]pp.7-8。

注 6)この考え方も企業規模によって大きな差が出ている。選抜教育について2000人以上企業の回答を見ると,これまでは18.8%が重視してきたにすぎなかったが,今後は78.2%に跳ね上がっている。逆に,300人未満の企業で選抜教育重視としたのは,「これまで」36.8%から「今後」39.7%と微増にとどまっている。同じ質問が『能力開発調査』でもされているが,選抜教育重視は「これまで」40.1%から「今後」34.1%に減少している。規模の小さい企業では,これからも「全体の底上げ教育」を重視していくことを示している。

注 7)連合総合生活開発研究所[2000]が連合加盟の産業別組合を経由して実施した調査で,約1万9000人を対象とし,6573人から回答があった(有効回収率34.1%)。

注 8)自己啓発の費用を補助する制度は,企業独自のもの,国の教育訓練給付金,労働組合が運営するものがある。教育訓練給付金制度は1998年に創設され,多くの人が利用している。能力開発調査の回答者でも,5.6%がこの制度から給付を受けたと答えた。この制度は短期間で広く普及したが,その効果については十分検証されているとは言えない。

注 9)ヨーロッパ諸国では,長期間休職して能力開発に取り組む制度が整備されつつある。最も進んでいるのはデンマークであり,1年間の教育訓練有給休暇を取ることができる。詳しくは,Arbeit und Leben et al.[1999]を参照されたい。


参考文献

小池和男[1999]『仕事の経済学[第2版]』東洋経済新報社。
日本経営者団体連盟[1999]『エンプロイアビリティの確立をめざして――「従業員自律・企業支援型」の人材育成を』(日経連教育特別委委員会・エンプロイヤビリティ検討委員会報告)。
日本労働研究機構[2001]『能力開発基本調査報告書(平成13年11月調査)』。
富士総合研究所[2000]『能力開発等の活動に取り組むための長期休暇制度の導入促進に向けた調査研究』。
藤村博之[2000]「社会的に通用する能力を高める方法」『勤労よこはま』7・8月号,pp.3-11。
松本真作・浅井千秋・田島博実・木下敏[2001]「多次元企業魅力尺度とエンプロイアビリティ・チェックリストの試作研究」『研究紀要』(日本労働研究機構),No.21,pp.1-41。
リクルートワークス研究所[2003]『ワーキングパーソン調査2002[首都圏]』。
連合総合生活開発研究所[2000]『勤労者のキャリア形成の実態と意識に関する調査報告書』。
 ARBEIT UND LEBEN, CESEP, CESOS, and Culture et Liberte [1999] Paid Educational Leave in Europe: A Strategy Promoting Lifelong Learning? Dusseldorf, Germany.


 ふじむら・ひろゆき 法政大学経営学部教授。主な著書に『企業にとって中高年は不安か』(生産性出版,1997年),『新しい人事労務管理新版』(共著,有斐閣,2003年)など。人的資源管理論・労使関係論専攻。