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第1章 ドイツの労働時間制度の運用実態
 1 ドイツ労働時間法制の概要
 2 労働時間の弾力的規制の実際
 3 ホワイトカラーの労働時間
 4 年休取得システム

第2章 フランスの労働時間制度の運用実態
 1 現行労働時間法制と本調査の目的
 2 週所定労働時間と超過勤務時間の現状
 3 労働時間の調整方法
 4 労働時間法制の適用対象、とくに幹部職員、外勤職員等の労働時間管理
 5 日曜休日制
 6 換算労働時間制度
 7 年休日数とその取得システム

第3章 イギリスの労働時間制度の運用実態
 1 労働時間の長さと法制の概略
 2 労働時間の全体的印象
 3 ホワイトカラーの労働時間
 4 労働時間の弾力化
 5 年次有給休暇取得システム
 6 中小零細サービス業の労働時間

第4章 アメリカ・カナダの労働時間制度
 1 アメリカ合衆国の労働時間制度
 2 カナダの労働時間制度

第5章 スウェーデンの労働時間・休暇改正法案について
 序 現行法の概略
 1 改正法案の概要
 2 労働時間の配置
 3 年次休暇の配置
 4 年次休暇の繰越
 5 結び

第1章 ドイツの労働時間制度の運用実態

1 ドイツ労働時間法制の概要
(1) 労働時間法
 労働時間に関して戦後とくに新たな立法が行われていないため、法律としては半世紀もまえのナチス時代の労働時間令(Arbeitszeitordnung.1938年)が現在も適用される。同法が適用されるのは、満18歳以上の労働者(職業養成中の者も含む)である。この年齢に達しない労働者には年少者労働保護法が適用される。また、業種的には製パン製菓業には特別法がある。
 労働時間法には上限規制や休息時間規制などわが国にみられない規定をもっている。なかでも、労働時間法は労働保護法としてわが国の労働基準と同様に強行法であるが、労働協約によって法定労働時間を破ることが認められている、つまり、協約任意的強行法(Tarifdispositives Recht)としての性格を強くもっていることが特徴的である。
(a) 法定労働時間と変形制
 労働時間令は、法定労働時間としては週日(平日)8時間の原則を定める(3条)だけで週労働時間の規制はないが、営業法で日曜日の営業禁止が定められているが、結果的に法定週労働時間は48時間となる。
 1日8時間の原則については変形8時間制が認めされている。第1に、2週単位の変形制である(4条1項)。ある週日の労働時間が規則的に短縮される場合にはその短縮分を当該週並びに事前または事後の週の他の日に配分することができる。つまり、2週平均で週日8時間でよいということである。この2週単位での不均等な労働時間の配分は、例えば行楽地の飲食店のように事業の性格からして必要である場合にも認められる。この場合には規則的な短縮が要件となっていないが、事業の認定には営業監督署が行う。
 第2に、5週単位の変形制である(4条2項)。これは、会社の記念行事や民俗的祭事、公的行事などで休業にしたり労働時間を短縮する場合に、喪失した労働時間分をその前後5週間に補填するための労働時間の延長を認めるものである。5週単位の労働時間の不均等配分は、例えばクリスマスと新年のように祝祭日の前後を休みにして長期の休暇をつくるような場合にも認められる。
 なお、いずれの形態の労働時間の不均等配分であれ1日10時間を超えてはならない最長労働時間規制がある(4条3項)。
 労働時間令はフレックスタイム(gleitende Arbeitszeit)を予定していなかっただけにこの形態の導入には法律上問題があるが、法4条1項が2週単位での労働時間の調整を認めていることから、そこでの規則性の要件を緩和しつつ1週48時間、2週96時間の範囲内でかつ1日10時間までの範囲で労働時間の調整をするフレックスタイムはこれによって認められていると解される。ただし、労働協約によって労働時間規制がはずされれば(7条)導入が容易となる。
(b) 休息と休憩時間
 休憩(Ruhepause)については、労働時間が6時間以上のときに30分または15分2回以上おくものとされている(12条2項)。ただし、女子には、後述の特別規定がある。
 わが国にないものとして、休憩時間(Ruhezeit)に関する規制がある(12条1項)。これは労働時間でない時間が連続11時間(旅館飲食店等では10時間)以上確保されなければならないとするもので、労働者の休息を確保することを目的としている。
(c) 労働時間の延長の超過労働手当
 1日8時間の法定(通常)労働時間はつぎの場合に延長できる。
 第1に、準備後始末労働のための時間(5条)である。<1>清掃・整備作業と<2>事業の再開、維持に不可欠な作業については2時間(1項1、2号)、<3>閉店間際の顧客サービスには30分(2項)、それぞれ労働時間の延長が認められる。
 第2に、年30日までは特別の要件なくして1日10時間の範囲内で延長が認められる(6条)。ただし、経営組織法によって、かかる労働時間の延長は従業員代表機関である経営協議会との共同決定事項であるために、使用者が一方的に行うことは認められない。
 第3に、労働協約で定めれば、やはり特段の要件なしに1日10時間の範囲内で労働時間の延長が認められる(7条)。労働時間中に恒常的に相当な手待時間が含まれている場合には10時間を超えて延長することも可能である(同2項)。
 第4に、緊急の必要性(dringendes Bedurfnis)があれば、営業監督署の許可をえて一定期間1日10時間の範囲内で労働時間を延長することが可能である(8条)。この場合も手待時間が多い勤務には10時間を超える延長が可能である。
 第5に、火災、爆発、浸水等の非常事態(Notfaelle)の場合と、関係当事者の意思とは関係なく発生し、他の方法ではそれを除去できないような特別な事態(aussergewohliche Falle)が発生した場合には、労働時間の長さと休憩、休息に関する労働時間法の規定は適用されないから、延長もまた可能となる(14条)。
 これら労働時間の延長が認められる場合のうち、年30日までの延長、労働協約による延長、営業監督署の許可による延長、特別な事態時の延長に対しては、「法3条及び4条の限度を超えた労働時間」について割増賃金を支払うべきものとしている。
 これに対して、<1>準備後片付け労働による労働時間の延長(5条)、<2>緊急事態による延長、<3>労働協約または官庁の許可による労働時間の延長の場合で恒常的かつ顕著に手待時間がある場合については、超過労働割増賃金の支払義務がない。
 超過労働の割増賃金率は特段の定めがない限り25%(15条2項)である。超過労働を休暇で調整する場合もこの割増は適用される。
(d) 女子労働保護
 労働時間令は、女子労働の保護の一環として、鉱山等の坑内作業や建設業における原材料の運搬作業を禁止する(16条)ほか、つぎのような特別な労働時間規制をしている。
 a 最長労働時間 準備後片付け労働のために延長できる労働時間は1時間である(17条1項)。前記の労働時間の延長に関する規定は適用されるが、いずれの場合も1日10時間を超えることは認められない(同2項1文)。また、日曜祝日には8時間を超えて労働することはできない(同2分)。ただし、交通機関、飲食業、宿泊施設、理容業、浴場施設、医療介護施設、音楽演奏、演劇等については日曜祝日8時間労働の例外が認められている(同3項)。
 b 休憩規定 休憩は労働時間が4時間半を超えるときに1回または数回労働時間の途中に与えるものとしている(18条)。その長さは、労働時間が6時間以内のときに20分、6時間を超え8時間以内のときに30分、8時間を超え9時間以内のときに45分、9時間を超えるときに60分である。休憩なしで4時間半を超える連続労働は禁止される。なお、休憩とみなされるのは1回15分以上の労働の中断である。
 c 夜間労働と日曜祝日前労働の禁止 午後8時から午前6時までの夜間労働と日曜祝日の前日の午後5時以降に女子を就業させることは禁止される(19条1項)。ただし、交替制事務所では午後11時までの就業が認められている(同2項)から、実際には午後11時から午前6時までの深夜業の禁止ということになる。さらに、営業監督署に予め届ければ午前5時からの始業(この場合就業は午後10時)も認められる。
(2) 特別法上の労働時間規制
(a) 年少者労働保護法(Jugendarbeitsschutzgesetz)
 年少者(18歳未満)は、原則として15歳以上で就労が認められる(7条)が、その場合でも1日8時間、週40時間をこえることができない(8条)。ただし、1984年の改正法で他の週日に短縮されれば8時間30分までの労働時間が認められるようになった(8条a)。休憩は4時間30分から6時間までが30分、6時間以上が1時間である(11条)。
 また、週5日労働が定められ(15条)、かつ、土曜日と日曜日の就業が原則的に禁止されている(16、17条)ので、土日の週休2日制度が定められている。
 毎日の休息時間は12時間とされ(13条)、20時から午前7時までの夜間就業は禁止される(14条)。
 年休は、16歳未満が30日、17歳未満が27日、18歳未満が25日となっている(19条)。
(b) 営業法(Gewerbeordnung)
 営業法は、使用者が日曜祝日に労働者を就業させることを禁止している(105条a)。また、日曜祝日には最低24時間の休息を与えなければならない(105条b)。日曜と祝日が連続する場合には最低36時間、クリスマスと復活祭、聖霊降臨祭には最低48時間の連続する休息を与えなければならない。この場合、休息時間は午後12時から起算することになっている。ただし、規則的に昼夜交替制をとっている事業所では、24時間の休息時間の開始時刻を前日の午後6時から日曜祝日の午前の6時までの間で設定することができる。
 なお、日曜祝日労働の禁止には、緊急事態または公益のために給付される労働、事業所の保守作業、原材料の腐敗や製品の不良化を防止する作業(105条c)、旅館飲食店、音楽演奏その他国民の休息に必要な施設(同条i)等、例外が設けられている。
(c) 閉店法(Ladenschluβgesetz)
 労働時間の規制という意味で重要な意味をもっているのは閉店法(1956年)である。販売施設は日曜祝日は全日、月曜から金曜は朝7時依然と18時30分以降、土曜日は朝7時依然と午後14時以降、ただし、第1土曜日(祝日にあたるときは第2土曜日)と12月24日前の土曜日は18時以降、12月24日は14時以降に閉店すべきことを定めている(3条)。
 これにはいくつかの例外が認められている(4条以下)。薬局には閉店時間の規制はないが、他の一般の店の閉店時間は一定の薬品だけの販売だけが認められる。雑誌新聞を販売するキオスクは週日19時まで、日曜祝日は11時から13時まで開店できる。ガソリンスタンドも全日開店できるが、一般の閉店時間には自動車修理部品の販売と燃料だけの販売が認められる。駅と空港は原則として全日開店できるが、一般の閉店時間には旅行に必要な品物だけの販売が認められる。理髪店は土曜日は18時まで営業できるが、そのかわり月曜日は13時まで閉店することにしている。
 そのほか、州政府が法規命令で定めることができるものとして療養保養地や収穫期間中の開店時間がある(10、11条)。
 また、牛乳(2時間)、菓子(2時間)、生花(2時間、特定の日には6時間)、新聞(5時間)など特定の商品については日曜祝日でも販売が認められている。
 閉店法はあわせて労働者保護の規定としてつぎのような規定をおいている(17条)。
<1> 例外的に日曜祝日の開店が認められる場合に、準備後片付け作業に必要な時間30分の延長も認められること。ただし、その場合でも個々の労働者の労働時間は8時間をこえることができない。
<2> 療養保養地で日曜祝日の開店が認められる場合でも、日曜祝日労働は年間22日、1日の労働時間は4時間を超えてはならないこと
<3> 薬局その他日曜祝日の開店が認められそこで就労する労働者は、その就労が3時間以上である場合には同一週の週日に13時以降を、6時間以上である場合には同じく同一週の週日に終日を休暇とするとともに、3週に1回は日曜を休みにすること。3時間未満のときは、1週おきに日曜をまたは週日の13時以降を休暇にすること。週日の午後の代りに月曜または土曜の午前を休暇にすることでもよい。
(d) 道路運送業関係の労働時間規制
 運転手の労働時間と休憩時間に関してはEC法が適用される。85年の施行規則によると、労働時間は、1日9時間(週2回10時間)、連続する2週で90時間を超えてはならない。雇用関係にあるドイツの運転手は、労働協約が明示的に認める場合を除き、1日8時間を超えることができない。この労働時間には純粋な運転時間のほかに、準備作業後片付け作業や積荷の積降ろし作業の時間も含まれる。休憩時間は、遅くとも運転時間が4時間30分経った場合に、連続して45分とることになっている。45分の休憩は30分と15分の2回または15分ずつの3回にわけてとることもできる。
 休息時間は1人乗組みの場合には最低11時間、2人乗組みの場合には30時間の間に最低8時間を置かなければならない。11時間の休息時間は、次週末までに調整される場合には、週3回9時間に短縮することができる。休憩時間が短縮されない日には、休息時間を2回または3回にわけてとることもできる。ただし、その場合でも1回は少なくとも8時間なければならない。この分割が認められるのは当該日における休息時間の合計が11時間から12時間に延長される場合である。
 さらに、運転手は毎週1回は45時間の連続する休息時間(週休息時間)を確保しなければならない。この週休息時間は車の所在地または運転手の故郷地では36時間に、また、翌第3週末までに調整される場合には24時間に短縮することができる。
2 労働時間の弾力的規制の実際
(1) 現行労働時間法制の厳格性と弾力性
(a) 労働時間法制の厳格性
 ドイツ労働時間法制はわが国の労働時間法制に較べた場合、つぎの点で厳格である。
 第1に、労働時間に関して最長労働時間規制があることである。つまり、1日の労働時間は時間外労働を含め、10時間を超えてはならないことである。
 第2に、前述のごとくふたつの変形労働時間制が限定的であり、調整期間が短いことである。
 第3に、休息時間の規定があることである。勤務から勤務の間に少なくとも11時間の休息時間があることが求められている。したがって、例えば、3交替事業所にあって2直や3直の後に日をおくことなく1直や2直に就くようなことは認められない。
 第4に、日曜祝日における労働が禁止されている。
 第5に、閉店法による営業時間規制によって、結果的に小売業部門での労働時間がきわめて厳格な制限をうけていることである。
(b) 労働時間法制の弾力性
 このような厳格な側面をもつ反面、やや弾力的な点もみられる。
 第1に、週労働時間の規制が労働時間法上はないことである。したがって、法的には通常労働時間でいえば、日曜を除いた週日8時間として、週48時間労働が認められることである。
 第2に、1日8時間労働の例外として、<1>清掃・整備作業として2時間の延長(5条1項1号)、<2>事業の再開、維持に不可欠な作業として2時間の延長(同2号)、<3>閉店間際の顧客サービスのために30分延長(同3号)がそれぞれ認められることである。
 第3に、超過労働に対する割増賃金25%増との定めがあるが、日曜祝日労働に関しては、それを予定していないこともあってか、特に定めがないことである。
 第4に、労働時間法は労働保護法として強行法であるが、労働協約によってこの労働時間法の最低基準を破ることが認められている、協約任意的強行法であるということである。例えば、労働協約で定めれば、特段の要件なしに1日10時間の範囲内で通常労働時間を定めることが可能となる(7条)。
 以上のように法的規制における弾力性もみられるが、これらの弾力性は実際の労働時間規制において弾力的であることを必ずしも意味しない。労働協約は、例外なく、週労働時間を規制しているし、日曜祝日労働について高率の割増金を定めている。また、労働時間の配置と配分が従業員代表の典型的な共同決定事項(経営組織法87条)だからである。
(2) 労働協約による労働時間の短縮と労働時間の弾力化
(a) 労働協約による労働時間規制の推移
 金属産業を中心とした労働時間短縮闘争を経て、ドイツの労働時間は80年代に大幅に短縮することになった。すなわち、金属産業では1985年4月1日から週労働時間は38.5時間に、また、1987/88年の協約交渉によって、1988年4月1日から週37.5時間、1989年4月1日から37時間となり、1990年の協約交渉によって、1993年4月1日から36時間、1995年10月1日から35時間になることが合意された。
 1992年現在における協約労働時間は、金属機械工業が週37時間のほか、鉄鋼業が36.5時間、小売業が週37.5時間、化学産業や銀行業等が週39時間となっている。91年末全産業の平均は38.1時間である(表1-1)。なお、年間労働時間は、協約ベースで1676時間であるが、実労働時間は1573時間である(表1-2)。
表1-1 協約所定週および年間労働時間(1991年12月31日現在)
表1-2 年間実労働時間の推移(全産業平均)
(b) 時短協約における弾力的規定
 労働時間短縮の過程で、使用者側の要求を受け入れる形で、労働協約には従来ない労働時間の弾力化を認める規定がもりこまれることになった。
 a. 労働時間配分の個人的弾力化(総量規制)
 金属産業の労働協約においては、一律に週40時間を定めていたこれまでの協約と異なり、新たに導入された週38.5時間制(現37時間制)は一種の総量規制ないし平均的規制となっていることである。つまり、週38.5時間(現37時間)は当該事業所のフルタイム労働者全員の平均で達成されればよく、フルタイム労働者個人の労働時間は週37時間から40時間の間で、事業所内の部門、労働者グループまたは個人労働者ごとに異なる週労働時間を定めることができる。
 b. 労働時間配分の時間的弾力化(変形制)
 もう一つは、変形制の拡大である。従来の週40時間制のもとでの労働協約では、法律の定める変形制の範囲での規定があるだけであったが、84年協約で、経営協定の締結を前提に、2ヵ月の変形労働時間制度が、87年協約以降は6ヵ月の変形制が認められるにいたっている。なお、労働時間の配分に関する経営協定には調整期間の始期と終期も定めることになっている。
 c. 労働時間短縮の実施と弾力化状況
 では、週労働時間の短縮は各企業内ではどのように実施されたであろうか。すでに経過が明らかになっている、金属産業における週1.5時間の短縮(1985年)と週1時間の短縮(1988年)についてみてみよう。
 1985年4月の週38.5時間労働への移行に際して時間短縮形態の調査(金属産業経営協定3300の分析)によれば、56%の事業所では毎週金曜日に1.5時間短縮するか隔週金曜日に3時間短縮する形態が、また、30%の事業所では休日にまとめる形が、残り14%が各種の形態(1日の労働時間の短縮プラス休日等)を組合せる方法がとられた。
 1988年4月の週37.5時間労働への移行に関する調査(対象事業所5489所)によれば、休日で時間短縮するものは事業所の29%で1985年とほぼ同様であるが、金曜日の労働時間を短縮する形態が33%に増加した。ただし、労働者比率では、休日の短縮形態が49%ともっとも多く、ついで毎日の短縮同29%、金曜日の短縮21%となっている。
 なお、時間短縮形態との関連で問題になった労働時間配分の個人的弾力化ないし差別化の問題については、組合が警戒したほど実際に用いられることにはならなかったようである。さきの金属労組の調査では、1985年において、事業所の90%以上で全従業員または事業所部門ごとに統一的に短縮は実施されたとされている。37時間から40時間の幅で労働者の労働時間の差別化を行った事業所は13%あるが、これらの事業所でも労働者の85%は週労働時間が38.5時間であり、38.5時間ではない労働者の比率は金属産業の労働者全体の5%にすぎなかったとしている。1988年の調査でもこの労働時間の差別化は事業所の8%、労働者の6%にとどまるとしている。
 また、変形労働時間についても、使用者団体がその採用を勧め、87年協約で調整期間が延長されたにもかかわらず、これに関する協定をもつ事業所は1985年の18%から1988年の7%に減少している。なお、この制度は主に時短分を年末等の一定の時期に休日をまとめるために利用されているという。
 他方、比較的利用が多く、また85年調査に比べて増加しているのはフレックスタイム制度で、88年には36%の事業所(85年調査31%)がこれを導入しており、職員の60%、現業労働者の12%がこれを利用しているという。また、交替制労働とくに2交替制もこの間に増加し、事業所数で37%から71%に、労働者数で22.5%から25.6%に増えている。労働時間は短縮しても操業時間は維持しようとする経営側の意思を反映したものといえる。
(c) 労働時間の短縮と操業時間・営業時間の確保
 労働時間の短縮が進むなかで、ドイツの企業は競争力や売上を維持する要請から、操業時間や営業時間を確保することに力をいれている。ここでは、自動車産業(現時点の協約週労働時間37時間)と小売業(同37.5時間)の例をあげてその具体的な時短策をみてみよう。
 a. 自動車工場の例
 現代の基幹産業である自動車産業ではその設備に莫大な資本が投下されている。厳しい国際競争に晒されている企業にとって、労働時間の短縮が設備稼働の時間短縮をもたらすことになればさらにコストの増大をもたらすことになる。そこで、多くの装置産業では稼働率を低めることなく、労働時間の短縮を実現するための勤務形態、つまりあらたな交替制の導入を試みている。
 BMW社のミュンヘン工場が91年11月から実施に移した交替制は、労働者に週4日労働(4勤3休制)を保障し、他方、工場は2直による週5日操業を確保している。これは、図1-1に示したように、4つの仕事を5人の労働者が行うことを前提に、労働者は、一週間ごとに直を替えるほか、土日以外の休日を月曜日から金曜日までの間に順次で替えていくものである。いわば休日ローテーションの2交替である。10週で元に戻るが、この間には2回つまり5週に1回ずつ、金曜日から月曜日までの4連続休日があることになる。
図1-1 BMW社の勤務体制(10週リズムの2交替制)
 1直は5時間50分から14時間55分、2直が14時55分から24時である。各直の拘束時間は9時間5分で、昼休み30分(無給)と軽食休憩15分(有給)を除くと、実労働時間が8時間20分、有給の休憩を含む支払労働時間が8時間35分となる。週の労働時間は4×8時間35分=34時間20分となり、協約所定の37時間に満たないから、この不足分(1年間で14.3日、93年からの週36時間制のもとでは3日)を、調整勤務につくことになる。ただし、この調整勤務は4連続休日の長い週末にはおかないことになっている。
 年間労働日数でみると、現行週37時間制のもとで223日弱である。これは所定労働日数であるから、これから協約年休の6週間(週4日労働なので24日労働日ですむ)と法定祝日(14日)を差し引くと、年間基準実労働日数は185日、実労働時間にして1541時間(支払時間1587時間)となる。日本の自動車産業の多くが2交替制をとりながらも残業を組込み、年間総労働時間が2200時間を超えることをみればこれがいかに短いかわかるであろう。
 b. 百貨店の例
 小売業においても、時短の進行に対して営業時間を維持することが企業の最大の関心事である。そうでなくとも営業時間には厳しい制約があるからである。日曜祝日には就業が禁止されるほか、小売業に対しては閉店法により開店時間の規制があるために、平日であれば夕方の6時半に、土曜日であれば第1土曜日を除き午後の2時には一斉に閉店しなければならない。ただし、89年に木曜日の営業が20時30分まで認められる規制緩和が行われた。
 デュッセルドルフのある百貨店の例でみると、営業時間は、木曜日を除く月曜日から金曜日が9時から18時30分までの9時間半木曜日が9時から20時30分までの11時間30分、土曜日が9時から14時(ただし、第1土曜日は夏16時、冬18時)で5時間(7時間、9時間)となっている。商業労組は木曜日の延長開店を認めない方針をとっているが、売上増をねらう企業側の要請が強く、多くはこの百貨店のように木曜日を延長開店している。
 では、どのような工夫で時短を進めているか。ここでも1日の労働時間を多めにし、休日を増やす方法をとっている。店員の1日の勤務時間は、月曜日から金曜日までが、昼休み40分(無給)と午前と午後の休憩時間各20分(一方は有給)を除くと、実労働時間で8時間10分、支払労働時間で8時間30分、拘束で9時間30分となっている。そして、実働8時間10分に休憩1時間20分の交替取得(昼食時は4交替、その他は2交替)を組合わせて、9時間半の営業時間を確保している。木曜日は営業時間が長いため2直制をとっている。1直が通常勤務、2直は12時45分から20時30分(休憩20分)で実労働7時間45分であるが、支払時間は8時間30分で計算している。
 休日の増やし方については、図1-3が示すように、フルタイム従業員を4組にわけて、日曜日の休日のほかは、木曜日を除く月曜日から金曜日のうち1日を順次ローテーションで休日にすることで週休2日を確保するとともに、4週ごとに4連続休日がとれるように工夫している。ただし、このまま(4週9休制)だと年間労働時間は、支払労働時間で1979時間(年間労働日245日)となり、小売業の協約所定労働時間の37.5時間を年間換算した場合の1957時間を21.5時間超過するので、一日5分の後片付けや労働分や棚卸時間と特別セール日の超過労働時間とをあわせた超過分とともに、これを法定外祝日の休業日、個別ローテーション休日が祝日にあたったときの代償休日等の短縮時間分を差し引いたうえ、3日の特別休日で調整している。
図1-2 百貨店の年間労働時間計算協定
図1-3 百貨店の個別休日編成
3 ホワイトカラーの労働時間
(1) 職員の種類と社会的位置
(a) 職員の分類と定義
 ドイツにおける職員の労働時間管理をみる場合、管理の方法ないし形態からみて、労働時間法の適用のない管理職員、労働時間法の適用は及ぶが協約による集団的管理が及ばない職員、協約労働時間による管理が及ぶ協約職員の3つの職員層に分類することができる。
 a. 労働時間法の適用のない職員(上級管理職員)
 労働時間令1条2項は、同法を適用しない者として、
1. 包括的代理人および商業登記簿または協同組合登記簿に登録されている企業の代表者
2. その他の管理的地位にある職員で、20人以上の労働者の上司である者、(または、その年間労働収入が保険加入義務につき職員保険法に定める最高限度額を超える者)
3. 薬学教育をうけた薬局の従業員
 を列挙している。
 このなかで、ここで問題となるのは「管理的地位にある職員」であるが、これは、経営組織法上の上級管理職職員(法5条3項)とは同一ではない。
 b. 協約の適用のない職員(協約外職員)
 協約外職員は、協約の適用が排除されている職員で、実際には、協約で定める賃金等級の最上位級の賃金を超える待遇をうける職員である。ただし、その定義のしかたは協約によってやや異なる。
 例えば、金属産業の労働協約(ノルトライン・ヴェストファーレン州)をみると、「その職務領域が、協約の最高位の雇用グループよりも高い職務要件を必要とする職員」という協約外職員が列挙されている。
 また、化学産業の一般協約(全国協約)では、協約外職員として、「その職務領域が協約の最高位の雇用グループが要求するよりも高い職務要件を必要とし、賃金その他の労働条件が全体的にみて協約の最低条件を上回る職員で、経営組織法99条以下により経営協議会との共同決定のもとに労働契約によって協約の適用から除外されている者」と定義されている。
 さらに、銀行業の協約(全国協約)では、「管理的地位にある職員またはその地位によって特に重要にして影響力をもつ決定を行うことが任務である職員(例えば、支配人、比較的規模の大きい支店の支店長、部長)で、給与が協約賃金の最上級の最高給よりも高く、契約上その他の労働条件が協約上の条件より低くない者」となっている。
 c. 一般職員(協約職員)
 労働協約の適用を予定している職員が協約職員であり、一般のホワイトカラー労働者がこれにあたる。
(b) 職員の社会的、職業的位置
1989年現在における旧西ドイツ地域における雇用労働者2471万人の内訳は、現業労働者が1068万人、職員が1404万人、官吏が249万人となっている。70年代後半以降すでに職員の数が現業労働者の数を上回っている。したがって、一般の職員がもはや社会的にみて現業労働者よりも高い位置を占めるわけではない。ただし、現在でも、多くの場合、職員と現業労働者は別立ての賃金体系であり、賃金収入においても格差が残る。
 職員のうち、協約外職員や管理職員がどの程度の割合を占めるかについては、明確な統計はないが、製造業の場合、1987年のある調査によれば、製造業の15企業7000人の従業員のうち、協約外職員が4%から6%、管理職員が1%から2%であるとしている。したがって、製造業の約1000万人の雇用労働者で推定すると、40万から60万人の協約外職員がいるとしている(Dieter Franke, Der auβertarifliche Angestellte)。
 銀行業の例では、比較的正確な数字をみることができる。表1-3は、民間銀行の経営者団体がとりまとめた職員階層である。これをみると、協約外職員が銀行業で働く労働者21万人の16%(3万4090人)いることがわかる。
表1-3 銀行業の職員構成比率(1991年12月31日現在、西ドイツ地域、絶対数211,346人)
 ある銀行(従業員数全国で8000人)を例に、協約外職員の職階をみた場合つぎのような位置にある。一般の職員は、専門職(Sachbearbeiter)からはじまり、中級専門職(Sachberarbeiter mit erhohen Anforderungen)、上級専門職(ersten Sachbearbeiter)となり、その後の係長(Hauptsachbearbeiter)で、協約賃金の上位級である8,9等級となるとともに、部下を4人ないし10人をもつ。ここまでが協約職員であり、その後の課長(Referatsleiter)、部長(Abteilungsleiter)が協約外職員である。課長は複数の係りを統轄し、約半数が大卒である。部長は、150人から300人程度の部下を統轄している。
(2) 一般職員の労働時間管理
(a) フレックスタイム制度
 業種によって異なるが、製造業の間接部門、金融業ではフレックスタイム制度が一般化している。いかに工作機械製造会社におけるフレックスタイム制度と銀行におけるフレックスタイム制度の例を示すことにする。
 a. 工作機械メーカーのフレックスタイム制度
1) 対象労働者は、管理部門と工場の技術・事務部門である。
2) 標準労働時間は、1日の標準労働時間が7.4人、1週の標準労働時間が37時間で、1ヵ月の標準労働時間が7.4×各清算月の労働日数である。
3) フレキシブルタイムとコアタイムの置き方は、管理・設計部門と工場関係職員では異なる。工場部門は、工場労働者の時間にあわせて早い時間帯となっている。また、週労働時間の短縮をこの会社では金曜日の労働時間を短縮で対応しているため、月曜から木曜と金曜では労働時間帯の置き方がともに異なっている。休憩時間はコアタイムのなかに、9時00分から9時15分の朝食用休憩15分と12時30分から13時00分までの昼食用休憩30分の計45分がおかれている。
〈管理・設計部門〉
〈工場部門職員〉
4) 時間外労働 1日の標準労働時間7.4時間を超えた場合でも、フレックスタイム制度のもとでは時間外労働にならないはずであるが、所定の手続きに従い時間外労働を申請しかつ承認された場合には、時間外労働となる。
5) 清算残高時間の貸借 翌月に繰り返すことができるのは、貸し時間、借り時間とも10時間までとなっている。借り時間は翌月に調整することになっている。
 貸し時間が多くなった場合、従業員は上司との合意のうえで、2回の半日休暇または1日の休暇を請求することができる。貸し残高による休暇は原則として上司が指定できないが、例外的な場合(例えば、短期的にフル操業が困難な場合)には、上司は、経営協議会の了解のもと一週間前に通知することで休暇調整をもとめることができるとされている。
 b. 銀行のフレックスタイム制度
1) W銀行のフレックスタイム制度の対象となるのは、従業員の約1割を占める協約外職員(契約社員)を除く一般職員である。
2) 銀行業の労働時間は1992年現在、金属産業より2時間多い週39時間である。フレックスタイムの労働時間帯は7時から19時で、コアタイムが9時30分から15時である。月曜日から金曜日までの労働時間帯は同じで、ただ、金曜日のコアタイムの終了を14時30分と他の日より30分短くしている。
3) 標準労働時間(Sollarbeitszeit)は、1日の標準労働時間が、協約で定められた労働時間となっているので、7時間48分、1月の標準労働時間が1日の標準労働時間×月の労働日数である。
4) 時間外労働 標準労働時間を超える労働時間についても原則として割増賃金の支払義務はないが、労働時間が標準労働時間を超え、かつ、8時から16時30分(休憩30分含む)までの標準労働時間帯(Normalarbeitszeit)を超える場合には、時間外労働手当を支払うことになっている。
5) 労働時間の清算と貸借の調整 労働時間のプラスマイナスは原則として当該暦月に清算するが、例外的に発生する清算残高については、原則として月プラス20時間、マイナス10時間の範囲で認める。ただし、長期にわたる病気や出張、休暇等による欠務のために右残高を上回ることが避けられないときには、直接の上司との合意のうえ、これを上回ることができる。
 清算残高の調整をコアタイム内で行うときには直接の上司の同意が、また、全日(休暇)の調整には課長の承認が必要となる。コアタイム内での調整は、当該日の労働時間が原則として4時間を下回らない(休憩時間込み)場合において、月2回、1回あたり3時間の範囲内で認められる。全日の休暇による調整は月1回とし、原則としてマイナスの残高が発生してはならない。この休暇は5日以上の年次有給休暇と結び付けることができる。反対に、借り時間を年休日によって調整することはできない。
6) 労働時間の通知
10日ごとにつまり月3回、会社は労働者各人に対して、すでに給付した労働時間の明細と合計を通知し、毎月の標準労働時間と各人の労働時間が乖離しないようにしている。
月曜日から木曜日
 c. ドイツのフレックスタイム制度の特徴
 これらのドイツのフレックスタイム制度をみた場合、標準労働時間(<1>の例)ないし標準労働時間帯(<2>の例)を基準にして1日あたりの勤務についても時間外労働の概念をおいていることが大きな特徴である。このほか、清算残高について限度を設けていること、また、清算残高の調整方法に関して、労働者が貸し時間の調整について休暇調整を選好することから、これを制限する規定をおいていることなども特徴的である。
(b) 職員の時間外労働管理
 事務系の職員には多くの場合フレックスタイム制度が導入されていることから、時間外労働の問題は原則として発生しない(ただし、ドイツのフレックスタイム制度が時間外労働の概念をもつことについては前述)。しかし、フレックスタイム制度以外で働く職員には時間外労働の問題が発生する。
 a. 短時間の超過勤務
 職員に関しては、30分以内の超過労働は超過労働とみないのが一般である。これはほとんどの職員協約にみられる。例えば、ノルトライン・ヴェストファーレン州金属産業一般協約は、「職員については、一時的発生するもので30分を超えない短時間の超過労働は超過労働とみない。ただし、当該上司との了解により後日これを通常労働時間に算入することができる」(5条1号2段)としている。また、化学産業全国一般協約には、「職員については臨時的かつ短時間な通常労働時間の超過は月給によって清算される」(3号1条4段)との定めがなされている。
 b. 定額割増金制度
 職員の時間外労働に関して特徴がみられるもうひとつの点は、定額割増金制度である。割増金定額手当制度は、もともと、運転手、外務員、配管工、修理工などの事業場外で労働する人を対象としてとられてきたものである。法的にも、戦前より、判例上、超過労働手当は賃金に対する厳格な百分率による比率である必要がないとされてきた(Denecke/Neuman, Arbeitszeitordnung, 10 Aufl.S.180)ことにより、とくに受入れられてきた。協約上もこれを明示的に定めているものが大きくみられる。
 前記のノルトライン・ヴェストファーレン州金属産業一般協約には、「超過・遅番・深夜・日曜・祝祭日労働についての報酬については、定額報酬(Pauschalvergutung)を定めることできる。これは書面にて行う。定額報酬の額は、割増金支払い義務のある時間の平均に対する賃金に相当するものでなければならない。定額報酬は、賃金ないし月給の計算に際し別個に明示されなければならない」(6条5号)との規定がみられるし、また、化学産業全国一般協約にも、「§4IV1.右に定める限定にもとづき支払うべき報酬については定額によって清算することができる。/2.定額化に際しては、どのような報酬の種類が定額によって清算されるのかが明確にされなければならない。税の免除をうける協約上の日曜・祝日・深夜労働に対する協約上の割増金が定額とされる場合、定額部分に占めるその割合が別個に定められるか認識できるようにしなければならない。/3.定額は少なくとも平均して1年の期間内に生じる個別給付に相当するものでなければならない。右計算の基礎が変わった場合には、定額割増の額を調整する。ただし、わずかな異同については考慮するに及ばない」との規定がみられる。
 なお、小売業、銀行業の協約にはかかる規定はおかれていない。小売業では、職員といっても時間管理は現業労働者に近いし、銀行業ではフレックスタイムで管理するのが一般であるからと思われる。
(3) 協約外職員の労働時間
 協約外職員の雇用労働条件は、当該労働者が協約の適用対象でないことから、個別労働契約によって決まることになる。その意味で契約社員である。賃金は、協約賃金等級の最上位級を上回るとともに、年俸制をとるものが多い。
(a) 労働時間に対する法的規制
 労働時間に関しても、基本的には個別契約で決まる。実際には、労働時間の管理は行われていない。「協約外職員は原則として労働時間から独立に、課された職務を遂行する義務がある」と解されている。ただ、労働時間法の適用から除外されているのは、20人以上の部下をもつ管理的地位にある職員であるから、協約外職員のすべてが労働時間法の適用を排除されているわけではないから、法的には、むしろ多くの場合、労働時間法の1日8時間労働の原則の適用があることになる。
 そうすると、協約外職員に対する労働時間の制限が厳格ということになるが、この点はつぎのように解することで制限の解除をはかる試みがなされている。すなわち、前述のように、使用者は年間30日、1日10時間の範囲で労働時間の延長ができるほか、労働協約が労働時間の延長を一定の範囲で認める規定をもっている場合には、特段の制限がなく、労働時間の延長が許容される。そして、協約による労働時間の延長規定は経営規範であるから、使用者が協約拘束をうけるだけで規範的効力をもつことになるとして、その規定は協約外職員にも及ぶ。したがって、1日10時間の範囲内であれば、協約外職員は課された職務を遂行する義務があるというのである(Franke, S.83)。協約の人的適用範囲外とされている協約外職員に、使用者が協約拘束力をうけるからといって協約による法的制限解除の効力を及ぼすことはやや苦しい解釈論であろう。いずれにしてもこれまであまり議論のされてきていない問題である。
(b) 超過労働の義務と手当
 協約外職員については超過労働の手当の支給がないのが通常であるが、これは、労働契約で明示または黙示的に超過労働に対する賃金の支払が排除されていると解されているからである。もし、協約職員においてみられるように、協約外職員が予定された標準量よりも超える労働時間の全てに対して正確に計算された賃金を請求できるとするならば、協約外職員の性格と合致しないとされる。もっとも、協約外職員においても、明確に認識できる標準的な時間負荷を超えた場合には、年次特別支給の形態で調整が行われるという、黙示的な合意があるものと解すべきとされている(Franke, S.100)。
4 年休取得システム
(1) 年次有給休暇権の概要
1963年連邦休暇法は、すべての労働者に対して(家内労働者は被用者類似の者を含めて)年最低18日の年次休暇を保障した。この最低基準はその後の労働協約の発展によってすでにその意義の多くを失ってしまっている。協約上の年次有給休暇日数は平均で年30労働日を超えている。したがって、連邦休暇法の実質的な役割は年次有給休暇請求権の権利性をめぐる規定に関するものに限られることになるが、この点に関しても協約上別段の定めがあることが少なくない。
(a) 年休権の内容
 a. 年休権の法的根拠と法的性質
 連邦休暇法1条は労働者は暦年において有給の休養休暇請求権(Anspruch auf bezahlten Erholungsurlaub)を有すると定めている。ただし、同法によって保障されるまでもなく、ドイツでは従前から、労働者には年次有給休暇の権利があるとされてきた。ひとつは、労働契約上の使用者の配慮義務から、すなわち、使用者に労働者が身体と健康への危険から防護されるよう配慮する義務を定めた民法618条を根拠に、もうひとつは、慣習法からこれを導くものである。年休権の法的性格、有給の休暇付与を求める請求権である。
 b. 年休日数
 連邦休暇法が定める年次休暇の日数は、暦年あたり最低18週日である(法3条)。週日とは日曜日および法定祝日を除く暦日であるから、これは法定年休が3週であることを意味する。同法の適用対象は家内労働者など被用者類似の者を含むすべての被用者である(法2乗)。
 このほか、重度障害者に対しては、重度障害者保護法(Schwerbehindertengesetz)47条により、5労働日の休暇(86年7月24日の改正法以前は6日)が付加されることになっている。また、年少者の年休日数は、年少者保護法19条により、暦年初に16歳未満の年少者に対しては30週日、17歳未満の年少者には17週日、18歳未満の年少者には25週日となっている。
 実際の休暇日数は、労働協約により、1960年代から80年代にかけて約2倍に増え、1990年現在、全産業雇用労働者の平均で30.70労働日である(表1-4)。法律と異なり日数の単位は労働日であるから、これは、6週間強の休暇を意味する。法定水準の2倍ということになる。
表1-4 協約上の年次有給休暇(全産業の雇用労働者)
 さらに、30日の休暇日数のほかに、休暇の取得時期や仕事の性格から若干の上乗せが見られる。金属機械工業の協約では、年次休暇の全部を10月1日から3月31日の間にとるとき1日がプラスされることになっている。また、フォルクスワーゲン社の労働協約では、交替制労働者に対する上乗せの規定がある。4週間に20日以上交替制勤務につく労働者には2日、4週間に19日交替制勤務に就く労働者の場合は1日が上乗せされている。同じく、化学工業の協約でも連続操業職場で交替制勤務につき日曜勤務のある労働者には3日の上乗せがある。
 c. 年休賃金
 年次休暇はもとより有給であるが、年休賃金(Urlaubsentgeld)の算定の基礎となるのは、休暇開始時における過去13週の平均賃金である(法11条1項)。この年休賃金は休暇の開始に先立ち支給するものとされている(同2項)。
 労働協約上、年休賃金についても、法律が定める年休賃金以外に、休暇手当(Urlaubsgeld)を上乗せ支給するのが一般的である。金属産業では、両者を一緒に休暇賃金(Urlaubsvergutung)として、通常賃金の150%を支給することになっている。化学工業の協約では休暇手当は定額で、1987年以降、年休日1日につき33マルクとなっている。
 年休賃金の算定方法については、それぞれ協約に詳細に規定している。支給時期についても、金属協約では2週間以上の年休については休暇の開始に先立ち支給するものとし、化学協約では休暇中に賃金支払期日がくる場合で労働者が申請したときには前払するものとされている。
(b) 年休権の成立要件
 a. 労働関係の存続と待機期間
 年休権の成立要件は、労働関係の存続であり、わが国におけるような一定の事業所における継続勤務や出勤率は要件とされていない。ただし、労働関係が成立して6ヵ月(待機期間Wartezeit)を経ないと完全な年休権は成立しない(法4条)。しかし、この場合でも後述のように部分休暇権は発生するから、1ヵ月の労働関係の存続によっても年休権は成立することになる。
 年休の成立要件はこのように労働関係の存続であって、現実の就労ではないから、当該年休制度に病気のためにほとんど就業できなかった場合でも、年休権は成立する(BAG1982年1月28日判決)。
 当該年に従前の会社ですでに年休を取得した場合には勤務先が変わっても同一年に再度年休を取得できない。したがって、使用者は労働関係終了の際に当該年における年休の付与または買上げに関する証明書の交付義務を負う(法6条)。
 b. 部分休暇権
 完全な年休権を取得するには、6ヵ月の待機期間を必要とすることから、部分休暇(Teilurlaub)の制度が設けられている。すなわち、(a)待機期間を満了しないために当該暦年内に完全な休暇請求権を取得しないとき、(b)待機期間満了前に当該労働関係から離脱するとき、(c)待機期間満了後当該暦年の前半期に当該労働関係から離脱するとき、の3つの場合に、勤務月数に応じて(1ヵ月の労働関係の存続が前提)1月当たり12分の1の休暇が付与されることになっている(法5条)。
 しかし、(c)の場合は、すでに待機期間を経過している場合であるから、真正の部分休暇ではなく、暦年の上半期に労働者が離職したことを理由とする完全年休権の短縮である。この場合、離職するまでにすでに労働者が完全年休を取得していた場合には、支給済の年休賃金を返還する必要はない(同条3項)。
(c) 年休の繰越と買上げ
 a. 年休繰越の禁止
 年次休暇は休暇年度(暦年)内に付与・取得するものとされている(法7条3項)。したがって、使用者が年休時期を指定したにもかかわらず労働者が休暇をとらなかったときはもちろん、使用者が休暇時期を指定しなかったときや労働者が請求しなかったときにも、休暇年度の経過によって年休権は消滅すると解されている(Dersch/Neumann, Bundesurlaubsgestz.6.Aufl.S.196)。
 ただし、労働関係の存続が6ヵ月の待機期間に達しないときに成立する部分休暇については、翌休暇年度(暦年)に繰越すことが認められる(法7条3項)。また、完全な年休権についても、「緊急の経営上の事由」または「労働者の個人的事由」がある場合には翌年への繰越しが認められるが、この場合、繰越部分は翌年3月末までに取得しなければならないことになっている(同項)。たとえ労働者が病気や事故で年休を取ることができなかった場合でも、3月31日を越えた繰越しは認められない。ただし、労働協約で別段の定めをすることは可能である。
 b. 年休買上げの禁止
 休暇法は、労働関係の終了によって休暇の全部または一部を付与することができなかった場合に限り、年休の買上げ(金銭弁済Abgeltung)を認める(7条4項)から、労働関係が存続する場合には買上げをすることも求めることもできない。ただし、労働関係が存続する場合にも、病気のために年休を取得できなかったときに買上げを求める規定を、労働協約でおいた場合には認められる(BAG1989年11月13日判決=AP Nr.28 zu §13 BurlG)。
(d) 休暇中の病気と就業活動
 年休が労働者の休養を目的としていることから、休暇中に病気した場合には、病気期間は休暇に含めない。したがって、労働者は医師の診断書を提出することでその分あらためて休暇を取ることができる(法9条)。反面、休暇中に就業活動をすることを明文で禁止している(法8条)。
 連邦休暇法の年休権は労働者の就労を前提にしていないから、労働者が休暇年または繰越期間中に病気で就労できなかったときでも、休暇請求を権利濫用として排除できない(BAG1982年1月28日判決=AP Nr.11 zu §13 BUrlG Rechtmissbrauch)。また、協約で就労を年休請求権の要件とすることもできない(BAG1984年3月8日判決=AP Nr.15 Zu §13 BUrlG)。
(e) その他
 連邦休暇法は強行法ではあるが罰則の規定はない。また、協約任意的強行法の性格を強くもち、協約に大幅な裁量が認められている。毎暦年の有給休暇請求権を定めた1条、適用労働者を定義した2条、最低休暇日数を定めた3条1項を除き、たとえ労働者に不利な内容であれ、協約で法律と異なる定めが可能である(13条1項)。
(2) 年次有給休暇の取得手続
(a) 年休取得の方法に関する規制
 a. 休暇時期の決定方法
 休暇を取得する時期(Zeitpunkt)については、使用者が労働者の希望を配慮して決定することに成っている(法7条1項)。「緊急の経営上の利益(dringende betriebliche Belange)」があるときまたは「社会的観点から優先的に考慮しなければならない労働者がいる場合」には、労働者の希望がいれられるとは限らない。
 このように、連邦休暇法上は、わが国と異なり、休暇時期については原則として使用者が決定権能をもつことになっているが、経営組織法によって、共同決定事項となっている(同法87条1項5号)から、従業員代表がある限り、それの同意の上で決めることになる。
 b. 連続休暇の原則
 年休は、原則として一括して付与取得するものとされているが、「緊急の経営上の事由」や「労働者個人に起因する事由」があるときには分割が可能である(法7条2項)。しかし、右の事由によって分割する必要がある場合でも、休暇部分の一つは、連続12週日以上でなければならない(同項2文)。
 ただし、右の休暇を分割した場合でも連続12週日の継続付与を定めた7条2項2文については強行的効力をはずされている(13条1項3文)ので、労働協約のみならず労働契約でも異なる定めが可能である。
 半日単位や時間単位への休暇の分割は、休暇目的に反するものとして労働者との合意があったとしても認められない(BAG1965年7月29日判決=AP Nr.1 zu §7 BUrlg)。
 c. 一斉休暇
 工場の操業を停止して労働者を同一時期に休暇をとらせるような事業所休暇(Betriebsferien)については、共同決定事項であるから、従業員代表との合意によらない場合は無効となる。経営協議会が存在しない場合には、経営上の利益に合致しかつ労働者の希望が後退しなければならないときは一斉休暇が可能と解されている(BAG161年10月12日判決=AP Nr.84 zu §611 BGB)。
 事業所休暇については、休暇の時点でまだ完全な年休権を取得していない労働者にも、完全な年休を付与することができる。完全な年休請求権が発生していることが年休の付与の要件ではないから、完全な年休請求権が発生する前に付与することは問題がないとされるからである(待機期間が黙示的に短縮されたと解する見解もある)。この場合、当該労働者が完全な年休請求権が発生する前に退職した場合でも使用者はその返還を請求できない。他面、まだ完全な年休請求権をもたない労働者が事業所休暇の対象とならなかった場合には、労働者は事業所休暇中も就労請求権を有するから、就労できなかったときは使用者が受領遅滞となって、賃金請求権をもつことになる。
 事業所休暇として年休をとりたくない労働者がこの間就労を請求しても、事業所休暇は緊急の経営上の利益があるときとみられるから、使用者は受領遅滞とならないので、賃金請求権は発生しない。すでに休暇の一部ないし全部を取得した後に、あるいはすでに時期を決定した後に、事業所休暇の導入が決まったときには、事業所休暇期間中使用者は受領遅滞となる。
 なお、病気中の者や母性保護期間中の者の休暇を事業所休暇にあてることはできない。
(b) 年休取得方法の実際
 企業内において年次休暇は具体的にどのように付与・取得されているのか、また、労働者はどのようにその年次休暇を利用しているであろうか。ここでは、右にみた金属工業協約の適用下にある工作機械メーカーの例をとって、年次休暇の付与取得の手続きを見ることにする。休暇日数は30労働日、年休手当も賃金の5割増しと、ともに協約水準そのままである。
 a. 資料1の<1>は、1990年度(暦年)の年休計画に際して、会社が各部門の長あてに送付した文書である。これによると、
<1> 11月末に翌年度の年休計画をたてる準備を促していること
<2> 年休計画の立て方は、各従業員に希望する年休時期と年休日数を年休リストに記入させ、部門の長が従業員の希望を配慮しながら調整する方法であること
<3> その際、休暇時期の重複で仕事の遂行に支障があるときは従業員と再協議していること、就学児童をもつ労働者は学校の休暇時に優先されること
<4> 休暇リストの作成が2月末近くまでかなりの時間をかけていること
<5> 一斉休暇はないこと
<6> 5休暇日については、計画の対象外とされていること
等がわかる。これはまた、個別調査でも
<1> 計画が1月に立てられること
<2> 時期についてほとんどの場合自分の希望がかなえられているが、ときには同僚との調整で希望どおりならなかったこともあること
が確認される。
資料1<1>年休の計画に関わる各部門の長あての書面
資料1<1>年休の計画に関わる各部門の長あての書面(続き)
 b. 年休の取得時期と利用目的
 年休のとりかたは、30労働日=6週間の年休を、長期休暇(20日=4週間)1回と、短期休暇(5日=1週間を2回または10日=2週間の1回)にわけてとるのが一般的であると思われる。
 若干の聞取りによれば、長期休暇は夏にとられ、もっぱら旅行に当てられている。自宅を離れて休暇を過す目的として、気候上の理由をあげている。
 短期休暇も知人を訪問するなど短期の旅行や休養にあてられている。
 なお、5休暇日については年休計画の対象からはずされていて、上司との合意があればいつでもとれるようになっている。
 c. 取得状況
 わが国のように年休を未消化のまま残すことは全くみられない。これは、年休に対する労働者の関心もさることながら、前述のように休暇年度の前年末から時間をかけて年休計画がたてられているからであろう。また、資料1の<2>の従業員掲示文書が示すように、残余年休について取得を促す措置がとられていることも注目される。
資料1<2>残余休暇所得にかかわる従業員あて掲示


第2章 フランスの労働時間制度の運用実態

I 現行労働時間法制と本調査の目的
 フランスの現行労働時間法制は、すでに『変容する労働時間制度』(1988年)に納められる野田進教授の論文により包括的に紹介されている。本調査研究の目的は、この成果を基礎として、わが国の労働時間短縮に関する立法論的検討を念頭において、フランスの労働時間法制のいくつかの制度の実情をできる限り詳しく紹介しようということにある。
 さて、本調査研究において、フランスに関して主として取り上げたのは以下の事項である。
  (1) 週労働時間と超過勤務時間の現状
  (2) 労働時間の調整方法
  (3) 労働時間法制の適用対象、とくに幹部職員、外勤職員の労働時間管理
  (4) 日曜休日制
  (5) 換算時間制度
  (6) 年休の日数とその取得手続
 ここでは、まず、フランスの現行労働時間法制の基本的枠組みをごく簡単に紹介し、上記の事項についての具体的調査内容を示しておく。
1 現行制度の概要
 <1> 週の法定労働時間と超過勤務時間
 週の法定労働時間は、39時間とされ、この時間を越える労働時間は、超過勤務時間とされる。
 この超過勤務時間の利用については、まず、行政庁の許可なしに使用者が自由に超過勤務を命じうる「年間割当時間(contingent annuel)」という制度が設けられている。その割当時間数は年130時間を基準とするが(1982年1月17日のデクレ)、拡張適用される協約または団体協定により、130時間よりも多くまたは少なく定めることができる(L.212条の6)。次に、この割当時間を越える超過勤務時間の利用については、使用者は、従業員代表の答申を受けたうえで、労働監督官の許可を得なければならない。
 使用者は、超過勤務時間については割増賃金を支払わねばならない。その割増率は、最初の8時間が25%であり、それを越すと50%となる。なお、1986年の改正により、拡張適用される労働協約または団体協定により、割増賃金の支払いを割増代償休日に代えることができることとなった(最初の8時間については125%、その後は150%)。
 さらに、従業員11人以上の企業においては、週の労働時間が42時間を越え、かつその時間が年間割当時間内であるときには、割増賃金に加えて、1時間につき20%の補償休日の権利を発生させる(図2-1参照)。また、デクレの定める年間割当時間(130時間)を越えた超過勤務時間については、企業規模および超過勤務時間数に応じて50%または100%の補償休日の権利を発生させる。
図2-1 年間割当時間内の超過勤務時間と割増賃金・割増代償休日・補償休日
 次に、週の労働時間については、二重の上限時間が定められている。すなわち、まず、1週の絶対的な上限時間が48時間とされ、また継続する12週で平均46時間を越えることができない(この上限時間については、特別な場合には特例が認められる)。また、一日の労働時間は、10時間が上限とされている(これには、一定の場合に12時間とする特例が認められている)。
 <2> 労働時間の調整方法(amenagement du temps de travail)
 ここで、労働時間の調整方法と呼ぶのは、企業が労働量の変化に最大限適合するように労働時間を調整することを可能とする諸手段のことである。近年、とくに1982年の週39時間制の導入とその後不況期の影響もあり、企業が短縮された労働時間のなかで生産効率を維持し、または高めるために必要な種々のろう同時間の調整方法を立法化している。
 まず、1日の労働時間の調整方法としては、パートタイム労働、フレックスタイム制がある。
 次に、週の労働時間の調整方法としては、一般従業員の休日である週末だけに勤務する週末労働時制(horaire reduit de fin de semaine)、連続交替制勤務、半連続交替制勤務(週末の休日はとる。)等がある。
 さらに、1年を単位とする労働時間の調整方法としては、超過勤務時間計算の周期(horaire cyclique)、年単位の変形制(増減制 modulation de la duree du travail)、および喪失労働時間の補填措置(recuperation des heures de travail perdues)、間歇的労働(travail intermittent)がある。1年を単位とする調整方法は、とくにフランス独自の制度であるので、簡単に紹介しておこう。
 a 超過勤務時間計算の周期(L.212条の5第3項)
 超過勤務時間の計算を週単位ではなく、数週間(quelques semaines)を単位として行う制度であり、変形労働時間制と同様の機能を有する。すなわち、この周期内では、週の平均労働時間が39時間を越える時間だけが超過勤務時間とされるのである。この方法の実施に当たっては、各週の労働時間があらかじめ定められねばならず、かつ、それは、各周期において同一でなければならない。この方法を利用できるのは、1.連続操業を実施する企業、2.デクレの許可する場合、および3.拡張適用される労働協約または団体協定の規定する場合(この場合、周期の最長期間を定めねばならない)である。
 b 年単位の変形労働時間制(増減制)(L.212条の8ないしL.212条の9)
 これは、1年以内の特定の周期について、週平均労働時間が39時間を越えない範囲での変形労働時間制を認める制度である。この制度の実施については、拡張適用される(産業別の)労働協約または団体協定もしくは企業または事業場の労働協約、団体協定を要する。この制度には、2種類のものが設けられている。
 第一類型は、変形期間内において、協約の定める範囲内(上限週48時間)で週の労働時間が39時間を越える場合、その時間を超過勤務時間の割当時間に算入しないというものである。ただし、この場合、39時間を越える時間については、割増賃金が支払われ、かつ、要件を満たせば補償休日の権利が発生する。
 第二類型は、変形期間内において、週44時間を上限とする協約の定める範囲内(ただし、拡張適用される産業別協約により48時間を上限としうる)で週の労働時間が39時間を越える場合、その時間については、超過勤務時間の割当時間に算入されず、さらに、割増賃金も要せず、かつ補償休日の権利も発生しないというものである。この場合、労使が協定において、年単位の変形制(増減制)導入の代償措置を定めねばならない(時間短縮、金銭的保証、職業訓練、代償休日等)。
 また、年単位の変形労働時間制(増減制)を定める協定には、この変形制を利用する社会的・経済的必要性を明記し、さらに変形期間の一部に在職した労働者の報酬および代償休日についての取扱い、部分失業の利用条件、労働時制の変更の予告期間、変形制の実施要領および幹部職員の取扱いについての規定をおかねばならない。
 c 喪失労働時間の補填措置(L.212条の2の2およびL.212条の1の1)
 事故、気候不順または不可抗力による喪失労働時間および棚卸しまたは橋渡し休日(週休と祝日にはさまれた日を休日にする措置)による喪失労働時間については、その12ヵ月前または後の範囲内において、補填することができる。この喪失労働時間を補填することによって当該週の労働時間が39時間を越えても超過勤務時間としては取り扱わない。この補填は、1日については1時間、1週については8時間を限度とする。ただし、日曜以外の休日(土曜等)について、8時間を限度に実施できる。
 d 間歇的労働(L.212条の4の8以下)
 季節的労働に利用される労働形態であり、労働期間と非労働期間とを含む常勤の雇用。この間歇的労働による労働契約は、期間の定めのない労働契約でなければならないとされている。
 なお、その他、超過勤務手当に代わる代償休日(repos compensateur)も、調整方法としてあげておくことができるであろう。
 <3> 労働時間法制の適用対象、とくに幹部職員、外勤職員
 フランスにおいては、わが国と異なり労働基準法41条のような労働時間法制について管理監督者を適用除外する法規定も、同法38条のような事業場外労働についての特別な法規定は存在しない。
 <4> 日曜休日制(L.221条の1以下)
 フランスにおける週休制は、以下の3つの原則からなっている。
 <1> 1週につき同一労働者を6日を越えて就労させることの禁止。
 <2> 週休は少なくとも継続する24時間がなければならない。
 <3> 日曜日に与えねばならない。
 これらの原則をみると、とくに日曜日を休日とするという点でフランスの週休制は、わが国の週休制とは大きく異なるといえよう。しかも、特定の職業または特定の地方において、従業員に対する週休の付与条件について関係するすべての使用者組合および労働組合との間で協定が締結された場合、県知事は、関係組合の請求に基づき、アレテにより、公衆に対する事業場の閉鎖を命ずることができる。
 日曜休日制に違反した場合、使用者は、違法に就労させた労働者ごと罰金を支払わねばならない。さらに、違法な日曜営業に対して、急速審理手続裁判官は、アストラント(「債務の履行の遅延につき1日当たり一定額の支払を債務者に命ずることを内容とする間接的強制」山口俊夫『フランス債権法』212頁)付でその日曜営業を禁止することができる。
 ただし、このフランスの週休制には、さまざまな適用除外が認められている。表2-1は、このうち日曜休日制に対する例外を整理したものである。
表2-1 日曜休日制の適用除外
 <5> 換算時間制度
 換算時間制度とは、手待時間の多い職業において、週39時間を越える命令で定める時間を週39時間の実労働時間とみなす特別な労働時間の算定方法である。現在、換算時間制度が適用される職業としては、例えば、守衛および監視業(54時間)やホテル、カフェ、レストラン業(調理人44時間、その他49時間)等である。
 <6> 年休の取得システム
 フランスでは、労働者は、同一の使用者のもとで、有給休暇基準年度(前年の6月1日から5月31日まで)に、1ヵ月間労働するごとに、2.5日の割合で有給休暇権(合計30日を超えない日数)を取得する。
 有給休暇の取得の認められる時期は、労働協約または団体協定が定める。労働協約等を欠くときには、従業員代表委員および企業委員会の諮問を経て、慣行を参考に使用者が決定する。この時期には、5月1日から10月31日までの期間を含まねばならない。使用者は、通常のバカンスにあたる時期をその開始の2ヵ月前までに従業員に通知しなければならない。
 12労働日を超えない休暇しか権利が発生していない場合には、継続して付与しなければならない。12労働日以上の休暇の権利のある場合、その休暇期間は、一度に24労働日を超えることができない。そして、休暇期間は、以下のように分割することができる。
 12労働日から24労働日の範囲の主たる休暇は、労働者の同意により分割することができる。しかし、少なくとも12労働日(これに週休日2日をプラスする期間)分は、5月1日から10月31日までの期間に取得されねばならない。この期間以外の有給日数が6日以上のとき、2日間の追加休暇が与えられる(3日から5日の場合、1日)。残る有給休暇については、一度にまたは数度に分割して付与される。
 さて、休暇取得の順序および休暇開始日については、労働協約または慣行によることができない場合は、従業員代表委員の意見聴取の後、使用者が決定する。この場合、家族の状況、とくに配偶者の休暇の可能性が考慮されねばならず、同一企業に勤務する夫婦は、同時に休暇を取得する権利を有する。
 使用者は、休暇日程を従業員にその休暇開始日の15日前までに通知し、かつ職場に提示しなければならない。なお、この15日前という期間は、休暇開始日の変更がその1ヵ月前から禁止されていることとの関連で、1ヵ月前が妥当と主張されることが多い。
2 調査の課題
 <1> 週労働時間と超過勤務時間の現状
 a 協約所定集労働時間
 まず、週の法定労働時間については、労働協約における週労働時間と週の労働時間をめぐる政労使の現在の見解を調査した。そもそも、現行の週39時間という法定労働時間は、1982年の制定当時にあっては、週35時間制への過渡的な制度とされていた。そこで、現在もない政労使において、週39時間制の制定当時の考え方が維持されているのかを確認しておくことが、フランスの労働時間制度の実態を理解するうえで前提条件であろうと考えたのである。
 b 超過勤務時間制度について
 超過勤務時間が、実際に、どのよう程度利用されているかを、とくに割当時間との関係で調査した。その際、いかなる部門で超過勤務時間が利用されることが多いかという点についても留意した。また、代償休日制度の普及状況についても調べた。
 <2> 労働時間の調整方法
 労働時間の短縮にともない、今後、有効な労働時間の調整方法の導入は不可欠となろうとの観点から、フランスにおいて、法律の用意するさまざまな調整方法を各企業または産業がどのように取捨選択し、どのように組み合わせて利用しているかを検討した。とくに、フランスにおける労働時間の調整方法の象徴のように言われている年単位の変形制(増減制)については、その利用状況、同制度についての政労使の見解およびさまざまな労働時間の調整方法のなかで占める位置をできる限り詳しく調べようとした。
 <3> 労働時間法制の適用対象、とくに幹部職員、外勤職員の労働時間管理
 いわゆるホワイトカラー層の労働時間管理は、工場の現場労働者とは異なる側面があるが、労働時間短縮の先進国において、このホワイトカラー層についてどのような取扱いがされているかを調査した。フランスにおいては、法律による規制のない領域であるので、学説、判例の状況を前提に、使用者側の実際の取扱いを調査した。この際、いかなる従業員が幹部職員とされるのか、いわゆる上級幹部職員とはいかなる者か等を調べ、できる限りフランスの幹部職員像を具体的に把握しようと努めた。
 <4> 日曜休日制
 中小零細企業における労働時間の短縮を休日増により達成しようとした場合、日曜の営業禁止も含むヨーロッパの日曜休日制は、検討に値する制度であろう。しかし、現在では、むしろ生活形態の変化等の要因から規制緩和の要望も強くなっており、また、フランスでは規制緩和の方向の改正案も提案されている。そこで、とくに、この法案の動向を中心に日曜休日制の現状を調査した。
 <5> 換算時間制度
 早期に週40時間労働制に移行した場合、中小零細企業については、何らかの移行措置を検討せざるを得ないであろう。この観点から、現在では暫時的に消滅しつつあるとされるフランスの換算時間制度の現状を調査した。
 <6> 年休日数とその取得手続
 年間労働時間の短縮において年休の取得率の向上は不可欠の要素であろう。調査では、フランスにおける年休取得の実際を調べた。
3 調査の概要
 今回の調査では、まず、わが国において入手可能な文書資料を前提に作成した質問票を、J.C.ジャヴィリエパリ第二大学教授に回答していただいた(1991年秋、付属資料編<1>以下「アンケート」として引用する)。
 そして、その成果をもとに、1992年3月11日~21日、フランスのパリ所在の企業、金属産業の使用者団体(U.I.M.M.)、労働組合中央組織(C.F.D.T.)および労働省において聞き取り調査(各2時間)を実施した。本研究機構をつうじて、OECD日本政府代表部の松浦弘行氏に労働省、労働組合中央組織およびルノー公団の面会を準備していただいた。また、その他の企業等については、すべてジャヴィリエ教授の紹介による。これらの企業、団体には、企業協約等貴重な資料を提供していただいた。
 訪問先は以下のとおりである。
 <1>企業
   Union des Assurances de Paris (略称U.A.P.)パリ保険連合、保険業
   Usinor ユズィノール、製鉄業
   IBM FRANCE IBMフランス、情報産業
   Saint-Gobain サン=ゴバン、硝子工業等
   Regie Renault ルノー公団、自動車産業
   Thomson-CSF トムソン、軍需産業
 <2>労働省
 <3>労使団体
   U.I.M.M. 金属産業の使用者団体
   C.F.D.T. フランス民主労働総同盟
II 週所定労働時間と超過勤務時間の現状
 (1) 週所定労働時間
 UIMMの協約調書(1991年、金属産業の企業協約300例の調査報告、「協約調書」として引用する。付属資料編<2>)によると、日勤労働者の週所定労働時間は、38時間30分程度とされている。また、訪問企業の多くが(IBMフランス、USINOR,THOMSON-CSF,UAP)38時間30分としていた。もっとも、収集した金属産業の企業協約には、36時間としたものもあった。なお、交替制勤務については週平均36時間~37時間30分(USINOR 33時間36分、なお、この時間に休憩時間が含まれるかは不明とされている)とされており、日勤の労働者に比べ、時間短縮が進んでいることが留意されよう。
 このことからして、フランスにおいては、1982年の法定週所定労働時間39時間制から10年経つにもかかわらず、法定労働時間を大幅に上回る時間短縮は実現していないとみてよいだろう。この現状についての政労使の見解は、一言でいえば、当面西ドイツ並の週所定労働時間の短縮は考えていないということであった。1982年の段階では支配的であった「週39時間制は週35時間制へので過渡的措置」との考え方は、現段階では、もはや事業上放棄されているように思われた。また、失業率は約10%と相変わらず高率であるが、労働組合においても、労働時間短縮によるワークシェアリングという発想も、とくに強調されてはいなかった。今回の聞き取り調査では、むしろ、労働時間短縮という課題は、フランスの労使の当面の関心事ではないという印象を強く受けた。この印象は、1990年に締結された労働時間に関する2,481の企業協定のうち649(26.2%)が、週労働時間について取り扱っているが、そのうち時間短縮を定めたのは、わずか68(2.7%)を数えるだけである(逆に、56(2.3%)の協定が時間延長を定め、他に現状維持。Bilan de la negociation collective 1990, p.57)という事実からも裏付けられよう。収集した企業協約にも、週労働時間を36時間から37時間30分に延長する例がみられた(SGS-THOMSON、聞き取り調査をしたTHOMSON-CSFとは同グループの他会社)。「協約調査」は、「労働時間短縮はもはや交渉のテーマとは思われない。それは他のさまざまな調整方法の代償の1つとなりうるだけである」と結論づけている。後述する労働時間の調整についても、労働時間の短縮の追究という視点よりも、現行の法定労働時間を前提に、いかに効率的に企業を運営するかという視点から検討されているようでもある。1989年3月21日の労働時間の調整に関する全国職際協定(付属資料編<7>)をみても、表題が企業の近代化とされ、その内容は、さまざまな労働時間の調整方法の検討であり、労働時間の短縮は中心課題とはされていない。
 なお、休日増による時間短縮を進めてきた保険業のU.A.P.では、年間労働時間を協約で定めるという方法を採用している。
 現在の年間労働時間は、以下の算定方法から得られる1,720時間57分である。
  365日-104日(週休)-25日(有休)-12.5日(その他の休日)=223.5(日)
  223.5×7時間42分(1日の労働時間)=1,720時間57分
 このような年間労働時間を協約で定める方式では、年休の完全取得が年間計画に位置づけられていることが留意されよう。このような方式は、今回の調査で収集した企業協約のうちでは、金属産業に属するTREPILERIES社の企業協約にもみることができた。
 この企業協約の方式は、変形制の効果を有する労働時間の調整方法となっており、後に詳しく紹介する(III-2-ロ)。
 なお、このような労働時間を年間で管理するという考え方がどの程度普及しているかは不明である。今回の聞き取り調査では、U.A.P.以外ではあまりそのような問題意識をもっていないようであった。
(2) 超過勤務時間
 「協約調査」によれば、超過勤務時間の割当時間の利用については、労働量の例外的増加の場合に限定するとのことが規定されているのが一般的であり、その定期的利用を奨励する協定は数少ないとされている。しかし、短時間ではあれ、恒常的残業を前提とする企業協約も存在している(例えば、後に紹介するルノー公団〈III-3-(3)〉、TREPILERIES社の企業協約)。労働組合中央組織であるCFDTの方針としては、割当時間は、法律の予定する個人の割当時間の規制だけではなく、事業場全体の割り当て時間をも協約で規制していくという考え方をとっているとのことである。
 今回収集した協約の中では、例えば化学産業および保険業の全国協約においてそのような例をみることができた。
 まず、化学産業の協約(1989年)では、年間割当時間130時間(1982年の協約では90時間であり、大幅に延長された)であるが、201人以上の事業場では、(従業員数×70時間)にあたる時間数に割当時間時間の利用を総量規制している。
 次に、保険業の協約では、各労働者の個人的割当時間を年70時間としたうえで、企業全体の割当時間を次のように定めている。
 従業員1,000人以下の企業については、
  (従業員数×10時間)にあたる時間数
 例)従業員250人であれば、
     250×10=2,500時間
   従業員1,001人以上の企業については、
    (1,000×10)+{(従業員数-1,000)×5}にあたる時間数
 例)従業員1,200人であれば、
    10,000+(1,200-1,000)×5=1万1,000時間
 なお、この協約では、使用者が超過勤務時間の割当時間を利用する場合、超過勤務時間の履行前に、直近の月例企業委員会(企業委員会のない場合には従業員代表委員への通知)に報告することとされ、さらに、相当数の従業員が個人の継続する数週間に35時間を越える割当時間が使用される場合には、企業委員会は事前に報告を受け、超過勤務時間を削減しうる提案をすることができるとされている。
 さて、聞き取り調査の時点では、景気の後退期であったこともあってか、企業側から現行の割当時間では不十分であるという意見はあまり聞かれなかった。むしろ、部分失業の利用が多いとのことであった。例えば、金属産業の使用者団体であるU.I.M.M.では、全国協約で割当時間を94時間としているが、2年前には足りないという声もあったが、現在の経済状況では十分と判断しているという。また、「週44時間を超える超過勤務は高くつくので利用に躊躇する(SAINT-GOBAIN)」との意見も示された。
 もっとも、すでに述べたように、化学産業では、その経緯は不明ではあるが、1989年に90時間から130時間に延長されていることが留意されねばならないであろう。また、THOMSON-CSF(割当時間84時間)では、とくに技術系の職場では、現行の割当時間は少ないとの意見が示された。「協約調査」では、金属産業のなかでも、メンテナンス部門、接客部門がもっとも超過勤務時間を利用しているとされている。そして、これらの部門で超過勤務時間が利用される利用としては、労働量をあらかじめ予見できないことおよび熟練した従業員が足りないことがあげられている。この事情を反映してIBMフランスでは、基本的に割当時間を94時間としながらも、アフターサービス業務関係の従業員については、130時間としている。
 なお、CFDTから、超過勤務時間にあたる時間でも手当の支払われないケースがあるが、とくに、多様な労働時制がとられている場合には、組合レベルの監視は困難であるとの意見がだされた。また、労働者は、収入増のためを望むため、超過勤務を望む傾向にあり、CFDTとしては、ワークシェアリングという連帯思想の観点から批判的に問題提起をするが、必ずしも労働者には受け入れられていないとのことであった。
 なお、IBMフランスの企業協約(付属資料編<4>)では、「週の法定労働時間を超えて、上司が明示的に請求した労働時間」を超過勤務時間の定義としている。また、超過勤務時間は、それを希望する従業員を優先的に充当するという定めも注目されよう。
 代償休日制度については、労働省による協約調書(1987年から89年にかけての部門別全国協約の分析、以下「労働省調査」として引用する。付属資料編<3>)によれば、金属産業、各種農産物加工工業、サービス業、商業の各産業分野において23の全国協約または協定(うち20が拡張適用される)が、この制度の導入を定めている(同調査の表参照)。その他、当然のことながら、保険業の全国協約(1981年)のように、「労働省調査」の以前に代償休日制度を取り入れている部門もあることはいうまでもない。これらの協定の規定形式をみると、代償休日制導入の原則だけを定めるものと、さらに、代償休日の付与の手続きまで定めるものとの2つの類型がみられる。前者の場合には、企業協定により、実施方法が決定される場合が多いのであろう。「協約調査」をみると、調査対象の約半数が代償休日制を規定しているとされている。また、超過勤務手当の支払または代償休日の付与に関し、全額支払または部分支払もしくは全部を代償休日または一部を代償休日にするかについては、しばしば労働者の選択にゆだねられているという。
 以上のように、超過勤務手当の割増賃金支払に代わる代償休日制は、協約のレベルでみるかぎり、相当広範に普及しているように思われる。しかし、実際の取扱いにおいてどの程度利用されているかについては、今回の調査では、必ずしも明らかにはならなかった。
 ところで、企業がこの代償休日制度を利用しようとする要因は、単に割増賃金支払を免れるという経済的効果あけではなく、代償休日を業務量の少ない時期に付与することにより、労働時間の調整手段として機能しうることにもある。実際、「労働省調査」でも、労働時間の調整方法の一手段として記述されている。また、今回の聞き取り調査では、労働省では、労働時間の調整方法としては、決定手続き、実施方法が複雑で、かつ監督困難な1年単位の変形制(増減制)よりも、代償休日の方が優れており、より普及することが望ましいとの意見もあったことを付言しておく。なお、卸売り業、小売業およびホテル・カフェ・レストラン業に代償休日が普及している(「労働省調査」)というのも、これらの部門では、業務量の変動が予測しにくく、代償休日のような小幅の調整が可能な仕組みが適合するためと考えられる。
III 労働時間の調整方法
 まず、「労働省調査」および聞き取り調査、「アンケート」をもとに、主として部門別全国協約で規定されている労働時間の調整方法を概観し、ついで、「協約調査」および聞き取り調査をもとに、金属産業の企業協約で規定されている労働時間の調整方法を紹介し、最後に各調整方法ごとの、とくに企業での規定例を分析することにしたい。
1 全国協約における労働時間の調整方法
 「労働省調査」において、労働時間の調整方法としてあげられているのは、<1>年単位の変形労働時間制(増減制)、<2>超過勤務手当に代わる代償休日、<3>間歇的労働、<4>超過勤務時間計算の周期、<5>週末労働時制、<6>経済的理由に基づく連続操業、<7>女子の深夜労働、である。それぞれの調整方法について、1987年から1989年にかけて締結された協約または協定数が表2-2に、および1990年に締結された協約または協定数が表2-3に示されている。これによると、<1>~<3>の調整方法についての協約数が比較的多いことがわかる。また、産業部門については、金属産業、化学産業、農産物加工産業、サービス業、商業が、労働時間の調整に関する協約を締結している(資料編<2> フランス労働省協約調査参照)。「労働省調査」によると金属産業(170万)、化学産業(35万)、農産物加工産業(54万)をあわせて約250万人以上の労働者が潜在的にはさまざまな労働時間の調整方法のもとにおかれていることになるという。実際、金属産業および化学産業の全国協約をみるとほぼ網羅的に労働時間の調整方法が規定されている(ただし、女子深夜業は金属産業だけ)。このことから、「労働省調査」では、この間に締結された協約数自体は必ずしも多いとはいえないが、それらの協約適用下の労働者数でみればこれらの協約がもつ重要性は相当程度高いとしていると評価している。しかし、年単位の変形労働時間制(増減制)についてであるが、全国レベルの協約の締結の動きは、あまりに性急であり、企業レベルの年単位の変形労働時間制(増減制)利用を飛躍的に増加させる効果を持っていないとの評価もある(「アンケート」3-1参照)。そもそも、この調査から、実際にどのくらいの企業でこれらの調整方法が利用されているかを知ることはできないのであり、現段階は、重要な産業分野での全国協約の締結により法律の準備している多様な調整方法が、相当数の労働者について少なくとも利用可能な状況になったと評価しておくのが妥当なところであろう。(なお、この「労働省調査」の表は、その理由は不明であるが(1987年以降新たに導入した調整方法だけをカウントしているのか?)、必ずしも網羅的ではなく、また表と解説とが一致していないように思われる部分もあることに留意する必要があろう。)
表2-2 1987年6月30日の法律以降に締結された労働時間の調整に関する産業別協約数(1989年)
表2-3 1990年に締結された労働時間の調整に関する産業別協約数
 次に、各調整方法別についてみてみよう。「労働省調査」では、各調整方法を「業務の景気で変動への対応のための方法」(<1>~<3>)と「設備の利用時間の延長の方法」(<4>~<6>)とに分けて考察している。そこで、ここでも、その区分に従ってみていくことにしたい(なお、ここでは便宜上<7>も後者にいれることにする。)。
 (1) 業務の景気変動への対応のための方法
 <1> 年単位の変形労働時間制(増減制)
 労働省の協約調査によれば、この制度を協約に取り入れている部門は、農産物加工産業、金属産業および化学産業が中心である。もっとも、現在の第1類型にあたる年単位の変形労働時間制(増減制)は、すでに、1982年に導入されており、それにもとづいてこの制度を規定している協約数は、別表の数字には含まれていない。したがって、年単位の変形労働時間制(増減制)の規定を有する部門は、別表の数字よりも多いであろうことは、留意されねばならないが、労働省での聞き取りを参考に考えると、上記の評価を変えるものではないと思われる。
 労働省では、年単位の変形労働時間制(増減制)については、季節的変動の激しい分野で一定の役割を果たしているが(CFDTで具体的事例を尋ねた際に、最初にあげられたのがスキー製造業であった)、その普及度は、立法者の想定したほどではないとの評価であった。なお、この評価は、聞き取り調査では、労働組合および企業のほぼ一致した見解であった。そして、この制度の普及を妨げる理由は、その複雑な仕組みにあるとの意見であった。つまり、「アンケート」にも示されているように(3-1)、労働組合の原理的反対が年単位の変形労働時間制(増減制)導入の主たる障害でないという評価である。もっとも、聞き取り調査を行ったCFDTが年単位の変形労働時間制(増減制)等の労働時間の柔軟化に好意的な立場をとっている労働組合であることを考慮すると、このような断定は避けるべきであるとの疑問も起こるところであろう。フランスにおいてCFDTに匹敵する勢力であるCGTは、あらゆる柔軟化に反対する態度をとっているからである。しかし、法制度の面からするとフランスにおいては、労働協約締結権を有する「代表的組合」の一つが協約に署名すれば、その協約の適用範囲のすべての労働者に効力を持つのであり、反対組合の存在は必ずしも年単位の変形制(増減制)導入の絶対的障害にはならない(ただし、一般の協定とは異なり、年単位の変形労働時間制(増減制)の特例協定では、直近の従業員代表選挙で絶対過半数の得票を得た代表的組合には協約の発効を阻止する権限が与えられている。しかし、現在の各組合の力関係では、いずれの組合も絶対多数をとる可能性はなく、この一種の拒否権は、実際には機能しないといわれている)。また、企業レベルになるとCGTも、その中央とは異なる対応をとることが多いという(「アンケート」3-9参照)。実際、金属産業の「協約調査」によると、CGTも多くの場合、労働時間に関する協定に署名していることがわかる(もっとも、後述するように、年単位の変形労働時間制(増減制)についての協約に署名していると判断はできないのではあるが)。このような補足的な事情を考えると、労働組合の原理的反対が年単位の変形労働時間制(増減制)導入の主要な障害となってはいないとする評価は妥当とは考えられるのである。
 また、企業の実務家から強調されたのは、労働時間管理をきめ細かく行う必要があり、労務管理上実施困難であるとのことであった。このような観点から、「各労働者の貸し借り時間を把握しなければならず、工場の現場管理者に好まれない(SAINT-GOBAIN)」、「労働時間の調整方法のモデルとはしていない(USINOR)」、「一部で試験的に導入しているが、あまりメリットを感じていない(ルノー公団)」といった意見がだされていた。また、この複雑な仕組みは、行政側にとっても監督困難な状況を生んでいるとのことである。さらに、「アンケート」(3-2)では、より法的な角度から、特例協定の個人の労働契約に対する効力に関して発生するであろう微妙な法的問題があり、使用者がそのトラブルを回避するために、年単位の変形労働時間制(増減制)導入をためらっているという事情もあるのではとの観測も示されている。つまり、フランスでは、労働協約の内容は、労働契約に化体せず、その意味で直ちに労働契約内容を変更しない。そして、労働契約には、最も有利な条項が適用になると考えられている。しかも、現在の最高裁は、労働者が新しい条件で就労しているという事実は、労働者の承諾の意思表示とはみなされないとされている。この法的状況を前提とすると、労働者が特例協定以前の労働条件にもとづく訴訟を提起する可能性があるのである。
 以上のようにみると、年単位の変形制(増減制)は、その適用可能性は、相当数の企業に広がっているが、実際に利用されているのは季節的変動の激しい業務についてである。このような業務では、その利用が定着しつつあるが、年単位の変形労働時間制(増減制)があらゆる業務において労働時間の調整方法の主要な手段になっているとはいえないし、またそうなる可能性も大きくはないと評価が可能であろう。つまり、年単位の変形労働時間制(増減制)は、多くの労働時間の調整手段の一つとして、定着してきているという評価が妥当といえよう。
 ところで、「労働省調査」は、全国協約の内容に着目して、(1)完全協定、(2)枠組設定協定、(3)混合協定、(4)年単位の変形労働時間制(増減制)を枠づける協定の4つの類型があるとしている。
(1) 完全協定とは、すべての義務的記載事項を含み、企業協定を要せずに、年単位の変形労働時間制(増減制)の実施可能な協定である。
(2) 枠組設定協定は、義務的記載事項を全部含むが、一定の適用条件、とくに代償措置の決定を企業協定に委ねている協定である。
(3) 混合協定は、(1)と(2)の性格を併せ持つ協定であり、農産物加工産業の瓶詰飲料水業、ワイン・シードル・ジュース業、缶詰業、家禽類屠殺・解体業の協約において採用されている。
(4) 年単位の変形労働時間労働時間制(増減制)を枠づける協定とは、義務的記載事項を完全には含まない協定であり、この場合、年単位の変形労働時間制(増減制)の利用の法的根拠は、企業協定に求められることになる。
 次に、年単位の変形労働時間制(増減制)の2つの類型のどちらが好まれているかをみると、「労働省調査」をみても、第2類型が選択されることが多いようである。
 この第2類型の年単位の変形労働時間制(増減制)は、その代償措置が労使に委ねられているところに特徴があるが、具体的措置としては、「アンケート」によると、その頻度の高い順に、賃金割増(およそ50%)、超過勤務の割当時間の削減、代償休日、職業訓練時間の増加、であるという(「アンケート」3-6)。
 <2> 超過勤務に代わる代償休日
 超過勤務に代わる代償休暇は、年単位の変形労働時間制(増減制)と同程度に普及している労働時間の調整方法である。(この制度の利用状況は、前述したが(2-<2>)、年単位の変形労働時間制(増減制)に比べ、実施の手続も簡単であり、より柔軟性があるため、とくに短期の景気変動に対処する労働時間の調整方法として機能しうるところにその特徴があるといえよう。問題は、労働者が収入増よりも、休日増を望むかというところにあろう。この点につき労働省は、収入がある程度の水準になると、労働者はむしろ休日増を望むようになるとみている。しかし、この見解とは異なり、現状では、大部分の労働者は、賃金割増に大きな利益を見いだしているとの評価もみられる(「アンケート」4-3参照)。
 <3> 間歇的労働
 間歇的労働は、業務の季節的変動が固定的な部門に利用されている。したがって、農産物加工産業が協定締結している例が多い。また、職業訓練機関、私立学校教員、学校食堂のような業務が学校の日程に密接に結びついている分野でも協約が締結されている。さらに、旅行業や燃料販売・配送業のような非常に季節的な商業部門で利用されている。
(2) 設備の利用時間の延長のための方法
 さて、<4>超過勤務時間計算の周期、<5>週末労働時制、<6>経済的理由に基づく連続操業および<7>女子の深夜労働は、(1)でみた調整方法に比べ、協約数が少ない。<4>超過勤務時間計算の周期については、いくつかの部門では、協約によらず、労働時間に関する適用のデクレにより利用可能であること、また、<5>週労働時制については労働監督官の許可でも可能であるという条件はあるが、その普及率が(1)の調整方法よりも低いことは間違いがないだろう。それは、これらの調整方法がすべて、交替制勤務にかかわることに関係があるだろう(「アンケート」4-2参照)。たとえば、超過勤務時間計算の周期は、数週間にわたる厳格な業務編成を前提としており、工業部門、それも金属産業および化学産業のような大企業の多い部門が中心となるのであろう。
 労働省によると、超過勤務時間計算の周期は、12週としている場合が一番おおく、また、12週を推奨しているとのことであった(「アンケート」4-1参照)。この労働時間の調整方法は、あらかじめ周期内の労働時制を特定しておかねばならず、かつ、それが繰り返されねばならないために、交替制勤務以外では、なかなか利用が困難なのであろう。
2 企業協約における労働時間の調整方法:金属産業を中心に
 イ 1990年企業協約調査
 まず、労働省の1990年協約調査(Bilan de la negociation collective 1990,p.51 et s.、以下「90年調査」とする。表2-4参照)に基づいて、労働時間の調整方法に関する企業協約の締結状況を紹介しておこう。
表2-4 労働時間に関する企業協約締結数(1990年)
 1990年に締結された企業協約数は、労働省の調べによると2,480である。そのうち1,025の企業協約が労働時間の調整についての規定を有しているという。前述の労働時間の調整方法の区別に従うと、「業務の景気変動への対応のための方法」を定める協定が640あり、「設備の利用時間の延長の方法」を定める協定が473を数える。
 「業務の景気変動への対応のための方法」のなかでは、年単位の変形労働時間制(増減制)がもっとも多い(335)。しかし、この協定数は、1989年が335であったことを考慮して、停滞と評価されている。しかも、締結された協約の5分の4が単なる更新または若干の修正にとどまるという。このことからして、年単位の変形労働時間制(増減制)が速いテンポで広がっているという状況にはないとみることができよう。
 次に、超過勤務に代わる代償休日を定める協約数は134であり、大幅な増加をみた1988年および1989年からと比べるとかなり後退した数値となったとしているが、その要因等については言及がない。
 さらに、間歇的労働についての協約数は31であり、きわめて少数である状況が続いている。これについては、間歇的労働を利用する頻度の高い産業、とくに農産物加工産業では、全国協約がこれを規定しており、企業協定を要しないという事情が留意されるべきであると指摘されている。
 「設備の利用時間の延長の方法」に関する協約は、大部分が金属産業で締結されたものである。その内容についてみると、継続交替班労働が締結協約数にして299ともっとも多い。この継続交替班は、比較的古典的な3班交替制が主流を占めているとされている。
 次に、週末交替班の設置は、185の協約数を数え、1990年に著しく増加した労働時間の調整方法である(1989年と比べ20%増)。
 最後に、女子の深夜業の協約は42であり、注目を集めた方法にもかかわらず、極めて少数である。
 ロ 金属産業の企業協約
 この協約調査は、金属産業の使用者団体(全国協約の署名当事者)であるUIMMが1988年と1989年に締結された企業協約のうち300の協約(従業員50名以上の企業)を対象としておこなった分析である(したがって、資料に対する評価の部分の客観性は、おのずから限定されたものであることは留意しなければならない)。なお、1989年に労働時間に関して締結された金属産業の企業協約は、676であり、全体の約3分の1を占める。また、これらの企業協約の大多数は、法定の年次交渉義務の履行から生まれたものである。
 取り扱われた事項に着目すると、もっとも多いのが日常的な労働時制および休日の日時の設定(祝日、橋渡し休日等)であり、約半数の協約が取り扱っている。次に多いのが、年単位の変形制(増減制)であり、109の協約が取り扱っている(その他については、表2-5参照)。
表2-5 金属産業企業協約調整方法別協約締結数
 締結組合をみると、CFTCという勢力の小さい組合を別とすると(この組合の場合、締結の拒否というより、不存在のため締結数が少ないと考えられる。)、組合間の差がさほど顕著ではない。とくに、労働時間の調整(=柔軟化)に強行に反対しているCGTが111の協約に署名していることが注目される。CGTといえども、日常的な労働時制および休日の日時の設定という事項については、協約を拒否しないのであろう。したがって、CGTが締結したとされる協約は、労働時間の調整方法についての定めのない協約であるということも考えられなくはない。しかし、そのような協約であるならば、他の組合も署名する可能性が高いであろうから、この表の数値を説明できないことになる。とすると、前述したように、企業レベルでは、中央の方針とは異なり、CGTも労働時間の調整に関する協約に署名しているという推測が成り立つと思われる。
 なお、「協約調査」では、最後に、多様な労働時間の調整方法の利用によっても、労働編成そのものが根本的に転換することはなかったと結論づけている。
 次に、労働時間の調整方法のうち主要なものについて「協約調査」の分析を紹介しておこう。
 (1) 年単位の変形労働時間制(増減制)
 検討対象の協約のうち30%(109)が、年単位の変形労働時間制(増減制)を規定している。この調整方法を利用しているのは、業務別でみると、生産部門が一番多い、ついで、メンテナンス部門である。平均週労働時間は、38時間30分以下である。なお、年単位の変形労働時間制(増減制)は、しばしば、交替制勤務の労働者に適用されている。週労働時間の上限は、44時間に設定されている(法定および全国協約所定の最長時間)。また、週労働時間の加減は、30時間程度に設定されている。業務の閑散期(減産期)の労働時制は、1日の労働時間の短縮よりも休日を増やすことになっている。労働時制を変更する際の予告期間は、15日前から2~3日前と多様である(この点は、91年の法改正により、最低3日前とされた)。賃金は、平均集労働時間にもとづいて、実労働時間によらず、平均化して支給される。年単位の変形労働時間制(増減制)に対する代償として協約が規定しているのは、主として金銭的なものである。すなわち、年単位の変形労働時間制(増減制)を規定する協約の半数にあたる54の協約が週39時間を経過する時間に対して25%もしくはそれ以上の手当の支払を規定している。残りの3分の1の協定(18)は、特別の一括払いの手当を代償措置としている。その他の協定は、労働時間の短縮、雇用保障、または賃金保障を規定している。職業訓練を代償措置とするのは7つの協定にすぎず、しかも、それは、他の代償措置の補完としてしか位置づけられていない。
 最後に、「協約調査」は、年単位の変形労働時間制(増減制)が超過勤務時間または部分失業の利用を回避し、また、雇用を維持し、一時的労働者(期間の定めのある労働契約および派遣労働契約に服する労働者)の過度の利用を回避することに役立っているとし、さらに、現行制度が労働者に理解され、受容されていると評価している。この評価は、年単位の変形労働時間制(増減制)が利用されている業務ではということを補って読むならば、先の評価(I-(1)-<1>)と両立するといえよう。
 (2) 半連続昼夜交替制労働および経済的理由に基づく連続操業
 この半連続昼夜交替制労働とは、週末も勤務する完全な交替制ではなく、土曜日および日曜日をまたは日曜日を休日とする昼夜交替制勤務である。この半連続昼夜交替制労働を定める協約が52を数える。これに対し、1987年法に導入した経済的理由に基づく連続操業を定める協約は9にとどまっている。
 半連続昼夜交替制労働の週労働時間は、33時間33分から38時間30分と多様であり、その平均は36時間から37時間30分である(ただし、この時間に休憩時間が含まれているかは不明。なお、年間労働時間は、1982年1月26日のオルドナンス第26条に週平均35時間と法定されている)。
 経済的理由に基づく連続操業は、5班を基礎に構成されるが、有休等の欠勤への対応から6班で構成している協定もある。週労働時間は、33時間36分を超えない。この交替班編成は、新規採用を生み出しているとされている。
 今回の聞き取り調査を行った工場を有する各企業では、各種交替制勤務が取り入れられていた。例えば、IBMフランスでは、企業協約では、昼夜連続交替制(週35時間)、昼夜半連続交替制(日曜休日、週36時間30分、ただし、夜勤班は36時間)および週5日制の交替制(週37時間、ただし、夜勤班は36時間)が規定されている。USINOR、SAINT-GOBAINでは、5班3交替制に従事する労働者が多いとのことであったが、日曜(場合によっては土曜も)を休日とする2班ないし3班の交替制を主としている企業もなお少なくないようである。ルノー公団で主流の2班交替制勤務は、月曜から金曜までの勤務で、週労働時間が38時間10分(拘束時間44時間40分)であり、超過勤務は、主として土曜労働として行うとのことであった。ルノー公団において1991年に、各種交替制勤務に従事するものは次のとおりである。
交替制勤務の種類(ルノー公団、1991年)
 (3) 週末短縮労働時制
 約10%にあたる34の協約が週末短縮労働時制を規定している。自動車部品および電子工業の企業協約がもっともこの調整方法を採用している。週労働時間(2日間ないし3日間)は、21時間から28時間まで多様であり、32時間と規定するものもある。もっとも一般的な労働時制は、1日12時間で2日間、計24時間とするものである。この週末短縮労働時制は、連続操業の確保のために恒常的に設置される場合と臨時的な労働量の増加に対処するために一時的に交替制と併用して用いられる場合とがある。大部分の労働者は、50%以上の割増賃金を受け取っており、これにより、通常の勤務の労働者と同等の賃金を受け取ることになっている。この労働時制で勤務する労働者は、まず、企業内の希望者を優先し、その後、新規採用または期間の定めのある労働契約に服する労働者を採用するとしている協定が多い。
 (4) 間歇的労働
 2つの協定がこれを定めている。一つは、剰員があるための措置としてであり、もう一つは時計産業における業務の季節的変動に対処するためである。協定は、最短雇用期間を保障し、かつこの制度で雇用される従業員数を制限している。希望するものには、賃金が月給で支払われる。この制度で勤務する労働者には、15%程度の待機手当が支給される。
 (5) 女子深夜業
 41の企業協定が昼夜交替制または週末短縮労働時制のなかでの深夜勤務への女子の組入れを規定している。金属産業で累計すると約100の企業協定があると推測されている。これらの協定は、電子機器のコンポーネント、自動車部品の分野で多くの規定例がみられる。また、缶製造業および家電製造業のような分野の増産期に利用されている。いくつかの協定は、女子労働者の配偶者が深夜勤務である場合についてのまたは上級の職業格付けの獲得のための深夜勤務希望に応えるために締結された。この労働時間の調整方法にかかる人数は、限定されており、かつ常に希望者により行われている。
 「協約調査」は、この労働時間の調整方法は、女子労働者の解雇を回避し、かつ新規採用を生み出し、さらには、職業格付けの改善につながっていると評価している。
 (6) 待機労働
 待機労働とは、金属産業では、メンテナンスまたは保全関係労働者について、日常的な労働時間の範囲外で、緊急の事態に対処するために自宅待機義務を定める協定である。この待機労働には、特別の法律上の制限がなく、新しい問題とされている。この待機労働を定める協定が14あるという。
 CFDTでは、この形態の労働は、看護婦および運転手という業種で問題になりつつあるという。今回収集した協約のなかでは、IBMフランスの協定にこの待機労働に関する規定がみられた。
 この協定では、まず待機労働が特別の事情での例外的な労働形態であることを確認し、待機労働についての特別な補償について規定している。
3 労働時間の調整方法の具体的規定例、企業レベルを中心に
 ここでは、労働時間の調整方法の、とくに企業レベルの具体的規定例を紹介することにしたい。
 (1) 年単位の変形労働時間制(増減制)
 すでに述べたように(I-1-<2>参照)、年単位の変形労働時間制(増減制)を定める協約には、法定の義務的記載事項を含まねばならない。ここで、紹介する3つの協約も、この法定の義務的記載事項を順に記載している形式のものではあるが、その実施条件等をみると法定事項にはない条項も見受けられる。
 イ ERCUIS社の事例(1991年3月29日の協約、付属資料編<5>)
 同社は金属産業の全国協約の適用を受ける金属食器メーカーである。この協定の期間は、1991年4月からの8ヵ月であり、かつこの期間限りの一時的なものとされている。また、この協定は、第2類型である。主な規定は以下のとおりである。
 a) 利用の理由 在庫の大量発生
 b) 適用範囲 販売および請求書作成業務を除く業務部門全体
 c) 平均的労働時制 週平均労働時間39時間
 標準労働時制は、以下の表のとおりである。後にみるように、変形期間中の労働時制は、この標準労働時制をもとに、作成される。

 d) 変形期間 1991年4月2日から1991年12月31日の8ヵ月間
 e) 年単位の変形労働時間制(増減制)の計画
 繁忙期とその上限時間 ほぼ9月~12月、週44時間
 閑散期とその下限時間 ほぼ4月2日から6月28日、週34時間
 なお、この計画は、経済状況の変化および企業の労働量の予期せぬ変化に対応するために、変形期間中に経営側が変更する可能性を認めていることが注意されよう。また、この変更に際しては、組合代表委員だけでなく、企業委員会との協議をも経ることとされていることが注目されよう。
 f) 労働時制変更の予告期間 法定の最低3日より相当長い2週間前
 g) 変景気の労働時制
 <1> 閑散期労働時制
  1 一般業務 週34時間

  2 メンテナンス業務 週34時間。以下の表の二つの労働時制があり、その人数日は1:1とする。

  3 配送業務 週34時間。以下の表の二つの労働時制があり、その人数日は1:1とする。

 <2> 繁忙期の労働時間
 メンテナンス業務および配送業務を含む年単位の変形労働時間制(増減制)にかかわるすべての業務を対象とし、週44時間である。

 e)、f)、g)をみると、変形期間中の労働時制は、標準労働時制を基礎として作成されており、とくに月曜から木曜については、繁忙期でも標準労働時制の終業時刻より30分延長されるにとどまる。閑散期には、金曜が休日になり、繁忙期では、金曜が午前勤務から1日勤務に変化するのである。したがって、年単位の変形労働時間制(増減制)によっても、このような態様であれば、労働のリズムが極端に変動することはないといえるであろう。
 また、どの労働時制を採用するかは、協定において厳格に定めるのではなく、仕事量に応じての選択(例えば、繁忙期では、繁忙期労働時制または標準労働時制)が可能とされている。さらに、一度決定した労働時制の変更の可能性を認めている。
 h) 報酬 月給は、変形期間の実労働時間にかかわらず、週39時間の平均労働時間を基礎に支払われる。病気、有休等の有償の欠勤は、週39時間を基礎に補償される。変形期間中に入社または退社した者については、実労働時間にもとづいて清算される。
 このような月給制は、年単位の変形労働時間制(増減制)に必ず採用されているとみてよい。
 i) 代償措置 統計的に最も多いとされる金銭的補償である、割増賃金の支払を代償措置としている。すなわち、変形期間の繁忙期に法定労働時間である39時間を越えた時間は、25%の超過勤務時間の割増支払の対象となる。ただし、週39時間を越え44時間以内の労働時間は、労働法典L212条の8の1に従う超過勤務時間の年間割当時間には算入されない。また、週42時間を越え44時間以内の労働時間についても、補償休日の権利を発生させない。
 j) 超過時間 変形期間の終了時に、その変形期間の平均労働時間が39時間を越えているとき、その時間は、報酬支払の対象になる。39時間の法定平均労働時間を越えてなされた労働時間は、通常の超過勤務時間として取り扱われる。
 k) 部分失業 部分失業に関する諸規定は、部分失業の実施の際に有効な法令上の上条件に即して適用される。変形期間の終了時に、39時間の平均労働時間が経済的事情のために遵守されなかったとき、実際の労働時間と39時間の平均労働時間との差である喪失労働時間は、労働行政に対して、部分失業の補償請求の対象となる。その場合、関係労働者の報酬は、実労働時間に基づいて清算される。
 l) 欠勤の取扱い
 繁忙期における(病気、有給休暇、出産休暇、労災等)の欠勤は、39時間を基礎に補償される。39時間から44時間の間の非労働時間は、期間終了時に、遅くとも1991年12月31日には、年末手当、有給休暇または金属加算休暇から控除して清算される。
 閑散期に取得された有給休暇については、金曜正午に終了する。また、月曜から木曜までの週34時間労働であるので、金曜の労働時間分と想定される5時間は、貸越総時間から控除される。(病気、出産休暇、労災等の)欠勤は39時間を基礎に補償される。
 m) 適用の手続 労使は、本協定の1991年5月、6月および7月の適用様式を定めるために、16週目、20週目、24週目に会合を持つ。
 ロ HENDAYE社の事例(1991年5月31日の協約、付属資料編<6>)
 このHENDAYE社の事例は、業務の季節性が強いことを理由とするものであり、その協定期間を1年とするものの、更新を予定する規定がおかれており、むしろ恒常的な性格の協定と思われる。主要な内容は以下のとおりである。
 a) 週平均労働時間と変形労働時制 週平均労働時間は、日勤の従業員については38時間であり、交替制勤務の従業員については、36時間である。そして、下の労働時制表に従って、週ごとに+4時間から-8時間までの範囲で変形される。つまり、週労働時間は日勤従業員は、42時間から30時間の範囲で、交替制勤務の従業員は、40時間から28時間の範囲で変動することができることになる。
Hendaye社労働時制表
Hendaye社労働時制表(続き)
 さらに、法律に従い、6月1日から翌年5月31日までに各生産ラインまたは営業部門ごとになされた平均労働時間は、交替制勤務の従業員については週36時間、日勤の従業員については週38時間を上回っても、下回ってもならない。
 b) 変形時間の総量規制 1年のどの時期をつうじても、生産ラインまたは営業部門ごとの集団的貸越時間は週72時間を越えることができない。1年のどの時期をつうじても、生産ラインまたは営業部門ごとの集団的借越時間は週72時間を越えることができない。
 c) 適用範囲 担当する職務が注文票の変化に直接関連するHENDAYE社の事業場の全従業員(後掲資料参照)。なお、1972年3月13日の金属産業技師および幹部職員全国協定第9条(労働時間)およびその修正条項の適用を受ける技師および技術者ならびに包括賃金適用従業員は、本協定の適用を受けない。
 d) 労働時制および労働時間の決定 週労働時間は、最低1週間の予告期間をもって、各生産ラインおよび営業部門ごとに決定されかつ掲示される(ある週の最後の勤務日の掲示が翌々週の最初の勤務日に適用される。そして、労働時制(別表参照)は、次のように定められている。
 日勤班 1 週42時間
     2 週38時間(標準労働時制)
     3 週34時間(金曜午前勤務)
     4 週30時間(金曜休日)
 交替班 1 週40時間
     2 週36時間(標準労働時制)
     3 週31.5時間(金曜隔週休日)
     4 週28時間(金曜休日)
 夜勤班 1 週39時間
     2 週35時間
     3 週30時間
 e) 事業場委員会への報告事項 委員会の月例会議の日にわかっている注文票を考慮しての予定労働時制。協定の適用期間の最初から諸職場において実際に掲示された労働時制およびその週平均労働時制。
 f) 個人的労働時間の計算 各労働者の実労働時間は、各人の労働時間の計算の状態が常にわかるように、直属の上司が毎週記帳する。この年単位の変形労働時間制(増減制)の対象になる個人の最大貸越時間を72時間、最大借越時間を72時間とする。各人の労働時間の計算カードは、各労働者が自由に参照できるようにされねばならない。
 g) 報酬 月毎に支払われる報酬は、実労働時間にかかわらず、交替班勤務の従業員については37時間を基礎に、日勤勤務の従業員については38時間を基礎に支払われる。ただし、繁忙期の増減制の範囲内で38時間を越える時間は25%の割増賃金が支給される。この割増は、毎月その履行の翌月の賃金計算票に記入される。ただし、38時間を越える時間の割増賃金は、定額制報酬を受ける従業員には支給されない。
 h) 欠勤 あらゆる欠勤(有給休暇、病気、労災または通勤災害、家族の事情による休暇等)は、借越または貸越の算出から除外される。有給の欠勤の場合には、その補償の計算は毎月の賃金との関係で行われる。
 i) 橋渡し休日 橋渡し休日の際に事業場閉鎖をした場合、その喪失された時間数は、事業場委員会の合意を経て、年単位の変形労働時間制の計算に充当されることができる。
 j) 祝日 祝日は、貸越・借越に影響しない。祝日は、現行の規定にしたがって調整される。勤務日にかかった祝日の取り戻しの方法は、事業場委員会の会議で定められる。
 k) 部分失業の利用 注文票にもとづいてなされた労働時制の計画が現行の週平均労働時間に等しい平均時間に達することができない場合、部分失業の利用が検討される。その場合、各人の労働時間の貸借残高が検討される。部分失業の諸措置は、個人の貸越残高を処理したあとで初めて、各関係労働者に実際に適用することができる。この措置は、集団的借越時間が上限に達した場合にしか適用することはできない。
 l) 年度途中採用者 年度途中採用者(期間の定めのある労働契約または期間の定めのない労働契約)は、本協定に規定される労働時間の調整に服する。
 m) 期間の定めのある労働契約または派遣労働契約に服する従業員の利用
 労働負担が本協定の運用により吸収されることのできない場合にしか本協定にかかわる業務において、期間の定めのある労働契約または派遣労働契約に服する従業員を利用しない。ただし、会社の製品の構想、製造または販売とは異なる範囲で行わなければならない例外的または緊急の作業には適用されない(安全にかかわる作業、職場の改装、またはメンテナンスの作業等)。
 さらに、期間の定めのある労働契約および派遣労働契約に服する従業員の利用は、以下の場合に可能である。
 労働負担が本協定に規定される最大労働時間が可能とする生産能力を越える場合。
 欠勤する常勤従業員の代替。この場合、期間の定めのある労働契約および派遣労働契約に服する従業員は、その期間中有効な労働時間および労働時間制に服する。ただし、派遣労働契約に服する従業員は、実際に勤務した労働時制にもとづき支払われ、貸越時間制度には服さない。
 n) 個人的清算 毎年の5月31日に、個人の清算が行われる。プラスの清算の場合および本協定が更新されない場合には、その時間は基本率にしたがって支払われる。マイナスの清算の場合、当事者が事業場に負うべき時間を履行できるように当事者とその個人的ケースに最も適合的な解決方法が探求されることになる(閉鎖期間中の出勤、有給休暇となるべき時間の充当、職場の労働時制を越える労働等)。
 これらの解決が不十分または適当でない場合には、マイナスの清算は賃金から差し引かれる。ただし、90日を越す労災または長期の病休あるいは育児休暇および出産休暇の場合には、例外的に清算が延期される。
 ハ SAINT-GOBAIN社の事例
 この事例は、全国協約において、年単位の変形労働時間制(増減制)実施の条件が具体的に定まっており、その具体的適用の態様について、企業レベルの組合とではなく、企業委員会が使用者と協定を締結している。
 この事例において、なぜ組合ではなく企業委員会と協定を締結したのか、またこのような事例がしばしば生じているのかについては、不明である。ただし、このように企業委員会が協議機関としての機能を越えて組合代替的機能を持つことがあることはしばしば指摘されるところではある。なお、協約締結権は、法律上「代表的組合」に独占されており、企業委員会との協定は、企業協約としての効力はもたない。このような協定は、非典型的協約(accord atypique)と呼ばれ、判例上、その内容につき使用者が片務的に義務を持つとされている。
 まず、同社の鏡製造部門に適用される鏡製造業全国協約第28条は、年単位の変形労働時間制(増減制)につき以下のように定めている。
 「変形期間中の増減の幅は、週の下限時間を週35時間とし、上限時間を42時間とする。ただし、企業協定により42時間を超える上限時間を設定することができる。
 週39時間を越える時間については25%の割増賃金を支払うが、その時間は超過勤務時間の割当時間に算入されない。
 賃金月額は、最低週39時間分を基礎として補償される。変形期間終了時に、実労働時間との関係で清算される。
 変形労働時制の適用を受ける幹部職員は、独自の特別な補償を受ける。」
 以上の全国協約を受けて、SAINT-GOBAIN社の同全国協約の適用に関する企業委員会との議定書は、次のように1年単位の変形労働時間制(増減制)の適用条件を定めている。
 まず、1年の変形期間のうち変形労働時制の週は、最大30週とする。
 変形期間の労働時制は、以下の表に示すように、週35時間、39時間、43時間の3つのタイプを定める。
 なお、全国協約では上限時間が42時間を超えるためには企業協定によるとしている。かりに、この議定書以外に企業協定がないとすると、週43時間とする部分についての法的効力については、問題とされる余地がありそうである。
日勤従業員・二交替勤務従業員
 次に、変形期間の予定は以下のとおりである。
  減産期 第3週~第17週(15週間)
  通常期 第18週~第24週
      第35週~第37週
      第49週~第52週
  増産期 第25週~第32週
      第38週~第48週(18週間)
 この予定に従い、各週ごとの労働時制が特定されていくことになるが、使用者は、その労働時制を3日前、具体的には水曜の12時までに掲示することにより変更できる。ただし、43時間の週数は35時間の週数と同数でなければならない、したがって、最大15週ということになる。
 賃金支払については、労働時制にかかわらず、39時間分の賃金が支払われる。ただし、43時間の労働時制については、39時間を超える時間については、25%の割増分が支給される。増産期の労働時制では対応できない労働量のあるときは、例外的に希望者により土曜労働を行う。
 ニ 小括
 以上の三つの企業協約をみると、年単位の変形労働時間制(増減制)が季節的な業務量の変動をある程度予測して、あらかじめ定められたいくつかの労働時制のうち、そのときどきの業務量に適合する労働時間を選択することにより成り立っている制度ということができよう。
 また、基本的な大枠として増産期および減産期(さらには標準期)が定められ、それらに対応する労働時勢が定められるが、具体的にどの時期にどの労働時制を採用するかは、協定の段階では確定されず、最終的には使用者の判断により特定されていくという方式がとられている。ただし、各労働時制は、極端に異なるわけではなく、休日増または1日の労働時間でも1時間程度の差があるだけであり、労働生活のリズムが極端に変化するということはないように思われる。
 週法定労働時間を超える時間は、超過勤務割当時間に算入されないという意味では、法定の超過勤務時間と取扱いが異なる。また、週42時間を超える時間にあたえられる1時間当り20%の補償休日の権利も付与されないことがある。しかし、割増賃金との関係でみると、代償措置として法定と同率の割増賃金が支給されており、その点では、実際上、法廷の超過勤務時間と取扱いが異なるわけではないといえよう。
 (2) 喪失労働時間の補填
 橋渡し休日による喪失労働時間の補填方法(I-1-<2>c参照)は、企業委員会との協議事項である(たとえば、IBMフランスの企業協定では、使用者は、事業委員会に諮問しなければならないとされている)。しかし、CFDTによると、現実には、組合がこれを取り上げることも多いようである。使用者側としては、まとめて土曜日に補填するという措置を希望するが、組合側は、勤務日に少しずつ補填することを望むという。実際の例として、THOMSON-CSFでは、組合側の要求により、1週20分、1日4分という補填措置がとられているという。また、土日を休日とする3班昼夜交替例労働の場合、週の労働時間を8×5=40時間とすることが便宜であるが、週の法定労働時間が39時間であるので、週40時間とすると恒常的な超過勤務を前提とすることになってしまう。そこで、この一時間について、橋渡し休日の補填措置を年間で利用することにより、超過勤務時間としないという方法をとることがあるという(USINOR社での聞き取り調査)。
 ここでは、喪失労働時間の補填措置を年間を通じて計画的に利用することによる小幅の労働時間の調整方法の事例を紹介する。それは、金属産業に属するAEROSPATIALE社NANTES工場の1990年用の労働時間の調整に関する事業場協定である。この協定では、喪失労働時間の補填が年間の労働時制のなかに計画的に組入れられている。
 さて、この事業場協定では、週の所定労働時間は37時間とされており、その労働時制は次のとおりである。

  月~木 7:30-16:30(食事休憩1時間を含む)
   金  7:30-12:30

 年間を通じた橋渡し休日は、月曜日が4日(8×4=32時間)および金曜日が2日(5×2=10時間)であり、さらに年末休暇が3日ある(水、木、金=21時間)は以下のとおりである。この合計が63時間となる。この63時間を一週につき1時間半(1日18分)、特定された42週間でこれを補填する。したがって、実際上は、原則として週の所定労働時間が38.5時間となるに等しく、業務量の変動に対応した調整方法という範疇に入れることができるかは問題があろうが、当事者の意識としては広い意味の労働時間の調整と考えられているのである。なお、この補填時間を含む労働時制は以下のとおりである。

  月~木 7:30-16:48
   金  7:30-12:48

 次に紹介するのは、必ずしも法の予定している喪失労働時間の補填措置ではないが、同様の手法により、年間労働時間の小幅な調整を行っている企業協定(1989年)であるTREPILERIE社の事例である。ただし、喪失労働時間の補填というより、その逆で、一種の振替休日(但し土曜)の年間計画化というべきかもしれない。
 さて、この協約では、例えば、3交替班の年間所定労働時間を1,584時間(1日8時間で198日)と定めている。この時間は、以下の計算式から得られる。
  {52週-4週(夏の工場閉鎖機関)}=48週(労働週)
   48×35時間(週平均労働時間)=1,680時間
   1,680-{12(休業する祝日数)×8}=1,584時間
 この1,584時間を以下のように割り振る。
 まず、1月から5月および6月の最初の2日間の時期には、この時期の22週間の月~金の105日(週40時間)に加えて、土曜労働を6日間(1日8時間)行い、計111日勤務する。したがって、この時期には、週平均労働時間35時間に対し、{(40-35)×5+6×8}=158(時間)多く労働していることになる。年単位の変形制(増減制)にたとえれば増産期にあたる。
 全体が198労働日であるから、あと87労働日が勤務すべき日数ということになる(198-111=87)。
 さて、残る時期には、8月の4週間の工場閉鎖期間を除いて123日の勤務可能日がある。したがって、この時期には、36(123-87)日=288時間を非労働日とする必要がある。この非労働日は次のように設定する。
 まず、さきの158時間分の補填休日をこの時期に設定する。これが計算上、19日分と6時間となる。残る130時間をやはり非労働時間とするので、これが計算上、16日分と2時間になる。これを整理して、19日間の補填休日と17日間の特別休日とする。
 補填休日は、1989年6月5日から7月28日までに4日間を、同年9月11日から年末までに11日間をそれぞれ任意の日に取得することができ、残る4日間は、10月30、31日および11月2、3日(11月1日は祝日、学校もこの時期には休暇になる)にとることとされている。
 また、特別休日の13日間は、それぞれ指定された金曜日に設定され、残る4日間は、12月26日から29日とされ、祝日と日曜とあわせると有給休暇によらずにクリスマス休暇がとれることになる。
 なお、週39時間を超える時間は、法定割増を超える50%の割増賃金が支払われることになっている。
 (3) 超過勤務に代わる代償休日
 超過勤務に代わる代償休日の具体例として、ルノー公団の事例を紹介する。
 この事例では、毎週25分の恒常的な超過勤務が組まれており、これが超過勤務に代わる代償休日の対象となる。さらに、臨時的な残業および土曜勤務も代償休日の対象となる。そして、それらの代償休日の取得日があらかじめ集団的に協定で定められる。例えば、1989年の5月第1週は、以下のように、この代償休日を利用して工場全体を閉鎖するとされている。

  5月1日(月) 祝日
    2日(火) 代償休日
    3日(水) 代償休日
    4日(木) 祝日
    5日(金) 橋渡し休日

 また、IBMフランスの企業協定の定めでは、週の協約所定労働時間を超えた実労働時間が5時間となると代償休日の権利が発生するとしている。この代償休日は、権利発生後、3ヵ月以内に取得しなければならないが、その方法は使用者との合意によらねばならないとされている。合意にいたらないときは、通常の割増賃金の支払による。
 (4) 週末短縮労働時制
 この週末短縮労働時制は、土、日を休日とする昼夜交替制と組み合わせて利用されることが多いようである。ここで紹介するのは、SAINT-GOBAIN社の週末短縮労働時制の一時的利用の事例である。
 まず、週末短縮労働時制の実施にあたっては、この時制で勤務することを希望するものを従業員から募集しなければならない。この週末短縮労働時制は一時的であり、その終了後、これら従業員は、元の労働時制に復帰する。もし、従業員からの希望者では人数が足りない場合には、期間の定めのある労働契約により労働者を新たに雇う。
 この週末労働短縮時制は、2班構成であり、その労働時制は以下のとおりである。

  1班 第1週 土曜 4:00-16:00
        日曜 4:00-16:00
     第2週 土曜 16:00-4:00
        日曜 16:00-4:00
  2班   1班の逆の労働時制

 一つの班は、10~11名で構成される。
 その報酬は、土曜について50%割増(週18時間分となる)、日曜については75%割増(週24時間分となる)で支払われ、結局、39時間分の賃金を得ることができる。さらに、深夜手当がつく。
 なお、有給休暇については、2日間の取得を5日間とみなすことにされている。これは、週末交替班の労働者は、有給休暇を2日間取得することで、通常の勤務の労働者が5日間有給休暇をとるのと同じ効果を得ることができるからである。
 この週末短縮労働時制について、CFDTでは、問題点として、職業訓練休暇、祝日等の利益が享受できないことをあげていた。そこで、CFDTとしては、協定において、通常の勤務への復帰の条件等を定めて規制するという方針をとっているとのことであった。今回収集した企業協約のなかでは、例えば、IBMフランスの企業協定では、労働契約でこの労働時制で勤務する期間を定めるおととしている。また、AEROSPATIALE社NANTES工場の事業場協定では、復帰の手続として、復帰を希望する1ヵ月前までに書面で請求することとしている。この場合、代替を希望するものがありしだい、復帰できるとされている。
 (5) フレックスタイム制
 フレックスタイム制は、一般の事務系労働者の労働時間調整法として、相当普及しているようである。保険業であるUAPでは、これまでみたような労働時間の調整方法は、あまり導入されていない。聞き取り調査によると、フレックスタイム制が労働時間の調整方法の役割を果たしているとのことであった。なお、業務量の応じた労働量の調整は、フレックスタイムで対応できない場合には、パートタイム労働を利用しているとのことであった。
 以下では、UAPのフレックスタイム制を紹介する(UAP内勤職員労働時間年次計画に関する1982年1月7日の協定を修正する労働時制の規定に関する1982年3月16日の修正条項)。

   7:30- 9:30 フレキシブルタイム
   9:30-11:30 コアタイム
  11:30-14:30 フレキシブルタイム 30分の食事時間を含む
  14:30-16:00 コアタイム
  16:00-19:00 フレキシブルタイム

 1日の上限10時間、1週の上限48時間。週末までに、-3時間から+15時間の範囲で翌週に繰り越すことができる。貸越時間の補填措置として、各暦月ごとに、1日の補填休日、または継続するあるいはしない半日の補填休日を2回とることができる。ただし、補填休日をとったことにより、借り越し時間が3時間を上回ることになってはならない。また、その月に、補填休日をとらなかった場合には、翌月にかぎり繰り越すことができる。つまり、補填休日は暦月では、2日に限定される。この補填休日の請求は、3日前までになされなければならない。
IV 労働時間法制の適用対象、とくに幹部職員、外勤職員等の労働時間管理
 わが国のように管理監督官や事業場外労働についての特別な法規定のないフランスにおいて、幹部職員(cadres)および外勤職員等の時間管理がどのようになされているかを紹介するのがここでの課題である。
1 幹部職員(cadres)の労働時間管理
 (1) 幹部職員とは
 フランスでは、労働者は、現場労働者(ouvriers)、事務労働者(employes)および幹部職員(cadres)という3つに分類されている。しかし、軍事用語に起源を有する幹部職員という概念は、日本ではあまりなじみが深くないので、まず、幹部職員の具体的イメージをある程度明らかにしておきたい。
 法律上、幹部職員の資格についての一般的定義規定は存在しない(ただし、労働裁判所判事の選挙に関しての定義規定はある。L531条の1第3項)。そこで、基本的には、労働協約の職務分類(classification)によって、その範囲が決定されている。この定義について、判例・学説では、2つの基準をあげている。
 第一に、職務に相当する職業的能力(formation)を有することである。具体的には、高等教育の修了証書(dipleme)を有するかまたは企業のなかでのキャリアを通じてそれと同等の能力を持つとされた者(内部昇進者)である。
 第二に、事務系では、指揮命令権を行使する立場にあること、技術系では、職務につき、大幅な裁量権が認められ、責任をもたされていること、である。
 この幹部職員は、通常、高等教育の修了証書を持つ30歳未満の幹部職員または年齢を問わず末端の幹部職員である初級幹部職員(cadres debutants)、初級幹部職員を数年経験しているか同等のキャリアのある中級幹部職員(cadres confirmes)および長経験を有しかつ職務上重要な責任を有するかもしくは上級の指揮命令権を有する上級幹部職員(cadres superieurs)に区分される。したがって、幹部職員といっても、部局長クラスから大学(ないし大学院)卒の技術者まで多様である。
 おおまかなイメージを示すと、大学入学資格(バカロレアbaccalaureat)の取得後、5年間に相当する高等教育(エリート養成機関であるグランゼコールまたは大学)を受け、その修了証書を有する者(日本の学歴でいうと博士課程の単位取得に相当する)は、直ちにCADRESとしての身分を有することになる。聞き取り調査では、保険業のUAPでは、バカロレア取得後5年の高等教育を受けた者は幹部職員として採用するとのことであった。技術系でいうと、技術者(ingeenieur)と呼ばれる。これに対し、この修了証書を持たない技術系労働者は、テクニシャン(technicien)と呼ばれ、当初は幹部職員には位置づけられない。THOMSON-CSFでは、技術者は、バカロレア取得後4年の高等教育を受けた者で、テクニシャンは、このテクニシャンは、バカロレア取得後2年の高等教育を受けた者とされている。内部昇進により幹部職員になる道は開かれている。現場作業系では、職長(agents de maitrise)クラスは、幹部職員には位置づけられない。したがって、おおよそ日本でいう中堅企業以上の係長クラス以上が幹部職員といえよう。ただし、より複雑なことに、協約などをみると、より広くテクニシャンおよび職長も含めて、幹部従業員(personnel d’encadrement)しているケースも少なくなく、この場合には、幹部職員および技術者(cadre et ingenieur)という範囲もより広範な従業員が、協約上特別の扱いを受けることになっている。したがって、現在のところ、幹部職員については以上のようなおおまかなイメージを示すにとどめざるを得ない。
 ここでは、多少たりとも具体的なイメージを示すために、比較的簡明な木製パネル製造業全国協約(1979年)における幹部職員の職務分類を紹介しておこう。この協約では、適用対象となる幹部職員について以下のように6段階に分類されている。なお、括弧内の数字は給与係数を示す。

 第一段階 幹部職員としての経験が2年未満である、水準IまたはIIの修了証書(この水準が具体的に何に該当するかは不明)を有する労働者(300)
 第二段階 <1> 水準IIの修了証書を有し、2年の経験を有する労働者(370)
      <2> 特定の係(secteur)において、提供される手段により限定された業務が遂行でき、かつその成果を監督することにつき、経験を有するか、またはその能力のある労働者
 第三段階 <1> 水準Iの修了証書を有し、2年の経験を有する労働者(450)
      <2> 特定の係の業務内容の決定に関与し、その開始、遂行に責任をもち、その成果を監督し、利用することにつき、経験を有するか、またはその能力のある第二段階の幹部職員
 第四段階 課のレベルで、以下の職務につき経験を有するか、またはその能力のある幹部職員(540)
       課の業務目的の作成に関与し、その実現に責任を持つ。
       課題の仕事の開始を決め、計画を立てる。
       諸業務を整理する。
       成果を監督し、分析する。
       この幹部職員は、そのために仕事内容、手段、人事につき決定権を有する。また、他の課との連携に責任を持つ。
 第五段階 課のレベルで、以下の職務を担当する。(650)
       業務目的の作成およびその実現の監督
       課の予算の作成とその管理についての責任
       課のもとに係を組織すること
       この幹部職員は、そのために課の仕事内容、手段、人事につき決定権を有する。また、他の課との調整に責任を持つ。
 第六段階 部のレベルで、以下の職務を担当する。(800)
       全体の方針、予算、目的および構造の作成および決定に関与する。
       部の内外に重要な影響を有する決定
       各課の全体の成果を監督し、予算を管理する。
       各課の仕事の内容、手段、人事につき決定権を有する。

 以上の六つの段階の上に、企業の管理業務全体を遂行する幹部職員として上級幹部職員がいる。この上級幹部職員は、協約の適用を受けず、個別の契約によるとされている。
 この職務分類をみても、幹部職員といっても相当広い範囲の従業員を含むことがわかるであろう。給与係数でみても、第一段階と第六段階では、約2.7倍の開きがあるのである。なお、参考までに幹部職員以外の階層の給与係数を若干紹介しておこう。現場労働者の最上級が190事務職員およびテクニシャンの最上級が325、職長の最上級が335である。
 フランス全体の就業構成のなかでは、1981年の数字で技術者が1.4%、事務系上級幹部職員が3.9%、事務系中級幹部職員が5.5%を占める(この区分は、さきに示した幹部職員の区分と完全には一致しない。なお、テクニシャン3.9%、事務職員17.5%、現場労働者34.8%である。葉山滉「フランスのカードル」神代和欣外編『現代ホワイトカラーの労働問題』日本労働協会194頁)。また、約半数の技術者が集中する製造業での従業員構成比では、技術者は、平均4.5%を占めるという。しかし、技術革新型企業では、技術者比率が30~50%にもなる企業があるという(野原博淳「フランス技術者範疇の社会的創造」日本労働研究雑誌393号28頁)。
 今回の聞き取り調査では、軍需産業であるTHOMSON-CSFでは、50%以上が技術者およびテクニシャンであり、現場労働者は、15%であるとのことであった。同社では、バカロレア取得後2年の高等教育を受けた者をテクニシャンとし、4年の高等教育を受けた者を技術者と位置づけているという。また、テクニシャンは、入社後4年程度で昇給がストップしてしまう仕組みになっているため、その後、勤労意欲が低下するので、テクニシャンを職業教育により技術者としていくという方向がとられているとのことである。ただし、テクニシャンから技術者への壁は相当高いそうである。なお、テクニシャンの賃金は、技術者を100とすると、おおよそ50~60である(野原・前掲論文33頁)。また、IBMフランスでは、幹部職員の比率は、54.2%(総従業員数21,165、1991年)であった。同社では、内部昇進者の比重が小さくないという。技術系現場労働者が最終的に幹部職員としての地位を得ることもあるという。その他、保険業のUAPでも、職業教育に力をいれ、内部昇進者の養成に努めているとのことである。
 (2) 幹部職員の時間管理
 <1> 一般原則
 まず、労働時間に関する規制が幹部職員にどのように適用になるかを明らかにしよう。
 労働法典は、幹部職員という地位に着目した適用除外を有していない。また、例えば、化学産業の全国契約をみると、「本章(労働時間)は、職長および幹部職員を含め、定額制の賃金であるか否かを問わず、すべての職務分類の従業員に適用される」(第7条)としている。このように、労働時間に関する規制は、幹部職員にも全面的に適用されるのが原則であるとされている。しかし、この原則は極めて相対的なものでしかないことに注意を要する。すなわち、この協約第7条は、このあとに続けて次のような規定を有しているのである。
 「一定の従業員、とりわけ幹部従業員(encadrement)の業務の執行条件によって本章に規定される諸措置の適用に問題が生じる場合には、それらの措置の実施についての実際の方法は、とくに、労働時制および労働条件に関して、実質的に諸措置を享受しうることになるように、企業または事業場において、これらの労働者の代表者とともに決定される。」(なお、労働時間の調整についての第2章にも同旨の規定がある〈19条〉)。
 結局のところ、幹部職員への労働時間規制の適用を原則とするといいながらも直接的な適用が困難であるときには、そのことによる不利益にならないように考慮しつつ、別途の方法によることを承認しているのである。この別途の方法には、ある労働時間規制が実質的に適用できないことの代償を幹部職員に付与するということも含まれる。つまり、労働時間規制に関する諸規定の適用については、幹部職員に不利益にならない場合には、幹部職員を別扱いすることができるのである。以下では、幹部職員の超過勤務時間の取扱に絞って、検討することにしたい。
 <2> 幹部職員の超過勤務手当の取り扱い
 超過勤務手当に関する法令は、原則として幹部職員に適用されるにもかかわらず、判例法によると、幹部職員の賃金は、超過勤務手当に該当する額も包括的に含まれている定額制(forfaits)が採用されており、一般的に超過勤務時間にそのつど対応する超過勤務手当が支払われないとされている。しかし、この定額制については、主として上級幹部職員(一応日本の部課長クラスにあたると考えてよい)に適用になる絶対的定額制と一般の幹部職員の場合の相対的定額制とが区別されねばならない。
 イ 相対的定額制―一般の幹部職員の場合
 幹部職員の賃金は、超過勤務手当を含めて賃金を包括的に定める定額制によるのが一般的である。一般の幹部職員の場合、賃金支払明細書に包括的な賃金に対応する労働時間数が記載されている。したがって、具体的な労働時間数を前提とする定額制であることから、これを相対的定額制と呼ぶことができよう。この定額制に関する合意については、判例は早い時期から有効性を認めていた。例えば、1959年2月5日の破毀院判決は(Cass.soc.5 fev.1959.D.1959.p.107.)、第一に、定額制が使用者と労働者との間の合意にもとづくこと、および第二に、このような定額制が労働者に不利であってはならないこと、すなわち、いかなる場合でも、対応する超過勤務時間によって増額する、実労働時間で計算された賃金の最低額を下回ってはならないことを条件に、このような定額制の合意を有効とした。このような判例の態度は今日に至るまで維持されている。この定額制の合意は、明示の合意でなくともよいが、その立証責任は使用者が負う。この定額制の場合、賃金に対応する時間数が定められているので、この時間数を超過すると、超過勤務時間の割増賃金支払いに関する諸規定が適用されることになる(Cass.soc.9 auril 1970.Bull Vn231)。銀行業の全国協約には、業務の例外的な増加に対処する事を目的として、労働監督官の許可を得た超過勤務(割当時間を超える超過勤務時間)を行った幹部職員候補(grades,職務分類上、事務職員と幹部職員の中間に位置づけられている)および幹部職員には超過勤務手当を支払う旨の規定があるのは、その趣旨であろう(第54条第3項)。
 なお、判例によれば、少なくとも使用者の黙示の同意のない勤務時間は、超過勤務手当の対象とならないとされている(Cass.soc.20 mars 1980.Bull Vn297)。これによると、個人的に任意に、通常の勤務時間を超えて勤務する場合、そもそも、超過勤務に該当しないとされる可能性が高い。実際、UIMMでの聞き取りによると、フランスの幹部職員の労働の一般の態様からすると、通常の労働時間制を超えた幹部職員の勤務の多くは、このケースにあてはまるとのことであった。銀行業の全国協約には、「幹部職員候補および幹部職員が、その所属する部署の通常の労働時間制を超えて、個人的にかつ自由になした超過勤務時間は、報酬を受けない」(第54条2項)との規定がみられるのは、以上のことを明文化したものといえよう。
 ロ 絶対的定額制―上級幹部職員の場合
 上級幹部職員の場合は、その職務権限、勤務時間に関する自由裁量性(労働時制からの独立性)、さらにはその報酬額から超過勤務手当の支払いを要求できないとされている。(Cass.soc.8 Janu,1959.Bull IV n33, Cass.soc.12 Juill.1960.Bull IV n778, Cass.soc.13 nov.1974.Bull V n537)上級幹部職員は、時間決めの労務提供をしているというより、具体的な職務を委任されていると考えられており、その職務遂行のために、任意的かつ個人的に行う、通常の労働時制を超えての勤務が恒常化することが多いといわれる。実際、今回の聞き取り調査対象者(全員が上級幹部職員クラス)に会社での実際の勤務時間について質問をしたところ、8時または9時から20時または21時程度までであるとの回答であった(食事休憩を1時間半程度とる)。また、ときには、自宅に仕事をもち帰ることもあるとのことであった。しかし、このような勤務は、使用者の命令による労働(travail commande par I’employeur)とはいえないために、超過勤務手当の対象とならないのである(Cass.soc.19 Juill.1954.Bull.IV.n552)。さらに、上級幹部職員の報酬には、その額の高さから、恒常的な「超過勤務」に対する報酬も含まれていると理解されている。しかし、この報酬は、前述の相対的定額制とは異なり、計算上具体的な超過勤務時間数を前提としているわけではないので、絶対的定額制と呼ぶことができるのである。
 ハ 小括
 最後に幹部職員の超過勤務手当に関する聞き取り調査の結果を紹介しながら、幹部職員の労働時間管理についてまとめておこう。聞き取り調査での筆者の印象では、企業の実務家は、上記のような上級幹部職員と一般の幹部職員とをとくに区別することなく、幹部職員の賃金が定額制であるので幹部職員には超過勤務手当が支払われないと考えているようであった。また、幹部職員の労働時制を超えた勤務が使用者の命令によるか否かという基準は、実務のレベルではあまり問題とされていないようであった。いずれにしても、幹部職員クラスについては、賃金が定額制であるので、さほど厳格な労働時間管理は行っていないというのが平均的な姿といえよう。このような時間管理が普及しているのは、幹部職員の仕事の内容が自由裁量的であり、かつその賃金が一般の労働者に比べ相当高いという条件においてであるといえよう。
 なお、幹部職員には、一般従業員よりも多い有給休暇ないし特別休暇付与されることが多い。例えば、IBMフランスの企業協定は、幹部職員に毎年9日間の特別休日を付与している。この9日間の休日は、3期にわけて(1~3月、4~6月、10~12月)、3日間(もしくは半日を6回ずつ)取得されねばならず、繰越は認められないとされている。このような幹部職員に保障されている休暇が、超過勤務との関連でも一種の代償として機能していることを補足しておこう。
2 外勤職員等の労働時間管理
 ここでの関心は、営業部門の外勤職員および研究・開発業務に従事する労働者の労働時間の管理方法になんらかの特徴があるかということであった。今回の調査によると、これらの労働者についても、幹部職員の場合と同様に、超過勤務手当については、賃金の定額制により処理をしていることが明らかになったといえよう。
 まず、営業部門については、フランスの場合、直傭の労働者だけでなく、V.R.P.と呼ばれる商業代理人契約(L.751条の1以下参照)が多用される。このV.R.P.は、法律により労働法上の労働者に準ずる取扱いを受けることになっているが、労働時間法制に関しては、管理が不可能であることから適用除外されると理解されている。
 この労働時間管理が困難であることは、直傭の外勤労働者についても同様であろうが、労働時間法制が適用除外されるとは考えられず、賃金の定額制の導入により対処しているということである。聞き取り調査によれば、保険業のUAPでは、外勤職員は、歩合給を中心としているので、時間管理は行っていないとのことであった。また、ルノー公団でも、販売部門の時間管理は困難であるということに加えて、顧客の都合にあわせた時間帯で勤務する必要性がしばしば生じているとの指摘があった。ただし、その場合でも、日曜日に勤務することはないという。IBMフランスでは、営業部門の労働者のほとんどは幹部職員であるとのことであった。
 また、現在ではアフターケア・サービス部門が発展しており、技術系労働者であっても、多くの外勤職員がいる。このような技術系の外勤労働者については、IBMフランスでの聞き取り調査では、技術の程度によるが、幹部職員に該当し、定額制によって処理される場合も多いが、非幹部職員については、自己申告制を採用しているとのことであった。
 最後に、研究開発業務についてであるが、技術者(ingenieur)は、当然に幹部職員であり、また、技術者よりも下位にランクされる技術系労働者であるテクニシャン(technicien)についても、幹部職員に準じて、賃金の定額制により処理されていることが多いとのことであった。
V 日曜休日制
 ここでは、1991年5月に公表された日曜休日制を緩和する法律草案(なお、改正は実現していない。同法律草案は、Liaisons sociales, Document n56/91参照、また、翻訳については、海外労働醸成月報1991年8月号38ページ以下にある)を一つの素材としたジャヴィリエ教授の「アンケート」を主たる素材に、日曜休日制をめぐる最近の動きを整理する。
1 日曜休日制緩和の動向をめぐる労働組合、使用者団体および消費者団体の見解
 さて、フランス人にとって、日曜休日制の問題は、単なる労働時間の柔軟化にかかわる問題ではなく、宗教的・文化的な社会問題にかかわるだけに、強い関心の払われるテーマである。ところで、この日曜休日制の改革については、他の諸改革においてみられる、改革の支持者と反対者との間の古典的な分裂(左翼と右翼、労働者と使用者)が存在しないというところに特徴がある。つまり、日曜休日制の緩和による弾力化の支持者は、単に右翼にとどまらず、左翼でもあるということである。さらに、改革は、政府の内部自身において論議の対象となっている。
 以上を前提として、労働組合、使用者団体および消費者団体のこの法律草案についての見解を整理しておこう。
 <1> 労働組合
 諸労働組合全国組織は、この日曜休日制について非常に異なる見解を有している。CGTは日曜休日の原則のあらゆる再検討に原則的に反対している。キリスト教系の労働組合であるCFTCは、部分的に宗教的理由から反対の立場をとっている。また、CGT-FOは、反対の立場をとっているが、日曜営業が例外にとどまることを条件として、立法の一定の柔軟化を受け入れる可能性がある。最後に、CFDTは、聞き取り調査によれば、今回の法律草案について、労働者に代償が確保されることを条件に賛成している。
 <2> 使用者団体
 中小企業の代表者は、デパートの日曜開店にはきわめて慎重な態度をとっている。大型スーパーの全国団体は、日曜営業の年間特例日を現行の4日間から6日間に増やすことを期待している。ただし、立法が極端に複雑になること、法的な不統一が生じること、さらに実効性がない規定によって有害な経済的帰結を招くことについて一致して批判的である。
 <3> 消費者団体
 日曜休日制に関する議論は、消費者団体側ではあまり活発ではない。いくつかの消費者団体は、労働組合の直接的な外郭団体である。このような状況においては、公表される諸見解が前述の諸労働組合中央組織の諸見解にきわめて符合するということが生じる。
 論争はむしろマスコミを媒体に発展している。より正確にいえば、経済界もしくはマスコミでの著名人が、日曜休日制に賛成もしくは反対の立場の論陣をはっている。
2 違法な日曜営業の現状
 一般的には、特定の業種において、日曜労働について違法な実態は存在していない。近年問題となっているのは、むしろ日曜営業の試みである。さらに、とりわけ労働組合のイニシアティブによって、この試みに反対するいくつかの訴訟が提起されるということになっている。
 これは、大規模な流通部門においてみられる動きである。マスコミでは、二つの事件が広い反響を呼んだ。
第一の事件では、スウェーデン系の家具会社IKEAが日曜営業を行い(とりわけパリ近郊の高速道路路線において)、商業的成功を納めた。しかし、この日曜営業は、CGTから強く批判され、アストラント(判決の不履行について、遅延につき1日ごとに一定額の支払を命ずる一種の間接的強制)を得るために、緊急処理手続判事に提訴した。組合は、一審、二審ともに勝訴した。控訴院判決は、破毀院に支持された(cass.soc.14 juin 1989)。
 第二の事件では、とくに、パリ、ボルドー、マルセイユ等のフランスのいくつかの都市に店舗を有するイギリス系のレコード販売専門のチェーン店(VIRGIN MEGASTORE)が、一年を通しての日曜開店を決定したというものである。ここではまた、いくつかの組合が提訴した(とりわけ、CFDTによる民事訴訟および掲示訴訟)。パリでは、緊急処理手続判事は、同チェーン店側に日曜開店ごとに150,000フランを当事者組合(CFDTとCGT)に支払うアストラント付で、シャンゼリゼ通りの店舗を日曜日閉店するように命じた。
3 日曜休日制緩和の動向をめぐって
 <1> 日曜の一斉休日付与の例外拡大の影響
 交替制休日の採用と同様に、日曜労働の普及は、フランスの社会的、文化的、宗教的生活に重大な影響を持っている。その影響は、この数年来のフランス国民の消費様式・習慣における変化をみることで十分であろう。フランス国民は、わずか数十年間のうちに、全くの農村的生活様式から主として都市型の生活・労働条件に移行した。都市近郊の大規模スーパーの発展は、この過程を例証している。小規模商店は、きわめて多くの部門において消滅した。
 <2> 日曜休日の例外に関する知事の権限をめぐって
 知事は例外的に日曜休日の特例を事業所に認めることができる。この権限をめぐっては、その手続が複雑であるとの批判があることは事実である。しかし、この手続の複雑さを緩和するために、労使の関与が確保されている。労使からは、この点で原則的な反対はない。労働組合は、日曜休日制の原則自体が再検討されない範囲では、諸改革について決定的には敵意があるわけではない。組合側は、組合が決定に関与できることには異議のないことであろう。さらに、中小企業側にとっても強い反対がないのは、彼ら、とくに小売商の代表にとっては、デパート、スーパーが日曜営業の自由化の大きな受益者になるとの疑念があるので、国家の介入は、特に非難されるべきものではないのである。
 <3> 法律草案における日曜休日制違反の制裁としての事業場の一時的閉鎖措置の新設
 この事業所閉鎖の制裁は実現すれば重要な意味を持つであろう。急速審理手続裁判官によりアストラント付で命じられる閉鎖は、すでにみたように、法的にも社会的にも大きなインパクトを有する。当該企業は、結局、日曜営業を止めることを決定せざるをえなかった。おそらく、日曜営業の中止を決定するにあたって、このような有罪判決についてなされる報道の影響が、裁判所の決定の不遵守の場合に課せられることになった罰金額の効果よりもいっそう決定的であったであろう。というのは、実際に、罰金は、関係労働者数により乗じられるにもかかわらず、一般的に企業を制裁金を受けないようにするために閉店することに導かないのである。わずか1日で企業が得る利益は刑事的罰金を著しく上回ることが指摘されている。したがって、掲示制裁それ自体が効果があるわけではないのである。
 ただし、事業所の一時的閉鎖という制裁は、雇用について否定的な結果を引き起こすことは避けられないことである。それは、まさに関係企業が制裁に反対するために主張する論拠である。さきに紹介した事件では(特にIKEA事件)、企業は、労働契約(特に期間の定めのある労働契約)を終了させざるをえないことになることを強調していた。さらに、いくつかの新聞は、組合の保守主義、反経済的結果、および組合の戦略の雇用に対する有害な効果から組合の態度に対する批判を伝えていた。これに対し、組合側では、日曜休日が(絶対的)公序に属する原則問題であり、利用者の利益も、一定の雇用の廃止も、さらに一定の採用の停止も援用されるべき問題ではないとしている。
VI 換算労働時間制度(heures d’equivalance)
 換算時間制度は、一種の法定労働時間適用の猶予措置であるが、一般的には漸進的廃止の方向にあると指摘されている。ここでは、主として、ジャヴィリエ教授のアンケートへの回答を中心として、この換算時間制度の現状と今後の動向を紹介する。
 まず、労働組合は、労働時間短縮の一環として換算時間制度の漸進的廃止を要求している。1982年の週法定労働時間の短縮以降、換算時間制度には、法令上、大きな動きがみられた。さらに、団体交渉によって、換算時間制度の短縮または廃止が進められた。理髪業(1982年6月3日の協定)、小売業(1982年2月16日の協定)および管理人業(1982年2月25日の協定)が労働協約により換算時間制度を廃止した例である。
 しかしながら、換算時間制度は、完全に消滅したわけでない。この制度は、保健衛生業(私立療養所、私立産院、無料療養所、サナトリュウムおよび非営利法人たる病院を除く療養施設では、全従業員について41時間55分)、ホテル業(ホテル、カフェ、レストランおよびその場消費される食料品の販売では、調理人については43時間、他の従業員については45時間、夜警については52時間)、または消防業務(消防職員によって44時間51分)のような職業においては、常に実施されており、重要性を失っていない。
 なお、いくつかの協定が、とりわけ最低賃金を定めることによって、換算時間制度の実際の適用範囲を縮小したことを指摘しておくことが必要であろう。ホテル、カフェ、レストランおよび飲料提供店に適用される1988年3月2日に拡張される修正全国協定が、週43時間(月では186時間33分)を基礎として(国の)最低賃金の通率で計算された、調理人については43滞在時間に、非調理人について45滞在時間に、そして夜警については52滞在時間に対応するホテル業単独の最低賃金を規定しているのは、そのような例といえる。このことから、週48時間使用される非調理人労働者は(45滞在時間に対応して)、43実労働時間についておよび3時間の超過勤務時間について報酬を受けることになる。
 なお、労働省での聞き取り調査において、換算時間制度が漸次的に廃止の方向にあることを改めて確認することができた。また、換算時間制度は、例えば警備業では、専門的な企業においては消滅しつつあるが、個別企業の直傭の警備部門の従業員については、利用されていることが多いという指摘があった。
VII 年休日数とその取得システム
 <1> 年休日数
 年休日数は、今回の聞き取り調査では、どの企業も法定の月2.5日(=年30日)を基礎としていた。しかし、この年休日数は、法定休日である日曜を除く勤務可能日(jours ouvrables)について考えられているので、実際の勤務日(jours ouvres)だけでなく、年休期間中の週休二日制のうちの日曜以外の休日については年休を取得したものとして計算される。したがって、企業実務においては、少なくとも1週間単位での付与を前提としているのか、しばしば、年休の基礎日数を25日と計算する。この点は、企業協約等をみるうえで、留意すべきことといえよう。ただし、これは、あくまで計算の便宜上とられる措置であって、分割付与の場合に、結果として年休日数が法定の日数を下回るようなことになってはならない。
 この基礎日数に勤続年数によって年休が加算される。例えば、UAPでは、次のような勤続加算が規定されている。

  勤続  5年 1日
     15年 2日
     25年 3日
     35年 4日

 また、幹部職員は、年休日数につき優遇されているのが通常で、UAPでは、一律3日を加算されているし、IBMフランスでは、この勤続加算について幹部職員と非幹部職員との間に次のような区別がなされている。

     非幹部職員            幹部職員
  勤続10年    1日  30歳未満であるか、または勤続10年以上 1日
    15年    2日  30歳でかつ勤続1年のとき        2日
    20年    3日  35歳でかつ勤続2年のとき        3日
    25年または60歳                     4日

 その他、SAINT-GOBAINでは、一週間の加算が幹部職員に認められていた。なお、UAPでは、幹部職員以外についても、例えば、職長クラスにも年休の職位加算のある場合のあるほか、地下勤務者に対する加算等、労働条件の補償敵な加算もみられる。
 <2> 取得手続きおよび取得状況について
 年休の取得時期は、労働協約によって定められている場合を除いては、使用者が、従業員の希望を聞いたうえで、家族構成、勤続年数を考慮して調整し、決定するのが基本的なパターンである。UIMMの企業協約調査によると、調査対象の約数の協約が有給休暇について取り扱っているという。そのうち、年休の時期についての定めをする協約が量的にどのくらいあるのかは不明であるが、同調査のまとめによると、事業場閉鎖方式の場合には、協約が閉鎖の期日を定め、ローテーション方式によるときは、休暇の時季を協約で定めるとされている。したがって、後者の場合、労働者個人の休暇期間については、使用者が特定していくことになろう。
 聞き取り調査によると、一般的に、夏季に3~4週間とり、残りをクリスマス等に取得するというケースが多いという。なお、工場の閉鎖による年休取得方式は、徐々に減少してきている(THOMSON-CSFでは、閉鎖は夏季ではなく、クリスマス時に行われるということだった)。SAINT-GOBAINでは、夏季の操業は、例えば、修理、点検業務を外注したり、派遣労働者あるいは有期雇用の労働者を利用して行うことが多いという。
 聞き取り調査では、年休の取得に関しては、幹部職員の年休消化について尋ねた。これは、しばしば幹部職員は年休を消化していない傾向があるということが指摘されるからである。この点について、聞き取り調査では、比較的若く、かつ上昇志向の強い幹部職員には、確かにその傾向が指摘しうるとのことであった。ただし、この傾向は、幹部職員一般の慶応とまではなっていないとのことであり、今回の聞き取り対象者は、全般にそのような傾向に批判的であった(例えば、UAP、THOMSON-CSF)。SAINT-GOBAINでは、多くの幹部職員は全部の有給休暇をとっている、このような傾向を批判する向きもあるが、大勢ではないとのことであった。
 もっとも、年休を消化しない幹部職員といっても、完全には消化しないという意味のようで、夏季の長期休暇は、とっているとのことである。THOMSON-CSFでは、幹部職員の平均有給日数が38日であるが、そのうち30日程度の取得が平均とのことである。


第3章 イギリスの労働時間制度の運用実態

1 労働時間の長さと法制の概略
 (1) 労働時間の推移と現状
 イギリスは、世界の先進工業国中でもっとも労働時間の長い国の一つである。EC統計局の資料によれば、1990年のイギリスの製造業生産労働者一人当りの年間労働時間は1,958時間であった。これは、先進工業国主要五ヵ国中、日本の2,124時間に次いで二番目に長いものであり、アメリカ合衆国(1,948時間)とは大差ないものの、フランス(1,683時間)や旧西独(1,598時間)とは、著しい差がある(平成4年版労働白書198頁)。
 もっとも、イギリスにおいては、労働時間の最低基準を定める法律がなく、労働時間の設定をもっぱら労使の自治に任せているため、労働時間には各産業により大きなバラツキがあり、製造業生産労働者一人当りの労働時間が、どの程度、労働者の平均的労働時間を代表できるかは、やや疑問としなければならない。実際、1984年のECの別の資料によれば、製造業の労働者の年間労働時間が1,876時間であるのに対し、建設土木業が1,976時間、保険業が1,675時間となっている。そして、この保険業の労働時間は、EC加盟国平均1,718時間、フランス1,688時間、旧西独1,756時間と比較しても、極めて短いものである((TUC, Review of Working Time in Britain and Western Europe, p.25(1988))。こうした、産業間の労働時間の格差と並んで顕著なのは、マニュアル(肉体労働者)・ノンマニュアル(事務労働者)間の次頁に示されるような労働時間格差であるが、これが産業間の格差の原因の一部を構成していることは容易に推測できるところである。
 注目すべきことに、同じEC統計局の統計資料によれば、1984年のイギリス製造業生産労働者一人当りの年間総労働時間は1,947時間であり、1989年のそれより、42時間短かった。このように、イギリスの労働時間は、少なくとも製造業生産労働者に関するかぎり、必ずしも減少の方向には進んでいなかったのである。では、産業全体ではどうであろうか。イギリスの統計資料(new earnings survey)によって、この点を見てみよう。
 この資料では、年間総労働時間を知ることはできないが、その年度の週単位の総労働時間を知ることができる。これによると、パート・タイマーを含まない男子労働者全体で見てみると、1984年が40.6時間(その内、時間外2.9時間)、1989年が40.7時間(3.0時間)、1990年が40.5時間(2.9時間)となっており、最近3年間をとってみても余り変化は見られない。しかし、対象を男子労働者に限定し、しかもそれをマニュアル(肉体労働者)とノンマニュアル(事務労働者)に分けてみると、各々の週所定労働時間および時間外労働時間は、次のようになっている。
週所定労働時間および時間外労働時間
 所定労働時間についてみる限り、マニュアルの所定労働時間が少し減少してきたことと、ノンマニュアルの所定労働時間が少し増加したこと以外には、大きな動きがないことが分かる。ただ、注目すべきことは、時間外労働者も加えた総労働時間でみると、マニュアルとノンマニュアルの間には、大きな差があることである。1991年には、マニュアルが週総労働時間が44.4時間であるのに対し、ノンマニュアルが38.7時間であり、週当り5.4時間の差がある。しかし、同じくマニュアルといっても、業種によって、時間外労働の長さには大きな差がある。ちなみに、もっとも長い時間外労働をしている業種は、刑務所職員(週19.3時間)、鉄道駅職員(週16.4時間)、重量貨物車両運転手(14.0時間)、クレーン操縦士(14.0時間)となっている(IRS Employment Trends, No.433, p.2)。
 更に注意しなければならないことは、これらのニュー・アーニングス・サーベーに現れた数字は、賃金計算の関係で数えられた数字であるから、もし、労働が時間外手当の対象となっていない被用者がいるとすれば、その者の時間外労働時間はその数字に表れていないことになるはずである。実際、後にみるように、ノンマニュアルの中にはそうした者がかなり存在するようである。
 (2) 労働時間法制の概略
 イギリスにおいては、年次有給休暇制度に関するものを含め、労働時間についての法令上の規制はほとんど存在しないに等しい状態である。
 そもそも、イギリスにおいては、従来から成人男子に関しては、炭鉱業、板硝子工業、運輸業、小売業など限られた業種の労働時間や休日規制を規制する個別の法令が存するだけで、労働時間の一般的法規制は、労働者として交渉力の弱い女子および年少者(18歳未満)のみに向けられてきたといってよい。成人男子の労働時間の決定は、他の労働条件と同様に、労使の自由な団体交渉に委ねるのが妥当と考えられてきたものと思われる。もっとも、労働組合が未発達で任意的な団体交渉が期待できない産業に関しては、一連の賃金審議会法に基づき、賃金命令を発して、労働時間と年次有給休暇をも規制する権限を有する賃金審議会を設けることができるとしてきた。
 そうした成人男子に比べ、法律は、女子および年少者の労働時間の規制に積極的に関与してきた。工場で働く女子および年少者に関しては、工場法と称される一連の法律が労働時間、休憩、休日などを刑罰等のサンクションをもって規制してきた。また、小売業に店員として働く労働者(成人男子を含む)には、労働時間、休憩、休日を規制する商店法が存在するが、これには女子および年少者に関する特別の保護規定が定められていたのである。
 しかし、工場法および商店法に定められていたこれらの保護規定は、サッチャー政権下で撤廃されてしまった。すなわち、女子に関する諸規定は1986年性差別禁止法で、年少者に関する諸規定は1989年雇用法で、それぞれ廃止されたのである。その公式な理由とするところは、男女の雇用機会の平等および女子・年少者の雇用機会の促進のためというものであった。
 さらに、1986年には、賃金法が制定され、従来の賃金審議会の権限を大幅に縮小した。その理由は、賃金審議会が自由な労働移転を妨げ、多くの労働者の失業を創り出しているというものであった。この結果、賃金審議会は、従来のように年次有給休暇を規制する権限を失ったばかりではなく、21歳未満の労働者(約50万人)をその規制の範囲から外されてしまったのである。
 こうした労働時間の法的規制緩和政策の結果、今日では、労働時間の法規制は、児童(15歳ないし16歳未満)に関するものを除き、ほとんどなくなったといってよいであろう。このため、労働組合が強力な産業では、労働組合と使用者の労働協約で労働時間、休憩、休日、年次有給休暇等が決定されるが、交渉力を有する組合がないところでは、使用者が一方的にそれらを決定しているとみなければならない。
 (3) 労働時間をめぐる最近の動き
 最近のイギリスにおける労働時間短縮に向けた動きは、1979年以降、イギリス労働組合会議(Trade Union Congress)の労働時間削減キャンペーンから始まったといってよい。それは、余暇を増やし、失業を減らすという二重の目的を有するものであったといわれる。キャンペーンの内容は、週35時間制・時間外労働の削減、年間6週(30日)の年次有給休暇・十分な年金支給を前提とする60歳定年制であった。その後1982年までには、多くの企業が週40時間制から39時間制に動き、年休も労働者の過半数が22日以上与えられるようになった(R.Thomas,‘Working Time in the UK: The Current Position and Future Prospect’ in ILR Bulletin 22 edited by R.Blanpain, p.121, at p.128; ACAS, IRIS Information Paper No.16, pp.3 and 35)。
 イギリス産業連盟(Confederation of British Industry)は、生産性向上、能率促進、労働コスト削減によりイギリスの国際競争力を維持・向上させなければならず、それらを無視した労働時間の短縮は、結局、国際競争力を低下させ、雇用状態の悪化をもたらすとして反対した。
 その後、労働時間の短縮は、必ずしも大きな進展をみなかったが、以前から労働時間の短縮に積極的に取り組んできた造船機械労連(CSEU)は、1989年4月に機械工業主連盟(EEF)との時短交渉決裂後、特定企業をターゲットにした35時間制へ向けて選択的ストライキを行うというキャンペーンを展開して、時短のデッドロックを乗り越える戦法にでた。
 このキャンペーンは、3段階に分けてストライキを行うというものであり、第一段階は、NEIグループ(Smiths Industries, Rolls-Royce, British Aerospace)の主要工場でスト投票が行われ、スト突入直前に週37時間制の合意がなされた。1990年に入ると4月にワイヤー・グループ(Lucas Automotive, Lucas Aerospace, GKN)でスト投票が発表された後、スト開始前後に週37時間制の合意がなされた。CSEUは、イギリス国内の景気悪化のもとで、1990年11月、1,200以上の工場で37時間以下の協約が締結されたとしてスト資金を残しながらキャンペーンを中止した。Industrial Relations Service(イギリスの労働関係情報誌)の編集員らは、機械産業では、不況時にはレイ・オフを用いるので不況時の労働時間短縮要求は無理であるとしている。
 なお、CSEUのスト・キャンペーン開始直後、EEFは労働時間および年休に関する全国交渉の廃止を通告し、それ以降CSEUとEEFとの間には、労働時間および年休に関する全国協定は締結されていない。EEFは、企業別の交渉の方が費用効果の面で優れているとしている。
 以上の機械産業の時短は、ほとんどの場合、時短に伴う費用削減に対する組合側の譲歩を得ながら、一気に行うのではなく、3年ないし4年の段階的なかたちで行う旨の労働協約によって遂行されている。その費用削減方法は、時間外労働は割増率の高い土日を避けて行うこと、休憩時間は生産効率を落とさないで取るようにすること、休憩時間を削減または廃止することに同意すること、ベル・ツー・ベルで労働するようにすること、派遣労働者を受け入れること、配置転換をより自由にすること、などさまざまである(IRS Employment Trends, No.477)。
 その後のごく最近の動きとしては、British Nuclear Fuelが1992年3月より、現在の週37時間制から35時間制へ移行することで合意したこと、地方自治体のマニュアル労働者を37時間としてノン・マニュアルと同じ長さの労働時間にすることが合意されたこと、などが特筆される(IDS Study, No.493)。
 (4) イギリスにおける現地調査の実施および入手した資料
 以上のような大まかな労働時間法制および労働時間の状況を前提として、各産業および各企業において労働時間がどのように管理され、運用されているのかを調べる目的で、1992年3月上旬から約1週間半にわたりロンドン、マンチェスターを中心とした現地調査をおこなった。面接を承諾してくれたのは、TUCを含め組合関係者6名、企業関係者10名、助言斡旋仲裁局係官1名、労使関係雑誌編集員2名である。その企業、組合、担当者名、および聞き取り調査の内容も本報告書資料編として添付する。ただし、テープ・レコーダーに録音しなかったもの、および、余り役立なかったのは省略した。
 助言斡旋局係官および労使関係雑誌編集員に関しては、当初より、イギリス労働時間の動向を聞く予定であった。組合関係者は、組合本部のオフィサー、しかも4名がリサーチ・オフィサーであったこともあり、ほとんど具体的な話を聞くことはできなかった。本報告書で用いる具体的な情報の多くは、企業関係者から得たものである。その中には、企業関係者に対して行った聞き取り調査の回答、その際に提供された資料および言及された雑誌記事等が含まれている。もっとも、これらに加え、他の機会に入手した労働協約なども使用している。
 ところで、筆者の現地調査は、必ずしも本報告書のとりまとめの柱とされている項目を中心に行われたものではないため、本報告書の構成としては、まず、調査で得られた情報中、とりまとめの柱に入らない部分に触れつつ現地調査で得たイギリス労働時間の印象について記述し、次いで、ホワイトカラーの労働時間、労働時間の弾力化、年次有給休暇取得システム、中小零細サービス業の労働時間の順で記述を進めることとする。
 なお、本報告書の作成にあたっては、資料(IDS Study Nos.486,493 and 496)の入手および調査対象企業の紹介の両面において、在英大使館の松井一實氏から多くのご助力を受けたことを記しておきたい。
2 労働時間の全体的印象
 (1) 労働時間管理が厳格化しつつある
 時間管理の方法としては、一般に、マニュアルについては、タイム・カードにより、ノンマニュアルについては面着制または自己申告制がとられているようである。ただ、調査した企業の中には、時間管理の厳格化のため、面着制からタイム・カードへの切り替えを決定または検討中のものがあった(Manchester AirportおよびSelfridges)。また、調査した企業の中には、着替え時間(General ElectricおよびSelfridges)や洗面時間(Kellog)を労働時間(イギリスでは、法定労働時間がないので、賃金計算にのみ関係する)に含める取扱をしていた。協約上は定められていないが、機械工については、着替え時間や洗面時間を労働時間に含める慣行があったようである。しかし、最近では、機械工組合の時短要求との関係で、その廃止や短縮が行われているといわれている。さらに、従来ルーズに行われてきた労働時間を公式の始業時には、必ず担当の機械、仕事台または机に向い、公式の終業時までそこに留まらなければならないことを周知徹底する企業が増えてきたといわれる(IRS Empoyment Trends, No.464, p.6)。しかし、今までの管理が余りにずさんだったのではないかとの印象を持たざるを得ない。
 (2) 労働時間の弾力化と多様な組合せが進んでいる
 以上のように労働時間管理が厳格化する一方で、労働時間の弾力化が進んでいるようである。弾力化の内容としては、フレクシタイム(flexitime)、タイム・オフ(代償休日ないし代償離脱時間)、および(3)に掲げる年単位労働時間制などが上げられる。ちなみに雇用省の資料によれば、公式な形でフレクシタイムが適用されている者は被用者全体の9%であるとされるが、非公式な取り決めにより時間管理が柔軟に行われている企業が多いことは後述する(後掲3の(3)参照)。また、24時間操業のためのいろいろな形の交替制労働が導入されている。とくに5組編成のものが増えてきている(後掲4参照)。また、デパートのように顧客の多い時間帯にシフトが重なるような変則的シフトを組むところも多い(筆者が現地調査したSelfridgesの場合参照)。
 (3) 所定労働時間が月または年単位に移る傾向がある
 イギリスでは、従来から労働時間は、一般に、週単位で定められてきた。したがって、所定労働時間とは、協約ないし契約で定める一周の労働時間を意味する。これを一般に、スタンダード・ワーキング・ウイークと呼んでいる。所定労働時間は、同じ企業においても、通常、マニュアルとノンマニュアルとで異なる。例えば、調査対象とした企業でいえば、General Electricでは、マニュアルが39時間、ノンマニュアルが37時間であり、Manchester Airportでは、マニュアルが38時間、ノンマニュアルが35時間であった。しかし、最近では、所定労働時間を月あるいは年単位にする企業が増えている。雇用省の調査によれば、約6%の被用者が年単位労働時間制(annualized working hours system)に基づいて労働しているといわれる(Employment Gazette, March 1992, p.93)。こうした所定労働時間の単位の拡大は、時間外労働の削減にその主な目的があることが多い(後掲4参照)。
 (4) 有給の休憩時間と休憩時間カバーのためのパートタイマーの使用
 調査対象企業のほとんどにおいて、マニュアルのランチ・ブレークは45分から30分であり、ティー・ブレークは午前と午後に10分から15分与えられることになっていた。しかし、これらの企業の中でも、ノンマニュアルには、ティー・ブレークを与えていないものが多かった。いつでもティー・ブレークが取れるからというものである。反対に、ノンマニュアルのランチ・ブレークは長く、45分ないし1時間のものが多い。また、マニュアルでも、Selfridgesの場合には、百貨店の立ちきりの店員のこともあり1時間とされている。また、ティー・ブレークは、有給とするものが多かった。最近の組合の時短要求に応じた使用者は、ティー・ブレークの廃止ないし短縮、あるいは被用者に交互にランチ・ブレークを取らせることで作業の中断をなくすように求める例が多いとされる(IRS Employment Trends, No.464))。しかし、サービス業の分野では、休憩時間中のカバー要員として、パート・タイマーを使用しているところが多い(Selfridgeおよび多くの金融業)。
 (5) 時間外労働は任意的とする企業が多い
 契約上、時間外労働が義務づけられている場合もあるが、調査対象企業の中には、時間外労働は任意的であるとする企業が多かった。年単位労働時間制を導入して、時間外労働をなくしてしまったBritish Gypsumは、従来時間外労働は任意であったとしている。Kellogは、任意的でも、やりたい労働者はいっぱいいると回答した。さらに、Copthorne Hotelは、時間外労働拒否に制裁など有り得ないと述べた。
 しかし、注意しなければならないのは、任意的とはいっても、時間外労働を行うときには、マネジャーまたは職場監督(supervisor)が前もってその時間外を許可しなければ、時間外手当をもられる時間外労働とはならないという点である。Manchester Airportは、マネジャーの時間外労働に対するコントロールがなければ、時間外労働が増えて大変だと述べた。面接した組合の関係者は、イギリスでは、賃金が低いので労働者は時間外労働をしたがるのだと述べている。ところで、時間外労働にはマネジャーの公式の許可が必要とすると、マネジャーの許可なくして労働しても手当はもらえず、一種のサービス残業ということになる。しかし、そのようなことはあるのかとの質問に対して、IRSの編集員らは、イギリスのメンタリティーからしてそのようなことは考えられないと回答した。
 もう一つの問題は、時間外労働が任意的であるということの法的効果に関してである。地方自治体に雇われるバスの運転手が残業を拒否して解雇され不正解雇の申立をした事件において、雇用控訴審判所は、その被用者が雇用契約上残業義務がなかったとしても、その残業に対する非協力が使用者の業務を阻害したので解雇は公正であると判示している(Horrigan v. London Borough of Lewisham[1978]ICR 15)。
 (6) 時間外手当は時間帯や曜日で異なる
 時間外手当を得るためには、マネジャーの許可の他に、一定の長さ以上の時間外労働をしたことが要件とされる。通常、15分ないし30分の時間外労働しなければならない。もっとも、1時間ないし2時間の最低時間外労働時間を要求する企業や全くそうした要件を課さない企業もある。IRSの調査した30社中、1時間を超えるものが5社、そのうち1社は2時間、もう1社は2時間半の最低時間外労働を要件としていた(IRS Employment Trends, pp.12-4)。また、通常、時間外手当を得ることのできる被用者は、一定の賃金レベルないし職級(grade)以下のものとされている。少なくとも最近は、ミドル・マネジャー以上のものは、多くの場合、時間外手当の支給対象から除外される例が多いようである。この点は、後に詳述する。
 時間外手当の算定の基礎としては、通常の賃金計算の基礎額が用いられるのが一般的である。一般に、ウイーク・デーの時間外労働は、通常の時間当り賃金の1.5倍、土曜日の午後と日曜日は2倍という例が多いようである。しかし、調査対象とした、General Electricでは、ウイーク・デーは1.25倍、土曜日は1.5倍、日曜日は1.75倍となっていた。産業または企業により様々で、マニュアルとノン・マニュアルとで異なるところもあるといわれる(IDS Study, No.496, pp.1-2)。IRSの調査では、30社中3社でそうした例が確認されている。最近増えてきているものとしては、ウイーク・デーの初めの2時間は、1と1/3倍であるが、その後は1と2/3倍となるとするように、一定時間後に割増し率を上げる例がある。IRSの調査では、30社中9社でそのように取り決められていた。また、僅かな数社ではあるが、土日の労働に対しては、割増手当の代わりに補償休日(time-off in lieu)ないし割増手当プラス補償休日を与える旨定めるものがある(IRS Employment Trends, pp.12-4)。
 (7) パブリック・ホリデーの労働に対する割増手当は高率である
 イギリスでは、有給休暇の他に、1971年銀行金融取引法の付則1に定められている6つのバンク・ホリデーと、それ以外の2つの慣行的休暇日からなる計8つのパブリック・ホリデーがある。具体的には、1月1日(ニューイヤーズデー)、イースターマンデー(イースターの翌日)、5月の最初の月曜日、8月の最後の月曜日及び12月26日(ボクシングデー)がバンク・ホリデーであり、グッドフライデー(イースターの前の金曜日)とクリスマスデーが慣行的休暇日である。ほとんどの企業は、これらの日を有給の休暇日としているようである。また、これらの日に労働させる場合には、通常の土日に労働させるのと同様の高率の割増手当を支払うとするものが多い。例えば、建設土木産業の全国協定では、パブリック・ホリデーの全てにつき通常の賃金の2倍とし、また、British Nuclear Fuelでは、パブリック・ホリデーを3種類に分けそれぞれの種類の日の労働にたいして3倍、2倍、1.5倍の割増手当の支払いと補償休暇(time-off in lieu)を与えるよう義務づけている。BNFのように、割増し手当プラス補償休暇という取扱は、ごく一般的なものであるようで、IRSの調査でも、30社中23社においてその取り扱いの存在が確認されている(IRS Employment Trends, No.468, pp.12-4)。
 (8) 年次有給休暇はほぼ完全消化
 イギリス産業連盟(CBI)が1987年に従業員50名以下の企業をも対象に含めて行った調査によれば、パブリックホリデーと年次有給休暇を合計した総日数は、40%の企業において33日、その他の企業はごく少数の例外を除き28日から32日であった。要するに、年次有給休暇は、40%の企業で25日、その他の企業で20日から24日ということになる。一般に、製造業の方がサービス業より休暇日数が多く、またノンマニュアルの方がマニュアルよりも休暇日数が多いといわれる。筆者の調査対象とした企業においても、ほぼこの状況は確認された。また、半数以上の企業で、少なくとも一定の職級以上の者には、その勤続期間に応じた附加的休暇日数を与えている。ただし、その附加的休暇日数の上限が5日を超える例はほとんどないとされる(CBI, A Survey of Holiday Arrangements in British Business(1988), p.9)。
 年次有給休暇付与の要件として、わが国の労基法39条で定める1年間というような長期の継続勤務を要件としない企業が多い。すなわち、多くの協約では、当該年度の勤続が1年未満の新入社員に対しても、その勤続期間に比例し、または、ほぼ比例したかたちで、当該年度における休暇日数が定められている。
 通常の資料では知り得ない重要事項としては、イギリスの被用者は、契約上取ることのできる年次有給休暇をほぼ完全に消化しているということである。シニア・マネジャーの場合を除いて、被用者は、その年次有給休暇を完全に消化しているということが、調査中に聞き取りに応じた企業・組合関係者の一致した回答であった。
3 ホワイトカラーの労働時間
 (1) ノンマニュアルとホワイトカラー
 まず最初に、ホワイトカラーの意味について触れておく必要がある。本報告書では、ブルーカラー、ホワイトカラーという用語ではなく、マニュアル、ノンマニュアルという用語を用いてきた。イギリスでは、最近の多くの資料において、後者の用語を用いており、また、ホワイトカラーという用語を用いるときは、ホワイトカラーをクラリカル(書記、秘書、受付係、タイピスト、倉庫係、出納係、電話交換)と区別することがある。ここは、一応、事務的仕事をするものとしてのノンマニュアル全体を考察対象とし、ホワイトカラーをクラリカル(単純作業的事務職)から区別される知的事務職と考えておくことにする。
 (2) ノンマニュアルの労働時間、休憩、休暇
 一般に、ノンマニュアルの労働時間は、マニュアルよりもかなり短い。1991年のイギリスの統計によれば、マニュアルの場合、男子44.4時間(所定39.1時間、時間外5.3時間)、女子39.7時間(所定38.1時間、時間外1.6時間)であるのに対し、ノンマニュアルの場合は、男子38.7時間(所定37.3時間、時間外1.4時間)、女子36.8時間(所定36.2時間、時間外0.6時間)となっている。実労働時間で男子において5.7時間、女子において2.9時間ほど短い。なお、すでに指摘したように、ノンマニュアルの時間外労働の実態については注意が必要である。詳細は、(4)で述べる。
 休憩については、前述したように、ノンマニュアルの方がマニュアルより昼食休憩時間が長いが、ノンマニュアルには多くの場合、お茶のための休憩時間は与えられていない。仕事中、いつでもお茶を飲むことができるからだとされる。事務職の場合は、流れ作業に従事する多くのマニュアルの場合と異なり、仕事の合間に事実上適宜休憩しても直接仕事に差し支えないからであろう。コンピューターのソフトとハードの両方の企画研究開発を行っているというICLのマンチェスター郊外の工場では、清掃夫を除いてはお茶のための休憩時間はないと話していた。
 年次有給休暇については、CBIの調査が、一般に、ノンマニュアルの方がマニュアルより日数が長いことを明らかにしていることはすでに述べたが、これをさらにマニュアル、クラリカル、ホワイトカラーの3つに分けてみてみると、次のようになっている。まず、製造業では、25日以上の企業は、マニュアルの62.0%、クラリカルの63.3%、ホワイトカラーの64.9%となっている。また、サービス業では、25日以上の企業は、マニュアルの13.5%、クラリカルの16.1%、ホワイトカラーの22.7%となっている(CBI, op.cit., pp.10-1)。
 (3) ノンマニュアルの時間管理
 ノンマニュアルの労働時間の管理はどうなっているであろうか。すでに述べたように、多くの企業は、ノンマニュアルの時間管理を面着制ないし集金簿記帳制などで行っている。もっとも、筆者の調査した、General Electricでは、ノンマニュアルでもタイム・カードに打刻するよう義務づけられている。しかし、実際の仕事の開始は、10分から15分過ぎてからであるとのことであった。GEの人事係員(マネジャーではなく、主任レベルの者と思われる)は、他の周辺の製造業の多くは、出勤簿に署名するとか、それさえもないというのが多く、出退勤は信頼関係で処理されていると述べた。その意味で、GEは、ずっと遅れているのだと述べた。ちなみに、GEのノンマニュアルには、時差出勤制が取られていた。
 ところで、雇用省の調査によれば、一日を超える一定の期間で労働時間を定め、労働者は一日の労働時間の長さを自由にすることができ、決められた時間より多く労働した場合は次の期間にその超過勤務時間を補償するための休日(フレキシーリーブ)を取れるという取り決めという意味でのフレキシタイム(flexitime)は、1990年において、被用者全体の9%に適用されているという。この定義からすると、定められた期間において、決められた労働時間より多く労働した者が補償休日ではなく時間外手当を選択的に請求できる取り決めも含むということになると思われる。もしそうでないとすれば、この取り決めの適用対象者は、すべて時間外手当受給権を有しない被用者であるということになる。このフレキシタイムが多く適用されている職種としては、技術研究職員(25%の者に適用されている)、クラリカル(23%)、専門的管理職(20%)などのノンマニュアルが多いがマニュアルでも比較的多いもの(塗装・組立・建設・鉱山等の労働者は8%)がある。産業別でもっとも多く適用されているのは、金融業で、その被用者の16%に適用されているということである(A.Wareing, Working Arrangements and Patterns of Working Hours in Britain, Employment Gazette, March 1992, p.88, at pp.91-2)。銀行保険金融労働組合の研究員によれば、銀行の支店の接客部門では、開店・閉店時間が決まっているのでフレキシタイムが行えないとのことである。
 雇用省の調査は、以上のようなフレキシタイムが公式な形で行われていない場合でも、非公式な形で行われていたり、あるいは始業時間ないし終業時間が必ずしも厳格ではない場合が相当多いとしている。雇用省の「始業時間および終業時間はフレキシブルか」との質問に対し、21%の被用者がそうであると回答したという。とくに、専門職的被用者については、その50%にも達している。それがどのレベルのノンマニュアルを指すのかが必ずしも明らかではないが、熟練的ノンマニュアルの28%、中間的ノンマニュアルの38%がフレキシブルであると回答している(Ibid., at 96)。フレキシブルになってというが、それがどのような形態でなのか、またどのような理由でなのかは、必ずしも明らかにされていない。筆者が現地調査で訪問したManchester Airportの賃金担当マネジャーは、フレキシタイム制はとっていないが、職員の早朝の申し出により勤務時間を柔軟にしていると述べていた。ノンマニュアルについては、そうしたかたちで各事務部門でマネジャーの実際の取扱を通じて柔軟な時間管理が行われている場合が多いようである。前日に少し長く仕事したので、今日はその分遅く出社してもよいというような取扱はクラリカルその他のノンマニュアルに関して、きわめて一般的であるようである。
 (4) ノンマニュアルの時間外労働
 すでに述べたように、時間外手当の受給資格者は一定の職級以下の被用者あるいは一定の賃金レベル以下の者に限られるとするのが一般的であるようである。ただ、その職級、賃金レベルは産業および企業によりまちまちのようである。IDSの調査によると、ある会社では年額9,823ポンドのクラリカル以上のもの、またある会社では年額27,105ポンドのスタッフ以上の者は時間外手当を得る資格がないとされている。そして、会社によっては、ノンマニュアル全員を除外するとするもの、管理職全員を除外するもの、中間管理職あるいは上級管理職以上を除外するものなどさまざまである。また、時間外手当を得ることのできないノンマニュアルまたは一定層以上のノンマニュアルにはその時間外労働時間に見合った補償休日ないし補償離脱時間(time-off)を与える旨明らかにしている企業もある。
 また、ニュー・アーニングス・サーベーの週当り賃金・労働時間の表によれば、各種マネジャー・監督職者のグループ(managers and administors)の時間外労働時間は週0.8時間であり、クラリカル(clerical and secretarial occupations)の2.4時間と比べてきわめて短い。このこと自体、これらの管理職が、きわめて多くの場合、時間外手当制度の適用対象から外されていることを推定させる証拠とみることができる。実際、1981年にマネジャーに関して大規模に行われた調査研究によると、40%以上のマネジャーが週50時間以上労働していたという(P.Blyton et at., Time Work and Organization, pp.136(Routledge 1989))。
 ちなみに、筆者が現地調査で訪問した企業の人事のマネジャー(中間ないし上級管理職)は、いずれも、「通常の勤務時間よりずっと長く働いている」(Manchester Airport)、「1日平均10時間ぐらい働いている」(Selfridges)、「朝7時30分から午後6時30分ぐらいまで働いている」(Kellog)等と述べた。ニュー・アーニングス・サーベーの人事・訓練・労使関係マネジャーの週当り時間外労働は0.2時間とされているのである。実際の時間外労働は統計に現れていないことは明らかである。
 それでは、具体的にマネジャー・レベルの役職者は、被用者中どのくらいの割合を占めるのであろうか。筆者は現地調査で聞き取りした企業についてみると、次のようになっていた(全て概数)。
  Manchester Airportの場合
    被用者総数2,000名中、ミドルマネジメント100名、トップ及びシニア・マネジメント20名。(6%)
  Kellogのマンチェスター近郊の工場の場合
    被用者総数1,300名中、マネジメント40名、シニア及びエクゼキュティブ12名、ダイレクター10名。(4.8%)
  British Steelの場合
    被用者総数54,000名中、職員(staff、foreman、supervisor、clerk、secretary、nurse、technician、etc.)18,000名、ミドル・マネジメント6,500名、マネジメント1,000名、シニア・マネジメント370名。(14.6%)
 これらの数字は、工場部門だけのKellog、飛行場の荷物係、警備員、駐車係などまで含むManchester Airport、生産要員の削減を急速に推し進めてきたBritish Steel(具体的には、1980年の時点では、被用者総数は、16万人を超えていた)というように、必ずしも、マネジメントに入る被用者の割合を的確に表すものとは言いにくく、企業によっていろいろで一般化しにくいことは明かである。
 前掲IDSの調査によれば、賃金年額を基準に時間外手当制度の適用を決定している企業は、調査対象企業29社中13社であるが、その基準からみてノンマニュアルの相当低い職級の者まで含んでいる場合があることを物語っている。のみならず、マニュアルまでも除外対象としている企業があることはやや驚かされるところである。しかしながら、それらの企業の取扱がどれだけ一般的かは、必ずしも明らかではない。そして、少なくとも加給管理者(supervior, assistant manager, etc.)以下の者を時間外手当支給対象から外す取扱は、比較的最近の傾向であると思われる。例えば、IRSの最近の記事は、「管理職の時間外制度からの適用排除は、われわれの調査では、数社においてはごく最近確立された取扱である」と述べて、4つの銀行と1つのテレビ局の例を上げている。これらの会社では、過去の時間外手当の実績をふまえて、その分を給与に繁栄させることにしたとされている。
 銀行について付言しておくと、筆者が現地調査で訪問したBIFU(銀行保険金融労働組合)の研究員は、どのレベルのマネジャーまで時間外手当が支払われるかはその銀行により、ミドル・マネジメントかシニア・マネジメントかというところだが、通常、支店のバンク・マネジャー(支店長)は、時間外手当を支払われる。本店では、もちろん、トップ・レベル、例えば、ボード・メンバー等は格別だが、かなりのマネジャーまで時間外手当が支払われる、と述べた。しかし、最近では、銀行はむしろ例外的なのかも知れない。
 ところで、わが国の場合に照らして、見ておく必要があると思われるものとして、研究開発部門に勤務する職員とセールスに従事する従業員の労働時間の問題がある。まず、研究開発に従事する職員についてであるが、これらの職員については、すでにみたように、雇用者の調査が約25%の者にフレキシタイムが適用されていることを明かにしている。また、非公式な形で労働時間をフレキシブルにしている場合の多いことを知った。筆者は、現地調査中、マンチェスター郊外のICLという会社のコンピュータ開発を行っている事業場を訪問し、その時間管理につき質問した。参考になる点があるので以下に紹介する。ここのスタッフは、ほとんど研究開発に従事しており、会社は、ホワイト・カラーの組合を承認しているが組織率は余り高くない。人事マネジャーは、労働時間につき次のように述べた。
 「所定労働時間は、週37時間であるが、それを超えていろいろなかたちで仕事をすることがある。ここでは、他の職場で行われているようなフレキシ・アワーは採用されていない。当社の労働時間に関する方針は、職務上の成果に対して報酬を支払うという方向に移行してきた。したがって、働いた時間に対して報酬を支払うという考え方はしない。それは職員が37時間を超えて労働することがあることを意味する。わが社は、弾力的取扱を行っていて、あるとき相当の長時間労働をしたときは、他のときにタイムオフ(補償離脱時間と訳すべきかと思われる)を与えている。もっとも、職員は37時間を超えて労働することは少ない。…しかし、時間外労働が全くないわけではなく、ある仕事の完成に通常明らかに必要とされるような時間外労働に対しては、時間外割増手当を支払っている。しかし、どのような時間外労働もマネジャーの事前の同意を必要とする。マネジャーは、時間外労働を管理する必要がある。それは、財政の維持と非能率な労働のチェックから当然のことである。ミドル・マネジメント以上の職員には時間外手当はない。そうした職員は、週40時間以上は働いている。しかし、労働時間は、下級職員よりずっと融通がきく。…ここでは、通常は、連続シフトというようなものはないが、ある装置を継続的に試験することがある、そのような場合には時間外労働が生じないようにシフトを組む」。
 要するに、ICLのこの事業場では、時間外は、通常は、タイムオフで対処し、特定の仕事の完成のため長い時間外労働が明かに必要とされる場合はマネジャーの事前承認を要件として、時間外手当を支払っているというのである。おそらく、研究開発部門では、仕事の性格上、こうした取扱が他の企業でも見られるものと思われる。
 次に、セールスマンについてであるが、前掲IDSの調査によれば、セールスに従事する被用者を時間外手当の対象から除外していることを明らかにしたのはBritish Telecomm1社である。しかし、筆者が現地調査中、偶然に会ったある電機会社の自称サービス・エンジニアは、同社の他のノンマニュアルと同様に所定集37時間で働き、旅費、宿泊費などは特別に支払われるが、時間外手当の支給は受けていないとのことであった。ただ、成果によりコミッションを得ることができるとのことであった。しかし、ニュー・アーニングス・サーベーの販売の覧を見ると、技術・卸売販売員の時間外労働は週当り0.3時間とされるが、巡回・市場・訪問販売員の場合は4.6時間とされる。おそらく、専門的技術・知識を必要とするサービス・エンジニアのような場合は、時間外手当の対象から外されていることが多く、単純な訪問販売のセールスマンのような場合はマニュアルの一種として時間外手当の対象となっているものと推定される。
 最後に、筆者が調査対象とした、テレビ放送局の時間外手当について触れておきたい。イギリスの民放テレビ局では、ジャーナリストも他のノンマニュアルと同様に時間外労働に対しては、タイムオフまたは時間外手当が支払われるということである。そして、ジャーナリストの場合、モニターが難しいので、全く本人の自己申告を信頼するしかなく、多くの時間外手当を得ていたジャーナリストもいたとのことである。ただし、最近は、各社は所定労働時間単位を月や年単位として時間外労働の発生する場合を少なくするよう努力している(この点については、資料編のindependent TV associationの聞き取り調査記録を参照)。
4 労働時間の弾力化
 (1) 弾力化の概要
 イギリスにおいて労働時間の弾力化という場合、フレキシタイム、非公式の始業・終業時間の柔軟な取扱などのほかに、所定労働時間を月や年単位で定める方法が用いられている。前記の雇用省の調査でも、年単位労働時間制が適用されている被用者は、すでに被用者全体の6%、フルタイム被用者の7%に達しているとされている。そして、年単位労働時間制は製造業の連続操業体制下で働く交替制労働者に典型的に見られてきたが、雇用省の調査では、サービス部門の被用者で年単位労働時間制の適用を受けている者の割合は、製造業・建設業の被用者の場合と同じであることが明らかにされた。また、年単位労働時間制の適用を受ける被用者の割合は、交替制労働者において高いものの、交替制労働者に特異なものという程高い割合ではないとされる。さらに、年単位労働時間制の適用を受けている被用者の割合は、職場の規模により異なるものの、それほど大きな差は認められない。すなわち、従業員25名以下の職場では5%、25-500名の職場では6%、500名を超える職場では7%となっている(A.Wareing, Working Arrangements and Patterns of Working Hours in Britain, Employment Gazette, March 1992, p.88, at pp.92-3)。こうした年単位労働時間制が最初に導入されたのは1956年であるが、その適用が広がってきたのは1970年代の後半からであるといわれる(IDS Study, No.486, p.1)。年単位労働時間制は、現在もその適用範囲を拡大しつつあり、まさにイギリスの労働時間の弾力化の今日的シンボルというべきものと思われるので、ここではこの年単位労働時間制について少し詳しく論じておきたい。
 イギリスの年単位労働時間制とは、要するに、労働者の所定労働時間を一日または週単位で決めず、年単位で定める制度である。イギリスの企業で採られている年単位労働時間制の典型的な例は、週平均39時間を前提として、
  [52.18(一年の週)-5(年休の週)-1.6(公的休暇の週)×39
                   =1,778時間
 とするものである。労働者は、このように計算された年間労働時間労働する旨の労働契約を締結し、これを超える労働時間が時間外労働になるはずである。しかし、実際には、各労働者の年間労働時間の一部は、予め一年間の各週各曜日(日勤、夜勤等の固定勤労働者)あるいは各シフト(交替勤労働者)の所定労働時間に割当てられておらず、所定労働時間を超える場合は、その残余の労働時間の範囲内で労働がなされる限り、労働時間外手当の問題は生じないというかたちを採るものが多い。賃金は、年間労働時間に対応する年額賃金を12等分して各月毎に支払われる場合と、52等分して各週毎に支払われる場合とがある。
 (2) 各企業の年単位労働時間制の実例
 前述の通りイギリスには、わが国の労働基準法のように労働時間を一般的に規制する法律はないのであるから、年単位労働時間制は、専ら労働協約等によって自由に定められているのであって、その形態や導入目的等は、企業により様々である。そこで以下に5つの企業に例を取り、各々が採用している年単位労働時間制とその導入目的を概観することとする。初めの4つの企業については、おもにIDS(Incoms Data Services Ltd.)の調査報告書の記述に基づく簡単な紹介にとどめるが、最後の企業(British Gypsum)に関しては、筆者が同社の人事マネジャー(Mr.T.G.Bromfield)から直接得た情報を用いてやや詳しく紹介することとする。
(a) Bristol & West Building Societyの場合
 同社は従業員約2,000名で、住宅金融共済、不動産仲介及び金融情報サービスを営む会社である。これらの三つの部門は、それぞれ別々の事業場で営まれ、従業員の労働時間も住宅金融共済では一般に週35時間であるのに対し、不動産仲介では45時間から50時間という具合いである。法律上、これらの三部門を一緒にすることは禁止されているので、それぞれに独立に営業しながら統合的に運営してサービスを向上させるためには、被用者の労働条件を均一にする必要があるとして、1991年2月に職務評価・職務比例賃金に基づく三部門共通の賃金体系と共に年単位労働時間制を導入した。
 年単位労働時間制は、全従業員に強制的に適用されるわけではなく、個別契約で希望者に適用される。フルタイムの従業員には、年間基本労働時間1,826時間(これは、週35時間で52.18週分の計算である)に、各従業員が5つの選択肢(175時間、350時間、525時間、700時間、あるいは従業員が提案し、その事業場に適していると認められる時間)から選ぶことのできる年間附加労働時間を加算した年間契約労働時間が適用される。この年間契約労働時間から年次有給休暇日数に見合った労働時間を差し引いたものが実際の年間労働時間となる。各従業員の休暇日数は職級により異なり、最も高い専門職級で30日、最も低い技術職級で24日となっている。日数からみて、この年次休暇には、パブリック・ホリデー(通常8日)は含まれていないようである。その分は別に取ることができるものと思われる。フルタイムの従業員の99%が年単位労働時間制を希望し適用されている。個々の従業員の具体的な労働時間は、従業員とマネジメントの交渉によって決められている。なお、パートタイムの従業員の一部にも別の形の年単位労働時間制が適用されている。
 この年単位労働時間制は、会社が必要なとき従業員を使用でき従業員はいつ働かなくてはならないかを予め知っているので、余暇のプランが立て易いといメリットがあるが、会社は実際に働かせる必要がないのに決まった額を支払い、年間労働時間の予想がはずれる足りなくなる危険性もある。従業員の中には時間外労働がなくなり賃金が実質的に低下したとか、労働時間がかえって長くなったとかの不満もある。
 筆者が実地調査期間中に訪れたBIFU(銀行保険金融労働組合)の研究員は、この制度の運用につき、次のように述べた。「これは、大失敗だった。昨年(1991年)の11月には予定していた年間労働時間を使い果たし、その超過時間をどのようにするのか、時間外手当で処理するのか、それとも特別手当で処理するのか、全く不明である。年単位労働時間制がすべて機能しないというわけではないが、これは失敗例である」。Bristol & West Building Societyは、同組合を交渉組合として承認していない。同研究員の見解は、同組合の立場を示すものであると同時に、Bristol & West Building Societyの年単位労働時間制の制度的未完成度を示すものといえよう。
(b) Express FoodsのRuyton工場の場合
 この会社は、イギリス最大の乳製品製造会社Grand Metropolitanの子会社であり、従業員2,000名弱の会社である。年単位労働時間制導入の目的は、労働者のリクルートが難しく、定着率が低かった状態の改善と諸費用の削減である。そして、季節性と連続操業に最も適合するものとして、年単位労働時間制が考えられた。Ruyton工場で年単位労働時間制が導入されたのは1989年であり、1991年現在で160名中80余名の被用者(全員生産労働者)が年単位労働時間制の適用を受けている。なお、年単位労働時間制導入に関しては、同工場の被用者の3分の2を組織しているというUSDAW(商店流通関連労働組合)との継続的話合い等がなされたとされる。しかし、筆者は、同組合の交渉力から考えて、組合は殆ど影響力を与えていないものと推定する。
 年間の具体的勤務当番はその年毎に交渉で決定される。繁忙期には週6日労働、閑散期には5日労働して3日休むというような形態で勤務する。従来から行われていた4組連続操業はそのまま残し、4名の多能工から成る予備組を組織して欠勤のカバーや勤務当番日数のバランスを取るというような修正を加えた。所定労働時間と時間外の厳格な区別および従来の制度と結び付いたデマカーションを取り除くことにより、労働者の部門間移動を容易にした。会社は年単位労働時間とともに既存の賃金レベルを考慮して賃金額を交渉した。時間外労働手当、週末労働手当、シフト手当は賃金に吸収された。1990年には、年次有給休暇日数は24日、公的休暇日数が8日となり、年間労働時間は1,792時間となった。
 年単位労働時間制は、チーム労働形態の導入により欠勤率を低下させた。誰かが欠勤したときは残りの者が時間外労働をして利益を得ることができなくなったので、連続交替制の各組の4名を1チームとして作業させやすくなった。同社は附加手当を支給するチーム・リーダー制度を導入したばかりである。
(c) Hotpointのノース・ウエールズの2つの工場の場合
 同社のノース・ウエールズの2つの工場には合計約2,000名の従業員が働いているが、これらの工場では、生産能力を生産需要の季節的増減に適合させ、かつ週労働時間を削減するために年単位労働時間制を導入した。これら工場では、洗濯機、乾燥機、食器洗い機を連続操業により製造しているが、季節による繁閑が規則的であることから1991年に年単位労働時間制を取り入れた。それ以前は、多くの臨時労働者(temporary workers)を使用して労働量を調整していたが、これにはいろいろな問題があった。すなわち、臨時労働者の組み込みによる仕事の再編成から生ずる生産の非能率、臨時労働者の勤労意欲の低下や雇用終了時の敵対感情、臨時労働者の雇い入れ、管理、訓練の費用などの問題である。そして、年単位労働時間制は、これらの問題を解決するのに適していると考えられたのである。労働者の頭数ではなく、労働時間で調整するという考えである。ただ、これにともない多少の常雇いの増員が必要であったが、臨時労働者に掛かる諸費用をなくし、雇用を安定させ、それを通じて能率および製品の品質の向上をもたらすことができると考えた。なお、これらの工場が年単位労働時間制を導入するに際しては、AEU(機械工労働組合)、TGWU(運輸一般労働組合)、EEPTU(電気通信労働組合)と交渉し、組合側は週労働時間の短縮を条件とした。しかし、組合は常用労働者が増加することもあり基本的には賛成だったようである。
 これらの工場の年間労働時間は、1,931.4時間であるが、これは年平均で1週当り37時間の数字である。ちなみに、年単位労働時間制導入前は、週39時間労働であった。1月から7月末の休暇のための工場閉鎖まで28週は週35時間労働、8月の第2週からクリスマス休暇までの17.6週は週40時間労働となっている。また、週35時間労働の期間は、土日および隔週金曜日休みの2週間で9日労働する形態もある。年次有給休暇と公的休暇をあわせた休暇日数は、6.6週(1週37時間として計算されている)である。また、260名の夜間専門労働者は、週35時間労働の期間は1週間に4回の10時間労働を行い、次の週に3回の10時間労働を行うことになっている。120名の3交替勤務者は、年単位労働時間制の適用を受けていない。なお、これらの工場では、年単位労働時間制の適用を受けている従業員についても、緊急の場合の時間外労働の可能性を否定してはいない。
 これらの工場では、年単位労働時間制と時短が相殺関係にあるため賃金額についての特別の変更はない。ただし、年単位労働時間制への移行に伴い、賃金の支払いは、各週の労働時間と関係なく年額賃金の52分の1を各週に支払うことにした。
(d) Trinity Paper Millsの場合
 同社は従業員約325名を有する製紙会社であるが、イギリスに3つの新聞社その他を有する多国籍企業の子会社のひとつである。製紙産業では、1982年から、年単位労働時間制を可能とする全国協定が締結されている。同社は1990年からに年単位労働時間制を導入した。同社では、従来、1年を通じての連続操業の必要があった。このため、4組編成の交替制労働を敷いて、イースターの4日間、夏季の16日間及び9月の4日間の地域的休暇、及びクリスマスやニュー・イヤー休暇には工場を閉鎖することとなっていた。しかし、実際には、これら休暇の相当部分を連続操業の必要上時間外労働でカバーせざるを得なかった。また、昼間労働者が週末に労働しなければならないとか、病欠従業員のカバーのためにも時間外労働が用いられた。4組編成では、4週1巡で1週当り42時間労働であったが、実際は週末労働には割増手当が付くので、賃金計算上では51時間労働と同じ状態であった。また、1982年に週42時間制から41時間制にしたために休暇が約1週間増えることになったが、その分も時間外労働でカバーしなければならないことになった。このため、かなりの数の従業員が週60時間くらいまでの時間外労働をしなければならなかった。
 同社は、こうした状況を打破するために年単位労働時間制の導入に踏み切った。導入に際しては、年単位労働時間の有り得べき選択肢を得るためコンサルタントを使用した。SOGAT(印刷関連労働組合)、AEU、EETPUの3組合が初めから年単位労働時間制導入の話合いに加わり、実際の勤務割当はこれらの組合と共同して決定された。
 同社の年単位労働時間制は、週39時間相当の年1,778時間を前提としている。新たに導入された5組編成では、[1,778×5=8,890時間]の操業が可能になるが、1週168時間であるから、年間必要操業時間は[168×51=8,568時間]であり、残りの時間は病欠および予備的任務の遂行のために利用できることになる。
 年単位労働時間制導入に伴い、交替制を従来の4組3交替制から5組3交替制に変更し、土日、休暇日なども勤務割当日に編入した。ただし、土日は12時間の2交替として、土日に労働する従業員の数を減少させた。従業員は6週毎に9日の連続休日を取り、夏季には勤務割当を弾力化して、9日の連続休日をつなげた19日の連続休暇を取ることができる。倉庫、配送労働者などについては、時差昼間シフト(staggered day shifts)が導入された。これは、一日の最も忙しい時間帯にシフトが重なるようにしたものである。時間外手当とボーナスを一部取り込こみ、従来の基本賃金より高いレベルの賃金体系にした。従来の生産性ボーナスは利潤比例手当に置き換えられた。時差昼間シフトには賃金の割増しがなされる。賃金は、年額を52等分して各週毎に支払われる。
(e) British Gypsumの場合
 同社は、原料の堀だしから製品の製造まで一貫して行っている従業員約2,500名の石膏ボードの会社である。また、同社は、欧州の主要な石膏製造企業であるブリティッシュ・プラスター・ボード・インダストリー(イギリスの民間独占企業)の最大の子会社である。同社の年単位労働時間制導入の契機となったのは、ドイツの企業(クナウフ)のイギリスへの工場進出であった。クナウフが全く新しい工場設備と労働者を有するのに対して、同社は陳腐な工場設備と過剰な労働者を有するのみならず時間外労働が常態化していたため、競争力において格段の差があることが明らかであった。そこで、労働費用の大幅な削減が同社の生き残りのために必要不可欠となった。年単位労働時間制は、この目的を達成するための有効な手段であると考えられた。人事マネジャーは、時間外労働との関係について次のように述べている。「わが社のように24時間連続操業を行う場合、時間外労働に頼ることは、時間外労働をするか否かの労働者の意向に操業を依存せしめることであり、きわめて危険である。…このため、生産の都合に応じ、しかも時間外労働を廃止することのできる年単位労働時間制を導入することにしたのである」(同社では時間外労働は従業員の任意に委ねられていた)。
 同制度導入は約15%の従業員の削減とともに実施されたが、会社はこれに先立ち、生産労働者に関してはGMB(一般労働組合)とTGWU、技術労働者に関してはAEUとEEPTUとの協議を行った。最終的には、会社が従業員に提案をなし、組合がその受諾を勧告して、従業員の承認投票に従い会社・組合間に協約が締結された。年単位労働時間制は、1989年4月から同社の従業員の大半を占める週給労働者の全員に適用され、1990年4月からは約320名のクラリカルおよび管理職員に適用されることになった。人事マネジャーの説明によると、後者への適用の拡大は、これがマニュアルとノンマニュアルの身分的格差を取り除くための重要な一助になると考えているとのことである。
 同社の年単位労働時間制の下では、年間労働時間は昼間労働者と非連続交替勤務労働者が名目週39時間ということで年間労働時間1,776時間であり、連続交替制労働者が名目週41時間ということで年間労働時間1,871時間としている。しかし、これに加えて、各労働者は、年間208時間(1992年より170時間となった)のバンク・アワーを有する。このバンク・アワーとは、会社がそれを1年間に完全に使いきるか否かを問わず、予めその時間を労働時間として買い取ってしまい、その買い取った範囲以内で、その都度附加的労働を命ずることができる附加的労働時間を意味する。すなわち、人事マネジャーの言葉を借りれば、「今までの時間外労働時間に代わるものとしてバンク・アワーを導入した。この制度の下では、従業員はその時間分労働するか否かにかかわらず、その時間の賃金を12ヵ月に分割して、月給の一部として支払われる。その代わり会社は、従業員に対し、当該従業員の有するバンク・アワーの範囲内で、いつでも所定労働時間を超えて労働するように命ずることができる」というものである。
 同社の連続交替勤務制は、従来の4組から5組編成へ変わった。以前は4組で各組週42時間3交替であったが、それでは休暇その他の欠勤をカバーするに十分ではなく、そのために時間外労働、休日労働などを制度的に組み込まざるを得なかった。新たな5組編成は、2交替ないし3交替であるが、1週間の連続操業分168時間をカバーしても余りある。また、年間労働時間1,776時間の昼間労働者及び非連続交替勤務労働者は、1日8時間労働制の場合は年222回、12時間シフトの場合は年148回勤務することになっている。
 同社において代表的な12時間連続交代勤務を例にとって、人事マネジャーは次のように述べている。「12時間(5組2)交替制の場合、3日昼間労働、3日非番、3日夜間労働、3日非番という(繰り返し)になるが、12週目になると1日非番、3日夜間労働、3日非番の後、3週間休みとなる。もっとも、この(休みの期間に)バンク・アワーが使われることがある。しかし、わが社には他にもいろいろなパターンの勤務形態がある。あるグループは、月曜から金曜まで働き土日を休み、あるグループは1週間にいずれか5日働き、あるグループは2交替または3交替で働くといった具合いである。年単位労働時間制はホワイト・カラーにも適用されるが、とりわけ会計課などでは繁閑調整に役立つ」。
 ところで、年間労働時間1,776時間(または1,871時間)は、すでに年次有給休暇を除外した時間であり、この年間労働時間からさらに、年次有給休暇日数分の時間が差し引かれることはない。ではどうのようにして、年次有給休暇が特定されるのかというと、人事マネジャーは、次のように説明している。「例えば、12時間交替制の場合でいうと、交替勤務表に3週間連続休みの期間が年4回あることになるが、実際は、従業員はこの期間を完全に休めるのではなく、バンク・アワーとして労働を命ぜられることがある。したがって、従業員は、その中のどの期間に年次有給休暇を取りたいかを申し出なければならない。申し出は年度始め(7月)またはそれ以前になされる場合もある。もっとも、実際には、従業員相互で勤務日を代わってもらって休暇を取ることができるので問題はない」。
 同社の年単位労働時間制の特徴は、バンク・アワーの存在にあるといってよい。前述のBristol & West Building Societyの年間附加労働時間のように忙しい部門・職種の従業員と忙しくない部門・職種の従業員との調整のため使用されるのではなく、欠勤のカバーのため、仕事の訓練・教育のため、機械・設備の故障の修理のため、あるいは予期しない需要増ないし生産設備・原料掘削上の障害による短期的増産のために使用されるものである。人事マネジャーは、バンク・アワーの使い方につき、次のように述べた。「もし機械が故障し、修理に20時間か掛かったとすると、同じ週の土日にその後れた分の労働をする。その場合、時間外労働はない。2週間も雪が降って従業員が働けない場合でも、いい天気になってから取り戻すことができる」。
 バンク・アワーは、その使用の有無にかかわらず、一定の時期毎に減少していくようになっている。したがって、会社は、一定の時期の経過により、各従業員に対して保有していたバンク・アワーを使用できなくなる。その期間とバンク・アワーの数の関係は、下記の通りである。

  年度初め(7月)   170時間
   8月末      150時間
  10月末      130時間
  12月末      111時間
   2月末       82時間
   4月末       52時間
   6月末       0時間

 欠勤者のカバーなど何等かの理由により、会社が従業員をその所定勤務時間外で必要とする場合、バンク・アワーが使用されること前述の通りであるが、その使用方法は次のようになっている。
 (i) 会社は、十分な計画により、バンク・アワーの使用を最小限にとどめるようにしなければならない。バンク・アワーの使用による勤務命令は合理的なものあり、かつ適切な事情説明が必要とされる。また、できる限り24時間以上前に予告が与えられなければならない。バンク・アワーの使用は各労働者になるべく公平に割り当てられるようにされなければならない。しかし、正当な理由なくバンク・アワーの使用による勤務命令に従わない者は規律処分の対象となる。なお、ある労働者が病気で欠勤した場合、他の労働者のバンク・アワーでカバーできるのは、最初の1ヵ月だけである。それ以降は、派遣労働者が使用される。年単位労働時間制導入以前は、派遣労働者を用いず従業員の任意的な時間外労働で対処していた。
 (ii) 月曜日から金曜日までの勤務の従業員の場合、所定労働時間を超えた1時間当りの勤務により使用されるバンク・アワーは、通常は、1時間であるが、土曜日の午前6時から月曜日の午前6時までは、1.5時間と計算される。
 (iii) 従業員に帰宅後に呼び出し勤務を命ずる場合には、1時間当りの勤務により使用されるバンク・アワーは、
  月曜日の午前6時から土曜日の午前6時までは、2時間
  土曜日の午前6時から月曜日の午前6時までは、4時間、
 と計算される。通常、バンク・アワーの計算の始点は、その従業員のタイムカード打刻時であるが、90分以内に勤務するように要請する場合は、その要請を受けた時である。
 (iv) 午後10時から午前5時までの間に呼び出し勤務した従業員が、勤務割当上その日の昼間シフトで勤務することになっている場合、その午後10時から午前5時までの間に勤務した時間に相当する時間が、その昼間シフトの勤務時間の勤務から免除される。しかも、午後10時から午前5時までの間に働いた時間はなおバンク・アワーとして計算される。
 (v) 昼間労働者も24時間を超える予告をもって一時的に午後または夜間の労働に従事せられることがある。これはバンク・アワーの使用とはならないが、シフト手当として11.44ポンドが支払われる。
 (vi) 勤務割当日に勤務を終えた昼間労働者が、帰宅後午後または夜間シフトに就くように命ぜられた場合には、その帰宅前の勤務はバンク・アワーとされ、しかも帰宅後の勤務にはシフト手当が支払われる。
 以上のような会社の年単位労働時間制の効用について、人事マネジャーは、次のように述べている。「われわれは、労働コストを1年前に計算することができる。すべての従業員は年間170時間のバンク・アワーを持っているから、ある従業員が明日休みということになっていても必要があれば会社は労働を命ずることが出来る。したがって、会社の都合のいいことに、例えば、もし職場がきれいにされていない限り休みの日に出て来てもらうぞと言って、毎日その日の中に清掃させることができる。以前なら、時間外手当が欲しいから休みの日に出て来た。また、清掃のため業者を使う必要もなくなる。同様に、欠勤対策にもなる。もしある者が欠勤したとすれば、他の者が時間外手当なしにその分働かなければならないから、欠勤者に圧力が掛かる。実際に欠勤率が改善されている。年単位労働時間制導入当初は、従業員は休み中の勤務呼び出しに居留守を使ったり、酔っぱらって会社に行けないなどと断わることがあったが次第にそれもなくなった」。
 ところで、同社においても、前述した数社の例と同様、年単位労働時間制が単独で導入されたのではなく、同時に多くの制度変更が行われた。まず、職級区分を従来の10から6に簡素化したことが上げられる。しかも、各生産労働者の職級決定は、従来は組合と会社の共同で行われてきたが、これを会社の裁量事項とし、従業員には全国合同委員会への不服申し立ての途を残すだけとなった。また、新しい仕事や従来の仕事の大幅な変更があった場合、それらの仕事をどの職級区分に入れるかも、会社の裁量事項とした。このことを通じて、従業員に新たな仕事や任務を課することが容易になった。
 次に、弾力労働・チームワーク制の導入が上げられる。これは、すべての従業員が自己のなし得る仕事または訓練を受けた仕事を、社内のあらゆる職場で協力して行うことを義務づけるものである。従業員は、多能工になる教育・訓練をうける。これは、ある仕事に就いている者が他の仕事に就いている従業員に自己の仕事を教えるというかたちで行われることがある。
 最後に、年額賃金制の導入が挙げられる。年額賃金は年単位労働時間(バンク・アワーも含む)に対応するものであるが、12ヵ月に等分して月給として支払われる。これは、基礎賃金、職級手当、弾力・訓練手当、ディスターバンス手当、ボーナスを含めて算定される。この年額賃金の含まれない手当として、シフト手当、班長手当、掘削手当が定められている。
 (3) 年単位労働時間制の意義
 以上の実例の検討を踏まえ、年単位労働時間制の導入につき、次のことが指摘できるであろう。
(a) 前記の実例から、年単位労働時間制は、24時間連続操業を行う製造業の生産部門に多く取り入れられているが、必ずしも生産部門に限らず、管理部門にも利用されていることが分かる。のみならず、サービス業の中にもこれを導入する例があることが分かる。実際、上記の実例には含めなかったが、民間テレビ放送会社が番組作成に係わるジャーナリスト、衣装係、カメラマン、ディレクターなどのスタッフに適用している例、地方自治体が公園・造園係の職員に適用している例などもある。
(b) 製造業の国内的ないし国際的企業間競争の激化を契機として、生産効率ないし営業高率の向上を目的として年単位労働時間の導入を推進した例が多いようである。前記の実例では、生産効率ないし営業効率の向上は、無駄な労働時間と時間外労働の削減、出勤率の改善、チームワーク労働の推進、臨時労働者の使用により生ずる諸経費の削減、企業内における労働力流動化による労働力効率化というかたちで実現されることなどが予定されているものと考えられる。それ故、年単位労働時間制とともに、賃金体系の簡素化、デマケーションの廃止、多能工化の推進、チーム・リーダー制の導入、派遣労働者雇い入れ停止などの施策が実施されている。無駄な労働時間の削減は、生産あるいはサービスの季節的繁閑に合わせた労働時間を前年度に綿密に推定かつ計画することにより可能となる。この年間計画は、需要の動向、原料価格、労働コストその他の様々な判断要素を考慮にいれて作成されるであろう。ただ、その場合でもある程度の変動があることは避けられないので、予め決められた所定労働時間を超える労働をカバーするだけの労働時間を各労働者の年間労働時間の中に予め含めておくか、それとは別に、British Gypsumのようにバンク・アワーを設けておくことになる。将来は、誰かが欠勤すると他の労働者が時間外手当を得ることができるから、欠勤者に対して同僚からの圧力が掛かることはなかったが、年単位労働時間制の下では、他の労働者が年間労働時間の範囲内で時間外手当を支払われることなく欠勤者をカバーしなければならないので、欠勤者に対する同僚の圧力を通じて欠勤率を低下させる効果がある。また、交替勤務者の場合、そのことを通じて、各組毎のチームとしての結束を維持しやすくなる。労働時間を業務の季節的繁閑と適合させることにより、時間外労働のみならず派遣労働者その他の臨時労働者の雇い入れを取りやめまたはその数を減らすことにより、その雇い入れや解雇等に掛かる経費を削減することができる。また、臨時雇いの停止ないし雇い入れにより、労働者の志気の向上を図ることができる。一方で、年単位労働時間制とこれに合わせた簡素な賃金制度を導入することにより、労働時間と賃金という基本的な労働条件の均一化を図り、他方でデマケーションを撤廃して、労働者の多能工化を促進することにより、企業内の労働者の移動を容易にすることが可能になる。
(c) 前記の実例から見ると、年単位労働時間制の導入に関し、組合は受身の立場におかれていた。企業の生き残りのためやむを得ないとするか、せいぜい週平均労働時間の短縮の代償として受け入れざるを得ないとするものと思われる。もっとも、Hotpointの2つの工場では常用工の雇用量が若干増すことに積極的利益を見いだしていたようである。なお、多くの組合は、賃金レベルの低下を伴うことなく労働時間の短縮が図られれば、年単位労働時間制には反対しないという立場を取っているようである。もっとも、労働者の家庭的・社会的生活の妨害にならないように使用者の配慮を求める見解も強い(資料編のJoe O’Hara及びBill Jordanの見解参照)。
(d) 独立行政機関である助言斡旋仲裁局のインフォメイション・シートには、年単位労働時間制は、労働者にとって、次の5つの利点があるとしている。自由時間の予定がつくこと、長期休暇の取得が可能であること、基本賃金が上がり各週の賃金額が安定すること、雇用が安定すること、月給制への移行が可能となることである。しかし、民間調査機関のインダストリアル・ソサエティの調査によれば、利益になると答えた労働者はわずか10%に過ぎなかったといわれる。これは、主に時間外労働を行うことにより、自らの収入の調整を図る途を失うことに対する労働者の危惧感を示すものといえよう。
5 年次有給休暇取得システム
 (1) 休暇の取り方の規制
 1987年のCBIの調査によれば、イギリスでは、年次有給休暇は、多くの企業で1月から始まるものとしているが、約5分の1の企業では4月に始まるとしており、その他の月としている企業もある。製造業では約3分の1の企業、サービス業では約4割の企業が、一回に続けて取れる年休日数の限度を定めていないが、いずれにしても、残りの企業には限度日数があり、一番多いのが10日、次いで15日となっている。
 製造業では約80%の企業、サービス業では約46%の企業が年休取得時季の制限を置いている。そうした企業の約半数がクリスマス・ニューイヤーの時季に年休を取らなければならないとしており、取らなければならない年休日数は、製造業では3日から5日、サービス業では3日から7日が多い、年休を取るべき時季とされているものとしては、製造業では夏季(7月、8月、場合によっては9月)、サービス業ではイースターの頃である。製造業のマニュアルの約60%、ノンマニュアル役40%が、夏期休暇を義務づけられているが、その多くは10日の休暇である。サービス業では、マニュアルの約18%、ノンマニュアルのやく12%余りがイースターの頃の一定日数の年休取得を義務づけられている(CBI, A Survey of Holiday Arrangements in British Business(1988), pp.27-33)。
 若干の産業の全国協約を見てみよう。まず、1989年に廃止された機械産業の年次有給休暇に関する全国協定の規定では、10日以上の連続夏季休暇を要求し、残余の休暇も週単位の取得を原則としている。家具製造業全国労働協約(1989年)では、年休日数中10日は4月1日から9月3日に連続して取得し、残りの日数はバラバラに取ってもよいとしている。建設・土木産業全国協約(1989年)は、冬季休暇はクリスマスデー、ボクシングデーおよびニューイヤーズデーを結び付けて2週間となる7労働日、春季休暇はイースターマンデーに続き1週間の休みとなるような4労働日、夏季休暇は必ずしも連続しない4月1日から9月30日までの2週間、と定めている。
 (2) 休暇取得日の申し込みと調整
 筆者は、現地調査において、各企業においてどのように年休日を特定して行くのかを質問してみた。その結果は、いろいろなので、以下その回答を要約しておきたい。
 British Gypsum――年単位労働時間制を採用しているので、例えば、勤務表上休みとなっている週のどの週を年休日とするかを申し出てもらう。申し出は、年休年度初め(7月)またはそれ以前になされることもあるが、いつでも労働者相互間でシフトを替わって年休を取ることができる。
 British Steel――機械を止めることができない職場では、交替で取らせる。ぶつかり合えば、労働者相互間で調整し、最終的にはマネジャーが決定する。子供の学校の休暇は、調整に重要な役割を負う。
 Copthorn Hotel――夏季2週、冬季2週取るように定められている。ハウス・キーパーは同じ週に3名、多くの課では同じ週に2名以上休暇を取ることができないとされている。原則は、先着順であり、週単位で取る場合は、早期の事前申し込みが必要である。例えば2日前に申し込んでも1、2日なら格別、2週間の休暇は認められない。
 General Electric――従来は工場閉鎖したが、2年前から自由に取れることになった。労働者は2週分と1週分それぞれまとめて取り、残りの分を連続しないで取れる。残りの分は、半日休暇も許される。職員の場合は、2週分を1週ずつに分けて取ってもよいが、半日休暇は認められない。労働者の希望がぶつかり合えば、労働者同志の話合いで決めさせる。学校の休暇時季に集中することはない。大抵、2、3ヵ月前に申し込んでいる。組合の代表が調整に介在するようなことはない。
 ICL――いつでも好きなときに取れる。ただ、クリスマスとイースターの前後計4日は年休を取ることを義務づけられている。生産事業場とは異なり、年休の取得時季に障害が少ない。学校の休暇の時期に取るものが多いが、調整は職場のマネジャーに任されている。
 Independent TV Association(民放テレビ局の協会)――いつごろ年休取得希望日を申し出るかについての特別の規則はない。友人の結婚式や争議に参加するため、趣味のグループ集会に参加するため、あるいは疲れを取るために、1日ないし数日取ることもある。例えば、3日前に息子が大学に行くので次の金曜と土曜日に年休を取りたいといっても、認められるかどうか分からない。
 Kellog――クリスマスに公的休暇と合わせて12日の工場閉鎖を行っている。3週連続して取る者が多い。同じスキルの者につき各週6名中1名だけ休暇を与えるようにしている。
 Manchester Airport――各セクション毎に、壁に大きな年間日程表を貼って、そこに希望日を記入させ、いっぱいになったら、その後はマネジャーが拒否する。
 Selfriges――各課のマネジャーに任されている。セニョリティーで決めているところもある。
 BIFU(銀行保険金融労働組合)の研究員の話――工場閉鎖のようなことはできないので、ローテーションでやるしかない。通常、3月か4月に会計年度が始まるので、この時期から自分の希望日をカレンダーに書き込むことになる。希望日がぶつかり合う場合には、それらの労働者と職場のマネジャーとで調整する。職場の組合代表が介入することもないわけではないがきわめて希である。とりわけ、学校の休暇の時季に休暇希望が多くて難しい。
 (3) 年休期間中のカバー
 すでに述べたように、イギリスの被用者は、契約上取ることのできる年次有給休暇をほぼ完全に消化している。シニア・マネジャーなどの例外を除いて、完全消化というのが、筆者の現地調査中、聞き取りに応じた企業・組合関係者の一致した見解であった。そのためにどのようなことをしているかというと、すでにKellogの前記回答からも推定されるようにレリーフ要員をシフト等に組み込んでいるということがある。さらに、この年休期間のカバーについて、各社の回答を見てみよう。
 British Steel――工場閉鎖しない場合、シフトの労働者は皆複数の仕事を訓練され、人数的に余裕を持って組み込まれているが、例えば、予備人員として、通常中間勤務で清掃などしている複数の仕事を訓練された労働者のグループをおいている場合もある。
 Manchester Airport――夏季のピークには、臨時従業員を使用する。
 Selfridges――マネジャーの場合、デパートメント・マネジャーが休暇を取るときは、その配下のマネジャーの一人が、訓練を兼て代行する。
 USDAW(商店流通関連労働組合)の広報担当の話――小さな町の商店などは、学校の休暇中などには町の多くの労働者が町の外に休暇で出かけるので、多くの店員を働かせる必要がない。もちろん、学生なども代替労働者となる。多くの学生が16歳ぐらいから土日や休暇中に2年も3年も働いているので代替要員として十分である。問題は、ショップ・マネジャーの場合のように管理能力を要するような者の代替要員であるが、多くのスーパーでは、レリーフ・マネジャーをおいている。彼らは、ショップ・マネジャーを代行することによりマネジャーとしての訓練をさせられるのである。
6 中小零細サービス業の労働時間
 ここでいう中小零細サービス業をどの程度の規模の企業を含むものとして捉えるべきかが問題となるが、だいたい従業員50名以下ぐらいの企業を考えておきたい。
 そのような企業としては、典型的には、商店、スーパー、食堂、理髪店、洗濯屋、ホテル等が含まれるであろう。
 まず、中小零細サービス企業の労働時間の実態であるが、残念ながら、従業員50名以下のサービス業の時間外を含めた労働時間に関する統計を見つけ出すことはできなかった。ただ、CBIの調査から、従業員100名以下のサービス部門の所定労働時間を知ることができる(CBI, A Survey of Holiday Arrangements in British Business(1988))。
 この調査によれば、そもそも、サービス業は、その企業規模の大小を問わず、一般に製造業よりも所定労働時間が短い。すなわち、マニュアルについては、所定労働時間が週38時間以上とする企業の割合は、サービス部門が48.4%であるのに対し、製造部門で71.4%である。また、クラリカルについては、サービス部門で7.8%、製造部門で9.5%であり、ホワイトカラーについては、サービス部門で8.6%、製造部門で20.2%である。
 サービス部門の中での規模による違いはどうであろうか。サービス部門の企業全体とサービス部門中の従業員100名以下の企業とに分けて、その所定労働時間週38時間以上の企業の割合を比べてみたい。まず、マニュアルについては、全体で48.4%であるのに対し、従業員100名以下の企業では50.0%である。クラリカルについては、全体で7.8%、従業員100名以下の企業では3.3%であり、ホワイトカラーについては、全体で8.6%、従業員100名以下の企業では8.0%である。反対に、37時間未満の企業の割合を全体と従業員100名以下の企業についてくらべてみても、両者の間にはほとんど差がない。このように、サービス部門においては、規模の大小が余り所定労働時間の長短に結び付いていないといえるそうである。もっとも、従業員50名以下の企業の調査企業が少ない点は指摘しておかなければならない。(Ibid., at pp.3-8.)
 残された問題は残業がどのように扱われているのかということになるが、残念ながらこの点をサービス部門に限って明らかにした資料はない。ただ、雇用省の調査によると、職場(workplace)の大きさ毎に雇用の弾力制をつくりだす手段として用いられているものは、規模が小さいほどパートタイマーや臨時員の使用に依存する割合が多く、時間外労働に依存する割合が低いことが明らかになっている。(A.Wareing, Working Arrangements and Patterns of Working Hours in Britain, Employment Gazette, March 1992, p.88, at 98.)そのことから考えると、むしろ中小零細サービス業においては、時間外労働が少ないと推定すべきではなかろうか。
 年次有給休暇の日数が企業規模の大小によりどの程度の差があるのかを明らかにした資料はない。ただ、サービス部門の被用者の年次有給休暇日数は、製造部門よりずっと少ないことは、CBIの調査で明らかにされている。例えば、マニュアルについていえば、25日以上の被用者の割合は、製造部門で62.0%であるが、サービス部門では12.7%に過ぎなかった。実際、サービス部門のマニュアル、クラリカル、ホワイトカラーに分けてみると、それぞれ42.1%、45.1%、40.6%が20日以下であり(Ibid., at pp.10-1)。有給休暇の企業に与える財政負担から考えて、中小零細サービス業では、20日以下が普通といえるであろう。
 ところで、商店、スーパー、食堂、理髪店、洗濯屋、ホテル等の業種の被用者には、その規模に係わらず、1つまたは2つの法律が適用されるといってよい。1つは1950年商店法であり、もう1つは1986年賃金法である。まず、商店法であるが、同法は小売業が行われるあらゆる不動産(premises)と定義される商店(shop)に適用される。そして、同法の労働時間等の規制の対象となるのは、商店で、顧客へのサービス、注文の受付、商品の配送に関して雇われる店員(shop assistant)である。同法は、商店の閉店日・閉店時間と店員の労働日・労働時間を定めるものである。同法には、多くの例外や適用除外があり、極めて要約しにくいものであるが、要点だけ指摘すれば、次の通りである。
 1. 日曜日には閉店しなければならない(s.47.)。但し、酒類、飲食、調理済み食品、アイスクリームを含む菓子類、花・野菜・果物、ミルク、薬品、自動車等の部品・アクセサリー、タバコ・新聞の類、駅などにおける本・文房具の販売は適用除外(sch.5.)。
 2. 毎週の日曜日以外の日の中、1日は午後1時迄には閉店しなければならない。但し、これにも日曜日と類似の適用除外あり(sch.1.)。
 更に特定の種類の商店主等の希望があれば地方自治体がその種類の商店を除外することができる(s.1.)。
 3. 日曜日に労働者を使用してはならない。但し、例外として、日曜日に4時間を超えて使用する場合、その週の(後掲4の)法定半日休日以外の日に1日の休日を与えなければならない。また、4時間を超えて使用しない場合、右の法定半日休日に加えて半日休日を与えればよい。また、日曜使用の禁止は酒類販売、牛乳配達、郵便取引のため使用されているものには適用されない。また、軽食・飲物の販売店で使用される店員については、店主が掲示をすれば、後掲6の特別取扱ができる。さらに、登録薬剤師についても例外規定がある(s.22.)。
 4. 毎週の日曜日以外の日の中、1日は午後1時半以降には商店員を使用してはならない。これを法定半日休日という(s.17.)。
 5. 労働時間が6時間を超える場合には、その途中に20分以上の食事休憩時間が与えられなければならない。但し、労働時間が、午前11:30-午後2:30の時間帯を含む場合には45分以上の昼食時間、午後4:00-7:00の時間帯を含む場合には30分以上の夕食時間を与えなければならない。商店あるいは商店の入っている建物の中で昼食を取れない場合には、昼食時間は1時間以上である(s.17 and sch.3, part 1.)。
 6. 軽食・飲物販売店で使用される店員については、店主がそれを掲示して表明すれば、次のような格別の労働時間制を採用することができる。労働時間を、食事休憩時間を除き、週65時間以内とすること。食事休憩時間を半日休日(労働時間が午後3:00前に終了する日、および食事休憩時間を含め6時間を超えない日)には45分以上、それ以外の日には2時間以上与え、労働時間が6時間を超える場合には更に30分以上の休憩時間を与えること。毎年、平日に32時間の休日と、日曜日に26日の休日を与えること(s.21.)。
 以上の規定からすると、労働者を使用しない商店であっても、1.に掲げた例外的商品を売る商店でない限り、日曜日には商売ができないことになる。そして、そのような商店でなければ、日曜日の営業は、日曜営業の禁止と日曜使用の禁止規定に抵触することとなる(但し、二重に処罰されない)。もっとも、これらの違反に対する法定の罰金の金額は、最高限度額1,000ポンドで、大企業にとっては大した額ではない。ただ、同法の実施機関としての地方自治体が、裁判所に日曜営業の差止めを求めることがあり、多くの場合これが認められてきた。しかし、Stoke-on-trent and Norwich City Councils v. B & Q PLC事件([1991]2WLR42.)では、会社側は、商店法が輸入制限に当り、ローマ条約の第30条に違反するものであると主張した。裁判所は、労働者が日曜日に労働しなければならないことになるような圧力を排除することは、日曜に買物をし、労働したいとする人々が被る不便に優る。この目的を達成するためには、他の共同体加盟国への影響の少ない制限の仕方があるとしたとしても、それでは十分ではないとして、会社側の主張を斥けた。しかし、その後、Kirklees BC v. Wickes事件([1991]4 All ER 240.)で、控訴院が従来の下級審の判決を覆して、裁判所は、地方自治体が仮差止め命令を申請した場合にも、それにより被申請人が被るかも知れない損害を賠償するための保証金の提供を命じなければならないとしたために、多くの仮差止めの申請が保証金の不提供により却下されたといわれる。この判決は、小売業者が日曜日の営業を行い易くしたといわれる。(P.Oliver, 20ILJ298.)のみならず、不況のため消費者の購買力もおぼつかない状況のもとで、大手のスーパーなどは、公然と日曜営業に踏み切るところもある。共働き夫婦が多いため、日曜の営業は、消費者にも歓迎されている。実際、保守党政府は、1986年の段階ですでに商店法を廃止する法案を提出したが失敗した経緯があり、先の総選挙で勝利したことから、近い内に、同法の廃止が有り得ると思われる。
 さて、中小零細サービス業の労働時間に関係する法律として重要なものに、1986年賃金法がある。この法律は、従来の1979年賃金審議会法を改正したものである。従来、賃金審議会法は、賃金命令を発して、労働時間、時間外手当、年次有給休暇日数、休暇手当などを任意的団体交渉機関に代わって決定してきた。賃金審議会は、使用者と組合の代表および独立構成員からなる3者構成の機関である。もともと労働組合が弱く任意的なかたちで団体交渉が行われることが期待できない産業における労働組合の育成と交渉機関の確立のための暫定的な機関として設けられたが、恒常化したといわれる。
 しかし、すでに述べたように、1986年法は、賃金審議会の権限を大幅に縮小して、年次有給休暇に関する決定権を剥奪し、21歳未満の労働者をその適用対象から外してしまった(410IR-RR2.)。したがって、現在では、賃金審議会は、21歳以上の労働者の所定労働時間、賃金および時間外手当を決定しているだけであるということができる。
 1988年の調べによると、2つの農業賃金委員会を除いて全部で24の賃金審議会がある。これらの審議会の賃金命令の対象となる労働者の人数については新しい統計がなく、1982年の21歳未満の労働者を含めた推定統計が2,719,100人であるとしている。これをサービス業関係だけで見てみると、選択業、理髪業、靴の修理業、飲食業等計8審議会、対象労働者2,358,570人となる。これから、21歳未満の者(推定50万員の5分の1)を差し引いて、200万人前後がサービス業の労働者の中、賃金審議会の適用を受けていることになる。もちろん、この中には、大規模なスーパー・チェーンに雇われる大手サービス企業労働者なども数多く含まれている。しかし、大手企業に雇われる被用者は、一般に、審議会の出す命令よりもよい賃金と労働時間で働いているものと思われる。そして、IRSによれば、これらのサービス業関係の賃金審議会の賃金命令で定められている所定労働時間は、1988年において、すべて39時間で、週給は各業種により異なるが、だいたい71-86ポンドとなっていた(410IR-RR4.)。


第4章 アメリカ・カナダの労働時間制度

はじめに
 アメリカ合衆国およびカナダは互いに隣り合う北アメリカの連邦国家であるが、両国の労働時間規制のあり方は対照的である。アメリカでは、週40時間をこえる労働に割増賃金の支払を義務づける連邦法が広く適用されており、いくつかの週では休日や食事時間などの規制を行っているとはいえ、連邦法の比重が非常に大きい。これに対してカナダでは、連邦法の適用範囲はごく狭く、州法がそれぞれ独自に行う労働時間規制こそが主体となっている。また内容的にも、カナダでは、時間外賃金規制のほかに、最長労働時間、有給祝日、年次有給休暇など、アメリカには見られない規制が行われている。
 以下では、これら両国の労働時間制度の調査の結果を記す。アメリカの労働時間制度については、「変容する労働時間制度」の中で行った紹介を前提としつつ、今回の調査では、連邦法の適用範囲、州法の内容およびホワイトカラー被用者等の扱いについて補充的に検討を行った。カナダについては、その労働時間規制がこれまでほとんど紹介されていないため、とにかく連邦法および各州法の内容を知ることを目標とした。今回の共同研究における他の国の調査とは異なって、現実の企業における運用実態ではなく、もっぱら法制の検討に限定されていることをお断りしておきたい。
 調査にあたっては、アメリカ各州の知事宛に質問票を送付し、それぞれの労働省を通じて回答を受けることができた。また、カナダの連邦労働省に対しても質問票を送り、回答を得た。さらに、1992年3月に、下記の方々を訪問してヒアリングを行うことができた。調査の趣旨を理解して快く協力してくださった関係各位に、厚くお礼申し上げる。
 〈アメリカ〉
* 連邦労働省(ワシントンDC)
   Ms.Ethel P. Miller
   Director, Division of Contract Standards Operation
   Wage-Hour Division, U.S.Department of Labor
   (1992年3月16日(月)10:00~12:30)
* イリノイ州労働省(イリノイ州シカゴ)
   Mr.Pater N. Silvestri
   Associate Director, Illinois Department of Labor
   (1992年3月9日(月)13:00~15:00)
* ニューヨーク州労働省(ニューヨーク州ブルックリン)
   Mr.Seymour Fishman
   Chief Labor Standards Investigator
   State of New York, Department of Labor
   (1992年3月19日(木)13:00~15:30)
* ペンシルバニア州労働・産業省労働基準局フィラデルフィア地区事務所(ペンシルバニア州フィラデルフィア)
   Ms.Karen Fisher
   Labor Inspection Supervisor
   Commonwealth of Pennsylvania, Department of Labor and Industry
   (1992年3月20日(金)14:00~15:30)
 〈カナダ〉
* 連邦労働省(ケベック州ハル)
   Ms.Jane Riewie, Acting Director
   Mr.Frederick D.Chilton, Legislative Consultant
   Ms.Judith A.Weinman, Legislative Consultant
   Labour Standards Legislation, Labour Standards and Equal Pay
   Labour Canada
(1992年3月11日(水)13:00~15:30)
* オンタリオ州労働省雇用基準局東部オンタリオ地区事務所(オンタリオ州オタワ)
   Ms.Diana Jardine
   Acting Manager, Employment Standards Program
   Ontario Ministry of Labor
   (1992年3月11日(水)9:00~12:00)
* ケベック州労働省(ケベック州ケベック)
   Ms.Francine Des Roches, Direction generale de l’application des normes
   Mr.Christian Actil, Directeur, Direction du soutien aux operations
   Guuvernement du Quebec, Commission des normes du travail
   (1992年3月13日(金)10:00~13:30)
* ブリティッシュ・コロンビア州労働・消費者サービス省(ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー)
   Ms.Mary E.Howells
   Regional Manager, Employment Standards Branch
   Province of British Columbia, Ministry of Labour and Consumer Service
   (1992年3月23日(月)10:00~14:00)
 I アメリカ合衆国の労働時間制度
 アメリカの労働時間規制の中心をなすのは、1938年に制定された公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)であり、その7条(a)は、1週あたり40時間をこえる労働に対して、当該被用者の通常賃金率の1.5倍の率による時間外賃金を支払うよう使用者に命じている。この法律は連邦法であるが、州外との通商(以下「通商」という)に直接従事する被用者のみならず、通商のための商品の生産に従事する被用者、さらには、通商に関連する「企業」に雇用される被用者一般に対しても広く適用されている。1989年の数字でいえば、管理的・運営的・専門的被用者および外勤セールス被用者を除いたアメリカ全体の被用者数は約8900万人であるが、そのうち7500万人あまり、率にして84%以上の者が、公正労働基準法の労働時間規制を受けている。
 かかる連邦法と並んで、各州は、それぞれ独自に労働時間規制を行うことができる。後に見るように、約半数の州では、連邦法と同じ内容の1週40時間という労働時間規制を行っており、これは通商との関連いかんにかかわらず、その州の被用者全員に及ぶ。しかし、州によっては何ら労働時間規制を行っていないものもあり、その場合には、公正労働基準法の適用を受けない被用者に関する労働時間規制は存在しないことになる。他方で、州法により公正労働基準法よりも厳しい基準を定めることもでき、例えば1日あたり8時間をこえる労働に対しても時間外賃金の支払を義務づける州も見られる。また、休日や休憩など、公正労働基準法に規定されていない事項につき規定を設ける州もある(なお、年次有給休暇に関する規制は、連邦法にも州法にも見られない)。これらの場合、公正労働基準法の適用を受ける被用者に関しても、州法の規制は及びうる。つまり、労働時間規制に関しては、連邦法と手法とが重畳的に適用されうるのである。
 このようなアメリカの労働時間規制については、既に「変容する労働時間制度」の中で紹介を行ったところであるが、今回の研究では、それを補充し発展させる意味で、以下のような事項を取り上げた。まず、公正労働基準法に関して、最近の法改正によりなされた若干の規定の修正を紹介する。また、同法の適用除外の中でも最も後半で重要な、管理的・運営的・専門的被用者の範囲についての基準の検討も行う。次に、調査票への回答にもとづきながら、各州の法律による基準を整理し、州法による労働時間規制の全体像を示す。その上で、実際に訪問したイリノイ、ニューヨーク、ペンシルバニアの3州について、それぞれの労働時間規制の内容を紹介する。
1 連邦法
 (1) 公正労働基準法改正による修正点
 公正労働基準法は、1980年以来そのままになっていた最低賃金を引き上げることを主たる目的として、1989年に改正が行われ(時間あたり最低賃金は、従来3.35ドルだったのが、1990年4月1日より3.80ドル、1991年4月1日以降は4.25ドルとされた)、また翌90年にも若干の改正が行われた。その結果、労働時間規制の基本は全く修正を受けていないが、法の適用範囲および執行手続きに関して、次のような若干の変更があった。
 〈法適用対象となる「企業」の範囲の変更〉 公正労働基準法3条(s)は、同法の適用対象となる「通商に、または通商のための商品の生産に従事する企業」の定義規定である。従来は、その企業が、<1>通商に関連する被用者(これは法律上の正確な言葉ではない)を2人以上雇用し、かつ、<2>年間の売上・取引総額が25万ドル以上(小売段階での消費税を除く)であること、が基本的な要件とされていた。1989年の法改正によって、これらのうち、<2>の売上・取引額の基準が50万ドル以上に引き上げられた。それだけ公正労働基準法の適用範囲が狭くなり、州法の規制のみに服する被用者が増えることとなる(もちろん、<2>をみたさない小企業の被用者であっても、その者が通商に、または通商のための商品の生産に従事していれば、個人として、なお同法の適用を受ける)。
 なお、小売・サービス事業所のみからなる企業に関しては、これまで<2>の売上・取引額の基準が36万2500ドルと、より高く定められていたが、改正後はかかる小売・サービス業に対する特別扱いがなくなり、原則どおり50万ドルの基準が適用される。他方で、建設業および衣類の洗濯・修繕業については、従来は<2>の要件が適用されず、<1>さえみたされれば法の適用があったのが、改正後はやはり特別扱いが廃止され、年間の売上・取引総額が50万ドル以上という基準が加わった。しかし、これまでは建設業、衣類の洗濯・修繕業と同じ扱いであった病院・看護施設・学校は、改正により逆に<1>の用件までなくなって、すべてが公正労働基準法の適用を受ける結果となった。
 結局、法適用企業の基準は今までよりも整理され、次のようになったのである。
 (ア) すべての病院・看護施設・学校、
 (イ) すべての公的機関、
 (ウ) それら以外で、<1>通商に関連する被用者を2人以上雇用し、かつ、<2>年間の売上・取引総額が50万ドル以上(小売段階での消費税を除く)である企業。
 〈州内的小売・サービス事業所の適用除外の廃止〉 従来は、公正労働基準法の適用対象となる小売・サービス事業所のうち、<1>州内での売上が全体の半分をこえるもの、および、<2>製造加工も行う場合、州内での売上が全体の半分をこえ、かつ製造加工品に限れば州内での売上が85%をこえるもの、に関しては、最低賃金および労働時間の規制が除外されていた(13条(a)(2)、(a)(4))。
 1989年の法改正は、このような州内的小売・サービス事業所に対する適用場外規定を削除した。したがって使用者は、週40時間をこえる労働に対する時間外賃金支払義務をもはや免れなくなったのである。上記の、法適用企業の基準となる売上・取引額における小売・サービス業企業の特別廃止とあわせて、小売・サービス事業所への規制拡大が意図されている。
 ちなみに、小売店で販売業務を行う被用者は、たとえ州外で生産された商品を扱っていても、「通商に、または通商のために生産に従事する被用者」とはいえず、個人としての公正労働基準法の適用範囲には含まれない。しかし、通商に、または通商のために生産に従事する「企業」の判断基準のうち、第1の、通商に関連する被用者には該当する。したがって、そのような被用者が2人以上雇用され、かつ、その企業の年間売上・取引総額が50万ドル以上であれば、全被用者について公正労働基準法が適用されることになる。そして現在では、かかる場合、当該事業所の売上のうち州内分の比率のいかんを問わず、7条(a)の時間外賃金規制が及ぶのである。
 〈補正的教育時間に関する特設の新設〉 労働時間規制に関する特例規定として、1989年改正で、新たに7条(q)が設けられた。これは、読み書きなど、非常に基礎的な能力を欠く非容赦のために使用者が実施する教育の時間を、1週あたり10時間を上限として、7条(a)の労働時間規制の枠外とするものである。かかる教育に該当するためには、次の3つの要件がみたされなければならない。
 (ア) 高校卒業または8年生レベルの教育を達成していない被用者に対して行われ、
 (イ) 読む能力やその他8年生以下のレベルの基礎的な能力を与えることを目的としており、かつ、
 (ウ) 職務に特有の訓練を含んでいないこと。
 〈違反に対する民事罰の導入〉 1989年法改正は、使用者が法律上定められた最低賃金または時間外賃金の支払を怠った場合の制裁として、従来の民事・刑事の責任に加えて、新たに行政的な民事罰(civil penalty)の制度を設けた(16条(e))。民事罰としては、労働長官が罰金の額を決定し、違反者に対して国庫への支払を命じる、簡易迅速な制裁制度である。公正労働基準法においては、改正前は年少者使用禁止規定の違反についてのみ民事罰制度が採用されていたが、これを最低賃金・労働時間規制にも拡大したのである(ちなみに、年少者については民事罰の上限が1つの違反につき1000ドルであったのが、1万ドルに引き上げられた)。
 最低賃金・時間外賃金の違反に対する民事罰は、それが再度または故意の違反であることが要件とされている。罰金の上限は、1つの違反につき1000ドルである。
 〈コンピュータ関係の専門的被用者に関する適用除外の拡大〉 公正労働基準法13条(a)(1)によれば、管理的・運営的・専門的被用者に対しては賃金・時間規制の適用が排除され、後に見るように、労働長官は同規定にもとづいて、かかる被用者を定義する規制を制定している。この規制に関して、1990年の改正法(Public Law 101-583)の規定は、「コンピュータ・システム・アナリスト、コンピュータ・プログラマー、ソフトウェア・エンジニア、その他これらと同等の技術知識を有する専門的労働者」を、13条(a)(1)にいう管理的・運営的・専門的被用者と認めるよう労働長官に命じている。また、これらの者が時間給で雇用されている場合には、それが最低賃金率の6.5倍以上であることを条件とするよう定めている。
 従来の規則では、これらのコンピュータ関係の専門的被用者は、高度の専門技術を要するとはいえ、そのための資格や専門教育の統一的基準が確立していないので真正な専門的被用者とは認められず、職務内容からいって管理的または運営的被用者に該当する場合を除き、時間規制の適用除外は認められないとされてきた。そこでコンピュータ産業は、かかる取り扱いの変更を求めて長年ロビイングを行ってきており、これが遂に成功したのである。労働長官は、上記規定に従って新たな規制を発表し、若干の修正を経て確立された最終的な規定(29 C.F.R.541.3,541.303)が1992年11月から施行されることとなった。
 なお、従来、時間給による者は、その額いかんを問わず、およそ適用除外対象被用者とは認められていなかった。改正法は、コンピュータ関係の専門的被用者について特に、この点を緩和するものである。
(2) 管理的・運営的・専門的被用者および外勤セールスマン
 公正労働基準法13条(a)(1)は、「真正な管理的(executive)、運営的(administrative)もしくは専門的(professional)地位において使用される被用者(小中学校において教育運営職員もしくは教師として使用される被用者を含む)」または「外勤セールスマンとして使用される被用者」について、最低賃金および時間外賃金の規制の適用を除外している。いわゆる「ホワイトカラー・イグゼンプション」(white-collar exemption)であり、これらの被用者(特に前3者)は一括して、しばしば「イグゼンプト」(exempt)と呼ばれている。
 表4-1に示したように、管理的・運営的・専門的被用者は総数が2135万人で、アメリカの被用者全体のうち約19%を占めているが、民間部門に限れば15%弱である。また外勤セールスマンは、290万人、民間被用者の3%あまりである。
 以下には、これらの被用者の定義のために労働長官の定めた規則(29 C.F.R.Part 541)の骨子を最近の動きも交えつつ紹介する。
表4-1 公正労働基準法13条(a)(1)の適用除外該当者数(1989年9月時点の推計値)
表4-2 連邦法における管理的・運営的・専門的被用者および外勤セールスマンの定義
表4-2 連邦法における管理的・運営的・専門的被用者および外勤セールスマンの定義(続き)
 〈管理的被用者〉 管理的被用者の基本的定義としては、表4-2に示した6つの要件のすべてをみたすことが要求されている(29 C.F.R.Part 541.1)。しかし、(6)の俸給額が週あたり250ドルをこえる被用者については、特例として、そのほかに上記のうち(1)および(2)をみたせば管理的被用者と認められる。今日の賃金水準からいって週250ドルを下回ることは稀であり、実際には、この特例によって、2人以上の被用者を有する企業または部課で、それらの被用者を定常的に指揮監督して管理することを主たる職務とすれば、人事権限、裁量権限、非除外職務の程度いかんにかかわらず、管理的被用者と認められるのである。
 ちなみに、現在の俸給額基準は、1975年に定められたものである。それ以前は4~5年ごとに改訂がなされており、現に1981年1月には基準額引き上げのための規則改訂最終草案が発表されたが、レーガン政権発足とともにその実施が無期限に凍結され、そのまま今日にまで到っている(もっとも、労働省では近いうちに基準引き上げを計画しているようである)。とにかく現在では、俸給額の基本的基準はもちろんのこと、「高給者」の基準も、ホワイトカラー職の初任給を大きく下回るという状況にある。
 ただし(6)は、金額とは別に、週以上の期間を基礎とする「俸給」(salary)による賃金支払という要件をも課している。俸給とは、労働日数や労働時間数にかかわらず、一定額の給与が支払われることを意味する。週給制や月給制はよいが、日給制や時間給制では要件をみたさない。ただ、被用者自身の理由による欠勤の場合は、それがまる1日に及べば、これに対する賃金減額がなされても、例外的に、俸給制要件に反しないと扱われる(もっとも、私傷病による欠勤については、所得喪失に対する補償制度が存在する場合に限られる)。しかし、被用者の理由による欠勤でも、それが数時間あるいは半日など1日未満の場合にも支払俸給額の減額がなされるならば、その者はもはや管理的被用者とは認められない。かかる1日未満の欠勤に対する賃金減額の制度は、運営的被用者および専門的被用者に関しても同様に適用される。
 〈運営的被用者〉 運営的被用者の基本的定義としては、表4-2に示した5つの要件をすべてみたすことが要求されている(29 C.F.R.541.2)。(3)に掲げられているように、運営的被用者には本来、(ア)管理・運営補佐、(イ)スタッフ被用者、(ウ)特別任務遂行者、という3つの基本的類型が存在する。
 しかし、やはり週250ドルをこえる給与を得ている者については特例があり、(1)および(2)がみたされれば、つまり、主たる職務が事業運営全般に直接に関連するホワイトカラー被用者で、定常的に裁量・独立判断を行うならば、それらの類型や非除外職務の割合にかかわらず、運営的被用者と認められる。なお、事業運営全般に「直接に関連する」とは、事業全体にとって「実質的に重要性を有する」職務であればこれに該当すると広く解釈されており、財務、商取引、人事などの方針の決定または実施を行う者はもちろん、税務、安全衛生、賃金分析、ブローカーなどの専門者も含まれる。また、アドバイザーやコンサルタントのように、使用者の顧客の事業運営全般に重要な影響を与える被用者でもよい。
 運営的被用者では、俸給有給制のほかに「報酬」(fee)による賃金支払も認められている。これは、ある仕事の遂行に対して支払われる一定の金額をいい、やはり労働時間の長短により支払額が変動しないものである。
 なお、学校等で教育過程の管理運営を行う「教育運営職員」(academic administrative personnel)に関しては、(1)および(5)について特別な要件が定められているが、ここでは省略する。
 〈専門的被用者〉 専門的被用者の基本的定義としては、表4-2に示した5つの要件をすべてみたすことが要求されている(29 C.F.R.541.3)。(1)に掲げられているように、専門的被用者には(ア)学識的専門職、(イ)芸術的専門職、(ウ)教師、という3類型が存在する。学識的専門職は、大学以上のレベルで長期間の科学的学問的専門教育の終了が職務に直結しているものであり、法律、医学、看護、会計、保険数理、工学、建築、物理、化学、生物、薬学、医療技術などの専門者がこれに含まれる。芸術的専門職は、一般的な能力・訓練ではなしえないような独創的・創造的芸術活動を職務として雇用される者である。
 専門的被用者についても、(5)の俸給・報償額が週250ドルをこえる場合には、より簡易な基準による特例が認められる。すなわち、学識的専門職および教師では、(1)の職務条件に加えて(2)の裁量・判断性の要件がみたされればよい。また芸術的専門職については、(2)も要求されず、(1)の職務要件のみとなる。
 〈コンピュータ関係の専門的被用者〉 前述のように、1990年の法律によって、コンピュータ関係の専門的被用者に対し13条(a)(1)の適用除外を認めるべきこととされた。これに受けて改訂された規則(29 C.F.R.541.3,541.303)は、専門的被用者の第4の類型として、かかるコンピュータ関係の専門的被用者を明確に位置付けた(当初の規則草案では全体的な特別規定の形式をとり、この点が不明確であったが、最終的に専門的被用者の基本的定義の中に組み込まれた。つまり、表4-2に掲げた専門的被用者の要件の(1)に、(エ)として追加されたのである)。
 対象となる被用者は、その主たる業務が「コンピュータのシステム分析、プログラミングおよびソフトウェア・エンジニアリングに関する高度に専門的な知識を理論的および実際的に応用することを必要とする」者で、かつ「コンピュータ・ソフトウェアの分野において、コンピュータ・システム・アナリスト、コンピュータ・プログラマー、ソフトウェア・エンジニア、またはその他これらと同等の技術的知識を有する労働者として雇用され、実際にそのような業務を行っている者」である。コンピュータの異なる操作者や、コンピュータ・ハードウェアの製造、修理、保守を行う者、コンピュータを用いてデザインや設定を行うにすぎない者は、そこに含まれない。
 かかる被用者も、専門的被用者として、他に(2)から(5)までの要件をみたすことが本来必要である。また、高給者への特例で、週あたり俸給・報酬額が250ドル以上の場合には(2)の裁量・判断制のみがみたされればよいことも、学職的専門職および教師の場合と同じである。しかし、さらにコンピュータ関係の専門的被用者のみに関する特例として、(5)の要件は、最低賃金率の6.5倍以上の時間給を支払われている場合には適用されない。現行の最低賃金率が4.25ドルであるので、その6.5倍は27.635ドル、週40時間とすると1105ドルとなる(これはあくまで時間給の場合の要件であり、週あたり俸給制の場合には原則どおり170ドルでよい)。
 〈外勤セールスマン〉 外勤セールスマンは、表4-2に示した3つの要件をすべてみたすことが必要である(29C.F.R.541.4)。(1)のサービス契約獲得には、自分でそのサービスそのものを提供する場合は含まれない。(2)の外勤制の要件は、顧客の場所でセールスを行うことを意味し、自宅等から電話や郵便でセールスを行うものは含まれない。もっとも、本来的職務が(1)(2)をみたせば、それに伴うセールスの計画や記録の作成、会議出席などの内勤も(3)にいう付随連結業務と認められる。
 このように、外勤セールスマンの概念はかなり限定されたものである。ただ、これに該当しなくても、外勤被用者のうち一部のものは、運営的被用者(特に特別任務遂行者)要件をみたして除外対象となりうること、また自動車等のセールス・サービス被用者は外勤か否かを問わず13条(b)(10)により時間規制の適用を除外されることを注意しておく。
 〈政府被用者に関する俸給制要件の緩和〉 上に述べたように、管理的・運営的・専門的被用者のついては(コンピュータ関係専門的被用者の時間給の場合を除き)週以上の期間を単位とする俸給制が要件となり、そこにおいては、1日未満の欠勤に対する賃金減額は認められていない。しかし、政府被用者の場合には通常、納税者に対する責任の観点から、法律や条例などによって、1日未満の欠勤であっても賃金減額をなすことが当局に義務づけられている。その結果、職務内容からいって除外が認められて当然の被用者が、俸給制要件をみたさないために、時間外賃金規制の対象となってしまうことになる。このことは、1985年の連邦法最高裁の判例変更によって州・地方政府被用者も広く公正労働基準法の適用対象とされたことから、特に大きな問題となった。
 そこで、かかる政府被用者の特殊な事情に対処するために規則改正がなされ、1992年9月実施された(29 C.F.R.541.5d)。これによれば、公的機関の被用者については、法律・条例・規則または公的責任の原則に従って確立された方針・慣行にもとづく給与制度が、(1)私用休暇および傷病休暇の権利を認めており、かつ、(2)1日未満の欠勤につき被用者がかかる休暇を利用しなかった(あるいは利用できなかった)ときには給与を減額することを義務づけている、という場合であれば、そのような1日未満の欠勤に対する給与の減額がなされても、そのことゆえに管理的・運営的・専門的被用者としての地位を否定されない。また、公的機関の被用者が予算の制約から休暇をとらされ、それに応じて給与を減額された場合でも、当該週以外の週における俸給制要件該当性は否定されない。
2 州法の全体像
 (1) 労働時間規制の内容
 表4-3は、アメリカの州法による時間外規制の概要を示したものである。これは、1991年の夏に各州に送付した簡単な質問票に対する回答と、同封されてきた資料にもとづいて作成した。
表4-3 アメリカ各州における労働時間規制
 〈時間外賃金規制〉 各州の法律を見ると、まず、公正労働基準法と同様に週あたり標準労働時間を定め、それをこえる時間に対して時間外賃金の支払を義務づけるものと、そうでないものとに分かれる。数からいえば、前者が32州、後者が18州となる。
 時間外賃金規制のない州は、デラウェア、インディアナ、バージニア、サウスカロライナ、ジョージア、フロリダ、テネシー、アラバマ、ミシシッピ、ルイジアナ、テキサス、オクラホマ、ネブラスカ、サウスダコタ、アイオワ、ワイオミング、ユタ、アリゾナであり、南部諸州が目につく。これらのうち、週休日や休憩時間についての一般的規制を有するのは、バージニア州(週休日)とネブラスカ州(食事時間)にすぎない。なお、ワイオミング州の法律には、女子についてのみ時間外賃金(1日8時間、1週48時間)、最長労働時間(1日12時間)および食事・休憩時間の規定が設けられているが、男女平等の見地から見てその効力は非常に疑問であると同州自体が回答してきており、また少なくとも男子にはこれらの規制は及ばないので、こちらのグループに入れている。
 これに対して、時間外賃金規制をおこなっている32の州では、そのうち25州が、週40時間をこえる労働に対して当該被用者の通常賃金率の1.5倍以上という公正労働基準法と同内容の規制となっている。また、4つの州では、週40時間に加えて1日あたりの標準時間を定め、それをこえる労働につきやはり時間外賃金の支払を要求している。すなわち、アラスカ、ネバダ、カリフォルニアの3州が1日8時間を採用しており、またコロラド州では、業種により1日8時間または12時間とされている(もっとも業種によっては1週40時間のみで1日の規制のないものもあるようである)。残る3州は、逆に公正労働基準法よりも緩く、週40時間を上回る時間を標準時間としており、カンザス州では週46時間、ミネソタ、ニューメキシコの両州では週48時間となっている。
 傾向としては、週40時間の基準が広がりつつあるようである。かつては時間外賃金規制を行っていなかったミズーリ州が、1990年から週40時間で1.5倍という規制を開始した。かつては週45時間の基準をとっていたノースカロライナ州も、1992年からは週40時間に移行した。また、かつては週40時間をこえる労働に「最低賃金率の」1.5倍の支払を命じるのみであったニューヨーク州も、1987年からは、他州と同じく当該被用者の通常賃金率の1.5倍を要求するようになっている。
 なお、州法と連邦法との関係について一言しておけば、時間外賃金規制を行っている州の場合、基本的に州法は公正労働基準の対象者にも及びうる。したがって、それらの被用者については州法と連邦法とが重畳的に適用される(多くの場合、両者は同内容であるが)。しかし、一部の州では、法律上明示的に、公正労働基準法が適用される被用者に対する州法の適用を否定している(アーカンソー、カンザス、ミズーリ、ニューハンプシャーなど)。また、後に見るペンシルベニア州のように、運用上、連邦法の規制下にある被用者については州法を適用しないとしているところもあるようである。各州での取り扱いをもう少し知りたいところであるが、今回の質問票ではこの点の項目を含めていなかったのが残念である。
 〈週休日および食事・休憩時間〉 一般成人労働者の週休日や休憩については、何ら規制を行っていない州が31を数え、規制を行っている州のほうが少数である。
 比較的多いのは食事時間の義務づけで、16州の法律(または命令)に規定されていた。5時間または6時間をこえるシフトにつき30分の食事時間を与えるよう命じるのが一般的であるが、20分あるいは「合理的時間」とするものもある。また、基準となるシフトの長さを7.5時間あるいは8時間と長くする州もある。休憩時間の規定は7州と少ない。その内容は、1州を除き、いずれも4時間ごとに10分となっている(ミネソタ州のみは、4時間ごとに「直近のレストルームに行くのに十分な時間」と定めている)。
 週休日(日曜閉店法令は除く)の規定を有するのは、10州である。使用者は週に1日の休日を与えなければならないと定めるのが一般的であるが、コネチカット州では、被用者は週6日をこえる労働を拒否しうる(それを解雇理由にできない)という形の規定をしている。
 (2) 適用除外・特例
 州法による時間外賃金規制においても、それぞれ様々な適用除外や特例が定められている。質問票では、公正労働基準法での適用除外および特例を考慮しながら、(ア)管理的・運営的・専門的被用者、(イ)外勤セールスマン、(ウ)小規模な小売・サービス業、(エ)地域運送トラック運転手、(オ)病院の被用者、の扱いについて尋ねてみた。以下に、その回答および送付された資料から得られたところを記す。
 〈管理的・運営的・専門的被用者〉 管理的・運営的・専門的被用者については、公正労働基準にならって、どの州法においても時間外賃金規制の対象から除外されている。つまり、これらの被用者の労働時間は連邦法でも規制がなされていないのである。
 管理的・運営的・専門的被用者の定義も、大多数の州は公正労働基準法の下での規則をそのまま採用している(なお、コンピュータ関係の専門的被用者については、最近ようやく連邦法の規則ができたばかりであり、どこの州法でもまだ規定されていない)。したがって、俸給制要件の金額の定め方も連邦法と同じで、週あたり155ドル(専門的被用者は170ドル)が基本となり、週あたり250ドル以上のときには特例が認められる。ただ、いくつかの州では連邦法と若干異なる額が定められている。例えば、ウィスコンシン州では月あたり700ドル(専門的被用者については750ドル)、メーン州ではいずれの被用者についても週200ドルとされている。またニュージャージー州では、基準額が最近大幅に引き上げられて、いずれの被用者についても週あたり400ドルをなった。他方、アラスカ州では俸給制であればよく、その額については特に定められていない。
 州によっては、連邦法にいう管理的・運営的・専門的被用者に加えて、さらに独自の適用除外を設けるところもある。例えば、ノースダゴタ州では、管理的・運営的・専門的被用者(その俸給制要件は、アラスカ州と同様、金額の定めがない)のほかに、事務機器操作などの広範なオフィス業務を包括する「技術的・事務的被用者」(technical and clerical employee)というカテゴリーが設けられ、かかる被用者のうち週250ドル以上の賃金を支払われ、かつ50%以上の時間は2人以上の被用者を監督する者は時間規制の適用除外対象とされている。また、ハワイ州でも、管理的・運営的・専門的被用者のほかに、定常的に5人以上の被用者を指揮監督する「監督的被用者」(supervisory employee)が適用除外対象となっている(俸給制要件は、管理的・運営的・専門的被用者および監督的被用者を通じて週210ドル以上とされている)。なお、コロラド州は、人事権限を有する「監督者」(supervisor)および列挙された専門職を適用除外とする形をとっており、連邦法の枠組みよりも狭いようであるが、実際にどの程度のずれがあるのか明かではない。
 カリフォルニア州では、やはり管理的・運営的・専門的被用者が時間規制対象外とされているが、それらの定義が連邦法とやや異なっている。第1に、俸給制要件の基準額が、いずれの被用者についても月900ドル(産業によっては月1150ドル)とされている。これは、週給制を許容する連邦法と異なり、月給制が基本であることを意味する。また、食事・宿舎その他の現物給付が俸給額に算入されることも、連邦法と異なる点である。なお、高給者に対する特例はなく、給与額に関わらず常に職務内容が基本的定義をみたす必要がある。第2に、管理的・運営的・専門的被用者の定義において、非除外的業務の上限が50%未満と、連邦法の20%以内という基準よりも緩やかになってきている。第3に、専門的被用者の範囲が連邦法よりもかなり狭く、正式の免許を有する法律家、医師、歯科医師、薬剤師、検眼師、建築士、工学技師、教師および会計士が除外対象専門的被用者として列挙されている(これらに該当すれば俸給額は問われない)。それら以外でも、長期間の専門教育、業務遂行における裁量性と時間管理不適当性、主たる業務の創造的・知的性格、月900ドル(あるいは1150ドル)の俸給・報償制要件のすべてをみたせば学職的専門職と認められうるが、その範囲は、一部の研究科学者や他質学者などに限られており、ごく狭い。また芸術的専門職も、自営業者とみなされない限り、一般に使用者の時間的拘束の下にあるため、除外対象被用者と認められない。かくしてカリフォルニア州では、連邦法や他の州法と異なり、看護婦・看護士、療法士、医療技術者、統計士、非公認会計士、司書、州の免許を受けていない教師、ソーシャルワーカー、画家、写真家、編集者、コピーライターなどは、原則的に専門的被用者に入らず、時間外規制の対象となる。
 〈外勤セールスマン〉 外勤セールスマンについても、ほとんどの州法では、連邦法と同様に適用除外としている。ただ、それらの中には、報酬がコミッション制により支払われることを特に要件としているものもある。例えば、メリーランド州およびネバダ州では、報酬の半分以上がコミッションによることが要件とされており、またメーン州およびミズーリ州では一部でもコミッションによれば適用除外となる。そのほかアーカンソー州、カンザス州、ニューメキシコ州でも、「コミッションによる」外勤セールスマンへの適用除外が認められている。逆に言えば、これらの州では、コミッションによらない外勤セールスマンについてはなお時間外賃金の適用があることになる。
 ミシガン州におよびモンタナ州では、外勤セールスマンに対しても一般に時間外賃金規制がおよぶとされている。
 〈小規模な小売・サービス業〉 小規模な小売・サービス業の使用者に関しては、何らかの適用除外を認めるものとみとめないものとに分かれた。すなわち、時間規制を行っている州の約半数では、使用者の規模の大小を問わず一律に時間外賃金支払義務を課している(アラスカ、カリフォルニア、カンザス、メリーランド、ミシガン、モンタナ、ニュージャージー、ノースダコタ、オレゴン、ペンシルベニア、ロードアイランド、ワシントン、ウィスコンシンなど)。
 これに対して、いくつかの州では、年間売上を基準として、小規模なサービス・小売業の使用者は法の適用範囲外としている。例えば、アイダホ州(年商50万ドル未満の小売・サービス事業所のみを有する企業)、ケンタッキー州(過去5年の年商が連続で9万5000ドル未満)、ミズーリ州(年商50万ドル未満)、ネバダ州(年商25万ドル未満)、オハイオ州(年商15万ドル未満)がこれにあたる。
 また、他の州では、小売・サービス業に限らず小規模な使用者を一般的に法の適用対象外としており、この場合には使用する被用者の人数が基準とされている。例えば、アーカンソー州およびイリノイ州では被用者数4人未満の使用者が、ウェストバージニア州では被用者数5人以下の使用者が、それぞれ適用範囲外とされている。
 〈地域運送トラック運転手〉 地域運送トラック運転手については、かなりの数の州が、時間外賃金規制が及ぶと回答してきた(アラスカ、アーカンソー、カンザス、メリーランド、ミシガン、ニュージャージー、ニューメキシコ、オレゴン、ペンシルベニア、ロードアイランド、ワシントンなど)。逆に、ケンタッキー州およびニューヨーク州では除外されるとの回答であった。なお、モンタナ州法では、公正労働基準法におかれている規定(13条(b)(11))と同じ要件による適用除外規定が設けられている。
 〈病院被用者〉 病院被用者に関する各州の回答は、「時間外賃金支払義務はある」、「連邦法による」、「連邦法と同じ」、「医療従事者であれば除外」など、かなり雑然としていた。推測すれば、まず病院については、公正労働基準法がほぼ例外がなく適用される。そのため、公正労働基準法の適用者に対する州法の適用を否定するところでは、州法適用の余地はない。また、州法の重複適用を認める州でも、公正労働基準法7条(j)の14日あたり80時間という特例にならって、連邦法と同じ規制内容としている州もあるようである。「連邦法と同じ」あるいは「時間外賃金支払義務あり」との回答が、かかる特例まで含んでいるのか否か、判然としなかった。しかし、いずれにしても、連邦法および州法を通じて、医師や看護婦・看護士等の大部分は専門的被用者として時間規制の対象外なっており、それが「医療従事者であれば除外」の意味であろう。
3 イリノイ州、ニューヨーク州、ペンシルベニア州の労働時間規制
 以下では、今回の調査で訪問したイリノイ、ニューヨーク、ペンシルベニアの3州の労働時間規制での概要を記す。いずれの州も、公正労働基準法と同様に、週40時間をこえる労働に対して通常賃金の1.5倍という時間外賃金規制を行っている。イリノイ州およびニューヨーク州では、そのほかに週休日および食事時間の義務づけもなされている。
 (1) イリノイ州
 〈時間外賃金規制と適用除外〉 イリノイ州では、1971年に規定された最低賃金・時間外賃金法(Minimum Wage and Overtime Law)の4a条(1)が、1週40時間をこえる労働につき当該被用者の通常賃金率の1.5倍以上の率による時間外賃金が支払われるべきことを定めている。
 かかる時間外賃金規制については、同条(2)によって、一定の被用者に適用除外が認められている。すなわち、管理的・運営的・専門的被用者(その定義は連邦法によるとされている)のほか、自動車や農機具のセールス・サービス被用者、トレーラー・船・航空機のセールス・サービス被用者、農業被用者、政府被用者、小売・サービス事業所のコミッション制被用者、他の被用者との間で労働時間交代を行った被用者、一定の要件をみたす非営利的な教育施設等の被用者が、時間規制の適用除外者として列挙されている。
 さらに、被用者の定義を行っている3条(d)において、使用者の直近親族を除いた被用者数が4人未満の使用者に雇用される被用者が除外されているので、そのような小規模使用者の被用者にも時間外規制は及ばない。また外勤セールスマンも、同規定により被用者の定義自体から除外されている。
 被用者数が4人以上である限り、州内のすべての使用者にこの法律が適用される。したがって、公正労働基準法の適用下にある被用者にも、同内容のイリノイ州法が重複適用されることになる。
 〈時間外賃金規制のエンフォースメント〉 時間外賃金支払義務の不履行は、11条(b)によってB級軽罪を構成し、刑事罰の対象となる。また、民事上も被用者は、12条(a)にもとづき、使用者に対して法律に定められた時間外賃金の支払を訴求できる。このとき使用者は、本来の未払金額および訴訟費用のほかに、「懲罰的賠償」として、未払額につき1月あたり2%の割合で算定される金額を被用者に、かつ、未払額の20%の金額を州労働者に、それぞれ支払わなければならないとされている。なお、州労働省も同条(b)によって、被用者のために、使用者を相手に訴訟を提起しうるが、この場合には、公正労働基準法の下での付加金と同様に、未払額と同額の懲罰的賠償が付加されるとされている。
 〈休日および食事時間〉 イリノイ州では、1935年に制定された「週6日法」(Six Day Week Law)が、被用者の週休日および食事時間を規制している。この法律は、被用者の数にかかわらず、すべての使用者に適用される。
 まず、休日については、同法の2条が、各暦週に連続24時間の休日を与えることを使用者に義務づけている。ただし、同条は適用除外者を列挙しており、その中には、週20時間以下のパートタイマー、事故等による緊急作業の処理に必要な被用者、農業または炭鉱の被用者、季節的な農産物の缶結・加工の被用者、監視、警備被用者と並んで、管理的・運営的・専門的被用者、外勤セールスマン、および全国労働関係法に言う「監督者」が含まれている。
 休日労働が必要な場合には、使用者は8条により許可を受けることができる。許可申請は、休日労働の日時、人数、職種、その職種の者につきレイオフがなされていないこと、および休日労働に任意に同意した被用者のみが行うことを明記した書面により、事前になさなければならない。ただし、緊急の場合には、電話等で連絡し、後で書面を提出することも認められている。休日労働被用者が発生する週が年に8週以内であれば、許可がほとんど無条件に与えられる。しかし、それが年9週以上になると、業務上の必要性と経済状況、人員増で対応できない理由等のチェックが行われる。なお、4条により休日労働の強制は禁止されているため、たとえ許可があっても、休日労働はそれに任意に応じた被用者にしかさせてはならない。ちなみに、前記の週40時間をこえる労働に対する時間外賃金を別にすれば、休日労働ゆえの特別の賃金は要求されていない。
 次に、食事時間については、3条が、7.5時間以上継続して働く被用者に対し、その労働時間開始時点から5時間以内に20分を食事時間として与えることを要求している。この規定は、労働協約により食事時間につき別段の定めがなされている場合には適用されないが、それ以外であれば、管理的被用者等も含めて一般的に適用される。
 この法律の違反に対しては、6条によって、各週における各被用者に関する違反ごとに、25ドルないし100ドルの罰金が科せられる。
 (2) ニューヨーク州
 〈最低賃金命令による時間外賃金規制〉 ニューヨーク州の時間外賃金規制は、州労働法典の第19節にあたる最低賃金法(Minimum Wage Act)にもとづき州の労働長官が最低賃金命令を発する形でなされている。かつては産業により9つの命令が出されていたが、1987年に統合整理され、現在では4つの命令のみが存在する。それらは、ホテル業、レストラン業、建物サービス業およびその他の諸産業・諸職種をそれぞれ対象とする命令であり、結局ほとんどすべての被用者が第4の「その他の諸産業・諸職種」の命令の適用を受けることになる(もっとも、時間外賃金規制の内容については、どの命令も基本的に同一である)。
 その他の諸産業・諸職種に関する最低賃金命令では、142-2.2条が、1週40時間(住込みの被用者については44時間)をこえる労働につき当該被用者の通常賃金率の1.5倍の時間外賃金を支払うように使用者に命じている。かつてニューヨーク州は、『変容する労働時間制度』で紹介したように、週40時間をこえる労働に対して「最低賃金率」の1.5倍の支払いしか要求していなかったが、1987年の命令統合にあたり、現在のような公正労働基準法および他州法と同じ内容の規制に変更されたのである。
 なお、最低賃金命令では、出勤した仕事がなかったという場合における最低賃金率で4時間分(シフト時間が4時間未満のときはその時間数)の手当、シフト分割により拘束時間が10時間をこえる場合における最低賃金率1時間分の手当などの規定もおかれている。
 〈時間外賃金規制の適用除外〉 ニューヨーク州の最低賃金法では、651条(5)の被用者の定義において、ベビーシッター、タクシー運転手、農業被用者、宗教施設被用者、政府被用者などが同法の適用対象から除外されており、管理的・運営的・専門的被用者および外勤セールスマンもそこに列挙されている。さらに、時間外賃金規定自体が、公正労働基準法の7条および13条の例外にあたるものについては適用対象としないことを明記している(ただし13条(a)(2)および(a)(4)の州内的な小売・サービス事業所に関するものは除くとされており、これらに対してはニューヨーク州の時間外賃金規制が及ぶ。ちなみに13条(a)(2)および(a)(4)の両規定は、前述したように、1989年の公正労働基準法改正によって廃止された)。管理的・運営的・専門的被用者の定義も命令において定められているが(142-2.16条)、そこでは基本的に連邦法の規則によりつつも、非除外業務の制限規定が見あたらず、また管理的および運営的被用者については俸給額基準が週あたり318.75ドル(ただし食事・宿舎費等も含める)と高くなっている半面、専門的被用者については俸給・報酬制要件が排除されている、といった特徴がある。
 なお、ニューヨーク州では、使用者の規模による除外は認められておらず、小規模な使用者も一律に時間外賃金支払義務を負う。また、公正労働基準法の適用対象となる被用者に関しても、州法の規制が重畳的に及ぶ。
 〈時間外賃金規制のエンフォースメント〉 最低賃金命令の時間外賃金支払義務の違反には、最低賃金法662条2項によりB級軽罪として刑事罰が科せられる。また民事上、被用者は使用者を相手に訴訟を提起し、663条にもとづいて、未払時間外賃金額および訴訟費用と、未払額の25%の付加金を請求することができる。ただし、付加金が認められるのは故意の違反の場合に限られる。被用者のために州労働長官が訴訟を提起する場合も同様である。公正労働基準法の下における、未払金額と同額の付加金と比較すると、ニューヨーク州の付加金の額は小さい。しかし、これとは別に、1980年から民事罰の制度が採用され、時間外賃金支払義務違反に対しても未払金の50%以内の民事罰を行政が課しうるようになっており、これが実際には使用者に法遵守を迫る上で大きな効果を発揮しているようである。
 なお、連邦法との重複については、先に手掛けたほうが担当する扱いになっており、違反の申告がなされると連邦労働者の機関に電話をかけ、現にそちらで進行中でなければ州が取り上げるとのことであった。
 〈週休日および食事時間〉 ニューヨーク州の週休日および食事時間は、州労働法典の第5節に規定されている。
 週休日を規定するのは161条1項であり、毎暦週に連続24時間の休日を被用者に与えるよう命じている。ただし、これは、工場、商業事業所、ホテル、レストラン、エレベーター運行に限定されていることに注意を要する(そのほか映画館の映写技師、劇場被用者、建物管理人にも特別の休日規定がある)。また、職長をはじめ、乳製品製造、継続作業の必要な業務、パン製造や動物の世話、ボイラーや機械の補修、リゾートや季節的ホテル・レストラン、ドックでの船の修理について適用除外が定められている。
 休日労働をさせなければ特別の困難が生じる場合には、使用者は同条5項にもとづいて許可を申請することができる。申請は、書面で、休日労働日数、期間、理由、他に手段がないこと、労働組合の存否、および対象被用者全員がそれに同意している旨を明記してなされる(特に用紙は用意されていない)。事情を調査の上、許可の可否を決定するが、単に人手不足で採用もできないという程度の理由では許可されない。許可の期間は、ほとんどが1ヵ月から3ヵ月以内である。
 次に食事時間については、162条が、工場については60分、商業その他の事業所については45分の昼食時間の付与を使用者に義務づけている。午前中から開始して午後7時すぎまで続くシフトについては、さらに20分の食事時間を追加して与えねばならない。また、午後1時から午前6時までの間に開始し、6時間をこえるシフトの場合には、工場であれば60分、商業をの他の事業所であれば45分の食事時間が義務づけられる。
 ただ、許可を受ければ上記よりも食事時間を短くすることもできるとされている。実際上は、州労働省のガイドラインによって、30分以上の食事時間であれば、使用者による許可申請がなされなくても、特に被用者に困難が生じない限りこれを許容することとされている。30分よりも短い食事時間については、特別な事情がある場合にのみ、かつそれが20分以上であることを条件に許可がなされる。そのほか、このガイドラインは、昼食(noonday meal)の時間帯は午前11時から午後2時までの間であればよいこと、当該職務を行う被用者が1人しかいない場合には、当人の同意を条件に、仕事をしながら食事をさせてよいこと、を定めている。また、食事時間規制については適用除外規定がなく、ホワイトカラーの管理職を含む全被用者に適用される旨も注記されている。
 週休日や食事時間の違反の申告はかなり少ないようである。実際に違反が発生していないのか、それとも金銭の問題とならないため被用者が申告しないのか、必ずしも明らかではない。
 (3) ペンシルベニア州
 〈時間外賃金規制の適用除外〉 ペンシルベニア州では、1968年に制定された最低賃金法(Minimum Wage Act)の4条(c)が、時間外労働に対して当該被用者の通常賃金率の1.5倍以上の賃金を支払うべきことを定めている。同法自体には何が時間外労働となるかは規定されていないが、州労働長官の定める規則の241.41条に、週40時間の基準が定められている。
 かかる時間外賃金規制の適用除外者は、法5条に、(a)最低賃金規制もあわせて除外される者と、(b)時間外賃金規制のみが除外される者とに分けて規定されている。前者には、管理的・運営的・専門的被用者、外勤セールスマンをはじめ、農場労働者、家事使用人、小規模新聞、ゴルフ・キャディー、小規模電話交換、政府の政治的任用者などが含まれ、また後者には、船員、車両や船などのセールス・サービス被用者、タクシー運転手、小規模放送局のアナウンサー、かえで糖製造被用者、映画館被用者などが含まれている。なお、管理的・運営的・専門的被用者の定義は規則231.82条以下にあるが、連邦法と全く同じである。
 最低賃金法は、規模の大小を問わず、すべての使用者を規制対象としている。ただ、実務上、ペンシルベニア州法は公正労働基準法の適用対象とならない被用者に対してのみ適用されるとの扱いがなされているようであり、連邦法と州法とが重複する事態は考えられないとのことであった。
 〈時間外賃金規制のエンフォースメント〉 使用者が最低賃金法による時間外賃金の支払を怠った場合には、12条にもとづき刑事罰が科せられる。民事上は、13条によって、被用者は未払分の時間外賃金を訴求でき、また州労働長官が被用者のために訴訟を提起することもできる。最低賃金法には付加金の規定はないが、賃金支払に関する別の法律によって、30日以上または賃金総額の5%をこえる支払遅延の場合、被用者は、未払額の25%または500ドルのうちいずれか大きいほうの金額の付加金の支払を請求することができる。
 〈週休日・食事時間〉 ペンシルベニア州では、公正労働基準法と同じ週40時間の時間外賃金規制を有しているのみで、週休日や食事時間に関する一般的法規制は存在しない。その意味でも、連邦法に忠実に対応した州法の例といえよう。
 II カナダの労働時間制度
 連邦国家であるカナダの労働時間法制は、連邦法と、10の州(provinces)の法律から成っている。連邦法が労働時間規制の中心となっているアメリカとは対照的に、カナダでは各州の独立性が強く、連邦の立法権限は狭い範囲に限定されており、労働時間制においても州法の比重が非常に高い。すなわち、連邦法が適用されるのは、州をこえる運輸・通信とそれに付随する貨物取扱い、および、航空、放送、銀行などの業種に限定されており、鉱工業や商業を含む大多数の産業は連邦法の対象外で、州法の管轄となっている。連邦と州の権限はそれぞれ排他的に並立しており、両方の規制が重複して適用されることはない。また、ノースウェストおよびユーコンの2準州(territories)は、本来は連邦の立法管轄権の下にあるが、現在では準州政府に大幅な自治権限が認められ、それぞれ独自の労働時間規制を行っている。結局カナダでは、連邦法の適用を受ける労働者は全体の10%にも満たない程度にすぎず、残りの労働者は州法または準州法のみの適用を受けている。
 以下では、まず、カナダの労働時間規制の全体像として、連邦および各州における労働時間法規制を概観し、労働時間本体の規則と休憩・休日・休暇の規則とに分けて、その全体的な特色を探ってみる。次に、連邦法および3つの州法を取り上げて、それぞれのより詳細な内容を紹介する。対象とした州は、オンタリオ州、ケベック州およびブリティッシュコロンビア州である。カナダの人口は1991年の推計値で約2683万人であるが、これら3州は、オンタリオ州が984万人(37%)、ケベック州が681万人(25%)、ブリティッシュコロンビア州が319万人(12%)で、それぞれ1位、2位、3位にあたり、合計で全体の4分の3の人口を占めている。また、産業からいっても、商工業の中心として特に大きな重要性を有している。
1 全体像
 (1) 労働時間規制の特色
 連邦および各州の労働時間規制の概要は、表4-4に示したとおりである。特徴として、以下の諸点を指摘することができよう。
表4-4 カナダの連邦および各州における労働時間規制
 〈標準労働時間と最長労働時間の分化〉 カナダにおける労働時間規制の第1の特色は、標準労働時間(standard hours of work)と、最長労働時間(maximum hours of work)とが分化している例がみられることである。標準労働時間とは、いわば賃金計算上の基準であり、それをこえる労働に対しては時間外割増し賃金が支払われるべきこととなる。これに対して最長労働時間とは、まさに労働時間の上限であり、行政官庁の許可等がなければ、たとえ時間外賃金を支払ってもそれをこえることを許されない。日本では法定労働時間が標準時間でありかつ最長時間であるが、カナダのいくつかの法域では両者が異なっている。例えば、連邦法では、標準労働時間が1日8時間、1週40時間であり、これをこえる時間に対して、使用者は、当該被用者の通常賃金率の1.5倍の時間外賃金を支払わなければならない。しかし最長労働時間は1週48時間であるので、標準労働時間をこえる時間外労働であっても、最長労働時間の枠内におさまっている限り、使用者がそのために許可を受ける必要はないのである。
 沿革から言えば、最長労働時間は、女子・年少者に対する古典的な保護立法が一般労働者に拡大したもので、ILO条約の影響もあったと言われる。これに対して標準労働時間はより新しく、1960年代以降に、労働協約の基準が法律に反映する形で広まったようである。後に紹介する3州を見る限りでは、最長時間規制よりも標準時間規制の法に重点が移っているとの印象を禁じえない(オンタリオ州における最長労働時間規制の複雑化・形式化、ケベック州における最長労働時間の規制の未発達(不存在)、ブリティッシュコロンビア州における最長労働時間規制の廃止)。
 〈州による多様な標準・最長労働時間設定〉 第2の特徴は、標準時間と最長時間の定め方が州によってかなり多様になっていることである。例えば、サスカチュワン州では標準時間が連邦法と同じく1日8時間、1週40時間であるが、最長時間は4時間短い1週44時間となっている。アルバータ州では逆に標準時間が1日8時間、1週44時間と週あたり4時間長く、また、最長時間は1日あたりで12時間とかなり長く定められている。オンタリオ州では、1日あたり標準時間がなく、1週44時間が標準時間とされている一方で、最長時間のほうは1日8時間、1週48時間と、1日および1週の両方について定められている。マニトバ州では、標準時間と最長時間がともに1日8時間、1週40時間と重なっている。なお、サスカチュワン、オンタリオ、マニトバの3州においては、最長労働時間をこえる労働につき被用者に拒否権が認められている。
 このように、標準時間と最長時間の双方を定めている諸州においても、それらの内容は区々であるが、さらに、最長時間がなく標準時間だけしか定めていない州もかなりある。この場合には、アメリカ法のように、時間外賃金さえ支払えば許可等の手続は不要となる。かかる標準時間についても、ブリティッシュコロンビア州が1日8時間、1週40時間であるのに対し、ケベック州では1週44時間となっているように、州によって同じではない。
 〈州あたり標準時間のパターン〉 連邦および各州法を、それらすべてにおいて定められている週あたり標準時間の長さで見ると、40時間、44時間、48時間の3つのパターンに分けられる。
 第1の、週40時間をとるグループは、連邦およびブリティッシュコロンビア、サスカチュアン、マニトバ3州法(および商店に関するニューファンドランド州)である。第2の、週44時間をとるグループは、アルバータ、オンタリオ、ケベック、ニューブランズウィック、ニューファンドランドの5州の法律である。第3の、週48時間をとるグループは、プリンスエドワードアイランドおよびノバスコシアの両州である。単純に人口でいえば、週44時間のところが3分の2以上を占め、週40時間が約25%、週48時間をとるのは3%程度である。
 このように、多様な州法の中でも、週あたり標準時間として44時間の基準をとるものが優勢で、40時間の基準がこれに続いているというのがカナダの労働時間規制の現状であり、これを第3の特徴と言うことができよう。
 〈東部諸州の緩やかな時間規制〉 第4の特徴としては、東部の諸州では労働時間規制がかなり緩やかであることが指摘できる。すなわち、ノバスコシア州では1週44時間の標準時間、ニューブランズウィック州では1週48時間の標準時間が、それぞれ定められているのみである。しかも、これらの州においては、標準時間をこえる労働に対する時間外賃金は、当該労働者の通常賃金率の1.5倍ではなく、法定最低賃金率の1.5倍が支払われればよいというものにすぎない。ニューファンドランド州では、一般の被用者に関する1週44時間という標準時間のほかに、商店被用者について1日8時間、1週40時間というより厳格な標準時間が定められているが、いずれについても時間外賃金はやはり最低賃金率の1.5倍にすぎない。また同州では最長時間も定められているが、これも1日16時間という非常に長いものである。
 なお、プリンスエドワードアイランド州は、1週48時間の標準時間をこえれば最低賃金率の1.5倍という、ニューブランズウィック州と同じ法規制を長らくとってきたが、1991年4月より法律が変わり、時間外賃金は当該被用者の通常賃金率の1.5倍に変更された。
 〈1.5倍の時間外割増しプラスαの規則〉 第5に、それら東部4州を除いた他の州法および連邦法では、アメリカと同じく、時間外賃金が通常賃金率の1.5倍と比較的高率であり、したがって、コストの圧力による時間外労働抑止機能がかなり高いものと思われる。しかも4つの州および連邦では、1週あたりに加えて、1日あたりの標準時間規制もある。またブリティッシュコロンビア州では、1日11時間、1週48時間をこえる場合には時間外賃金が通常賃金率の2倍になるという、段階的な割増賃金の制度をとっている。ブリティッシュコロンビア州以外では2倍という時間外賃金は見られないが、その代わりに最長時間規制がある。このように東部4州以外では、それぞれに内容は異なるものの、いずれも1.5倍以上の時間外賃金を伴う標準時間規制プラスαの労働時間規制がなされている。ただケベック州は例外で、1週44時間をこえれば通常賃金率の1.5倍という規制のみであり、東部4州と中西部諸州との中間的な位置にあるといえようか。
 〈労働時間規制の変化による柔軟化〉 第6の特色は、東部の4州以外の実質的時間規制を行っているところでは、基本的な労働時間規制枠組みを変形して柔軟化する制度を認めていることである。それらの要件や内容はそれぞれに異なるが、大別して2つの種類があるようである。ひとつは「平均化」(averaging)の制度である。これは、1週をこえる期間において1週あたりの平均労働時間が法定基準内にあればよいとする変形制である。もうひとつは「週労働時間の圧縮配分」(compressed workweek)の制度である。こちらのほうは、原則として1週あたりの法定時間の枠内で、1日あたりの上限をこえて所定時間の配分を許容するものであり、週休3日以上を念願においている。いずれについても、行政官庁の許可を要件とする例が多い。
 (2) 休憩・休日・休暇の規制
 カナダの連邦および各州における休憩・休日・休暇規制の概要は、表4-5から表4-7までに示したとおりである。食事時間・週休日および年次有給休暇のほか、法律で「有給一般祝日」(general holidays with pay)と呼ばれる制度が設けられていることが目を引く。
表4-5 カナダの連邦および各州における休憩(食事時間)および週休日の規制
 〈休憩時間〉 休憩時間については、5つの州において、食事時間の義務づけが行われている。すなわち、ブリティッシュコロンビア州、アルバータ州、およびオンタリオ州では、連続5時間の労働がなされた場合に30分の食事時間を与えることが使用者に義務づけられている。ニューファンドランド州では、連続5時間の労働に対して、商店においては60分、それ以外のところでは30分とされている。またマニトバ州では連続5時間の労働につき60分の食事時間と定められているが、許可または協約によりこれを短縮しうる。なお、サスカチュワン州にも60分の食事時間規定があるが、適用の範囲は、賃金額が最低賃金の125%以下の被用者に限定されている。
 そのほか、休憩時間に関しては、アルバータ州、オンタリオ州およびケベック州において、コーヒーブレークは労働時間に算入するとの規定が設けられている。
 〈週休日〉 オンタリオ州を例外として、連邦および各州の法律では、毎週1日の休日が定められている。週休日は原則として日曜日とする法律が多いが、アルバータ州およびケベック州では連続24時間、ブリティッシュコロンビア州では連続32時間と、それぞれ曜日を特定せずに時間数で週休日を定めている。もっとも、特に商業に関しては、これらの州も含めて、日曜日の営業を禁止ないし規制する法律があり、さらに条例によって地域ごとの日曜営業規制もなされている。近年では宗教の事由尊重の観点から、日曜日の営業・労働の禁止を緩和する動きが見られるとはいえ、なお、日曜休日の原則は確固として残っている。
表4-6 カナダの連邦および各州における有給一般祝日
表4-6 カナダの連邦および各州における有給一般祝日(続き)
 〈有給一般祝日〉 表4-6に示したように、連邦および各州において、年間で5日ないし9日の祝日が有給一般祝日に指定されている。かかる有給一般祝日制度は1947年にサスカチュワン州で初めて法律上設けられたと言われるが、1960年代半ばになってアルバータ州法および連邦法がこれを採用してようやく他州にも広がることとなった。最も遅かったプリンスエドワードアイランド州がこの制度を設けたのは、1987年のことである。
 これらの祝日は、法律によって有給とされており、仕事をしなくても当該被用者の1日分の通常賃金が支払われる。被用者が当日に労働した場合には、かかる1日分の賃金に加えて、通常賃金率の1.5倍の祝日労働賃金が支払われねばならないのが原則であるが、その代わりに別の日を有給で休ませてもよいとする州が多い。このような有給祝日の権利を被用者が享受するための要件として、それぞれの法律で一定期間の勤務や前後の日の出勤などが規定されている。また、連続操業が必要なところや、その他特定の業種に対する例外措置も一般的に見られる。
表4-7 カナダの連邦および各州における年次有給休暇規制
 〈年次有給休暇〉 カナダの連邦およびすべての州の法律において、年次有給休暇の規定がおかれている。歴史的には、オンタリオ州の1944年の法律が最初と言われるが、以後数年のうちに他の4つの州でも採用され、1970年までにすべての法域で被用者の年次有給休暇の権利が認められるに至った。
 現在の年次有給休暇に関する法規制の内容を見ると、一般的に、1年間断続して勤務した被用者に対して2週の有給休暇の権利を与えている。例外はサスカチュワン州で、1年間の断続勤務により3週の休暇の権利が発生する。それ以降について見れば、東部の4州およびオンタリオ州では、何年勤務しても2週のままである。これに対してマニトバ州では、4年間の断続勤務により、それまでよりも、1週増えて、3週の休暇の権利が発生する。またブリティッシュコロンビア州およびアルバータ州では5年間の断続勤務で、連邦法では6年間の断続勤務で、それぞれ3週に増加する。ケベック州では最近まで10年間の断続勤務により3週の休暇の権利が発生すると定められていたが、1995年からはこれを5年間に短縮することとなり、現行は移行期間中である。1年間で3週を認めるサスカチュワン州では、10年の断続勤務により1週増やして4週の休暇を与えているが、他の州では4週という年次有給休暇は見られない。いずれにしても、日本のように毎年1日ずつ増えていくことはない。なお、1年間の断続勤務要件の中身は州によって異なっており、例えばマニトバ州では各被用者の年間所定労働時間の95%、ニューファンドランド州では90%という出勤要件が付加されている。
 休暇手当は、前年度における当該被用者の賃金総額を基礎に決定され、2週の休暇であればその4%、3週の休暇であればその6%とするのが普通である。(サスカチュワン州では、3週の休暇の場合に52分の3、4週の休暇の場合には52分の4とされている)。ただ、マニトバ州においては、当該被用者の通常賃金率による所定時間分の金額の手当とされている。
 各被用者の休暇の時期の決定は、一般に使用者の権限とされている。ただ、当該年度の休暇の権利が発生した時点から一定期間内に休暇を取得させることが義務づけられている例が多い。ニューブランズウィック州では4ヵ月、連邦およびブリティッシュコロンビア、マニトバ、オンタリオ、プリンスエドワードアイランド、ノバスコシア、ニューファンドランドの各州では10ヵ月、アルバータ州、ケベック州およびサスカチュワン州では12ヵ月となっている。多くの州では、各被用者の休暇の開始時期について、その1週ないし4週前に使用者が予告をなすことを要求している。休暇の分割については、何の規定もおかれていない連邦およびマニトバ州、1日までの分割を認めるアルバータ州を除き、1週が基準最低単位となっており、1週よりも短くするためには被用者の同意がなければならないとするのが普通である。また、休暇中に有給一般祝日が含まれている場合にはその日数分だけ休暇を延長するか、あるいは別の時期に代償休日を有給で付与するものとされている。
 なお、ほとんどの法域では、年度の途中で雇用が終了する場合には、使用者は当該被用者の未取得休暇分の手当を支払うこととされている。
2 連邦法
 労働時間を規制する連邦の法律は、1965年に制定されたカナダ労働法典第3部(Canada Labour Code Part III)である。前述したように、連邦の立法権限の狭さから、その適用対象は一般的な鉱工業や商業は含まず、次のような業種に限定されている。
  (a) 州際的または国際的な連結を行う事業(鉄道、バス、トラック、パイプライン、フェリー、トンネル、橋、運河、電信電話、ケーブルなど)、
  (b) 州外との間の運輸、および港湾貨物などそれと結合するサービス、
  (c) 航空および空港、
  (d) ラジオ・テレビの放送、
  (e) 銀行、
  (f) カナダ全体または2州以上の利益にかかわるとして特に指定された事業(製粉、飼料倉庫、穀物エレベーター、ウラニウム鉱山など)、
  (g) 連邦公社(郵便公社、抵当、・住宅公社など)。
 なお、これらの事業の中でも、トラック運転手、船員、鉄道乗務員、放送局のセールスマンなどについては、業務の特殊性ゆえに、労働時間規制の特例または適用除外が認められている。
 〈標準労働時間と時間外賃金〉 連邦法の標準時間は、1日あたり8時間、1週あたり40時間である(169条(1))。これをこえる労働に対しては、当該被用者の通常賃金率1.5倍以上の率による時間外賃金が支払われねばならない。(174条)。時間外労働時間数の計算は、1日あたりの標準をこえる時間数の週合計と、1週あたりの標準をこえる時間数とそれぞれ計算し、いずれか大きいほうの時間数に対して時間外賃金が支払われるべきこととなる。
 週の中に有給一般祝日が含まれている場合には、当該週の標準労働時間は、40時間から、祝日1日につき8時間を減じた時間数となる(169条(3))。別の見方をすれば、有給一般祝日は、標準労働時間との関係では労働したものとみなされるのである。なお、祝日に実際に労働した場合、その時間は、週の標準労働時間との関係では労働時間に算入されない。
 〈最長労働時間と超過労働〉 最長労働時間は、1週あたり48時間と定められている(171条(1))。週48時間をこえる労働が許されるのは、次の2つの場合に限られる。
 第1は、使用者が、例外的な事情により必要があることを証明し、労働大臣の許可を得た場合である(176条)。許可の有効期限は、例外的事情により最長時間をこえる必要が認められる期間に限定され、許可の中に明示される。また、許可の中には、最長時間をこえる労働の時間数の上限も明記されねばならず、これは、期間全体での合計時間数、または1日および1週あたりの時間数のいずれかによりなされる。なお、許可にあたり労働大臣は、後述する週休日についてもその適用除外または特例を定めることができる。許可の申請は事前になさなければならない。また使用者は、許可証を被用者の見やすい場所に提示しなければならない(このことは、他の事項に関する許可についても一般的に妥当する)。さらに使用者は、許可が失効した日または許可により別途定められた日から15日以内に、許可期間中に最長労働時間をこえる労働を行った被用者の数および各人の時間数を記した報告書を作成し、労働大臣に提出することを義務づけられている。
 第2は、事故や機械故障などの緊急の場合である(177条)。この場合には事前の許可は不要であるが、使用者は、その月の末日から15日以内に、緊急事態の内容、最長労働時間をこえる労働を行った被用者の数および各人の時間数を記した報告書を作成し、労働大臣に提出しなければならない。
 〈労働時間の平均化〉 (a) 平均化の意義 義務の性質上、労働時間の不規則な配分が必要な場合、使用者は、標準労働時間の適用に関し、被用者の労働時間を2以上の週にわたる期間の中で平均化(averaging)することができる(169条(2))。このとき、当該期間における労働時間を平均した場合に1週あたり40時間以内であれば、使用者は、特定の週において40時間をこえて労働させても、あるいは1日8時間をこえて労働させても、時間外賃金を支払う義務を負わない。したがって時間外賃金の計算および支払は、平均化期間が終了してはじめて行われることとなる。また、この労働時間平均化の制度は、最長労働時間との関係においても適用され(171条(2))、期間中の労働時間が平均で週あたり48時間以内におさまっていれば、特定の週において48時間をこえる労働がなされても最長労働時間を超えたものとみなされない。
 (b) 平均化の要件 規則によれば、平均化が認められるのは、義務の性質上、労働時間の不規則な配分が必要である結果、(a)被用者の所定労働時間が全く定められていない場合、または、(b)所定労働が定められていても、その時間数が時期により変動する場合、のいずれかである(規則4条(1)、5条(1))。つまり平均化は、天候や季節の影響が特に大きいため通常の所定時間を定めることの不可能な業務に限って認められる制度であり、航空(特に北部地方への便の運行)、引越し、穀物取扱などの業種でよく利用されているようである。
 平均化の制度を利用する場合、使用者はその30日以上前に、連邦労働制の地域局長に必要事項を記載して届出をしなければならない(規則6条)。平均化の期間は13週間以内が原則であり、この限度内であれば届出のみでできる。これに対して、13週間をこえる期間にわたる平均化は、使用者が、労働時間の変動をカバーする期間として13週間では短すぎることを証明した場合のみ、局長が適当と認める週数の期間について特に認められる。
 (c) 期間途中での不就労日・雇用終了 平均化の制度においては、週40時間の標準労働時間および週48時間の最長労働時間に平均化期間の週数を乗じた時間数が、それぞれ期間全体についての標準労働時間および最長労働時間となる(規則4条(2)(3)、5条(2))。平均化期間の途中に、法定の有給休日(有給一般祝日、年次有給休暇、有給死別休暇)により労働しない日があるときには、期間中の標準労働時間および最長労働時間を、それぞれ1日あたり8時間減じるものとされている(規則4条(5))。また、所定労働日となっている日について、例えば被用者が自己都合により欠勤した場合のように、通常賃金の支払を受けられないときにも、やはり1日あたり8時間を、期間中の標準・最長労働時間からそれぞれ減じる(規則4条(6))。換言すれば、かかる法定有給休日および賃金を得られない不就労日は、平均化との関係では、労働したものとみなされるのである。ただし、有給休暇または賃金を得られない不就労日がまる1週間にわたるときには、40時間がその上限とされている。
 平均化期間の途中で雇用が終了する場合には、それが解雇であれば、その時点までの間で労働時間数を計算し、平均で週40時間をこえる時間部分に対して時間外賃金が支払われる。しかし、それが被用者による辞職であれば、労働した時間につき通常賃金率が支払われるのみで、時間外賃金は生じない(規則4条(9))。
 〈変形労働時間制〉 基本的な労働時間規制を柔軟化する制度として、連邦法では、平均化とは別に、変形労働時間制(modified work schedules)が認められている(170条)。これは労働大臣の許可により認められる制度であり、例えば1日10時間で週4日というように、1週の中で労働時間を圧縮して配分するものもあれば、より長く2週以上の期間の中で周期を取って労働時間を配分することもある。いずれにしても、その変形の期間を通じてみた場合に労働時間が1週平均で40時間以上であれば、特定の日に8時間をこえて、または特定の週に40時間をこえて労働時間を配分することができ、その枠内においては時間外賃金の支払義務が生じない。また、変形期間を通じて労働時間が1週平均で48時間以内であれば、特定の週について48時間の最長労働時間をこえることも許される(172条)。
 平均化との対照でいえば、変形労働時間制のほうでは、第1に、標準労働時間とは異なる形に配分されているとはいえ、1日・1週における労働時間の枠が一定周期できちんと定まっており、それらをこえる労働に対して直ちに時間外賃金支払義務が発生しうることが異なる。第2に、これを採用しうる使用者は、義務の性質から労働時間の不規則な配分が必要なものに限定されていない。第3に、それだけに変形労働時間制においては、届出ではなく許可が必要とされている。しかも、許可にあたっては、労働協約の適用下にある被用者の場合には労働組合の同意があること、それ以上の被用者の場合には、対象となる被用者の80%以上が変形制に賛成しており、しかもそれが被用者の最善の利益に合致していると認められることが、それぞれ要件となっている(170条(4)(5))。
 変形制の許可は期間の定めなしに行われ、新規の許可が毎年100件以上出されている。航空や鉄道という交通関係での利用が多いほか、近年では特に銀行において、営業時間延長に伴う1日の労働時間延長に利用されているようである。また、交替制の労働者に対して休日を増やすための例や、人里離れた遠隔地での業務で、一定期間集中的に労働した後で家に帰るために長期の休みを与える例もある。変形の期間は、週過労働時間の圧縮であれば1週におさまるし、そうでなくても2週から8週程度のものが多いが、場合によっては15~16週に及ぶものもある。
 〈休憩〉 連邦法においては、食事時間その他休憩に関する規制は行われていない。
 〈週休日〉 使用者は、各被用者に毎週少なくともまる1日の休日を、原則として日曜日に与えなければならない(173条)。ただし、変形労働時間制の許可または例外的事情による最長労働時間をこえる労働の許可がなされる場合、労働大臣は、その中で休日についても規則の除外を認めることができる(規則8条)。また、平均化の場合においても例外が認められる(規則9条)。
 〈労働時間規制の適用除外・特例〉 以上に述べた労働時間規制(後述の一般的祝日および年次有給休暇は除く)は、管理・監督者その他経営的機能を行う者、または規則で指定された専門職被用者に対しては適用されない(167条(2))。後者としては、建築家、歯科医、工学技術者、法律家および医師が列挙されている(規則3条)。前者については、当該被用者の地位および権限を具体的に吟味しなければ決定はできない。最近、17人の被用者を監督する電話会社の回線・交換フォアマンについて、経営的機能者には該当しないという裁判所の判断が示され、注目された(Island Telephone Co.v.Minister of Labour(Federal Court of Canada, Trial Division, September 30,1991))。この事件では、当該被用者の職務は会社の経営にとって重要な機能であったが、監督する被用者の採用・昇進・解雇・懲戒など人事上の権限をもたず、また会社的な経営方針への参画もなく、また、団体交渉との関係でも、一般の被用者とは別の交渉単位ながら、なお法律上の被用者に含まれるとして労働関係局の単位認証を受けていた。
 労働時間の特例としては、175条による規則として出されている自動車運転手の労働時間規則が最も重要である。これによれば、区域内自動車運転手については標準時間が1日9時間、1週45時間、長距離路線自動車運転手については標準時間が1週60時間となる。
表4-6 カナダの連邦および各州における有給一般祝日
表4-6 カナダの連邦および各州における有給一般祝日(続き)
 〈有給一般祝日〉 連邦法による有給一般祝日は、前記表4-6に示した通り、年間で9日である。これについてはカナダ労働法典第3部の第5節(191条ないし202条)に規定が設けられているが、ここでは省略する。
 〈年次有給休暇〉 (a) 休暇の長さと休暇手当 連邦法の下での年次有給休暇は、1年間の勤務によって被用者に2週の権利が発生し、また勤続満6年以上になれば、1週増えて3週の権利が発生する(184条)。休暇手当の額は、当該被用者の前年(休暇の権利発生の基礎となった勤続年)における賃金総額にもとづいて計算され、2週であればその4%、3週であればその6%となる(184条)。前年に病気などで欠勤の多かった場合、休暇の期間は変わらないものの、前年の賃金額が少なくなるため、それに応じて休暇手当額が減る。
 (b) 休暇の時期・分割など 休暇の時期は使用者が決定しうるが、権利発生の基礎となった勤務年の終了後10ヵ月後以内でなければならず(185条)、また、その開始の少なくとも2週間前に、被用者に対して予告をしなければならない(規則12条)。休暇の分割については特に規定がないため、1日単位で付与することも法律上可能とされている(休暇1週につき、当人の週所定労働日数となる)。休暇手当は原則として休暇開始前14日以内に支払わなければならない(規則13条(1))。なお、休暇期間中に一般祝日が含まれている場合には、その日数分だけ休暇期間が延長される(187条)。
 (c) 休暇の延期・不取得 休暇の権利の延期(繰越し)は、使用者と当該被用者との間で書面の合意を作成し、連邦労働省の地域局長に提出することにより認められる(規則15条)。他方、休暇の権利の放棄については、使用者と被用者が連名で局長に対して申請をなし、これに対して局長が、放棄を正当化する例外的事情があることを確認した上で承知することが要件とされている(規則14条(1))。この場合、使用者は、その権利発生の基礎となった勤続年の終了後10ヵ月以内に、休暇手当を支払わなければならない(規則14条(2))。
 被用者の雇用終了の場合、使用者は、既に権利が発生している休暇のうち未取得分に対する休暇手当と、その時点で進行中の勤続年のうち既に勤務がなされた部分の期間における当人の賃金総額の4%(勤続満6年以上であれば6%)相当額の手当を支払わなければならない(188条)。
 〈その他〉 カナダ労働法典第3部では、以上のほかに、育児・出産休暇(第7節)、直近の家族の死去に伴う有給または無給の死別休暇(bereavement leave)(第8節)、病気休暇(第13節)などの規定もおかれている。
3 オンタリオ州法
 オンタリオ州における労働時間規制の歴史は、1884年の工場法による女子・年少年の労働時間の上限設定(1日10時間、1週60時間)にまで遡るが、現行の法規制との関連で言えば、1944年の労働時間・有給休暇法(Hours of Work and Vacation with Pay Act)がその基礎になっている。第2次世界大戦後の復員者の雇用対策としての性格も有していたこの法律は、男女を問わず1日8時間、1週48時間を最長労働時間と定め、また1年の勤務より1週の年次有給休暇の付与を使用者に義務づけた。同時に、労働時間の上限について非常に様々な適用除外や許可による例外が設けられた(それらの相当部分は、整理されずに現在まで残っており、労働時間規制の適用を複雑なものにしている)。
 同法は1968年に雇用基準法(Employment Standards Act)に統合されたが、このときに、1週48時間をこえる労働および祝日の労働につき通常賃金率の1.5倍の時間外賃金を支払うべきことが定められ、また平均化の制度も導入された。1974年の法改正では、時間外賃金の支払の基準となる時間が1週44時間に引き下げられて、最長時間と標準時間との分化が生じた。同時に祝日のうち4日が有給とされ(翌年から7日とされた)、それらの祝日における労働には通常賃金の2.5倍が支払われるべきこととされた。
 年次有給休暇については、1966年に1年で1週、3年で2週とされた後、1970年に1年に1週、2年で2週となり、1974年に現行の1年で2週という基準が採用された。
 〈標準労働時間と時間外賃金〉 オンタリオ州における標準労働時間は1週44時間であり、使用者は、これをこえる労働に対して当該被用者の通常賃金率の1.5倍の時間外賃金を支払わなければならない(24条(1))。1日あたりの標準時間は定められていない。使用者が記録を作成保存していない場合には、監督者が被用者の通常賃金率および労働時間の決定をなしうるとされている。(24条(3))
 なお、一定の業種ないし職種については、規則第285号の16条および17条によって、次のような標準労働時間の特例が設けられている。
  週50時間………橋・トンネル等建設、上下水道建設・保守、地域道路運送、季節的な野菜・果物処理、ホテル・モーテル等の住込み季節被用者
  週55時間………道路建設
  週60時間………公共商用車両運行
 〈最長労働時間と超過労働および拒否権〉 最長労働時間は、1日あたり8時間、1週あたり48時間である(17条)。しかし、事故その他による緊急時(19条)、または雇用基準局長の許可を受けた場合(20条)には、最長労働時間をこえる労働が許される。
 前者の緊急時の超過労働は、事後に雇用基準局長に通告するのみでよいが、あくまで事業所の正常な運業に対する重大な障害を回避するのに必要な範囲に限られる。
 後者の許可による場合については、法律上2種類の許可が存在する。第1は、20条(1)にもとづく一般的な許可であり、特定職種の被用者を除き年間100時間を上限とすることから、「100時間許可」(100-hour permit)と呼ばれる。第2は、20条(2)よって、業務の必要上あるいは材料が損敗しやすいため100時間許可では不足のときに認められる「特別許可」(special permit)である。
 これらの許可の内容については以下に項を改めて記すが、法律上、かかる許可により被用者に超過労働が義務づけられるわけではないと定められており(20条(3))、これは個々の被用者に対して、最長時間をこえる労働に対する拒否権を認めたものと理解されている。この拒否権の放棄は認められておらず、たとえ被用者が、超過労度に応じる旨を予め使用者に書面により約束したとしても、使用者が本人の意に反する超過労働を命じることはできない。超過労働の許可がかなり簡単にだされている現状では、最長労働時間の意味は結局この拒否権にあるにすぎないとも言われている。
 また、超過労働の許可があるからといって、標準時間をこえる労働に対する時間外賃金支払義務が免除されないことももちろんある。許可を受けた使用者は、許可証を被用者の見やすい場所に提示しておかなければならない。
 〈超過労働の許可〉 (a) 100時間許可 20条(1)による100時間許可は、各被用者について年間で100時間の枠内で、最長労働時間をこえる労働を許容するものである。同項で列挙されている8つの職種の被用者(技師、消防士、フルタイムのメインテナンス被用者、荷受人、荷送人、配達トラック運転手、同助手、監視人)に関しては、特別に週あたり12時間(年間にすれば600時間以上)の超過労働が許可される。これらの超過労働の中には、19条にもとづく緊急時の超過労働は算入されない。
 かかる100時間許可の申請には、特に理由は要求されていない。しかも、許可は期限を定めずに与えられる。1948年から86年までの合計で約3万6000件の100時間許可が出されており、毎年200件から400件の新規許可が行われている。このような緩やかな許可制度ゆえ、年100時間の超過労働は例外というよりもむしろ原則のように理解されており(実際には許可なしの超過労働もかなり行われているようで、監督をきびしくしたら申請が増えるという現象も報告されている)、最長労働時間規制の意義は、被用者がそれ以上の労働を拒否しうることのみというのが実情である。
 (b) 産業許可 現在、26の産業については包括的に「産業許可」(industry permit)が用意されており、個々の使用者が100時間許可を申請するまでもなく、当該産業の被用者の超過労働に対して自動的に許可が存在する形になっている(使用者が電話ででも申請すれば、州内の当該産業の全被用者を許可対象としてあらかじめ印刷された許可証が送付される)。これは1944年の法律で25の産業について設けられた制度がほとんどそのまま存続してきたものであるが、個別的な100時間許可と比較すると、次の3点で、一層大きな利益を使用者に与えている。
 第1に、1産業を除き、後述する変形労働時間制の承知(1日10時間)が組み込まれており、1週48時間の枠内で、1日8時間をこえて10時間以内の所定時間を定めることが許容される。第2に、産業によっては、100時間許可において週12時間まで超過労働が認められる職種の範囲が拡大されている。もっとも、かかる拡大のなされていない産業や、逆に週12時間の許可を排除されている産業もある。第3に、産業によっては、特定の職種について年間250時間、あるいは「必要なだけの時間」にわたる超過労働が特別に許容されている。
 26の対象産業は、表4-8に示したように、小売、ホテル・レストラン、鉱山、製材、自動車運送、自動車処理・ガソリンスタンドなどを含む。1986年の数字では、対象被用者の総計が約86万5000人であり、最長労働時間規制対象被用者のおよそ3分の1にあたる。
表4-8 オンタリオ州の産業許可の種類と対象産業被用者数(1986年現在)
 (c) 特別許可 特別許可は、業務上の必要などから100時間許可では不足する場合に出されるものであり、許可申請がなされると、雇用基準局長は、理由をチェックして許可の可否を決める。定常的なものは認められず、短期的で、増員により対処できないような事情でなければならないとされる。実際に多いのは、需要急増への対応や、新製品のための組織変更などである。労働力不足の場合に厳しく限定されていた1950年代と比較すると、許可基準はゆるやかになっている。許可時間数は、それぞれのケースごとの必要に応じて定められる(使用者としては実際よりも多めに申請する傾向がある)。また、許可にあたっては労働組合の意見も参考にされる。特別許可はその年に限って有効とされ、1983年の数字では、80事務所を対象に249件の許可が出されている。
 〈1週内での変形労働時間制〉 使用者は、雇用基準局の承知を受ければ、1週48時間の枠内で、たとえば1日10時間で週4日というように、1日あたり8時間という最長時間をこえて、12時間以内の所定労働時間を設けることができる(18条)。この規定は2週以上にわたる周期での変形は予定しておらず、あくまで1週の範囲内で、1日の上限を緩和あして、労働時間の「圧縮」配分を認めるものである。標準労働時間はもともと1日単位では存在しないので、かかる変形制により影響を受けず、原則通り、週44時間をこえるところから時間外賃金支払義務が生じる。
 法律上特に理由が制限されていないこともあり、現実には、この変形労働時間制の申請がなされればそのまま承知されているようである。また、既に述べたように、超過労働に関する産業許可には、1日10時間を限度とする変形労働時間制の承知があらかじめ組み込まれている。
 〈所定労働の平均化〉 使用者は、労働協約または被用者との合意にもとづき、雇用基準局長の承知を受ければ、2週以上の期間の中で労働時間を平均して計算することができる(84条(1)10号、規則285号2条(2))。この場合には、当該期間における労働時間の平均が週あたり44時間であれば、特定の週において44時間をこえる労働がなされても時間外賃金支払義務は生じない。また、最長労働時間の適用も排除されるので、理論上は、1日あるいは1週あたり何時間でも労働させてよい(許可も不要)ということになる。
 かかる平均化は所定労働時間に関して認められるものであり、期間中における所定時間が平均で1週あたり44時間をこえる場合には、承知は与えられない。所定時間をこえる労働が時々行われてもよいが、それが常態となっている場合には、むしろ承知対象となったものとは異なる所定時間がとられたとみなされ、平均化の効力が否定される。なお、許可を受けた所定時間が週平均で44時間の場合には、所定外労働に対しては通常賃金の1.5倍の時間外賃金の支払またはそれに代わる休み(時間外労働の1.5倍の長さ)の付与が使用者に義務づけられる(その旨が許可中に明記される)。また、許可された所定時間が週平均で44時間よりも短い場合には、所定時間外労働のうち週平均で44時間までの分には被用者の通常賃金またはそれに代わる休み(同じ長さ)が、週平均で44時間をこえる部分についてはその1.5倍の時間外賃金またはそれに代わる休み(1.5倍の長さ)が、それぞれ要求される。
 承知にあたっては、平均化が必要な例外的事情があり、しかも対象となる被用者の労働組合または被用者集団がその平均化に賛成していることが条件とされている。平均化の期間は、原則として1ヶ月以内となっている。
 〈休憩〉 使用者は、5時間の連続労働につき30分以上(または雇用基準局長により許可された、より短い時間)の食事時間を与えなければならない(22条)。
 〈週休日〉 オンタリオ州には、週休日に関する一般的な法規制は存在しない。ただ、小売業事業所の被用者について、不合理と考える日曜労働を拒否する権利が認められている(53条)。ちなみに、最近、この権利の行使を12月中は制限する法政制が行われたようである。
 〈有給祝日〉 オンタリオ州の有給祝日(public holiday)は、前記表4-6に示したように、年間で8日である。これに関しては、雇用基準法の第7節(25条ないし27条)に規定が設けられているが、省略する。
 〈年次有給休暇〉 (a) 休暇の長さと休暇手当 使用者は、1年間(12ヶ月)勤務した被用者に対して、少なくとも2週の年次有給休暇を与えなければならない(28条(1))。オンタリオ州では3週の休暇は規定されておらず、被用者が何年断続勤務しようとも、法律上の有給休暇は2週のままである。休暇手当の額は、前年(その休暇の権利発生の基礎となった年)における当該被用者の賃金総額の4%である。(28条(2))。前年に時間外労働を多くしていれば時間外賃金の分だけ休暇手当が多くなり、逆に病気などで欠勤が多ければ、その分休暇手当額は少なくなる。ただ、前年の休暇に関して支払われた休暇手当は、計算から除外される。
(b) 休暇の時間・分割など 休暇の時期は使用者が決定するが、その権利発生の基礎となった12ヶ月間の終了後10ヶ月以内に、2週連続または1週ずつ2回のいずれかの形で与えなければならない(29条(1))。休暇時期の予告期間についての規定は見られない。また休暇手当の支払時期は、特に雇用基準局長が別段の命令を発しないかぎり(29条(2))、休暇開始後の通常の賃金支払日となる。なお、雇用終了の場合、使用者は、既に権利が発生しているが未取得の休暇に対する手当に加えて、現に進行中の12ヶ月間のうち既に勤務を完了した部分における賃金総額の4%を、被用者に支払わなければならない(30条)。その他、休暇取得ないし休暇手当拠出方法に関する労使の合意には、雇用基準局長の承知が必要とされる(31条)。
 〈適用除外〉 オンタリオ州における労働時間等の法規制からの適用除外は、規則285号3条ないし8条を中心にかなり複雑に規定されているが、大きく整理すれば、表4-9のようになる。
表4-9 オンタリオ州における労働時間等規制からの適用除外
 雇用基準法の最長労働時間、時間外賃金(標準労働時間)、有給祝日、年次有給休暇の規制のすべての適用が除外される者には、2種の要資格専門職、教師、歩合制セールス被用者、農業・漁業被用者、公務員などが入っている。要資格12専門職種は、建築士、足専門医師、歯科医師、法律家、医師、検眼師、薬剤師、工学技師、精神医療師、公認会計士、測量技師、獣医である。
 管理監督者は、最長労働時間および時間外賃金の適用が除外されるが、有給祝日と年次有給休暇の規制は適用される。
 表4-10は、最長労働時間および時間外賃金の適用除外対象被用者の数を示したものである。最長時間のみが除外される建設労働者を除けば、管理監督者と、教師および要資格専門職が上位に並んでおり、これらで法適用被用者全体の約1割となっている。
表4-10 オンタリオ州における最長労働時間・時間外賃金規制の適用除外対象被用者数
 〈その他〉 オンタリオ州の雇用基準法では、以上のほかに、出産・育児休暇の規定もおかれている(第11節)。なお、最近、立替払制度が新設され、使用者の倒産等の場合においても被用者が時間外賃金や休暇手当を確保しうるようになったようである。
 ちなみにオンタリオ州では、労働時間規制の内容が繁雑で、しかも水準が必ずしも高くないことから、改正の議論もあり、1987年には、そのための専門家委員会が、週40時間を標準かつ最長労働時間にすること、100時間許可を廃止して年間250時間の許可を新設し、それ以上の超過労働は厳格に規制すること、時間外賃金に代わる代償休息付与を認めることなどを内容とする勧告を行ったが、現在までのところ実現していない。
4 ケベック州法
 ケベック州では、1885年の工場法で女子・年少者の最長労働時間が初めて規制され、また1930年の法律では、女子の週60時間をこえる労働に対する時間外賃金の支払が使用者に義務づけられた。1946年になると、全被用者について年次有給休暇と時間外賃金の規制が行われるようになったが、標準労働時間は、女子について週54ないし55時間、男子については週60時間という長いものであった。実に1970年になってようやく、週48時間が男女を通じて標準労働時間とされ、1979年にこれが週44時間に短縮されて、現在に至っている。
 現行の法律は1979年に制定された労働基準法(Act respecting Labour Standards/Loi sur lesnormes du travail)である。
 〈標準労働時間と時間外賃金・代償休〉 ケベック州の標準労働時間は、オンタリオ州と同じく、1週あたり44時間であり(52条)、1日の標準労働時間は規定されていない。週44時間をこえる労働に対しては、当該被用者の通常賃金率の1.5倍の率による時間外賃金が支払わなければならない(55条1項)。
 ただし、被用者による申請がある場合、または労働協約もしくはそれに代わる命令(decree decret)により認められている場合、使用者は、かかる時間外賃金の支払に代えて、時間外労働の時数の1.5倍の長さの有給の休みを与えることができる(55条2項)。これは1990年の法改正により新設された制度であるが、実質的には、従来から広く行われてきた慣行を明文化して追認したものである。かかる代償休は、労働協約・命令に別段の定めがなされない限り、時間外労働の時点から12カ月以内の、使用者および被用者がともに合意する日に与えられねばならない(55条3項)。代償休を取得する前に被用者の雇用が終了する場合は、本来の時間外賃金が支払われなければならない(同項)。
 労働時間としては、いわゆる手待時間が算入されるほか(57条)、コーヒーブレイク(59条)、年次有給休暇および法定有給祝日(56条)も労働したものとみなして算入入される。
 〈標準労働時間の特例〉 一定の業種・職種・地域に関しては、規則によって、以下のような標準労働時間の特例が定められている。食品小売業については週44時間よりも短い時間が定められ、他については週44時間よりも長い時間が定められている。
  食品小売業(大部分の地域)……週40時間
  林業および製材所の被用者……週47時間
  住込みの家事使用人……週53時間
  遠隔地またはジェームズ湾地域……週55時間
  ホーム・ケア被用者*……週60時間
  (*ホーム・ケア・サービス業を行う会社の被用者を除く)
 〈最長労働時間〉 ケベック州では、一般的な最長労働時間規制は行われていない。
 〈労働時間の平均化〉 使用者は、労働基準局の許可を受ければ、1週をこえる期間の中で労働時間を平均化することができる(53条1項)。すなわち、当該期間における州あたり平均労働時間が44時間(または命令による特例標準期間)以内であれば、特定の週において44時間をこえる労働がなされても、時間外賃金の支払義務が生じないことになる。時間外賃金の計算および支払は平均期間終了後になされる(週平均で44時間を下回る所定時間を示して許可を受けた場合であっても、1.5倍の時間外賃金が要求されるのはあくまで1週平均で44時間を上回る部分の時間のみである)。ケベック州では、かかる平均化制度を、労働時間の変形配分(Staggering/etalement)と呼んでいる。なお、労働協約または命令による場合には、労働基準局の許可は不要となる(53条2項)。
 平均化をなしうる場合について、法律上は特に限定はない。しかし労働基準局は、これを例外的な制度ととらえ、本来の標準労働時間規制を回避するための利用を防ぐために、次の2点を確認した場合に限り許可を発するという方針をとっている。第1に、対象となる被用者にとって、たとえば休日増など、時間外賃金を失うことへの代償となる利益が存在することであり、第2に、対象となる被用者が、全体として、かかる変形配分に賛成していることである。また、平均化の期間は可能な限り短くすべきこととされ、2週または3週が原則である。時に4週が許可されることもあるが、4週をこえるものは非常に例外的な場合でなければ許可されない。
 許可が認められるのは、たとえば次のような場合である。
  * 12時間勤務の日が3日、休日が4日、12時間勤務の日が4日、休日が3日という形の2週間周期の労働配分
  * クラブの管理人につき、泊り込んで1日10時間で7日連続勤務し、その後でまとめて休日をとって家に帰れるようにする場合
  * 既に労働協約により変形配分が実施されている企業で、新たに有期契約により採用した被用者の労働時間をそれにあわせるために許可が必要な場合
 また、次のような場合には、許可が否定される。
  * 平均化の期間が1年に及ぶもの(時間外賃金の可能性を事実上奪ってしまう)
  * 外国や他州の企業と競争する上で時間外賃金を支払う余裕がないことを主たる理由とする場合
  * 使用者が、変形配分が認められなければ週44時間までしか労働させないとの態度をとったため、被用者が、時間外賃金がなくて通常賃金率のみとなってもより長く働いたほうがよいと考えて変形配分を指示する場合
 なお、気象条件に左右されるため週あたりの労働時間が変動する業務の場合、そのために特定の週の労働時間が長くなることがあるとはいえ、変形配分の許可を正当化するためには、その労働を短期間のうちに完了する必要があることを示さなければならない。
 許可の有効期間は必ず定められ、通常は数カ月、最大で1年である。更新の申請がなされれば、労働基準局は改めて許可要件をチェックした上で可否を決定する。労働基準局は、使用者に許可を発する場合、それと同時に被用者に対して、許可申請および許可の内容を告知する。また、許可を受けた使用者は、許可申請および許可証の写しを、被用者の見やすい場所に提示しなければならない。許可はあくまで個別具体的に与えられ、その対象となっていなかった被用者に対して拡張適用することはできない。
 〈労働時間規制の適用除外〉 以上の標準労働時間・時間外賃金の規制の適用が除外される者が、54条に列挙されている。農業・水産業被用者やキャンプ場等で働く学生のほか、「企業の管理的職員」および「事業所外で労働し、その労働時間が管理不能な被用者」が含まれているが、専門職被用者への除外はない。
 管理的職員(managerial personnel/cadre)にあたるか否かは、個々のケースごとに、その被用者の職務および責任(地位、労働条件、特権、協約適用、指揮命令権限、経営への参画、財務上の権限など)を総合的に考慮して判断される。なお、社長や取締役など上級管理職員(senior managerial personnal/cadre superieur)は、そもそも労働基準法の適用範囲から除外されている(3条)。
 事業所外で労働するため労働時間を管理しえない被用者については、その大部分がコミッション制で報酬を支払われる者のようである。
 〈休憩〉 使用者は、労働協約または命令により別段の定めがなされないかぎり、連続5時間の労働につき30分の食事時間を被用者に与えなければならない(79条1項)。食事時間は無給が原則であるが、被用者が持場を離れることを許さない場合には有給となる(79条2項)。なお、前述したように、コーヒーブレイクは、労働時間に算入され、賃金支払対象となる。
 〈週休日〉 使用者は、毎週少なくとも連続24時間の休日を与えなければならない(78条1項ただし、労働時間の変形配分の場合は例外が認められる。週休日をどの曜日にするかについて特に限定はないが、商業施設に関しては別の法律(Act respecting Opening Hours and Days for Commercial Establishments)が、日曜日の営業を原則として禁止している。
 法律上、休日労働は一切認められない(もっとも、休日労働がなされても、違反の申告がなければ使用者は処罰されないのであり、実際にどの程度なされているのか把握しがたい)。
表4-6 カナダの連邦および各州における有給一般祝日
表4-6 カナダの連邦および各州における有給一般祝日(続き)
 〈法定有給一般祝日・国民祝日〉 ケベック州の有給祝日は、前記表4-6に示したように、年間で8日ある。それらのうち、7月24日は「国民祝日」として国民祝日法(National Holiday Act/Loi sur la fete nationale)に規定が設けられており、また、それ以外の祝日に関しては、労働基準法の第3節(59条の1ないし65条)に規定されているが、ここでは省略する。
 〈年次有給休暇〉 (a) 休暇の長さ ケベック州でも、1年の継続勤務によって2週の年次有給休暇の権利が被用者に発生するが(68条)、その基準となる1年の期間が決定されており、5月1日から翌年の4月30日までが基準年となる(66条)。基準年の終了時において1年未満の勤務しかなしていない被用者は、1カ月勤務につき1日の割合で、比例的に年次有給休暇の権利を与えられる(67条)。
 従来は、10年の継続勤務によって初めて3週の休暇の権利が発生したが、1990年の法改正によって、1995年1つき1日から5年の継続勤務により3週の休暇とすることとされた。現在は経過期間中で、1992年1月1日からは8年、1993年1月1日からは7年、1994年1月1日からは6年で、それぞれ3週の休暇の権利が発生する(69条)。
 (b) 休暇手当 休暇手当の額は、2週以下の場合であれば、基準年における当該被用者の賃金総額の4%、3週の休暇の場合には、同じく6%となる(74条1項)。ゆえに、前年の賃金額が少なければ休暇手当の額も減ることになるが、ただ、それが病気・事故による欠勤または出産休暇のためである場合には、基準年に労働した期間における平均の週賃金金額の2倍あるいは3倍にするという形での救済措置が定められている(74条2項以下)。
 休暇手当は、協約または命令により別段の定めがなされない限り、休暇の開始前に一時払いにより支払わなければならない(75条)。
 (c) 休暇の時期および分割 休暇の時期は使用者が決定しうるが、協約または命令により翌年への繰越しが認められていない限り、基準年の終了後12カ月以内でなければならない(70条1項)。また、被用者に対し、休暇開始の4週間以上前に予告をしなければならない(72条)。
 休暇は連続して与えるのが原則であるが、被用者が希望すれば、休暇期間中に事業所が閉鎖される場合を除き、2つの期間に分割して与えることができる(71条1項)。ちなみに、ケベック州では事業所閉鎖による一斉休暇が特に広く普及しており、7月の終わりの2週間に被用者全員がまとめて休暇をとる例が多いようである。被用者が希望すれば、使用者の同意を条件として、休暇を3つ以上の期間に分割することもできるが(71条2項)、協約または命令によって、3つ以上の期間への分割の条件を定めたり、これを禁止したりできる(71条3項)。なお、いずれの場合にも、1週未満の休暇については分割が禁止されている(71条4項)。
 (d) その他の規制 休暇を取得させず、その代償として手当を支払うことは、協約・命令により許容されている場合か、または、事業所が休暇期間中2週間にわたり閉鎖されるところにおいて、被用者が3週目の休暇につき現実の取得よりも代償手当を希望する場合でなければ認められない(73条)。
 雇用終了の場合には、未取得部分の休暇に対する休暇手当に加えて、現に進行中の基準年における当該被用者の賃金総額の4%あるいは6%に相当する額が、被用者に支払われなければならない(76条)。
 そのほか、他と同じ職務を行う同じパートタイマーに対する年休の差別を禁じる規定(74条の1)や、休暇取得ゆえに保険関係での不利益が生じることを防ぐ規定(70条2項)が設けられている。
 〈年次有給休暇の適用除外〉 年次有給休暇規定の適用を除外される被用者は、77条に列挙されている。管理的職員はここに含まれておらず、年次有給休暇規定の適用を受ける。外勤者についても、除外されるのは、完全コミッション制による一定業種のものに限定されている。
 〈その他〉 以上のほか、ケベック州の労働基準法では、近親者の死去、自分または直近親族の結婚、子供の誕生、妊娠中の検診、出産、育児などのために有給あるいは無給の休暇を保障している(第6節)。また、未成年の子供の世話・健康・教育のためにどうしてもやむをえず時間外労働(本人の所定時間外という意味であり、週44時間の標準時間とは別の概念である)を拒否した被用者に対する報復を禁止する規定も、1990年に設けられた(122条1項(6))。これ以外の場合に被用者が時間外労働を拒否することは、法律による保護の対象とならず、使用者はこれを理由に解雇しうる。
5 ブリティッシュコロンビア州法
 ブリティッシュコロンビア州における一般的な労働時間規制は、1934年の労働時間法(Hours of Work Act)により、労働時間の上限を1日8時間、1週48時間と定めたことに始まる。同法は、1944年の改正で、1週の上限が44時間に引き下げられた。かかる上限をこえる労働は、許可を得た場合または緊急時のみ許されるが(違反に対して刑事罰があり)時間外賃金の支払は義務づけられていなかった。労働時間法は、被用者を長時間労働から保護することと、雇用を拡大することという2つの目的を有しており、不況時には超過労働の許可が厳格となった。
 時間外割増賃金は、労働時間法とは別に、1960年代に、労使関係局(Industrial Relations Board)の命令により導入され、1日8時間、1週40時間をこえる労働に対して通常賃金率の1.5倍の時間外賃金を支払うべきこととされた。1975年になると、それに加えて、1日11時間、1週48時間をこえる労働に対する通常賃金率の2倍の時間外賃金の支払が義務づけられた。ただし、これらの時間外賃金制度は、労働組合の存在するところには適用が排除されていた。
 かくして、1970年代後半は、1日8時間、1週40時間で1.5倍、1日11時間、1週48時間で2倍の時間外賃金という規制と、1日8時間、1週44時間で許可という規制とが併存する中、後者の形骸化が目立ってきた。超過労働の許可を出すにあたっては、許可申請の理由、使用者の回避努力の程度、対象被用者数、許可時間数の上限、許可期間、組合の意見などを厳密に審査すべきことになっていたが、現実には許可申請件数が多すぎて実質的なチェックをほとんどなしえない状態にあり、また許可なしに超過労働をさせる使用者も多かった。
 そこで、1980年に最長労働時間および許可の制度が廃止され、時間外賃金による労働時間規制に一本化された。こうして制定されたのが、現行の雇用基準法(Employment Standards Act)第10章である。
 〈標準労働時間と時間外賃金〉 ブリティッシュコロンビア州の標準労働時間は、基本的には1日8時間、1週40時間である(28条)。条文の見出しでは「最長労働時間」(maximum hours of work)との言葉が用いられているが、これをこえる労働については通常賃金率の1.5倍の時間外賃の支払が使用者に義務づけられるのみで(30条(1)(a))、行政官庁の許可は要求されていない。
 ブリティッシュコロンビア州の特色は、1日11時間、1週48時間をこえると、さらに時間外割増しが大きくなり、通常賃金率の2倍となることである(30条(1)(b))。
  1日あたり  8時間――1.5倍 11時間――2倍
  1週あたり 40時間――1.5倍 48時間――2倍
40時間・48時間のいずれについても、1週あたりの時間外労働の計算にあたっては、1日あたりの標準時間をこえたために1.5倍または2倍の時間外賃金の支払が義務づけられる時間は、計算から除外される。
 なお、法定の有給一般祝日が含まれる週においては、上記の週あたり40時間および48時間という数字は、祝日1日あたり8時間ずつ、それぞれ減少する(30条(2))。つまり、時間外労働との関係では、一般祝日は一律に労働したものとみなされるのであり、実際に祝日に労働した被用者については、その労働に対して祝日労働手当が支払われるけれども、時間外賃金の計算には算入されない。
 〈最長労働時間〉 ブリティッシュコロンビア州では、現在、一般的な最長労働時間規制はなされていない。
 ただ、法律上、監督官が調査を行った結果、被用者の労働時間が長すぎる、または健康・安全に有害であると判断する場合には、その労働時間を1日8時間、1週40時間に限定しつつ、それを超過するための特別の条件を課する命令を発することが認められており(29条)、この命令において個別的に、時間外労働の最長限度を定めることができる。もっとも、現実にそのような命令が出されることは極めて稀である。
 〈労働時間の平均化・変形配分〉 使用者は、雇用基準局長に対して、上記の標準労働時間・時間外賃金に関する規制の例外許可(variance)を申請することができる(30条(1))。法律に規定されている例外の型は、(a)2週以上の期間にわたる平均化、(b)1週の中で週休3日以上での圧縮配分、または、(c)時間外賃金の算定基礎の変更である。
 許可申請がなされると、局長は、第1に、それが労使双方にとって利益となること、第2に、対象となる被用者の大多数がそれに賛成していること、を確認する。被用者の数が少ないときには、基準局職員が各人と個別に会って意思を確認し、また被用者の数が多いときにも、賛成者リストの署名をチェックした上で、ランダムに選んで会っている。
 平均化の場合、その期間は数週間が普通であり、8時間をこえるようなものは許可されない。ほとんどの許可申請は、1日を長くして、週4日の労働日、あるいは2週で9日の労働日という時間配分をするためのものであるが、時に、町から離れた鉱山などで、より長い期間にわたる平均化が許可されている。
 許可にあたっては、スケジュールに応じて1日ないし数週あたりの標準労働時間が新たに設定され、それをこえる時間に対する時間外賃金の支払義務が許可条件として明記されている。2週以上で平均したときの時間が40時間あるいは48時間よりも短くなる時間数が標準時間として定められることもある(表4-11の(5)の例)。法律上、雇用基準局長は、このように単なる平均化よりも厳しい条件を定める権限を認められている(31条(2))。なお、許可には、通常1年以内の有効期間が付せられる。
 例外許可の実例として、表4-11のようなものがある。
表4-11 フリティッシュコロンビア州の労働時間例外許可の例
表4-11 フリティッシュコロンビア州の労働時間例外許可の例(続き)
 〈休憩および休憩時間〉 使用者は、連続5時間の労働につき少なくとも30分の食事時間を与えなければならない(32条(1))。食事時間は、その間も労働するよう命じられている場合を除き、労働時間に算入されない(32条(2))。またブリティッシュコロンビア州では、食事時間のほかに、勤務と勤務との間に8時間以上、労働から開放された休息時間を与えることを使用者に義務づけている(32条(3))。
 〈週休日〉 使用者は、毎週連続32時間以上の、労働から開放された時間を被用者に与えなければならない(35条(1))。連続24時間ではなく32時間としているところに特色がある。
 休日労働に特別の手続きは要求されていない。しかし、使用者は、通常賃金率の2倍の率による休日労働賃金を支払わねばならない(35条(2))。また、被用者は休日労働を拒否することができるとされており、使用者は休日労働拒否を理由に被用者を解雇しえない。この点が、使用者の命令を拒否できない通常の時間外労働の場合と異なっている(ちなみに、被用者は時間外労働は拒否できないとはいえ、それがあまりに多いときには、前述の監督者の命令が出される可能性がある)。
 以上の休日規制の適用が不適当な事情がある場合には、雇用基準局長による例外許可の制度がある(34条(3))。
 〈有給一般祝日〉 ブリティッシュコロンビア州では、前記表4-6に示したように、年間で9日の有給一般祝日が定められている。これについては、雇用基準法1条および同規則4条ないし6条に規定が設けられているが、ここでは省略する。
 〈年次有給休暇〉 (a) 休暇の長さと休暇手当 被用者は、1年の継続勤務によって2週の年次有給休暇の権利が与えられ、また5年の継続勤務を完了したときには1週増えて3週の休暇の権利を与えられる(36条(1))。
 休暇手当の額は、前年(その休暇の権利発生の基礎となった年)における当該被用者の賃金総額にもとづき、2週の休暇であればその4%、3週の休暇であればその6%となる(37条(1))。休暇手当は、休暇が開始する7日以上前に支払われなければならない(37条(2))。
 (b) 休暇の時期および分割 休暇の時期は使用者が決定しうるが、前年の終了時から10カ月以内でなければならない(36条(2))。休暇の時期の予告に関する規定はおかれていない。休暇期間中に一般祝日が含まれている場合には、その日の分は休暇から除外される(36条(4))。休暇の分割については、被用者が同意しない限り、使用者は1週よりも短くするとはできない(36条(3))。
 (c) 雇用終了の場合 被用者の雇用が終了する場合には、使用者は、未取得部分の休暇に対する休暇手当のほか、現に進行中の年度における当該被用者の賃金総額の4%あるいは6%に相当する額(ただし、5日未満の場合は除く)を支払わなければならない(37条(2)(3)(4))。
 (d) その他の規定 使用者は、被用者ごとに基準となる年の開始時点が異なるのを防ぐために、許可を受けて、基準日を統一することができる(39条)。このとき、年度が途中で終わってしまう被用者に対して、その割合に応じた休暇の権利を与えなければならない。そのほか、年次有給休暇に関しては、特別の記録保存義務が使用者に課せられている(40条)。
 〈適用除外〉 ブリティッシュコロンビア州の労働時間規制の適用除外は、雇用基準法則において、かなり広範かつ複雑に規定されている。その概要は下に示したとおりである。管理監督者は、(b)によって労働時間・休日・休息・食事時間の規制を除外され、また有給一般祝日の適用もないが、年次有給休暇の規定は適用される。他方、専門的被用者や外勤者は、(a)に該当しない限り、一般被用者と同様の規制に服する(使用者はこれらの者の労働時間を適切に管理する責任を負う)。
 (a) 雇用基準法全体からの適用除外――一定の要資格専門職等(建築士、会計士、法律家、カイロプラティック療法士、歯科医師、プロフェッショナル・エンジニア、測量士、医師、自然療法士、眼科医師、足専門医師、獣医、森林専門士、保険の代理人・セールスマン、アジャスター、不動産の代理人・セールスマン)(規則7条)。
 (b) 労働時間・休日・休息・食事時間規制の適用除外――音楽家・俳優、看護学校生徒、福祉団体で訓練や治療のために雇われる障害者、ボランティア消防士(規則8条)、管理監督者、教師、農業、水産業被用者、船員、鉄道被用者、狩猟ガイド、地質調査被用者、商業的買付け人、警察・消防被用者、福祉施設等のインストラクター、大学の教員・カウンセラー・司書、家事労働者など(規則9条)。
 (c) 休日・休息・食事時間規制の適用除外――バス・オートバイ運転手、トラックの運転手・ヘルパー、田舎の産業施設付属食堂等の被用者、救急車の運転手・アテンダント(規則13条)。
 (d) 休息・食事時間規制の適用除外――タクシー運転手、田舎の学校の管理人(規則13条)。
 (e) 時間外賃金支払対象時間からの除外――バス・トラック運転手や坑内労働者の不可抗力による一定の待ち時間など(規則14条)。
 〈労働協約適用対象者の除外〉 ブリティッシュコロンビア州では、雇用基準法による労働時間・年次有給休暇等の規制は、当該事項につき規定を有する労働協約の適用を受ける雇用関係には適用されない(2条(2)。なお、30条(3)は、重複した不要な規定である)。これは、労働協約の基準の方が雇用基準法の基準を下回ることをも許容するものである。立法者はそのような事態が現実に生じるとは予想しておらず、現に労働協約の条件のほうがずっと上回っていた。しかし、最近の経済不振の結果、法定基準よりも低い労働協約が出現するに至り、労働協約対象者についても法定基準を最低基準とするよう法改正すべしとの意見も出ている
 〈その他〉 ブリティッシュコロンビア州の雇用基準法でも、1991年の改正で、出産休暇に加えて育児休暇の制度が設けられた(第7節)。
 法の執行については、法律で定められた手当の支払をしない使用者に対して、監督官が、調査のうえ、支払命令を発する。これに不満な使用者は、雇用基準局長に審査請求をなしうるが、局長が支払命令を支持したときには証書(certificate)が出される。これは判決と同じ効力を有し、使用者は、その司法審査を求める権利があるけれども、命じられた金額を供託しなければならない。法違反には刑事罰もあるが、実際には非常に稀で、年に1、2件あるかという程度である。


第5章 スウェーデンの労働時間・休暇改正法案について

 スウェーデンでは、1992年2月、労働時間法および休暇法の改正に関する調査委員会の報告書が提出された。この調査委員会は、労働市場の主要な当事者のすべてから代表者をつのって構成された。その中には前回の調査で年労働時間制にもっとも難色を示したTOCの代表者も含まれている。
 今回の調査委員会に与えられた課題は以下の通りである。
 <1> 労働時間および休暇制度の一層の弾力化を図る
 <2> 労働時間と休暇を一つの法律で扱う
 <3> 必要な労働者保護規定を置く
 <4> 労働者間の平等を推進する
 <5> 国際的な視野をもって提案を行う
 調査委員会は課題に答えるべくこの提案は行ったが、その骨子は次のようにまとめられよう。すなわち、
 <1> 年労働時間制の導入
 <2> 労働時間配置に関する協定自治の強化
 <3> 休暇のより柔軟な利用を可能にする
 <4> 労働者個人の影響力の強化
 である。この提案は、全体として労働時間規制を大幅に緩和し、協約当事者である労使の裁量を非常に広く認めるものである。これは、労使ともに組織率が高く(ブルーカラーで約90%、ホワイトカラーで75%)、中央組織の統制力が強いというスウェーデンの状況を背景にしているといえよう。
 Lund大学のAnn Numhauser-Henning教授によれば、スウェーデン政府はこの提案に積極的であり、1993年の春には新法が施行される可能性がある。しかし、他方、ECの労働時間に関する指針との調整などの問題もあり、この提案がそのまま通るとはまだ断言できないとのことである。
 以下は、1992年2月に提出された報告書“Arsarbetsted"(SOU 1922:27)の1~5章を要約したものである。なお、現行法の参照が必要と思われる箇所があるので、序としてごく簡単に現行法を紹介し、途中にも適宜説明をつけ加えた。現行法については、以下の資料を参照した。
Axel Adlercreutz
 International Encyclopedia for Labour Law and Industrial Relations (1982)
Reinhold Fahlbeck
 Practisk Arbetsratt (1991)
Sten Edlund, Brigitta Nystrohm
 Developments in Swedish Labour Law (1988)
Ann Numhauser-Henning
 Flexibility in Working Time from the Swedish Horizon (1990)
序 現行法の概略
(1) 労働時間法(Arbetstidslagen:1982)
 <1> 通常労働時間は、週40時間を超えてはならない(5条)。
 業務上の必要がある場合(例えば消防など)には、待機時間が認められる。待機時間は4週48時間または月50時間を超えてはならない(6条)。
 時間外労働は、4週48時間または月50時間、かつ年200時間を超えてはならない(8条)。ただし、業務上の必要がある場合には年150時間までの延長が認められる(9条)。
 パートタイマーの時間外労働に対しては、特別の規制がある。パートタイマーの場合は、労働契約上の通常労働時間を超える労働時間はすべて、待機時間を含めて時間外労働として計算される。この時間外労働は年200時間を超えてはならない(10条)。
 <2> 深夜24時~5時までの間はすべての労働者に休息を与えなければならない。ただし業務の性質や業務上の必要、その他の事情のある場合には深夜労働が認められる(13条)。
 また、7日間ごとに少なくとも36時間の連続した休息を与えなければならない。ただし、使用者の予期できない事態が発生した場合(事故など)にはこの限りではない(14条)。
 <3> 労働時間の配置は使用者の経営権に属するが、使用者は労働時間の配置を変更する場合には少なくとも2週間前までに労働者に通知しなければならない(12条)。
 <4> 労働時間法の遵守は、労働安全委員会(Arbetarskyddsstyrelsen)と労働監督官(Yrkesinspektionen)との監督に服する(20条)。違反した使用者は、罰則に従い、罰金または禁固の刑に処せられる。
 <5> 労使は、全国レベルの協約によって、全面的に労働時間法と異なる合意をすることができる。事業場レベルでも、時間外労働等一部の事項について、別段の合意をすることができる。合意に達しなかった場合は、労働時間法と異なる処理をしようとする使用者は、労働安全委員会に許可を求めなければならない。
 <6> 時間外割増賃金については、法律に定めがなく、もっぱら協約に委ねられている(26条)。
(2) 年次休暇法(Semesterlagen:1977)
 <1> 年次休暇日数は、すべての労働者について27日間保障されている(4条)。
 年次休暇取得権は、休暇中の賃金・休暇手当の受給権とは関係なくすべての労働者に発生する(雇用されて1年目の労働者には無給休暇が与えられることになるが、労働者は無給休暇を取る義務はない)。
 <2> 年次休暇のうち、4週間は6月から8月の間に連続して与えなければならない(12条)。この連続休暇の時期は、共同決定事項であり、使用者は事業場の労働組合と事前に協議しなければならない。
 年次休暇の残りの部分は、1日単位で使うことも繰り越すことも(5年まで)可能である。 <3> 年次休暇法については監督機関はない。しかし使用者がこれに違反した場合には労働者本人が使用者に損害賠償を請求することが可能である。
 <4> 現在、ほとんどの協約が年次休暇法の基準以上の年次休暇日数を定めている。
I 改正法案の概要(SOV1992:27の要約)
1 年労働時間制度
(1) 概略
 <1> 労働時間と休暇を一つの法で扱い、1年単位の最長労働時間規制を行う。
 <2> 最長労働時間は、年2007時間(うち休暇216時間)とする。
 <3> 休暇時間数は、年労働時間に比例して決める。
 <4> パートタイマーの時間外労働規制は廃止する。
(2) 共通の計算単位(時間)
 現行の労働時間法5条は最長労働時間を週48時間または4週平均して40時間と定め(Arbetstidslagen 1982:673)、休暇法4条は年次有給休暇を年27日と定めている(Semesterlagen 1977:480)。
 しかし、労働時間と休暇を一つの法律で扱うためには、労働時間と休暇の計算単位が同じであるほうが都合がよい。また、労働時間と休暇の計算単位が違うと、同じ労働者でも休暇をとる時期によって不当に損をする場合がある。例えば、多くの地方公務員は5月から8月には通常より40分短く働く習慣がある。この期間に休暇をとると実際に休んだ時間が40分短いにもかかわらず、1日は1日と数えられる。したがって5月から8月の間に休暇をとった労働者は、時間数にして1日あたり40分(4週間で約13時間)損をすることになる。
 両者の単位をそろえるには、両方を一日単位で数える方法と、両方を時間単位にする方法とがある。しかし、1日を単位とするのには問題がある。第一に、休暇を1日単位にすると一定期間にわたって1日に数時間ずつ労働時間を減らすというような柔軟な利用ができず、休暇利用の弾力化の要請に応えられない。第二に、労働時間を1日単位で数えると、パートタイマーや交替制勤務の労働者など、1日あたりの労働時間が労働者によって異なる場合に規制が困難になる。
 一方、1時間を共通の単位とすればこのような問題は解決される。これは、外国の例もあり、スウェーデンにおいても1974年の休暇に関する調査委員会ですでに提案されたことであってとくに目新しい考えではない。休暇を時間単位で計算しても何ら不都合はないと思われる。
 したがって、労働時間、休暇ともに1時間を単位とすることを提案する。
(3) 最長労働時間
 労働時間、休暇とも年間の総時間数は、現行のままとする。これ以上の時短は協約に任せる。そこで、1日の労働時間を8時間とすると、年間の最長労働時間は次のような計算になる。
 a 現行の週40時間を年単位に換算すると
   40×365/7=2085.714(時間)
 b 閏年の分は
   1/4×5/7(2月29日が労働日にあたる確率)×8(1日の労働時間)=1.429(時間)
 c 祝日(休日に当たると振り替え休日となるもの)は年5日
   5×8=40(時間)
 d 祝日(振り替え休日にならないもの)は年に7日
   7×5/7(祝日が労働日にあたる確率)×6=40(時間)
 したがって、年間の労働時間は
   a+b-c-d=2007.143(時間)
 年最長労働時間は2007時間とする。
 この労働時間は年次休暇を含む。年次休暇時間数は現行の27日を時間数に換算して、
   27×8=216(時間)
である。
 したがって結論をまとめると、最長労働時間年2007時間、うち年次休暇216時間、実質労働時間1791時間となる。なお、この場合の1年は、4月1日から翌年の3月31日迄とする。なお、最長労働時間については協約で別段の合意をすることができる。
 年労働時間制をとった場合、次のような問題が生じる。
 <1> 年2007時間以外のフルタイム労働者の休暇時間数
 このシステムをとった場合に問題となるのは、年間の労働時間が2007時間ではない労働者に何時間の休暇を与えるかということである。
 現行法はすべての労働者に27日の年次休暇を与えている。これを維持するには、すべての労働者に216時間の休暇を与えるべきであろうか。しかし、216時間という数値は年2007時間労働を念頭に置いたものであり、27日が機械的に216時間に換算されるわけではない。休暇時間数は労働時間数に比例して決まるべきである。すなわち、例えば1日平均7時間労働する労働者の場合、27日間の休暇は、7×27=189(時間)に換算されるべきである。
 これは、一見、年次休暇が減少したように見える。しかし、その労働者の労働時間と休暇の時間数の割合は変わっていない。むしろ、日によって労働時間が異なる労働者の場合、現行法によると労働時間の少ない日に休暇をとるとその分休暇時間数が短くなることになるので不公平である。したがって、年2007時間以外の労働時間の労働者の休暇は、その年労働時間を2007で割り、216をかけた時間数とする。
 しかし、休暇の長さについては協約で別段の定めをすることを広く認める。協約で1日単位の休暇を定めたり、216時間より長い(または短い)休暇を合意することは協約当事者の自由である。
 <2> パートタイマー労働者の年次休暇
 パートタイム労働者の休暇時間数も、上と同様労働時間に比例して決定する。
 パートタイマーについての問題は、休暇を時間数で定めた場合、労働時間の配置によって、パートタイム労働者間に不公平が生じることである。
 スウェーデンでは、年次休暇のうち4週間は連続して夏期にとること(主休暇)とされている(Semesterlagen 12条)。この連続休暇の長さが、労働時間の配置によって、同じ労働時間のパートタイム労働者の間でも異なってくるのである。
例1;160時間
例2;80時間
例3;80時間
例4;80時間
 例1は、1日8時間労働のフルタイム労働者である。この場合、主休暇は、160時間(これについては後述する)となる。これは日数にすると20日間にあたるが、週末の休日を入れると連続して4週間と2日間の休みとなる。
 例2は、1日4時間、週5日間労働するパートタイマーの場合である。この場合、この労働者の労働時間は例1のフルタイム労働者の半分だから、主休暇は80時間(これについては後述)となる。これを連続してとると、休日を入れてやはり4週間と2日間が休みとなる。
 例3は、隔週で1日8時間、週5日労働する労働者である。この労働者の労働時間数は例2と等しく、例1の半分だから、主休暇はやはり80時間である。この労働者は80時間の休暇を連続してとると5週間休みとなるようにみえる。しかし、そのうちの第1週と第5週は非労働週であるから、休日休暇として保障されるのは3週間と2日となるのである。したがって、この労働者は例1、2の労働者にくらべて損をしていることになる。
 このような問題を避けるためには、主休暇を短くするような労働時間の配置や変更に対して労働者を保護する規定を置くべきである。例3の場合は、第1週か第5週のどちらかを労働のない週として(使用者が労働時間の配置の変更をしないよう)保障すべきである。
 例2、3のようなパートタイム労働者が例1のフルタイム労働者と休暇の日数が同じというのは一見違和感がある。しかし、これは年次休暇を時間単位にし、年労働時間に比例して休暇を付与することの当然の帰結である。この方法はもっとも公平かつ簡単であって、例4のような複雑な労働時間の労働者にも適用することができる。
(4) 年労働時間制の導入の正当性
 年労働時間制の導入に対しては、非常に大きな改正だから十分な正当性がなければ行うべきでないとの批判がある。
 しかし、今回の提案には十分な正当性がある。年労働時間制は1986年の労働時間委員会がはじめて提起した考えだが、同委員会報告(SOU 1989:53)はその導入にあたっては以下のことが必要だとしている。
 <1> 最長労働時間を何時間にするかについては、統一的な見解を形成すること
 <2> 業務上の必要や労働条件に照らした労働時間の一層の弾力化を図ること
 <3> 将来の労働時間制度の再編成を容易にすること
 <4> 労働日の多寡にかかわらず、1年の労働時間・休暇時間数を統一すること
 <5> 休暇の弾力的な利用を可能にすること
 今回の提案はこれらの要請に応えるものである。
 また、年労働時間制はそれほどドラスティックな改正ではない。現行法でも協約で定めれば年労働時間制をとることは可能であり、現にそのような協約も存在する。例えば、製紙業の協約には、労働時間は1年平均で週40時間以下と定められている(Sveriges Skogsindustriforbund、Svenskapappersindustriarbetareforbund、3条)。
 年労働時間制は、労働時間・休暇制度に対する新たな考えに基づくものである。そして、将来の制度の変化の方向を体系的に明らかにするものといえる。したがって当委員会は、年労働時間制を導入することによって現行の労働時間・休暇規制を緩和し、協約による別段の定めをより広く認めるべきであると結論する。
(5) 時間外労働
 <1> フルタイム労働者の時間外労働(overtid)
 フルタイム労働者については、現行の規制をそのまま維持する。時間外労働は週48時間または月50時間、または年200時間以下でなければならない。さらに必要な場合には年150時間までの延長が認められる(この他に、週48時間または月50時間までの待機時間が認められる)。時間外割増率については法律には定めがなく、協約に委ねられている。
 この規制は、労働者の保護規定として必要かつ合理的であって、適度の柔軟性をもつものと評価できる。
 <2> パートタイム労働者の時間外労働(mertid)
 現行法では、パートタイム労働者に対して、特別の規制がある。すなわち、パートタイマーの場合には通常の労働時間をこえる労働時間はすべて時間外労働とみなされる(労働時間法10条)。したがって待機時間も時間外労働である。この広義の時間外労働はmertidと呼ばれ、フルタイム労働者の時間外労働(overtid)と区別される。mertidは年200時間を超えてはならないとされている。
 このmertid規制の趣旨は、多くのパートタイム労働者が労働契約以上の時間労働している現状に鑑み、パートタイム労働者が労働力の確保手段として利用されないように(フルタイム労働者を雇用しないでおいて必要な時に多く働かせるという形で)するというものである。
 しかし、この規制には問題が多い。
 まず第1に、立法趣旨の通りの機能をはたしていない。すなわち、パートタイマーの労働契約では通常労働時間は当事者が自由に決めることができる。したがって、年上限200時間という規定があっても、通常労働時間をあいまいにすることによってより長い時間外労働をさせることができる。また、労働契約で通常労働時間を短く定め、恒常的に時間外労働をさせることによって、不利な労働条件でパートタイマーを働かせるという場合がある。この問題については法律では対処できず、判例法による解決がなされている。労働裁判所は、労働契約では通常労働時間は週15時間であるが5時間の時間外労働が恒常化している場合には、週20時間の労働契約が締結されているものとみなす立場をとっている。
 第2に、今回の事業場調査で、このmertid規制は労働時間の弾力化を妨げていることが判明した。また、多くのパートタイム労働者が、もっと働きたいのに働けないという事情があることも明らかになった。
 第3に、mertidは、法規制がなくても規制可能である。労働者は通常労働時間以外の労働義務は負わず、時間外労働をさせるためには協約または労働契約による合意が必要である。現在パートタイム労働者の時間外労働については協約の厳しい規制があり、法律の規制は必要がない。また、育児休暇中の労働者のように、フルタイムであるが一時的に労働時間を短縮してパートタイムで働いている労働者には、育児休業法など他の法律で手厚い保護が与えられている。
 第4に、mertid規制はovertid規制とは性質を異にする。後者は、労働者の健康や生活、生産活動等を考慮して社会的に決定された通常労働時間(最長労働時間)以上の労働時間は規制されるべきだという正当な理由がある。しかし、この意味での正当理由はパートタイマーの場合にはない。
 以上から、現行のパートタイマーの時間外労働規制は廃止されるべきである。
(6) ILO条約との関係
 スウェーデンは、週労働時間を40時間以下と定めたILO条約に拘束される。
 しかし、年2007時間制度をとると、休日の関係で、年によっては週平均40時間をこえてしまうことがある。
 これは一見条約に矛盾するようだが、年労働時間制は1年というより長期の視野に立って労働時間を制限するものであるから、条約の趣旨には反しない。また、現行法でも協約によって年2007時間制をとることは可能だが、そのような可能性を許す現行法は条約違反とはされていない。さらに、スウェーデンは、生産活動に支障をきたさないかぎりで週40時間労働の原則をを承認すると考えているので、今回の提案は条約に違反するものではない。年労働時間制は、週40時間労働の原則のより柔軟な適用を提案するものである。
2 労働時間の配置
(1) 提案の概略
 <1> 協約の適用がある事業場に対しては、何ら規制しない。
 <2> 協約の適用がない事業場に対しては、現行の規制を維持する。
 <3> 労働者個人の、自分の労働時間の配置に対する影響力を強化する。
(2) 弾力化への関心
 現行労働時間法は週40時間または4週平均40時間という定めを置いている。これは最長労働時間の規制であると同時に、労働時間の配置の規制でもある。
 今回の調査では、労働時間の配置についてLO(ブルーカラー組合)、TCO(ホワイトカラー組合)、SACO/SR(大卒ホワイトカラー組合)、SAF(使用者団体)等労使の意見を聴取したところ、以下の2点では意見がすべて一致していることが明らかになった。
 すなわち、
 <1> 労働者個人が自分の労働時間に対して、より強い影響力を行使できるようにすること
 <2> 労働時間のより弾力的な配置を可能にすること
の2点である。
(3) 保護規定の必要
 しかし、一方で労働者の保護規定が必要なことは当然である。以下、どのような規制が適当であるか考察する。
 <1> 労使の利益の違い
 上述のように、基本的には労使の意見は一致しているが、そこに求める利益は使用者側と労働者側で異なっている。すなわち、使用者側は、弾力化と個人の同意によって効率的な労働時間配置を行い、生産性を向上させることを望んでいる。一方労働組合の関心は、労働者の個人的な事情を重視した労働時間の配置を可能にすること、労働時間についての共同決定事項を拡大することにある。
 そのため労働組合は、弾力化の方向には賛成しつつも、使用者が生産性向上のみを考えた労働時間の配置を行うのではないかとの懸念をもっている。例えばLOは、1991年の報告書で、労働時間の弾力化は一定の労働者保護規制の枠内で行なわれるべきだとし、1日の労働時間の上限を定めることを主張している。
 <2> 1日の労働時間規制
 この1日の労働時間の上限を法定するかは、重要な問題である。
 現行法がこれにつき規制していない理由は、第1に深夜シフトなど労働が2日にまたがる場合や労働時間の多くが週末に集中している場合など、不便な時間帯の労働をうまく規制できないこと、第2にそれらの労働者を適用除外にすると結局保護規定としての目的を達しえないこと、第3に多くの協約に何らかの形で定めがあり、協約に委ねることが可能なことである。
 確かに、労働者の健康を害なうような労働時間の配置は許されるべきではない。しかし、本当に労働者の健康を考えるなら、事業場での労働以外の労働をも考慮に入れる必要がある。すなわち、家庭での家事・育児にかかる時間も射程にいれた規制が必要となる。しかしこのような時間は家庭の事情により様々である。例えば、ある調査によると、子供のいない高齢のカップルでは家事労働時間は2人で週111時間である。これに対して幼児をもつカップルは週137時間の家事労働が必要となる。このように、家事労働をも考慮にいれた労働時間は、労働者によって様々であり、単純な労働時間規制では解決することができない。これはもっと広い社会福祉の問題である。
 したがって、今回の提案でも1日の労働時間の上限は定めない。
(4) 考察
 しかし、何らかの保護規定は当然必要である。ここで問題となっている保護利益は、労働者の健康であり、医学的社会的に相当制を欠く労働時間の配置は許されるべきではない。さて労働時間の弾力化の際にいちばん問題なのは、協約の適用のない事業場(多くは零細企業)である。このような場合には使用者が一方的に、労働時間の不適当な配置を行う恐れがある。そこで協約の有無により、異なった規制をするのがもっとも適当だと考えられる。以下、2つの場合を分けて考察する。
 〈協約の適用のある事業場の場合〉
 <1> 大幅な労使自治
 この場合には、労働時間の配置と労働者保護を労使に委ねるのが適当である。労働時間の配置については、法は何らの定めも置かない。この場合の協約とは賃金および労働条件に関する一般協約(共同決定法32条)をさす。協約は全国(産業)レベルでも事業場レベルでもよい。
 <2> 個人の影響力
 ただし今回の提案の目的の一つは、個人の影響力を強化することにある。したがって協約が労働者個人が自分の労働時間の配置に対して、影響力をもつことができるように要請する規定を置く。具体的には、労働時間の一部を労働者個人が決定できる部分として保障する事などが考えられる。一方、業務上の必要がある場合には、使用者には一定の拒否権が与えられるべきである。また協約は、年労働時間でなく、より短期間(週、4週など)の労働時間の上限を定めることもできる。
 <3> 労働環境法
 しかし、一般協約のある事業場でも、まだ労働時間配置に関する協約が定められていない場合には、この点について労使の合意が存在しない。このような場合には使用者が一方的に労働時間の配置を決定することになるので、何らかの規制が必要である。また、労使の合意による場合でも、肉体的精神的に労働者の健康を害するような労働時間の配置に対しては、規制が必要だと思われる。
 そこで当委員会は、労働環境法(1977:1160)を適用することを提案する。
 これは労働環境法の趣旨からしても適当である。労働環境法は1991年に改正されたが、同法2章1条は、「労働条件は、異なる条件下で働くそれぞれの労働者に適当なものでなければならない」と述べ、改正提案(prop 1990/91:140)も労働環境法における労働時間問題の重要性を指摘している。
 労働者保護と生産性のバランスを考えるのに、労働時間の労働環境としての側面は重要である。
 <4> 結論
 労働時間の配置については、労働時間法は何らの規制もしない。
 しかし、医学的社会的に受け入れられない、労働者の健康を害するような労働時間の配置が行われた場合には、労働環境法の規制が及ぶ。すなわち、労働環境法の監督機関である全国安全衛生委員会の監視が及び、そのような配置がなされた場合には監督機関と労働組合に差し止め請求権が与えられる。
 これにより、労働時間の弾力化を無駄に妨げる事無く、必要な労働者保護を行うことができる。
 〈協約の適用のない事業場の場合〉
 <1> 現行規制の維持
 協約のない事業場に対しては、より細かい規制が必要である。そこで、現行の規制を維持することを提案する。すなわち、週40時間、または4週平均週40時間以下とする。
 <2> 問題点
 その場合の問題は、年2007時間を配分した場合、年によって労働日数が異なる(祝日の関係)ため、週平均労働時間が40時間を越えてしまう年があることである。(例えば1989年は週平均39.66時間なのに対して、1990年は40.14時間となる)これを解決するには、祝日を労働日にする、週39~41時間と幅をもたせる、週41時間とする、週の上限をもっと高くする(たとえば45時間)等の方法が考えられるが、いずれも一長一短である。
 協約のない事業場ではこの問題は重大であるが、法律上は週40時間時間を維持し、あとの処理は労使に任せる。社会通念からいって、祝日を労働日にするという解決はとられないであろう。
 <3> 個人の影響力
 協約のない事業場でも、労働者の個人的な事情と労働時間の調整は図られるべきである。すなわち、労働者個人が自分の労働時間配置に対して影響力を与えられることを使用者に要請する。協約のない事業場では、個人の労働者により強い影響力が与えられるべきである。
 これにより、週40時間4週160時間と異なる労働時間の配置も、労働者の同意によって許される。つまり、協約によらないで、労働者が個人的に法と別段の合意をすることができることになる。これは後述するように、EC法との関係で問題となる。
 また、使用者は義務の必要に照らして可能なかぎり、労働時間の配置について労働者の希望に添わなければならない。もちろん業務上の客観的な理由があるときには、使用者はこれを拒否することができる。
(5) EC法との調整
 今回の労働時間法改正提案は、現在のEC法とは抵触しない。しかし、最近EC委員会に提出された労働時間に関する提案と相容れない部分がある。
 EC委員会への提案は、休日・休憩時間・深夜労働についての最低基準を設けようというものである。すなわち、少なくとも24時間につき11時間の休息、7日につき1日の休日を与えること、深夜労働(20時~9時)は24時間につき8時間までとすることを提案している。しかし、協約によってこれと別段の定めをすることは認めているので、協約のある事業場については問題はない。問題は協約のない事業場である。
 前述のように、今回の提案では、協約のない事業場においては、協約によらず労働者個人の同意によって、法の定めと異なる労働時間の配置をすることが可能になる。しかし、EC提案は協約によらずに別段の定めをすることを認めていないので、この点で両者は矛盾する。
 スウェーデンはECに加盟していないが、将来加盟する可能性はあり、またスウェーデンの加盟するEESの合意によってEC法に拘束される。したがって、将来実際にこのようなEC法が制定されればこの部分はEC法違反となるので、何らかの措置をとらねばならない。しかし現時点ではEC法がどのような内容になるかはわからないので、今議論をしても意味がない。また、まえもってEC提案にあわせておくことは容易だが、協約のない事業場における労働者の同意権は重要であり、是非法律で保障されるべきである。したがってこれは今後の課題として検討されるべきである。
3 年次休暇の配置
(1) 提案の概略
 <1> 年次休暇のうち160時間は、完全に労働義務から解放される形で休暇をとるべきである(主休暇)。この休暇は、別段の定めがなければ6月~8月に配置されるべきである
 <2> 残りの年次休暇は、弾力的な利用を可能にする。1日の労働時間を減らしたり、週の労働日を減らすという形で利用することも許される。
(2) 休暇利用の弾力化
 <1> 弾力化の必要
 年次休暇が導入された当初、休暇の目的は労働力の疲弊・枯渇を防ぐことにあった。しかし、年次休暇日数が増加し、労働者の生活が向上した結果、休暇は休養以外にも教育・育児等、多様な目的に利用され得るようになった(ちなみに、スウェーデンにおける年次休暇日数は、1938年に初めて導入されたときには2週間であったが、その後1951年に3週間、1963年には4週間、1977年の現行法では25日と増加した。さらに1990年の改正で現在は27日となっている)。しかし、現行法では年次休暇は1日単位でしか取得できず、このような利用目的の多様化に十分応えられない。そこで、年次休暇をも時間単位で計算し、より弾力的な利用を可能にすることが必要である。
 <2> 弾力化の形
 では、どのような形で休暇利用の弾力化を図るべきであろうか。この問題については、労働組合の意見は一致している。すなわち、最初の4週間と残りとを区別して、前者は今までどおり連続休暇として保障し、後者についてより柔軟な利用を可能にするというものである。
 今回の提案は、年次休暇をも時間数で表すものであるから、4週間を時間数になおすと、1日8時間労働として160時間と換算できる。そこで最初の160時間と残りを区別して考察する。
(3) 160時間の連続休暇(主休暇)
 われわれは、年次休暇のうち160時間は連続休暇として、労働義務から完全に解放される形でとるべきだと提案する。その場合にはいくつかの問題が生じる。
 まず第1に年労働時間が2007時間でないの労働者主休暇は何時間かという問題である。160時間というのは年2007時間、年次休暇216時間に対応する数字だから、労働時間が異なる場合には主休暇も比例して変わるべきである。すなわち、主休暇の時間数は、その労働者の年労働時間を2007で割って、160をかけた時間数となる(小数点以下は四捨五入)。
 第2は、160時間と並んで、「160時間かつ4週間以上」という形で、現行の4週間の保障も残すべきかという問題がある。4週間の定めを残した場合には、時期によって労働時間が異なる労働者に不公平な結果が生じる。つまり、労働時間が長い時期に4週間の休暇をとった労働者は160時間より長い休暇をとったことになり、労働時間が短い時期にとった労働者は同じ4週間の休暇をとっても休んだ分は160時間より短いということになるのである。このように同じ労働条件の労働者でも主休暇の長さが異なる結果になって不都合である。
 しかし一方、労働者にとって、4週間の連続休暇が保障されることの意義は大きい。
 そこで、法律では160時間の保障だけを定め、4週間の保障との調整は協約に委ねることとする。調整方法の例としては、主休暇として4週間を保障し、その分の労働時間はその労働者の年平均の週労働時間で計算する方法や、4週間で160時間以上休んでも160時間と計算する方法などが考えられる。
 第3に、主休暇の時季の問題がある。現行法は主休暇の配置は共同決定または組合との交渉により、原則として6~8月に配置するべきであるとしている。今回の提案もこれを維持するが、夏期にもっとも労働力を必要とする業種もあることを意識し、主休暇の時季、時間数については協約で別段の定めができることとする。
(4) 残りの休暇
 216時間のうち残りの56時間は、より柔軟な利用を可能にする。すなわち 繰越・1日としてとる・一定期間の1日の労働時間短縮・週労働日を減らす・放棄などの形での利用が可能である。
 このような休暇利用の弾力化にあたっては、労働者と使用者の利益の調整が必要であり、つまり労働者個人の自由(個人的な事情)と業務上の必要とのバランスが必要となってくる。業務の性質上、休暇の自由利用を大幅に認めると正常な活動が成り立たなくなる分野もある(例えば医療機関など)ことを意識すべきである。
 しかし一方で、弾力化によって労使の利益の対立が緩和される面もある。個人的な事情で休暇をとる場合に、時間単位で必要なだけ休むことができれば、労働者にとっても便利だし使用者も丸1日休まれるより被害が少ない。
 以下では、考えられる休暇利用形態のうち、特に重要ないくつかを取り上げる。
 <1> 労働時間短縮という形での休暇利用
 1日や1週間の労働時間を短縮する形での休暇は、勉強・育児・政治活動・ボランティア活動等様々な目的に利用できる。年次休暇の休養以外の面での新たな利用法といえよう この方法のメリットは、育児のように長期に渡る場合でも繰り越した休暇を貯めて使えばカバーできること、半日でできる用事のために丸1日の休暇を使わなくてもよくなり無駄が少なくなることである。
 さらに男女平等を促進する効果も期待できる。育児については、両性が同じように育児のために休暇をとることが望ましい。現状では母親が休暇をとる場合のほうがずっと多いが、男性にも女性と同様に子供のために休暇をとる権利があるのである。今回柔軟な形の休暇利用が可能になったことにより、父親も育児のための休暇がとりやすくなることが期待できる。
 また、病人の看護については、1989年の法律により、同居している親戚が病気になった場合に看病のためにタイムオフをとる権利が保障されている。しかし現行法では丸1日の休暇をとらないかぎり、年次休暇は使えない。上述のタイムオフは無給であるため、収入の面からいうと有給の年次休暇を使えるほうが望ましい。今回の改正案ではこれが可能となる。もちろん、老人の介護のような長期にわたる看護は社会の責任であり、このような目的のために個人が年次休暇を使わなければならないというのは根本的にまちがっている。改正案は、決して社会の責任を軽減することを意図してはいない。この場合の看護とは、老人の介護のような社会的な問題ではなく、個人的なレベルの看病のみを意味する なお、先に述べたようにこのような形の休暇利用は使用者の利益にも一致する。
 しかしこのような休暇には多様な形が考えられ、それらを労働者の思い通りにとれることになると、業務上不都合な場合もある。したがって、労使はまえもってどんな形の休暇をとれるのか合意をしておくことが望ましい。
 また、現行法では年次休暇の配置については最終的な決定権は完全に使用者にある。しかし、改正案は以下の2つの点で使用者の決定権を制限すべきだと考える。第1に使用者は、労働者の申し出がないのに、一方的に労働時間短縮という形での休暇を与えることはできないとするべきである。第2に、休暇の配置について使用者は労働者の希望を合理的なものであるかぎり尊重しなければならない。これを拒否する場合には、使用者には業務上の客観的な理由がなければならない。
 <2> 放棄
 160時間をこえる年次休暇については、放棄を制限する規定は置かない。放棄は多様な休暇利用の選択肢の一つと考える。
 これは新しい改正ではなく、すでに1990年の法律で20日をこえる休暇は放棄することが可能になっていた(ある調査では、放棄が可能なことを知っていた労働者は全体の30%、実際に休暇の一部を放棄した労働者は約2%であった。そのうち82%の労働者は自発的に放棄し、72%は5日以上休暇を放棄して働いたという結果がでている)。ただし、この法律では使用者との合意が要件とされていたが、今回の改正案では労働者は一方的に年次休暇を放棄し、休暇賃金をえることができることとする。年次休暇は労働者の権利であり、労働者はそれを放棄する権利をもっているからである。
 <3> 繰越
 繰越については重要な改正があるので、章を改めて述べる。
4 年次休暇の繰越
(1) 提案の骨子
 <1> 現行法の繰越・積立を5年までに制限する規定を廃止する。
 <2> 年次有給休暇だけでなく年次無給休暇も積立を可能にする。
 <3> 積立てられた休暇が40時間以上なら、その年の主休暇と連続してとることを可能にする。
 <4> 積立てられた休暇は、弾力的な利用ができるようにする。
(2) 現行法の趣旨
 年次休暇の繰越は、現行法(Semesterlagen 1977:480)によって初めて認められた。
 現行法は提案した1974年の休暇委員会の報告によると、その趣旨は、年次有給休暇を1年以内に使いきれない場合にその分の休暇を無駄なく利用できるよう、4週間(主休暇)を越える分の休暇を繰越すことを認めるというものであった。
 しかし一方、現行法は年次有給休暇の積立を5年までに制限している。その理由は、同委員会報告によれは、第一に積立を無制限に認めると労働者によって休暇日数に差がつきすぎること、第2に初めての試みなのでまず制限付きでやってみる事が望ましいこと、第3に年次休暇の消化率が下がり、結局使わないまま金銭を得て放棄する労働者が増える恐れがあること、であった。
 なお、現行法が施行された当初、年次休暇日数は25日であったが、その後1990年の改正で27日に引き上げられた。したがって繰越できる休暇日数は5日から7日に増加し、最大35日までの積立が可能となっている。
(3) 積立の拡大
 現行法では以上のような制限があるが、産業別協約で様々な取り決めがなされている。例えば、地方公務員の協約では、5年間の制限を外し40日間までの積立を可能にしている。
 また、1986年の休暇に関する調査委員会は、年次有給休暇の積立につき、5年間の制限を廃止する提案を行った。
 現行法の制限を廃止するか否かは、制限を外した場合の濫用の危険と労働者の自由の拡大とのどちらを重視するかという問題である。現行法は前者の危険をより重視する立場に立っている。そこで現在の状況から現行法の立場の検討してみる。
 現行法が5年の制限を設けたのは上述の3つの理由からであるが、それらは今や根拠を失っている。第1の労働者間の格差は、すべての労働者に27日(改正案では216時間)の年次休暇が保障され、繰越・積立の選択肢が与えられていることを考えれば、それほど大きな問題ではない。第2の試験的な試みであるという理由は、現在ではまったく妥当しない。しかも地方公務員の協約の経験に照らして、積立をより広く認めても特に弊害がないことが実証されている。第3に休暇の消化率が下がるという理由については、労働者自身の判断に任せるべきである。4週間(改正案では160時間)の主休暇によって、年次休暇の休養としての目的は達成されるから、あとは労働者自身の問題であって、積立てた休暇を放棄することも認められるべきである。
 繰越の制限を廃止することは、長期休暇が可能になるなど労働者にとっては利益となる。しかし一方、年金受給開始年齢までに結局使い切れない労働者がでてくると思われる。これは、使用者にとっては利益であり、積立の制限廃止によって使用者がこうむる不利益の補償となるであろう。
 以上から、結論として、改正案は160時間を越える年次休暇の繰越・積立を無制限に認めることを提案する。
(4) 無給休暇の繰越・積立
 現行法および74年、86年の両委員会は、有給休暇についてのみ繰越・積立を認めている。これまでの議論では、無給休暇の繰越・積立は取り上げられなかったのである。しかし、当委員会は無給休暇の積立を認めてはならない理由は全くないと考える。したがって160時間を越える分については無給休暇も繰越・積立を認めるよう、提案する。
 これによって、雇用されて1年目の労働者や、無給の賜暇を与えられる労働者も、他の労働者と同じ日数の繰越・積立ができるようになり、労働者間の平等が促進される(スウェーデンでは休暇権と休暇賃金受給権が独立している。前者は短期雇用の一部を除きすべての労働者に認められるが、後者は一定の雇用期間を経ないと発生せず、休暇取得年の前年1年間労働して初めて全額の受給が認められる。そのため、1年目の労働者には一部無給休暇が与えられる)。
 もちろん長期の無給休暇をとると労働者の収入は減少する。しかし、それは労働者自身が自分の経済状況を把握した上で責任をもって判断すべき問題であり、法律は干渉するべきではない。経済状況が変わる可能性もあるので、当然積立てた休暇の放棄は認められるべきである。
(5) 積立てられた休暇の配置
 積立られた休暇の配置に関しては、他の場合と同様、労働者個人の自由と企業の生産性と調整が問題となる。この場合には、労働者は長期にわたって休暇を積立ててきたのであるから、通常の場合よりも労働者の希望が認められるべきである。しかし一方、長期の休暇の場合には、使用者の受ける影響も大きい。そこで、改正案は86年の委員会の提案に従い2つの場合を分けて考えることにする。
 第一に、積立てた休暇が40時間以上ならば、労働者の希望により、主休暇と連続してとることができるとするべきである。この場合には、200時間以上の長期の休暇になるので、6カ月前に使用者に通知しなければならない。労働者の希望はできるかぎり尊重されるべきであり、使用者がこれを拒否するには生産性を阻害するという業務上の客観的な理由が必要である。
 第2に、積み立てた休暇は労働時間短縮の形でも使うことができる。これについては通常の休暇の主休暇以外の部分と同様である。特に育児のように長期にわたる労働時間短縮が必要な場合も、まえもって休暇を積み立てておくことによって対処できる。
(6) その他の場合
 その他の問題としては、現行法は積立てた休暇を使った年には、その年の年次休暇は繰り越せないとしている。これは、この規制を置かないと、例えば毎年56時間繰り越し、かつ前年繰り越した56時間を主休暇と連続して長期休暇をとるということが可能になるからである。改正案は長期休暇の強化を図るものではないのでこの規定はそのまま残す。
 また、労働者が積み立てた休暇を使いきらずに職場を変わった場合、現行法は何の規定も置いていない。法律で、新しい使用者の下で使い残した分の休暇を取得する権利を労働者にすることも考えられるが、これには使用者の強い反対がある。これについては多くの協約に定めがあり、現行法で特に弊害がないので、改正案も労使の合意にまかせることとする。
5 結び
 今回の労働時間・休暇法改正案は、広い範囲の事項を協約を通して労働市場の当事者に委ねるものである。これは、労働時間・休暇への新たな見方を示すものである。また、改正案は労働時間・年次休暇制度を大幅に弾力化することによって、労働条件に重要なインパクトを与えるであろう。さらに、生産性の向上と労働者の参加の促進にも大きな効果が期待できる。労働時間と年次休暇は、労働条件の非常に重要な部分であるから、これについての協約は、現在の賃金および一般的な労働条件に関する協約が失効した時に、他の労働条件と調和するよう配慮して締結されるべきである。
 なお、今回の改正にあたっては、現行法をできるだけそのまま残すよう配慮した、その結果、全体との調和を乱す事なく、不必要な混乱を避けることができた。労使が混乱することなく、すみやかに改正案が実行されることを期待する。

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