調査研究成果データベース

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全文情報
まえがき

第I部 概要

第1章 調査研究の概要
  1.調査研究の背景
  2.調査の対象と方法

第2章 結果の概要
  1.現代若者の仕事と職業意識
  2.フリーターの析出の背景とフリーター経験に対する評価
  3.フリーターからの離脱
  4.高校から仕事への移行形態の多様化
  5.フリーターと家庭背景
  6.ジェンダーと労働形態
  7.若者の抱える問題と求められる支援

第II部 調査結果の分析

第1章 現代若者の仕事と職業意識
  1.はじめに
  2.現在の就業状況
  3.これまでの就業経験と職業キャリア
  4.職業意識の特徴とキャリア
  5.まとめ

第2章 フリーター析出の背景とフリーター経験に対する評価
  1.はじめに
  2.誰がフリーターになっているのか
  3.フリーターになった理由や契機-性・学歴・年齢別分析
  4.フリーター3類型の量的検討
  5.フリーターのアルバイト職種
  6.フリーター経験から何を学んだと考えているのか
  7.まとめ

第3章 フリーターからの離脱
  1.はじめに
  2.正社員になろうとした経験の有無
  3.フリーター離脱者の割合
  4.フリーター期間と離脱の関係
  5.フリーター離脱者の就業環境
  6.フリーター3類型と離脱状況
  7.まとめ

第4章 高校から仕事への移行形態の多様化-1990年代における高校の職業紹介によらない就職 増加傾向の分析-
  1.はじめに
  2.分析の対象
  3.高校から仕事への移行の多様化
  4.高校から仕事への移行の類型化
  5.まとめ

第5章 フリーターと社会階層
  1.問題の設定
  2.学卒直後の就業と社会階層
  3.年齢コーホート分析
  4.年齢コーホート別、学歴(本人)別分析
  5.まとめ

第6章 ジェンダーと労働形態-若年者下位グループ間の比較分析-
  1.分析課題
  2.ジェンダー・労働形態間の比較
  3.女性内部の分化-典型・非典型間の移動を軸として
  4.まとめ

第III部 付属資料
 調査票
 統計表
 自由回答

第I部 概要


第1章 調査研究の概要

1.調査研究の背景

(1)若者の就業行動についての現状認識

 90年代初めの景気後退以降、若年者の失業率は著しく上昇している。15~29歳層の失業率を見ると、1992年の3.8%から2000年には7.1%へと3ポイント以上の上昇になっている。中でも若い年齢階層ほど失業率は高く、15~19歳の男性では1999年に15.1%という高い失業率を記録している。この間、年齢計の失業率も2.1%から4.7%へと上昇しているが、若年者の失業率は(とりわけ若い年齢階層ほど)上昇幅がより大きい(総務庁『労働力調査』:図1)。

図1 年齢別失業率の推移

 失業の理由については、一般に景気後退期においては転職先が見つけにくくなるため自発的離職は減少すると言われてきたが、近年の若年者では、バブル景気期以上に自発的離職の比率が上昇している。すなわち、前出総務庁調査によれば、若年者の自発的理由による失業率(=自発的理由による失業者数/労働力人口)は92年の1.9%から2000年の2.9%へと増加している。こうした自発的失業者の増加は近年の若年者に特徴的な行動といえる。
 同時に、新規学卒就職者のうち早期に離職する者の割合も高まっている。90年代はじめの好景気期に就職した世代に比べると、どの学歴層でも早期離職者が増加しており、就職1年以内の離職者比率は大卒男子で92年卒の8.1%から99年卒の12.0%、同女子で13.0%から17.3%、短大等卒男子で15.1%から17.7%、同女子の13.4%から17.1%、高卒男子の18.9%から22.5%、同女子の19.7%から25.6%と軒並み上昇している(労働省職業安定局調べ(注1))。こうした離職行動が高い失業率の背景にあることが推測される。
 また、「学校卒業」を失業の理由とする者も増加している。前出総務庁調査によれば、15~24歳層での、学校卒業理由による失業率(=学校卒業の理由による失業者数/労働力人口)は、92年の0.7%から2000年の1.9%へと上昇している。また、文部省『学校基本調査』で学校卒業時点で就職も進学もしていない無業者(注2)の卒業者に占める比率をみると、大卒男子では92年の4.4%から2000年の21.3%に、同女子では8.8%から24.4%に、短大卒女子では7.3%から23.3%に、高卒男子では5.2%から9.2%に、同女子では4.2%から10.7%にそれぞれ上昇している。大卒男子を含め、高等教育卒業者での無業の増加が特に著しい。
 なお、無業者の比率は都道府県別で大きく異なる。高卒無業者についてみると、80年代でもこの水準が高かった沖縄県を別格としても、15%近い高い無業者比率の都道府県が複数見られ、一方で依然として5%を下回る水準を維持している県も見られる。
 学校卒業後もアルバイトやパートタイムの形態で就業しているいわゆるフリーターの増加も著しい。平成12年度版労働白書では97年の総務庁『就業行動基本調査』から151万人と推計しているが(注3)、総務庁『労働力調査特別調査』からより最近の状況を推計すると、190万人を越える水準に達していることが窺われる(表1)。また、フリーターには女性が多く、世代別には20歳代前半が多いことはすでに指摘されている。さらに、近年では20代後半層に増加の兆しが見えている。フリーター比率は地域による違いが大きく、沖縄県及び、首都圏、関西圏で特に高い比率になっている(図2)。

表1 フリーター数の推計
図2 都道府県別フリーター比率(15~24歳)

(2)近年の研究動向

 こうした近年の若年者就業の変化に注目した研究は、90年代後半以降に展開された。その一つの焦点は「フリーター」をめぐる研究である。
 「フリーター」という言葉自体は1980年代末に造られた言葉であるが、90年代に入っての増加が大きな関心を呼んだ。『労働白書』(2000)はその急激な増加を指摘し量的把握を行った。同書では就労実態については、主にリクルートリサーチ(2000)の質問紙調査によって整理しているが、この他、リクルート・フロムエー(2000)でもフリーター対象の質問紙調査を行っている。これらの調査で把握されている就労状況はほぼ同様で、概ね週5日、1日8時間程度働き、月収は10~15万円の者が多く、就労職種はサービス・販売系が多い。また、フリーターは一時的な状態として認識されており、将来的には定職に就くつもりの者が多いなどの意識の特徴も指摘された。
 フリーターの意識とキャリア形成について、詳細な聞き取りから迫ったのが日本労働研究機構(2001a)で、100人近くのフリーターにヒアリングし、主にフリーターになった理由として語られたことから「モラトリアム型」「夢追求型」「やむをえず型」というタイプ分けを行い、併せて<やりたいこと>にこだわる意識の特徴やキャリア形成・能力開発の問題点を指摘した。
 フリーターになるプロセスについては、高校卒業時点に焦点を当てた議論が展開されている。苅谷ら(1997)の研究は、無業で卒業する生徒の増加に注目し、その背景分析を高校教育の在り方を問う視点から展開した。すなわち、都内の普通科進路多様校・3年生に対する実態調査から、進路選択が遅れた生徒が無業者になっていくメカニズムを解き、普通科一辺倒で拡大してきた高校教育が、行き着く先としてこうした進路の決まらない生徒を生んできたと指摘する。フリーター選択のプロセスを労働市場との関係を重視して取り上げたのが日本労働研究機構(2000b)調査である。これは、首都圏の普通科進路多様校及び専門高校・3年生を対象にした調査で、求人数が激減するなかで高校の就職斡旋が旧来の成績と出席重視の学校推薦制度を採っているために、就職希望であった生徒の半数が就職をあきらめ、さらにその4割がフリーター希望に変化していくプロセスを整理した。同時に、フリーター予定者の意識や行動の特徴にも注目し、意識では<やりたいこと>を重視する気持ちが強いこと、自由さや気楽さを求める一群がいることなどを挙げ、また、行動の特徴として、成績不振や欠席の多さ、日常的なアルバイトなどを指摘した。さらに、耳塚ら(2000)は、より総合的な視野からフリーターになる生徒の背景を分析した。まず、地域の労働市場や教員の進路指導観の違いから教育現場での指導のあり方は異なり、これが無業者の析出に影響を及ぼしていることを指摘し、併せて、都内の普通科進路多様校および専門高校・2年生を対象にした実態調査から、フリーター予定の生徒の学校生活へのコミットメントが低いことや都市の青年文化の影響が大きいこと、高校の階層性や家庭的背景をふまえて階層的な格差が無業者析出の背景にある可能性などを示唆した。
 高卒者では無業・フリーターの増加と同時に、新規学卒就職者の激減が起こっているが、日本労働研究機構(1998)では、高卒者の対する労働力需要の急激な減少を統計的に明らかにしている。企業が高卒求人を中止した理由として、日本経営者団体連盟・東京経営者協会(2000)は、企業調査から、経営環境の悪化や高学歴者への代替、非正規社員への代替、あるいは、高卒者への評価の低下などを挙げている。現在の議論の一つの焦点は、こうした需要低下の中で高校における就職斡旋をどのように行うべきかである。日本労働研究機構(1998)は、全国7地区の高校や事業所、公共職業安定機関へのヒアリング調査から、高校における就職斡旋が変質した需要に対応していないのではないかという危惧を示した。すなわち、高卒者における就職斡旋は、学校別の求人や一人1社に限定した学校推薦によって応募するなどの旧来の斡旋スタイルを踏襲しており、こうした斡旋は求人の激減下においては求職側に不利に働くのではないかと指摘した。一方、石田(2000)は、就職希望者が30名以上いる全国の高校の進路指導担当者を対象とした調査を行い、これまでの仕組みの下で積極的に斡旋を展開している学校で就職率が高いことを指摘した。石田の調査対象は、求人の減少幅が小さい工業系専門高校にウエイトがあり、学校別労働市場といえる現在の高卒者の就職が学校ごとに分断されていることを示す議論でもある。高校における就職斡旋の慣行については、「高校生の就職問題に関する検討会議」(2001)が、学校、卒業者、企業、保護者を対象にした総合調査を実施し、卒業生や企業などで見直し支持が多いことを指摘している。
 学卒無業者の増加は、無業で卒業した後の正社員等への移行、初期キャリア形成の問題への関心を高めている。高校卒業時に新規学卒で一括採用されず、その枠外で、無業や非正規雇用者として社会に移行した者のその後のキャリアに最初に注目したのは日本労働研究機構(1996)である。1988年に高校を卒業した者に対する6年にわたるパネル調査から、学卒時に就職せず遅れて雇用された者や非正規雇用経験者に注目し、学校から職業への移行の典型モデルからの逸脱が一定程度広がり、また、その問題としての職業能力形成の遅れがあることを指摘した。さらに、「高校生の就職問題に関する検討会議」(2001)は、卒業時無業であった高卒3年目の者を対象に調査を行い、卒業3年目には約4割が定職に就いている事実を発見し、また、日本労働研究機構(2001)では、大卒4年目の者を対象にした調査から、卒業時無業や非正規就業であった者が4年目には男性では約6割女性では約5割が正社員として就業している実態を明らかにしている。
 就職後の離転職についての議論も展開されている。その焦点のひとつは若年の失業が、不況下にもかかわらず自発的離職を原因とする場合が非常に多いことである。この若年者の行動の説明として、『労働白書』(2000)では長期にわたる傾向的な変化として転職希望者の増加を挙げ、不況期には景気循環的要因が若年者に対しても自発的離職を減らす方向に働いているものの、趨勢的な増加傾向の方が強く、結果として自発的失業が高い水準にとどまっていることを示した。また、最近の数年では、過去の趨勢的な増加傾向を超えて離職率が高まっていることを指摘し、その背景に離職率の高いフリーター・非正規雇用者のウエイトが増大していることを指摘している。
 高梨(1999)は、親元と同居している若者で失業率が高いことから、親がかりの安易さが若者の離職やフリーター選択の背景にあり、安易な職業意識が若者に広がっているのではないかと警鐘を鳴らしている。フリーター増加の背景に豊かな親の存在を指摘するのは山田(1999)も同様であり、パラサイト・フリーターという造語も登場した。
 これに対して、若年失業者やフリーターの背後にある家計が果たして豊かな層であるのかという指摘がある。宮本(1999)は青年の依存期が長期化しているという視点から失業・フリーター問題を捉えるが、イギリスにおけるこの問題へのアプローチをふまえて、豊かな青年の側面と自立の権利を奪われた社会的に排除された青年の両面から捉えられるとし、親の経済力によって二極化しているのではないかと指摘する。また、日本労働研究機構(2000b)によれば、高校生の実態調査からは、進学を許さない家計を背景に就職できない場合はフリーターを選ばざるを得ないケースが少なからずあることが明らかになっている。親の家計との関係については、依存できる家計と進学を許さない家計の両側面を捉える必要が指摘されている。
 一方、玄田(1999)は、離職増加の背景に、やりがいを感じられる仕事の減少や一人あたりの仕事量の増加など就職機会の質の低下があると指摘する。あるいは、太田(1999)は、不況下で学卒就職した世代では不満足な仕事に就かざるを得なかったため離職の可能性が高く、これが離職率上昇の大きな要因であると指摘する。また、山田(2001)は、今の若者の就業環境は努力が報われる実感が欠けた「希望」がもてない状況であると指摘し、これがフリーター増加の要因になっているとする。これらの議論は事業所都合による離職でないにしろ、離職の背景には若年者の就業機会の質の悪化があることを強調するものである。さらにその質の低下を生んだ一つの要因が、既得権益に守られた中高年男性の存在であるというのが、玄田と山田に共通した認識である。若者の意欲や希望を引き出すには、能力の正当な評価あるいは、努力が報われる公正な社会的ルールの確立が重要だとする。『労働白書』(2000)も、若年と中高年との関係に踏み込んでいるが、むしろ仕事上でお互いを補完し合うベストミックスの関係を目指すべきだと主張する。
 主婦パートとの関係に注目する議論もある。高梨(2001)は、パート市場はこの10年で倍増しており、むしろ主婦パートが高卒者を追い出しているのが実態だと指摘する。また、小杉(2001)は「労働力調査特別調査」から性・年齢・学歴・婚姻状況別の非正規社員比率を分析し、女性の場合は中高年になるほど非正社員比率が高まる事実があり、これが若年の女性のフリーター選択を背景にあると指摘している。

2.調査の課題と方法

(1)調査の課題

 こうした調査研究の成果をふまえ、また、これまでの当研究会での議論を通じて、我々は若者の就業行動の変化について以下のように認識する。
 すなわち、失業や無業・フリーターの増加等の形で観察される若者の就業行動の変化は、我が国における学校から職業への移行過程の変化の表れである。長期にわたり同一企業に定着することを規範として、学校卒業と同時に正社員として就職するスタイルが我が国での学校から職業への移行の伝統的モデルといえる。このモデルに沿った移行が減っているから、学卒時の無業や失業、フリーターの増加が観察されるのである。
 そこで、移行過程の変化がなぜ起こっているかを検討すること、伝統的モデルの枠外での職業社会への移行の実態を把握すること、その移行の問題点について検討すること、そして、政策的対応が必要な問題について整理することが、この研究会の課題である。
 まず、この移行過程の変化を促している要因は、労働力需要側の要因と供給側の要因、そしてそのマッチングシステムの要因と3つに分けられる。
 需要側の要因としては、新規学卒採用の厳選化と非正規雇用の拡大という採用行動の変化がある。採用行動が変化している背景には、近年の不況に加えて、経済のグローバル化に対応した産業界の構造変化や多様な雇用形態の労働力を活用する経営への移行などの問題がある。特に新規高卒者の採用削減の背景には、こうした問題の他、労働力の質への厳しい評価があり学歴代替が進んでいる。また、新規学卒労働力への需要が低下したことから雇用機会の質も低下していると考えられ、このことが離転職の増加の一因になっている。
 供給側の要因としては、若者の就業意識の変化、および職業能力の形成状況の変化がある。この若者の職業意識形成や職業能力形成を規定している要因は多岐にわたり輻輳している。まず、学校に関わる要因として、進学が容易になり進学層が拡大したこと、高等学校の「水路付け」機能や社会化の機能が低下したこと、「個性」重視の教育政策・進路指導が展開されてきたことなどが挙げられ、こうした学校の変化が若者の意識や能力の形成に大きな影響を与えていると考えられる。さらに、家庭に関わる要因としては、若者の職業的自立が遅くなり親への依存が長期化しているという事態がある。家庭の教育力が低下していること、子供の多くが長男長女になっていること、あるいは、結婚年齢が上昇していることなども職業的な自立を遅らせる要因となっていよう。また、依存期の長期化によって、親の経済力による格差の拡大も考えられる。このほか、若者文化に関わる要因も考えられる。現代の高校生は、高校在学中から消費文化の担い手になっており、職業的自立は遅れる一方、消費者としては早熟になった。これが就業意識に与える影響は少なからぬものだろう。また、交友関係の変化などから対人関係能力の低下も指摘されているが、これが職業的自立に与える影響もある。このほか在学中のアルバイト就業の拡大なども職業意識形成に影響を与えているだろう。
 最後にマッチングの問題としては、高等学校における就職斡旋・就職指導が労働市場の変化に対応できていないこと、大卒者については自由応募が一般化する中で組織的な斡旋・支援が十分でないことが伝統的移行に乗れないものを増加させている可能性がある。
 伝統的移行の枠外での移行が近年急速に増加していることは、まさに学卒無業者の増加やフリーターの増加に現れている。フリーターの就業実態については、前述の通り、いくつかの調査研究を通じて明らかになってきている。これを移行過程の中で位置づけ、誰がどういうプロセスでフリーターになりまたフリーターから離脱していくのかを明らかにする必要がある。
 こうした移行での問題点としては、まず、能力開発の問題が挙げられる。新規学卒採用者を一人前にするために企業は様々なコストを負担しているが、正社員として就職しないということはこうした企業主導の能力開発機会を得られないということである。フリーターの仕事は、低賃金労働で単純労働が多いと思われ、仕事を通じての能力開発の可能性は低い。若年期という職業能力修得の好機に能力開発の機会を得られないことは、本人の今後にとっても、我が国全体の技術力・職業能力水準を維持する上でも問題が大きい。
 また、フリーターからの離脱がどのように進んでいるかという点にも問題がある。フリーターが低技能労働であれ、それが短期の経験に留まって職業能力開発が可能な状況にスムースに移行しているなら、問題は小さい。しかし、フリーター期間が長期にわたっているなら大きな問題である。さらに、離脱する意思があっても離脱できない状況なのであれば、早急な対応が必要だろう。
 伝統的移行では学校卒業時にマッチングサービスは集中してきた。そのため、現在の我が国では、学校を離れた後の若者に対する職業斡旋や職業相談の機会は十分整っているとは言えないのではないか。相談や斡旋を必要としながらその機会が十分得られないために、安定的職業生活への移行が進んでいない可能性もある。

 こうした認識を実態調査によって裏付けることが調査研究の課題であるが、平成12年度に実施した高校生調査やフリーターへのヒアリング調査から確認できたことを除き、また設計上可能な範囲を考慮して、以下の6点を本調査での具体的な検討課題とした。
<1>現代の若者の学校から職業への移行プロセスを把握し、伝統的移行以外の移行がどの程度おこっているのかを把握する。また移行のどの過程で、無業・フリーター・非正社員就業を経験しているのかを整理する。さらに、現代の若者の職業意識の特徴を概観し、意識と就業行動の関係を整理する。
<2>誰がなぜフリーターになっているのか、ヒアリング調査から抽出した分類を検証しつつどの類型のフリーターが多いのかを量的に把握する。また、フリーター経験への本人の評価を整理する。
<3>フリーターからの離脱の状況を把握し、どういうケースで離脱が困難なのかを探る。また、フリーター後正社員になった場合、フリーター経験がどのような影響を及ぼしているのかを探る。
<4>高卒者に絞って移行の実態を整理し、高校における就職斡旋の効果や問題点を探る。
<5>社会経済的な家庭背景が、職業への移行形態にどのように影響しているかを把握し、問題点を検討する。
<6>ジェンダーが職業への移行形態にどのよう影響しているかを把握し、問題点を検討する。

(2)調査対象及び方法

 調査対象は18歳から29歳とし、地域は東京都内とした。年齢については、20代後半のフリーターが増加傾向にあることや親への依存期の長期化の議論を踏まえて、20代後半までを対象とすることにした。また、高校生については別途の調査があることからこれを外した。さらに、調査実施上の制約から地点を絞る必要があったが、若者の就業行動の変化は都市部に集中して現れているので、東京都を選ぶことにした。
 サンプリングにあたっては、フリーター分析のためにはサンプルに一定数のフリーターが入る必要であることから、フリーターとフリーター以外を別々にサンプリングする事とした。調査の概要は以下の通り。
1)調査地域 東京都内(島嶼を除く)
2)調査対象 18~29歳男女(高校生は除く)
3)調査方法 訪問配布留置回収法
4)標本数
 <1>フリーター以外の若者(学生、社会人)  1000標本
 <2>フリーター               1000標本
 *フリーターとフリーター以外の区別は、回答者の自己認識による。すなわち、対象者を訪問した際、調査員から「フリーターとフリーター以外に分けたとき、あなたはどちらに当たるか」といった質問を口答でし、その回答によりいずれかに分類し、標本とした。
 *性・年齢区分は10代、20代前半、20代後半の男女6区分とし人口比率に合わせて回収数を設定する。
5)調査対象者抽出
 <1>地点の抽出
  調査地域内の市区町村に、対象年齢の人口数に比例した確率を与えて、地点の抽出を行う。
  調査地点:100地点。
 <2>対象者の抽出
  各地点から20標本(非フリーター10標本、フリーター10標本)を地域内現地抽出法により抽出した。
6)調査時期
  2001年2月

(3)分析サンプルの基本属性とウエイトバック

 本調査では、対象者の自己認識によりフリーターであるか否かを分け、それぞれ1000票ずつを回収した。それぞれの性、年齢、学歴、中学卒業時の居住地域、現在の家族形態の内分けは表2の通りである。

表2 分析サンプルの基本属性

 また、本調査は、都内の18-29歳層を性・年齢階級(18-19、20-24、25-29)別に、フリーター・非フリーターに分けてサンプリングする設計を採っている。そのため、都内在住の18-29歳を代表するデータとして取り扱うために、総務庁「就業構造基本調査」(1997年)及び「国勢調査」(1995年)から都内の性・年齢別、フリーター・非フリーターの数を算定し4)、これを母集団として、回収サンプルを母集団の構成比に応じてわりもどすウエイトバックをおこなった。抽出率及びウエイト値は注の表の通り。第2部の分析編においては、分析の課題によって、重み付きの補正データと元データとを使い分けることとする。また、補正データでの基本属性の分布は表3の通りである。

表3 補正データでの基本属性

(4)用語の定義

 すでに述べたとおり、本調査では対象者の自己認識によってフリーターであるか否かを分けている。したがって、以下の結果分析においても、「フリーター」は本人がそう自己認識している者を指す用語であり、就業形態の「パート・アルバイト」と同一ではない。
 一方、就業形態については、最も細かい分類では、正社員、公務員、契約社員・嘱託、派遣社員、パート、社会人アルバイト、自営業・自由業、家族従業員の8区分を用いる。各章ではこれを必要に応じてまとめて用いているが、この細分類の正社員と公務員をあわせたものを「正社員」ないし「典型労働」と置き、これとの対比で「非正社員」や「非典型労働」を各章で定義して用いている。


(注1)厚生労働省職業安定局労働市場センターにおいて保管している雇用保険被保険者の記録から、各年3月卒新規学校卒業者で雇用保険適用事業所に雇用されて新規に被保険者資格を取得した者を対象として、その1年後までの離職状況をとりまとめたもの。
(注2)1999年より「その他の進路」
(注3)ここでのフリーターの定義は、男については、就業中の雇用者で勤め先での呼称がアルバイト・パートの者のうち就業年数1~5年未満の者及び無業で非家事・非通学でアルバイト・パート就業希望者、女については、就業中の雇用者で勤め先での呼称がアルバイト・パートの者のうち未婚で主に仕事の者及び無業で非家事・非通学でアルバイト・パート就業希望者である。
(注4)東京都の性・年齢階級別フリーター・非フリーター数は、次の方法で推計した。
  総務庁「就業行動基本調査」から、東京都内の非在学のアルバイト・パートタイム名称雇用者数を算出し、これとこれ以外の者の比率を性・年齢階層(15-19歳、20-24歳、25-29歳)別に求める。ただし、調査対象は18-29歳層であるので、国勢調査(1995年)から、[18-19歳層/15-19歳層]の比率を人口および非在学アルバイト・パート人口に分けて求め、これを15―19歳層に乗じる。ここから性・年齢別の非在学アルバイト・パート人口とそれ以外の人口を求め、これを本調査のフリーター・非フリーターに当てはめて、抽出率を求めた。これに従い、性・年齢階層別のウエイト値を以下の通り設定した。



引用・参考文献
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苅谷剛彦、粒来香、長須正明、稲田雅也(1997)「進路未決定の構造-高卒進路未決定者の析出メカニズムに関する実証的研究-」『東京大学大学院教育学研究会紀要』37巻
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玄田有史(1999)「失業問題と雇用創出」学習院大学経済経営研究所年報第13巻
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小杉礼子(2001)「増加する若年非正規雇用の問題」『日本労働研究雑誌』vol.490
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高梨昌・村上龍(2001)「新春対談・雇用と教育-日本型システムの危機と希望」『週刊労働ニュース』1月1日号
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日本労働研究機構<本田由紀、小杉礼子、耳塚寛明、上西充子、堀有喜衣、下村英雄、中島史明、吉田修>(2000b)『進路決定をめぐる高校生の意識と行動-高卒フリーター増加の実態と背景』調査研究報告書138号
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労働省職業安定局(各年)『新規学卒者の就職離職状況調査』


第2章 結果の概要

1.現代若者の仕事と職業意識

 大都市に住む若者の就業状況と職業意識に関しては、以下のような点が観察された。

<1>移行プロセス

 a)就業経験者のこれまでの経験の内容をみると、フリーター経験のある者が3分の1強を占める。そのうちの3分の2近くはすでにフリーターを辞めている。契約社員等を含む正社員以外の形態での就業経験(他形態)に広げると、約半数が他形態での就業を経験している。経験した就業形態とその時期からキャリア類型を作ると、「正社員定着」35%、「正社員転職」9%、「正社員一時他形態」7%、「正社員から他形態」9%、「他形態から正社員」15%、「他形態一貫」16%、「現在無業」9%となる。これに学校を卒業したか中退したかという分類を付け加えてみる。新規学卒就職をして最初の職場に定着している者は、就業経験者の33%とさらに減る。また、中途退学では特に「他形態一貫」が多い。
 b)就業経験の有る25-29歳層(年長世代)についてみると「正社員定着」は、男性で37%、女性で23%である。この比率は、学歴別の差が大きく、大卒男性では6割だが、高卒男性では2割、中途退学の男性では1割以下である。女性でも同様の差が有る。しかし、男性の中退者や高卒者では、離学当初は無業や他形態であった者が正社員に多く移行しているので、どの学歴でも調査時点の正社員比率は8割からそれ以上になっている。学歴によりキャリアのパターンは異なるが20代後半では大半が安定的な就業に移行している。これに対して女性では正社員から他形態に変わる者や他形態の就業を一貫している者が多く、調査時点での正社員比率は大卒では7割であるが、短大・専各卒では5割、高卒では4割で、その分他形態の就業や専業主婦が多い。
 c)離学時に正社員就職する者は、若い世代ほど減少している。この傾向は男性、とりわけ高卒男性で著しく、25-29歳層では離学直後に60%が正社員であったものが、18-19歳層では30%に半減し、その分、アルバイトが増えている。年長世代と最近の若い世代では卒業時の状況に大きな違いがあり、年長世代のように20代後半までに正社員に移行する行動を若い世代がとらない(とれない)可能性もある。
 d)最初の正社員就職先を離職するにあたって次の正社員の見込みがあった者は、男性では48%、女性で26%だあった。女性では、結婚出産等で無職になる予定の者が26%いて、「何の見通しもなく」離職した者は男女とも3割前後にとどまる。ただし、大卒者では「何の見通しもなく」離職した者が多く、男性で4割、女性で5割に達する。大卒者のこうした行動は離職の安易さを示すものと言える。また、離職理由は大卒男性では「仕事が自分に合わない」が、大卒女性では「他にやりたいことがあったから」が多い。

<2>就業意識の特徴

 a)全体としては「専門的な知識や技術を磨きたい」や「職業生活に役立つ資格を取りたい」という者が9割を越え、職業に対して前向きな若者が多い。フリーターについては「正社員の方がトク」だと経済的に不利な働き方だと認識しながらも「若いうちは自分のやりたいことを優先させたい」や「やりたい仕事なら正社員でもフリーターでもこだわらない」という意見も6~7割を越え、フリーターへの共感を示す者の方が多い。また、「働き口が減っているので(フリーター選択も)しかたない」「誰でもフリーターになるかもしれない」という消極的なフリーター賛成が6~7割、「『自分探し』のためにいいことだ」「夢のためにフリーターをしている人はかっこいい」という積極的賛成も5~6割と若者の過半数がフリーターを支持する意見を持っていた。フリーターを支える意識は、若者に広く共有されている。
 b)現在最も望ましいと思う働き方、及び、3年後に実現したい働き方については、全体では正社員(公務員含む)とする者が男性で7割、女性で6割前後と多い。現在の最も望ましい働き方を社会人アルバイトとする者は、男女とも1割前後いるが、3年後については、男性で1%女性で2%とほとんどいない。フリーター、あるいはアルバイト・パート就業者、失業者、無業者では、現在の最も望ましい働き方を社会人アルバイトとする者が4~5割と多い。しかし、3年後に社会人アルバイトであることを望む者は、こうした者でもごくわずかである。フリーターは一時的な就業形態と考えられている。

<3>就業の質

 a)正社員と比べてアルバイト・パートでは、職種はサービス職や販売が多く、企業規模は小さい。単位時間あたり収入で比べると、アルバイト・パートは正社員の63~64%と低い。この格差は特に高学歴者で大きい。また、アルバイト・パートでは年齢階層が上の者でも単位時間あたり収入はあまり上昇せず、特に大卒では低年齢層より低くなっている。
 b)仕事にやりがいを感じるか、3年後も同じ勤め先にいたいかといった質問から現在の職場への評価をはかると、自営・家業従事者で高く、正社員がこれに次ぐ。これに対して、アルバイト・パート、あるいはフリーター、「他形態一貫」では、3年後まで同じ勤め先にいたいと思っていないし、職場の人的なつながりも薄い傾向がある。一方、周囲からうまくいっていると思われているか、将来の見通しは明るいかといった生活全般への評価は女性では全般に高くて就業形態やキャリアによる差は小さいが、男性では、アルバイト・パート、フリーター、キャリア別には「他形態一貫」で低い。性役割分業観を背景に、男性の非正社員では、生活面での不満や不安が強い。

 以上の事実の確認から、政策的に対応すべき課題として次の点が指摘された。
 <1>フリーターの3分の2は、学校を卒業や中退してから一度も正社員になったことがない者であり、学卒未就職者への対策が必要である。特に、高校卒業時の就職支援が必要である。また、中途退学者には特にフリーターが多く、またその後も正社員に移行しない者が多い。中途退学者に対して、離学時点およびそれ以降にわたって、職業への移行を支援することが重要だと思われる。
 <2>今の20歳代後半の男性では、離学時にアルバイト・パート、あるいは、フリーターであっても数年のうちに正社員に変わる者が多かった。しかし、最近になるほど学校卒業時に正社員にならない者が、高卒者や中退者を中心に急激している。若い世代がこれまでの世代と同様なキャリアをたどらない(たどれない)可能性がある。
 <3>正社員以外の雇用での労働の質は、単位時間あたり収入から考えると、高くない。また、加齢による上昇もほとんどなく、仕事を通しての職業能力向上はあまり期待できない。職業能力開発の機会をどう用意するか政策的対応が必要である。
 <4>現状としてはアルバイトを望ましいと考えているフリーターは少なくないが、3年後にはほとんどが他の形態での就業を望んでいる。アルバイト・パートの仕事内容に満足している者は少なく、将来に向けての相談機会や正確な職業情報の提供が必要だと思われる。また、3年後の希望は、正社員と並んで自営業・自由業である。雇用以外の就労への支援も考えられる。

2.フリーター析出の背景とフリーター経験に対する評価

 若者がなぜフリーターになるのか、および、フリーター経験が若者にとって持つ意味については、以下のような事実が観察された。
 <1>男性よりは女性において、相対的に低学歴者や中退者、年齢的には20代前半の者がフリーターになりやすい。また現在フリーターである者に注目してその構成をみると、性別には女性が、学歴別には高卒者が多く、年齢別には男性では20代前半、女性では20代に多い。フリーター経験は学歴の低い者や若い世代により浸透する傾向が見られる。
 <2>フリーターになる理由として多くの者が挙げる主な理由は、適職探索と自由な働き方への志向、および生活の必要性によるものである。
 <3>フリーター3類型のおよその分布は<夢追求型>が1.5割、<モラトリアム型>が4.5割、<やむを得ず型>4割である。
 <4>フリーター類型と職業意識・フリーター観は強い相関が見られる。<夢追求型>は独立・専門職・有名志向が強く、他の類型に比べて自分のフリーター経験に肯定的である。<やむを得ず型>は正規雇用への志向が強く、フリーターに否定的である。他方<モラトリアム型>フリーターは適職志向や働くことに対する忌避観が強く、自分の将来に対して悲観的である。
 <5>フリーターである者のアルバイトでの経験職種はそれほど多くはなく、一定程度継続的なアルバイトを行なっていると考えられる。またアルバイト職種においても、性別や学歴による差が存在している。
 <6>フリーターである者が、その経験を通じて得られたと考えているのは「いろいろな経験」「自由な時間」「人間関係能力」である。やりたい仕事に直接役立つ能力やチャンスを得たり、適職を発見できたと評価する者は少数にとどまっており、フリーターになる時に期待していたほどフリーター経験は適職探しに有効ではないと評されている。またフリーター生活の中でアルバイトが見つからなかったり急に日数を減らされる者も少なくなく、将来に対する不安や生活不安定、正社員との収入格差なども感じている。

 以上のような知見から次のようないくつかの示唆を得ることができる。
 まず誰がフリーターになっているのかについては、労働市場においてより不利な立場に置かれている者がフリーターになっていることは明らかであり、また類型の分布にみるように、「夢」の追求のために、あるいはやむなくフリーターになった者が過半数を超えている。本章の知見から主にイメージされるフリーター像は、怠惰で無気力であるなどの持たれがちなイメージとは異なる姿を見せている。むろん一部のフリーターにそうした傾向があることは否めないが、フリーターの実像をより正確に捉えるためには複眼的な視角が欠かせない。
 さらにそれぞれの類型に対して求められるケアも多様である。類型ごとに詳しく述べるならば、<夢追求型>はもっとも自己肯定感が強くなっているが、この類型のものは「やりたいこと」を追求しているために、本人はフリーターであることに自信を持ち周囲からもそれを容認されるという立場に置かれている。しかし<夢追求型>はフリーターという不安定な立場に置かれていることに対する認識が薄くなりがちであるという点で、フリーター離脱の可能性に関しては問題を含んでいる(この点については次章で詳しく検討されている)。また<モラトリアム型>はもっとも自分に向いている仕事がわからないと感じているにもかかわらず、相談できる相手は少ない。こうしたタイプに対しては、職業に関する相談機関の幅広い設置が求められる。正規就業への志向が強い<やむを得ず型>に対しては、実際の職業斡旋も有効だと考えられる。
 そしてフリーター経験が、若者が期待するほど適職発見に有効な手段ではないことが明らかになったという点は強調されるべきであろう。なぜなら「やりたいこと」を探すというのはそれ自体価値を持つことのように見えるが、本章の知見は、フリーターというかたちで「やりたいこと」を追求しても得るものは少ないことを示しているからである。こうしたフリーター経験者によるフリーター経験に対する評価を、特にフリーターを析出している都市部の進路多様校の学校現場に積極的にフィードバックし、生徒に伝達していく必要がある。

3.フリーターからの離脱

 フリーターからの離脱に関しては以下のような知見が得られた。
 フリーターの多くはいずれ正社員になることを考えている。そして実際に、フリーターを離脱して正社員となっている者も多い。ただし、離脱のプロセスには男女差が大きい。正社員になろうとした経験がある者は、男性では73%であるが、女性では53%にとどまっている。また、正社員になろうとした経験がある者のうち、実際に正社員になった者の割合(離脱成功率)も、男性では75%であるのに対し、女性では47%である。フリーターになることは必ずしも正社員雇用への道を閉ざすことではなく、フリーターから正社員への道は現実に開かれているが、女性の場合は離脱がより困難であるというのが現状であろう。なお、学歴が高いほど離脱成功率が高い、という傾向は見られなかった。
 フリーターを離脱して正社員になった者では、半数強が1年以内という短いフリーター通算期間しか経験しておらず、2年を超えるフリーター通算期間を経てから離脱して正社員になっている者は23%に過ぎない。一方、正社員になろうとした経験がありながらフリーターを続けている者では、フリーター通算期間が2年を超えている者が半数を占めている。いずれのグループも同じように早期の離脱をめざしながら、学歴などの条件の違いによって前者だけが早期の離脱に成功した、という可能性は低く、前者はフリーター生活に入ってから正社員になろうと試みるまでの時期が短かったからこそ早期の離脱に成功した可能性が高い。労働市場の中で競争力をもつためには早期の離脱が重要なポイントであり、フリーター経験を大きなハンディとしないためには、同学歴の早期離職者と同じぐらいの年齢までに離脱を行うことが妥当であると考えられる。
 フリーターを離脱して正社員になった場合には、離学当初から正社員を続けている場合に比べて、比較的企業規模が小さい勤務先で働いていることが多い。299人以下の中小企業に働く者の割合は、正社員継続の場合は5割強であるのに対し、フリーター離脱者では8割を占めている。職種では「サービスの仕事」が最も多い。年収は正社員継続者よりもやや少ないが、フリーターを経験したこと自体が現時点での収入に与えるハンディはかなり小さいと考えられる。現在の仕事に対する満足度は正社員継続者とあまり変わらないが、フリーター離脱の男性では、将来の独立志向が高いという特徴がある。企業規模や職種、独立志向などを考えると、フリーター離脱者の多くは正社員とはいえ学卒正社員の者とはやや異なった職場で働いていると言えるだろう。
 フリーターになった理由との関係で離脱状況を見ると、<夢追求型>では正社員になろうとした経験がなくフリーターを続ける者の割合が高く、<やむを得ず型>では逆に正社員としての離脱を望む気持ちが強い。しかし、<やむを得ず型>でも男性と女性の離脱状況には差が大きく、女性の場合は離脱がより困難となっている。<モラトリアム型>では男性はフリーター生活にデメリットを感じて正社員になっていくのに対し、女性の場合はフリーターとしての現状を肯定している者もかなり含まれていると考えられる。

4.高校から仕事への移行類型と初期職業キャリア

 高卒者に注目して、学校から仕事への移行過程の変化について検討し、以下の知見を得た。
 <1>高校卒業直後に「正社員」就職しているのは男性54%、女性64%で、それに対し高校卒業直後「パート・アルバイト」は男性が28%、女性25%にも達している。在籍学科別「正社員」就職率は、男性の「工業科」76%、女性の「商業科」79%と比べ、男性も女性も「普通科」が著しく低く、それぞれ45%、60%となっている。高校卒業年次群別に「正社員」就職率の推移を見ると、男性の場合1989-92年卒群が64%、1993-96年卒群59%、1997-2000年卒群35%へと、年を逐うごとに「正社員」就職率が減少している。女性の場合も、76%→57%→47%へと、男性ほどはないが大幅に減少している。「新規高卒就職」即「正社員就職」というイメージは、現時点では既に実態から大きく外れたものになっており、それはとりわけ男性の普通科卒者において著しい。
 <2>高校を卒業と同時に「正社員」就職した者の入職経路は、男性の場合「学校・職安」が64%と2/3以下である。残りは「縁故」が25%、また「新聞・求人情報誌」6%などである。一方女性では「正社員」就職者の83%が「学校」紹介で、男性と比べて「学校」経由率が著しく高い。これを学科別に見ると、男性では普通科では「学校」経由は48%に過ぎないが工業科は86%に達し、学科の違いが極めて大きい。一方女性の「学校」紹介による就職者は商業科91%、普通科83%で、男性と比べて学科による差は小さい。高校卒業年次による「学校」経由就職率は、男性の場合89-92年群が65%、93-96年群64%、97-2000年群61%と年時差はごく僅かであるが、減少傾向が認められる。一方女性は77%→92%→92%と推移し、バブル期の就職者の方が、バブル崩壊後の就職者よりも「学校」経由就職率が小さい。「新規高卒就職者」即「学校紹介による就職」のイメージは女性に関してはかなりあてはまる。しかし、男性の普通科卒には高校の職業紹介をよらずして就職している者が少なくない。
 <3>わが国の高校職業紹介は、長い間、『就職希望の生徒全員に、高校の職業紹介を通じて就職先企業を決めさせ、卒業すると直ちにその会社に「正社員」として就職させる』ことを目標にして進められてきた。これは、わが国の高校職業紹介を進めていく上での唯一のモデルであった。こうした高校の職業紹介を支え、可能にしていたのが「新規高卒」労働市場である。新規高卒市場は1990年代を通じて大きな構造変化が生じた。しかし高校の職業紹介システムは市場の変化への適応に遅れた。「フリーター」と呼ばれる若者の出現に示されるように、「就職希望者全員を学校卒業と同時に正社員就職させる」ことが困難な事態が生まれた。そしてこれまで見てきたように、高校から仕事への移行は既に多様な形態で行われており、従来からの「単一移行モデル」のみによる高校職業紹介ではカバーしきれない事態に至っている。そこで、これからの高校職業紹介で考慮が不可欠な移行形態の類型化を試み、「学校紹介・正社員雇用」型、「学外経由・正規就業」型、「非学校紹介・非正規雇用」型および「就業遅延」型を抽出した。
 <4>「学校紹介・正社員雇用」型は、高校在学中に「学校紹介」で就職先を探し、卒業すると直ちにその勤め先に「正社員」として雇用されるもので、長い間新規高卒就職の典型とされてきた移行形態である。「学外経由・正規就業」型は、(学校紹介に拠らず)私的縁故により就職先を見つけ卒業すると直ちにそこで「正社員」として働きだす(正規)雇用型と、家業に従事したり自由業となるような非雇用型の2つの異なるタイプを一つにまとめたものである。「非学校紹介・非正規雇用」型は、学校を卒業と同時に「アルバイト・パート」といった仕事に就く場合で、最近何かと話題に上る高卒者の移行形態の一つである。そして残る一つが「就業遅延」型で、学校卒業直後は「無職で仕事を探していた」り、「何をするか迷っていた」り、「無職で何もしていなかった」等々の状態で仕事に就いていなかったが、その後就業した者が全てこの型に含まれる。したがって「就業遅延」型を詳しく見れば、いくつもの特徴的な下位類型に分け得るが、ここではそれら全てを一括している。これら4つの移行類型を“フリーター”と関連づけると、「学校紹介・正社員雇用」型や「学外経由・正規就業」型の移行は、それによって“フリーター”と見なされることはない。これに対して残る「非学校紹介・非正規雇用」型と「就業遅延」型は、移行の仕方に違いはあるもののしばしば“フリーター”と見なされている。
 <5>移行類型に基づく対象者の分布を見ると、男性で最も多いのは「学校紹介・正社員雇用」型34%で全体の1/3を占めているに過ぎず、二番目に多い「非学校紹介・非正規雇用」型32%との差はわずかである。また「学外経由・正規就業」型も26%で決して少なくない。これら3つで9割を超える。「就業遅延」型は8%である。女性の場合は、大きさの順位は男性の場合と変わらないが、構成比には大きな違いが認められる。すなわち「学校紹介・正社員雇用」型が52%と半数を超えて最大で、以下「非学校紹介・非正規雇用」型26%、「学外経由・正規就業」型13%、「就業遅延」型10%である。以上のように、高校から仕事への移行形態の多様化が、すでにかなり進展していることは明らかで、とりわけ男性においてそれが顕著である。また高校在籍学科や高校卒業年次によっても移行類型の分布に大きな差が認められた。
 <6>1990年代を通じて新規高卒労働市場への参入経路は急激に多様化しており、高校の職業紹介によらないフリーター型移行が大きなシェアを占めるに至っている。かつては大勢を占め、それ故に典型的とされていた移行形態は、既に主導的地位を降りており、高校の職業紹介は今や、従来からの標準型とされる移行を前提に進めるだけでは、就職を希望する生徒のかなりの部分を取り残して進めることになるであろう。

5.フリーターと社会階層

 誰がフリーターとなるのかという問題を設定し、学卒直後の就業に限定して(正社員か、パート・アルバイト、無業、その他か)、社会階層的背景(父学歴、母学歴、父職業、生家の経済的豊かさ)との関連を検討した。標本数の限界が残されたものの、以下の点が明らかとなった。
 <1>すべての年齢コーホートと学歴層をまとめて、学卒直後の就業と社会階層の関連を見ると、学歴階層、職業階層と学卒直後の状況には関連が見られるとはいえない。経済階層(生家の経済的豊かさ)のみについて、弱い関連が見られるにとどまる。
 <2>しかし年齢コーホートに分解することによっていくつかの隠れた関係を浮き彫りにすることができた。第一に、新しいコーホートほど正社員率が低下し、非典型労働市場への参入率と無業率が高まったが、この過程で社会階層差は著しく大きなものとなった。第二に、新しいコーホート(18-19歳)では、概して相対的に高い階層出身者の正社員率が高く、非典型労働市場への参入率と無業率は低階層出身者で高い傾向が現れるようになった。より正確に表現するならば、18-19歳コーホートで出現ないしは拡大傾向を見せた社会階層差は、以下のようになる。
 a)学歴階層:中卒階層出身者で非典型労働市場への参入率と無業率が高い。
 b)職業階層(父職):専門・技術職と事務・販売・サービス職で正社員率が高く、非典型労働市場への参入率、無業率が低い。
 c)経済階層(家計の経済的豊かさ):経済的に豊かな階層ほど正社員率が高く、非典型労働市場への参入率、無業率が低い。
 父母学歴=高等教育卒、父職=管理職の子弟の就業状況に関しては、現時点では適切な解釈ができないものの、学卒直後の労働市場への参入ーとくに非典型労働市場への参入と無業者層への参入に関して、25-29歳コーホートではみられなかった(あるいは相対的に小さかった)社会階層の影響力が18-19歳コーホートになって急激に顕在化したことが、明らかとなった。それは、正規労働市場と非典型労働市場への参入をめぐる、あるいはそもそも労働市場へ参入するか無業にとどまるかをめぐる、属性主義的な再編現象の出現ないし拡大といってよい。
 <3>次に、そうした社会階層の影響力の顕在化が、<1>学歴(本人)効果(どのような学歴の者が関わる学卒労働市場で生起した現象であるのか)によるものなのか、<2>世代(卒業・就職時期)効果(時期的に、どの時点の学卒労働市場で生起した現象であるのか)によるのかを検討するために、付加的な分析を行った。標本数に限界があるものの、以下のことが指摘できる。
 a)1990年代を通じて正社員率が低下し、学卒直後に非典型労働市場へと参入する者と無業者が増加した。いわゆる正規労働市場へ学校卒業から直接参入することは、90年代を通じて困難なものとなっていった。
 b)その困難さは、大卒労働市場に比較して、高卒労働市場において顕著だった。
 c)同じ高卒者の中でも、1990年代末期に、いっそう多く非典型労働市場へ参入したり無業者となったのは、相対的に低い社会階層的背景を持った者たちだった。

6.ジェンダーと労働形態―若年者下位グループ間の比較分析

 ジェンダーの視点からは、まず、労働形態の軸とジェンダーの軸から構成される4つのカテゴリー([典型-男性][典型-女性][非典型-男性][非典型-女性])を作成し、この間の比較分析を行った。ここから、次の点が見出された。
 第1に、労働形態による差は大きくないが男性と女性との間で違いが大きい諸要素の検討からは、独力による地位達成への野心を秘めつつ黙々と働く存在としての男性像が浮かび上がってきた。そのような男性像は、伝統的な男性の性役割を受け継ぐものである。そして多くの項目に関して、典型男性よりも非典型男性の方が「男性的な」特徴をより強く表しており、新規なカテゴリーとしての非典型男性はジェンダー的にはむしろ保守的な傾向を示している。同様に女性の間でも、いかなる労働形態であれ「家庭を守る」存在としての女性像は根強い。しかも、独立や有名さ、高収入など職業に関わる積極的な志向は非典型女性よりも典型女性の方が一層希薄であり、典型女性の中にもジェンダー的な保守性が観察される。
 第2に、逆に性別による差よりも典型/非典型という労働形態間で差が大きい諸点を総括するならば、やはり現在の状況だけでなく生家の豊かさなど過去の経歴についても「有利/不利」ということが両者の決定的な違いと言わざるをえない。ただ、主観的な意識の面では、非典型労働者の中に、「やりたいこと」や多様な職業経験の重視など、自らの現状を肯定的にみる意識がかなり強く、彼らが客観的な不利さにくじけているわけではないことがうかがえる。しかしやはり、現在の仕事が充実したものと感じられる度合いは典型/非典型によって大きく左右されており、現在の日本における非典型労働が労働条件のみならず仕事内容の点でも縁辺性を意味していることは否定できない。
 第3に、4つのカテゴリーの中で、典型男性と非典型女性は両極に位置している。すなわち、量的にも質的にもフルに働いており、従来の「企業社会」的価値観を体現しているのが典型男性であるのに対し、非典型女性は労働時間や報酬が少ないだけでなく、非典型の働き方を肯定する意識も強い。この両者は既存のジェンダー秩序と労働秩序の重なり合いをもっとも明確に担っているグループである。
 第4に、残る2つのカテゴリーである典型女性および非典型男性は、上記の両極の中間に位置しているという点で親和的である。この両者に共通しているのは、ジェンダーと労働形態とのねじれのために、企業社会との関係の取り方が曖昧さを帯びているということである。ここから一見、この両者の間に一定の「連帯」が成立することにより、企業社会やジェンダー秩序を変革する潜在力となるかのようにみえる。しかしながら、そうした期待はすぐに裏切られる。なぜならば、典型女性がその経歴や現状において客観的・主観的に恵まれているのに対し、非典型男性は客観的な現在及び過去の状況に加えて主観的な現状評価の面でももっとも否定的である。典型女性は女性の中で相対的に「上層」であるのに対し、非典型男性は男性の中で相対的に「下層」にあたり、それぞれの母集団の中での相対的位置づけが対照的である。しかも先述のように、両者はいずれも従来のジェンダー秩序に対して順接的であり、一方は女性性を、他方は男性性を強く帯びている。それゆえ、マージナルなカテゴリーとしての典型女性と非典型男性は、少なくとも現状のままでは、旧来の秩序に対する変革の基盤となりそうにない。

 続いて、女性内部で労働形態間の移動のあり方に基づいて4つのカテゴリー([典型一貫][典型参入][典型離脱][非典型一貫])を作成し、この間の比較分析を行った。ここから、以下の諸点が見出された。
 第1に、現状としての典型/非典型の間には、男性を含めた上記の分析でみられたのと同様の、「有利/不利」および「労働力としての確立の度合い」をめぐる明確な相違が存在していた。学校卒業直後の状況としての典型/非典型は、単独ではそのような明らかな違いを生み出してはいない。それゆえ、やはり現在の労働形態が客観的・主観的な諸状況に及ぼす影響力は大きいといえる。しかし以下にみるように、過去と現在の労働形態の組み合わせから構成される各カテゴリーには、一定の特徴が見出される。
 すなわち第2に、まず「典型一貫」の女性は、典型女性のコア的な存在であり、客観的な現状において有利であるとともに、そうした自分の状況への肯定感も強い。そのような現状は、出身家庭の文化的・経済的なゆとりを背景としている。そして、彼女たちはジェンダー面および職業面で、保守的な傾向を示しがちである。一貫して典型労働であった女性は、ジェンダー的規範に抵触しない範囲で地位達成を志向する「しとやかな優等生」(木村1999)である。こうした存在である彼女たちが、自らの将来については積極的な展望を抱けないでいることが逆説的である。
 第3に、「非典型一貫」の女性は、客観的・主観的な現状の面で企業社会からもっとも離脱した存在ではあるが、同時に相対的に高い出身階層やジェンダー的な保守性をも特徴としており、既存の秩序を覆すようなパワーは感じられにくい。
 第4に、非典型から典型に移動した「典型参入」の女性は、本人と出身家庭のいずれに関しても、職業における専門性や経済的自立に価値をみいだす積極的な意識と行動を明らかな特徴としている。ジェンダー的にも革新的であり、いわば「男まさりの優等生」(木村1999)と呼ぶことができよう。ここから、若年(女性)の初期キャリアにおける非典型労働経験は、一定期間後に典型労働経験に結びつくことができる限りにおいては、むしろ非常に有意義であるという理解が導かれる。
 第5に、典型から非典型に移動した「典型離脱」は、多くは高卒後に家計を助ける必要から学校推薦で正社員としていったん就職したが、仕事内容への幻滅や結婚・出産などを契機としてアルバイトやパートに移行し、将来いわゆる「おみせ」を開くことを理想としているような女性たちを中心とする。意識面でのフリーター肯定は非典型一貫ほど明確でなく、ジェンダーなどの意識に関する特徴も見定めにくい。
 以上のようにみてきた限りでは、若年の中での非典型労働の広がりや女性の典型労働力化は、日本の従来の企業社会秩序やジェンダー秩序に対して大きな脅威となっていないようにみえる。非典型労働の男性は厳しい条件下で典型労働の男性以上に男性的な成功を求め、非典型女性は企業社会に背を向けてはいるが、親ないし夫への依存に逃げ込んでいる。「女の子は結婚すればいずれは家庭にはいるのだからフリーターでもいいと思う。結婚しない人は手に職つけといた方がいいと思う。」(女性・フリーター・高校中退)という自由記述は、そのような非典型女性の心性を端的に表している。他方で、典型女性は「恵まれた」背景と現状に安住しがちである。ただ女性の中で、非典型労働から典型労働に移行した者については、その職業面・非職業面の両方に及ぶ活力の大きさゆえに、新しい可能性が感じられる。
 今後、非典型労働が積極的な選択肢として社会に位置づいてゆくためには、<1>典型労働と非典型労働の間の待遇面(時間あたり賃金や教育訓練機会など)での均等化、<2>典型労働と非典型労働の仕事内容面での均等化、<3>長期的ライフステージや短期的家庭事情等に応じた非典型労働から典型労働へ、典型労働から非典型労働への移動の柔軟化、などの施策の推進が必要であると考えられる。それと平行して、ジェンダーという側面からは、「働く存在」という定義からの男性の解放と、経済的・心理的な依存傾向からの女性のエンパワーメントを促進するための様々な社会制度の改革もいっそう進められるべきであろう。これらの方策を通じた、「『男女ともに』労働時間を短縮しつつ家族的責任を担っていくというジェンダーフリーな理念」(前田2000)に向けての前進が期待される。
 さらに、現状では出身家庭の経済的豊かさや本人の学歴すなわち教育訓練の水準が典型/非典型間の分化につながりやすいことから、教育訓練機会、特に中等後教育機関へのアクセスにおける経済的障壁の緩和が必要となる。
 これらの方策を通じて、企業社会・ジェンダー・出身階層という、極めて強い束縛から個人の選択を可能な限り自由にしてゆくことが、今後の日本社会の「質」を高める上で不可避の課題である。

7.求められる支援

 <1>フリーターの3分の2は、学校を卒業や中退してから一度も正社員になったことがない者である。学卒未就職者への対策が必要だと思われる。特に、フリーターの中では高卒者が最も多く、高校卒業時の就職支援が必要である。
 <2>中途退学者には特にフリーターが多く、またその後も正社員に移行しない者が多い。中途退学者に対して、離学時点およびそれ以降にわたって、職業への移行を支援することが重要だと思われる。
 <3>フリーターになる者に家計の逼迫が見られるケースがあり、進学や職業能力開発の費用の負担を軽減する支援が求められる。
 <4><やりたいこと>を探すためにフリーターになるという心理は多くの若者の共感をよんでいるが、<やりたいこと>がみつかったからフリーターをやめようとした者は少ない。職業的・社会的体験の機会を在学中から広げ、早い時期から<やりたいこと>を具体的に考えるための支援をしていくことが必要である。
 <5>フリーターをやめようとしてもやめられなかった者は少なくない。やめる障壁となっているのが、第1に経験や資格がないことであり、フリーターの経験は就業経験として評価されないことが多いと思われる。彼らの多くが専門知識や資格の取得への意欲を持っていることを考えると、適切な職業能力開発の機会を提供することによる効果は大きいと考えられる。
 <6>フリーターになってから短期の間に正社員になろうとした者でフリーターからの離脱に成功した者が多い。短期間のうちに行動を起こすよう相談等を通じて支援することが有効だと思われる。また、学校との連携を強化することで早い時期からの働きかけを行っていくことが重要である。
 <7>フリーターになった理由によって正社員志向の強さが異なる。<やむを得ず型>の男女や<モラトリアム>の男性では正社員志向が強く、離学直後からの集中的な支援が効果的だといえる。<夢追い型>等に多い正社員志向が弱い者の志向も一概に否定するべきではないが、アルバイト・パートの就業機会を通じては能力向上の可能性は低く収入の伸びも難しい。正社員になろうとする時機が遅く、年齢が高くなっている者に対しても職業能力開発の機会を提供していく方法を検討していかなければならない。

引用文献
木村涼子、1999、「学校文化における平等とセクシズムの葛藤」同著『学校文化とジェンダー』勁草書房
前田信彦、2000、『仕事と家庭生活の調和』日本労働研究機構


第II部 調査結果の分析


第1章 現代若者の仕事と職業意識

1.はじめに

 この章では、調査結果に基づいて大都市に住む現代の若者の就業行動と職業意識の特徴を整理し、問題の所在を明確にする。
 第1節では、調査時点での就業の実態を整理する。失業・学卒無業・早期離職・フリーターについて、本調査結果の中で確認する。また、現職内容について、正社員と正社員以外の働き方(非正社員)での違いを整理する。
 第2節では、前節での整理をふまえて、学校から職業への移行プロセスの中のどの段階で、失業・無業やフリーター・非正社員就業が発生しているか、また、そこから離脱しているかに注目して職業キャリアを整理し類型を作成する。その上で、世代別の検討をもとに、職業キャリアの近年の変化を把握する。また、性別や学歴などの諸属性と職業キャリアの関係について整理する。
 第3節では、現代の若者の職業意識の特徴をとらえ、それと無業・フリーター・非正社員を選択する就業行動との関係を分析する。また、さらに、就業行動(現在の就業形態・職業キャリア類型)別に、職業や生活への満足度や将来展望を整理して、個人の意識のレベルからそれぞれの行動の評価を試みる。
 最後の節では、これまでの分析を整理し、社会的・政策的に対応が必要な問題について整理する。
 なお、第1部でも断ったとおり、本調査ではフリーターという言葉は「自称フリーター」を指す。すなわち、調査対象者には、最初に「フリーターとフリーター以外に分けたとき、自分はどちらに当たると思うか」と質問し、その結果でフリーターサンプルとするか否かを決めている。従って、以下の第2部・分析編でも、フリーターという言葉は、就業形態によって定義された言葉ではなく、自称の者を指す。
 また、この章の分析では、都内の若者全体の就業行動と意識を概観するのが目的であるので、第1部で記述した方法によりウエイト付けした補正データを用いる。

2.現在の就業状況

1)現状

 まず、東京都在住の18歳から29歳の若者の就業状況を確認する(表1-1)。全体を100とした時、大学生などの就業経験のない者(学生時代のアルバイトはここでは就業経験に含めない)が29.0%を占める。就業経験のある者でも、最近1週間の状況は専業主婦や学生等の非労働力であると思われる者が5.6%を占める。これを除いた者を100として最近1週間の就業状況を見ると、正社員67.8%、公務員3.6%、パート2.4%、社会人アルバイト12.4%、契約社員・嘱託3.1%、派遣社員2.0%、自営業・自由業2.5%、家族従業員4.0%、「無職で仕事を探している」1.2%、「無職で仕事以外の活動」0.2%、「無職で特に何もしてない」0.8%となっている。ここから失業率を求めるとすると1.2%程度で、「労働力調査」による失業率7.1%(15-29歳層、2000年)に比べてかなり低い。また、失業以外の無業である「無職で仕事以外の活動」「無職で何もしていない」も、併せて1%程度とごく少ない。失業者やこうした主婦でも学生でもなく、かつ求職はしていない無職者が、調査方法のゆえか、サンプルから相当程度落ちてしまった可能性がある。ともあれ、この調査の趣旨からは注意を払うべき存在であり、量は少ないがわかる範囲の状況は把握していきたい。

表1-1 現在の就業状況

 以下ではそれぞれの就業形態の就業上の特徴を整理するが、煩雑さを避けるため、公務員を含めて「正社員」、社会人アルバイトとパートを併せて「アルバイト・パート」、契約・嘱託と派遣社員を併せて「派遣・契約」、自営業・自由業と家族従業員を併せて「自営・家業従事」と表現する。また、場合によっては「アルバイト・パート」「派遣・契約」「自営・家業」を正社員以外の働き方として括って扱うこともある。なお、無業については、「失業」と「無職(「無職で仕事以外の活動」「無職で何もしていない」)」をできる限り分けて、見ていくことにする。

2)正社員と正社員以外の働き方の諸条件

 表1-2は就業形態別に職種の分布を示した。正社員を基準に他の形態を見ると、男女とも派遣・契約は専門職や事務職が多く、正社員以上に集中している。アルバイト・パートの場合は、男女ともサービス職が最も多く、次いで販売職が多い。正社員とアルバイト・パートの職種分布の違いは大きい。企業規模の上では(表1-3)、派遣・契約は正社員と同様かあるいはそれ以上に大規模企業の比率が高い。これに対してアルバイト・パートは29人以下規模の企業が半数前後を占めている。入職経路は(表1-4)正社員の場合、学校紹介が男性の4分の1、女性の3分の1を占めるのに対して、アルバイト・パートでは学校紹介はごく少ない。アルバイト・パートは、他の雇用形態に比べて「張り紙や看板、新聞の折り込み」が多いことが特徴といえる。また、派遣・契約では男性で学校紹介が多く、女性で「その他」が多い。その他の多くは、派遣社員が「派遣会社を通じて」というものである。

表1-2 就業形態別現在の職種
表1-3 就業形態別現在の就業先企業規模
表1-4 就業形態別現職入職経路

 労働時間は最近1週間の労働時間で尋ねている(表1-5)が、平均値で見ると男性では正社員と自営・家業従事が50時間を超えて特に長く、女性では正社員が約45時間と長い。アルバイト・パートは男女とも最も労働時間は短い。年収は昨年の年収で尋ねている。男女とも最も高いのは正社員であり、最も低いのはアルバイト・パートで、正社員の半分程度にすぎない。この2つの平均値から、単位時間あたりの収入を求めてみた。時点はあっていないが、おおよその傾向をみることはできる。表中に示すとおり、単位時間あたりの収入が最も高いのは男女とも正社員であり、最も低いのはアルバイト・パートである。アルバイト・パートは低賃金労働であり、またこのことから高い技能度を要求されない仕事が多いことが考えられる。

表1-5 最近1週間の労働時間と昨年の年収、単位時間あたりの収入

 若者が就いている正社員以外の雇用形態は、アルバイト・パートと派遣・契約に大きく分けることができ、前者は小規模の企業でのサービス職や販売職が多く、門前広告や折り込み広告で入職することが多い雇用形態で、低賃金の低技能労働が多い。これに対して、派遣・契約は比較的大企業で働いていることが多く、事務職や専門職が多い。賃金水準は正社員より低いがアルバイト・パートよりは高い。
 なお、雇用以外の働き方として、自営・家業従事があるが、仕事としては男性の場合生産工程や建設の仕事が多く、女性では販売が多い。特に男性の場合には週労働時間は最も長く、単位時間あたりの収入はアルバイト・パートに近い低水準である。女性ではアルバイト・パートと同様に労働時間は短く単位時間あたり収入は派遣・契約に近い。

3)年齢・学歴と現在の就業状況

 調査対象は18~29歳と幅があり、学歴も様々である。収入は年齢や学歴でも大きく異なることが知られている。就業形態と年齢・学歴との関連を見た後、これをコントロールして就業形態による労働条件の違いを検討する。
 最初に対象者の学歴と年齢の関係を整理しておく。学歴と年齢のそれぞれの分布は第I部の表3の通りだが、これを組み合わせて整理すると表1-6のようになる。もともと中退学歴者は「中卒・高校中退」者は3.9%、「高等教育中退」者は2.3%と少ないが、卒業と中途退学では、労働市場への入り方が大きく異なることが考えられるのであえて別に扱う(なお、中卒者と高校中退者では、労働市場への入り方は異なるが、調査票の検討から中卒学歴と回答している者のなかに、高校中退者が少なからず混在している可能性があり、ここでは同じカテゴリーに入れている)。さらに、これを性・年齢段階で分けると、非常に少ない人数になってしまうが、年齢別に見る必要も大きいので、これもあえて少ない人数でもカテゴリー化しておく。

表1-6 対象者の性別の年齢学歴分布

 現在の就業状況(在学中の者をのぞく)をこの性・学歴年齢別に示したのが表1-7である。これを正社員とアルバイト・パートに注目して、各層別の状況を追ってみよう。(派遣・契約は就業者数が少なく、性・学歴年齢別には検討できない。)男性についは、アルバイト・パートが多く正社員が特に少ないのは、高卒の18-19歳、高校中退等の24歳以下、高等教育中退の24歳以下である。中退学歴の者や学歴段階の低い者で正社員が少なくアルバイト・パートが多い。年齢階層が高まると正社員比率が高まり、20代後半の年長世代ではどの学歴でも正社員比率は75%以上になっている。最も正社員比率が高いのは、大卒25-29歳で88%である。

表1-7 性・年齢学歴別 現在の就業状況

 年齢による差異は、加齢にしたがってアルバイト・パートから正社員に異動したためとも考えられるし、あるいは、もともと古い世代の方が正社員比率が高かったとも考えられる。新規学卒時の就職率等を勘案すれば、この両方が起こっている可能性が高い。
 女性ではそれほど単純な変化ではない。高卒の年少世代や、高校中退、高等教育中退者でアルバイト・パートが多いのは男性と同じだが、男性のように年齢階層が高いほどアルバイト・パート比率が低く正社員比率が高い構造ではない。女性の年長世代では専業主婦が多い。すなわち、女性の年長世代では、婚姻等を契機に専業主婦になったりアルバイト・パートになったりする動きがあり、加齢にしたがって正社員が増える男性とは異なる。年長世代の専業主婦率は学歴による差が大きく、高卒で高く、大卒で低い。こうした移動の結果、年長世代で正社員率が最も高いのは、大卒で70%となっている。
 さらに、男性・高卒18-19歳の年少世代では「就業経験なし」が2割、無業が7%、高校中退の年少世代でも無業が2割近い。女性でも「就業経験なし」は、高卒18-19歳で11%や高校中退等20-24歳で26%と多い。予備校を含め在学中の者は除いているので、ここでの「就業経験なし」は無業と同じだろう。高卒や高校中退等の若い世代に、パートやアルバイトなどでの就業もしていないし、仕事を探してもいない者が1~2割いる点は重要だと思われる。一方、男性大卒24歳以下では失業者の比率が10%を越えている。総務庁「労働力調査特別調査」でも大卒若年者の失業率の上昇がみられており、近年の新規学卒市場の悪化を表すものだろうが、大卒男性では、仕事を探し続けているために失業として表れるが、高卒や中退学歴では仕事を探すこと自体を辞めたり当初から探すことをあきらめるために「就業経験なし」の比率が高いのではないかとも考えられる。
 また、男性の高卒や中退学歴の年長世代、あるいは女性の高等教育中退の年長世代には自営・家業従事が1~2割と比較的多い。年長世代のうち高学歴者では正社員比率が高いのに対して、高卒や中退学歴では雇用以外の形態での就労者が一定の割合を占めるようになっている。こうした雇用以外へのキャリアの展開にも留意していく必要があるだろう。若者の「起業」は、産業構造の転換点で重要な行動である。
 次に、年齢・学歴別に正社員とアルバイト・パートの間の労働条件の違いをみてみよう。ここでは、正社員の単位時間あたり収入を100としたときのアルバイト・パートの単位時間あたりの収入で比較してみた(表1-8)。男性・高卒の18-19歳では100を超え、正社員よりアルバイト・パートの方が単位時間あたり収入は高い。しかしそれ以降の年齢層では年長世代ほど、正社員との差が拡大している。高学歴者では、高卒者より数値が小さく、より格差が大きいことが分かる。特に大卒25-29歳層では53と正社員の半分程度の収入水準にとどまっている。女性も同じく年齢階層が高いほど正社員に対するアルバイト・パートの単位時間収入の比は小さくなり、格差が広がることが指摘できる。また、高等教育卒業者の方が格差が大きい点も男性と同様である。

表1-8 単位時間あたり収入の正社員とアルバイト・パートの比較(性・学歴年齢別)

 単位時間あたり収入の数値に注目すると、男女とも正社員では年齢段階に応じて上昇していることが明らかだが、アルバイト・パートでは、高卒の場合は男女とも増加幅が小さいし、大卒ではむしろ減少すらしている。
 同じ年齢・学歴階層の正社員とアルバイト・パートの単位時間あたりの収入で比べると、高卒学歴の18-19歳男子だけを例外として、他では、いずれもアルバイト・パートの方が低かった。さらに、年齢が上がるにつれ、また学歴があがるにつれこの格差は開く傾向がある。アルバイト・パートの就業機会は低賃金で、また技能度の低い仕事が多いのだろう。経験を重ねて賃金が高まる割合も低いし、高等教育卒業者が能力発揮できるような仕事もほとんどないということだろう。

4)就業形態と家族の関係

 フリーターに代表される若年の正社員以外就業、あるいは非就業が増加した背景に、親への経済的依存(パラサイト)が有ることが指摘されているが、ここで、本調査対象の親との経済的関係を整理しておく。
 婚姻と家族との同居状況から、対象者の家族類型を「未婚単身」「未婚親元」「既婚」に分ける。在学中の者は除いた上で、この世帯状況別に就業形態を見る(表1-9)と、「未婚親元」のケースのほうが、むしろアルバイト・パート比率は高く、親と同居している者にアルバイト・パートが多いという事実はなかった。ただし、失業者の比率は「未婚親元」が最も高かった。無職で仕事を探しているという選択肢からここでの失業率を求めているが、親元にいなければ仕事を探し続けられないということではないか。

表1-9 世帯状況別就業形態(在学中を除く)

 また、既婚世帯では男性は正社員が多く、アルバイト・パートはわずか1%である。アルバイト・パートだから結婚できないのか、結婚をしないからアルバイト・パートでいつづけるのか明らかではないが、男性の場合は結婚とアルバイト・パート就業は両立していない。
 また、親との間の金銭のやりとりについては、在学者は除いているので、全体に親から小遣いをもらっているケースは多くないのだが、男性の失業や無業、あるいは男女とも就業経験なしのグループで親から小遣いをもらっている者が多い(表1-10)。正社員と比べれば、アルバイト・パート等の就業形態の方が小遣いをもらっている。ただし、食費等を入れている関係の方がずっと多く、正社員以外でも仕事をしていれば、親への依存は少ないと思われる。無業・失業の場合は、親への依存はかなり大きい。

表1-10 就業形態別親との経済関係(在学中を除く)

3.これまでの就業経験と職業キャリア

1)これまでの就業経験

 次に調査時点までの就業経験について概観しよう。調査時点では、アルバイト・パート就業者は専業主婦や学生を除いた者のうちの15%程度、派遣社員や契約社員も併せて7%前後に過ぎなかったが、調査時点現在正社員である者は、学校卒業以来ずっと正社員で通してきたのだろうか。学校卒業と同時に正社員として就職し、一貫して同一企業内で職業キャリアを積むのが日本型の伝統的とも言えるモデルだろう。雇用の多様化が進んでいるといわれるが、こうした伝統的な職業キャリアモデルにあてはまる者はどの程度いるのだろうか。

<1>正社員以外の就業経験

 まず、正社員以外の就業形態の経験についてみてみよう。対象者にこれまでに経験した働き方について多項目選択の形式で尋ねると(表1-11)、「働いたことがない」者が29%いるが、これを除いた就業経験のある者を100とすると、男女計の80%以上が正社員(公務員含む)を経験している。一方、社会人アルバイト経験者は30%を超え、パート経験者は10%近い。あるいは1カ月以上の無業を経験している者も30%近くになっている。男女での差は、正社員経験率や無業経験率では小さいが、正社員以外の就業経験の内容では違いがあり、女性の方がパートが多く、社会人アルバイトが相対的に少ない。

表1-11 これまで経験した働き方

 一人の人が重複して多様な経験をしているので、これを正社員か非正社員かに分けて経験を整理したのが図1-1である。就業経験者の約半数が正社員のみ(無業期間のある者を含む)の経験であり、非正社員と正社員の両方を経験している者が約3割、残る2割は非正社員のみ経験している。非正社員を経験している場合の経験の内訳を棒グラフで示したが、正社員も併せて経験しているにしろいないにしろ、社会人アルバイトの経験者が7割前後と多い。また、これらのケースでは1カ月以上の無業も併せて経験している者が4~5割と多い。正社員としての経験のみの場合は、1カ月以上の無業期間がある者は1割程度であり、非正社員を経験する場合、無業・失業を経験する比率が高いといえる。
 これを男女別に見ると、女性の方が3ポイントほど正社員のみが少なく非正社員を併せて経験している者が多い。ただし現在の就業形態の性差に比べれば、その違いはわずかである。

図1-1 就業経験のある者のこれまで経験した働き方

<2>非正社員経験の時期

 次に、この社会人アルバイトを中心とする正社員以外の働き方の経験は、どういう時期にしているのかを検討する。
 まず、学校卒業直後であるか否か、である。90年代に入り、学校卒業直後に無業になる者が増加しているが、この無業者が正社員以外の仕事に就いているのだろうか。中退といった形で学校を離れた場合、学校による就職斡旋を受けることができないわけだが、こうした場合、離学直後に職に就いているのだろうか。
 学校を離れた直後の就業形態について整理したのが、表1-12<1>である。中退か卒業かの別は後に検討するとして、全体を見ると、離学直後に正社員になっている者は約65%にとどまり、最初からアルバイト・パートという者が20%、派遣や契約社員、家業従事などの他の働き方6%、迷っていたなどの無業者が6%程度である。これを学歴別に見ると、学校中退者で特に正社員比率が低く、「中卒・高校中退」で29%、「高等教育中退」で27%にすぎない。多いのは、アルバイト・パートで40%前後を占めている。「無業」も10~20%を占め、学校卒業者とは大きく異なっている。
 学校卒業者の中では、学校種によって正社員比率は異なり、大学と短大・高専で高い。高卒学歴の者が最も低く、中退学歴の者ほどではないにしろ、アルバイト・パートや無業が多い。
 次に、正社員になった場合、その後も定着しているのか否か、また、離学直後に正社員になっていない者がその後正社員になっているか否か、という点から整理した(表1-12<2>)。離学直後に正社員になってそのまま定着している者は36%、その後離転職した者が29%、卒業直後は正社員ではなかったが後に正社員になった者、調査時点まで正社員にはなっていない者がそれぞれ17%程度になっている。
 これも学歴別に見ると、中退学歴の者で、後に正社員に移行している者が多い。特に高等教育中退者では、全体の4割がこれに当たる。学校卒業者と異なり、離学時点では学校による就職斡旋を受ける機会がなく、また、企業の新規学卒採用の対象にならなかったことから、離学時には正社員にはなっていなかったが、後に正社員の就業の機会を得ているといえるいうことである。だが、一方で正社員へ移行しないままである者も少なくない。中卒・高校中退者ではこれに当たる者が最も多い。学校卒業者のうちで比較すると、正社員に移行しないままの者が最も多いのが高卒者であり、専門・各種学校卒がこれに次いでいる。
 また、正社員就職者の離職という観点からは、学歴別の離職状況が異なり、特に高卒者で離職者が定着者を大きく上回り、離職率(離職者/正社員就職者)にすると61%に達していることが指摘できる。高卒者は卒業以降の年数が他学歴者より長いため離職者比率が高くでている可能性もあるが、学歴が低い者ほど離職率が高い傾向は、労働省の業務統計とも一致する。労働省統計によれば、高卒者では、およそ5割が卒業3年目で離職しているが、本調査の数字は、さらに、3年目以降も離職率は高まっていくことを示唆するものだろう。

<3>フリーター経験

 さらに、この間のフリーター経験について検討する。この調査ではフリーターは自称で尋ねているので、正社員以外の就業形態でもフリーターとして認識している場合とそうでない場合がある。図1-2はフリーター経験の有無と現在もフリーターであるかどうかを整理した図である。フリーターを経験した者は就業経験者のうち36%、このうち約3分の2は既にフリーターを辞め、調査時点現在もフリーターである者は就業経験者の14%ほどである(注1)。

図1-2 就業経験があるフリーター経験とフリーターからの離脱

 また、表1-12<3>では、これにさらに、フリーター経験がない場合の非正規就業経験の有無を入れて整理した。フリーター経験がないと認識している場合も、正社員以外の就業形態を経験している場合が就業経験者全体の14%あり、正社員のみの者は約半数に留まっている。

表1-12 離学以降の就業経験

 これを、学歴別に見る。フリーター経験者は中退学歴の者に多く、次いで、高卒学歴で多い。大学・大学院卒では最も少ない。また、中退学歴者では、調査時点もフリーターである者が高等教育中退で27%、高校中退で22%と多い。フリーター経験のない者は高等教育卒業者に多いが、特に大学・大学院卒では、正社員のみしか経験していない者が多い。
 なお、フリーターであると自己認識している者の現在の(最近1週間)の就業状況を見ると、社会人アルバイトが80%近くを占め、パート6%、契約社員・嘱託4%などが含まれた(表1-13)。

表1-13 フリーターの現在(最近1週間)の就業状況と就業形態別フリーター自認率

一方、現在の就業形態別にフリーターであると自己認識しているかどうかを見ると、社会人アルバイトの者は94%までがフリーターだと自己認識し、パートの者は約4割(男性では6割、未婚女性では6割)がフリーターだとしていた。これに対して、契約社員や派遣社員ではフリーターであると自己認識する者は2割前後で少ない。また、無職で求職中の者では6割が、無職で迷っていたり他の活動をしている者では3割前後が自分をフリーターだと認識していた。フリーターの大半は、アルバイトやパートで働いている者だが、派遣等のその他の働き方、無職で求職していたり他のことをしている者の一部もフリーターを自認している。

2)キャリアの類型

 こうした離学後の就業経験を全体として整理したのが図1-3である。すなわち、「離学直後の状況」「正社員経験と離転職」「フリーターと正社員以外の就業経験」の3つの項目への回答、および現在の就業形態を組み合わせて整理した。ここから、まず、離学直後に正社員になり定着してきた者は、就業経験がある者のうち35%ほどを占める。一方、フリーター経験のある者は、36%とほぼ同じ比率を占めている。そのうち、約3分の2は既にフリーターを辞めている。現在もフリーターである者は就業経験者の14%、うち約3分の2は離学時から無業やフリーターであり、いったん正社員就職してからフリーターになった者は3分の1程度である。また、フリーターのうち1割は最近1週間は無業であった。

図1-3 キャリアのパターン化

 さらに、これに離学の状況、学校を卒業したか中退したかという分類を付け加えてみる。新規学卒就職をして最初の職場に定着している者は、就業経験者の33.4%とさらに減る。伝統型キャリアに当たる者は3分の1程度である。また、一方、離学時からフリーターである者のうち約2割は学校を中退した者だった。学校卒業者のうち現在フリーターである者は13%、学校中退者では23%と中退者の方がフリーターでいる確率はずっと高い。
 離学直後の状況まで入れると複雑になりすぎるので、図1-3のキャリア類型にもどる。これでも19のパターンになり、変数として扱うにはまだ多い。これからの項では、キャリア類型ごとの属性や意識の特徴を把握し、問題点の整理をしていく予定だが、さらに集約しないと理解が難しい。そこで、意識としての「フリーター」と事実としての「正社員以外の就業形態」をまとめ、また、無業(失業及び無職)者をまとめる形で整理し(ただし、無職でもフリーターであるとする者はのぞく)、表1-14に示す8つのパターンに集約して扱う。ここでの、キャリアの分布は、「正社員定着」34.5%、「正社員転職」9.4%、「正社員一時他形態」6.7%、「正社員から他形態」9.3%、「他形態から正社員」14.6%、「他形態一貫」16.1%、「現在無業」8.7%、「その他」0.4%となる。

表1-14 キャリアのパターンの集約

3)諸属性とキャリア類型

 このキャリアの類型と個人の諸属性との関係を整理する。まず、性別には(表1-15)、男性の方が「他形態から正社員」へ移行した者が10ポイントも多い。あるいは、「正社員転職」も「正社員定着」も男性の方が多い。これに対して、女性は「正社員から他形態」や「現在無業」が男性より多い。離学時点では女性の方が正社員が多かったのだが、男性は次第に正社員へ女性は他形態や無業へと移行し、男性の方が正社員が多くなっている。

表1-15 性別キャリアパターン分布

 性・学歴別には(表1-16)、男女ともに「正社員で定着」は学歴差が顕著である。最も多いのが大学・大学院卒で男女とも6割を占める。次いで短大・高専卒、専門・各種卒、高卒の順でこの順も男女で変わらない。最も少ないのは中途退学者で高等教育にしろ高等学校にしろ、少ない。中途退学者では、そもそも離学直後から正社員になる者が少なく、無業・他形態からキャリアを始める場合がほとんどである。その後に男女の違いがあり、男性の場合には、後に正社員に移行する者も少なからずいて、高等教育中退者では正社員に移行している者が半数を占めている。また、卒業者では、卒業直後に正社員でスタートしているかどうかは学歴で異なっている。無業や他形態からキャリアが始まる者が高卒では男性で5割、女性で4割いるが、高等教育卒業者ではどちらも2~3割である。学歴が低いほど正社員就職者が少なく、同時に最初の企業に定着している者が少ない。また、学歴が低い者ほど無業や非正社員でキャリアを始める比率が高く、そのままフリーター等にとどまっている者が少なくない。女性では高卒者や中退学歴で、無業になっている者も多い。

表1-16 性・学歴別職業キャリアパターン

4)キャリアの世代別検討

 職業への移行がある程度進んだ状態として年長世代(25-29歳)に絞って、性・学歴別のキャリアの違いを検討する。男性の年長世代では、就業経験者のうち正社員定着が36.5%、正社員転職が16.5%、他形態から正社員が19.3%と多く、結果として82%が正社員になっている。女性では、正社員定着は22.6%、他形態から正社員は10.6%にとどまり、一方、正社員から他形態への移動は18.3%、現在無業は20.5%と多く、調査時点では、正社員就業者は50%で、パート・アルバイトが14%、専業主婦が20%になっている。
 これを学歴別にみたのが図1-4である。年齢計でみたキャリアの学歴別分布に比べて、正社員定着率の学歴による差異が広がっている。すなわち、大卒男性では6割がこれにあたるが、高卒の男性では2割、中退学歴の男性では1割以下だし、女性でも大卒の5割に対して、高卒の女性では15%に過ぎない。大卒以外ではそれ以外のキャリアの方が多く、男性の場合、中退学歴や高卒の場合は、他形態で入職してから正社員に移行している者が多い。しかし男性ではこの時点での正社員以外の形態の就業者はどの学歴でも1割から2割に減っている。男性では、大卒は正社員定着、他学歴は転職や他形態からの正社員への移動が多く起こるが、20代後半にはどの学歴の者も8割方は正社員になっているということである。これに対して女性では正社員から他形態に変わったり、他形態の就業を一貫している者が多く、高等教育中退者では半数以上が他形態で就業しているし、短大・専各卒でも4割が他形態である。20代後半の就業状況は、女性の方が学歴による差が大きい。

図1-4 年長世代(25-29歳)の性・学歴別キャリアパターン(就業経験有りの者のみ)

 さらに若い年齢段階を加えて整理したのが表1-17である。世代間の違いに注目すると、高卒男性では明らかに若い世代ほど離学直後の正社員比率は低く、18-19歳層では30%にすぎない。その分、無業・他形態からキャリアを始めている者が多く、表は省略するが、18-19歳の高卒男性では、卒業直後の状況を社会人アルバイトとしている者が47%を占め、25-29歳世代の14%とは大きく異なる。年長世代が卒業したのは1989~93年頃であり、好景気期の就職者が多く含まれている。その後の世代ほど高卒労働市場は悪化し正社員の就職は難しくなっている。こうした時代変化を反映しているのが、このキャリアの開始状況だろう。年長世代では、他形態でキャリアを始めた者の6割以上が正社員に移行していたが、若い世代も同じような移行が可能なのだろうか。18-19歳層の離学時の無業・他形態の比率がこれだけ高いと、年長世代と同じようには移行しない可能性も十分考えられる。

表1-17 性・学歴年齢別キャリアパターン

 高卒女性では、これほどはっきりした傾向は読めない。18-19歳層では正社員で就職した者が比較的多く、他の統計からつかんでいる事実と異なる。この世代の女性の把握率が低いので、その影響だろうか。20歳代前半と後半では、男性と同じように、若い世代での正社員就職者の減少があり、また、年長世代での正社員からの移動や無業・他形態から正社員への移動が観察される。ただし、女性の場合は(結婚・出産によって)無業になる者が年長世代では増え、男性ほどはっきりした動きにならない。
 短大・専各卒及び大学卒等では、男性の場合は年少世代の方が明らかに正社員就職者が減っている。女性では短大・専各卒、大学卒とも正社員就職比率は変わらないか、むしろ年少世代の方が高い。高卒者と異なり、年長世代の卒業時点が大卒で93-97年、短大・専各卒で91-95年であり、年長世代でもほとんどが景気悪化以降の卒業者だからだろうか。しかし男性では、正社員就職者比率は明らかに低下しているので、女性のみ正社員比率が低下していない理由は定かでない。

5)家族とキャリア類型

 表1-18は、家族形態によるキャリアパターンの違いをみたものである。既婚か未婚かで大きくキャリアは異なる。既婚者では、男性は他形態から正社員へ移行した者が多く、女性は正社員から他形態、無業へ移行した者が多い。男性の場合には結婚するためにはフリーターでは生活できないからという移動があったことが推測される。どちらにしろ、結婚を契機に両性がそれぞれに性役割分業を担う就労形態に移行しているといえるだろう。

表1-18 家族形態とキャリアパターン

 未婚では単身世帯と親元にいる場合の違いはあまりないが、男性の正社員定着については、親元にいる方が比率が高い。むしろ、パラサイトの方が正社員定着者比率が高いという結果になっている。

6)正社員からの離職

 正社員になった者について、離職・定着状況を見た(表1-19)。新規学卒就職者の早期離職率が高まっていると指摘されているが、本データではどうか。離職者の比率は、正社員就職者のうち男性では37%、女性では49%で、卒業3年目までに高卒で5割、大卒で3割といわれている離職状況にほぼ対応したものとなっている。年齢階層別には、年齢が高いほど卒業からの年数が長いため離職率は高い。同じ年齢層だと学歴が低いほど離職率高い。ほとんど知られている事実を反映した結果である。

表1-19 最初の正社員(公務員)勤務先への定着状況

 さて、離職後の予定についてどう考えていたかはこの調査のオリジナルな質問である。若年者の自発的離職については、「安易な離職」といわれることが多いが、離職後についてはどのように考えていたのか。表1-20に見るように、男性では約半数が次の正社員の見込みを持って離職している。これに対して女性はこうした見込みを持っていた者は4分の1と少ない。ただし、女性は結婚出産での無職になる予定が4分の1であり、これをあわせればあまり変わらない。このほか学校への進学予定が7%程度で、何の見通しもない離職は男性の34%、女性の27%であり、フリーターになる予定の離職は男性の10%、女性の13%であった。

表1-20 学歴別 正社員としての最初の勤務先を辞めた時の予定

 学歴別による差は大きい。特に注目したいのは、高校中退学歴と大学・大学院卒で何の見通しもない離職が多いことである。大学・大学院卒は離職率は低いのだが、離職するときに男性の約4割、女性の約5割が見通しなく離職している。安易といわれる原因は、高学歴者のこうした離職行動かもしれない。
 キャリア別には正社員転職者は次の見込みを持って離職しているものが男女とも6割前後と多い。正社員から正社員の転職は、在職中から次の準備を進めての離職であることが多い。これに対して正社員以外の他の形態に移行する場合は、当初から「フリーターになるつもり」であることも少なくない。「見通しなし」の比率は男性の「正社員一時他形態」型で高いが、他はそれほど大きな違いではない。また、無業になっている者は、むしろ学校や結婚などを予定しての離職をした者が多い。どちらかといえば、予定通りのコースといえる離職時とその後のキャリアの関係が見られ、それほど「安易な」ものではないかもしれない。

表1-21 職業キャリア別 正社員としての最初の勤務先を辞めた時の予定

 離職の理由はどうか(表1-22)。男性でも最も多いのは「賃金や労働時間などの労働条件が良くない」という理由である。次いで「仕事が自分に合わない」「会社に将来性がない」などである。女性では「健康上の理由、家庭の事情」が最も多く、次いで「他にやりたいことがあった」「労働条件が良くない」「人間関係が良くない」の順であった。学歴別には、「仕事が自分に合わない」が大学・大学院卒男性に多く、また、「他にやりたいこと」は高校中退等と大学・大学院卒の女性に特に多い。仕事に個性発揮を求め、また、やりたいこと重視の仕事観はフリーターを支える意識として、これまで指摘されてきたところである。大卒者等にもこうした意識が共有されており、それが離職の引き金になっていることが考えられる。

表1-22 学歴別 正社員としての最初の勤務先を辞めた理由(MA)

 キャリア類型別には、正社員転職で労働条件が重視されている点は男女に共通している。正社員から正社員への比較的準備しての転職で労働条件の悪さが大きな要因になっているのは、新規学卒市場が買い手市場で推移してきたなかで最初の職場の労働条件に問題があるケースもあるのではないかと考えられる。正社員以外の形態を経験するキャリアでは、男性の「正社員から他形態」女性の「正社員一時他形態」で「他にやりたいことがあったから」が多く、また、男性の「正社員一時他形態」では「仕事が自分に合わない」が多い。フリーターの特徴ともえる仕事観が、やはり離職の要因になっている。

4.職業意識の特徴とキャリア

1)職業観の特徴

 調査では、職業観に関わる15の質問項目を用意し、そのそれぞれに「そう思う」「ややそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」のいずれかを選んでもらった。全体の回答結果を整理したのが、図1-5である。共感する者が多い項目は、第一に「専門的な知識や技術を磨きたい」であり、次いで「職業生活に役立つ資格を取りたい」である。これらの質問に対して「そう思う」「ややそう思う」と回答した者は全体の9割を越え、知識・技術や資格習得への意欲の強さがうかがわれる。これに対して「できれば仕事はしたくない」といった否定的な意見はほとんど支持されていない。多くの若者は職業に対して前向きな姿勢を持っていると思われる。

図1-5 若者の就業意識

 フリーターをはじめとする正社員以外の働き方に関しては、まず、「フリーターより正社員の方がトク」という意見が大半を占め、フリーターは経済的安定性がない働き方として認識されていることがわかる。しかし一方で「若いうちは仕事よりも自分のやりたいことを優先させたい」「やりたい仕事なら正社員でもフリーターでもこだわらない」「今の世の中、定職に就かなくても暮らしていける」といった質問群について「そう思う」「ややそう思う」とする者が6~7割近くを占めている。経済的な不利があってもフリーター等の働き方を選ぶ心理について、過半数の若者が共感していると言っていい。

表1-23 職業キャリア別 正社員としての最初の勤務先を辞めた理由(MA)

 さて、次にこれらの15の質問項目について主成分分析を行い、互いに反応が近い質問項目をまとめていくつかの成分を抽出した。この分析手法では、多くの質問項目への回答が少ない数の成分で表され、結果の解釈がよりたやすくなる。
 その結果が表1-24である。まず、第1の成分としてはっきりしたまとまりがみられたのは「やりたい仕事なら正社員でもフリーターでもこだわらない」「今の世の中、定職に就かなくても暮らしていける」「いろいろな職業を経験したい」「若いうちは仕事よりも自分のやりたいことを優先させたい」という質問群である。この成分は「フリーターより正社員の方がトク」「一つの企業に長く勤める方がよい」については、強いマイナスを示しており、正社員で一つの企業に長期勤続するスタイルの伝統的働き方は否定している。若いうちは多様な働き方をし、自分のやりたいことを追求して、いろいろな職業を経験したいという意識で、これはフリーターを支える意識の一つといえよう。ここでは「フリーター共感」の成分と名付けることにする。

表1-24 職業観についての主成分分析結果

 第2の成分は「職業生活に役立つ資格を取りたい」「専門的な知識や技術を磨きたい」「ひとの役に立つ仕事をしたい」という質問群で、比較的多くの若者に支持される意識のまとまりである。ここでは「能力向上志向」とする。第3は「有名になりたい」「将来は独立したい」「ひとよりも高い収入を得たい」という質問群で、収入や名声を求める志向で「栄達志向」と名付けることにする。第4は「自分に向いている仕事がわからない」「できれば仕事はしたくない」「将来を考えるよりも今を楽しく生きたい」という質問群で、仕事への忌避や方向性のなさが特徴だろう。これもフリーター選択の背景に強く働く意識ではないかと思われれるが、ここでは「仕事離れ・迷い」の意識と名付けることにする。
 この4つの成分が若者の職業意識を特徴づけるものとして抽出されたわけだが、フリーターを選択する意識に注目して、性・学歴等の属性別の傾向をみていく。それぞれの意識の強さをみる指標として、ここでは、4つの意識傾向にそれぞれ強く関わる上記質問群に対する回答の平均値を用いることにしよう。すなわち、各質問への回答に「そう思う」=4点「ややそう思う」=3点「あまりそう思わない」=2点「そう思わない」=1点と点数を与え、その平均値を属性ごとに求めて比較する。
 さて、男女別の結果を図1-6に示したが、違いはあまり大きくなく、「栄達志向」のみ男性の方が強いという結果である。性・学歴別にみれば(表1-25)、「フリーター共感」についての学歴による差は男性ではあまりない。女性では中退学歴の者で高く大学・大学院卒では低い。「仕事離れ・迷い」の側面が特に強いのは、男性の短大・高専卒、女性の中退学歴者である。年齢別には男性では若い世代ほどフリーターへの共感、仕事離れ傾向が強いことが指摘でききる。

図1-6 職業観の特徴(性別)
表1-25 職業観の特徴

 一方、現在の就業状況およびフリーターの自己認識別の職業観の傾向を見ると(表1-26,27)、「フリーター共感」については、現在の就業形態が派遣・契約(男性)、アルバイト・パート(女性)で、あるいは男性の失業・無業、女性の失業等で数値が高い。さらに、フリーターの自己認識別にみると男女ともフリーターで明らかに高い。

表1-26 職業観の特徴と現在の就業状況
表1-27 職業観の特徴とフリーター自己認識

 フリーターの選択を支える意識は、性・年齢別には男性の若年層や女性の学校中退者などに強い傾向があったが、こうした属性より、現在の就業状況による差異の方が大きいといえるだろう。就業形態との対応は、フリーターだからフリーターに共感する意識が強くなったという解釈と、フリーターに共感する考え方の者がアルバイト・パートや派遣・契約の雇用形態を選んでいるという解釈のいずれも可能である。おそらく両方の側面が有ろうが、むしろここでは、性別や学歴、年齢を超えた広がりのある意識になっていることを指摘しておきたい。

2)フリーター観

 調査の中では、フリーターについてのいくつかの意見を挙げ、それに対する賛否を「そう思う」「ややそう思う」「あまりそう思わない」「そう思わない」のいずれかを選ぶ形で答えてもらった。結果を図1-7に示したが、「誰でもフリーターになるかもしれない」「働き口が減っているのでしかたない」という消極的だがフリーター選択を肯定する意見への賛成(「そう思う」「ややそう思う」)が6~7割と多い。これに対して「『自分探し』のためにいいことだ」「夢のためにフリーターをしている人はかっこいい」「そのうちきちんとした仕事につく人が多いので、たいした問題ではない」というより積極的な賛成は5~6割である。また、フリーターに否定的な意見である「本人が無気力だからだ」には5割が、「親がフリーターをゆるすからだ」には3割、「学校の指導が不十分だからだ」には2割が賛成するに留まり、全体としてはフリーターの選択を肯定的に見る若者の方が多い。

図1-7 フリーター観

 このフリーター観についても前の設問と同じように点数化して属性別、現在の状況別に見てみる。ここでは、先に見た分類で積極的肯定、消極的肯定、否定の3つに設問を分け、それぞれの平均値で比較する。
 図1-8に示すように、性別には違いがあり、女性で肯定的意見を持つ者が多く、否定的な者が少ない。現実にアルバイト・パート就業者には女性が多いし、フリーターも女性が多い。現実を反映した性差である。また、学歴別には(表1-28)、肯定的な意見の者が多いのは中退学歴の者で、大学卒男性には肯定的意見の者は比較的少ない。年齢別では男性の若い世代で消極的肯定の意見を支持する者が多くなっている。

図1-8 フリーター肯定観・否定観
表1-28 フリーター肯定観・否定観

 現在の就業状況別の方が平均値の差は著しい(表1-29)。すなわち、男性では正社員以外の就業形態の者や無業者で特に積極的肯定である者が多く、女性でもアルバイト・パート就業者では積極的な肯定観を支持して、否定的な意見を持たない者が比較的に多い。現在フリーターという者も積極的な肯定を示し否定的な意見は少ない(表1-30)。消極的な肯定は全体に広く共有される傾向があるが、積極的肯定は、実際に正社員以外の状況にある者で支持が多い。

表1-29 フリーター肯定観・否定観(現在の就業状況別)
表1-30 フリーター観(フリーター自己認識別)

 意識が先か就業実態の変化が先かはこの質問からは測れないが、年齢や学歴といった属性による違いよりも、現在、正社員として就業しているか否かという現状の状況の違いの方が意識との関係が強いことは指摘できよう。

3)フリーターに共感する意識とキャリア

 フリーターに共感的な意識を持つかどうかは、現実の就業実態との関係が強いことを見てきたが、これまでの就業経験の違いを織り込んだキャリアパターン別に見たらどうであろうか。
 図1-9には、フリーターに共感的な態度を示す指標として、職業観の4つの成分のうち「フリーター共感」「仕事離れ・迷い」の2つと、フリーター観のうち肯定的な質問への回答を前項と同様に点数化して平均点を求め、キャリアごとに整理してのせた。

図1-9 フリーターへの共感とキャリア

 男性の場合、4つの側面全てにおいてフリーターへの共感が最も強いのは「現在無業」の者である。無業の場合は消極的な肯定、すなわち、「働き口が減っているのでしかたない」という意見に賛成する者が多く、労働市場の厳しさが共感を生む背景になっていると思われる。数値が次に高いのは、正社員以外の他の形態の就業のみ経験したきた者(=他形態一貫)で4側面とも高い値になっている。現在正社員以外の形態で働いている者でも、当初は正社員であった者(=正社員から他形態)では、積極的な肯定意見を持つものは少ない。これと比較すると、他形態一貫型のキャリアの者には、フリーターを積極的に評価して正社員以外の働き方を選んでいる者が相対的には多いと思われる。
 これに対して、フリーターに最も共感していないのは、正社員の転職経験者である。転職経験から労働市場の厳しさは体験しており、さらに、転職を成功させていることから一定の自信を持っていることが背景にあって、フリーターへの見方は厳しいのだろうと思われる。正社員で1社に定着してきた者がこれに次いでフリーターへの共感度が低いが、さらに「他形態から正社員」という者も、これとあまり違わない。正社員としての職を得てみれば、フリーターを「いいこと」とするような意見には賛成しなくなるということだろうか。
 さて、女性の場合は男性よりキャリアによる違いが少ない。正社員定着者と「正社員から他形態」「現在無業」がほとんど同じ形を示している。女性の場合、結婚・出産を契機に無業になったりパートタイマーになったりする動きがあり、男性の場合の無業や他形態になる移動と異なる面が強く、これらの移動をした者が正社員定着者と同様なフリーター観を持っていることが考えられる。ただし、正社員定着にしても男性に比べて、図形が外側に広がっており、フリーターへの共感度は高い。また、正社員転職者が最も共感度が低いことは男性と変わらない。
 「他形態一貫」は、「仕事離れ・迷い」の軸を除いては最も高い数値になっている。男性に比べると積極的肯定の度合いが高く、フリーターでの働き方を評価している可能性が高い。他形態から正社員になっている場合にも積極的肯定の数値は高く、正社員になったあとでもフリーターを「いいこと」と見るところがあり、男性とは異なる。
 それぞれのキャリアパターンによりフリーターに対する共感度は違うが、男性の方が現在正社員であるかどうかの現状追認的な側面が強く、また、女性では労働市場における性別の立場の違いが強く影響しており、全体に共感度が高いとともに積極的肯定の態度をとり続ける場合が有ることが指摘できよう。

4)経済的に自立すべき時期

 職業意識の一つとして、ここでは「経済的に独り立ちした方がよい時期」について、具体的な年齢を記入してもらった。親への依存期間が長くなっているという議論があるが、若者たちは実際のところ何歳ぐらいを自立の時期と考えているのか。先に見たように、親と同居している者の場合、特にアルバイト・パート比率が高いという事実はなかったが、失業や無業の比率は若干高かった。意識の上ではどうだろうか。正社員にならずにいる者は、独り立ちの時期を遅く考える傾向があるのだろうか。
 まず、図1-10は、記入された年齢を男女別に整理したものである。20歳と25歳がそれぞれ20%以上で高く、次いで22歳、23歳と大学の卒業年齢層に当たる年代にも集中している。高校卒業年齢の18歳も若干支持がある。性別では男性が女性より特に多いのは18歳で、女性では25歳が多い。これに対する考え方は、学歴別にも異なるだろうし、年齢によっても違ってこよう。そこで、学歴・年齢段階別に平均値を比べてみることにした。正規分布していない数値だが、おおよその目処としては平均値でも比較できよう。表1-31にその結果を示したが、全体平均では23.0歳、男性で22.7歳、女性で23.3歳と女性の方が高い。高校中退学歴が最も低い数値で、高卒学歴がこれに次ぐ。高等教育卒業や中退では23歳前後、女性の大卒では24~25歳と高い。学校卒業から数年の幅に多くの者が自立の時期を考えているといえる。なお、世代の違いによる違いはっきりせず、若い世代ほど自立年齢を遅く考える傾向は特にみられない。

図1-10 経済的独り立ちしたほうがよい時期
表1-31 独り立ちした方がよい時期・平均値(性・学歴・年齢別)

 現在の就業形態やフリーターであるかどうかとの関係を見る(表1-32,33)。アルバイト・パートと正社員の違いは男性ではないし、女性ではむしろアルバイト・パートの方が若い時点で独り立ちした方がいいと考えている。フリーターと非フリーターでも、むしろフリーターの方が若い時点をあげている。フリーターに親への依存傾向が強いとはいいがたい。

表1-32 独り立ちした方がよい時期・平均値(現在の状況別)
表1-33 独り立ちした方がよい時期・平均値(フリーター認識別)

 キャリアパターンによる違いをみると(表1-34)、どのパターンでも22~23歳の範囲で、正社員以外の就業形態を経験している者が、特に自立を先延ばしする考え方をしているとはいえない。

表1-34 独り立ちした方がよい時期・平均値(性・キャリア別)

 この設問への回答は、現在の就業状況より年齢や学歴による違いの方が大きいことがわかった。学校卒業の時点からその1~2年後を区切りとして考える傾向が強く、卒業と同時の就職というこれまでの我が国の移行の仕組みに対応した意識であるともいえる。いわれている親からの自立の遅延は、むしろ大学進学率が高まり、在学期間が長くなったことによるのではないか。

5)望ましい働き方

 若者たちの実際の雇用形態をみると、非正社員が少なくなく、また、いくつかの雇用形態を経験してきた者も多かった。では、そうした正社員以外の雇用形態をどう評価しているのか。望ましいものとしてそうした雇用形態を選んできたのだろうか。
 調査では、現在最も望ましい働き方と、3年後の最も望ましい働き方を尋ねた。フリーターをはじめとする非正社員型の働き方は、プロセスと考えられているのであって、近い将来には違う働き方を予定している場合が少なくないのではないかと考えたからである。
 まず、全体の結果をみると(図1-11)、男性の7割が現在の最も望ましい働き方として正社員か公務員を選んでおり、これは3年後でもほとんど変わらない。女性でも現在最も望ましい働き方は正社員であり、公務員と併せて6割強がこれをあげている。さらに、3年後でも6割近い。正社員以外の働き方に注目すると、現在については、社会人アルバイトを最も望ましいとする者が男性で12%、女性で10%いる。パートや派遣、契約社員と合わせると20%前後になり、正社員以外の雇用形態を望ましいと思っている者も少なくない。また、自営業・自由業をあげる者が男性では7%、家業従事も合わせれば1割近くが雇用以外の形態での就業を望ましいとしている。3年後については、この部分は大きく変わる。すなわち、社会人アルバイトを望ましいとする者は、男性で0.7%、女性で1.8%とほとんどいなくなる。増えているのが自営業・自由業で、男性の23%、女性の11%がこれを最も望ましいとしている。

図1-11 望ましい働き方

 実現したい自営業・自由業の具体的内容まではわからないが、自営業・自由業を望ましいとしている者は、「将来は独立して自分の店や会社を持ちたい」とする者が非常に多く(男性の85%、女性の72%)、一貫した意識となっている。ただし、「専門的な技術や知識を磨きたい」とする比率は正社員を望ましいと考える者より若干多いが、「職業生活に役立つ資格を取りたい」という者が特に多いわけではない。自営できる資格職業や専門技術で起業するといったことを明確に目指している者ではないかも知れない。しかし、雇用ではなく自営を求める意識には留意したい。産業の構造転換が必要とされる時代背景にあって、新しい産業の芽は若い世代の起業から始まる可能性も十分考えられる。自営業・自由業を志向する背景には、雇用されることを嫌うという消極的な側面もあろうが、自ら責任を持って事業を始める意欲の現れという面もあるだろう。環境を整えることによって、後者の側面をより強化することもできるかもしれない。
 次に、これを現在の就業形態別にみてみよう(図1-12)。現在アルバイト・パートに就いているか、無業の者には、男女とも、社会人アルバイトを現在の最も望ましい働き方だとする者が多い。男性では失業中の者の半数も社会人アルバイトを望ましいとしている。3年後に実現したい働き方で社会人アルバイトを挙げる者は、男性では現在の就業形態にかかわらず、ほとんどいない。女性では、現在無業の者を除いてごくわずかになっている。無業、失業状態でいる者も現在就くとしたらアルバイトの方がいいという者が半数いるが、3年後はそうではない。3年後に増えているのは正社員であり、自営・自由業である。

図1-12 望ましい働き方(現在の状況別)

 また、就業経験なしのグループは大半が高等教育在学中の学生である。学生に対しては、卒業直後とその3年後を想定して望ましい形態を答えてもらったが、卒業直後の状態として社会人アルバイトを望ましいとしている者が男性で2割、女性で1割いる。高等教育在学中の学生の中にも、好んで社会人アルバイトを選ぶという者がこれだけいるわけで、これに、就職活動をしたものの内定を得られる「やむを得ず」フリーターになる者が加わるということだろう。この場合も、やはり3年後については、社会人アルバイトを望ましいと思っている者はほとんどいない。多くが正社員、公務員をあげており、自営業・自由業はそれほど多くない。自営業・自由業への期待を持つ者は、非正社員型の雇用者の中に多い。
 フリーターについての自己認識別にみても(図1-13)、社会人アルバイトを現在の最も望ましい働き方だとする者は男女ともフリーターの約4割を占めている。フリーターの半数近くはフリーターを最も望ましい就業形態としており、望んでフリーターになっているといえる。ただし、3年後についてはフリーターを望ましいとする者は激減する。現在は最も望ましくとも、3年後はフリーターではいたくないのである。

図1-13 望ましい働き方(フリーター認識別)

 さて、これまでのキャリア別にみるとどうか(図1-14)。まず、社会人アルバイトを現在最も
望ましいとする者が多いのは、他形態一貫型、すなわち、卒業や中退などで学校を離れてからずっと正社員以外の働き方しか経験してこなかった者である。これに対して「正社員から他形態」になった者では社会人アルバイトを最も好ましいとする者は相対的に少なく、男性では自営・自由業を、女性ではパートや家族従業員を望ましいとする者が多い。いったん正社員になってから他形態に変わる場合は、当初から正社員にならない場合とは心理的な違いは大きいのではないだろうか。どちらにしろ、これらのキャリアでも3年後の希望に社会人アルバイトを挙げる者は女性でわずかに残るだけなる。3年後に実現したい働き方は男性では自営・自由業と正社員がほとんどになり、女性でも正社員が増えるとともに、他のキャリアと同様「働かない」が増え、多様化する。

図1-14 望ましい働き方(キャリア別)

 一方、学校卒業直後から正社員で定着している場合は自営・自由業に惹かれる割合が低い。自営・自由に惹かれるのは、企業内でのキャリア展望との関係が大きいのだろう。転職型や他形態から正社員になった場合も自営・自由を挙げる比率が高い。男性の正社員定着型の企業内キャリアに対し、外部市場での展望が自営・自由業への期待として現れているのではないだろうか。

6)現在の仕事への評価、生活への評価

 最後に、現職への評価や、職業生活を含む現在の生活全般への評価が、フリーターをはじめとする現在の就業形態やこれまでのキャリアによって、どのように違うかを検討する。個人の意識の面からの多様な就業形態やそれを含むキャリアの評価を試みる。
 まず、現在の職業については、有業者に対して図1-15の4つの質問をしている。「やりがいのある仕事だと思う」と「今の仕事は自分の性格や能力にあっている」の質問には「そう思う」「ややそう思う」が併せて7割前後になっており、多くの者が仕事そのものには満足を感じているのではないかと思われる。これに対して「目標となる上司や先輩がいる」と「3年後も今の勤め先にいたい」は5割前後である。「目標となる上司や先輩」は、職場の人間関係の一端を示す質問だが、人的なつながりを通じての帰属意識が表れないかと考えて入れた質問である。また、「3年後も今の勤め先にいたい」は、個人のキャリア展望とも絡むが、全般的な職場への満足感を示唆するものとして入れた質問である。

図1-15 現場への評価

 比較しやすくするために回答を次のように点数化する。すなわち、「そう思う」=2点、「ややそう思う」=1点、「あまりそう思わない」=-1点、「そう思わない」=-2点として、グループごとの平均値をだした。その結果が図1-16だが、まず性別には、全般に男性の方が仕事や職場への満足感が高い。女性では、定着については否定的な意見のほうが強い。

図1-16 現職への評価・平均値(性別)

 就業形態別にみると(図1-17)、「自営・家業」がやりがいや定着の面からの評価が高く、正社員がこれに次ぐ。男性の正社員では、仕事が性格や能力に合うとか、目標となる上司の存在についても評価が高い。アルバイト・パート就業者は男女とも、3年後まで同じ勤め先にいたいと思っていないし、職場の人的なつながりも薄いのではないかと思われる。また、女性の契約・派遣も同一勤め先にいたいと思っていない。派遣は短期を前提にした制度で3年後までいるということが考えられなかったのかもしれないが、自営や正社員に比べれば、今の勤め先を高く評価はしていないということには違いないのではないか。次のフリーターの自己認識別でも同様で(図1-18)、フリーターも今の勤め先にいたいとは思っていない。

図1-17 現職への評価・平均値(性別・就業形態別)
図1-18 現職への評価・平均値(性別・フリーター自己認識別)

 キャリア別では(図1-19)、男性の場合、当初から他形態で一貫している場合と最初は正社員で後に他形態になった場合では現職への評価が違っている。他形態一貫型ではすべてに評価が低く、現職に満足していない。男性の「正社員から他形態」では、現職が自営・家業である場合が4分の1あり、これが評価を高めている可能性がある。女性では「他形態一貫」と「正社員から他形態」との間に差は少ないし、むしろ「他形態一貫」の方が仕事への満足感は高い。女性の場合、正社員から他形態への移行は、結婚に伴う主婦パート化という側面が強いからかもしれない。

図1-19 現職への評価・平均値(性別・キャリア別)

 全般には、アルバイト・パート就業者では、なかでも特に離学以降一貫して非正社員であった者で、現在の職業への評価が低い。フリーターでの仕事自体には、ほとんど満足している者はなく、将来の何かに向けての過程として、不満足な職業生活を甘受しているという状況ではないだろうか。
 もうひとつ、職業を越えた生活全般への評価をとらえるために図1-20の質問群を用意した。仕事以外の側面まで含めて、フリーター等の非正社員形態の就業の意味をとらえたいという意図からである。

図1-20 生活の諸側面への評価

 質問に対する全体の回答傾向は、「経済的に自立している」と「将来の見通しは明るい」について当てはまるとする者が比較的少なく、半数以下になっているが、「悩みを相談できる人がいる」等の他の質問は7割以上が当てはまるとしている。信頼できる人間関係を結ぶなど全般的に順調な生活ぶりがうかがえ、努力によって将来は開けるという前向きな姿勢を持った若者が多いのではないかと推測される。ただ、自立についての自信はなく、将来への不安をかなり抱えているといった状況の者は少なくない。
 前の質問と同様、「かなりあてはまる」=2点、「ある程度あてはまる」=1点、「あまりあてはまらない」=-1点、「ほとんど当てはまらない」=-2点としたときの平均値を出して、グループ別の比較をする。性別にみると、女性の方が全般的な順調さを感じている者が多い(図1-21)。職業的側面での満足度は男性の方が高かったが、仕事を越えた生活全体の面では女性の方が満足感が高いといえる。

図1-21 生活諸側面への評価(性別)

 次に、就業形態、キャリアとの関係をみる(図1-22)。アルバイト・パートや派遣・契約の就業形態の者で順調感が低く、将来への不安もあることがうかがえる。ただし、信頼できる人間関係の形成や努力を重視する前向きな姿勢については、あまり違いはない。フリーターの自己認識では(図1-23)、男性のフリーターで順調ではないと感じている者が多く、不安を最も抱えている。キャリア別にみると(図1-24)、「他形態一貫」型の特に男性で順調ではなく、不安が大きい。性役割分業観を背景に、正社員にならないキャリアは女性では不安につながらないが男性では将来の不安につながっているのだろう。ただ、これも人間関係の安定や努力すればという前向きな意識はあり、すべてに閉塞的な状況というのではないと思われる。

図1-22 生活諸側面への評価(性・就業形態別)
図1-23 生活諸側面への評価(性・フリーター自己認識別)
図1-24 生活諸側面への評価(性・キャリア別)

5.まとめ

 この章での検討を通じて、次のような点が明らかになった。

<1>移行プロセス

 a)就業経験者のこれまでの経験の内容をみると、フリーター経験のある者が3分の1強を占める。そのうちの3分の2近くはすでにフリーターを辞めている。契約社員等を含む正社員以外の形態での就業経験(他形態)に広げると、約半数が他形態での就業を経験している。経験した就業形態とその時期からキャリア類型を作ると、「正社員定着」35%、「正社員転職」9%、「正社員一時他形態」7%、「正社員から他形態」9%、「他形態から正社員」15%、「他形態一貫」16%、「現在無業」9%となる。これに学校を卒業したか中退したかという分類を付け加えてみる。新規学卒就職をして最初の職場に定着している者は、就業経験者の33%とさらに減る。また、中途退学では特に「他形態一貫」が多い。
 b)就業経験の有る25-29歳層(年長世代)についてみると「正社員定着」は、男性で37%、女性で23%である。この比率は、学歴別の差が大きく、大卒男性では6割だが、高卒男性では2割、中途退学の男性では1割以下である。女性でも同様の差が有る。しかし、男性の中退者や高卒者では、離学当初は無業や他形態であった者が正社員に多く移行しているので、どの学歴でも調査時点の正社員比率は8割からそれ以上になっている。学歴によりキャリアのパターンは異なるが20代後半では大半が安定的な就業に移行している。これに対して女性では正社員から他形態に変わる者や他形態の就業を一貫している者が多く、調査時点での正社員比率は大卒では7割であるが、短大・専各卒では5割、高卒では4割で、その分他形態の就業や専業主婦が多い。
 c)離学時に正社員就職する者は、若い世代ほど減少している。この傾向は男性、とりわけ高卒男性で著しく、25-29歳層では離学直後に60%が正社員であったものが、18-19歳層では30%に半減し、その分、アルバイトが増えている。年長世代と最近の若い世代では卒業時の状況に大きな違いがあり、年長世代のように20代後半までに正社員に移行する行動を若い世代がとらない(とれない)可能性もある。
 d)最初の正社員就職先を離職するにあたって次の正社員の見込みがあった者は、男性では48%、女性で26%だあった。女性では、結婚出産等で無職になる予定の者が26%いて、「何の見通しもなく」離職した者は男女とも3割前後にとどまる。ただし、大卒者では「何の見通しもなく」離職した者が多く、男性で4割、女性で5割に達する。大卒者のこうした行動は離職の安易さを示すものと言える。また、離職理由は大卒男性では「仕事が自分に合わない」が、大卒女性では「他にやりたいことがあったから」が多い。

<2>就業意識の特徴

 a)全体としては「専門的な知識や技術を磨きたい」や「職業生活に役立つ資格を取りたい」という者が9割を越え、職業に対して前向きな若者が多い。フリーターについては「正社員の方がトク」だと経済的に不利な働き方だと認識しながらも「若いうちは自分のやりたいことを優先させたい」や「やりたい仕事なら正社員でもフリーターでもこだわらない」という意見も6~7割を越え、フリーターへの共感を示す者の方が多い。また、「働き口が減っているので(フリーター選択も)しかたない」「誰でもフリーターになるかもしれない」という消極的なフリーター賛成が6~7割、「『自分探し』のためにいいことだ」「夢のためにフリーターをしている人はかっこいい」という積極的賛成も5~6割と若者の過半数がフリーターを支持する意見を持っていた。フリーターを支える意識は、若者に広く共有されている。
 b)現在最も望ましいと思う働き方、及び、3年後に実現したい働き方については、全体では正社員(公務員含む)とする者が男性で7割、女性で6割前後と多い。現在の最も望ましい働き方を社会人アルバイトとする者は、男女とも1割前後いるが、3年後については、男性で1%女性で2%とほとんどいない。フリーター、あるいはアルバイト・パート就業者、失業者、無業者では、現在の最も望ましい働き方を社会人アルバイトとする者が4~5割と多い。しかし、3年後に社会人アルバイトであることを望む者は、こうした者でもごくわずかである。フリーターは一時的な就業形態と考えられている。

<3>就業の質

 a)正社員と比べてアルバイト・パートでは、職種はサービス職や販売が多く、企業規模は小さい。単位時間あたり収入で比べると、アルバイト・パートは正社員の63~64%と低い。この格差は特に高学歴者で大きい。また、アルバイト・パートでは年齢階層が上の者でも単位時間あたり収入はあまり上昇せず、特に大卒では低年齢層より低くなっている。
 b)仕事にやりがいを感じるか、3年後も同じ勤め先にいたいかといった質問から現在の職場への評価をはかると、自営・家業従事者で高く、正社員がこれに次ぐ。これに対して、アルバイト・パート、あるいはフリーター、「他形態一貫」では、3年後まで同じ勤め先にいたいと思っていないし、職場の人的なつながりも薄い傾向がある。一方、周囲からうまくいっていると思われているか、将来の見通しは明るいかといった生活全般への評価は女性では全般に高くて就業形態やキャリアによる差は小さいが、男性では、アルバイト・パート、フリーター、キャリア別には「他形態一貫」で低い。性役割分業観を背景に、男性の非正社員では、生活面での不満や不安が強い。

 以上の事実の確認から、政策的に対応すべき課題として次のような点が考えられる。
 a)フリーターの3分の2は、学校を卒業や中退してから一度も正社員になったことがない者であり、学卒未就職者への対策が必要である。特に、高校卒業時の就職支援が必要である。また、中途退学者には特にフリーターが多く、またその後も正社員に移行しない者が多い。中途退学者に対して、離学時点およびそれ以降にわたって、職業への移行を支援することが重要だと思われる。
 b)今の20歳代後半の男性では、離学時にアルバイト・パート、あるいは、フリーターであっても数年のうちに正社員に変わる者が多かった。しかし、最近になるほど学校卒業時に正社員にならない者が、高卒者や中退者を中心に急激している。若い世代がこれまでの世代と同様なキャリアをたどらない(たどれない)可能性である。
 c)正社員以外の雇用での労働の質は、単位時間あたり収入から考えると、高くない。また、加齢よる上昇もほとんどなく、仕事を通しての職業能力向上はあまり期待できない。職業能力開発の機会をどう用意するか政策的対応が必要がある。
 d)現状としてはアルバイトを望ましいと考えているフリーターは少なくないが、3年後にはほとんどが他の形態での就業を望んでいる。アルバイト・パートの仕事内容に満足している者は少なく、将来に向けての相談機会や正確な職業情報の提供が必要だと思われる。また、3年後の希望は、正社員と並んで自営業・自由業である。雇用以外の就労への支援も考えられる。


(注1)フリーター経験率はウエイト付けによって大きく左右される数字である。ウエイト付けは総務省『就業構造基本調査』でもとめた性・年齢別アルバイト・パート比率を本調査のフリーターに当てはめる形で行っている。本調査の自称フリーターと就業実態としてのアルバイト・パートは本文中で見たように(表1-13)に若干のずれがある。この問題に留意して、元データーの非フリーターサンプルだけを採りあげて就業経験者中のフリーター経験率と非正規社員経験率を求めると、それぞれ26%、41%となる。現在フリーターでない者だけでも、フリーター経験者、非正社員経験者がこれだけの比率を占めるのだから、現在フリーターをしている者の比率に若干のずれがあっても、補正データで求めたフリーター経験者3分の1、非正社員経験者半数という数字は、妥当だと思われる。

第2章 フリーター析出の背景とフリーター経験に対する評価

1.はじめに

 本章ではフリーター経験者に着目し、誰がなぜフリーターになるのかについて、およびフリーター経験の評価に焦点を当てる。
 すでに第1章において示されたように、フリーター経験は都市部の若者に広く共有されている。若者の多くはフリーターへの入り口は随所に存在していると認識しており、一時的にフリーターという立場に身を置くことはけして特別なことではないと考えている。例えば本調査での「だれでもフリーターになるかもしれない」という項目に共感する割合は全体で7割を超える。
 しかし実際には、フリーターになる者もいれば、ならない者もいる。両者の相違はどこにあるのだろうか。いったいどのような者が、なぜフリーターになるのだろうか。また若者はフリーター経験を通じて何を得たと考えているのだろうか。
 以下では、現在フリーターである者、あるいはフリーター経験者がどのような背景を持っているのかについて、主に性別・年齢・学歴との関連を探り、誰がフリーターになっているのかを明らかにする(家庭的な背景については第5章で詳細な検討がなされるので本章では扱わない)。さらになぜフリーターになったのかについてフリーター経験者の回答をもとに記述し、これまで研究会が提示してきたフリーター3類型の数量的検討を行なうとともに、フリーター類型と職業意識や満足感との関連の分析を通じて、類型の特徴をより明らかにする。またフリーターがどのような職種のアルバイトを経験し、フリーターを経験することは若者の中でどのような意味付けがなされているのかについて検討する。データは特に断りのない限り、ウェイト付けされたデータを用いる。

2.誰がフリーターになっているのか

 はじめに誰がフリーターになっているのかについて、現在フリーターである者とフリーター経験を持つ者という2つの観点から整理しておこう。本節では就業経験の有無を問わないデータを用いて、若年者全体の分析を行なう。
 まず現在フリーターである者は同世代の若者全体の中でどのように位置づけられるのか、性別の内訳を表2-1に示した。同一年齢層(18~29歳)に占めるフリーター割合は男性7.7%に比べて女性の方が12.0%と上回っている。また表2-2によれば、性別でも差が見られるが、20代前半の年齢層におけるフリーター率が高い。

表2-1 フリーターの性別分布
表2-2 フリーター分布(性別・年齢)

 学歴別フリーター率には明らかな差異が見出される(表2-3)。男性の場合、中卒・高校中退学歴のうちの16.7%、高等教育中退20.6%、高卒14.2%がフリーターであるが、高等教育を修了している場合のフリーター率は6.5%とかなり低くなっている。女性においても同様に、中卒・高校中退学歴においては36.9%、高等教育中退41.9%とフリーター率は高くなっているが、高等教育修了者は7.9%とかなり低率になる。男性においても女性においても、低学歴の者や中退者におけるフリーター率は高い。

表2-3 フリーター分布(性別・学歴)

 さらにフリーターの婚姻状況について示したのが表2-4である。男性の場合、未婚単身者に占めるフリーターの割合が最も高く10.2%であるが、既婚者に占める割合は1.6%にすぎない。女性においては未婚親元にしめるフリーター率が12.9%と、未婚単身者に占める割合11.7%をわずかに上回っている。既婚においては6.8%であるが、これは『労働白書』の定義によればフリーターの範疇には入らない者たちである(詳しくは第1章参照)。

表2-4 フリーターの婚姻状況

 こうした知見からさしあたり、誰がフリーターになっているのかという問いに次のような答えを与えることが出来よう。性別では女性であり、相対的に低学歴の者や中退者、年齢的には20代前半の者であり、また男性の場合は圧倒的に未婚者である。

表2-5 フリーターの性別構成
表2-6 フリーターの年齢・性別構成

 次にフリーターにのみ着目し、フリーターの全体像を描いてみよう(注1)。
 性別構成については、女性が全体の59.1%を占める。性別・年齢別に見ていくと、男性の場合には20代前半がおよそ半数を占めもっともボリュームのある層になっているが、女性は20代前半よりも25-29歳層がわずかに多くを占める。
 さらに性別・学歴別に分析してみると(図2-1 図2-2)、男性の場合、高卒者が40.1%と目立って多く、これに専門・各種18.8%、大学・大学院卒16.4%、中卒・高校中退が12.7%である。女性の場合も同様に高卒者が37.5%と多く、これに次いで専門・各種23.3%、短大・高専18.6%となっている。このようにフリーターの学歴構成は大まかに言って、4割の高卒者と2割の専門・各種修了者、および男性の場合には高等教育修了者、女性は短大・高専から構成されている。つまり一般にフリーターといった場合には、女性が多く、学歴では高卒者が多く、20代前半層が多くを占めるカテゴリーであるといえるだろう。

図2-1 フリーターの学歴構成(男性)
図2-2 フリーターの学歴構成(女性)

 また就業形態と深く関わると予想される婚姻状況であるが(表2-7)、性別を問わずフリーターにおける未婚者の割合は高い。男性の場合、フリーターに占める既婚の割合はフリーターでない者に比べてかなり低く、特に未婚単身者率は高い。女性の場合にもフリーターにおける未婚者の割合は高くなっており、男性とは逆に未婚単身よりも未婚親元の方が多くを占めている。もっとも女性の場合には、結婚すると未婚時と同じような就業形態でもフリーターとは意識しない、あるいは統計上も主婦としてフリーターカテゴリーからはずされることが多いため、フリーターの中に未婚者が多いのは当然の結果とも言える。

表2-7 フリーターの婚姻構成

 こうした検討はフリーターのいわばストック的な側面からのものであるが、次にフリーターのフロー的な側面に視点を変えて、フリーター経験の広がりについてみてみよう。すでに第1章で示されたように、フリーター経験は都市部の若者に広く共有されている。より詳しく述べると(表2-8)、20歳未満においては、男性が55.2%と半数以上が経験者であり、女性も42.6%と高率である。年齢層の高い方が経験率が低くなっているが、それでも3割がフリーター経験者である。

表2-8 フリーター経験の有無と性別・年齢

続いて学歴別に示したのが表2-9である。

表2-9 フリーター経験の有無と性別・学歴

 最もフリーター経験率が高いのは高卒以下の女性で52.3%であるが、他方、最もフリーター経験率が低いのは高卒超の女性であり26.6%にとどまっている。同様に、男性の高卒以下においてもフリーター経験者が同世代の半数近くを占めるが、高卒超では27.1%と低くなっており、学歴に応じてフリーター経験に大きな差が見られるという点は男女を問わず共通している。

 以上本節では、誰がフリーターになるのかについて分析を行なってきた。その傾向を要約して述べるなら、男性よりは女性において、相対的に低学歴者や中退者、年齢的には20代前半の者がフリーターになりやすい。言い換えれば、労働市場においてより弱い立場に置かれやすい背景を持っていたり、円滑な移行をしていない者がフリーターになる確率が高いということである。またフリーターを構成しているのは女性・高卒者が多く、男性では20代前半、女性は20代前半・後半ともに多い。フリーター経験は学歴の低い者や若い世代により浸透する傾向が見られる。
 さて、以下の分析に先立ち、データを用いてフリーター期間の分布を確認しておこう(図2-3)。このフリーター期間には現在フリーターの者とフリーターを離脱した者の双方が含まれているため、現在フリーターを続けている者は今後もフリーター期間が長期化する可能性があるデータであることに注意が必要である。数値の分布を見てみると、もっとも割合が高いのは7~12ヶ月のカテゴリーである。次に半年以内という者が18.3%となっており、1年以内のカテゴリーに4割が集中している。

図2-3 フリーター期間の分布

 性別の違いを見てみると、男性は比較的短期間(1年以内)の者が半数近いが、女性は3割にとどまる。また学歴別に特に差が見出されるのは、フリーター期間が長期化している者(49ヶ月以上)の割合である(表2-8)。大学・大学院卒業は5.9%と低いが、その他の学歴はいずれも1割を超えている。このフリーター期間は次章で見るフリーターからの離脱に深く関わってくるので、詳しくは次の章とあわせてお読みいただきたい。

表2-10 フリーター期間の分布(学歴別)

3.フリーターになった理由や契機―性別・学歴・年齢による分析

 続いて本節では、なぜフリーターになったのか、フリーター経験者に対して尋ねた設問を用いて分析する。
 今回の調査票ではフリーター経験者に対して「あなたはなぜフリーターになったのですか」と尋ね、多重回答であてはまるものにすべて○をつけさせ、さらにもっとも重要なものの番号を記入してもらうという形式を取っている。この質問に対する多重回答を主に用いて以下分析を行なう。
全体を多重回答から概観してみると(表2-11)、「自分に合う仕事を見つけるため」が38.3%と最も高い。続いて、「自由な働き方をしたかったから」が29.8%、「学費稼ぎなど生活のため」が25.8%である。さらにフリーター理由の中でもっとも重要な理由を尋ねた回答においても、「自分に合う仕事を見つけるため」21.7%、「自由な働き方をしたかったから」が15.0%と上位に位置しており、これに「学費稼ぎなど生活のため」13.7%と続いている。このような知見から、フリーターになる大きな理由は「適職」と「自由」の追及および、生活維持のためであることがうかがえる。

表2-11 フリーター理由(MA)

 性別による違いが特に見られるものとしては、「自分に合う仕事を見つけるため」「学費稼ぎなど生活のため」が男性の方が女性よりも高い。これに対して女性は「つきたい仕事がアルバイト」「正社員として採用されなかった」「正社員はいやだった」「自由な働き方をしたかったから」などを理由としてあげる者が多くなっており、就業形態としてフリーターを選択した(せざるを得なかった)という色合いが濃い。
 続いて年齢別に見てみると、20歳未満層では「なんとなく」が特に高くなっており、「自由な働き方をしたかったから」が低いのが特徴的である。一方で「つきたい仕事への就職機会」「正社員として採用されなかった」などは年齢が高い層でその割合が高く、逆に「仕事以外にしたい事があるので」は25-29歳層ではやや低くなる。「自分に合う仕事を見つけるため」「学費稼ぎなど生活のため」などは年齢を問わず一貫して高い。
 さらに学歴別の内訳を見ると、高卒者、中卒・高校中退ともに「自分に合う仕事を見つけるため」「なんとなく」「自由な働き方」と答えている者の割合が高くなっている。高卒者と中卒・高校中退のフリーター理由には、特に考えてフリーターになったわけではないが正社員にもなりたくないという点で共通した傾向が見出される。専門・各種卒は他学歴に比べて「学費稼ぎなど生活のため」が上位に位置しているが、短大・高専卒は「自分に合う仕事を見つけるため」「自由な働き方」などの適職・自由志向が強くなっており、教育年数は類似しているにもかかわらず対照的な様相を見せている。この相違は、短大・高専カテゴリーを女性が占めていることによって生じていると考えられる。高等教育中退は、「自分に合う仕事を見つけるため」が58.8%と極端に高く、大学・大学院卒は「正社員として採用されなかった」が32.5%と他学歴層に比べてとりわけ高いのが特徴である。
 最後に、フリーター理由とフリーター期間の関連について検討しよう。
 まず比較的フリーター期間が長期化している者においては、「仕事以外にしたい事があるので」という理由を挙げる傾向が見られる一方で、「つきたい仕事への準備」「つきたい仕事への就職機会」という理由を挙げる割合は低くなっている。半年以内の者と4年以上の者においては、「自分に合う仕事を見つけるため」を選んだ者の割合が高くなっており、さっさと見切りをつけて離脱するタイプと適職探しが長期化する者とが二極分化していると解釈される。「正社員として採用されなかった」「学費稼ぎなど生活のため」「家庭の事情」など、やむえない事情でフリーターになった者の場合は一定の傾向を見出せない。
 長期間フリーターをしているものの割合が高くなっている項目として「つきたい仕事がアルバイト」「なんとなく」「正社員はいやだった」「自由な働き方をしたかったから」が挙げられるが、これはフリーター本人がフリーター離脱の必要性をそれほど感じていないため長期化していると考えられる。

4.フリーター3類型の量的検討

<1>類型の割合と分布

 フリーターは「今のことしか考えず」、「きちんと働かない」など、ネガティヴな言葉を持って語られることが多い(フリーター研究会編2001)。こうした一般的イメージに対して、本研究会ではヒアリング調査に基づき、「フリーターになった契機」「フリーターになった当初の意識」に着目し、類型化を行なうことを通じて、その実像の把握を試みてきた。<モラトリアム型><夢追求型><やむを得ず型>の3類型である(日本労働研究機構2000)。以下、それぞれの類型の特徴を説明しよう。

表2-12 類型の指標

 <モラトリアム型>は、職業を決定するまでの猶予期間としてフリーターを選択し、そのあいだに自分の「やりたいこと」を探そうというタイプと、先の見通しがはっきりしないまま学校や職場を離れた者が含まれる。あるいは正社員として責任を持ちたくない、自由でいたいという、正社員を忌避した結果フリーターをしている者もこの類型に含めて良いだろう。<夢追求型>は何かしら明確な目標を持った上で、生活の糧を得るために、あるいは徒弟訓練的な手段としてフリーターを選んだ者たちである。他方<やむを得ず型>は正規雇用を志向しながらそれが得られない者、あるいは家庭の事情等で学費を稼ぐ必要が生じたためにフリーターをせざるを得なくなった者など、やむなくフリーターになった者から構成されている。
 この類型化の主眼は、フリーターというカテゴリーには様々な理由と目的を持った若者が混在しており一枚岩的ではないこと、および一般化したイメージだけでは語れないことを明らかにし、政策的な対応がそれぞれのタイプに応じてなされる必要性を提起した点にある。以下ではこれまで本研究会が示してきた3類型の分布とその類型の持つ特徴について量的検討を行なう。こうした分析を通じて、本研究会が示してきたフリーター3類型が、フリーターの実像を捉えるうえで有効であるかどうかを確認することも課題である。
 上述したように、調査票ではフリーター経験者に対して「あなたはなぜフリーターになったのですか」と尋ね、多重回答であてはまるものにすべて○をつけさせ、さらにもっとも重要なものの番号を記入させるという形式を取っている。そのうち多重回答の項目を用いて、類型との関連で理由の判別が困難と思われた質問項目をあらかじめ除いて 、すべての回答パターンを抽出したところ、102パターンになった(無回答除く)。この102パターンの内容を以下の手順で類型に分類した。<1>「仕事以外にしたい事があるので」とひとつでも答えている者はすべて<夢追求型>に分類した<2>回答数が1つの場合は以下の指標をそのまま適用し、2つ以上の場合は項目の関連を詳しく検討してそれぞれの類型に割り振った<3>回答数が5以上の者は矛盾した内容の項目が含まれているものが特に多いため、それぞれの類型に対応する項目が多いほうに割り当てた。
 はじめに類型の分布を全体として見ると(図2-4)、<夢追求型>=13.7%、<モラトリアム型>46.9%、<やむを得ず型>39.4%となった。日本労働研究機構が1999年に行なった聞き取り調査によれば、この類型は性別や学歴によって異なる分布を見せる可能性が指摘されていた。そこで以下ではどのような層にどの類型が多く見られるのかについて詳しく検討していこう。

図2-4 フリーター類型の分布

 まず類型と年齢・性別のクロス表を見ると、20歳未満の男性は<夢追求型>が2割を超えており、より高い年齢層になると直線的に減少する傾向が見られる。他方<やむを得ず型>は、20-24歳層でいったん下がるが、25-29歳層で最も高くなる。
 女性は20歳未満では<モラトリアム型>割合が55.8%と高く、<やむを得ず型>は19.8%と低い。年齢コホートが高い層では、<モラトリアム型>割合は低く、<夢追求型>は男性同様減少する。他方<やむを得ず型>割合は19.8%から44.2%と急激に上昇する傾向が見られる。
 続いて学歴別に見てみると、中卒・高校中退および高卒においては<モラトリアム型>率が高くなっており、他方、大学・大学院卒の場合は<やむを得ず型>の割合がもっとも高くなっている。
 本調査は、フリーターになった時点での年齢を尋ねていないので、年齢ではなく世代の特徴である、またはフリーターになった時点における景気状況の反映である可能性があるが、そうした偏りを踏まえたうえで、<1>どの年齢層でも<モラトリアム型>割合が最も高く、特に20歳未満の女性において<モラトリアム型>が多く見られる<2><夢追求型>の割合は20歳未満の男性で相対的に高い<3><やむを得ず型>は20代後半の層に多くなっている<4>相対的に低学歴の者に<モラトリアム型>が多く、高学歴の者には<やむを得ず型>が多いこと、を指摘できよう。

表2-13 類型の分布

 次にフリーター3類型内での分化を検討するために、はじめの多重回答に戻って類型とのクロスを行なったところ、特に性別による差が見いだされた(表2-14)。

表2-14 フリーター理由と3類型(MA)

 <モラトリアム型>の場合には、同じ<モラトリアム型>の中でも、適職志向はより男性において見出されるが、女性の場合には「正社員はいやだった」「自由な働き方をしたかった」という正社員忌避の傾向が強くなっている。つまりフリーター経験は、男性においてはやりたい仕事を探すためのモラトリアムであるのにたいして、女性の場合にはおそらくは結婚までのモラトリアムとして意識されているのではないかと推測される。
 「いろんな経験をしてそれをいかしたいんです。(結婚まで)」(高校卒 女性 29才 フリーター括弧内は本人記す)という自由回答や、「フリーターでも独身なら何の問題もないと思います…私は正社員に特にこだわっていなかったので結婚までアルバイトをしていました。親元にいたせいか特に困ることはありませんでした」(高校卒 女性 非フリーター 21才)というすでにフリーターを結婚というかたちで離脱した者の回答などには「そのうち結婚して家庭に入るのだからフリーターでもかまわない」という女性特有の傾向が端的に表れていると解釈できるだろう。
 また同じ<やむを得ず型>の中でも、「学費稼ぎなど、生活のために一時的に働く必要があった」という項目においては男性73.8%、女性54.6%と男性の方がかなり上回っているのに対して、「正社員として採用されなかった」という回答においては女性が39.1%、男性が22.9%と大きな開きが見られる。このように女性の場合には正社員になろうとしても困難な現実があるためにフリーターにならざるを得なかったり、また結婚後に正社員として就業継続していくのは難しいと予期しているために正社員を忌避した結果としてフリーターになるという、男性とは異なるメカニズムが働いていると考えられる。このようなジェンダーの問題は第6章で詳しい検討がなされており本章では触れないが、こうしたフリーター理由の性差がフリーター離脱に深く関わっていることについては次章で詳細な検討が加えられる。

<2>類型と職業意識・価値観

 次にどのような職業意識を持つ若者がそれぞれの類型を構成しているのかを明らかにするため、フリーター類型と職業意識との関連を検討した(図2-5)。

図2-5 類型別にみる職業意識

 「将来を考えるより今を楽しく生きたい」と考える<モラトリアム型>は54.1%と多く、「若いうちはやりたいことを優先」したいと考えるのは、仕事以外にやりたいことがあってフリーターを選んだ<夢追求型>で80.4%を占める。「できれば仕事はしたくない」は<モラトリアム型>41.4%と他類型に比べてかなり高くなっている。
 「今の世の中、定職につかなくても暮らしていける」ともっとも考えているのは<夢追求型>で60.4%、否定的なのは<やむを得ず型>で45.2%である。「雇用形態にはこだわらない」ことに否定的なのは<やむを得ず型>(65.3%)であり、「フリーターより正社員の方が得」と考えるのはやはり<やむを得ず型>で79.9%、<モラトリアム型>が73.0%、<夢追求型>が65.1%と最も低い。また「一つの企業に長く勤める方が良い」については、<やむを得ず型>が61.1%と肯定的である。
 「ひとの役に立つ仕事をしたい」と考えるのは<やむを得ず型>85.9%で、<夢追求型>71.3%、<モラトリアム型>73.0%に比べて高い。また<夢追求型>のうち68.0%は「将来は独立したい」と考えており、58.4%の<夢追求型>は「有名になりたい」と考えている。
 「いろいろな職業を経験したい」「職業生活に役立つ資格をとりたい」については全体的に高く、あまり差が見られない。また「専門的な知識や技術を磨きたい」と考えるのは<夢追求型>で96.7%と高率である。次に<やむを得ず型>が94.0%、<モラトリアム型>85.9%と低くなる。
 「自分に向く仕事がわからない」と感じているのは<モラトリアム型>で55.1%であるが、「ひとよりも高い収入を得たい」のは<モラトリアム型>81.0%がもっとも高い。
 このようにフリーターになった理由や契機によって分類した類型と職業意識は深く関わっており、次のような特徴が見られる。まず<夢追求型>であるが、この類型は総じて独立・専門職志向が強く、一旗挙げて有名になりたいと考えている。他方<モラトリアム型>は適職がわからない、あるいは仕事をしたくないと感じる一方、高収入を望むなど、矛盾した意識が併存している。<やむを得ず型>は正社員という働き方に価値を置いており、正規雇用への志向が強い。
 さて次に、フリーター類型によるフリーター観の相違について詳しく見たのが図2-6である。

図2-6 類型に見るフリーター観

 フリーター増加現象について「働き口が減っているので仕方がない」と考えるのは<モラトリアム型>(73.1%)と<やむを得ず型>(72.5%)であり、<夢追求型>(50.0%)と大きな開きがある。また「いずれ仕事に就くのだから問題でない」と考えるのは<夢追求型>63.6%と<モラトリアム型>63.9%である。「自分探しのためにいいこと」と考えるのは、<夢追求型>(73.8%)<モラトリアム型>(72.6%)がともに高くなっているが、<やむを得ず型>(59.6%)は他類型よりも否定的な傾向が見られる。さらに「夢のためにしている人はかっこいい」という積極的肯定派は<夢追求型>60.0%であり、<やむを得ず型>(46.7%)は低い。また<やむを得ず型>は「だれでもフリーターになるかもしれない」と考える割合が高く、フリーター増加の要因に対して、「本人が無気力だからだ」や「親がフリーターを許すからだ」という意見を持つ割合が高い。他方、「学校の指導が不十分だからだ」という学校の責任を問う声は類型を問わず少ない。「そのうち仕事に就く人が多いので問題ない」というのは<モラトリアム型>である。
 このように類型ごとにフリーター観の違いを見てみると、<夢追求型>はフリーターに肯定的でむしろ積極的に評価しようとするが、<やむを得ず型>はフリーターに否定的である。そしてこの2類型を両端としてその間に<モラトリアム型>が位置している。
 最後にこれまでの人生に対する満足感と類型の関係を見てみよう(図2-7)。「自分の生活はうまくいっていると思われている」は類型による差があまり見られない。

図2-7 類型に見る満足感

 <モラトリアム型>は「これまでの進路選択は順調だった」「悩みを相談できる人がいる」「努力次第で将来は切り開ける」という割合が他類型に比べて低い。
 <やむを得ず型>は「将来の見通しは明るい」「悩みを相談できる人がいる」「経済的に自立している」と答える割合が高く、「仕事以外に生きがいがある」は<夢追求型>が最も高い。<モラトリアム型>が将来に対して悲観的であるのが特徴である。

 これまで述べてきたそれぞれの類型の職業意識や満足感には以下のような特徴が見られた。
 まず<夢追求型>は、将来における独立や専門的知識・技術の獲得に対して価値を見出しており、他の類型に比べて自分のフリーター経験に肯定的である。<やむを得ず型>は正規雇用への志向が強く、フリーターという就業形態に不満を感じているが、将来に対する展望が見られる。他方<モラトリアム型>フリーターは適職志向が強く、今を楽しく生きることを重要視し、将来に対してやや悲観的な傾向がある。
 このように、フリーター3類型と彼らの持つ職業意識やフリーター観・満足感には強い相関を見いだすことができる。フリーター3類型はフリーターになった当初の意識や理由に着目して提示されたものだが、結果的に職業意識やフリーター観・満足感などの相違も浮き彫りにしており、フリーターの実像を把握することにまずは一定程度成功したといってよいだろう。今後はそれぞれの類型の指標をいっそう吟味するとともに、さらなる変数との関連を検討することを通じて、フリーターの実像をより明らかにすることが求められる。

5.フリーターのアルバイト職種

 次にフリーターをする中で経験したアルバイトについて検討した(表2-15)。

表2-15 フリーター経験職種数

 はじめにアルバイト経験職種数について検討してみると、1つしか経験していない者が全体の42.9%、2つが30.4%、3つが13.4%と、経験職種3つ以内で全体の86.8%に達する。ただし職種数はフリーター期間とも密接に関連すると考えられるので、フリーター期間と職種数をクロスさせた。
 期間が長いほど職種数は多い傾向が見出されるが、半年以内の者は97.8%、4年以上の者でも69.4%が3つ以内に納まっている。勤め先が変わっている可能性はあるにしても、フリーターの職業経歴がアルバイトを転々としており、職種の連続性がない、脈絡のないアルバイトの連続であるというイメージは必ずしも正しくはない。性別で見ると、女性の方が職種数が少なくなっており、安定的である。
 なお(株)リクルート フロームエーが行なった『若者アルバイト実態調査報告(首都圏版)』(2000)の年間アルバイト件数に関する調査によれば、年間アルバイト件数「1件」がフリーター男子は57.0%、フリーター女子は50.5%となっている。フリーター経験年数や学歴などとの関連は示されおらず、またアルバイトの職種と件数という調査上の違いはあるが、リクルート調査と比較すると、ワークスタイル調査のフリーターの方がアルバイト職種数という点ではやや不安定な傾向を示しており、また性別においても異なる傾向が見出される。
 学歴別に見てみると、アルバイト職種が3つ以内のカテゴリーにおいては中卒・高校中退の者の占める割合が最も低く、大学・大学院卒が最も多くなっている。総じて相対的に学歴の高いほうが職種数が少なく、職種に連続性が見られる。
 続いてアルバイト職種の内容について、特に職種に差が見られるものについて分析を加える。
 周知のように、アルバイト雇用がもっとも広がっているのは販売・サービスであり、本調査においても同様である。特にファーストフードやコンビニ・スーパーの経験率は高く、3割を超えており、リクルート調査と一致している。
 まず性別と職種について検討してみると(表2-16)、特に「ファーストフードやスーパーの店員」「事務」については女性の方がかなり高くなっている。「ガソリンスタンド店員」「調理・コック」「出前・配達」「清掃・ビルメン」「土木・建設現場」「製造・組立」のような現業においては男性の方が経験率が高くなっている。こうした性別による職種の相違は正規就業において特に見られる現象であるが、アルバイトにおいてもそうした傾向が反映されている。

表2-16 アルバイト職種・性別(MA)

 学歴別に示したのが表2-17である。「事務」「予備校講師」などは高学歴層に多く見られ、逆に「土木・建設」「製造・組立」「清掃・ビルメン」「皿洗い」「出前・配達」などの肉体労働は低学歴層、特に中卒・高校中退に経験者が多くなっている。アルバイト職種においても、高学歴者=ホワイトカラー的な労働、低学歴者=ブルーカラー的な労働という形態が維持されている。
 以上のように、アルバイト職種においても学歴・性別の差が大きいのは、フリーターの自主的な選択の結果とは必ずしも言えず、むしろ雇用主側の選好が働いているものと考えられる。パート・アルバイト収入には性・学歴が影響していることは第1章で示されているが、アルバイト雇用において性や学歴がどのように評価されているのかについて雇用主側に対する調査も今後重要となろう。

表2-17 アルバイト職種・学歴別(MA)

6.フリーター経験から何を学んだと考えているのか

 フリーター経験者は、フリーター経験から何を学んだと主観的に評価しているのか、性別・学歴別・年齢別・フリーター類型別に整理したものを表2-18に示した。

表2-18 フリーター経験の中で感じたこと

 全体の傾向を簡単に述べるならば、「人間関係に関する能力が身についた」「いろいろな経験をすることができた」「自由な時間が持てた」という肯定的な評価の一方で、「正社員に比べて収入が少ない」「将来に不安を感じた」「生活が不安定だった」と感じた者も多数存在する。
 また先に「自分に合う仕事を見つけるため」フリーターになったとする回答が多く見られたが、実際にはフリーター経験の中で「やりたい仕事がはっきりした」と答えた者は14.2%にすぎない。同様に「やりたい仕事に直接役立つ能力が身についた」(16.4%)「やりたい仕事に就くための人脈やチャンスを得た」(11.7%)者も少数にとどまっている。総括すれば、フリーター経験は対人関係スキルの獲得や自由を享受するためには有効に機能するが、期待していたほど適職探しには役立たないということだろう。
 もう一つの主要なフリーター理由である自由の追求については、「自由な時間が持てた」と多くの者が感じており、おおむねこの目的は達成されたと考えられる。
 それでは次に、どのような人がフリーター経験を通じて何を感じているかについて見ていく。
まず女性は「将来に不安を感じた」と感じているが、「やりたい仕事に直接役立つ能力」「人間関係に関する能力」など、フリーター経験に肯定的な項目に共感する割合が高い。逆に男性は「正社員に比べて収入が少ない」「生活が不安定だった」という項目に特に反応しており、女性に比べて男性のフリーターは社会でそれほど許容されてはいないことを感じているようである。

 次に年齢階層別に見てみると、年齢が高い層で「やりたい仕事に直接役立つ能力が身についた」と感じる割合が高くなっており、フリーター経験がスキル形成上有効であったと感じているが、「人間関係能力」の獲得に対する評価は低くなっている。また「社会的に認められていない」「正社員に比べて収入が少ない」という項目も高年齢層でそう思うと答えた者が多い。ただし先にも延べたがこうした年齢による差異は、年齢効果か世代効果か、あるいは高年齢の者がフリーターをしていた若い時期には労働市場状況がよかったなどの景気の反映であるのかについては不明である。
 20歳未満の低年齢層では「アルバイト先が見つからなかった」「生活が不安定だった」という者の割合が高い。これは年齢が低い者がアルバイト市場において不安定な立場に置かれているのか、それとも近年の不況の反映なのかなどは本調査から判断することは出来ないが、今後アルバイト市場で年齢がどのようなシグナルとして扱われているのかについては検討を要するだろう。
 次にフリーター期間とフリーター経験に対する評価について検討した。
 「やりたい仕事に直接役立つ能力」については、総じてフリーター期間が長い者は身についたと感じているが、その割合はフリーター期間4年以上の者でも26.7%にとどまっている。また「やりたい仕事への人脈やチャンス」はアルバイト期間が長期化してもそれほど得られるものではないようであり、低くおさえられている。「人間関係能力」はぶれがかなりあるものの、長期化している者の方が身についたと考えており、「やりたい仕事がはっきりした」と感じているのは総じて長期の者に多いが、平均的にあまり高くはない。「いろいろな経験」「自由な時間」などは長期化している者の方が満足度が高くなっている。
 他方マイナス評価としては、「急に日数を減らされる」「アルバイト先がない」「社会的に認められていない」は上下するものの、フリーター期間が長いほうが感じる機会が多くなっている。

 続いてフリーター類型との関連を見た。
 <やむを得ず型>は「将来に不安を感じた」「社会的に認められていなかった」「正社員に比べて収入が少ない」というフリーターのデメリットについて特に感じる割合が高い。他方<夢追求型>は「やりたい仕事に就くための人脈やチャンス」「人間関係能力」なども含め、自らのフリーター経験自体に対して肯定的な評価を下す傾向が見られる。<モラトリアム型>は他の2類型に比べると、フリーター経験に対して特に意味を見出していないが、流されるまま(なんとなく)にフリーターになった者が少なくないことの反映かもしれない。
 今後はフリーター本人が主観的に学んだと評価している点に関して、雇用側がどのように考えているかについての調査を合わせて行なう必要があるだろう。

7.まとめ

 本章はどのような若者がなぜフリーターになるのかについて分析し、フリーター経験が若者にとって持つ意味について検討した。知見は以下のとおりである。

<1>男性よりは女性において、相対的に低学歴者や中退者、年齢的には20代前半の者がフリーターになりやすい。またフリーターを構成しているのは女性・高卒者が多く、男性では20代前半、女性は20代に多い。フリーター経験は学歴の低い者や若い世代により浸透する傾向が見られる。
<2>フリーターになる理由として多くの者が挙げる主な理由は、適職探索と自由な働き方への志向、および生活の必要性によるものである。
<3>フリーター3類型のおよその分布は<夢追求型>が1.5割、<モラトリアム型>が4.5割、<やむを得ず型>4割である。
<4>フリーター類型と職業意識・フリーター観は強い相関が見られる。<夢追求型>は独立・専門職・有名志向が強く、他の類型に比べて自分のフリーター経験に肯定的である。<やむを得ず型>は正規雇用への志向が強く、フリーターに否定的である。他方<モラトリアム型>フリーターは適職志向や働くことに対する忌避観が強く、自分の将来に対して悲観的である。
<5>アルバイトの経験職種はそれほど多くはなく、一定程度継続的なアルバイトを行なっていると考えられる。またアルバイト職種においても、性別や学歴による差が存在している。
<6>フリーター経験で得られると考えられているのは「いろいろな経験」「自由な時間」「人間関係能力」である。やりたい仕事に直接役立つ能力やチャンスを得たり、適職を発見できたと評価する者は少数にとどまっており、フリーターになる時に期待していたほどフリーター経験は適職探しに有効ではないと評されている。またフリーター生活の中でアルバイトが見つからなかったり急に日数を減らされる者も少なくなく、将来に対する不安や生活不安定、正社員との収入格差なども感じている。

 以上のような知見から次のようないくつかの示唆を得ることができる。
 まず誰がフリーターになっているのかについては、労働市場においてより不利な立場に置かれている者がフリーターになっていることは明らかであり、また類型の分布にみるように、「夢」の追求のために、あるいはやむなくフリーターになった者が過半数を超えている。本章の知見から主にイメージされるフリーター像は、「怠けている」「わがまま」などの一般的イメージとは異なる姿を見せている。むろん一部のフリーターにそうした傾向があることは否めないが、フリーターの実像をより正確に捉えるためには複眼的な視角が欠かせない。
 さらにそれぞれの類型に対して求められるケアも多様である。類型ごとに詳しく述べるならば、<夢追求型>はもっとも自己肯定感が強くなっているが、この類型のものは「やりたいこと」を追求しているために、本人はフリーターであることに自信を持ち周囲からもそれを容認されるという立場に置かれている。しかし<夢追求型>はフリーターという不安定な立場に置かれていることに対する認識が薄くなりがちであるという点で、フリーター離脱の可能性に関しては問題を含んでいる(この点については次章で詳しく検討されている)。また<モラトリアム型>はもっとも自分に向いている仕事がわからないと感じているにもかかわらず、相談できる相手は少ない。こうしたタイプに対しては、職業に関する相談機関の幅広い設置が求められる。正規就業への志向が強い<やむを得ず型>に対しては、実際の職業斡旋も有効だと考えられる。
 そしてフリーター経験が、若者が期待するほど適職発見に有効な手段ではないことが明らかになったという点は強調されるべきであろう。なぜなら「やりたいこと」を探すというのはそれ自体価値を持つことのように見えるが、本章の知見は、フリーターというかたちで「やりたいこと」を追求しても得るものは少ないことを示しているからである。こうしたフリーター経験者によるフリーター経験に対する評価を、特にフリーターを析出している都市部の進路多様校の学校現場に積極的にフィードバックし、生徒に伝達していく必要がある。


(注1)「つきたい仕事への準備や勉強をするため」「つきたい仕事の就職機会を待つため」「つきたい仕事がアルバイト・パートで出来るから」という項目は除いて分析を行なった。

参考文献
フリーター研究会編(2001)『フリーターがわかる本!』数研出版
日本労働研究機構<本田由紀・小杉礼子・耳塚寛明・上西充子・堀有喜衣・下村英雄・中島史明・吉田修>(2000)『フリーターの意識と実態』調査研究報告書No.136
(株)リクルート フロームエー(2000)『調査報告I 若者アルバイト実態調査報告(首都圏版)』


第3章 フリーターからの離脱

1.はじめに

 本章では、フリーターからの離脱に焦点を当てる。
 「2.正社員になろうとした経験の有無」では、第2章で分析の対象としたフリーター経験者のうち、正社員になろうとした経験のある者の割合を把握する。
 「3.フリーター離脱者の割合」では、フリーター経験者の現状を「フリーター離脱(正社員)」「フリーター離脱(他形態・無業)」「フリーター離脱模索」「フリーター継続」の4つに類型化し、それぞれの量的割合を把握する。また、正社員になろうとしたことがある者の中で実際に正社員になった者の割合(離脱成功率)を把握する。
 「4.フリーター期間と離脱の関係」では、フリーターを離脱して正社員になった者のフリーター通算期間が短いことに注目し、なぜ彼らは離脱できないでいる者に比べて短い期間で離脱に成功したのかを検討する。
 「5.フリーター離脱者の就業状況」では、フリーターを離脱して正社員になった者がどのような職場に勤務しているかを把握すると共に、正社員継続者と比較した場合に労働条件や満足度などに差があるのかを検討する。
 「6.フリーター理由類型と離脱状況」では、フリーター理由類型別に離脱状況を把握する。
 「7.まとめ」では、本章の分析結果を総括する。
 なお、第2節、第3節および第6節では重み付けのあるデータ(即ち、都内在住の18~29歳を代表すると考えられるデータ)を用い、第4節および第5節では重み付けのない元データを用いる。

2.正社員になろうとした経験の有無

 フリーター経験者について、正社員になろうとした経験の有無を性別・年齢別に見ると表3-1の通りとなる。男性では73.4%が正社員になろうとした経験を持つが、女性では52.9%にとどまっており、男女差が大きい。年齢別に見ると、概ね年齢が上がるほど正社員になろうとした経験を持つ者の割合が高くなる。なお、ここで示している「正社員になろうとした経験のある者」の中には、「既に正社員になっている者」と「なろうとしたが、まだ正社員ではない者」の双方が含まれていることに留意されたい。フリーターを離脱して正社員になった者については、第3節から第5節で取りあげる。

表3-1 正社員になろうとした経験の有無(性別・年齢別)

 正社員になろうとした経験の有無を性別・フリーター通算期間別に見ると(表3-2)、年齢別に見た場合とは異なる様相が見えてくる。まずフリーター通算期間の分布を見ると、男性では1年以内の者が半数弱を占めるのに対し、女性では3分の1弱であり、女性の方がフリーター通算期間がやや長くなっている(「フリーター通算期間」は現役フリーターにとってはこれまでのフリーター期間を、フリーター離脱者については離脱までに要したフリーター期間をあらわしている)。正社員になろうとした経験の有無の欄を見ると、フリーター期間が長いほど正社員になろうとした経験のある者の割合が高い、という関係は見られない。むしろ、フリーター経験が1年以内の男性や、半年以内の女性で、正社員になろうとした経験のある者の割合が高い。一方で、1年を超えるフリーター経験のある男性や、半年を超えるフリーター経験のある女性では、正社員になろうとした経験のない者の割合が相当高い(それぞれ、合計して再計算すると、35.6%および49.6%)。これはフリーターになった者の中に、かなり早い時期から正社員になろうとしたグループと、正社員になろうという選択を遅らせている、もしくは行わないグループが存在することを表している。

表3-2 正社員になろうとした経験の有無(性別・フリーター通算期間別)

 正社員になろうとした経験の有無はまた、第2章で示されたフリーターになった理由に基づくフリーター類型(以下本章では「フリーター理由類型」と表記する)と関係している(表3-3)。

表3-3 正社員になろうとした経験の有無(性別・フリーター理由類型別・フリーター通算期間別)

<夢追求型>では男女共に、正社員になろうとした経験のない者の割合が高く、フリーター期間が1年を超える者でも相当程度(男性47.1%、女性61.9%)の者は正社員になることを考えていない。「仕事以外にしたいことがある」<夢追求型>のフリーターにとっては、夢に見切りをつけて正社員をめざすには時間がかかるということだろう。女性の場合は<モラトリアム型>でも、正社員になろうとした経験のない者の割合が高くなっている。これに対し、男性の<モラトリアム型>と<やむを得ず型>、女性の<やむを得ず型>では、正社員になろうとした経験のある者の割合が高くなっている。<モラトリアム型>について男女の違いが現れているのは、第2章表2-14のフリーターになった理由でみた通り、同じく<モラトリアム型>と言っても、男性の<モラトリアム型>は「自分に合う仕事を見つけるため」という、いずれ正社員になるまでの一時的なモラトリアムという意味合いが強いのに対し、女性の<モラトリアム型>では、「自由な働き方をしたかったから」「正社員はいやだったから」など、正社員の拘束を嫌い、フリーターとしての働き方にメリットを認める者が比較的多い、という違いがあるためと考えられる。
 また、かなり早い時期から正社員になろうとしたグループと、正社員になろうという選択を遅らせている、もしくは行わないグループの併存状況は、女性の<夢追求型>を除きどのフリーター理由類型でも認められる。
 なお、正社員になろうとした経験の有無を学歴別にみると(表3-4)、女性では概ね学歴が高い程、正社員になろうとした経験のある者の割合が高い。一方男性ではそのような傾向は見られず、むしろ大学・大学院卒で正社員になろうとした経験のある者の割合が比較的低くなっている。

表2-14 フリーター理由と3類型(MA)
表3-4 正社員になろうとした経験の有無(性別・学歴別)

3.フリーター離脱者の割合

 先述の通り、フリーター経験者の中には正社員になろうとした経験のある者とない者が含まれ、正社員になろうとした経験のある者の中には、正社員になった者となっていない者が含まれている。そこで本節以降では、フリーター経験者の現状を捉えるために、フリーター経験者を図3-1のように類型化する。

図3-1 フリーター経験者の、現状に基づく類型化

 表3-5はこの現状類型を男女別にみたものである。第2章表2-8で見た通り、就業経験のある者に占めるフリーター経験者の割合は男女間でほとんど変わらない(男性35.8%、女性36.6%)。にもかかわらず、フリーター経験者の現在の状況を見ると、男性では「フリーター離脱(正社員)」が57.5%と半数以上を占めるのに対し、女性では「フリーター離脱(正社員)」は25.9%にすぎず、現在もフリーターを離脱していない者(「フリーター離脱模索」+「フリーター継続」)が44.4%、フリーターを離脱したが、正社員ではない者(「フリーター離脱(他形態・無業)」:専業主婦を含む)が29.7%となっており、離脱には男女差が大きいことが伺われる。

表3-5 フリーター経験者の現状類型(男女別・正社員になろうとした経験の有無別)
表2-8 フリーター経験の有無と性別・年齢

 ただし、表3-1で見た通り、正社員になろうとした経験のある者の割合は、男性の方が高い(男性73.4%、女性52.9%)。従って、離脱を希望した者のうちどれだけが離脱に実際に成功したかを捉えるためには、正社員になろうとした経験のある者に限定して検討する必要があるだろう。表3-5の「フリーター離脱成功率」は、そのような考えから、正社員になろうとした経験を持つ者の中で、実際にフリーターを離脱して正社員になった者(現在は「他形態・無業」であるが、離脱後すぐは正社員であった者を含む)の割合を示したものである(注1)。このように正社員になろうとした経験のある者に限ってみても、やはり男女の差は大きい。「フリーター離脱成功率」は男性では74.5%であるのに対し、女性では47.2%にすぎない。

表3-1 正社員になろうとした経験の有無(性別・年齢別)

 しかしながら、男女の差はあっても、男性の4人に3人、女性の2人に1人は離脱に成功しているということもまた、注目すべきであろう。フリーターを経験することは必ずしも正社員雇用の道を閉ざすわけではなく、フリーターから正社員への道が現実に開かれているのである。
 なお、フリーターを離脱後すぐから他形態・無業であり、現在も他形態・無業である者(表3-5の(3))の内訳は表3-6および表3-7の通りとなっている。フリーターをやめた直後の状況(表3-6)でみると、男性の場合は家業に従事する者が4割強と最も多く、女性の場合は主婦になった者が6割強と最も多くなっており、男女とも派遣・契約社員になったという者の割合がそれに続いている。

表3-6 フリーターを離脱後すぐから他形態・無業であった者の、フリーターをやめた直後の状況
表3-7 フリーターを離脱後すぐから他形態・無業であった者の現在の主な状況

 次に、学歴別、年齢別、およびフリーター理由類型別に離脱状況に差があるかどうかを見る。表3-8は表3-5を学歴別により詳しくみたものである。離脱成功率を見ると、男性では「高卒超」の方がわずかに離脱成功率が高いものの、差はほとんどない。女性の場合には「高卒以下」の方が離脱成功率が高くなっている。第2章の表2-9で見た通り、フリーター経験者の割合については学歴による差が明らかに存在し、男女とも「高卒以下」では約半数がフリーター経験者であるのに対し、「高卒超」では男女とも4人に1人強にすぎない。しかし、いったんフリーターとなった後で離脱を試みて成功するかどうかという点では、学歴が高いほど離脱が容易だという結果にはなっていない。

表3-8 フリーター経験者の現状類型(男女別・学歴別)
表3-5 フリーター経験者の現状類型(男女別・正社員になろうとした経験の有無別)
表2-9 フリーター経験の有無と性別・学歴

 年齢別に離脱の状況を見ると表3-9となる。男女とも年齢層が上のグループほど、フリーターを離脱して正社員となっている者の割合が高まっている。しかし離脱成功率を見ると、年齢との関係ははっきりしない。

表3-9 フリーター経験者の現状類型(男女別・年齢別)

 フリーター理由類型別に離脱の状況を見ると表3-10の通りであり、男女とも離脱成功率は<やむを得ず型>が最も高く、<モラトリアム型>、<夢追求型>の順となっている。また、正社員になろうとした試みがないままフリーターを続けている「フリーター継続」の者の割合は男女とも<夢追求型>が最も高く、<モラトリアム型>、<やむを得ず型>の順となっている。これらはフリーター理由類型の特徴と整合している。

表3-10 フリーター経験者の現状類型(男女別・フリーター理由類型別)

 最後に、フリーター通算期間別に離脱の状況を見たものが表3-11である。フリーター通算期間が2年以内の男性と半年以内の女性で、フリーター離脱成功率が際だって高いのが目を引く。先に表3-2によって、フリーター経験者の中には、半年以内、あるいは1年以内といった、かなり早い時期に正社員になろうとしたグループと、正社員になろうという選択を遅らせている、もしくは行わないグループがいることを見たが、表3-11の結果と照らし合わせると、注目すべきグループとして、早い時期に正社員になろうとして、実際に正社員という形での離脱に成功したグループが存在することがわかる。ただし、表3-11は、正社員になろうとした試みが早いほど離脱成功率が高い、ということを意味しているわけではない。ここに示されているフリーター通算期間は正社員になろうとした時期とは対応しておらず、2年を超えるフリーター期間がある者でも半年以内に正社員になろうという試みを始めていたかもしれないからである。そこで次節では、このフリーター期間と離脱の関係について、より詳細に分析する。

表3-11 フリーター経験者の現状類型(男女別・フリーター通算期間別)

4.フリーター期間と離脱の関係

(1)フリーター離脱者の短いフリーター期間/考えられる要因

 正社員になろうという試みが早いほど、正社員としてフリーターを離脱することは容易なのだろうか。本節では主に、正社員になろうとした経験があって実際に正社員としてフリーターを離脱した「フリーター離脱(正社員)」類型と、正社員になろうとした経験がありながら現在もフリーターを続けている「フリーター離脱模索」類型の比較を通して、フリーター期間と離脱の関係を検討する。用いるデータは重み付けが行われていないデータである。分析の前にデータについて表3-12で確認しておこう。「フリーター離脱(正社員)」のデータの7割は男性であり、「フリーター離脱(他形態・無業)」のデータの7割は女性である。「フリーター離脱模索」および「フリーター継続」のデータには男女がほぼ同数含まれている。データ数の制約から、男女別の分析を行うことは難しいため、以下では上記の分布に留意しながら、男女計のデータを用いることにする。なお、表3-12にはフリーター理由類型別の分布も示した。本節で主な分析対象とする「フリーター離脱(正社員)」グループと「フリーター離脱模索」グループは、フリーター理由類型の分布では大きな違いは見られない。なお、フリーター理由類型とフリーターからの離脱の関係については第6節で取りあげる。

表3-12 本節で分析に用いるデータの構成

 図3-2はフリーター経験者の現状類型別に、フリーター通算期間を示したものである。フリーターを既に離脱している「フリーター離脱(正社員)」グループと「フリーター離脱(他形態・無業)」グループでは、これは離脱までに要したフリーター期間を表し、現在もフリーターである「フリーター離脱模索」グループと「フリーター継続」グループでは、これまでのフリーター期間を表している。ここで最も注目されるのは、「フリーター離脱(正社員)」グループが離脱までに要したフリーター通算期間の短さである。「フリーター離脱(正社員)」グループの3割は半年以内にフリーターを離脱しており、1年以内の離脱者は半数強となっている。2年を超えるフリーター通算期間を経てから離脱して正社員になっている者は23.3%に過ぎない。一方、現役フリーターである「フリーター離脱模索」と「フリーター継続」では、フリーター通算期間が2年を超えている者がそれぞれ49.8%、45.6%に達している。

図3-2 フリーター通算期間(フリーター経験者の現状類型別)

 離脱に成功した「フリーター離脱(正社員)」グループと離脱を試みながら離脱に成功していない「フリーター離脱模索」グループのフリーター通算期間の分布の違いは何を意味しているだろうか。2つの可能性が考えられるだろう。第1に、「フリーター離脱(正社員)」グループは「フリーター離脱模索」グループに比べて、フリーター生活に入ってから正社員になろうとする試みを始めるまでの時期が短かったために、早期の離脱に成功し、「フリーター離脱模索」グループは正社員になろうとする試みを始める時期が遅すぎたために、離脱が比較的容易な時期を逸してしまい、フリーターを長期に続けざるを得なくなっている、という可能性が考えられる。第2に、「フリーター離脱(正社員)」グループも、「フリーター離脱模索」グループも、同じように早くから正社員になろうとする試みを始めていたにもかかわらず、何らかのその他の条件の違いにより、「フリーター離脱(正社員)」グループの方が容易に正社員となることができたという可能性が考えられる。筆者は第1の可能性が高いと考えているが、その根拠を以下に示す。

(2)「フリーター離脱(正社員)」グループは、より早く離脱をめざしたのだろうか?

 「フリーター離脱(正社員)」グループの方が「フリーター離脱模索」グループに比べて、フリーター生活に入ってからより早期に離脱をめざし始めたかどうか、その点は調査項目からは直接知ることはできない。従って、第1の可能性を直接検証することはできない。しかし、「フリーター離脱模索」グループの離脱への取り組みの遅さを示唆する結果は出ている。
 正社員になろうとしたきっかけ(表3-13)を見ると、「正社員のほうがトクだと思ったから」という回答の割合が「フリーター離脱(正社員)」グループでも「フリーター離脱模索」グループでもともに最も高くなっている。いずれのグループもフリーターを続けることのデメリットを感じて正社員を志向したとみることができよう。しかし、「年齢的に落ち着いたほうがいいと思ったから」という回答は「フリーター離脱模索」グループ53.9%に対し、「フリーター離脱(正社員)」グループでは35.5%と、最も開きが大きい。「フリーター離脱模索」グループでは、年齢の問題が顕在化してからようやく正社員になろうという取り組みを開始した者が多いように読み取れる。

表3-13 正社員になろうとしたきっかけ(MA)

 また、正社員になろうとしたときに感じたことを見ると(表3-14)、「フリーター離脱(正社員)」グループも「フリーター離脱模索」グループも「経験や資格」を最も問題と感じている。また「フリーター離脱(正社員)」グループの方が学歴の問題を感じている。後述するように「フリーター離脱(正社員)」グループは、「フリーター離脱模索」グループに比べて比較的学歴の低い者が多く、この結果と対応している。一方、「若くなくては難しい」と年齢の問題を感じているのは「フリーター離脱模索」グループが多い。

表3-14 正社員になろうとしたときに感じたこと(MA)

 このように、「フリーター離脱模索」グループでは、離脱への取り組みの遅さを示唆する結果が出ている。他方、「フリーター離脱(正社員)」グループは、図3-2に示した通り、結果としてのフリーター通算期間が非常に短く、早期に離脱をめざしていたことは明らかである。

図3-2 フリーター通算期間(フリーター経験者の現状類型別)

 ここで改めて「フリーター離脱(正社員)」グループのフリーター通算期間を見てみよう。学歴別に見ると(図3-3)、高卒以下の学歴の者は高卒超の学歴の者に比べて、若干フリーター通算期間が長くなっている(中央値はそれぞれ14ヶ月、12ヶ月)。また離学時の正社員 / 非正社員別に見ると(図3-4)、離学時に正社員であった者も、非正社員であった者も、共にフリーター通算期間の中央値は12ヶ月であり、大きな違いは見られない。

図3-3 フリーター通算期間(学歴別)
図3-4 フリーター通算期間(離学時の正社員経験の有無別)

 これらの結果から、フリーターからの離脱年齢は、学歴(離学時の年齢)と正社員経験の有無にほぼ対応することが考えられる。図3-5はその結果を示したものである。「フリーター離脱(正社員)」のうち、「高卒以下・離学時非正社員」「高卒以下・離学時正社員」「高卒超・離学時非正社員」「高卒超・離学時正社員」と、フリーターを開始した年齢が遅くなるにつれてフリーターからの離脱年齢も遅くなっていることが理解されよう。それぞれの中央値は、20歳、23歳、24歳、25歳であり、それぞれの学歴の早期離職者が再就職先を探す年齢にほぼ相応している。言い換えれば、職場での経験・技能の蓄積がそれほど期待できない早期離職者と同じぐらいの年齢であれば、フリーター経験もそれほどハンディとはならない、とも読める。労働市場の中で競争力を持つためには、早期の離脱が重要なポイントであるといえるだろう。

図3-5 フリーター離脱年齢

(3)「フリーター離脱(正社員)」グループは「フリーター離脱模索」グループに比べて、有利な条件に恵まれていたのだろうか?

 第2の可能性、即ち、「フリーター離脱(正社員)」グループも、「フリーター離脱模索」グループも、同じように早くから正社員になろうとする試みを始めていたにもかかわらず、何らかのその他の条件の違いにより、「フリーター離脱(正社員)」グループの方が容易に正社員となることができたという可能性を検討してみよう。以下では考えられる条件の違いとして、(1)エンプロイアビリティの高さ、(2)正社員志向の強さ、(3)正社員の就職口へのアクセスの容易さ、(4)就職活動時期の労働市場需給状況の違いの4点を、順に検討する。
 まず、「フリーター離脱(正社員)」グループの方がエンプロイアビリティが高かったという可能性はどうだろうか。
 エンプロイアビリティを学歴という指標から見ると(表3-15)、「フリーター離脱(正社員)」グループに比べ、むしろ「フリーター離脱模索」グループの方が高学歴者が多い。また、正社員としての就業経験がある方がエンプロイアビリティは高いと考えられるが、卒業(中退)直後に正社員の経験のある者の割合(表3-16)も「フリーター離脱(正社員)」グループよりもむしろ「フリーター離脱模索」グループの方が高い。

表3-15 学歴
表3-16 卒業(中退)直後の就業状態

 なお、第3節で見たように、「フリーター離脱成功率」は男性の方が女性よりも高い。従って、「フリーター離脱(正社員)」グループに比較的男性が多く含まれていること(7割。「フリーター離脱模索」グループでは男女ほぼ同数)がフリーター通算期間の違いに影響していることも考えられる。しかし、図3-6に示す通り、男女別に見た場合も、「フリーター離脱(正社員)」グループと「フリーター離脱模索」グループのフリーター期間の差は大きく、「フリーター離脱(正社員)」グループに比較的男性が多く含まれていることが「フリーター離脱(正社員)」グループのエンプロイアビリティを相対的に高くしており、それが早期の離脱につながったとは考えられない。

図3-6 フリーター通算期間(男女別)

 次に、「フリーター離脱(正社員)」グループの方が「フリーター離脱模索」グループよりも正社員志向的な意識が強かったという可能性はどうだろうか。
 フリーターになった理由を見ると(表3-17、表3-18)、「フリーター離脱(正社員)」グループと「フリーター離脱模索」グループはともに「自分に合う仕事を見つけるため」という回答の割合が高く、「自由な働き方」に対する志向が比較的高い「フリーター継続」グループとは異なる傾向が見られる。しかし、「フリーター離脱(正社員)」グループと「フリーター離脱模索」グループの間の違いは明確ではない。

表3-17 フリーターになった理由(MA)
表3-18 フリーターになった最も重要な理由(SA)

 フリーター経験を通じて感じたこと(表3-19)でも、「フリーター離脱(正社員)」グループと「フリーター離脱模索」グループはともに「フリーター継続」グループに比べて「将来に不安を感じた」「生活が不安定だった」「正社員に比べて収入が少なかった」と、フリーターのデメリットをより強く感じているが、「フリーター離脱(正社員)」グループと「フリーター離脱模索」グループの間の違いはほとんどみられない。

表3-19 フリーター経験を通じて感じたこと(MA)

 正社員になろうとしたきっかけは先に表3-13でみた通り、「正社員のほうがトクだと思ったから」という回答の割合が「フリーター離脱(正社員)」グループでも「フリーター離脱模索」グループでもともに最も高くなっており、差があるのは「年齢的に落ち着いたほうがいいと思ったから」という回答(「フリーター離脱模索」グループ53.9%に対し、「フリーター離脱(正社員)」グループでは35.5%)である。

表3-13 正社員になろうとしたきっかけ(MA)

 これらの結果から見る限り、フリーターにデメリットを感じ正社員を志向する気持ちは「フリーター離脱(正社員)」グループと「フリーター離脱模索」グループに共通しており、「フリーター離脱(正社員)」グループの方が特に正社員志向が強いという傾向は見られない。
 では、「フリーター離脱(正社員)」グループは「フリーター離脱模索」グループに比べて、正社員の就職口にアクセスしやすかったために、早期の離脱に成功したという可能性はどうだろうか。
 「フリーター離脱(正社員)」グループが現在の正社員(公務員含む)の就職を行った経路は表3-20の通りとなっており、「親族や知人の紹介」が33.3%と最も多くなっている。また正社員になるために行った取り組みを見ると(表3-21)、「正社員の口を探して応募した」割合は「フリーター離脱(正社員)」グループでも42.7%にとどまっている。これは先の表3-20に示した通り、「親族や知人の紹介」33.3%、「パートや契約社員からの正社員登用」9.2%といったように、一般的な求職活動を行わずとも正社員になるルートがあったためと考えられる。

表3-20 現在の仕事への就職の経路(SA)
表3-21 正社員になるための取り組み(MA)

 フリーター経験者が一般の労働市場で正社員の就職口を見つけることは難しく、「親族や知人の紹介」といったインフォーマルなネットワークをもつ者の場合に限り就職が比較的容易である、という可能性は考えられる。しかし、図3-7に示す通り、就職の経路別に「フリーター離脱(正社員)」グループのフリーター通算期間を見ると、「親族や知人の紹介」「パートや契約社員からの正社員登用」の場合の方が「その他」の一般的な労働市場からの求職活動に比べて短期の離脱が可能になっているわけではない。従って、「フリーター離脱(正社員)」グループはインフォーマルなネットワークを活用できるからこそ離脱が容易であった、とは言えない。

図3-7 フリーター通算期間(就職経路別)

 また、先の表3-21に示されている通り、「フリーター離脱模索」グループは、「正社員の口について情報を集めた」「専修・各種学校・通信教育や職業訓練等を利用し資格を得た」「つきたい仕事のための学校や資格について調べた」という活動の面では「フリーター離脱(正社員)」グループよりもむしろ積極的に行っている。しかし、「正社員の口を探して応募した」は37.4%に過ぎない。これが「正社員になろうという気持ちはあるのだが、実際に応募するところまでは踏み切れない」ということを意味するのであれば、「フリーター離脱模索」グループの離脱への取り組みの遅さをあらわしていると考えられる。他方、「応募する気持ちはあるのだが実際に就職できそうな求人が見つからない」ということを意味するのであっても、「フリーター離脱模索」グループのエンプロイアビリティはもととも「フリーター離脱(正社員)」にくらべてむしろ高いということに注目するならば、年齢が大きな障害となってきたために「求人が見つからない」という事態に立ち至っていることも考えられる。
 最後に、「フリーター離脱(正社員)」グループは「フリーター離脱模索」グループに比べて、労働市場の需給状況が比較的良好な時期に求職活動を行ったために、早期の離脱に成功したという可能性を考えてみよう。
 「フリーター離脱(正社員)」グループは、表3-22に示す通り、「フリーター離脱模索」グループに比べて、現在の年齢は20代後半に偏っている。従って、「フリーター離脱模索」グループが離脱を試みて求職活動を行った時期よりも比較的労働市場の需給状況が良好な時期に離脱している可能性も考えられる。

表3-22 現在の年齢

 「フリーター離脱(正社員)」グループの実際の入職時期(離脱時期)は表3-23のようになっている。そこで、人数をほぼ四等分するように、入職時期を「1988-1994年」「1995-1997年」「1998-1999年」「2000-2001年」に分けてそれぞれのフリーター通算期間を見ると、図3-8となる。いずれの時期に入職したグループも、フリーター通算期間が1年以内の者が半数強を占めており、不況が特に深刻化している近年になってフリーター通算期間が長期化しているという傾向は見られない。したがって、「フリーター離脱(正社員)」グループが「フリーター離脱模索」グループに比べて、労働市場の需給状況に恵まれたから早期の離脱に成功したとは言えない。

表3-23 「フリーター離脱(正社員)」の入職年
図3-8 フリーター通算期間(入職時期別)

 以上、第2の可能性、即ち、フリーター離脱(正社員)」グループも、「フリーター離脱模索」グループも、同じように早くから正社員になろうとする試みを始めていたにもかかわらず、何らかのその他の条件の違いにより、「フリーター離脱(正社員)」グループの方が容易に正社員となることができたという可能性を検討してきたが、(1)エンプロイアビリティの高さ、(2)正社員志向の強さ、(3)正社員の就職口へのアクセスの容易さ、(4)就職活動時期の労働市場需給状況の違いのいずれについても、「フリーター離脱(正社員)」グループが特に恵まれた条件にあるという結果は得られなかった。

(4)小括

 以上の考察から、第2の可能性、即ち、「フリーター離脱(正社員)」グループと「フリーター離脱模索」グループが同じように早期に離脱に取り組みながら一方は成功し、一方は失敗したという可能性は小さく、第1の可能性、即ち、「フリーター離脱(正社員)」グループの方が早期に離脱に取り組んだために離脱に成功し、「フリーター離脱模索」グループは適切な時期を逸したために離脱に失敗しているという可能性の方が妥当であると考えられる。いつかはフリーターを離脱し正社員になりたいと考えているのであれば、モラトリアム状態を長く続けるよりも、早期に具体的な求職活動を始めた方がいいということであろう。
 では、フリーター期間が2年を超えるような者にとっては、正社員をめざすことは「もう遅すぎる」ことなのだろうか。
 図3-2に示したとおり、「フリーター離脱模索」グループと「フリーター継続」グループのそれぞれ約半数はフリーター通算期間が2年を超えている。また、フリーター1,057人を対象としたリクルート・フロムエーの調査(『フリーター白書2000』)によれば、対象者のフリーター経験年数が平均で3年強ある一方で、あと2~3年フリーターを続ける意向が示されている。また、同じ調査によれば、将来正社員を希望する者の場合、フリーターを続けるのは平均で25.4歳までと考えている。これらのフリーターは、フリーター離脱者から見れば、いささかのんびりしすぎていると映るだろう。もっとも「フリーター離脱(正社員)」グループでも2年を超えるフリーター経験を経てから離脱して正社員になっている者が23.3%おり、正社員の道が全く閉ざされるわけではない。しかし、離脱がより困難になるということは言えるだろう。

図3-2 フリーター通算期間(フリーター経験者の現状類型別)

 なお、厚生労働省「平成13年雇用管理調査」からはフリーターをいわゆる正社員として採用する場合の上限年齢について、表3-24の結果が得られている。すべての企業を対象とした質問項目であるため、「無回答」の中には「フリーターは採用しない」という方針の企業も含まれているであろう。25歳以上のフリーターも採用すると回答している企業は全体で63.5%である。6割強はある、と見ることもできるが、4割弱の企業は門戸を閉ざしている、と考えれば、やはりフリーターを長く続けることのデメリットは今日でもなお存在すると言えよう。

表3-24 フリーターをいわゆる正社員として採用する場合の上限年齢階級別企業数割合(%)

5.フリーター離脱者の就業状況

 上記の第4節ではフリーター離脱者のフリーター通算期間が1年前後とかなり短いことを見てきた。では、そのような短期のフリーター期間を経て正社員となった者は、どのような職場に勤務しているのだろうか。また、正社員継続者と比較した場合に労働条件や満足度などに差があるのだろうか。
 正社員継続者との比較を行うに先立って、それぞれのデータの特徴を押さえておこう。ここで「正社員継続」と呼んでいるものは、第1章の図1-3キャリア基本類型の「正社員で定着」と「正社員のみで転職経験」の2つを合わせたものであり、転職経験者が2割強含まれている(表3-25)。一方、「フリーター離脱(正社員)」にも3割弱の離学時正社員経験者が含まれている(表3-25)。「フリーター離脱(正社員)」では男性が7割を占め、「正社員継続」では6割弱を占める(表3-26)。現在の年齢を見ると、「フリーター離脱(正社員)」には26歳以上の者が比較的多く含まれている(表3-27)。学歴は「フリーター離脱(正社員)」では高卒以下の学歴の者が半数弱を占めるが、「正社員継続」では4分の1にとどまる(表3-28)。

図1-3 キャリアのパターン化
表3-25 キャリア類型
表3-26 性別
表3-27 年齢
表3-28 学歴

 現在の勤務先の企業規模を見ると(表3-29)、「フリーター離脱(正社員)」では従業員数が29人以下という小企業に働く者が44.2%と最も多く、399人以下の中小企業に働く者が80.0%を占めている(「正社員継続」では54.4%)。企業規模の面で見ると、「フリーター離脱(正社員)」の勤務先は、フリーターを続けている「フリーター離脱模索」および「フリーター継続」の勤務先と変わらない。

表3-29 現在の勤務先の企業規模(会社全体の従業員数)

 「フリーター離脱(正社員)」の職種の分布は「サービスの仕事」が最も多く22.5%を占めており、「専門・技術的な仕事」の割合は低い(表3-30)。フリーターとしての仕事は販売・サービス関係が多く、フリーターを離脱して正社員になる場合も、やはり販売・サービス関係の業界に就職していることが多いと考えられる。

表3-30 現在の仕事の職種

 最近1週間の労働時間(表3-31)と昨年の年収(表3-32)を見ると、「フリーター離脱(正社員)」は「正社員継続」と同程度、もしくはやや長時間働いており、「正社員継続」よりもやや少ない年収を得ている。しかし「フリーター離脱(正社員)」と「正社員継続」の学歴の違いや企業規模の違いを考えるならば、フリーターを経験したこと自体が現時点での収入に与えるハンディはかなり小さいと考えられるだろう。

表3-31 最近1週間の労働時間
表3-32 昨年の年収

 今の仕事に対する気持ちを見ても(表3-33~表3-36)、「フリーター離脱(正社員)」と「正社員継続」では大きな差はなく、「フリーター離脱(正社員)」も今の仕事にある程度満足している。ただし、「3年後も今のところにいたい」かどうか、という質問に対しては、否定的な回答が「フリーター離脱(正社員)」でやや多い(表3-36)。「3年後に実現していたい働き方」を聞いた別の質問の結果を見ると(表3-37)、「フリーター離脱(正社員)」の男性ではフリーターを継続している男性と同様、「自営業・自由業」を志向する者の割合が高くなっている。また「将来は独立して自分の店や会社をもちたい」という設問には「フリーター離脱(正社員)」の男性の45.2%が「そう思う」と答えており、「ややそう思う」と合わせると将来の独立を志向する者は71.4%に達している(表3-38)。このように「フリーター離脱(正社員)」の男性で独立志向が高いのは、彼らの働く職場が比較的企業規模が小さく、またサービスの仕事に携わっている者が比較的多いことを反映している面があるだろう。

表3-33 今の仕事への気持ち:(1)やりがいのある仕事だと思う
表3-34 今の仕事への気持ち:(2)目標となる上司や先輩がいる
表3-35 今の仕事への気持ち:(3)今の仕事は自分の性格や能力に合っている
表3-36 今の仕事への気持ち:(4)3年後も今の勤め先にいたい
表3-37 3年後に実現していたい働き方
表3-38 将来は独立して自分の店や会社を持ちたい

 以上の結果をまとめると、「フリーター離脱(正社員)」の多くは、正社員とはいえ学卒正社員の者とはやや異なった職場で働いており、企業規模では中小企業、職種ではサービス・販売関係に従事しており、むしろフリーターとしての仕事との近接性が高い。しかし労働時間や年収の面では正社員との差は小さく、少なくとも今の時点ではフリーターを経験したことによるハンディは小さいと考えられる。また、「フリーター離脱(正社員)」の男性では独立志向が強く認められる。

6.フリーター理由類型と離脱状況

 本節では、フリーター理由類型別に、フリーターからの離脱状況について検討したい。第2章、第3章のこれまでの分析をふまえ、フリーター生活から離脱までの全プロセスを大まかに示すと表3-39の通りとなる。男性、女性それぞれについて理由類型別の特徴を見てみよう(注2)。

表3-39 フリーター理由類型別の離脱状況

 男性の<夢追求型>は男性フリーター経験者の15.6%を占める。「仕事以外にしたいことがあるので」フリーターになった彼らは、他の理由類型に比べてフリーター通算期間が長い傾向があり、正社員になろうとした経験がない者の割合も41.8%と高い。フリーター経験を通じて感じたことを見ると、「いろいろな経験ができた」「自由な時間が持てた」とメリットを感じる度合いが他の理由類型に比べて高く、デメリットに対する意識は比較的低い。しかしながら、正社員になろうとした経験のある者について見ると、結婚や年齢などで区切りを意識する者の他、「やりたいことが見つかった」という者が37.4%を占めているのが注目される。また、正社員になろうとして実際に正社員となった割合を示す「フリーター離脱成功率」は71.8%と他の理由類型に比べて低いが、正社員になった者の今の仕事に対する満足度は他の理由類型に比べて高い。なお、現状類型で「フリーター離脱(他形態・無業)」が9.4%を占めているが、この内訳は「契約社員・嘱託」および「無職で仕事以外の活動」であり、「自営・自由業」という形で「仕事以外のやりたいこと」を実現した者はいない。これらの結果をまとめると、「自営・自由業」という形で「仕事以外のやりたいこと」を実現した者はいないものの、<夢追求型>の男性はフリーターを続けた場合にも離脱した場合にも概して活動的・意欲的であり、正社員になった者の場合も「やりたいこと」を正社員という形で実現しようとした者が比較的多く、正社員としての仕事への満足度も高いことがわかる。
 男性の<モラトリアム型>は男性フリーター経験者の46.3%を占める。「自分に合う仕事を見つけるため」「なんとなく」などの理由でフリーターとなった彼らは、フリーター経験を通じて「いろいろな経験ができた」とは感じているが、「やりたい仕事がハッキリした」という者は9.9%に過ぎない。78.0%の者は正社員になろうとした経験があるが、正社員になろうとしたきっかけは「年齢的に落ち着いたほうがいいと思ったから」「正社員のほうがトクだと思ったから」など、消極的な理由が主であり、「やりたいことが見つかったから」は17.4%にとどまる。また、フリーター経験を通じては「将来に不安を感じた」「生活が不安定だった」と感じた者の割合が高い。現在フリーターを離脱して正社員になっている者の割合は60.5%と最も高いが、現在の仕事に対する満足度はばらつきが大きい。<モラトリアム型>の男性は適職がわからずなんとなくフリーターとなったものの、フリーター生活にはデメリットを感じたために正社員となっている。しかし正社員としての仕事も自分が選び取ったものだというほどの手応えは感じていない者も多いように思われる。
 男性の<やむを得ず型>は男性フリーター経験者の38.1%を占める。「学費稼ぎなど、生活のために一時的に」フリーターとなった彼らは、正社員になろうとしたきっかけとして「正社員のほうがトクだと思ったから」を第1の理由に挙げているように、正社員志向が強い。正社員になろうとした経験がなく現在もフリーターを続けている「フリーター継続」グループの割合は14.0%と他の理由類型に比べて最も少なく、逆に離脱成功率は最も高い。正社員になった者は、そこそこの満足度を示しているが、<夢追求型>で正社員となった者に比べ、積極的な満足感は示していない。彼らにとってはフリーターを経由せずに正社員となることが望ましい働き方であり、フリーター経験は不本意であったように思われる。
 女性の<夢追求型>は女性フリーター経験者の11.9%を占める。現状類型を見ると正社員になろうとした経験がないままフリーターを続けている「フリーター継続」が40.2%であり、他の理由類型と比べて高い割合を示している。正社員になろうとした者についてはきっかけは消極的なものが多く、離脱成功率も33.0%と低い。
 女性の<モラトリアム型>は女性フリーター経験者の47.4%を占める。フリーター理由を見ると「自由な働き方をしたかったから」という者が男性の<モラトリアム型>に比べて多い。男性の<モラトリアム型>とは異なり、将来への不安や生活の不安定さもあまり感じていない。第2節でも指摘したように、男性の<モラトリアム型>はいずれ正社員になるまでのモラトリアムであるのに対し、女性の<モラトリアム型>には正社員の拘束を嫌い、フリーターとしての働き方にメリットを認める者が比較的多い、という違いがフリーター生活への評価にも現れている。正社員になろうとした経験がない者の割合も男性の<モラトリアム型>に比べて高い。現状類型では女性の<モラトリアム型>の31.6%が「フリーター離脱(他形態・無業)」であるが、このうち6割強は専業主婦である。
 女性の<やむを得ず型>は女性フリーター経験者の40.7%を占める。就職も進学もままならない中で不本意ながらフリーターとなった彼女たちは、男性の<やむを得ず型>と同様にフリーター生活の中で「自由な時間」が持てることに対する評価は低く、正社員志向が強い。しかし女性にとってはフリーターを経て正社員になることは男性以上に困難であるようで、離脱成功率は48.9%にとどまっている。なお、現状類型では32.5%が「フリーター離脱(他形態・無業)」であるが、<モラトリアム型>の女性とは異なり専業主婦は3割強にとどまり、半数以上は契約社員・パートなどの形で就業している。
 このように、フリーターからの離脱状況はフリーター理由類型によって、また性別によって大きく異なる。<夢追求型>では正社員になろうとした経験がなくフリーターを続ける者の割合が高いが、男性の場合は女性に比べ、正社員を選び取っていく者の割合も高い。<モラトリアム型>では男性は適職がわからないままフリーターになったものの、フリーター生活にはデメリットを感じて正社員になっていくのに対し、女性の場合はフリーターとしての現状を肯定している者もかなり含まれていると考えられる。<やむを得ず型>では不本意ながらフリーター生活に入り、正社員としての離脱を望む気持ちが強いが、女性の場合には男性に比べ、離脱はより困難である。

7.まとめ

 フリーターの多くはいずれ正社員になることを考えている。そして実際に、フリーターを離脱して正社員となっている者も多い。ただし、離脱のプロセスには男女差が大きい。正社員になろうとした経験がある者は、男性では73.4%であるが、女性では52.9%にとどまっている。また、正社員になろうとした経験がある者のうち、実際に正社員になった者の割合(離脱成功率)も、男性では74.5%であるのに対し、女性では47.2%である。フリーターになることは必ずしも正社員雇用への道を閉ざすことではなく、フリーターから正社員への道は現実に開かれているが、女性の場合は離脱がより困難であるというのが現状であろう。なお、学歴が高いほど離脱成功率が高い、という傾向は見られなかった。
 フリーターを離脱して正社員になった者では、半数強が1年以内という短いフリーター通算期間しか経験しておらず、2年を超えるフリーター通算期間を経てから離脱して正社員になっている者は23.3%に過ぎない。一方、正社員になろうとした経験がありながらフリーターを続けている者では、フリーター通算期間が2年を超えている者が半数を占めている。いずれのグループも同じように早期の離脱をめざしながら、学歴などの条件の違いによって前者だけが早期の離脱に成功した、という可能性は低く、前者はフリーター生活に入ってから正社員になろうと試みるまでの時期が短かったからこそ早期の離脱に成功した可能性が高い。労働市場の中で競争力をもつためには早期の離脱が重要なポイントであり、フリーター経験を大きなハンディとしないためには、同学歴の早期離職者と同じぐらいの年齢までに離脱を行うことが妥当であると考えられる。
 フリーターを離脱して正社員になった場合には、離学当初から正社員を続けている場合に比べて、比較的企業規模が小さい勤務先で働いていることが多い。299人以下の中小企業に働く者の割合は、正社員継続の場合は5割強であるのに対し、フリーター離脱者では8割を占めている。職種では「サービスの仕事」が最も多い。年収は正社員継続者よりもやや少ないが、フリーターを経験したこと自体が現時点での収入に与えるハンディはかなり小さいと考えられる。現在の仕事に対する満足度は正社員継続者とあまり変わらないが、フリーター離脱の男性では、将来の独立志向が高いという特徴がある。企業規模や職種、独立志向などを考えると、フリーター離脱者の多くは正社員とはいえ学卒正社員の者とはやや異なった職場で働いていると言えるだろう。
 フリーターになった理由との関係で離脱状況を見ると、<夢追求型>では正社員になろうとした経験がなくフリーターを続ける者の割合が高く、<やむを得ず型>では逆に正社員としての離脱を望む気持ちが強い。しかし、<やむを得ず型>でも男性と女性の離脱状況には差が大きく、女性の場合は離脱がより困難となっている。<モラトリアム型>では男性はフリーター生活にデメリットを感じて正社員になっていくのに対し、女性の場合はフリーターとしての現状を肯定している者もかなり含まれていると考えられる。


(注1)なお、表3-5にも示されている通り、正社員になろうとした経験がないにもかかわらず現在「フリーター離脱(正社員)」である者も存在する。彼らは特に正社員になろうという試みを行わないまま、正社員就職の機会を与えられて就職した者と考えられるが、「離脱成功率」の計算からは除外した。
(注2)フリーターを離脱して正社員になった者について、性別・フリーター理由類型別に分析することも望まれることではあろうが、フリーターを離脱して正社員になった者のデータが120しか得られていないことから、ここでは詳しい分析は断念し、「今の仕事への気持ち」だけを示した。


第4章 高校から仕事への移行形態の多様化
……… 1990年代における高校の職業紹介によらない就職増加傾向の分析 ………

1.はじめに

 わが国では高校から仕事への移行は、基本的には「新規高卒」市場を経由することで成し遂げられる。就職希望の高校生が「新規高卒」市場に参入するためには高校の職業紹介が必要とされている。高校の職業紹介は極めて効率よく組織化されたシステムであるが、それは就職希望の生徒全員に一様に機能するわけではない。出欠席日数や学業成績等に関して所定の水準を満たしている、‘卒業の見込み’のある生徒を限定的に対象にする。就職希望の高校生は学校の職業紹介システムが要請する条件を備えるように努め、それにより学校卒業と同時に「正社員」としての就職を保証されてきた。わが国の高校から仕事への移行は、このように高校の職業紹介機能を仲介することで整然ととりおこなわれ、それ以外の移行形態が注目されることはほとんどなかった(注1)。このシステムは長い間極めて効果的に機能してきており、西欧社会で恒常化した「若年失業」問題をわが国において長く回避させてきた。
 新規高卒労働市場における職業紹介は「正社員」雇用を前提に行われるものとされてきた。したがってこのシステムが順調に機能している限り、パートやアルバイトなどの不安定雇用が新規高卒就職希望者に対する紹介の対象とされることはない。高校入学時からスタートする進路指導においても、当然のことながら、卒業時の進路としての「不安定雇用」や「無業」(注2)を想定してこなかった。つまり就職希望の生徒に卒業と同時に「正社員」就職を斡旋できないことは、高校の職業紹介システムの不全さを意味するものとして関係者に受け止められてきた。
 ところが、バブル経済崩壊の影響が新規高卒労働市場にも及び始めた1993年度卒業生あたりから、長い間極めて効果的に機能してきたこのシステムがうまく作動しなくなった。就職希望の生徒に卒業時までに正社員の就職口を斡旋できず、「無業者」として卒業させねばならない事態が発生し(注3)、伝統的な高校の職業紹介の枠組みから外れて卒業していった彼らは「フリーター」と呼ばれるようになった。大学・短大・専門学校等への進学率の持続的上昇、その反対に、高卒就職率の持続的低下に伴う高卒就職者の労働力としての質の低下の進展、産業構造の変化とサービス産業化・情報化の進展等は、わが国における高校から仕事への移行の在り方を根底から揺り動かしたのである(注4)。すなわち、就職希望者にとって学校職業紹介だけが唯一の高校から仕事への公認された移行手段であったのが、それによらない移行も容認されるようになり、それとともに「フリーター」の職業キャリアに人々の目が向けられるようになった。
 では、わが国における高校から仕事への移行は、1990年代を通じてどのように変化してきたのだろうか。どんなタイプの移行が、どのように増えているのであろうか。移行形態の多様化は若者の職業キャリアの形成にどのような意味を有するのであろうか。本章ではこれを幾分なりとも明らかにしようとして、学校紹介によらない移行形態に焦点を当てた「高校から仕事への移行」形態の類型化を試みる。

2.分析の対象

 分析対象は『若者のワークスタイル調査』有効回収者のうち、最終学歴が「高卒」の就業経験者中で、かつ高校卒業年次が把握されている者。分析には「補正データ」を用いる。なお補正する前の分析該当者数は586人(男子296人、女子290人)である。サンプリング方法に基づく制約から、男女計に関する考察は行わない(対象者のサンプリングならびに「補正データ」については第1部第1章を参照されたい)。

(1)高校在籍学科、学校の種類など

 対象者の高校在籍学科別構成は表4-1aのようになっている。男性も女性も、対象者の過半数は「全日制普通科」卒者で占められている(男性53.6%、女性59.4%)。次いで多いのが、男性は「全日制工業科」で24.9%、女性は「全日制商業科」で26.0%で、男性も女性も全体の8割前後が上位2学科卒者で占められている。そこで以下での在籍学科による差異については、男性では普通科と工業科を、女性では普通科と商業科をそれぞれ比較検討する。

表4-1a 在籍学科別対象者構成

(2)高校卒業年次

 対象者の高校卒業年次は1989年から2000年の11年に及んでいるが、既に指摘したように、1993年を前後して高卒無業率だけではなく若年者の就業情勢を反映するさまざまな統計指標が足並みを揃えて一斉に大きく変化していることが明らかになっている。そこで対象者の卒業年を1992~93年を境になるようにして、次の3群に分ける。
 1989-92年卒群の高校から仕事への移行は‘バブル景気’の中で行われた。この時期の新規高卒求人倍率は常に2倍以上を保っていた。とりわけ92年3月の新規高卒求人倍率は3.34倍に達し、それは高度経済成長期末、石油危機直前の1974年3月卒の3.94倍、翌75年3月卒の3.38倍に次ぐ高い値である。
 翌93年卒以降は、新規高卒に対する労働需要の急激に縮小し始める。新規高卒求人倍率の推移でこれをみると、93年が3.11倍とまだ3倍を超える高率であった。しかし94年2.48倍、95年1.97倍、96年1.76倍と急速に低下していく。93年はまた、高卒無業者が急増し始めた年でもある(注5)。この時期は高卒職業紹介関係者の多くが、まだ「これらの現象は不景気がもたらした一時的なものであり、景気がよくなればまた以前の状態に回復する」と強く期待し続けていたと見ることも許されよう。
 97年卒以降は、新規高卒市場に生じた異変がわが国社会全体を覆う構造的なものの一端であり、今後も継続して進展するものとして関係者に受け止められるようになった時期と見てよい。分析対象である高卒就職者の初期キャリア形成には、こうした時代背景の差異が組織的に反映されていることが予想される。
 表4-1bに分析対象者の高校卒業年次群別構成を示す。男性の場合、1989~1992年卒群(以下、89-92年群という)が35.3%、1993~1996年卒群(93-96年群という)が37.5%、1997~2000年卒群(97-00年群という)は27.2%で、比較的均等に分布している。一方女性は89~92年群が47.4%と半数近くを占め、以下93~96年群が29.6%、97~00年群が23.0%で89-92年群の半分に過ぎない。

表4-1b 高校卒業年次郡別対象者構成

 高校卒業年次群別在籍学科構成は表4-1cのようになっている。男性では、年次が上がるにつれて工業科卒が急激に減少し、その分普通科や定時制・通信制卒が増えている。女性の場合には、年次による在籍学科構成の変化は認めにくい。

表4-1c 高校卒業年別・在籍学科別対象者構成

3.「高校から仕事への移行」の多様化

(1)高校卒業直後の就業状況

 高校から仕事への移行の類型化は、高校卒業直後の就業状態と、そうした状態が学校職業紹介を経由してなされたものか、の二点に着目して行う。まず、高校卒業直後の就業状態について高校在籍学科差と高校卒業年次差の点から概要を見ておこう。 表4-2に高校卒業直後の就業状況を示す。

表4-2 高卒直後の就業状態

 男性の場合「正社員」が最も多く54.0%であるが、しかし半数を僅かに上回る程度である。他方、高校卒業直後に「パート・バイト」となった者が28.0%いる。以下、「自営・家業手伝い」5.9%、「契約社員・派遣社員」4.0%、「無職で仕事を探していた」3.4%、「何をするか迷っていた」1.3%である。これを女性についてみると「正社員」63.7%で男性と比べると10ポイントほど多い。次いで「パート・アルバイト」24.9%と1/4を占め、「無職で職を探していた」が4.6%であるから、女性の場合にはおよそ20人に1人は高校を卒業するまでに職が決まっていなかったことになる。高校卒業後直ちに「正社員」や「家族従業員/自営業・自由業」といった比較的安定した“従業上の地位”に就けず、「無職」や「不安定雇用」で職業キャリアをスタートさせる者が少なからず存在し、それはとりわけ男性で目立つ。
 在籍学科別特徴を見ると(図4-1a)、男性で普通科卒者で高卒後直ちに「正社員」就職したのは45.0%と2人に1人以下である。その一方「パート・アルバイト」が35.5%と1/3を超える。残りは「契約社員・派遣社員」5.7%、「無業・その他」5.4%、「自営・家業従事」5.0%に分かれる。卒業直後「無職で仕事を探していた」は1.9%である。これが工業科卒者となると、「正社員」就職が76.4%になり、残りは「パート・アルバイト」を含むさまざまなカテゴリーにほぼ均等に分散している。男性の高卒就職者は在籍学科によって「正社員」比率が著しく異なり、普通科で学校卒業と同時に正社員就職する者はおよそ二人に一人と少ない。

図4-1a 高校卒業直後の就業状態(学科別)

 次に女性の場合を見ると、普通科卒者の60.4%が「正社員」、「パート・アルバイト」は27.0%で、これら二つの進路で全体の87.4%を占める。但し、在学中の職探しで適当な就職口が見つからなかったと思われる「無職で仕事を探していた」が5.1%いる。商業科卒者の場合はどうか。「正社員」比率は78.6%で、普通科より18.2ポイントも高い(男性の工業科卒者と似通った値である)。そして「パート・アルバイト」が13.4%で普通科卒のおよそ半分と低い。「無職で仕事を探していた」は無視できるほどである。その代わりに、職探しも試みないで「何をするか迷っていた」が7.2%もいる点は注意を要する。そして「何をするか迷っていた」は、男性の場合もそうであるが、職業科卒者に目立つ。
 首都圏在住の高卒就職者の卒業直後の就業状態に関しては、男性も女性も、高校卒業年次群による急激でかつ組織的な変化を観察できる。男性の場合、1989-1992年卒群(以下、89-92年群と言う)の63.5%が「正社員」であったが、1993-1996年卒群(以下、93-96年群と言う)ではそれが58.7%、1997-2000年群(以下、97-00年群という)では35.1%へと激減している(図4-1b)。他方、年代があがるにつれて増えたのが「パート・アルバイト」である。89-92年群では19.3%であったが、93-96年群は23.4%に、さらに97-00年群になると45.4%にも達し、「正社員」就職者比率を上回るようになっている。そして「無職で仕事を探していた」の場合も、89-92年群では僅か0.3%に過ぎなかったのが、93-96年群では4.5%、97-00年では6.2%に急上昇している。

図4-1b 高校卒業直後の就業状態(卒業年次別)

 では、女性の場合はどうか。89-92年群の「正社員」就職比率は76.3%で、男性のそれを12.8ポイントも上回っている。しかし93-96年群の「正社員」比率は56.5%で、過半数を保っているとはいえ89-93年群と比べて19.8ポイントも大幅に減少し、さらに97-00年群の場合には47.1%と半数を割っているのみならず、89-92年群よりも29.1ポイント、93-96年群よりも9.4ポイントの減少を見ている。そして「正社員」の減少を補っているのが「パート・アルバイト」である。89-92年群では19.1%であるが、93-96年群では30.3%へと大幅に増加している。しかしなぜか97-00年群も30.1%に止まり、男性のような増加傾向は認められない。その代わり97-00年群の女性には、「何をするか迷っていた」が4.8%と多いこと、「無職」(「無職で進学や留学等の準備」、「専業主婦、結婚準備」、「無職で何もしていない」、「その他」の合計)が6.8%もいる点に大きな特徴が認められる。
 サンプル規模の制約から、クロス集計の次元を増やすことには何かと問題が生じ、立ち入った検討は無意味となるが、しかし、高校卒業直後の就業状態の分布を在籍学科別・年次差を検討した場合についても、簡単にその特徴を見ておこう。まず男性・普通科の場合、89-92年群と93-96年群とで正社員率にほとんど差がない(48.0%と48.9%で約1/2)。しかし97-00年群の正社員率は36.9%へと10ポイント以上も減少し、その分「パート・アルバイト」比率が31.9%から46.1%に上昇している。他方工業科は、89-92年卒群の正社員率79.0%が93-96年群では83.0%と幾分上昇し、97-00年群で52.2%へと一気に減少している。そして、それまで皆無に近かった「パート・アルバイト」比率が35.8%にまで激増している。女性の普通科の変化も激しい。正社員率は89-92年群の72.8から93-96年群64.3%、97-00年群31.9%へと激減している。「パート・アルバイト」は96年までは20パーセント台中頃の値であったのが97-00年では41.5%へとほぼ倍増している。他方、女子の商業科に生じた変化は、これとはだいぶ異なった様相となっている。正社員率は89-92年群83.0%から93-96年群68.2%と14.8ポイントも減少したが、97-00年群ではバブル期とほぼ同じ81.4%にまで上昇している。一方「パート・アルバイト」比率は89-92年が11.3%から93-96年群の25.8%へと上昇したが、97-00年群のそれは2.0%で、その代わり「何をするか迷っていた」が16.7%に達している。
 わが国では長い間、新規高卒就職者は「正社員」就職者のことであるというのが暗黙の了解事項であった。ところがこれまで見てきたように、今回の男性調査対象者の高卒直後の「正社員」就職率は54.0%で、過半数を少し超えている程度である。他方、高卒後直ちに「パート・アルバイト」に就いた者は28.0%、また「契約社員・派遣社員」が4.0%で、これらの“不安定雇用”で職業経歴をスタートさせた者は合計32%で全体のおよそ1/3を占めている。「家業従事・自営・自由業」は5.9%で、学校卒業直後「無職・求職中」も3.4%いる。一方女性の場合は、男性の場合とは幾分事情が異なり、正社員率は63.7%で、残りのほとんどは「パート・アルバイト」24.9%である。そして「無職・失業中」4.6%、「家業従事・自営・自由業」は1.2%と少ない。すなわち、高校生の学校から仕事への移行を考える場合、「正社員就職」は量的に最も多い移行形態であるのだが、しかし、他の移行形態を無視し得るほど絶対的多数を占めているわけではないことも、また明らかである。

(2)「正社員」歴

 『若者のワークスタイル』調査では、学校卒業直後であるか否かに関わらず、初回「正社員」就職の状況、並びにその勤め先を辞めた事情についての検討が可能である。分析対象者の「正社員」歴を整理したものが表4-3である。

表4-3 「正社員」歴

 本調査が実施された時点までに、就業経験を有する高卒男性の85%、同女性の83.8%が、少なくとも1回は「正社員」として就業している。残る15%程はこれまでに「正社員」以外の就業経験しかもたない。既に示してきたように、高校卒業直後に正社員就職している男性は54%、女性は63.7%であるから、それぞれの差(男性31ポイント、女性20.1ポイント)は、学校職業紹介とは関わりなく、対象者が自らの職業キャリアを形成する過程で「正社員」雇用の口を見つけたことなる。
 高校在籍学科によって正社員歴にどんな違いが生じているのであろうか。男性では、普通科では「正社員歴あり」が81%、したがって正社員を全く経験していない者が19%と2割近い。工業科の「正社員歴あり」は91.9%で普通科より10.9ポイントも高いが、それでも「正社員歴なし」が8.1%いる。高卒後に遅れて「正社員」となった者の比率は普通科が30.8%で、工業科の15.5%の倍近い。普通科卒の場合、「非・正社員」以外で職歴をスタートさせ、その後に「正社員」を経験する者が少なくないのである(図4-2a)。女性の場合には、男性と幾分事情が異なっている。商業科卒は97.6%が「正社員歴あり」であるが、普通科卒のそれは81.3%である。普通科卒は、男性と同じように、18・7%約2割が、就業歴中に「正社員」経験を持っていない。

図4-2a 「正社員歴」(学科別)

 次に高校卒業年次による特徴を見よう(図4-2b)。男性では89-92年群と93-96年群の「正社員歴あり」はそれぞれ93.7%と91.8%で大きな差はないが、97-00年群のそれは65.2%と極端に低くなっている。女性の場合もそれぞれ83.9%、80.5%から69.9%へと大きく減少しているが、男性ほどではない。「正社員歴あり」の割合は、学校卒業後の職歴期間が長くなればなるほど、すなわち調査対象者の年齢が高くなればなるほど、多くなるというよりも、一定の年齢以上になると正社員経験者比率が高まるのかも知れない。そうした傾向はとりわけ男性で顕著であるように思われる。

図4-2b 「正社員歴」(卒業年次別)

(3)高校の職業紹介と高卒・直・「正社員」就職経路

 職業安定業務統計によると、新規高卒者の中で学校職業紹介を経由して民間企業に就職する者は、年度によって幾分変化するものの、1970年以降83~87%に及んでいる。だが、学校職業紹介に関するこれらの統計では、例えば、生徒自身が縁故などにより見つけてきた就職先も、最終的には学校職業紹介の中に含められて一括処理されている。すなわち、就職先の真の紹介者が「学校」とは言い難いものも含まれ、両者がどんな割合であるかが不明である。そこでここでは、高卒就職者自身の目から見た移行経路の実状を確認しておこう。高卒・直・「正社員」就職に学校の職業紹介が実質的にどのくらいの役割を果たしているのだろうか。表4-4に、学校を卒業と同時に「正社員」就職した者達の入職経路の分布を示す。

表4-4 高校卒・直・「正社員」の入職経路

 まず男性についてみると、「学校(職安)」紹介は63.7%と最も多い。とはいえ「正社員」就職者全体の2/3以下である。残る1/3は「縁故」25.3%、「新聞・求人情報誌」6.3%で「正社員」就職したと答えているのである。在籍学科別による差も著しい。普通科で「学校」経由は47.7%と半数以下で、残る半数は「縁故」31.3%と「新聞・求人情報誌など」13.9%なのである。他方工業科は「学校」紹介が86.4%で「縁故」が13.3%である。卒業年次による差は3群とも60パーセント台前半の値で、学科差と比べて小さい。但しバブル期の卒業者である89-92年群には「新聞・就職情報誌」で正社員就職の口を見つけたとする者が10.7%もいる点には注意しておく必要がある。また93-96年群では「縁故」が31.6%と、他の2群よりも10ポイント以上大きい。
 女性の場合には、高卒・直・「正社員」就職者の83.4%は「学校」紹介であったと答えて、男性とのそれよりも20ポイントほど大きな値となっている。学科別特徴は商業科(90.8%)が普通科(83.2%)よりも大きい点で、男性の工業科 VS 普通科の関係と似ている。しかし卒業年次による差は極めて特徴的である。女性の場合バブル期の「学校」紹介率は76.9%で、「新聞・就職情報誌」や「縁故」によって「正社員」就職口を見つけたとする者が各1割前後を占めていた。それがバブルが弾けて以降の不景気では、女性の「正社員」就職が学校職業紹介に大きく依拠するようになっている。また、「縁故」は幾分残っているが「新聞・情報誌」経由は皆無に近いまでに減少している。以上のように、高校の職業紹介の影響力は、男性と女性とで明らかに異なった推移を示している。高校から仕事への移行の類型化は、このような面からも考慮する必要がある。

4.高校から仕事への移行の類型化

 高校から仕事への移行の類型化は次のようにして行った。対象者を、まず、学校を卒業すると同時に就業したか、それとも一定期間無職であった後に就業しているかで二分する。次に、卒業と同時に就業した者を、イ)「学校職業紹介」による就職かそれによらない就職か、ロ)「正社員雇用」か「非正社員雇用」か(注6)、の2の視点から更に分類する。これらの視点を組み合わせ、最終的に「学校紹介・正社員」型、「学外経由・正規就業」型、「非学校紹介・非正規雇用」型、「就業遅延」型の4類型を抽出した。
 「学校紹介・正社員」型の移行は、高校在学中に「学校紹介」で就職先を探し、卒業すると直ちに、その勤め先に「正社員」として雇用されるもので、長い間新規高卒就職の典型とされてきた移行形態である。以下では「学校紹介・正社員」型を「標準型」と呼び変えることが許されよう。
 「学外経由・正規就業」型移行は、(学校紹介に拠らず)私的縁故により就職就職先を見つけ卒業すると直ちにそこで「正社員」として働きだす(正規)雇用型と、家業に従事したり自由業となるような非雇用型の2つの異なるタイプを一つにまとめたものである。この二つの移行形態はいずれも以前からごく普通に見られたもので、標準型に準ずるものと位置づけ得るから、「亜標準型」と呼び代えてよいであろう。
 次に「非学校紹介・非正規雇用」型は、学校を卒業と同時に「アルバイト・パート」といった仕事に就く場合で、最近何かと話題に上る高卒者の移行形態の一つである。そして残る一つが「就業遅延」型移行で、学校卒業直後は「無職で仕事を探していた」り、「何をするか迷っていた」り、「無職で何もしていなかった」等々の状態で仕事に就いていなかったが、その後就業した者が全てこの型に含まれる。したがって「就業遅延」型を詳しく見れば、いくつもの特徴的な下位類型に分け得るが、ここではそれら全てを一括している。
 これら4つの移行類型を“フリーター”と関連づけると、「学校紹介・正社員雇用」型や「学外経由・正規就業」型移行は、それによって“フリーター”と見なされることはない。これに対して残る「非学校紹介・非正規雇用」型と「就業遅延」型は、移行の仕方に違いはあるもののしばしば“フリーター”と見なされている。
 このように分類された移行類型に基づく対象者構成は表4-5に示した通りとなった。男性で最も多いのは“「学校紹介・正社員雇用」型33.6%であるが、全体の1/3を占めているに過ぎず、二番目に多い「非学校紹介・非正規雇用」型32.0%との差はわずかである。また「学外経由・正規就業」型も26.3%で決して少なくない。これら3つで9割を超える。「就業遅延」型は8.1%である。

表4-5 「高校から仕事への移行」の類型

 女性の場合は、大きさの順位は男性の場合と変わらないが、構成比には大きな違いが認められる。すなわち「学校紹介・正社員雇用」型が52.3%と半数を超えて最大で、以下「非学校紹介・非正規雇用」型25.5%、「学外経由・正規就業」型12.6%、「就業遅延」型9.6%である。以上のように、高校から仕事への移行形態がすでにかなり多様化していることは明らかで、とりわけ男性においてそれが顕著である。
 次に、高校在籍学科と移行類型との関係を見よう(図4-3a)。普通科で最も多いのは、男性が「非学校紹介・非正規雇用」型41.2%であるが、女性では「学校紹介・正社員雇用」型50.2%である。このように普通科は男女差が著しい。普通科男性で二番目に多いのは「学外経由・正規就業」型28.6%で、新規高卒就職の典型とされてきた「学校紹介・正社員雇用」型は21.5%と全体の1/5を占めるに過ぎない。他方普通科女性で二番目に多いのは「非学校紹介・非正規雇用」型25.5%、次いで「学外経由・正規就業」型12.1%であるが、「就業遅延」型も10%いる。

図4-3a 「高校から仕事への移行」 4類型(学科別)

 男性の工業科および女性の商業科の場合には「学校紹介・正社員雇用」型(標準型)移行が最も多く、それぞれ62.8%と67.8%と全体の2/3を占めている。男性の工業科で二番目に多いのが「学外経由・正規就業」型19.6%で、「非学校紹介・非正規雇用」型は9.2%に止まっている。女性の商業科では「非学校紹介・非正規雇用」型は13.4%で「学外経由・正規就業」型10.8%より幾分多くなっている点で男女差が認められる。いずれにせよ、高校在籍学科は移行類型と大きく関わっており、普通科在籍者に「非学校紹介・非正規雇用」型移行する者が多く、それはとりわけ男性で顕著である。工業科であれ商業科であれ職業科卒の場合には、男性女性を問わず、従来からの典型的な移行スタイルである標準型が依然大勢を占めている。しかしそれとても8~9割に達するほどの絶対的多数というわけではない。すなわち、普通科のみならず職業科であっても、高校から仕事への移行形態は多様化している。『新規高卒就職者の学校から職業への移行は、そのほとんどが「学校紹介・正社員雇用」型(標準型)である』との通念は、職業高校卒者に対しても、すでにあてはまらなくなっている。
 では1990年代を通じて、高校から仕事への移行の多様化はどのように進展してきたのだろうか。高校卒業年次がもたらす差異を、まず男性について見よう(図4-3b)。89-92年卒ではまだ「学校紹介・正社員雇用」型(標準型)が39.0%で最大、以下「学外経由・正規就業」型(亜標準型)33.5%、「非学校紹介・非正規雇用」型22.4%、「就業遅延」型5.1%である。すなわち、バブル期では高卒後直ちに正規就業した者の割合(具体的には標準型と亜標準型の合計)は全体の3/4を占め、従ってフリーター型の移行は1/4に止まっていた。これが93-96年群になると標準型37.5%が最大であることには変わりないが、「非学校紹介・非正規雇用」型が30.4%と二番目に多くなり、亜標準型は23.4%と三番目に下がるとともに、「就業遅延」型は8.7%と僅かではあるが増えている。そして97-00年群になると移行類型の分布は様変わりする。すなわちフリーター型である「非学校紹介・非正規雇用」型が46.4%と全体の半数近くに達し、標準型21.4%と亜標準型20.8%を合計しても「非学校紹介・非正規雇用」型に及ばない。もう一つのフリーター型である「就業遅延」型も11.3%に達している。「非学校紹介・非正規雇用」型と「就業遅延」型との合計は57.7%になり、97年以降の男子高卒就職者にとってフリーター型移行は最も一般的な移行スタイルとなっているのである。

図4-3b 「高校から仕事への移行」 4類型(卒業年次別)

 女性はどうか。バブル期に高校を卒業している89-92年群の場合、標準型が56.8%と過半数を占め、亜標準型と「非学校紹介・非正規雇用」型がともに19.5%と等しく、「就業遅延」型は4.2%と僅かである。すなわち、この時期の女性は典型的な移行形態で新規高卒就職していく者が大勢を占めていた。しかし93-96年群になると、女性の移行類型の分布にも大きな変化が生ずる。標準型が52.0%で依然過半数をこえ最大であるが、「非学校紹介・非正規雇用」型フリーターが30.9%で二番目になり、三番目は11.8%「就業遅延」型になっている。これら二つの異なるフリーター型の合計は42.7%にも達する一方で、亜標準型は5.3%と一気に占有率を最下位に落としているのである。97-00年群になると、93-96年群において見いだされた変化の特徴に、さらに別の変化が付け加わっている。すなわち、標準型が43.1%で最大であることに変わりないが、しかし過半数を割るまでに値が減少する。他方「非学校紹介・非正規雇用」型フリーターは30.9%で、その値は93-96年群と変わらない。ところが「就業遅延」型フリーターは6ポイントも増加して17.8%に達している。二つのフリーター型の合計は48.7%と半数に近い値となり、「学校紹介・正社員雇用」型43.1%を5ポイント以上も上回る結果となった。

5.まとめ

 これまでの検討から明らかなように、1990年代を通じて新規高卒労働市場への参入経路は急激に多様化し、高校の職業紹介によらないフリーター型移行が次第に大きなシェアを占めるようになっている。かつては大勢を占め、それ故に典型とされていた移行形態は、既に主導的地位を降りているのである。今や高校の職業紹介は標準型とされる移行を前提に進めるだけでは、就職を希望する生徒のかなりの部分を取り残してしまう。このことは高校の職業紹介関係部門に長年にわたって蓄積された移行支援のノウハウが役に立たない局面が多くなっていることであり、定型化したマニュアルに依拠して進められる、完成度の高さ故に柔軟性に乏しい旧来の高校職業紹介システムが、今まさに機能不全に陥らざるを得ない状況に置かれていることを示している。高校職業紹介システムは今、労働市場の変化に即した、フリーター型の移行支援をも視野に入れた、新たな支援体制モデルとそれに基づく支援システムの早急な再構築が迫られている。
 現時点では全体に占める比率は1割にも満たないが、過去10年間の増加率が著しい「就業遅延」型移行には、とりわけ注意を向ける必要があろう。毎年10万人前後生まれている高校中退者をも含め、学校職業紹介システムのシェアの低下の意味は重大である。なぜならわが国では、学校が行う進路指導や職業紹介の守備範囲から外れてしまった若者に向けて、専門的・組織的に進路選択を支援・指導するシステムがほとんど整備されてこなかったからである。こうした事情を考慮すると、高校から仕事への移行支援システムの再構築にあたっては、学校教育から離れた後の若者の進路選択の支援を視野に含んだ、あるいは学校と学校外との垣根の低くして両者の間の出入りが容易な、柔軟で広範な支援システムであることが必要であろう。


(注1)高校から仕事への移行を円滑に推し進めるこのシステムの維持に対し、わが国が多大な関心と経済的コストを支払って来た。それはわが国において新規高卒就職の状況に関する統計が整備されていることに反映されている。
(注2)文部科学省の『学校基本調査報告書』の学校卒業状況調査では、「無業」というカテゴリーが用意されている。すなわち「高卒無業者」とは、進学先や就職先等の進路が未確定なまま高校を卒業した若者をさす教育行政用語である。こうした「無業者」は、いつの時代にも常に一定数存在するであろうし、これからも存在しつづけるであろう。しかし最近では、それが「フリーター」という言葉に置き換えられて、さまざまな場面で用いられる傾向が強い。
(注3)「高卒無業者」を詳しく検討した資料から試算すると(岩木秀夫『さまよっているのは誰か?』1999、教育と情報 平成11年11月号)、「無業者率」は1980年代を通じて平均5.54%(最高は1980年の6.2%、最低は1985年の4.8%)である。「無業者」には、進学への再挑戦を目指す「自宅浪人」が含まれ、それを除いた「純粋無業者率」は80年代の平均が3.31%で、最高は1984年の4.8%、最低が1981年の2.5%である。無業者率も純粋無業者率も、1980年代末から90年代の初頭の「バブル」と称される経済好況期には大きく低下し、とりわけ「純粋無業者率」は1パーセント台にまで大きく下がっている。平成不況が顕在化した1993年以降には急激に上昇している。
(注4)高校職業紹介システムは1980年代には既に機能不全の兆候を示し始めていたことは、先に見た高卒無業率の高さに反映されている。バブル景気の到来は新規高卒市場に内在する構造的問題から人々の目を背けさせることとなったが、実態としては、企業の新規高卒採用行動の変化は進んでおり、「バブル」の崩壊後に、それまで潜行していた問題点が一挙に露呈したに過ぎない。
(注5)平成12年版『労働白書』第II部第2章「若年者の雇用・失業問題」第2-(1)-6図「学歴別無業者比率、高卒求人倍率の推移」、ならび参考図4-ロ 出典;平成12年版『労働白書』第II部第2章「若年者の雇用・失業問題」第2-(1)-7図「東京都及び神奈川県における高卒の求人倍率及び無業者比率の推移」を参照して欲しい。
(注6)高校から仕事への移行形態の類型化は「若者のワークスタイル」調査票の問8、SQ8-1,SQ8-2に対する回答パターンに基づいている。


第5章 フリーターと社会階層

1.問題の設定

(1)問題

 この章では、いわゆるフリーターが、どのような社会階層的背景から出現しているのかに関して、記述的な検討を行う。ここで「社会階層」とは、さまざまな社会的資源の保有状況ないしは獲得可能性に関して一定の社会的地位を共有する一群の人々を指す概念として用いる。人々はどのようにして、職業的地位を含む社会的地位を獲得していくのか。社会的地位達成過程に関する社会学的研究においては、第一に社会的地位の決定が、業績主義的(achievement)要因によるのか、それとも属性主義的(ascription)要因によるのかに関心が向けられ、属性主義的要因による社会的地位の決定は、社会的不平等問題として、近代社会への移行を拒む重要な関心事となってきた。
 ところで、文部科学省学校基本調査各年版によれば、高等学校卒業者に占める無業者(平成11年度学校基本調査速報版から「左記以外の者」と呼ばれるようになった)の比率は漸増を続け、2000年春の卒業生に関しては1割に達した。文部統計上「無業者」とは、高卒時点で、上級学校へ進学・入学する者、就職する者、死亡・データ不詳の者「以外」を指す。なお実証的な検討を要するものの、高卒無業者の多くは、この調査でいう「フリーター」に近い存在であると考えられる。
 なにが、90年代以降の高卒無業者層の漸増を招いたのか。その背景には、<1>高卒労働市場や<2>高校生文化、<3>高校進路指導の変容などの要因のほかに、<4>階層分化の進展が存在すると、指摘されてきた(たとえば、お茶の水女子大学教育社会学研究室『高卒無業者の教育社会学的研究』2000)。
 そもそも、18歳人口の減少とともに、いまや高校から上級学校への進学は、威信の高い少数の四年制大学を別とすれば、学業成績が決定的な重要性をもっているわけではない。むしろ、上級学校への進学に耐えるだけの経済力があるかどうかが、進学か否かを決める重要なポイントとなっている。威信の高い四大へ進学できるのは、教育費の支弁が可能でかつ学力が高い高校生であり、就職の狭き門を通り抜けることのできるのは、進学希望を持たないまじめな(欠席や遅刻が少なく学業にもまじめに取り組んだ相対的に成績のよい)生徒たちであると考えられる。威信の高い四大へ進学できず、かつ就職も困難であった生徒たちの中で、教育費の負担が可能な層は、極端にいって成績の如何や高校生活へのまじめな取り組みの有無に関わらず、進学することができる。教育費の負担が不可能な層にとっては、「進路未定」「無業者」という進路しか残されていない。こうした思考実験が正しいとすれば、フリーター問題は、労働政策の問題としてのみならず、社会階層問題としての検討を要請している。
 事実、この可能性を示唆するデータが存在する。表5-1は、お茶の水女子大学教育社会学研究室が、無業者を相対的に多く出している都立高等学校3年生を対象に、高校3年生1~2月時点(2001年)での進路予定と社会階層の関係を示したものである。父職・専門技術・管理職で四年制大学進学予定者が多く、フリーター・無業が少ないこと、逆に父職・工員等でフリーター・無業が多いこと、父学歴が相対的に低い階層でフリーター・無業が多いことなど、社会階層とフリーター・無業の出現率の間の明瞭な関係が見いだされる。

表5-1 高校3年生1~2月時点における進路予定と社会階層

 この章では、こうした思考実験および先行研究の知見に基づき、フリーター出現率と社会階層の関連を、都内サンプリング調査によるデータによって検討・確認することを、主たる目的とする。その際、上記の目的から、学卒時の就業に焦点をあてて、この問題を検討することにする。

(2)分析に用いる変数

 分析に主として用いるのは、以下の変数である。なお、以下の分析はすべて、重み付けを行ったデータセットを対象に行う。
<従属変数>
 卒業直後の就業  1.正社員  2.パート・アルバイト  3.無業  4.その他
<独立変数>
 <1>父学歴  1.中学  2.高校  3.専門学校・各種学校  4.高等教育
       5.その他
 <2>母学歴  1.中学  2.高校  3.専門学校・各種学校  4.高等教育
       5.その他
 <3>父職業  1.専門・技術  2.管理  3.事務・販売・サービス
       4.生産工程・運輸通信など  5.自営  6.その他
 <4>生家の経済的豊かさ
       1.豊かである  2.やや豊かである  3.あまり豊かではない
       4.豊かではない
<統制変数>
 <1>年齢コーホート
       1.18-19歳  2.20-24歳  3.25-29歳
 <2>学歴(本人、中退者を除いた卒業者のみの分類)
       1.高卒  2.専各、短大、高専卒  3.大学卒

2.学卒直後の就業と社会階層

 まず、すべての年齢コーホートと学歴層をまとめて、学卒直後の就業と社会階層の関連を見てみよう(表5―2)。

表5-2 学卒直後の就業と社会階層

 父母の学歴別に、学卒直後の就業状況に、ほとんど差異は見られない。父職別には、生産工程・運輸通信、自営で、わずかに無業率が高い傾向が見られるが、顕著とはいえない。生家の経済的豊かさ別に見ると、「あまり豊かではない」「豊かではない」階層で、正社員率が低く、その分無業率とパート・アルバイト率がやや高い傾向が見られる。
 ここまでの検討からは、学歴階層、職業階層と学卒直後の状況には関連が見られるとはいえない。ただし経済階層(生家の経済的豊かさ)のみについて、弱い関連が見られるにとどまる。

3.年齢コーホート別分析

 だが、ここまでの記述は、年齢コーホートと学歴(本人)による違いを無視して、全体としてみた傾向に過ぎない。次に、年齢コーホートを3カテゴリに分けた上で、学卒直後の就業状況を見ることにする。

(1)父学歴別にみた就業状況

 まず、父学歴別に学卒直後の就業状況をみたのが、表5-3である。正社員率は、25-29歳コーホート71.0%、20-24歳コーホート58.1%、18-19歳コーホート37.5%と着実かつ激しく低下しており、最新のコーホートでは4割を切った。それだけパート・アルバイト、派遣などの非典型労働市場へ参入した者と無業者(15.5%)が急増したことになる。このことは、学卒直後に非典型労働市場へと直接参入したり無業となる者の量的規模が、現在の水準となったのは、ごく近年の現象であったことを教えている。

表5-3 年齢コーホート別、父学歴別にみた学卒直後の就業状況

 図5-1は、表5-3から正社員率のみを取り出して図化したものである。数値が大きいほど正社員率が高く、逆に、非正規労働市場への参入率と無業率が低いことを表す。25-29歳コーホートの特徴は、全体として正社員率が高く、かつ父学歴による差が数%にとどまっている点にある。このコーホートでは、父=高等教育卒の正社員率がもっとも高く75.1%、専各卒が73.0%でこれに次ぎ、中卒70.9%、高卒68.3%と並ぶ。

図5-1 年齢コーホート別、父学歴別にみた、正社員率

 父学歴による差は、20-24歳コーホートになると若干広がり(正社員率の最大値と最小値のレインジは約2割にまで拡大する)、18-19歳コーホートにおいては約8割にまで急速に大きくなる。18-19歳コーホートにおける正社員率は、父=専各卒83.8%、高校卒46.3%、高等教育卒27.8%であり、父=中学卒にあっては2.3%に過ぎない。父=中学卒の子弟は、その大半が非典型労働市場に参入するか、無業者となるという状況が生まれている。ただし、このコーホートでは、中卒に次いで正社員率が低いのは高等教育卒業者の子弟である。この点で、学歴マイノリティと言い得る父=中卒の子弟の正社員率が極端に低いことはいえるものの、父親が高学歴であるほど非典型労働市場への参入率や無業率が低いと単純にいうことはできない。
 ここでは、新しいコーホートほど正社員率が低下し、非典型労働市場への参入率と無業率が急速に高まったこと、この変動の中で、父親の学歴による学卒直後の就業状況の差異が急激に拡大し、父=中卒の子弟で非典型労働市場へ参入したり無業となる者が著しく増加したことを確認しておきたい。

(2)母学歴別にみた就業状況

 母学歴に見たのが、表5-4、図5-2である。父学歴とほぼ同様の関連が見られる。

表5-4 年齢コーホート別、母学歴別にみた学卒直後の就業状況
図5-2 年齢コーホート別、母学歴別にみた、正社員率

 25-19歳コーホートにあっては、母学歴による就業状況の差はわずかなレベルにとどまっているが、18-19歳コーホートでは全体の正社員率が低下するとともに、母学歴による差がいっきょに大きくなった。母=専各卒で正社員率が高く、高卒がこれに次ぐ。専各卒の子弟で正社員率が高いのは、父学歴と同じ傾向である。正社員率が低いのは、母=中卒2.4%と、高等教育卒0.0%のふたつの社会層である。この点も父学歴と同傾向であるが、なぜ高等教育卒の子弟で正社員率がこれだけ低いのかは、現時点では説明がつかない。ただし、母=中卒と高等教育卒とでは、正社員率は同じく低いものの、高等教育卒ではパート・アルバイト率が高く(母=高等教育卒60.8%、中卒24.4%)、逆に無業率が低い(高等教育卒3.9%、中卒36.6%)という違いがある。

(3)父職別にみた就業状況

 次に、父親の職業別に同様の作業を行ってみよう(表5-5、図5-3)。25-29歳コーホートでは、生産工程・運輸通信従業者の子弟で正社員率が低く、管理職と事務・販売・サービス職の子弟で高い傾向が見られた。ただし、父職別の差異は約2割にとどまる。18-19歳コーホートになると、父職業階層による差異が際だつようになる。正社員率は、その高さからふたつのグループに分かれている。正社員率が高いのは、専門・技術職階層(74.7%)と事務・販売・サービス階層(59.6%)であり、逆に低いのは自営(17.4%)、管理(22.5%)、生産工程・運輸通信階層(37.2%)である。新しいコーホートほど、父親の職業による正社員率の差が拡大し、概してホワイト・カラー層の子弟で正社員率が高い傾向を示すようになった。ただし、一般に管理職もホワイト・カラー的職業に分類されるが、今回の調査では専門・技術職あるいは事務販売・サービス職とは異なる結果となった。この理由は現段階では解釈できない。

表5-5 年齢コーホート別、父職別にみた学卒直後の就業状況
図5-3 年齢コーホート別、父職別にみた、正社員率

(4)生家の経済的豊かさ別にみた就業状況

 最後に、経済階層の指標として、生家の経済的豊かさを自己評価させた結果と、学卒直後の就業状況の関連をみておこう(表5-6、図5-4)。

表5-6 年齢コーホート別、生家の経済的豊かさ別学卒直後の就業状況
図5-4 年齢コーホート別、生家の経済的豊かさ別にみた、正社員率

 25-29歳コーホートにおいても、差異は顕著とはいえないものの、経済的に豊かではない層ほどパート・アルバイト率が高く、また無業率が高い傾向が見られた。しかし、18-19歳コーホートに至って、両者の関連がきわめて明確なものとなった。同コーホートにおける正社員率は、「豊か」65.4%、「やや豊か」50.9%、「あまり豊かではない」48.5%、「豊かではない」25.0%である。全体として正社員率が若いコーホートほど低下する過程で、家計の経済的豊かさによる差異も激しく拡大したことをここでも確認できる。

4.年齢コーホート別、学歴(本人)別分析

 ここまでの検討によって、社会階層変数と学卒直後の就業状況には、クロス集計レベルではまったく何の関連も見いだすことはできなかったものの、これを年齢コーホートに分解することによっていくつかの隠れた関係を浮き彫りにすることができた。第一に、新しいコーホートほど正社員率が低下し、非典型労働市場への参入率と無業率が高まったが、この過程で社会階層差は著しく大きなものとなった。第二に、新しいコーホート(18-19歳)では、概して相対的に高い階層出身者の正社員率が高く、非典型労働市場への参入率と無業率は低階層出身者で高い傾向が現れるようになった。より正確に表現するならば、18-19歳コーホートで出現ないしは拡大傾向を見せた社会階層差は、以下のようになる。
<1>学歴階層の点で中卒階層出身者で非典型労働市場への参入率と無業率が高い(父学歴と母学歴の両者で、同一の傾向がある)。
<2>職業階層(父職)の点で、専門・技術職と事務・販売・サービス職で正社員率が高く、非典型労働市場への参入率、無業率が低い。
<3>経済階層(家計の経済的豊かさ)の点で、豊かな階層ほど正社員率が高く、非典型労働市場への参入率、無業率が低い。
 しかしながら第三に、「相対的に高い階層出身者の正社員率が高く、非典型労働市場への参入率と無業率は低階層出身者で高い傾向が現れるようになった」と言い切るためには、いくつかの例外的な事象を、なお説明する必要がある。具体的には、父母の学歴階層のうち高等教育卒階層、父職のうち管理職階層の動向に関して、現時点では適切な解釈ができない。
 留意点は残されているものの、学卒直後の労働市場への参入ーとくに非典型労働市場への参入と無業者層への参入に関して、25-29歳コーホートではみられなかった(あるいは相対的に小さかった)社会階層の影響力が18-19歳コーホートになって急激に顕在化したことが、明らかとなった。それは、正規労働市場と非典型労働市場への参入をめぐる、あるいはそもそも労働市場へ参入するか無業にとどまるかをめぐる、属性主義的な再編現象の出現ないし拡大といってよいだろう。
 ただし、以上の知見には以下のふたつの効果が混在しており、区別しておく必要がある。
<1>学歴(本人)効果 どのような学歴の者が関わる学卒労働市場で生起した現象であるのか。
<2>世代(卒業・就職時期)効果 時期的に、どの時点の学卒労働市場で生起した現象であるのか。
 たとえば、前項の分析におけるある特定のコーホートの就業状況には、高卒、大卒などの学歴を異にする集団が含まれており、かつ就職(卒業)時期の点で1990年代初期から2000年に至る幅広い集団が含まれていることになる。したがって、学歴効果と世代(卒業・就職時期)効果を区別するために、最後に以下の分析を行っておこう。
<1>世代(卒業・就職時期)効果を除去し、学歴効果のみを浮かび上がらせる分析。具体的には、就職時期を統制するために(相対的に標本数が多い)高卒18-19歳コーホートと大卒20-24歳コーホートのみを選択・比較する。これによって、社会階層と学卒直後の就業状況の関連が、新規高卒労働市場で生起したのか、それとも新規大卒労働市場で生起したのかを明らかにする。
<2>学歴効果を除去し、世代(卒業・就職時期)効果のみを浮かび上がらせる分析。具体的には、学歴の点で高卒グループに限定して(後述するように、<1>の分析の結果による)、18-19歳、20-24歳、25-29歳コーホート間の比較分析を行う。これによって、社会階層と学卒直後の就業状況の関連が、いったいいつの時点で生じたのかを明らかにする。
 なお、これらの分析は試行的なレベルにとどまる。なぜならば、今回の分析は、フリーターと非フリーターをそれぞれ無作為に蒐集したデータに、重み付けを施したデータセットに基づいているが、もともとの標本数は各々1000ずつに過ぎない。本項で行おうとする分析は、4重クロス集計に相当し、もともとの標本数の点で無理がある。事実、明らかにセル内の母数(N)の小ささに起因すると推測される数値の不安定さが結果としてみられた。これが、試行的な分析にとどまると述べた理由である。

(1)学歴効果の抽出

 まずは、世代(卒業・就職時期)効果を除去し、学歴効果のみを浮かび上がらせる分析からはじめる。具体的には、就職時期を統制するために、高卒18-19歳コーホートと大卒20-24歳コーホートのみを選択・比較する。これによって、社会階層と学卒直後の就業状況の関連が、新規高卒労働市場で生起したのか、それとも新規大卒労働市場で生起したのかを検討することにする。
 表5-7は、父学歴、母学歴と学卒直後の就業状況の関連について、高卒18-19歳コーホートと大卒20-24歳コーホートを比較したものである。図5-5は、そのうち父学歴別正社員率を、図5-6は母学歴別正社員率を示した。その他の社会階層変数に関しては、セル内母数の頻度の点で相対的に問題が大きいため省略した。

表5-7 18-19歳高卒と20-24歳大卒の比較、社会階層別学卒直後の就業状況
図5-5 18-19歳高卒と20-24歳大卒の比較、父学歴別正社員率

 父母の学歴別に正社員率をみると、まず目立つのは、父母の学歴によらず20-24歳大卒コーホートのほうが正社員率が高いことである。このことは、いわゆる正規労働市場への参入が、この時期、大卒労働市場よりも高卒労働市場においてより困難であったことを物語る。しかし、本章の分析にとってより重要なのは、20-24歳大卒コーホートに比べて18-19歳高卒コーホートにおいて父母の学歴による正社員率の差が大きいことである。たとえば、20-24歳大卒コーホートでは母学歴=中卒の正社員率は65.4%、高卒のそれは64.6%、専各・大卒74.2%である(母学歴による正社員率の差は、約1割)。これに対して18-19歳高卒コーホートでは、母学歴=中卒の正社員率25.0%、高卒50.0%、専各・大卒45.5%である(母学歴による正社員率の差は25%)。父学歴に関しては、前項と同様、専各・高等教育卒の正社員率が高卒より低い傾向があるものの、20-24歳大卒コーホートに比べて18-19歳高卒コーホートで父学歴差が大きな傾向は共通して確認できる。
 この結果は、高卒18-19歳コーホートと大卒20-24歳コーホートが卒業・就職した時期(1990年代末期)に、社会階層と学卒直後の就業状況の関連が、新規大卒労働市場においてよりも、新規高卒労働市場において生じたことを示している。大卒労働市場に比べて高卒労働市場において、正規労働市場への参入はより困難であったが、その困難は相対的に低い社会階層的背景を持った若者により強く作用し、彼らを非典型労働市場(パート・アルバイト、派遣)や無業者へと導いたものと推測できる。

図5-6 18-19歳高卒と20-24歳大卒の比較、母学歴別正社員率

(2)世代(卒業・就職時期)効果の抽出

 次に、学歴効果を除去し、世代(卒業・就職時期)効果のみを浮かび上がらせる分析に進もう。上記の分析から、社会階層と学卒直後の就業状況の関連は、高卒労働市場においてより明確にみられた。そこで、本人の学歴を高卒グループに限定して、18-19歳、20-24歳、25-29歳コーホート間の比較分析を行う。これによって、社会階層と学卒直後の就業状況の関連が、いったいいつの時点で生じたのかを明らかにすることが目的である。
 高卒25-29歳コーホートの正社員率は、父学歴によらず一定していた(父学歴=中卒69.1%、高卒66.8%、専各・高等教育卒66.2%)。高卒25-29歳コーホートが就職した時期、すなわち1990年代前半においては、社会階層による非典型労働市場への参入率、無業率の差は認められなかった。ところが18-19歳コーホートをみると、父学歴=中卒グループの正社員率は19.5%にまで低下し、もっとも正社員率の高い高卒グループ(59.1%)との差は約4割、専各・高等教育卒グループ(43.4%)との差は2割強にまで拡大をみた。
 母学歴と正社員率の関係をみると、25-29歳コーホートにおける専各・高等教育卒グループの正社員率が23.7%と極端に低い数値を示す。そのために父学歴と比べて全体の傾向を読みとりにくい。しかしながら、この数値を例外とすれば、父学歴と同様、母学歴による正社員率の差は、新しいコーホートほど拡大したと読んでよいように思われる。少なくとも、母=中卒グループでは25-29歳、20-24歳コーホートに比べて18-19歳コーホートで、著しい正社員率の低下がみられる。
 高卒労働市場においては、第一に25-29歳コーホートが卒業・就職した時点(1990年代前半)では社会階層による学卒直後の就業状況の差は認められなかった。それが明瞭になるのは、18-19歳コーホートが卒業・就職した90年代末期である。

表5-8 高卒者の年齢コーホート別比較、社会階層別学卒直後の就業状況
図5-7 高卒者年齢コーホート別比較 父学歴別正社員率
図5-8 高卒者年齢コーホート別比較 母学歴別正社員率

 以上、学歴効果と世代(卒業・就職時期)効果を区別して検討してきた。これらの結果からいえるのは次のことである。
<1>1990年代を通じて正社員率が低下し、学卒直後に非典型労働市場へと参入する者と無業者が増加した。いわゆる正規労働市場へ学校卒業から直接参入することは、90年代を通じて困難なものとなっていった。
<2>その困難さは、大卒労働市場に比較して、高卒労働市場において顕著だった。
<3>同じ高卒者の中でも、1990年代末期に、いっそう多く非典型労働市場へ参入したり無業者となったのは、相対的に低い社会階層的背景を持った者たちだった。
 ただし、以上の知見は、分析に利用可能な標本数の点でいまだ暫定的な水準にとどまっている。

5.まとめ

 本章では、誰がフリーターとなるのかという問題を設定し、学卒直後の就業に限定して(正社員か、パート・アルバイト、無業、その他か)、社会階層的背景(父学歴、母学歴、父職業、生家の経済的豊かさ)との関連を検討した。標本数の限界が残されたものの、以下の点が明らかとなった。
1.すべての年齢コーホートと学歴層をまとめて、学卒直後の就業と社会階層の関連を見ると、学歴階層、職業階層と学卒直後の状況には関連が見られるとはいえない。経済階層(生家の経済的豊かさ)のみについて、弱い関連が見られるにとどまる。
2.しかし年齢コーホートに分解することによっていくつかの隠れた関係を浮き彫りにすることができた。第一に、新しいコーホートほど正社員率が低下し、非典型労働市場への参入率と無業率が高まったが、この過程で社会階層差は著しく大きなものとなった。第二に、新しいコーホート(18-19歳)では、概して相対的に高い階層出身者の正社員率が高く、非典型労働市場への参入率と無業率は低階層出身者で高い傾向が現れるようになった。より正確に表現するならば、18-19歳コーホートで出現ないしは拡大傾向を見せた社会階層差は、以下のようになる。
<1>学歴階層:中卒階層出身者で非典型労働市場への参入率と無業率が高い。
<2>職業階層(父職):専門・技術職と事務・販売・サービス職で正社員率が高く、非典型労働市場への参入率、無業率が低い。
<3>経済階層(家計の経済的豊かさ):経済的に豊かな階層ほど正社員率が高く、非典型労働市場への参入率、無業率が低い。
 父母学歴=高等教育卒、父職=管理職の子弟の就業状況に関しては、現時点では適切な解釈ができないものの、学卒直後の労働市場への参入ーとくに非典型労働市場への参入と無業者層への参入に関して、25-29歳コーホートではみられなかった(あるいは相対的に小さかった)社会階層の影響力が18-19歳コーホートになって急激に顕在化したことが、明らかとなった。それは、正規労働市場と非典型労働市場への参入をめぐる、あるいはそもそも労働市場へ参入するか無業にとどまるかをめぐる、属性主義的な再編現象の出現ないし拡大といってよい。
3.次に、そうした社会階層の影響力の顕在化が、<1>学歴(本人)効果(どのような学歴の者が関わる学卒労働市場で生起した現象であるのか)によるものなのか、<2>世代(卒業・就職時期)効果(時期的に、どの時点の学卒労働市場で生起した現象であるのか)によるのかを検討するために、付加的な分析を行った。標本数に限界があるものの、以下のことが指摘できる。
<1>1990年代を通じて正社員率が低下し、学卒直後に非典型労働市場へと参入する者と無業者が増加した。いわゆる正規労働市場へ学校卒業から直接参入することは、90年代を通じて困難なものとなっていった。
<2>その困難さは、大卒労働市場に比較して、高卒労働市場において顕著だった。
<3>同じ高卒者の中でも、1990年代末期に、いっそう多く非典型労働市場へ参入したり無業者となったのは、相対的に低い社会階層的背景を持った者たちだった。


第6章 ジェンダーと労働形態-若年者下位グループ間の比較分析

1.分析課題

 労働市場においては、雇用の安定性、賃金、仕事内容の高度さと裁量権などの諸条件ををめぐり、階層的な優位/劣位の関係を構成する二項的対(つい)構造が存在している。そのもっとも主要なものが、典型労働/非典型労働という労働形態面での対であり、またもう一つは「男性/女性」というジェンダーの対である(注1)。
 この2対は相互に独立ではなく重なりあっており、[典型-男性]/[非典型-女性]という組み合わせが労働力人口の中で大きな比率を占めてきた。たとえば総務庁の「労働力調査」によれば、近年の女性雇用者の中では短時間雇用者が4割近くにのぼっており、逆に短時間雇用者の中での女性比率は7割に及んでいる。
 ただ最近までは[非典型-女性]というカテゴリーは家事労働との兼ね合いを主な要因とする、既婚者を中心とした現象であり、研究も「主婦パート」([非典型-(既婚)女性])に集中してきた。若年・未婚の女性の場合、学卒後いったんは正社員として就業する者が長期的に増加し大勢を占めるにいたっている。しかしこの場合も、公務員や専門職・準専門職の場合を除けば、仕事内容やキャリアの展開可能性などの点で男性の典型労働者と同水準でなかったことはいうまでもない。
 しかしここ数年の若年労働市場においては、若年全体の労働市場内地位の低下による[非典型-男性]および[非典型-(未婚)女性]という新たなカテゴリーが拡張すると同時に、能力主義的見地からの男女間の処遇の均等化圧力により、総合職など[典型-女性]カテゴリーの一部は仕事の内容や権限などの点でも[典型-男性]カテゴリーによりいっそう近づきつつある(堀 2001)。
 こうした近年の変化は、若年労働市場における典型/非典型および男性/女性という階層的対構造にいかなるゆらぎをもたらしているのか、あるいはもたらしていないのか。図6-1に示した、2対の組み合わせから成る4つのサブグループの間には、相互にいかなる親和性や対立がみられるのか。たとえば典型労働の男女間、非典型労働の男女間には、ジェンダーを超えた共通性が表れつつあるのか。逆に、男性の中での典型/非典型、女性の中での典型/非典型の間には、相違・対立・格差が拡大しつつあるのではないか。さらには、階層的対構造の重なりにおいては相対的に新規でマージナルなカテゴリーとしての[非典型-男性]と[典型-女性]との間には、一定の親近性が見いだされるのか。本稿ではこれらの問いにとりくむことを第1の課題とする(第2節)。

図6-1 労働市場における2つの対構造から構成されるサブグループ

 いわゆる「フリーター」に代表されるような若年非典型労働者に関する実証的な研究は日本では緒についたばかりだが、素朴な調査結果においてもジェンダー間の相違は明らかであるにも関わらず、男女をひとくくりにしてフリーター全体の特性が語られる場合が多い。その点、小杉(2001)はフリーターがジェンダー問題と切り離せないことに自覚的である。しかし、より「真っ向から」フリーターをジェンダーという切り口から分析する必要がある。もともと労働市場において男女の位置づけが大きく異なっているからには、フリーター(非典型)という選択肢を選ぶに際して個々人がたどる内面的なプロセスは男女間で同一のものではありえないからである。
 このような観点からの上記の男女間比較をふまえた上で、さらに本稿は、女性内部の分化と階層性について、典型/非典型間の移動パターンを切り口としてより詳しい分析を行うことを第2の課題とする。現状としての典型/非典型だけでなく、初期キャリアの時間的経過の中で典型から非典型へ、また非典型から典型へ移動するのはどのような属性や条件をもつ女性であり、こうした移動経験が結果としてどのような意識をもたらしているかを検討する(第3節)。
 なお、分析者のスタンスとして、次のことをあらかじめ明記しておく必要があろう。すなわち、女性であることが確かに労働市場内で相対的に低位の位置づけと結びつきやすいとしても、それは「生活全体の質」において女性が男性よりも明らかに低位であることを必ずしも意味しない。多くの意識調査において女性の方が様々な点で満足度が高いことを、単に現実の誤認と位置づけるわけにはいかない。男性にとって有利な場である日本の「企業社会」(注2)そのものが、労働条件や価値・規範などにおいて一定の「非人間性」を内包しており、そこへの組み込まれ圧力が小さい女性はむしろそれを相対化しうる存在でもある。
 同様のことは典型/非典型の対にも当てはまる。職業スキルの形成の観点から若年期の非典型労働を危惧する見方もあるが、典型労働でありさえすればスキルが伸長されるわけではなく、いずれの場合でも職場のミクロな処遇に左右される。近年のオランダモデルへの着目にみられるように、非典型労働は新しい働き方としてむしろポジティブな可能性さえはらんでいる(前田2000、佐藤 1998)。ひいては、「企業社会」を支える性別役割規範をもゆるがすことにより、男/女というジェンダー対構造を問い直す契機ともなるかもしれない。すなわち、男性であっても企業社会以外の家庭や地域社会などの領域に多くの時間とエネルギーをそそいだり、逆に女性でも職業的な自己実現を十全に追求したりすることが抵抗なく可能になるような、柔軟な社会への一歩となるかもしれない。
 しかしまた、個々人の労働市場内での位置づけが経済的自立の度合いを媒介として「生活全体の質」を左右する大きな一因であることも疑いえず、その点で現在の日本の非典型労働の中の相当大きな比重を占める層が数多くの困難に直面していることも確かである。分析対象者中の各サブグループが置かれている状況を評価する際には、こうした複眼的視点が必要であろう。
 さらに基本視点の1つとして述べておくべきは、各サブグループ間の階層性ということを基本的・中心的関心とするならば、経歴の一部をなす出身階層の問題に着目せざるをえないということである。教育や職業の世界における階層間格差の拡大を指摘する研究が増加しているが、そうした観点・関心を本分析も共有している。

2.ジェンダー・労働形態間の比較

 本節では、先に図6-1で示した4つのサブグループ間での行動と意識の比較を行う。サブグループの同定に使用した変数は、性別および「現在の主な状況」(問7)である。すなわち、非フリーター票の中で現在の主な状況が「1.正社員」「2.公務員」である者を「典型」として抽出し、性別で分けた。また「非典型」については、性別のフリーター票をそのまま用いた。また年齢分布の影響を排除するため、25~29歳の年齢層に限定して対象者を抽出した。

図6-1 労働市場における2つの対構造から構成されるサブグループ

 その結果、当該年齢層の中で、[典型-男性](以下「典型男性」と略記、他も同様)、[典型-女性]、[非典型-男性]、[非典型-女性]の原サンプル数はそれぞれ226、115、191、226となる。ウエイト付けデータの当該年齢層の中で占める割合は、順に41%、23%、3%、6%となる。
 以下では、この4カテゴリーを独立変数とし、就業行動や職業意識の諸変数を従属変数とする分析を行う。その際に、従属変数が連続変数である場合には一元配置分散分析のTukeyのb検定により、グループ間の平均の比較を行い、等質サブグループを抽出する。意識に関する質問については、「そう思う」=4点、「ややそう思う」=3点、「あまりそう思わない」=2点、「そう思わない」=1点という形でスコア化し、連続変数として処理した。また従属変数が離散変数である場合には、クロス表で明確な差が見いだされた場合について取り上げる。データはウエイト付け前のものを使用する。

(1)男性と女性を分かつもの

 まず最初に、4つのカテゴリーの中で男性と女性との間に明確な差がみられる変数を検討しよう。すなわち、典型/非典型という労働形態の対構造とは独立の、労働市場におけるジェンダー対構造の実際を確認しておく。男女間で明確な違いが見られた諸変数をまとめたものが表6-1である。

表6-1 男性/女性の間で差がある項目

 まず第1に、意識面ではなく事実としての側面で違いが際だっているのは、現職の職種である。男性の場合、生産工程や運輸・通信・保安という職業が相当大きな比重を占めている。非典型男性では4分の1強(生産工程17%、運輸・通信・保安11%)、典型男性では5分の1強(生産工程13%、運輸・通信・保安8%)がこれらの職種に就いている。それに対して、女性でこれらの職種に就いている者はほとんどゼロに近い。男性にとって「働く」ということは、これらの肉体的な労働をも現実的な選択肢として含んでいるのに対して、少なくとも若年女性の場合、そうした労働に就く可能性ないし圧力はほとんど除外されているのが実態である。
 第2に、職業意識にみられる大きな相違として、独立志向の強さが挙げられる。3年後に実現したい働き方として「自営業・自由業」を挙げた者が非典型男性では36%、典型男性でも26%と、男性では3割前後に達しているのに対し、非典型女性では19%、典型女性では7%にすぎない。また「将来は独立して自分の店や会社を持ちたい」という意識をみても、男性と女性の間にはα=0.05の水準で開きがある。ただこれについては女性の中でも非典型の方が典型よりも強く志向しており、非典型男性(スコア2.82)≒典型男性(2.63)>非典型女性(2.27)>典型女性(1.97)という形で差が見いだされる。
 この独立志向と、組織に埋没せず自分自身の独力による地位達成を是とするという点で共通性をもっているのが「有名になりたい」という志向であり、それに関してもほぼ同様の順序でカテゴリー間に差がみられる。独立志向との相違は、非典型男性(スコア2.38)と典型男性(2.30)との間にも差があることである。有名さへの志向は、非典型男性においてもっとも強く観察される。
 ちなみに、「ひとよりも高い収入を得たい」という意識については、典型男性がスコア3.31と突出して高く、それに非典型男性(3.09)と非典型女性(3.08)が同水準で続き、典型女性(2.95)はさらに後退する。この場合は典型男性と他の3カテゴリーの間にα=0.05の水準で差が見いだされるが、順序的にはやはり男性の方が女性より程度が強いといえる。
 このように男性にとってはいずれ独立して有名になり、高い収入を得るというルートが望ましいライフコースのイメージとして一定程度共有されているのに対し、女性ではそのイメージは強くなく、それに代わる選択肢として想定されているのが労働市場からの撤退というルートである。非典型女性の20%、典型女性の17%が3年後の望ましいあり方として「働かない」という項目を挙げている。それに対して男性ではこの選択肢は存在しないに等しい。職業意識が変化してきたと言われる若者の中でも、あくまで「働く存在」としての男性という考え方には揺らぎがみられない。
 そして男女間で差が見られるもう1つの領域は、人間関係のネットワークに関する事柄である。「悩みを相談できる人がいる」という項目のスコアは、男性が女性よりも低い。ちなみに同居家族の構成についてみると、典型女性の68%、非典型女性の61%は父母と同居しているのに対し、男性の父母との同居率は非典型男性で49%、典型男性で42%とかなり低くなる。ただ典型男性の38%は配偶者や子どもと同居しているが、非典型男性では同比率は6%にすぎない(典型女性10%、非典型女性20%)。代わりに非典型男性では1人暮らしの者が38%を占めており、この率は他の3カテゴリーが10%台であるのと比べて際立って多い。このように、家族構成については男女間だけでなく男性間でも違いが大きいが、上述した悩みの相談相手に関しては典型男性と非典型男性の間で差がなく、いずれも女性と比べて低い値を示している。ここには、生活環境において身近に親しい人間がいるかどうかとは別に、本音をうち明ける会話をすることを是とするか否かをめぐってジェンダー的規範が影響していることが推察される。
 以上のように、労働形態には大きく左右されることなく男性と女性とを分化させている諸要素をみてくると、そこに浮かび上がるのは、独力による地位達成への野心を秘めつつ黙々と働く存在としての男性である。伝統的な男性の性役割は、現代の若年男性の中にも、大きく変化することなく受け継がれているといえよう。しかも特筆すべきは、表6-1に示したほぼすべての項目において、典型男性よりも非典型男性の方が、それぞれの数値に関して、「男性的な」特徴をより強く表している点である。
 また、女性の中でも、3年後に「働かない」ことを望む者の比率が典型と非典型の間で大きな差がないことにみられるように、労働形態を問わず「家庭を守る」存在としての女性イメージは根強くみられる。しかも、独立や有名さ、高収入などへの志向は典型女性の方が非典型女性よりも一層希薄である。ここには、典型女性の仕事の中身が独立等に向かない場合も多いことが関係しているであろうが、生活の中で職業的達成が占める重要性の低さという点では伝統的な女性役割と矛盾しない意識傾向とも解釈できる。
 このような、非典型男性の「男性性」の強さと、典型女性の中に根強い「女性性」という点については、以後の分析でも改めて触れる。

(2)典型と非典型を分かつもの

 続いて、性別による違いは小さく、典型/非典型という労働形態によって大きく左右される項目についてみてみよう(表6-2)。

表6-2 典型/非典型の間で差がある項目

 まず第1に客観的な状況の相違についてみると、やはりここでも現職の職種の違いは明らかである。現職が専門・技術の比率は、典型女性では24%、典型男性では23%であるのに対して、非典型男性では14%、非典型女性では11%と少なくなる。逆に、現職がサービス職の比率は、非典型女性で31%、非典型男性で28%にのぼるのに対し、典型男性では10%、典型女性にいたっては6%にすぎない。また、勤務先の従業員数にも典型/非典型で相違がみられ、従業員数30人未満の小規模企業に勤める者の比率は典型女性では28%、典型男性では31%であるが、非典型男性では49%、非典型女性では47%と半数近くに達している。このように、職業威信の高い専門・技術職に就く可能性や、総じて処遇が恵まれている大企業に勤務できる可能性という点で、やはり典型労働と非典型労働との間には格差が大きく、後者が不利な状況に置かれていることは疑いえない。
 こうした客観的な状況は、第2に自らの職業生活に対する主観的な評価にも反映されている。現在の仕事について、「やりがいのある仕事だと思う」、「今の仕事は自分の性格や能力に合っている」、「3年後も今の勤め先にいたい」という項目を肯定する度合いには、典型労働の男女と非典型労働の男女との間で有意な差がみられる。ただ、後2項目については、典型労働の男女間にも差がみられ、典型男性の方がより肯定的であることにも留意すべきである。このような主観的評価の差は、部分的には職種等の違いに媒介されている。たとえば、現職が専門・管理の者のみについてみると、4カテゴリー間で上記3項目の肯定の度合いには統計的に有意な差が見られない。しかしながら、表6-3に示したように、職種、カテゴリー、学歴を説明変数として投入した重回帰分析の結果では、やはり労働形態がこれらの主観的評価に独自の効果を及ぼしていることが確認される。

表6-3 現在の仕事についての感じ方規定要因(重回帰分析)

 そして典型/非典型によって相違がある第3の側面は、経済的自立の度合いである。これは、客観的な収入そのものとは区別される事柄である。後の項でみるように、客観的な収入は、典型/非典型だけでなく、性別という軸にも強く影響されている。しかし、主観的な自己評価という意味で自分が「経済的に自立している」と思うかどうかについては、男女間の相違はほとんどなく、典型/非典型の軸による相違のみが表れている。ちなみに「親からこづかい等の金銭をもらっている」者の比率はこの年齢層では全体に小さく、典型の男女ではゼロに近いが、非典型男性では5%、非典型女性では7%となっている。逆に「親に食費等の金銭を渡している」者の割合は、後の表6-5に示しているように典型女性で54%と目立って多く、それに典型男性32%、非典型女性29%、非典型男性21%の順で続いている。こうした親との金銭のやりとりが、経済的自立意識に影響しているものと考えられる。
 また第4に、職業観やフリーター観の点でも典型/非典型の間には明確な違いがみられる。「若いうちは仕事よりも自分のやりたいことを優先させたい」、「いろいろな職業を経験したい」などの意識は典型の男女よりも非典型の男女で強く肯定され、逆に「一つの企業に長く勤めるほうがよい」という意識は典型の男女の方が強い。また、フリーターについて「働き口が減っているのでしかたがない」、「『自分探し』のためにいいことだ」、「そのうちにきちんとした仕事につく人が多いので、たいした問題ではない」などの肯定的・許容的見方は非典型の男女、特に非典型女性で強く、逆に「フリーターより正社員で働いた方がトクだ」、「親がフリーターを許すからだ」などの否定的な見方は典型の男女で強い。
 そして最後に、もう1つ重要な点として、過去の経歴という点でも典型/非典型の間には相違が大きいことが挙げられる。それはまず生家の経済的豊かさに見いだされる。生家が「豊か」ないし「やや豊か」と答えた者の比率は、典型女性50%、典型男性47%に対し、非典型女性36%、非典型男性34%となっている。すなわち、相対的に豊かな家庭の出身者が典型労働者に多く、相対的に豊かでない家庭の出身者が非典型労働者に多い。後で見るように典型/非典型間には明らかな収入の格差が存在するため、ここには経済階層の再生産メカニズムが働いていることが看取される。
 また、学歴という点でも典型/非典型間には違いがある。高卒者の比率は、典型男性24%、典型女性28%に対し、非典型男性32%、非典型女性34%と後者で多く、非典型労働者には中等後教育への進学者が相対的に少ない。上述のように非典型労働の男女には出身家庭が裕福でない場合も多いため、進学するだけの経済的余裕がなく、また近年は高卒への労働力需要が顕著に後退していることから正社員のポストを見つけることもできずに非典型労働を選んだ者がここには含まれていると考えられる(日本労働研究機構 2000)。厳しい労働市場環境のもとで、典型労働の職を得るためには中等後教育学歴が重要化していることがうかがえる。
 以上にみてきたことからすると、典型/非典型間の違いはやはり全体として「有利さ/不利さ」という点にあるといわざるをえない。それは過去の経歴という点でも、現在の状況という点でも否定しがたい現実である。しかし非典型労働者の間には、「やりたいこと」や多様な職業経験の重視など、自らの置かれた状況を肯定するロジックも相当強くみられ、客観的な不利さが単なる不満に終わらない傾向も観察される。それでもなお、現在の仕事が充実したものと感じられる度合いには、典型/非典型の間で明らかな違いがみられる。非典型労働が単に労働時間や処遇の問題だけでなく、仕事内容の縁辺性と切り離されないのが日本の現実であることを直視しなければならない。

(3)[男性-非典型]と[女性-典型]の親和性と相反性

 ここまでは、男性/女性と典型/非典型という2つの対による分断の状況をそれぞれ別個に見てきた。ここからは、この2対のからみあいに注目してみたい。すなわち、典型男性・非典型女性という、従来の労働市場で支配的であったカテゴリーと、非典型男性および典型女性という相対的に新規でマージナルなカテゴリーのそれぞれが、相互にどのような点で親和的であり、どのような点で相反的であるのかを検討しよう。
 まずは、非典型男性および典型女性の間に一定の親和性が観察されることを指摘しておきたい。それは同時に、典型男性と非典型女性の両極性を指摘することでもある。これに関連する諸項目をまとめたものが表6-4である。

表6-4 典型男性と非典型女性を両極とする項目

 ここでもまず客観的な現在の状況からみると、年収および労働時間という、労働力としての確立の度合いを示す指標において、典型男性>典型女性≒非典型男性>非典型女性という形で明確な格差が見いだされる。昨年の年収は典型男性では平均372万円であるが、典型女性では302万円、非典型男性では232万円とかなり下がり、非典型女性では158万円と典型男性の半分以下になる。また最近1週間の労働時間は、典型男性では50時間に達しているが、典型女性は42時間、非典型男性は40時間とほぼ同水準となり、非典型女性では36時間とさらに少ない。これら収入と労働時間の組み合わせから時間あたり賃金率を算出すると、典型男性を100とした場合、典型女性は97、非典型男性は78、非典型女性は59となる。
 同様のことが、現在の仕事において「目標となる上司や先輩」の存在、3年後に正社員として働いていることを望む比率、大学・大学院卒の学歴をもつ者の比率、フリーターは「本人が無気力だからだ」という意見の肯定度についても観察される。また、「今の世の中、定職に就かなくても暮らしていける」、「やりたい仕事なら正社員でもフリーターでもこだわらない」、「夢のためにフリーターをしている人はかっこいい」、「誰でもフリーターになるかもしれない」などの意識には、典型男性<典型女性≒非典型男性<非典型女性という逆の順序がみられる。
 これらを要するに、労働力として量・質ともにもっともフルに働いており、別の見方をすると従来の「企業社会」的価値観を体現しているのが典型男性である。その対極にあるのが非典型女性であり、労働時間や報酬が少ないのみならず非典型の働き方への肯定感も強い。この両者は既存のジェンダー秩序と労働秩序の交錯をもっとも顕著に表している。
 そして典型女性および非典型男性という、ジェンダーと労働形態とがねじれているマージナルなカテゴリーは、この両極の中間に位置しているという点で親和性をもっている。すなわち、ジェンダー的な特性と労働形態面での特性とが相殺ないし緩和しあうことにより、企業社会との関係の取り方が曖昧さを帯びているのが、これら典型女性・非典型男性という2カテゴリーに共通する特徴といえる。この意味で、この両者の間にはある種の「共感」が成立し、従来の企業社会やジェンダー秩序を変化させてゆく潜在的な土壌となることが期待できるようにも思われる。
 しかしながら、以下に続く分析の結果は、そのような期待をしぼませるものである。いくつかの項目においては、典型女性と非典型男性が両極となり、その中間に典型男性と非典型女性が位置するような順序性が観察される(表6-5)。まず客観的な現状として、現職が事務職の比率は、典型女性では50%に達するのに対して、非典型男性では5%にすぎない(非典型女性27%、典型男性18%)。また従業員数1000人以上の企業に勤める者の比率は、典型女性では30%だが、非典型男性では10%である(典型男性16%、非典型女性11%)。過去の経歴をみても、すでに言及したように、生家が「豊か」ないし「やや豊か」な者の比率は典型女性の50%に対し非典型男性では34%である。このように生家が比較的豊かであるにも関わらず、「親に食費等の金銭を渡している」比率も典型女性で54%と高く、非典型男性の21%を大きく引き離しており、まじめで親孝行な典型女性というイメージが描かれる。またいずれかの段階で学校を中退した者の比率は典型女性では2%とネグリジブルだが非典型男性では16%に及ぶ。

表6-5 典型女性と非典型男性を両極とする項目

 さらに、主観的な意識の面でも、両者には違いが大きい。「ひとの役に立つ仕事をしたい」という職業意識や、「これまでの進路選択は順調であった」、「自分の生活は、周囲の人からうまくいっていると思われている」、「将来の見通しは明るい」などの自己認識について、典型女性>典型男性≒非典型女性>非典型男性という順序性が見いだされる。
 このように、典型女性が客観的にも主観的にも恵まれた過去と現在を享受しているといえるのに対し、非典型男性は対照的な位置にある。特に主観的な現状評価の面で、非典型男性は4つのカテゴリーの中でもっともネガティブな自己認識をもっている。先に見たように、両者は企業社会の中での位置づけが曖昧であるという意味では共通性をもつが、そのような位置にいたる過程をまったく異にしているため、両者の間には「共感」はなかなか成立しにくいと考えられる。すなわち、典型女性は女性の中でのいわば上澄みとして首尾よく典型労働に就いている層であるのに対し、非典型男性は正統的な男性のキャリア・ルートから逸脱した存在としての性格が強く、男性/女性というそれぞれの母集団の中での相対的位置づけという点で両者の「出自」は正反対なのである。しかも、本節(1)で触れたように、典型女性は従来の女性役割に強く抵抗する存在ではなく、非典型男性はむしろよりいっそう男性的な意識傾向を示しているため、いずれも従来のジェンダー秩序をゆるがす存在ではない。このようにみた限りでは、新規でマージナルなカテゴリーとしての典型女性と非典型男性は、旧来の秩序の変革にとって今のところ大きな起爆剤にはならないといわざるをえないだろう。

(4)全カテゴリーに通底する特徴

 以上は、カテゴリー間で何らかの差が見られた項目を検討してきた。しかし本節の最後に、4カテゴリー間に統計的に有意な差が存在しなかった項目、すなわち何らかの形で就業している若年者に共通にみられる特性についても概観しておこう(表6-6)。

表6-6 カテゴリー間で差がない項目

 共通性がみいだされる項目は、職業観や人生観に関する意識項目に多い。それらを大きく分類するならば、その1つは、「将来のことを考えるよりも今を楽しく生きたい」、「自分に向いている仕事がわからない」、「できれば仕事はしたくない」などの、刻苦勉励を避けて現在自分があるがままの形で漂い続けようとする意識であり、これらはどのカテゴリーにおいてもスコア2台で肯定・否定相半ばしている。こうした意識は通念的にはいわゆるフリーターに特徴的とされがちであるが、そうではなく、若年者全体に共有された、同世代的な雰囲気であるといえる。しかも特筆すべきは「できれば仕事はしたくない」という項目については、統計的には有意でないとはいえ、典型男性がもっとも高いスコアを示していることである。先ほど本節(1)では、独力による地位達成への野心を秘めつつ黙々と働く存在としての男性像が根強く残存していることを指摘したが、その半面では典型男性も働くことへの忌避感を潜在的に抱いており、現代社会に支配的な秩序の主流をなしている典型男性の中にも鬱屈が蓄積していることがうかがわれる。
 しかし他方では、より「前向き」な意識もまた若年者に共通の傾向として見いだされる。「専門的な知識や技術を磨きたい」、「職業生活に役立つ資格を取りたい」、「努力次第で将来は切り開けると思う」、「仕事以外に生きがいがある」などの意識は、どのカテゴリーでもスコア3以上の高水準で共有されている。前二者は若年の間における専門志向の高まりを示しており、後二者は閉塞的な時代状況の中でも若年者が希望や活力を喪失してしまっているわけではないことを表している。ただ、やはり統計的に有意ではないが、後二者については典型女性においてもっともスコアが低いことを記しておきたい。典型女性は、本節(2)でみた外面的な「恵まれている」度合いの高さとは裏腹に、内面的な力強さが相対的に低いようにみえる。
 これ以外にカテゴリー間で差がない項目として、フリーターの増加を「学校の指導が不十分だからだ」とする意見への肯定の度合いが、どのカテゴリーでもスコア1台の低水準であることが指摘できる。現代の青少年の間では学校生活への関与が低下していることが指摘されているが(大多和 2000)、フリーターの増加要因を学校に求める意識は若年者の間でも低く、職業指導や学校教育全体の改善によってフリーターを減少させようとする政策動向との間にギャップがみられる。
 最後に指摘しておくべき重要な点は、父母の学歴や職業に関しては、カテゴリーによって明確な差がみられなかったことである。やや目立つのは、男性において父母の学歴が「わからない」の比率が高いということくらいであり、典型/非典型の間で父母の学歴や職業という点で出身家庭の社会階層が異なるという結果は見いだされなかった。ただ本節(2)で指摘したように、経済的な豊かさという点では典型/非典型の間で格差が明確にみられる。ここから推測されるのは、子世代の労働形態が典型になるか非典型になるかを規定するのは、親世代の学歴や職業などの文化的な性格が強い階層特性ではなく、より直接的な経済面での階層特性であるということである。4カテゴリーではなく、現職の職種別に親世代の学歴や職業をみると、そこにはかなり明確な関連が見いだされるため、典型/非典型という労働形態の分化よりもさらに細かい職種の分化という点では、文化的な階層特性の規定力が大きいといえる。
 以上のようにみてくると、現代の若年は総じて、迷ったり気怠さを感じたりしながらも前向きに生きているといってよいだろう。典型/非典型および男性/女性という2軸を切り口にした限りでは、経済的豊かさ以外の出身階層的分断は明確ではない。若年の非典型労働を生み出しているのは、家庭内での規範や価値というよりも、本人が「手っ取り早く」収入を必要とするかどうかを左右する、家計の豊かさという側面であるように思われる。

3.女性内部の分化-典型・非典型間の移動を軸として

(1)分類と共通の傾向

 先の第2節では、典型/非典型および男性/女性という2つの対から構成される4つのカテゴリー間の相違と共通性をみた。続く本節では、分析対象を女性にしぼり、女性内部の分化をより詳しくみてゆくことにする。
 その内部分化の軸としてここで着目するのは、現状としての典型/非典型だけでなく、そこにいたる経緯における典型/非典型の経験である。具体的には、次の4つのカテゴリーに女性を分類する。<1>一貫して典型労働の者(以下「典型一貫」と略記):学校卒業直後に正社員ないし公務員で、フリーター経験がなく、現在「典型」の者(原サンプル数80、ウエイト付けデータの当該年齢女性の中での比率は33%)。<2>非典型から典型に移動した者(「典型参入」):学校卒業直後の状況が正社員ないし公務員以外で、現在「典型」の者(25、10%)。<3>典型から非典型に移動した者(「典型離脱」):学校卒業直後に正社員ないし公務員で、現在「非典型」の者(117、6%)。<4>一貫して非典型労働の者(「非典型一貫」):学校卒業直後の状況が正社員ないし公務員以外で、現在「非典型」の者(109、6%)。
 最初に、この4つのカテゴリーで差がない項目、すなわち若年女性に共通の特徴をふまえておこう(表6-7)。先の第2節(4)では男性も含めた若年者に共通の傾向について述べたが、性別を女性に限定すると、さらに次のような項目でも共通性が浮かび上がる。すなわち、「若いうちは仕事よりも自分のやりたいことを優先させたい」、「いろいろな職業を経験したい」、「ひとの役に立つ仕事をしたい」、「一企業に長く勤めるのがよい」、(フリーターは)「働き口が減っているのでしかたがない」、「夢のためにフリーターをしている人はかっこいい」、(フリーターは)「『自分探し』のためにいいことだ」、「本人が無気力だからだ」、「誰でもフリーターになるかもしれない」、「目標となる上司や先輩がいる」、「今の仕事は自分の性格や能力に合っている」など、男性も含めると典型/非典型で格差がみられた意識項目、また「将来は独立したい」、「有名になりたい」、「ひとよりも高い収入を得たい」、「これまでの進路選択は順調であった」、「将来の見通しは明るい」、「悩みを相談できる人がいる」などの男女間で格差がみられた項目については、女性内部の4カテゴリーの間では統計的に有意な差が消滅した。すなわち、女性内部の分断は、これらの項目以外の要素から構成されていることになる。以下ではそうした分断の実態を検討してゆく。

表6-7 女性のカテゴリー間で差がない項目

(2)現在の非典型/典型を分かつもの

 まず、過去とは関係なく、現在の状況が典型であるか非典型であるかによって異なるものとしては、次の諸項目があげられる(表6-8)。第1に、客観的な状況として、現職の職種に大きな違いがある。現職が専門・技術の比率は、典型参入で32%ともっとも高く、続いて典型一貫25%、非典型一貫14%、典型離脱8%の順となっている。逆に現職がサービスの比率は、非典型一貫では35%、典型離脱でも28%に及ぶが、典型参入では8%、典型一貫では4%にすぎない。

表6-8 現在の典型/非典型で差がある項目

 第2に、当然予想されることであるが、労働時間と年収にも違いが大きい。最近1週間に、典型一貫と典型参入では42時間働いているのに対して、非典型一貫は36時間、典型離脱では35時間である。また昨年年収は、典型一貫312万円、典型参入287万円、典型離脱164万円、非典型一貫151万円となり、α=0.05水準の格差は典型一貫と典型参入、典型参入と典型離脱の間に見いだされる。こうした収入の格差は経済的自立の度合いにも反映されており、「親に食費等の金銭を渡している」比率は、典型参入では60%、典型一貫では49%であるが、非典型一貫では30%、典型離脱では27%と低下し、逆に「親からこづかい等の金銭をもらっている」比率は典型一貫と典型参入ではゼロであるが典型離脱と非典型一貫ではそれぞれ7%となっている。このことから、「経済的に自立している」という自己認識にも同様の差がみられる。
 第3に、意識面でも次のような違いがみられる。「今の世の中、定職に就かなくても暮らしていける」については、典型参入≒典型一貫<典型離脱<非典型一貫の順序で肯定の度合いが強い。また「フリーターより正社員で働いたほうがトクだ」、「自分の生活は、周囲の人からうまくいっていると思われている」についても現在典型であるか否かでα=0.05水準の差があり、典型の方が非典型よりもスコアが高い。
 第4に、経歴の一環である学歴についても違いがあり、大学・大学院卒の比率は典型一貫29%、典型参入28%であるのに対し、非典型一貫では12%、典型離脱では6%と大きく下がる。
 以上のように、現状としての典型/非典型の間には、先に第2節の(2)・(3)でみたのと同様の、「有利さ/不利さ」および「労働力としての確立の度合い」をめぐって明確なギャップが存在する。なお、学校卒業直後の状況が典型であるか非典型であるかによってはこのような大きな違いは見いだされなかった。それゆえ、やはり客観的・主観的な諸状況を規定する要素として現在の労働形態の重要性は大きい。

(3)[典型一貫]の特徴

 しかしながら、労働形態間の移動が相当程度影響してくる側面も看過してはならない。まず挙げられるのは、過去であれ現在であれ一度は非典型労働を経験しているかいないか、という軸に沿った違いである。言いかえれば、典型一貫と、他の3つのカテゴリーとの間にみられる分断である。これにあてはまる項目をまとめたものが表6-9である。

表6-9 典型一貫に特徴的な項目

 客観的な事実としては、第1に現職の職種における事務職の比率が指摘できる。この比率は典型一貫では53%と過半数を占めるが、典型参入では40%、典型離脱では36%と低下し、非典型一貫では17%とさらに半減する。また同じく客観的事実として、企業規模の格差も目立つ。従業員数1000人以上の大企業と30人未満の小企業に勤める者の比率をそれぞれみると、典型一貫では大企業34%・小企業24%と前者の方が上回っているが、典型参入では大企業24%・小企業40%、典型離脱では大企業12%・小企業42%、非典型一貫では大企業10%・小企業53%と、いずれも小企業に勤める者が相当に高い比率を占めている。
 第2に、職業に関する主観的な意識の面でも、典型一貫はいくつかの特徴を示す。すなわち、「やりたい仕事なら正社員でもフリーターでもこだわらない」という意識の低調さを典型一貫は特徴とする。さらに、フリーターについて「そのうちにきちんとした仕事につく人が多いので、たいした問題ではない」という肯定的・許容的な見方をする度合いが少なく、逆に「親がフリーターを許すからだ」という厳しい見方が強い。このように、フリーターという働き方を自分の現実的可能性や理想として想定せず、あくまで正社員を是とする意識が典型一貫にはみいだされる。
 第3に、経歴の点でも典型一貫は独特である。本章のここまでの分析では、父母の職業や学歴など経済面以外の社会階層的な格差は顕著ではなかったが、ここにおいてそれらの変数に初めて格差が現れる。すなわち、まず父親の職業が管理職である比率が典型一貫で20%ともっとも多く、また母学歴が短大・大卒である比率も典型一貫では16%ともっとも高い。このように、典型一貫ではもっとも高い社会階層の出身であることが観察される。ただ、この両比率に関して典型一貫についで多いのは非典型一貫であることも事実であり、親世代の社会階層的な高低が、子(娘)世代の労働形態面での階層性と必ずしも一対一対応を示しているわけではないことにも留意が必要である。なお、出身家庭の豊かさについても、やはり典型一貫において「豊か」と「やや豊か」の合計比率がもっとも高く、このグループは経済面での社会階層も高いことが確認される。
 このようにみてくると、典型一貫の女性は、先に第2節で検討した典型女性の特徴をもっとも色濃く身につけている、いわばコア的な存在であることがうかがえる。職種や勤務先企業規模の点で彼女たちは「恵まれた」存在であり、そうした自分の正社員としての生き方を肯定している。そうした現状を支えているのは出身家庭の文化的・経済的なゆとりである。そして見逃してはならないのは、彼女たちがジェンダー面および職業面で、保守的な傾向を示しがちであるということである。先に表6-7で示した項目の中には、統計的には有意でないとはいえ、それらの特徴がよみとれる。たとえば典型一貫の女性は「将来のことを考えるよりも今を楽しく生きたい」と考える度合いが比較的強く、有名さや高収入への志向がやや弱い。また、「努力次第で将来は切り開ける」という意識も相対的に弱い。さらに、後に示す表6-10にみられるように、3年後には仕事を辞めていたいとする比率も、非典型一貫とほぼ同水準で高い。このように、典型一貫女性は、男性に伍して職業的キャリアを追求するというよりも、ジェンダー的規範から逸脱しない範囲でのみ地位達成を志向している。このような特徴は、木村(1999)が女子高校生の分類の際に用いたワーディングを借りるならば、「しとやかな優等生」と表現できる。こうした存在が、結婚や育児が待っているであろう将来については積極的・意欲的な意識をもてずにいることが印象的である。

(4)[非典型一貫]の特徴

 それでは、典型一貫と労働形態面では対照的な位置づけにある非典型一貫はどのような特徴をもっているだろうか。非典型一貫は、現職職種におけるサービス業の多さ(表6-8)と事務の少なさ、および勤務先企業規模の小ささ(以上表6-9)、昨年年収の低さと経済的自立の度合いの低さ(表6-8)などを客観的現状の特徴とし、フリーターとしての生き方に対する肯定的・許容的な意識(表6-8・表6-9)を主観的な側面での特徴とする。これらの点では非典型一貫は確かに典型一貫と対極的な位置にあるようにみえる。

表6-8 現在の典型/非典型で差がある項目
表6-9 典型一貫に特徴的な項目

 しかしながら、両者の間には共通点も存在する。たとえば、後の表6-10に示すように、3年後に働かないことを望む比率は、典型一貫20%、非典型一貫21%とほとんど差がない。また前項で述べたように、父親が管理職である比率は典型一貫20%、非典型一貫17%、母親が高等教育卒である比率は典型一貫16%、非典型一貫14%と、これらの点でも大きな差はない(表6-9)。さらに、やはり次項の表6-10にみられるように、現在の仕事が「やりがいのある仕事だと思う」と感じる度合いも両者の間でほぼ同水準である。
 他方で、これまでの進路選択の順調さ、将来の見通しの明るさ、悩みを相談できる人の有無などの点では、統計的に有意ではないが非典型一貫において相対的にネガティブな傾向がみられる(表6-7)。
 このように、非典型一貫の女性は、実際の働き方や意識の面で企業社会からの距離がもっとも遠い存在であることは確かであるが、出身階層の相対的な高さやジェンダー的な保守性などと共存しており、既存の秩序に挑むような志向は薄い。ただ、将来の見通しは明るいとする度合いは低いにも関わらず、努力次第で将来は切り開けるとする意識が女性の中でわずかに高い位置にある(統計的に有意ではない。表6-7)という点で、いわゆるフリーター女性の中に「元気さ」の火種があることを期待したい。

表6-7 女性のカテゴリー間で差がない項目

(5)[非典型→典型]の特徴

 続いて、学校卒業当初は正社員の職に就けなかったが、現時点では正社員になっている、典型参入型の女性の特徴をみよう(表6-10)。

表6-10 典型参入に特徴的な項目

 まず目立つのは、現職の職種における専門・技術職の比率の高さである。この率は典型参入では32%に達しており、典型一貫の25%、非典型一貫の14%、典型離脱の8%と比べて明確に高い。ここには、教員、保母、看護婦などの女性比率の高い専門職の場合に、正社員としての雇用を得る前に一定期間非典型の形態で働く例が珍しくないことが反映されていると考えられる。
 そのことは、「フリーターになった理由」についての回答においても確認される。もっとも重要な理由として「つきたい仕事の就職機会を待つため」を挙げた率は、非典型一貫や典型離脱では5%程度だが、典型参入では13%と高い。また、「正社員になるためのとりくみ」(複数回答)として、「希望する職業と関係のあるアルバイトをした」と答えた比率も、典型参入では27%に達し、非典型一貫の15%や典型離脱の9%よりも多い。ただ、典型参入はそのように特定の職業を念頭において非典型労働をした者ばかりではない。フリーターになったもっとも重要な理由として「自分に合う仕事をみつけるため」を挙げた比率も、典型参入で38%と、非典型一貫(18%)や典型離脱(12%)と比べて明らかに高い。また、フリーター経験を通じた感想として「やりたい仕事に直接役立つ能力が身についた」(複数回答)と答えた比率も、典型参入では31%に及ぶ(非典型一貫20%、典型離脱11%)。それゆえ典型参入には、当初はモラトリアム的に非典型労働を開始したが、その間に職業スキルを伸ばし、「自分に合う仕事」が見つかって典型労働に移行した者が相当の比重を占めているといえる。
 第2に特徴的なのは、職業に対する肯定的で積極的な意識である。現在の仕事について「やりがいのある仕事だと思う」、「3年後も今の勤め先にいたい」と感じる度合いは、典型参入において際立って高い。また「仕事以外に生きがいがある」という意識も典型参入で顕著に強く、彼女たちの積極性が仕事だけでなく生活の多方面に向かう傾向があることがうかがえる。将来の職業的展望という点でも、3年後に「働かない」ことを望む比率が典型参入では8%にすぎず、他の女性グループでは20%前後であるのと比べると明確に少ない。
 第3に、出身家庭についても特徴がみられる。それは、父学歴における大学・大学院卒が少ないこと、にも関わらず父職において専門・技術職の比率が高いこと、また母職に関しても正社員が目立って多く、逆に専業主婦の比率が低いことである。すなわち、いわば「たたき上げ」で専門的スキルを身につけた父、職業的に自立した母をもつことが典型参入型女性の特色である。こうした自立性の強さを特徴とする家庭背景は、本人が一人暮らしである比率の高さにも反映していると考えられる。
 このように、学校卒業後いったんは非典型労働を経験してその後に典型労働の地位を獲得した女性の場合、本人についても出身家庭についても、専門性や経済的自立に価値をおく、元気で前向きな意識と行動の特性が観察される。職業に関して積極的である分、ジェンダー的にも革新性が感じられる。やはり木村(1999)の女子高生についてのワーディングを借りるならば、典型参入の女性は「男まさりの優等生」と呼ぶことができるだろう。このような活力が、現職の職種の違いによるものか、それとも非典型から典型へという労働形態の移動そのものに由来するのかを確認するために、「やりがいのある仕事だと思う」、「今の仕事は自分の性格や能力に合っている」、「3年後も今の勤め先にいたい」という3つの変数を従属変数として重回帰分析を行ったところ(表6-11)、やはり労働形態の移動パターンそのものが固有の効果を強くもっていることが見出された。

表6-11 現在の仕事についての感じ方の規定要因(重回帰分析)

 この知見が正しいならば、若年(女性)の初期キャリアにおける非典型労働経験は、一定期間後に典型労働に結びつくことができる限りにおいては、むしろ非常に有意義であるということになる。しかし、非典型から典型への移行が成功裏に達成されるには、家族の励ましや具体的な支援を初めとして、さまざまな諸条件が必要とされるだろう。その中で政策的に整備することができる条件を特定し、早急に実施することが望まれる。

(6)[典型離脱]の特徴

 本節の最後に、学卒直後は典型労働の仕事についていたが、現在は非典型の形態で働いている典型離脱のカテゴリーの特徴をみておきたい(表6-12)。

表6-12 典型離脱に特徴的な項目

 典型離脱の大きな特徴は、うち既婚者が26%を占めていることであり、他のグループでは10%前後であることと比べると約2倍の比率となっている。結婚を契機として正社員からアルバイト等に移った者が一定程度含まれているといえる。
 もう1つの客観的特徴は、高卒比率の高さである。高卒者は典型離脱では39%を占め、典型参入の32%、非典型一貫の28%、典型一貫の24%と比べて多い。逆に、大学・大学院卒の比率は典型離脱では6%にすぎず、典型一貫の29%、典型参入の28%、非典型一貫の12%と比べると極めて少ない(表6-8)。それに関連して、現職における専門・技術職の比率も目立って少ない(表6-8)。

表6-8 現在の典型/非典型で差がある項目

 また主観的な特徴は、3年後に正社員になることを望む比率の低さ(典型離脱26%、非典型一貫37%、典型一貫41%、典型参入56%)と、逆に自営業・自由業を望む比率の高さ(典型離脱21%、非典型一貫17%、典型一貫9%、典型参入4%)である。いわば、一度は経験した正社員という働き方を「見限り」、自営に活路を見出すことに非典型参入の特色がみられる。
 なお、典型労働の経験者に対して入職経路をたずねた結果によれば、典型離脱では「学校の紹介」が6割を占めている(典型一貫49%、典型参入9%)。また、典型労働を経験したが、その勤務先を変わったり辞めたりしたことがある者に対して、その理由を複数選択でたずねた結果をみると、典型離脱では「結婚上の理由・家庭の事情・結婚・出産」が32%に及ぶのみならず、「仕事が自分に合わない、仕事がつまらない」という理由も41%に達している。
 これらの諸点に、出身家庭が相対的に豊かでないこと(表6-9)などを考えあわせると、典型離脱とは、多くは高卒後に家計を助ける必要から学校推薦で正社員として就職したものの、仕事内容に幻滅したり、結婚したりなどの理由でアルバイトやパートに移行し、今後はおそらく飲食店や小規模小売り店などいわゆる「おみせ」をやることを理想としているグループであるといえるだろう。意識面でのフリーター肯定が非典型一貫ほど明確でないことからして、典型離脱はいわば必要に迫られて非典型労働を選んでいるようである。近年は新規高卒者に対する企業社会からの需要が低下しており、仮に典型の職を得られたとしても将来展望はほとんど抱けない状況であると思われる。そのような現実を経験した女性が非典型労働へとスピンアウトし、企業社会以外の家庭ないし自営に活路を求めている。ジェンダーなどの意識に関する特徴は不明確な層であり、今後の動向については見極めにくい。

表6-9 典型一貫に特徴的な項目

4.まとめ

 本章の知見を以下に改めて整理しておこう。
 まず、労働形態の軸とジェンダーの軸から構成される4つのカテゴリー間の比較分析からは、次の点が見出された。
 第1に、労働形態による差は大きくないが男性と女性との間で違いが大きい諸要素の検討からは、独力による地位達成への野心を秘めつつ黙々と働く存在としての男性像が浮かび上がってきた。そのような男性像は、伝統的な男性の性役割を受け継ぐものである。そして多くの項目に関して、典型男性よりも非典型男性の方が「男性的な」特徴をより強く表しており、新規なカテゴリーとしての非典型男性はジェンダー的にはむしろ保守的な傾向を示している。同様に女性の間でも、いかなる労働形態であれ「家庭を守る」存在としての女性像は根強い。しかも、独立や有名さ、高収入など職業に関わる積極的な志向は非典型女性よりも典型女性の方が一層希薄であり、典型女性の中にもジェンダー的な保守性が観察される。
 第2に、逆に性別による差よりも典型/非典型という労働形態間で差が大きい諸点を総括するならば、やはり現在の状況だけでなく生家の豊かさなど過去の経歴についても「有利/不利」ということが両者の決定的な違いと言わざるをえない。ただ、主観的な意識の面では、非典型労働者の中に、「やりたいこと」や多様な職業経験の重視など、自らの現状を肯定的にみる意識がかなり強く、彼らが客観的な不利さにくじけているわけではないことがうかがえる。しかしやはり、現在の仕事が充実したものと感じられる度合いは典型/非典型によって大きく左右されており、現在の日本における非典型労働が労働条件のみならず仕事内容の点でも縁辺性を意味していることは否定できない。
 第3に、4つのカテゴリーの中で、典型男性と非典型女性は両極に位置している。すなわち、量的にも質的にもフルに働いており、従来の「企業社会」的価値観を体現しているのが典型男性であるのに対し、非典型女性は労働時間や報酬が少ないだけでなく、非典型の働き方を肯定する意識も強い。この両者は既存のジェンダー秩序と労働秩序の重なり合いをもっとも明確に担っているグループである。
 第4に、残る2つのカテゴリーである典型女性および非典型男性は、上記の両極の中間に位置しているという点で親和的である。この両者に共通しているのは、ジェンダーと労働形態とのねじれのために、企業社会との関係の取り方が曖昧さを帯びているということである。ここから一見、この両者の間に一定の「連帯」が成立することにより、企業社会やジェンダー秩序を変革する潜在力となるかのようにみえる。しかしながら、そうした期待はすぐに裏切られる。なぜならば、典型女性がその経歴や現状において客観的・主観的に恵まれているのに対し、非典型男性は客観的な現在及び過去の状況に加えて主観的な現状評価の面でももっとも否定的である。典型女性は女性の中で相対的に「上層」であるのに対し、非典型男性は男性の中で相対的に「下層」にあたり、それぞれの母集団の中での相対的位置づけが対照的である。しかも先述のように、両者はいずれも従来のジェンダー秩序に対して順接的であり、一方は女性性を、他方は男性性を強く帯びている。それゆえ、マージナルなカテゴリーとしての典型女性と非典型男性は、少なくとも現状のままでは、旧来の秩序に対する変革の基盤となりそうにない。

 続いて、女性内部で労働形態間の移動のあり方に基づいて作成した4つのカテゴリーについては、以下の諸点が見出された。
 第1に、現状としての典型/非典型の間には、男性を含めた上記の分析でみられたのと同様の、「有利/不利」および「労働力としての確立の度合い」をめぐる明確な相違が存在していた。学校卒業直後の状況としての典型/非典型は、単独ではそのような明らかな違いを生み出してはいない。それゆえ、やはり現在の労働形態が客観的・主観的な諸状況に及ぼす影響力は大きいといえる。しかし以下にみるように、過去と現在の労働形態の組み合わせから構成される各カテゴリーには、一定の特徴が見出される。
 すなわち第2に、まず「典型一貫」の女性は、典型女性のコア的な存在であり、客観的な現状において有利であるとともに、そうした自分の状況への肯定感も強い。そのような現状は、出身家庭の文化的・経済的なゆとりを背景としている。そして、彼女たちはジェンダー面および職業面で、保守的な傾向を示しがちである。一貫して典型労働であった女性は、ジェンダー的規範に抵触しない範囲で地位達成を志向する「しとやかな優等生」(木村1999)である。こうした存在である彼女たちが、自らの将来については積極的な展望を抱けないでいることが逆説的である。
 第3に、「非典型一貫」の女性は、客観的・主観的な現状の面で企業社会からもっとも離脱した存在ではあるが、同時に相対的に高い出身階層やジェンダー的な保守性をも特徴としており、既存の秩序を覆すようなパワーは感じられにくい。
 第4に、非典型から典型に移動した「典型参入」の女性は、本人と出身家庭のいずれに関しても、職業における専門性や経済的自立に価値をみいだす積極的な意識と行動を明らかな特徴としている。ジェンダー的にも革新的であり、いわば「男まさりの優等生」(木村1999)と呼ぶことができよう。ここから、若年(女性)の初期キャリアにおける非典型労働経験は、一定期間後に典型労働経験に結びつくことができる限りにおいては、むしろ非常に有意義であるという理解が導かれる。
 第5に、典型から非典型に移動した「典型離脱」は、多くは高卒後に家計を助ける必要から学校推薦で正社員としていったん就職したが、仕事内容への幻滅や結婚・出産などを契機としてアルバイトやパートに移行し、将来いわゆる「おみせ」を開くことを理想としているような女性たちを中心とする。意識面でのフリーター肯定は非典型一貫ほど明確でなく、ジェンダーなどの意識に関する特徴も見定めにくい。

 以上のようにみてきた限りでは、若年の中での非典型労働の広がりや女性の典型労働力化は、日本の従来の企業社会秩序やジェンダー秩序に対して大きな脅威となっていないようにみえる。非典型労働の男性は厳しい条件下で典型労働の男性以上に男性的な成功を求め、非典型女性は企業社会に背を向けてはいるが、親ないし夫への依存に逃げ込んでいる。「女の子は結婚すればいずれは家庭にはいるのだからフリーターでもいいと思う。結婚しない人は手に職つけといた方がいいと思う。」(女性・フリーター・高校中退)という自由記述は、そのような非典型女性の心性を端的に表している。他方で、典型女性は「恵まれた」背景と現状に安住しがちである。ただ女性の中で、非典型労働から典型労働に移行した者については、その職業面・非職業面の両方に及ぶ活力の大きさゆえに、新しい可能性が感じられる。
 今後、非典型労働が積極的な選択肢として社会に位置づいてゆくためには、<1>典型労働と非典型労働の間の待遇面(時間あたり賃金や教育訓練機会など)での均等化、<2>典型労働と非典型労働の仕事内容面での均等化、<3>長期的ライフステージや短期的家庭事情等に応じた非典型労働から典型労働へ、典型労働から非典型労働への移動の柔軟化、などの施策の推進が必要であると考えられる。それと平行して、ジェンダーという側面からは、「働く存在」という定義からの男性の解放と、経済的・心理的な依存傾向からの女性のエンパワーメントを促進するための様々な社会制度の改革もいっそう進められるべきであろう。これらの方策を通じた、「『男女ともに』労働時間を短縮しつつ家族的責任を担っていくというジェンダーフリーな理念」(前田2000)に向けての前進が期待される。
 さらに、現状では出身家庭の経済的豊かさや本人の学歴すなわち教育訓練の水準が典型/非典型間の分化につながりやすいことから、教育訓練機会、特に中等後教育機関へのアクセスにおける経済的障壁の緩和が必要となる。
 これらの方策を通じて、企業社会・ジェンダー・出身階層という、極めて強い束縛から個人の選択を可能な限り自由にしてゆくことが、今後の日本社会の「質」を高める上で不可避の課題である。


(注1)熊沢(2000)は、労働市場内で女性が置かれている状況を、「短勤続、定型的・補助的仕事、低賃金という<三位一体>」と表現している。
(注2)「企業社会」論のレビューとしては、木本(1995)を参照。

引用文献
堀健志、2001、「労働市場のジェンダー編成」矢野正見・耳塚寛明編著『変わる若者と職業世界』学文社
木村涼子、1999、「学校文化における平等とセクシズムの葛藤」同著『学校文化とジェンダー』勁草書房
木本喜美子、1995、『家族・ジェンダー・企業社会』ミネルヴァ書房.
小杉礼子、2001、「増加する若年非典型雇用者の実態とその問題点」『日本労働研究雑誌』 No.490.
熊沢誠、2000、『女性労働と企業社会』岩波新書.
前田信彦、2000、『仕事と家庭生活の調和』日本労働研究機構.
日本労働研究機構(本田由紀・小杉礼子・耳塚寛明・上西充子・堀有喜衣・下村英雄・中島史明・吉田修)、2000、『進路決定をめぐる高校生の意識と行動』調査研究報告書No.138.
大多和直樹、2000、「生徒文化-学校適応」樋田大二郎他編著『高校生文化と進路形成の変容』学事出版.
佐藤博樹、1998、「非典型労働の実態」『日本労働研究雑誌』No.462.


第III部 付属資料
調査票
集計表
自由回答

調査票 若者のワークスタイル調査(P1)
調査票 若者のワークスタイル調査(P2)
調査票 若者のワークスタイル調査(P3)
調査票 若者のワークスタイル調査(P4)
調査票 若者のワークスタイル調査(P5)
調査票 若者のワークスタイル調査(P6)
調査票 若者のワークスタイル調査(P7)
調査票 若者のワークスタイル調査(P8)
調査票 若者のワークスタイル調査(P9)
調査票 若者のワークスタイル調査(P10)
集計表(P1)
集計表(P2)
集計表(P3)
集計表(P4)
集計表(P5)
集計表(P6)
集計表(P7)
集計表(P8)
集計表(P9)
集計表(P10)
集計表(P11)
集計表(P12)
集計表(P13)
集計表(P14)
自由回答(P1)
自由回答(P2)
自由回答(P3)
自由回答(P4)
自由回答(P5)
自由回答(P6)
自由回答(P7)
自由回答(P8)
自由回答(P9)
自由回答(P10)
自由回答(P11)
自由回答(P12)
自由回答(P13)
自由回答(P14)
自由回答(P15)
自由回答(P16)
自由回答(P17)
自由回答(P18)

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