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(著者抄録)
本稿では1991年から2000年にかけてのパートタイム労働者の雇用拡大を、雇用創出と雇用喪失の視点から分析した。経済全体でみると、95年以降フルタイム労働者は雇用純減、パートタイム労働者は雇用純増が続いており、パートの雇用拡大がフルタイムの雇用減少を生んでいるように見える。実際、パートタイムの雇用創出の視点からみると、90年代後半にはその4割以上がフルタイムの雇用減少を伴っており、「人件費削減のため正社員を減らしてパートの採用を増やす」という説明は、パートの雇用拡大の要因のひとつと考えられる。しかし一方で、フルタイムの雇用の8割以上がパートタイムの増加とかかわりなく失われ、パートタイムの雇用の半分以上はフルタイムの雇用喪失を伴わずに増えている。このとき「正社員を減らしてパートの採用を増やす」という説明が説得力をもつとは言い難い。企業の生産に影響を与える技術変化など、別の要因もまた、考慮されなければならない。
(論文目次)
I はじめに
II データと分析の方法
III パートタイム・フルタイム別の雇用創出・喪失の動向
IV フルタイム労働者の雇用とパートタイム労働者の雇用の関係
V パートタイム雇用拡大の背後で何が起こっているのか
VI おわりに

I はじめに

 本稿では1990年代のパートタイム労働者(以下,「パートタイム」または「パート」と書くこともある)の雇用拡大の背景を,雇用創出と雇用喪失の視点から分析する。特にパートタイム労働者の雇用動向の特徴を明らかにするために,事業所レベルでのパートタイム労働者とフルタイム労働者(以下,「フルタイム」または「フル」)の雇用変動の関係を探る。
 総務省の「就業構造基本調査」によると,パートタイムをはじめとする非正規労働者の雇用者に占める割合は,女性で1992年の34.7%から,42.2%(1997年),50.7%(2002年)と急上昇している。男性も,90年代には8.9%(1992年),10.1%(1997年)と緩やかな上昇傾向であったが,2002年の調査では14.8%と,5%近くも上昇した(注1)。このような非正規労働者の増加に対して,正規労働者は90年代後半以降その割合だけでなく量も減少している。同じ調査の「役員を除く正規の職員・従業員」の数は,1997年の3854万人から2002年には3456万人へと,5年間で約1割減少している。
 パートタイム労働者の雇用拡大は「人件費削減のために正社員を減らしてパートの採用を増やす」と言われるように,その背後でフルタイム労働者の雇用の縮小を生んでいるとの指摘がある。しかし,経済全体でパートが増加して正社員が減少しているからといって,事業所内部で同様のことが起こっているかどうかは自明ではない。パートをはじめとする非正規労働者は,卸売・小売・飲食店,サービス業,製造業などの産業で多く雇用されている(注2)。これらの産業で非正規労働の雇用はどのように拡大し,正社員との数量的な関係はどうなっているのだろうか。労働市場全体についての正確な議論をおこなうためには,無視できない大きさを占めるようになったパートその他の非正規労働が,どのように拡大してきたのかについての正確な理解が必要となる(注3)。
 本稿では,パートタイム雇用の拡大の要因を探るため,パートタイム労働者の雇用創出と雇用喪失を,フルタイム労働者と区別した上で考察する。さらに,事業所調査の個票データを特別集計する機会を生かし,事業所内でのパートタイム労働者の雇用の拡大とフルタイム労働者の雇用動向の関係に注目する。
 パートタイム労働者とフルタイム労働者とのかかわりについての先行研究には,たとえばFarber(1999)やHouseman and Abraham(1993)などがある。Farber(1999)は,失業者が新しい職を得るまでの過程でのパートタイム労働を含む非正規労働の役割を分析している。Houseman and Abraham(1993)は,「パートタイマーなどを多く含む女性労働者は雇用調整のためのバッファー」という議論を日本のデータで検証し,製造業についてこれを支持する結果を得ている。
 日本の労働市場で,パートタイム労働者からフルタイム労働者への置き換えが行われているという議論について,労働省(1999,2000)は『労働白書』のなかで本稿と同じく「雇用動向調査」の特別集計から事業所の割合を考察し,事業所の割合から考えると,このような置き換えは量的に大きくはないとしている。同様な目的意識による実証分析としては,宮本・中田(2002)がある。宮本等は大型百貨店を対象に,パートが増えることで正社員の雇用が削減されるという関係は,個別企業レベルでは必ずしも成立しないという結果をえている。むしろパートの比率が高いほど正社員の希少価値を高め,結果的に正社員の削減確率を低下させているという。また原(2003)は,「Hicksの補完の偏弾力性」を用いて,正社員とパートが企業の生産において補完的であるのか代替的であるかを分析している。その結果,正社員とパートは1000人以上の大企業では補完的,30人以上100人未満の規模の企業では代替的であった。
 これらの先行研究と比べた本稿の特徴は,パートタイム労働者とフルタイム労働者とのかかわりを,雇用創出と雇用喪失の視点から分析することにある。それによって,フルタイム労働者の雇用喪失とパートタイム労働者の雇用創出のうち,どの程度が,パート増加とフルタイム減少のあった事業所から生じていたかを数量的に把握できる。
 本稿の構成は以下の通りである。IIでは本稿で用いるデータと分析の方法を説明する。IIIではフルタイム労働者およびパートタイム労働者の雇用創出率・喪失率について,それぞれの産業・企業規模による特徴を確認する。IVでは,事業所内でのフルタイム労働者とパートタイム労働者の雇用創出・喪失の関係を分析する。Vでパートタイム雇用拡大の背後で何が起こっているかを考察し,VIで本稿の結果を整理する。


II データと分析の方法

 本章の分析の基本となる雇用創出率・喪失率は,先行研究にならい,一般的に以下のように定義される(注4)。




 以下の分析では,厚生労働省「雇用動向調査」の「事業所票」の1991年から2000年までの個票データを使用した。「雇用動向調査」では常用労働者5人以上の事業所を対象に,毎年標本抽出した事業所について,雇用者の流入・流出の状況を上期(1~6月)と下期(7~12月)に分けて調査している(注5)。調査事業所数は1万から1万4000程度である。本章の分析では,計測の単位を1年とするため,上期と下期の2度の調査の両方とも回答している事業所のみを分析の対象とした。また計算の結果,前期末の就業者数がマイナスになる事業所は分析から除外した(注6)。調査対象は農林漁業を除く全産業だが,ここでは官公営を除き,民営の事業所についての分析に限定した。
 パートタイム労働者は,「雇用動向調査」では「常用労働者のうち1日の所定労働時間がその事業所の一般労働者より短い者,または1週の所定労働日数が少ない者」と定義されている。フルタイム労働者の数は,事業所の常用労働者数からパート労働者数を除いたものとした。したがって,この分析でのフルタイム労働者には,フルタイムの有期契約社員で契約更新されている労働者が含まれる。またパートやアルバイトの呼称でも短時間労働でない者も含まれる。すなわち,本稿でのフルタイム労働者は,就業構造基本調査と正規労働者とは定義が異なり,同調査で非正規に分類される労働者を一部含んでいる。
 「雇用動向調査」の調査対象は,従業員が5人以上事業所なので,従業員が5人未満事業所の動向は分析に反映されていない。またこの調査は存続事業所を対象としているので事業所の新設や閉鎖による雇用の動向も,この分析のなかには含まれていない(注7)。


III パートタイム・フルタイム別の雇用創出・喪失の動向

 就業形態別の雇用創出率・喪失率は,(1)式と(2)式をフルタイム労働者およびパートタイム労働者についてそれぞれ計測することで求められる。
 図1は1991年から2000年までの,フルタイム労働者と,パートタイム労働者それぞれの雇用創出率(JCR)と雇用喪失率(JDR)である。多くの先行研究で確認されているようにパートタイム労働者の雇用創出率・喪失率はフルタイム労働者のそれと比べて大きい(注8)。また1991,1992年のパートの雇用創出率は,それ以降の雇用創出率や雇用喪失率と比べて大きい。90年代はじめにパートタイム労働者の雇用が大きく増加したことがわかる。

図1 就業形態別雇用創出率・喪失率

 雇用創出と雇用喪失の差を比較すると,1992年以前はフルタイムもパートタイムも雇用純増,1993,1994年は両方とも雇用が純減している。1994年以前は,フルとパートの雇用純増減が毎年同方向に変化していた。これに対して1995年以降,フルタイム労働者は雇用純減,パートタイム労働者は雇用純増が続いている。1990年代半ば以降,経済全体でフルタイムの雇用が縮小してパートタイムの雇用が拡大していることが確認できる。
 次に産業別および企業規模別の動向をみる。表1-aでは,雇用者の割合が相対的に大きい6産業それぞれの雇用純増率(NCR)の推移を示している。フルタイム労働者の雇用純減とパートタイム労働者の雇用純増が同時に起こる,すなわちフルタイム労働者の雇用縮小と同時にパートタイム労働者の雇用が拡大する現象は,1995年以降ほぼ全産業で観察される。1999年には,6産業すべてで,フルが雇用純減,パートが雇用純増となっている。また,金融・保険業は1996年以降毎年フルタイムの雇用を縮小してパートタイムの雇用を拡大している。

表1-a 産業別雇用純増率

 表1-bは企業規模別のパートとフルの雇用純増率の推移を示している。1995年以降,全企業規模で複数年,フルタイムの雇用純減とパートタイムの雇用純増が同時に観察される。とくに30-99人規模企業は,1999年まで5年間続けてフルタイム労働者の雇用を縮小しパートタイム労働者の雇用を拡大している(注9)。

表1-b 企業規模別雇用純増率


IV フルタイム労働者の雇用とパートタイム労働者の雇用の関係

 前節では,1990年代後半に経済全体でフルタイムの雇用が縮小してパートタイムの雇用が拡大していることを確認した。またこの現象は,ほぼ全産業・企業規模で起こっていることがわかった。本節では,個別事業所レベルでみた,パートタイムの雇用とフルタイムの雇用動向の関係を考察する。
 図2には5人以上事業所全体に占めるパートタイム労働者を雇用する事業所の割合が示されている。パートを雇用する事業所は全事業所の約半分にすぎない。パートを雇用する事業所の割合は,1990年代後半,ゆるやかに増加する傾向はみられるが,最も割合の大きい2000年でも52%にすぎない。Iで確認したように,1990年代を通じてパートの雇用は拡大しているが,パートを雇用する事業所の割合は,それほど増加しているとは言えない。

図2 事業所の割合

 そもそもパートタイム労働者を雇用する事業所と雇用しない事業所で,どのような違いがあるのだろうか。パートタイム労働者を雇用しているか否かを規定する個別事業所要因をロジット分析によって推計した。説明変数としては,産業や企業規模ダミーに加え,各事業所のフルタイム労働者の雇用状況も加えた。事業所のフルタイム労働者の雇用状況に関する変数としては,フルタイム労働者の入職率,離職率,雇用創出かどうか,雇用喪失かどうかを検討する。ダミー変数のリファレンス・グループは製造業および企業規模1000人以上である。
 表2は2000年についての分析結果である。パートタイムを雇っていない確率が高いのは,産業別では建設業,電気・ガス・熱・水道業,運輸・通信業,不動産業などである。企業規模別では,従業員30人未満の事業所でパートを雇っていない確率が高い。いうまでもなく事業所の圧倒的多数は企業規模30人未満の事業所であり,それが図2でみたような事業所の半数がパートを雇っていないといった状況をつくりだしている。言いかえると,パートの雇用は,もともとパートを雇用している比較的規模の大きい企業で拡大していると考えられる。

表2 パートタイム労働者を雇用するかどうかについてのロジット分析(2000年)

 フルタイム労働者の雇用状況としては,フルタイムの入職率や離職率が高い事業所ほどパートを雇っている確率が高い。フルタイムの入離職率が大きいほどパートが雇用されているのには,少なくとも2種類の解釈が可能だろう。第1に,フルタイムの入離職率が大きい事業所では,安定した雇用者数の確保をパートの活用で実現しているというものである。第2には,フルタイムの入離職が激しい事業所では,フルタイムにも企業特殊的な熟練が蓄積されていないため,その業務はパートが代わりに務めることが可能な場合である。さらにフルタイムの雇用が拡大している事業所は,パートタイム労働者を雇用する確率が有意に高い。正社員が拡大する際には,その業務を補足するためのパートタイムの雇用が求められているのかもしれない。
 同じ推計を1991年から1999年まで毎年行った結果,1990年代を通じてフルタイム雇用の増減にかかわらず,フルタイム労働者の雇用の流動性が高い事業所で,パートタイム労働者を雇用する確率が高いことがわかった。逆に,フルタイムの転出入が少ない事業所では,時点にかかわらず,パートが雇われていない確率が高くなる。
 ふたたび図2をみる。点線で示されているのは,5人以上事業所のうち,パートタイム労働者の雇用創出とフルタイム労働者の雇用喪失が同時に起こっている事業所の割合である。1990年代を通じて,その割合は3%台後半からせいぜい6%強にすぎず,上昇の傾向もみられない。内部でパートタイム労働者の増加とフルタイム労働者の減少が同時に生じている事業所の割合は,非常に少ないのである(注10)。では,フルタイムの雇用はどこで縮小し,パートタイムの雇用はどこで拡大しているのだろうか。この少数の事業所の動向が経済全体に影響していると考えられるのだろうか。
 そこでフルタイムの雇用変動を,事業所内部のパートタイム雇用の有無およびその増減状況別に分析した。フルタイム労働者の雇用創出・雇用喪失は,パートタイム労働者の雇用創出事業所,雇用喪失事業所,雇用の変化のない事業所,およびパートタイム労働者を雇用しない事業所にグループ化できる。図1で示したフルタイムの雇用創出率と喪失率を,グループごとに区分した結果が,図3-aと図3-bである(注11)。

図3-a フルタイム労働者の雇用創出率の分解
図3-b フルタイム労働者の雇用喪失率の分解

 図3-aより,1990年代を通じてフルタイムの雇用創出率が大きく低下しているのは,パートを雇用していない事業所(p=0&df>0)であることがわかる。同様に,図3-bをみると,フルタイム雇用が長期的に縮小しているのもパートタイムを雇用していない事業所(p=0&df<0)である。フルタイム雇用の減少が顕著なのはパートタイム労働者がそもそも雇用されていない事業所なのである。それ以外では,パートもフルもともに減っている事業所(dp<0&df<0)でのフルタイムの雇用喪失率が大きい。1991年に0.53%だったこのタイプの事業所からのフルタイム雇用喪失率は,2000年には1.02%とほぼ倍増している。
 それに比べて,パートタイムの雇用を拡大している事業所でのフルタイムの雇用喪失率(dp>0&df<0)の上昇は,限定的である。図3-bをみると,パートが増加した事業所でのフルタイムの雇用喪失率は90年代を通じて1%弱だった。1994年にはフルタイムの雇用喪失率4.32%のうち,10.9%に相当する0.47%が「dp>0&df<0」の事業所グループから生じていた。それが2000年時点になると,フルタイムの雇用喪失のうち,17.2%(=0.88/5.11)が,「パート増大・フルタイム減少」事業所から生じている。たしかにフルタイムの雇用喪失に占めるパート増加事業所の影響は増大してはいるものの,2000年時点でも「p=0&df<0」のフル雇用喪失率2.41%と比べれば3分の1強にすぎない。90年代を通じてフルタイムの雇用喪失のうちパートタイムの雇用拡大を事業所内部で伴うのは1~2割なのである。
 一方,パートタイム労働者の雇用創出と雇用喪失をフルタイムの雇用増減によって分解すると,以上の結果と一見矛盾するような結果が得られる。すなわち,パート増加の少なからぬ部分がフルタイムの雇用喪失事業所から生じているのである。
 図3-cをみると,パートの雇用創出率の相当部分がフルタイムの雇用が減少した事業所(dp>0&df<0)から生じている。1995年にはパートの雇用創出率8.83%のうち,ほぼ半数の49.0%に相当する4.33%がフルタイムの減少事業所が寄与部分となっている。同じ寄与率を1991年と2000年で比べても33.5%(=3.80/11.34)と43.0%(=3.49/8.11)であり,長期的な上昇度合いも大きい。特に1995年以降は,フルタイム減少事業所でのパート雇用創出率が,フルタイム増加事業所(dp>0&df>0)でのパート雇用創出率を上回り続けている。90年代後半には,パートの雇用増加の半分近くがフルタイムが減少した事業所から生じていたのである。

図3-c フルタイム労働者の雇用創出率の分解
図3-d フルタイム労働者の雇用喪失率の分解

 フルタイムの減少にパートの拡大を伴っている場合が少ないのに対し,パートの増加がフルタイムの減少を多く伴っているという結果が90年代後半以降に両立するのは,なぜだろうか。それは図2で確認したように経済全体では依然としてパートタイム労働者を雇っていない事業所が多く存在するからである。フルタイムが減少している事業所には,パートが増えた事業所もあるが,それにも増してそもそもパートを雇用していない事業所が多いのである。
 本節の最後に,パートタイム労働者の雇用が創出され,フルタイム労働者が雇用を喪失している事業所は,どのような産業や企業規模でみられるのかを確認する。フルタイム労働者とパートタイム労働者の両方を雇用する事業所について,その特徴を多項ロジット分析で確かめた。被説明変数は,パートタイム労働者の雇用創出事業所(dp>0),雇用喪失事業所(dp<0),雇用の変化のない事業所(dp=0)の3タイプ,およびフルタイム労働者の雇用創出事業所(df>0),雇用喪失事業所(df<0),雇用の変化のない事業所(df=0)の3タイプを組み合わせたいずれかのタイプの事業所であるかどうかとし,リファレンス・グループはフルタイム労働者・パートタイム労働者とも雇用の変化のない事業所(dp=0&df=0)とした。説明変数には事業所のパートタイム労働者比率の他,産業大分類ダミーと企業規模ダミーを用いた。ダミー変数のリファレンス・グループは卸売・小売・飲食店および企業規模1000人以上である。
 表3は2000年についての多項ロジット分析の結果を示した。パートタイム労働者が雇用創出をしてフルタイム労働者が雇用を喪失した事業所(dp>0&df<0)については,製造業とサービス業の確率が高い。また企業規模が大きいほど,このタイプの事業所である確率が高くなる(注12)。またフルもパートも減少した事業所(dp<0&df<0)は,製造業で確率が高い。

表3 事業所内のフルタイム労働者およびパートタイム労働者の雇用変化に関する多項ロジット分析



V パートタイム雇用拡大の背後で何が起こっているのか

 「人件費削減のために正社員を減らしてパートの採用を増やす」という説明は,経済学的には,以下のように考えられる。パートの正社員にたいする相対賃金が低下したため,企業の生産において最適な正社員およびパートの雇用量が変化した。企業は新たな相対賃金の下での最適な雇用量を実現するために,調整をおこなう。このときパートと正社員は代替的であるために,正社員の雇用量は減少しパートの雇用量は増加する。
 この説明にはいくつかの仮定が含まれている。パートの相対的な賃金が低下したこと,および正社員とパートが代替的であることなどである。大竹(2000)や篠崎(2001)によると,1980年代以降正社員とパートのあいだの賃金格差にはゆるやかな拡大傾向がみられる。すなわち,パートの相対的な賃金の低下,という仮定が観察されている。またIIIで確認したように,経済全体,あるいは産業別の雇用動向をみると,フルタイムの雇用が減少しパートの雇用が拡大しているので,上記の説明は説得力を持つ。
 しかし,宮本・中田(2002)や原(2003)によると,事業所レベルの分析では,パートタイム雇用の割合の大きい小売業・サービス業や大企業で,正社員とパートが代替的であるよりもむしろ補完的である可能性が高い。そこで別の説明が考えられる。たとえば,賃金以外の要因で企業の生産関数自体が変化し,それに伴って労働需要が変化している可能性である。このとき正社員とパートは補完関係にあるが,その他の生産要素,たとえばIT資本とは,正社員よりパートのほうがより補完的であれば,IT資本の増加とともにパートの需要が増える。企業のIT化により生産技術が変化して,訓練の時間を必要としない安価な労働力(パート)をより多く需要するようになった,というような説明はその一例である(注13)。
 では1990年代の経済全体のパートタイムの雇用拡大とフルタイムの雇用縮小の要因についてどのように考えればよいのだろうか(注14)。個別事業所の「異質性」が,ここで重要になる。IVでみたように,パートタイムの雇用創出の視点からみると,90年代後半にはその4割以上がフルタイムの雇用減少を伴っているので,「正社員を減らしてパートの採用を増やす」という説明が全く説得力がないとはいえない。製造業やサービス業,大企業などでこのような事業所が多く観察される。したがって,この説明は1990年代のパートタイム雇用の拡大の要因のひとつであると考えられる。しかし一方で,フルタイムの雇用の大部分はパートの増加とはかかわりなく失われ,パートの雇用の半分以上はフルの雇用喪失を伴わずに増えている。これらを説明するには,別の説明が必要である。上記の技術変化の例のほかにもさまざまな説明が考えられる。
 最後に,なぜ相対的な賃金が低下するのか,という疑問が残る。これ自身,十分なデータを用いて解明されるべき問題であるが,要因のひとつとして需要の増加以上に供給が増加していることが考えられる。図4には,非正規労働者のうち,20歳代の割合と有配偶女性の割合の推移が示されている。「就業構造基本調査」によると,非正規就業をしている有配偶女性の数は1992年の522万人から642万人(1997年),733万人(2002年)と増加している。しかし図4をみると,2002年に有配偶女性の割合が減り,1997年以降20歳代の割合が増えていることがわかる。非正規労働の担い手となってきた有配偶女性は,量的には増加しているのだが,それ以上に若年層などの他の労働力が大量に非正規労働市場に参入していることがわかる(注15)。

図4 非正規労働者に占める20歳代と有配偶女性の割合



VI おわりに

 本稿では1991年から2000年にかけてのパートタイム労働者の雇用拡大を,雇用創出と雇用喪失の視点から分析した。経済全体でみると,パートタイム労働者とフルタイム労働者の雇用純増減は1991年から95年までは同方向に変化していたのに対し,95年以降フルタイム労働者は雇用純減,パートタイム労働者は雇用純増という傾向が続いている。1995年以降の動向を産業別・企業規模別にみても,ほとんどの産業と企業規模でフルタイム労働者の雇用縮小とパートタイム労働者の雇用拡大が同時に起きている。
 しかし個別事業所レベルの動向をみると,経済全体の動向とは異なることが起こっている。フルタイム労働者が減少し,同時にパートタイム労働者が増加している事業所の割合は,全事業所の3%後半から6%程度であり,長期的な増加傾向もみられない。またパートタイム労働者を実際に雇用している割合は,5人以上の全事業所の半数程度にすぎない。
 そこで事業所レベルでのフルタイムとパートタイムの雇用動向の関係について雇用創出・喪失分析を用いて考察した。まずフルタイム労働者の雇用創出・喪失をパートタイム労働者に関する雇用の有無およびその増減ごとに事業所グループを分解したところ,1990年代を通じてフルタイム労働者の雇用喪失(創出)率の上昇(低下)が最も著しかったのは,パートタイム労働者が雇用されていない事業所だった。これに比べてフルタイムの雇用喪失に占めるパート拡大事業所の寄与部分は全体の1~2割にすぎず,影響は限定的である。
 この結果は,「フルタイム労働者の雇用を減らしてパートタイム雇用を増やす」という説が1990年代を通じて,必ずしも支持されないことを意味する。むしろフルタイム雇用の減少が最も顕著なのは,Houseman and Abraham(1993)が主張したような変動ショックの調整弁としてのパートタイム労働者がそもそも雇用されていない事業所である。
 ところがパートタイムの雇用創出の視点からみると,「パートタイム労働者の雇用機会の増加の多くはフルタイム雇用が減少した事業所から生じている」という説は,必ずしも否定されない。パートタイムの雇用創出率を,フルタイム労働者の雇用増減別の事業所グループに分解したところ,1995年以降は,パート雇用の増加はフルタイム雇用の減少した事業所がフルタイム雇用の増えた事業所を大きく上回る。パート全体の雇用創出率のうち,フルタイムの減少事業所が寄与した部分は,1991年の34%から95年で49%,2000年に43%と,上昇したのである。
 以上のことから,フルタイムの減少の多くはパートタイムの増加を伴っていないのに,パートタイムの増加の多くはフルタイムの減少を伴っていることがわかる。1990年代後半のように,事業所の大部分でフルタイムの雇用が減少し,パートについては雇用の拡大している事業所だけでなく,減少または採用していない事業所も多数存在していれば,このような状況は起こりうる。
 以上の分析結果を通じて,個別事業所の「異質性」の重要性もまた確認された。パートタイムの雇用創出の視点からみると,1990年代後半にはその4割以上がフルタイムの雇用減少を伴っており,「正社員を減らしてパートの採用を増やす」という説明は,パート拡大の要因のひとつと考えられる。しかし一方で,フルタイムの雇用の8割以上がパートの増加とかかわりなく失われ,パートの雇用の6割はフルの雇用喪失を伴わずに増えている。このときに「正社員を減らしてパートの採用を増やす」という説明が説得力を持つとは言い難い。企業の生産に影響を与える技術変化など,別の要因もまた,考慮されなければならない。
 最後に本稿の限界を挙げておく。第1にフルタイム労働者とパート労働者など,異なる生産要素間の代替性・補完性の計測について,経済学の歴史は浅くない。代表的な方法としては,ある生産関数を想定して相対的な価格(賃金)が変化したとき生産要素(労働)量がどのように変化するかを分析する方法があげられる(注16)。本稿は,このような方法ではなく雇用創出・喪失分析を応用し,個別事業所の「異質性」を数量的に把握することを目標とした。したがって経済学的な代替・補完関係は,本稿の分析ではわからない。
 第2に本稿では「雇用動向調査」の調査対象であるパートタイム労働者とフルタイム労働者の同一事業所内での関係を分析した。しかし,同じ事業所で働く派遣労働者や請負労働者は,この調査の調査対象ではないので,同一事業所内でのフルタイム労働者とこれらの労働者の関係を分析することはできなかった。より正確な非正規労働の動向を把握するためには,90年代後半に増加した派遣労働者や請負労働者を含んだ分析が必要だろう。

*本論文は,内閣府経済社会総合研究所による「21世紀の経済社会システム研究プロジェクト」の一つである労働経済ユニット(代表者:玄田有史客員主任研究官)における調査として,同研究所にて認められた「雇用動向調査」の特別集計に基づいている。本稿の内容は,その成果である内閣府経済社会総合研究所『経済分析』第168号(2003年3月)第3章にて報告されている。この論文を加筆・修正しこのようなかたちで発表することを快諾してくださった共著者の玄田有史氏(東京大学)に感謝する。また佐々木和裕氏(元内閣府経済社会総合研究所,現東京国税局),神林龍氏(東京都立大学)をはじめとする内閣府経済社会総合研究所のプロジェクトのメンバーには,論文作成の過程でたいへんお世話になった。さらに,内閣府のワークショップにおいて,大橋勇雄氏(一橋大学),中村二朗氏(東京都立大学),大竹文雄氏(大阪大学),阿部正浩氏(獨協大学)から貴重なコメントをいただいた。また本誌編集委員である佐藤博樹氏より多くの重要なご指摘をいただいた。深く感謝申し上げる。ただし,本稿にありうべき誤謬は筆者の責任によるものである。

1)http://www. stat. go. jp/data/shugyou/2002/kakuhou/youyaku. htm
2)2002年の「就業構造基本調査」によると,非正規就業者が雇用されている産業は,卸売・小売業(25%),製造業(15%),その他のサービス業(15%)である。産業全体の役員を除く雇用者に占める非正規就業者の割合が大きいのは,飲食宿泊業(67%),卸売・小売業(44%),その他のサービス業(39%)である。
3)パートタイム労働者増加の要因については,Zeytinoglu(1992)等。
4)ここではGenda(1998)を参考にした。
5)「雇用動向調査」は標本調査であるため,事業所の産業や規模に基づいて設定された事業所の抽出率を用いて,経済全体の状況を復元している。分析では復元した数字を使っているが,本調査での推計乗率はパートタイム労働者について考慮されていないので,分析にはある程度の誤差があると考えられる。
6)パートタイム労働者に関してこのような事業所がいくつかみられた。
7)5人未満事業所および事業所の開廃を含む分析については,照山・玄田(2002)や玄田ほか(2003)第1章でおこなわれている。
8)Genda(1998)等。
9)ただし規模別に雇用純増減を比較する際には,size distribution fallacy, netting-out reality, regression fallacyといった誤謬にその解釈がさらされる可能性があることは,否定できない。詳しくはGenda(1998)や玄田ほか(2003)第1章を参照。
10)平成11年および平成12年労働白書は同様の分析をおこなっている。
11)図3-a(b)内の各数値の分母は,年初のフルタイム労働者全体で共通である。また各グループを年ごとに集計した値と図3-1の値がわずかに異なるのは,パートの雇用変動状況が不明な事業所が一部含まれるためである。図3-c(d)も同様である。
12)パートが増え,フルタイムが減った事業所の割合を単純集計すると,企業規模別では5-29人の規模でその割合が抜きん出て低い。1991年から2000年の平均で5-29人規模は事業所全体で52.9%を占めるが,パート増・フル減の事業所に占める5-29人の割合は35.0%にすぎない。産業別では卸売・小売・飲食とサービス業でパート増・フル減の事業所割合が相対的に高く,ともに30%弱を年平均で占める(事業所全体の構成はともに約25%である)。
13)原(2003)にも同様の指摘がある。ただし,Griliches(1969)やFallon and Layard(1975)など多くの実証研究の蓄積によると,熟練労働力のほうが未熟練労働力よりも資本と補完的という結果が得られている。正社員は熟練労働力,パートは未熟練労働力と考えられるので,ここでの考え方とは逆の結果になっている。
14)個別事業所の異質性については,Davis, Haltiwanger, and Schuh(1996)でも強調されている。
15)「就業構造基本調査」によると,20歳代の非正規労働者の人数は1992年に189万人,1997年に269万人,2002年には373万人に増加している。
16)原(2003)はこの方法を用いてパートと正社員の代替・補完関係を計測している。


参考文献

 Davis, S., J. Haltiwanger, and S. Schuh (1996) Job Creation and Destruction, Cambridge: MIT Press.
 Fallon, Peter and Richard Layard (1975) Capital-Skill Complementarity, Income Distribution, and Output Accounting, Journal of Political Economy 83, April, 279-301.
 Farber, Henry S. (1999) Alternative and Part-Time Employment Arrangements as a Response to Job Loss, Journal of Labor Economics, Vol.1 No.4, pp. S142-S169.
 Genda, Yuji (1998) Job Creation and Destruction in Japan, 1991-1995, Journal of the Japanese and International Economies 12, No.1, pp.1-23.
 Griliches, Zvi (1969) Capital-Skill Complementarity, Review of Economics and Statistics 51, November, pp.465-468.
 Houseman, Susan N. and Katharine G. Abraham (1993) Female Workers as a Buffer in the Japanese Economy, American Economic Review Papers and Proceedings, Vol.83 No.2, pp.45-51.
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玄田有史・照山博司・太田聰一・神林龍・石原真三子・瀬沼雄二・佐々木和裕・阿部健太郎・草嶋隆行・森藤拓(2003)「雇用創出と失業に関する実証研究」『経済分析』168号,内閣府経済社会総合研究所。
篠崎武久(2001)「1980~90年代の賃金格差の推移とその要因」『日本労働研究雑誌』494号,pp.2-15。
照山博司・玄田有史(2002)「雇用機会の創出と喪失の変動――1986年から1998年の『雇用動向調査』に基づく分析」『日本労働研究雑誌』499号。
原ひろみ(2003)「正規労働と非正規労働の代替・補完関係の計測――パート・アルバイトを取り上げて」日本経済学会春季大会発表論文。
宮本大・中田喜文(2002)「正規従業員の雇用削減と非正規労働の増加」『リストラと転職のメカニズム』玄田有史・中田喜文(編),東洋経済新報社。
労働省(1999)『平成11年労働白書』。
労働省(2000)『平成12年労働白書』。


 いしはら・まみこ 城西大学経済学部専任講師。主な論文に「パートが正社員との賃金格差に納得しない理由は何か」(共著,『日本労働研究雑誌』512号)など。労働経済学専攻。