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(著者抄録)
企業の募集採用に関する年齢制限緩和政策は、早くから行政当局による指導や誘導の形で取り組まれてきていた。雇用対策法改正によって一昨年に実現された今回の政策は、エイジフリーの考え方に立つという点でより一歩進んだものといえる。これまでの成果は、必ずしも十分とはいえないが、企業の求人行動に少しずつ影響を与えてきているものと考えられよう。しかし、努力義務にとどまることや例外事項の判断基準が明確でないことなどから、政策の実効性を高めるためには課題が多い。義務づけの強化などの提案が出されているが、政策の実効性を高めるためにも説明義務の付加など手続き的な改善が検討課題となる。また、企業が求人年齢に制限を設けることの理由としては、わが国におけるこれまでの雇用慣行や人事制度の特質に大きく依存していることから、その改革も環境整備として不可欠であることに留意すべきである。
(論文目次)
I はじめに
II 年齢制限緩和策の経緯と政策的位置づけ
  1 中高年齢者の雇用率設定
  2 「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」以後の動き
  3 4野党共同提案による年齢差別禁止立法
  4 これまでの年齢制限に関する政策の特徴
III 今回の年齢制限緩和策とその効果
  1 求人年齢制限緩和策の内容
  2 求人年齢制限緩和策の効果(法施行時の状況)
  3 求人年齢制限緩和策の強化
IV 年齢制限緩和の必要性と問題点
  1 年齢制限を緩和すべき政策的理由
  2 企業が求人年齢制限を設ける理由
  3 年齢制限と企業の人事管理の関係
V 年齢制限撤廃をめぐる政策的課題
  1 今回の年齢制限緩和策の問題点
  2 年齢制限是正の強化の方向
  3 年齢制限是正の環境整備
VI むすび-今後の課題

I はじめに

 「年齢にかかわりなく働ける社会」に関する議論が,わが国でも活発化している。その背景には,言うまでもなく少子高齢化が急速に進展していることがある。とりわけ,団塊の世代が50歳台後半にさしかかるに至り,社会問題としても大きくなってきたといえる。加えて欧米の動向がある。米国に加えて,欧州においても雇用における年齢差別禁止問題は急速にクローズアップされてきた。
 わが国においても,政府は,「年齢にかかわりなく働ける社会に関する有識者会議」を開催し,雇用におけるエイジフリーの論議を一歩進めた。年齢よりも能力を評価軸にし,多様な能力を生かす働き方を選べるよう,条件整備を図る雇用対策の拡充が必要だというのがその結論である。本年に入ってからも,「今後の高齢者雇用対策に関する研究会」において,60歳定年後の継続雇用の推進とあわせてこの年齢制限問題が取り上げられ,その検討報告書(以下「研究会報告」という)が取りまとめられたところである。
 現状では,定年制の廃止あるいは諸外国と同様な形の雇用における年齢差別禁止法を導入することについては,まだ反対論が根強い。環境整備が整っていないなかでは,かえって混乱を招きかねないという考え方である。「年齢にかかわりなく働ける社会」の理念には総論として等しく賛同を得るものの,その具体化にまだ多くの課題を残すのが現状である。
 しかし,当面する厳しい雇用情勢の中で,とりわけ再就職が困難な状況にある高齢者の雇用機会の確保に対しては,これを放置できないというのも大方の認識の一致するところだといえよう。とくに,再就職活動にあたって募集・採用に一定の年齢制限がつけられることによって,中高年齢者の門戸がことさらに狭められている実態を改善することは,急務の政策課題となっている。
 こうしたなかで,2001年4月に雇用対策法が改正され,事業主の募集・採用における年齢制限の緩和の努力義務が規定され,この義務に適切に対処するための指針が同年10月に施行されるに至った。すでに2年を経過したが,その運用実績と高年齢者の雇用に与える効果はどうであろうか。各種の資料等から見たこの年齢制限緩和に関する問題の現状を整理し,今後における課題について考えてみたい。


II 年齢制限緩和策の経緯と政策的位置づけ

 わが国では,すでに高度成長期から,年齢別の求人倍率が中高年齢層において低水準になることから,求人需要に年齢による構造的な偏りがあることが指摘されていた。このため,中高年齢者の雇用機会を増大させ,その再就職を促進することは,早くから雇用政策の重要な課題であったといえる。
 その背景には,長期安定的な企業の雇用慣行が一般化してきたことや,そのなかで年功的な賃金処遇制度が定着してきたこと等が考えられるが,そうしたなかで,求人募集や採用に関する企業のルールも築かれてきた。そこで,中高年齢者の雇用拡大を図るためには,こうした企業のルールに直接的に働きかける政策手段をとることが有効であると考えられた。ここでは,そうした政策の流れのうち,とくに求人年齢制限を緩和させる目的を持った施策に焦点を当てて整理する。

 1 中高年齢者の雇用率設定

 当初,中高年齢者の雇用機会を増大させるための施策は,適職の研究をもとにして雇用率を設定していくという形をとっていた。この雇用率制度は,雇用率に不足する分の雇入れを誘発させることを狙った間接的な手法となっている。ただ,政策の実効性を高めるため,同時に年齢制限緩和への指導も視野に入れていたという点では,今回の改正につながるような先駆的な取り組みであるともいえよう。
 民間企業については,まず1965年4月に,中央雇用対策協議会から中高年齢者の適職78職種が選定され,発表された(注1)。また,翌66年7月には,雇用対策法が制定され,国は,事業主に雇用されている労働者のうち中高年齢者の比率が一定率(雇用率)以上になるよう必要な施策を講じなければならないこととされた。そして,その具体化として職業安定法の改正により,中高年齢者に適する職種についての雇用率が設定されることとなった。その制定時における職種と雇用率は表1のとおりである。官公庁においても,これと並行して同様な取り組みが進められている(注2)。

表1 民間事業所における中高年齢者の法定雇用率(1971年9月)


 2 「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」以後の動き

 1971年には,「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が制定されたが,その際,雇用率制度は職業安定法から同法に移された。この雇用率の達成を図るために,同時に次のような施策を講じることが定められていることが注目される。これらは,年齢制限を直接的に禁止したものではないが,当時の情勢のもとにおいては,実質的にそれと同等の効果が得られることが期待されていたものと考えられる。

 (1)雇用率設定職種に関して,雇用率未達成事業所から出された,中高年齢者でないことを条件とする求人受理の拒否
 (2)雇用率未達成事業所に対して必要な措置をとるための要請(この職種に労働者を雇い入れるときには雇用率に達するまで中高年齢者を雇い入れるよう指導を行うなど)
 (3)雇用率達成のための指導援助

 この中高年齢者雇用率制度は,全体の雇用需要の伸びを前提にして,そこへ中高年齢者を振り向け,雇入れ数を増大させることで雇用率の達成を目指すものであった。このため,雇用不拡大期には十分な効果を上げることは難しい。また,職種別に設定されたため運用が煩雑となり効果が上がりにくいなどの問題点も抱えていた。さらに,高齢化の進展によって,対策の重点が55歳以上の高年齢層に移ってきたが,当時は55歳定年が主流であったことから,この高年齢層の雇用改善にはあまり有効に機能しなかった。そこで,1976年には,同法の改正により,55歳以上を対象とする高年齢者雇用率制度に改め,職種にかかわらず高年齢者の雇用割合を一律6%以上とする努力義務が課せられることとなった。
 この高年齢者雇用率制度においても,雇用率達成を図るための措置が定められている。すなわち,常時100人以上の雇用者を雇用する企業で雇用率未達成の企業に対しては,雇用率達成計画の作成命令のほか,高年齢者の雇入れ等の措置の要請,正当な理由なくして高年齢者でないことを条件とする求人の申込みを受けつけないこと等の措置を講じることができるとされた(注3)。一方,中高年齢者雇用率制度は廃止されたが,その基礎となっている中高年齢者の適職選定は存続させ,選定職種の求人については,高年齢者の雇入れが引き続き促進された。
 また,これらの政策の実効性を高めるために,雇用奨励金制度の活用が行われたが,これ以降,中高年齢者の雇用機会確保策の主軸は,助成金制度の拡充に移ってきた。これは雇用保険法が施行され,事業主拠出による雇用保険事業制度が創設されてから,雇用関係給付金の整備が急速に進んだことを背景とするが,とくに,雇用安定事業の給付金としてそれまでの定額助成から賃金の一部助成へと変わったことによって,その利用が拡大した(雇用失業情勢が悪化した1979年に緊急対策として実施された中高年齢者雇用開発給付金は,1年間で10万人を上回る実績を上げている)。

 3 4野党共同提案による年齢差別禁止立法

 1970年代当時には55歳定年が主流であったため,定年年齢と年金支給開始年齢(60歳)とのギャップの存在が社会問題となっていた。このため,少なくとも60歳までの定年延長を図ることが政治問題化し,1979年の通常国会において大きな議論となった。与野党の折衝の結果,「定年延長の実効ある推進策について立法化をも含めて」雇用審議会の場で検討することで政治的決着を見たが,その際に年齢による雇用差別禁止の法制化もその俎上にのぼり,1980年4月には4野党共同提案で「定年制及び中高年齢者の雇入れ拒否の制限等に関する法律案」が国会に提出されている。その主な内容は次のとおりであるが,差別行為の禁止という形で事業主自らの行為を強く規制するものとなっている。ただ,今回の改正のように,すべての年齢について禁止するのではなく,中高年齢層を対象にして45歳以上65歳未満という範囲で制限している点が特徴となっている。

 (1)定年退職等の制限
事業主は,定年あるいは年齢を理由として65歳(当分の間は60歳)未満の労働者を退職させてはならない。
 (2)雇入れ拒否の制限
事業主は年齢を理由として中高年齢者(45歳以上65歳未満)の雇入れを拒んではならない。
 (3)職業紹介拒否の制限
職業紹介事業者は年齢を理由として,中高年齢者である求職者に対する職業紹介を拒んではならない。
 (4)募集広告の制限
事業主又は職業紹介事業者は,労働者又は求職者の募集に関し中高年齢者を除外することとなる広告をしてはならない。
 (5)報告及び立入検査(略)
 (6)罰則(略)

 4 これまでの年齢制限に関する政策の特徴

 これまでの政策の流れを概観すれば,中高年齢者の再就職の促進あるいは雇用機会を確保するための施策の特徴は,次のように整理することができよう。
 (1)第1段階は,適職の研究にはじまり,これを基礎にした職種別雇用率の制定となった。その後,55歳以上の高齢者に限定するとともに,職種制限を廃した一律の雇用率制度に改正されたが,政策の狙いとしては,再就職機会の拡大というよりは定年延長を促進させることに重点が置かれたものでもあった。このため,60歳定年が法制化されることによって意義が薄れた。こうした一律的な雇用率制度という手法は,産業や職業の実態に対し非合理なものとなってしまう恐れがあるとともに,今日のように高齢化が進展したなかでは,不足分の雇入れという効果はあまり期待できなくなっていると考えられよう。
 (2)雇用率制度は,事業主に雇用を義務づけるというのが本旨であるが,それに付随して,雇入れの要請や年齢を条件とした求人受理の拒否などが指導できることとなっており,公共職業安定所の求人者指導の根拠として機能したものと考えられる。求人条件の緩和は,管内の情勢を踏まえた一般的な指導としても可能であるが,こうした政策的位置づけが与えられることで強化されてきた。今回の対策にも,こうした政策的な流れが受け継がれているが,中高年齢者の雇用失業情勢の悪化という事態の中で,政策効果を確実なものとするために,その法制化が図られたものといえよう。
 (3)雇用率制度の実効性を高めるために,助成金制度の活用が並行して進められてきたが,中高年齢者の再就職促進策としては,規制(雇用率制度)よりもこうした誘導措置に重点が移っている。したがって,求人者指導の方法も,求職者に対する助成金をインセンティブとするような形に変わってきたが,現在では,雇用需要そのものが伸び悩み,失業率が高止まりするなかで,助成金への依存のみでは政策効果に限度がある。こうした点を勘案すれば,今回の改正のように,より直接的に事業主の行動を規制していく手法が要請されることは妥当であろう。
 (4)これらの政策的対応は,年齢にかかわりのない(エイジフリー)採用慣行を形成しようという問題意識よりは,緊急の課題である中高年齢者の雇用機会確保対策という側面が強調されていた。もちろん,今回の改正も,当面する雇用失業情勢への対応という性格を帯びているが,本格化する高齢社会の進展と年金制度改革による影響を背景にした「エイジフリー」社会へのシナリオという位置づけが重要になっており,そのためのステップという性格も有していることも注目すべきであろう。


III 今回の年齢制限緩和策とその効果

 1 求人年齢制限緩和策の内容

 a 改正雇用対策法による努力義務
 今回の求人年齢制限緩和策は,高失業状況が定着化するなかで,とりわけ厳しい雇用環境に置かれている中高年齢者をはじめとして,再就職を促進するための環境整備として実施されたものである。具体的には,2001年4月に雇用対策法が改正されて,次の条文が新たに規定されることで事業主の募集・採用に関する年齢制限を廃していく方向が努力義務として示されている。基本的には,「年齢制限を付すことを禁止」するものであり,その意味で「制限撤廃」というべきである。しかし,「能力の有効な発揮に必要」でない場合は制限が付されることとなり,部分的な撤廃であり努力義務でもあることから,今回は「制限緩和」という位置づけになろう。なお,同法は,第12条によって定められた指針(以下「指針」という)とあわせて,同年10月から施行された。

  雇用対策法第7条 「事業主は,労働者がその有する能力を有効に発揮するために必要であると認められる時は,労働者の募集及び採用について,その年齢にかかわりなく均等な機会を与えるように努めなければならない」
  雇用対策法第12条 「厚生労働大臣は,第7条に定める事項に関し,事業主が適切に対処するために必要な指針を定め,これを公表するものとする」

 このような努力義務が設けられた趣旨は,「年齢にかかわりなく働ける社会の実現のための第一歩」であるとされる。事実,立法の趣旨については,募集・採用という入り口の段階において労働者が年齢を理由として排除されないようにすることが基本的な考えになるという説明がされている(2001年7月10日「労働政策審議会報告」)。その目的としては,経済的な効果の面から大きく二つの点が考えられているといえよう。まず,中高年齢者の再就職が困難になっているのは,求人の上限年齢の設定に大きな要因があると考え,年齢制限緩和策によってその是正を図るという点である。次に,「年齢」という必ずしも合理的でない基準によって入職が規制されることによって,労働市場の機能にゆがみが生じないようにするという意図である。

 b 年齢制限の例外(ネガティブリスト)
 この規定の制定に至る過程では,募集・採用における年齢基準を完全に撤廃することは問題が大きいとして,経営側からの強い抵抗があった。その背景としては,わが国における企業の人事管理の実態から見て,「年齢」による処遇の考え方がまだ残されているという認識の強さがある。このため,審議会においては,「わが国の雇用慣行など現時点での募集・採用における現状を十分に踏まえるとともに,今後漸進的に見直しを図っていくべきもの」とされた(前記「労働政策審議会報告」)。
 こうした経緯を踏まえて,例外的にネガティブリストを定め,これらに該当するときは年齢制限が認められることが指針によって定められることとなった。具体的には,指針により例外的に年齢制限が認められる場合として10項目が掲げられている(後掲の表3参照)が,これは大きく次のような観点から整理できよう。
 (1)新規学卒者を一括採用し,長期的な観点に立ってキャリアを育成しながら,定年までの雇用の安定と処遇の向上を図るという,わが国企業がこれまでとってきた人事管理施策との調和である。能力開発や技能継承の観点から,新規学卒者募集(指針理由番号1),年齢構成の維持(同番号2),定年等までの期間との関係(同番号3)が掲げられている。また,賃金については,年齢給ないし年齢要素での決定というこれまでの賃金慣行への配慮(同番号4)が掲げられている。
 (2)職業能力や体力的な理由への考慮である。こうした観点から,顧客の年齢層への配慮(同番号5),芸術・芸能分野(同番号6),労働安全の必要性(同番号7),加齢による機能低下(同番号8)が掲げられている。
 (3)このほか,行政上の要請による中高年齢者への限定(同番号9),法令による就業禁止・制限(同番号10)が掲げられている。

 以上のような「例外」を認めていくこととすれば,この制限緩和策の効果が小さくなってしまう恐れがある。そこで,行政上の措置として,同時に次のような誘導措置の実施や手続の設定により,施策の実効性を高めるような配慮がなされている。
 I事業主には,そもそも「職務の内容,職務を遂行するために必要とされる労働者の適性,能力,経験,技能等の程度」を明示することが努力として求められる。このことによって,できる限り「年齢」以外の基準での募集・採用へ誘導を図ることが意図されている。
 II年齢制限が認められる基準に該当する場合であっても,それが認められるためには,職業紹介機関,広告媒体,求職者に説明することが求められる。ただし,この場合の「説明」は,該当する指針理由を特定する形であり,証明資料の提出までは求められていない(公共職業安定所における求人申込については,該当する項目番号の記載で行う)。

 2 求人年齢制限緩和策の効果(法施行時の状況)

 a 公共職業安定所における実績
 今回の年齢制限緩和策の政策効果はどうであろうか。まず,実際の求人の増加にどれだけ寄与しているかが問題となる。この点について,法施行時の状況をみると,改正雇用対策法から1年経過した2002年10月時点での求人年齢制限の実態を見ると,次のような特徴があらわれていた。
 (1)年齢不問求人は,法改正前(2001年9月)には求人全体の1.6%にすぎなかったが,2002年10月には12.7%にまで大幅に増加している(表2)。同年4月には,いったん16.6%まで高まっているが,実際には年齢制限が残っていたものも含まれていたとされ,その後,法の趣旨が浸透するにつれて若干減少している。しかし,「年齢制限」の割合を確実に減少させた効果は明らかであり,この点は評価できよう(2002年平均では13.5%となっている)。

表2 年齢制限不問求人の割合

 (2)下限不問求人は,同じく1.8%から6.8%へ,上限不問求人は1.3%から2.6%へと伸びている。この結果,中高年者の雇用に影響を与える「年齢不問」と「上限不問」を合わせた求人は,3%強から10%弱へと増加しており,一応の政策効果は認められるが低水準にとどまっている。
 (3)年齢不問求人も合わせて年齢上限の平均をとると,同じく43.9歳から46.3歳へと上がっている。年齢下限についても22.4歳から21.0歳へと下がっており,全体としての年齢の幅が広がっている。しかし,この平均値の状況からみれば,政策の主たる対象である中高年齢者(45歳以上)に対しては,まだあまり効果が十分に及んでいるとはいえない。
 (4)年齢制限理由を見ると,体力等加齢に伴う機能低下(指針理由番号8)が全体の半数以上を占め,技能・ノウハウ等の継承指針(同番号2)が2割強となっており,他の理由は少ない(表3)。これに対し,新規学卒者募集(同番号1)や賃金への影響(同番号4)のような,雇用慣行との調整が困難であることを理由とするものは,実際の申請上はあまり表れていない。中高年齢者を中途採用するにあたって一般的に指摘される問題点と比較すると,若干の違いが見られる(注4)。

表3 年齢制限理由別割合(平成14年11月分新規求人)

 年齢制限緩和策が実施された効果は,中高年齢層(45歳以上)の求人数が具体的にどのように変化したかによっても判断される。表4を見ると,改正法施行の年である2001年を境にして,年齢計に占める割合がそれまでに比べると高まっていることから見て,一応の効果が表われたものといえよう。ただし,45~54歳層に限ってみると,求人数は増加しているが,その年齢計に占める割合は2002年には低下している。一方,年齢別有効求人倍率については,2001年下半期以降,55歳以上の年齢層で改善傾向をたどっているが,これも再就職の緊急性の高い45~54歳層については依然として低迷している(注5)。このように顕著に効果が表れてきたとはまだ言い難いが,求人が少しずつ回復するなかで,年齢による求職条件とのミスマッチの発生を抑えていくという点においては,今回の年齢制限緩和策は一応の効果をもたらしているものと考えられよう。

表4 年齢階層別求人数


 b 求人広告における遵守状況
 これに対し,求人情報誌等に求人広告を行う企業の遵守状況はどうか。厚生労働省の委託により実施した調査研究によって,雇用対策法改正前後(2001年9~11月)における求人広告掲載の企業3000社についての実態が明らかになっている(三菱総合研究所「採用等における年齢基準に関するアンケート調査」2002年3月,以下「『年齢基準』調査」という)。これによれば,改正雇用対策法について指針の内容を含めて知っている企業は35.2%,努力義務であることまでは知っている企業を含めれば86.1%と周知状況は高い。改正法の施行を意識した企業は約半数であるが,結果的に年齢制限の変化があった企業は少なかった。
 これら企業の求人広告における年齢制限の状況を見ると,「年齢制限なし」は12.6%で同時期の公共職業安定所求人の状況(1%台)よりも年齢不問の状況は高い。しかし,「年齢制限なし」を含めた場合の上限年齢は40.8歳と低めに出ており,総じて求人広告の場合には,上限年齢の設定が低い場合が多いことをうかがわせる(35歳44.9%,40歳18.5%,45歳8.7%,50歳3.9%)。ちなみに,中高年齢者(完全失業者)の求職方法を見ると,公共職業安定所の利用が4割強と最も多く,求人広告・求人情報誌の利用は3割弱となっているが,下の年代ではその比率が逆転している(34歳以下では,それぞれ3割強と5割弱となっている。総務省統計局「労働力調査特別調査」2000年2月)。
 ただし,設定された上限年齢については,あまり厳格なものでなく弾力的に運用されている実態がある(表5)。「1~2歳程度上回る人」でも条件が合えば採用するという企業は35.3%,同じく「5歳程度上回る人」については44.2%となっている。「10歳以上上回る人」でも18.1%となっているが,とくに「慣行的に上限を設けた」企業では運用が緩やかになる傾向があることから,逆に合理的な根拠のない年齢制限が少なくないことを推測させる。なお,公共職業安定所においても,求人者に対する条件緩和指導によって,上限年齢を超えて求職者を紹介した件数は,紹介件数全体の13.1%ある(1998年10月厚生労働省職業安定局調べ。2000年「労働白書」)。このように,募集・採用における年齢制限の実態としては,上限年齢の運用はある程度の幅を持って考えられているといえよう。

表5 年齢制限の上限の厳格性


 3 求人年齢制限緩和策の強化

 求人年齢制限の緩和に向けた行政の取り組みは強化されたとはいえ,その実施状況は決して高い水準とはいえない。そうしたなかで,雇用失業情勢が依然として好転しないことに加え,不良債権処理をめぐってさらに企業のリストラを加速させる可能性が生じてきた。その過程で離職者が一段と増加するなど雇用への影響が懸念されたため,雇用機会の確保策を強化する必要性が高まってきている。
 こうした背景の下で,2003年1月に,厚生労働省職業安定局長から都道府県労働局長あてに通達が出され,年齢制限緩和の数量目標を導入して取り組みの強化が図られた。具体的に設定された目標は,公共職業安定所で受理した求人のうち,「年齢不問求人の割合を,平成17年度に30%」とするものであり,その時点における達成状況(13.1%)の2倍程度まで引き上げることを目指している。
 数量目標の設定は,政策の実効性を高めることになるが,その達成に向けて重点的な対応も必要となる。このため,特に年齢不問求人の割合の低くなっている都市部の対応が問題となるほか,次のような取組みが進められることとされた。
 (1)求人に年齢制限を付すことに合理的な理由のあるものについても,求人受理の際などに可能な限り年齢上限の引き上げを働きかける。これは,年齢制限を行う求人数が公共職業安定所取扱いでも,なお8割弱の高い割合となっていることから,その理由の「合理性」を再吟味する必要性があることを受けている。
 (2)民間の職業紹介事業者等に対しても,求人者に対し不合理な理由による年齢制限を行うことのないよう周知することについて,再度趣旨の徹底を図ることとされた。民間事業者の場合,改正雇用対策法の施行時点における年齢不問求人の割合は高かったが,上限年齢が低いことから見て実質的な制約が効いていることも類推させる。そうした観点から,対策の効果が民間求人にも浸透していくことを目指したものといえよう。


IV 年齢制限緩和の必要性と問題点

 1 年齢制限を緩和すべき政策的理由

 求人の年齢制限緩和策は,中高年齢者の雇用失業情勢を改善していくためであることは異論がない。ただ,なにゆえこの年齢層に対し,特に注目して対策を行うのか。しかも「年齢」を不問にするようなエイジフリー的な政策手法で行う理由は何か。
 この点についての理由の一つは,経済学的立場から説明されている。それは,企業が比較的若い年齢層に限定して求人を行うとすると,中高年齢者の雇用機会を狭め,その失業期間を長引かせ,人的資源の活用に大きな損失を与えることになるという考え方である(注6)。現に,人口の少子高齢化,さらには労働力人口の減少が予測されるなかでは,労働力確保の観点からも,中高年齢者の人的資源を無駄にすることはできない。また,これまで蓄積された知識・技能・経験を活かすことによって,新分野開拓など価値の創造にも寄与していくであろう。政府においても,この求人に関する年齢制限は,経済活性化を目指すための規制改革の重要課題として位置づけられているところである。
 もう一つの理由は,人権論としての理解である。そもそも年齢とは,人が努力して変えることができないものであるから,それを基準とした差別(エイジズム)は許されないという考え方である。米国の「雇用における年齢差別禁止法」においては,性,人種,出身国,障害,年齢といったあらゆる差別を禁止しているが,年齢差別もその一つと位置づけられ,人権保護的性格が強いとされる。わが国においても,年齢によって就職活動の制限が強いことは事実であるが,これを差別事象としてまで捉えるかどうかは議論が分かれる。他の基準と同じように,純然たる「年齢」だけの問題で不利益をもたらしているかどうかという点に問題が残る。しかし,雇用の分野において「年齢」に対する偏見が存在することは事実であり,しかも中高年齢層の雇用安定という政策課題の緊急性からいえば,募集・採用という局面での政策的関与の必要性は高いものと考えられる。
 このように,今日的な状況の中で,求人の年齢制限の緩和に取り組むことは政策的にも支持されよう。ただし,問題は,企業における雇用慣行の特質をどう変化させることができるかという点に大きくかかわる。以下では,現実に企業がどのような理由によって求人年齢の制限を行っているかを見ることとする。

 2 企業が求人年齢制限を設ける理由

 企業が求人の年齢制限を設けたのは,前掲の「年齢基準」調査によると,「ふさわしいポスト」がないことや「社員の年齢構成のバランス」といったように,中途採用者の格付けが難しいことが大きな理由として挙げられている。ここでは,人件費の高騰を理由とするものは強くあらわれていないが,年齢バランスを意識していることの背景には,若年者の雇入れによって技能継承を図ることだけではなく,コスト対策の面からも高賃金層の増大を抑制しようという考えが働いていよう。これに対し,加齢による「能力が低下」という理由は,表3の年齢制限理由と比べるとやや少ない割合にとどまっている。また,若い人が多く「溶け込みにくい」といったような職場の雰囲気を理由にしたような理由も少なくない。このように,雇用管理上の障害がはっきりしているものから,必ずしも合理性を持っているとは思えないものまでが混在しているのが実情である(表6)。

表6 年齢制限を設けた理由(複数回答)

 上限年齢を必要があって設けた場合と慣行的に設けた場合とに分けると,以上の点が明確になる。慣行的に設けた場合には,「年齢構成」や「能力」といった合理的な分析にまで至らないで,「溶け込みにくい」のような感覚的な判断になりがちである。こうした企業については,制限理由の「説明」が強く求められるなどの契機がないと,現状の問題点が自覚されないままに済んでしまう恐れもあろう。
 公共職業安定所の求人申込企業の場合には,行政指導を受けやすい立場にもあることから,「必要性」を感じている企業が多いものと考えられる。その制限理由で最も多い「体力」は「職務遂行能力」に関連し,「技能継承」は年齢構成の維持・回復に関連することから,傾向はおおむね類似しているといえよう。これらに先行する1999年に行った「求人の年齢制限に関する実態調査」(労働省職業安定局実態調査)においても,ほぼ同様な結果となっている。すなわち,「体力的に対応できないから」が最も多く,「賃金が高く人件費がかかるから」「職業能力的に対応できないから」「社員の年齢構成を若くしたいから」の順となっている。

 3 年齢制限と企業の人事管理の関係

 賃金制度をみると,年齢給のウエイトが高い場合や,職能給などの形をとっていても勤続年数(標準的な昇格年齢を設定することも多い)による運用が行われる場合など,年齢が処遇の重要な基礎条件となっている企業はまだ多い。こうしたなかで,中高年齢者の採用を行うことは,人件費コストの面でも,また適切なポストという面(賃金との関係もある)からも企業は抑制的になる可能性が高いため,この点を年齢制限理由とする企業は少なくない。
 前掲の「年齢基準」調査によっても,賃金が年功的であればあるほど,中途採用における年齢制限が設けられることが多いことが指摘されている。具体的には,賃金の年齢間格差(45歳時の賃金/新卒時の賃金)をもとに年功賃金度(指数200で大小を判断)を試算し,これと中途採用の募集条件に年齢制限をつけるかどうかの関係を見ているが,この年功賃金度が大きい企業ほど上限を設けることが多いという関係が指摘されている(注7)。
 このように,年功的な賃金制度や昇進構造を維持する企業では,外部市場からの基幹人材の調達は限定的にならざるをえないことが多い。職能資格制度をはじめとして一定の秩序の下で格付けが図られている人事制度があれば,企業内部の秩序に影響を与えないような形で中途採用を行うことが前提となる。また,若年者のウエイトが高い職場での「溶け込み」が問題となっているように,中高年齢者の順応性についての不安感が強ければ,その採用に消極的な姿勢をとり続けるであろう。使用者側には,こうした人事制度や雇用賃金慣行の改革を前提としなければ,エイジフリーへの取り組みは困難であるという主張はまだ根強い。しかし,最近では,企業を取り巻く経営環境の変化の中で,能力・成果主義的な人事管理改革が徐々に進展してきていることから,こうした問題点の克服への道が少しずつ見えてきたともいえよう。


V 年齢制限撤廃をめぐる政策的課題

 1 今回の年齢制限緩和策の問題点

 以上述べてきたように,中高年齢者の雇用拡大に資する年齢制限緩和策の意義は大きい。しかし,現実の政策の実施状況を見ると,次のような点で今後の検討に委ねるべき点があるように考えられる。
 第1に,努力義務であることの限界である。現在の制度に対する批判として罰則の適用のないことが指摘されることもあるが,今回の政策立案の過程を見れば,現実的な対応としてまず第一歩であると評価できよう。しかし,まだ事業主への周知が必ずしも完全には行き届いていないことから,その徹底を図る必要性は高い。また,中高年齢者の求人についても,公共職業安定所取り扱い分の割合は半数以下にとどまるため,その他の民間求人に対する指導がないと全体としての実効性が薄いが,努力義務という枠組みではそうした政策介入にも限度があると思われる。ただ,今後その義務化等が検討されるとしても,現状のように申請された求人の大部分が例外として認められるなかでは,その実効性も乏しいことから,後述のように例外的理由が的確に判断できるような施策の改善が急務であろう。
 第2に,例外的事由の存在が認められることによって,政策の効果を実質的に弱めているのではないかという見方である。また,類型化された指針理由への当てはめという形をとるため,解釈基準が十分に整備されない段階では,その妥当性の判断が申請者側の理解に委ねられてしまう。これに対しては,これらの年齢制限を認める理由がどこまで検証されているかという点にかかわるが,現状のような体制では難しいであろう。特に,理由の説明が該当番号の提示で足りるという現状の中では形式的に処理してしまう弊害も起きやすい。実際にも,特定の事由に集中していることや,一般的な企業調査における困難性の根拠と比べても偏りがあることから見て,理由の説明方法と手続について見直す必要があるのではないか。
 第3に,年齢不問求人が増大しても,実質的には採用年齢の幅がなかなか広がらないことである。これは,企業側の持っている中高年齢者に対する評価が必ずしも高くないためであるが,その改善には企業の雇用管理を含め後述するような環境整備が不可避であろう。こうした努力がなければ,形式的に年齢制限への規制を強化しても採用の増加という効果は期待しにくいこと考えられる。また,上限年齢設定の求人でも,実質的には求職者を見てある程度の幅を持って採用行動を行っていることは前述したとおりである。したがって,単に賃金やポストなどの阻害要因だけを考えるのでなく,積極的に企業側の中高年齢者を活用していくためのインセンティブは何かという視点がまだ不足しているように思われる。

 2 年齢制限是正の強化の方向

 そこで,今後,この募集・採用時の年齢制限是正への取り組みをさらに強化する場合,どういう政策方向で進めることが必要になろうか。この点について,前掲の研究会報告においては,次のような2案を提示している。

  第1案 現行の努力義務をさらに進めて事業主の義務とすることにより,募集・採用時の年齢制限を禁止することが考えられる。
  第2案 募集・採用時の年齢制限を行おうとしている事業主に対して,その年齢制限が真に必要なものか否か,ひいては,高齢者をその職務に活用できないのか,ということを改めて考えてもらうために,現在よりも踏み込んだ説明義務を課すことが考えられる。

 このうち,第1案については,報告書では,事業主が十分に納得した上で行われるかどうかが問題であり,そうでないと実質的に中高年齢者が排除されてしまう危険が高いことを指摘している。とくに年齢に代わる基準がないなかで,年齢制限そのものを禁止することは募集・採用の現実の場面において混乱を招く恐れがあること等の指摘もある。
 努力義務として導入された経緯も,その実効性がどの程度上がるかを見ることによって,施策の今後のあり方を考えていこうという意味合いがあったとも考えられる。そうした観点からいえば,今回の数量目標の導入の効果によって年齢緩和がどの程度進むかが,ひとつの判断材料になる。
 なお,義務化を図るに際しては,雇用における年齢差別禁止法といったような包括的な立法で対処すべきという考えもある。しかし,これに対しては,年齢制限を是正することは年齢差別禁止の問題と分けて論ずるべきだという見解がある。すなわち,差別として捉えるならば人権の侵害になるが,果たして現状において,「年齢」による差はなく平等な取り扱いをするべきだと断じることができるかどうかは問題が残る。例えば,企業が年齢基準で人事管理を行う場合に,それがまったく不合理だと言い切れるか,また年齢を排除したときに実際の人事管理に混乱や悪影響を与えないかなどについて,慎重に吟味すべきとの考えである。
 しかし,一方において,定年制廃止という退職(出口)の場合には,在籍者の雇用条件全体に影響が及ぶのに対して,募集・採用の制限撤廃(入口)については,採用者と在籍者との均衡という点に限られることから,比較的対応が可能であるという見方もある。また,逆に入職の規制は失業者が増大している場合には,これらを救済できないという点で社会的な影響を大きく与えることを考えるべきという見方もあり,こうした点を論拠にして募集・採用のみの年齢制限廃止という立法政策もあるべきという考え方もとりえよう。

 第2案については,このような義務を課すだけではなく,適切な実効性確保のための措置も併せて講じることによって,不合理な理由による年齢制限や年齢制限自体が減少することが期待されることが指摘されている。前述したように,現行の説明義務の方法にはいくつかの問題点が指摘された。それらを放置すれば,現在の制度の形骸化にもつながりかねないことから,その改善への取り組みは急務である。とくに,次のような点については,現状を再点検して検討することが必要であろう。
 (1)例外理由の解釈について,再検討する必要がある。例えば,賃金についても,現状では,年齢を基準とする場合に問題があるとされ,勤続を基準とする場合にはその限りでないとされているが,そうした取り扱いであれば,実態的にほとんどの企業の人事管理では非該当になってしまう。職能資格制度の運用実態で指摘されるように,能力主義的な設計がなされても制度の運用が年齢基準を重視してしまうことも少なくない。したがって,こうした観点も踏まえて,指針の例外理由およびその解釈基準を見直していく必要がある。
 (2)例外事由の説明手続の見直しである。現状のように,該当番号の提示というだけではなく,具体的な困難性について説明を求めるとともに,ある一定の基準(たとえば,雇用状況等から見て著しく中高年齢者の活用が遅れているなど)を決めて指導するなどの対応も必要であろう。この場合には,同時に中高年齢者を受け入れるための条件整備についての助言や援助の手法も整備すべきである。遵守指導とそれを受け入れやすくする環境整備の両建てで進めることが重要であろう。

 3 年齢制限是正の環境整備

 では,年齢制限緩和の実効性を高めるために必要な環境整備としては,どういう方向が考えられようか。企業が中高年齢者の採用を躊躇する理由としては,その体力や能力・適性,経験などが十分であるかどうかといった点について,的確な判断が難しいことである。たとえば,東京都の調査では,企業が40歳以上のホワイトカラーの採用に関して困った点は,「応募者にどのような能力や適性があるか,雇ってみるまでわからなかった」ことや,「転職前の会社での仕事の出来や評判がつかめなかった」ことなどが指摘されている(東京都産業労働局「中途採用による経営革新リーダーの人材確保に関する調査」2003年)。しかも,採用後には,「本人が言うほど力がなかった」といった意見が過半数を占めている(同上)。
 したがって,求職者の職業能力を的確に把握する方法を整備するとともに,年齢ではない「基準」によって採用を進めることを社会的なルールとして定着させる努力が重要になる。一般的にいって,中途採用者の職業能力の判断は,面接の過程で聴き取ること以外には,履歴書はもとより職務経歴書やキャリアシートなど,本人が申告した資料が中心になって行われることが多い。
 そこで,前掲の研究会報告では,「求人者が求める職業能力や職務内容の明確化」が行われることと,「年齢制限を行う企業に対する指導・援助をはじめとするコンサルティング体制の強化などの施策を一体的に講じる」ことの必要性が指摘されている。まずは,職業能力(コンピテンシー)や職務内容の客観化とそれを共通の基盤で進めることによって,キャリア評価の環境づくりを進めることが課題となろう。その上で,労働者がそれまで経験した職種,職務内容等について「キャリアの棚卸し」を行うことによって,学習歴なども含めてキャリアシートを充実させることができるかどうかが重要となる。また,キャリア・コンサルティングによって,的確な職業選択が導かれるような支援体制づくりも行う必要があろう。
 一方,企業側としても,年齢はもとより予断にとらわれず求職者を理解して採用することが重要である。そうした点で観察する期間が与えられる「トライアル雇用制度」や「紹介予定派遣制度」などの活用も有効な政策手段として位置づけられよう。


VI むすび――今後の課題

 今後におけるわが国のエイジフリー対策の議論を考える場合,欧米各国の動きに注視することが重要である。とりわけ,EUにおける年齢差別禁止の立法化の動きは,2000年11月の「雇用及び職業における均等取扱いのための一般的枠組みの設立に関するEU指令」(Council Directive 2000/78/EC of 27 November 2000 establishing a general framework for equal treatment in employment and occupation)以降,加盟各国での検討に委ねられてきている(年齢,障害については当初の期限である2003年末を超えて2006年末まで検討を伸ばすことが可能となっている)。すでにいくつかの国の状況が伝えられるが,欧州では,65歳を一般的な引退年齢(年金受給開始年齢を考慮)と見て,それまでの間のエイジフリーを考えていくような枠組みが見られる(注8)。
 わが国における年齢差別禁止法制の立法化には,まだ多くの議論が必要とされようが,少なくとも65歳までの継続雇用という枠組みを完成させ,その中でのエイジフリーという形で募集・採用に関する年齢制限の撤廃を進めるという政策の方向をとることは,先進国ではグローバルに進展している動向と実質的に歩調を合わせていくことにもなろう。また,米国においても,「年齢差別禁止法の本来の立法意図は,採用時における年齢差別の廃絶であった」という指摘がある(清家篤・森戸英幸(2000)「アメリカ年齢差別禁止法下での退職管理に関する実態報告」,年金総合研究センターpp.34,41-42)。
 こうしたことから考えれば,わが国においても,当面,最も緊急性の高い募集・採用の面からエイジフリーへの取り組みを図ることは,ひとつの選択であろう。しかも,中高年齢者の雇用政策に関する歴史的な積み重ねも考慮すれば,そこに焦点を当てて,現行の年齢制限緩和策の実効性を高めるような見直しとあいまって環境整備を進めることが,わが国の実情にもなじみやすいであろう。いずれにしても,高齢化の進展は途上であり,しかも諸外国に例を見ないスピードと水準が予想されていることを胆に銘じておかなければならない。したがって,当面の事態の乗り切りという視点に陥ることなく,エイジフリー社会形成という将来展望に立って,そこへのステップとして政策立案していくことが重要ではないかと考える。

1)次の3種類に分けられているが,それぞれ具体的な活用方法を示すことで,企業の求人数の拡大を図った。
 ・事務補助員,販売員など中高年齢者でも容易につかせることのできる職種(16職種)
 ・会計事務員,守衛,監視人など中高年齢者の特質から見て向いている職種(21職種)
 ・金属プレス工,溶接工等現在の職業訓練によって中高年齢者でも容易に技能工化させることのできる職種(41職種)
2)1964年には,官公庁関係者による中高年齢者雇用促進連絡会議が設けられた。その検討結果は,翌65年3月に「官公庁等における中高年齢者の雇用促進について」としてまとめられたが,その内容は,33職種を選び,それぞれについて3年以内に中高年齢者の比率が一定以上になることを定めるものである。翌66年には,この結果を踏まえて,33職種について中高年齢者の雇用率(最高75%から最低20%まで)が設定された。
3)その後,86年10月に,60歳定年を法制化することとして「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」に改正されたことに伴い,高年齢者雇用率制度は廃止された。ただし,高年齢者多数雇用奨励金制度が創設されたことによって,60歳以上65歳未満について一定の雇用割合が確保された場合に奨励措置をとる形で考え方は引き継がれている。
4)さくら総研「中高年齢者採用事業主に対する当該中高年齢再就職実態調査」(2001年2月)によれば,中高年齢者を中途採用・継続雇用する上での課題・不安は,この例外的な年齢制限理由と同じように「健康や体力」(41.9%)と最も多いが,「期待通りの,又は賃金にふさわしい仕事ができないのではないか」という雇用管理上の理由と並んでいる。
5)具体的には,年齢計の有効求人倍率が2001年平均の0.59倍から2003年3月には0.61倍となるなかで,55~59歳が0.20倍から0.21倍へ,60歳以上は0.12倍から0.25倍へと大幅に上昇している。このように求人数の増加という形で効果が表れたように見えることについて,年齢別求人数の集計方法という技術的な要因によるものという見方がある(斎藤太郎「Weekly『エコノミスト・レター』」ニッセイ基礎研究所2002.7.26号。この指摘は,たしかに60歳以上の求人数が少なく,しかも求職者数も相対的に少ない年齢層ではそのまま当てはまろう。しかし,45~54歳層においては,そうした効果があったとしても求人倍率の大きな変化は見られない。
6)清家篤「年齢差別禁止の経済分析」(『日本労働研究雑誌』No. 487,2001年)の47~50頁などを参照。同論文では「求人における年齢差別が失業者の再就職機会を奪っている」とともに,失業期間が長い失業者にその影響がより顕著に出ていると指摘されており,長期失業の比率の高い中高年齢層に深刻な影響を与える可能性が強いことがうかがわれる。
7)一方,ドライバーやSEのような職種では,年齢制限がもともと設けられていないことが多い。こうした職種では,年功賃金度があまり高くないことが予想されるが,実際にドライバーは賃金カーブがフラットである企業が多い。ただし,SEに関しては,年功賃金度が小さくないので,むしろ賃金以外の要因,例えば人員募集が難しいために年齢制限を設けていないという理由が考えられる(前掲基準調査)。
8)1国の詳細なレポートとして,牧野利香(2003)「アイルランドの雇用における年齢差別禁止法」(2003年6月,『JIL Discussion Paper Series』03-002)を参考とした。


主要参考文献(上記に引用したもののほか)

遠藤政夫(1976)『完全雇用政策の理論と実践』労務行政研究所。
経済企画庁(2000)「雇用における年齢差別禁止に関する研究会」報告書。
清家篤(1998)『生涯現役社会の条件』中公新書。
清家篤(2001)「年齢差別禁止の経済分析」『日本労働研究雑誌』No. 487。
清家篤・森戸英幸(2000)「アメリカ年齢差別禁止法下での退職管理に関する実態調査報告」年金総合研究センター。
関英夫(1981)『安定成長期の雇用政策』労務行政研究所。
日本労働研究機構(2001)『失業構造の研究』調査研究報告書No. 142。
三菱総合研究所(2002)「採用等における年齢基準に関するアンケート調査報告書」。
森戸英幸(2001)「雇用における年齢差別禁止法――米国法から何を学ぶか」『日本労働研究雑誌』No. 487。


 きたうら・まさゆき (財)社会経済生産性本部社会労働部長。主な著書に『定年制廃止計画』(共著,東洋経済新報社,2002年),『介護サービス労働の現状と課題』(全国勤労者福祉振興協会,2002年)など。