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(著者抄録)
近年、中高年齢者の雇用確保が重要な政策課題となっており、年齢差別禁止法の導入が検討されている。そこでは1967年制定の米国法が参照される。一方、EU加盟国の多くは、年齢による雇用管理を不公正な差別として把握していなかった。それら諸国もEC指令に対応して、将来的には年齢差別禁止法を導入しなければならないが、広範な例外を設ける可能性がある。米国、カナダ等の先行する年齢差別規制でも、法の適用対象年齢の上限・下限が存在するか、定年制を許容するか、差別的効果法理が適用されるか等の点で違いがみられる。このように諸外国の年齢差別への取組みには多様なアプローチがある。
(論文目次)
I はじめに
II アメリカおよびその他の英米法系諸国
  1 アメリカ
  2 その他の英米法系諸国
III EC指令採択前の加盟国の状況
  1 年齢差別を禁止していなかった諸国
  2 年齢差別を禁止していた諸国
IV 2000/78/EC指令の年齢差別規制
  1 EC指令の年齢差別規制の採択経緯と趣旨
  2 EC指令の年齢差別規制の内容
V EC指令採択後の加盟国の状況
  1 EC指令の国内法化が未整備の諸国
  2 EC指令採択後に年齢差別を禁止した諸国
VI おわりに

I はじめに

 近年,年齢を用いた雇用管理を年齢差別として禁止することの是非が議論されはじめている。厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳へ引き上げられ,法が保障する60歳定年(高齢者雇用安定法4条)との間に開きが生じるという状況で,定年制を撤廃すべしとする見解も表明されている。また,2001年から募集・採用年齢の上限を設けない努力義務が事業主に課されたが(雇用対策法7条),この規制をさらに強化し,年齢制限の設定を禁止すべきかどうかが検討されている。
 年齢差別禁止法制定の有力な論拠として援用されるのは,1967年に米国で制定された「雇用における年齢差別法(Age Discrimination in Employment Act: ADEA)」である(注1)。同様の立法はカナダ,オーストラリア,ニュージーランドでも存在する。一方,EU加盟国の多くは従来,このアプローチをとっていなかったが,「雇用および職業における平等取扱いの一般的枠組を設定する」指令(2000/78/EC指令)により原則として2003年12月2日まで,遅くとも2006年12月2日までに年齢差別を禁止しなければならなくなっている(注2)。
 もっとも諸外国の年齢差別規制は一律ではなく,国ごとに多様である。本稿では年齢差別に対する諸外国の取組みを紹介し,その多様性について論じる。


II アメリカおよびその他の英米法系諸国

 1 アメリカ

 年齢差別禁止法はアメリカの州で初めて誕生した。それら州法の存在等が契機となり,連邦レベルでも1967年にADEAが制定された。年齢差別の禁止は1964年公民権法第7編(人種差別・性差別等を禁止する連邦法)制定時にも検討されていたが,年齢差別はそれらの差別とは性質が異なるとして見送られ,3年後に別個の法律として導入された。
 ADEAは,使用者が年齢を理由として採用を拒否したり,解雇したり,賃金その他の労働条件について差別することを禁止する(同法4条(a)(1))。職業紹介機関や労働組合も年齢を基準として取扱いに差異を設けてはならない。差別を受けたと考える者は雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity Commission: EEOC)に申立てを行う(注3)。EEOCは調査して調整等を試み,それが不調に終わると裁判所に救済を求める。その提訴がない場合,被差別者も訴訟を提起できる。裁判所は差別が認定されると,差止め,原職復帰,バック・ペイなどを命じる(同法7条(a)ないし(e))。
 差別禁止の例外は,第1に,パイロットやバスの運転手など,一定の年齢であることが業務の正常な運営に欠かせない場合に採用年齢の上限や定年制を設けることである(真正な職業資格(BFOQ),同法4条(f)(1))。州の警察官・消防士の55歳定年制も例外とされる(同法4条(j))。第2に,福利厚生給付制度における一定の取扱いが例外とされる。たとえば,企業年金や早期退職奨励給付を一定年齢以上の者に提供することや,中高年齢者について保険の掛金が高額になる場合にカバーする保険の範囲を限定することが可能である(同法4条(f)(2)(B),同条(l)(1))。第3に,先任権制度も例外とされる(同法4条(f)(2)(A))。勤続が長い者に対する,より高額な賃金の支払いやレイオフの際の保護がこれに該当する。アファーマティブ・アクション(差別是正のための積極的措置)に関しては,たとえば55歳以上の者に特別な職業訓練を実施することがそもそも年齢差別に該当しうるのかが明らかでない。この場合,55歳未満の者はより若年であるために訓練を受けられないことになるが,若年であるがゆえの不利益取扱いをADEAが禁止するかどうかについて解釈が固まっていない(注4)。ただ,その提供主体が連邦や州である場合に違憲になることはないだろう。年齢差別は人種差別とは異なり厳格な基準に服さないからである(注5)。
 ADEA制定の主たる目的は中高年齢者の失業問題の解決であった(注6)。そのため法の適用対象は40歳以上の者とされた(同法12条(a))。また,65歳が適用対象年齢の上限とされ,定年制は禁止されなかった。しかし,1978年と1986年の法改正を経て定年制が高齢者の人権にかかわると意識されるようになり,徐々に適用年齢の上限の引上げ,撤廃が進行した。今日では,既述の例外と高級管理職の65歳定年制(同法12条(c))を除くと,定年制も含めて年齢を用いたあらゆる雇用管理が原則として違法となっている。
 しかしながら,この包括的な年齢差別規制が雇用慣行の根本的な見直しを迫るものだったかというと,そうではない。定年制撤廃の際には,それにより現状以上に雇用を不安定化することはないとの予測が労働省の報告書により示されていた(注7)。それは,解雇に正当事由を要しないとする随意雇用(employment at will)原則が支配するアメリカでは(注8),高齢者の能力欠如を理由として解雇することが容易であり,定年制の存否にかかわらず,いずれにしても企業は高齢者を解雇していたからだと考えられる。そして実務上,中高年齢者を対象に退職勧奨を実施し,それに応じた者からADEAに基づく訴えを提起しないとの合意をとることが広く行われている(注9)。つまり,中高年齢の従業員の削減は金銭さえ支払えばそれほど困難でないという状況にある。
 さらに解釈法理上も,ADEAの法的介入の程度を弱めるような展開がみられる。中立的な制度や基準が特定の年齢層に不均等な効果を及ぼす場合(差別的効果(disparate impact)がある場合)に年齢差別を立証することが困難になっているのである。これは,年金権の確定間近の労働者を解雇したとしても,そのことで年齢を理由とする差別的取扱い(disparate treatment)の存在を立証したことにはならないとする,Hazen Paper事件連邦最高裁判決(注10)をきっかけとする(注11)。この解釈により,勤続年数が長く高額な賃金を受取っている者を解雇したり,その賃金額を引下げたりすることが,年齢を理由とする解雇や賃金引下げと区別され,違法な年齢差別となる可能性が低くなっている。これは中高年齢者に対する解雇や賃金減額を許容することにつながりうる。
 要するにADEAは,法改正を経て中高年齢者の人権保障という趣旨が前面に出され,年齢差別を包括的に禁止するに至っているが,必ずしも甚大なインパクトを及ぼすものではない。適用対象を40歳以上の者に限定しており,中高年齢者の退職勧奨が可能であること,差別的効果法理を用いた立証が困難であることなどにより,その法的介入の程度は弱められている。

 2 その他の英米法系諸国

 (1)カナダ
 年齢差別禁止法は,1964年にブリティッシュ・コロンビア州で制定され,1970年代末までに全州で導入された(注12)。現在,各州の人権法において,人種差別,性差別などとともに年齢差別は禁止されている。例外はADEAと同様,年齢が真正な職業資格である場合と年金・保険制度で年齢により取扱いの差異を設ける場合である。アファーマティブ・アクションも認められる。先任権制度を例外とする州もある。法の適用対象年齢の下限を18歳,19歳とする州と設けない州がある。差別的効果法理が適用される点でADEAと異なる。
 法の適用対象は4州で65歳未満に限定されており,これがカナダの特色である。たとえばオンタリオ州の人権法は65歳を適用年齢の上限とする(同法10条1項)。この年齢上限がカナダ憲法の平等条項(権利および自由に関するカナダ憲章(1982年)15条1項。年齢差別禁止を含む)に反しないかが争われたが,連邦最高裁は,定年制が若年者の雇用確保のために必要であることなどを理由として合憲であるとした(注13)。定年制に服する被用者は労働人口の約半数に上っている。

 (2)オーストラリア
 最初に年齢差別禁止の立法が行われたのは1990年,南オーストラリア州であった(注14)。現在では全州で,人種差別,性差別等と同一の法律において年齢差別が禁止されている。規制の例外は州ごとに異なるが,ADEAやカナダ州法と同様のもの(年齢が真正な職業資格である場合,年金(superannuation)・保険での取扱いの差異,平等確保のための措置など)のほか,21歳未満の者への低額な賃金の支払いを例外とすることも多い。ADEAと同様,法の適用年齢の上限はなく定年制も撤廃されているが,間接差別(indirect discrimination: 中立的な雇用上の制度・基準が特定の年齢層に不利な影響を持つ場合)が規制される点でADEAと異なる。

 (3)ニュージーランド
 1993年人権法が,性,人種,障害などを理由とする差別とともに年齢差別を禁止している(注15)。同法は16歳以上の者に適用される。間接差別も禁止される。国の年金支給年齢が適用対象の上限とされていたが,この上限は撤廃された。規制の例外としては,諸外国と同様のもの(真正な職業資格,警察官・軍隊などの定年制,年金(superannuation)における取扱いの差異,平等確保のための措置)のほか,若年層に対する一定の不利益取扱いが挙げられている(20歳までの賃金を低くすることと,国の安全保障にかかわる業務での20歳未満の者の採用年齢制限)。


III EC指令採択前の加盟国の状況

 上述した諸国は,法の適用対象年齢の上限・下限があるか,定年制が許容されるか,差別的効果(間接差別)法理が用いられるかに関して相違があるが,年齢差別禁止法が存在する点で共通している。これに対し,EU加盟国で指令採択前にかかる立法を有したのはアイルランドとフィンランドだけである。その他の国では,年齢を用いた雇用管理に関する規制があってもその範囲・効果は限定されていた。

 1 年齢差別を禁止していなかった諸国

 (1)ドイツ
 ドイツで一般的な65歳定年制は(注16),年金財政の逼迫が予想されるなか撤廃されたことがあるが(1992年改正後の社会法典(SGB)第6編旧41条4項3文)(注17),企業の人事計画への影響や当時の高い失業率などにかんがみて1994年に再び許されることとなった(同編41条2文)(注18)。判例上も65歳定年制は,職業の自由の基本権(基本法(GG)12条1項)や期限設定に客観的な(sachlich)理由を求める判例法理(民法典(BGB)620条)に照らして審査され,有効とされている(注19)。65歳になると老齢年金を受給できるし,定年の存在により,労働者の能力欠如を理由とする解雇を避けることができ,また企業の人事・後継者計画が可能になるからである。
 中高年齢者に不利な労働条件を禁止しうるツールも存在するが(一般的平等原則(基本法3条1項),労働法上の平等取扱い原則(注20),高齢者の不利益取扱いの防止義務を事業所当事者に課す事業所組織法(BetrVG)75条1項2文),明白に年齢を基準とする取扱いであっても正当化の余地が認められている。また,それらの原則は年齢差別の場合,契約自由の原則に劣位する。年齢を理由とする採用拒否は妨げられない。
 年齢による処遇には中高年齢者に有利なものも多い(注21)。年齢給や勤続給がその一つである。たとえば公務員の基本給は,同じ俸給等級の中で21歳または23歳を開始時点,37歳から49歳までの時点を終了時点として2年ごとに増額される。民間部門では上級の賃金等級や職員について勤続給を定める協約が存在する。化学産業では,E6からE12までの各賃金等級の中で就業期間が2年経過するごとに6年まで賃金が上がり,最初と最終では16%から35%の差異がある。また協約の中には,労働者の能力欠如やポスト削減を理由とする配置転換が賃金等級の低下を伴う場合に配転前の賃金額を保障するとの定めを置くものがある。化学産業では50歳以上で10年勤続の者にこうした賃金保障がなされる。このほか,高齢者について労働時間の短縮や休暇日数の延長を行うなどの取扱いも存在する。
 さらに,定年年齢に至るまでは中高年齢者に手厚い雇用保障が提供されている。解雇制限法(KSchG)は「差し迫った経営上の必要性」に基づく解雇の場合に「社会的観点」からの考慮が必要であるとし(同法1条3項),その際には年齢,勤続年数および扶養義務の3要素を考慮すべきことが解釈上確立している。使用者の解約告知期間も勤続が長くなると延長され,勤続20年では7カ月にもなる(民法典622条2項)。協約上の保護もある。たとえば金属産業では,55歳以上65歳未満で勤続10年以上の労働者は重大な事由がなければ解雇しえない(注22)。
 ただ,定年まで雇用を継続する労働者が多いわけではない。早期退職の手段の一つは,55歳以上の労働者がパートタイム労働に移行し,そこに失業者等を雇入れた企業に助成金を支給する制度である(高齢者パートタイム法(ATG))。この制度の目的は段階的引退の促進にあるが,実務上は最初の数年,常勤で雇用を継続し,その後完全に退職するという形態で利用されている。
 この制度によって,あるいは合意解約のうえ退職した高齢者の再就職支援としては,たとえば55歳以上の失業者を雇用した企業に賃金補填の助成金が支給される(社会法典第3編218号1項3号。2006年末までは50歳以上)。また,パートタイム労働・有期労働契約法(TzBfG)は58歳以上の求職者を適用除外する(同法14条3項。2006年末までは52歳以上)。それゆえそれらの者との有期契約締結には客観的な理由を必要としない。これも高齢者の再就職促進を目的とする。
 要するに,中高年齢者に有利なものと不利なものとがあるが,いずれにせよ年齢を用いた雇用管理や政策が行われてきたといえる。

 (2)フランス
 年齢を用いた雇用管理に関する規制は限定されていた。その規制の一つは就職情報誌などにおける年齢制限の設定の禁止であるが(労働法典(Code du Travail)L. 311-4条5項1号),これは年齢差別を包括的に禁止するものでない。
 定年制を全面的に禁止する法律もない。すなわち使用者は,公的老齢年金を満額で受給できる労働者(一般的には65歳以上の者または60歳以上で40年以上加入していた者)を強制的に引退(mise a la retraite)させることができる(労働法典L. 122-14-13条3項)23)。引退に際しては,解雇のときに必要な「真実かつ重大な事由」の存在や労働者との事前協議などが不要になる。
 定年に至るまでは中高年齢者の解雇を抑制する規制が行われている。使用者は経済的解雇に際して,労働協約が存在しない場合,被解雇者選定の基準を設定しなければならない。その際とくに家族責任,在職年数,再就職を困難にする状況(高齢であることなど)を考慮するよう求められる(労働法典L. 321-1-1条)。また,50歳以上の者を解雇するとき使用者は,失業保険の保険料徴収機関に一定額を払わなければならず,その額は年齢に応じて増額される(労働法典L. 321-13条。ドゥラランド拠出金)。そして,こうした規制がある一方で,早期退職を促進する仕組みが失業保険その他の制度に存在していた(注24)。
 つまり年齢差別の規制は限定的で,募集や解雇などに関して個別的な対処がなされてきた。

 (3)イギリス
 60歳,65歳定年制が一般的で(注25)それを禁止する法律は存在しない。不公正解雇に関する規制は,被解雇者が「標準的退職年齢(normal retirement age)」に達している場合(標準的退職年齢が存在しないケースでは,被解雇者が65歳に達している場合)は適用されない(1996年雇用権法(ERA)109条1項)(注26)。標準的退職年齢の存否は,当該被用者が従事する「職務(position)」に存在するかどうかによって決定される(注27)。契約上の退職年齢が標準的退職年齢と推定されるが,その推定は,実際に実施されていた退職年齢を示せば覆される(注28)。
 年齢を用いた雇用管理は性差別(間接差別)となりうる(1975年性差別法(SDA)1条1項(b))。たとえば,上述した不公正解雇規制の適用除外は男性への間接差別と判断されている(注29)。当該規定は労働市場からの引退が相対的に遅い男性に対してより大きな影響を及ぼすからである。このほか,採用時の年齢上限の設定が女性への間接差別となりうる(注30)。女性は育児等のために就労を中断することが多く,年齢上限は女性の再就職を妨げる傾向にあるからである。しかし,年齢を基準とする取扱いがすべて一方の性に不利に作用するわけではないし,使用者によって正当化される可能性もある。
 1999年の行為準則(Code of Practice: Age Diversity in Employment)は,年齢を用いた雇用管理をなくすために募集,選考,昇進,訓練,剰員整理,退職に関する改善案を提示した(注31)。しかしこの準則は法的拘束力がなく,それを利用する使用者は少数であった。
 このように年齢差別を強行的には禁止しておらず,特定の年齢層への雇用政策として,18歳から24歳,50歳以上の者等に対象を絞って就職支援を行ったり,職業訓練への給付金を支給したりしていた(New Dealと呼ばれる)。

 2 年齢差別を禁止していた諸国

 (1)アイルランド
 以上の諸国に対し,アイルランドでは,1998年雇用均等法(Employment Equality Act)により性,障害,人種等の差別とならんで年齢差別を禁止している(注32)。間接差別も規制対象となる。この立法の背景にはNGO等の政治的圧力,法案起草時に労働党が与党と連立政権を組んでいたこと,アメリカの立法の影響などがある。
 年齢給は3年間で段階的に禁止されたが,(1)先任権に基づく賃金・労働条件は例外とされる。例外はこのほか,(2)年齢が真正な職業資格である場合,(3)職域年金での年齢による取扱いの差異,(4)50歳以上の者の,労働市場への統合のためのポジティブ・アクション,(5)訓練・職業経験制度での奨学金等に関する年齢による取扱い,(6)航空機・鉄道・船舶の運転資格等,(7)警察,国防軍,刑務所職員である。これらは上述した諸国でも認められるような例外である。
 アイルランドの立法の特色は次の点にあるといえる。第1に,法の適用対象者が18歳以上65歳未満の者であることである(6条3項。訓練は15歳以上)。適用対象年齢の上限が憲法の一般的平等条項に反するのではないかが争いになったが,最高裁は,65歳になると労働市場から退出するのが一般的であるから不合理でないと判示している(注33)。
 また,定年制は年齢差別禁止の例外とされる。自発的か強制的かにかかわらず,複数の被用者または一定の職種の被用者について異なる退職年齢を定めることは,差別とみなされない(34条4項)。ある調査によれば40%の被用者が定年制に服しており,定年年齢はおおむね65歳であるという(注34)。
 第2に,アメリカなどの先行する立法にみられない例外の存在を指摘できる。一つは,被採用者を訓練するためのコスト・時間や,退職前の合理的な期間が必要であることを考慮した,採用年齢上限の設定である(34条5項)。もう一つは,差別が許容されなければ著しくコストが増大するという明確な保険数理上その他の証拠がある場合である(同条3項)。

 (2)フィンランド
 憲法で性,障害,年齢などを理由とする差別が禁止されている(2000年施行)(注35)。また,雇用契約法は使用者に対し,年齢差別も含め,差別をすることなく公平に労働者を処遇することを求めている(採用を含む。2001年施行)。この年齢差別禁止法は雇用政策の一環でもある。フィンランドは早期退職を奨励してきたが,高齢化の進展のなか高齢者の就労を促進する政策に転換している。
 年金受給資格を満たす時点での雇用契約の終了を定めることができる。それに限らず,年齢を用いた取扱いは客観的で許容しうる理由がある場合には認められる。年齢差別禁止の例外を,特定することなく一般的に認める点がフィンランドの立法の特色である。


IV 2000/78/EC指令の年齢差別規制

 1 EC指令の年齢差別規制の採択経緯と趣旨

 以上で述べたような状況の中で,2000/78/EC指令により各加盟国は年齢差別禁止法の導入を求められることとなった。その背景は,各国の社会保障財政の逼迫が予想され高齢者の雇用促進が重要な政策課題になっていることであるが,年齢差別の禁止は人権保障を目的とする差別規制の一つとしても位置づけられる。

 (1)人権保障としての差別禁止
 EU(EC)の差別規制は男女賃金差別と国籍に基づく差別の禁止から始まった(ローマ条約旧119条と旧6条)。1970年代半ばから性差別に関する指令が出され,1980年代以降,その他の差別への取組みを求める声が高まった。1993年に欧州委員会が社会政策に関する緑書を出すと,これに対して欧州議会や多数のNGOが差別への取組みを要請した(注36)。年齢差別規制はNGOのEurolink Ageが主張した。この動きを欧州委員会も推進し,1997年のアムステルダム条約によるローマ条約改正時に,新13条が設けられた。13条は理事会が,欧州委員会の提案に基づいて,全会一致により「性,人種もしくは出身民族,宗教もしくは信条,障害,年齢または性的指向を理由とする差別と闘うための適切な行動をとる」ことができるとした。当初,年齢差別を13条に含めることを支持する国は少数であり,オランダは既存の政策的規定に基づいて取組むことが適切であるとして年齢差別などを除くよう試みた。しかし欧州議会やNGOの反対を受け,その試みは成功しなかった(注37)。
 このローマ条約13条は,差別に取組む「適切な行動」について定めるにすぎなかった。「適切な行動」には勧告なども含まれるから,13条は法的拘束力ある差別規制を必然的にもたらすものではない。しかし欧州委員会は,あらゆる差別を等しく取扱う水平的(horizontal)アプローチをとり,1999年11月,年齢差別も含めて差別禁止法の導入を加盟国に求める提案を行った。
 指令案提出後もすべての加盟国が積極的に年齢差別禁止法導入を支持したわけではない(注38)。イギリスは指令の年齢差別規制は実際的でないとの懸念を示していた。使用者団体も反対していた。しかし,年齢差別規制は他の差別と一体のものとして提案されていたので,個別的に反対することは困難だった。最終的には2000年11月27日,2000/78/EC指令は採択され,同年12月2日に施行された。
 ローマ条約13条の新設は「EU市民権(citizenship)」を確立するという動向の一つでもあった。EUでは1990年代以降,市場統合が容易でないという状況で,EUを市民に身近なものにすることが提唱された。それゆえEU市民権の確立が求められた。差別への取組みはその一環であった。差別禁止規定はEU基本権憲章(2000年)(注39)にも置かれている(21条。年齢差別を含む)。そしてEC指令は前文で,人権および基本的自由の保護のための欧州条約(注40)や加盟国の憲法に由来する基本的権利などに言及している(前文(1))。これらのことに照らすと,EC指令の差別規制は全体として人権保障を目的とすると把握される。そして,あらゆる差別規制を同様に取扱う水平的アプローチがとられたことから,年齢差別の禁止も人権保障としての差別規制の一つと位置づけられたといえる。

 (2)雇用政策としての性格
 EC指令の年齢差別規制は雇用政策としても求められており,従来の雇用慣行・政策との整合性に配慮がなされている。つまり,それは政策的観点からも必要で,かつ許容されるものであった。
 EUでは近年,高齢者の就業率が著しく低いという状況が問題視されている。1999年に出されたコミュニケーションは,早期引退の趨勢が継続すると労働者不足と社会保障費の増大を招くとして懸念を示す(注41)。2001年のストックホルム欧州理事会では,2010年までに55歳以上65歳未満の者の就業率を当時の水準(約35%)から50%に引上げるという目標が設定されている。指令前文も「年齢差別の禁止は雇用のガイドラインに定める目的の達成に必要不可欠である」としている(前文(25))。
 また年齢差別規制は,広範な例外を設定しうる(後述)がゆえに加盟国政府と使用者団体の支持が得られたと考えられる。実際,指令の協議段階では欧州産業経営連盟(UNICE),特にドイツの使用者団体が強く反対した。UNICEは,「差別《禁止》をベースとするアプローチによって年齢に取組むことの適切性には疑問がある」「年齢の問題はより労働市場政策に関連しており,EUにおける人口構造の展開に左右される」という立場を表明していた(注42)。そして,個々の経営判断に異議を申し立てられることが懸念されること,若年者や高齢者を優遇する労働市場政策も差別になりうることを批判した。しかし,年齢差別禁止の例外の存在により最終的には同意が得られた(注43)。
 つまり2000/78/EC指令の年齢差別規制は,人権保障を目的とする差別禁止としての趣旨が前面に出されて導入されたが,実際には他の差別規制と同程度の厳格な規制とはなっていない。それがEC指令に年齢差別禁止を取り入れることを可能にしたとみられる。

 2 EC指令の年齢差別規制の内容

 2000/78/EC指令は,宗教・信条,障害および性的指向を理由とする差別とならんで年齢差別を規制する(人種差別と性差別は別途指令が存在する)。このアプローチが反映して,年齢差別規制の適用範囲,差別の概念および一定の例外は他の差別と共通する。
 適用範囲は次のとおりである。加盟国は公的部門・私的部門の双方につき,雇用・自営業・職業へのアクセスの条件(昇進を含む),職業指導・職業訓練へのアクセス,労働条件(解雇・賃金を含む)および労働者組織・使用者組織の加入・給付に関する差別を禁止しなければならない(同指令3条1項)。指令は国の社会保障・社会的保護の給付には適用されない(3条3項)。また指令は公共の安全や犯罪防止等のための措置を妨げない(2条5項)。警察や刑務所などにおける取扱いがこれに該当する。
 差別には直接差別と間接差別とがある(2条2項)。間接差別は,年齢差別では,外見上は中立的な規定・基準・慣行が特定の年齢にある者にそうでない者に比して特に不利益を与える場合に成立する。ただし,それが正当な目的により客観的に正当化され,その目的を達成する手段が適切かつ必要である場合はこの限りでない。差別を推定させる事実を被差別者が立証した場合には,差別がなかったことを被告が証明するものとしなければならない(10条1項)。なお年齢差別では,高齢であることを理由とする差別のみならず,若年であるがゆえの不利益取扱いも含まれるし,規制対象は中高年齢層のみでなく若年層にも及ぶ(注44)。
 差別禁止の例外としては,その属性(年齢差別では,特定の年齢であること)が職業上の要請である場合に差別を構成しないとすることができる(同4条1項)。また,ポジティブ・アクション(平等確保のための措置)を許容しうる(同7条1項)。
 年齢差別に関してのみ可能な正当化事由も存在する。加盟国は,年齢に基づく取扱いが(1)雇用政策,労働市場および職業訓練のような正当な目的によって,客観的かつ合理的に正当化され,(2)その目的を達成する手段が適切かつ必要である場合は,(3)国内法の定めを置くことにより,差別を構成しないものとすることができる(同6条1項)。この基準は間接差別に用いられてきた正当化基準を参照して定められている(注45)。
 この一般的な基準に加えて,年齢差別禁止の例外としうるものが列挙されている。第1に,若年者,高齢者および扶養責任のある者について,その職業上の統合や保護のために,雇用・職業訓練へのアクセスと解雇・報酬条件等に関し特別の条件を設けることである。これは若年者・高齢者の雇用促進・保護のための取扱いを指すと考えられる。第2に,雇用へのアクセスと雇用に関連する利益につき,年齢,職業経験または勤続年数の最低条件を定めることである。これには勤続年数を基準とする賃金や,ある職業への就労に一定年齢以上であることを条件とすること等が該当しうる。第3に,当該ポストに訓練が必要であること,または退職前の合理的な雇用期間が必要であることを理由とする,採用年齢の上限の設定である。
 この条文では定年制が列挙されていないが,指令前文(14)は,指令が「退職年齢を定める,国の規定を妨げない」としており,上記の(1)から(3)の要件を満たせば例外としうる(注46)。このほか,職域の社会保障制度において,退職・障害給付の加入・受給資格を得る年齢を設定することと保険数理上の計算に関して年齢を基準とすることを認めることができる(同6条2項)。年齢差別規制を軍隊に適用しないことができる(同3条4項)。
 これらの例外は,年齢がスキルを示す指標たりうるため,年齢差別は他の差別よりも合理的であるといえるから設けられた(注47)。
 以上のEC指令の年齢差別規制をADEAや他の差別規制と比較した場合,最も重要な特色は,抽象的で一般的な条項において,雇用政策・労働市場の観点から,直接差別の正当化を認めている点にある。ADEAでは,差別的取扱いを正当化するには,特定の例外を定める条項に依拠しなければならない。EUでも,たとえば性差別に関して直接差別が認められるのは,男性,あるいは女性でなければ特定の職務を遂行しえない場合に限られる(76/207/EEC指令2条2項)。一般的な正当化が可能なのは間接差別だけである。
 つまり,EC指令の年齢差別規制は,厳格なものとならない可能性がある。実際,例外として想定される中には,退職前の合理的な雇用期間が必要であることを理由とする,採用年齢上限の設定など,アメリカなどの立法にないものが含まれている。


V EC指令採択後の加盟国の対応

 1 EC指令の国内法化が未整備の諸国

 (1)ドイツ
 年齢差別禁止を含め,EC指令を実施する法案が2001年末に提出された(注48)。法案では,年齢差別は客観的な根拠により正当化され,定年制は関係する者の保護,または雇用政策上その他の公共の利益を根拠とする場合に許容されると定められている。このように法案では,定年制以外に何が規制の例外となるかが具体的に明らかでないし,現在立法には至っていない。それゆえ指令の国内法化をめぐる学説を中心に検討する。
 定年制については学説が分かれる。Lowisch/Caspers/Neumannは,定年が企業の人事・後継者計画を可能にするということを正当な目的であるとする(注49)。Bauerは,定年制を撤廃すると企業は均衡のとれた年齢構成を維持できなくなり,若年者の雇用機会を奪うとして,それを禁止するなら解雇規制を緩めるべきとする(注50)。Zollnerも,定年制は若年者の雇用確保のためのポジティブ・アクションとしても許容されるとし,年齢差別と性差別との相違を強調する(注51)。これに対し,SchlachterやSchmidt/Senneはいずれの観点からも定年制を正当化できないとする(注52)。Wiedemann/Thusingは,加齢によって生産性が低下するという先入観では定年制を十分に正当化しないとする(注53)。Wankは,若年者の雇用確保という論拠について,雇用量が一定に定まったものでないことなどを理由に疑問を呈している(注54)。
 定年制が差別禁止の例外とされるかどうかは予測がつかないが,解雇に関する状況は変化しないと考えられる。中高年齢者に対するより手厚い解雇規制は一見,若年者への年齢差別にみえる。しかし,それらの規制は中高年齢者の保護のための措置として,あるいはポジティブ・アクションとして許されうる(指令6条1項,7条1項)(注55)。そして中高年齢者の解雇はもともと,年齢差別禁止法が存在しなくても困難だったから,定年制撤廃に至らないならば,年齢差別禁止が中高年齢者の雇用保障を強化することにはならない。つまり年齢差別の禁止は,雇用終了の局面では直接的に大きな影響を及ぼさない可能性があるといえる。
 賃金については,年齢給や勤続給が若年であるがゆえの不利益取扱いとして問題になりうる。指令は雇用に関連する利益において年齢や勤続年数を基準とすることを例外としうるとするが(6条1項),学説では,年齢給は単なる生活経験の蓄積を評価することであり正当でなく,勤続給についても職務経験の蓄積が職務遂行のあり方に影響を及ぼす場合に正当化されるとするものがある(注56)。同様の立場をとったうえで,勤続に応じて賃金が上がるのは数年にすぎないし,上級の賃金等級や職員に限られるので,通常の勤続給は正当であるとするものもある(注57)。では逆に,年齢や勤続年数を基準に賃金額を引下げることは許容されるか。ドイツでは横断的な労働協約に基本給が定められ,労働協約には強行的効力があるから,少なくとも基本給の変更は容易でない(注58)。そこで実際上,この事態はあまり想定されないと推測される。
 そうすると,指令の国内法化は募集・採用時の年齢制限が禁止される点で重要になると考えられるが,それも例外が許容されるかどうか,十分な救済の仕組みを整えるかどうかにより左右される。採用時の年齢制限を正当化しうる理由として,訓練に要する時間・費用を挙げる見解(注59),均衡のとれた年齢構成の維持の必要性を挙げる見解もある(注60)。
 有期契約規制における高齢者の適用除外など,雇用政策での年齢による取扱いは存続すると考えられる(注61)。

 (2)イギリス
 EC指令に対応した年齢差別規制について,2001年12月から2002年3月まで経済界,市民などから意見を収集し,それを踏まえて立法準備を進めている(注62)。
 定年制に関しては,経済界は,それを撤廃すると人事計画や福利厚生給付制度上の支障があり,解雇が必要になると反対している。Heppleも定年制を例外にすべしとする(注63)。ただしその条件として,(1)労使間の契約によること,(2)職域年金の受給開始年齢に接合していること,(3)職域年金の支給開始年齢までは訴権放棄を認めないこと,(4)契約締結の際に労働者が助言・情報を得ていること,(5)年齢差別禁止の履行確保を担う機関がその契約締結に関し不公正がないか調査する権限を持つことが必要とする。
 許容される可能性が高いと考えられるのは,年齢が職業上の適格性を示す場合とポジティブ・アクションである。また年齢を考慮した政策も許されると思われる。たとえば,1998年最低賃金法が18歳未満の者に適用されないことや,1998年労働時間規則が18歳未満の者の深夜労働を禁止していることなどがある。

 2 EC指令採択後に年齢差別を禁止した諸国

 (1)フランス
 差別との闘いに関する2001年11月16日の法律第2001-1066号により,従来から禁止していた性,人種,障害等を理由とする差別に加えて年齢差別その他の差別を禁じている。この差別禁止に反する行為は無効になる。ただし年齢差別には次の例外がある(労働法典L. 122-45-3条)。
 「年齢を理由とする異別取扱いは,それが正当な目的,とくに雇用政策上の目的により,客観的かつ合理的に正当化される場合であり,その目的を達成する手段が適切かつ必要である場合には,差別にならないものとする。この異別取扱いは,とくに以下に定める内容となる。
 ――若年者および高齢労働者の保護を確保する目的で,雇用へのアクセスを禁止することおよび特別な労働条件を設定すること
 ――当該ポストに必要な訓練または退職までの合理的な雇用期間が必要であることを理由として,採用に年齢上限を設けること」
 このようにフランスは,年齢差別禁止の例外として一定の事項を列挙するだけでなく,一般的な条項で例外を定める手法をとっている。定年制は例外として言及されていないが,老齢年金支給に接合した65歳定年は違法な年齢差別にならないと考えられる。65歳時の強制的退職を引退として位置づけ,解雇のときに必要な要件を引退の際には求めないという規制のあり方が現在も維持されているからである(労働法典L. 122-14-13条3項)。

 (2)その他の諸国
 EUの外郭団体であるEIROの2003年8月の調査によると,ベルギーで2003年2月25日,EC指令を実施する法律が制定され,イタリアでも2003年7月9日,差別禁止を定める委任立法(decreto legislativo)が出された(注64)。これらは年齢差別禁止を含む。オランダでも年齢差別禁止法案が提出されている。その法案では,直接差別も含めて一般的な条項で年齢差別禁止の例外を認めている。また老齢年金支給に接合した定年などの例外を列挙している。


VI おわりに

 年齢差別禁止法はアメリカの州で最初に導入され,1967年にADEAが,1970年代末までにカナダの州法が制定された。1990年代になると,その動きはオーストラリアの州やニュージーランドにも広がった。そしてアイルランドとフィンランドも年齢差別を禁止し,2000/78/EC指令により,その他のEU加盟国も原則として2003年12月までに年齢差別禁止法を導入しなければならなくなっている。
 各国の立法に共通するのは,募集・採用から退職にいたるまで雇用のあらゆる局面での年齢差別が原則として禁止されることである。例外になることが多いのは,特定の職務の遂行にあたって一定の年齢であることが必要な場合と年金や保険などの給付において年齢を基準とした取扱いを行う場合である。このほか,中高年齢者や若年者の雇用促進・保護のための取扱い(それぞれに的を絞った職業訓練,中高年齢者に手厚い解雇制限,年少者の就労禁止など)と若年者への低額な賃金の支払いや勤続給も例外とされることがある。
 そうした共通点を有するとはいえ,諸外国の法規制は一様ではない。その最も重要な相違点は定年制の取扱いである。アメリカ,オーストラリア,ニュージーランドでは定年制は撤廃されているが,カナダでは法の適用対象年齢の上限が維持されている。EC指令でも,欧州司法裁判所の解釈が示されるまで確かなことはいえないが,少なくとも老齢年金の支給開始年齢に接合した定年は許容される可能性がある。指令採択前に存在したアイルランド,フィンランドの法律は定年制を禁止していない。
 ADEAでは,差別的効果法理を用いた差別の立証が困難になっている。これは実際上,中高年齢者の解雇や賃金引下げを許容することにつながりうる。これに対し,その他の諸国は間接差別(差別的効果)もカバーする。また,ADEAは適用対象を中高年齢層に限定するが,他の諸国は若年層も保護対象とする。
 EC指令は年齢差別について,直接差別であっても一般的な条項でそれを正当化する可能性を開いている。フランスはそのアプローチをとり,年齢に基づいた取扱いの差異は,それが雇用政策などの正当な目的により客観的かつ合理的に正当化され,この目的の達成手段として適切かつ必要であるといえれば,違法な差別とならない。その手法をとらない場合でも,たとえばアイルランドは,訓練に係るコスト・時間や退職前に合理的な期間が必要であることを考慮した,採用年齢上限の設定を例外としている。フランスもこの例外を列挙している。これはアメリカなど先行する年齢差別立法にない例外である。
 そして,年齢差別規制は,それが過剰な法的介入とならない背景が,各国の雇用慣行・労働市場のあり方に存在している場合がある。たとえば,アメリカでは定年制も撤廃されているが,そこでは解雇規制が厳格でないために,定年制の存否にかかわらず企業は高齢者を解雇できるし,高齢者の側でも自発的に退職している。他方,ドイツでは,中高年齢者の解雇はそもそも困難であるから,年齢を理由とする解雇が新たに禁止されても,アメリカとは逆の意味で,それが直接的に及ぼす影響は大きくないといえる。
 諸外国の年齢差別禁止法を参照すると次のように言えよう。すなわち,ある事由に基づく差別が違法であるとすると,その事由に基づく差別が包括的に禁止されるように思われるが,年齢差別に関しては,それが直接差別なのか間接差別なのか,定年制なのか,その目的が特定年齢層の保護や雇用促進にあるかなどにより,規制の必要性・許容性を区別して議論することが必要になるということである。日本で年齢差別禁止法の是非を議論する際にも,日本の雇用慣行・労働市場の状況を念頭に置いたうえで,定年制,解雇,募集・採用の年齢制限,年功賃金・処遇などを個別的に検討することが適切であろう。

* 本稿は,財団法人労働問題リサーチセンターの「労働問題に関する研究助成金」を受けて行った研究の成果の一部である。

1)詳細は森戸英幸「雇用における年齢差別禁止法――米国法から何を学ぶか」日本労働研究雑誌487号57頁(2001年)参照。
2)OJ 2000 L 303/16. 年齢差別禁止法の実施は,欧州委員会への報告を条件に3年延長が可能である。本指令の検討として,濱口桂一郎「EUの『年齢・障碍等差別禁止指令』の成立と,そのインパクト」世界の労働51巻2号36頁(2001年),川口美貴「EUにおける雇用平等立法の展開――2000/43指令,2000/78指令,および1976/207指令改正案の紹介を中心として」法政研究(静岡大学)6巻3・4号689頁(2002年),指令案の検討として,家田愛子「EUにおける新たな雇用差別禁止指令および人種差別禁止指令の提案」労働法律旬報1492号25頁(2000年)がある。
3)州の公正雇用慣行機関(Fair Employment Practices Agencies)があるときは最初にその機関に申立てを行う必要がある。
4)これを否定する連邦控訴裁判所もある。Hamilton v. Caterpillar Inc., 966 F.2d 1226 (7th Cir. 1992). 若年であるがゆえの不利益取扱いを禁止する州法もある(ニュージャージー州など)。
5)Massachusetts Board of Retirement v. Murgia, 427 U. S. 307 (1976).
6)中高年齢層に適用対象を限定しない州もある。ニューヨーク州は18歳以上の者に適用する。
7)拙稿「雇用における年齢差別の禁止――米国の法規制の基本趣旨」本郷法政紀要9号83頁(2000年)。
8)中窪裕也「アメリカにおける解雇法理の展開」千葉大学法学論集6巻2号81頁(1991年)。
9)井村真己「高齢者の退職に伴う放棄契約の締結と雇用差別禁止法――アメリカにおけるADEAの改正を契機として」季刊労働法182号127頁(1997年)。
10)507 U. S. 604 (1993). ただし最高裁は差別的効果法理が適用されないと判示したわけでなく,この点に関する判断が期待されていた事件でも上訴が認められていない。Adams v. Florida Power Corp., 255 F.3d 1322 (11th Cir. 2001), cert. granted, 534 U. S. 1054 (2001), cert. denied, 535 U. S. 228 (2002).
11)柳澤武「雇用における年齢差別禁止法理の変容――アメリカ年齢差別禁止法の下におけるインパクト法理」九大法学81号546頁(2001年),同「賃金コストを理由とする解雇・採用拒否と年齢差別――アメリカADEAにおける判例法理を手がかりに」季刊労働法201号172頁(2002年)。差別的効果法理を年齢差別禁止法で用いる州法もある(カリフォルニア州など)。柳澤武「年齢差別訴訟における正当化基準をめぐる争い――California州Marks事件と公正雇用住宅法改正」九大法学84号237頁(2002年)。
12)Gunderson, Age Discrimination Legislation in Canada, in Hornstein (ed.), Outlawing Age Discrimination, 2001, pp. 31-42.
13)McKinney v. University of Guelph, [1990] 3 SCR 229. 中川純「カナダにおける定年制の法解釈――人権法法理に対する,カナダ憲章の権利制限テスト(OAKES TEST)の影響」愛知学院大学法学部同窓会創立35周年記念『法学論集(2)』97頁(1996年)。
14)Encel, Age discrimination in Australia: Law and Practice, in Hornstein(ed.), Outlawing Age Discrimination, 2001, pp. 12-30.
15)Hornstein (ed.), Outlawing Age Discrimination, 2001, pp. 76-77.
16)Schaub, Arbeitsrechtshandbuch, 10 Aufl., 2002, 39 Rn.60.
17)土田道夫「労働協約上の定年制の適法性と効力」労働法律旬報1345号47頁(1994年)。
18)通常の年金支給年齢である65歳以前でも年金受給が可能な場合があり,そうした早期の年金支給年齢に接合した個別労働契約上の定年が65歳定年とみなされる。
19)BAG v. 20.11.1987, AP Nr. 2 zu 620 BGB Altersgrenze.
20)蛯原典子「ドイツ労働法における平等取扱原則(一)~(三)」立命館法学260号42頁,261号160頁,262号143頁(1998年)。
21)Lowisch/Caspers/Neumann, Beschaftigung und demographischer Wandel, 2003, S.34ff.
22)Lowisch/Caspers/Neumann, a. a. O., S. 51.
23)2003年8月21日の法律2003-775号により,労働者が65歳になるまで「引退」の手段をとることはできなくなった。ただしこの改正には,一定の労働協約に定めがある場合などの経過措置が設けられている。
24)森戸英幸「雇用法制と年金法制(2)――被用者の引退過程に関する立法政策」法学協会雑誌109巻12号151頁以下(1992年)。
25)Hepple, Age Discrimination in Employment: Implementing the Framework Directive 2000/78/EC, in Fredman et al. (eds.), Age as an Equality Issue, 2003, p. 89.
26)剰員整理手当や不公正解雇の基礎裁定も65歳以上では得られない(雇用権法119条4項・5項,156条1項)。
27)職務の範囲は被用者としての地位,職務の性質および労働条件を総合して判断する(雇用権法235条)。
28)Waite v. Government Communications Headquarters [1983] ICR 653.
29)Rutherford and Bentley v. Towncircle Limited (In Liquidation, Trading as Harvest) and Secretary of State for Trade and Industry [2003] 2 C. M. L. R. 28.
30)Price v. Civil Service Commission [1978] ICR 27.
31)寺田博「イギリスにおける中高年問題と年齢差別禁止」高知短期大学社会科学論集80号1頁(2001年)。
32)牧野利香「アイルランドの雇用における年齢差別禁止法制」JIL Discussion Paper Series 03-002(2003年)。
33)The Supreme Court's Judgment, In the Matter of Article 26 of the Constitution and the Employment Equality Bill 1996, 1997 ELR 132.
34)牧野・前掲注32)論文・24頁。
35)Hornstein (ed.), Outlawing Age Discrimination, 2001, pp. 72-73.
36)Waddington, Article 13 EC: Mere Rhetoric or a Harbinger of Change?, 1 Cambridge Yearbook of European Legal Studies 175, 1999, p. 177.
37)Bell/Waddington, The 1996 Intergovernmental Conference and the Prospects of a Non-Discrimination Treaty Article, 25 Industrial Law Journal (ILJ) 320, 1996, p.331; Bell, The New Article 13 EC Treaty: A Sound Basis for European Anti-Discrimination Law?, 6 Maastricht Journal of European and Comparative Law (MJ) 5, 1999, p. 7.
38)http://www. eiro. eurofound. ie/2000/10/Study/TN0010201S. html
39)Charter of Fundamental Rights of the European Union.
40)Convention for the Protection of Human Rights and Fundamental Freedoms.
41)COM (1999) 221.
42)Union of Industrial and Employers' Confederations of Europe, UNICE Position Paper on Implementation of Article 13 of the Amsterdam Treaty, 2000, p. 5.
43)2002年2月下旬,Adam Tyson氏(欧州委員会雇用・社会問題総局)に行ったヒアリングによる。
44)Adam Tyson氏によれば,イギリスは年齢差別規制を50歳か55歳以上の者にのみ適用することを提案した。高齢者への年齢差別が労働市場での中心的な問題だからである。しかし他の加盟国の支持を得られなかった。
45)COM (1999) 565 final.
46)前文(14)はイギリスの要請によって設けられた。Meenan, Age Equality after the Employment Directive, 10 MJ 9, 2003, p. 15. なおAdam Tyson氏によれば,定年制に関する解釈は欧州司法裁判所にゆだねられるが,老齢年金支給に接合した定年を例外とすることは,欧州委員会からすれば,合理的(reasonable)であると思われるということである。
47)Adam Tyson氏に2002年8月,電子メールで確認した。加齢はすべての者に影響する過程であるという理由も挙げられたが,それは主たる理由ではなかった。
48)www. bmj. bund. de/images/11312.pdf
49)Lowisch/Caspers/Neumann, a. a. O., S.47.
50)Bauer, Europaische Antidiskriminierungsrichtlinien und ihr Einfluss auf das deutsche Arbeitsrecht, Neue Juristische Wochenschrift (NJW) 2001, S.2674, 2677.
51)Zollner, Altersgrenzen beim Arbeitsverhaltnis jetzt und nach Einfuhrung eines Verbots der Altersdiskriminierung, in Richardi/Reichold (Hrsg.), Altersgrenzen und Alterssicherung im Arbeitsrecht, 2003, S.517, 530ff.
52)Schmidt/Senne, Das gemeinschaftsrechtliche Verbot der Altersdiskriminierung und seine Bedeutung fur das deutsche Arbeitsrecht, Recht der Arbeit (RdA) 2002, S.80, 86ff.; Schlachter, Altersgrenzen angesichts des gemeinschaftlichen Verbots der Altersdiskriminierung, in Richardi/Reichold (Hrsg.), Altersgrenzen und Alterssicherung im Arbeitsrecht, 2003, S.355, 361ff.
53)Wiedemann/Thusing, Der Schutz alterer Arbeitnehmer und die Umsetzung der Richtlinie 2000/78/EG, Neue Zeitschrift fur Arbeitsrecht 2002, S.1234, 1239.
54)Wank, Beschaftigung fur die altere Generation Altere Arbeitnehmer im deutschen Arbeitsrecht, Vortrag in Tokyo am 8. Oktober 2003, S.14.
55)Schmidt/Senne, RdA 2002, S.83f; Lowisch/Caspers/Neumann, a. a. O., S.49ff.
56)Schmidt/Senne, RdA 2002, S.88f.; Wank, a. a. O., S.11.
57)Lowisch/Caspers/Neumann, a. a. O., S.36.
58)名古道功「ドイツにおける中高年労働者」労働法律旬報1444号31頁(1999年)。
59)Lowisch/Caspers/Neumann, a. a. O., S.26.
60)Wank, a. a. O., S.9.
61)Bauer, NJW 2001, S.2673. もっとも,高齢者パートタイムについては,段階的引退という目的達成のための適切な手段になっていないとの批判もある。Wank, a. a. O., S.18.
62)Department of Trade and Industry, Age Matters, Towards Equality and Diversity: Report of Responses on Age, 2003.
63)Hepple, supra note 25, pp. 89-93.
64)ホームページで検索した。http://www. eiro. eurofound. eu. int


 さくらば(なかむら)・りょうこ 神戸大学大学院法学研究科助教授。主な論文に「雇用における年齢差別の禁止――米国の法規制の基本趣旨」本郷法政紀要9号(2000年)。労働法専攻。