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(著者抄録)
近年、犯罪の増加、凶悪化の原因として、失業率の上昇が盛んに取り沙汰されている。しかしどれだけ確実な根拠に基づいて、そういった推論が行われているのだろうか。はたして、犯罪は失業に連動しているのか。失業が増えると、犯罪は増えるのか、減るのか、それとも関係ないのか。もし連動するのであれば、両者に時間のずれ(タイムラグ)はあるのか。そこに年齢は関与してくるのか。本稿は、これらの問いかけをマクロ的視点から検証する。IIでは、失業と犯罪の関係についての知見を紹介する。失業と犯罪を結びつけるロジックは何なのか。IIIでは、失業率と犯罪(強盗・障害・窃盗)の検挙人口比の年次データを用いて、両者の関係を分析する。そこでは、年齢別の比較を行うと同時に、分布ラグモデルを使って、犯罪発生にあたえる失業の長期にわたる影響も調べる。IVでは、IIIの結果を整理し、検討を進める。
(論文目次)
I はじめに
II 失業と犯罪
  1 失業増にともなう犯罪増加
  2 失業増にともなう犯罪減少
III 時系列分析-分布ラグモデル
  1 失業と犯罪の変遷
  2 分布ラグモデル
  3 結果
IV 考察
V あとがき

I はじめに

 「生きる=働く」や「労働は美徳」という道徳観念は,時代・社会をこえて,ひろく教え諭されてきた(「怠惰は悪徳のもと」や「小人閑居して不善をなす」など,ことわざにもうかがわれる)。失業は,貧困とともに早くから「悪の根源」として,疾病や自殺,浮浪など,様々な「社会病理」との関連性が指摘されてきた。失業と犯罪の関係もその一つである。
 近年,メディア等で,犯罪の増加,凶悪化の原因として,バブル崩壊後の経済悪化,とくに失業率の上昇が盛んに取り沙汰されている。しかしどれだけ確実な根拠に基づいて,そういった推論が行われているのだろうか。たとえば,犯罪検挙者に無職者が多いという情報があったとしても,それは,失業が犯罪につながることを必ずしも意味しない。彼らの大半が慢性的な無職者で(社会適応性の問題),就労の有無とは直接関係なく犯罪に関与している可能性もあるからである(注1)。こういった場合,失業と犯罪の集積データ(水準や変動)から両者の関係を推定するマクロ分析が有効になってくる。集積データとして表される変数間の分析は,社会に常に内在する一定量の失業と犯罪(慢性的無職者による犯罪量)に影響されにくいからである。
 さらに,失業は中高年,犯罪は少年,という具合に,個々の問題については,特定の年代が注目されることが多い。しかし失業と犯罪の二つの関係となると,まずそこに年齢は関与してこない。近年の(とくに10代後半,20代の若者をはじめとした)失業増と犯罪増加の関係を探る上でも,両者の間に年齢を加味した分析が不可欠となる。
 はたして,犯罪は失業に連動しているのか。失業が増えると,犯罪は増えるのか,減るのか,それとも関係ないのか。もし連動するのであれば,両者に時間のずれ(タイムラグ)はあるのか。そこに年齢は関与してくるのか。本稿は,これらの問題を主題として,マクロ的視点から,一つの試験的結果を提示する(注2)。



II 失業と犯罪

 失業と犯罪の関係をめぐっては,失業増にともなう犯罪増加,それから失業増にともなう犯罪減少,という相異なる見解がある(欧米の実証研究の結果が一致せず,理論が確立しないのは,この二つの見解に起因している,とも言われる(注3))。以下に,それぞれの代表的な解釈を紹介する。

 1 失業増にともなう犯罪増加

 失業増にともなう犯罪増加は,一般的に「失業=犯罪者になる可能性」という考え方に基づいている(注4)。まず失業(それに付随する貧困)は,生活維持を理由とした財産犯罪(強盗や窃盗)への直接的動機を与え,その関与を促す。次に,失業者は相対的に社会的地位が低く,職場との絆がないことから,犯行にともなう社会経済的,精神的なコストは比較的小さい。つまり犯罪の誘惑に対して無防備となりやすい。さらに失職,貧困から生じる精神的圧迫(絶望感,無力感,いらだちなど)が,暴力犯罪(強盗や傷害)へと発展する可能性もある。そして最後に,仕事と犯罪は,どちらも時間と労力が必要とされるから,両立しがたいと考えられる(注5)。いずれにしろ,失業者が多くなれば犯罪数も増えるというのが,この考え方である。
 マクロ社会学的な視点からみると,失業増は,経済だけでなく社会システム全体の「ほころび」と解釈されよう。そして,犯罪は現行制度への不信・不満から生じる人々の行動様式の一つとして位置づけられる。社会は,人々に労働義務を促し,就労機会を供給し続けなくてはならない。しかし質量の点で満足する就労機会を提供できない場合,人々に現行制度の不信・不満を抱かせてしまう(「正統性の喪失」(注6))。それは,人々が問題を抱える場合,制度(警察や法律など)に頼るより自力で解決する(セルフヘルプ(注7))ほうが得策である,という無秩序的な社会風潮へとつながる。増大する「不満分子」は,制度機関に対して軽蔑的な態度をとったり,逸脱的行動にはしる傾向にあり,結果的に犯罪は増加すると考えられる(注8)。

 2 失業増にともなう犯罪減少

 失業増にともなう犯罪減少は,一見つながりにくいが,次のような論理的裏づけがある。「日常活動理論(routine activity theory)」(注9)を基調とするこの考え方は,失業の犯罪に与える直接の影響というより,両者の派生的関係についての一つの見方と捉えられる。
 犯罪発生には,加害者と被害者との間に時空間的な接点が不可欠であり,誘因としての犯罪機会が存在しなくてはならない。犯罪動機をもつ行為者の存在だけで,犯罪が発生することはまれである。つまり,潜在的犯罪者にくわえて,犯罪被害となるターゲット,そしてターゲットの保護監督者の不在がそろって,はじめて犯罪機会が成立することになる。
 犯罪機会は,人々の生活活動と密着していて,景気に大きく左右されている。失業率は経済状況の主指標の一つであり,その上昇は社会全般の活動(人々の交流,貨幣や商品の流通)の消沈を意味する。失業や減給,法人の緊縮予算は,人々の生活活動をひろく制約してしまう。人々は,不景気には,支出がともなう外出を避け,家や職場で大半の時間を過ごす傾向にある(犯罪の大半は外出先で起こっている)。また他方で,人々はこれまで以上に私有財産に監視の目を光らせる。このように,失業増に示される不景気は,生活活動の減退ならびに保護監督の強化を意味し,それは,犯罪(機会)の減少へとつながる,と考えられる(注10)。

 以上の二つの論理は,必ずしも矛盾するわけではない。失業の二つの効果(失業増にともなう犯罪増加と失業増にともなう犯罪減少)には時間的に開きがある,と言われるからである(注11)。すなわち失業増にともなう,犯罪機会の縮小は比較的時間を要さないのに対して,潜在的犯罪者が実際に犯行に移すまでにはある程度の時間が必要だというものである。
 そして失業と犯罪の間の関係で付け加えなければならないのは,失業(もしくは就労)の効果は年齢を通して一様ではない,という先行研究の知見である。一般に,本人の雇用と(薬物中毒を含む)違法行為との間には,少年の場合が正の関係であるのに対して,成人の場合は負の関係になる。つまり,少年は無職者より有職者に,成人は有職者より無職者において,違法行為への関与が多くなるという(注12)。
 このように,犯罪に及ぼす失業の影響は重層的,多面的である。失業の効果にかかる(そして持続する)時間も異なれば,人々の属性(年齢や家族構成)によってあたえる影響の質量も異なると考えられる。そのため失業と犯罪の関係の検証には,データの細分化(罪種別,年齢別など)とデータ間の動態的な分析(タイムラグを考慮した時系列分析)が必要である。次章では,時系列データ(年次データ)を用いて,失業と犯罪の関係を検証する(注13)。



III 時系列分析――分布ラグモデル

 1955年から2001年までの年次データ(完全失業率[以下,失業率],検挙人員数をもとにした検挙人口比)を使用して,分析を行う。失業率は年齢別,検挙人員数・人口比は罪種別・年齢別に細分化したデータを用いる。そして罪種別に,年齢グループ間で差異が存在するかを比較検討する。また分析は失業と犯罪の2変数のみに照準を合わせる。犯罪の関連要因は,貧困や不平等,都市化,離婚率など,ほかにも多々考えられるが,ここでは直接言及しない。分析には,失業が犯罪にあたえる長期的な影響を考慮し,これら2変数間の関係を検証する。

 1 失業と犯罪の変遷

 まず失業と犯罪の年次データを確認する。
 罪種は強盗,傷害,窃盗の三つである。傷害,窃盗はそれぞれ暴力犯罪,財産犯罪の典型である。強盗は凶悪犯罪であると同時に,暴力犯罪,財産犯罪の両特性を併せ持っている。犯罪データは,検挙人員数とともに,検挙人口比(1000人あたりの検挙人員数)を算出している。本分析では,検挙人口比を犯罪(発生)率に近似した指標として扱う(注14)。
 データ出所は,失業率が『労働力調査報告』(総務省統計局),検挙人員数・人口比が『犯罪統計書』(警察庁)である。また失業率と検挙人員数・人口比は,10代の少年(注15),20代の青年(20-24歳と25-29歳の2グループ),30代の壮年,40歳以上の中高年と,五つの年齢グループに区分した。
 年齢別失業率の推移を図1に示した(注16)。年齢によって水準の高低はあるが,いずれの年齢グループの失業率も,似通った傾向を描いている。つまり失業率は,1960年代後半から,バブル期(1987-1991年)を除いて,上昇傾向にあり,とくにバブル崩壊以降,急上昇していることが読みとれる。そして年齢は若いほど,失業率は高く(グループ間の順序は全期間にわたり一貫している),その上下の変動(アップダウン)も大きい。

図1 年齢別完全失業率の推移(1955-2001年)

 強盗,傷害,窃盗の推移が,それぞれ図2,図3,図4である。各図は上下二つの図からなり,そのうち上図(A)が検挙人員数で,下図(B)が検挙人口比を表している。下図(B)には,参考までに10万人あたりの認知件数を添えた。
 強盗の検挙人員数・人口比(図2)は,全体的に一貫して1970年代後半まで減少,そして安定を保った後に,1990年代後半から増加に転じている。青年(20-24歳)の強盗が検挙人員数・人口比ともに激減してきた点,そして少年の検挙人員数・人口比が1990年代後半に急増している点に注目すべきである(注17)。

図2-A 年齢別犯罪検挙人員数の推移(1955-2001年):強盗

図2-B 年齢別犯罪検挙人口比の推移(1955-2001年):強盗

 次に傷害の変遷をみる(図3)。少年以外の成人四つのグループの検挙人員数・人口比は,一貫して減少し,それらの検挙人口比は,1990年代後半には,ほぼ同水準に収斂している。とくに20代青年の傷害の検挙人口比の低下は著しい。他方,少年の傷害の検挙人口比は,期間を通して,多少の変動は確認されるが,水準は比較的変化していない。

図3-A 年齢別犯罪検挙人員数の推移(1955-2001年):傷害

図3-B 年齢別犯罪検挙人口比の推移(1955-2001年):傷害

 最後は窃盗の変遷であるが(図4),少年の検挙人員数の推移は,全検挙人員数の推移に,そのまま反映している。少年の検挙人口比は,1960年代後半から急上昇し,80年代前半にはピークに達して,90年代前半には激減し,再度上昇して,現在の高い水準にいたっている。現在,少年の検挙人員数は全検挙人員数のほぼ半分を占めている。他の年齢グループの検挙人口比が一貫して漸減しているのに対し,少年の検挙人口比は変動が激しい(1990年代に入ってから,10万人あたりの認知件数は,年齢グループの検挙人口比とはまったく異なる傾向を示すようになっている。これは,近年の窃盗検挙率[検挙件数÷認知件数]の著しい低下を反映している,と言えよう)。

図4-A 年齢別犯罪検挙人員数の推移(1955-2001年):窃盗

図4-B 年齢別犯罪検挙人口比の推移(1955-2001年):窃盗

 以上,四つの図からは,失業率が――水準の高低はあるにしても――年齢にかかわらず同じような変動を示しているのに対して,各種犯罪の検挙人口比の水準・変動は,年齢によって異なっていることがわかる。とりわけ少年の検挙人口比は,成人の年齢グループのそれとは独立した動きをみせている。これは,仮に失業率が犯罪率(検挙人口比)に影響を与えているとしても,その影響は年齢グループによって異なる可能性を意味している。
 (またバブル崩壊以降の失業率と犯罪率の上昇,つまり両者の関係が注目されるが,これら四つの図をみて,それが該当するとおもわれるのは,青少年(14-24歳)の強盗率,および少年の傷害率・窃盗率だろうか)。

 2 分布ラグモデル

 次に,この年齢別,罪種別の年次データを使い,回帰式によって,失業率と犯罪率(検挙人口比)の連動的な関係を,より詳しく探ることにする。
 失業率が犯罪率にあたえる長期的な影響をみるため,回帰式には分布ラグモデルを採用する。分布ラグモデルは多変量回帰式の変形であり,異なる複数の説明変数を使う代わりに,一つの説明変数(実際は一つでなくてもかまわない)とその分布ラグを使用する。そこでは,被説明変数(犯罪率:yt)は説明変数(失業率:xt)から多期(t, t-1, t-2, ..., t-p)にわたって影響を受けている,と仮定している。つまり回帰式(分布ラグモデル)は,



と表される。
 ここで注意すべきことは,ラグをもつ変数が同一の式に説明変数として含まれているため,多重共線性の問題(説明変数間の相関が高く,係数βの推定が困難になること)を抱えていることである。この場合,係数間に特定のモデルをはめ込み,なるべく少ない係数で推定する工夫が必要である。本分析では,その方法のなかで代表的なAlmon分布ラグを用いて,モデルを推定する(注18)。また先行研究,サンプル数や自由度の問題などを考慮して,タイムラグを4年に設定した。

 3 結果

 表1,2,3は,年齢別・罪種別の失業率と犯罪率の分布ラグ推定の結果である。失業率の短期の効果(同期における失業率の変化にともなう犯罪率の変化量)はラグ0,長期にわたる効果はラグ1,2,3,4の係数として示されている(有意水準として10%,5%,1%を表記しているが,10%水準は影響の分布を把握する上で,参考として付記したものである。本文中の「統計的有意性」はあくまで5%水準に基づいている)。
 分析結果を罪種別に説明する。まず強盗であるが(表1),青少年(14-24歳)を除く三つの成人グループにおいて,同期(ラグ0)に失業率の正の影響が確認される。いずれも統計的に有意である(青年25-29歳は5%水準,壮年と中高年は1%水準で有意)。壮年(30-39歳)と中高年(40歳以上)の2グループではさらに1年後(ラグ1)でも失業率の有意な正の影響がみられる(ともに1%水準で有意)。つまり25歳以上の成人においては,失業率が上がる(下がる)と,ほぼ同時に,強盗率も上がる(下がる)傾向にある。とくに30歳以上にみる失業率の影響は注目に値する。

表1 失業率と犯罪率(検挙人口比)の分布ラグ推定(1955-2001):強盗

 次に傷害に移る(表2)。失業率の有意な影響はどこにも確認されない。全部の年齢グループの同期(ラグ=0),さらに中高年を除く年齢グループの1年後(ラグ=1)に,失業率の負の影響が確認されるが,これらはすべて統計的には有意ではない。青年(20-24,25-29歳の2グループ),壮年のモデルによるダービン・ワトソン比(DW)(注19)の数値は,自己相関の可能性を示している。これらの回帰式(モデルの選択)に何らかの誤りがあるのかもしれない。

表2 失業率と犯罪率(検挙人口比)の分布ラグ推定(1955-2001):傷害

 最後に窃盗であるが(表3),統計的に有意な影響は,壮年と中高年の同期(ラグ0)に確認された(壮年は5%水準,中高年は1%水準で有意)。中高年は1年後(ラグ1)にも有意な影響がみられる(5%水準で有意)。いずれも正の影響である。つまりこれらの年代においては,失業率が上がる(下がる)と,ほぼ同時期に,窃盗率が上がる(下がる)傾向にあることを意味する。そしてさらに壮年では,3年後と4年後(ラグ3,4)に失業率の負の影響が確認される(いずれも5%水準で有意)。つまりこれは逆に,失業率が上がる(下がる)と,3,4年経過してから,窃盗率が下がる(上がる)傾向にあることを意味する。また青少年(14-29歳)の三つの年齢グループには失業率の有意な影響は確認されない。

表3 失業率と犯罪率(検挙人口比)の分布ラグ推定(1955-2001):窃盗



IV 考察

 年次データを用いた回帰式の結果では,失業と犯罪の間に有意な関係がいくつか確認された。
 罪種別では,強盗において,最も明瞭な結果がえられた。青少年を除く25歳以上の成人において,失業の犯罪への短期的な影響,つまり同年に(年代によっては1年後も)失業増にともなう犯罪増加が確認された。同様の結果は,窃盗でもみられた。そこでは,生活維持を理由にする,または現行制度への不満から生じる財産犯罪の増大という考え方が,ある程度,支持されている。もちろん,本研究のようなマクロ分析の結果から,失業者が強盗や窃盗などの財産犯罪に実際に関与している,とまで断言することはできない(生態学的誤謬の問題(注20))。
 他方,傷害では失業の有意な影響は,まったく確認されなかった。失業の犯罪への短期的な影響は負のサインを示し,これは生活活動の消沈による一時的な犯罪(機会)の減少をうかがわせるが,統計的には有意ではなかった。強盗,窃盗の結果と合わせて考えて,失業が,暴力犯罪よりむしろ,「経済」という同一の範疇に属する財産犯罪に影響を与えている,という事実は注目に値する。それは先行研究のレヴューとも一致している(注21)。
 次に年齢について言及する。財産犯罪に限定すると,年齢が高くなるほど,失業の影響は大きくなっている(年齢グループ内の有意なラグ係数βの数,有意水準を比較)。とりわけ40歳以上の中高年の強盗に関しては,かなり大きい影響が確認され,失業増はこの世代の強盗率を押し上げていることは間違いない。表には明記していないが,全モデル中でこのモデルだけが唯一,ラグ総和(説明変数である失業率xの犯罪率yに及ぼす総合的な影響)でも統計的に有意な係数を示している(Σβ=.00284,s. e.=.00038,t=7.407)。つまり失業率の犯罪への長期的な影響も有意であることを意味している(これ以外の大半のモデルでは,ラグ期間内で,失業率の影響の方向性が途中で逆になったり,影響は互いに相殺し合っているため,総合的な有意性は失われている)。
 中高年の大半は当人のみならず自分の家族を養わなければならず,失業は家族の死活問題に直結してくる。また彼らは,若い年齢層と比較して,価値規範や生活基盤が確立しているため,柔軟性に乏しく,社会変動にともなう環境の変化(失職や転職)に対応しにくい。失業が彼らにあたえる経済的・精神的インパクトは計り知れない。
 他方,少年には失業の影響がほとんど確認されなかった。これは,先に失業と犯罪の推移を確認したときの予測(バブル崩壊以降の少年の失業率と犯罪率の正の関係)とは相反する結果になった。
 モラトリアム期(試行錯誤が許される準備期間)に位置する少年は,大半が未婚者で,失業に対する認識においても,成人とはかなり異なった捉え方をしているのであろう。失業にともなう経済的,精神的な圧迫は,少年たちにとっては――われわれ,大人が考えるほど――大きくないのかもしれない。方法論的には,少年自身の失業よりもむしろ,彼らの親世代,もしくは社会全体の失業を説明変数に採用したほうが,少年犯罪にあたえる有意な影響が確認できるのかもしれない。また,少年犯罪と関連する経済的窮乏の指標として,失業や経済的不平等(相対的剥奪)よりも,貧困(絶対的剥奪)のほうが適切である,という指摘もある(注22)。
 20代,30代について言えば,やや「あいまいな」結果がみられた。つまり失業が犯罪にあたえる影響の方向性(ラグ係数βのサイン)に関して,少年ではまったく独自の方向性を示しているが,(傷害を除くと)20代,30代では中高年とほぼ同一になっている。また20代,30代の(短期の)影響は,中高年と比べて小さくなっている。この世代が,ライフコースにおける発達の点で,大人(中高年)への過渡期に位置するからであると考えられる。
 人々の多くは,青壮年期に,就職,結婚(それから子の出生)と,「人生最大の事業」を経験する。それは,親の保護から離れ,新しい環境の場で自分を捉え直す転機(アイデンティティの再構築)を意味する。そこで自分のポジション(地位・役割・責任)や志向(どう生きるのか)を判断し,必要に応じて自分と折り合いをつけながら,それを今後の人生で活かしていくことが求められる。このように,社会では,仕事が結婚とともに個人の社会的成熟度の指標として用いられ,それが適用され始めるのが,まさにこの20代から30代の青壮年期に相当する(注23)。

 最後に,本分析の結果を整理する。
1.失業は,暴力犯罪(傷害)より,財産犯罪(とくに強盗)の発生に正の影響をあたえる。
2.失業の財産犯罪への影響は,主として短期的(同年,1年後まで)である。
3.失業の財産犯罪への影響は,年齢が上がるにしたがって大きくなる(青少年[14-24歳]の犯罪にあたえる影響は確認されなかった)。



V あとがき

 本研究は,失業と犯罪の関連性を,時系列データを用い,年齢グループとの対比を通して,検討してきた。
 そこでは,壮年と中高年の失業の影響が財産犯罪に確認された。近代以降の労働は,富裕(=幸せ)への金銭獲得の手段,もしくは,組織と個人をつなぐ「生産的」な行為とみなされ,人々は疑問視することなく(社会が許さなかったのだが),そういった価値基準で,自身の労働を捉える他なかった。この労働観が最も浸透したのは,社会の担い手として期待された壮年や中高年だと考えられる。壮年,中高年にとり,自身の失業は「本来あってはならない出来事」で,だからこそ,それだけ重大問題なのである。
 若者の失業と犯罪には関連が確認されなかった。これを,犯罪対策の点で,若者の失業を見過ごしてよい,むしろ中高年の雇用のほうを手厚く保護しろ(もちろん,それも大切だが),と誤解してはならない(青少年は,どの犯罪においても,検挙人員数の大部分を占めている)。むしろ政策として,若者に,社会構成員としての自覚を促し,実社会に必要な知識・技能を習得する機会を提供するべきだろう(「無気力・無関心」としばしば非難される現代若者だが(注24),彼らを育ててきたのは,彼らの親世代である今の中高年にほかならない!)。若者の不安定とも言える社会的地位(就労形態)に対して,何らかの手だてを講じなくては,数十年後,彼らが中高年の域に達するころには,多数の失業者(ひいては「犯罪予備軍」)が生まれてしまう可能性がある。
 遅ればせながら,ここ最近になってメディア等でも,失業や就職難が中高年だけでなく若者にも注目されはじめ,若者への社会支援の必要性が提唱されるようになってきた。しかし現状をみる限り,まだまだ若者の置かれた立場は厳しいと言えよう。


注 1)この議論については,Gottfredson, M. R. & Hirschi, T. (1990) A General Theory of Crime, Stanford University Press, pp. 163-165を参照。

注 2)本稿で失業と犯罪の関係を考えるにあたり,犯罪から失業への再帰的な効果を考慮しないことを断っておく。つまり本稿では,失業と犯罪の関係は双方向的(失業→
←犯罪)ではなく,一方向的(失業→犯罪)であることを想定している。これは,関係の対象面を限定することで,問題を簡明化するという理由からの処理である。失業と犯罪の相互関係については,Hagan, J. (1993) The Social Embeddedness of Crime and Employment. Criminology 31, pp. 465-491を参照。

注 3)Cantor, D. & Land, K. C. (1985) Unemployment and Crime Rates in the Post-World War II United States: A Theoretical and Empirical Analysis. American Sociological Review 50, pp. 318-321. また欧米の実証研究の包括的なレヴューとして,以下の論文があげられる。Chirico, T. G. (1987) Rates of Crime and Employment: An Analysis of Aggregate Research Evidence. Social Problems 34, pp. 187-212; Freeman, R. B. (1983) Crime and Unemployment, in Wilson, J. Q. (eds.). Crime and Public Policy, ICS Press, pp. 89-106.

注 4)緊張理論,合理的選択理論,マルクス主義犯罪学など,多くの代表的犯罪理論もその考え方に依拠している。

注 5)Gottfredson, M. R. & Hirschi, T. op. cit. p. 163.

注 6)LaFree, G. (1998) Losing Legitimacy: Street Crime and the Decline of Social Institutions in America, Westview Press(宝月誠監訳『正統性の喪失:アメリカの街頭犯罪と社会制度の衰退』2002,東信堂).

注 7)Black, D. (1998) The Social Control of the Self. The Social Structure of Right and Wrong. Academic Press, pp. 65-73.

注 8)失業数は,社会システム(労働市場)に参加しようと試みるにもかかわらず,そこから排除されている人の数である。社会制度と社会成員双方の不適応,両者の齟齬から生じた現象である。そういった意味で,失業率とは「社会調和」を示す指標とみなすこともできよう。

注 9)Cohen, L. E. & Felson, M. (1979) Social Change and Crime Rate Trends: A Routine Activity Approach. American Sociological Review 44, pp. 588-608; Cantor, D. & Land, K. C. op. cit. pp. 317-332.

注10)大人の失業が,家庭や地域内の大人と少年の接触機会を増大させ(監督権の増大),それが結果的に少年非行を防止していると考える説もある。Glaser, D. & Rice, K. (1959) Crime, Age, and Employment. American Sociological Review 24, pp. 679-686. 日本の研究に,拙稿の「非行と失業――戦後日本における時系列分析」『犯罪社会学研究』1998,157-172頁がある。

注11)Cantor, D. & Land, K. C. op. cit. pp. 318-323.

注12)Uggen, C. (2000) Work as a Turning Point in the Life Course of Criminals: A Duration Model of Age, Employment, and Recidivism. American Sociological Review 67, p. 530.その理由は,仕事をもつ少年は持たない少年と比べ,非行少年の友だちをより多くもち,様々な犯罪機会を通して非行行為を学習するからだ,と考えられる(Poeger, M. (1997) Youth Employment and Delinquency: Reconsidering a Problematic Relationship. Criminology 35, pp. 659-675)。

注13)犯罪の時系列データには月次データと年次データがあるが,年齢別検挙人員数は月別では編纂されていないので,年次データを使用する。

注14)通常,検挙人口比は犯罪(発生)率を意味しない。その算出のもとになる検挙人員数は検挙率(検挙件数/認知件数),つまり警察の検挙活動の達成度に左右されるからである。認知件数をもとにした犯罪率(10万人あたりの認知件数)のほうが,(暗数をふくめた)実数により近い指標である。しかし犯罪被疑者の属性(性別・年齢など)は検挙されてはじめて確定するから,認知件数には属性による区分はない。したがって年齢を問題にする本研究の場合,犯罪率に近似した指標として,検挙人口比を使用する。

注15)少年の年齢区分について,出所である統計の編纂上,失業率は15-19歳,犯罪率は14-19歳になっている。

注16)総人口と少年の失業率は1955年,それ以外の年齢グループの失業率は1968年から始まっている。『労働力調査報告』を参照。

注17)90年代後半の強盗急増は,警察の少年補導の強化による結果とみる説もある(大村英昭「犯罪データの解読」『非行のリアリティ:「普通」の男子の生きづらさ』2002,世界思想社,2-20頁)。また松宮満「青少年問題の30年(中)――非行第三の波」『月刊少年育成』2000年11月号,38-44頁を参照。

注18)Almon分布ラグは,分布ラグ係数βiを多項式で近似する。



すなわち(n+1)個の分布ラグ係数βiを,p個の係数ωiに置き換えて推定する。本分析のモデルは一律に,4期のラグを入れて,2次の多項式を使った推定である。またラグ推定に最遠点の制約をくわえた(つまりβ4=0)。
 時系列データの回帰式の場合,その誤差項(μt)の間に高い相関(自己相関)をとる傾向にある。この誤差項の自己相関を処理するため,本分析は最小2乗推定法(OLS)の代わりに最尤推定法(GLS)を利用する。これは誤差項にあらかじめ自己相関の存在を仮定したモデルで推定する方法である。すなわち本文中の分布ラグモデルの回帰式に以下の式が加わることになる。

 μt=ρμt-1+εt

μtは自己回帰AR(1)モデルを使って表現される誤差項,εtはホワイトノイズ(互いに独立した確率変数)である。
 分析に際して,次の文献を参考にした。森棟公夫(1999)『計量経済学』東洋経済新報社;縄田和満(1997)『TSPによる計量経済分析入門』朝倉書店;和合肇・伴金美(1995)『TSPによる経済データの分析(第2版)』東京大学出版会。

注19)時間的関連があるかどうかを検定するための統計値。2前後であれば,時間的関連はなく,回帰分析の前提を満たすとされる。

注20)地域・集団を測定単位とするデータの結果から個人の間の関係を推測するのは誤りであることをさす。森岡清美・塩原勉・本間康平編(1993)『新社会学辞典』有斐閣,860頁を参照。

注21)たとえば,Chirico, T. G. 1987. op. cit. pp. 187-212.

注22)Lafree, G. & Drass, K. A. (1996) The Effect of Changes in Intraracial Income Inequality and Educational Attainment on Changes in Arrest Rates for African Americans and Whites, 1957-1990 American Sociological Review 61, pp. 614-634.

注23)前歴者を対象とした職業訓練で,以下のような興味深い実験結果がある。仕事があたえられた27歳以上の前歴者は同年代の無職の前歴者よりも再犯率が低く,また,10代,20代前半の前歴者には,仕事の同様の効果は確認されなかった,というものである。Uggen, C. op. cit. pp. 529-546.

注24)諸外国と比べて,成人の犯罪率の「異常」ともいえる低さが,少年の非行・犯罪を際立たせ,結果的に少年が注視の的となっていると考えられる。松本良夫(1999)「我が国の犯罪事情の特異性について――検挙人員「少年比」の異常高に関する考察」『犯罪社会学研究』129-147頁;原田豊(2000)「犯罪・非行からみた日本の子供と大人」『山
由雲 李漢教教授 定年論文集』399-414頁を参照。


 つしま・まさひろ 龍谷大学社会学部講師。主な論文に「社会学における交差相関分析の可能性――警察・犯罪の時系列データを例に」『龍谷大学社会学部紀要』第21号,2002年など。犯罪社会学専攻。